説明

酸素吸収性樹脂組成物

【課題】 酸化副生成物が更に少なく、酸化が進行しても実用的な機械的強度を維持でき、しかも酸素吸収性能に優れた酸素吸収性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 線状低密度ポリエチレン樹脂(A)、樹脂(A)以外の樹脂であって樹脂(A)の酸化のトリガーとなる樹脂(B)を含有し、樹脂(B)は樹脂(A)のマトリックス中に分散してなり、酸素に接触したときにマトリックス樹脂(A)の酸化反応が進行して酸素を吸収する樹脂組成物において、前記樹脂(A)は、側鎖が0.003eq/g以下の直鎖状炭化水素から成る樹脂であることを特徴とする酸素吸収性樹脂組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素存在下で劣化を起こしやすい内容品、特に飲料、食品、及び医薬品等の包装材に用いられる酸化副生成物の少ない酸素吸収性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、包装容器としては、軽量で透明且つ易成形性等の利点を有するため、各種プラスチック容器が使用されている。
プラスチック容器は、金属容器やガラス容器と比べると、酸素バリヤー性が劣るため、容器内に充填された内容物の変質や、フレーバーの低下が問題になる。
これを防止するために、プラスチック容器では容器壁を多層構造とし、少なくとも一層を酸素バリヤー性に優れている樹脂、例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体の層を設けている。また、容器内部に残存する酸素及び容器外部から侵入してくる酸素を除去するために、酸素吸収層を設けた容器がある。酸素吸収層に用いられる酸素吸収剤(脱酸素剤)には、例えば、鉄粉等の還元性物質を主剤とするもの(例えば、特許文献1参照。)や、エチレン性不飽和炭化水素と遷移金属触媒からなる酸素掃去剤を用いるもの(例えば、特許文献2から4参照。)がある。
【0003】
しかし、鉄粉等の酸素吸収剤を樹脂に配合して、包装材料の器壁に用いる方法は、酸素吸収性能が大きいという点では満足できるものであるが、樹脂を固有の色相に着色するために、透明性が要求される包装の分野には使用できないという用途上の制約がある。また、エチレン性不飽和炭化水素と遷移金属触媒からなる酸素掃去剤を用いる方法は、エチレン性不飽和炭化水素自体が酸素を吸収して酸素バリヤー性を達成するためある程度配合量を多くする必要があるが、配合量を多くすると成形性や透明性が低下するといった問題が生じる。このため、酸素を有効に吸収できる期間が限定されるため、長期保存の要請に十分対応するものとは言えない。さらに酸素吸収により着色や臭気も生じる。
【0004】
これらの課題を解決するため、本発明者等は、炭素数2〜8のオレフィンを重合してなるポリオレフィン樹脂(A)に、樹脂(A)以外の樹脂であって樹脂(A)の酸化のトリガーとなる樹脂(B)と、遷移金属触媒(C)を特定量配合した樹脂組成物において、樹脂(B)がポリオレフィン樹脂(A)の酸化のトリガーとして作用してポリオレフィン樹脂(A)が酸素を吸収するため、樹脂組成物の酸素吸収量を大幅に向上できることを見出した(PCT/JP03/10657)。
【0005】
【特許文献1】特公昭62−1824号公報等
【特許文献2】特開2001−39475号公報
【特許文献3】特開平5−115776号公報
【特許文献4】特表平8−502306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、酸素吸収により発生する酸化副生成物の量はまだ多く、内容物によっては異味、異臭を感じるものもある。また、酸化によりPEの脆化が進むという問題がある。
本発明の目的は、酸化副生成物が更に少なく、酸化が進行しても実用的な機械的強度を維持でき、しかも酸素吸収性能に優れた酸素吸収性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
線状低密度ポリエチレン樹脂(A)、樹脂(A)以外の樹脂であって樹脂(A)の酸化のトリガーとなる樹脂(B)を含有し、樹脂(B)は樹脂(A)のマトリックス中に分散してなり、酸素に接触したときにマトリックス樹脂(A)の酸化反応が進行して酸素を吸収する樹脂組成物において、前記樹脂(A)が、側鎖が0.003eq/g以下の直鎖状炭化水素から成る樹脂であることを特徴とする酸素吸収性樹脂組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の、酸素吸収性樹脂組成物は、側鎖が0.003eq/g以下の直鎖状炭化水素から成る線状低密度ポリエチレン系樹脂(A)と樹脂(A)以外の樹脂(B)を含有し、樹脂(B)がトリガーとなって樹脂(A)の酸化が進行する樹脂である。
樹脂(A)としては、特にシングルサイト触媒を用いて重合されていることが好ましく、例えば、メタロセン系触媒を重合触媒として使用したエチレンとブテンの共重合体、エチレンとペンテンの共重合体、エチレンとヘキセンの共重合体、エチレンとオクテンの共重合体等の線状低密度ポリエチレン(例えば「新世代ポリマーの創製とメタロセン触媒」編集 曽我和雄 (株)シーエムシー、1993年参照)が好ましい。これらの樹脂は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
樹脂(A)において、低密度とは0.88〜0.94g/cm3、好ましくは0.90〜0.93g/cm3である。樹脂(A)の分枝部位の直鎖の長さは、好ましくはC1-6、より好ましくはC1-4、最も好ましくはC4である。分枝部位の割合は、好ましくは0.001〜0.003eq/gである。
