説明

酸素吸収剤およびその製造方法ならびにそれを用いた酸素吸収性組成物および包装材

本発明の酸素吸収剤は、光触媒として機能する粒子と、該粒子の表面に化学吸着した有機化合物とを含む。この酸素吸収剤は、光触媒として機能する粒子の表面に有機化合物を化学吸着させる工程を含む製造方法によって製造できる。本発明によれば、酸素吸収能の高い樹脂組成物を構成できる酸素吸収剤、およびそれを用いた酸素吸収性の樹脂組成物および包装材が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素吸収剤およびその製造方法、ならびにそれを用いた酸素吸収性組成物および包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
食品などのように、酸素による劣化が大きい物品を安定に保存するためには、酸素が少ない環境下で保存することが重要である。そのような保存を可能にするため、従来からさまざまな酸素吸収剤が提案されている。そのような酸素吸収剤として、二酸化チタンを用いた酸素吸収剤が開示されている(たとえば、特開平7−316342号公報、特開平11−12115号公報、特開平11−278845号公報、特開2000−86415号公報、特開2000−316547号公報、特開2000−344958号公報、特開2001−226207号公報、特開2002−320917号公報)。
【0003】
しかしながら、従来から提案されてきた酸素吸収剤では、高分子に分散させたときの分散性が悪いという問題があった。また、高分子に分散させたときの性能の低下が大きいという問題があった。
【発明の開示】
【0004】
このような状況に鑑み、本発明は、酸素吸収能の高い樹脂組成物を構成できる酸素吸収剤およびその製造方法、ならびにそれを用いた酸素吸収性の樹脂組成物および包装材を提供することを目的の1つとする。
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の酸素吸収剤は、光触媒として機能する粒子と、前記粒子の表面に化学吸着した有機化合物(有機基)とを含む。
【0006】
上記本発明の酸素吸収剤では、前記有機化合物は、水酸基と反応する官能基を含む有機化合物(A)と前記粒子の表面の水酸基とが反応することによって形成された有機化合物であってもよい。
【0007】
上記本発明の酸素吸収剤では、前記粒子が二酸化チタンを含んでもよい。上記本発明の酸素吸収剤では、前記二酸化チタンがアナターゼ型二酸化チタンであってもよい。
【0008】
上記本発明の酸素吸収剤では、前記有機化合物(A)が、カルボン酸、エステル、アルデヒド、アルコキシシラン誘導体およびアミンからなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物であってもよい。また、前記有機化合物および有機化合物(A)は酸化されやすい構造を有する有機化合物であることが好ましく、例えばカルボニル基のα位にメチレン基を有する有機化合物や、エチレン性二重結合のα位(アリル位)にメチレン基を有する有機化合物が好ましい。上記本発明の酸素吸収剤では、前記有機化合物の式量が3000以下であってもよい。上記本発明の酸素吸収剤では、前記有機化合物(A)がコハク酸であってもよい。
【0009】
また、酸素吸収剤を製造するための本発明の方法は、光触媒として機能する粒子の表面に有機化合物を化学吸着させる工程を含む。
【0010】
上記製造方法では、前記粒子は表面に水酸基を有し、前記有機化合物は水酸基と反応する官能基を含んでもよい。
【0011】
上記製造方法では、前記有機化合物が、カルボン酸、エステル、アルデヒド、アルコキシシラン誘導体およびアミンからなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物であってもよい。
【0012】
上記製造方法では、前記粒子が二酸化チタンを含んでもよい。
【0013】
上記製造方法は、(i)前記有機化合物と前記粒子と有機溶媒とを含む混合物を調製する工程と、(ii)前記混合物から前記有機溶媒を除去する工程とを含んでもよい。この場合、前記有機溶媒が除去された前記混合物を水の沸点以上の温度で加熱する工程を含んでもよい。
【0014】
上記製造方法は、(I)前記有機化合物と前記粒子とを含む混合物を調製する工程と、(II)前記混合物を加熱することによって前記有機化合物を前記粒子に化学吸着させる工程とを含んでもよい。この場合、前記(II)の工程は、前記混合物を水の沸点以上の温度で加熱する工程を含んでもよい。
【0015】
上記製造方法では、前記混合物を窒素雰囲気下または減圧下で加熱してもよい。
【0016】
また、本発明の他の酸素吸収剤は、上記本発明の製造方法で製造された酸素吸収剤である。
【0017】
また、本発明の酸素吸収性組成物は、樹脂と、前記樹脂に分散された酸素吸収剤とを含む酸素吸収性組成物であって、前記酸素吸収剤が上記本発明の酸素吸収剤である。この酸素吸収性組成物では、前記樹脂がエチレン−ビニルアルコール共重合体を含んでもよい。
【0018】
また、本発明の包装材は、上記酸素吸収性組成物からなる部分を含む。
【0019】
本発明の酸素吸収剤は、粒子状であるため、樹脂に均一に分散させることが容易である。また、本発明の酸素吸収剤では、酸化される有機化合物が光触媒粒子に化学吸着しているため、高い酸素吸収能を発揮する。本発明の酸素吸収剤は光照射によって活性化されるため、光照射の時期および量を制御することによって、酸素吸収能の発現の時期および強度を制御できる。また、光が照射されることを防止することによって酸素吸収能の発現を抑制できるため、保管などが容易である。
【0020】
また、本発明の製造方法によれば、酸化される有機化合物が光触媒粒子に化学吸着した酸素吸収剤を容易に得られる。
【0021】
また、本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、本発明の酸素吸収剤を用いているため、高い酸素吸収能を発揮するとともに、ブリードアウトの発生を抑制できる。また、酸素吸収剤を樹脂にブレンドする際に、酸化される有機化合物が真空ベントから揮発することを防止できる。また、樹脂に酸素吸収剤をブレンドする前に酸素吸収剤を洗浄する場合でも、酸化される有機化合物が除去されることを防止できる。このような樹脂組成物を用いることによって、酸素吸収能が高く、成形加工性に優れ、食品衛生上安全性の高い包装材が得られる。また、このような包装材を用いることによって、包装材を用いて形成された包装体内部の酸素を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の酸素吸収剤および比較例の酸素吸収剤の酸素吸収能の一例を示すグラフである。
