説明

酸無水物基含有ビニル系重合体及びその製造方法

【課題】酸/エポキシ硬化系クリヤー塗料に用いても耐熱黄変性が良好な塗膜となるビニル系重合体、並びに、それを安価なモノマーを使用した連続重合法による製造方法。
【解決手段】質量平均分子量が2000〜6000の酸無水物基含有ビニル系重合体の製造方法であって、α,β−ジカルボン酸無水物基を有するビニル系モノマーを含むビニル系モノマーと、ラジカル重合開始剤とを含有する原料混合物と、溶剤とを連続式槽型の第1反応器に連続的に供給し、重合温度160℃〜195℃、滞在時間2〜30分の条件下で重合率が50%〜99%になるようにビニル系モノマーを重合し、反応中間混合物溶液を製造する第一工程と、重合開始剤と反応中間混合物溶液とを第2反応器に供給し、重合温度100℃〜160℃、滞在時間10分〜240分の条件下、重合率が80%以上になるように更に重合する第二工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車のトップコート用のクリヤー塗料に用いられ得る酸無水物基含有低分子量ビニル系重合体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のトップコート用としてのクリヤー塗料には、酸性雨に対する耐久性の点から、従来広く用いられてきたアクリル−メラミン系樹脂に代わって酸/エポキシ硬化系の樹脂が良く使用されている。ここで酸基を有する重合体として、酸無水物基を有する重合体をアルコールで開環した、いわゆるハーフエステルユニットを有する重合体が反応性制御の面から用いられることが多い(参照:特許文献1)。
また、環境への負荷低減を考慮して、含有する有機溶剤量をできるだけ少なくした状態でも良好な塗膜外観を得るためには、上記クリヤー塗料の構成成分である重合体の粘度を低くする必要がある。そのために、上記酸基を有する重合体の分子量が数千に設計されている。製造の際に高価な重合開始剤量を増加させることで低分子量の重合体が得られるが、耐酸性、耐候性、耐擦傷性等の塗膜性能が低下する傾向があり、またコストの面でも非効率となり好ましくない。また、重合開始剤の使用量を増加させることなく、ビニル系重合体の低分子量化を図る手段としてはメルカプタン類等の連鎖移動剤を併用するのが一般的であるが、連鎖移動剤が塗膜の耐候性低下を引き起こす恐れがある。
これに対して、特許文献2のように高温重合で製造する方法も提案されているが、高温に長時間さらされることによる熱劣化の影響が大きくなり、得られた重合体でできた塗膜が着色してしまうことが多い。耐熱黄変性が不十分であると、自動車の塗装工程ラインが何らかの異常により停止した場合、ラインの停止に伴って乾燥炉に残された自動車外板が帯色して不具合を生ずる。
また、ビニル系モノマーの中にシクロヘキシル(メタ)アクリレートのような脂環式構造を持つ比較的着色の少ないモノマーを使うことで耐熱黄変性を発現させる方法も特許文献3のように提案されているが、そのような低黄変のモノマーは一般的に高価なため、現実的な解決方法ではなかった。
【特許文献1】特開平3−287650号公報
【特許文献2】特開2004−18792号公報
【特許文献3】特開2003−321644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は前記課題を解決するためになされたもので、酸/エポキシ硬化系クリヤー塗料に用いたときに耐熱黄変性が良好な塗膜が得られる、低分子の酸無水物基含有ビニル系重合体、並びに、それを安価なモノマーを使用し連続重合法により製造する方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究を重ねたところ、酸無水物基含有重合体のGPCクロマトグラムにおいて、オリゴマー領域のUV吸収が非常に強くなる現象が見られ、特に耐熱黄変性に劣る高温重合品について特に強くなっていることがわかってきた。そして、不飽和二重結合を持つ無水マレイン酸ユニットを含む3量体ないし4量体が黄変原因物質であることを突き止め、また、そのような物質の生成を抑制できる方法を見いだした。
本発明の酸無水物基含有ビニル系重合体の製造方法は、質量平均分子量が2000〜6000の酸無水物基含有ビニル系重合体の製造方法であって、
α,β−ジカルボン酸無水物基を有するビニル系モノマーを含むビニル系モノマーと、ラジカル重合開始剤とを含有する原料混合物50〜95質量部と、溶剤50〜5質量部とを連続式槽型の第1反応器に連続的に供給し、重合温度160℃〜195℃、滞在時間2〜30分の条件下で重合率が50%〜99%になるようにビニル系モノマーを重合し、反応中間混合物溶液を製造する第一工程と、
前記ビニル系モノマー100質量部に対して0.01〜5質量部の重合開始剤と前記反応中間混合物溶液とを第2反応器に供給し、重合温度100℃〜160℃、滞在時間10分〜240分の条件下、重合率が80%以上になるように、および不飽和二重結合を持つ無水マレイン酸ユニットを含む3量体ないし4量体の濃度が1500ppm以下になるように更に重合する第二工程とを有することを特徴とするものである。
【0005】
本発明の酸無水物基含有ビニル系重合体は、質量平均分子量が2000〜6000で、不飽和二重結合を持つ無水マレイン酸ユニットを含む3量体ないし4量体の濃度が1500ppm以下であることを特徴とするものである。
