説明

酸素化重合ヘモグロビン溶液の静脈内又は動脈内注入による標的酸素送達

被験者に酸素化ヘモグロビン溶液を投与する工程を含む、被験者の虚血状態において、組織、血管、器官若しくは器官の領域に酸素を送達する方法、又は、被験者の虚血状態の発生を予防的に防ぐ方法であって、酸素化ヘモグロビン溶液が重合ヘモグロビンを含み、かつ、重合ヘモグロビンの約80重量%以上がオキシヘモグロビンである方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2007年6月13日に出願された米国特許仮出願第60/934,448号の利益を主張する。上述の出願の全教示は、引用により本明細書中に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
(引用による組み込み)
米国を指定し2006年4月5日に出願され英語で公表された、国際特許出願第PCT/US2006/012676号の全教示、及び当該出願中で引用された文献は、引用により本明細書中に組み込まれる。
【0003】
(発明の背景)
近年の医学的治療における主な進歩は、有効な薬剤及び装置の導入、並びに“再潅流する時間”の顕著な低減に起因する、急性心筋梗塞(AMI)の治療及び経皮的冠動脈インターベンション(PCI)によるものであった。それにもかかわらず、AMIの罹患率及び死亡率は、依然として深刻であり、500,000を超える人が、主に致死的不整脈及びうっ血性心不全の結果として、AMIとその合併症を含む虚血性心疾患により、ヨーロッパで毎年死亡している。
【0004】
心疾患の自然な進行は、最終的に、心臓(狭心症又は急性心筋梗塞、すなわち心臓発作を生じる)、脳(急性脳虚血、すなわち脳卒中を生じる)、神経(神経病を生じる)、又は手足(壊疽を生じる)への血流を妨げることがある。急性動脈閉塞の多くは、ある程度の固定動脈狭窄によって既に危険にさらされている動脈の血栓事象によるものである。また、さまざまな選択的な経皮的動脈インターベンションは、選択的又は予防的な経皮的動脈インターベンション(血管形成、ステント配置、アテローム切除術、血管造影法、血管顕微法、及び光干渉断層計画像診断[OCT])を含む、器官又は器官の領域への血流の一時的な遮断を必要とする。さらに、多数の外科的介入は、冠動脈バイパス手術、末梢動脈バイパス移植術、動脈瘤修復、頸動脈血管内膜切除術、大動脈手術(特に、腎臓への血流を遮断するもの)、及び腸間膜の血液供給(腸管アンギナを有する上腸間膜動脈症候群)の血管再生を含む、動脈血流の遮断を必要とする。さらにまた、外傷手術及び臓器移植は、器官を虚血にさせる動脈遮断に関係している。およそ1,000,000の経皮的冠動脈インターベンションが、米国及びヨーロッパで毎年行なわれる。
【0005】
これらのインターベンション時においては、下流の組織がよく一時的に虚血になり、ある場合には、復元不能損害を受けることがある。冠動脈閉塞及び酸素欠乏の後に、心筋壊死が15分以内に始まり、インターベンションなしで、次の30〜90分間復元不能損害を生じる。たとえ恒久的に危険にさらされなくても、下流の虚血の領域は、完全に回復するのに相当な時間が必要であることがある。その間に、患者の器官機能が危険にさらされる。過去の研究では、急性心筋梗塞において、貫壁性心筋壊死(myocardial transmural necrosis)及び重度の微小血管閉塞の危険性が、虚血の期間に伴って増加することを示した[Coccolini Sら, Ital Heart J 2003; 4(2 Suppl):102-11;及び、Andersenら, N Engl J Med 2003;349(8):733-42(すべての文献の全教示は、引用により本明細書中に組み込まれる)を参照]。
【0006】
心筋細胞の生存度を増強することができ、かつ壊死量を低減させることができる、“上流の”心臓保護的インターベンション及び薬剤での冠動脈インターベンションの促進は、AMI又は急性冠症候群の症状において非常に良好な臨床転帰をもたらし得る。急性局所虚血の時期の初期に行なわれる良好な心筋の血管再生は、広範囲な心筋壊死を回避し、左室機能を保護することができる。患部器官に血管移植をする、塞栓摘出手術、血栓溶解療法又は経皮的動脈インターベンションを含み得る初期のインターベンションは、取り返しのつかないほどの損害となる危険性で虚血組織のサルベージを生じ、そうでなければ、恒久的に機能障害になる組織の量を低減させる。現在、経皮的血管再生インターベンション(percutaneous revascularization)は、動脈内注入がない状態で一般に行なわれ、下流の組織の一過性虚血によく関係している。例えば、OCT画像診断は、近赤外線の透過を可能にするために、視野からRBCが置換されることを必要とする。これは、酸素をほとんど運搬しないだけでなく、局所的な筋繊維鞘のイオン勾配を摂動させない媒体である、生理食塩液の冠動脈内注入によって行なわれる[de Smet, BJGLとZijlstra F.の文献「光干渉断層計による薬剤溶出ステントの調査(A look at drug eluting stents with optical choerence tomography.)」 Eur Heart J. 28: 918-919, 2007(全教示は、引用により本明細書中に組み込まれる)を参照]。心臓において、これは、狭心症及び生命を脅かす不整脈の危険性を顕著に増加させる。
【0007】
保護液での虚血器官の灌流を含む血管再生は、血流のみの回復よりも高い危険性でもって虚血組織を復元するのに効果的であり得る。血管閉塞性疾患による影響を特に受け、潜在的に保護液で保護される重要器官は、心臓、脳、腎臓及び肝臓を含むが、これらに限定されない[Kumbhani DJ, Sharma GV, Khun SF, Kirdar JA.らの文献「冠動脈バイパス手術後の束生伝導障害(Fascicular conduction disturbances after coronary artery bypass surgery: a review with a meta-analysis of their long-term significance.)」J Card Surg. 21:428-234, 2006; Harrington DK, Fragomeni F, Bonser RS.の文献「大脳の灌流(Cerebral perfusion.)」Ann Thorac Surg. 83:S799-804, 2007; discussion S824-31; 及び、Feng XN, Xu X, Zheng SS.の文献「肝臓保存溶液の現在の状況と展望(Current status and perspective of liver preservation solutions.)」Hepatobiliary Pancreat Dis Int. 5:490-494, 2006(すべての文献の全教示は、引用により本明細書中に組み込まれる)を参照]。
【0008】
さまざまな心停止輸液が、心臓手術(例えば、冠動脈バイパス移植術(CABG)及び弁置換術)に必要な人為心停止法及び非流入期間における組織の保存状態を改善するために開発されている[Donnelly AJ, Djuric M.の文献「心停止液(Cardioplegia solutions.)」Am J Hosp Pharm, 48:2444-2460, 1991; Feindel CM, Tait GA, Wilson GJ, Klement P, MacGregor DC.の文献「複数投与血液と晶質液心停止法 不可逆的心筋障害の定量的評価による比較(Multidose blood versus crystalloid cardioplegia. Comparison by quantitative assessment of irreversible myocardial injury.)」J Thorac Cardiovasc Surg. 87:585-95, 1984; Stocker CF, Shekerdemian LS.の文献「小児科の心臓病患者の手術時の処置における近年の展開(Recent developments in the perioperative management of the paediatric cardiac patient.)」Curr Opin Anaesthesiol. 19:375-381, 2006;及び、Daggett WM Jr, Randolph JD, Jacobs M, O'Keefe DD, Geffin GA, Swinski LA, Boggs BR, Austen WG.の文献「冷却酸素化希釈血液心停止法の優位性(The superiority of cold oxygenated dilute blood cardioplegia.)」Ann Thorac Surg. 43:397-402, 1987(すべての文献の全教示は、引用により本明細書中に組み込まれる)を参照]。生理的イオン(physiologic ion)及びさまざまな他の薬剤(特定の機関及び外科チームに依存するが、一般に、インシュリン、グルコースを含み、カリウムを多く含む)を含む、推定上最適化された晶質心停止液は、数十年間治療の基準である。
【0009】
心停止液の改善のための臨床前及び臨床研究の長い歴史にもかかわらず、準最適な手術後の心臓回復、及び関連する死亡率は、依然として、心臓手術における最も興味深い論点である。また、心停止液の梗塞に関連する動脈経由による虚血領域への注入は、不安定狭心症に関連する急性心筋虚血を治療する梗塞面積を最小限にするための補助療法として臨床前に研究されているが、この適応症の臨床用途ではない。不安定狭心症患者においては、梗塞に関連する冠動脈床の遠隔領域への心停止液のアクセスは、上流の冠動脈の狭窄、及び導管動脈開存性の回復における周知の微小血管に関連する無血流再開現象によって困難なことがある[Ito H.の文献「急性心筋梗塞の患者における無血流再開現象と予後(No-reflow phenomenon and prognosis in patients with acute myocardial infarction.)」Nat Clin Pract Cardiovasc Med 3:499-506, 2006;及び、Bolognese L, Falsini G, Liistro F, Angioli P, Ducci K.の文献「主な経皮的冠動脈インターベンションでの心外膜及び微小血管の再灌流(Epicardial and microvascular reperfusion with primary percutaneous coronary intervention.)」Ital Heart J. 6:447-452, 2005(すべての文献の全教示は、引用により本明細書中に組み込まれる)を参照]。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、1以上の上述の問題を低減させる又は除去することができる、冠血流がない状態における心臓機能を保護する製品及び方法の必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の概要)
一般に、本発明は、虚血状態における器官又は生物体の酸素化ヘモグロビン溶液の送達に関する。
【0012】
ある実施態様において、本発明は、被験者の虚血状態において、酸素化ヘモグロビン溶液を被験者に投与することによる、組織、血管、器官、器官の領域、又は生物体に酸素を送達する方法であって、該酸素化ヘモグロビン溶液が重合ヘモグロビンを含み、かつ該重合ヘモグロビンの約80重量%以上がオキシヘモグロビンである方法を含む。
【0013】
他の実施態様において、本発明は、酸素化ヘモグロビン溶液を被験者に投与することによる、虚血又は狭心症である患者を治療する方法であって、該酸素化ヘモグロビン溶液が重合ヘモグロビンを含み、かつ該重合ヘモグロビンの約80重量%以上がオキシヘモグロビンである方法を含む。
【0014】
更なる別の実施態様において、本発明は、1以上の異なる器官を潅流するのに適切な保護液(plegic solution)であり、pH約7.6〜約7.9の生理学的緩衝液;グルコース;及び、溶液1リットル当たり約10グラムから溶液1リットル当たり約250グラムの量の重合ヘモグロビンを含む。該重合ヘモグロビンは、約80重量%以上のオキシヘモグロビンであり、約18重量%以下は、500,000ダルトンより大きい分子量であり、約5%以下は、65,000ダルトン以下の分子量であり、そして、P50は、約34〜約46mm Hgの範囲である。該保護液のエンドトキシン含量は、約0.05エンドトキシンユニット/ミリリットル未満である。
【0015】
他の実施態様において、本発明は、虚血又は狭心症である患者を治療するのに用いる、本明細書中で記載されている酸素化ヘモグロビン溶液であって、該酸素化ヘモグロビン溶液が重合ヘモグロビンを含み、かつ該重合ヘモグロビンの約80重量%以上がオキシヘモグロビンである酸素化ヘモグロビン溶液である。
【0016】
更なる実施態様において、本発明は、虚血又は狭心症である患者を治療するのに使用する包装されて提供される、本明細書中で記載されている酸素化ヘモグロビン溶液であって、該酸素化ヘモグロビン溶液が重合ヘモグロビンを含み、かつ該重合ヘモグロビンの約80重量%以上がオキシヘモグロビンである酸素化ヘモグロビン溶液である。
【0017】
技術の更なる実施態様において、本発明は、虚血又は狭心症である患者を治療するための薬剤の製造における、本明細書中で記載されている酸素化ヘモグロビン溶液の使用であって、該酸素化ヘモグロビン溶液が重合ヘモグロビンを含み、かつ該重合ヘモグロビンの約80重量%以上がオキシヘモグロビンである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法は、虚血組織に対する酸素化を回復することができる。虚血器官の動脈循環に、又は虚血器官の静脈循環若しくは生物体の中心静脈循環への逆行注入によって注入される場合、HEMOPURE(登録商標、HBOC-201としても知られる)ヘモグロビングルタマー−250(ウシ)、ヘモグロビン系酸素キャリア(HBOC)(低粘度、低分子サイズ、P50)等の酸素化重合ヘモグロビン溶液の生理化学的及び生化学的性質によって、組織酸素化が回復し、標的組織の組織学的及び機能的統合性が保護される。本発明の方法で使用するのに適しているヘモグロビン溶液は、3年間まで室温で保存することができ、血液感染症薬剤を含まず、交差試験の必要はない。いかなる特別の理論に拘束されることなく、本発明の方法による虚血組織の治療は、遊離血漿(赤血球ではない)が到達可能な狭窄後の領域への酸素の送達によって組織酸素化を改善すると考えられている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】図1Aは、本発明の酸素化ヘモグロビン溶液の調製のための酸素化システムの一の実施態様を示す概略図である。