従来の酸素吸収剤、例えば特開平5−115776号公報等に開示されるエチレン性不飽和炭化水素と遷移金属触媒からなる酸素掃去剤では、エチレン性不飽和炭化水素が有する不飽和結合の数により酸素吸収量が決まる。一般に上記酸素掃去剤はその用途に応じて他の熱可塑性樹脂に配合して用いられるが、上記酸素掃去剤の配合量を多くすると耐久性や成形性が低下し、また透明性が低下するといった問題が生じる。そのため、その配合量は制限され、樹脂組成物の酸素吸収量には限界があった。
【0009】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物においては、樹脂(B)は樹脂(A)のマトリックス中に分散した状態で存在するのが好ましい。樹脂(B)は平均粒径が10μm以下の微粒子状に分散するのが好ましく、5μm以下の微粒子状に分散するのが特に好ましい。樹脂(A)のマトリックス中に均一に分散した樹脂(B)のトリガー作用により、樹脂(A)自体が酸素吸収剤として機能する。即ち、本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、マトリックス樹脂自体が酸素を吸収するため、上記従来の酸素掃去剤の酸素吸収量と比較してはるかに多くの酸素を吸収することができる。従って、本発明の樹脂組成物は、従来の酸素掃去剤よりも長期にわたって酸素を有効に吸収できる。また、樹脂(B)の配合量は、トリガー作用が発現する程度の少量の配合であり、マトリックス樹脂(A)の成形性の低下も生じない。また、汎用樹脂に酸素を吸収させることができるためにコスト面でも有利である。
樹脂(A)は、マトリックスの形成が可能であり、かつ酸化により多量の酸素を吸収することが可能であるように多割合で含有されるのが好ましく、樹脂(A)の含有量は90〜99重量%の範囲がより好ましく、92.5〜97.5重量%の範囲がさらに好ましい。また、樹脂(B)は、樹脂(A)のマトリックス中に分散した状態で存在することが可能であり、かつ樹脂(A)の酸化のトリガーとして機能を十分に発揮することが可能であるように少割合で含有されるのが好ましく、フィルム、シート或いはカップ、トレイ、ボトル、チューブ、キャップとする際に成形性を考慮すると、樹脂(B)の含有量は1〜10重量%の範囲が好ましく、2.5〜7.5重量%の範囲がさらに好ましい。
【0010】
樹脂(B)は、樹脂(A)以外の樹脂であり、樹脂(A)の酸化のトリガーとなる樹脂である。樹脂(B)としては、メチレン鎖より水素引き抜きが起こりやすい炭素−水素結合を有する樹脂が好ましく、例えば主鎖又は側鎖に炭素−炭素二重結合を有する樹脂、主鎖に三級炭素原子を含む樹脂、主鎖に活性メチレン基を有する樹脂、アルデヒド基を有する樹脂を挙げることができる。
これらは、樹脂(A)中に単独で含有されていてもよいし、二種以上の組合せで含有されていてもよい。
主鎖又は側鎖に炭素−炭素二重結合を有する樹脂(B)としては、鎖状又は環状の共役又は非共役ポリエンから誘導された単位を含む樹脂が挙げられる。
このような単量体としては、例えばブタジエン、イソプレン等の共役ジエン;1,4−ヘキサジエン、3−メチル−1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、4,5−ジメチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン等の鎖状非共役ジエン;メチルテトラヒドロインデン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−ビニリデン−2−ノルボルネン、6−クロロメチル−5−イソプロペニル−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン等の環状非共役ジエン;2,3−ジイソプロピリデン−5−ノルボルネン、2−エチリデン−3−イソプロピリデン−5−ノルボルネン、2−プロペニル−2,2−ノルボルナジエン等のトリエン等が挙げられる。
具体的な重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、ポリテルペン、ジシクロペンタジエン樹脂等が挙げられる。
【0011】
トリガー効果の点では、アリル位に三級炭素を有する樹脂が好ましく、中でも酸化副生成物が少ない点でアリル位に三級炭素を有する環状アルケン構造を分子中に有する樹脂が好ましい。
また、主鎖に三級炭素原子を含む樹脂(B)としては、炭素原子数3〜20のα−オレフィンから誘導された単位を含む重合体または共重合体、或いは側鎖にベンゼン環を有する重合体または共重合体が好適に使用される。上記α−オレフィンとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセンなどが挙げられる。具体的な重合体としては、特にポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−1−ヘキセン、ポリ−1−オクテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−1−ブテン共重合体が挙げられる。また、上記側鎖にベンゼン環を有する単量体としては、スチレン、3−フェニルプロペン、2−フェニル−2−ブテン等のアルケニルベンゼンが挙げられる。具体的な重合体としては、ポリスチレンまたはスチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体が挙げられる。
主鎖に活性メチレン基を有する樹脂(B)としては、主鎖に電子吸引性の基、特にカルボニル基とこれに隣接するメチレン基とを有する樹脂であり、具体的には、一酸化炭素とオレフィンとの共重合体、特に一酸化炭素−エチレン共重合体等が挙げられる。
