説明

酸化物担持触媒担体の製造方法

【目的】 助触媒の酸化物が微粒子化し高分散状態で担持された触媒担体。
【構成】 酸化物前駆体発生溶液の調整工程、基体の反応性を低下させる基体処理工程、溶液と基体との混合工程、沈殿発生工程、酸化物変換工程からなる。
【効果】 細孔を有する基体の表面あるいは細孔内に酸化物が微粒子状態で高度に分散した触媒担持用担体、さらには複数種の酸化物を担持した場合には分散性が高いためそれらが固溶体化した触媒担持用担体が得られる。このため、担持体の表面積が低下せず、酸化物の助触媒効果も十分に発揮される。酸化物としてジルコニアを用いた場合には耐熱性が向上し、900°C以上の高温履歴を受けた後でも担体としての支持能力や助触媒能力が低下しない酸化物もしくは複合酸化物担持触媒担体が作られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、酸化物を担持した触媒用担体の製造方法に関する。特に、好ましくは排ガス浄化用触媒の複合酸化物担持担体の製造方法として用いられる。
【0002】
【従来の技術】触媒用担体に担持される酸化物や複合酸化物は一般的に触媒機能の向上や、触媒の劣化抑制などの助触媒的な役割を担っており、触媒を有効に活用する時になくてはならないものである。この様な働きをする複合酸化物の代表的なものにはセリウムの酸化物(セリア)やジルコニウムの酸化物(ジルコニア)があり、複合酸化物としてはこれらの複合体がよく用いられる。
【0003】セリアは酸素吸蔵能(OSC)があり、酸素を吸収・放出し、触媒使用雰囲気の調整をする働きがあるが、高温にさらされると劣化しその能力が低下する。しかし、このセリアの高温劣化はジルコニアをセリアの回りに配置することによって抑制される。ジルコニアはセリア以外の助触媒物質や触媒物質の高温安定化に対しても有効である。
【0004】酸化物を担体に担持する方法として、従来、含浸法、粉末添加法、共沈法などが行われていた。含浸法は焼成などによって酸化物となる物質(酸化物前駆体)を生成する物質(酸化物前駆体生成物質)を水などの溶媒に溶解し、その溶液を担体に含浸させ含浸させた酸化物前駆体を酸化物に変化させる方法であるが(特開昭63-116741 、特開昭63-116742 、特開平5-277375)、この方法によるとできた担体の細孔が閉塞されその表面積が低下するという問題があった。
【0005】粉末添加法は、沈殿等により酸化物の前駆体を得、これを焼成等により酸化し、できた酸化物を、粉砕・混合した後、スラリー状にするなどして担体に担持するものであるが、担持される粉末の粒子径が大きくなりやすく、このような酸化物担持担体に貴金属等の触媒を担持した時には触媒が担体にうまく分散せず助触媒となる酸化物との相互作用が不十分で触媒能が十分に発揮されない(特開昭60-110334 、特開平5-270823、特開平4-55315)。
【0006】共沈法は、溶解させた複数の酸化物前駆体発生物質から複数の酸化物前駆体を同時に沈殿させ複数の酸化物前駆体が混合した析出物を作り、これを直接担体に塗布し焼成などにより担体上で複合酸化物化する、あるいはアルミナなどの基体を共沈発生溶液に共存させ酸化物前駆体を基体上に析出させた後、析出させた共沈を複合酸化物に変換する(特開平5 -286722 、 特開平6-063403、 特開平6-114264、特開平5 -270823 ) 、さらには析出物から複合酸化物を作製し、それを粉末添加法と同様に担体に担持することによって複合酸化物担持担体を作製する方法などがある。
【0007】しかし、この方法にも含浸法や粉末添加法と同様の問題点があった。また、固溶体化や異種酸化物同士の分散状態が十分ではなく、完全に複合化したとはいい難い状態であった。ここで、固溶体とは複合体の中でも特に両酸化物の混合状態が原子レベルのものをいう。
【0008】単一酸化物を担持する従来の方法、さらには複合酸化物を担持させる従来の方法、いづれの方法をとっても、セリアとジルコニアの両者を任意の割合で混合し複合化させることは困難であった。なぜなら、従来の方法により両酸化物の粉末を混合して複合体化させた場合には、両粉末の微細化・分散化が不十分であり、どちらかの成分に偏った複合体しか得られなかった。また、共沈法で両酸化物の前駆体の混合体を析出させた場合にも往々にして遍析が生じやすく、やはり、どちらの成分に偏った複合体しか得られなかった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、担持酸化物粒子の微粒子化、高分散化が図ることができる酸化物担持触媒担体および複合酸化物担持触媒担体の製造方法を提供しようとするものである。さらに、900 ℃以上の高温熱履歴を受けた後においても十分な助触媒作用を発揮する酸化物担持触媒担体および複合酸化物担持触媒担体の製造方法を提供しようとするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
(第1発明)本発明の酸化物担持触媒担体の製造方法は、沈殿により遷移金属、アルミニウム、アルカリ土類金属あるいはアルカリ金属から選ばれた少なくとも1つの元素の酸化物前駆体を生成する溶液を調製する第1工程と、細孔を有する基体と該第1工程の溶液との反応を防止するために該基体の該溶液に対する反応性を低下させる処理を該基体に施す第2工程と、
