説明

酸化物非晶質微粒子の製造方法、非晶質微粒子、アルファサイアロン蛍光体の前駆体、アルファサイアロン蛍光体微粒子とその製造方法、発光デバイス及び照明器具

【課題】均一な組成で、安定した蛍光特性を持った高品質且つ極微細な酸化物非晶質微粒子とその製造方法、アルファサイアロン蛍光体微粒子とその製造方法の提供。
【解決手段】Oガスと混合して加熱することによりSiOとなる化合物(SiX)の蒸気と、Oガスと混合して加熱することによりAlとなる化合物(AlX)の蒸気と、Oガスをあらかじめ混合する工程と、加熱の直前に希土類元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素から選ばれる1種または2種以上の元素を含む化合物(MX)の蒸気を加える工程と、次いで、前記混合蒸気に対し、1秒あたり1000℃以上の急速加熱を施し、該混合蒸気を十分に酸化させて酸化物を生成する工程と、次いで、1秒あたり250℃以上の急速冷却を行い、酸化物非晶質微粒子を得る工程と、からなることを特徴とする酸化物非晶質微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルファサイアロン蛍光体の前駆体である非晶質微粒子の製造方法に関する。また、該前駆体、該前駆体を用いたアルファサイアロン蛍光体、該蛍光体を用いた発光デバイス、該発光デバイスを用いた照明器具に関する。該照明器具は、次世代照明器具として期待されている固体照明器具の一種である高効率な白色発光ダイオード照明器具であり、省エネかつ長寿命であるという特徴を生かし、水銀など有害物質を含まないため環境負荷も少ない。
【背景技術】
【0002】
白色発光ダイオードなどに用いる蛍光体として、MSi12−(m+n)Al(m+n)16−m(ただし、m、nは組成を決めるパラメータである)で示されるアルファサイアロン化合物であって、固溶元素Mが希土類元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素などであるものが注目されている(例えば特許文献1〜3、非特許文献1参照。)。この種の蛍光体を、以下、アルファサイアロン蛍光体と呼ぶ。
【0003】
アルファサイアロン蛍光体を得る方法として、特許文献1には、原料粉末をホットプレス装置を用いて1700℃、20MPaの高温高圧下で反応させる方法が開示されている。ホットプレス法では、試料はペレット形状で合成されるので、粉末状蛍光体を得るためには焼結後に粉砕し粉末化する工程が必要となる。また非特許文献1では、原料粉末を1800℃、10気圧の高温高圧でガス加圧焼結する方法が開示されており、粒径0.5〜1.8μmの粉末が得られたことが報告されている。また、特許文献2には、適切な粒径に焼結前に造粒した原料粉末を、例えば1700℃、1.0MPaの高温高圧でガス加圧焼結し、一つの塊のようになっている焼結後の粉末をわずかな力を加えて粉末状に崩すことで、適切な二次粒径の蛍光体粉末とする方法が開示されている。ここで開示されている方法では、事前に造粒する際の粒径は20μm以上とされている。
【0004】
高純度でなおかつ適度な粒径分布を有するアルファサイアロン蛍光体の製造方法として、SiO、SiO、Siから選ばれる1種または2種以上の混合物と、Alを含む化合物、及び、希土類元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素などの添加物を含む化合物を混合した前駆体材料を、還元窒素雰囲気中で加熱する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
特許文献3によれば、非晶質のSiO、SiO、Siなどの微粒子に、Alおよび希土類元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素などの化合物を付着させたものを前駆体材料として用いている。
【0005】
ところで、蛍光体を使用する白色発光ダイオード(以下、発光ダイオードをLEDと略記する。)においては、蛍光体を粉末状にし、樹脂中に分散させた状態で、青色或いは紫外LED等の近傍或いは周囲に塗布する方法が一般的であるが、一般に用いられる蛍光体の粒子径は、μmオーダーサイズで光の波長とほぼ同程度かまたは数倍程度の大きさであるため、蛍光が前方の粒子によりミー散乱あるいは幾何光学的散乱を受けて後方散乱されて、光の取り出し効率が低下するという問題がある。結果的に、多重散乱により蛍光がLEDランプのパッケージ外部に到達する以前に、各種部材に吸収されてしまい、損失となる割合が高くなる。前記のアルファサイアロン蛍光体を、白色LED等に用いる場合も同様である。
【0006】
このような光の後方散乱による損失を低下させる方法としては、一つには蛍光体の粒を数十μm以上の大きさにする方法がある。もう一つには、光散乱が微弱になるナノサイズまで粒子径を小さくする方法が考えられる。蛍光体をナノサイズにすることによって、光の散乱が減る結果、白色LEDの光取り出し効率が向上し、発光効率向上が期待できる。さらに、使用する蛍光体は、高純度であることが望まれる。
【特許文献1】特開2002−363554号公報
【特許文献2】WO2006/6562号パンフレット
【特許文献3】特開2005−306692号公報
【非特許文献1】Rong-Jun Xie et al., “Optical Properties of Eu2+ in α-SiAlON,” J. Phys. Chem. B, Vol. 108, pp.12027-12031 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述した従来技術には、次のような問題があった。
特許文献1に開示されたように、ホットプレス法で蛍光体を合成する場合には、粉砕が必要であり、また微細粉末を得ることが困難である。
非特許文献1及び特許文献2に開示されたように、ガス加圧焼結法で蛍光体を合成する場合には、微細粉末を得ることが困難である。