本発明の塗料は、上記酸無水物基含有ビニル系重合体を用いたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の酸無水物基含有ビニル系重合体は、低分子量で環境負荷が小さく、かつ、酸/エポキシ硬化系クリヤー塗料に用いたときに耐熱黄変性が良好な塗膜が得られる。また、本発明の方法であれば、上記酸無水物基含有ビニル系重合体を低コスト且つ高効率で生産できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、第一工程では、α,β−ジカルボン酸無水物基を有するビニル系モノマーを含むビニル系モノマーとラジカル重合開始剤とを含む原料混合物50〜95質量部と、溶剤50〜5質量部とを連続式槽型の第1反応器に連続的に供給し、重合温度160℃〜195℃で、かつ滞在時間2〜30分の条件下で、重合率が50%〜99%になるようにビニル系モノマーを重合し、反応中間混合物溶液を製造する。
ここで、α,β−ジカルボン酸無水物基を有するビニル系モノマーを含むビニル系モノマーとは、α,β−ジカルボン酸無水物基を有するビニル系モノマーを必須とし、これだけでもよいし、または、これと他のビニル系モノマーの併有を意味する。
また、反応中間混合物とは、第一工程でビニル系モノマーを重合して得られた重合体と、未反応ビニル系モノマー及び副生成物である反応性オリゴマーとを含むものである。
【0008】
上記第一工程で用いられるα,β−ジカルボン酸無水物基を有するビニル系モノマーとしては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、2,3−ジメチル無水マレイン酸等が挙げられ、反応性の点から無水マレイン酸であることが好ましい。
全モノマー100質量%に対して、α,β−ジカルボン酸無水物基を有するビニル系モノマーは、10〜50質量%であることが好ましく、17〜40質量%であることがより好ましい。α,β−ジカルボン酸無水物基を有するビニル系モノマーの含有量が10質量%以上であれば、低温硬化性に優れた組成物が得られ、50質量%以下であれば、貯蔵安定性に優れた組成物が得られるとともに、耐水性が良好な塗膜が得られる。
【0009】
その他のビニル系モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、2−ヘキシルデカニル(メタ)アクリレートなどの直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素置換基を有する(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α―メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−フェニルスチレン等のスチレン誘導体類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のエチレン性不飽和ニトリル類、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド等のN−アルコキシ置換アミド類、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のビニル塩基性単量体類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジブチル等の不飽和脂肪族二塩基酸ジアルキルエステル類などを例示することができる。これらは必要に応じて単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、スチレンが好適である。これらの中でも特に、平滑性に優れた塗膜が得られることから、i−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレートが好適である。また、硬度の高い塗膜が得られることや酸無水物基との共重合性が良好なことから、スチレンが好適である。
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂環式炭化水素置換基を有する(メタ)アクリル酸エステル類を用いると硬度の高い塗膜が得られ、塗膜の黄変性が少ないことで知られているが、このような構造のモノマーは一般的に高価なため、コストの面で非効率となり好ましくない。
他のビニル系モノマーの配合量は、上記α,β−ジカルボン酸無水物基を有するビニル系モノマーの必要量に応じて決定される。
【0010】
上記第一工程で用いられるラジカル重合開始剤としては、公知の重合開始剤を用いることができ、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、過酸化ベンゾイル、クメンヒドロペルオキシド、ラウリルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−アミルパーオキシド、ジ−t−ヘキシルパーオキシド等を例示することができる。
ビニル系モノマーの総量100質量部に対して、重合開始剤量を0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜9質量部、より好ましくは0.2〜8質量部とすることが望ましい。第一工程に使用される重合開始剤量が0.01質量部以上であれば、酸無水物基含有ビニル系重合体(A)の低分子量化が容易になるため、低粘度でかつ高固形分の塗料材料として好適な組成物が得られると共に、均一で外観が良好な塗膜が得られる。また、使用される重合開始剤量が10質量部以下であれば、耐熱黄変性、耐酸性、耐水性、耐溶剤性、耐候性、靭性、耐擦傷性、硬度が良好な塗膜が得られる。
【0011】
