説明

酸味が低減・緩和された未発酵のビール風味麦芽飲料およびその製造方法

【課題】pH調整剤による酸味が低減・緩和されるとともに、ビールの風味を備えた未発酵の麦芽飲料とその製造方法を提供する。
【解決手段】麦汁とpH調整剤とタンパク質加水分解物とを含んでなる、pHが4.0未満の未発酵のビール風味麦芽飲料であって、タンパク質加水分解物を麦汁に存在させることによって、pH調整剤の酸味が低減・緩和されたビール風味麦芽飲料。
【効果】pH調整剤による酸味が低減・緩和されるとともに、ビール風味飲料としての味の調和が図られた未発酵の麦芽飲料とその製造方法が提供される。本発明による麦芽飲料は、食品衛生法により要求される殺菌基準を満たす未発酵の麦芽飲料でありながら、ビール風味飲料として遜色のない味の調和が図られていることから、これまで両立しえなかったアルコールゼロとビール風味飲料という需要者のニーズに応えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸味が低減ないし緩和された未発酵のビール風味麦芽飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向の高まりの中でアルコール摂取量を自己管理する消費者が増加している。また、飲酒運転に対する罰則の強化など道路交通法の改正により、自動車等の運転に従事する者のアルコール摂取に対する関心が高まっている。このような中で低アルコールあるいは無アルコールのビール風味麦芽飲料への需要が一段と高まっている。
【0003】
従来の低アルコールビール風味麦芽飲料は、通常のビール飲料同様、酵母による発酵を行うことでビールの風味を飲料に付与し、併せてアルコールの低減を図っている。これは、ビールと同様の味や香りを需要者が期待するため、アルコール発酵を完全に排除して低アルコール麦芽飲料を製造することは困難であると考えられてきたことによる。従って、従来の低アルコールビール風味麦芽飲料の製造は酵母による発酵が行われることを前提とし、酵母による代謝プロセスの改良や発酵生成物からアルコールを効果的に除去する方法が検討されてきた。
【0004】
しかしながら、従来の技術ではいずれも酵母による発酵を前提としており、製品からアルコールを完全に除去することは現実的に不可能であった。従って、従来の低アルコールビール風味麦芽飲料はアルコールを摂取したくない者や自動車等を運転する者の飲用には適していない。
【0005】
一方で、単に酵母による発酵を排除し、麦芽により生成された麦汁を最終製品とした場合、飲料の扱いとなるため、食品衛生法に基づき(厚生省告示第213号)、pH4.0未満の麦汁は、65℃×10分またはこれと同等以上の殺菌が必要となり、pH4.0〜4.6であれば85℃×30分またはこれと同等以上の殺菌が必要となるが、特に殺菌設備の制約上あるいは殺菌にかかるエネルギーコストなどの観点から、製品pH4.0未満の設計を選択した場合、強烈な酸味が問題となる。
【0006】
食品添加物等を添加してpHを低下させる方法が一般的となるが、酵母など微生物による発酵を経てpHを下げたビールなどの発酵飲料に比較すると、添加物によってpHを4.0未満とした麦芽飲料の酸味は鋭く、他の味とのバランスを欠き大変不快である。果汁を用いた清涼飲料や、刺激を目的とする一般的な炭酸飲料が、爽快感を目的としてある程度の酸味を許容するのに対し、ビール風味の麦芽飲料の場合は酸味が目立つことは香味上致命的であり、甘味・苦味・旨味など他の味と調和のとれた酸味の質および強度が求められる。
【0007】
ところで、特開2002−101845号公報(特許文献1)には、植物由来のタンパク質加水分解物により、飲食品中における酸味成分に由来する酸味や刺激臭を改善する方法が開示されている。しかし、特許文献1は、特に、卵製品、畜肉や水産物を使った加工食品等の飲食品の酸味の抑制について開示するものであり、麦汁主体のビール風味麦芽飲料での酸味の抑制については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−101845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、pH調整剤による酸味が低減・緩和されるとともに、ビール風味飲料として遜色のない味の調和が図られた未発酵のビール風味麦芽飲料とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、pH調整剤によりpHを4.0未満に調整した麦汁にタンパク質加水分解物を存在させることにより、pH調整剤の酸味を低減・緩和できるとともに、ビール風味飲料として遜色のない味の調和を図ることができることを見出した。