【図2】図2は、本発明の酸素吸収剤の赤外吸収スペクトルの一例を示す図である。
【図3】図3は、本発明の酸素吸収剤の酸素吸収能の他の一例を示すグラフである。
【図4】図4は、本発明の酸素吸収性組成物からなるプレスフィルムの酸素吸収能の他の一例を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明の酸素吸収性組成物からなるプレスフィルムの酸素吸収能の他の一例を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明の酸素吸収性組成物からなるプレスフィルムの酸素吸収能の他の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明において特定の機能を発現する化合物として、具体的な化合物を例示しているが、本発明はこれに限定されない。また、例示される材料は、特に記載がない限り、単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。
【0024】
(実施形態1)
実施形態1では、本発明の酸素吸収剤について説明する。本発明の酸素吸収剤は、光触媒として機能する粒子(以下、光触媒粒子という)と、該光触媒粒子に化学吸着した有機化合物(有機基)とを含む。光触媒粒子に化学吸着している有機化合物は、光触媒粒子の触媒作用によって酸化される有機化合物であればよい。この有機化合物は、光触媒粒子の表面と反応する官能基を含む有機化合物(以下、有機化合物(A)という場合がある)が、光触媒粒子の表面と反応することによって形成される。光触媒粒子と、それに吸着する有機化合物(A)との割合は特に限定はなく、用いる材料や使用目的に応じて決定される。一例では、光触媒粒子100重量部に対して、それに吸着する有機化合物(A)の量を1重量部〜100重量部の範囲としてもよく、1重量部〜10重量部とすることが好ましい。
【0025】
光触媒粒子の平均粒径に特に限定はないが、1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましい。光触媒粒子の平均粒径を1000nm以下とすることによって、表面積の増加により光触媒機能を向上させることができる。また、平均粒径を1000nm以下とすることによって、高分子への分散性を向上させることができ、透明性を付与することができる。
【0026】
光触媒粒子の材料としては、たとえば、二酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化セリウム、チタン酸ストロンチウム、ニオブ酸カリウムが挙げられる。これらの中でも、光触媒機能が高く、食品添加物としても認められており安全かつ安価であることから、光触媒粒子は二酸化チタンを含むことが好ましく、典型的には二酸化チタンのみからなる粒子が用いられる。
【0027】
光触媒粒子が二酸化チタン粒子である場合、その粒子はアナターゼ型二酸化チタンであることが好ましく、二酸化チタン粉末(粒子全体)の30重量%以上(より好ましくは50重量%以上)がアナターゼ型二酸化チタンであることが好ましい。アナターゼ型二酸化チタン粒子を用いることによって、高い光触媒作用が得られる。
【0028】
光触媒粒子は表面に官能基を有することが好ましく、特に水酸基を有することが好ましい。そのような光触媒粒子の代表的な例としては、二酸化チタン粒子が挙げられる。
【0029】
光触媒粒子の表面が水酸基を含む場合、水酸基と反応する官能基を含む有機化合物(A)と水酸基とが反応することによって、光触媒粒子に化学吸着している有機化合物が形成される。水酸基との反応性が高い官能基としては、たとえば、カルボキシル基、エステル基、アルデヒド基、アルコキシシリル基、およびアミノ基が挙げられる。すなわち、有機化合物(A)として、たとえば、カルボン酸、エステル、アルデヒド、アルコキシシラン誘導体およびアミンからなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物を用いることができる。このような有機化合物(A)は、光触媒粒子の表面と反応する官能基を有していない炭化水素と比較して、酸化物イオン(O2-)やヒドロキシルラジカル(OH)によって効率的に酸化される。なお、カルボン酸は、塩の形態であってもよい。また、有機化合物(A)として、炭素−炭素二重結合を含む化合物を用いることによって、より高い酸素吸収能が得られる場合がある。
【0030】
通常、有機化合物(A)の一部(たとえば水素原子や水酸基など)は、光触媒粒子の表面の水酸基と反応する際に水などを形成して脱離する。たとえば、反応する官能基がカルボキシル基、エステル基またはアルデヒド基である場合には、それらの−C−O−の部分などで光触媒粒子に結合する。また、反応する官能基がアルコキシシリル基である場合には、その−Si−O−の部分などで光触媒粒子に結合する。また、反応する官能基がアミノ基の場合には、その窒素の部分などで光触媒粒子に結合する。
【0031】
有機化合物(A)は、光触媒粒子に光を照射することによって酸化されるものであればよい。有機化合物(A)は、飽和化合物であってもよいし、不飽和化合物であってもよい。有機化合物(A)が不飽和化合物である場合には、不飽和結合に隣接するメチレン基が置換されていないことが好ましい。そのような構成によれば、高い酸素吸収能が得られるとともに、有機化合物の酸化による低分子化合物の発生を抑制できる。
【0032】
有機化合物(A)として適用できる代表的なカルボン酸としては、たとえば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ステアリン酸といった飽和脂肪族モノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸といった飽和脂肪族ジカルボン酸;アクリル酸、プロピオル酸、メタクリル酸、クロトン酸、オレイン酸、マレイン酸、フマル酸といった不飽和脂肪族カルボン酸;安息香酸、フタル酸、テレフタル酸といった芳香族カルボン酸が挙げられる。これらの中でも、コハク酸を用いる場合には、光触媒による酸化が効率的に進行するという効果が得られる。
【0033】
また、有機化合物(A)として適用できる代表的なエステルとしては、上記カルボン酸のエステルが挙げられる。
【0034】
また、有機化合物(A)として適用できる代表的なアルデヒドとしては、たとえばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ヘキサナール、オクタナール、7−オクテナール、ノナナール、デカナール、クロトンアルデヒド、セネシオンアルデヒド、アクロレイン、メタクロレイン、ノナンジアールなどが挙げられる。