第一工程で用いられる溶剤としては、重合温度で不活性であれば特に制限されず、トルエン、キシレン、芳香族炭化水素混合物(商品名:ソルベッソ150、エクソン化学製)、等の芳香族系炭化水素類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、2−エトキシエチルアセテート、3−エトキシプロピオン酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類などの一般的なものが挙げられる。
第一工程ではビニル系モノマー混合物と溶剤との総量100質量部に対して、ビニル系モノマー混合物の配合量を50〜95質量部、溶剤の配合量を50〜5質量部として反応させることが好ましい。溶剤が5質量部以上使用されると、重合時の粘度を低くできる上に、溶剤への連鎖移動によりビニル系重合体の分子量を低下できるため、得られる酸無水物基含有ビニル系重合体を用いた塗料の粘度を更に低くできる。一方、溶剤が50質量部以下の使用量であると、得られる酸無水物基含有ビニル系重合体を用いた塗料の環境に対する負荷を低減できる。
また、使用する溶剤の種類は、得られる酸無水物基含有ビニル系重合体が使用される塗料に含まれる溶剤から選択されることが好ましい。
また、溶剤は、成分調整のために、後述する第二工程の前、第二工程の最中、出荷前の調合など第二工程の後に添加してもよい。
【0012】
なお、この第一工程では、溶剤及び重合開始剤の他、必要に応じて重合連鎖移動剤の存在下でビニル系モノマー混合物を重合させる。用いられる重合連鎖移動剤としては、公知の材料を用いることができ、メルカプタン化合物やαメチルスチレンダイマー(商品名:ノフマーMSD、日本油脂製)等がある。メルカプタン化合物としては、n−ブチル、イソブチル、n−オクチル、n−ドデシル、sec−ブチル、sec−ドデシル、tert−ブチルメルカプタン等のアルキル基または置換アルキル基を有する第1級、第2級または第3級メルカプタン;フェニルメルカプタン、チオクレゾール、4−tert−ブチル−O−チオクレゾール等の芳香族メルカプタン;チオグリコール酸とそのエステル;エチレンチオグリコール等の炭素数3〜18のメルカプタンが好ましく挙げられる。
【0013】
本発明の第一工程では上述のビニル系モノマーと溶剤及びラジカル重合開始剤とを含む原料混合物溶液を連続式槽型の第1反応器に連続供給し、連続重合方式で溶液重合を行うことにより反応中間混合物溶液を製造する。
本発明の第一工程での重合温度は160℃〜195℃で、かつ滞在時間2〜30分で連続重合する。重合温度としては、161℃〜194℃がより好ましい。また、滞在時間としては3〜29分がさらに好ましい。160℃未満で連続重合を行うと、製造される重合体溶液の分子量が高くなり、粘度が高くなって反応容器からの流量が低くなり、取出しが困難となるほか、得られた高粘度な重合体溶液は作業性が悪化して塗料用途には不向きである。195℃を超えて第一工程の重合反応を行うと、生成される重合体の水素引き抜きを伴う分子内或いは分子間開裂反応が抑制できず、末端二重結合を持つ3〜4量体の反応性オリゴマーが特に多く生成する。この末端二重結合を持つ3〜4量体は、無水マレイン酸のα位の水素が主鎖に置き換わった構造、或いは二重結合を残した無水マレイン酸構造が末端ではなく主鎖の途中に存在するような構造、二重結合末端の無水マレイン酸が一部アルキルエステル化されている構造であることをNMRを用いた構造解析により確認している。この不飽和二重結合を持つ無水マレイン酸ユニットを含む3量体ないし4量体は、第二工程の重合反応を行うことにより、ある程度反応し低減されるが、第一工程の重合温度が195℃を超えると、第二工程を経ても反応しきれずに得られる重合体溶液に1500ppm以上残存してしまう。そしてこの不飽和二重結合を持つ無水マレイン酸ユニットを含む3量体ないし4量体の多い重合体からなる塗料でできた塗膜は、その耐熱黄変性が低位となり、好ましくない。
また、本発明では、195℃以下での連続重合法を利用しているが、短時間であるので、不飽和二重結合を持つ無水マレイン酸ユニットを含む3量体ないし4量体の発生を抑制でき、耐熱黄変性を、一般の重合温度が低いが滞在時間が長い溶液重合法によるものと同等以下に抑制できる。特に、185℃以下で連続重合することにより一般の溶液重合法によるものよりも耐熱黄変性を改善できる。
また、一般的に高温下で連続重合することで得られたビニル系重合体は分解反応が抑制できず未反応モノマーや末端二重結合を持つポリマーが多く残存してしまう。これらは、アクリレートモノマー由来であるメタクリル酸メチルのα-メチル基が主鎖に置き換わった化学構造や、スチレンモノマー由来であるα-メチルスチレンのα-メチル基が主鎖に置き換わった化学構造のものであることが、NMRを用いた構造解析により判明した。そこで、第二工程でさらに追加開始剤などを添加して重合反応処理を行ってこのような未反応モノマーや末端二重結合を反応させて濃度を低減化することが有効である。しかし、第一工程でα-メチルスチレンのメチル基が主鎖に置き換わったような化学構造ができると、第二工程で反応処理しても反応性が低いために二重結合が残存しやすくなり、結果として得られた重合体溶液が帯色したり、塗膜が熱黄変しやすくなってしまうおそれがある。そこで、このような末端二重結合は連続重合温度を下げることにより低減できるため、第一工程の重合温度を195℃以下にすることが肝要である。
また、第一工程で2分以上の滞在時間で連続重合を行うことにより、生成される重合体の重合率が工業化できる程度まで高くすることができる。また30分以下の滞在時間であるので、得られる重合体の熱履歴が少なく、熱劣化を防ぐことができ、耐熱黄変性が改善される。
【0014】
