説明

酸素センサの故障診断装置

【課題】酸素センサの故障と回路故障とを区別して判定する。
【解決手段】排気ガスの酸素濃度に応じた起電力を発生する酸素センサの故障診断装置において、酸素センサの正極及び負極における電圧をそれぞれ検出するための正極電圧検出回路及び負極電圧検出回路と、負極電圧検出回路及び負極間に所定の基準電圧を印加するための基準電圧印加回路と、酸素センサにリーン空燃比の排気ガスを供給するよう空燃比を制御する空燃比制御手段と、酸素センサにリーン空燃比の排気ガスが供給されているときの正極電圧検出回路及び負極電圧検出回路間の電圧差Vdの変化パターンQ,Rに応じて酸素センサの故障と回路故障とを区別して判定する故障判定手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸素センサの故障診断装置に係り、特に、内燃機関の排気通路に設けられ、排気ガスの酸素濃度に応じた起電力を発生する酸素センサの故障診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒を利用した排気ガス浄化システムを備える内燃機関では、触媒による排気ガスの有害成分の浄化を有効に行うため、内燃機関で燃焼される混合気の空気と燃料との混合割合、すなわち空燃比のコントロールが欠かせない。こうした空燃比の制御を行うため、内燃機関の排気通路に、排気ガスの酸素濃度を検出する酸素センサを設け、その検出結果より空燃比を求めて、検出された空燃比を所定の目標空燃比に近づけるフィードバック制御を実施している。
【0003】
酸素センサは、排気通路内に突出するように配設された筒型の検出素子を備えている。検出素子は、その内面を大気(空気)に露呈するとともに、その外面は、センサカバーを通して流過する排気ガスに曝される。また検出素子は、内外の表面に電極が被覆された固体電解質により形成されている。固体電解質は、酸素がイオン化した状態でその内部を移動可能な固形物質を指し、酸素センサ用としては例えばジルコニアなどが利用されている。検出素子の内側の大気と外側の排気ガスとの酸素分圧に差が生じると、その分圧の差を縮小すべく、酸素分圧の高い側(通常は大気側)の酸素がイオン化して固体電解質を通り、酸素分圧の低い側(通常は排気ガス側)へと移動する。酸素分子はイオン化する過程で4価の電子を受け取り、イオン化した状態から分子に戻る過程で4価の電子を放出する。そのため、上記の酸素の移動に応じて検出素子の内外表面の電極で電子の移動が生じ、その結果、検出素子に起電力が発生する。こうして酸素センサは、大気と排気ガスとの酸素分圧の差に応じて起電力を発生し、より具体的には、排気ガスの酸素濃度が少なくなるほど(つまり排気ガスの空燃比がリッチであるほど)大きな起電力を発生する。
【0004】
こうした酸素センサにおいて、検出素子の欠損が生じて検出素子の内外が連通すると、検出素子外部の排気ガスがその内部に侵入し、その内外の酸素分圧の差が無くなってセンサは起電力を発生しなくなる。そしてさらに、検出素子内部に排気ガスが侵入した状態で検出素子外部により酸素濃度の高い(空燃比リーンの)排気ガスが存在すると、酸素センサにおいて逆方向の起電力が発生する。従ってこの逆起電力の発生を検出することで酸素センサの検出素子の欠損、即ち酸素センサの故障を検出することができる(例えば特許文献1参照)。
【0005】
なお、従来のこの種の故障診断装置としては、他にも、酸素センサの出力が所定のしきい値より低い状態が所定期間継続した場合に、燃焼空燃比を故意にリッチ側に変動させて酸素センサの出力を監視するものがある(特許文献2参照)。また、空燃比センサがリッチ側またはリーン側のいずれか一方の空燃比状態を所定時間以上続けて検出したとき、検出した空燃比状態とは逆の空燃比状態になるように目標空燃比を変更し、その後所定時間以内に逆の空燃比状態を空燃比センサが検出しなかったとき空燃比センサを異常と判定するものがある(特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2003−14683号公報
【特許文献2】特開2005−42676号公報
【特許文献3】特開平11−326137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、酸素センサの出力は電子制御ユニットに送られ、電子制御ユニットにおいて逆起電力の検出ひいては酸素センサの故障判定がなされる訳だが、酸素センサ以外の回路部分で故障が発生した場合にも、酸素センサの故障時と同様な入力が電子制御ユニットで得られる場合がある。この場合、電子制御ユニットにおいて、酸素センサの故障なのか回路の故障なのかを判別することができず、故障部位を正確に特定できないという問題がある。
【0008】
そこで、本発明はかかる実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、酸素センサの故障と回路故障とを区別して判定することができる酸素センサの故障診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、第1の発明は、
内燃機関の排気通路に設けられ、排気ガスの酸素濃度に応じた起電力を発生する酸素センサの故障診断装置において、
前記酸素センサの正極における電圧を検出するための正極電圧検出回路と、
前記酸素センサの負極における電圧を検出するための負極電圧検出回路と、
前記負極電圧検出回路及び前記負極間に所定の基準電圧を印加するための基準電圧印加回路と、
前記酸素センサに少なくともリーン空燃比の排気ガスを供給するよう空燃比を制御する空燃比制御手段と、
前記酸素センサにリーン空燃比の排気ガスが供給されているときの、前記正極電圧検出回路及び前記負極電圧検出回路間の負の電圧差の変化パターンに応じて、前記酸素センサの故障と、前記基準電圧印加回路及び前記負極間の回路故障とを区別して判定する故障判定手段と