【0035】
また、有機化合物(A)として適用できる代表的なアルコキシシラン誘導体、すなわちアルコキシシリル基を有する化合物としては、たとえば、トリメトキシシリル基やトリエトキシシリル基などを含む化合物が挙げられる。アルコキシシリル基以外の部分に特に限定はないが、たとえば、ハロゲン、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルキルアリール基、アルコキシ基、カルボキシル基、アシル基、シアノ基といった原子団を含んでもよい。
【0036】
また、有機化合物(A)として適用できる代表的なアミンとしては、たとえばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、セカンダリーブチルアミン、ターシャリーブチルアミン、アミルアミン、イソアミルアミン、ターシャリーアミルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,2−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカンなどが挙げられる。
【0037】
これらの化合物の中でもカルボン酸は、光触媒粒子の表面に強く化学吸着させることができる。カルボン酸の中でも、ジカルボン酸は、光触媒粒子の表面により強く化学吸着させることができるため好ましい。
【0038】
有機化合物(A)の分子量は特に限定はないが、光触媒粒子に化学吸着している有機化合物の式量を3000以下(たとえば500以下)とすることによって、樹脂への分散が容易になる。したがって、有機化合物(A)の分子量も3000以下(たとえば500以下)であることが好ましい。
【0039】
実施形態1の酸素吸収剤では、有機化合物が光触媒粒子の表面に化学吸着(化学結合)することが重要である。このような化学吸着は、たとえば、実施形態2の方法によって実現できる。
【0040】
本発明の酸素吸収剤は、粉末の形態で用いることができるため、樹脂に均一に分散させることが容易である。このため、均一な酸素吸収性組成物が容易に得られる。また、本発明の酸素吸収剤では、有機化合物が光触媒粒子の表面に化学吸着しているため、光触媒粒子に有機化合物が化学吸着していない従来の酸素吸収剤に比べて、以下の効果が得られる。(1)物理吸着している場合とは異なり、樹脂に分散させた場合もブリードアウトが発生しにくい。(2)樹脂とブレンドする際に、真空ベントから有機化合物(A)が揮発することを防止できる。(3)樹脂とブレンドする際に遊離した有機化合物が分解されるため、ブレンド前に酸素吸収剤を洗浄することが好ましいが、物理吸着の場合とは異なり、洗浄の際に有機化合物(A)が光触媒粒子の表面から脱落することを抑制できる。(4)洗浄後で比較した場合、化学吸着によって、物理吸着の場合よりも高い酸素吸収能が得られる。(5)得られた樹脂組成物は物理吸着の場合とは異なり、溶剤への溶出性が抑えられる。
【0041】
(実施形態2)
実施形態2では、酸素吸収剤を製造するための本発明の方法について説明する。この方法で製造された酸素吸収剤は、本発明の酸素吸収剤の1つである。
【0042】
本発明の製造方法は、光触媒として機能する粒子(光触媒粒子)の表面に有機化合物を化学吸着させる工程を含む。光触媒粒子および有機化合物には、実施形態1で説明した光触媒粒子および有機化合物(A)を用いることができる。
【0043】
以下に、本発明の製造方法について2つの例を挙げて説明する。
【0044】
第1の方法では、まず、有機化合物(A)と光触媒粒子と有機溶媒との混合物を調製する(工程1a)。有機溶媒は、有機化合物と光触媒粒子とを均一に分散または溶解できるものであればよい。そのような有機溶媒としては、たとえば、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、塩化メチレン、クロロホルム、酢酸メチル、酢酸エチルなどが挙げられる。これらの中でも、ヘキサン、トルエンなどを用いることによって、有機化合物(A)が光触媒粒子表面の水酸基と反応した際に生成する水を共沸脱水により取り除くことができる。
【0045】
次に、上記混合物から有機溶媒を除去する(工程2a)。有機溶媒の除去の方法は特に限定がなく、たとえば、濾過、減圧乾燥、および加熱といった方法の少なくとも1つを適用できる。有機化合物(A)、光触媒粒子および有機溶媒の種類を選択することによって、工程2aによって有機化合物(A)の一部を光触媒粒子に化学吸着させることができる場合がある。
【0046】
第2の方法では、まず、有機化合物(A)と光触媒粒子とを含む混合物を調製する(工程1b)。次に、混合物を加熱することによって有機化合物(A)を光触媒粒子に化学吸着させる(工程2b)。第2の方法では、通常、溶媒を用いずに有機化合物(A)と光触媒粒子とを混合する。
【0047】
光触媒粒子の表面に水酸基が存在し、有機化合物(A)が水酸基と反応する官能基を有する場合、工程2aおよび工程2bにおいて、官能基と水酸基との反応で生じた水を除去することが特に好ましい。水を除去することによって、有機化合物(A)の官能基と、光触媒粒子の水酸基との反応を促進させることができ、化学吸着する有機化合物(A)の割合を高めることができる。そのため、工程2aおよび工程2bで加熱を行う場合には、窒素気流下などの窒素雰囲気下や減圧下などのように、水を除去しやすい雰囲気で行うことが好ましい。同様に、工程2aおよび工程2bは、水の沸点以上の温度で加熱する工程を含むことが好ましい。また、加熱は有機化合物(A)の分解温度未満の温度で行うことが好ましい。工程2aにおいて水を除去する場合、有機溶媒と水とは別々に除去してもよいし、同時に除去してもよい。たとえば、まず有機溶媒を除去してから、有機化合物(A)と光触媒粒子とを含む混合物を水の沸点以上の温度で加熱してもよい。
【0048】
上記工程は、光(特に紫外光)を遮断した状態で行うことが好ましい。光を遮断した状態で上記工程を行うことによって、酸素吸収剤の性能が低下することを防止できる。
【0049】
実施形態2の製造方法によれば、有機化合物(A)が化学吸着(化学結合)した光触媒粒子を含む酸素吸収剤が得られる。なお、本発明の酸素吸収剤(実施形態1および2の酸素吸収剤)は、それのみで使用しても、樹脂などに分散させて使用してもよい。
【0050】