特許文献3に開示された方法では、各材料を混合した前駆体を還元窒素雰囲気中で加熱しても、均一な組成のアルファサイアロン蛍光体粉末を得ることが難しい。すなわち、SiO微粒子の表面からAl、Ca、Eu元素が粒子内部に向かって拡散する場合、どうしても粒子表面の方が添加物濃度が高くなってしまう。その結果、組成が均一で、特性が安定した蛍光体を量産することが困難である。なお、前記Al、Ca、Euは一例であり、他の添加物でも同様の問題が発生する。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、均一な組成で、安定した蛍光特性を持った高品質且つ極微細な酸化物非晶質微粒子の製造方法、非晶質微粒子、アルファサイアロン蛍光体の前駆体、アルファサイアロン蛍光体微粒子とその製造方法、発光デバイス及び照明器具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、還元窒化法によりアルファサイアロン蛍光体を合成するための前駆体である酸化物非晶質微粒子の製造方法であって、
ガスと混合して加熱することによりSiOとなる化合物(SiX)の蒸気と、Oガスと混合して加熱することによりAlとなる化合物(AlX)の蒸気と、Oガスをあらかじめ混合する工程と、
加熱の直前に希土類元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素から選ばれる1種または2種以上の元素を含む化合物(MX)の蒸気を加える工程と、
次いで、前記混合蒸気に対し、1秒あたり1000℃以上の急速加熱を施し、該混合蒸気を十分に酸化させて酸化物を生成する工程と、
次いで、1秒あたり250℃以上の急速冷却を行い、酸化物非晶質微粒子を得る工程と、からなることを特徴とする酸化物非晶質微粒子の製造方法を提供する。
【0010】
本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法において、加熱及び酸化を行う反応チャンバーが石英ガラス製のチューブであることが好ましい。
【0011】
本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法において、加熱部よりも上流にMX揮発室を有し、反応部を加熱する熱源とは別のMX揮発用熱源を有することが好ましい。
【0012】
本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法において、MX揮発室で揮発したMX蒸気とOガスとが事前に反応することを抑制するために、MX揮発室から加熱部の直前までOガス等の流路とは独立したMX流路を設けた反応チャンバーを用いることが好ましい。
【0013】
本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法において、MX揮発室及びMX揮発用熱源を複数用いることが好ましい。
【0014】
本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法において、MXを水溶液もしくはアルコール溶液とし、ネブライザーでミスト化し、Ar、He、Nから選ばれる1種または2種以上のガスをキャリアガスとして反応チャンバーに搬送することが好ましい。
【0015】
本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法において、反応チャンバーを加熱する熱源が、酸水素バーナーであり、管外表面の温度が1200〜1350℃の範囲であることが好ましい。
【0016】
本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法において、SiXがSiClであり、これを20〜45℃に保ち、Oガス、Nガス、Arガス、Heガスからなる群から選択される1種または2種以上のガスによりバブリングし、保温温度にしたがった蒸気圧に基づき、原料を反応チャンバーに搬送することが好ましい。
【0017】
本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法において、SiXがSiClであり、これを60〜80℃に保温することでSiClガスとし、Oガス、Nガス、Arガス、Heガスから選ばれる1種または2種以上のガスをキャリアガスとし、反応チャンバーに搬送することが好ましい。
【0018】
本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法において、AlXがAlClであり、AlにClガスを吹き付けることでAlClを発生させ、Ar、He、Nから選ばれる1種または2種以上のガスをキャリアガスとして反応チャンバーに搬送することが好ましい。
【0019】
本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法において、MXが、アセチルアセトナート、Euアセチルアセトナート、ビスヘキサフルオロアセチルアセトンカルシウム、トリスジペバロイルメタナートユーロピウムからなる群から選択される1種または2種以上の化合物であることが好ましい。
【0020】
また本発明は、前述した本発明に係る酸化物非晶質微粒子の製造方法により得られた、粒径が50〜300nmの範囲である酸化物非晶質微粒子を提供する。
【0021】
また本発明は、MがCa及びEuであり、Si−Al−Ca−Eu−O系である前記本発明に係る酸化物非晶質微粒子からなることを特徴とするアルファサイアロン蛍光体の前駆体を提供する。
【0022】
また本発明は、粒径が50〜300nmの範囲であることを特徴とするアルファサイアロン蛍光体微粒子を提供する。
【0023】
本発明のアルファサイアロン蛍光体微粒子において、カルシウム固溶ユーロピウム付活アルファサイアロン蛍光体であることが好ましい。
【0024】
また本発明は、前述した本発明に係る非晶質微粒子を前駆体として、還元窒化雰囲気中で加熱することにより前述した本発明に係るアルファサイアロン蛍光体微粒子を得ることを特徴とするアルファサイアロン蛍光体微粒子の製造方法を提供する。
【0025】
また本発明は、青色半導体発光素子と、前述した本発明に係るアルファサイアロン蛍光体微粒子とを含むことを特徴とする発光デバイスを提供する。
【0026】
また本発明は、前記発光デバイスを含むことを特徴とする照明器具を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、均一な組成で、安定した蛍光特性を持った高品質且つ極微細なアルファサイアロン蛍光体の前駆体を得ることができる。