タンパク質加水分解物を麦汁に存在させることによってpH調整剤の強烈な酸味を低減・緩和できるとともに、ビール風味飲料としての味の調和を未発酵の麦汁で実現できることは、本発明者らにとって驚くべきことであった。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0011】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)麦汁と、pH調整剤と、タンパク質加水分解物とを含んでなる、pHが4.0未満である未発酵のビール風味麦芽飲料であって、タンパク質加水分解物によってpH調整剤の酸味が低減・緩和された、ビール風味麦芽飲料。
(2)pH調整剤が、1種または2種以上のpKaが2〜4の有機酸および/または無機酸である、(1)に記載の飲料。
(3)麦汁が、麦芽粉砕物および水を含んでなる混合物を糖化して得られたものである、(1)に記載の飲料。
(4)飲料中の全窒素濃度が、250〜275mg/Lである、(1)に記載の飲料。
(5)飲料中の塩素イオン濃度が、65〜200mg/Lである、(1)に記載の飲料。
(6)飲料中の全窒素濃度(mg/L)と飲料中の塩素イオン濃度(mg/L)との積が、16000〜60000である、(1)に記載の飲料。
(7)麦汁に、pH調整剤と、タンパク質加水分解物とを添加し、タンパク質加水分解物によってpH調整剤の酸味が低減・緩和されたことを特徴とする、pHが4.0未満である未発酵のビール風味麦芽飲料の製造方法。
【0012】
本発明によれば、pH調整剤による酸味が低減・緩和されるとともに、ビール風味飲料としての味の調和が図られた未発酵の麦芽飲料とその製造方法が提供される。本発明による麦芽飲料は、食品衛生法により要求される殺菌基準を満たす未発酵の麦芽飲料でありながら、pH調整剤の強烈な酸味が低減・緩和されるとともに、ビール風味飲料として遜色のない味の調和が図られていることから、これまで両立しえなかったアルコールゼロとビール風味飲料という需要者のニーズに応えることができる点で有利である。
【発明の具体的説明】
【0013】
定義
本発明において「麦芽飲料」とは、麦汁を主体とする飲料を意味し、炭酸ガス等により清涼感が付与された麦芽清涼飲料も含まれるものとする。
【0014】
本発明において「ビール風味」とは、通常にビールを製造した場合、すなわち、酵母等による発酵に基づいてビールを製造した場合に得られるビール特有の味わい、香りをいう。
【0015】
本発明において「完全無アルコール」とは、アルコールが全く含まれないこと、すなわち、アルコール含量が0重量%であることを意味する。
【0016】
本発明において「酸味」とは、5種類の味覚(甘味、塩味、酸味、苦味、旨味)から構成される基本味の一つであり、酸により呈されるすっぱい味をいう。また、酸味の「低減・緩和」とは、摂取した者が感じる酸味の程度(強度)が弱くなることをいう。
【0017】
本発明において「ビール風味飲料としての味の調和」とは、ビール風味飲料として評価した場合に、酸味と他の味(旨味・甘味・苦味など)との釣り合いがとれていることをいう。
【0018】
麦芽飲料
本発明による麦芽飲料は、pH調整剤が添加された麦汁において、pH調整剤の酸味がタンパク質加水分解物によって低減・緩和されたことを特徴とする。本発明による麦芽飲料は未発酵の麦汁を使用していることから、発酵に由来するアルコール成分を一切含まない。以下、麦汁、pH調整剤、タンパク質加水分解物について説明する。
【0019】
[麦汁]
本発明による麦芽飲料を構成する麦汁は、麦芽粉砕物と水との混合物を糖化して得られたものを使用することができる。
【0020】
麦芽粉砕物と水の混合物には副原料を添加してもよい。副原料としては、例えば、米、コーンスターチ、コーングリッツ、糖類(例えば、果糖ブドウ糖液糖などの液糖)、食物繊維などが挙げられる。副原料が糖類の場合には麦汁を糖化ないし濾過した後に添加してもよい。また、水はその全量を麦芽粉砕物と混合しても、あるいはその一部を麦芽粉砕物と混合し、残りを全部または分割して糖化後の麦汁に添加してもよい。また、後述するように麦芽粉砕物と水との混合物を糖化して得られたものにホップを加え、煮沸することで麦汁にホップの風味・香りを付与することができる。
