説明

酸素をドープした金属アラナート

燃料電池の用途で可逆的水素貯蔵に利用される金属アラナート材料は、酸素をドープした金属アラナート材料を含む。記載の実施例で、金属アラナート材料は、アルカリ金属アラナートまたは混合アルカリ金属−アルカリ土類金属アラナートの1つである。いくつかの実施例では、−ΔGf゜<200Kcal/モルを示す不安定な固体酸化物に由来する酸素あるいは水酸化物、炭酸塩、硝酸塩または酸素ガス混合物に由来する酸素を、金属アラナートにドープする。一実施例では金属アラナートは、0.5モル%〜30モル%の酸素をドープされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可逆的水素貯蔵材料に関する。特に本発明は、酸素をドープすることによって、従来公知のドープ処理した金属アラナート(alanate)材料と比べて水素吸収速度および水素貯蔵容量が向上した金属アラナート材料に関する。
【背景技術】
【0002】
NaAlH4のような金属アラナートは、可逆的水素貯蔵材料として一般に知られている。金属アラナートは水素を貯蔵したり放出したりする他、穏和な圧力、温度で水素の補充を受けることができる。約80℃で金属アラナートの脱水素(すなわち水素の遊離)は熱力学的に有利である。100°〜120℃および60〜100barでの逆の再水素化反応では、水素が金属アラナートに再添加される。このように脱水素条件および水素化条件が比較的穏やかなので、金属アラナートを例えば燃料電池装置に利用できる。
【0003】
燃料電池装置などに利用する場合、水素貯蔵容量は体積的に大きい方が望ましい。従来の金属アラナートの水素貯蔵容量を増加させるために、ドーパントとして適切な量の特定遷移金属を熱力学的触媒として添加することが提唱されてきた。一般にSc、TiまたはZrのような遷移金属を約2〜6モル%ドープすると、水素吸収速度および水素脱着速度が大幅に増加する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の遷移金属ドーパントを使用する際の欠点は、2モル%を超える量のドーパントで効果が減少したり逆効果になったりすることである。例えば、Scドーパントの量を2.0モル%から3.3モル%に増やすと、NaAlH4の水素吸収量は大幅に減少する。Scドーパントの限界有効量は2.0モル%である。Tiは、NaAlH4中で最大6モル%までの濃度で触媒として有効に利用されてきた。このような高濃度のドーパントはハロゲン化物含有量の増加を招き、NaClまたはNaFが形成されることにより全体的な貯蔵容量が減少する。従って、触媒量が4モル%を超えることは望ましくない。
【0005】
従来のドーパントを限界有効量で用いた場合の容量を上回る増加した水素貯蔵容量を示す、金属アラナート材料が求められている。NaAlH4と、Al23およびCeO2のような数種の酸化物との機械的な粉砕混合については、速度がほんの僅かだけ増加することが文献に記載されている。Al23およびCeO2のような−ΔGf゜>200Kcal/モルを示す酸化物を使用しても、系に酸素は組み込まれず、速度活性が制約される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は一般に、燃料電池の用途などで可逆的水素貯蔵に利用される、金属アラナート材料に関する。
【0007】
一実施例では、金属アラナート基材(base material)は、アルカリ金属アラナートまたは混合アルカリ金属−アルカリ土類金属アラナートの1つである。金属アラナート基材は(分子を基準にして)約0.5%〜30%の酸素をドープされ、その結果、材料の水素貯蔵速度が速まり、水素貯蔵容量が増加する。
【0008】
一実施例では、ドーパントである酸素の供給源は固体酸化物である。この固体酸化物は、例えばCu2O、NiO、PdO、SeO2、ZnOを含む、−ΔGf゜<200Kcal/モルを示す不安定な固体酸化物の一群から選択される。
【0009】
一実施例では、公知のボールミル技術を用いて、固体酸化物を金属アラナートにドープする。あるいは、酸素ガスと不活性ガスとを含む気体混合物を用いて、酸素を金属アラナートに導入することもできる。
【0010】