本発明によれば、前駆体合成時のチャンバーからのコンタミネーションが少なく、余計な不純物濃度が少ない前駆体を合成できる。
本発明によれば、これまでに報告されていなかった粒径300nmを下回る微細なアルファサイアロン蛍光体微粒子が得られた。
本発明によれば、ミー散乱を低減できる微細な粒径の蛍光体粉末を用いることにより、蛍光体分散樹脂層を透明度の高い遮蔽効果の小さいものとすることができ、光取り出し効率の高い白色LEDパッケージ構造を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明は、還元窒化法によりアルファサイアロン蛍光体を合成するための前駆体である酸化物非晶質微粒子の製造方法であって、
ガスと混合して加熱することによりSiOとなる化合物(SiX)の蒸気と、Oガスと混合して加熱することによりAlとなる化合物(AlX)の蒸気と、Oガスをあらかじめ混合する工程と、
加熱の直前に希土類元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素から選ばれる1種または2種以上の元素を含む化合物(MX)の蒸気を加える工程と、
次いで、前記混合蒸気に対し、1秒あたり1000℃以上の急速加熱を施し、該混合蒸気を十分に酸化させて酸化物を生成する工程と、
次いで、1秒あたり250℃以上の急速冷却を行い、酸化物非晶質微粒子を得る工程と、からなることを特徴とする酸化物非晶質微粒子の製造方法、該方法により得られた非晶質微粒子及びアルファサイアロン蛍光体の前駆体、この前駆体を用いたアルファサイアロン蛍光体微粒子とその製造方法、このアルファサイアロン蛍光体と青色LEDとを組み合わせた発光デバイス及び該発光デバイスを備えた照明器具である。
【0029】
本発明の製造方法では、混合蒸気を加熱する直前に、元素MのX化合物であるMXを加え、急速加熱、急速冷却することで、非結晶微粒子を得る。ここで、Mは、母相となる非結晶微粒子に対してドープしようとする金属元素である。この製法により粒子内部まで均一な組成の微粒子を作ることができる。
【0030】
本発明の製造方法において、加熱の直前にMXを加える理由は、希土類元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素の中には、CaやEuの化合物のように、工業的に利用可能な蒸気圧を発生するための保温温度が300℃以上のものがあり、また、これらの材料は高温で不安定であり、容易に分解、酸化、他の化合物との反応が進むので、Oガスまたは他の原料ガスとあらかじめ混合して反応チャンバーに搬送することが困難だからである。
【0031】
本発明の製造方法では、急速加熱をすることで、反応部に存在する元素を同時に酸化することができるため、粒子全体で均一な組成とすることができる。例えば加熱速度が遅い場合、酸化されやすい元素から順次酸化されるため、反応後得られる微粒子内部に初期に酸化した元素の偏積部位が出来てしまう。Si−Al−O非晶質を主成分とする微粒子の場合、実験により1秒当たり1000℃以上の急速加熱を行うと均一な組成の微粒子が得られることがわかった。また、急速冷却をすることで、含有する一部の化合物の固相を偏積することなく、均一な組成の非晶質微粒子を作製できる。Si−Al−O非晶質を主成分とする微粒子の場合、実験により1秒当たり250℃以上の急速冷却を行うと均一な組成の微粒子が得られることがわかった。
【0032】
図1は、本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法を実施するために用いる製造装置の第1例を示す構成図であり、図中符号1は管状をなす反応チャンバー、2は酸水素バーナー、3は酸化物非晶質微粒子回収用のフィルタ(バッグフィルタなど)、4はSiX蒸気発生装置、5はAlX蒸気発生装置、6はMX蒸気発生装置を示す。本例の製造装置は、一端側からSiX蒸気、AlX蒸気及びOガスが導入される反応チャンバー1を備え、該反応チャンバー1の途中にMX蒸気供給路が接続され、該反応チャンバー1を加熱する酸水素バーナー2を配置すると共に、反応チャンバー1の他端側に、反応により生成した非晶質微粒子を捕捉・回収するフィルタ3を介して図示していない排気装置に接続して構成されている。
【0033】
図2は、前記製造装置の第2例を示す構成図であり、図1に示す製造装置と同一の構成要素には、同一符号を付してある。本例の製造装置は、MX蒸気発生装置として、反応チャンバー1の一部に凹部状のMX揮発室を設け、そのMX揮発室内にMX化合物7を配置し、このように配置されたMX化合物7をチャンバー外部から保温設備8で加熱可能に構成したことを特徴としている。この保温設備8としては、マントルヒーター、抵抗線加熱器、ガスバーナーなどが挙げられる。反応チャンバー1内で生成した非晶質微粒子9は、フィルタ3によって捕捉・回収される。
【0034】
図3は、前記製造装置の第3例を示す構成図であり、図1〜図2に示す製造装置と同一の構成要素には、同一符号を付してある。本例の製造装置は、図2に示す製造装置とほぼ同様の構成であるが、MX揮発室に、ここで発生するMX蒸気を反応チャンバー1内の所定方向に流すための仕切り10を付加した構成になっている。
【0035】
図4は、前記製造装置の第4例を示す構成図であり、図1〜図3に示す製造装置と同一の構成要素には、同一符号を付してある。本例の製造装置は、図2に示す製造装置とほぼ同様の構成であるが、本例では反応チャンバー1の複数箇所に凹部状のMX揮発室を設け、そのそれぞれに同じか又は異なるMX化合物7A,7Bを入れ、それぞれ保温設備8で加熱できるように構成されている。
【0036】
図5は、SiX蒸気発生装置4、AlX蒸気発生装置5及びMX蒸気発生装置6として使用可能なバブリング装置の一例を示す構成図である。このバブリング装置は、SiClなどの液体原料12を収容するバブリングタンク11と、このバブリングタンク11にキャリアガスを供給する管路と、バブリングタンク11から排出される液体原料の飽和蒸気を含んだキャリアガスを反応チャンバー1に供給する管路と、バブリングタンク11を覆って保温するための保温用温度調節機13とから構成されている。
【0037】