を備えたことを特徴とする。
【0010】
酸素センサの故障の場合と回路故障の場合とでは、検出される負の電圧差の変化パターンに違いが見られる。よってこの特性を利用して、第1の発明では、負の電圧差の変化パターンに応じて酸素センサの故障と回路故障とを区別して判定することとしている。これにより、故障部位の特定が可能となり、精度の高い故障診断が可能となる。
【0011】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記故障判定手段は、前記電圧差が負のピークに達しその後徐々にゼロに復帰するような変化を検出したとき前記酸素センサの故障と判定し、他方、前記電圧差が負の一定値になっていることを検出したとき前記回路故障と判定する
ことを特徴とする。
【0012】
また、第3の発明は、第1の発明において、
前記故障判定手段は、前記電圧差が所定の負の値である第1しきい値より低い値となっており、且つこの状態が所定時間継続していることを検出したとき、前記回路故障と判定する
ことを特徴とする。
【0013】
また、第4の発明は、第1の発明において、
前記故障判定手段は、前記電圧差が、所定の負の値である第1しきい値以上の値であって、且つ前記第1しきい値より高い所定の負の値である第2しきい値より低い値となっていることを検出したとき、前記酸素センサの故障と判定する
ことを特徴とする。
【0014】
また、第5の発明は、第1の発明において、
前記故障判定手段は、前記電圧差が、所定の負の値である第1しきい値より低い値となっており、且つこの状態が所定時間継続しないとき、前記酸素センサの故障と判定する
ことを特徴とする。
【0015】
また、第6の発明は、第1乃至第5いずれかの発明において、
前記空燃比制御手段は、故障診断時に空燃比を強制的にリーン空燃比とリッチ空燃比とに交互に変化させるものであり、
前記故障判定手段は、前記空燃比制御手段により空燃比がリーン空燃比に制御されているとき前記故障判定を実行する
ことを特徴とする。
【0016】
また、第7の発明は、第1乃至第5いずれかの発明において、
前記空燃比制御手段は、前記酸素センサにリーン空燃比の排気ガスを供給するようフューエルカットを実行するものであり、
前記故障判定手段は、前記空燃比制御手段によりフューエルカットが実行されているとき前記故障判定を実行する
ことを特徴とする。
【0017】
また、第8の発明は、第1乃至第7いずれかの発明において、
前記回路故障は、前記基準電圧印加回路及び前記負極間の配線の断線且つグランドショートである
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、酸素センサの故障と回路故障とを区別して判定し、故障部位の特定及び高精度な故障診断が可能になるという、優れた効果が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】
本発明の適用される車載用内燃機関の排気ガス浄化システムの構成を、図1を参照して説明する。内燃機関10の吸気通路11には、その通路面積を可変とするスロットルバルブ15(本実施形態では電子制御式)が設けられ、その開度制御によりエアクリーナ14を通じて吸入される空気の量が調整される。ここで吸入された空気の量(吸入空気量)は、エアフローメータ16により検出されている。そして吸気通路11に吸入された空気は、スロットルバルブ15下流に設けられたインジェクタ17より噴射された燃料と混合された後、燃焼室12に送られて、そこで燃焼される。
【0021】
一方、燃焼室12での燃焼により生じた排気ガスが送られる排気通路13には、排気ガス中の有害成分を浄化する三元触媒18が設けられ、その上流側には触媒前酸素センサ19、その下流側には触媒後酸素センサ20がそれぞれ設けられている。
【0022】
三元触媒18は、燃焼される混合気の空燃比が理論空燃比近傍の狭い範囲(ウインドウ)でのみ、排気ガス中の主要有害成分(HC、CO、NOx)のすべてを効率的に浄化する。そうした三元触媒18を有効に機能させるには、混合気の空燃比を上記ウインドウの中心に合わせこむ、厳密なコントロールが必要となる。
【0023】
こうした空燃比の制御は、電子制御ユニット(以下「ECU」という)22により行われる。ECU22には、上記エアフローメータ16や酸素センサ19,20、あるいはアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサ21、機関回転速度を検出するNEセンサ23を始めとする各種センサ類の検出信号が入力されている。そしてそれらセンサ類の検出信号より把握される内燃機関10や車両の運転状況に応じて、上記スロットルバルブ15やインジェクタ17等を駆動制御して、上記のような空燃比の制御を行っている。そうした電子制御ユニット22による空燃比制御の概要は次の通りである。
【0024】
まず電子制御ユニット22は、上記アクセルペダルの踏み込み量や機関回転速度の検出結果に応じて把握される吸入空気量の要求量を求め、それに応じた吸入空気量が得られるようにスロットルバルブ15の開度を調整する。その一方、エアフローメータ16により検出される吸入空気量の実測値に対して、理論空燃比が得られるだけの燃料量を求め、それによりインジェクタ17からの燃料噴射量を調整する。これにより、燃焼室12で燃焼される混合気の空燃比を、ある程度に理論空燃比に近づけることはできる。ただし、それだけでは上記要求される高精度の空燃比制御には不十分である。
【0025】
そこで電子制御ユニット22は、上記各酸素センサ19,20の検出結果より把握される空燃比の実測値に基づいて、インジェクタ17からの燃料噴射量をフィードバック補正し、要求される空燃比制御の精度を確保している。
【0026】