酸素をドープした金属アラナートであれば、Scのようなドーパントを、前述の2モル%という限界有効量を上回る量で使用できる。酸素をドープした金属アラナートは改良型の可逆的水素貯蔵材料であり、例えば、燃料電池装置への利用に際して要求される有利な速度特性および熱力学的特性を示す。
【0011】
本発明の様々な特徴および利点は、現在の最良の形態に関する以下の詳細な説明から、当業者に明らかである。詳細な説明に添付される図面については後に簡潔に記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、電力用に燃料電池装置12を用いた自動車10を示す図である。燃料電池装置12は電力を生成する際に水素を必要とするので、搭載型の水素貯蔵源を必要とする。燃料電池装置12の水素貯蔵部14は、酸素をドープした金属アラナート材料を含んでいる。
【0013】
金属アラナート材料の基本材料はアルカリ金属アラナート、混合アルカリ金属−アルカリ土類金属アラナートまたは遷移金属アラナートであってよい。アルカリ金属アラナートの1つの有利な実施例はNaAlH4であり、有利な混合アルカリ金属−アルカリ土類金属アラナートは式:
1(1-x)2x(AlH4x+1
で表され、ここで、M1は、アルカリ金属であり、M2は、アルカリ土類金属であり、0≦x≦1である。
【0014】
また、Tm+i(AlH4iのような遷移金属アラナートも使用でき、ここで、Tmは、原子価状態がiの遷移金属である。また、
x1y2Tmi(1-x-y)(AlH4x+2y+i-ix-iy
で表されるような、混合アルカリ金属、アルカリ土類金属および遷移金属も使用可能であり、ここで、M1は、アルカリ金属であり、M2は、アルカリ土類金属であり、Tmは、原子価状態がiの遷移金属であり、x+y=1かつ0≦x、y≦1である。本明細書により利益を受ける当業者であれば、本発明の材料の製造に有用な別の好ましい金属アラナート基材を認識するであろう。
【0015】
当業技術で公知であるように、水素化を熱力学的に強化するため、約2モル%の特定遷移金属を金属アラナート基材にドープしてよい。Scのようなドーパントは、当業技術で公知の様々な方法で金属アラナート基材に添加できる。特にScは、他のいくつかの一般的なドーパントよりも優れた触媒効果を示す。例えば、TiCl2の形態で加えたTi触媒を用いた場合、NaAlH4の再水素化速度は、100℃および60barの条件下で、0.36重量%/hr未満の再水素化速度を示す。同一条件下で、ScCl3の形態で添加したScを用いた場合、NaAlH4は、1.03重量%/hrの再水素化速度を示す。
【0016】
図2を参照すると、2モル%を超える量のScを添加すると金属アラナート材料の水素貯蔵容量は大きく減少する。100℃および60〜68atmで超高純度(ultra high purity)(UHP)水素を用いる水素化条件であれば、3.3モル%のScをScCl3の形態で添加してドープしたNaAlH4は、10時間後に約1.5重量%の総水素貯蔵容量を示す。これは曲線20で示されている。同一条件下で、2.0モル%のScをScCl3の形態で添加してドープしたNaAlH4は、10時間後に4.00〜4.50重量%の総水素貯蔵容量を示す。これは曲線22で示されている。従って、Sc触媒を2.0モル%を超えて任意に追加することは、水素貯蔵容量を増やすのに逆効果である。
【0017】
2モル%を超える量のScを含む金属アラナートで水素貯蔵容量が減少するのは、触媒それ自体の重量によって予想される以上である。一定体積の金属アラナートでは、触媒が、水素貯蔵金属アラナート基材の一部と置換する。結果として、触媒の使用では利害の競合が生じる。すなわち、有益な触媒効果、対、金属アラナート基材が置換されることによる水素貯蔵容量の減少、である。当業者であれば、金属アラナート基材が触媒で置換されることに起因する水素貯蔵容量の予想減量を算出できる。
【0018】
Sc触媒の量を2.0モル%から3.3モル%に増加させると、金属アラナート基材が触媒で置換されることによる水素貯蔵容量の減量が予想される。水素貯蔵容量の実際の減量は、予想減量を上回る。従ってScは、金属アラナート基材に対し、熱力学的阻害物質として働くはずである。これは「過剰」なScドーパントによる平衡圧力の増加が主な原因である。