図6は、前記製造装置の第5例を示す構成図であり、図1〜図4に示す製造装置と同一の構成要素には、同一符号を付してある。本例の製造装置は、図1に示す製造装置とほぼ同様の構成であるが、MX蒸気発生装置として、MX化合物水溶液15の霧16を供給する超音波式ネブライザー14を用いている。
【0038】
図7は、前記製造装置の第6例を示す構成図であり、図1〜図4及び図6に示す製造装置と同一の構成要素には、同一符号を付してある。本例の製造装置は、SiX蒸気(SiCl蒸気)を供給する蒸気発生装置として、図5に示すバブリング装置を用い、MX蒸気発生装置として、図4の製造装置と同様の構成によって2種類のMX化合物(CaCl、EuCl)を供給可能としたMX揮発室構造を用い、さらにAlX蒸気供給装置として、Alを入れた反応槽17内に、Clガスとキャリアガス(Heなど)を供給し、反応槽17内で反応(塩素化)させて生成したAlClを反応チャンバー1に供給する装置を用いている。
【0039】
図9は、前記製造装置の第7例を示す構成図であり、図1〜図4、図6及び図7に示す製造装置と同一の構成要素には、同一符号を付してある。本例の製造装置は、1台のネブライザー装置によってAlXとMXとを反応チャンバー1に供給できるようにしている。このネブライザー装置で霧化する水溶液15には、例えば、AlClやCaClなどの水溶液を用いることができる。
【0040】
本発明の製造方法において、反応チャンバー1として石英ガラスチューブ用いることで、より不純物の混入が少ないアルファサイアロン蛍光体の前駆体を作製することができる。石英ガラスは耐熱性に優れ、急速加熱しても分解しにくい。また、主成分はSiOであり、反応時のコンタミネーションの問題も発生しない。
【0041】
本発明の製造方法において、図2に示すようなMX揮発室と熱源(保温設備8)を有し、このMX揮発室を反応チャンバー1内に設けた製造装置を用いることで、揮発したMXの結露を極力、防ぐことができる。希土類元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素の中には、CaやEuの化合物のように、工業的に利用可能な蒸気圧を発生するための保温温度が300℃以上のものがあり、原料を搬送するラインを全て高温に保温することは困難であるため、この方法は有効である。また、これらの材料は高温で不安定であり、容易に分解、酸化、他の化合物との反応が進む。したがって、Oガスまたは他の原料ガスとあらかじめ混合して反応チャンバーに搬送することは困難である。加熱の直前にMX蒸気を発生させ、加える手法により、初めて、アルファサイアロン蛍光体前駆体材料の気相合成が可能となった。揮発に用いる保温設備8は、酸素反応用の酸水素バーナーとは別に設けることで、各化合物MXに応じた揮発温度に設定および保温することで、効率的に反応させることができる。
【0042】
このMX揮発室と熱源とを反応チャンバー1に付設する構成において、MXが揮発したと同時に酸化するのを防ぐため、図3に示すように、仕切り10を設けた構造にすると、さらに好ましい。
【0043】
また、複数のMXを揮発させる場合、一つの揮発室に複数種のMXを混合させて配置しても良いが、MX揮発室を図4のように複数設け、用いる化合物に応じて使い分ける構造とすることが望ましい。揮発に用いる熱源は、酸化反応用の水素バーナーとは別に設け、さらに各化合物ごとに独立して設けることで、各MX化合物に応じた揮発温度に設定および保温することで、効率的に反応させることができる。
【0044】
本発明の製造方法において、図6に示すようなMX添加系を使うこともできる。MXを水溶液もしくはアルコール溶液とし、ネブライザーでミスト化し、MXミストと不活性なガス、例えばAr、He、N2から選ばれる1種または2種以上のガスをキャリアガスとして反応チャンバーに搬送する。ネブライザーは超音波式、ベンチュリー管方式などを用いることができる。溶媒のアルコールは特に制限されない。
【0045】
本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法において、1秒間あたり1000℃以上の急速加熱をし、十分に酸化させた後、1秒間あたり250℃以上の急速冷却をするためには、局所的に十分な加熱できる熱源でないと達成できない。これには、酸水素バーナー2が最適である。また、酸水素バーナー2は、導入する酸素と水素の流量をコントロールして、火力と火炎の形状を制御でき、局所的に十分な加熱が可能である。反応チャンバー1の加熱温度が1200℃以下では反応率は低く、無駄になる原料が多くなる。1350℃以上では、反応チャンバー1に用いている石英ガラスチューブの変形が大きく、安定した合成ができない。
【0046】
本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法において、SiXとしては、SiClが好ましい。SiClは常温で液体であり、蒸気圧を持っている。図5に示すように、キャリアガスでバブリングすることで、その温度での飽和蒸気圧量に相当するSiClを搬送することができる。SiClの正味の搬送量は、キャリアガス流量とSiCl液体の保温温度をコントロールすることで制御可能である。ただし、保温温度が20℃未満では、蒸気圧が低すぎて、微粒子の合成速度が著しく低下するので好ましくない。また、45℃以上では蒸気圧が高すぎで、添加量が安定せず組成が一定の微粒子を合成できなくなる。
【0047】
SiClの沸点は60℃程度であり、気相で搬送および添加が可能である。保温温度が80℃以上では、保温コストがかさむので工業的に好ましくない。
【0048】
本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法において、AlXとしては、AlClが好ましい。AlClは185℃以上で昇華し、気相で搬送および添加が可能である。酸素との反応性に富むため、Ar、He、Nなどの不活性ガスをキャリアガスとして用いることができる。
【0049】
本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法において、MXとして、Ca(C(Caアセチルアセトナート)、Eu(C(Euアセチルアセトナート)、Ca(CHF(ビスヘキサフルオロアセチルアセトンカルシウム)、Eu(O1119(トリスジペバロイルメタナートユーロピウム)からなる群から選択される1種又は2種以上を用いることが好ましい。ここにあげた4種の材料は、他のEu、Ca化合物にくらべ、低温で高い蒸気圧が得られる。そのため、MX揮発室から反応室までの結露防止を容易に行うことができ、前駆体へ安定した添加が可能となる。
