説明

酸性溶液中の金属の分析

1つの実施形態において、弱アニオン交換樹脂を用いて、少なくとも1種の金属を含む酸性溶液のマトリックスを中和する方法を提供する。本方法は、弱アニオン交換樹脂を弱酸性の金属錯化試薬にて活性化し(この弱酸性の金属錯化試薬の一部がプロトンと金属錯化アニオンとに解離しており、それによって弱アニオン交換樹脂中のいくつかの官能基がプロトン化され、そして金属錯化アニオンと結合する);そして活性化された弱アニオン交換樹脂で酸性溶液サンプルを中和する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は2004年10月5日に出願された米国仮出願No.60/615,817の利益を主張しており、その内容はここに参考として援用される。
【0002】
背景
1.発明の分野
本発明は概して溶液の分析に関する。より詳細には、本発明は酸性溶液中の金属の分析及び検出に関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術の議論
溶液サンプルのマトリックスは、現代の分析機器による微量分析物(trace analytes)の検出又は定量化において大きな影響を与える。例えば、酸性マトリックスは金属の検出及び定量化を不明確にし得る。酸性マトリックス中での金属の検出、同定、及び/又は計測の困難さは、多くの異なった分析ツールにおいて存在する。例えば、酸性マトリックスはイオンクロマトグラフィー内の微量金属(trace metals)の検出及び定量化を不明確にし得る。酸性マトリックスはまた、誘導結合プラズマ質量分析といった質量分析においても問題である。
【0004】
質量分析は、一般に、溶液中の元素及び化合物のパーツパービリオン(ppb)及びパーツパートリリオン(ppt)といったサブppbレベルの測定のために選択される技術である。例えば現出願人であるメタラ,インコーポレイテッドは、半導体製造者といったユーザーがウェットプロセスバス(wet process baths)及びクリーニング溶液(cleaning solutions)の化学物質を検出及び定量化することを初めて可能にした自動インプロセス質量分析(automated in− process mass spectrometry (IPMS))ツールを開発した。伝統的な質量分析計とは異なり、IPMS技術は自動であり、人の介入を必要としない。対照的に、誘導結合プラズマ質量分析計(inductively−coupled−plasma mass spectrometer (ICP−MS))といった伝統的な質量分析計の使用には高度に訓練された人員が注意を払う必要がある。
【0005】
ICP−MSの使用は、検量線が最初にユーザーによって設定されるという点で、典型的な“オープンループ(open loop)” である。一般に、連続的に濃縮された(又は希釈された)興味ある分析物の溶液はICP−MS機器を通じて処理され、そして結果が記録される。例えば、10ppm溶液が処理され、そして20ppm溶液が処理され、という具合に処理される。検量線を設定することで、ユーザーは興味ある溶液を分析し得る。検量線に対する分析物からのレスポンスを比較することで、ユーザーは分析物の量を決定し得る。例えば、もしそのレスポンスが検量線の10ppmと20ppmの中間点に位置するのであれば、15ppmの量だと推定され得る。
【0006】
しかし、ICP−MSツールは、時間の経過につれてレスポンスがシフトする傾向がある。その上、検量標準物質(calibration standard)とサンプルのマトリックスの違いが原因でレスポンスのシフトが起こり得る。例えば、もし組成物中で酸性マトリックスがシフトしたら、検量プロセス(calibration process)を繰り返さなければならない。これらのレスポンスのシフトは速やかに起こり得、熟練した技術者による頻繁な再検量が必要である。このように、伝統的な質量分析計分析は、半導体製造といった連続的で無人運転が必要となる用途のためには、不適当である。しかし、伝統的な技術とは対照的に、IPMS機器は“クローズドループ(closed loop)”であり、そしてレスポンスシフトに苦しむこともない。
【0007】