【図1B】図1Bは、本発明の酸素化ヘモグロビン溶液の調製のための酸素化システムの一の実施態様を示す概略図である。
【0020】
【図2】図2は、生理食塩水及びHEMOPURE(登録商標)HBOCにおける深さに対する、測定されたスペクトラロン反射率のグラフである。減衰は、焦点の損失を含む。正味減衰量係数を得るためには、D2O損失を減じる:生理食塩水においては、μt=1.09-0.86mm-1=0.023mm-1、及びHEMOPURE HBOCにおいては、μt=0.95-0.86 mm-1=0.009。
【0021】
【図3】図3は、ヒトでの選択的な経皮的冠動脈血管再生におけるヘモグロビン系酸素治療の評価試験のための試験評価時点を示す概略図である。
【0022】
【図4】図4は、関心領域への酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCの選択的な冠動脈内注入を行なうために広げられた部分の内部に位置する、短いオーバーザワイヤ(OTW)バルーンを示す概略図である。
【0023】
【図5A】図5Aは、対照の閉塞(冠動脈内注入なし)時における代表的な被験者の圧容積ループを示すグラフである。
【図5B】図5Bは、酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCの同時の冠動脈注入による試験閉塞時における代表的な被験者の圧容積ループを示すグラフである。
【0024】
【図6A】図6Aは、対照の閉塞(冠動脈内注入なし)時及び酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCの同時の冠動脈注入による試験閉塞時における代表的な被験者の左室拡張終期圧を示すグラフである。対照においては、時期を早めて閉塞を停止した。
【図6B】図6Bは、対照の閉塞(冠動脈内注入なし)時及び酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCの同時の冠動脈注入による試験閉塞時における代表的な被験者の心拍出量を示すグラフである。対照においては、時期を早めて閉塞を停止した。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(発明の詳細な説明)
添付の図面で図示されるように、前述の記載は、次の本発明の実施態様のより詳細な説明から明瞭になる。図面は必ずしも一定の縮尺ではなく、それよりもむしろ本発明の実施形態を説明することに重点が置かれている。すべての参照、文献、特許、又は他の論文は、それらのすべてにおいて本明細書中に組み込まれる。
【0026】
本発明は、一般に、虚血状態において又は狭心症の患者に対して、組織、血管、器官、器官の領域又は生物体に酸素を送達する方法に関する。ある実施態様において、該方法は、酸素化ヘモグロビン溶液を被験者に投与することを含み、該酸素化ヘモグロビン溶液が重合ヘモグロビンを含み、かつ該重合ヘモグロビンの約80重量%以上がオキシヘモグロビンである。
【0027】
本発明において、ヘモグロビン溶液は、一般に、脱酸素化ヘモグロビン溶液から得、それは、本発明の方法による虚血状態において又は狭心症の患者に対する、生物体、組織、血管、器官、又は器官の領域への投与の前に酸素化される。本明細書中で用いられるように、用語“脱酸素化ヘモグロビン溶液”は、溶液において、オキシヘモグロビンの含量が、全ヘモグロビンに基づいて約10重量%未満であることを意味する。好ましくは、重合ヘモグロビンを含む脱酸素化ヘモグロビン溶液は、全ヘモグロビンに基づいて少なくとも約80重量%、より好ましくは全ヘモグロビンに基づいて少なくとも約90重量%のオキシヘモグロビンを有するように、本発明の酸素化方法によって酸素化される。特に好ましい実施態様においては、重合ヘモグロビンを含む脱酸素化ヘモグロビン溶液は、少なくとも約80重量%、より好ましくは全ヘモグロビンに基づいて少なくとも約90重量%のオキシヘモグロビンを有するように、上述した表面積の疎水性中空繊維カートリッジによって、上述したヘモグロビン溶液及び酸素ガス流量で酸素化される。
【0028】
本発明の方法によって用いられるオキシヘモグロビン溶液を調製するのに用いることができる重合ヘモグロビンは、赤血球(RBC)回収、RBCの精製、重合ヘモグロビンのヘモグロビン重合及び精製を含む、当技術分野で公知の操作により調製することができる。一般に、操作時において、血液溶液、RBC及びヘモグロビンは、約20℃未満及び約0℃より高い温度での維持のような微生物の増殖又は生物負荷量を最小限にするのに十分な条件下で維持される。本発明に適した重合ヘモグロビン(Hb)溶液の調製及び精製についての詳細な説明は、米国特許第5,084,558号、第5,955,581号、第5,753,616号、第5,854,209号、第5,691,453号、第5,691,452号、第5,808,011、第5,952,470号、第5,895,810号、及び第5,840,852号に見出すことができる(これらの全教示は、引用により本明細書中に組み込まれる)。
【0029】
適切なRBC源は、ヒトの血液、ウシの血液、ヒツジの血液、ブタの血液、他の脊椎動物からの血液、及び、Biotechnology, 12: 55-59 (1994)(その教示は、引用により本明細書中に組み込まれる)に記載されている遺伝子組換えHb等の遺伝子組換えによって生産されるヘモグロビンを含む。好ましくは、RBC源はウシである。
【0030】
血液は、生存している又は新たに屠殺されたヒト以外のドナーから採取することができる。ウシ全血を採取する方法は、米国特許第5,084,558号及び第5,296,465号に記載されている(これらの全教示は、引用により本明細書中に組み込まれる)。
【0031】
ある例において、採取中において、又は採取後すぐに、血液は、相当な血液の凝固を防ぐために、少なくとも1つの抗凝血剤と混合する。血液に適切な抗凝血剤は、当技術分野で一般に知られているものであり、例えば、クエン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸及びヘパリンを含む。血液と混合する場合、抗凝血剤は、粉状のような固体の形態であるか、又は水溶液中にあってもよい。
【0032】
血液溶液源は、新たに回収した試料、又は血液バンクの使用期間終了後のヒト血液等の古い試料由来であり得る。また、血液溶液は、予め凍結状態及び/又は液体状態で維持することができる。
【0033】
任意に、抗凝血剤に血液溶液を導入する前に、ペニシリン等の血液溶液中の抗生物質濃度が分析される。抗生物質濃度を測定して、血液試料のドナーが抗生物質で処理されていなかったことを確認することによって、血液試料が起炎菌の影響を受けないというある程度の正確性を提供する。抗生物質の分析のふさわしい例は、“乳中のペニシリンの迅速な検出”という方法を実行する、ペニシリンアッセイキット(Difco社製, Detroit, MI)を含む。血液溶液は、約0.008ユニット/ml以下のペニシリンを含むことが好ましい。あるいは、疾病が十分にないことを監視する牛群管理プログラム、又はウシの抗生物質治療を利用してもよい。
【0034】
血液溶液は、大きな凝集体及び粒子を除去するために、血液凝固阻止工程の前に又はその工程時において、例えば濾過によって濾されるのが好ましい。600メッシュのスクリーンは、適切な濾過器の例である。
【0035】
その後、血清アルブミン又は抗体[例えば、免疫グロブリン(IgG)]等の細胞外血漿タンパク質からRBCを分離するために、血液溶液中のRBCは、ダイアフィルトレーション、又は等張液等の少なくとも1つの溶液での個別の希釈工程と濃縮工程の組み合わせ等の適切な手段によって洗浄される。バッチ又は連続供給モードでRBCを洗浄することができることが理解される。
【0036】
許容し得る等張液は、当技術分野において公知であり、RBCの細胞膜を破壊せず、全血の血漿部分を置換するpH及び浸透圧重量モル濃度を有する、クエン酸塩/生理食塩水等の溶液を含む。好ましい等張液は、中性pH、及び約285〜315mOsmの浸透圧重量モル濃度である。好ましい等張液は、クエン酸ナトリウム二水和物(6.0g/1)、及び塩化ナトリウム(8.0g/L)の水溶液からなる。
【0037】
本発明の方法で用いることができる水は、蒸留水、脱イオン水、注射用水(WFI)、及び/又は低ピロゲン水(low pyrogen water; LPW)を含む。好ましいWFIは、脱イオン化された、注射用水の米国の薬理学上の規格に適合した蒸留水である。また、WFIは、Pharmaceutical Engineering, 11, 15-23 (1991)に記載されている。好ましいLPWは、0.002 EU/ml未満の脱イオン水である。
【0038】
該等張液は、血液溶液に添加される前に濾過することができる。適切なフィルターの例は、Millipore社Cat # CDUF 050 Glフィルター等のMillipore 10,000ダルトン限外濾過膜、又はA/G Technology社製の中空繊維, 10,000ダルトン(Cat # UFP-lO-C-85)を含む。
【0039】
血液溶液中のRBCは、ダイアフィルトレーションによって洗浄することができる。適切なダイアフィルター(diafilter)は、透析濾過膜としては、0.1μm〜0.5μmのフィルター(例えば、0.2μm中空繊維フィルター、Microgon Krosflo II精密濾過カートリッジ)等の、実質的に非常に小さな血液溶液成分からRBCを分離する孔径を有する微細孔膜を含む。同時に、ダイアフィルターを通過して失われた濾液の割合(又は体積)に等しい割合で補給物として、濾過された等張液を連続的に(又はバッチで)添加する。RBCの洗浄時において、RBCよりも径が顕著に小さい成分、又は血漿等の流体である血液溶液の成分は、濾液中のダイアフィルターの壁面を通過する。RBC、血小板、及び白血球等の希釈血液溶液の非常に大きな物質は、保持され、等張液と混合され、これを連続的に、又はバッチ様式で添加し、透析血液溶液が形成する。
【0040】
あるいは、RBCは、一連の連続的な(又は逆順の)希釈及び濃縮工程によって洗浄することができ、血液溶液は、少なくとも1つの等張液を添加することにより希釈され、フィルターを通して流すことにより濃縮される。これにより、透析された血液溶液が形成する。
【0041】
RBC洗浄は、RBCを汚染する血漿タンパク質の量が実質的に減少した場合(一般に、少なくとも約90%)、完全である。一般に、濾過された等張液で血液溶液を希釈する前に、濾液の容積がダイアフィルター34等価物から、ダイアフィルトレーション槽に収容された血液溶液の容積の約300%以上濾過した場合、RBC洗浄は完全である。また、付加的なRBC洗浄は、RBCからの細胞外血漿タンパク質の分離を促進することができる。例えば、等張液の6倍量のダイアフィルトレーションは、血液溶液からIgGの少なくとも約99%を除去することができる。
【0042】
その後、透析された血液溶液は、遠心分離等の、白血球及び血小板から透析された血液溶液中のRBCを分離するための手段に供される。
【0043】
また、他の血液成分からRBCを分離する、当技術分野で一般に公知の他の方法を用いることができることが理解される。例えば、他の血液成分からのRBCの分離前の分離方法が相当量のRBC(RBCの30%未満等)の細胞膜を破壊しない、沈降である。
【0044】
RBCの分離の後、RBCは、RBCからヘモグロビンを放出させてヘモグロビン含有溶液を形成するために、RBCを溶解するための手段によって溶解される。溶解手段は、機械的溶解、化学的溶解、低張性溶解、又はHbが酸素を輸送し放出する能力を著しく破損せずに、ヘモグロビンを放出する他の公知の溶解方法等のさまざまな溶解方法を用いることができる。
【0045】
組換えで生産されたヘモグロビンを使用する場合、ヘモグロビンを含む細菌細胞は、洗浄され、上述したように汚染物質から分離される。これらの細菌細胞は、次いで、細胞からヘモグロビンを放出させて、溶解された細胞相を形成するために、ボールミル等の当技術分野で公知の手段によって機械的に破壊される。その後、溶解された細胞相は、溶解されたRBC相として処理される。
【0046】
本発明の酸素化ヘモグロビン溶液は、エンドトキシン、リン脂質、外来タンパク質、及び他の汚染物質の量によって、顕著な免疫系の反応を生じるものではなく、宿主に無毒であることが好ましい。本発明の酸素化ヘモグロビン溶液は、超高純度であることが好ましい。本明細書中で定義される超高純度とは、0.05 EU/ml未満のエンドトキシン、3.3ナノモル/ml未満のリン脂質、及び検出不可能な程度の少量の血清アルブミン又は抗体等の非ヘモグロビンタンパク質を含むものであることを意味する。
【0047】
本明細書中で用いられるように、用語“エンドトキシン”は、一般に、多くの条件下において有毒である、グラム陰性細菌の細胞壁の外側層の一部として生産される細胞結合性のリポ多糖類を意味する。動物に投与した場合、エンドトキシンは、熱、下痢、出血性ショック、及び他の組織損傷を引き起こすことがある。用語“エンドトキシンユニット”(EU)は、米国薬局方、1983年、第3014頁によって、0.2ナノグラムの米国参照標準ロットEC-2における活性として定義されるEUを意味することを示すものである。1つのバイアルのEC-2は、5,000 EUである。本発明の酸素化ヘモグロビン溶液のエンドトキシン含量は、約0.5エンドトキシンユニット/ミリリットル未満(約0.25エンドトキシンユニット/ミリリットル未満、約0.05エンドトキシンユニット/ミリリットル未満、又は約0.02エンドトキシンユニット/ミリリットル未満など)であることが好ましい。該エンドトキシン含量は、例えば、当技術分野において公知のリムルスアメボサイトライセイト(LAL)分析キットによって測定することができる。
【0048】
