説明

酸性食物繊維の精製方法

【課題】簡便で工業的に有利な食物繊維の脱臭手段を提供する。
【解決手段】市販のアルギン酸カリウム粉末100gを、常圧過熱水蒸気発生装置および入口と出口を備えた金属製処理チャンバー(容量3L)を用いて処理する。アルギン酸カリウムをチャンバー内に静置し常圧過熱水蒸気を19kg/hの流量で1パス方式で供給して接触させることにより、海藻臭、溶剤臭、加熱臭が除かれる。なお、処理後のアルギン酸カリウムの含水量は0.8質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性食物繊維の精製方法及び該方法によって得られた酸性食物繊維並びにそれを含有する飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
食物繊維には、便通改善作用等があることから一定量以上摂取することが好ましいとされている。しかしながら、近年、我国では、食物繊維の摂取量が低下する傾向にあり、摂取不足になりがちである。かかる観点から日本人に不足がちな食物繊維を無理なく摂取することの要望が高まっている。高分子量の食物繊維は食品に配合することにより、また低分子量の食物繊維は飲料形態でも摂取できる。
これらの食物繊維のうち、アルギン酸、カラギーナン、フコイダン、コンドロイチン硫酸等の酸性食物繊維は水溶性であることから、食品及び飲料のいずれにも配合できることから、極めて重要である。
【0003】
しかし、これらの食物繊維には、一般に、その原料である植物や海藻由来の青臭さや昆布臭のような不快臭がわずかにある。また、一般に、製造工程に由来する溶剤臭もごくわずかに存在する。これらの臭いはわずかであるが、ほとんど味のない飲料にする場合には飲料の嗜好性に影響を与えるため、脱臭処理が必要である。脱臭手段としてスチレンジビニルベンゼン共重合体等の合成吸着剤と接触させる方法(特許文献1)、活性炭吸着精製が行われている(特許文献2)が、製造工程が複雑になり、また、吸着剤等の廃棄物も発生する。
【特許文献1】特開2003−144102号公報
【特許文献2】特開平2−154664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、簡便で工業的に有利な食物繊維の脱臭手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、合成吸着剤などの吸着剤を使用することなく食物繊維の脱臭手段について検討したところ、原料酸性食物繊維を塩の形態で使用し、これに一定温度範囲の過熱水蒸気を接触させれば、不快臭が除去できるとともに乾燥も同時に進行し、かつ得られる酸性食物繊維の分子量がほとんど変化せず、脱臭された酸性食物繊維が効率良く得られることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、原料酸性食物繊維の塩に100〜160℃の過熱水蒸気を接触させる酸性食物繊維の精製方法を提供するものである。
また本発明は、上記の方法により得られた酸性食物繊維及びそれを含有する飲料を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明方法によれば、脱臭された酸性食物繊維を簡便な操作で効率良く得ることができる。また、脱臭工程で吸着剤等を使用する必要がないので、廃棄物の問題にも対処できる。得られる食物繊維の分子量が原料食物繊維とほとんど変化しないため、原料食物繊維の用途と同様の用途に使用できる。さらに、脱臭と同時に乾燥も行なわれるため、処理後の脱水、乾燥工程が不要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明方法に用いられる原料の酸性食物繊維としては、アルギン酸、カラギーナン、フコイダン等のカルボキシル基を有する食物繊維、コンドロイチン硫酸等の硫酸基を有する食物繊維などが挙げられる。これらのうち、アルギン酸が特に好ましい。
該酸性食物繊維の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が好ましい。
【0009】