IPMS機器においては、プロセッサーが、興味ある溶液の自動サンプリング、検量標準物質によるサンプルのスパイク、スパイクされたサンプルのイオン化、レスポンス比(ratio response)を得るためにイオン化されたスパイクサンプルを質量分析計に通す処理、及びサンプル中の分析物の量を決定するためのレスポンス比の分析をコントロールする。公知技術であるオープンループ技術とは異なり、レスポンスのドリフトは問題にならない−ドリフトは同じ様式でスパイク及びサンプルに影響し、そのためレスポンス比においてはキャンセルされる。このように、手動による介入及び再検量を必要とせず、自動運転は実行され得る。加えて、1つの実施形態において、スパイクされたサンプルをイオン化するため、エレクトロスプレーといった大気圧イオン化法(API)を使用することにより、安定的で信頼性のある運転が保証される。その上、APIの使用は、分子種の特徴付けを高める。さらに、IPMS技術は微量又は大量濃度のどちらの分析物の分析にも適用可能である。
【0008】
IPMS技術の新規及び有利な特性にもかかわらず、この技術を用いた酸性マトリックス中の金属の検出及び分析へのチャレンジ(challenges)が残されている。その上、これらのチャレンジ(challenges)はまた、イオンクロマトグラフィーといった他の分析技術にも存在する。酸性マトリックスの例としては、半導体製造に一般に用いられるクリーニング溶液でStandard Clean 2溶液(SC2)として知られ、これは異なる比率の塩酸(HCl)、過酸化水素(H)、及び水の溶液である。SC2は、可溶性の塩化物錯体を形成することにより、シリコンウェハーの表面から金属の残留物を除去するために使用され得る。半導体製造に使用される最も一般的なSC2の比率は、37%HCl(1部):30%H(1部):超純水(UPW)(6部)である。
【0009】
半導体デバイスの形状の連続的な縮小は、SC2といったプロセス溶液(process solutions)中の汚染物質の増大したコントロールを必要とする。汚染物質のコントロールは重要である。なぜならSC2はデバイス製造の間、電気回路に直接接触するからである。このように、使用前及び使用後のSC2溶液の金属汚染物質の定量及び管理は、例えば半導体製造収量の最適化において、非常に重要である。
【0010】
強酸のSC2溶液中の高マトリックスのプロトンと塩素イオンのために、微量レベルの多くの金属のオンライン測定は非常に困難である。こういったマトリックスは、質量分析計又はイオンクロマトグラフィーといった分析機器での金属の分析を不明確にする。例えば、金属はエレクトロスプレーイオン化プロセスではイオン化しないため、対応する質量分析計はそれらを測定又は検出できない。その上、誘導結合プラズマイオン化(inductively−coupled plasma ionization)といった他の型のイオン化が使用されても、対応する質量分析計は、機器への損傷及び/又は干渉問題無しに、こういった過酷な(harshly)酸性マトリックスを受け入れることはできない。このように、こういったマトリックス中の金属の分析では、マトリックスの影響を軽減するためにしばしばマトリックスの希釈を必要とする。しかし、超微量濃度(ultra trace concentrations)の金属の希釈は、測定不可能レベルの金属濃度にまで希釈しがちである。バックグラウンドノイズが、希釈された超微量濃度を圧倒し、質量分析計でのそれらの検出又は正確な特徴付けができない。1つの代替解決策として、マトリックスはオフラインプロセスでの熱及び/又は蒸発により除去され得る。しかし、ホウ素又は水銀といった揮発性の化学種はそのとき失われる。その上、この場合、分析のためのサンプル準備を完了するために、通常24から48時間必要である。よって、ほとんどのケースにおいて、もし問題(例えばSC2中の不純物)が検出されたら、不良品のプロセッシングがしばらくの間起こることになり、潜在的な損失が大きくなる。
【0011】