【0021】
麦汁を構成する麦芽粉砕物、副原料および水の割合は適宜決定することができるが、最終的な麦汁の糖度が3〜20%、好ましくは、7〜14%となるように麦芽粉砕物、副原料および水の割合を決定してもよい。麦芽粉砕物、副原料および水の割合は、例えば、麦芽粉砕物100重量部に対して、副原料0〜100重量部、水400〜2000重量部、好ましくは、副原料0〜30重量部、水600〜1300重量部とすることができる。副原料が果糖ブドウ糖液糖および食物繊維の場合には、麦芽粉砕物、副原料および水の割合は、例えば、麦芽粉砕物100重量部に対して、副原料10〜40重量部、水800〜1500重量部、好ましくは、副原料20〜30重量部、水1000〜1200重量部とすることができる。この場合、果糖ブドウ糖液糖と食物繊維の重量比(固形分)は1:0.1〜10とすることができる。
【0022】
[pH調整剤]
本発明による麦芽飲料を構成するpH調整剤は、pHを酸性側に、すなわち、低pH側に調整する成分を意味し、このようなpH調整剤としては、pKa(酸解離定数)が2〜4の食品で許容される有機酸(例えば、乳酸、グルコン酸、クエン酸、およびリンゴ酸)および無機酸(例えば、リン酸)からなる群から選択される1種または2種以上の酸が挙げられる。麦芽飲料中のpH調整剤の含有量、種類、組み合わせは本発明による麦芽飲料のpHを4.0未満に調整できるとともに、ビール風味を損なわない限り特に限定されるものではない。
【0023】
本発明では後述のタンパク質加水分解物を添加することによりpH調整剤の酸味が低減・緩和されるが、本発明によるビール風味麦芽飲料ではビール風味飲料として許容される酸味は残存しており、その観点からはpH調整剤は酸味料としての側面を有していることはいうまでもない。
【0024】
[タンパク質加水分解物]
本発明による麦芽飲料を構成するタンパク質加水分解物は、各種タンパク質原料を加水分解することにより生成されるものを意味し、2以上のアミノ酸からなるペプチドを少なくとも含んでなる。タンパク質加水分解物は、例えば、2〜150個のアミノ酸からなる(ポリ)ペプチド、好ましくは、2〜100個のアミノ酸からなる(ポリ)ペプチドを含んでなる混合物である。
【0025】
本発明において使用されるタンパク質加水分解物は、pHが酸性側に調整された未発酵麦汁の酸味を低減・緩和できるとともに、ビール風味飲料としての味の調和を図ることができるものであり、また、ビール風味飲料に、後述するような所定の全窒素濃度や塩素イオン濃度を与えることができる。
【0026】
本発明において使用されるタンパク質加水分解物は、市販されているものを入手することができる。
【0027】
本発明において使用されるタンパク質加水分解物は、任意のタンパク質を加水分解することにより製造することもできる。タンパク質は、動物性タンパク質(例えば、畜肉(牛肉、豚肉等)、家禽肉(鶏肉等)等のゼラチン質由来のタンパク質等)、植物性タンパク質(例えば、豆類(大豆等)、穀類(小麦、とうもろこし等)由来のタンパク質)が挙げられる。加水分解は、例えば、酵素分解法、塩酸分解法等が挙げられるが、好ましくは、塩酸分解法である。タンパク質加水分解物は、単一成分として使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
タンパク質加水分解物は塩の形態で添加されてもよく、pHが酸性側に調整された未発酵麦汁の酸味を低減・緩和できるとともに、ビール風味飲料としての味の調和を図ることができる限り塩の種類は特に限定されるものではない。本発明において使用できるタンパク質加水分解物の塩としては、食品で許容される周知の塩が挙げられ、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩や、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩を使用することができる。好ましくは、ナトリウム塩を使用することができる。
【0029】
タンパク質加水分解物としては、例えば、タンパク質加水分解物中に、全窒素の量を2〜25w/w%、好ましくは、3〜15w/w%で含むものを使用することができる。