本発明の酸素吸収剤は、光が照射されることによって、有機化合物が酸化されて酸素吸収能を発揮する。したがって、光触媒粒子に吸着した有機化合物が光照射によって使用開始前に酸化されることを防止することが好ましい。そのため、本発明の酸素吸収剤では、使用開始前に光(特に紫外光)が照射されることを防止することが重要である。使用開始前に光が照射されていない場合には、有機化合物が酸化されず、また、光触媒粒子も大きな変化はない。たとえば、光触媒粒子が二酸化チタン粒子である場合には、使用開始前の二酸化チタン粒子の酸素欠陥の量は、有機化合物を吸着させる前のそれとほぼ同じであることが好ましい。具体的には、使用開始前において、有機化合物を吸着させた後の二酸化チタン粒子に含まれる酸素原子の量は、有機化合物を吸着させる前の二酸化チタン粒子に含まれる酸素原子の量の95原子%以上(好ましくは99原子%以上)であることが好ましい。
【0051】
(実施形態3)
実施形態3では、本発明の酸素吸収性組成物について説明する。実施形態3の酸素吸収性組成物は、樹脂(高分子化合物)と、樹脂に分散された酸素吸収剤とを含む。その酸素吸収剤は、実施形態1または2で説明した酸素吸収剤である。
【0052】
実施形態3の組成物に含まれる酸素吸収剤の量は、特に限定がなく、目的に応じて調整される。一例の組成物では、樹脂100重量部に対して、酸素吸収剤の量を1重量部〜30重量部、より好ましくは1重量部〜10重量部の範囲とすることができる。
【0053】
樹脂は、組成物の用途に応じて選択される。代表的な樹脂としては、たとえば、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアミド系樹脂、およびポリアクリロニトリル系樹脂といった合成樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、酸素バリア性が高いため、酸素による劣化が問題となる物品の包装材の材料に適した組成物が得られる。
【0054】
上記以外の樹脂としては、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、ポリ1−ブテンといったポリオレフィンを用いてもよい。また、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリレートを用いてもよい。また、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートといったポリエステルを用いてもよい。また、エチレンまたはプロピレンと他の単量体との共重合体を用いてもよい。他の単量体としては、たとえば、1−ブテン、イソブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンといったα−オレフィン;イタコン酸、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸といった不飽和カルボン酸、その塩、その部分または完全エステル、そのニトリル、そのアミド、その無水物;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルブチレート、ビニルオクタノエート、ビニルドデカノエート、ビニルステアレート、ビニルアラキドネートといったカルボン酸ビニルエステル類;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン系化合物;不飽和スルホン酸またはその塩;アルキルチオール類;ビニルピロリドン類を挙げることができる。
【0055】
ポリビニルアルコール系樹脂は、ビニルエステルの単独重合体、またはビニルエステルと他の単量体との共重合体(特にビニルエステルとエチレンとの共重合体)を、アルカリ触媒等を用いてケン化することによって得られる。ビニルエステルとしては、たとえば酢酸ビニルが挙げられるが、その他の脂肪酸ビニルエステル(プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等)を用いてもよい。
【0056】
ポリビニルアルコール系樹脂のビニルエステル成分のケン化度は、好ましくは90モル%以上であり、たとえば95モル%以上である。ケン化度を90モル%以上とすることによって、高湿度下におけるガスバリア性の低下を抑制できる。なお、ケン化度の異なる2種類以上のポリビニルアルコール系樹脂を用いてもよい。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、核磁気共鳴(NMR)法によって求めることができる。
【0057】
ポリビニルアルコール系樹脂の好適なメルトフローレート(MFR)(210℃、2160g荷重下、JIS K7210に基づく)は0.1〜100g/10分、より好適には0.5〜50g/10分、さらに好適には1〜30g/10分である。メルトフローレートが0.1g〜100g/10分の範囲から外れる場合、溶融成形を行うときの加工性が悪くなる場合が多い。
【0058】
ポリビニルアルコール系樹脂の中でも、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHという場合がある)は、溶融成形が可能で、高湿度下でのガスバリア性が良好であるという特徴を有する。EVOHの構造単位に占めるエチレン単位の割合は、たとえば5〜60モル%(好ましくは10〜55モル%)の範囲である。エチレン単位の割合を5モル%以上とすることによって、高湿度下におけるガスバリア性の低下を抑制できる。また、エチレン単位の割合を60モル%以下とすることによって、高いガスバリア性が得られる。エチレン単位の割合は、核磁気共鳴(NMR)法によって求めることができる。なお、エチレン単位の割合が異なる2種類以上のEVOHの混合物を用いてもよい。
【0059】
また、本発明の効果が得られる限り、EVOHは、共重合成分として少量の他の単量体を含んでもよい。このような単量体の例としては、たとえば、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィン;イタコン酸、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸といった不飽和カルボン酸やその誘導体;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン系化合物;不飽和スルホン酸またはその塩;アルキルチオール類;ビニルピロリドン類が挙げられる。EVOHが共重合成分としてビニルシラン化合物0.0002〜0.2モル%を含有する場合は、共押出成形または共射出成形によって成形を行う場合に、均質な成形物の製造が容易になる。ビニルシラン系化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好適に用いられる。