酸性マトリックスの分析のため使用される分析ツールに関わらず、オフライン分析における他の問題は、収集開始から分析終了までのSC2サンプルの一貫性の維持である。例えば、SC2クリーニングは一般的に約60℃から約75℃間の高温で行われ、そしてこの温度でSC2のマトリックスは性質上動的であり、SC2の成分は連続的に他の成分と反応しており、経時的に及び温度とともに変化し得る。従って、サンプルが分析のため実験室に到着するまでに、そのサンプルは回収時のような典型的な配合ではない可能性がある。加えて、SC2マトリックスは浮遊する可溶性汚染物質の強力な吸着媒体であり、もしサンプルがサンプリング、輸送又は分析中のどの段階においても、空気にさらされると、そのサンプルのマトリックスは変質してしまうか又は汚染されてしまうかもしれない。その上、サンプリング容器の清潔さは重要であり、非常に多くの時間と資金がサンプリング容器のクリーニングに費やされる。また、サンプル溶液中に存在する金属は、容器の壁面にプレートアウト又は吸着するかもしれない。このように、分析される前にサンプリング容器内にサンプルが入れられていた時間はまた、分析結果に影響し得る。最も清潔なサンプリング容器でさえ、多くの望まれない汚染物質が浸出し得ると報告されている。最後に、オフラインのマトリックス除去、中和、又は修飾は一般に、上述した全ての理由のためにサンプルの一貫性及びその後の分析の正確性に影響し得る、汚染のハイリスク又はサンプルの修飾を引き起こす。このように、酸性マトリックス中の金属のオフライン分析は問題を有する。
【0012】
よって、大気中で酸性マトリックス中の金属を検出及び特徴付けするための改良技術への必要性が存在する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0013】
要約
酸性溶液を中和する、弱アニオン交換樹脂プロセス(process)を開示する。金属(単数または複数)は金属カチオン又は金属錯体を含み得る。このプロセスにおいて、樹脂は弱酸性の金属錯化試薬を用いて活性化される。樹脂中のいくつかの官能基がそれによってプロトン化され、そして金属錯化試薬アニオンと結合する。有利なことに、活性化された樹脂は酸性溶液を中和し、その結果金属(単数または複数)は検出又は特徴付けされ得、一方、樹脂の活性化は、活性化された弱アニオン交換樹脂内での金属(単数または複数)のトラップ、吸着、及び沈殿を制限する。活性化された樹脂は、水酸化アンモニウムといった強塩基溶液を用いて再生され得、その結果酸性溶液のサンプルは弱アニオン交換樹脂を用いて連続的に分析され得る。
【0014】
本発明の、これら並びに他の特徴及び利点は、以下に添付の図面とともに示した実施形態の詳述から、より明らかであろう。
【0015】
異なる図における同様の又は類似の参照符号の使用は、同一または類似のアイテムを示す。これらの図は一定の比率で描かれているわけではないことに注意。
【0016】
詳細な説明
今や、本発明の1つの又はそれ以上の実施形態が詳細に参照される。本発明はこれらの実施形態に関して記載されるが、本発明の他のいかなる特定の実施形態にも制限されないと理解されるべきである。これとは反対に、本発明は添付の請求の範囲の精神と範囲内での代替、変更、及び均等を含む。さらに、以下の記載においては、本発明の完全な理解を提供するため、多くの特定の項目が示される。本発明はいくつかの又は全てのこれらの特定の項目なしで実施され得る。他の例では、よく知られた操作の構造及び原理は、本発明が不明瞭となるのを避けるために詳細まで記載していない。
【0017】
酸性溶液中の金属の分析可能性を改善し得る本発明の出願はまた、他のどの分析方法にも制限されないと理解されるべきである。分析物シグナルの抑制、マトリックスによる分析物シグナルの修飾、機器の損傷又は他のアーチファクトいずれかによって、酸性マトリックスに影響される任意の分析方法の使用は、本発明により利益を受けるであろう。
【0018】
イオン交換樹脂を用いた酸性マトリックスのプロセッシングは、こういったマトリックス中での従来技術による金属の分析に関連する問題を回避する。一般に、多くの問題は、こういったマトリックス中での金属の分析又は検出にイオン交換樹脂を使用することで起こる。例えば、樹脂中の活性基は金属を吸着し得る。加えて、金属は樹脂の空隙にトラップされ得、又は例えば水酸化物イオンと反応して沈殿し得る。さらに、金属は酸化されて沈殿物を形成し得る。このトラップ、吸着、及び沈殿効果は、酸性マトリックス中の金属の分析に非常に問題である。
【0019】