【0030】
タンパク質加水分解物としては、また、例えば、タンパク質加水分解物中に、塩素イオンの量を14〜40w/w%、好ましくは、15〜30w/w%で含むものを使用することができる。
【0031】
タンパク質加水分解物は、pHが酸性側に調整された未発酵麦汁の酸味を低減・緩和するとともに、ビール風味飲料としての味の調和をよりよく達成する観点から、飲料中の全窒素濃度が、250〜275mg/Lとなるように添加することができる。
【0032】
本発明において全窒素濃度は、欧州ビール醸造者団体(EBC)で燃焼法として登録されている分析法を用いて測定することができる。ここで、「燃焼法」は、具体的には、サンプルを高温で燃焼し、生じた窒素酸化物を窒素に還元し、生じた窒素ガスをカラムで分離して熱伝導検出器で検出することにより測定することができる(Analytica-EBC, 9.9.2 Dumas Combustion Method (1997))。
【0033】
タンパク質加水分解物は、また、pHが酸性側に調整された未発酵麦汁の酸味を低減・緩和するとともに、ビール風味飲料としての味の調和をよりよく達成する観点から、飲料中の塩素イオン濃度が、65〜200mg/L、好ましくは、70〜150mg/Lとなるように添加することができる。
【0034】
本発明において塩素イオン濃度は、キャピラリー電気泳動法を用いて測定することができる。ここで、「キャピラリー電気泳動法」は、具体的には、サンプルをキャピラリーに注入、電気泳動し、分離されたイオンの濃度を予め測定した検量線から算出することにより測定することができる(BCOJビール分析法、8.24 有機酸、8.24.2 キャピラリー電気泳動法)。
【0035】
実施例によれば、タンパク質加水分解物が添加されたビール風味飲料については、全窒素濃度と塩素イオン濃度との積が特定の範囲にある場合に、pHが酸性側に調整された未発酵麦汁の酸味が低減・緩和されるとともに、ビール風味飲料としての味の調和がよりよく達成されることが認められた。従って、タンパク質加水分解物は、飲料中の全窒素濃度(mg/L)と塩素イオン濃度(mg/L)との積が、16000〜60000、好ましくは、16000〜55000、より好ましくは、16000〜50000、さらにより好ましくは、16000〜45000、特に好ましくは、16000〜40000となるように添加することができる。
【0036】
麦芽飲料の製造方法
本発明によれば、麦汁にpH調整剤と、タンパク質加水分解物とを添加し、タンパク質加水分解物によってpH調整剤の酸味が低減・緩和されたことを特徴とする、pHが4.0未満の未発酵のビール風味麦芽飲料の製造方法が提供される。
【0037】
本発明による麦芽飲料に使用される麦汁は、常法に従って調製することができる。例えば、(a)麦芽粉砕物と水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得る工程、(b)得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸する工程、(c)煮沸した麦汁を冷却する工程を行うことにより麦汁を調製することができる。
【0038】
工程(a)において、麦芽粉砕物は、大麦、例えば二条大麦を、常法により発芽させ、これを乾燥後、所定の粒度に粉砕したものであれば良い。麦芽粉砕物と水と場合によっては副原料の混合物の糖化および濾過は常法に従って実施することができる。
【0039】
工程(b)では、(a)で得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸することによりホップの風味・香気を煮出することができる。煮沸後、沈殿により生じたタンパク質などの粕を除去してもよい。
【0040】
工程(c)では、煮沸した麦汁を冷却する。この冷却は、麦汁が凍らない程度の極力低い温度、通常、1〜5℃まで冷却するのが望ましい。
【0041】
得られた麦汁を濾過して不要なタンパク質を除去することができる。濾過は常法に従って行うことができるが、好ましくは、珪藻土濾過機を用いて行うことができる。濾過に当たっては、麦汁に脱気水を加えて希釈後に濾過し、最終製品の糖度を3〜8%に調整してもよい。
【0042】
