説明

酸化銅を用いた還元焼成用緑色系顔料の製造方法及びこれにより製造される緑色系陶磁器

【課題】陶磁器を還元焼成した時に緑色を呈する顔料を製造するために、酸化銅(CuO)と酸化錫(SnO)を混合し、酸化焼成することで、酸化銅を酸化錫に固溶させる方法を用いて還元焼成用緑色系顔料を製造すること。
【解決手段】本発明は酸化錫(SnO)及び酸化銅(CuO)を混合する段階と、前記混合物を1000〜1300℃の焼成温度で酸化焼成して焼成物を得る段階と、前記焼成物を粉砕する段階とを含む酸化銅を用いた還元焼成用緑色顔料の製造方法、これにより製造される陶磁器用緑色系顔料及び緑色系陶磁器の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化銅を用いた還元焼成用緑色系顔料、これの製造方法及び前記緑色系顔料を用いた緑色系陶磁器の製造方法に関する。更に具体的に、本発明は、本発明に係る緑色系顔料と釉薬を混合して陶磁器に塗布した後、1000〜1300℃の温度で還元焼成した時に緑色系の色を呈する還元焼成用緑色系顔料の製造方法及びこれにより製造される緑色系陶磁器に関する。
【背景技術】
【0002】
陶磁器類の表面には通常、ガラス質の粉末である釉薬を薄く塗布する。釉薬を塗布した陶磁器は強度が強くなり、吸水性がないため使い勝手がよく、アルカリ性や酸性に強い。また、陶磁器の表面が滑らか、且つ、きれいであるため洗浄が容易であるという長所がある。従って、産業用陶磁器の大半は釉薬を用いている。
【0003】
釉薬を用いる陶磁器の色は金属酸化物を窯で熱処理して得ることができる。陶磁器に釉薬を塗った後の焼成温度が1000℃未満である場合は多様で豊富な色を得ることができるが、1300℃程度では発色に制限が伴う。
【0004】
陶磁器の発色のために使用する顔料は通常、融剤と耐火材を混ぜて用いるが、高い温度で焼成して発色させなければならない。前記顔料の色は混合する物質の種類に応じて多様に現れ、焼成温度や焼成雰囲気の差によって色が変わることもある。
【0005】
陶磁器の釉薬製造時に、5重量%(釉薬及び酸化銅の総重量基準)未満の酸化銅(CuO)を釉薬に添加して陶磁器に塗布した後、還元雰囲気で焼成すれば、赤色系の色を呈し、酸化雰囲気では青色乃至緑色、厳密には、翡翠系を呈する。従来は酸化銅が混合された釉薬を陶磁器に塗布した後、還元雰囲気で焼成する場合、緑色系の色を呈することができなかった。
【0006】
そのため、本発明者は、酸化銅を用いて1000℃以上の高温で還元焼成した時に陶磁器が緑色を呈する方法について研究を重ねた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、陶磁器を還元焼成した時に緑色を呈する顔料を製造するために、酸化銅(CuO)と酸化錫(SnO)を混合し、酸化焼成することで、酸化銅を酸化錫に固溶させる方法を用いて還元焼成用緑色系顔料を製造することにある。
また、本発明の他の目的は、前記方法により製造された陶磁器用緑色系顔料を提供することにある。
更に、本発明の別の目的は、前記緑色顔料を用いた緑色系陶磁器の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は酸化錫(SnO)及び酸化銅(CuO)を混合する段階と、前記混合物を1000〜1300℃の焼成温度で酸化焼成する段階と、前記焼成物を粉砕する段階とを含む酸化銅を用いた還元焼成用緑色系顔料の製造方法を提供する。
本発明の一実施形態によれば、前記酸化錫及び酸化銅を混合する段階で、前記酸化錫100重量部に対して酸化銅は1〜10重量部で混合され得る。
本発明の一実施形態によれば、前記焼成時間は30分〜3時間であることができる。
また、本発明は前記製造方法により製造された還元焼成用緑色系顔料を提供する。
更に、本発明は酸化錫(SnO)及び酸化銅(CuO)を混合する段階と、前記混合物を1000〜1300℃の焼成温度で酸化焼成して焼成物を得る段階と、前記焼成物を粉砕する段階と、前記粉砕された焼成物を釉薬と混合する段階と、前記釉薬混合物を陶磁器に塗布した後、還元焼成する段階とを含む緑色系陶磁器の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る酸化銅を用いた還元焼成用緑色系顔料を釉薬に混合して陶磁器に塗布し、還元焼成すれば、陶磁器の表面が緑色を呈するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1によって製造された陶磁器写真である。
【図2】本発明の比較例によって製造された陶磁器写真である。