イオン交換樹脂に伴うこれらの問題を回避するために、弱アニオン交換樹脂が酸性マトリックスを中和するために使用される。一般に、イオン交換樹脂は有機ポリマーであり、活性基が共有結合で結合されている。これらの基の性質によって、イオン交換樹脂はカチオン交換樹脂又はアニオン交換樹脂のどちらかに分類され得る。アニオン交換樹脂において、樹脂の骨格に共有結合した官能基又は活性基が正に帯電しており、負に帯電したカウンターイオン(アニオン)を交換し得る。アニオン交換樹脂は、活性基の塩基性度により、弱アニオン交換樹脂又は強アニオン交換樹脂のどちらかに分類され得る。名前が示唆するように、弱アニオン交換樹脂の活性基は(強塩基というよりもむしろ)弱塩基である。一般に、弱アニオン交換樹脂は、第三級アミンまたはポリアミンを官能基として使用するが、十分な弱塩基性度(及び樹脂への共有結合のための好適さ)を有する多くの他の官能基又は活性基も使用され得る。
【0020】
イオン交換カラムを作製するため、弱アニオン交換樹脂は、PFE管のPEEKから構成されるような適当なカラムへ詰められる。或いは、バッチ方式の操作が望ましいのであれば、カラムを使用する必要はない。バッチ方式では、樹脂は単に適当な容器に入れられる必要があるだけである。イオン交換樹脂による金属のトラップ、吸着、及び/又は沈殿に関する問題を回避するため、弱アニオン交換樹脂は弱酸性の金属錯化試薬により最初に活性化される。ここで使用する“弱”酸性の金属錯化試薬とは、交換樹脂内の官能基のpKaとの関係が、該官能基の実質的な部分は弱酸性の金属錯化試薬にさらした後もプロトン化されないままであるようなpKaを有する試薬を指す。
【0021】
樹脂の活性化に用いられる特定の弱酸性の金属錯化試薬にかかわらず、結果として活性化された樹脂は、その官能基の一部がプロトン化される。このプロトン化は弱酸性の金属錯化試薬の解離を必要とし、その結果金属錯化アニオンとプロトン化された官能基の形成が生じる。このアニオンは、当該分野で知られているように、プロトン化された官能基(例えばプロトン化された第三級アミン)に対する特定の結合アフィニティーを有するであろう。
【0022】
活性化された樹脂は、酸性溶液中のマトリックスを減少するのに使用され得る。マトリックス中の酸を中和するため、活性化された樹脂は十分な数の非プロトン化官能基を有するべきである。例えば、前で議論したように、SC2溶液は成分として塩酸(HCL)を含む。塩酸は比較的強酸であるため、弱酸性カチオン錯化剤で処理した後、そのままである樹脂中の本質的に全ての非プロトン化官能基を、プロトン化するであろう。これらのプロトン化された官能基は、HCl化合物からのプロトンの供与により形成された塩化物イオンに結合する。処理の結果、カラムから溶出するSC2溶液はこのように実質的に中性のpHであり、HCl分子は樹脂中の官能基に結合する。金属の検出又は特徴付けを可能にするための、酸性マトリックスの完全な除去は必ずしも必要とされない(――必要なマトリックス除去の程度は、中和されたマトリックスを処理するのに使用される個々の分析機器に依存する)ことは、注目されるべきである。ここで使用する“中和された”とは、7.0のpHではなく、プロトン濃度が、関連する分析を許容できるpHであることを指す。例えば、もし酸性マトリックスがちょうど6.5のpHに中和されれば、与えられた分析ツールは極めて正確に金属を検出し得る。
【0023】
酸性マトリックス中の金属の分析又は検出に関して、適当な有機及び無機の、樹脂を活性化させるための弱酸性の金属錯化試薬は、ギ酸、酢酸、シュウ酸、グリコール酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトロトリアセティックアシッド(NTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレンジアミン(EDA)、グリシン、及びイミノ二酢酸(IDA)を含む。例えば、酢酸は弱アニオン交換樹脂を詰められたカラムを活性化するために使用され得る。金属錯化試薬の弱酸性のために、樹脂中の官能基の比較的小さな割合しかプロトン化されないと考えられる。これらの正に帯電した官能基(例えば正に帯電した第三級アミン)は、弱酸性の金属錯化試薬によりプロトンが供与された後形成される金属錯化アニオンに吸着または結合し得る。