また、アルデヒド基を有する樹脂としては、アクロレインやメタクロレインを単量体として、ラジカル重合されたものであり、スチレンとの共重合体も好ましく用いられる。
【0012】
樹脂(B)としては、側鎖にベンゼン環を有するポリスチレンまたはスチレン共重合体が、樹脂(A)の酸化のトリガーとしての機能の点から特に好ましい。
スチレン共重合体においては、スチレン部分を10重量%以上含有するものがラジカル発生効率の点で好ましく、スチレン部分を10〜70重量%含有するものがより好ましく、スチレン部分を10〜67重量%含有するものがさらに好ましい。
スチレン共重合体は、ジエン由来の部位を有することがトリガー効果の点で好ましい。ジエン由来の部分としては、イソプレン単位、ブタジエン単位を含むことが好ましく、特にスチレンとイソプレン乃至ブタジエンの共重合体であるスチレン−イソプレン共重合体乃至スチレン−ブタジエン共重合体が好ましい。共重合体の態様としては、ランダム共重合体でもブロック共重合体でも良いが、ブロック共重合体がトリガー効果の点でより好ましく、特に分子末端部分にスチレンブロックを有するスチレン−イソプレンブロック共重合体乃至スチレン−ブタジエンブロック共重合体が好ましい。特に、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体が好ましい。上記トリブロック共重合体の化学構造的には、線状でもラジアル状でも良い。
上記ジエン由来の部位を有するスチレン共重合体のジエン由来部位を適度に水添した共重合体は、成形時の劣化や着色を抑制できるので特に好ましい。ジエン由来の部位としては、イソプレン単位乃至ブタジエン単位であることが好ましく、特にスチレンとイソプレン乃至ブタジエンの共重合体の水添物である水添スチレン−イソプレン共重合体乃至水添スチレン−ブタジエン共重合体が好ましい。共重合体の態様としては、ランダム共重合体でもブロック共重合体でも良いが、ブロック共重合体がトリガー効果の点でより好ましく、特に分子末端部分にスチレンブロックを有するスチレン−イソプレンブロック共重合体乃至スチレン−ブタジエンブロック共重合体が好ましく、水添スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体、水添スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体がより好ましい。上記トリブロック共重合体の化学構造的には、線状でもラジアル状でも良く、また、水添前のジエン部位の炭素−炭素二重結合は、ビニレン基の形で主鎖に存在しても、ビニル基の形で側鎖に存在しても良い。また、ランダム共重合体としては、水添スチレン−イソプレンランダム共重合体乃至水添スチレン−ブタジエンランダム共重合体が挙げられる。
また、ジエン由来の部位を適度に水添したスチレン共重合体の別の態様として、水添スチレン−ジエン−オレフィン結晶トリブロック共重合体も有用であり、特に、水添スチレン−ブタジエン−オレフィン結晶トリブロック共重合体が酸化副生成物が抑制される点で好ましい。
【0013】
また、上記した樹脂(B)として列記した主鎖又は側鎖に炭素−炭素二重結合を有する樹脂、主鎖に三級炭素原子を含む樹脂、主鎖に活性メチレン基を有する樹脂においては、成形中の熱安定性及び樹脂(A)の酸化のトリガーとしての機能の点から、樹脂(B)が過剰の炭素−炭素二重結合を含まない樹脂であることが好ましい。なお、ベンゼン環の炭素−炭素結合は、炭素−炭素二重結合とはいわない。
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、炭素−炭素二重結合が過剰に存在すると、樹脂(A)の酸化を逆に抑制する傾向がある。また、成形中の酸素吸収樹脂組成物の着色の原因ともなる。
尚、樹脂(B)の分子量については特に制限はないが、樹脂(A)への分散性 の点から数平均分子量が1000〜500000の範囲であるのが好ましく、より好ましくは10000〜250000の範囲である。
【0014】
次に、本発明に用いる遷移金属触媒(C)としては、鉄、コバルト、ニッケル等の周期律表第VIII族の金属成分、銅、銀等の第I族金属、錫、チタン、ジルコニウム等の第IV族金属、バナジウムの第V族、クロム等VI族、マンガン等のVII族の金属成分を挙げることができる。好ましくは、鉄、コバルト、ニッケル等の周期律表第VIII族の金属成分であり、特に、コバルト成分は、酸素吸収速度が大きいため好ましい。
遷移金属触媒(C)は、上記遷移金属の低価数の無機酸塩、有機酸塩又は錯塩の形で使用される。
無機酸塩としては、塩化物等のハライド、硫酸塩等の硫黄オキシ酸塩、硝酸塩等の窒素のオキシ酸塩、リン酸塩等のリンオキシ酸塩、ケイ酸塩等が挙げられる。
有機酸塩としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、ホスホン酸塩等が挙げられ、中でもカルボン酸塩が好ましく、その具体例としては、酢酸、プロピオン酸、イソプロピオン酸、ブタン酸、イソブタン酸、ペンタン酸、イソペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、イソヘプタン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、デカン酸、ネオデカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マーガリン酸、ステアリン酸、アラキン酸、リンデル酸、ツズ酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ギ酸、シュウ酸、スルファミン酸、ナフテン酸等の遷移金属塩が挙げられる。