これらの原料酸性食物繊維の塩(以下、単に「食物繊維」ともいう)としては、天然から抽出された状態の高分子のものでもよいし、予め加水分解等の手段により低分子化されたものでもよい。高分子のものとしては、植物原料から熱水や酸・アルカリ水、溶媒により抽出・精製されたいわゆる一般的な高分子の食物繊維が挙げられる。また、取り扱いの容易さより、水に溶解又は分散し2質量%、pH7に調整したときの粘度が20℃で1000mPa・s以下の食物繊維が好ましい。
低分子化された食物繊維としては、重量平均分子量5000〜90万のものが挙げられ、1万〜50万が好ましく、1万〜10万がより好ましく、1〜5万がさらに好ましい。低分子量の食物繊維を用いることで、のど越しが良好で、すっきりした風味の飲料を得ることができる。
【0010】
本発明の方法に用いられる原料酸性食物繊維の塩は、粉末状でも、ゲル状、スラリー状何れでもよいが、粉末状のものは過熱水蒸気との接触効率が良く好ましい。水分率も低い方が過熱水蒸気との接触効率が良いため、特に、含水率40質量%以下であるのが処理時間短縮の点で好ましい。
【0011】
本発明の方法に用いられる過熱水蒸気の温度は100〜160℃、好ましくは120〜150℃が良い。この温度範囲内であれば、酸性食物繊維の分子量の低減や着色が抑制され、効率的に脱臭できる。
【0012】
高温で処理を行うほど短時間で十分な脱臭効果が得られるが、食物繊維の物性を大きく変化させないように、原料食物繊維に対する平均分子量の変化が10%以下になるように温度と処理時間の条件を設定することが好ましく、5%以下になるようにするのがより好ましい。
すなわち、脱臭処理時間は処理温度により適宜設定することができるが、通常1〜40分が好ましく、5〜25分がより好ましい。
【0013】
過熱水蒸気供給量は、原料食物繊維1kgあたり0.5〜500kg/hであると生産性がよく、設備コストも安くできるので好ましい。1パス供給のほか、排出された水蒸気を再加熱して循環供給しても良い。
【0014】
本発明の脱臭処理は加圧条件、大気圧条件、減圧条件のいずれでも行えるが、大気圧以下(大気圧下及び減圧下)であれば特殊な高圧設備が不要なので望ましい。特に、大気圧下では、バッチ処理に加えて、原料を連続的に供給しながら、低分子食物繊維を排出する連続処理も工業的規模で容易にできるので望ましい。ここで、大気圧とは、ゲージ圧(大気圧基準圧力)が0MPaの状態をいう。
【0015】
本発明において、脱臭処理を行う装置としては100〜160℃の過熱水蒸気が食物繊維に接触するような装置であって、水蒸気発生装置、加熱ヒーター、水蒸気導入装置、反応チャンバーを備えたものであれば如何なるものを用いても良く、例えば開放系であっても閉鎖系であっても良い。例えば流動層乾燥機、トレイ式乾燥機などを利用することができるが、市販の過熱水蒸気発生装置を用いることが好ましい。
【0016】
本発明の脱臭処理は、過熱水蒸気を使用するため、乾燥(脱水)も同時に行なわれる。従って、本発明の脱臭・乾燥処理後に得られる酸性食物繊維の含水率は、好ましくは0〜10質量%になり、特に好ましくは0〜3質量%になる。
【0017】
本発明方法により得られる酸性食物繊維は、臭いが低減されており、水分含有量が低い。このため、そのまま種々の食品にあるいは飲料に配合することができる。
【0018】
本発明の飲料には、上記の如くして得られた酸性食物繊維を0.5〜6質量%、特に1.5〜5質量%含有することができる。低濃度においてはのど越しの軽さを与えることができ、高濃度においてはボディ感(コク)を与えることができる。
【0019】
本発明の飲料には、上記酸性食物繊維以外に、野菜汁及び/又は果汁を配合することができ、形態として野菜汁及び/又は果汁含有飲料とするのが好ましい。
【0020】
本発明の飲料に含有される野菜汁及び/又は果汁は、代表的には、野菜汁として野菜の搾汁、果汁として果物の搾汁からなる。野菜の搾汁に使用される野菜としては、トマト、ニンジン、ホウレンソウ、キャベツ、メキャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、セロリ、レタス、パセリ、クレソン、ケール、かぼちゃ、赤ピーマン、ピーマン、ダイコン等が挙げられるが、本発明の野菜の搾汁としては特にトマト、ニンジン、ホウレンソウ、パセリ、セロリ、キャベツのものが好ましい。また野菜の搾汁としてアロエの搾汁も使用できる。これらの野菜汁は単独で使用しても良く、複数を混合して使用しても良い。