【0024】
弱アニオン交換樹脂を詰められたカラムを通して、単に酸性溶液を溶出することにより、過酷な(harshly)酸性マトリックス中の望まないプロトンレベルを減少できることに注目すること。しかし、微量濃度の金属の検出及び定量において、望まない記憶効果及び他のエラーの原因となる、金属の保持並びにトラップ、沈殿及び酸化といった、前に議論した問題も思い出さなければならない。もし、アニオン交換樹脂が、他のプロセッシング無しに単に酸性マトリックスの除去に使用されたなら、これらの微量金属分析の問題はそのままになる。しかし、微量金属分析は初期の弱酸性の金属錯化試薬による樹脂の活性化によって可能になる。この処理は、すでにプロトン化され、そしてその結果金属錯化アニオンと会合した樹脂中の官能基を比較的小さい割合しか残さないと考えられる。この金属錯化アニオンは、SC2溶液中の塩化物アニオンに対するよりも、プロトン化された官能基に対してより弱い結合アフィニティーを有すると考えられる。従って、塩化物アニオンは金属錯化アニオンと交換する。金属錯化アニオンの大部分は、このように、SC2溶液中に残っているプロトンと結合して非イオン化金属錯化試薬を形成する。なぜなら、溶液中の大部分の弱酸はプロトンとアニオンに解離しないからである。解離した金属錯化試薬アニオンはそのあと自由に金属と錯化して、安定化する。有利なことに、金属の酢酸塩のような金属錯化アニオンの錯化は軽い結合(soft boud)であり、エレクトロスプレーイオン化といった比較的穏やかなイオン化処理でさえ簡単に解離する。その上、金属錯化試薬は弱酸性であるため、pHは実質的に中性(例えばpH6.7)に保たれる。
【0025】
さらに、弱酸性の金属錯化試薬は、処理溶液中での金属の錯化に加えて、さらなる利益を提供すると考えられる。例えば、弱アニオン交換樹脂は一般的に樹脂を通して分配されたある濃度の水酸化物イオンを有する。例えば、第三級アミンは弱塩基にすぎないが、それでも、それは塩基であって、水分子とともにイオン化する傾向を有しており、その結果第三級アミンはプロトン化し、そして水酸化物イオンが産生される。しかし、弱酸性の金属錯化試薬による弱アニオン交換樹脂の活性化は、酸性マトリックス処理前の樹脂からこれらの水酸化物イオンを除去する。これとは反対に、弱酸性の金属錯化試薬による活性化がされなかった樹脂では起こり得ることを考えてみる。酸性マトリックスが、活性化されていない樹脂のカラムに流れ込むにつれ、カラムの注入口付近の水酸化物イオンは酸性マトリックスによって除去される。しかし、マトリックスがカラムを通じて流れるにつれ、中和が継続され、カラムの排出口付近の溶液はほとんど酸性ではなくなる。従って、水酸化物イオンは排出口付近の樹脂中にまだ存在し得る。これらの水酸化物イオンは金属と反応可能であり、これは沈殿物の原因となり、及び微量金属の検出及び特徴付けの能力を妨げる。
【0026】
弱酸性の金属錯化試薬の機能(1種の金属の錯化又は水酸化物イオンの減少又はこれら両方の組み合わせ)にかかわらず、活性化された弱アニオン交換樹脂により達成される利益は劇的である。例えば、図1に伝統的なSC−2溶液の希釈分析結果のマススペクトルを示す。マトリックス効果を軽減するため、SC−2を1000倍希釈し、そして10ppbの検量標準物質(Ni、Cu、及びZn)及び10ppbのIDMSスパイクとともにスパイクした。その結果のサンプルをエレクトロスプレーイオン化し、質量分析計を通じて処理した。図1の検証から、金属のスペクトルレスポンスは10000の振幅を超えていないことが示される。これと対象に、図2に同じ検量標準物質とスパイクを用いたSC−2のマススペクトルを示す。しかし、最初のSC−2サンプルを1000倍希釈してマトリックスを減少したときよりむしろ、スパイクしたSC−2サンプルを、活性化された弱アニオン交換樹脂のカラムを通じて処理した。その結果のサンプルをエレクトロスプレーイオン化し、図1に用いたのと同一の質量分析計(チューニングも同一)を通じて処理した。有利なことに、図2に示された金属のスペクトルレスポンスは、従来技術の希釈法を用いた図1の少なくとも10倍増加した。
【0027】