【0060】
なお、EVOHにホウ素化合物を添加してもよい。これによって、共押出成形または共射出成形によって成形を行う場合に、均質な成形物の製造が容易になる。ホウ素化合物としては、たとえば、ホウ酸類(たとえばオルトホウ酸)、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類が挙げられる。また、EVOHにアルカリ金属塩(たとえば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム)を添加してもよい。これによって、層間接着性や相溶性を向上できる場合がある。また、EVOHにリン酸化合物(たとえば、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム)を添加してもよい。これによって、EVOHの熱安定性を向上できる場合がある。ホウ素化合物、アルカリ金属塩およびリン化合物といった添加剤が添加されたEVOHは、公知の方法で製造することができる。
【0061】
ポリアミド系樹脂の種類は特に限定されず、たとえば、ポリカプロアミド(ナイロン−6)、ポリウンデカンアミド(ナイロン−11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン−12)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン−6,6)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン−6,12)等の脂肪族ポリアミド単独重合体;カプロラクタム/ラウロラクタム共重合体(ナイロン−6/12)、カプロラクタム/アミノウンデカン酸共重合体(ナイロン−6/11)、カプロラクタム/ω−アミノノナン酸共重合体(ナイロン−6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンアジパミド共重合体(ナイロン−6/6,6)、カプロラクタム/ヘキサメチレンアジパミド/ヘキサメチレンセバカミド共重合体(ナイロン−6/6,6/6,10)等の脂肪族ポリアミド共重合体;ポリメタキシリレンアジパミド(MX−ナイロン)、ヘキサメチレンテレフタラミド/ヘキサメチレンイソフタラミド共重合体(ナイロン−6T/6I)等の芳香族ポリアミドが挙げられる。これらのポリアミド樹脂は、それぞれ単独で用いることもできるし、2種以上を混合して用いることもできる。これらの中でも、ポリカプロアミド(ナイロン−6)およびポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン−6,6)が好ましい。
【0062】
ポリアクリロニトリル系樹脂としては、アクリロニトリルの単独重合体や、アクリル酸エステルなどの単量体とアクリロニトリルとの共重合体が挙げられる。
【0063】
実施形態3の組成物は、本発明の効果が得られる限り、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤(溶融安定剤)、光開始剤、脱臭剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、フィラー、充填剤、顔料、染料、加工助剤、難燃剤、防曇剤、および乾燥剤といった添加剤の少なくとも1つを含んでもよい。
【0064】
熱安定剤(溶融安定剤)としては、たとえば、ハイドロタルサイト化合物や、高級脂肪族カルボン酸の金属塩(たとえばステアリン酸カルシウムやステアリン酸マグネシウム)の1種または2種以上を用いることができる。これらの化合物を用いることによって、組成物の製造時において、ゲルの発生やフィッシュアイの発生を防止することができる。
【0065】
脱臭剤としては、たとえば、亜鉛化合物、アルミニウム化合物、ケイ素化合物、鉄(II)化合物、有機酸類が挙げられる。
【0066】
本発明の組成物は、酸素吸収剤、樹脂、および添加剤といった成分を混合することによって形成できる。各成分を混合する方法および混合の順序は特に限定されない。たとえば、全部の成分を同時に混合してもよい。また、酸素吸収剤と添加剤とを混合した後に樹脂と混合してもよいし、酸素吸収剤と樹脂とを混合した後に添加剤と混合してもよい。また、添加剤と樹脂とを混合した後に酸素吸収剤と混合してもよい。混合の具体的な方法としては、たとえば、各成分を溶媒に溶解させて複数の溶液を作製し、これらの溶液を混合した後に溶媒を蒸発させる方法や、溶融した樹脂に他の成分を添加して混練する方法が挙げられる。
【0067】
混練は、たとえば、リボンブレンダー、高速ミキサー、コニーダー、ミキシングロール、押出機、またはインテンシブミキサーを用いて行うことができる。
【0068】
本発明の組成物は、様々な形態、たとえば、フィルム、シート、容器などに成形できる。これらの成形物は、包装材や脱酸素剤として用いることができる。なお、本発明の組成物を一旦ペレットとしてから成形してもよいし、組成物の各成分をドライブレンドして、直接成形してもよい。
【0069】
本発明の酸素吸収性組成物では、光(特に紫外光)の照射を制御することによって、酸素吸収の開始を制御できる。
【0070】
(実施形態4)
実施形態4では、本発明の包装材について説明する。本発明の包装材は、実施形態3で説明した酸素吸収性組成物からなる部分を含む。この部分は、どのような形状であってもよく、たとえば層状、ボトル状、またはキャップ状といった形状である。この包装材は、実施形態3の組成物を様々な形状に加工することによって形成できる。
【0071】
実施形態3の組成物は、たとえば、溶融押出成形法によってフィルム、シートおよびパイプといった形状に成形されてもよい。また、射出成形法によって容器形状に成形してもよい。また、中空成形法によってボトルなどの中空容器に成形されてもよい。中空成形としては、たとえば、押出中空成形や射出中空成形を適用できる。
【0072】
実施形態4の包装材は、実施形態3の組成物からなる層(以下、層(A)という場合がある)のみで構成されてもよいが、他の材料からなる層(以下、層(B)という場合がある)との積層体であってもよい。積層体とすることによって、機械的特性、水蒸気バリア性、酸素バリア性といった特性をさらに向上させることができる。層(B)の材料および数は、包装材に必要とされる特性に応じて選択される。
【0073】