【0021】
また、果物の搾汁に使用される果物としては、レモン、りんご、みかん、オレンジ、グレープフルーツ、スウィーティ、もも、メロン、スイカ、ウメ、キウィ、グアバ、プルーン等が挙げられるが、本発明の果物の搾汁としては特にレモン、りんご、みかん、オレンジ、グレープフルーツ、もも等が好ましい。これらの果汁は単独で使用しても良く、複数を混合して使用しても良い。
【0022】
本発明の飲料の水分含有量は75質量%以上が好ましく、さらに好ましくは85質量%以上、よりさらに好ましくは90質量%以上が飲料として好ましい。なお、水分量の測定法は、例えば、常圧にて、105℃、2時間の加熱乾燥法によって測定することができる。
【0023】
本発明の飲料のpHは、保存安定性及び飲み易さの点からpH3.5〜8とすることができる。好ましくはpH3.5〜5、より好ましくは3.7〜4.6、さらに好ましくは3.8〜4.5、特に好ましくは3.9〜4.3が良い。pHが上記範囲内であると保存安定性及び飲み易さの点で好ましい。pHの調整は、通常、本発明の飲料の製造工程において加熱殺菌を施す前に行う。pHの調整には、野菜汁や果汁由来の有機酸に加え、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、pH調整剤などの添加剤を単独、あるいは併用して用いることができる。このとき、これらの添加剤を直接、又は適当な濃度に希釈した水溶液として適量加えて調整する。このときpHメーターなどによりpHを確認しながら加えても良い。これらの添加剤には、例えば、アジピン酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸又はそれらの塩などが挙げられる。加熱殺菌の前後でpHが変化する場合は、予め変化分を考慮して加熱殺菌前のpHを調整すると良い。
【0024】
その他、本発明の飲料には、糖質、ビタミン類、各種エステル類、色素類、酸化防止剤、香料、甘味料、乳化剤、保存料、調味料、品質安定剤などの食品添加物を単独、あるいは併用してさらに適宜配合しても良い。
【実施例】
【0025】
(食物繊維の含水量測定法)
食物繊維の含水量は、乾燥機(ヤマト科学ADP300)にて105℃、2時間、加熱乾燥しデシケータ内で30分静置、室温に戻した後の重量と、乾燥前の重量との変化量から測定した。
(粘度測定法)
粘度は、測定試料を炭酸ナトリウムでpHを7に調整した後、コーンローター式回転粘度計(東機産業(株)製RE−85L)を使用し、標準ローター(1°34’×R24)、回転速度0.5〜10rpmの条件で測定した。すなわち、粘度が60mPa・s以上の場合は
適宜回転速度を10rpmから0.5rpmまでの間で下げて粘度計の測定レンジ内で測定した。
(平均分子量測定法)
ゲルパーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により以下の装置と条件で重量平均分子量を測定した。
カラム Super AW 4000 及びSuper AW 2500 (東ソー株式会社)
オンラインデガッサ SD-8022(東ソー株式会社)
デュアルポンプ DP-8020(東ソー株式会社)
カラムオーブン CO-8020(東ソー株式会社)
示差屈折計 RI-8020(東ソー株式会社)
カラム温度;40℃
移動相;0.2mol/L硝酸ナトリウム
流速;0.6mL/min
注入量;100L
重量平均分子量既知のプルラン標準試料を用いて検量線を作成して用いた。
【0026】
風味は2%水溶液にして炭酸ナトリウムでpH7に調整して評価した。
色差はこの水溶液を色差計日本電色製ZE−2000により測定し、b値で評価した。
【0027】
実施例1
市販のアルギン酸カリウム粉末(紀文フードケミファ製、カリアルギンK−3、含水量3.4質量%、純度96%、2質量%、pH7、20℃の水溶液の粘度1.52mPas)100gを、常圧過熱水蒸気発生装置(新立電機製ハイスチーム400)および入口と出口を備えた金属製処理チャンバー(容量3L)を用いて処理した。アルギン酸カリウムはチャンバー内に静置し常圧過熱水蒸気を19kg/hの流量で1パス方式で供給して接触させた。処理前後の評価を表1に示す。なお、処理後のアルギン酸カリウムの含水量は0.8質量%であった。
