説明

酸素センサ

【課題】MoやWで形成されている内部電極の劣化を防止し、以て、酸素センサの耐久性の向上を図る。
【解決手段】外部電極となる中空管状のセンサ本体6の下端部にジルコニア系の固体電解質で成形した容器状の計測部7を装着すると共に、前記計測部7の中に金属とその金属の酸化物との粉末混合物から成る標準極2を収容し、更に、該標準極2に対して耐蝕性の高い内部電極5の先端を前記標準極2に差し込んだ酸素センサである。前記標準極2に差し込んだ先端部分を除く内部電極5の表面に、酸化防止用のコーティングを施して酸化防止膜15を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛・ビスマス、ビスマス、鉛などの低融点液体金属中の酸素濃度を計測するための酸素センサ、特に、原子炉や廃熱回収施設などで使用されている低融点液体金属中の酸素濃度を計測するための酸素センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
低融点液体金属は、熱や放射線に対して安定である。また、熱伝導性が優れていることから、冷却材として使用されている。その代表的な例が高速増殖炉の液体ナトリウム金属である。
【0003】
このような目的に用いられている金属は、主として、ナトリウム(Na)、ナトリウム・カリウム(Na−K)、リチウム(Li)、ビスマス(Bi)、鉛(Pb)などの低融点液体金属であるが、こうした低融点液体金属を冷却材として使用する場合、この低融点液体金属による機器や配管などの構造材の腐食が問題となる。
【0004】
すなわち、低融点液体金属による腐食は、水溶液などの腐食に見られる電気化学的な腐食ではなく、機器や配管などの構造材が低融点液体金属の中に溶解することが主原因である。
【0005】
従って、冷却材として使用している低融点液体金属が熱回収のために、炉芯部などの高温部と、熱回収部などの低温部とを循環する場合、高温部で構造材から低融点液体金属中に溶解した金属元素が、低温部では過飽和となり、不純物として析出する、いわゆる、質量移動現象が生ずる。その結果、低温部では、析出した不純物によって小口径配管などの液体金属流路を閉塞させる恐れがある。
【0006】
機器や配管などの構造材の溶解速度を支配するのは、主として、高温部での不飽和度であるが、液体金属流路の構成や形状などの装置の状況、液体金属の流量や温度、高温部と低温部との温度差、液体金属流路の表面粗さ、不純物濃度など、多種多様な条件により左右される。
【0007】
中でも、液体金属中の不純物、特に、液体金属中の酸素濃度は、腐食現象および腐食速度に大きく影響を及ぼすことが知られている。このため、液体金属中の酸素濃度を適正な濃度に制御することにより、液体金属と接触している配管などの構造体の健全性を維持させることができるのである。
【0008】
このため、液体金属中の酸素濃度を、常時、計測することが必要になる。液体金属中の酸素濃度は、通常、酸素センサで計測する。例えば、図3に示すように、酸素センサ1を一定温度に加熱された液体金属Mの中に浸漬して、液体金属Mと酸素センサ1内に収容した標準極(基準極とも言う。)2との間に形成される酸素分圧差により発生する起電力を起電力計測器4で計測するのである。
【0009】
すなわち、起電力Eは、次式で表すことができる。
E=(RT/4F)×In(P1 /P2
ここで、
R:ガス定数あるいは気体定数(8.3144mol-1-1
T:温度(K)
F:ファラデー定数(96485mol-1
In:自然対数
1 :計測側の酸素分圧(ここでは、溶融金属/鉛・ビスマス)
2 :標準極の酸素分圧
である。
【0010】
図中、3は容器又は液体金属流路用配管、1aは内部電極5に接続する内部電極側のリード線、1bは外部電極となるセンサ本体6の側面に接続する対向極側のリード線を示している。
【0011】
上記のような装置を用いて液体金属中の溶在酸素を測定する技術は、理論的に極めて優れたものであるが、実用に際して、いろいろな未解決の問題を有しており、これらの問題を解決しなければ、安定した測定を実現することが難しい。
【0012】