濾過の後、通常のビールまたは発泡酒の製造において行われる工程、例えば、脱気水などによる最終濃度の調節、炭酸ガスの封入、低温殺菌(パストリゼーション)、容器(例えば樽、壜、缶)への充填(パッケージング)、容器のラベリングなど、を適宜行うことができる。
【0043】
pH調整剤と、タンパク質加水分解物とは、麦汁の糖化前に添加しても、麦汁を糖化ないし濾過した後に添加してもよい。pH調整剤と、タンパク質加水分解物とは、一緒に添加しても、別々に添加してもよく、別々に添加される場合にはいずれを先に添加してもよい。複数のタンパク質加水分解物を添加する場合や、複数のpH調整剤を添加する場合も、各成分を一緒に添加しても、別々に添加してもよく、別々に添加される場合にはいずれを先に添加してもよい。
【0044】
タンパク質加水分解物は、pHが酸性側に調整された未発酵麦汁の酸味を低減・緩和するとともに、ビール風味飲料としての味の調和をよりよく達成する観点から、麦汁に、例えば、飲料中の全窒素濃度が250〜275mg/Lとなるように添加することができる。
【0045】
タンパク質加水分解物は、pHが酸性側に調整された未発酵麦汁の酸味を低減・緩和するとともに、ビール風味飲料としての味の調和をよりよく達成する観点から、麦汁に、例えば、飲料中の塩素イオン濃度が65〜200mg/L、好ましくは、70〜150mg/Lとなるように添加することができる。
【0046】
タンパク質加水分解物は、pHが酸性側に調整された未発酵麦汁の酸味を低減・緩和するとともに、ビール風味飲料としての味の調和をよりよく達成する観点から、麦汁に、例えば、飲料中の全窒素濃度(mg/L)と塩素イオン濃度(mg/L)との積が、16000〜60000、好ましくは、16000〜55000、より好ましくは、16000〜50000、さらにより好ましくは、16000〜45000、特に好ましくは、16000〜40000となるように添加することができる。
【0047】
麦汁には、また、香料、色素、起泡・泡持ち向上剤などの添加剤を添加してもよい。これらの添加剤は、麦汁の糖化前に添加しても、麦汁を糖化ないし濾過した後に添加してもよい。
【0048】
本発明の好ましい態様によれば、糖度3〜20%の麦汁と、pH調整剤と、タンパク質加水分解物とを含んでなる、pHが4.0未満の未発酵のビール風味麦芽飲料であって、飲料中の全窒素濃度が250〜275mg/Lであり、タンパク質加水分解物によってpH調整剤の酸味が低減・緩和された、ビール風味麦芽飲料およびその製造方法が提供される。
【0049】
本発明の好ましい態様によれば、糖度3〜20%の麦汁と、pH調整剤と、タンパク質加水分解物とを含んでなる、pHが4.0未満の未発酵のビール風味麦芽飲料であって、飲料中の塩素イオン濃度が65〜200mg/L(より好ましくは、70〜150mg/L)であり、タンパク質加水分解物によってpH調整剤の酸味が低減・緩和された、ビール風味麦芽飲料およびその製造方法が提供される。
【0050】
本発明の好ましい態様によれば、糖度3〜20%の麦汁と、pH調整剤と、タンパク質加水分解物とを含んでなる、pHが4.0未満の未発酵のビール風味麦芽飲料であって、飲料中の全窒素濃度(mg/L)と塩素イオン濃度(mg/L)との積が、16000〜60000(好ましくは、16000〜55000、さらに好ましくは、16000〜50000、さらにより好ましくは、16000〜45000、特に好ましくは、16000〜40000)であり、タンパク質加水分解物によってpH調整剤の酸味が低減・緩和された、ビール風味麦芽飲料およびその製造方法が提供される。
【実施例】
【0051】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0052】
実施例1:完全無アルコールのビール風味飲料の製造およびその評価
(1)麦汁の調製
仕込槽に麦芽粉砕物200kgと温水700Lを加えて混合し、50〜76℃で糖化を行った。糖化工程終了後、これを麦汁濾過槽において濾過して、その濾液として透明な麦汁を得た。
【0053】
得られた麦汁を煮沸釜に移し、これに液糖を主体とする副原料80kg(固形分換算)を加え、更にホップを1kg加えて、100℃で煮沸した。煮沸した麦汁をワールプール槽に入れて、乳酸をpH4.0になるように添加した。次いで、沈殿により生じたタンパク質などの粕を除去した。この際、煮沸後の麦汁に温水を加え、糖度を7%に調整した。得られた麦汁(1,800L)をプレートクーラーで4℃まで冷却し、脱気水を加えて珪藻土濾過機により濾過して後述の官能評価試験と成分分析に供する麦汁(糖度4%)を得た。なお、振動式密度計により測定した20℃における密度を糖度(%)とした。