遷移金属の錯体としては、β−ジケトン又はβ−ケト酸エステルとの錯体が使用され、β−ジケトン又はβ−ケト酸エステルとしては、例えば、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、1,3−シクロヘキサジオン、メチレンビス−1,3ーシクロヘキサジオン、2−ベンジル−1,3−シクロヘキサジオン、アセチルテトラロン、パルミトイルテトラロン、ステアロイルテトラロン、ベンゾイルテトラロン、2−アセチルシクロヘキサノン、2−ベンゾイルシクロヘキサノン、2−アセチル−1,3−シクロヘキサンジオン、ベンゾイル−p−クロルベンゾイルメタン、ビス(4−メチルベンゾイル)メタン、ビス(2−ヒドロキシベンゾイル)メタン、ベンゾイルアセトン、トリベンゾイルメタン、ジアセチルベンゾイルメタン、ステアロイルベンゾイルメタン、パルミトイルベンゾイルメタン、ラウロイルベンゾイルメタン、ジベンゾイルメタン、ビス(4−クロルベンゾイル)メタン、ビス(メチレン−3,4−ジオキシベンゾイル)メタン、ベンゾイルアセチルフェニルメタン、ステアロイル(4−メトキシベンゾイル)メタン、ブタノイルアセトン、ジステアロイルメタン、アセチルアセトン、ステアロイルアセトン、ビス(シクロヘキサノイル)−メタン及びジピバロイルメタン等を用いることが出来る。本発明において、遷移金属触媒(C)は、単独で用いることも、又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0015】
上記遷移金属触媒(C)は、少なくとも樹脂(A)中に存在するのが好ましく、樹脂(A)の酸化反応の進行を促進し、効率良く酸素を吸収することができる。より好ましくは、遷移金属触媒(C)は樹脂(A)及び樹脂(B)中に存在させて、樹脂(B)のトリガー機能を促進させることができる。また、遷移金属触媒(C)の配合量は、使用する遷移金属触媒の特性に応じて樹脂(A)の酸化反応を進行できる量であれば良く、樹脂(A)の酸化反応を十分に促進し、流動特性の悪化による成形性低下の防止の点から、一般的には10〜3000ppmの範囲が好ましく、50〜1000ppmの範囲がより好ましい。
本発明の酸素吸収性樹脂組成物の酸素吸収機構は、その全てが解明されているわけではないが、本発明者等の検討により以下のように推察される。
本発明の酸素吸収性樹脂組成物では、始めに遷移金属触媒(C)により前記トリガー樹脂(B)の水素の引き抜きが起こり、ラジカルが発生し、続いて、このラジカルによる攻撃と遷移金属触媒(C)により前記マトリックス樹脂(A)の水素の引き抜きが起こり、マトリックス樹脂(A)にもラジカルが発生し、このようにして生じたラジカルの存在下で、酸素がマトリックス樹脂(A)と接触したときにマトリックス樹脂(A)の初期酸化が起こると考えられる。以降、マトリックス樹脂(A)の酸化反応は遷移金属触媒の作用により自動酸化の理論に従って連鎖的に進行する。このトリガー効果の発現において、ベンジル基の存在が極めて重要であり、ベンジル基を含むスチレン系共重合体においては、ベンジル炭素のC−H結合解離エネルギーが他のC−H結合より低いことからベンジルラジカルが最初に発生し、効果的に上記トリガー作用を発現するものと考えられる。
本発明の酸素吸収性樹脂組成物の製法について、上記成分(A)〜(C)の混合については、この三成分を別個に混合してもよく、また、上記三成分の内、二成分を予め混合し、これと残りの成分を混合してもよい。例えば、樹脂(A)と樹脂(B)とを予め混合し、これに遷移金属触媒(C)を混合する方法や、樹脂(A)と遷移金属触媒(C)とを予め混合し、これに樹脂(B)を混合する方法、或いは樹脂(B)と遷移金属触媒(C)とを予め混合し、これに樹脂(A)を混合する方法が挙げられる。
樹脂(A)及び/又は樹脂(B)に、遷移金属触媒(C)を混合するには、種々の手段を用いることができる。例えば、遷移金属触媒(C)を樹脂に乾式でブレンドする方法や、遷移金属触媒(C)を有機溶媒に溶解し、この溶液と、粉末又は粒状の樹脂とを混合し、必要によりこの混合物を不活性雰囲気下により乾燥する方法等がある。遷移金属触媒(C)が樹脂に比して少量であるので、ブレンドを均質に行うため、遷移金属触媒(C)を有機溶媒に溶解し、この溶液と、粉末又は粒状の樹脂とを混合する方法が好ましい。
遷移金属触媒(C)を溶解させる溶媒としては、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒を用いることができる。遷移金属触媒(C)の濃度は、5〜90重量%が好ましい。
また、遷移金属触媒を比較的高い濃度で含有する樹脂のマスターバッチを調製し、これを未配合の樹脂と乾式ブレンドして調製することもできる。
樹脂(A)と樹脂(B)を混合するとき、あるいは、樹脂(A)、樹脂(B)及び遷移金属触媒(C)を混合するとき、及び混合した組成物を保存するときは、使用前にこの組成物が酸化しないように、非酸化性雰囲気中で行うことが好ましい。即ち、減圧下又は窒素気流中で混合又は保存を行うことが好ましい。
【0016】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物には、ラジカル開始剤や光増感剤等の種々の添加剤を配合することができる。
ラジカル開始剤及び光増感剤としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン及びそのアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2-ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン等のアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン等のアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類、アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類又はキサントン類等の一般に光開始剤として知られているものが使用される。かかる光ラジカル開始剤は、安息香酸系又は第三級アミン系等、公知慣用の光重合促進剤の一種又は二種以上と組み合わせて用いることができる。