【0050】
前述した本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法によって得られる非晶質微粒子は、粒径50〜300nmの範囲という、極めて微細な微粒子が提供可能となる。この非晶質微粒子の粒径が50nm未満であると、還元窒化雰囲気中で加熱する際に焼結現象が著しく進むので望ましくない。一方、粒径が300nmを超えると、蛍光体としてから樹脂に分散させ、LEDに塗布実装しても、粒子による散乱とこの散乱を原因とする遮光が大きく、LEDランプのパッケージの光取り出し効率が落ちるので望ましくない。
【0051】
本発明に係るアルファサイアロン蛍光体の前駆体は、MがCa及びEuであり、Si−Al−Ca−Eu−O系である前記本発明に係る酸化物非晶質微粒子からなることを特徴とする。各先行文献より、Ca固溶させたアルファサイアロンに発光元素としてEuを添加した系は非常に優れた蛍光特性を示す。また、実使用できるCaおよびEu化合物の例は各先行文献等に開示されている。
【0052】
本発明に係るアルファサイアロン蛍光体の前駆体及びアルファサイアロン蛍光体は、粒径50〜300nmの範囲という、極めて微細な微粒子が提供可能となる。従来、固相焼結法では十分に微細なアルファサイアロン蛍光体は得られていなかった。また、高純度、微細、不純物が少ないアルファサイアロン蛍光体粉末を合成する技術である特許文献3においても、平均粒径0.3μmまたは平均粒径0.5μmの非晶質二酸化ケイ素粉末を材料として用いており、散乱光低減の観点からは十分に微細であるとは言えないものであった。今回、はじめて粒径50〜300nmのアルファサイアロン蛍光体の合成に成功した。
【0053】
本発明に係るアルファサイアロン蛍光体の中でも、特にカルシウム固溶ユーロピウム付活アルファサイアロン蛍光体が好ましい。これは発光効率に優れ、適度な発光色度を有する。一般式Ca(Si、Al)12(O,N)16:EuまたはCaSi12−(m+n)Alm+n16−n:Euで表される。
【0054】
本発明のアルファサイアロン蛍光体の製造方法は、前述した非晶質微粒子を前駆体として、還元窒化雰囲気中で加熱することにより前記アルファサイアロン蛍光体微粒子を得ることを特徴としている。この製造方法では、1400℃から1900℃の還元窒化雰囲気中で焼成することで、明るい黄色に発光するアルファサイアロン蛍光体微粒子が得られる。焼成温度が1400℃以下では反応が起こりにくく、1900℃以上では十分な蛍光特性の蛍光体を得ることが困難となる。還元窒化雰囲気は、アンモニアであることが望ましい。雰囲気を維持するために、30秒以内に雰囲気が入れ替わるガス流量で雰囲気ガスを流すことが望ましい。
【0055】
本発明の発光デバイスは、前述した本発明に係るアルファサイアロン蛍光体微粒子と、青色LEDとを組み合わせることで、従来の散乱を起こしやすい粒径の蛍光体粉末を用いた場合よりも光の取り出し効率に優れた発光デバイスが得られる。アルファサイアロン蛍光体微粒子と、青色LEDとの組み合わせにより、昼白色から電球色にわたる白色で発光する発光デバイスを得ることもできる。
【0056】
前記本発明に係る発光デバイスは、照明器具の光源として有効である。従来の散乱を起こしやすい粒径の蛍光体粉末を用いた白色発光デバイスに変えて本発明の白色発光デバイスを用いることにより、光取り出し効率に優れた照明器具を得ることが可能となる。
【実施例1】
【0057】
合成系として、図7に示す製造装置を用い、本発明に従って発光元素としてEuを添加したCa固溶アルファサイアロン蛍光体の前駆体(非晶質微粒子)を合成した。
SiXとしてSiClを用いた。Oをキャリアガスとして、バブリング法で供給した。バブリング槽の保温温度は23℃とし、キャリアガス流量は250sccmとした。
AIXとしてAlClを用いた。ClガスをAlインゴットに吹きつけ、AlClを発生させている。AlClの反応槽の保温温度は220℃とした。反応槽に流すガスの流量は、Clを150sccm、Heを390sccmとした。HeガスはClとAlの反応速度を制御するために加えている。発生させたAlCl蒸気を反応チャンバーに搬送する際は、AlCl蒸気が配管中に結露(固化)しないよう、配管全体を200℃に保ち、輸送した。
これらの方法で発生させたSiCl蒸気とAlCl蒸気を、1650sccmのOガスと配管中で混合し、反応チャンバーに導入した。
【0058】
反応チャンバーはφ40mm、厚さ3mmの石英ガラスチューブを用いた。石英ガラスチューブの一部を加工して、二つの揮発室を設け、それぞれ独立の酸水素バーナーで加熱および保温した。MXとして、CaCl,EuClを用いた。CaClの保温温度は700℃とし、EuClの保温温度は1300℃とした。それぞれの揮発室にはキャリアガスとしてArガスを50sccm流し、それぞれ揮発室から反応部の直前まで設けられた独立した流路を通過して、反応部でSiCl蒸気とOガスと合流する構造となっている。
【0059】
前記の原料ガスが合流する地点を酸水素バーナーで1340℃に加熱すると、酸化反応が起こり、酸化物微粒子が得られた。合成された微粒子は、キャリアガス気流に乗って搬送され、下流のフィルタで回収した。
【0060】
得られた微粒子について粉末X線回折法により評価したところ、結晶構造に起因するピークチャートは得られず、非晶質粒子であることが確認できた。
【0061】
得られた微粒子のSEM観察写真とEDSマップ分析結果を図8に示す。粒子の直径は200nm程度であり、微粒子中にSi、Al、Ca、Euを均一に分布させることができた。
【実施例2】
【0062】
実施例1と同じ合成系で、SiClを搬送する方法としてバブリング法を用いる代わりに、これを60〜80℃に保温することでSiClガスとし、Oガスをキャリアガスとし、キャリアガス流量は250sccmとして搬送した。その結果、実施例1と同等の結果が得られた。
【実施例3】
【0063】