【0011】該第1工程により調製された溶液と該第2工程により反応性を低下させた基体とを混合する第3工程と、該第3工程の混合溶液に該酸化物前駆体の沈殿もしくは共沈を発生させる沈殿発生処理を施し、該基体表面近傍および/または該基体の細孔内で該酸化物の前駆体を沈殿もしくは共沈させる第4工程と、該沈殿もしくは共沈した酸化物前駆体を酸化物に変換させる第5工程とからなる、細孔を有する基体に酸化物を保持した酸化物担持触媒担体の製造方法。
【0012】本発明に用いる基体には酸化物前駆体を溶解した溶液に不溶で、触媒担体としての使用が可能な程度の細孔径を有するものであれば何でも用いることができる。たとえば、アルミナ、活性アルミナ、Laで安定化したアルミナもしくは活性アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、ゼオライト、モルデナイトなどを用いることができる。また、NOx浄化用、三元触媒用の担体も用いることができる。酸化物前駆体は遷移金属、アルミニウム、アルカリ土類金属あるいはアルカリ金属等の水酸化物、硫化物、ハロゲン化物、およびその他の有機酸、無機酸との塩、あるいはアンモニア、水酸基等との錯体などであり、酸化処理や焼成を行うことによって金属の酸化物に変換できるものを意味する。
【0013】遷移金属には希土類金属やジルコニウムを含む。即ち、周期律表の第4、第5、第6周期の1B、2B、3A、4A、5A、6A、7A、8族の金属を意味する。また、アルカリ金属、アルカリ土類金属とは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム等の周期律表の第2〜第7周期の1A、2A族の元素を意味する。また、この触媒の利用目的としては、一般的排気浄化触媒として用いることができる。たとえば、三元触媒、NOx触媒あるいは酸化触媒などの担体、あるいは担体の一部、および助触媒の担持方法に関するものである。
【0014】第2工程の基体の処理工程は細孔を有する基体と酸化物前駆体発生溶液との反応を防止するために該基体の該溶液に対する反応性を低下させるため基体に反応抑制処理を行うことである。本工程としては酸化物前駆体発生溶液と基体との反応が抑制される方法ならどんな方法でも採用することができる。その工程としてたとえば、基体のpH調整、表面処理剤による親水性処理、疎水性処理あるいは表面修飾処理などを用いることができる。
【0015】また、第3工程の沈殿発生処理とは物質の化学的性質、物理的性質を利用して沈殿を発生させる方法をいい、物理的衝撃、pHの変化、凝集剤、あるいは化学反応等により単一の沈殿を発生させたり、複数の沈殿を同時に発生させる処理をいう。また、第5工程の酸化物への変換工程としては、焼成処理、酸化処理などが用いられる。
【0016】(第2発明)前記請求項1記載の酸化物担持触媒担体の製造方法において第2工程の処理工程をpH調整工程とした酸化物担持触媒担体の製造方法。pH調整とは酸やアルカリを加えて基体のpHを任意に設定することであり、基体に酸やアルカリを含浸させるなどの方法がとられる。
【0017】(第3発明)本発明の酸化物担持触媒担体の製造方法は、遷移金属、アルミニウム、アルカリ土類金属あるいはアルカリ金属から選ばれた2種以上の元素の塩を溶解した溶液を調製する第1工程と、細孔を有する基体のpHを調整する第2工程と、該第1工程の溶液と該第2工程の基体とを混合する第3工程と、該第3工程の混合溶液のpHを沈殿発生剤を用いて急速に該2種以上の元素の酸化物前駆体の共沈が始まるpH域に変化させ、該2種以上の元素の酸化物前駆体の共沈を発生させる第4工程と、該共沈した酸化物前駆体を複合酸化物に変換させる第5工程とからなる。
【0018】遷移金属、アルカリ土類金属あるいはアルカリ金属の塩とは周期律表の第2、第3、第4、第5、第6周期の1A、2A、1B、2B、3A、4A、5A、6A、7A、8族、特に、ランタン、ジルコニウム、セリウム、およびリチウム、ナトリウム、カリウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウムなどのハロゲン化物および有機酸、無機酸などとの水溶性の塩を指す。好適には硝酸塩、酢酸塩などである。本発明に用いる基体には前記塩を溶解した溶液に不溶で、触媒担体としての使用が可能な程度の細孔径を有するものであれば何でも用いることができる。好適には酸化アルミニウム(アルミナ、活性アルミナ)、シリカ、ゼオライト等が用いられる。基体のpH調整とは酸やアルカリを加えて基体のpHを任意に設定することであり、基体に酸やアルカリを含浸させるなどの方法がとられる。沈殿発生剤としては、アンモア、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ、炭酸、酢酸、硝酸等の酸が用いられる。
【0019】酸化物複合体とは複数の酸化物がミクロあるいはマクロに分散して存在する混合体、さらにこれらが溶解し合って一体化したもの、さらには複数の酸化物が原子レベルで混合し合ったいわゆる固溶体などをいう。また、共沈発生処理とはいわゆるpHの変化をすべての酸化物前駆体が沈殿する領域までアルカリ、酸によって変化させ複数の酸化物前駆体を共に発生させる処理をいう。また、酸化物への変換工程としては、焼成処理、酸化処理などが用いられる。
【0020】(第4発明)第3発明の工程に加えて細孔を有する基体と複数の遷移金属の塩を溶解した溶液との反応を防止するために、pHを調整したスラリー(懸濁液)状の基体を作製する基体処理工程を行う。pHの調整は基体に酸やアルカリを加えることによって行う。また、本発明のスラリーは基体粒子が溶液に単純に分散したものでよく、また、分散剤、乳化剤等を加えて分散性を向上させたものでもよい。