【0028】
実施例2
過熱水蒸気処理の温度と時間を変えた以外は実施例1と同様にして処理した。処理前後の評価を表1に示す。なお、処理後のアルギン酸カリウムの含水量は0.5質量%であった。
【0029】
実施例3
市販のアルギン酸ナトリウム粉末(紀文フードケミファ製、ダックアルギン、含水量2.1質量%、純度97%、2質量%、pH7、20℃の水溶液の粘度189.3mPas)10gを、常圧過熱水蒸気処理装置(シャープ製AX−XT3、容量18L)を用いて処理した。アルギン酸ナトリウムは庫内に静置し、過熱水蒸気を約1kg/hの流量で供給して接触させた。処理前後の評価を表1に示す。なお、処理後のアルギン酸ナトリウムの含水量は0.4質量%であった。
【0030】
比較例1
実施例1で使用したアルギン酸カリウム100gを乾燥機(ヤマト科学ADP300)にて120℃で30分間、空気下で乾式的に加熱乾燥した。処理前後の評価を表1に示す。なお、処理後のアルギン酸カリウムの含水量は1.5質量%であった。
【0031】
比較例2
過熱水蒸気処理の温度と時間を変えた以外は実施例1と同様にして処理した。処理前後の評価を表1に示す。なお、処理後のアルギン酸カリウムの含水量は0.2質量%であった。
【0032】
比較例3
市販のアルギン酸(紀文フードケミファ製、ダックアシッドA、含水量4.0質量%、純度95%、2質量%、pH7、20℃の水溶液の粘度124.5mPas)10gを、実施例3と同様にして常圧過熱水蒸気処理した。処理前後の評価を表1に示す。なお、処理後のアルギン酸の含水量は0.6質量%であった。
【0033】
【表1】

【0034】
風味評価:
5:強い、4:やや強い、3:僅かに強い、2:やや弱い、1:弱い
比較例1は飲料に配合するには風味が不充分であった。
比較例2は加熱臭があり、黄色く着色した。
比較例3は平均分子量が大きく低下した。
【0035】
実施例4
実施例1で得られたアルギン酸カリウムを1.0重量%含有する飲料水を製造した。当該飲料水は、海藻臭、溶剤臭、加熱臭がなく、飲みやすいものであった。
【0036】
実施例5
表2の配合にしたがってトマト飲料を調製した。食物繊維には実施例1のアルギン酸カリウムを2.0質量%使用した。実施例1のアルギン酸カリウムを使用した飲料は海藻臭、溶剤臭、加熱臭がなく、風味良好であった。
【0037】
実施例6
表2の配合にしたがってトマト飲料を調製した。食物繊維には実施例3のアルギン酸ナトリウムを2.0質量%使用した。実施例3のアルギン酸ナトリウムを使用した飲料は海藻臭、溶剤臭、加熱臭がなく、風味良好であった。
【0038】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料酸性食物繊維の塩に100〜160℃の過熱水蒸気を接触させる、酸性食物繊維の精製方法。
【請求項2】
酸性食物繊維の平均分子量変化が10%以内となる条件で過熱水蒸気の接触を行う、請求項1記載の酸性食物繊維の精製方法。
【請求項3】
大気圧の過熱水蒸気を用いる、請求項1又は2記載の酸性食物繊維の精製方法。
【請求項4】
原料酸性食物繊維が粉末、ゲル又はスラリーとして過熱水蒸気処理に供される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸性食物繊維の精製方法。
【請求項5】
原料酸性食物繊維の塩がアルギン酸ナトリウム又はアルギン酸カリウムである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸性食物繊維の精製方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により得られた酸性食物繊維。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項記載の方法により得られた酸性食物繊維を含有する飲料。

【公開番号】特開2010−22254(P2010−22254A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186284(P2008−186284)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】