以上のように、この排気ガス浄化システムでは、酸素センサ19,20の検出結果に応じて燃料噴射量をフィードバック補正する、いわゆる空燃比フィードバック制御を実施することで、混合気の空燃比を理論空燃比近傍に保持し、高い排気ガス浄化率を確保している。なお、この排気ガス浄化システムでは、上述のように2つの酸素センサ19,20によって、三元触媒18の上下流における排気ガスの酸素分圧をそれぞれ検出することで、上記空燃比フィードバック制御の更なる高精度化を図っている。
【0027】
こうした排気浄化システムに採用される2つの酸素センサ19,20は互いに同様の構成であり、また故障診断の方法も同様である。そこで以下、触媒前酸素センサ19を例にとって説明し、触媒後酸素センサ20については説明を省略する。図2及び図3に示すように、酸素センサ19は、排気通路13内に突出するように配設された筒型の検出素子31を備えている。検出素子31は、その内面を大気(空気)に露呈するとともに、その外面は、センサカバー32を通して流過する排気ガスに曝される。また検出素子31は、内外の表面に電極33A,33Bが被覆された固体電解質により形成されている。固体電解質は、酸素がイオン化した状態でその内部を移動可能な固形物質を指し、酸素センサ用としては例えばジルコニアなどが利用されている。検出素子31の内部の大気室34は、センサ内に設けられた図示しない大気通路と、センサボディに形成された大気穴35とを通じて外部に連通され、且つ大気が導入されるようになっている。大気室34には、検出素子31を加熱して早期に活性させるためのヒータ36が設けられ、ヒータ36はECU22によって通電制御される。
【0028】
検出素子31を介して隔てられたその内側の大気と外側の排気ガスとの酸素分圧に差が生じると、その分圧の差を縮小すべく、酸素分圧の高い側(通常は大気側)の酸素がイオン化して固体電解質を通り、酸素分圧の低い側(通常は排気ガス側)へと移動する。酸素分子はイオン化する過程で4価の電子を受け取り、イオン化した状態から分子に戻る過程で4価の電子を放出する。そのため、上記の酸素の移動に応じて検出素子31の内外表面の電極で電子の移動が生じ、その結果、検出素子31に起電力が発生する。こうして酸素センサ19は、大気と排気ガスとの酸素分圧の差に応じて起電力を発生し、より具体的には、排気ガスの酸素濃度が少なくなるほど(つまり検出素子31外部の排気ガスの空燃比がリッチであるほど)大きな起電力を発生する。ここで酸素イオンが内表面側の電極33Aから検出素子31を通って外表面側の電極33Bに向かうことから、電流の向きは逆となり、両電極に接続された外部装置に対しては内表面側の電極33Aが正極、外表面側の電極33Bが負極となる。
【0029】
ちなみに、酸素センサには他にも、板形状の検出素子を用いたものや、検出素子にジルコニア以外の素材を用いたものなど、様々なタイプの酸素センサがある。そしてその多くでは、上記例示したセンサと同様の検出原理により排気ガスの酸素分圧を検出する構成、すなわち基準ガス(大気)と排気ガスとを隔離するよう配設された検出素子が、基準ガスに対する排気ガスの酸素分圧の差に応じて起電力を発生する構成となっている。
【0030】
酸素センサ19の出力特性を図4に例示する。示されるように、酸素センサ19の出力電圧は理論空燃比A/Fs(例えば14.6)を境に過渡的に変化し、酸素センサ19に供給される排気ガス(雰囲気ガス)の空燃比A/Fが理論空燃比A/Fsよりもリーンな領域(A/F>A/Fs、以下リーン空燃比ともいう)では0.1V程度の小さい電圧を示し、理論空燃比A/Fsよりもリッチな領域(A/F<A/Fs、以下リッチ空燃比ともいう)では0.9V程度の比較的高い電圧を示す。ここでは、0.45Vのセンサ出力をリッチ・リーン判定閾値として、センサ19の検出結果が、理論空燃比よりもリッチかリーンかを判断している。なお、酸素センサ19の上記各領域でのセンサ出力電圧の大きさは、検出素子31の温度状態に応じて変化することがある。
【0031】
なお、本実施形態のように、理論空燃比での燃焼(ストイキ燃焼)のみを目的とした空燃比制御を行う内燃機関では、理論空燃比を境に出力電圧が大きく変化する特性の酸素センサが用いられることが多い。こうしたセンサは、理論空燃比よりもリッチ、及び理論空燃比よりもリーンのいずれかといった低い分解能しか持たないものの、上記ストイキ燃焼のみを行うには、それで十分なことが多い。一方、希薄空燃比での燃焼を行うなど、より広範囲の空燃比での燃焼を行う内燃機関では、排気ガスの空燃比に応じてその出力電圧が線形的に変化する特性の、より分解能の高い酸素センサが用いられることもある。本発明はこのような酸素センサに対しても適用可能である。
【0032】
ところで、長期使用による経年劣化等により、酸素センサ19の検出素子31にクラックが入ったり、検出素子31が割れたりするといった検出素子31の欠損が発生し、酸素センサ19が故障する場合がある。この欠損によるセンサ故障の場合、図5に示すように、検出素子31の欠損部37を通じて検出素子31の内外が連通し、検出素子31外部の排気ガスがその内部に侵入する。そして検出素子31内部に排気ガスが侵入した状態で、検出素子31外部により酸素濃度の高い(空燃比リーンの)排気ガスが存在すると、酸素センサ19において逆方向の起電力が発生する。このことは例えば、センサ故障状態で空燃比をリッチからリーンに切り替えた場合や、フューエルカットが行われた場合などに起こり得る。この場合、正極33Aの電位よりも負極33Bの電位の方が高くなり、負(マイナス)の起電力が発生する。
【0033】
図6はかかる故障時の酸素センサ出力電圧の変化の一例を示す。円で囲った領域に示されるように、酸素センサ19からはしばしば負の電圧が出力される。従ってこのような負の出力電圧をECU22により検知することで、酸素センサの故障を一応は推定することができる。
【0034】