【0019】
本発明であれば、性能を高めることが可能であり、かつ、金属ドーパントの増量による効力の低下が回避される。
【0020】
実施例では金属アラナート材料で、約0.5モル%〜30モル%の酸素をドープすると、Scドーパントによる平衡圧力が引き下げられる。ドーパント酸素により平衡圧力が低下し、従来の限界有効量(すなわち2.0モル%)を超える量のScドーパントを添加することが可能となる。いくつかの実施例では、Scドーパントを最大約25モル%の量まで添加し得る。ドーパント酸素により、多量(すなわち2モル%を超える量)のScドーパントによる平衡圧力の上昇が抑制され、好ましい水素化特性が得られる。
【0021】
例えば図2の曲線20を参照すると、ScドーパントをScCl3の形態で3.3モル%添加したNaAlH4の水素貯蔵容量は約1.50%である。しかし、ScドーパントをScCl3の形態で同量添加しかつドーパントとして酸素をNa2Oの形態で添加したNaAlH4の貯蔵容量は、4.50〜5.00%である。これは曲線24で示される。酸素をドープするとSc触媒による平衡圧力の上昇が抑制される。Sc以外の触媒でも同様の結果となる。
【0022】
Scドーパントを従来最適と考えられてきた量で使用した場合も結果は向上する。曲線22で示される2モル%のScCl3を添加した場合の水素吸収量がちょうど4.0重量%を超えるのに対し、曲線26は、2モル%のScCl3の他に0.67モル%のSc23を添加すると、水素吸収量が4.5重量%を上回るまでに増加することを示している。この実施例では、酸素をドーパントとして添加することにより0.5重量%の吸収増が可能となる。
【0023】
金属アラナート基材に酸素をドープするために、いくつかの異なる公知方法を利用できる。一実施例では、高エネルギーボールミル法が好ましい方法であり、酸素源として固体酸化物または水酸化物を使用する。
【0024】
好ましい固体酸化物酸素源には、不安定な酸化物、例えば−ΔG゜f<200kcal/モルを示すような酸化物が含まれる。ボールミル法をドープ技術として選択するのであれば、例えばBaO2、BeO、Bi23、CdO、Cu2O、Au23、IrO2、Li2O、Hg2O、NiO、Tl2O、SeO2、ZnO、TeO2、Ag2O、PuO2、PdO、Na2OおよびZnOが有効な酸素源である。好ましい硝酸塩の例としては、AgNO3、CdNO3、Co(NO32、CsNO3、Cu(NO32、Fe(NO32、KNO3、LiNO3、NaNO3、NH4NO3、Ni(NO32、Pb(NO32、RbNO3およびZn(NO32が挙げられる。好ましい炭酸塩の例としては、CdCO3、CoCO3、CuCO3、FeCO3、PbCO3、MnCO3、Na2CO3およびZnCO3が挙げられる。酸素を組み込むための別の手段として水酸化物を用いることができる。水酸化物の例としては、Cd(OH)2、CsOH、Cu(OH)2、KOH、LiOH、Mn(OH)3、N2OH、Ni(OH)2、Pb(OH)2、Pd(OH)2、Pt(OH)2、RbOH、Sn(OH)2、Tl(OH)3およびZn(OH)2が挙げられる。不安定な酸化物または水酸化物を金属アラナート基材と共にボールミルで粉砕混合すると、酸化物化合物が解離し、酸素は金属アラナート基材にドープされるかあるいはそうでなければ化合物に組み込まれる。本明細書により利益を受ける当業者であれば別の好適な不安定固体酸化物、混合酸化物または水酸化物を認識するであろう。
【0025】
基材に酸素をドープするための他の方法は酸素ガス混合物を用いるものである。N2またはArのような不活性ガスとの混合物の形で酸素ガスを使用して部分的な酸化を行い、金属アラナート基材に酸素を導入することができる。
【0026】
本発明は例証により記載されるものであり、使用される専門用語は記載のための用語の範疇に含まれるのであって、記載を制限するものではないと考える。前述を考慮し、記載の実施例を様々に修飾および改変することが可能である。従って、添付の請求項の範囲内であれば、具体的に記載したものとは別のやり方で本発明を実現することが可能であると考える。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に即して設計された水素貯蔵部を含む燃料電池装置を有する自動車を示す図。