【0021】(第5発明)第4発明の2種以上の元素としてセリウムおよびジルコニウムの硝酸塩を、基体としてアルミナを用い、酸化セリウムと酸化ジルコニウムの固溶体を担持した担体を得る酸化物担持触媒担体の製造方法。
(第6発明)第5発明のアルミナとしてLaあるいはBaで安定化したアルミナを用いる酸化物担持触媒担体の製造方法。通常触媒担体として用いられるLaもしくはBa安定化アルミナであればどんな形状、細孔径、細孔分布のものでも使用することができる。
【0022】(第7発明)第3発明、第4発明、第5発明、第6発明のpH変化工程においてpHをpH1 からpH7 へ数分以内に急速に変化させる酸化物担持触媒担体の製造方法。好ましくは1分以内に上記範囲のpH変化を起こさせることが望ましい。
【0023】(第8発明〜第13発明)第5発明の方法によって製造された酸化セリウムが酸化ジルコニウムと酸化セリウムの合計に対する金属の原子比で10% 以上、80% 以下含有された酸化ジルコニウム−酸化セリウム固溶体担持La安定化アルミナ担体、好適には酸化ジルコニウムが酸化ジルコニウムと酸化セリウムの合計に対しモル比で20% 以上、60% 以下の担体、さらに好適には酸化ジルコニウムが酸化ジルコニウムと酸化セリウムの合計に対しモル比で40% 以上、55% 以下の担体、さらにはこれら担体に貴金属触媒を担持した触媒。
【0024】酸化セリウムの酸化ジルコニウムと酸化セリウムとからなる複合体に対する含有量がモル比で40% 以下、時には20% 以下、特に10% 以下の場合にはセリアの酸素吸蔵能力が十分ではない。酸化セリウムの含有量が55% 以上、時には60% 以上、特に90% 以上ではジルコニアによる耐熱性向上効果が十分に発揮されない。第5発明の方法によって製造された900 ℃の空気中において5時間以上加熱した時の表面積が80m2 /g以上の酸化ジルコニウム−酸化セリウム固溶体担持La安定化アルミナ担体、さらには900 ℃の空気中において5時間以上加熱した時のセリア粒子径が10nm以下のもの。
【0025】(第14発明)第1発明もしくは第2発明の方法において、前記第1工程の選択元素として少なくともジルコニウムを用いることによって製造された、酸化ジルコニウム中のジルコニウムの担持量が前記基体に対する金属の原子比で4%以上である酸化ジルコニウム担持担体に、さらにロジウムを担持した排ガス浄化用触媒。さらに、酸化ジルコニウムの担持量として、該基体に対する金属の原子比で4%以上95%以下が好適である。
【0026】
【発明の実施の形態】
(第1発明)本発明の複合酸化物担持触媒担体の製造方法では、第1工程で調製した、酸化物前駆体発生溶液を第3工程において細孔を有する基体と混合させる。これにより該溶液は基体表面近傍(基体の2次粒子表面近傍)もしくは細孔中の極限られた領域に浸み渡り閉じ込められた状態となる。これは前記表面近傍もしくは細孔をマイクロカプセルとみなしその中に溶液が閉じ込められた状態とも考えられる。このような状態は基体の吸着力や吸収力によって作りだされると考えられる。
【0027】その後、第3工程において限られた領域に閉じ込められた酸化物前駆体を発生する溶液に沈殿発生処理を施す。この過程で加えられる沈殿発生を誘起する刺激は細孔を有する基体の細孔内や表面近傍の極小さな限られた領域では大きく増幅されるので、沈殿特性の異なる複数の酸化物前駆体でも極小さな限られた領域において高度に分散した微細な酸化物前駆体の沈殿を発生する。
【0028】基体が酸化物前駆体発生溶液と反応して酸化物前駆体の沈殿が生じてしまうと沈殿物の粒成長が起こり、その後変換された酸化物の助触媒としての働きが低下してしまう。酸化物前駆体発生溶液として混合溶液中を用いた場合では、もし溶液中の一部の酸化物前駆体の沈殿が生じてしまうと、次の過程で酸化物前駆体の共沈を発生させても沈殿物は遍析が生じたものと同じ結果となり、複数の酸化物が高度に分散した複合酸化物を作製できない。このため、本発明では第2工程を行ない酸化物前駆体発生溶液に対し、沈殿を自然に誘発するような基体表面の物理的あるいは化学的活性を低下させる。
【0029】本発明の方法によれば、細孔を有する基体の表面あるいは細孔内に酸化物が高度に分散した触媒担持用担体を作製することができる。本発明の方法により、細孔を有する基体に酸化物を担持した時には酸化物担持粒子の径が十分に小さく細孔の閉塞を生じない。従って、得られた触媒担持用担体の表面積の低下が少なく、担持した酸化物の助触媒としての能力が十分に発揮され、さらに触媒を担持した時には触媒の作用が最大限に発揮される。
【0030】(第2発明)第1発明の第2工程において基体のpHを酸化物前駆体発生溶液と基体との反応で酸化物前駆体が沈殿しない領域へシフトさせることによって、基体は酸化物前駆体発生溶液を安定にそのマイクロカプセル内に保持することができる。
【0031】本工程を加えることによって酸化物前駆体を含んだ溶液が基体と接触しても酸化物前駆体の沈殿物が析出することはなく、沈殿物の粒子が大きく成長することはない。従って、沈殿を酸化物に変換して細孔を有する基体に酸化物を担持した時には酸化物担持粒子の径が十分に小さく細孔の閉塞を生じない。従って、得られた触媒担持用担体の表面積の低下が少なく、担持した酸化物の助触媒としての能力が十分に発揮され、さらに触媒を担持した時には触媒の作用が最大限に発揮される。