SC2溶液での処理後、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、又はメチルアミンといった適当な強塩基により、弱アニオン交換樹脂は簡単に再生される。アニオン交換樹脂の再生において、プロトン化された塩基部位は、それらの通常の塩基状態に戻る。例えば、プロトン化された第三級アミンは再生によりニュートラルの状態へ減少される。再生したカラムは弱酸性の金属錯化試薬によって再活性化され、別の酸性マトリックスサンプルを中和し、微量金属を安定化する準備がなされる。
【0028】
当該分野で公知のように、弱アニオン交換樹脂のポリマー骨格は、例えばスチレン−ジビニルベンゼンコポリマー、アクリリック、ポリサッカライド、又は多くの他の適当なポリマーといった、合成ポリマーが基礎となり得る。弱アニオン交換樹脂は一般にビーズの形態で供給され、デンス(ゲル樹脂)又はポーラス(マクロポーラス樹脂)のどちらかであり得る。ここで開示する本技術は特定の形態のビーズに対しては比較的感受性が低い。
【0029】
図3を参照すると、具体的なマトリックス除去機器301(弱アニオン交換樹脂305が詰められたカラム300が組み込まれている)が図示されている。セレクションバルブ310は、カラム300に注入する溶液を選択する。例えば、カラム300が酸性マトリックスの除去を終了すると、カラム300は、セレクションバルブ310の希釈水酸化アンモニウム溶液320(例えば2.0M溶液)といった適当な塩基の選択というコントロールを通じて、再生される。ポンプ325は水酸化アンモニウム溶液320をカラム300へ注入し得る。セレクションバルブ310は、希釈酢酸溶液330といった適当な弱酸性の金属錯化試薬の選択のためコントロールされ得る。ポンプ335は、希釈酢酸溶液330を、樹脂305を活性化するために、カラム300へ注入し得る。
【0030】
特徴付けが望まれる微量金属が入った過酷な酸性マトリックス(例えばSC2溶液)を有する溶液340は、スパイク350を用いてスパイクされ、そしてリザーバー355内で平衡化され得る。スパイクの性質は、行われる分析のタイプに依存する。例えば、IDMS技術においては、スパイクは検出及び特徴付けされる分析物のアイソトープ比を変更する。代替として、内部標準技術においては、スパイクは検出及び特徴付けされる分析物のホモログを含む。どちらのケースでも、スパイクは分析物(興味ある金属(単数又は複数))が、比測定を用いて特徴付けされ得るような既知濃度を有する。三方バルブ360は、リザーバー355内で平衡化されたスパイクサンプルの一部を回収するため、シリンジポンプ365といったポンプを切り替え得る。三方バルブ360及びセレクションバルブ310は、ポンプ365からカラム300へ、回収液の一部を注入することを可能にするためにコントロールされ得る。カラム300からの処理されたスパイクサンプルは、サンプルの酸性マトリックスが除去され、及び微量金属は安定化されているであろう。微量金属は、質量分析計(図示せず)といった対応する分析機器によって特徴付けされ得る。再生及び活性化の工程の間にカラム300からの流出液が分析機器に入るのを防ぐため、カラム300の流出口にある三方バルブ375といったバルブは、これらの工程の間、排水管を選択し得る。しかし、処理サンプルがカラム300から流れ出るとき、三方バルブ375は分析機器を選択する。カラム300は、活性化工程後といった必要時に超純水(UPW)370とともにフラッシュされ得る。この方式で、カラム300を交換することなく、サンプル340は数ヶ月間一日24時間連続して分析され得る。1つの実施例において、微量金属Na+、Ca+2、Cu+2は、pH<2の5%H2SO4内で10ppb(パーツパービリオン)の範囲に検出され得る。カラムを作製するためには、5.6グラムのフリーベース型(free base form)の弱アニオン交換樹脂を2”x0.2”PEEK管に詰める。樹脂は10mlの0.5Mのアセティック(acetic)がカラムを通じて流れることで活性化される。過剰の酢酸はUPWでカラムから洗い出される。そして、2mlのサンプルマトリックスが活性化された樹脂床を通じて処理される。処理されたサンプルマトリックスはpH6.7(どんな分析機器でも検査し得る中性付近)でカラムから溶出される。
【0031】
