説明

酸化装置

【課題】H2Oと炭素含有成分とを含むガス体中のH2Oを反応剤として用いることができ、高い酸化性能で炭素含有物質を酸化することができる酸化装置を提供すること。
【解決手段】H2O4と炭素含有成分5とを含むガス体中の炭素含有成分5を酸化する酸化装置1である。プロトン導電体2と、プロトン導電体2上に配置された電極部材3とからなる。プロトン導電体2は、導電率が400℃以下の温度において0.01Scm-1以上である。電極部材3は、互いに接触するアノード電極部31及びカソード電極部32を有する。アノード電極部31によって、アノード電極部31とプロトン導電体2との境界部分に接触したH2O4からプロトン(H)を分離し、プロトン導電体2に取り込む反応を促進する。カソード電極部32によって、カソード電極部32とプロトン導電体2との境界部分において、プロトン導電体2から供給されるプロトンによる還元反応を促進する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素含有成分を酸化する酸化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車エンジン等の内燃機関から排出される排ガスを浄化するための排ガス浄化システムとして、排気管に触媒成分を担体(触媒担体)に担持させた排ガス浄化用触媒体を設け、排ガス中のHC、CO、NOx等を酸化反応あるいは酸化・還元反応によって浄化する触媒コンバータシステムがある。
この触媒体としては、例えば多数のセルを有するハニカム構造のセラミック担体(モノリス担体)を基材として用い、そのセラミック担体に貴金属等の触媒成分を担持させたものがある。
貴金属の触媒成分としては、一般に、Pt、Pd、Rh等が用いられる。
このような貴金属を複数種使用した場合には、排ガス中の複数の有害成分を浄化するのに非常に有効である。
【0003】
また、特許文献1には、NOx吸収物質とNOx還元触媒を有する触媒Aと、炭化水素の吸収物質と炭化水素の酸化触媒を有する触媒Bと、電子伝導性物質C及びイオン伝導性物質Dとを混合してなる排ガス浄化用電気化学触媒が記載されている。
この排ガス浄化用電気化学触媒は、触媒Aと触媒Bとの間で、電子伝導性物質Cを介して電子を移動させるとともに、イオン伝導性物質Dを介してイオンを移動させ、触媒Aでは電気化学的な還元反応が、そして触媒Bでは、電気化学的な酸化反応が、それぞれ別々に進行し、吸収したNOxの還元が吸着された炭化水素を用いて速やかに行われる。
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、カソード極からしか活性酸素種を生成することができないため、炭素やCH4といった化学的に安定な炭素含有物質に対する酸化能が不十分である。また、酸素から活性酸素種を生成しているため、同一雰囲気にH2、HCといった還元ガスがあると酸素が還元ガスとの反応に消費され、活性酸素種を生成しにくいという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2001−70797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、H2Oと炭素含有成分とを含むガス体中のH2Oを反応剤として用いることができ、高い酸化性能で炭素含有物質を酸化することができる酸化装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、H2Oと炭素含有成分とを含むガス体中の炭素含有成分を酸化する酸化装置であって、
プロトン導電体と、該プロトン導電体上に配置された電極部材とからなり、
上記プロトン導電体は、導電率が400℃以下の温度において0.01Scm-1以上であり、
上記電極部材は、互いに接触するアノード電極部及びカソード電極部を有し、
上記アノード電極部によって、該アノード電極部と上記プロトン導電体との境界部分に接触したH2Oからプロトン(H+)を分離し、上記プロトン導電体に取り込む反応を促進すると共に、
上記カソード電極部によって、該カソード電極部と上記プロトン導電体との境界部分において、該プロトン導電体から供給されるプロトンによる還元反応を促進するよう構成されていることを特徴とする酸化装置にある(請求項1)。
【0008】
本発明の酸化装置は、上記特定の導電率を有するプロトン導電体上に、アノード電極部とカソード電極部が接触した状態の電極部材を配置した構成にすることによって、H2Oと炭素含有成分とを含むガス体中のH2Oを反応剤として用いることができ、高い酸化性能で炭素含有物質を酸化することができる。
