説明

酸化物被覆銅微粒子の製造方法

【課題】銅の酸化されやすいという性質を緩和しつつ、電気伝導性、金属光沢等の優れた銅の性質を維持することができる、極めて薄く、かつ耐酸化性に優れた被覆層を有し、しかも分散性に優れた酸化物被覆銅微粒子を製造する方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム塩を含むコート液と過酸化水素水を用いて、銅微粒子を含む水性懸濁液から、特定の条件によりによりpHを制御しながらアルミニウム水酸化物を主成分とする水酸化物からなる被覆層(c)を有する銅微粒子を形成する工程(A)、前記被覆層(c)を有する銅微粒子を固液分離して、乾燥処理に付す工程(B)、及び特定の条件で前記被覆層(c)を熱分解する工程(C)を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物被覆銅微粒子の製造方法に関し、さらに詳しくは、電気伝導性、金属光沢等の銅の優れた性質を維持することができる、極めて薄く、かつ耐酸化性に優れた被覆層を有し、しかも分散性に優れた酸化物被覆銅微粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、回路形成等の電子部品用の導電ペーストに使用される導電性金属粉として、銅、ニッケル、銀、銀−パラジウム合金等の微粒子が用いられている。これらの金属微粒子中で、特に、銅微粒子は、銀、銀−パラジウム合金等の貴金属微粒子と比較すると安価であり、かつエレクトロマイグレーションを起こしにくい素材として注目されている。また、顔料としても独特の有色金属として注目されている。
しかしながら、銅微粒子は、大気中において、比較的低温で酸化が進行しやすく、このため導電性や金属光沢が低下するという欠点があり、その使用範囲が制限されていた。すなわち、塗料用の顔料として用いる場合には、表面の僅かな酸化が意匠性を大きく損ねるものであるが、銅微粒子では、室温から150℃程度の低温領域においても酸化による変色が顕著である。また、金属微粒子をフィラーとして含む導電ペーストとしては、ペースト中の金属粉末を焼結させ、配線や電極等に使用する焼成ペーストと、硬化型のポリマーで固めるポリマーペーストとに大別されるが、いずれの場合でも150〜350℃の温度で熱処理が行われることが不可欠であり、この温度領域での耐酸化性に問題があった。特に、ポリマーペーストにおいては、硬化後に常温においても徐々に酸化が進行する。そのため、耐酸化性を向上させる手段が求められていた。
【0003】
このための手段として、酸化物被覆の金属微粒子が考えられる。例えば、熱プラズマに原料混合物を供給し、様々な金属微粒子上に様々な酸化物が被覆された酸化物被覆金属微粒子を得る方法として、平均厚みが1〜10nmの酸化物被覆層が、堅固に、かつ好ましくは全表面に完全に被覆された酸化物被覆金属微粒子が得られることが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この方法では、耐酸化性、金属光沢等についての記述がないため、金属微粒子本来の特性がどの程度維持されているか明らかではない。しかも、TEM像によると、粒子の凝集により、被覆層同士が一体化しており、粒度分布の制御が難しい。さらには、装置が高価であり、かつ、装置内壁への酸化物付着量が多いため、低コストで製造するのは困難であるという問題がある。
【0004】
また、酸化物被覆層中に貴金属等を含有させることにより、比抵抗を下げつつ、かつ耐酸化性を付与する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この方法では、製法も複雑であるため、低コストで製造するのは困難であるという問題がある。しかも、酸化物被覆層形成後の分散性については記載されていない。
【0005】
また、銅粉の表面に酸化銅あるいは亜酸化銅からなる無機物コート層を有し、さらにその外殻に酸化ケイ素等の種々の無機物コート層を有する銅粉が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。これによると、比較的低コストで酸化物被覆銅粉が製造される。酸化物被覆銅粉は優れた分散性を保っているが、酸化物第二層はハイブリタイザーを用いてメカノケミカル反応により被覆されており、極めて薄い膜を均一に被覆することが困難なため、金属光沢や良好な比抵抗を維持することは困難であると考えられる。例えば、用途としては低温焼成ペースト用を想定しており、粉体の耐酸化性、体積抵抗率等は調査されておらず、製造される酸化物被覆金属微粒子が金属微粒子の優れた特性を維持したまま耐酸化性を高めたものとなるか不明である。
【0006】
以上の状況から、導電ペースト用材料あるいは金属顔料として用いる酸化物被覆銅微粒子としては、耐酸化性が高く、かつ凝集のないものが好適であり、そのため、極めて薄く、かつ耐酸化性に優れた被覆層を有し、分散性に優れた酸化物被覆銅微粒子を低コストで製造する方法が求められている。
【0007】