【0032】(第3発明)本発明の複合酸化物担持触媒担体の製造方法では、第1工程で調整した遷移金属、アルミニウム、アルカリ土類金属あるいはアルカリ金属の塩を溶解した溶液を第3工程において細孔を有する基体と混合させる。前記塩とは周期律表の第2、第3、第4、第5、第6周期の1A、2A、1B、2B、3A、4A、5A、6A、7A、8族、特に、ランタン、ジルコニウム、セリウムおよびリチウム、ナトリウム、カリウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウムなどのハロゲン化物および有機酸、無機酸などとの水溶性の塩を指す。好適には硝酸塩、酢酸塩などである。混合によりこの溶液は基体表面近傍もしくは細孔中の極限られた領域に浸み渡り、閉じ込められた状態となる。
【0033】その後、第4工程において限られた領域に閉じ込められたの溶液に沈殿発生剤を添加し急速に酸化物前駆体の共沈が始まるpH域に変化させる。この時、塩が閉じ込められた極小さな限られた領域ではその吸着作用によりpHの変化がさらに急激に全体に渡って生じ、極小さな限られた領域に閉じ込められた塩は粒子成長があまり起きず、高分散状態で沈殿する。複数種の酸化物前駆体が溶液に含まれている場合にはマイクロカプセル内固有の特性として個々のpH沈殿特性にかかわらず同時に沈殿を発生し複数の酸化物前駆体が高度に分散した沈殿物が得られる。これを酸化物に変換すれば分散性のよい微粒子状の複合酸化物が得られる。
【0034】本発明の方法によれば、細孔を有する基体の表面あるいは細孔内に複数の酸化物が高度に分散した触媒担持用担体を作製することができる。本発明の方法によって細孔を有する基体に担持された複合酸化物は、その粒子径が十分に小さく細孔の閉塞が生じない。従って、得られた触媒担持用担体の表面積の低下が少なく、担持した複合酸化物の助触媒としての能力が十分に発揮され、さらに触媒を担持した時には触媒の作用が最大限に発揮される。
【0035】(第4発明)基体が第3発明の塩の溶液と反応すると沈殿反応が徐々に進行し沈殿粒子が大きく成長(2次粒子の成長)するので高分散状態の沈殿物が得られない。溶解した塩の内の特定の種類のものが基体と反応して酸化物前駆体の沈殿を発生すると、次の過程で複数種の酸化物前駆体の沈殿を発生させても沈殿物は遍析が生じたものと同じ結果となり、複数の酸化物が高度に分散した複合酸化物を作製できない。このため、本発明では基体と酸化物前駆体との反応性を低下させるために基体に処理を施す。この処理工程では酸化物前駆体発生溶液に対し、沈殿を自然に誘発するような基体表面の物理的あるいは化学的活性を低下させる。
【0036】スラリーの分散媒、たとえば水、と酸化物前駆体発生用の塩を溶解させた溶媒とに親和性があればこのスラリーと塩の溶液とはよく混合する。また、スラリーの分散媒はその種類により予め基体の細孔内に浸透するので、第3工程においてスラリーと塩の溶液とを混合したとき塩の溶液が基体マイクロカプセル内へ浸透する量を調節し、析出した酸化物前駆体の沈殿の分散化・微粒子化を促進する。
【0037】反応性が抑制された基体を流動性のあるスラリーとすることにより遷移金属、アルミニウム、アルカリ土類金属あるいはアルカリ金属の塩の溶液との混合が容易になり、遷移金属塩の溶液が基体細孔内および基体表面の極近傍へ十分に行き渡る。また、担持酸化物と基体との分散性を調節することができる。
【0038】(第5発明)本発明の方法により、セリアおよびジルコニアが基体上に極微細な状態で高分散に担持され、良好な固溶体を形成する。セリアおよびジルコニアが基体上に極微細な状態で高分散に担持されるため、セリアにより付加された担体の酸素吸蔵能を最大限に発揮させることができ、さらにジルコニアによるセリアの耐熱性向上も十分に図ることができる。
【0039】(第6発明)La もしくはBa安定化アルミナは水浸pHが高く、弱アルカリ性を示すため第2工程において硝酸または酢酸などによりあらかじめ酸性側にpH調整しないと水酸化セリウムより先に水酸化ジルコニウムが沈殿してしまいセリアとジルコニアを高度に分散させることができない。しかし、本発明の方法により、水酸化セリウム、水酸化ジルコニウムが La もしくはBa安定化アルミナ基体の細孔内および/またはアルミナ2次粒子の表面の近傍の粒界部などに同時に、遍析のない状態で析出する。
【0040】これは図1に示すpH 滴定曲線においてアルミナ共存下で行った場合に各水酸化物の滴定曲線にあった1、2もしくは両水酸化物の混合溶液の滴定曲線にあった3の変化に対応した変化が消失し、4に示すようななめらかな曲線になることからも推察される。これにより触媒担体として優れた特性を持つLaもしくはBa安定化アルミナ基体上に、セリアおよびジルコニアが高度に分散した極微細な高分散状態さらには固溶状態で担持される。
【0041】図2のX線回折測定結果に示されるように本発明によって担持されたセリア−ジルコニア複合酸化物はもとのセリア(回折線5)およびジルコニア(回折線6)の回折線とは異なる新たな回折線(回折線8)を生じる。従来法ではセリアとジルコニアが2相に分離する(回折線7)。回折線8はジルコニアがセリアに高度に固溶した固溶体の生成を意味し、1次粒子(X線的な意味での粒子)径の小さな複合体ができたことを示している。本発明によって得られた複合酸化物担持触媒担体はセリアおよびジルコニアが極微細な固溶体として、基体上に高分散状態で担持され、また、基体細孔の閉塞が生じない。従って、できた触媒担持用担体の表面の低下が少ないため、セリアにより付加された担体の酸素吸蔵能を最大限に発揮させることができる。さらに、ジルコニアによるセリアの耐熱性向上も十分に図ることができる。