実施例1と同じ合成系で、MXとして、Ca(C(Caアセチルアセトナート)とEu(C(Euアセチルアセトナート)を用いてアルファサイアロン蛍光体の前駆体を合成した。これらの材料の保温は酸水素バーナーで行い、Caアセチルアセトナートは180℃、Euアセチルアセトナートは160℃でそれぞれ保温した。
その結果、実施例1と同様に200nm程度の非晶質微粒子が合成され、微粒子中にSi、Al、Ca、Euを均一に分布させることができた。
【実施例4】
【0064】
実施例1と同じ合成系で、MXとして、Ca(CHF(ビスヘキサフルオロアセチルアセトンカルシウム)とEu(O1119(トリスジペバロイルメタナートユーロピウム)を用いてアルファサイアロン蛍光体の前駆体を合成した。これらの材料の保温は酸水素バーナーで行い、ビスヘキサフルオロアセチルアセトンカルシウムは250℃、トリスジペバロイルメタナートユーロピウムは270℃でそれぞれ保温した。
その結果、実施例1と同様に200nm程度の非晶質微粒子が合成され、微粒子中にSi、Al、Ca、Euを均一に分布させることができた。
【実施例5】
【0065】
図9に示す合成系を用い、Ca固溶アルファサイアロン蛍光体の前駆体(非晶質微粒子)を合成した。この合成系は、実施例1とAlXとMXの添加方法が異なっている。
AlXとMXの添加方法として、超音波ネブライザーを用いた。AlXとしてAlClを用い、MXとして、CaClを用いた。これらを水溶液として用いた。溶液の濃度は、溶液1Lあたり、Alが0.5mol、Caが0.5molとなるように秤量し、水溶液を調整した。霧化した水溶液はキャリアガスに乗せて反応チャンバーに搬送した。キャリアガスにはArガスを用いた。原料ガスが合流する地点を酸水素バーナーで1340℃に加熱すると、酸化反応が起こり、酸化物微粒子が得られた。合成された微粒子は、キャリアガス気流に乗って搬送され、下流のフィルタで回収した。
得られた微粒子についてEDS分析を行った。EDSスペクトルを図10に示す。Al、Caのピークが出ており、添加元素が均一に添加されていることが確認できた。
【実施例6】
【0066】
実施例1で得られた粒径200nm程度のSi−Al−Ca−Eu−O系非晶質微粒子を前駆体として、還元窒化雰囲気で加熱し、カルシウム固溶ユーロピウム付活アルファサイアロン蛍光体微粒子を合成した。この前駆体0.12gをアルミナボートに入れて、内径24mmのアルミナ炉心管中に置いて、炉心管の外部に発熱体を有する管状炉にセットした。炉心管の一端よりアンモニウムガスを流量330ml/分で導入し、500℃/時の速度で700℃まで昇温した。この温度よりアンモニアメタンガス流量を1300ml/分に設定すると同時にメタンガスを流量20ml/分で炉内に導入し、引き続き1500℃まで200℃/時の速度で昇温した。当温度で、30分保持したのち、メタンガスの供給を停止し、アンモニア気流中で室温まで冷却した。
図11に、このようにして得られたアルファサイアロン蛍光体をアルミナボート上でブラックライトで照射した写真を示す。ブラックライトの励起により明るい黄色に発光する蛍光体が得られた。
図12に、蛍光分光光度計で測定した発光スペクトルを示す。測定時の励起は長は440nmである。
【実施例7】
【0067】
実施例6で製造したアルファサイアロン蛍光体微粒子を用い、砲弾型白色LEDランプを製作した。まず図13の砲弾型白色LEDランプ20の構造と製造手順について説明する。
【0068】
この砲弾型白色LEDランプ20には、2本のリードワイヤ22,23があり、一方のリードワイヤ22の先端には凹部があり、該凹部には発光ピーク波長450nmの青色LED素子21が載置されている。青色LED素子21の下部電極と凹部の底面とは、導電性ペーストによって電気的に接続されている。アルファサイアロン蛍光体微粒子24を分散した第一の樹脂25は透明であり、青色LED素子の全体を被覆している。凹部を含むリードワイヤ22の先端部、青色LED素子21、蛍光体を分散した第一の樹脂25は、透明な第二の樹脂27によって封止されている。透明な第二の樹脂は全体が略円柱形状であり、その先端部がレンズ形状の曲面となっていて、砲弾型と通称されている。
【0069】
このランプの製造手順を示す。第一の工程では、一組のリードワイヤー22,23の一方にある素子載置用の凹部に発光ピーク波長450nmの青色LED素子21を導電性ペーストを用いてダイボンディングした。第二の工程では、青色LED素子21ともう一方のリードワイヤーとを金細線26でワイヤボンディングした。第3の工程では、アルファサイアロン蛍光体微粒子24を分散させた第一の樹脂25を青色LED素子21を被覆するように素子載置用の凹部に適量塗布してプレデップし、第一の樹脂25を硬化させた。第四の工程では、青色LED素子21・第一の樹脂25を第二の樹脂27で包囲して硬化させた。この第四の工程はキャスティング法により実施した。リードワイヤ22,23は、一組のリードワイヤが一対に成形されたものを用いたので、第五の工程でこの2本のリードワイヤ22,23の間をつないでいる部分を切り落とした。第一の樹脂25と第二の樹脂27には、同一のエポキシ樹脂を用いた。
【0070】
従来の技術によれば、蛍光体を分散させた第一の樹脂は蛍光体粉末の散乱により不透明であり、その遮蔽効果によって光取り出し効率の悪いパッケージ構造となっていたが、蛍光体樹脂としてミー散乱を十分低減できる微粒子を用いることが可能となったため蛍光体を分散させた第一の樹脂を従来よりも透明度が高いものとすることが可能になった。これにより、従来よりも光の取り出し効率に優れたパッケージ構造の砲弾型白色LEDランプ20が得られた。
【実施例8】
【0071】
次に、チップ型白色LEDランプについて説明する。図14は、本発明の基板実装用チップ型白色LEDランプ30の使用例である。