上で議論したように、IPMS技術は、液状およびガス状の溶液中の微量汚染物質及び成分の自動分析を可能にする。微量分析のための典型的なIPMSツールは、2002年2月28日に出願されたU.S. Ser. No. 10/086,025(その内容はここに参考として援用される)に開示されている。U.S. Ser. No. 10/086,025に開示されたマシーンコントロールは、図3に関して述べたようなマトリックス除去機器をコントロールするため容易に変更される。その結果のIPMSプロセスフローを図4に示す。ステップ400において、サンプルは例えばプロセス溶液(process solution)から抽出される。スパイクは、ppb濃度範囲においてしばしば不安定であり、特徴付けされる金属イオンとおおよそ同じ濃度であるべきである。したがって、ステップ400はまた、U.S. Ser. No. 10/086,025で議論したようなスパイクの希釈を含む。その結果のスパイク及び抽出されたサンプルは、例えば図3に関して議論したようにステップ405において、酸性マトリックスが除去され得る。処理されたスパイクサンプルは、ステップ410においてエレクトロスプレーイオン化及び質量分析計で処理され得る。ステップ415において、質量分析計でのレスポンス比は、サンプル中の微量金属イオン(単数又は複数)濃度を決定するために分析される。
【0032】
本発明の上述の実施形態は単なる実例であり、これに限定されない。広範な局面において本発明から逸脱することなく、様々な変更及び修飾がなされ得る。ゆえに、添付した特許請求の範囲は、全てのこのような本発明の真の精神及び範囲を逸脱しない変更及び修飾を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、SC2溶液のマススペクトルを示しており、ここでSC2溶液の酸性マトリックスは従来の希釈技術に従って低減されている。
【図2】図2は、SC2溶液のマススペクトルを示しており、ここでSC2溶液の酸性マトリックスは本発明の実施形態に従って低減されている。
【図3】図3は、本発明の実施形態に従って酸性マトリックスを中和するための装置を描いた図を示す。
【図4】図4は、本発明の実施形態に従ったマトリックス除去装置を組み込んだIPMSプロセスのフローチャートを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弱アニオン交換樹脂を弱酸性の金属錯化試薬にて活性化すること(この弱酸性の金属錯化試薬の一部がプロトンと金属錯化アニオンとに解離しており、それによって弱アニオン交換樹脂中のいくつかの官能基がプロトン化され、そして金属錯化アニオンと結合する);及び
活性化された弱アニオン交換樹脂で酸性溶液サンプルを中和することを含む、
弱アニオン交換樹脂を用いて、少なくとも1種の金属を含む酸性溶液のマトリックスを中和する方法。
【請求項2】
中和工程後、強塩基溶液により弱アニオン交換樹脂を再生することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項3】
強塩基溶液が水酸化アンモニウムである、請求項2の方法。
【請求項4】
弱酸性の金属錯化試薬がギ酸、酢酸、シュウ酸、グリコール酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトロトリアセティックアシッド(NTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレンジアミン(EDA)、グリシン、及びイミノ二酢酸からなる群より選択される、請求項1の方法。
【請求項5】
該官能基が第二級及び第三級アミンからなる群より選択される、請求項1の方法。
【請求項6】
サンプルをスパイクすること、及び酸性溶液のサンプルを作製するために、スパイクしたサンプルをサンプリングすることをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項7】
中和されたサンプルをイオン化すること;及び少なくとも1種の金属の濃度を特徴付けるために、このイオン化した中和サンプルを質量分析計で処理することをさらに含む請求項6の方法。
【請求項8】
イオン化工程が、中和されたサンプルのエレクトロスプレーイオン化を含む、請求項7の方法。