【0042】(第7発明)本発明の工程により、遷移金属、アルミニウム、アルカリ土類金属あるいはアルカリ金属の酸化物前駆体である水酸化物が複数種、マイクロカプセル内において高分散状態の微粒子として共沈する。細孔を有する基体の表面あるいは細孔内に遷移金属の酸化物が高度に分散した触媒担持用担体を作製することができる。従って、これら水酸化物を酸化物に変換した場合、細孔を有する基体に微粒子状の複合酸化物助触媒が高度に分散する。従って、担持した複合酸化物の粒子が十分に小さいため基体細孔の閉塞が生じず、できた触媒担持用担体の表面積の低下が少ない。このため、複合酸化物の助触媒としての能力が十分に発揮され、その後、触媒を担持した時には複合酸化物助触媒の効果により触媒の作用が最大限に発揮される。
【0043】(第8発明〜第13発明)セリアとジルコニアが原子レベルでほぼ均一に分散するため、ジルコニアがセリアの凝集を防止し、その耐熱性が十分に向上する。また、分散性が適度であるため、セリアが後に担持された触媒と十分にコンタクトすることができ、その助触媒効果が十分に発揮される。また、同時に担体とセリアとの反応による凝集も防止できる。従って、ジルコニアのセリア助触媒能に対する阻害効果が少ない。
【0044】ジルコニアの耐熱効果が十分に発揮され、高温下および高温履歴後でもセリアの酸素吸蔵能が最大限に発揮される。固溶体状態の複合化なのでセリアの耐熱性がよくその助触媒効果がよく発揮される。本発明の製造方法で作製された酸化物担持担体は1000℃以上の高温耐熱試験後でも担体として良好な特性を有している。900 ℃以下の高温履歴に対して十分な耐性を有していることはもちろんである。
【0045】(第14発明)ジルコニア(La、Ce、Ca、Ba、Mgなどの希土類あるいはアルカリ土類さらにアルミニウムを安定化材として含んでもよい)をアルミナ、シリカ、ジルコニア等の担体に担持、あるいはそれ自体を貴金属の担体として用いることにより、Rhとアルミナとの反応を防止し、高温使用条件下でRhの活性を維持できる。担体表面に微細なジルコニアを担持、あるいは複合化(貴金属を担持したアルミナ層と、Rhを担持したジルコニアを主成分とした層の二層コートにすることもできる。)することによって、貴金属特にRhと担体との高温での固相反応が抑制される。酸化ジルコニウムの担持量が4%未満の場合には上記の耐熱性効果が発揮されない。担持量が95%を越えると貴金属の触媒作用が低下し始める。担体表面に微細なジルコニアを担持することによって貴金属と担体、特にアルミナとの高温での固相反応を抑制することができる。
【0046】
【実施例】以下、本発明を実施例により説明する。本実施例で調製した酸化物担持触媒担体の一覧を表1に示す。
【0047】
【表1】


【0048】(実施例1)活性アルミナ担体120gに対して、担持するセリアとジルコニアの合計の担持量が0.3mol になる酸化物担持活性アルミナ担体 A を次のように作製した。
【0049】第1工程として水0.6l に対して加える硝酸塩の合計モル数が0.3mol になるように、硝酸セリウムと硝酸ジルコニル水和物の混合水溶液を調製した。第2工程として平均二次粒子径を数μmとした市販の活性アルミナ120gを工程1の混合水溶液に徐々に添加し、水浸pHが酸性を示すようにpH調製し、懸濁液を調製した。さらに、第1工程において調製した溶液中の硝酸塩に対する1. 2倍等量のアンモニア水を溶かした水溶液(中和剤)約0.29l を調製した。
【0050】第3工程として第2工程で調製した混合液に、第2工程で調製した中和剤を1分以内に添加し均一に撹はんし沈澱をおこさせた。その後この懸濁液をろ過し、100℃にて20hr乾燥した。第4工程として750℃で3hr、大気中にて焼成し、沈澱により生成した水酸化物を酸化物に変換し、酸化物担持活性アルミナ担体 A を調製した。
【0051】Aの作製工程中の第2工程において、硝酸水溶液をしみ込ませることにより酸性化した、市販の中性またはアルカリ性の活性アルミナ担体を用いたこと以外Aの作製工程と同様の方法で活性アルミナ担体 B を作製した。
【0052】Aの作製工程から中和・沈殿処理を除いた以外は全く同じ処理液による含浸法によって比較例(A)の酸化物担持担体を作製した。また、活性アルミナ担体120gに対して、担持するセリアとジルコニア粉末の合計の添加量が0. 3molになる様に酸化物粉末を添加し、らいかい機による混合を行うことによる粉末添加法により酸化物担持活性アルミナ担体((A))を調製した。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】


【0054】ここでは、酸化物担持担体の比表面積、セリア粒子径、セリア中へのジルコニウム固溶量、セリアの分散性、およびOSC評価を行った。表中のA、Bからわかるように本実施例の方法によりセリアの分散性の高い担体が得られた。この担体は耐熱試験後においても十分小さなセリア粒子径を有しており、耐熱性の良好な担体といえる。
【0055】(実施例2)活性アルミナ担体120gに対して、担持するセリアとジルコニアおよびカルシアの合計の担持量が0. 3mol になる酸化物担持活性アルミナ担体 C を次のように作製した。
【0056】第1工程として水0.6 l に対して加える硝酸塩の合計モル数が0. 3mol になるように、硝酸セリウムと硝酸ジルコニル水和物および硝酸カルシウムの混合水溶液を調製した。第2工程として、硝酸水溶液を染み込ませ酸性にした、平均2次粒子径数μmのLa安定化活性アルミナ120gを工程1の混合水溶液に徐々に添加し懸濁液を調製した。さらに、第1工程において調製した溶液中の硝酸塩に対する割合で1. 2倍等量の水酸化ナトリウムを溶かした水溶液(中和剤)約0.29l を調製した。