【0054】
(2)酸味の評価
(1)で調製された麦汁に、麦汁1L当たり表1に示すような量で動物性タンパク質加水分解物(商品名:CH協和(キリン協和フーズ社製);豚ゼラチンの加水分解物)を、表2に示すような量で植物性タンパク質加水分解物(商品名:HPP協和4BE(キリン協和フーズ社製);小麦およびとうもろこしの加水分解物)をそれぞれ添加し、官能評価試験に供した。具体的には、良く訓練され、ビール系飲料の評価に熟練したパネル8名により、以下の基準で酸味の強度および酸味の質について官能評価を行った。
【0055】
[酸味の強度]
0:顕著に酸味が低減・緩和され、酸味が気にならない強度になっている。
1:酸味はあるが、無添加対照区より明らかに酸味が低減・緩和されている。
2:無添加対照区と比較して同程度、または酸味を増強する(反対の効果)
(評価に当たっては、各パネルが独立点数付けを行い、平均したものを評価結果とした。平均点1.25以下を酸味の低減・緩和効果ありと判断する。)
【0056】
[酸味の質の評価]
×:ビール風味飲料として、酸味と他の味(旨味・甘味・苦味など)との調和を欠いている。酸味は低減・緩和されているが、他の味が突出してしまう場合も含む。
△:×と○の中間でどちらともいえない。
○:ビール風味飲料として、酸味と他の味(旨味・甘味・苦味など)との調和があり、ビール風味飲料として求められる酸味の質となっている。
(各パネルがディスカッションを行いながら決定した。)
【0057】
官能評価試験の結果は以下の通りであった。
【表1】

【表2】

【0058】
タンパク質加水分解物は、酸味の低減・緩和効果があることが認められた。一方、50mg/L程度となるような低濃度の添加では、酸味低減の効果は感じられるものの、なお酸味が残っているような感じであった。また、1000mg/L以上となるような高濃度の添加では、酸味低減効果は大きいものの、突出した旨味がビール風味飲料としての味の調和感が崩し、またダシ様の独特の香りが邪魔になる傾向にあった。
以上のことから、タンパク質加水分解物は、一定の範囲において、ビール風味飲料としての味の調和を保ちつつ、pH調整剤による酸味を低減・緩和できることが判明した。
【0059】
(3)化学分析による評価
実施例1の(2)で使用された各サンプルについて、全窒素濃度と塩素イオン濃度を測定した。対照として、市販のビール飲料(市販品1〜3)についても同様に、全窒素濃度と塩素イオン濃度を測定した。なお、市販品1〜3のいずれにもタンパク質加水分解物は含まれていない。
全窒素濃度は、EBCで登録された燃焼法に従って、スミグラフNC−900(住化分析センター)を用いて測定した。
塩素イオン濃度は、BCOJの有機酸分析法に基づくキャピラリー電気泳動法に従って、キャピラリー電気泳動システム(アジレント社)を用いて測定した。
その結果を表3に示す。
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦汁と、pH調整剤と、タンパク質加水分解物とを含んでなる、pHが4.0未満である未発酵のビール風味麦芽飲料であって、タンパク質加水分解物によってpH調整剤の酸味が低減・緩和された、ビール風味麦芽飲料。
【請求項2】
pH調整剤が、1種または2種以上のpKaが2〜4の有機酸および/または無機酸である、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
麦汁が、麦芽粉砕物および水を含んでなる混合物を糖化して得られたものである、請求項1に記載の飲料。
【請求項4】
飲料中の全窒素濃度が、250〜275mg/Lである、請求項1に記載の飲料。
【請求項5】
飲料中の塩素イオン濃度が、65〜200mg/Lである、請求項1に記載の飲料。
【請求項6】
飲料中の全窒素濃度(mg/L)と飲料中の塩素イオン濃度(mg/L)との積が、16000〜60000である、請求項1に記載の飲料。
【請求項7】
麦汁に、pH調整剤と、タンパク質加水分解物とを添加し、タンパク質加水分解物によってpH調整剤の酸味が低減・緩和されたことを特徴とする、pHが4.0未満である未発酵のビール風味麦芽飲料の製造方法。