【特許文献1】特開2000−219901号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献2】特開2004−179139号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献3】特開2005−154861号公報(第1頁、第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、銅の酸化されやすいという性質を緩和しつつ、電気伝導性、金属光沢等の優れた銅の性質を維持することができる、極めて薄く、かつ耐酸化性に優れた被覆層を有し、しかも分散性に優れた酸化物被覆銅微粒子を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、銅微粒子を含む水性懸濁液から、アルミニウム塩を含む水溶液を用いて、特定の条件によりpHを制御しながらアルミニウム水酸化物を主成分とする水酸化物からなる被覆層(c)を有する銅微粒子を形成する工程(A)、前記被覆層(c)を有する銅微粒子を固液分離して、乾燥処理に付す工程(B)、及び特定の条件で前記被覆層(c)を熱分解する工程(C)、を含む方法を用いたところ、工程(A)において、銅微粒子を被覆する水酸化物の生成を促進する作用がある酸素の供給を適切に制御することにより、極めて薄く均一な被覆層が得られ、これにより耐酸化性に優れた被覆層を有するとともに、該水性懸濁液のpH制御を、銅微粒子からなる芯粒子(a)と、被覆層(c)を有する銅微粒子の両者の等電点に基づいて行うことにより、銅微粒子の凝集を防止して、分散性に優れた酸化物被覆銅微粒子を製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、銅微粒子からなる芯粒子(a)と、芯粒子(a)の表面上に形成されたアルミニウム酸化物を主成分として含む酸化物からなる被覆層(b)とから構成される酸化物被覆銅微粒子の製造方法であって、
下記の工程(A)〜(C)を含むことを特徴とする酸化物被覆銅微粒子の製造方法が提供される。
工程(A):銅微粒子を含む水性懸濁液中に、不活性ガス雰囲気下に、該水性懸濁液のpHを4〜8に調整する第1区間とその後3〜7に調整する第2区間からなる2段階のpH制御に付されるように、アルミニウム塩を含む水溶液と過酸化水素水溶液との供給を調節して、アルミニウム水酸化物を主成分とする水酸化物からなる被覆層(c)を有する銅微粒子を形成する。
工程(B):前記工程(A)で形成した被覆層(c)を有する銅微粒子を固液分離した後、乾燥処理に付す。
工程(C):前記工程(B)で得た乾燥処理後の銅微粒子を還元雰囲気下に加熱処理に付し、前記被覆層(c)を熱分解する。
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記工程(A)において、前記アルミニウム塩を含む水溶液と過酸化水素水溶液との供給は、両者を同時に供給することを特徴とする酸化物被覆銅微粒子の製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記工程(A)において、前記アルミニウム塩を含む水溶液と過酸化水素水溶液との供給は、前記第1区間でアルミニウム塩を含む水溶液のみを、及び前記第2区間でアルミニウム塩を含む水溶液と過酸化水素水溶液とを同時に供給することを特徴とする酸化物被覆銅微粒子の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3いずれかの発明において、前記銅微粒子を含む水性懸濁液は、銅微粒子を銅濃度で0.01〜5mol/L含有することを特徴とする酸化物被覆銅微粒子の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4いずれかの発明において、前記工程(A)において、被覆層(c)の形成量は、銅微粒子の単位表面積当たりのアルミニウムの析出量が0.1×10−4〜0.1×10−2mol/mとなるように調整することを特徴とする酸化物被覆銅微粒子の製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第6の発明によれば、第5の発明において、前記工程(A)において、被覆層(c)の形成量は、最終的に得られる酸化物被覆銅微粒子の銅の含有量に対するアルミニウムの含有量の組成割合が0.1〜1.5質量%となるように調整することを特徴とする酸化物被覆銅微粒子の製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6いずれかの発明において、前記工程(A)において、過酸化水素水溶液の供給速度は、過酸化水素分で芯粒子の単位面積当たり0.1×10−5〜2.0×10−5mol/分であることを特徴とする酸化物被覆銅微粒子の製造方法が提供される。
【0017】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜7いずれかの発明において、前記工程(A)において、前記アルミニウム塩を含む水溶液は、さらにアルカリを含むことを特徴とする酸化物被覆銅微粒子の製造方法が提供される。
【0018】
また、本発明の第9の発明によれば、第8の発明において、前記アルカリは、尿素であることを特徴とする酸化物被覆銅微粒子の製造方法が提供される。
【0019】
また、本発明の第10の発明によれば、第1〜9いずれかの発明において、前記工程(A)において、前記アルミニウム塩を含む水溶液は、30〜100℃の温度で加熱処理に付されていることを特徴とする酸化物被覆銅微粒子の製造方法が提供される。
【0020】
また、本発明の第11の発明によれば、第1〜10いずれかの発明において、前記アルミニウム塩は、硫酸アルミニウム又は硝酸アルミニウムであることを特徴とする酸化物被覆銅微粒子の製造方法。
【0021】
また、本発明の第12の発明によれば、第1〜11いずれかの発明において、前記工程(A)において、前記銅微粒子を含む懸濁液中に、ヘキサメタリン酸ナトリウムを添加することを特徴とする酸化物被覆銅微粒子の製造方法が提供される。
【0022】