溶解後、溶解されたRBC相は、約100,000ダルトンより大きい分子量のタンパク質等の大きな細胞残屑を除去するために限外濾過器で濾過される。一般に、細胞残屑は、Hb、小さな細胞タンパク質、電解質、コエンザイム及び有機代謝中間体を除いて、すべての破砕した細胞成分を含む。許容し得る限外濾過膜は、例えば、Millipore社(Cat # CDUF 050 H 1)、及びAJQ Technology社(Needham, MA.; Model No. UFP100E55)によって製造されている100,000ダルトンフィルターを含む。
【0049】
濃縮されたHb溶液は、その後、抗体、エンドトキシン、リン脂質、酵素及びウィルス等の他の汚染物質から高速液体クロマトグラフィーによって更に分離するために、1以上の並列クロマトカラムに供することができる。適切な媒体の例は、陰イオン交換媒体、陽イオン交換媒体、疎水的相互作用媒体、及び親和性媒体を含む。適切な媒体の具体例は、非ヘモグロビンタンパク質からHbを分離するのに適切な陰イオン交換媒体を含む。適切な陰イオン交換媒体は、例えば、シリカ、アルミナ、チタニアゲル、架橋デキストラン、アガロース、又は、ジエチルアミノエチル若しくは第4級アミノエチル基等のカチオン化学官能性で誘導された、ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシエチル−メタクリレート若しくはスチレンジビニルベンゼン等の誘導化成分を含む。他のタンパク質及び汚染物質(溶解されたRBC相にあると考えられる)と比較する、適切な陰イオン交換媒体、並びに、Hbの選択吸収及び脱着のための対応する溶出剤は、当技術分野における適切な技術によって容易に決定することができる。
【0050】
任意に、方法を用いて、孔径を増加させるために熱水処理されたシリカゲルから陰イオン交換媒体を形成し、7−グリシドキシプロピルシランに暴露して活性化エポキシ基を形成した後、03H7(CHs)NClに暴露して第四級アンモニウム陰イオン交換媒体を形成することができる。この方法は、Journal of Chromatography, 120:321-333 (1976)に記載されている(その全体において引用により本明細書中に組み込まれる)。
【0051】
ある具体例において、クロマトカラムは、最初に、Hb結合を促進する初期の溶出剤で洗浄することによって前処理される。次いで、濃縮されたHb溶液は、カラムの媒体に注入される。濃縮されたHb溶液の注入後、クロマトカラムは、異なる溶出剤で良好に洗浄され、分離精製Hb溶出液を生産する。
【0052】
一般に、Hbからの、酵素−炭酸脱水酵素、リン脂質、抗体及びエンドトキシン等のタンパク質汚染物質を分離するために、pH勾配は、クロマトカラムにおいて利用される。さまざまなpH値の各々の一連の緩衝液は、クロマトカラムに媒体のpH勾配を作成するのに連続して供される。また、非ヘモグロビン汚染物質からHbを分離するためのpH勾配の利用は、米国特許第5,691,452号(1995年6月7日出願)に記載されている(引用により本明細書中に組み込まれる)。
【0053】
第一の緩衝液の一例は、Tris−ヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)溶液(約20mMの濃度;pH約8.4〜約9.4)である。第二の緩衝液の一例は、第一の緩衝液及び第三の緩衝液の混合物である。また、該第二の緩衝液のpHは、約8.2〜約8.6である。第三の緩衝液の一例は、Tris溶液(濃度約50mM;pH約6.5〜約7.5)である。第四の緩衝液の一例は、NaCl/Tris溶液(濃度約1.0M NaCl及び約20mM Tris;pH約8.4〜約9.4、好ましくは約8.9〜9.1)である。
【0054】
一般に、用いる緩衝液は、約0℃〜約50℃の温度である。緩衝液の温度は、使用時に約12.4±1.0℃であることが好ましい。また、緩衝液は、一般に、約9℃〜約11℃の温度で保存される。該Hb溶出液は、その後、該Hb溶出液中のHbの能力を低減させることなく、Hbを実質的に脱酸素化する手段により脱酸素化Hb溶液を形成して酸素を輸送及び放出するために、重合前に脱酸素化される[酸素化ヘモグロビン(metHb)の形成の変性から生じるような]のが好ましい。
【0055】
次いで、脱酸素化Hbは、酸化安定化された脱酸素化Hb(oxidation-stabilized deoxygenated Hb)を形成するために、スルフヒドリル化合物を含む低酸素含量保存緩衝液で平衡に保たれるのが好ましい。適切なスルフヒドリル化合物は、N−アセチル−L−システイン(NAC)、D,L−システイン、γ−グルタミル−システイン、グルタチオン、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、1,4−ブタンジチオール、チオグリコレート、及び、他の生物適合性のスルフヒドリル化合物等の非毒性還元剤を含む。低酸素含量保存緩衝液の酸素含量は、該緩衝液中のスルフヒドリル化合物の濃度を顕著に低減させない程度に十分に低いこと、及び、酸化安定化された脱酸素化Hbのオキシヘモグロビン含量を約20%以下(好ましくは約10%未満)に制限することを必要とする。一般に、保存緩衝液は、約50トル未満のpO2である。
【0056】
脱酸素化Hbと混合されたスルフヒドリル化合物の量は、重合時にHbの分子内架橋を増加させるのに十分に多い量であり、かつ、高イオン強度により、Hb分子の分子間架橋を顕著に減少させない程度の十分に低い量である。一般に、脱酸素化Hbの約0.25モル〜約5モルを酸化安定化するのに約1モルのスルフヒドリル官能基(−SH)が必要である。
【0057】
任意に、酸化安定化された脱酸素化Hbを重合反応器に移す前に、適切な量の水を該重合反応器に加える。
【0058】
重合工程における水のpO2は、一般に、HbO2含量を約20%(典型的には、約50トル未満)に制限するのに十分な量に低減される。また、その後、窒素等の不活性ガスを重合反応器に行き渡らせる。酸化安定化された脱酸素化Hbは、その後、重合反応器に移され、同時に、不活性ガスの適切な流れを行き渡らせる。
【0059】
重合反応器における酸化安定化された脱酸素化Hb溶液の温度は、架橋剤と接触する場合、酸化安定化された脱酸素化Hbの重合を最適化する温度に上げられる。一般に、酸化安定化された脱酸素化Hb溶液の温度は、重合全体にわたって、約25℃〜約45℃であり、好ましくは約41℃〜約43℃である。
【0060】
次いで、酸化安定化された脱酸素化Hbを、該酸化安定化された脱酸素化Hbを重合するのに十分な温度で適切な架橋剤に暴露して、約2時間〜約6時間にわたって重合ヘモグロビン(ポリ(Hb))の溶液を形成する。
【0061】
本明細書中で用いられる用語“重合された”は、四量体の形態より大きい重合ヘモグロビンの少なくとも50%の、好ましくは約95%より多い分子間及び分子内のポリヘモグロビン(polyhemoglobin)を包含する。本発明に用いることができる重合ヘモグロビンは、多機能の架橋剤と重合又は架橋することにより調製することができる。重合ヘモグロビンは、6〜9のpHの液体、及び生理液において実質的に可溶であることが好ましい。
【0062】
架橋剤の好適例は、米国特許第4,001,200号に開示されている(全教示は、引用により本明細書中に組み込まれる)。架橋剤の具体例は、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)尿素等のホルムアルデヒド活性化尿素、尿素でのホルムアルデヒド縮合から調製されるN、N'−ジ(ヒドロキシメチル)イミダゾリジノンなどのアルデヒド又はジアルデヒドの官能性のある化合物;ジフェニル−4,4'−ジイソチオシアナート−2,2'−ジスルホン酸、トルエンジイソシアネート、トルエン−2−イソシアナート−4−イソチオシアナート、3−メトキシジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアナート、プロピレンジイソシアナート、ブチレンジイソシアナート、及びヘキサメチレンジイソシアネートなどの機能的なイソシアナート又はイソチオシアナート基を有する化合物;濾過されたチオラクトンによって活性化されたエステル及びチオエステル;ヒドロキシスクシンイミドエステル;ハロゲン化カルボン酸エステル;及び、イミダートを含む。架橋剤の他の例は、他のヘモグロビンのアミンと架橋するヘモグロビンの反応性誘導体を提供する、カルボン酸の誘導体及びインサイチューで活性化されたヘモグロビンのカルボン酸残基を含む。カルボン酸の例は、クエン酸、マロン酸、アジピン酸及びコハク酸を含む。カルボン酸活性剤は、塩化チオニル、カルボジイミド、N−エチル−5−フェニル−イソオキサゾリウム−3'−スルホナート(ウッドワード試薬K)、N,N'−カルボニルジイミダゾール、過塩素酸N−t−ブチル−5−メチルイソオキサゾリウム(ウッドワード試薬L)、1−エチル−3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド、及び1−シクロヘキシル−3−モルホリノエチルカルボジイミド−p−トルエンスルホナートを含む。架橋試薬は、反応媒体において二官能性ジアルデヒドを容易に形成するジアルデヒド先駆物質になり得る。適切なジアルデヒド先駆物質は、水性環境で環分裂してα−ヒドロキシ−アジプアルデヒドを提供する、アクロレイン二量体、又は3,4−ジヒドロ−l,2−ピラン−2−カルボキサルデヒドを含む。加水分解で架橋試薬を生産する他の先駆物質は、グルタルアルデヒドを提供する2−エトキシ−3,4−ジヒドロ−1,2−ピラン、3−メチルグルタルアルデヒドを生産する2−エトキシ−4−メチル−3,4−ジヒドロ−1,2−ピラン、コハク酸ジアルデヒドを生産する2,5−ジエトキシテトラヒドロフラン、及びトリオキサンからマロン酸ジアルデヒド及びホルムアルデヒドを生産する1,1,3,3−テトラエトキシプロパンを含む。例示的な市販架橋試薬は、ジビニルスルホン、エピクロロヒドリン、ブタジエンジエポキシド、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、スベリミド酸ジメチル二塩酸塩、マロンイミド酸ジメチル二塩酸塩(dimethyl malonimidate dihydrochloride)、及びアジプイミド酸ジメチル二塩酸塩を含む。
【0063】
架橋剤の好ましい具体例は、グルタルアルデヒド、スクシンジアルデヒド、活性化形態のポリオキシエチレン及びデキストラン、グリコールアルデヒド等のα−ヒドロキシアルデヒド、N−マレイミド−6−アミノカプロイル−(2'−ニトロ,4'−スルホン酸)−フェニルエステル、m−マレイミド安息香酸−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、スクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート、スルホスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル、N−スクシンイミジル(4−ヨードアセチル)アミノベンゾエート、スルホスクシンイミジル(4−ヨードアセチル)アミノベンゾエート、スクシンイミジル4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート、スルホスクシンイミジル4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N,N'−フェニレンジマレイミド、並びにビス−イミデート類、アシルジアジド類又はアリール二ハロゲン化物類に属する化合物を含む。
【0064】
本発明で用いることができる重合ヘモグロビンは、ジアルデヒドによって重合されたヘモグロビンを含むことが好ましい。本明細書中で用いられるように、“ジアルデヒドによって重合されたヘモグロビン”は、ジアルデヒドによって重合されたヘモグロビン、及び反応媒体において二官能性ジアルデヒドを容易に形成するジアルデヒド先駆物質によって重合されたヘモグロビンを含む。適切なジアルデヒド及びジアルデヒド先駆物質は、上述したとおりである。本発明で用いることができる重合ヘモグロビンは、グルタルアルデヒドによって重合されたヘモグロビンを含むことがより好ましい。ある実施態様において、本発明の酸素化ヘモグロビン溶液は、グルタルアルデヒドによって重合されたヘモグロビンを含むが、5'−リン酸等のピリドキシル化剤(pyridoxylating agent)によってピリドキシル化された(pyridoxylated)ヘモグロビンを含まない。
【0065】
具体例において、グルタルアルデヒドは、架橋剤として用いられる。一般に、酸化安定化された脱酸素化Hb 1キログラム当たり約10〜約70グラムのグルタルアルデヒドを用いる。より具体的な例においては、酸化安定化された脱酸素化Hb 1キログラム当たりおよそ29〜31グラムのグルタルアルデヒドを加えるまで、グルタルアルデヒドを5時間にわたって加える。
【0066】
架橋剤の適切な量は、分子内架橋がHbを安定化し、また、分子間架橋がHbのポリマーを形成して、それによって血管内貯留を増加させることができる量である。一般には、架橋剤の適切な量は、架橋剤とHbのモル比が約2:1を超える量である。好ましくは、架橋剤とHbのモル比は、約20:1〜40:1である。
【0067】
具体例において、重合は、約7.6〜約7.9のpHで、約35ミリモル以下の塩化物濃度である緩衝液で行われる。
【0068】
ポリ(Hb)は、一般に、ポリ(Hb)においてHb分子の実質的な部分(例えば少なくとも約50%)が化学結合しており、約10%未満のような少量だけが高分子量の重合ヘモグロビン鎖内に含まれる場合、有意な分子内架橋を有する。高分子量のポリ(Hb)分子は、例えば約500,000ダルトンより大きい分子量である。
【0069】
重合後、重合反応器のポリ(Hb)溶液の温度は、一般に、約15℃〜約25℃に低減される。
【0070】
使用する架橋剤がアルデヒドでない場合には、形成されるポリ(Hb)は、一般に、安定なポリ(Hb)である。使用する架橋剤がアルデヒドである場合には、形成されるポリ(Hb)は、適切な還元剤と混合してポリ(Hb)のあまり安定でない結合を低減し、より安定な結合を形成するまでは、一般に安定でない。適切な還元剤の例は、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム、トリメチルアミン、t−ブチルアミン、モルホリンボラン、及びピリジンボランを含む。還元剤を添加する前に、ポリ(Hb)溶液の濃度が約75〜約85g/lに上昇するまで、限外濾過によってポリ(Hb)溶液を任意に濃縮する。適切な限外濾過膜は、30,000キロダルトン(kD)に評価され、再生セルロース担持膜(例えば、Millipore社製のHelicon, Cat #CDUF050LT、及びAmicon社製, Cat #540430)を含む、複数回再使用のために設計されたカートリッジ構造体である。