【0009】
上記酸化装置は、上記アノード電極部によって、該アノード電極部と上記プロトン導電体との境界部分に接触したH2Oからプロトン(H+)を分離し、上記プロトン導電体に取り込む反応が促進される。
上記アノード電極部は、アノード反応を進行する電極材であり、上記プロトン導電体は、プロトンを通す性質を有すると共に、上記のごとく、400℃以下という比較的低温において0.01Scm-1以上という高い導電率を有する。
そのため、ガス体中のH2Oがアノード電極部と上記プロトン導電体との境界部分に接触すると、プロトン導電体、アノード電極、H2Oの三相界面(酸化サイト)において、例えば、H2O→H++OH-、H2O→2H++O2-等の反応が起きる。そのため、アノード電極部において、活性酸素種(例えばO2-、OH-、O2-、O22-等)が発生する。また、プロトン導電体は、発生したプロトンを自発的に取り込む。
【0010】
そして、アノード反応により発生した上記活性酸素種は、高い酸化能を有しているため、発生後すぐに、ガス体中の炭素含有成分を酸化する反応を起こす。例えば、CをCO又はCO2に、CH4をCH3OH、CO2、CO等に、HCをCO2等に酸化が可能である。つまり、上記酸化サイトでは、アノード反応(2H2O+C→CO2+4H++4e-、2x2O+Cxy→Cx2x+(4x+y)H++4xe-等)が起きていることとなる。
そして、炭素含有物質を酸化した際に発生した電子は、接触したアノード電極部及びカソード電極部中を自由に動き回る。
【0011】
上記プロトン導電体は、高い導電率を有するため、該アノード電極部と上記プロトン導電体との境界部分に接触したH2Oから分離されたプロトンを自発的に取り込む。そして、取り込まれたプロトンは、プロトン導電体中を自由に動きまわる。
【0012】
そして、上記カソード電極部によって、上記カソード電極部と上記プロトン導電体との境界部分において、上記プロトン導電体から供給されるプロトンによる還元反応が促進される。
上記カソードで電極部は、カソード反応を進行する電極材であり、上記プロトン導電体は、上述したように、酸化サイトにおける反応で取り込んだプロトンが存在した状態となっている。
そのため、プロトン導電体、カソード電極、反応ガス(NO、NO2、O2等)の三相界面(還元サイト)ではプロトンによる反応ガスの還元反応(カソード反応)が起きる。具体的には、カソード極近傍にNO、NO2、O2が存在すれば、H2Oに還元することが出来る(2NO+4H++4e-→N2+2H2O、1/2O2+2H++2e-→H2O等)。また、カソード極近傍にH2OやO2があれば、H22及び活性酸素種(例えば・O2H、H3+)を生成する(O2+2H++2e-→H22等)。そして、この活性酸素種は、上記と同様に、発生後すぐにガス体中の炭素含有成分を酸化する反応を起こす。
【0013】
このように、本発明はガス体中のH2Oを反応剤として用い、アノード極、カソード極の両極で活性酸素種を生成することができる。そして、両極より発生した活性酸素種がガス体中の炭素含有物質の酸化を可能にするため、高い酸化性能で酸化を行うことができる。また、酸化性能が高いため、400℃以下という比較的低温でも、活性酸素種の発生、及び炭素含有物質の酸化が自発的に起こる。また、炭素含有物質の酸化だけでなく、NO、NO2等の還元も行うことができる。
これにより、本発明によれば、H2Oと炭素含有成分とを含むガス体中のH2Oを反応剤として用いることができ、高い酸化性能で炭素含有物質を酸化することができる酸化装置を提供することができることがわかる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の上記酸化装置は、プロトン導電体と、該プロトン導電体上に配置された電極部材とからなる。
上記酸化装置は、上記プロトン導電体と上記電極部材とが接触した状態で構成されていれば良く、例えば、粒状のプロトン導電体と粒状の電極部材とを混合して接触させた状態等がある。
上記プロトン導電体と、上記電極部材とが接触していない場合には、上述の酸化サイト及び還元サイトにおける反応が進行せず、十分な活性酸素種の発生量を得られず、ガス体中の炭素含有物質の酸化する酸化性能が得られないという問題がある。
【0015】
上記酸化装置の製造方法としては、例えば、プロトン導電体と下記のアノード及びカソード反応を進行する各種電極材料とを、乳鉢等で物理混合することにより得る方法がある。
また、共沈法等の溶液法にてアノード電極部及びカソード電極部を構成する材料をプロトン導電体に担持し混合する方法等により作製してもよい。
【0016】