しかしながら、前述したように、酸素センサ19以外の回路部分で故障が発生した場合にも、同様に負の電圧が検知される場合があることが確認された。従ってこのような場合には、ECU22において、たとえ負の電圧を検出したとしても、それが酸素センサの故障に起因するのか、回路の故障に起因するのかを判別することができず、故障部位を正確に特定することができない。故障部位の特定ができなければ必然的にどの部品を交換すればよいかも分からないことになり、故障時の対応を迅速に行えないという不都合も生じる。
【0035】
そこで、本実施形態では以下のようにして酸素センサの故障と回路故障とを区別して判定することとしている。なお、かかる故障判定の方法はいずれの酸素センサ19,20についても同様であるので、ここでは例示的に触媒前酸素センサ19の一方のみについて説明を行う。
【0036】
まず、酸素センサ19とこれが接続されるECU22とからなる回路構成を説明する。図7は、回路故障が無いときの正常時の回路構成を示す。図示されるように、酸素センサ19は、その正極33Aが正極線41Aにより、その負極33Bが負極線41Bにより、それぞれECU22に接続されている。具体的には、正極線41A及び負極線41BがそれぞれECU22のケーシング(太実線で示す)に設けられた正極端子42A及び負極端子42Bに接続されている。酸素センサ19は、インピーダンス成分Rsと起電力成分とを含むものとして等価的に示されている。ECU22は内部に中央処理ユニット(以下CPUという)43を備え、CPU43は以下の回路を通じて正極端子42A及び負極端子42Bに接続される。
【0037】
ECU22は、酸素センサ19が発生する電圧(正極33A及び負極33B間の電圧)に基づいて排気空燃比に関する情報を取得する機能、酸素センサ19の素子インピーダンスRsを検出する機能、さらには負電圧を検出することによりセンサ又は回路のいずれかの故障を判定する機能を併せ持つ。このうち、酸素センサ19の素子インピーダンスRsを検出する機能を発揮する部分、即ち素子インピーダンス検出部B(図中一点鎖線で囲まれる部分)は、本発明と直接関係ないため、ここでは説明を省略する。素子インピーダンス検出部Bは、CPU43の入出力部である第1ポート44、第1AD変換器45、第2ポート46及び第2AD変換器47を含む。
【0038】
ECU22において、正極端子42A及び負極端子42Bは、それぞれ、CPU43の入出力部である第3AD変換器48及び第4AD変換器49に接続されている。正極端子42A及び第3AD変換器48の間には、抵抗50及びコンデンサ51からなるフィルタ回路が介設されている。このフィルタ回路は、十分に大きな時定数を有しており、正極端子42Aにおける電圧の低周波成分だけを通過させる。このため、第3AD変換器48は、ノイズなどの影響を受けることなく、正極端子42Aの定常的な電圧値に相当するディジタル信号を精度良く生成することができる。以下、当該回路を「正極電圧検出回路」と称す。
【0039】
同様に、負極端子42B及び第4AD変換器49の間には、抵抗52及びコンデンサ53からなるフィルタ回路が介設されている。このフィルタ回路は、十分に大きな時定数を有しており、負極端子42Bにおける電圧の低周波成分だけを通過させる。このため、第4AD変換器49は、ノイズなどの影響を受けることなく、負極端子42Bの定常的な電圧値に相当するディジタル信号を精度良く生成することができる。以下、当該回路を「負極電圧検出回路」と称す。
【0040】
また、ECU22において、第4AD変換器49の前段に設けられたフィルタ回路と、負極端子42Bとの間の所定位置即ちサンプリング点54には、抵抗55を介して、所定の大きさを有する定電圧Veが印加されている。本実施形態において、定電圧Veは5Vの大きさを有し、これはECU22の電源電圧でもある。またサンプリング点54には、一端が接地されたダイオード56が接続されている。この回路によれば、サンプリング点54の電位がダイオード56の閾値電圧(シリコンダイオードの場合約0.7V)に維持されることから、サンプリング点54に電源電圧より低い常に一定の電圧を印加することができる。このサンプリング点54に印加される定電圧を基準電圧V0と称し、本実施形態ではV0=0.7Vである。以下、当該回路を「基準電圧印加回路」と称す。この基準電圧印加回路は、酸素センサ19の負極33Bの電位を持ち上げるために設けられている。
【0041】
ECU22において、出力検出用抵抗57が酸素センサ19と並列に設けられている。この出力検出用抵抗57は、一端が、第3AD変換器48の前段のフィルタ回路及び正極端子42Aを結ぶ配線に接続され、他端が、サンプリング点54及び負極端子42Bを結ぶ配線に接続されている。出力検出用抵抗57は、酸素センサ19のインピーダンスRsに比して十分に大きなインピーダンスを有している。
【0042】
以上の回路構成による空燃比の検出処理を説明する。なお、図4を参照して説明したように、本実施形態の酸素センサはリーン空燃比のとき0.1V程度という0Vに近い電圧を発生し、リッチ空燃比のとき0.9V程度という1Vに近い電圧を発生する。そこでここでは、理解を容易にするため、リーン空燃比のとき0V、リッチ空燃比のとき1Vの電圧を発生するものとする。
【0043】
まず、サンプリング点54に基準電圧V0が常時印加されているので、第4AD変換器49からCPU43に出力される電圧V4は常に基準電圧V0と等しい0.7Vとなり、また、負極33Bにおける電圧値も常に基準電圧V0と等しい0.7Vとなる。
【0044】
そして、酸素センサ19にリッチ空燃比の排気ガスが供給されているとき、酸素センサ19においては1Vの電圧が発生され、即ち、負極33Bに対する正極33Aの電位が1V高くなる。よって正極33Aの対地電圧は基準電圧V0=0.7Vにセンサ発生電圧Vs=1Vを加えた値、即ち1.7Vとなる。そしてこの電圧1.7Vが第3AD変換器48からCPU43に出力される電圧V3となる。
【0045】