その他の添加剤としては、充填剤、着色剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、金属セッケンやワックス等の滑剤、改質用樹脂又はゴム等の添加剤が挙げられ、それ自体公知の処方に従って添加することができる。例えば、滑剤を配合することにより、スクリューへの樹脂の食い込みが改善される。滑剤としてはステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等の金属石ケン、流動、天然または合成パラフィン、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、塩素化ポリエチレンワックス等の炭化水素系のもの、ステアリン酸、ラウリン酸等脂肪酸系のもの、ステアリン酸アミド、バルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、エシル酸アミド、メチレンビスステアロアミド、エチレンビスステアロアミド等の脂肪酸モノアミド系またはビスアミド系のもの、ブチルステアレート、硬化ヒマシ油、エチレングリコールモノステアレート等のエステル系のもの、およびそれらの混合系が一般的に用いられ、滑剤の添加量はポリアミド当たり50〜1000ppmの範囲が適当である。
【0017】
本発明の酸素吸収性組成物は、粉末、粒状又はシート等の形状で、密封包装体内の酸素吸収に使用することができる。また、ライナー、ガスケット用又は被覆形成用の樹脂やゴム中に配合して、包装体内の残留酸素吸収に用いることができる。さらに、フィルム、シートの形で包装材料として、また、カップ、トレイ、ボトル、チューブ容器等の形で包装容器として包装体の製造に用いることができる。
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、これを含む少なくとも一層と、他の樹脂の層からなる積層体の形で使用することが好ましい。
【0018】
本発明の積層体は、上記の酸素吸収性樹脂組成物を含む層(以下、酸素吸収層という)を少なくとも一層有している。尚、酸素吸収性樹脂組成物を含む層とは、上記の酸素吸収性樹脂組成物のみからなる層、及び他の樹脂等を基材とし酸素吸収性樹脂組成物を配合してなる層の両者の場合を含む。
積層体を構成する、酸素吸収層以外の樹脂層は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂から、その使用態様や要求される機能により適宜選択できる。例えば、オレフィン系樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、酸素バリヤー性樹脂等が挙げられる。
オレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、線状超低密度ポリエチレン(LVLDPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン−1、エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、イオン架橋オレフィン共重合体(アイオノマー)又はこれらのブレンド物等が挙げられる。
熱可塑性ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、又はこれらの共重合ポリエステル、さらに、これらのブレンド物等が挙げられる。
酸素バリヤー性樹脂としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)を挙げることができる。例えば、エチレン含有量が20〜60モル%、好ましくは、25〜50モル%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体を、ケン化度が96モル%以上、好ましくは、99モル%以上となるようにケン化して得られる共重合体ケン化物が使用される。
このエチレンビニルアルコール共重合体ケン化物は、フィルムを形成することができる分子量を有する。一般に、フェノール:水の重量比で85:15の混合溶媒中30℃で測定して0.01dl/g以上、好ましくは、0.05dl/g以上の粘度を有する。
酸素バリヤー性樹脂の他の例としては、ポリメタキシリデンアジパミド(MXD6)等のポリアミド樹脂、ポリグリコール酸等のポリエステル樹脂等を用いることができる。
【0019】
本発明の積層体の構造は、使用態様、要求される機能により適宜選択できる。例えば、酸素吸収層をOARとして表して、次の構造がある。
二層構造:PET/OAR、PE/OAR、OPP/OAR、
三層構造:PE/OAR/PET、PET/OAR/PET、PE/OAR/OPP、EVOH/OAR/PET、PE/OAR/COC、
四層構造:PE/PET/OAR/PET、PE/OAR/EVOH/PET、PET/OAR/EVOH/PET、PE/OAR/EVOH/COC、PE/OAR/EVOH/PE、
五層構造:PET/OAR/PET/OAR/PET、PE/PET/OAR/EVOH/PET、PET/OAR/EVOH/COC/PET、PET/OAR/PET/COC/PET、PE/OAR/EVOH/COC/PET、PE/EVOH/OAR/EVOH/PE、PP/EVOH/OAR/EVOH/PP、PE/EVOH/OAR/COC/PE