また、本発明の第13の発明によれば、第1〜12いずれかの発明において、前記工程(C)において、加熱処理の温度は、180〜330℃であることを特徴とする酸化物被覆銅微粒子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明の製造方法によれば、銅の酸化されやすいという性質を緩和しつつ、電気伝導性、金属光沢等の優れた銅の性質を維持することができる、極めて薄く、かつ耐酸化性に優れた被覆層を有し、分散性に優れた酸化物被覆銅微粒子を製造することができ、得られた酸化物被覆銅微粒子は、導電ペースト用材料あるいは金属顔料として好適であり、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の酸化物被覆銅微粒子の製造方法を詳細に説明する。
本発明の酸化物被覆銅微粒子の製造方法は、銅微粒子からなる芯粒子(a)と、芯粒子(a)の表面上に形成されたアルミニウム酸化物を主成分として含む酸化物からなる被覆層(b)とから構成される酸化物被覆銅微粒子の製造方法であって、下記の工程(A)〜(C)を含むことを特徴とする。
工程(A):銅微粒子を含む水性懸濁液中に、不活性ガス雰囲気下に、該水性懸濁液のpHを4〜8に調整する第1区間とその後3〜7に調整する第2区間からなる2段階のpH制御に付されるように、アルミニウム塩を含む水溶液と過酸化水素水溶液との供給を調節して、アルミニウム水酸化物を主成分とする水酸化物からなる被覆層(c)を有する銅微粒子を形成する。
工程(B):前記工程(A)で形成した被覆層(c)を有する銅微粒子を固液分離した後、乾燥処理に付す。
工程(C):前記工程(B)で得た乾燥処理後の銅微粒子を還元雰囲気下に加熱処理に付し、前記被覆層(c)を熱分解する。
【0025】
本発明において、特に、工程(A)で、下記の(イ)及び(ロ)の要件が重要である。
(イ):銅微粒子を含む水性懸濁液中に、不活性ガス雰囲気下に、アルミニウム塩を含む水溶液と過酸化水素水溶液とを供給して、銅微粒子上にアルミニウム水酸化物を主成分とする水酸化物からなる被覆層を形成する。
(ロ):その際、該水性懸濁液のpHを4〜8に調整する第1区間とその後3〜7に調整する第2区間からなる2段階のpH制御に付されるように、アルミニウム塩を含む水溶液と過酸化水素水溶液との供給を調節する。
【0026】
すなわち、(イ)の要件により、銅微粒子からなる芯粒子(a)と、芯粒子(a)の表面上に形成されたアルミニウム酸化物を主成分として含む酸化物からなる被覆層(b)とから構成される酸化物被覆銅微粒子が得られるが、後述するように、銅微粒子を被覆する水酸化物の生成を促進する作用がある酸素の供給を適切に制御することにより、極めて薄く均一な被覆層が得られるので、耐酸化性に優れた被覆層を有する酸化物被覆銅微粒子を製造することができる。これにより、電気伝導性、金属光沢等の優れた銅微粒子の性質を維持することができる。また、(ロ)の要件により、後述するように、前記被覆層(c)を有する銅微粒子の分散性が改善されるので、分散性に優れた酸化物被覆銅微粒子を製造することができる。
【0027】
1.工程(A)
上記工程(A)は、銅微粒子を含む水性懸濁液中に、不活性ガス雰囲気下に、該水性懸濁液のpHを4〜8に調整する第1区間とその後3〜7に調整する第2区間からなる2段階のpH制御に付されるように、アルミニウム塩を含む水溶液(以下、コート液と呼称する場合がある。)と過酸化水素水溶液との供給を調節して、アルミニウム水酸化物を主成分とする水酸化物からなる被覆層(c)を有する銅微粒子を形成する工程である。
【0028】
ここで、前記水性懸濁液の2段階のpH制御と、コート液と過酸化水素水溶液の供給の調節との関係について説明する。
上記工程(A)において、水性懸濁液のpHを4〜8に調整する第1区間とその後3〜7に調整する第2区間からなる2段階のpH制御に付されるように、コート液と過酸化水素水溶液との供給を調節する。ここで、水性懸濁液のpH制御としては、銅微粒子からなる芯粒子(a)と、被覆層(c)を有する銅微粒子の両者の等電点に基づいて行うことにより、これら銅微粒子の凝集を防止して、分散性に優れた酸化物被覆銅微粒子を製造することができる。
【0029】
すなわち、懸濁液中において微粒子は、溶媒と粒子によって固有の等電点において当該微粒子が凝集することが知られており、等電点とならない範囲にpHを制御することにより、電気化学的な凝集を排除することができる。なお、銅微粒子からなる芯粒子(a)と、工程(A)で得られるアルミニウム水酸化物を主成分とする水酸化物からなる被覆層(c)を有する銅微粒子の両者のゼータ電位を、試料を純水中に分散させ、硫酸(HSO)で酸性側に、水酸化ナトリウム(NaOH)を用いてアルカリ側にpHを調整して、コロイド振動電流法(Dispersion Technology社製、DT−200)で測定した結果、銅微粒子からなる芯粒子(a)の等電点は、pH3〜4、及びアルミニウム水酸化物を主成分とする水酸化物からなる被覆層(c)を有する銅微粒子の等電点は、pH7〜8であった。
【0030】
そのため、上記工程(A)において、銅微粒子からなる芯粒子(a)を含む水性懸濁液では、pH3〜4の領域を避けることにより、芯粒子(a)の凝集を抑制することができる。また、コート液と過酸化水素水溶液添加により、被覆層(c)を有する銅微粒子が形成した後、この銅微粒子を含む水性懸濁液では、pH7〜8の領域を避けることにより、被覆層(c)を有する銅微粒子の凝集を抑制することができる。なお、等電点範囲の境界付近のpHでは、微粒子の凝集力が弱く、凝集の問題は実質的に生じないので、例えば、上記工程(A)における前記水性懸濁液のpHを一貫して3未満にすることにより、両者の等電点を避けることができるが、pH3未満では芯粒子(a)の銅の溶出が多くなり好ましくない。