【図3】本発明の実施例1によって製造された顔料のUV分析後の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は酸化錫(SnO)及び酸化銅(CuO)を混合する段階と、前記混合物を酸化焼成して焼成物を得る段階と、前記焼成物を粉砕する段階とを含んでなる。
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0012】
まず、酸化銅を酸化錫に固溶させるために酸化錫(SnO)及び酸化銅(CuO)を混合する。前記酸化錫及び酸化銅は、本技術分野において広く知られた化合物であって、市場で容易に入手できる製品であればいずれでもよい。
【0013】
前記混合物は前記酸化錫100重量部に対して酸化銅1〜10重量部を添加できる。酸化銅が1重量部未満で添加されると、酸化銅の揮発によって酸化錫内に固溶される酸化銅の量が極めて少ないため釉薬に添加した場合、正常な色が呈されないという問題があり得る。酸化銅の含有量が10重量部を超える場合には酸化錫内に固溶されずに残っている酸化銅があり、釉薬に添加して使用する時に赤色を呈するという問題が発生し得る。
【0014】
前記酸化錫と酸化銅の混合物は焼成段階を経て焼成物を形成するようになる。焼成温度は1000〜1300℃が好ましいが、この温度範囲を逸脱した場合には酸化銅が酸化錫に固溶されないという不具合が生じ得る。
【0015】
前記焼成は酸化雰囲気下で進行できる。酸化焼成は窯などに酸素量を十分にして完全燃焼させることで、燃焼ガスがCOとなるようにする焼成技法である。
【0016】
一般に、酸化銅を陶磁器用釉薬に直接添加し、この釉薬混合物を陶磁器に塗布した後に還元焼成を行う場合には、CuOにより赤色を呈する。しかし、本発明のように、酸化錫に酸化銅が固溶されたものを顔料として釉薬に添加し、この釉薬混合物が施釉された陶磁器を還元焼成すれば、従来技術とは異なり、陶磁器の表面が緑色系の色を呈するようになる。
【0017】
前記焼成温度での保持時間は30分〜3時間であることが好ましい。30分より短いと、固溶が十分にできないという問題が発生し得る。また、3時間を超えると、酸化錫に酸化銅の固溶が完了して大きな変化が発生しない。
【0018】
前記焼成物を陶磁器用顔料として用いるためには前記焼成物を微粉に均一に粉砕しなければならない。本発明の焼成物の粉砕は本技術分野で広く知られた道具(例えば、すりばち)などを用いて行われる。この粉砕された焼成物は、陶磁器用釉薬に混合されて後続する焼成段階を経る時に発色される顔料として作用する。このとき、前記焼成物は7〜13μmとなるように粉砕され得るが、これは陶磁器用顔料の粉砕物の一般的な大きさである。
【0019】
前記製造方法により製造された陶磁器類用顔料を釉薬に添加した後、陶磁器類に塗布し、陶磁器類を焼成する場合、還元焼成過程を経ると、均一な緑色系の色に発色される。
【0020】
具体的に、酸化錫(SnO)及び酸化銅(CuO)を混合する段階と、前記混合物を1000〜1300℃の焼成温度で酸化焼成して焼成物を得る段階と、前記焼成物を粉砕する段階と、前記粉砕された焼成物を釉薬と混合する段階と、前記釉薬混合物を陶磁器に塗布した後、還元焼成する段階を経て緑色系陶磁器を製造できる。
【0021】
前記釉薬は本技術分野において周知となった陶磁器用釉薬であればいずれも使用できる。例えば、石灰釉、石灰バリウム釉及びマグネシア釉などが挙げられるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0022】
前記粉砕された焼成物は1〜10重量%、前記釉薬は99〜90重量%で混合され得る。これは緑色発色の最適な効果を奏し得る組み合わせであり、必ずしもこの範囲に混合割合が限定されるものではない。ただし、前記焼成物の含有量が1重量%未満では緑色系の発色効果が十分に得られず、10重量%を超えると、釉薬内に含まれている酸化銅の含有量過剰により黒色に変化するという問題が発生し得る。
【0023】
前記還元焼成は1000〜1300℃でなされ得る。従来方法である酸化銅を釉薬に直接添加して還元焼成を行った時は、この温度範囲で緑色系の色が得られなかった。しかし、本発明のように、酸化錫に酸化銅を固溶させる方法で製造された顔料を釉薬に添加して陶磁器の表面に塗布した後に還元焼成すれば、1000〜1300℃の温度範囲でも陶磁器が緑色系の色を呈するという効果が得られる。
【0024】
前記焼成温度の範囲を逸脱する場合には緑色発色効果が十分に発揮できないという問題が発生し得る。
【0025】
