説明

酸化物超電導体通電素子及びその製造方法

【課題】冷却時や加熱時での耐久性に優れた酸化物超電導体通電素子及びその製造方法を提供できるようにする。
【解決手段】酸化物超電導体と、前記酸化物超電導体の両端に電気的に接合された電極端子と、前記酸化物超電導体に熱硬化型樹脂により接着された支持体とからなることを特徴とし、また、その製造方法として、前記酸化物超電導体と前記支持体とを接着する樹脂を50℃以上の温度にして硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電流リードや限流器、永久電流スイッチ等に使用する酸化物超電導体を用いた酸化物超電導体通電素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物超電導体は、電気抵抗がゼロで大電流を流せるので、電流リードや限流器、永久電流スイッチ等の通電素子に用いられる。酸化物超電導体を用いた通電素子は、主に酸化物超電導体と、半田等で酸化物超電導体の両端に電気的に接続された電極端子と、樹脂等で酸化物超電導体に接着された支持体とから構成される。このような酸化物超電導体通電素子は、使用時には、液体窒素温度やそれ以下の温度に冷却される。
【0003】
一方、酸化物超電導体通電素子を装置に取り付ける際には、接触部の電気抵抗を極力小さくするために電極端子を半田付けで外部取付端子に接続するので、酸化物超電導体通電素子は半田が溶融する温度以上、一般には50℃以上に加熱される。即ち、酸化物超電導体通電素子は、冷却だけでなく、加熱もされ、構成部材間の熱膨張率差による熱応力が生じる。このような熱応力を低減する手段として、例えば特許文献1には、支持部材の線膨張係数は、酸化物超電導体の線膨張係数にできるだけ近いことが好ましいと記載されており、支持体の熱膨張率を酸化物超電導体の熱膨張率にできるだけ近くすることが提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平4−218215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸化物超電導体通電素子が、酸化物超電導体と支持体との2つから構成される場合には、支持体の熱膨張率を酸化物超電導体の熱膨張率にできるだけ近くすることにより、冷却や加熱時の熱応力を小さくすることは可能である。しかし、酸化物超電導体通電素子が、酸化物超電導体と支持体と電極端子との3つから構成される場合には、支持体の熱膨張率を酸化物超電導体の熱膨張率に近づけただけでは、熱応力は小さくできず、冷却時や加熱時に酸化物超電導体が破損するという問題点があった。
【0006】
本発明は前述の問題点に鑑み、冷却時や加熱時での耐久性に優れた酸化物超電導体通電素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の酸化物超電導体通電素子は、酸化物超電導体と、前記酸化物超電導体の両端に電気的に接合された電極端子と、前記酸化物超電導体に熱硬化型樹脂により接着された支持体とからなることを特徴とする。
また、本発明の酸化物超電導体通電素子の他の特徴とするところは、前記支持体の熱膨張率の絶対値が、前記酸化物超電導体の熱膨張率の絶対値よりも大きいことである。
また、本発明の酸化物超電導体通電素子のその他の特徴とするところは、前記支持体が前記酸化物超電導体の両側あるいは周囲に前記熱硬化型樹脂により接着されてなることである。
また、本発明の酸化物超電導体通電素子のその他の特徴とするところは、前記熱硬化型樹脂の硬化温度が50℃以上であることである。
また、本発明の酸化物超電導体通電素子のその他の特徴とするところは、前記酸化物超電導体が、単結晶状のREBa2Cu3x相(REはY又は希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)中にRE2BaCuO5相が微細分散した酸化物超電導体であることである。
【0008】
本発明の酸化物超電導体通電素子の製造方法は、前記のいずれかに記載の酸化物超電導体通電素子を製造するための製造方法であって、電極端子を接続した酸化物超電導体と支持体とを熱硬化型樹脂を介して積層した後、前記熱硬化型樹脂を50℃以上の温度に加熱して前記酸化物超電導体と前記支持体とを接着することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷却時や加熱時における酸化物超電導体に作用する熱応力を小さくすることができ、冷却時や加熱時での耐久性に優れた酸化物超電導体通電素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について図1を参照しながら説明する。