また、上記プロトン導電体は、導電率が(室温以上)400℃以下の温度範囲において0.01Scm-1以上の点が1点でもあればよい。
上記プロトン導電体は、導電率が高いほど、プロトンを良く通すことができ上述の酸化サイト及び還元サイトの反応を促進することができ、酸化装置の酸化性能を高めることができる。
プロトン導電体の導電率が400℃以下においてどの温度においても0.01Scm-1未満である場合には、上述のアノード反応及びカソード反応が起こり難く、活性酸素種の発生が不十分となるため、炭素含有物質を酸化する酸化性能が得られないという問題がある。
なお、上記導電率は、各種プロトン導電体を厚みL[cm]のペレットにし、両面に面積S[cm2]のPt等の導電性ペースト、または導電性箔を取り付けることで作製したセルを、空気中で交流インピーダンス法にて測定し、セルのオーミック抵抗Rohmic[Ω]を求め、以下の式に従い算出した値である。
σ=L/(Sohmic
【0017】
上記プロトン導電体は、プロトンを通す性質を有すると共に、導電率が400℃以下の温度において0.01Scm-1以上であるものであればいずれのものを用いてもよいが、例えば、無機リン酸化合物(MP27:M=4価の金属)、BaCe0.850.153-α、ナフィオン高分子膜等を用いることができる。
【0018】
中でも、上記プロトン導電体は、無機リン酸化合物(MP27、Mは4価の金属)であることが好ましい(請求項2)。
上記無機リン酸化合物は、導電率が高いため、プロトン導電体として特に適している。
上記無機リン酸化合物としては、例えば、SnP27、TiP27等が上げられる。
【0019】
また、上記無機リン酸化合物は、Mサイトにドーパントを加えることが好ましい(請求項3)。
この場合には、上記プロトン導電体の導電率を向上することができ、より低温で多量の活性酸素種の発現を可能にすることができる。
上記ドーパントとは、三価の金属であり、MP27のMサイトに置換されることで、格子中にホールを生成し、プロトン伝導率を向上する物質である。
上記ドーパントとしては、例えば、Al3+、In3+等を用いることができる。
上記無機リン酸化合物のMサイトにドーパントを加えた例としては、Sn1-xInx27、Sn1-xAlx27、Ti1-xInx27、Ti1-xAlx27等がある。
【0020】
また、上記電極部材は、互いに接触するアノード電極部及びカソード電極部を有する。
上記アノード電極部とカソード電極部とが接触していない場合には、電極間で電子のやり取りが行われず、上述の還元サイトにおける反応が発生せず、炭素含有物質の酸化が十分に行われないという問題がある。また、NO,NO2等の還元も行われない。
【0021】
上記アノード電極部は、上記に示したようなアノード反応を促進し、導電性を有する材料であれば、いずれのものも用いることができるが、例えば、Pt、Ag、Cu、Fe、Cr、Ir、Ni、Co、Au、W、Moと言った金属材料やその合金材料等を用いることができる。
【0022】
また、上記カソード電極部は、上記に示したようなカソード反応を促進し、導電性を有する材料であれば、いずれのものも用いることができるが、例えば、Pt、Ag、Cu、Fe、Cr、Ir、Ni、Co、Au、W、Moと言った金属材料やその合金材料等を用いることができる。
【0023】
そして、上記アノード電極部と上記カソード電極部とは、異なる材料を用いてもよいし、同一の材料を用いてもよい。
上記アノード電極部と上記カソード電極部が異なる材料である場合には、アノード電極部とカソード電極部とを混合したものを電極部材とすればよい。
【0024】
上記アノード電極部と上記カソード電極部とが同一材料である場合には、上記アノード電極部及び上記カソード電極部を区別することなく、電極部材として1種の材料を用意すればよい。この場合には、電極部材において、プロトン導電体、H2Oとの三相界面を形成する部分が酸化サイトとなり上記アノード反応を促進する。一方、電極材料において、プロトン導電体、反応ガスとの三相界面を形成する部分が還元サイトとなって、上記カソード反応を促進する。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
本例は、本発明の実施例にかかる酸化装置について説明する。
図1に示すように、本例の酸化装置1は、H2O4と炭素含有成分5とを含むガス体中の炭素含有成分5を酸化する酸化装置1であって、プロトン導電体2と、該プロトン導電体2上に配置された電極部材3とからなる。
上記プロトン導電体2は、導電率が400℃以下の温度において0.01Scm-1以上である。