【図2】本発明に即して製造された実施例の金属アラナート材料を用いた水素化の実施例の結果を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素をドープした金属アラナート材料を含むことを特徴とする材料組成物。
【請求項2】
金属アラナートがNaAlH4であることを特徴とする請求項1記載の材料組成物。
【請求項3】
金属アラナートがM1(1-2x)2x(AlH4)であり、ここで、
1が、アルカリ金属であり、
2が、アルカリ金属であり、
0≦x≦9である、
ことを特徴とする請求項1記載の材料組成物。
【請求項4】
金属アラナート材料が、不安定な金属酸化物、水酸化物、硝酸塩または炭酸塩の少なくとも1種をドープされていることを特徴とする請求項1記載の材料組成物。
【請求項5】
不安定な金属酸化物が、−ΔGf゜<200Kcal/モルを示すことを特徴とする請求項4記載の材料組成物。
【請求項6】
酸素が、酸素ガス混合物に由来するものであることを特徴とする請求項1記載の材料組成物。
【請求項7】
金属アラナート材料が、0.5モル%〜30モル%の酸素をドープされていることを特徴とする請求項1記載の材料組成物。
【請求項8】
酸素をドープした金属アラナート材料を含む水素貯蔵部を有することを特徴とする燃料電池装置。
【請求項9】
金属アラナート材料がNaAlH4であることを特徴とする請求項8記載の燃料電池装置。
【請求項10】
金属アラナート材料がM1(1-2x)2x(AlH4)であり、ここで、
1が、アルカリ金属であり、
2が、アルカリ金属であり、
0≦x≦9である、
ことを特徴とする請求項8記載の燃料電池装置。
【請求項11】
金属アラナート材料が、不安定な金属酸化物、水酸化物、硝酸塩または炭酸塩の少なくとも1種をドープされていることを特徴とする請求項8記載の燃料電池装置。
【請求項12】
不安定な金属酸化物が、−ΔGp゜<200Kcal/モルを示すことを特徴とする請求項11記載の燃料電池装置。
【請求項13】
酸素源が酸素ガス混合物であることを特徴とする請求項8記載の燃料電池装置。
【請求項14】
金属アラナート材料が、0.5モル%〜30モル%の酸素をドープされていることを特徴とする請求項8記載の金属アラナート材料。
【請求項15】
金属アラナートに酸素をドープすることを含むことを特徴とする水素貯蔵材料の製造方法。
【請求項16】
金属アラナート材料がNaAlH4を含むことを特徴とする請求項15記載の製造方法。
【請求項17】
金属アラナートが式M1(1-2x)2x(AlH4)を含み、ここで
1が、アルカリ金属であり、
2が、アルカリ金属であり、
0≦x≦9である、
ことを特徴とする請求項15記載の製造方法。
【請求項18】
金属アラナート材料に、不安定な金属酸化物、水酸化物、硝酸塩または炭酸塩の少なくとも1種をドープすることを含むことを特徴とする請求項15記載の製造方法。
【請求項19】
不安定な金属酸化物が、−ΔG゜f<200Kcal/モルを示すことを特徴とする請求項18記載の製造方法。
【請求項20】
酸素ガス混合物を使用することを含むことを特徴とする請求項15記載の製造方法。
【請求項21】
金属アラナート材料に、0.5モル%〜30モル%の酸素をドープすることを含むことを特徴とする請求項15記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−514407(P2008−514407A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−533628(P2007−533628)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【国際出願番号】PCT/US2005/033997
【国際公開番号】WO2006/036742
【国際公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(500477447)ユーティーシー パワー コーポレイション (138)
【Fターム(参考)】