【0031】
したがって、水性懸濁液のpHを4〜8に調整する第1区間とその後3〜7に調整する第2区間からなる2段階のpH制御に付されることが肝要である。なお、銅微粒子からなる芯粒子(a)を含む水性懸濁液は中性(pH:6〜8)であり、pH制御は、酸性であるコート液又は過酸化水素水溶液の添加により行われる。ここで、第1区間の調整は、水性懸濁液のpHを前記芯粒子(a)の等電点より高い4以上として、芯粒子(a)の表面にアルミニウム水酸化物を主成分とする水酸化物からなる被覆層(c)が薄く形成されるまでの間とする。一方、第1区間の水性懸濁液のpHの上限としては、使用される水性懸濁液のpHに伴い、6〜8である。また、第2区間の調整は、被覆層(c)が形成されると等電点がpH7〜8となるので、水性懸濁液のpHを7以下に制御する。なお、pH3未満では、前述のように銅の溶出が問題となる。
【0032】
上記水性懸濁液の2段階のpH制御は、コート液と過酸化水素水溶液の供給の調節により行われる。上記銅微粒子を含む水性懸濁液中に、コート液と過酸化水素水溶液の供給する際の手段としては、特に限定されるものではないが、下記の(ハ)又は(ニ)の手段を採用することが好ましい。
(ハ)の手段:コート液と過酸化水素水溶液の両者を同時に供給する。
(ニ)の手段:前記第1区間では、コート液のみを、次いで前記第2区間では、コート液と過酸化水素水溶液とを同時に供給する。
【0033】
すなわち、前記コート液及び前記過酸化水素水溶液は、ともに酸性を示すため、通常、該コート液又は該過酸化水素水溶液の添加によりpHが添加前より上昇することはなく、これらを全量添加した後では、前記懸濁液のpHは3.5〜4.5を示す。このpHは、被覆層(c)が形成された銅微粒子の等電点である7〜8より低く、被覆層(c)が形成された銅微粒子が凝集することはない。しかしながら、銅微粒子からなる芯粒子(a)を含む水性懸濁液中へ、過酸化水素水溶液の添加前に、コート液の必要量の全量を添加するときには、反応により生成する硫酸が消費されないため、該水性懸濁液のpHが3〜4となり、該芯粒子(a)の等電点と等しいため、被覆層(c)が形成されていない芯粒子(a)は凝集してしまう。
【0034】
したがって、(ハ)の手段により、コート液と過酸化水素水溶液の両者を同時に供給し、pHが4未満に低下する前に、該芯粒子(a)の上に被覆層(c)を形成することが好ましい。すなわち、まず、芯粒子(a)の等電点であるpH3〜4の状態を避けるため、前記水性懸濁液のpHが添加前の7程度から4〜5となるまで、コート液と過酸化水素水溶液を同時に添加して芯粒子(a)表面に被覆層(c)を形成させ、その後、残りのコート液と過酸化水素水溶液を添加することにより、等電点による凝集を回避できる。
【0035】
または、(ニ)の手段により、前記第1区間では、pHを4〜5に制御しながらコート液のみを供給し、次いで前記第2区間では、コート液と過酸化水素水溶液とを同時に供給する。すなわち、コート液のみを先に供給する場合は、コート液の供給によってpHが急激に低下するため、少量添加して前記pHを4〜5に、より好ましくは4.0〜4.5に制御した後、コート液と過酸化水素水溶液とを同時に供給することで、芯粒子(a)表面に被覆層(c)を形成させて等電点による凝集を回避できる。
【0036】
なお、過酸化水素水溶液をコート液よりも先に供給し、その後にコート液を供給する手段で、コート液の供給によりpH及び反応速度を制御することは可能であるが、芯粒子(a)の酸化を考慮すると、過酸化水素水溶液を後から供給することが好ましい。すなわち、後から過酸化水素水溶液を供給することによって、水酸化反応の起点である過酸化水素水溶液の供給速度を制御して、反応自体の制御が可能となる。例えば、過酸化水素水溶液を小さな速度で供給することにより、自発的核生成を抑制し、芯粒子(a)上に効率良く被覆層を生成させることが可能となる。
【0037】
上記水性懸濁液中に含まれる銅微粒子量は、銅濃度で0.01〜5mol/Lとすることが好ましい。銅濃度は0.01〜3mol/Lがより好ましく、特に、0.01〜1mol/Lが好ましい。すなわち、0.01mol/L未満では生産性が悪く、一方、5mol/Lを超えると、銅微粒子が沈降して均一な被覆層が得られない。上記水性懸濁液に用いる水は、不純物混入防止の観点から、純水とすることが好ましい。
【0038】
上記コート液としては、酸化物被覆銅微粒子を被覆するに十分な量のアルミニウム塩を含むものとすることが必要である。例えば、前記コート液中のアルミニウム塩の濃度は、特に限定されるものではないが、0.007〜0.14mol/Lが好ましい。ここで、アルミニウム塩は被覆剤として用いられる。
【0039】
上記コート液としては、アルミニウム塩に加えて、さらに必要に応じて、アルカリを含むことができる。ここで、アルカリの添加によりコート液中のアルミニウム塩の水酸化を効率的に進めることができる。なお、アルカリの添加後に得られるコート液は、透明であり微粒子の晶出は認められない。前記アルカリとしては、尿素が好ましく、尿素の添加量としては、特に限定されるものではないが、0.3mol/L以下が好ましい。
【0040】
また、上記コート液は、銅微粒子を含む水性懸濁液中に供給する前に、30〜100℃の温度で加熱処理することが好ましい。加熱により、コート液中のアルミニウム塩の水酸化を効率的に進めることができる。なお、加熱後に得られるコート液は透明であり、微粒子の晶出は認められない。
【0041】