六層構造:PET/OAR/PET/OAR/EVOH/PET、PE/PET/OAR/COC/EVOH/PET、PET/OAR/EVOH/PET/COC/PET、PE/EVOH/OAR/PE/EVOH/PE、PP/EVOH/OAR/PP/EVOH/PP、PE/EVOH/OAR/REG/EVOH/PE、PE/EVOH/OAR/REG/EVOH/PP、PP/EVOH/OAR/REG/EVOH/PP、PE/EVOH/OAR/EVOH/COC/PE
七層構造:PET/OAR/COC/PET/EVOH/OAR/PET、PE/REG/EVOH/OAR/EVOH/COC/PE、PE/EVOH/OAR/REG/EVOH/COC/PE、PP/EVOH/OAR/REG/EVOH/COC/PP
尚、PEとは、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、線状超低密度ポリエチレン(LVLDPE)を意味する。REGとは、本発明の積層体を成形する工程において発生したスクラップ等を含有する樹脂組成物を意味する。
これらの構造で、酸素バリヤー層を少なくとも一層有している構造が、酸素吸収層の寿命を向上することができるため好ましい。
この積層体に、各樹脂層間に必要により接着剤樹脂を介在させることもできる。このような接着剤樹脂としては、カルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸を主鎖又は側鎖に、1〜700ミリイクイバレント(meq)/100g樹脂、好ましくは、10〜500meq/100g樹脂、の濃度で含有する重合体が挙げられる。
【0020】
接着剤樹脂としては、例えば、エチレン−アクリル酸共重合体、イオン架橋オレフィン共重合体、無水マレイン酸グラフトポリエチレン、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン、アクリル酸グラフトポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、共重合ポリエステル、共重合ポリアミド等があり、これらを二種以上の組み合わせたものでもよい。
これらの接着剤樹脂は、同時押出又はサンドイッチラミネーション等による積層に有用である。また、予め形成されたガスバリヤー性樹脂フィルムと耐湿性樹脂フィルムとの接着積層には、イソシアネート系又はエポキシ系等の熱硬化型接着剤樹脂も使用される。
本発明の酸素吸収性樹脂組成物を用いる積層体においては、酸素吸収時に発生する副生成物の捕捉のために、上記の層のいずれか、特に、酸素吸収材層より内層側に位置する層に脱臭剤或いは酸化副生成物の吸着剤を使用するのが好ましい。
これらの脱臭剤或いは吸着剤としては、それ自体公知のもの、例えば天然ゼオライト、合成ゼオライト、シリカゲル、活性炭、添着活性炭、活性白土、活性酸化アルミニウム、クレー、珪藻土、カオリン、タルク、ベントナイト、セピオライト、アタバルジャイト、酸化マグネシウム、酸化鉄、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化鉄、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、合成ハイドロタルサイト、アミン担持多孔質シリカが使用できる。中でも、アミン担持多孔質シリカは、酸化副生成物であるアルデヒドとの反応性の点で好ましく、また、種々の酸化副生物に対して優れた吸着性を示し、しかも透明である点でシリカ/アルミナ比が大きい所謂ハイシリカゼオライトが好ましい。
【0021】
積層体の製造には、それ自体公知の共押出成形法を用いることができる。例えば、樹脂の種類に応じた数の押出機を用いて、多層多重ダイを用いて押出成形を行うことで積層体が成形できる。
これにより、フィルム、シート、ボトル、カップ、キャップ、チューブ、チューブ形成用パリソン又はパイプ、ボトル又はチューブ成形用プリフォーム等の積層体が成形できる。
フィルム等の包装材料は、種々の形態の包装袋として用いることができる。例えば、三方又は四方シールの通常のパウチ類、ガセット付パウチ類、スタンディングパウチ類、ピロー包装袋等が挙げられる。製袋は公知の製袋法で行うことができる。
パリソンを一対の割型でピンチオフし、その内部に空気などの流体を吹込むことにより容易にボトルが成形できる。また、パイプ、プリフォームを冷却した後、延伸温度に加熱し、軸方向に延伸すると共に、流体圧によって周方向にブロー延伸することにより、延伸ブローボトル等が得られる。
さらに、フィルム又はシートを、真空成形、圧空成形、張出成形、プラグアシスト成形等の手段に付することにより、カップ状、トレイ状等の包装容器が得られる。
多層射出成形体の製造には、樹脂の種類に応じた数の射出成形機を用いて、共射出法や逐次射出法により多層射出成形体を製造することができる。
さらに、多層フィルムや多層シートの製造には、押出コート法や、サンドイッチラミネーションを用いることができ、また、予め形成されたフィルムのドライラミネーションによって多層フィルムあるいはシートを製造することもできる。
本発明の積層体は、酸素を有効に遮断するので、包装材又は包装容器に好ましく使用できる。この積層体は長期間酸素を吸収できるので、内容物の香味低下を防止し、シェルフライフを向上させる容器として有用である。
特に、酸素存在下で劣化を起こしやすい内容品、例えば、飲料ではビール、ワイン、フルーツジュース、炭酸ソフトドリンク等、食品では果物、ナッツ、野菜、肉製品、幼児食品、コーヒー、ジャム、マヨネーズ、ケチャップ、食用油、ドレッシング、ソース類、佃煮類、乳製品類等、その他では医薬品、化粧品、染毛剤等の包装材に有用である。