上記電極部材3は、互いに接触するアノード電極部31及びカソード電極部32を有し、上記アノード電極部31によって、該アノード電極部31と上記プロトン導電体2との境界部分に接触したH2O4からプロトン(H+)を分離し、上記プロトン導電体2に取り込む反応を促進すると共に、上記カソード電極部32によって、該カソード電極部32と上記プロトン導電体2との境界部分において、該プロトン導電体2から供給されるプロトンによる還元反応を促進するよう構成されている。
【0026】
上記酸化装置1は、ガス体中のH2O4がアノード電極部31と上記プロトン導電体2との境界部分に接触すると、プロトン導電体2、アノード電極部31、H2O4の三相界面(酸化サイト)において、例えば、H2O→H++OH-、H2O→2H++O2-等の反応が起きる。そのため、アノード電極部31において、活性酸素種O(例えばO2-、OH-、O2-、O22-等)が発生する。
そして、アノード反応により発生した上記活性酸素種Oは、高い酸化能を有しているため、発生後すぐに、ガス体中の炭素含有成分5を酸化する反応を起こす。例えば、CをCO又はCO2に、CH4をCH3OH、CO2、CO等に、HCをCO2等に酸化が可能である。つまり、上記酸化サイトでは、アノード反応(2H2O+C→CO2+4H++4e-、2x2O+Cxy→Cx2x+(4x+y)H++4xe-等)が起きていることとなる。
【0027】
また、プロトン導電体2、カソード電極32、反応ガス(図示省略)(NO、NO2、O2等)の三相界面(還元サイト)ではプロトンH+による反応ガスの還元反応(カソード反応)が起きる。具体的には、カソード極近傍にNO、NO2、O2が存在すれば、H2Oに還元することが出来る(2NO+4H++4e-→N2+2H2O、1/2O2+2H++2e-→H2O等)。また、カソード極近傍にH2OやO2があれば、H22及び活性酸素種O(例えば・O2H、H3+)を生成する(O2+2H++2e-→H22等)。
【0028】
次に、上記酸化装置1の製造方法について説明する。
まず、プロトン導電体2として、SnP27(250℃という条件で導電率は5.8×10-2Scm-1)を用意した。
また、電極部材3(アノード電極部及びカソード電極部)として、Ptを用意した。なお、本例では、電極部材3のアノード電極部31、カソード電極部32の両方ともPtを用いたが、アノード電極部31とカソード電極部32は異なる種類のものを用いてもよい。
【0029】
次に、上記プロトン導電体2と上記電極部材3とを、乳鉢等で物理混合し、本例の酸化装置1の構成を得た。上記酸化装置1の組成は、電極部材3が10質量%、プロトン導電体2が90質量%となるように作製した。
なお、本例においては、上記酸化装置1は物理混合により作製したが、共沈法等の溶液法にてアノード電極材料及びカソード電極材をプロトン導電体に担持し混合する方法によって作製してもよい。
【0030】
次に、得られた酸化装置100mgにカーボンブラック(CB)を30mg物理混合したものを実験サンプルとし以下の実験を行った。
5℃/minで昇温して、各温度において3%H2OのAirを30ml/minで実験サンプルを通過させ、ガスクロマトグラフィーにより出口ガスのCO2量を測定することで活性酸素の発生開始温度と量を評価した。
また、比較のために、CBのみ、CBとPt、CBとSnP27の場合についても同様に活性酸素の発生開始温度と量の評価を行った。結果を、図2に示す。
図2は、横軸に温度(℃)、縦軸にCO2発生量(μmol/min)をとった。
【0031】
図2より、CO2生成温度は、本例の酸化装置(Pt+SnP27+CB)が一番低く、SnP27+CB、Pt+CB、CBの順に低い結果であることが分かる。
カーボンの一種であるカーボンブラック(CB)は大気中で450℃付近から酸化され550〜600℃で完全に酸化される。
本例の電極材料であるPtのみ用いた場合、燃焼開始温度は若干早まるもの、完全酸化は550〜600℃であり自然燃焼とほぼ同等の結果しか得られない。
本例のプロトン導電体であるSnP27のみを用いると、300℃付近から燃焼開始する。
そして、電極部材であるPtとプロトン導電体であるSnP27を接触させた酸化装置を用いた場合は、200℃付近から酸化され450〜500℃で完全に酸化される。
この結果は今回の提案原理により、活性酸素種が生成していることを強く示唆する。
【0032】
(実施例2)
本例では、上記実施例1のプロトン導電体を、TiP27、BaY0.15Ce0.853−α、La0.9Sr0.1ScO3−αの3種類に変更して酸化装置を作製した例である。