【0071】
次に、還元剤を保存するため、及びその後の還元時においてHbを変性させることがある水素ガスの発生を防ぐために、ポリ(Hb)溶液のpHをアルカリpHの範囲に調整する。ある実施態様において、pHは、10より高いpHで調整する。pHは、重合時又は重合後に、緩衝液をポリ(Hb)溶液に添加して調整する。ポリ(Hb)は、一般に、精製して、高分子量重合ヘモグロビンから非重合(約65kD未満の低分子量のヘモグロビン)ヘモグロビンを除去する。この分取は、透析濾過又はヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーによって行うことができる[例えば、米国特許第5,691,453号(引用により本明細書中に組み込まれる)を参照)]。重合ヘモグロビン分画を行うのに適切な市販の100kD限外濾過膜の例は、Pall社の100kD Omegaポリエーテルスルホン、Amersham社のポリエーテルスルホンKvick Flow Process Scale、及びMillipore社のPLCHK複合再生セルロースを含む。
【0072】
pH調整後、少なくとも1つの還元剤、好ましくは水素化ホウ素ナトリウム溶液をポリ(Hb)溶液に添加する。一般に、ポリ(Hb)内のHb四量体1モル当たり(Hbの64,000ダルトン当たり)約5〜約18モルの還元剤を添加する。
【0073】
次いで、安定なポリ(Hb)を適切なpH及び生理的電解質濃度を有するダイアフィルトレーション溶液でダイアフィルターする(diafiltering)ことにより、安定なポリ(Hb)のpH及び電解質を生理的レベルに回復させ、安定な重合ヘモグロビンを形成することができる。
【0074】
ポリ(Hb)を還元剤で還元する場合、ダイアフィルトレーション溶液は、酸性pH(好ましくはpH約4〜約6)である。
【0075】
また、非毒性スルフヒドリル化合物は、最終的な重合ヘモグロビン代用血液の安定性を増強するために、脱酸素剤として安定なポリ(Hb)溶液に加えることができる。該スルフヒドリル化合物は、ダイアフィルトレーション溶液の一部として加えることができ、及び/又は別々に加えることができる。スルフヒドリル化合物の量は、保存期間において、酸素を除去して約15%未満のメトヘモグロビン含量を維持するスルフヒドリル濃度を確立するように加えるものである。好ましくは、スルフヒドリル化合物はNACである。一般に、添加するスルフヒドリル化合物の量は、約0.05重量%〜約0.2重量%のスルフヒドリル濃度を確立するのに十分な量である。
【0076】
本発明で用いる重合ヘモグロビン溶液は、安定な重合ヘモグロビンを含むことが好ましい。本明細書中で用いられるように、“安定な重合ヘモグロビン”は、低酸素環境で保存される場合、2年間以上(好ましくは2年間以上)の適切な保存温度での保存期間に、分子量分布及び/又はメトヘモグロビン含量の増加又は減少が実質的にない、ヘモグロビン系酸素運搬組成物である。1年以上の保存の適切な保存温度は、約2℃〜約40℃である。
【0077】
重合Hb溶液は、重合反応器において、不活性で、実質的に無酸素の大気で圧力を維持し、輸送装置を残して、無菌操作条件下で一般に包装される。そのような重合Hb溶液は、上述した方法によって(例えば、酸素化システム10の利用によって)、本発明の酸素化Hb溶液を調製するのに用いることができる。
【0078】
当技術分野で公知の適切な方法は、上述したヘモグロビン溶液をインビトロで酸素化するのに利用することができる。好ましい実施態様において、ヘモグロビン溶液は、単一流入(single flow-through)のフィルターを用いて、インビトロで酸素化される。それによって、酸素ガスは、フィルターの疎水性孔内のヘモグロビン溶液と接触し、そこでヘモグロビン溶液に拡散し、ヘモグロビン溶液の重合ヘモグロビンを結合してオキシヘモグロビンを生成する。本明細書中で用いられるように、用語“単一流入”とは、フィルターを通って再度溶液を循環させることに対立するものとして、酸素化されるヘモグロビン溶液が一度だけフィルターを流れることを意味するものである。
【0079】
本発明の酸素化方法におけるフィルターは、疎水性中空繊維カートリッジであることが好ましい。該疎水性中空繊維カートリッジとは、当技術分野で公知の膜系酸素供給器、又はガス輸送膜接触器をいう。該中空繊維カートリッジは、一般に、ポリエチレン、ポリプロピレン又はPTFE等の疎水性ポリマーで製造され、好ましくは0.01〜0.2ミクロンの孔径である。市販の疎水性中空繊維膜接触器は、次のものを含む:Liqui-Celミニ膜接触器(G477,Celgard社, Membrana社からの分社, Charlotte, NC);FiberFlow疎水性カプセルフィルター(SV-C-030-P, Minntech社, Minnetonka, MN);及び、Cell-Pharm 中空繊維酸素供給器(Oxy-1, Biovest International社, Worcester, MA)。モジュールは、0.5〜5平方フィート、0.5〜2.5平方フィート、又は0.5〜1.5平方フィートのような膜面積の約0.5〜5平方フィートで、オートクレーブ滅菌又はγ線照射により滅菌することができる材料でできていることが好ましい。酸素化されるヘモグロビン溶液は、酸素ガスの流れ方向とは異なる方向(反対方向等)で疎水性中空繊維カートリッジを流れるのが好ましい。
【0080】
該酸素化されるヘモグロビン溶液は、好ましくは、約4mL/分〜約12mL/分、又は約10mL/分〜約12mL/分のような約2mL/分〜約12mL/分の範囲の流速で疎水性中空繊維カートリッジを流れる。
【0081】
該酸素ガスは、好ましくは、約3cc/分〜約20cc/分、又は約10cc/分〜約20cc/分のような約3cc/分〜約25cc/分の範囲の流速で疎水性中空繊維カートリッジを流れる。
【0082】
好ましい実施態様において、酸素化されるヘモグロビン溶液及び酸素ガスが独立してフィルター(好ましくは疎水性中空繊維カートリッジ)を上述した流速で流れる場合、フィルターの表面積は、約0.5ft2〜約5ft2(又は、約450cm2〜約0.5m2)、約0.5ft2〜約2.5ft2(又は、約450cm2〜約0.25m2)、約0.5ft2〜約1.5ft2(又は、約450cm2〜約1,500cm2)、約0.8ft2〜約1.2ft2(又は、約700cm2〜約1,200cm2)、又は1ft2(又は、約900cm2〜約1,000cm2)のような約0.5ft2〜約25ft2(又は、約450cm2〜約2.5m2)の範囲である。
【0083】
他の好ましい実施態様において、酸素化されるヘモグロビン溶液は、単一流入で、約20mL/分/m2〜約110mL/分/m2(又は、約2mL/分/ft2〜約10mL/分/ft2)の範囲の標準化された面積流速でフィルター(好ましくは疎水性中空繊維カートリッジ)を流れる。また、酸素ガスは、約50cc/分/m2〜約300cc/分/m2(又は、約5cc/分/ft2〜約25cc/分/ft2)の範囲の標準化された面積流速でフィルターを流れる。
【0084】
特に好ましい実施態様において、本発明の酸素化ヘモグロビン溶液の調製は、図1Aに示す酸素化システム10を使用して行なわれる。酸素化システム10は、HEMOPURE(登録商標)HBOC等の重合ヘモグロビン溶液をインビトロで酸素化するプロセス/装置である。Hb供給バッグ12に収容された重合ヘモグロビン溶液は、ガス交換をするカートリッジ20(好ましくは疎水性中空繊維カートリッジ)によってポンプで汲み出される。カートリッジ20は、酸素ガスが、重合ヘモグロビン溶液に拡散して、重合ヘモグロビン溶液のヘモグロビン分子を結合することを可能にする。カートリッジ20は、重合ヘモグロビン溶液がカートリッジ20のガス側面に漏れるのを防ぐことが好ましい。一般に、カートリッジ20には、ガス入口28を通じて、粒子及び他の汚染物質が重合ヘモグロビン溶液に入ることを防ぐことができる、比較的小さい孔がある。酸素化されたHEMOPURE(登録商標)溶液等の生じる酸素化ヘモグロビン溶液は、バルブ36、コネクター40及び42、並びにフィルター38等の無菌的な接続によって予め滅菌された生産物回収バッグ16に回収される。所定の使用に依存して、酸素化ヘモグロビン溶液は、任意に、生理食塩水供給バッグ18から供給されるUSPグレード生理食塩水で希釈され、所定の濃度[全ヘモグロビン量が、約1.0〜17g/dL、約1.0〜約14g/dL、又は約1.2g/dL〜約14g/dL(例えば、約6.5〜13g/dL)のような約1.0〜約25g/dLの範囲等の濃度である]となる。カートリッジ20への酸素供給は、医療グレードの管11及び13を通じてカートリッジ20のガス入口28に、圧酸素ガス源14(例えば、瓶詰めの医療グレードの酸素ガス、又は家庭用酸素供給)を接続することで制御される。酸素ガス供給圧は、圧力調整器24によって制御され、ガス流れは、ロタメーター22によって制御される。
【0085】
酸素化システム10において、酸素ガスは、酸素ガス源14からカートリッジ20のガス入口28に入り、ヘモグロビン流れとは反対方向でカートリッジ20の中空繊維に接触し、カートリッジ20のガス排気口30を通じて大気又はガス回収バッグ(図示しない)に放出される。
【0086】
酸素化システム10は、多数の重合ヘモグロビン溶液を、酸素化することができ、かつ予め滅菌された生産物回収バッグ16に連続的に回収することができる。
【0087】
ある実施態様において、酸素化システム10は、持ち運び可能である。任意に、本発明の酸素化ヘモグロビン溶液の所定数がすべて調製されれば、コネクター、カートリッジ及び関連する管は廃棄される。
【0088】
特に好ましい実施態様において、管、取り付け器具、バルブ、コネクター、カートリッジ及びフィルター等の酸素化システム10に必要な原料のすべては、使用前に、高温(約121℃等)でオートクレーブ、又はγ線照射によって滅菌される。
【0089】
約300 psig未満(より好ましくは約100 psig未満)の供給圧に制御された、医療グレードのボトル又は設備供給等の酸素ガス源14は、管13を通じて圧力調整器24の入口に取り付けられる。圧力調整器24は、約5 psig〜約10 psigの供給圧に調整されるのが好ましい。酸素化システム10のセットアップ及び操作の詳細な例示的手順は、次のとおりである。
【0090】
(A.酸素化システムの構成部品の準備)
図1Bに示すアセンブリ50においては、予め組み立てられ、ガンマ線を照射したアセンブリを使用することができる。γ線照射は、当技術分野において周知であり、Charter Medical社(Winston-Salem, NC)等の当技術分野の医療製品及び生物プロセス製品のベンダーによって行うことができる。あるいは、非滅菌構成部品を組み立て、当技術分野において公知の有効なオートクレーブで蒸気滅菌される。一般に、オートクレーブ滅菌された構成部品は、オートクレーブ滅菌から7日間以内に使用されるべきである。オートクレーブ滅菌された構成部品50の例示的な手順は、次のとおりである。
【0091】
a.ポンプ46(例えば、ペリスタポンプ)及び管17を図1Aに示すように取り付ける。図1Aでは、バルブ36において、三方活栓が示されている。
b.廃棄物回収バッグ49を、廃棄ラインを通じて三方活栓36に取り付け、三方活栓36を廃棄物回収バッグ49に方向付ける。
c.約600〜約800mLのUSP精製水を、発熱性物質を除去した清浄なガラスフラスコに入れる。
d.管17をガラスフラスコのUSP精製水中に沈め、約100mL/分以上でポンプ46を操作して該USP精製水をガラスフラスコからアッセンブリ50へポンプで汲み上げ、廃棄物回収バッグ49に入れる。
e. USP精製水での洗浄後、ポンプ46を止め、廃棄ラインを三方活栓36から取り外す。次いで、コネクター40(例えば、雌型ルアーコネクターによる雌型)を三方活栓36に接続する。
f.管17、カートリッジ20、バルブ36、フィルター38、コネクター23、40及び42を含むアセンブリ50をオートクレーブポーチに入れる。
g.アセンブリ50を収容するオートクレーブポーチを有効なオートクレーブに入れ、約30〜40分間オートクレーブ滅菌する。
【0092】
(B.酸素化システム10のセットアップ)
酸素化システム10のプロセス装置は、持ち運び可能であり、任意の指定された場所に移動することができる。プロセス装置は、無菌的な接続ができる清浄領域の研究場所でセットアップされる。
【0093】
約300 psig未満(より好ましくは約100 psig未満)の供給圧に制御された、医療グレードの酸素ガスの酸素ガス源14は、圧力調整器24及びロタメーター22に取り付けられる。圧力調整器24は、約5 psig〜10 psigの供給圧に調整される。柔軟な医療グレードの管11は、ロタメーター22の出口から、ルアー接続部分等のコネクター21及び26通じてカートリッジ20に接続される。
【0094】
生産物回収バッグ16(例えば1000mL)は、無菌コネクター42に接続される。
【0095】
重合ヘモグロビン溶液[例えば、HEMOPURE(登録商標)HBOC]を収容するHb供給バッグ12、又はUSPグレードの生理食塩水を収容する生理食塩水供給バッグ18は、供給口48(例えば、スパイク状口)を通じて(例えば、Hb供給バッグ12又は生理食塩水供給バッグ18をスパイク状口で穴を開けることによって)アッセンブリ50に接続される。
【0096】
酸素化ヘモグロビン溶液の調製前に、任意に、組み立てられた構成成分は、生理食塩水で洗浄される。生理食塩水は、主な酸素化システム10に使用され、真の最初のバッグを酸素化する前にのみ必要になり得る。医療(USP)グレードの生理食塩水(例えば250ml)の1つのバッグは、供給口48(スパイク状口)に取り付けられる。1つの空の廃棄物回収バッグ49(例えば1000ml)は、三方活栓36に取り付けられる。また、三方活栓36は、取り付けられた廃棄物回収バッグ49に向けて方向付けられる。ポンプ速度は、およそ250rpm(およそ75ml/分)にセットされ、生理食塩水供給バッグの全収容物は、アセンブリ50を通じて洗浄され、取り付けられた廃棄物回収バッグ49に回収される。生理食塩水バッグが空になると、ポンプは停止され、該廃棄物回収バッグは、除去され、廃棄される。次いで、三方活栓36は、生産物回収バッグ16に向けて方向付けられる。ここで、酸素化システム10は、生理食塩水が収容されて、酸素化されたHEMOPURE(登録商標)溶液等の酸素化ヘモグロビン溶液を生産する状態である。