第一工程では、重合率が50〜99%になるように重合する。好ましくは、80〜98%になるように重合する。重合率が50%未満だと、第二工程で重合するビニル系モノマー量が多くなる。後述するように、第二工程では、第一工程よりも低い重合温度である100℃〜160℃で重合を行うので、第一工程で得られる重合体よりも高分子量の重合体が生成する。一般的に重合体の粘度は低分子量領域の重合体が増加してもほとんど変化しないが、高分子量領域の重合体が増加すると高くなる。従って、第二工程で重合するビニル系モノマー量が多くなると、最終的に得られるビニル系重合体の粘度が高くなり、安定に重合できなくなることがある。また、得られたビニル系重合体が塗料用途に適さなくなる。また、99%を超えるように重合するには第1反応器での滞在時間を増大させなければならない。しかも、第1反応器で滞在時間を増大させると重合率は上昇するものの、重合速度が低下するので重合率は効率的に上昇しない。すなわち、重合率が99%を超えるまで重合すると、生産性が低下する。
【0015】
本発明の第二工程では前記ビニル系モノマー100質量部に対して0.01〜5質量部の重合開始剤と前記反応中間混合物溶液とを第2反応器に供給し、重合温度100℃〜160℃、滞在時間10分〜240分の条件下、重合率が80%以上になるように、および不飽和二重結合を持つ無水マレイン酸ユニットを含む3量体ないし4量体の濃度が1500ppm以下になるように更に重合し、酸無水物基含有ビニル系重合体(A)溶液を製造する。ここで、反応中間混合物とは、第一工程でビニル系モノマーを重合して得られた重合体と、未反応ビニル系モノマー及び副生成物である反応性オリゴマーとを含むものである。
第2反応器に供給する重合開始剤としては、第一工程で使用できる重合開始剤と同等或いは異なったものを使用できるが、半減期温度との関係から第一工程で使用できる重合開始剤と同等のものが好ましい。重合開始剤の量は、ビニル系モノマー100質量部に対して0.01〜5質量部の割合である。重合開始剤の量が0.01質量部未満だと、未反応ビニル系モノマーや反応性オリゴマー及び末端二重結合といった副生成物の量を十分に減少させることができない。また、5質量部を超えると、原料コストが高くなる。そのため、重合時間を長くしたり、重合温度を高くするなどして、重合開始剤量が5質量部を超えない範囲で、未反応ビニル系モノマーや副生成物の量を低下させるように対処することが好ましい。
【0016】
第二工程における第2反応器での重合温度は、100℃〜160℃である。重合温度が100℃未満であると、重合速度が低下する上に、第2反応器内の粘度が増加するため取り出し流量が低下する。その結果生産性が低下する。一方、160℃を越えると、副生成物を生成するため、生産性が低下する。
第2反応器での滞在時間は10分〜240分である。滞在時間が10分未満であると、重合率が十分に向上せず、未反応ビニル系モノマーや不飽和二重結合を持つ無水マレイン酸ユニットを含む3量体ないし4量体のような反応性オリゴマー及び末端二重結合といった副生成物の量を十分に低減できない。また、滞在時間が240分を超えると、第二工程に要する時間が長くなり、生産効率が低下する上に、不要な副生成物量が増加するなどのデメリットが生じる。その結果生産性が低下する。
【0017】
第二工程では、重合率が80%以上になるように重合する。好ましくは重合率が90%以上になるように重合する。重合率が80%以上であると、低分子量ビニル系重合体の生産性が高くなるだけでなく未反応ビニル系モノマー量が少なくなり、得られるビニル系重合体を用いた塗料でできた塗膜表面のハジキ、発泡が抑制される。また、不快な臭気の発生が抑制される。
なお、重合率を100%とすることは、重合率の上昇と共に重合速度が低下する上に、重合と解重合とが平衡反応であるために、非常に困難である。従って、重合率を100%にするためには、重合開始剤量を極端に増加させたり、滞在時間を極端に長くしたりする必要があり、コストの増大や生産性の低下を招くため、重合率は100%未満とすることが好ましい。
第二工程で使用される第2反応器には特に制限はなく、例えば、バッチ式槽型反応器、半連続式槽型反応器などが使用できる。バッチ式槽型反応器を用い、特に重合開始剤を逐次添加しながら重合すると、比較的重合速度が遅い場合でも、未反応ビニル系モノマーなどを効率的に低減させることができる。
【0018】
以上のように、第一工程として連続重合した後に第二工程として反応処理を行うことにより、本発明により得られた酸無水物基含有ビニル系重合体溶液は連続重合にて高温で製造しているにもかかわらず、不飽和二重結合を持つ無水マレイン酸ユニットを含む3量体ないし4量体の濃度を1500ppm以下とすることができ、この酸無水物基含有ビニル系重合体を用いた塗料によってできた塗膜は従来の溶液重合品と同等若しくはそれ以上の耐熱黄変性を有する。
尚、この不飽和二重結合を持つ無水マレイン酸ユニットを含む3量体ないし4量体の濃度は、小さければ小さいほど好ましいが、1500ppm以下とすることにより、塗膜として、実用上、優れたものと評価できる。
【0019】
本発明の製造法で得られる酸無水物基含有ビニル系重合体(A)の質量平均分子量は2000〜6000である。質量平均分子量は2100〜5500であることが好ましく、2200〜5000であることがより好ましい。酸無水物基含有ビニル系重合体(A)の質量平均分子量が2000以上であれば、低温硬化性に優れた組成物が得られ、6000以下であれば比較的低粘度になるため、低粘度でかつ高固形分の塗料材料として好適な組成物が得られ、また貯蔵安定性に優れた組成物が得られる。
【0020】
また、酸無水物基含有ビニル系重合体(A)のガラス転移温度(Tg)が10〜70℃であることが好ましく、15〜69℃であることが好ましい。ガラス転移温度が10℃以上であれば、硬度、耐擦傷性が良好な塗膜が得られ、70℃以下であれば、塗膜靭性に優れた塗膜が得られる。