CPU43は、第3AD変換器48からの入力電圧V3と第4AD変換器49からの入力電圧V4との電圧差を次式(1)に従って算出し、その結果である検出電圧Vdなる値を求める。この検出電圧Vdが、前記正極電圧検出回路と前記負極電圧検出回路との間の電圧差となる。
Vd=V3−V4 ・・・(1)
【0046】
そしてCPU43は、この検出電圧Vdをリッチ・リーン判定閾値Vs(=0.45V)と比較して、排気ガスの空燃比がリッチであるかリーンであるかを判定する。酸素センサ19にリッチ空燃比の排気ガスが供給されているときには、Vd=1.7−0.7=1Vとなり、排気ガスの空燃比はリッチと判定される。
【0047】
他方、酸素センサ19にリーン空燃比の排気ガスが供給されているとき、酸素センサ19の発生電圧は0Vとなる。よって正極33Aの電圧は、負極33Bの電圧0.7Vにセンサ発生電圧Vs=0Vを加えた値、即ち0.7Vとなる。この場合、V3=0.7V、V4=0.7Vとなり、(1)式によりVd=0Vとなり、排気ガスの空燃比はリーンと判定される。
【0048】
これから分かるように、第3AD変換器48からの入力電圧V3と第4AD変換器49からの入力電圧V4とは双方等しく基準電圧V0によって持ち上げられているだけであり、結果的にそれらの差である検出電圧Vdは、酸素センサ19の正極33A及び負極33B間の電圧差と実質的に何等変わりはない。
【0049】
ところで、かかる電気回路が正常で、酸素センサ19のみに欠損故障が生じた場合(以下、この場合を単に「センサ故障」と称す)、前述したように酸素センサ19の正極33A及び負極33B間で負電圧が発生し、これに伴いCPU43でも負の検出電圧Vdが検出される。従ってこの負電圧の検出を以てセンサ故障を一応は推定することができる。
【0050】
一方、これとは別に、酸素センサ19が正常で電気回路にのみ故障が生じた場合(以下、この場合を単に「回路故障」と称す)でも、センサ故障の場合と同様に負電圧が検出される場合がある。この場合とは、例えば、図8に示されるように、基準電圧V0が印加されるサンプリング点54と、酸素センサ19の負極33Bとの間で断線が生じ、且つその負極33Bにつながっている配線がグランドショート(接地ショート)するという、所謂オープンショートの場合である。ここでECU22においては全ての部品が頑丈なケーシングに収納取付され、部品が基板に取り付けられて適宜絶縁被覆されていることから、オープンショートはECU22側では起こりづらい。最も典型的に起こり得るのは、図示されるように、酸素センサ19とECU22とを接続する外部露出配線(負極線41B)が断線し、近隣のエンジン部品と接触してグランドショートするケースである。
【0051】
酸素センサ19自体は正常でありながら、このようなオープンショートの回路故障が発生すると、CPU43で検出される電圧は次のようになる。まず、酸素センサ19にリッチ空燃比の排気ガスが供給されている場合、第4AD変換器49では相変わらず基準電圧V0に等しい0.7Vが検出される一方、酸素センサ19の発生電圧は1Vであり、酸素センサ19の負極33Bが接地されて基準電圧V0の印加が無いことから、正極33Aの対地電圧は1Vとなり、これが第3AD変換器48に入力される。よって検出電圧Vd=1−0.7=0.3Vとなる。なおこれはリッチ・リーン判定閾値Vs=0.45Vより低い値であり、従ってCPU43では排気空燃比がリーンであると誤判定することになる。
【0052】
他方、酸素センサ19にリーン空燃比の排気ガスが供給されている場合、第4AD変換器49では相変わらず基準電圧V0に等しい0.7Vが検出される一方、酸素センサ19の発生電圧は0Vであり、酸素センサ19の負極33Bが接地されて基準電圧V0の印加が無いことから、正極33Aの対地電圧は0Vとなり、これが第3AD変換器48に入力される。よって検出電圧Vd=0−0.7=−0.7Vとなり、CPU43で負電圧が検出されることになる。
【0053】
このように、センサ故障と回路故障のいずれの場合であっても、同じように負電圧が検出されてしまい、よって負電圧が検出されたことのみによってはいずれの故障が発生したのかを特定することができない。
【0054】
なお、回路故障の態様が断線のみ或いはグランドショートのみの場合はその回路故障は比較的容易に特定できる。即ち、酸素センサ19とECU22とを接続する配線、即ち正極線41A及び負極線41Bのいずれかが断線した場合は、酸素センサ19のインピーダンスが常に極大になるのと同じ状況なので、このことを素子インピーダンス検出部Bで検出すればよい。また、負極線41Bの被覆が摩損して内部の心線が近隣のエンジン部品に接触するなどして、グランドショートした場合、サンプリング点54における基準電圧V0が常時0Vとなるので、このことを第4AD変換器49を通じて検出すればよい。しかしながら、これら両方の故障態様が同時に発生すると、インピーダンス及び基準電圧が正常と検出されるので、同様の手法で回路故障を検出することはできない。
【0055】
そこで、本実施形態では、センサ故障の場合と回路故障の場合とで検出電圧Vdの変化パターンが相違することに着目し、これら変化パターンに応じてセンサ故障と回路故障とを区別して判定することとしている。
【0056】
図9は、故障診断を行うに際しての排気空燃比A/F及び検出電圧Vdの変化を示す。実線Pは、酸素センサに供給される排気ガスの空燃比A/Fの変化を示す。見られるように、故障診断時には、ECU22により排気空燃比A/Fが強制的にリーン空燃比とリッチ空燃比とに交互に変化させられる。より詳しくは、排気空燃比A/Fは、理論空燃比(A/F=14.6)を中心として、通常運転時の振幅よりも大きな振幅で、所定周期Δtでリーン空燃比とリッチ空燃比とに交互に変化させられる。リーン空燃比及びリッチ空燃比の理論空燃比に対する振幅は等しい。図示例ではリーン空燃比=15.1、リッチ空燃比=14.1とされ、それぞれの振幅は0.5とされているが、この値は適宜変更可能である。このような強制的な空燃比制御をアクティブ空燃比制御と称す。