下部の支持基板は可視光線反射率の高い白色のアルミナセラミックス基板であり、その表面には2本の電極パターン35,36が金属薄膜スパッタリングによって形成されている。電極パターン35,36の厚さは数μm程度で有り、電極パターン部分とアルミナ表面部分とで段差はほとんどなくほぼ平坦になっている。2本の電極パターン35,36にはそれぞれリードワイヤ31,32が接続されており、それらワイヤ31,32の片端は基板上面に高融点はんだ等を用いて電極パターン35,36に固定され、もう片端はそれぞれ外部に出ていて電気基板への実装時にはんだづけされる電極となっている。電極パターン35,36のうち1本は、その片側が基板中央部にあり、発光中心波長450nmの青色LED素子33が載置され固定されている。青色LED素子33の下部電極とその下方の電極パターン35とは導電性ペーストによって電気的に接続されており、上部電極ともう1本の電極パターン36とが金細線34によって電気的に接続されている。アルファサイアロン蛍光体微粒子38は樹脂37に分散され、青色LED素子33近傍に実装されている。このアルファサイアロン蛍光体微粒子38を分散した樹脂37は、透明であり、青色LED素子33の全体を被覆してる。また、セラミック基板上には中央部に穴の開いた形状である壁面部材が固定されている。壁面部材は、図14に示したとおりその中央部が青色LED素子33及びアルファサイアロン蛍光体微粒子38を分散させた樹脂37がおさまるための穴となっていて、中央に面した部分は斜面となっている。この斜面は光を前方に取り出すための反射面であって、その斜面の曲面形状は光の反射方向を考慮して決定される。また、少なくとも反射面を構成する面は白色または金属光沢を持った可視光線反射率の高い面となっている。本実施例では、該壁面部材を白色のシリコーン樹脂によって構成した。壁面部材の中央部の穴は、セラミック基板に固定された段階では凹部を形成するが、ここには青色LED素子33及びアルファサイアロン蛍光体微粒子38を分散させた樹脂37を凸形状を形成するように充填している。本実施例では樹脂37はシリコーン樹脂を用いた。製造手順は、アルミナセラミックス基板にリードワイヤ31,32を固定する部分を除いては、実施例7の製造手順と略同一である。
【0072】
従来の手順によれば、蛍光体を分散させた樹脂は蛍光体粉末の散乱により不透明であり、その遮蔽効果によって光取り出し効率の悪いパッケージ構造となっていたが、蛍光体樹脂としてミー散乱を十分低減できる微粒子を用いることが可能となったため、蛍光体を分散させた樹脂を従来よりも透明度が高いものとすることが可能になった。これにより、従来よりも光の取り出し効率に優れたパッケージ構造のチップ型白色LEDランプ30が得られた。
【実施例9】
【0073】
実施例9として、実施例7あるいは実施例8の白色LEDランプを内部部品に用いた白色照明器具を説明する。図15は、実施例7あるいは実施例8を使用した白色照明器具の一例である。この白色照明器具40の上部は、一定の強度を備えた箱状の支持部42となっており、この支持部42を天井あるいは側壁に固定して使用する構造となっている。支持部42の内部には、外部から供給された電源を利用して白色LEDランプ41を点灯させるための電気回路である駆動部が内蔵されている。駆動部には通常電源回路と白色LEDランプ用ドライバICとそれらに付属する周辺部品とから成る。ドライバICは、白色LEDランプ41をパルス駆動する機能や、調光機能を有している場合もある。支持部42には、実施例7あるいは実施例8の白色LEDランプ41が多数固設置されており、図示しない駆動部に電気的に接続されている。白色LEDランプ41の全体を覆うようにしてカバー43が配置されている。カバー43は、曇りガラスあるいは一定の表面粗さを有する透明樹脂カバーなどであり、光散乱部材としての機能を有する。このカバー43により、白色LEDランプ41から発せられた白色光は、直接人の目に入射することはなく、白色照明器具40の全体が明るく発光しているものとして認識される。このため、実施例7あるいは実施例8の白色LEDランプ41を直接観察した際には反射部材が陰を作るが、このことが照明器具使用にあたって問題になることはない。
【0074】
本実施例の白色照明器具40においては、従来の散乱を起こしやすい粒径の蛍光体粉末を用いた白色LEDランプに変えて、本発明の白色LEDランプ41を用いることにより、光取り出し効率に優れた白色照明器具を得ることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法を実施するために用いる製造装置の第1例を示す構成図である。
【図2】本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法を実施するために用いる製造装置の第2例を示す構成図である。
【図3】本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法を実施するために用いる製造装置の第3例を示す構成図である。
【図4】本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法を実施するために用いる製造装置の第4例を示す構成図である。
【図5】本発明で用いることが可能なバブリング装置を例示する構成図である。
【図6】本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法を実施するために用いる製造装置の第5例を示す構成図である。
【図7】本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法を実施するために用いる製造装置の第6例を示す構成図である。
【図8】実施例1で作製した微粒子のSEM観察画像とEDSマップ分析結果である。
【図9】本発明の酸化物非晶質微粒子の製造方法を実施するために用いる製造装置の第7例を示す構成図である。
【図10】実施例5で製造したアルファサイアロン蛍光体の前駆体のEDSスペクトルである。
【図11】実施例6で製造したアルファサイアロン蛍光体の蛍光発生状態を示す画像である。
【図12】実施例6で製造したアルファサイアロン蛍光体について蛍光分光光度計で測定した発光スペクトルである。
【図13】実施例7で作製した砲弾型白色LEDランプの断面図である。
【図14】実施例8で作製したチップ型白色LEDランプの断面図である。
【図15】実施例9で作製した白色照明器具の断面図である。
【符号の説明】
【0076】