【0021】
また、酸無水物基含有ビニル系重合体(A)溶液の樹脂固形分量は50〜90質量%が好ましい。樹脂固形分量は51〜85質量%であることがより好ましく、52〜80質量%であることがより好ましい。酸無水物基含有重合体(A)溶液の樹脂固形分が50質量%以上であれば、使用溶剤量が少なくなり環境負荷が低減され、90質量%以下であれば、重合体溶液の粘度が十分に低く、取り扱いが容易となる。
【0022】
上記酸無水物基含有ビニル系重合体(A)溶液は、その酸無水物基を部分的にアルカノールで開環することによりハーフエステル化させ、酸無水物基とそのモノエステル化基を共存させて用いることができる。この方法では、添加するアルカノールの量を調整するなどして、残存する酸無水物基量を調整することができる。
ここで、酸無水物基をモノエステル化するために用いて好適なアルカノールとしては、メタノール、エタノール、i−プロパノール、t−ブタノール、i−ブタノール、n−ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、アセトール、プロパギルアルコール、アリルアルコールなどを例示することができる。これらは必要に応じて単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの中でもメタノール、エタノールが好適である。また、酸無水物基のモノエステル化は、必要に応じてテトラブチルアンモニウム等の第4級アンモニウム塩類やトリエチルアミン等の第3級アミン類などの反応触媒を併用して行うことができる。
また、ハーフエステル化されたビニル系重合体(AA)の酸当量が250〜500g/eqであることが好ましく、270〜480g/eqであることがより好ましい。ハーフエステル化されたビニル系重合体(AA)の酸当量が250g/eq以上であれば、貯蔵安定性に優れた組成物が得られ、500g/eq以下であれば、低温硬化性に優れた組成物が得られる。
上記ハーフエステル化されたビニル系重合体溶液は、エポキシ基と水酸基とを有するビニル系重合体と組み合わせて熱硬化性塗料とすることができる。
配合するエポキシ基と水酸基を有するビニル系重合体のエポキシ当量が250〜500g/eqであることが好ましく、270〜480g/eqであることがより好ましい。エポキシ当量が250g/eq以上であれば、貯蔵安定性に優れた組成物が得られ、500g/eq以下であれば、低温硬化性に優れた組成物が得られ、硬度が良好な塗膜が得られる。
また、配合するエポキシ基と水酸基を有するビニル系重合体は、その水酸基当量が250〜2500g/eqであることが好ましく、350〜1500g/eqであることがより好ましい。水酸基当量が250g/eq以上であれば、十分な相溶性を有し、低温硬化性に優れた組成物が得られ、2500g/eq以下であれば、低温硬化性に優れた組成物が得られる。
また、質量平均分子量は2000〜6000であることが好ましく、2200〜5000であることがより好ましい。質量平均分子量が2000以上であれば、低温硬化性に優れた組成物が得られ、6000以下であれば比較的低粘度になるため、低粘度でかつ高固形分の塗料材料として好適な組成物が得られる。
また、配合するエポキシ基と水酸基を有するビニル系重合体のガラス転移温度(Tg)が5〜50℃であることが好ましく、10〜49℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が5℃以上であれば、硬度、耐擦傷性が良好な塗膜が得られ、50℃以下であれば、塗膜の靭性、貯蔵安定性に優れた組成物が得られる。
また、配合するエポキシ基と水酸基を有するビニル系重合体溶液の樹脂固形分量は50〜90質量%とあることが好ましく、60〜80質量%であることがより好ましい。重合体(A)溶液の樹脂固形分が50質量%以上であれば、使用溶剤量が少なく環境負荷が低減され、90質量%以下であれば、重合体溶液の粘度が十分に低く、取り扱いが容易となる。
【0023】
また、上記熱硬化性塗料には、得られる塗膜の架橋密度や外観のさらなる向上のために、必要に応じてエポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、水酸基のうち少なくとも1種と反応する官能基を有する化合物または樹脂からなる補助硬化剤を添加しても良い。補助硬化剤の添加量は塗料の総量100質量部に対して、1〜50質量部とすることが好ましく、2〜40質量部とすることがより好ましい。補助硬化剤の添加量が1質量部以上であれば、得られる塗膜の架橋密度や外観の向上効果が得られ、50質量部以下であれば、貯蔵安定性に優れた組成物が得られ、耐酸性や耐熱黄変性が良好な塗膜が得られる。
ここで、補助硬化剤としては、メラミン系樹脂やブロックイソシアネート樹脂の他、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、脂環式エポキシ化合物などのエポキシ化合物類、アジピン酸、フタル酸等の多塩基酸化合物類、分子中にカルボキシル基を有するソリッド酸価50〜200mgKOH/g(すなわち酸当量280〜1120)のポリエステル樹脂などを例示することができる。これらは単独で或いは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
また、本発明において、ハーフエステル化されたビニル系重合体中のカルボキシル基と、エポキシ基及び水酸基含有ビニル系重合体中のエポキシ基のモル比(エポキシ基/カルボキシル基)が、5/1〜1/5であることが好ましく、4/1〜1/4であることがより好ましく、3/1〜1/3であることが特に好ましい。かかる構成とした場合には、前述の補助硬化剤を併用しなくても、塗膜構成時の未反応の官能基が少なくなるため、架橋密度が高く、耐水性、耐候性等に優れた塗膜が得られる。