【0057】
また、実線Qは、センサ故障が発生した場合の検出電圧Vdの変化を示し、実線Rは、回路故障が発生した場合の検出電圧Vdの変化を示す。見られるように、いずれの場合も、排気空燃比A/Fがリーンのとき検出電圧Vdが負の値となっている。しかしながら検出電圧Vdの変化パターンは異なる。実線Qのセンサ故障の場合だと、検出電圧Vdは、排気空燃比A/Fがリーンに切り替えられた後、最初はマイナス側に大きく振れて負のピークq1に達し、その後徐々にゼロに復帰するような変化を示す。これは次の理由による。リーンへの切り替え前に排気空燃比A/Fがリッチにあるとき、酸素センサ19の検出素子31の外部にはリッチガスが存在し、また、このリッチガスが検出素子31の欠損部37から内部に侵入しているので、検出素子19の内部にもリッチガスが存在し、酸素センサ19の発生電圧はゼロに近いとなる。この状態で、排気空燃比A/Fがリーンに切り替えられると、初期においては、検出素子31の内部にリッチガスが存在した状態で検出素子31の外部にリーンガスが存在する。よって酸素センサ19からは負のピーク電圧が出力される。しかしながら、検出素子31の欠損部37を通じて内部のリッチガスと外部のリーンガスとが徐々に交換されていくので、これに伴って検出素子31の内外の酸素分圧の差が少なくなっていき、酸素センサ19の出力電圧がゼロに近づいていく。このように検出素子31の内外でガスの交換が生じるのでこれに伴って検出電圧Vdが変化する。なお図示例では、排気空燃比A/Fをリーンに切り替えた時点から遅れて検出電圧Vdがマイナスのピークに達しているが、排気空燃比A/Fをリーンに切り替えたのとほぼ同時にマイナスのピークに達することもある。
【0058】
他方、実線Rの回路故障の場合だと、前述のような酸素センサ検出素子内外でのガスの交換が無いので、検出電圧Vdは、排気空燃比A/Fがリーンに切り替えられたのとほぼ同時にマイナスの一定値に達し、その後その電圧を継続的に出力するようになる。これは、排気空燃比A/Fのリーン化に伴って酸素センサ自体の出力電圧がゼロになる一方、酸素センサ19の負極33Bが基準電圧V0の印加無しに接地されるので、その分、検出電圧Vdがマイナス側にシフトするためである。
【0059】
実線Qのセンサ故障の場合のマイナスピーク値と、実線Rの回路故障の場合のマイナス一定値とを比較すると、後者が前者より大きなマイナス値となる。これは、後者の場合、ほぼ基準電圧0.7Vがリーン時出力電圧0Vから差し引かれるのに対し、前者の場合、酸素センサ検出素子の外部のガスが大気ではなくリーンガスであり、酸素センサ検出素子の内部のガスが完全なリッチガスとは言えないほどのリッチガスであることから、酸素センサ検出素子内外の酸素分圧差が少ないからである。図示例では、実線Rの回路故障の場合のマイナス一定値は約−0.7V、実線Qのセンサ故障の場合のマイナスピーク値は約−0.5Vとなっている。
【0060】
さて、本実施形態ではこのような検出電圧Vdの変化パターンの相違を検出して、次のようにセンサ故障と回路故障とを区別して判定する。即ち、アクティブ空燃比制御の実行中であって且つ排気空燃比A/Fをリーン空燃比に制御しているとき、検出電圧Vdが最初にマイナスピークに達し、その後徐々にゼロに復帰するような変化を検出したときはセンサ故障と判定し、他方、検出電圧Vdが、基準電圧程度の大きさを有する一定のマイナス値に変化したときは回路故障と判定する。
【0061】
ここで、本実施形態では、同様の判定方法を内燃機関のフューエルカット時にも実行するようにしている。即ち、フューエルカット時には酸素センサに空気が供給され、排気空燃比A/Fは最大のリーン値に変化するので、検出電圧Vdも前記同様に変化するからである。
【0062】
次に、図10を参照して、本実施形態の故障診断処理の具体的内容を説明する。図10は当該故障診断処理を実行するルーチンのフローチャートである。このルーチンはECU22により所定の微小時間(例えば16msec)毎に繰り返し実行される。
【0063】
先ず、ステップS101において、故障診断処理の前提条件が成立しているかどうかが判断される。この前提条件が成立している場合とは、例えば、1)エンジンが始動されていること、2)機関水温が所定温度(例えば70℃)を超えていること、3)酸素センサ19の検出素子31の素子インピーダンスRsが所定値(例えば500Ω)を下回っていること、の全てが満たされている場合である。機関水温は図示しない水温センサで検出される。また、検出素子31の素子インピーダンスRsはECU22の素子インピーダンス検出部Bで検出される。検出素子31のインピーダンスRsは検出素子31の温度が高くなるほど低くなる。従って3)は、実質的には、検出素子31が空燃比を検出可能なほどに高温になっていることと等価である。
【0064】
故障診断処理の前提条件が成立していない場合は本処理が終了される。他方、故障診断処理の前提条件が成立している場合はステップS102に進み、フューエルカット(FC)実行中であるか否かが判断される。フューエルカットは、1)アクセル開度センサ21により検出されたアクセル開度がほぼゼロ(全閉)である、2)NEセンサ23により検出された機関回転速度NEが所定のアイドル速度より高い所定速度以上である、の二条件を満たしたとき実行される制御であり、インジェクタ17からの燃料噴射を停止する制御である。従ってここではこれら二条件の成立の有無が判断されている。
【0065】
フューエルカット実行中であるときはステップS103に進み、フューエルカット実行中でないときはステップS112に進む。ここで、ステップS103〜S111の処理と、ステップS112〜S123の処理とは類似するので、便宜上、まずステップS112〜S123の処理を説明する。