上記コート液で用いるアルミニウム塩としては、特に限定されるものではないが、安価で入手が容易な硫酸アルミニウム又は硝酸アルミニウムが好ましい。
上記工程(A)において、芯粒子として用いる銅微粒子を含む水性懸濁液中に、上記コート液、過酸化水素水溶液を供給する際に、不活性ガス雰囲気下に行う。例えば、銅微粒子を含む水性懸濁液内、又は該水性懸濁液を挿入した容器内に、窒素ガス又はアルゴンガス等の希ガスからなる不活性ガスを導入しながら、液中の酸素除去と攪拌時の空気の巻き込み防止して、水性懸濁液中を不活性ガス雰囲気に保持し、上記コート液と過酸化水素水溶液とを供給する。すなわち、ここでは、水性懸濁液中を不活性ガス雰囲気下に保ち、かつ過酸化水素により水酸化反応に関与する酸素を供給することが肝要である。
【0042】
すなわち、不活性ガスを導入しない場合は、攪拌により空気中の酸素が水性懸濁液中に取り込まれ、これが反応に寄与するものと考えられ、過酸化水素水溶液を供給しなくてもアルミニウム塩の水酸化が進行し、銅微粒子上にアルミニウム水酸化物の被覆層が形成される。一方、不活性ガスを導入する場合には、通常、銅微粒子上にアルミニウム水酸化物の被覆層が形成されないが、過酸化水素水溶液を供給することにより、過酸化水素水溶液から分解生成する酸素が、下記の化学反応式(1)、(2)によるアルミニウム水酸化物の被覆層の形成に寄与すると考えられる。
【0043】
化学反応式(1):Al(SO+6HO=2Al(OH)+3HSO
化学反応式(2):Cu+(O)+HSO=CuSO
【0044】
ここで、化学反応式(2)から、過酸化水素水の分解により生成した酸素(O)が芯粒子であるCuを酸化し、HSOと反応する状態となる。その結果、CuSOが生成して、化学反応式(2)の反応が左から右に進行する。その結果、HSOが消費されるので、化学反応式(1)の反応において、ルシャトリエの平衡により、アルミニウム水酸化物の生成反応が進行するものと考えられる。なお、原料が硝酸アルミニウムの場合は式(1)、(2)のHSOがHNOに、式(2)のCuSOがCu(NOになる。
【0045】
ところで、不活性ガスを導入しない場合は、化学反応式(2)による芯粒子である銅粒子の酸化は、攪拌条件により溶液に取り込まれる酸素量に依存するため、化学反応式(1)による水酸化に必要な量以上の酸化が進行するおそれがある。しかしながら、本発明の方法では、不活性ガスを導入し、かつ過酸化水素を酸化に用いることにより、銅の酸化を容易に制御することができる。さらに、過酸化水素の供給量によって、銅の酸化を制御してアルミニウム水酸化物の被覆層の量、すなわち、被覆層(c)の形成量を容易に制御することができる。
また、前記コート液と過酸化水素水溶液を供給する方法において、過酸化水素水溶液を小さな速度で供給することにより、自発的核生成を抑制し、芯粒子(a)上に効率良く被覆層を生成させることが可能となる。
【0046】
なお、化学反応式(1)に示すように、アルミニウム水酸化物を形成するための水酸基は水から供給される。このため、上記工程(A)において用いる銅微粒子と水の重量比としては、特に限定されるものではなく、水酸基を供給するのに十分な水があればよい
【0047】
以上のような方法により被覆の速度を制御して緩やかにした場合、銅微粒子同士の接触部の被覆層による連結も緩やかに進む。したがって、粒子の等電点を避けて芯粒子(a)の分散を十分に行い、かつ、水性懸濁液の攪拌を十分に行うことにより、撹拌時の確率論的な接触による連結が破壊され、芯粒子(a)と同程度の粒度分布を持った被覆粒子を得ることができる。しかしながら、過酸化水素水溶液を事前に供給する場合には、コート液の供給速度が大きすぎる場合には、連結が顕著になる恐れがある。また、コート液の供給後に過酸化水素水溶液を供給する場合でも、この供給速度が大きすぎる場合も同様に連結が顕著になる恐れがある
【0048】
したがって、上記被覆の速度を制御して緩やかにした場合、上記過酸化水素水溶液の供給速度としては、過酸化水素(H)分で芯粒子の表面積当たり、0.1×10−5〜2.0×10−5mol/(m・分)とすることが好ましく、0.1×10−5〜0.6×10−5mol/(m・分)以下とすることがより好ましい。すなわち、この供給速度が、0.1×10−5mol/(m・分)未満では、生産性が悪い。一方、2.0×10−5mol/(m・分)を超えると、アルミニウム水酸化物が溶媒中に単独で析出する恐れがある。
また、上記過酸化水素水溶液の濃度としては、特に限定されるものではないが、芯粒子の酸化を抑制し、かつ反応を均一化するために0.01〜0.5質量%とすることが好ましい。
【0049】
上記工程(A)で形成された被覆層(c)を有する銅微粒子の被覆層(c)の形成量としては、特に限定されるものではないが、銅微粒子の単位表面積当たりのアルミニウムの析出量が0.1×10−4〜0.1×10−2mol/mとなるように、過酸化水素の供給量によって、銅の酸化を制御してアルミニウム水酸化物の被覆層の量を制御することが好ましい。
さらに、最終的に生成される酸化物被覆銅微粒子のアルミニウム品位と銅品位から、(アルミニウム品位/銅品位)×100なる算出式で求められる酸化物被覆銅微粒子の銅の含有量に対するアルミニウムの含有量の組成割合が0.1〜1.5質量%となるようにアルミニウム水酸化物の被覆層の量を制御することがより好ましい。すなわち、銅に対するアルミニウムの組成割合が0.1×10−4未満では、被覆層が薄くなりすぎるため、耐酸化性の向上効果が不十分である。一方、この組成割合が0.1×10−2mol/mを超えると、耐酸化性の効果は増大するが、銅特有の有色金属光沢が低減する場合がある。すなわち、前記組成割合が0.1〜1.5質量%となるように制御することで、耐酸化性をより向上させるとともに銅特有の有色金属光沢を得ることができる。