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
[ベース樹脂の構造解析]
低密度ポリエチレン樹脂0.2gを冷凍粉砕器(JFC-300:日本分析工業(株))で10分間冷却後、10分間粉砕した。次いで、得られたペレット0.06gに対し、ベンゼン/オルトジクロロベンゼン=1/3重水素化体の混合溶媒を0.6ml加えて溶封し、13C-NMR (EX-270:日本電子(株))測定を行った。この測定結果より低密度ポリエチレン樹脂の主鎖骨格に含まれる分岐数と側鎖の炭素数を求めた。またベース樹脂の側鎖が0.003eq/g以下の直鎖状炭化水素から成るものを○、それ以外のものを×とした。
[酸素吸収性能の評価]
酸素吸収性樹脂組成物を冷凍粉砕器(JFC−300:日本分析工業(株))で10分間冷却後、10分間粉砕した。次いで、得られたサンプル0.1gと蒸留水1ccを内容積85ccの密封容器に入れ、アルミ箔をバリヤー層とする蓋材で密封した。30℃の条件下で2週間保管経時した後、容器内酸素濃度をガスクロマトグラフィー(GC−3BT:島津製作所(株))で測定した。サンプル1g当り5cc以上の酸素吸収があったものを○、それ以外のものを×とした。
[酸化副生成物の評価]
前記酸素吸収性能の評価に使用した酸素吸収性樹脂組成物を封入した密封容器を30℃で保管し、酸素吸収性樹脂組成物1g当たりほぼ50ccの酸素を吸収させた。この時の密封容器中の気体をシリンジで5cc採取し、パージ&トラップ法によりGC−MS(TEKMAR-4000:agilent社 カラム:DB-1)で酸化副生成物の分析を行なった。得られたガスクロマトグラフのスペクトルの面積値を酸化副生成物の量とし、その値が2.5×107未満のものを○、2.5×107以上のものを×とした。
[機械的強度の評価]
酸素吸収性樹脂組成物ペレットを熱板の間に挟み200℃にて厚さ0.3mmのシートを作製した。このシートからダンベル型の試験片を切り出した。この試験片を、30℃で前記内容積85ccの密封容器中に保管し、15cc/gの酸素を吸収させた。この試験片を用いて23℃−50%RHの環境下で引張試験機(テンシロン UCT−5T:(株)テイ・エス・エンジニアリング)により引張試験(引張速度500mm/分)を行い、破断点伸びを測定した。得られた破断点伸びを酸素吸収前の破断点伸びで除し、酸素吸収前に比べて50%以上の破断点伸びを維持していた場合を○、50%未満のものを×とした。
【0023】
[実施例1]
ベース樹脂であるメタロセンを触媒とした直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(エボリュー0510B:三井化学(株))95重量部に対して、水添スチレン-ブタジエン-スチレントリブロック共重合体樹脂(タフテック P2000:旭化成(株))5重量部とコバルト金属含有率9.5wt%のステアリン酸コバルト(大日本インキ化学工業(株))をコバルト換算で150ppm配合し、撹拌乾燥機(ダルトン(株))で予備混練後ホッパーに投入した。次いで、出口部分にストランドダイを装着した二軸押出機(TEM35B:東芝機械(株))を用いて、スクリュー回転数100rpmで高真空ベントを引きながら、ストランド状に押出し、酸素吸収材樹脂組成物ペレットを作製した。この材料について、上記の方法により、酸素吸収性能、酸化副生成物量、機械的強度の評価を行ったところ、良好な酸素吸収性能を示し、しかも酸化副生成物も少なく、機械的強度の低下も小さかった。
[実施例2]
ベース樹脂をメタロセン触媒の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂LLDPE(ZM063:宇部興産(株))にした以外は、実施例1と同様にして酸素吸収性樹脂組成物の作製と評価を行った。作製した酸素吸収性樹脂組成物は、良好な酸素吸収性能を示し、しかも酸化副生成物も少なく、機械的強度の低下も小さかった。
【0024】
[比較例1]
ベース樹脂を線状低密度ポリエチレンとはいえない高圧法低密度ポリエチレン(JB221R:日本ポリオレフィン(株))にした以外は、実施例1と同様にして酸素吸収性樹脂組成物の作製と評価を行った。作製した酸素吸収性樹脂組成物は、酸素吸収性能は良好であったが、複雑な長鎖分岐を含む構造のため、酸化副生成物が多く、また機械的強度の低下も大きかった。
[比較例2]
ベース樹脂をマルチサイト触媒の直鎖状低密度ポリエチレン (ULTZEX 2020SB:三井化学(株))にした以外は、実施例1と同様にして酸素吸収性樹脂組成物の作製と評価を行った。作製した酸素吸収性樹脂組成物は、酸素吸収性能は良好であったが、4−メチルペンテン−1由来の枝分かれのある分岐を有しているため、酸化副生成物、特にアセトンが多かった。この酸素吸収性樹脂組成物については、機械的強度の測定は実施しなかった。
[比較例3]
ベース樹脂をマルチサイト触媒のエチレンプロピレンのランダム共重合樹脂 (RE386:日本ポリプロ(株))にした以外は実施例1と同様にして酸素吸収性樹脂組成物の作製と評価を行った。作製した酸素吸収性樹脂組成物は、酸素吸収性能は良好であったが、分岐が多いため、酸化副生成物が非常に多く、また機械的強度の低下も大きかった。
表1に実施例、比較例の結果を示すが、表1より明らかなように、ベース樹脂の分岐の状態により、酸素吸収性能、酸化副生成物量、酸化による機械的強度の低下の程度に明確な差異が認められた。




