上記熱硬化性塗料には、硬化性を向上させることを目的として、硬化触媒を添加することもできる。硬化触媒としては、酸基と水酸基とのエステル化反応に用いられる、4級アンモニウム塩や4級ホスホニウム塩などの公知の触媒を用いることができる。具体的には、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロマイド等が挙げられる。
また、上記熱硬化性塗料には、貯蔵安定性を向上することを目的として、必要に応じて、スルホン酸系やリン酸系に代表される酸性化合物或いはそれらのブロック化物を添加しても良い。これらの具体例としては、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、及びこれらのアミンブロック化物、モノアルキルリン酸、ジアルキルリン酸、モノアルキル亜リン酸等が挙げられる。
また、上記熱硬化性塗料には、有機ベントン、ポリアミド、マイクロゲル、繊維素系樹脂等のレオロジー調節剤や、シリコーンに代表される表面調節剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、垂れ止め剤等の添加剤を、必要に応じて適宜配合することができる。
【0025】
上記熱硬化性塗料は、自動車のトップコート用として好適なものである。なお、本発明の塗料を自動車のトップコート用として用いる場合、ベースコートには、本発明の塗料を用いても良いし、公知のベースコート用塗料を用いても良い。公知のベースコート用塗料としては、アクリル−メラミン系の熱硬化性樹脂、揮発性の有機溶剤からなる希釈剤、アミノ樹脂やポリイソシアネート化合物等からなる硬化剤、アルミニウムペースト、マイカ、リン片状酸化鉄などの光輝剤、酸化チタン、カーボンブラック、キナクリドン等の無機顔料又は有機顔料、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂等の添加樹脂、表面調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などの添加剤等からなるベースコート用塗料が知られている。
ベースコートとトップコートの塗装方法としては、ベースコート用塗料を塗装した後焼成硬化せずに、トップコート用塗料(本発明の塗料)を塗装し、双方の塗膜を同時に硬化させる、いわゆる2コート1ベーク硬化方式を採用することが好ましい。ただし、ベースコートとして水性塗料を用いる場合には、良好な外観を得ることができることから、トップコートを塗装する前に予めベースコートを60〜100℃で1〜10分程度加熱し半硬化しておくことが好ましい。水性のベースコート塗料としては、例えば、米国特許第5,151,125号、米国特許第5,183,504号に記載されているものを例示できる。
【0026】
なお、本明細書において、重合体の「酸当量」は1当量のカルボキシル基または酸無水物基を有する樹脂のグラム数により定義されるものとする。
また、重合体の「エポキシ当量」は1当量のエポキシ基を有する樹脂のグラム数により定義され、「水酸基当量」は1当量の水酸基を有する樹脂のグラム数により定義されるものとする。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
ビニル系重合体の評価項目及び評価方法
〈分子量測定〉
ビニル系重合体の「質量平均分子量」は、酸無水物基含有ビニル系重合体を移動相と同様なテトラヒドロフラン溶液に樹脂固形分換算で0.4質量%になるように調製後、0.5μmのメンブランフィルタでろ過したろ液を測定サンプルとした。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の質量平均分子量を意味しているものとする。
使用装置:東ソー社製HLC-8120GPC
カラム:東ソー社製(TSKguardcolumnHXL-H+TSK-gelG5000HXL+TSK-gelGMHXL)
移動相:テトラヒドロフラン(クエン酸1mM入り、安定剤BHT入り)
流速:1.0ml/分
カラムオーブン温度:40℃
サンプル注入量:0.1ml
検出器:RI(示差屈折率計)&UV(波長:254nm)
検量線作製に用いた標準ポリスチレン&スチレンモノマー:
標準ポリスチレン(東ソー製)
品名 分子量
F−288 2872000
F−80 775000
F−40 355000
F−10 102000
F−4 43900
F−1 10200
A−5000 6500
A−1000 1050
A−500 474
スチレンモノマー 104
【0028】
〈樹脂固形分量〉
1gの重合体溶液をアルミニウム製皿上に量りとり、150℃で1時間乾燥させたときの不揮発分量の割合(質量%)であると定義する。
〈未反応モノマー量の測定〉
得られたビニル系重合体溶液0.5gをアセトン約10gに溶解し、内部標準として安息香酸ブチルを加えて測定サンプルとした。
この測定サンプルについて、2種類のカラムを備え、FID(水素炎)検出器を備えたガスクロマトグラフを用い、下記条件で未反応モノマー量を測定した。
条件1
装置:島津製作所製、GC−14A
カラム:SUPELCO製SPB−5
注入量:1μl
注入口温度:160℃
検出器温度:250℃
オーブン温度:40℃で1分保持した後、毎分6℃で230℃まで昇温し、1分保持
条件2
装置:島津製作所製、GC−14A
カラム:SUPELCO製WAX−10
注入量:1μl
注入口温度:160℃