図1は、本発明における酸化物超電導体通電素子の構造を示す断面図である。
図1に示すように、酸化物超電導体1の両端に、外部に接続するための電極端子2が半田等(図では省略されている)で電気的に接合されている。さらに、酸化物超電導体1の両側には、補強のために熱硬化型樹脂3によって支持体4が接着されている。支持体4は酸化物超電導体1の表面だけでなく、酸化物超電導体1と電極端子2との接合部をも覆うように密着被覆されている。図1では図示していないが、樹脂による接着固定に加えて、ボルト等による機械的な固定を組み合わせてもよい。
【0011】
本発明において、熱硬化型樹脂とは、50℃以上の温度に加熱して硬化する樹脂のことを指す。通常は常温状態において放置させて硬化する樹脂であっても、50℃以上の温度に加熱して硬化させた場合には熱硬化型樹脂に含むものとする。熱硬化型樹脂の種類としては、50℃以上の温度に加熱して硬化する樹脂であれば特に制約はなく、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂等でもよい。
【0012】
熱硬化型樹脂は、初めは粘性のある液状であり、液状状態で酸化物超電導体と支持体との間に挿入・塗布し、50℃以上の温度に加熱することによって熱硬化型樹脂を硬化させ、酸化物超電導体と支持体とを接着する。熱硬化型樹脂は、一液性であっても、主剤と硬化剤とを硬化させる前に混合させる二液性であってもよい。また、加熱硬化させる温度が高過ぎる場合には、酸化物超電導体通電素子を冷却する際に、酸化物超電導体に作用する圧縮応力が高くなり過ぎる可能性があるので、加熱温度の上限は200℃以下が好ましい。さらに、酸化物超電導体通電素子の製造時の作業性を考慮すると、加熱温度範囲は80℃以上150℃以下がより好ましい。
【0013】
本発明に用いる酸化物超電導体は、酸化物超電導体であれば特に材料系を制限するものではなく、RE−Ba−Cu−O(REはY又は希土類元素から選ばれた少なくとも1つの元素)系酸化物超電導体、Bi系酸化物超電導バルク体等でもよい。酸化物超電導バルク体の中でも、溶融法で製造された単結晶状のREBa2Cu3x相(123相)中にRE2BaCuO5相(211相)が微細分散した酸化物超電導バルク体は、臨界電流密度が高いのでより好ましい。また、本発明に用いる電極端子としては、銅、銀、アルミニウム等の電気良導体が、電極端子自体のジュール発熱を小さくできるので好ましい。
【0014】
本発明に用いる支持体は、酸化物超電導体の機械的強度を補強する効果が大きいので、GFRP(ガラス繊維強化プラスチックス)やCFRP(炭素繊維強化プラスチックス)等の繊維強化材料、ステンレスやNiCr合金、Ti合金等の金属材料、アルミナや窒化珪素等のセラミックス材料等、強度や剛性が大きい材料が好ましく、それらの材料を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
また、支持体の熱膨張率の絶対値は、酸化物超電導体の熱膨張率の絶対値と同じであるよりも、酸化物超電導体の熱膨張率の絶対値よりも大きい方が好ましいが、大き過ぎると逆効果になる可能性がある。酸化物超電導体と支持体との熱膨張率の差は、0.01%〜0.17%の範囲が好ましく、さらに0.04%〜0.1%の範囲がより好ましい。例えば、溶融法で製造された単結晶状のREBa2Cu3x相(123相)中にRE2BaCuO5相(211相)が微細分散した酸化物超電導バルク体の場合、300Kから77Kまでの熱膨張率は絶対値で0.16%であるが、同じ温度間での支持体の熱膨張率としては0.17%〜0.33%の範囲が好ましく、さらに0.2%〜0.26%の範囲がより好ましい。
【0016】
図1に示す構造の酸化物超電導体通電素子において、冷却時や加熱時の熱歪や熱応力について説明する。電極端子2の材質は、酸化物超電導体1の熱膨張率との関係を考慮して選ばれるのではなく、ジュール発熱を低減するために、銅や銀等の電気良導体が選ばれる。そのため、これら電気良導体の熱膨張率の絶対値は酸化物超電導体1の熱膨張率の絶対値よりも大きく、その結果、酸化物超電導体1と電極端子2との接合界面近傍の酸化物超電導体に引張応力が作用する。酸化物超電導体のような脆性材料は、圧縮応力には強いものの引張応力には弱く、引張応力が作用すると破損しやすい。