【0097】
(C.酸素流入の手順)
酸素ガス源14は、適切な圧力である(例えば、10〜300 psig、好ましくは10〜100psig)。ホース/管での適切な圧力は、管13及び11に提供される。酸素ガス源14は、管13を通じてガス圧調整器24に接続される。管13及び圧力調整器24は、適切なコネクター[例えば、計量圧縮接続(metric compression connection)又は英国圧縮接続(English compression connection)]によって互いに接続される。次いで、ガス圧調整器24は、5〜10 psigの酸素圧力のような所定の圧力をロタメーター22に提供するために調整される。その後、ロタメーターの計量バルブは、メーターのボールが所定の範囲(例えば、約10cc/分〜20cc/分)にセットされるように調整される。ガス流れのセットは、周期的に(例えば、酸素化プロセスの開始時、プロセス時及び終了時)チェックされるのが好ましい。
【0098】
(D.重合ヘモグロビンの酸素化)
アッセンブリ50の洗浄に用いる空の生理食塩水供給バッグは、供給口48から取り外され、Hb供給バッグ12が供給口48に接続される。生産物回収バッグ16は、管15を通じてコネクター42に取り付けられ、クランプ44が開放される。次いで、ポンプ46が運転され、Hb供給バッグ12の重合ヘモグロビンは、カートリッジ20内で酸素化され、生じた酸素化ヘモグロビン溶液は、生産物回収バッグ16に回収される。
【0099】
(E.生理食塩水希釈)
任意の生理食塩水希釈において、空のHb供給バッグ12は、供給口48から取り外された後、生理食塩水供給バッグ18は、供給バッグ48に接続される。ポンプ46が取り付けられ、生理食塩水供給バッグ18からの生理食塩水は、生産物回収バッグ16に移され、そこで酸素化ヘモグロビン溶液が希釈される。生理食塩水供給バッグ18が空になるか、又は、所定量の生理食塩水が供給されると、ポンプ46は停止される。次いで、管15はクランプされ、生産物回収バッグ16がコネクター42から取り外される。取り外された生産物回収バッグ16は、その後、承認されたラベルで標識化され、氷上、又は冷蔵庫に置かれる。冷却は、一般に、充填後、室温で低いメトヘモグロビン濃度を維持する。
【0100】
本発明の酸素化ヘモグロビン溶液は、約15℃以下の温度で保存されるのが好ましい。より好ましくは、温度は、約2℃〜約8℃の範囲で維持される。
【0101】
ここで、酸素化システム10は、1つのカートリッジ20を使用するように図示される。ある実施態様においては、直列の又は並列の1より多いカートリッジ20を用いることができる。複数のカートリッジ20が並列で用いられる場合、1より多い生産物回収バッグ16を用いて、それぞれのカートリッジに接続することができる。また、1より多い酸素ガス源14がこれらの実施態様で用いることができる。
【0102】
一般に、本発明の方法で用いる安定な酸素化ヘモグロビン溶液は、重合ヘモグロビンの少なくとも約80重量%(より好ましくは、少なくとも約90重量%)をオキシヘモグロビンに変換するように、重合ヘモグロビンを含むヘモグロビン溶液を酸素化することによってインビトロで調製される。ある実施態様において、酸素化されるヘモグロビン溶液に含まれる重合ヘモグロビンの約18重量%以下は、500,000ダルトンより大きい分子量であり、酸素化されるヘモグロビン溶液に含まれる重合ヘモグロビンの約5重量%以下は、65,000ダルトン以下の分子量であり、また、酸素化されるヘモグロビン溶液に含まれるヘモグロビン溶液のエンドトキシン含量は、約0.5エンドトキシンユニット/ミリリットル未満であり、好ましくは約0.05エンドトキシンユニット/ミリリットル未満である。また、重合ヘモグロビンのP50は、約24〜約46mmHg(好ましくは約34〜約46mmHg)の範囲である。さらに、インビトロで調製される本発明の方法に使用するのに適切な酸素化ヘモグロビン溶液は、1以上の医薬として許容し得るキャリア及び/又は賦形剤を含み得る。そのようなキャリアの例は、水、生理食塩水溶液、デキストロース溶液等を含む。賦形剤の例は、塩化ナトリウム及び生理学的に許容し得る緩衝液を含む。
【0103】
本発明の酸素化ヘモグロビン溶液の調製に適切で安定した重合ヘモグロビン溶液の詳細は、表1に提供される。
【0104】
【表1】

【0105】
保護液及び心停止液は、当業者に公知である。保護液は、血液又は血漿の特定の生理学的性質を模倣し、限定された時間のインビボまたはエキソビボで器官又は組織の生存度を安定させて保護するために使用される溶液である。心停止液は、特に心臓から取り除かれた心臓又は組織の生存度を安定させて保護するために使用される保護液である。一般に、2つのタイプの心停止液が使用される:1)グルタミン酸ナトリウム(MSG)、アスパラギン酸モノナトリウム(MSA)、CPD、デキストロース、スロメタミン(Thromethamine)、及びKClを通常含む、アミノ酸を強化した溶液又は血液心停止液、並びに、2)MSG/MSAを含まない晶質液である。
【0106】
ある実施態様において、本発明では、溶液1リットル当たり約10グラム〜250グラムの重合ヘモグロビンを含む酸素化ヘモグロビン溶液を用いる。酸素化ヘモグロビン溶液においては:a)酸素化ヘモグロビン溶液の重合ヘモグロビンの約80重量%以上がオキシヘモグロビンである;b)重合ヘモグロビンの約18重量%以下が、分子量500,000ダルトンより大きい;c)重合ヘモグロビンの約5重量%以下が、分子量65,000ダルトン未満である;d)重合ヘモグロビンのP50は、約34〜約46mmHgの範囲にある;及び、e)酸素化ヘモグロビン溶液のエンドトキシン含量は、約0.05エンドトキシンユニット/ミリリットル未満である。
【0107】
用語“P50”は、酸素ガス(O2)とヘモグロビン間の相互作用を説明するのに用いられる用語として、当技術分野では認識されており、ヘモグロビンの50%飽和での酸素ガスの分圧(pO2) を表わす。したがって、“重合ヘモグロビンのP50”は、酸素ガス(O2)と重合ヘモグロビン間の相互作用を示す。この相互作用は、縦軸にプロットされたヘモグロビンの飽和率と、横軸にプロットされた水銀柱ミリメートル(mmHg)又はトルにおける酸素分圧の酸素解離曲線としてよく表わされる。本発明で用いることができる重合ヘモグロビンのP50は、約24mmHg〜約46mmHg(より好ましくは約34mmHg〜約46mmHg)の範囲にある。ある実施態様において、重合ヘモグロビンのP50は、約40mmHgである。
【0108】
ある実施態様において、酸素化ヘモグロビン溶液は、約37℃で約1センチポイズ〜約2センチポイズの粘度である。他の実施態様において、酸素化ヘモグロビン溶液は、約37℃で約1センチポイズ〜約1.5センチポイズの粘度である。他の実施態様において、酸素化ヘモグロビン溶液は、約37℃で約1.3センチポイズの粘度である。他の実施態様において、酸素化ヘモグロビン溶液は、約37℃で約1センチポイズ〜約2センチポイズの粘度であり、重合ヘモグロビンのP50は、約34mmHg〜約46mmHgの範囲にある。
【0109】
ある実施態様において、酸素化ヘモグロビン溶液は、約18℃〜約37℃の範囲の温度で被験者に投与される。他の実施態様において、酸素化ヘモグロビン溶液は、約25℃〜約37℃の範囲の温度で被験者に投与される。特定の実施態様において、酸素化ヘモグロビン溶液は、約37℃の温度で被験者に投与される。
【0110】
ある実施態様において、酸素化ヘモグロビン溶液は、注入によって投与される。酸素化ヘモグロビンの送達は、動脈内注入、又は虚血器官の静脈循環若しくは生物体の中心静脈循環への逆行注入によりされてもよい。
【0111】
ある実施態様において、酸素化ヘモグロビン溶液は、約10ml/分〜約200ml/分の範囲の速度で注入される。他の実施態様において、酸素化ヘモグロビン溶液は、約20ml/分〜約100ml/分の範囲の速度で注入される。他の実施態様において、注入速度は、約40ml/分〜約60ml/分の範囲である。特定の実施態様において、注入速度は、約48ml/分である。
【0112】
ある実施態様において、酸素化ヘモグロビン溶液は、更に1以上の生理的イオン(physiological ion)を含む。ある実施態様において、生理的イオンは、カリウムイオン、ナトリウムイオン及び塩化物イオンを含む。他の実施態様において、生理的イオンは、カリウムイオン、ナトリウムイオン、塩化物イオン、及びカルシウムイオンを含む。
【0113】
他の実施態様において、酸素化ヘモグロビン溶液は、更にグルコースを含み、グルコースの濃度は、約0〜約50ミリモル/リットルである。特定の実施態様において、グルコースの濃度は、約11ミリモル/リットルである。他の実施態様において、酸素化ヘモグロビン溶液は、更にインシュリンを含み、インシュリンの濃度は、約0〜約1,000ミリユニット/リットルである。特定の実施態様において、インシュリンの濃度は、約50ミリユニット/リットルであり得る。他の実施態様において、酸素化ヘモグロビン溶液のカリウムの濃度は、約0〜約100ミリユニット/リットルである。特定の実施態様において、カリウムの濃度は、約4.5ミリモル/リットルであり得る。代替的な実施態様において、溶液は、次のものからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含んだ生理学的緩衝液を含む:乳酸ナトリウム、N−アセチル−L−システイン、塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び塩化カルシウム・2H2O。特定の実施態様において、乳酸ナトリウムの濃度は、約0〜約45ミリモル/リットルである。他の特定の実施態様において、N−アセチル−L−システインの濃度は、約0〜約0.2%である。他の特定の実施態様において、塩化ナトリウムの濃度は、約145〜約160ミリモル/リットルである。更なる他の特定の実施態様において、塩化カリウムの濃度は、約0〜約100ミリモル/リットルである。他の特定の実施態様において、塩化カルシウム・2H2Oの濃度は、約0.5〜約1.5ミリモルである。
【0114】
ある実施態様において、患者は、急性虚血又は急性狭心症である。ある実施態様において、虚血又は狭心症は、動脈のインターベンション又は手術によって起こる。他の実施態様において、虚血又は狭心症は、心臓手術によって起こる。他の実施態様において、虚血は、狭心症が1つの症状であり得る心筋梗塞を生じる。本発明に使用する臨床適応症は、虚血が、開示された酸素化ヘモグロビン溶液の内部又は外部操作による注入によって防止される間の次の操作又はインターベンションを含むがこれらに限定されない:血管形成、動脈のステント配置、血管造影法、アテローム切除術、冠動脈及び周辺のバイパス移植術を含むバイパス移植術(CABG)、動脈内膜除去術、器官移植、心肺バイパス手術、塞栓摘出術、血栓溶解療法、大動脈手術(特に、脳、肝臓又は腎臓への血流を遮断するもの)、及び腸間膜組織の血管再生。
【0115】
他の実施態様において、組織は、脳、肺、肝臓、膵臓、ひ臓、腎臓、心臓、小腸の部位、大腸の部位、直腸、膵臓、骨格筋、胃、膀胱、食道、喉頭、気管、気管支、舌下腺、亜最大耳下腺(parotid submaximal gland)及び甲状腺を含む腺を含む。
【0116】
他の実施態様において、血管は、次の動脈を含む:内頸動脈、右椎骨動脈、腕頭動脈、鎖骨下動脈、腋下動脈、上腕深動脈、上腕動脈、総肝動脈、固有肝動脈、胃十二指腸動脈、右胃動脈、右胃大網動脈、上腸間膜動脈、中結腸動脈、右結腸動脈、回結腸動脈、橈骨動脈、尺骨動脈、深掌動脈弓、浅掌動脈弓、指動脈、総腸骨動脈、内腸骨動脈、外腸骨動脈、足背動脈、弓状動脈、中足動脈、眼動脈、最大動脈(maximallary)、顔面動脈、舌動脈、外頸動脈、右総頸動脈、大動脈弓、胸大動脈、腹大動脈、横隔膜、下横隔腹腔動脈(inferior phrenic celiac trunk)、ひ動脈、左胃動脈、左胃大網動脈、副腎動脈、腎動脈、生殖腺動脈、左結腸動脈、下腸間膜動脈、S状結腸動脈、上直腸動脈、正中仙骨動脈、大腿動脈、膝窩動脈、前脛骨動脈、後脛骨動脈、腓骨動脈、足底動脈弓、及び指動脈。また、心臓、肺、肝臓、腎臓、ひ臓、膵臓、骨格筋、膀胱、腺(亜最大舌下腺、耳下腺及び甲状腺を含む)の静脈は、酸素化ヘモグロビングルタマー−250(ウシ)、ヘモグロビン系酸素キャリアで逆行的に潅流することができる。
【0117】
ある実施態様において、酸素化ヘモグロビン溶液は、更に付加的な治療剤を含む。付加的な治療剤は、オクスフェニシン(約0〜約100ミリモル/l)、N6−シクロヘキシルアデノシン(約0〜約100μモル/l)、マンニトール、マグネシウム、プロカイン、重炭酸塩、トロメタミン、L−グルタミン酸一ナトリウム一水和物、L−アスパラギン酸一ナトリウム一水和物、デキストロース、氷酢酸、クエン酸塩、リン酸塩、デキストロース、リン酸一ナトリウム、アルブミン、ソルビトール、及びアスパラギン酸塩を含む。
【0118】
ある実施態様において、酸素化ヘモグロビン溶液は、単離されたウシの赤血球からのグルタルアルデヒド重合ヘモグロビン溶液である。他の実施態様において、酸素化ヘモグロビン溶液は、酸素化ヘモグロビングルタマー−250(ウシ)、約6.5〜約13.0g/dLのヘモグロビン濃度、約90重量%より高いオキシヘモグロビン、約5重量%未満のメトヘモグロビンを含むヘモグロビン系酸素キャリアである。酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCのエンドトキシン含量は、約0.05エンドトキシンユニット/ミリリットル未満である。酸素化ヘモグロビングルタマー−250(ウシ)、ヘモグロビン系酸素キャリアにおいて、重合ヘモグロビンの約18重量%以下は、分子量は約500,000ダルトンより大きく、重合ヘモグロビンの約5重量%以下は、分子量は約65,000ダルトン以下である。
【0119】