積層体の構造は特に限定はない。層(A)と層(B)との間には、両者を接着するための接着性樹脂層(以下、層(C)という場合がある)を配置してもよい。積層体の構成は、たとえば、層(A)/層(B)、層(B)/層(A)/層(B)、層(A)/層(C)/層(B)、層(B)/層(C)/層(A)/層(C)/層(B)、層(B)/層(A)/層(B)/層(A)/層(B)、および層(B)/層(C)/層(A)/層(C)/層(B)/層(C)/層(A)/層(C)/層(B)が挙げられる。積層体が複数の層(B)を含む場合、それらは同じであっても異なってもよい。積層体の各層の厚さは、特に限定されない。積層体全体の厚さに対する層(A)の厚さの割合を2〜20%の範囲とすることによって、成形性およびコストの点で有利となる場合がある。
【0074】
層(B)は、たとえば、熱可塑性樹脂や金属で形成できる。層(B)に使用される金属としては、たとえば、スチールやアルミ等が挙げられる。層(B)に使用される樹脂は特に限定されないが、たとえば、層(A)について例示した樹脂を用いることができる。たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、ポリ1−ブテンといったポリオレフィンを用いてもよい。また、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリアクリレート、エチレン−ビニルアルコール共重合体を用いてもよい。また、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートといったポリエステルを用いてもよい。また、ポリカプロアミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリメタキシリレンアジパミドといったポリアミドを用いてもよい。また、エチレンまたはプロピレンと他の単量体との共重合体を用いてもよい。他の単量体としては、たとえば、1−ブテン、イソブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンといったα−オレフィン;イタコン酸、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸といった不飽和カルボン酸、その塩、その部分または完全エステル、そのニトリル、そのアミド、その無水物;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルブチレート、ビニルオクタノエート、ビニルドデカノエート、ビニルステアレート、ビニルアラキドネートといったカルボン酸ビニルエステル類;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン系化合物;不飽和スルホン酸またはその塩;アルキルチオール類;ビニルピロリドン類を挙げることができる。
【0075】
層(A)および層(B)は、無延伸のものであってもよいし、一軸もしくは二軸に延伸または圧延されているものであってもよい。
【0076】
層(C)に使用される接着性樹脂は、各層間を接着できるものであれば特に限定されない。たとえば、ポリウレタン系、ポリエステル系一液型または二液型硬化性接着剤、不飽和カルボン酸またはその無水物(無水マレイン酸等)をオレフィン系重合体に共重合またはグラフト変性したもの(カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂)を用いることができる。層(A)および層(B)がポリオレフィン樹脂を含む場合には、カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂を用いることによって高い接着性を実現できる。カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂としては、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、およびエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体といった重合体をカルボン酸変性して得られる樹脂が挙げられる。
【0077】
積層体を構成する層の少なくとも1層に、脱臭剤を配合してもよい。脱臭剤には、たとえば、実施形態3で例示した脱臭剤を用いることができる。
【0078】
実施形態4の積層体の製造方法は特に限定されず、たとえば公知の方法で形成できる。たとえば、押出ラミネート法、ドライラミネート法、溶剤流延法、共射出成形法、共押出成形法といった方法を適用できる。共押出成形法としては、たとえば、共押出ラミネート法、共押出シート成形法、共押出インフレーション成形法、共押出ブロー成形法が適用できる。
【0079】
本発明の包装材が多層構造を有する容器である場合、実施形態3の組成物からなる層を容器の内面に近い層、たとえば最内層に配置することによって、容器内の酸素を速やかに吸収することが可能となる。
【0080】
本発明は、多層容器のなかでも、全層の厚さが300μm以下である多層容器、または押出しブロー成形法によって製造される多層容器に好適に用いられる。
【0081】
全層の厚みが300μm以下である多層容器は、多層フィルムのような比較的薄い多層構造体からなる容器であり、通常パウチ等の形態で使用される。フレキシブルで製造も簡便であり、かつガスバリア性に優れ、さらには持続的な酸素吸収機能を有するので、酸素に対し感受性が高く劣化し易い製品の包装に極めて有用である。全層厚さを300μm以下とすることによって、高いフレキシブル性が得られる。全層の厚さを250μm以下、特に200μm以下とすることによって、より高いフレキシブル性が得られる。また、機械的強度を考慮すると、全層厚さは10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。
【0082】
このような多層容器を密封するために、多層フィルムの少なくとも一方の表面層は、ヒートシール可能な樹脂からなる層であることが好ましい。そのような樹脂としては、たとえば、ポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィンを挙げることができる。袋状に加工された多層フィルムに内容物を充填してヒートシールすることによって、多層容器が得られる。
【0083】
一方、押出しブロー成形法によって製造される多層容器は、通常ボトル等の形態で使用される。生産性が高く、かつガスバリア性に優れ、さらには持続的な酸素吸収機能を有するので、酸素に対し感受性が高く劣化し易い製品の包装に極めて有用である。
【0084】
ボトル型の容器の胴部の厚さは、一般的には100〜2000μmの範囲であり、用途に応じて選択される。この場合、実施形態2の組成物からなる層の厚さは、たとえば2〜200μmの範囲とすることができる。
【0085】