【0050】
上記工程(A)で用いる銅微粒子に対する過酸化水素の供給割合としては、特に限定されるものではなく、酸化物被覆銅微粒子中の銅に対するアルミニウムの組成割合、すなわち、被覆層(c)の形成量を所望の範囲にするように制御するが、例えば、用いる銅微粒子の全量に対して0.1〜4.5mol%とすることが好ましい。
一方、用いる銅微粒子の表面積当たりでは、0.0015mol/m以下とすることが好ましい。すなわち、0.0015mol/mを超えると、酸化による変色が起こるおそれがある。
【0051】
上記工程(A)で用いる銅微粒子としては、工業的に製造される純度のものが用いられる。一般的に得られる銅粒子であればその形状は問われないが、メタリック塗料用の金属顔料として用いる場合には、広い平滑面を有した板状の形状が好ましい。ここで、その平均粒径としては、特に限定されるものでないが、球状銅微粒子では、0.5〜10μmが好ましく、1〜3μmがより好ましい。また、板状銅微粒子では、0.5〜30μmが好ましい。すなわち、上記銅微粒子の平均粒径が0.5μm未満であると、被覆層の反応速度を制御しても銅微粒子が凝集することがある。一方、球状銅微粒子では平均粒径が10μmを超えた場合、又は板状銅微粒子では平均粒径が30μmを超えた場合に、銅微粒子が沈降して均一な被覆層が得られないことがある。
【0052】
上記工程(A)において、銅微粒子を含む水性懸濁液中の粒子の分散性を向上させるために、特に限定されるものではないが、ヘキサメタリン酸ナトリウムを添加することができる。これにより、ビーカー等の反応容器内壁へのアルミニウム水酸化物の付着も減少するので操作上も好ましい。なお。ヘキサメタリン酸ナトリウムの添加量としては、水に対して0.01〜0.2質量%が好ましく、特に、0.01〜0.1質量%が好ましい。すなわち、0.01質量%未満では、粒子の分散性の向上効果が不十分であり、一方、0.2質量%を超えると、それ以上の効果の向上がみられず、芯粒子(a)へのアルミニウム水酸化物の吸着を阻害する場合がある。
【0053】
2.工程(B)
工程(B)は、上記工程(A)で形成した被覆層(c)を有する銅微粒子を固液分離した後、乾燥処理に付す工程である。ここで、固液分離の方法としては、特に限定されるものではなく、通常のろ過方法が用いられる。また、乾燥処理の方法としては、特に限定されるものではないが、特に金属光沢が必要とされる場合、通常の真空乾燥機等により非酸化性雰囲気下に100℃以下の温度で水分を除去する方法を用いることが好ましい。
【0054】
3.工程(C)
工程(C)は、上記工程(B)で得た乾燥処理後の銅微粒子を還元雰囲気下に加熱処理に付し、前記被覆層(c)を熱分解する工程である。これによって、銅微粒子からなる芯粒子(a)と、該芯粒子を被覆するアルミニウム酸化物を主成分として含む酸化物からなる被覆層(b)とから構成される酸化物被覆銅微粒子が得られる。
【0055】
ここで、還元雰囲気下で熱処理することが好ましい。すなわち、大気又は不活性ガス雰囲気下で熱処理すると、大気中の酸素及びアルミニウム水酸化物から発生する水蒸気中の酸素により銅が酸化され意匠低下の原因となる。また、加熱温度としては、180〜330℃の範囲が望ましく、特に250〜300℃であることがさらに好ましい。すなわち、温度が180℃未満では、アルミニウム水酸化物の分解及び脱水反応が不十分であり、顔料として用いる際に酸化による意匠の変化が大きくなる可能性がある。一方、温度が330℃を超えると、被覆層水酸化物の分解時に膜の連続性が損なわれる場合があり、耐酸化性に劣る粒子となることがある。
【0056】
以上の製造方法により、層厚が均一な連続膜からなるアルミニウム酸化物を主成分として含む酸化物からなる被覆層と銅微粒子からなる酸化物被覆銅微粒子が得られる。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた芯粒子(a)の比表面積、平均粒径、AlおよびCuの分析、ならびに耐酸化性の評価方法は、以下の通りである。
(1)芯粒子(a)の比表面積:BET多点法により測定した。
(2)芯粒子(a)の平均粒径:レーザー光回折散乱式粒度分析計で測定したメディアン径D50を平均粒径とした。
(3)AlおよびCuの分析:ICP発光分析法で行った。
(4)耐酸化性の評価:TG測定を大気気流中で5℃/分で160℃まで加熱し、160℃で30分保持した場合の、最小重量と最大重量の差の初期重量に対する割合(以下、この値を重量増加率と称する。)を求めた。
【0058】
(実施例1)
コート液の製造は、Al(SO濃度0.07mol/Lで硫酸アルミニウムを、同時に尿素濃度18g/Lで尿素を含む純水からなる水溶液を、0.1μmのメンブレンフィルターで吸引濾過しゴミを取り除いた後、ポリプロピレン製の容器に入れ、オーブン中で、50℃で2時間保持して行った。
まず、原料銅粉として用いた比表面積1.2m/g及び平均粒径11.0μmの板状の銅微粒子9gと、純水700mLと、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.14gとからなる水性懸濁液(銅微粒子濃度0.20mol/L)をセパラブルフラスコ内に作製した。このとき、前記水性懸濁液のpHは、7.6であった。