上述した冠動脈内の適応症において、酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCの投与は、カテーテル型(Heliosバルーンカテーテル)、注入剤の温度(37℃)及び注入速度(成人で48ml/分)を含む、経験的に判断された条件の選択によって最適化されている。他の薬剤(例えば、造影剤、医薬、生理食塩水)の冠動脈内投与は、一般に、室温で行われる。酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCの粘度は、4〜37℃の温度の上昇に伴って減少する。37℃での酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCの送達は、できる限り低い粘度でこの治療を行い、遠位のカテーテルチップで低い血管内カテーテル圧力及び低い注入剤のジェット作用を維持する。冠動脈内のジェット作用を最小限にすることで、冠動脈内皮の結着性を保護する。また、37℃での注入で、冠動脈閉塞時に心臓機能の保持を最適化する。これらの集合的な条件は、冠動脈内皮の最小の摂動と共に、同時に、心筋機能の保持を最大限にする温度で心筋酸素需要を満たすために、十分な酸素を送達する目的を達成する。
【実施例】
【0120】
[実施例1.重合ヘモグロビン溶液の酸素化]
表1に記載のHEMOPURE(登録商標)HBOCを、酸素化システム10を用いて、上述した方法により酸素化した。本実施例ではそれぞれ、1000mLの生産物回収バッグ16、HEMOPURE(登録商標)HBOCを収容する1つの250mLの生理食塩水供給バッグ18、及び1つのHb供給バッグ12を用いた。
【0121】
本実施例における酸素化システム10に用いた特定の成分は、次の表2に要約される。
【0122】
【表2】

【0123】
医療グレードの酸素ガスを用いた。酸素源14の酸素ガス濃度は、99%より高かった。加圧酸素供給を100 psi未満に制御した。圧力調整器24は、100 psigの入口圧力と評価された。重合ヘモグロビン溶液の流速は、10〜12mL/分であった。酸素ガスの流速は、10〜20cc/分であった。本実施例の生産物回収バッグ16は、次の表3で要約されるように、ヘモグロビン濃度がおよそ6.5±およそ1.0g/dLで、オキシヘモグロビン含量がおよそ90%よりも多い、酸素化ヘモグロビン溶液を収容した。
【0124】
【表3】

【0125】
[実施例2.HEMOPURE(登録商標)HBOCの生理化学的及び生化学的性質]
HEMOPURE(登録商標)HBOC(表1参照)は、単離されたウシ赤血球から抽出された、貧血の外科患者のための赤血球輸液剤の代替として初めて開発され、無細胞で、かつエンドトキシンを含まない、グルタルアルデヒド重合ヘモグロビン溶液である[Horn, EP. Proceedings of the ASA Congress. 1999; Horn EPら, Surgery. 1997;121 :411-418;及び、Standl Tら, Can J Anaesth. 1996;43:714-723(すべての文献の全教示は、引用により本明細書中に組み込まれる)を参照]。
【0126】
拡散しやすい酸素送達(酸素拡散)及び対流的な酸素送達(酸素輸送)、HEMOPURE(登録商標)HBOCは、酸素ドナー及び赤血球と組織間の“酸素橋”として作用することができる。HEMOPURE(登録商標)HBOCは、およそ40mmHgのP50(Hbが50%飽和される酸素分圧)となる、野生型のヒトヘモグロビンと比較して右にシフトされる酸素平衡曲線が特徴である。この性質は、組織に付加する酸素を促進する。また、酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCの粘度は、37℃で1.3センチポイズであり、これは、ヒト血液(4センチポイズ)よりも有意に低い[Rentko VT, Pearce LB, Moon-Massat PF, Gawryl MS.の文献、「Hemopure (HBOC-201, ヘモグロビングルタマー−250(ウシ)): 前臨床試験(Hemopure (HBOC-201, Hemoglobin Glutamer-250 (Bovine)): Preclinical studies.)」 第424-436頁. : RM Winslow, Editor, Academic Press, London, 2006(すべての文献の全教示は、引用により本明細書中に組み込まれる)を参照]。血液に対して、比較的小さいサイズ(RBSに対して)及び低粘度の酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCは、酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCを、RBCにアクセスすることができない組織の遠隔空間にアクセスすることができ、酸素と組織を効果的に往復させる、RBCと内皮間の酸素“橋”として機能することができる。これらの性質の有望な明示として、ヒドロキシエチル澱粉による血液希釈後の、酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCのイヌへの投与により、血液希釈後の乳酸リンゲル液によって生じた肝臓酸素分圧が増大した[Freitag M, Standl TG, Gottschalk A, Burmeister MA, Rempf C, Horn EP, Strate T, Schulte am Esch J.の文献、「ウシ無細胞ヘモグロビンHBOC-201の適用後の増強された中心器官の酸素化(Enhanced central organ oxygenation after application of bovine cell-free hemoglobin HBOC-201.)」Can J Anesth, 52: 904-914, 2005(すべての文献の全教示は、引用により本明細書中に組み込まれる)を参照]。超高純度の重合されたウシHb溶液での交換輸血によって、改善された組織酸素化と一致した非常に均一な組織pO2分散となる[Botzlar A, Nolte D, Messmer K.の文献、「ハムスターの皮膚横紋筋の微小循環系に対する、超高純度の重合されたウシヘモグロビンの影響(Effects of ultra-purified polymerized bovine hemoglobin on the microcirculation of striated skin muscle in the hamster.)」Eur J Med Res. 1996; 1:471-478(すべての文献の全教示は、引用により本明細書中に組み込まれる)を参照]。
【0127】
動脈内の酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCの有益な影響は、温度依存性であり、37℃より低い温度で注入される場合よりも、37℃で注入される場合の方が大きい。該酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCの有益な影響は、用量依存性である。冠動脈に注入される場合、最適な注入速度は、罹患組織へのベースライン血流よりおよそ50%高い。低粘度の酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCは、特に37℃で、希釈血液よりも恐らく高いHb濃度で、冠動脈の注入を可能にする。酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCは、OCTによって冠動脈を画像化する目的で、インビトロ、インビボ及びエキソビボにおいて、赤血球をHEMOPURE(登録商標)HBOCに置換する。
【0128】
[実施例3.インビトロでの結果]
すべての試験において、実施例1に記載した目的で、特別に設計され有効とされた装置を用いてHEMOPURE(登録商標)HBOCを酸素化した。
【0129】
酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCに、生理食塩水(<0.15mm-1)に類似する減衰量で近赤外線(1310nm)を効率的に透過してインビトロにおける特性評価をした(図2)。酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCの屈折率は1.357である。
【0130】
また、酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCが、一般的な臨床的シリンジポンプ(MedRad V Pro-Vis)を用い、ブタ及びヒトの冠動脈内注入に適切な速度に一致する60ml/分以内の注入速度で、血管形成カテーテル(Maverickモデル, Boston Scientific社, Natick, MA)及びOCTイメージングカテーテル(Heliosショートノーズイメージングカテーテル, Light Labs Imaging社, Westford, MA)の内腔を通じて注入することができることをインビトロで実証した。さらに、酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCをOCTイメージングカテーテルによって注入する場合に、動脈アーキテクチャの高品質の画像を収集することができることを示した。この特性評価は、注入剤がカテーテルチップに出る際の、血管内カテーテル圧力、注入速度、注入剤の温度、及びジェット作用間の関係の文書化を含んでいた。
【0131】
さらにまた、市販の臨床流体Astotherm Plus(登録商標)(Futuremed America社, Granada Hills, CA)を用いて、注入時の酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCを加温するプロセスにおけるインビトロでの特性評価のデータを作成した。
【0132】
[実施例4.インビボでの結果:COR-0002:選択的な経皮的冠動脈の血管再生におけるHBOC治療の評価]
選択的なPCIが予定されている心臓病患者におけるHBOCの安全性及び耐用性が、COR-0001試験で最近調査されている[COR-0001試験調査者である、Serruys PW, Vranckx P, Slagboom T, Regar E, Meliga E, de Winter R.J, Heyndrickx G, van Remortel EAM, Dube GP及びSymons Jの文献、「CADでのPCIを受けている患者におけるヘモグロビン系酸素キャリア-201(HBOC-201)の血行力学的効果、安全性及び耐性(Hemodynamic effects, safety, and tolerability of hemoglobin-based oxygen carrier-201 (HBOC-201) in patients undergoing PCI for CAD.)」Eurolntervention Journal. 3: 600-609, 2008(全教示は、引用により本明細書中に組み込まれる)を参照]。本試験では、IV HBOC投与が心臓の機能を維持したが、この薬剤の公知の血管収縮の特性、又は左室1回仕事量によって評価される心筋機能にもかかわらず、冠血流量の自己調節を脅かさなかったことを示した。平均動脈圧(MAP)及び体血管抵抗の一過性の上昇は、薬剤の意図する酸化窒素捕捉活性と一致していることが観察された。
【0133】
(方法)
(試験計画)
COR-0002パイロット試験は、HBOC投与が、主要な冠動脈閉塞時における心筋の“酸素化”及び心筋機能を改善するという仮説を試験するために考えられた、単一施設、フェーズII、プラセボ対照で、クロスオーバーの、単純盲検であった。登録された被験者は、酸素化されたHBOCの冠動脈内注入(3分以内の48ml/分で11〜13g/dl)で、及び注入なしで、冠動脈のバルーン閉塞を行った。
【0134】
(試験手順)
データ収集のポイント及び試験計画を図3に表す。すべての被験者について試験から退院するまで調査した。
【0135】
(連続的な12リードホルターの監視)
カテーテル検査室に到着した患者を、連続的な12リードホルターECG記録装置に接続した。ベースラインと比較したST部分の変化を、1mm以下(J点の後の60ms)のST部分の変化を示すすべてのリードと共に、最も深刻な変化を実証したリードで分析した。
【0136】
(患者の計測)
血管アクセスを、標準セルジンガー法での大腿部のアプローチを用いて得た。通常、6つ又は7つのフレンチ動脈シース(French arterial sheath)を選択した。PCI操作の開始前に、8つのフレンチ動脈シースによって左室にコンダクタンスカテーテルを挿入した(血行力学のデータ収集に関する詳細は、下の“左室の血行力学”の項で提供される)。スワンガンツカテーテルを、加温高張食塩水(NaCl 10%)希釈法によって、心拍出量測定のための大腿静脈を通じて肺動脈に入れた。
【0137】
(指標PCI手順段階)
指標PCI手順は、標準的な制度化した慣習によって行った。
【0138】
(試験段階)
従来の0.014インチのガイドワイヤ(Balance Middle Weight, Guidant社)を用いて、短いオーバーザワイヤ(OTW)バルーン(Helios 1.5, Goodman社, Japan)をステント内部に位置させた。従来の0.014インチのガイドワイヤ(Balance Middle Weight, Guidant社)を、ステントの遠位にある(“関心領域”に)OTWバルーンの外側に挿入し、連続的な“オンライン” 冠動脈内ECG監視を行った(図4)。
【0139】
(試験閉塞及び流体注入)
すべての被験者に、内部ステントバルーン閉塞(バルーンタイヤ圧=0.5 atm)を行った。閉塞時において、OTW内腔によって、48ml/分の速度(最大注入容積は144ml)で、37℃に加温した予め酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCを連続的な冠動脈内注入で投与した。冠動脈内OTW heliosバルーンカテーテルに近接して位置した、インライン臨床流体加温器[Astotherm(登録商標)plus, モデルAP220S, Futuremed America社, Granada Hills, CA, USA]によって、HEMOPURE(登録商標)HBOCを加温した。HEMOPURE(登録商標)HBOCを、臨床流体加温器の加熱コイル周辺に覆われた無菌の高圧注入ライン内に収容した。
【0140】