【0057】第3工程として第2工程で調製した混合液に、第2工程で調製した中和剤を1分以内に添加し均一に撹はんし沈澱をおこさせた。その後この懸濁液を水洗ろ過し、100℃にて20hr乾燥した。
【0058】第4工程として750℃で3hr、大気中にて焼成することにより、沈澱により生成した水酸化物を酸化物に変換して酸化物担持活性アルミナ担体 C を調製した。Cの第2工程において、アルミナ担体を水に分散させ硝酸を加え、酸性(pH約5)のスラリー(懸濁液)とし、これを用いた以外Cの調製方法と同様の製造方法で酸化物担持活性アルミナ担体 D を作製した。
【0059】表2からわかるように本実施例の方法によって作製した担体C、Dはセリアの分散性が良好であることがわかった。この担体は耐熱試験後においても大きな比表面積と十分小さなセリア粒子径を有しており、耐熱性の良好な担体といえる。
【0060】(実施例3)セリアとジルコニアの固溶割合の異なるセリア−ジルコニア担持アルミナ担体E、F、G、Hを次のように作製した。第1工程として水0.6lに対して加える硝酸塩の合計モル数が0. 3mol になるように、硝酸セリウムと硝酸ジルコニル水和物の混合水溶液を調製した。第2工程として、平均2次粒子径を数μmとしたLaまたはBa安定化活性アルミナ120gを水に分散させ0.6lとした。これに0. 026モルの硝酸を加え、酸性(pH約5)のスラリー(懸濁液)を調製した。これにより硝酸塩溶液と混合した時水酸化ジルコニウムの沈澱が発生し、これがコロイド化するのを防止させることができる。さらに、第1工程において調製した硝酸塩に対する割合にして1. 2倍等量のアンモニア水を溶かした水溶液(中和剤)約0.29l を調製した。
【0061】第3工程として第1工程により調製した硝酸塩水溶液と第2工程で調製した懸濁液を混合し、撹はん機により2分間混合した。この撹はん時間の選択により基体細孔内への硝酸塩の拡散量が調整できる。第4工程として第3工程で調製した混合液に、第2工程で調製した中和剤を1分以内に添加するとともに、均一に撹はんし沈澱を発生させた。その後、この懸濁液をろ過し、100℃にて20hr乾燥させた。
【0062】第5工程として、750℃で3hr、大気中にて焼成し、沈澱により生成した水酸化物を酸化物に変換し、セリア−ジルコニア担持アルミナ担体E、F、G、Hを調製した。
【0063】比較例として、硝酸を加えていないpH未調整のスラリーを用いること以外、上記と全く同じ方法で、セリアとジルコニアを等量担持した活性アルミナ担体(I)を作製した。結果を前記表2および表3に示す。表3にはこれら担体に白金触媒を担持しその特性値を測定した結果を示す。
【0064】
【表3】


【0065】表3より本実施例の担体が優れた高温耐熱特性を有していることがわかる。
─担体への触媒担持─これら酸化物担持活性アルミナ担体E、F、G、Hを砕いた後水に分散させスラリー化しミリング後、白金塩により白金を含浸担持し、乾燥した。具体的には担体粉末 8 g に硝酸白金を主成分とする白金担持液(白金濃度1g/500cc)の水溶液約48ccを加えスターラーにより撹はんしながら14hr静置し、90℃で撹はんしながら乾燥し、本実施例の触媒を得た。白金の担持量としては酸化物担持活性アルミナ担体中の活性アルミナ120gに対して2gとした。
【0066】また、比較例として担体((A))、( A) 、I、Kについても上記と同様に白金を担持し比較例の触媒を作製した。以上のように担体を触媒化する場合、貴金属の種類や担持量、担持方法および、ハニカム担体へのコーティング方法は特に限定されない、たとえば担体を粉末化した後スラリー化し貴金属を担持する方法や、酸化物前駆体の沈殿したスラリーを直接金属製あるいはセラミック製ハニカム担体にコーティング後焼成して作製した担体に貴金属を吸着、含浸あるいは吸水担持しても良い。
【0067】OSC評価における触媒は、担体を粉末化した後スラリー化し貴金属を担持する方法や、酸化物前駆体の沈殿したスラリーを直接金属製あるいはセラミック製ハニカム担体にコーティング後焼成して作製した担体に貴金属を吸着、含浸あるいは吸水担持しても良い。できた触媒粉末を 0.5〜1mm角のペレット状とし、300、500 、700 ℃の各温度において酸素の飽和吸蔵量を評価した。表2からわかるように本実施例の方法により作製した担体はセリアの分散性が良好であることがわかった。この担体は耐熱試験後においても大きな比表面積と十分小さなセリア粒子径を有しており、耐熱性の良好な担体といえる。また、比較例(I)のセリア粒子径は大きく、基体に対するpH調整の効果が高いことがわかる。
【0068】さらに、本実施例の酸化物担持担体に白金を担持した触媒組織の走査型電子顕微鏡( SEM) 写真を図3に示す。セリアおよびジルコニアの複合酸化物(写真では白く見える)が、アルミナの2次粒子の粒界部に分布しており、2次粒子の細孔内部には分布していない状態が確認される。
【0069】( 実施例4)実施例3の第4工程において、中和剤を3分以内で添加すること以外、実施例3と全く同様の方法で、セリアとジルコニアを等量担持した活性アルミナ担体Jを作製した。
【0070】比較例として中和剤を10分間、じょじょに添加したこと以外、上記と全く同様の方法で、セリアとジルコニアを等量担持した活性アルミナ担体(K)を作製した。表2からわかるように本実施例の方法により作製した担体はセリアの分散性が良好であることがわかった。この担体は耐熱試験後においても大きな比表面積と十分小さなセリア粒子径を有しており、耐熱性の良好な担体といえる。また、比較例(K)のセリア粒子径は大きく、本実施例のように中和剤を急速に加えることが効果的であることがわかる。