従来、液体金属中の酸素濃度を測定する酸素センサとして、図4に示すように、外部電極となる中空管状のセンサ本体6の先端にジルコニア系の固体電解質で成形した容器状の計測部7を装着すると共に、この容器状の計測部7の中にビスマスと酸化ビスマスとの粉末混合物から成る標準極2を収容し、更に、標準極2に内部電極5の先端を差し込んだ酸素センサが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0013】
また、図5に示すように、有底筒状の固体電解質素子9の中に、Al2 3 粉末及び/又はZrO2 粉末から選択された安定保護層10と、黒鉛粉末及び/又はカーバイト粉末から選択された酸素吸収層11と、石英ウール及び/又はアルミナウール及び/又はセラミックウールから選択された緩和層12と、耐火セメントから成る固結層13を充填した酸素センサが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2000−294692号公報
【特許文献2】特開平10−253582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前者の場合、内部電極として、標準極材であるBi/Bi2 3 粉末混合物、Pb/PbO粉末混合物、In/In2 3 粉末混合物、Pb−Bi/PbO粉末混合物に対して耐食性のあるMo(モリブデン)やW(タングステン)を使用しているが、使用期間中に内部電極が加熱されることから、内部電極として用いているモリブデンやタングステンが酸素と反応して劣化(酸化)するという問題があった。
【0015】
このために、時間の経過とともに内部電極の抵抗値が増加し、この抵抗値の増加に伴って起電力が上昇し、本来の起電力である正しい起電力を示さなくなるという問題があった。
【0016】
起電力が安定して正しい酸素濃度を計測できる時間は、酸素センサを浸漬している液体金属の温度や、酸素センサの浸漬状態(浸漬深さ)により異なるが、一般には、液体金属の温度が高く、かつ、酸素センサの浸漬深さが深いほど、短時間に起電力の上昇が生ずるため、正しい起電力を計測できる時間は短くなる。
【0017】
他方、後者の場合は、上記のように、有底筒状の固体電解質素子9の中に、Al2 3 粉末及び/又はZrO2 粉末から選択された安定保護層10と、黒鉛粉末及び/又はカーバイト粉末から選択された酸素吸収層11と、石英ウール及び/又はアルミナウール及び/又はセラミックウールから選択された緩和層12と、耐火セメントから成る固結層13を充填している。
【0018】
しかしながら、ジルコニア系の固体電解質素子9と、固結層13を形成している耐火セメントの熱膨張率が異なることから、使用中にこれらの隙間から固体電解質素子9の中に空気が流入する恐れがある。
【0019】
更に、安定保護層10に使用されているAl2 3 粉末などの粉末の隙間や、緩和層12に使用されている石英ウール、アルミナウール、セラミックウールなどのウール繊維の隙間に空気が存在しているために、これらの空気によってMo(モリブデン)やW(タングステン)で形成されている内部電極5が酸化(劣化)するという問題がある。
【0020】
本発明は、このような問題を解消するためになされたものであり、その目的とするところは、Mo(モリブデン)やW(タングステン)で形成されている内部電極の酸化(劣化)を防止し、以て、酸素センサの耐久性の向上を図ることができる酸素センサをを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の課題を解決するため、本発明は、次のように構成されている。
【0022】
請求項1に記載の発明は、外部電極となる中空管状のセンサ本体の下端部にジルコニア系の固体電解質で成形した容器状の計測部を装着すると共に、前記計測部の中に金属とその金属の酸化物との粉末混合物から成る標準極を収容し、更に、該標準極に対して耐蝕性の高い内部電極の先端を前記標準極に差し込んだ酸素センサにおいて、前記標準極に差し込んだ先端部分を除く内部電極の表面に、酸化防止用のコーティングを施して酸化防止膜を形成したことを特徴とする酸素センサである。
【0023】
請求項2に記載の発明は、前記容器状の計測部を形成する固体電解質が、イットリア添加ジルコニア、カルシア添加ジルコニア、マグネシア添加ジルコニアであることを特徴とする請求項1記載の酸素センサである。