【0066】
ステップS112では、アクティブ空燃比制御の実行条件が成立しているかどうかが判断される。この実行条件が成立している場合とは、例えば、検出された機関回転速度NE及び吸入空気量GAの変動幅が所定範囲内に入っている場合、具体的には内燃機関が定常運転している場合である。アクティブ空燃比制御の実行条件が成立していない場合は本処理が終了される。他方、アクティブ空燃比制御の実行条件が成立している場合はステップS113に進み、図9を参照して説明したようなアクティブ空燃比制御が実行される。
【0067】
次に、ステップS114において、アクティブ空燃比制御のうち、排気空燃比をリーン空燃比に制御するリーン制御が実行中か否かが判断される。リーン制御が実行中でなければ本処理が終了される。
【0068】
他方、リーン制御が実行中である場合はステップS115に進み、ECU22に設けられたリーン制御カウンタがカウントアップされる。そしてステップS116において、リーン制御カウンタが所定時間tlks(例えば1sec)を超えたか否かが判断される。超えてなければ本処理が終了され、超えていればステップS117に進む。なお、この所定時間tlksの経過を待つ理由は、燃焼室12の混合気の空燃比をリーンに変更してから、そのリーン空燃比の排気ガスが実際に酸素センサ19に到達するまでに時間遅れがあるからである。
【0069】
ステップS117においては、検出電圧Vdが取得される。そして次にステップS118において、検出電圧Vdが所定の負の値である第1しきい値Vds1と比較される。この第1しきい値Vds1は、所定のオフセット電圧Vofから基準電圧V0を減じた値として表される(Vds1=Vof−V0)。オフセット電圧Vofは、図4に示すように、排気空燃比がリーンの場合における酸素センサ出力電圧の0Vからのズレ量に相当し、例えば0.1Vとされる。そして、前述したように本実施形態では基準電圧V0は0.7Vなので、第1しきい値Vds1=0.1−0.7=−0.6Vとなる。つまり、第1しきい値Vds1は、回路故障のみが生じた場合に得られるであろう検出電圧Vd(約−0.7V)より僅かに高い値として設定され、回路故障を判定するのに適切な値として設定されている。
【0070】
検出電圧Vdが第1しきい値Vds1より低い値であるときは、ステップS119において、ECU22に設けられた回路故障カウンタがカウントアップされる。そしてステップS120において、回路故障カウンタが所定時間tks1(例えば1sec)を超えたか否かが判断される。超えていればステップS121に進み、回路故障であると判定される。即ち、回路故障時に検出されるような一定の大きな負の検出電圧Vdが継続的に検出されたとみなして、回路故障と判定される。
【0071】
他方、ステップS118において検出電圧Vdが第1しきい値Vds1以上であるときは、ステップS122に進んで、検出電圧Vdが所定の負の値である第2しきい値Vds2と比較される。この第2しきい値Vds2は、前記第1しきい値Vds1より大きい値であり、且つ、センサ故障が生じた場合に得られるであろうマイナスピークの検出電圧Vd(約−0.5V)より僅かに高い値として設定され、センサ故障を判定するのに適切な値として設定されている。本実施形態では−0.4Vに設定されている。
【0072】
検出電圧Vdが第2しきい値Vds2より低い値であるときは、ステップS123において、酸素センサ19が故障であるとの判定がなされる。つまりこの場合、検出電圧Vdは第1しきい値Vds1以上で且つ第2しきい値Vds2未満であり、検出電圧Vdが、センサ故障の場合に見られるようなマイナスピーク値に達したものとみなすことができる。よって回路故障の場合のように所定時間tks1の経過を待つことなくセンサ故障を直ちに判定する。他方、検出電圧Vdが第2しきい値Vds2以上であるときは、本処理が終了される。
【0073】
また、ステップS120において、回路故障カウンタが所定時間tks1を超えていない場合は、ステップS123に進み、酸素センサ19が故障であるとの判定がなされる。即ち、検出電圧Vdが第1しきい値Vds1を下回るような大きなマイナス値となったが、その状態が所定時間tks1より長く継続せず、一時的なものである場合は、センサ故障と判定される。これは、センサ故障の場合に、検出電圧Vdが、図9の線図Qよりも大きなマイナスピーク値に一瞬達することがあることに対応するものである。そしてこの場合、検出電圧Vdは、第1しきい値Vds1を下回る大きなマイナスピーク値に達した後、所定時間tks1経過前に第1しきい値Vds1以上となり、つまりゼロに向かって復帰しているとみなされる。よってセンサ故障と判定される。
【0074】
次に、フューエルカット実行中である場合のステップS103〜S111の処理を説明する。ステップS103では、ECU22に設けられたフューエルカット実行カウンタがカウントアップされ、そしてステップS104において、フューエルカット実行カウンタが所定時間tfksを超えたか否かが判断される。超えてなければ本処理が終了され、超えていればステップS105に進む。この所定時間tfksの経過を待つ理由は、ステップS116同様、フューエルカットを開始してから最大リーンの排気ガスが実際に酸素センサ19に到達するまでに時間遅れがあるからである。ここで、ステップS104における所定時間tfksは、ステップS116における所定時間tlksより短くされ、例えば0.5secとされる。その理由は、フューエルカット時には最大リーンの排気ガス(空気)が酸素センサ19に供給され、そのリーンガスの影響が出やすいからである。
【0075】