【0071】(実施例5)前記実施例3の第3工程において、撹はん機により10分間、塩を溶解した溶液とスラリーを混合する以外、実施例3と全く同様の方法で酸化物担持活性アルミナ担体 L を調製した。表2からわかるように本実施例の方法により作製した担体はセリアの分散性が良好であることがわかった。この担体は耐熱試験後においても大きな比表面積と十分小さなセリア粒子径を有しており、耐熱性の良好な担体といえる。また、本実施例の担体に実施例3と同様の方法により白金を担持した触媒組織のSEM(FE-SEM)観察結果を図4に示す。これより、セリアおよびジルコニアの複合酸化物が、アルミナの2次粒子の粒界部と、アルミナの2次粒子の細孔内部にまで分布していることがわかる。
【0072】(実施例6)実施例3と同様の方法で作製された酸化ジルコニウム担持La安定化活性アルミナ担体において、アルミとジルコニウムの金属原子比がアルミニウム100に対してジルコニウムが5であり、この担体中のアルミナ120gに対して、貴金属としてPtを2gとRhを0.15g含浸担持させた酸化ジルコニウム担持La安定化アルミナ触媒 M を調製した。
【0073】比較例として酸化ジルコニウムを担持していないこと以外は上記触媒と同様の方法でLa安定化アルミナ触媒 N を調製した。以上の触媒を1000℃で5hr大気中にて耐熱試験後、その物性値評価を行った。本実施例の触媒は比較例の触媒に比べて、耐熱試験後でも白金、ロジウムの触媒活性が低下せず、優れた耐熱特性を有していることがわかった。
【0074】さらに、本実施例の触媒には、酸化ジルコニウムの安定化のためセリウム、バリウム、カルシウム等の元素がジルコニウムと同様の方法で担持されていても良好な特性が得られる。また、耐熱試験後において、触媒中のロジウムの一部は白金中に固溶状態として存在し、一部は酸化ロジウムとして存在していることを、X線回折やX線光電子分光測定によって確認した。また、この触媒を300℃程度のA/F14.6相当の排気中にさらしたところ金属状態のロジウムが生成した。このことから、本発明の触媒では、担体とロジウムとの反応が抑制され、触媒使用時に高活性な金属状態のロジウムが維持されることを確認した。
【0075】これに対し、触媒Nは耐熱試験後において、触媒中のロジウムの一部が白金中に固溶状態として存在するがその固溶量は触媒Mの場合よりも少なく、また、一部は担体であるアルミナと複合酸化物を形成した状態であることを、X線回折やX線光電子分光測定によって確認した。また、この触媒を300℃程度のA/F14.6相当の排気中にさらしたところ、金属状態のロジウムはほとんど観測されなかった。このことから、触媒Mでは、担体とロジウムとの反応が進行し、高活性な金属状態のロジウムが減少していることを確認した。
【0076】(実施例7)実施例3の製造方法によって調製した担体E、F、G、Hのそれぞれについて、担体100部と、ベーマイト(水酸化アルミニウム)粉末4部および水100部をボールミルで30分間混合ミリングした。その後硝酸アルミニウム7部を混合し、さらに30分間ミリングしてスラリー10リットルを調製した。このスラリーに容積1.7リットルのコージェライト質からなるハニカム状のモノリス触媒担体基材を1分間浸せき後引き上げ、空気流によりセル内の余剰なスラリーを吹き飛ばし、100〜150℃の空気流中で1時間乾燥後、650℃で1時間焼成した。この操作を2〜3回繰り返して触媒担持層を持つモノリス担体基材を得た。
【0077】これを、白金2.6gを含む硝酸白金の水溶液に1hr浸せきし、空気流によりセル内の余剰な水を吹き飛ばし、最高温度250℃にて1時間乾燥させた。その後、ロジウム0.5gを含む硝酸ロジウムの水溶液に1hr浸せきし空気流によりセル内の余剰な水を吹き飛ばし、最高温度250℃にて1時間乾燥させ、排気浄化用触媒 O、P、Q、Rを得た。
【0078】得られたそれぞれの触媒について、3リットル直列6気筒エンジンの排気系につけ、空燃比(A/F)を14.6、触媒入りガス温度900℃の条件で200時間耐久試験を行った。その耐久試験後のそれぞれの触媒について、耐久試験と同一のエンジンを付けた自動車を用い、モデル的な国内走行状態における、排気中の有害成分の浄化率を測定した。結果を表4に示す。本実施例の触媒はいづれも比較例の触媒よりハイドロカーボン(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO)の浄化率が優れており、耐熱性の良好な触媒が得られたことがわかる。
【0079】
【表4】


【0080】(実施例8)実施例3の第4工程後の懸濁液を直接モノリス触媒担体基材にコーティングすること以外、実施例7と全く同様の方法にて排気浄化用触媒 S、T、U、Vを得た。また、比較例として担体(A)、担体((A))’、担体( K) を用いること以外実施例7と同様の方法により排気浄化用触媒(W)、(X)、(Y)を得た。これらの触媒について実施例7と同様の方法で有害成分の浄化率を測定した。結果を表4に示す。本実施例の触媒はいづれも比較例の触媒よりハイドロカーボン(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO)の浄化率が優れており、耐熱性の良好な触媒が得られたことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【図1】pH変化により沈殿を発生させた時の溶液のpH変化を示す線図である。