【0017】
仮に、支持体の熱膨張率の絶対値が酸化物超電導体の熱膨張率の絶対値と同じ場合には、酸化物超電導体と電極端子との接合界面近傍の酸化物超電導体に作用する引張応力に大きな変化はないが、本発明の場合、支持体4の熱膨張率の絶対値が酸化物超電導体1の熱膨張率の絶対値よりも大きいので、電極端子2の熱歪を抑制し、その結果、酸化物超電導体1と電極端子2との接合界面近傍の酸化物超電導体に引張応力が生じなくなる。
【0018】
支持体の熱膨張率の絶対値が酸化物超電導体の熱膨張率の絶対値よりも大きい場合には、冷却時に、酸化物超電導体1に圧縮応力が作用することになるが、酸化物超電導体は圧縮応力には強い。さらに、本発明の場合、図1に示すように酸化物超電導体1の両面あるいは周囲を支持体4で覆うような構造になっているので、酸化物超電導体1が座屈によって破損することもなく、より高強度な構造であり、冷却時の耐久性に優れた酸化物超電導体通電素子といえる。
【0019】
一方、支持体の熱膨張率の絶対値が酸化物超電導体の熱膨張率の絶対値よりも大きい場合、加熱時には逆に、酸化物超電導体1に引張応力が作用することが懸念されるが、本発明の場合、50℃以上の温度に加熱され、酸化物超電導体1と支持体4とが接着されているので、熱硬化型樹脂3を硬化した温度以上に加熱しないと引張応力は生じない。特に、支持体が繊維強化材料である場合には、繊維強化材料は加熱すると徐々に軟化する傾向にあるので、熱硬化型樹脂3を硬化した温度以上に加熱しても、酸化物超電導体1を破損するような引張応力は生じにくい。したがって、加熱時の耐久性に優れた酸化物超電導体通電素子といえる。
【0020】
図1に示した構造を有する酸化物超電導体通電素子の製造方法の一例を以下に示す。まず、酸化物超電導体1を所定の形状に加工し、電極接合部に予め銀を成膜しておき、酸素気流中で熱処理する。次に、酸化物超電導体1の両端に半田等で電極端子2を電気的に接続する。その次に、液状の熱硬化型樹脂3を酸化物超電導体1の表面及び支持体4の接着面に塗布し、酸化物超電導体1の両側から支持体4を重ね合わせ、図1では図示していないボルト等で両側の支持体4を固定しておく。支持体4は酸化物超電導体1を覆うだけでなく、酸化物超電導体1と電極端子2との接合部をも覆うようにする。その後、全体を50℃以上の温度に加熱することにより、熱硬化型樹脂3を硬化させ、酸化物超電導体1と支持体4とを接着固定させる。
【実施例】
【0021】
(実施例1)
溶融法で作製した直径46mm、厚さ15mmで、25mol%の211相が123相中に微細分散したDy−Ba−Cu−O系単結晶状酸化物超電導体から長さ40mm、幅5mm、厚さ0.8mmの棒状の試料を切り出し、銅製の電極端子2と半田接続し、ガラス繊維強化プラスチックス(GFRP)で酸化物超電導体1の両側から接着固定した、図1に示すような構造の酸化物超電導体通電素子を作製した。
【0022】
接着樹脂としてはエポキシ系樹脂(商品名:スタイキャスト2850FT)を用い、加熱用硬化剤と混合した後に、酸化物超電導体1と支持体4とに塗布し、酸化物超電導体1の両側から支持体4を重ね合わせた後に、ホットプレートにて全体を100℃で2時間保持し、熱硬化型樹脂3を加熱硬化させた。また、Dy−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の通電方向を単結晶状試料のab軸方向とする。常温から液体窒素温度間における酸化物超電導体1の熱膨張率の絶対値は0.15%であったが、支持体であるGFRPの熱膨張率は0.24%であった。
【0023】
比較のため、加熱用硬化剤の代わりに常温用硬化剤を使用した以外は同じ部材を用いて、樹脂を常温状態で2時間放置して樹脂を硬化させた酸化物超電導体通電素子を作製した。それぞれ10本ずつ作製し、液体窒素中にて通電試験を実施し、どちらも10本とも250Aで通電可能であることを確認した。その後、常温に戻った状態から100℃まで加熱し、20分間保持し、常温に戻した。再度、液体窒素中にて通電試験を実施したところ、比較例の場合、10本中6本が250Aまで通電できなかったが、本実施例の酸化物超電導体通電素子の場合、10本全て250Aで通電可能であった。本実験により、本発明の構造の酸化物超電導体通電素子では、冷却時の耐久性が優れているだけでなく、加熱時の耐久性も優れていることが確認できた。
【0024】
(実施例2)