ステップS105からステップS111までの処理は、前述したステップS117からステップS123までの処理と同じである。但し、ステップS108において、所定時間tks2はステップS120の所定時間tks1より長くされる(例えば2sec)。その理由は、仮にセンサ故障が生じていると仮定すると、フューエルカットの場合、リーン制御時と比べ、酸素センサ19の検出素子内外でのガス交換が行われ難く、負電圧の検出時間が長くなるからである。こうして、フューエルカット時にもリーン制御時と同様にセンサ故障と回路故障とを区別して判定することができる。
【0076】
このように本実施形態によれば、ECU22において負電圧が検出された場合に、センサ故障と回路故障とを区別して判定することができ、これによって故障部位の特定が可能となり、故障診断の精度を向上することができる。
【0077】
なお、本実施形態においては、ECU22により空燃比制御手段及び故障判定手段が構成される。
【0078】
本発明は他の実施形態を採ることも可能で、例えば前記実施形態で用いられた数値等は任意に変更が可能である。また、内燃機関は車載用に限定されず、酸素センサの配置方法や設置位置も任意に変更が可能である。
【0079】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本実施形態に係る車載用内燃機関の排気ガス浄化システムの構成を示す図である。
【図2】酸素センサの取付状態を示す断面図である。
【図3】酸素センサの検出素子周辺の拡大断面図である。
【図4】酸素センサの出力特性を示すグラフである。
【図5】酸素センサの検出素子に欠損部が生じた場合の拡大断面図である。
【図6】酸素センサの故障時における出力電圧の変化を示すグラフである。
【図7】酸素センサ及びECUを含む電気回路の構成を示し、回路故障が無い場合である。
【図8】図7と同様の電気回路の構成を示し、回路故障が有る場合である。
【図9】故障判定時の排気空燃比及び検出電圧の変化を示すグラフである。
【図10】故障診断処理を実行するルーチンのフローチャートである。
【符号の説明】
【0081】
10 内燃機関
13 排気通路
19,20 酸素センサ
22 電子制御ユニット(ECU)
31 検出素子
33A 正極
33B 負極
41B 負極線
43 中央処理ユニット(CPU)
48 第3AD変換器
49 第4AD変換器
50 抵抗
51 コンデンサ
52 抵抗
53 コンデンサ
54 サンプリング点
55 抵抗
56 ダイオード
V0 基準電圧
Vd 検出電圧
A/F 排気空燃比
Vds1 第1しきい値
Vds2 第2しきい値
tks1,tks2 所定時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、排気ガスの酸素濃度に応じた起電力を発生する酸素センサの故障診断装置において、
前記酸素センサの正極における電圧を検出するための正極電圧検出回路と、
前記酸素センサの負極における電圧を検出するための負極電圧検出回路と、
前記負極電圧検出回路及び前記負極間に所定の基準電圧を印加するための基準電圧印加回路と、
前記酸素センサに少なくともリーン空燃比の排気ガスを供給するよう空燃比を制御する空燃比制御手段と、
前記酸素センサにリーン空燃比の排気ガスが供給されているときの、前記正極電圧検出回路及び前記負極電圧検出回路間の負の電圧差の変化パターンに応じて、前記酸素センサの故障と、前記基準電圧印加回路及び前記負極間の回路故障とを区別して判定する故障判定手段と
を備えたことを特徴とする酸素センサの故障診断装置。
【請求項2】
前記故障判定手段は、前記電圧差が負のピークに達しその後徐々にゼロに復帰するような変化を検出したとき前記酸素センサの故障と判定し、他方、前記電圧差が負の一定値になっていることを検出したとき前記回路故障と判定する
ことを特徴とする請求項1記載の酸素センサの故障診断装置。
【請求項3】
前記故障判定手段は、前記電圧差が所定の負の値である第1しきい値より低い値となっており、且つこの状態が所定時間継続していることを検出したとき、前記回路故障と判定する
ことを特徴とする請求項1記載の酸素センサの故障診断装置。
【請求項4】
前記故障判定手段は、前記電圧差が、所定の負の値である第1しきい値以上の値であって、且つ前記第1しきい値より高い所定の負の値である第2しきい値より低い値となっていることを検出したとき、前記酸素センサの故障と判定する
ことを特徴とする請求項1記載の酸素センサの故障診断装置。
【請求項5】
前記故障判定手段は、前記電圧差が、所定の負の値である第1しきい値より低い値となっており、且つこの状態が所定時間継続しないとき、前記酸素センサの故障と判定する
ことを特徴とする請求項1記載の酸素センサの故障診断装置。
【請求項6】
前記空燃比制御手段は、故障診断時に空燃比を強制的にリーン空燃比とリッチ空燃比とに交互に変化させるものであり、
前記故障判定手段は、前記空燃比制御手段により空燃比がリーン空燃比に制御されているとき前記故障判定を実行する
ことを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の酸素センサの故障診断装置。
【請求項7】
前記空燃比制御手段は、前記酸素センサにリーン空燃比の排気ガスを供給するようフューエルカットを実行するものであり、
前記故障判定手段は、前記空燃比制御手段によりフューエルカットが実行されているとき前記故障判定を実行する
ことを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の酸素センサの故障診断装置。
【請求項8】
前記回路故障は、前記基準電圧印加回路及び前記負極間の配線の断線且つグランドショートである
ことを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載の酸素センサの故障診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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