注入なしで(“乾燥閉塞”と称する)、対照の閉塞期間を同様に行った。被験者に、第一の閉塞期間に予め酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCを投与するように、及び第二の期間に無注入であるように、又はこれらの期間を逆にして割り当てた。それぞれの閉塞及び注入期間を3分間継続した。3人の患者は、第一の冠動脈閉塞時に、酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCを投与した。また、2人の患者は、第一の試験的インターベンションとして乾燥閉塞をした。バルーンカテーテル閉塞の早期の遮断についての予め決定された判定基準は、次のとおりである:
- ベースラインからの左室拡張終期圧(LVEDP)の≧100%増加、
- 保持された心室性不整脈(心室頻拍又は心室細動)、
- 耐えられない胸痛(狭心症)、
- 深刻な高血圧(>180mmHgの全身血圧上昇)、
- 深刻なLV機能障害[35%未満への駆出率(EF)の減少]。
バルーンの空気が抜かれ、注入が停止されれば、すべての記録されたパラメーターの20分間の“静止期間”を実行し、ベースラインに戻った(特に、LVEDP)。すべてのパラメーターがそれらのベースラインに戻ったら、処置期間は、第二の放出後に終了した。
【0141】
(左室の血行力学)
大腿動脈を通じて左室に導入された7F組み合わせ圧力−コンダクタンスカテーテル(CD Leycom社, Zoetermeer, the Netherlands)でのオンラインの左室内圧音量信号による操作前、操作中及び操作後に、左室の血行力学のデータを記録した。該カテーテルを、圧容積ループの表示及び収集のために、Cardiac Function Lab(CFL-512, CDLeycom社)に接続した。コンダクタンスカテーテルの音量信号を測定するために、高張食塩水溶液及び熱希釈の複数回の注入によって、並列コンダクタンス及び心拍出量をそれぞれ測定した。データ分析をカスタムメイドのソフトウエアによりオフラインで行った。心臓機能を、心拍出量、心拍血液量、1回仕事量、拡張末期容量、収縮末期容量、LV駆出率、収縮終期圧、拡張終期圧、LV圧力変化の最大及び最小速度(dP/dtMAX及びdP/dtMIN)によって計測した。等容性弛緩期間(dP/dtMINの時点とdP/dTがdP/dtMAX値の10%に達する時点の間の期間として定義される)を、位相プロット解析を用いて分析した後、緩和(Tau)の時定数を決定した。全身血液動態を、HEMOPURE(登録商標)HBOC注入の考えられる血圧上昇効果を調査するための試験期間において、ガイディングカテーテルを通じて、収縮期、拡張期及び平均全身動脈圧により3分毎に計測した。
【0142】
(有効性の評価項目)
本試験の主な評価項目は、左室の緩和(Tau及びdP/dTMIN)の変化、及びベースラインと比較したST部分偏差(連続的な12リードホルターECG監視によって評価される)の変化として定義される、内部ステントバルーン注入時の筋虚血の初期徴候であった。
【0143】
二次的な評価項目は、LV圧容積ループ解析、心筋虚血の臨床的症状によって測定された心仕事量の変化、及びQCAによって測定された冠動脈の血管緊張の変化を含む。
【0144】
(統計解析)
パラメトリック検定を用いて正規分布を有する変数を解析し、母数によらない検定によって非正規分布を有する変数を解析した。連続変数を平均±SD又は中央部±相互−四分位範囲(IQR)として表し、スチューデントのt検定又はマン・ホイットニー検定を用いて差異を比較した。カテゴリー変数を数及び割合として表す。
【0145】
すべての値を、ベースライン変動を考慮するために標準化した。標準化を、それぞれのベースラインで処置(HBOC注入、又は乾燥閉塞)に対する各反応を分割することにより行った。被験者間のベースラインにおける差異に関連する変動を最小限にする適切な戦略であったので、この標準化の方法を選択した。差異をt検定又はカイ二乗検定で評価した。すべての統計的検定を2回行った。P値<0.05を有意とした。本試験の記述的性格により、試料の評価を利用しなかった。
【0146】
(結果)
本試験において、平均年齢54.4±14歳の患者(n=5)の近位部LAD病変(n=5)及び/又は中央部LAD病変(n=1)にステント移植を行い、該患者を登録した。平均駆出率(EF)は66±10%であった。操作及び血行力学の結果を図5A、5B、6A及び6Bに図示する。測定された血行力学のパラメーターと、HBOC注入時におけるそれらのベースライン値とには、有意な差異はなかった。HBOC注入時に得られたデータと乾燥閉塞段階を比較した場合、dP/dTMAX以外は、評価されたすべての収縮期及び拡張期の性能指数において統計的な差異が示された。乾燥閉塞時において、EF、CO及びdP/dTMINはそれぞれ、0.98(IQR 0.09)、1(0.06)及び0.99(0.08)から0.78(0.22)、0.9(0.16)及び0.85(0.16)の平均メジアン値に有意に減少した。乾燥閉塞時において、EDP及びTauは、1(0.39)及び1(0.16)から1.5(0.71)及び1.21(0.23)のメジアン値に有意に増加した。乾燥閉塞時においては、PVループの重要な右方移行がPT005以外のすべての患者に生じたが、HBOC注入時においては、ESV及びEDVは、PT004を除いて増加しなかった。
【0147】
予め酸素化されたHBOC-210の注入で行われた内部ステント閉塞はすべて、意図された3分の持続時間持続した。具体的には、膨張の早期の遮断の基準を満たさなかった。しかしながら、乾燥閉塞の平均持続時間は2.13±0.12分であり、該閉塞の早期の終了は、すべての被験者に必要であった。表4に各患者の乾燥閉塞を終了する理由(s)を紹介する。
【0148】
【表4】

【0149】
HBOC注入時においては、ST部分は、ベースラインと有意な変化を示さなかったが、乾燥閉塞段階時においては、患者3、4及び5で、有意に上昇することが分かった。
【0150】
安全性の観点から、HBOC注入時の平均収縮期圧(SBP)の増加は、10.8±10.5 mmHgであった。SBPは、硝酸塩及び/又はニフェジピンでのプロトコールに指定された薬理学的インターベンションの予め定義された臨床値に達しなかった。
【0151】
臨床化学的パラメーターの注目に値する知見はなく、4日間の追跡段階において、患者に深刻な悪影響を及ぼさなかった。
【0152】
(考察)
本試験の主な結果は、次のとおりである:1)酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCの冠動脈内注入は、すべての近位部LAD閉塞時に、左室血行力学状態を維持した;2)LV収縮期及び拡張期の特性は、HEMOPURE(登録商標)HBOCの冠動脈閉塞時においては影響しなかったが、乾燥閉塞時においては、それらは有意に低下した;3)冠動脈内ECGは、HBOC注入時において、有意なST部分の変化を示さなかった;4)HEMOPURE(登録商標)HBOCは、有害事象を起こさず、又は、追跡期間を通じて血液化学的パラメーターを変化させなかった。
【0153】
COR-0002試験においては、予め酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCが、ヒトのすべての冠動脈閉塞時において、心筋代謝及び保存関数を立証することができるという仮説を試験するように設計した。選択された試験計画は、注入なしの同じ閉塞と比較する、予め酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCの冠動脈内注入による連続的な内部ステント血管形成術用バルーン膨張モデルである。収縮期及び拡張期の機能並びにST部分の変化のパラメーターを、酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCの冠動脈のリスクのある心筋への送達が、虚血を緩和するか否かを判断するために測定した。
【0154】
本試験における心筋虚血の初期徴候の評価は、全心臓周期の全体にわたる心室及び心筋作用に関する詳細な信頼性のあるデータを提供することが可能な方法である、PVループの連続的で侵襲性の記録に依存した[Burkhoff D, Mirsky I, Suga H.の文献「圧容積解析による収縮期及び拡張期の心室の特性の評価:臨床的、トランスレーショナルな、及び基礎的な研究者のためのガイド(Assessment of systolic and diastolic ventricular properties via pressure-volume analysis: a guide for clinical, translational, and basic researchers.)」Am J Physiol Heart Circ Physiol 2005;289(2):H501-12(全教示は、引用により本明細書中に組み込まれる)を参照]。等容性弛緩を、圧力減退(dP/dTMIN)のピーク比率及び心室の緩和時間定数Tau(τ)によって評価した。乾燥閉塞段階時において、バルーン膨張後の初期のdP/dTMINは、有意に減少したが、τは、有意に増加した(なお、両者は共に、心筋虚血の早期指標である)。HBOC注入時において、dP/dTもTauも、ベースライン値から有意に変化しなかった。これは、HBOCが、バルーン膨張よって生じない場合であっても実質的に虚血を鎮静することを示唆するものであった。等容性弛緩段階の変化は、虚血によって起こされた左室機能障害の初期で最も敏感な徴候である。この一連の被験者においては、LVEDPは、HBOC注入時に顕著に増加しなかったが、乾燥閉塞時にすべての被験者で連続的に増加した。
【0155】
拡張機能と類似する収縮機能は、重要なことに、虚血による影響を受ける。HBOCは、大部分は収縮機能障害を回避した。駆出率及び心拍血液量(SV)、駆出段階の特性の主要指標は、HBOC注入による冠動脈閉塞時にベースラインからの有意な変化を示さなかったが、それらは、乾燥閉塞段階時に有意に減少した。これらの結果では、高い“危険性のある領域”を供給するLAD冠動脈の近位部で閉塞が行なわれたという事実にもかかわらず、達成することができた。これらの結果と一致して、心筋収縮能の等容性段階の指標として一般に用いられるdP/dTMAXは、収縮期の心筋作用の閉塞を示唆するHBOC注入時に、ベースラインから有意に変化しなかった。
【0156】
関心分野の虚血の初期の電気的徴候を、高感度の虚血の初期徴候を検出することができる方法である、冠動脈内ECGによって検出した[Friedman PL, Shook TL, Kirshenbaum JM, Selwvn AP Ganz P.の文献「経皮経管冠動脈形成術時の心筋虚血を監視するための冠動脈内の心電図の値(Value of the intracoronary electrocardiogram to monitor myocardial ischemia during percutaneous transluminal coronary angioplasty)」Circulation 1986;74;330-339(全教示は、引用により本明細書中に組み込まれる)を参照]。この一連の患者においては、HBOC注入により、冠動脈閉塞時にST部分の変化から保護された。これに対して、顕著なSTの上昇、経壁の虚血の徴候を、乾燥閉塞時において4人の患者のうち3人から検出した。PT001では、おそらく、大きなEFの低下(EF<35%)、及び多数の期外収縮の存在により、閉塞が比較的初期に妨げられたので、STの上昇は、有意なレベルに達しなかった。すべての患者においては、STの変化は、HBOC注入前の静止期に生じなかったが、STは、バルーン膨張後であっても上昇が維持される傾向にあった。
【0157】
要約すると、冠動脈内の酸素化されたHEMOPURE(登録商標)HBOCは、PCIを行う患者において有用性があり得る、新しいカテゴリーの薬理学的な戦略を意味するものである。本研究の試験結果は、HEMOPURE(登録商標)HBOCが、すべての冠動脈閉塞に直面して、心筋の機械的及び電気的性質を有効に維持することができる、予備的証拠を提供するものである。
【0158】
(均等物)
本発明は、本明細書中の実施例、実施態様に関して特に示され記載されるが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲から逸脱せずに、形態及び詳細においてさまざまな変更が本明細書中で可能であることを理解するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に酸素化ヘモグロビン溶液を投与する工程を含む、該被験者の虚血状態において、組織、血管、器官、器官の領域又は生物体に酸素を送達する方法であって、該酸素化ヘモグロビン溶液が重合ヘモグロビンを含み、かつ、該重合ヘモグロビンの約80重量%以上がオキシヘモグロビンである、前記方法。
【請求項2】
前記重合ヘモグロビンの約90重量%以上がオキシヘモグロビンである、請求項1記載の酸素化ヘモグロビン溶液。
【請求項3】
前記重合ヘモグロビンがウシ由来のヘモグロビンを含む、請求項1記載の酸素化ヘモグロビン溶液。
【請求項4】
前記重合ヘモグロビンが、ジアルデヒドによって重合されたヘモグロビンを含む、請求項1記載の酸素化ヘモグロビン溶液。
【請求項5】
前記ジアルデヒドがグルタルアルデヒドを含む、請求項4記載の酸素化ヘモグロビン溶液。
【請求項6】
前記組織が、脳、肺、肝臓、膵臓、ひ臓、腎臓、心臓、小腸の部位、大腸の部位、直腸、膵臓、骨格筋、胃、膀胱、食道、喉頭、気管、気管支、舌下腺、亜最大耳下腺及び甲状腺を含む腺である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記血管が、内頸動脈、右椎骨動脈、腕頭動脈、鎖骨下動脈、腋下動脈、上腕深動脈、上腕動脈、総肝動脈、固有肝動脈、胃十二指腸動脈、右胃動脈、右胃大網動脈、上腸間膜動脈、中結腸動脈、右結腸動脈、回結腸動脈、橈骨動脈、尺骨動脈、深掌動脈弓、浅掌動脈弓、指動脈、総腸骨動脈、内腸骨動脈、外腸骨動脈、足背動脈、弓状動脈、中足動脈、眼動脈、最大動脈、顔面動脈、舌動脈、外頸動脈、右総頸動脈、大動脈弓、胸大動脈、腹大動脈、横隔膜、下横隔腹腔動脈、ひ動脈、左胃動脈、左胃大網動脈、副腎動脈、腎動脈、生殖腺動脈、左結腸動脈、下腸間膜動脈、S状結腸動脈、上直腸動脈、正中仙骨動脈、大腿動脈、膝窩動脈、前脛骨動脈、後脛骨動脈、腓骨動脈、足底動脈弓、及び指動脈からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記血管が、心臓、肺、肝臓、腎臓、ひ臓、膵臓、骨格筋、膀胱、亜最大舌下腺、耳下腺及び甲状腺を含む腺の静脈からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、約37℃で約1センチポイズ〜約2センチポイズの粘度である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、約37℃で約1.3センチポイズの粘度である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記重合ヘモグロビンのP50が約40 mmHgである、請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、溶液1リットル当たり約10グラム〜約250グラムの重合ヘモグロビンを含み、