【0024】
請求項3に記載の発明は、前記標準極が、ビスマスと酸化ビスマスとの粉末混合物、鉛と酸化鉛との粉末混合物、インジウムと酸化インジウムとの粉末混合物、鉛ビスマスと酸化鉛との粉末混合物であることを特徴とする請求項1記載の酸素センサである。
【0025】
請求項4に記載の発明は、前記酸化防止膜を形成する酸化防止膜材が、金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミニウム、イリジウム、白金などの貴金属であることを特徴とする請求項1記載の酸素センサである。
【発明の効果】
【0026】
上記のように、請求項1に記載の発明は、外部電極となる中空管状のセンサ本体の下端部にジルコニア系の固体電解質で成形した容器状の計測部を装着すると共に、前記計測部の中に金属とその金属の酸化物との粉末混合物から成る標準極を収容し、更に、該標準極に対して耐蝕性の高い内部電極の先端を前記標準極に差し込んだ酸素センサにおいて、前記標準極に差し込んだ先端部分を除く内部電極の表面に、酸化防止用のコーティングを施して酸化防止膜を形成したので、この酸化防止膜によって酸素センサ用の内部電極の酸化(劣化)を未然に防止することが可能となった。その結果、内部電極の耐久性が向上し、長期にわたって安定した起電力を示すようになった。
【0027】
従って、本発明の酸素センサによれば、液体金属中の酸素濃度を長期間にわたって連続して、かつ、確実に計測することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0029】
図1において、1は、酸素センサである。この酸素センサ1は、ステンレス製の中空管状のセンサ本体(延長スリーブともいう。)6の先端に、同じくステンレス製の耐食スリーブ8を溶接し、更に、その先端にジルコニア系の固体電解質で成形した細長い容器状の計測部7を気密状に取り付けている。
【0030】
この容器状の計測部7の中には、Bi/Bi2 3 粉末混合物(ビスマスと酸化ビスマスとの粉末混合物)等から成る標準極2を収容している。
【0031】
また、中空管状のセンサ本体6の中には、標準極としてのBi/Bi2 3 粉末混合物等に対して耐食性のある内部電極5が挿入されており、その先端は、標準極2の中に差し込まれている。
【0032】
この発明では、標準極2内に挿入する先端部分を除く内部電極5の表面に白金などの貴金属をコーティングして、同表面に貴金属による酸化防止膜15を形成している。そして、この酸化防止膜15によって内部電極5の酸化(劣化)を防止している。
【0033】
内部電極5の表面に白金などの貴金属をコーティングする方法としては、例えば、メッキ法、真空蒸着法などを挙げることができる。
【0034】
酸化防止膜15の厚さとしては、50μm〜300μmの範囲が好ましい。酸化防止膜15の厚さが50μm未満の場合には、酸化防止膜としての膜性能が不足し、内部電極が次第に酸化(劣化)する恐れがある。
【0035】
これとは反対に、酸化防止膜15の厚さが300μmを超える場合には、酸素センサ1の寿命に比して膜性能が過剰となり、不経済となる。
【0036】
また、この酸化防止膜15の外側には、アリミナ(Al2 3 )やムライト(3Al2 3 ・2SiO2 )などで形成された絶縁管16を被せている。そして、絶縁管16とセンサ本体6の上端部6aとの隙間をフッソ系樹脂やステンレス鋼などで形成された端部継手17で塞ぎ、空気がセンサ本体6内に流入しないようしている。
【0037】
その上、内部電極5には、標準極側のリード線1aを接続し、センサ本体6には、対向極側のリード線1bを接続している。
【0038】
ここで、固体電解質としては、イットリア(Y2 3 )添加ジルコニア(ZrO2 )、カルシア(CaO)添加ジルコニア、マグネシア(MgO)添加ジルコニアなどが好ましい。
【0039】
また、標準極としては、Bi/Bi2 3 粉末混合物(ビスマスと酸化ビスマスとの粉末混合物)、Pb/PbO粉末混合物(鉛と酸化鉛との粉末混合物)、In/In2 3 粉末混合物(インジウムと酸化インジウムとの粉末混合物)、Pb−Bi/PbO粉末混合物(鉛ビスマスと酸化鉛との粉末混合物)などが好ましい。