溶融法で作製した直径60mm、厚さ15mmで、25mol%の211相が123相中に微細分散し、初期原料に10wt%添加した銀が微細分散したGd−Ba−Cu−O系単結晶状酸化物超電導体から長さ60mm、幅4mm、厚さ4mmの棒状の試料を切り出し、銅製の電極端子2と半田接続し、ガラス繊維強化プラスチックス(GFRP)で酸化物超電導体1の両側から接着固定した、図1に示すような構造の酸化物超電導体通電素子を作製した。
【0025】
接着樹脂としてはエポキシ系樹脂(商品名:スタイキャスト2850FT)を用い、加熱用硬化剤と混合した後に、酸化物超電導体1と支持体4とに塗布し、酸化物超電導体1の両側から支持体4を重ね合わせた後に、ホットプレートにて全体を120℃で1時間保持して、熱硬化型樹脂3を加熱硬化させた。
【0026】
比較のため、加熱用硬化剤の代わりに常温用硬化剤を使用した以外は同じ部材を用いて、樹脂を常温状態で2時間放置して樹脂を硬化させた酸化物超電導体通電素子を作製した。それぞれ3本ずつ作製し、液体窒素中で通電試験を実施し、どちらも3本とも2000Aで通電可能であることを確認した。その後、常温状態から液体窒素中に浸漬して酸化物超電導素子を急冷することを100回繰り返す耐久性試験を実施した。再度、液体窒素中にて通電試験を実施したところ、本実施例及び比較例のどちらの場合も3本とも2000A通電可能で、劣化の兆候は見られなかった。本発明の場合、接着樹脂を常温硬化する場合に比べて冷却時の圧縮応力が大きくなり、長期の耐久性が低下することが懸念されたが、本実験により、本発明の構造の酸化物超電導体通電素子では、常温硬化させた場合における冷却時の耐久性と同じ程度の冷却時耐久性が得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によれば、冷却時や加熱時での耐久性に優れた酸化物超電導体通電素子を提供することができるので、酸化物超電導体の工業上の利用範囲が拡大する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の酸化物超電導体通電素子の断面の一例を示す構造断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 酸化物超電導体
2 電極端子
3 熱硬化型樹脂
4 支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物超電導体と、前記酸化物超電導体の両端に電気的に接合された電極端子と、前記酸化物超電導体に熱硬化型樹脂により接着された支持体とからなることを特徴とする酸化物超電導体通電素子。
【請求項2】
前記支持体の熱膨張率の絶対値は、前記酸化物超電導体の熱膨張率の絶対値よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導体通電素子。
【請求項3】
前記支持体は、前記酸化物超電導体の両側あるいは周囲に前記熱硬化型樹脂により接着されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化物超電導体通電素子。
【請求項4】
前記熱硬化型樹脂の硬化温度は、50℃以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸化物超電導体通電素子。
【請求項5】
前記酸化物超電導体は、単結晶状のREBa2Cu3x相(REはY又は希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)中にRE2BaCuO5が微細分散した酸化物超電導体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸化物超電導体通電素子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸化物超電導体通電素子を製造するための製造方法であって、
電極端子を接続した酸化物超電導体と支持体とを熱硬化型樹脂を介して積層した後、前記熱硬化型樹脂を50℃以上の温度に加熱して前記酸化物超電導体と前記支持体とを接着することを特徴とする酸化物超電導体通電素子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−177245(P2008−177245A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7376(P2007−7376)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】