検出器温度:250℃
オーブン温度:40℃で1分保持した後、毎分3℃で70℃まで昇温し、1分保持する。その後、毎分7℃で230℃まで昇温し、1分保持。
【0029】
〈重合率算出〉
重合率は、上述した未反応モノマー量の測定方法で未反応モノマー量を求め、下記式によって算出した。
重合率={1−(未反応モノマーの質量)/(共重合体溶液の質量−溶剤の質量)}×100
【0030】
〈不飽和二重結合を持つ無水マレイン酸ユニットを含む3量体ないし4量体の量の測定〉
UV検出器を備えた分取GPCを用いて低分子量領域にある2ピークを分取し、それぞれを濃縮した。フラクション1及びフラクション2についてUV検出器を備えた分取逆相HPLCを用いてさらに主要なピーク(計3ピーク)で分取を行って、得られた分取物を乾燥させた。得られた3ピーク分の分取物の質量を計って合計した。重合体100質量%に対する割合(ppm)を算出した。
それぞれの分取物をIR、NMR、MSを用いて構造解析したところ、すべて不飽和二重結合を持つ無水マレイン酸ユニットを含む3量体ないし4量体であることも確認した。
*分取型GPC条件
装置:東ソー製HLC-837全自動分取型液体クロマトグラフ
ポンプ:東ソー製CCPD
検出器:UV(254nm)
カラム:東ソー製TSKgelG2000H8(21.5mmID×60cmL)1本+
JAI GEL2H(20mmID×60cmL)2本、ガードカラム付き
移動相:クロロホルム
流速:4ml/分
カラムオーブン温度:30℃
試料濃度:3wt%クロロホルム溶液(樹脂固形分換算)
注入量:3ml
*分取型HPLC条件
装置:東ソー製HPLCコンポーネントシステム
ポンプ:東ソー製CCPM
検出器:東ソー製UV−8010
検出波長:UV240nm
カラム:東ソー製TSKgelODS−80TM(21.5mmID×30cmL)、ガードカラム付き
流速:4ml/分
移動相条件:アセトニトリル/水=50/50(v/v)で20分保持、その後40分間かけてアセトニトリル/水=95/5に溶媒グラジエントし、その後60分保持
試料濃度:1.0wt%
試料調製用溶媒:アセトニトリル/水=95/5
【0031】
〈耐熱黄変性〉
脱脂処理したブリキ板(300mm×450mm)上に、得られた塗料を乾燥後膜厚が40μmとなるように重ね塗りにより塗布し、常温で15分間放置した後、140℃の熱風乾燥機で30分間焼成し塗膜を形成した。更にこの試験板を160℃、1時間でオーバーベイクした。日本電色工業製SE2000を用い、塗膜の160℃焼付け(オーバーベイク)前後の各b値を計測し、その差△b値を黄変の程度として評価した。
【0032】
〔実施例1〕
酸無水物基含有ビニル系重合体(A−1)溶液の合成
攪拌翼、原料供給ライン、重合物排出ライン、窒素加圧ライン及び温調装置を備えた加圧対応の連続式槽型反応器を、窒素ガス雰囲気下で180℃、1.0MPa(ゲージ圧)に予め加熱しておいた。
この反応器に、溶剤としてSS−150(新日本石油化学(株)製、C10芳香族炭化水素)40部、ビニル系モノマーとして、スチレン30部、ブチルアクリレート45部、無水マレイン酸25部、重合開始剤としてジターシャリーヘキシルパーオキサイド(日本油脂(株)製、商品名パーヘキシルD)7.2部を配合した混合物を滴下注入ポンプにて連続的に供給して、滞在時間が6分間となるように重合した。
引き続き別に準備した攪拌機、温度制御装置及びコンデンサを備えた第2反応器にギアポンプで樹脂溶液を連続的に抜き出し回収した。30分間採取後、取り出しを停止し連続槽型反応器内の残存樹脂溶液を廃棄した。次に、回収樹脂溶液の入った第2反応器を150℃に保持し、追加の重合開始剤(追加触媒)としてジターシャリーヘキシルパーオキサイド0.8部を添加し30分保持し、その後更にジターシャリーヘキシルパーオキサイド0.2部を添加し30分保持して樹脂への添加率を十分に高めた。樹脂固形分量約64質量%のビニル系重合体(A−1)溶液を得た。
重合体(A−1)を合成する際の第1反応器での重合温度と滞在時間、重合開始剤の添加量、重合率、第2反応器での重合温度と滞在時間、重合開始剤の添加量、重合率と得られた重合体の平均分子量と反応性オリゴマー量を表1に示す。
【0033】
〔実施例2〜5〕(重合体(A−2)〜(A−3)溶液)、〔比較例1〜2〕(重合体(B−1)〜(B−2)溶液)
第1反応器での重合温度と滞在時間、重合開始剤の添加量を表1に示すものとした以外は実施例1と同様にして、各種の酸無水物基含有ビニル系重合体溶液を合成した。
【0034】
実施例1〜3は、低分子量の酸無水物基含有重合体を効率よく製造できた。これに対して、比較例1については塗料化前の特性において不飽和二重結合を持つ無水マレイン酸ユニットを含む3量体ないし4量体の濃度が多くなってしまった。また、比較例2については質量平均分子量が1万を超えているため粘度が高くなり、環境負荷の少ない塗料用途としては不適当であった。
【0035】
〔比較例3〕
表1に示すように、窒素ガス雰囲気下で、攪拌翼、温度計、還流冷却器、滴下用ポンプを備えた槽型反応器を135℃に保持し、その中へビニル系モノマー混合物を、滴下注入ポンプにて3時間かけて供給し、1時間保持して第一工程の重合反応をさせた後、引き続き第二工程に移り、重合開始剤1部を加え135℃で2時間保持し、常圧下、溶液重合法で重合した以外は実施例1と同様にして酸無水物基含有ビニル系重合体溶液(C−1)を合成した。
〔比較例4〕