本発明の包装材は、容器用のパッキング(ガスケット)、特に容器のキャップ用のガスケットであってもよい。この場合、実施形態3の組成物によってガスケットが形成される。
【0086】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0087】
[実施例1]
実施例1では、本発明の光吸収剤の酸素吸収能を評価した結果を示す。なお、実施例1では、二酸化チタン粉末として、(株)日本アエロジル社製のP−25(アナターゼ型73.5%、ルチル型26.5%を含む)を用いた。
【0088】
(サンプル1)
コハク酸2.00gと、二酸化チタン粉末18.00gとを乳鉢で混合して混合物を得た。この混合物を、窒素気流下(約100ml/分)で、102℃〜106℃程度に加熱しながら6時間攪拌した。次に、減圧乾燥した。このようにして、コハク酸が化学吸着した二酸化チタン粉末(サンプル1)を作製した。
【0089】
(サンプル2)
8.433gの上記サンプル1とテトラヒドロフラン(THF)84mLとを混合し、室温で1時間攪拌したのち、吸引濾過し、得られた粉末を減圧乾燥した。このようにして、サンプル1を洗浄してサンプル2を得た。なお、吸引濾過のろ液中のコハク酸を測定すると0.592gであった。従って、サンプル2の粉末に吸着しているコハク酸は、サンプル2の粉末全体の約3重量%であった。
【0090】
(サンプル3)
コハク酸1.00gをTHF100mLに溶解し、二酸化チタン粉末9.00gを加えて室温で2時間撹拌した。この液体を吸引濾過し、得られた粉末を減圧乾燥した。このようにして、コハク酸が吸着した二酸化チタン粉末(サンプル3)を得た。吸引濾過のろ液中のコハク酸を測定すると0.564gであった。従って、サンプル3の粉末に吸着しているコハク酸は、サンプル3の粉末全体の約4.4重量%であった。
【0091】
(サンプル4)
サンプル3の粉末を、サンプル2と同様の方法で洗浄し、サンプル4の粉末を得た。サンプル4の粉末に吸着しているコハク酸は、サンプル4の粉末全体の約2重量%であった。
【0092】
(酸素吸収剤の作製および評価)
上記4種類のサンプルについて、それぞれ0.5gを、23℃で50%RHの室内で容量85ccの瓶に投入し、瓶を密閉した。そして、この瓶を紫外光が照射されている状態で23℃で保管し、一定期間経過後の瓶内の酸素濃度を測定することによって、酸素吸収剤の酸素吸収量を算出した。紫外線照射には理工科学産業(株)製の高圧水銀ランプ(400W)を用いた。評価結果を図1に示す。
【0093】
図1の縦軸は、酸素吸収剤1gあたりの酸素吸収量を示す。図1から明らかなように、サンプル1〜4は、いずれも酸素吸収能を示した。しかし、熱処理をせずに作製したサンプル3は、サンプル4の結果に示されるように、洗浄によって特性が大きく低下した。一方、熱処理をして作製したサンプル1は、サンプル2の結果に示されるように、洗浄しても特性の低下が小さかった。従って、洗浄後で比較した場合、サンプル2の方がサンプル4よりも高い酸素吸収能が得られた。サンプル2において洗浄による酸素吸収能の低下が小さい理由は、サンプル1の二酸化チタン粉末ではより多くのコハク酸が化学吸着しているためであると考えられる。
【0094】
また、比較例として、二酸化チタン粉末のみを用い、酸素吸収量を測定したところ、ほとんど酸素吸収を示さなかった。
【0095】
また、紫外光を照射しない条件下でサンプル1を保管し、酸素吸収量を測定したところ、ほとんど酸素吸収を示さなかった。このことから、本発明の酸素吸収剤は、光照射によって酸素吸収の開始を制御できることが分かった。
【0096】
(赤外吸収スペクトル測定)
上記サンプル1〜3について、ATR法で赤外吸収スペクトルを測定した。測定結果を図2に示す。図2に示すように、1650cm-1〜1800cm-1付近のピークで差異が見られた。
【0097】
サンプル1〜4について、酸素吸収能および赤外吸収スペクトルが異なる理由は現在のところ明確ではないが、処理の方法によってコハク酸の吸着量や吸着の状態が異なるためであると考えられる。
【0098】
[実施例2]
実施例2では、以下の式(1)で表されるアルコキシシラン化合物を有機化合物(A)として用いた酸素吸収剤について評価した。
【0099】
【化1】

【0100】
式(1)の化合物は以下の方法で作製した。まず、内容積100mLの3口フラスコに、エタノール50mLとトリエチルアミン30.4g(0.3モル)とを加えた。この混合物を氷冷しながら、2−(4−シクロヘキセニルエチル)トリクロロシラン24.4g(0.1モル)を滴下し、氷冷下で1時間、室温で1時間、さらに40℃で3時間反応させた。その後、析出した塩酸塩を濾過によって除去した。次に、減圧下でエタノールを留去したのち、減圧蒸留することによって式(1)の化合物17.1gを得た。
【0101】
酸素吸収剤は以下の方法で作製した。まず、式(1)のアルコキシシラン化合物1.916gをTHF100mLに溶解し、これにさらに二酸化チタン粉末17.244gを加えた。そして、遮光した状態で、40℃で減圧下、撹拌しながらTHFを留去した。次に、得られた粉末をオイルバスで150℃で2時間加熱し、放冷後、さらに真空乾燥した。このようにして、酸素吸収剤(サンプル5)を得た。得られた酸素吸収剤0.5gを、23℃で50%RHの室内で容量85ccの瓶に投入し、瓶を密閉した。そして、この瓶を蛍光灯が照射した状態で23℃で保管し、一定期間ごとに瓶内の酸素濃度を測定することによって、酸素吸収剤の酸素吸収量を測定した。その結果、作製した酸素吸収剤は、1日で0.7cc/g、5日で1.4cc/gの酸素吸収を示した。
【0102】
[実施例3]
実施例3では、コハク酸ジメチルを有機化合物(A)として用いた酸素吸収剤について評価した。
【0103】
酸素吸収剤は以下の方法で作製した。まず、コハク酸ジメチル2.00gと、二酸化チタン粉末18.00gとを乳鉢で混合して混合物を得た。この混合物を、窒素気流下(約100ml/分)で、102℃〜106℃程度に加熱しながら6時間攪拌した。次に、減圧乾燥した。このようにして、コハク酸が化学吸着した二酸化チタン粉末(サンプル6)を作製した。得られたサンプル0.5gを23℃で50%RHの室内で容量85ccの瓶に投入し、瓶を密閉した。そして、この瓶を紫外光が照射されている状態で23℃で保管し、一定期間経過後の瓶内の酸素濃度を測定することによって、酸素吸収剤の酸素吸収量を算出した。評価結果を図3に示す。
【0104】
[実施例4]
実施例4では、酸素吸収性組成物からなるプレスフィルムを作製した一例について説明する。
【0105】
(サンプル7)