a)該重合ヘモグロビンの約80重量%以上がオキシヘモグロビンであり;
b)該重合ヘモグロビンの約18重量%以下が、500,000ダルトンより大きい分子量であり;
c)該重合ヘモグロビンの約5重量%以下が65,000ダルトン以下の分子量であり;
d)該重合ヘモグロビンのP50が約34〜46 mmHgであり;かつ、
e)該ヘモグロビン溶液のエンドトキシン含量が、約0.05エンドトキシンユニット/ミリリットル未満である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、約18℃〜約37℃の範囲の温度で被験者に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、約25℃〜約37℃の範囲の温度で被験者に投与される、
請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、約37℃の範囲の温度で被験者に投与される、請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が注入によって投与される、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記注入が動脈内注入である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記注入が逆行注入である、請求項16記載の方法。
【請求項19】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、約10ml/分〜約200ml/分の範囲の速度で注入される、請求項16記載の方法。
【請求項20】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、約20ml/分〜約100ml/分の範囲の速度で注入される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記注入速度が約40ml/分〜約60ml/分の範囲である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記注入速度が約48ml/分の範囲である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、更に1以上の生理的イオンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項24】
前記生理的イオンが、カリウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン及び塩化物イオンを含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、更にグルコースを含み、グルコースの濃度が約0〜約50ミリモル/リットルである、請求項23記載の方法。
【請求項26】
前記グルコースの濃度が約11ミリモル/リットルである、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、更にインシュリンを含み、インシュリンの濃度が約0〜約1,000ミリユニット/リットルである、請求項25記載の方法。
【請求項28】
前記インシュリンの濃度が約50ミリユニット/リットルである、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、更にカリウムを含み、カリウムの濃度が約0〜約100ミリモル/リットルである、請求項23記載の方法。
【請求項30】
前記カリウムの濃度が約4.5ミリモル/リットルである、請求項29記載の方法。
【請求項31】
酸素化ヘモグロビン溶液を被験者に投与する工程を含む、虚血又は狭心症である患者を治療する方法であって、該酸素化ヘモグロビン溶液が重合ヘモグロビンを含み、かつ該重合ヘモグロビンの約80重量%以上がオキシヘモグロビンである、前記方法。
【請求項32】
前記虚血又は狭心症が急性である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記虚血又は狭心症が、動脈のインターベンション又は手術によって起こる、請求項31記載の方法。
【請求項34】
前記虚血又は狭心症が心臓手術によって起こる、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記動脈のインターベンション又は手術が、血管形成;動脈のステント配置;血管造影法;血管顕微法;アテローム切除術;冠動脈及び周辺のバイパス移植術を含むバイパス移植術;動脈内膜除去術;器官移植;心肺バイパス手術;塞栓摘出術;血栓溶解療法;大動脈手術;及び、腸間膜組織の血管再生からなる群より選択される、請求項33記載の方法。
【請求項36】
前記虚血又は狭心症が心筋梗塞を生じる、請求項31記載の方法。
【請求項37】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、約37℃で約1センチポイズ〜約2センチポイズの粘度である、請求項31記載の方法。
【請求項38】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、約37℃で約1.3センチポイズの粘度である、請求項36記載の方法。
【請求項39】
前記重合ヘモグロビンのP50が約40 mmHgである、請求項36記載の方法。
【請求項40】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、溶液1リットル当たり約10グラム〜約250グラムの重合ヘモグロビンを含み、
a)該重合ヘモグロビンの約80重量%以上がオキシヘモグロビンであり;
b)該重合ヘモグロビンの約18重量%以下が、500,000ダルトンより大きい分子量であり;
c)該重合ヘモグロビンの約5重量%以下が65,000ダルトン以下の分子量であり;
d)該重合ヘモグロビンのP50が約34〜46 mmHgであり;かつ、
e)該ヘモグロビン溶液のエンドトキシン含量が、約0.05エンドトキシンユニット/ミリリットル未満である、請求項31記載の方法。
【請求項41】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、約18℃〜約37℃の範囲の温度で被験者に投与される、請求項40記載の方法。
【請求項42】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、約25℃〜約37℃の範囲の温度で被験者に投与される、
請求項41記載の方法。
【請求項43】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、約37℃の温度で被験者に投与される、請求項42記載の方法。
【請求項44】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が注入によって投与される、請求項31記載の方法。
【請求項45】
前記注入が動脈内注入である、請求項44記載の方法。
【請求項46】
前記注入が逆行注入である、請求項44記載の方法。
【請求項47】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、約10ml/分〜約200ml/分の範囲の速度で注入される、請求項44記載の方法。
【請求項48】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、約20ml/分〜約100ml/分の範囲の速度で注入される、請求項47記載の方法。
【請求項49】
前記注入速度が約40ml/分〜約60ml/分の範囲である、請求項48記載の方法。
【請求項50】
前記注入速度が約48ml/分の範囲である、請求項49記載の方法。
【請求項51】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、更に1以上の生理的イオンを含む、請求項31記載の方法。
【請求項52】
前記生理的イオンが、カリウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン及び塩化物イオンを含む、請求項51記載の方法。
【請求項53】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、更にグルコースを含み、グルコースの濃度が約0〜約50ミリモル/リットルである、請求項52記載の方法。
【請求項54】
前記グルコースの濃度が約11ミリモル/リットルである、請求項53記載の方法。
【請求項55】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、更にインシュリンを含み、インシュリンの濃度が約0〜約1,000ミリユニット/リットルである、請求項54記載の方法。
【請求項56】
前記インシュリンの濃度が約50ミリユニット/リットルである、請求項55記載の方法。
【請求項57】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、更にカリウムを含み、カリウムの濃度が約0〜約100ミリモル/リットルである、請求項56記載の方法。
【請求項58】
前記カリウムの濃度が約4.5ミリモル/リットルである、請求項57記載の方法。
【請求項59】
前記酸素化ヘモグロビン溶液が、更に付加的な治療剤を含む、請求項31記載の方法。
【請求項60】
前記治療剤が、オクスフェニシン、N6−シクロヘキシルアデノシン、マンニトール、マグネシウム、プロカイン、重炭酸塩、トロメタミン、L−グルタミン酸一ナトリウム一水和物、L−アスパラギン酸一ナトリウム一水和物、デキストロース、氷酢酸、クエン酸塩、リン酸塩、デキストロース、リン酸一ナトリウム、アルブミン、ソルビトール、及びアスパラギン酸塩からなる群より選択される、請求項59記載の方法。
【請求項61】
1以上の異なる器官を潅流するのに適切な保護液であって、該保護液は、
a)pH約7.6〜約7.9の生理学的緩衝液;
b)グルコース;及び、
c)溶液1リットル当たり約10グラムから溶液1リットル当たり約250グラムの量の重合ヘモグロビンを含み、
i)該重合ヘモグロビンの約80重量%以上がオキシヘモグロビンであり;
ii)該重合ヘモグロビンの約18重量%以下が、500,000ダルトンより大きい分子量であり;
iii)該重合ヘモグロビンの約5重量%以下が65,000ダルトン以下の分子量であり;かつ、
iv)該重合ヘモグロビンのP50が約34〜46 mmHgであり、
該保護液のエンドトキシン含量が、約0.05エンドトキシンユニット/ミリリットル未満である、前記保護液。
【請求項62】
更に付加的な治療剤を含む、請求項61記載の保護液。
【請求項63】
前記治療剤が、オクスフェニシン、N6−シクロヘキシルアデノシン、マンニトール、マグネシウム、プロカイン、重炭酸塩、トロメタミン、L−グルタミン酸一ナトリウム一水和物、L−アスパラギン酸一ナトリウム一水和物、デキストロース、氷酢酸、クエン酸塩、リン酸塩、デキストロース、リン酸一ナトリウム、アルブミン、ソルビトール、及びアスパラギン酸塩からなる群より選択される、請求項62記載の保護液。
【請求項64】
約37℃で約1センチポイズ〜約2センチポイズの粘度である、請求項62記載の保護液。
【請求項65】
約37℃で約1センチポイズ〜約1.5センチポイズの粘度である、請求項64記載の保護液。
【請求項66】
約37℃で約1.3センチポイズの粘度である、請求項65記載の保護液。
【請求項67】
前記重合ヘモグロビンのP50が約40 mmHgである、請求項64記載の保護液。
【請求項68】
前記生理学的緩衝液が、乳酸ナトリウム、N−アセチル−L−システイン、塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び塩化カルシウム・2H2Oからなる群より選択される少なくとも1つの成分を含む、請求項61記載の保護液。
【請求項69】
虚血又は狭心症である患者を治療するのに用いる酸素化ヘモグロビン溶液であって、該酸素化ヘモグロビン溶液が重合ヘモグロビンを含み、かつ該重合ヘモグロビンの約80重量%以上がオキシヘモグロビンである、前記酸素化ヘモグロビン溶液。
【請求項70】
虚血又は狭心症である患者を治療するのに用いる包装されて提供される、酸素化ヘモグロビン溶液であって、該酸素化ヘモグロビン溶液が重合ヘモグロビンを含み、かつ該重合ヘモグロビンの約80重量%以上がオキシヘモグロビンである、前記酸素化ヘモグロビン溶液。
【請求項71】
虚血又は狭心症である患者を治療するための薬剤の製造における酸素化ヘモグロビン溶液の使用であって、該酸素化ヘモグロビン溶液が重合ヘモグロビンを含み、かつ該重合ヘモグロビンの約80重量%以上がオキシヘモグロビンである、前記使用。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A−B】
image rotate

【図6A−B】
image rotate


【公表番号】特表2010−529198(P2010−529198A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512210(P2010−512210)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【国際出願番号】PCT/US2008/007445
【国際公開番号】WO2008/156699
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(509341835)オーピーケー ビオテク エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】