【0040】
また、内部電極の表面に酸化防止膜を形成する酸化防止膜材としては、金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミニウム、イリジウム、白金などの貴金属が好ましい。
【0041】
また、延長スリーブとしては、オーステナイト系ステンレス鋼が好ましい。
【0042】
また、耐食スリーブとしては、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、クロムモリブデン鋼などのより耐食性のあるステンレス鋼が好ましい。
【実施例】
【0043】
(実施例)
Mo(モリブデン)製の内部電極の表面を貴金属製の酸化防止膜で被覆した本発明の酸素センサと、Mo(モリブデン)製の内部電極の表面を酸化防止膜で被覆しない従来の酸素センサとを用いて鉛ビスマス中の酸素濃度を計測した。
【0044】
酸化防止コーティング材には、白金を用い、厚さ100μmのコーティングを行った。白金は、鉛やビスマスなどの標準極材料に溶解し易いので、標準極内に挿入する部分を除いて酸化防止膜で被覆している。
【0045】
鉛ビスマスの構成は、鉛45重量%、ビスマス55重量%の共晶組成であり、温度を450℃に加熱保持した。その上、酸化鉛のボール(直径2〜5mm)を鉛ビスマスの中に浸漬して、鉛ビスマスの中の酸素を飽和状態にした。
【0046】
酸素を飽和状態にした鉛ビスマスの中に前述の酸素センサを浸漬して、1000時間までの起電力の経時変化を連続的に計測した。その経時変化を図2に示す。
【0047】
酸素飽和理論起電力78mVに対して、本発明の酸素センサの起電力は、84mVから92mVの間をほぼ一定の値で推移した。
【0048】
これに対し、従来の酸素センサの起電力は、150時間後あたりから急激に上昇し、最終的に500mVを超えた。この起電力の上昇は、電極材料の酸化に起因するものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明にかかる酸素センサの断面図である。
【図2】酸素センサの起電力の経時変化を示す図である。
【図3】酸素濃度測定装置の概略構成図である。
【図4】従来の酸素センサの断面図である。
【図5】従来の酸素センサの断面図である。
【符号の説明】
【0050】
6 外部電極となる中空管状のセンサ本体
7 容器状の計測部
2 標準極
5 内部電極
15 酸化防止膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部電極となる中空管状のセンサ本体の下端部にジルコニア系の固体電解質で成形した容器状の計測部を装着すると共に、前記計測部の中に金属とその金属の酸化物との粉末混合物から成る標準極を収容し、更に、該標準極に対して耐蝕性の高い内部電極の先端を標準極に差し込んだ酸素センサにおいて、前記標準極に差し込んだ先端部分を除く内部電極の表面に、酸化防止用のコーティングを施して酸化防止膜を形成したことを特徴とする酸素センサ。
【請求項2】
前記容器状の計測部を形成する固体電解質が、イットリア添加ジルコニア、カルシア添加ジルコニア、マグネシア添加ジルコニアであることを特徴とする請求項1記載の酸素センサ。
【請求項3】
前記標準極が、ビスマスと酸化ビスマスとの粉末混合物、鉛と酸化鉛との粉末混合物、インジウムと酸化インジウムとの粉末混合物、鉛ビスマスと酸化鉛との粉末混合物であることを特徴とする請求項1記載の酸素センサ。
【請求項4】
前記酸化防止膜を形成する酸化防止膜材が、金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミニウム、イリジウム、白金などの貴金属であることを特徴とする請求項1記載の酸素センサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−226966(P2006−226966A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44457(P2005−44457)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】