以下、本発明を実施例を通じて更に詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本発明を例示するためのものであって、本発明の範囲がこれらに限定されるものではない。
【0026】
<実施例1>
酸化錫(日本−JUNSEI)100重量部に酸化銅(日本−JUNSEI)3重量部を混合し、1300℃で2時間酸化焼成して酸化銅が酸化錫に固溶されることを確認した。その後、前記焼成物をモルタルに入れた後、細かく粉砕して粉砕物の大きさが約7〜13μmである顔料を得た。
【0027】
<実施例2>
実施例1で得た顔料2重量%と石灰釉98重量%を混合し、これを陶磁器の試片に塗布した後、1240℃で還元焼成した。その結果、図1のように、陶磁器の試片が緑色を呈した。
【0028】
<比較例>
酸化銅(日本−JUNSEI)4重量%と石灰釉95重量%を混合して陶磁器の試片に塗布した後、1240℃で還元焼成した。その結果、図2のように、陶磁器の試片が赤色を呈した。
【0029】
<試験例:色相分析>
実施例1で得た顔料の色相分析は紫外可視分光光度計(UV−2401PC、SHIMADZU製、日本)を用いて国際照明委員会(CIE: Commission Internationale de l'Eclairage) の表色系値(L、a、b)で分析してその結果を図3に示した。図3に示すように、本発明に係る顔料の明度値Lは79.56、彩度値はa:-6.9、b:-1.95で表された。従って、自然な緑色系の色を呈することが分かる。
【0030】
前記実施例及び試験例から明らかなように、酸化銅と酸化錫で混合して酸化焼成すれば、陶磁器用緑色顔料を得ることができる。また、この緑色顔料を釉薬と混合し、この釉薬混合物を陶磁器に塗布した後、陶磁器を還元焼成すれば、緑色系を呈する陶磁器を得ることができる。
【0031】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明に係る技術的思想の範囲から逸脱しない範囲内で様々な変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に属する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化錫(SnO)及び酸化銅(CuO)を混合する段階と、
前記混合物を1000〜1300℃の焼成温度で酸化焼成して焼成物を得る段階と、
前記焼成物を粉砕する段階と
を含む酸化銅を用いた還元焼成用緑色系顔料の製造方法。
【請求項2】
前記酸化錫及び酸化銅を混合する段階で、前記酸化錫100重量部に対して酸化銅は1〜10重量部で混合されることを特徴とする請求項1に記載の酸化銅を用いた還元焼成用緑色系顔料の製造方法。
【請求項3】
前記酸化焼成時間は30分〜3時間であることを特徴とする請求項1に記載の酸化銅を用いた還元焼成用緑色系顔料の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項により製造された酸化銅を用いた還元焼成用緑色系顔料。
【請求項5】
酸化錫(SnO)及び酸化銅(CuO)を混合する段階と、
前記混合物を1000〜1300℃の焼成温度で酸化焼成して焼成物を得る段階と、
前記焼成物を粉砕する段階と、
前記粉砕された焼成物を釉薬と混合する段階と、
前記釉薬混合物を陶磁器に塗布した後に還元焼成する段階と
を含む緑色系陶磁器の製造方法。
【請求項6】
前記粉砕された焼成物を釉薬と混合する段階で、前記粉砕された焼成物は1〜10重量%、前記釉薬は99〜90重量%で混合されることを特徴とする請求項5に記載の緑色系陶磁器の製造方法。
【請求項7】
前記還元焼成は1000〜1300℃で行われることを特徴とする請求項5に記載の緑色系陶磁器の製造方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−275515(P2010−275515A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149599(P2009−149599)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(509179157)明知大學校 産學協力團 (1)
【氏名又は名称原語表記】MYONGJI UNIVERSITY Industry and Academia Cooperation Foundation
【住所又は居所原語表記】San 38−2, Nam−dong, Choin−gu, Yongin−si, Gyeonggi−do, 449−030, Republic of Korea
【Fターム(参考)】