次に、前記水性懸濁液を、攪拌機を用いて400rpmで攪拌しながら、前記コート液98mLを0.6mL/分の速度で添加すると同時に、0.12質量%の過酸化水素水溶液を0.6mL/分の速度(芯粒子の単位面積当たりの過酸化水素供給速度に換算すると、0.2×10−5mol/m・分)で、136mL供給した(芯粒子の単位面積当たりの過酸化水素の供給量に換算すると、0.0005mol/m)。前記水性懸濁液のpHは、7.6であり、前記コート液および前記過酸化水素水溶液の供給開始により4.3〜4.5まで急激に低下し、その後、前記コート液および前記過酸化水素水溶液の供給終了後のpHは、3.9となった。供給終了後30分保持した後、吸引ろ過し、真空乾燥機により60℃で乾燥して、水酸化物被覆銅微粒子を得た。なお、コート液や過酸化水素水溶液を供給する間、水性懸濁液を窒素ガスでバブリングし、液中の酸素除去と攪拌時の空気の巻き込み防止を行った。
次いで、乾燥後の水酸化物被覆銅微粒子を、水素0.2L/分、及び窒素9.8L/分(水素0.1L/分、及び窒素4.9L/分)を流した混合雰囲気中で5℃/分の速度で200℃まで昇温し、3.5時間保持した後、80℃まで炉内で冷却して、酸化物被覆銅微粒子を得た。
その後、得られた酸化物被覆銅微粒子のAlおよびCu品位の分析及び粒径の評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例2)
原料銅粉として用いた比表面積1.6m/g及び平均粒径14.1μmの板状の銅微粒子36gと、純水2800mLと、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.56gとからなる水性懸濁液(銅微粒子濃度0.20mol/L)を作製したこと、前記コート液を3.0mL/分の速度で、前記懸濁液のpHが4.0となるまで供給し、pH4.0でコート液の供給を一旦停止し、30分保持した後、前記コート液を9.0mL/の速度で合計で385mL供給すると同時に、前記過酸化水素水溶液を9.0mL/分の速度(芯粒子の単位面積当たりの過酸化水素供給速度に換算すると、0.6×10−5mol/m・分)で720mL供給した(芯粒子の単位面積当たりの過酸化水素の供給量に換算すると、0.0005mol/m)こと以外は、実施例1と同様にして酸化物被覆銅粉を得た。前記水性懸濁液のpHは、7.5であり、前記コート液および前記過酸化水素水溶液の供給終了後の前記水性懸濁液のpHは、3.9となった。
その後、得られた酸化物被覆銅微粒子のAlおよびCu品位の分析及び粒径の評価結果を表1に示す。
【0060】
(比較例1)
原料銅粉として用いた比表面積1.2m/g及び平均粒径11.0μmの板状の銅微粒子18gと、純水1400mLと、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.28gとからなる水性懸濁液(銅微粒子濃度0.20mol/L)を作製したこと、前記コート液194mLを一括供給した後、前記過酸化水素水溶液を1.0mL/分の速度(芯粒子の単位面積当たりの過酸化水素供給速度に換算すると、0.2×10−5mol/m・分)で、360mL供給した(芯粒子の単位面積当たりの過酸化水素の供給量に換算すると、0.0007mol/m)こと以外は、実施例1と同様にして酸化物被覆銅粉を得た。前記コート液供給後の前記水性懸濁液のpHは3.7であり、前記過酸化水素水溶液供給終了後の前記水性懸濁液のpHは4.0となった。
その後、得られた酸化物被覆銅微粒子のAlおよびCu品位の分析、及び粒径の評価結果を表1に示す。
【0061】
(比較例2)
原料銅粉として用いた比表面積1.8m/g及び平均粒径15.2μmの板状の銅微粒子4gと、純水67mLと、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.01gとからなる水性懸濁液(銅微粒子濃度0.94mol/L)を作製したこと、前記コート液42mLを一括供給した後、前記過酸化水素水溶液を0.6mL/分の速度(芯粒子の単位面積当たりの過酸化水素供給速度に換算すると、0.3×10−5mol/m・分)で、49mL供給した(芯粒子の単位面積当たりの過酸化水素の供給量に換算すると、0.0003mol/m)こと、乾燥後の水酸化物被覆銅微粒子を10℃/分の速度で290℃まで昇温したこと以外は、実施例1と同様にして酸化物被覆銅粉を得た。前記コート液供給後の前記水性懸濁液のpHは3.5であり、前記過酸化水素水溶液供給終了後の前記水性懸濁液のpHは4.0となった。
その後、得られた酸化物被覆銅微粒子のAlおよびCu品位の分析、及び粒径の評価結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1より、実施例1又は2では、銅微粒子を含む水性懸濁液中に、アルミニウム塩を含む水溶液と過酸化水素水溶液との供給して、アルミニウム水酸化物を主成分とする水酸化物からなる被覆層(c)を有する銅微粒子を形成し、得られた銅微粒子を固液分離した後、乾燥処理に付し、乾燥処理後の銅微粒子を加熱処理に付すことにより、本発明の条件にしたがって行なわれたので、得られた酸化物被覆銅微粒子の重量増加率が低く、優れた耐酸化性を有していること、また平均粒径は、原料の銅粉と同程度であり、凝集が抑制されており、分散性が優れていることが分かる。これに対して、比較例1又は2では、水性懸濁液中へコート液を一括供給したため、アルミニウム水酸化物を主成分とする水酸化物からなる被覆層(c)が芯粒子(a)上に形成される前に、懸濁液のpHが4.0未満にまで低下したため、得られた酸化物被覆銅微粒子の平均粒径が原料の銅粉より大幅に大きく、酸化物被覆銅微粒子が凝集していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の酸化物被覆銅微粒子の製造方法により、酸化物被覆層を均一に、かつ良好な分散状態で形成することができるので、得られる酸化物被覆銅微粒子は、金属光沢を有するとともに耐酸化性に優れ、しかも分散性に優れているので、金属微粒子を用いる回路形成等の電子部品用の導電ペースト、及び金属光沢性顔料分野で好適に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅微粒子からなる芯粒子(a)と、芯粒子(a)の表面上に形成されたアルミニウム酸化物を主成分として含む酸化物からなる被覆層(b)とから構成される酸化物被覆銅微粒子の製造方法であって、