まず、実施例2で説明した酸素吸収剤(サンプル5)を作製した。次に、90重量部のEVOHと、10重量部のサンプル5とを混合し、5分間溶融ブレンドした。ブレンドは、窒素雰囲気下、光を遮断して行った。そして、得られた混合物を圧縮成型機で、厚さ100μm程度にプレスし、プレスフィルム(サンプル7)を作製した。
【0106】
(サンプル8)
アルコキシシラン化合物の代わりに、以下の式(2)で表される化合物(東京化成(株)より入手)を用いたことを除き、サンプル5と同じ方法で酸素吸収剤を作製した。
【0107】
【化2】

【0108】
次に、この酸素吸収剤をサンプル5の代わりに用いることを除いて、サンプル7と同じ方法でプレスフィルム(サンプル8)を作製した。
【0109】
(酸素吸収能の評価)
上記サンプル7および8について、それぞれ0.5gを、23℃で50%RHの室内で容量85ccの瓶に投入し、瓶を密閉した。そして、蛍光灯が照射される状態で瓶を23℃で保管し、一定期間経過後の瓶内の酸素濃度を測定し、プレスフィルムの酸素吸収量を評価した。評価結果を図4に示す。図4に示すように、サンプル7および8は、いずれも高い酸素吸収能を示した。
【0110】
[実施例5]
実施例5では、酸素吸収性組成物からなるプレスフィルムを作製した別の一例について説明する。
【0111】
まず、実施例1で説明した酸素吸収剤(サンプル1)を作製した。次に、90重量部のEVOHと、10重量部のサンプル1とを混合し、5分間溶融ブレンドした。ブレンドは、窒素雰囲気下、光を遮断して行った。そして、得られた混合物を圧縮成型機で、厚さ100μm程度にプレスし、プレスフィルム(サンプル9)を作製した。
【0112】
(酸素吸収能の評価)
0.5gのサンプル9を、23℃で50%RHの室内で容量85ccの瓶に投入し、瓶を密閉した。そして、蛍光灯が照射される状態で瓶を23℃で保管し、一定期間経過後の瓶内の酸素濃度を測定し、プレスフィルムの酸素吸収量を評価した。評価結果を図5に示す。図5に示すようにサンプル9は高い酸素吸収能を示した。
【0113】
(UV照射による酸素吸収能の評価)
0.5gのサンプル9を、23℃で50%RHの室内で容量85ccの瓶に投入し、瓶を密閉した。そして、この瓶を紫外光が照射されている状態で23℃で保管し、一定期間経過後の瓶内の酸素濃度を測定することによって、プレスフィルムの酸素吸収量を評価した。評価結果を図6に示す。図6に示すようにサンプル9は高い酸素吸収能を示した。
【0114】
以上、本発明について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の技術的思想に基づき他の実施形態に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、酸素吸収剤、酸素吸収性組成物、およびそれらを用いた包装材に適用できる。特に、酸素による劣化の影響が大きい物品、たとえば、食品、医薬、医療器材、機械部品、衣料等の包装材として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒として機能する粒子と、前記粒子の表面に化学吸着した有機化合物とを含む酸素吸収剤。
【請求項2】
前記有機化合物は、水酸基と反応する官能基を含む有機化合物(A)と前記粒子の表面の水酸基とが反応することによって形成された有機化合物である請求項1に記載の酸素吸収剤。
【請求項3】
前記粒子が二酸化チタンを含む請求項2に記載の酸素吸収剤。
【請求項4】
前記二酸化チタンがアナターゼ型二酸化チタンである請求項3に記載の酸素吸収剤。
【請求項5】
前記有機化合物(A)が、カルボン酸、エステル、アルデヒド、アルコキシシラン誘導体およびアミンからなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物である請求項2に記載の酸素吸収剤。
【請求項6】
前記有機化合物の式量が3000以下である請求項1に記載の酸素吸収剤。
【請求項7】
前記有機化合物(A)がコハク酸である請求項6に記載の酸素吸収剤。
【請求項8】
光触媒として機能する粒子の表面に有機化合物を化学吸着させる工程を含む酸素吸収剤の製造方法。
【請求項9】
前記粒子は表面に水酸基を有し、前記有機化合物は水酸基と反応する官能基を含む請求項8に記載の酸素吸収剤の製造方法。
【請求項10】
前記有機化合物が、カルボン酸、エステル、アルデヒド、アルコキシシラン誘導体およびアミンからなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物である請求項9に記載の酸素吸収剤の製造方法。
【請求項11】
前記粒子が二酸化チタンを含む請求項9に記載の酸素吸収剤の製造方法。
【請求項12】
(i)前記有機化合物と前記粒子と有機溶媒とを含む混合物を調製する工程と、
(ii)前記混合物から前記有機溶媒を除去する工程とを含む請求項8に記載の酸素吸収剤の製造方法。
【請求項13】
前記有機溶媒が除去された前記混合物を水の沸点以上の温度で加熱する工程を含む請求項12に記載の酸素吸収剤の製造方法。
【請求項14】
(I)前記有機化合物と前記粒子とを含む混合物を調製する工程と、
(II)前記混合物を加熱することによって前記有機化合物を前記粒子に化学吸着させる工程とを含む請求項8に記載の酸素吸収剤の製造方法。
【請求項15】
前記(II)の工程は、前記混合物を水の沸点以上の温度で加熱する工程を含む請求項14に記載の酸素吸収剤の製造方法。
【請求項16】
前記混合物を窒素雰囲気下または減圧下で加熱する請求項13に記載の酸素吸収剤の製造方法。
【請求項17】
請求項8に記載の製造方法で製造された酸素吸収剤。
【請求項18】
樹脂と、前記樹脂に分散された酸素吸収剤とを含む酸素吸収性組成物であって、
前記酸素吸収剤が請求項1に記載の酸素吸収剤である酸素吸収性組成物。
【請求項19】
前記樹脂がエチレン−ビニルアルコール共重合体を含む請求項18に記載の酸素吸収性組成物。
【請求項20】
請求項18に記載された酸素吸収性組成物からなる部分を含む包装材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【国際公開番号】WO2005/079974
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【発行日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510209(P2006−510209)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002332
【国際出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】