【図2】セリア、ジルコニアおよび両者の固溶体のX線回折パターンを示す線図である。
【図3】実施例3の白金を担持した触媒の断面構造を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図4】実施例5の白金を担持した触媒の断面構造を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【符号の説明】
1 硝酸セリウム水溶液をアンモニア水で滴定した結果
2 硝酸ジルコニル水溶液をアンモニア水で滴定した結果
3 硝酸セリウムと硝酸ジルコニルとの混合水溶液をアンモニア水で滴定した結果
4 硝酸セリウムと硝酸ジルコニルとの混合水溶液に、硝酸によりpH調整したLa安定化活性アルミナのスラリーを加え、撹はんしながらアンモニア水で滴定した結果
5 セリアのX線回折線
6 ジルコニア単斜晶のX線回折線
7 従来法により担持したセリア、ジルコニアの2相のX線回折線
8 本実施例により担持したセリア、ジルコニア単相のX線回折線

【特許請求の範囲】
【請求項1】 細孔を有する基体に酸化物を保持した酸化物担持触媒担体の製造方法において、沈殿により遷移金属、アルミニウム、アルカリ土類金属あるいはアルカリ金属から選ばれた少なくとも1つの元素の酸化物前駆体を生成する溶液を調製する第1工程と、細孔を有する基体と該第1工程の溶液との反応を防止するために該基体の該溶液に対する反応性を低下させる処理を該基体に施す第2工程と、該第1工程により調製された溶液と該第2工程により反応性を低下させた基体とを混合する第3工程と、該第3工程の混合溶液に該酸化物前駆体の沈殿もしくは共沈を発生させる沈殿発生処理を施し、該基体表面近傍および/または該基体の細孔内で該酸化物の前駆体を沈殿もしくは共沈させる第4工程と、該沈殿もしくは共沈した酸化物前駆体を酸化物に変換させる第5工程とからなる酸化物担持触媒担体の製造方法。
【請求項2】 前記第2工程がpH調整工程である請求項1記載の酸化物担持触媒担体の製造方法。
【請求項3】 遷移金属、アルミニウム、アルカリ土類金属あるいはアルカリ金属から選ばれた2種以上の元素の塩を溶解した溶液を調製する第1工程と、細孔を有する基体のpHを調整する第2工程と、該第1工程の溶液と該第2工程の基体とを混合する第3工程と、該第3工程の混合溶液のpHを沈殿発生剤を用いて急速に該2種以上の元素の酸化物前駆体の共沈が始まるpH域に変化させ、該2種以上の元素の酸化物前駆体の共沈を発生させる第4工程と、該共沈した酸化物前駆体を複合酸化物に変換させる第5工程とからなる酸化物担持触媒担体の製造方法。
【請求項4】 前記第2工程の基体としてスラリー状の基体を用いる請求項3記載の酸化物担持触媒担体の製造方法。
【請求項5】 前記2種以上の元素としてセリウムおよびジルコニウムの硝酸塩を、前記基体としてアルミナを用い、酸化セリウムと酸化ジルコニウムの固溶体を担持した担体を得る請求項4記載の酸化物担持触媒担体の製造方法。
【請求項6】 前記アルミナとしてLaもしくはBaで安定化したアルミナを用いる請求項5記載の酸化物担持触媒担体の製造方法。
【請求項7】 前記第3工程のpHの変化として、pH1 からpH7 への変化を数分以内で急速に行う請求項3〜6のいづれかに記載された酸化物担持触媒担体の製造方法。
【請求項8】 前記セリウムが前記ジルコニウムと前記セリウムの合計に対する原子比で10% 以上、80% 以下含有されてなる請求項5記載の酸化物担持触媒担体の製造方法によって製造された酸化ジルコニウム−酸化セリウム固溶体担持担体。
【請求項9】 前記酸化ジルコニウム−酸化セリウム固溶体担持担体に少なくとも1種以上の貴金属元素を担持した請求項8記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項10】 900 ℃の空気中において5時間以上加熱した時の表面積が80m2 /g以上である請求項9記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項11】 900 ℃の空気中において5時間以上加熱した時の酸化セリウム粒子径が10nm以下である請求項9記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項12】 前記ジルコニウムが前記ジルコニウムと前記セリウムの合計に対する原子比で20% 以上 60%以下である請求項8記載の酸化ジルコニウム−酸化セリウム固溶体担持担体。
【請求項13】 前記ジルコニウムが前記ジルコニウムと前記セリウムの合計に対する原子比で40% 以上 55%以下である請求項8記載の酸化ジルコニウム−酸化セリウム固溶体担持担体。
【請求項14】 請求項1もしくは2記載の方法において、前記第1工程の選択元素として少なくともジルコニウムを用いることによって製造された、酸化ジルコニウム中のジルコニウムの担持量が前記基体に対する金属の原子比で4%以上である酸化ジルコニウム担持担体に、さらにロジウムを担持した排ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平8−229394
【公開日】平成8年(1996)9月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−351996
【出願日】平成7年(1995)12月26日
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)