下記の工程(A)〜(C)を含むことを特徴とする酸化物被覆銅微粒子の製造方法。
工程(A):銅微粒子を含む水性懸濁液中に、不活性ガス雰囲気下に、該水性懸濁液のpHを4〜8に調整する第1区間とその後3〜7に調整する第2区間からなる2段階のpH制御に付されるように、アルミニウム塩を含む水溶液と過酸化水素水溶液との供給を調節して、アルミニウム水酸化物を主成分とする水酸化物からなる被覆層(c)を有する銅微粒子を形成する。
工程(B):前記工程(A)で形成した被覆層(c)を有する銅微粒子を固液分離した後、乾燥処理に付す。
工程(C):前記工程(B)で得た乾燥処理後の銅微粒子を還元雰囲気下に加熱処理に付し、前記被覆層(c)を熱分解する。
【請求項2】
前記工程(A)において、前記アルミニウム塩を含む水溶液と過酸化水素水溶液との供給は、両者を同時に供給することを特徴とする請求項1に記載の酸化物被覆銅微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記工程(A)において、前記アルミニウム塩を含む水溶液と過酸化水素水溶液との供給は、前記第1区間でアルミニウム塩を含む水溶液のみを、及び前記第2区間でアルミニウム塩を含む水溶液と過酸化水素水溶液とを同時に供給することを特徴とする請求項1に記載の酸化物被覆銅微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記銅微粒子を含む水性懸濁液は、銅微粒子を銅濃度で0.01〜5mol/L含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物被覆銅微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記工程(A)において、被覆層(c)の形成量は、銅微粒子の単位表面積当たりのアルミニウムの析出量が0.1×10−4〜0.1×10−2mol/mとなるように調整することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物被覆銅微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記工程(A)において、被覆層(c)の形成量は、最終的に得られる酸化物被覆銅微粒子の銅の含有量に対するアルミニウムの含有量の組成割合が0.1〜1.5質量%となるように調整することを特徴とする請求項5に記載の酸化物被覆銅微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記工程(A)において、過酸化水素水溶液の供給速度は、過酸化水素分で芯粒子の表面積当たり0.1×10−5〜2.0×10−5mol/(m・分)であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の酸化物被覆銅微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記工程(A)において、前記アルミニウム塩を含む水溶液は、さらにアルカリを含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかにに記載の酸化物被覆銅微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記アルカリは、尿素であることを特徴とする請求項8に記載の酸化物被覆銅微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記工程(A)において、前記アルミニウム塩を含む水溶液は、30〜100℃の温度で加熱処理に付されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の酸化物被覆銅微粒子の製造方法。
【請求項11】
前記アルミニウム塩は、硫酸アルミニウム又は硝酸アルミニウムであることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の酸化物被覆銅微粒子の製造方法。
【請求項12】
前記工程(A)において、前記銅微粒子を含む懸濁液中に、ヘキサメタリン酸ナトリウムを添加することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の酸化物被覆銅微粒子の製造方法。
【請求項13】
前記工程(C)において、加熱処理の温度は、180〜330℃であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の酸化物被覆銅微粒子の製造方法。

【公開番号】特開2010−144208(P2010−144208A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321802(P2008−321802)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】