1…反応チャンバー、2…酸水素バーナー、3…フィルタ、4…SiX蒸気発生装置、5…AlX蒸気発生装置、6…MX蒸気発生装置、7,7A,7B…MX化合物、8…保温設備、9…非晶質微粒子、10…仕切り、11…バブリングタンク、12…液体原料、13…保温用温度調節機、14…超音波式ネブライザー、15…MX化合物水溶液、16…霧、17…反応槽、20…砲弾型白色LEDランプ、21…青色LED素子、22,23…リードワイヤ、24…アルファサイアロン蛍光体微粒子、25…第一の樹脂、26…金細線、27…第二の樹脂、30…チップ型白色LEDランプ、31,32…リードワイヤ、33…青色LED素子、34…金細線、35,36…電極パターン、37…樹脂、38…アルファサイアロン蛍光体微粒子、40…白色照明器具、41…白色LEDランプ、42…支持部、43…カバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元窒化法によりアルファサイアロン蛍光体を合成するための前駆体である酸化物非晶質微粒子の製造方法であって、
ガスと混合して加熱することによりSiOとなる化合物(SiX)の蒸気と、Oガスと混合して加熱することによりAlとなる化合物(AlX)の蒸気と、Oガスをあらかじめ混合する工程と、
加熱の直前に希土類元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素から選ばれる1種または2種以上の元素を含む化合物(MX)の蒸気を加える工程と、
次いで、前記混合蒸気に対し、1秒あたり1000℃以上の急速加熱を施し、該混合蒸気を十分に酸化させて酸化物を生成する工程と、
次いで、1秒あたり250℃以上の急速冷却を行い、酸化物非晶質微粒子を得る工程と、からなることを特徴とする酸化物非晶質微粒子の製造方法。
【請求項2】
加熱及び酸化を行う反応チャンバーが石英ガラス製のチューブであることを特徴とする請求項1に記載の酸化物非晶質微粒子の製造方法。
【請求項3】
加熱部よりも上流にMX揮発室を有し、反応部を加熱する熱源とは別のMX揮発用熱源を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化物非晶質微粒子の製造方法。
【請求項4】
MX揮発室で揮発したMX蒸気とOガスとが事前に反応することを抑制するために、MX揮発室から加熱部の直前までOガス等の流路とは独立したMX流路を設けた反応チャンバーを用いることを特徴とする請求項3に記載の酸化物非晶質微粒子の製造方法。
【請求項5】
MX揮発室及びMX揮発用熱源を複数用いることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の酸化物非晶質微粒子の製造方法。
【請求項6】
MXを水溶液もしくはアルコール溶液とし、ネブライザーでミスト化し、Ar、He、Nから選ばれる1種または2種以上のガスをキャリアガスとして反応チャンバーに搬送することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の酸化物非晶質微粒子の製造方法。
【請求項7】
反応チャンバーを加熱する熱源が、酸水素バーナーであり、管外表面の温度が1200〜1350℃の範囲であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の酸化物非晶質微粒子の製造方法。
【請求項8】
SiXがSiClであり、これを20〜45℃に保ち、Oガス、Nガス、Arガス、Heガスからなる群から選択される1種または2種以上のガスによりバブリングし、保温温度にしたがった蒸気圧に基づき、原料を反応チャンバーに搬送することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の酸化物非晶質微粒子の製造方法。
【請求項9】
SiXがSiClであり、これを60〜80℃に保温することでSiClガスとし、Oガス、Nガス、Arガス、Heガスから選ばれる1種または2種以上のガスをキャリアガスとし、反応チャンバーに搬送することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の酸化物非晶質微粒子の製造方法。
【請求項10】
AlXがAlClであり、AlにClガスを吹き付けることでAlClを発生させ、Ar、He、Nから選ばれる1種または2種以上のガスをキャリアガスとして反応チャンバーに搬送することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の酸化物非晶質微粒子の製造方法。
【請求項11】
MXが、アセチルアセトナート、Euアセチルアセトナート、ビスヘキサフルオロアセチルアセトンカルシウム、トリスジペバロイルメタナートユーロピウムからなる群から選択される1種または2種以上の化合物であることを特徴とする請求項1ないし10に記載の酸化物非晶質微粒子の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の酸化物非晶質微粒子の製造方法により得られた、粒径が50〜300nmの範囲である酸化物非晶質微粒子。
【請求項13】
MがCa及びEuであり、Si−Al−Ca−Eu−O系である請求項12記載の酸化物非晶質微粒子からなることを特徴とするアルファサイアロン蛍光体の前駆体。
【請求項14】
粒径が50〜300nmの範囲であることを特徴とするアルファサイアロン蛍光体微粒子。
【請求項15】
カルシウム固溶ユーロピウム付活アルファサイアロン蛍光体であることを特徴とする請求項14に記載のアルファサイアロン蛍光体微粒子。
【請求項16】
請求項12又は13に記載の非晶質微粒子を前駆体として、還元窒化雰囲気中で加熱することにより請求項14又は15に記載のアルファサイアロン蛍光体微粒子を得ることを特徴とするアルファサイアロン蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項17】
青色半導体発光素子と、請求項14又は15に記載のアルファサイアロン蛍光体微粒子とを含むことを特徴とする発光デバイス。
【請求項18】
請求項17に記載の発光デバイスを含むことを特徴とする照明器具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2009−298904(P2009−298904A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154300(P2008−154300)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】