表1に示すように、窒素ガス雰囲気下で、攪拌翼、温度計、還流冷却器、滴下用ポンプを備えた加圧対応の槽型反応器を160℃に保持し、その中へ重合開始剤としてジターシャリーブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエートを含むビニル系モノマー混合物を、滴下注入ポンプにて3時間かけて供給し、1時間保持して第一工程の重合反応をさせた後、引き続き第二工程に移り、重合開始剤0.5部を加え170℃で1時間保持し、加圧下、溶液重合法で重合した以外は実施例1と同様にして酸無水物基含有ビニル系重合体溶液(C−2)を合成した。
【0036】
(ハーフエステル化)
実施例1〜3、比較例1〜4で得られた酸無水物基含有ビニル系重合体溶液を攪拌しながら反応器に投入し、温度を70℃に加温し、さらにメタノール6.2部及びトリエチルアミン0.5部を加え、内温を70℃で8時間保持してハーフエステル化させた。SS−150(新日本石油化学(株)製、C10芳香族炭化水素)で希釈して樹脂固形分量約55質量%の重合体溶液を得た。
得られた重合体溶液の酸無水物基が減少していることをIR(赤外分光法;1780cm−1)で確認した。酸当量452g/eq、ガラス転移温度21℃であった。
【0037】
(エポキシ基及び水酸基含有重合体(D−1)溶液の合成)
攪拌翼、原料供給ライン、重合物排出ライン、窒素加圧ライン及び温調装置を備えた加圧対応の連続式槽型反応器を、窒素ガス雰囲気下で200℃、1.0MPa(ゲージ圧)に予め加熱しておいた。
この反応器に、溶剤としてSS−150(新日本石油化学(株)製、C10芳香族炭化水素)30部、単量体として、グリシジルメタクリレート40部、2−ヒドロキシエチルアクリレート20部、i−ブチルメタクリレート30部、スチレン10部、重合開始剤としてジターシャリーブチルパーオキサイド(日本油脂(株)製、商品名パーブチルD)4.4部を配合した混合物を、滴下注入ポンプにて連続的に供給して、滞在時間が10分間となるように重合した。引き続き別に準備した攪拌機、温度制御装置及びコンデンサを備えた第2反応器にギアポンプで樹脂溶液を連続的に抜き出し回収した。30分間採取後、取り出しを停止し連続槽型反応器内の残存樹脂溶液を廃棄した。
次に、回収樹脂溶液の入った第2反応器を145℃に保持し、追加の重合開始剤(追加触媒)としてジターシャリーブチルパーオキサイド1部を30分かけて連続して添加し、更に150℃で1時間保持して樹脂への添加率を十分に高め、樹脂固形分量約71質量%のエポキシ基含有ビニル系重合体(D−1)溶液を得た。
エポキシ当量460g/eq、水酸基当量100g/eq、ガラス転移温度42℃であった。
【0038】
〔塗料化〕
上記実施例1〜3、比較例1〜4の各酸無水物基含有ビニル系重合体溶液をそれぞれをハーフエステル化した重合体溶液100gと、エポキシ基及び水酸基含有重合体溶液(D−1)100gとを質量比で100/100になるように配合し、攪拌混合した。更に芳香族系炭化水素混合物(商品名:ソルベッソ150、エクソン化学社製)で希釈し、20℃における粘度がフォードカップ#4で28秒となるように調製して熱硬化性クリヤー塗料とした。
得られた塗料を用いてできた塗膜の評価結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例1〜3は160℃におけるb値及びΔb値の両方の数値が小さく良好な結果を得た。特に、実施例1,2は180℃で連続重合しているため、不飽和二重結合をもつ無水マレイン酸ユニットを含む3量体ないし4量体の生成を格段に抑制でき、溶液重合法による比較例3よりも耐熱黄変性を改善した。それに対し比較例1はΔb値が大きいため好ましくない。また比較例2は160℃におけるb値が大きいため、Δb値が小さくても耐熱黄変性としては低位である。比較例3(溶液重合品)は重合に長時間を要して生産性が低く、比較例4(高温重合品)は160℃におけるb値及びΔb値の両方の数値が大きく、耐熱黄変性は低位であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量平均分子量が2000〜6000の酸無水物基含有ビニル系重合体の製造方法であって、
α,β−ジカルボン酸無水物基を有するビニル系モノマーを含むビニル系モノマーと、ラジカル重合開始剤とを含有する原料混合物50〜95質量部と、溶剤50〜5質量部とを連続式槽型の第1反応器に連続的に供給し、重合温度160℃〜195℃、滞在時間2〜30分の条件下で重合率が50%〜99%になるようにビニル系モノマーを重合し、反応中間混合物溶液を製造する第一工程と、
前記ビニル系モノマー100質量部に対して0.01〜5質量部の重合開始剤と前記反応中間混合物溶液とを第2反応器に供給し、重合温度100℃〜160℃、滞在時間10分〜240分の条件下、重合率が80%以上になるように、および不飽和二重結合を持つ無水マレイン酸ユニットを含む3量体ないし4量体の濃度が1500ppm以下になるように更に重合する第二工程と
を有することを特徴とする酸無水物基含有ビニル系重合体の製造方法。
【請求項2】
質量平均分子量が2000〜6000で、不飽和二重結合を持つ無水マレイン酸ユニットを含む3量体ないし4量体の濃度が1500ppm以下であることを特徴とする酸無水物基含有ビニル系重合体。
【請求項3】
請求項2記載の酸無水物基含有ビニル系重合体を用いた塗料。
【請求項4】
請求項2記載の酸無水物基含有ビニル系重合体のハーフエステル化物と、エポキシ基及び水酸基含有重合体とを含有した塗料。

【公開番号】特開2007−297548(P2007−297548A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128215(P2006−128215)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】