【請求項9】
イオンクロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動、比色分析、原子吸収、オプティカル・フルオレッセンス、誘導結合プラズマ質量分析、光吸収(optical absorption)、及び誘導結合プラズマ発光分光分析(inductively coupled plasma − optical emission spectrometry ;ICP−OES)からなる群より選択される方法を用いて、中和されたサンプル中の少なくとも1種の金属の濃度を分析することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項10】
弱アニオン交換樹脂が詰められたカラム;及び少なくとも1つのセレクションバルブ(この少なくとも1つのセレクションバルブは、弱酸性の金属錯化剤と少なくとも1種の微量金属を含む酸性溶液の供給源を選択し、その結果弱酸性の金属錯化剤と酸性溶液が連続してカラムを通過して流れ、それによって酸性溶液が中和されるように配置される)を備えたマトリックス除去装置。
【請求項11】
少なくとも1つのセレクションバルブが弱アニオン交換樹脂の再生のための塩基性溶液を選択するようにさらに配置される、請求項10のマトリックス除去装置。
【請求項12】
中和された溶液中の少なくとも1種の金属の濃度を特徴付けるように配置された分析機器をさらに備える、請求項11のマトリックス除去装置。
【請求項13】
分析機器が交換クロマトグラフィーカラムを備える、請求項12のマトリックス除去装置。
【請求項14】
分析機器が質量分析計を備える、請求項12のマトリックス除去装置。
【請求項15】
質量分析計への導入のために、中和されたサンプルをイオン化するためのエレクトロスプレーイオナイザー(electrospray ionizer)をさらに備える、請求項14のマトリックス除去装置。
【請求項16】
酸性溶液中の少なくとも1種の金属を特徴付ける方法であって、
酸性溶液をサンプリングすること;
該サンプルをスパイクすること;
ギ酸、酢酸、シュウ酸、グリコール酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトロトリアセティックアシッド(NTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、 エチレンジアミン(EDA)、グリシン、及びイミノ二酢酸からなる群より選択される弱酸性の金属錯化試薬によって、弱アニオン交換樹脂を活性化すること;
活性化された弱アニオン交換樹脂でスパイクされたサンプルを中和すること;及び
比測定を用いて、中和されたスパイクサンプル中の少なくとも1種の金属の濃度を特徴付けることを含む、方法。
【請求項17】
特徴付ける工程が、
中和されたスパイクサンプルをイオンにイオン化すること;
質量分析計を用いてこのイオンからマススペクトルを得ること(比測定はマススペクトルによりなされる)を含む請求項16の方法。
【請求項18】
イオン化工程がエレクロトスプレーイオン化である、請求項17の方法。
【請求項19】
酸性溶液が半導体プロセッシング溶液(semiconductor processing solution)を含む、請求項16の方法。
【請求項20】
半導体プロセッシング溶液がSC2を含む、請求項19の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−516232(P2008−516232A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535732(P2007−535732)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【国際出願番号】PCT/US2005/035542
【国際公開番号】WO2006/041792
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(503269243)メタラ,インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】METARA,INC.
【Fターム(参考)】