プロトン導電体の導電率は、高い順に、MP27(M=Sn、Ti)(250℃という条件で導電率は5.8×10-2Scm-1)>>BaCe0.850.153−α(400℃という条件で導電率は1.0×10-2Scm-1)>La0.9Sr0.1ScO3−α(500℃という条件で導電率は1.4×10-3Scm-1)である。
【0033】
そして、得られた酸化装置について、上記実施例1と同様の方法で、活性酸素の発生開始温度と量の評価を行った。結果を図3に示す。比較のために、プロトン導電体としてSnP27を用いた場合、CBのみの結果も示す。
図3は、横軸に温度(℃)、縦軸にCO2発生量(μmol/min)をとった。
【0034】
図3より、CO2生成量は、プロトン導電率が高いほど低温から生成することが分かる。つまり、プロトン導電が重要であることがわかる。
活性酸素によるCO2生成はTiP27やSnP27を電解質として用いた場合200℃以上、BaCe0.850.153-αを電解質として用いた場合、400℃付近で顕著になる。このことから本提案はプロトン導電率が少なくとも0.01Scm-1以上のプロトン導電体が必要であるといえる。
500℃という条件で導電率が0.01Scm-1以下のLa0.9Sr0.1ScO3-αを使用した場合、CBを自然燃焼させたときとほぼ同等であった。
この結果からも本提案はプロトン導電率が400℃以下において0.01Scm-1以上のプロトン導電体が必要であるといえる。
【0035】
(実施例3)
本例は、上記実施例1及び実施例2で用いたプロトン導電体SnP27、及びTiP27の金属サイトに、ドーパントとしてInやAlを加え、プロトン導電性を向上させたプロトン導電体(Sn0.9In0.127(250℃という条件で導電率は0.194Scm-1)、及びTi0.95Al0.527(250℃という条件で導電率は0.181Scm-1))を用いて酸化装置を作製した例である。
【0036】
そして、得られた酸化装置について、実施例1と同様の方法で、活性酸素の発生開始温度と量の評価を行った。結果を図4に示す。比較のために、実施例2のプロトン導電体としてSnP27を用いた酸化装置、CBのみの結果も示す。
図4は、横軸に温度(℃)、縦軸にCO2発生量(μmol/min)をとった。
図4より、活性酸素によるCO2生成は200℃で顕著になり、350〜400℃で完全酸化する。このことから、プロトン導電率は高いほど、本提案は効果が高いと断定できる。
【0037】
(実施例4)
本例は、上記実施例3においてプロトン導電体としてSn0.9In0.127を用いて作製した酸化装置について、3%H2OのAirを用いて行った活性酸素の発生開始温度と量の評価を、AirのH2O含有率を、0.6%、10%に変更して行なった例である。結果を図5に示す。比較のために、プロトン導電体としてSn0.9In0.127を用いて作製した酸化装置、及びCBについて3%H2OのAirを用いて行った結果も示す。
図5は、横軸に温度(℃)、縦軸にCO2発生量(μmol/min)をとった。
【0038】
図5より、H2O供給量(加湿量)が増えると、活性酸素種によるCO2生成開始温度、完全酸化温度共に低温となった。つまり、H2Oより活性酸素が生成されていることが分かる。
このことから活性酸素種はH2Oから生成していると言える。
この結果は本提案メカニズムを裏付けるものである。
【0039】
(実施例5)
本例は、上記実施例3において、プロトン導電体としてSn0.9In0.127を用いて作製した酸化装置100mgにCB30mgを混合したものを実験サンプルとして、ラマン分光より活性酸素種の発現の確認を行った例である。
ラマン分光による活性酸素種の確認は、ガラス板の上に本酸化装置を設置したサンプルのラマンスペクトルをラマン分光装置により観察することで行った。
また、比較のために、プロトン導電体であるSn0.9In0.127にCBを混合したもの、電極部材であるPtにCBを混合したもの、CBのみの場合についても、同様に活性酸素種の発現の確認を行った。得られたスペクトルを図6に示す。
【0040】
図6より、酸化装置にCBを混合した場合のスペクトルは、1233cm-1にO2-、678cm-1にO22-のピークがそれぞれ見られる。一方、Sn0.9In0.127にCBを混合した場合、PtにCBを混合した場合、CBのみの場合には、上記のO2-、O22-のピークは確認されなかった。
これにより、活性酸素種の発現を確認することができる。
【0041】
(実施例6)
本例は、電極部材(アノード、カソード電極)として、Mo、Ni、Ag、Fe、Ptを用い、プロトン導電体としてSn0.9In0.127(250℃という条件で導電率は0.194Scm-1)を用いて酸化装置を作製した例である。