【0025】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状低密度ポリエチレン樹脂(A)、樹脂(A)以外の樹脂であって樹脂(A)の酸化のトリガーとなる樹脂(B)を含有し、樹脂(B)は樹脂(A)のマトリックス中に分散してなり、酸素に接触したときにマトリックス樹脂(A)の酸化反応が進行して酸素を吸収する樹脂組成物において、前記樹脂(A)は、側鎖が0.003eq/g以下の直鎖状炭化水素から成る樹脂であることを特徴とする酸素吸収性樹脂組成物である。
【請求項2】
樹脂(A)がシングルサイト触媒を用いて重合された樹脂である、請求項1に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項3】
樹脂(A)がメタロセン系触媒を重合触媒として使用した樹脂である、請求項1又は2に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂(A)の含有量が90〜99重量%である請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項5】
樹脂(B)の含有量が1〜10重量%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項6】
樹脂(B)がメチレン鎖より水素引き抜きが起こりやすい炭素−水素結合を有する樹脂である請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項7】
樹脂(B)が側鎖にベンゼン環を有する樹脂である請求項1〜6のいずれか1項に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項8】
側鎖にベンゼン環を有する樹脂がスチレン共重合体である請求項7に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項9】
スチレン共重合体がスチレン部分を10重量%以上含有する請求項8に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項10】
スチレン共重合体がジエン由来の部位を有する共重合体である請求項9に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項11】
ジエン由来部位がイソプレン乃至ブタジエンである請求項10に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項12】
スチレン共重合体がブロック共重合体である請求項8〜11のいずれか1項に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項13】
スチレン共重合体が分子末端にポリスチレンブロックを有するブロック共重合体である請求項8〜12のいずれか1項に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項14】
スチレン共重合体がジエン由来の部位を水添したものである請求項10〜13のいずれか1項に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項15】
スチレン共重合体が水添スチレン−ジエン共重合体である請求項8〜14のいずれか1項に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項16】
水添スチレン−ジエン共重合体が水添スチレン−イソプレンブロック共重合体又は水添スチレン−ブタジエンブロック共重合体である請求項15に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項17】
水添スチレン−ジエン共重合体が水添スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体乃至水添スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体である請求項16に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項18】
樹脂(B)がアリル位に三級炭素を有する樹脂である請求項1〜6のいずれか1項に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項19】
アリル位に三級炭素を有する樹脂が環状アルケン構造を有する樹脂である請求項18に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項20】
樹脂(B)がアルデヒド基を有する樹脂である請求項1〜6のいずれか1項に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項21】
酸素吸収性樹脂組成物が、更に遷移金属触媒(C)を含有し、遷移金属触媒(C)が少なくとも樹脂(A)中に存在する請求項1〜20のいずれか1項に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項22】
遷移金属触媒(C)が金属重量換算で10〜3000ppm含まれている請求項21に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の酸素吸収性樹脂組成物を含む酸素吸収体。
【請求項24】
請求項1〜23のいずれか1項に記載の酸素吸収性樹脂組成物を含む層を少なくとも1層有する積層体。
【請求項25】
さらに酸素バリヤー層を少なくとも1層有する請求項24に記載の積層体。

【公開番号】特開2006−37068(P2006−37068A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44064(P2005−44064)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】