上記Mo、Ni、Ag、Fe、Ptは、いずれも、アノード反応及びカソード反応の反応性を向上し、かつ導電性を有するものである。
得られた酸化装置について、上記実施例1と同様の方法で、活性酸素の発生開始温度と量の評価を行った。結果を図7に示す。比較のために、CBのみの結果も示す。
図7は、横軸に温度(℃)、縦軸にCO2発生量(μmol/min)をとった。
図7より、電極部材として、Mo、Ni、Ag、Fe、Ptを用いた場合は、いずれも優れた酸化性能が得られることが分かる。
【0042】
(実施例7)
本例では、上記実施例3において、プロトン導電体としてSn0.9In0.127を用いて作製した酸化装置について以下の実験を行った。
1000ppmC、O2:1%、H2O:3%、N2バランスのモデルガスを実験サンプルに通過させ、その前後におけるHCの変化量を各温度で求めた。
結果を図8に示す。図8は、横軸に温度(℃)をとり、縦軸にHC転換率(%)をとった。
図8より、低温域での活性酸素種の生成により、従来に比べ低温でHCの酸化が可能となったことがわかる。
【0043】
(実施例8)
本例では、プロトン導電体のMサイトにドーパントを加えた際の効果を明らかにする。
本例では、実施例1のプロトン導電体のMサイトに、ドーパントとしてInを加えた4種類のプロトン導電体(Sn0.8In0.227、Sn0.9In0.127、Sn0.95In0.0527、Sn0.97In0.0327)を作製した。
得られたプロトン導電体について、導電率の測定を行った。
導電率は、各種プロトン導電体を厚みL[cm]のペレットに成型し、両面に面積S[cm2]のPt等の導電性ペースト、または導電性箔を取り付けることで作製したセルを、空気中で交流インピーダンス法にて測定し、セルのオーミック抵抗Rohmic[Ω]を求め、以下の式に従い算出した。結果を図9に示す。
σ=L/(Sohmic
図9は、横軸に絶対温度の逆数、縦軸に導電率(Scm-1)をとった。
図9より、ドーパントを加えることにより導電率が向上することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1における、酸化装置を示す説明図。
【図2】実施例1における、温度とCO2発生量との関係を示す図。
【図3】実施例2における、温度とCO2発生量との関係を示す図。
【図4】実施例3における、温度とCO2発生量との関係を示す図。
【図5】実施例4における、温度とCO2発生量との関係を示す図。
【図6】実施例5における、ラマン分光により得られたスペクトル図。
【図7】実施例6における、温度とCO2発生量との関係を示す図。
【図8】実施例7における、温度とHC転換率との関係を示す図。
【図9】実施例8における、絶対温度の逆数と導電率との関係を示す図。
【符号の説明】
【0045】
1 酸化装置
2 プロトン導電体
3 電極部材
31 アノード電極部
32 カソード電極部
4 H2
5 炭素含有物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2Oと炭素含有成分とを含むガス体中の炭素含有成分を酸化する酸化装置であって、
プロトン導電体と、該プロトン導電体上に配置された電極部材とからなり、
上記プロトン導電体は、導電率が400℃以下の温度において0.01Scm-1以上であり、
上記電極部材は、互いに接触するアノード電極部及びカソード電極部を有し、
上記アノード電極部によって、該アノード電極部と上記プロトン導電体との境界部分に接触したH2Oからプロトン(H+)を分離し、上記プロトン導電体に取り込む反応を促進すると共に、
上記カソード電極部によって、該カソード電極部と上記プロトン導電体との境界部分において、該プロトン導電体から供給されるプロトンによる還元反応を促進するよう構成されていることを特徴とする酸化装置。
【請求項2】
請求項1において、上記プロトン導電体は、無機リン酸化合物(MP27、Mは4価の金属)であることを特徴とする酸化装置。
【請求項3】
請求項2において、上記無機リン酸化合物は、Mサイトにドーパントを加えることを特徴とする酸化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−233618(P2009−233618A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85238(P2008−85238)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】