説明

酸素検出計

【課題】簡単な構成で、しかも、省スペース化を図ることができ、その上、試験体内に残留する酸素のみを効率よく検出することができるようにした低コストの酸素検出計を提供する。
【解決手段】本発明の酸素検出計Mは、金属製でその表面が酸化物膜で被覆されたフィラメント1と、グリッド2と、フィラメントに直流電流を流すフィラメント用の電源E1と、フィラメントより高い電位をグリッドに与えるグリッド用の電源E2とを備える。フィラメント用の電源によりフィラメントに通電してこのフィラメントを点灯させて熱電子を放出させ、前記フィラメントとグリッドとの間でのエミッション電流を測定する検出手段3を更に備える。そして、検出手段で測定したエミッション電流から酸素(濃度)を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素検出計に関し、より詳しくは、例えば、真空チャンバ(気密容器)や配管などの試験体においてその内部の酸素(濃度)を検出するために用いられるものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばスパッタリングや蒸着による成膜処理やエッチング処理を行う真空処理装置においては、プロセス時の圧力だけでなく、各種処理が行われるチャンバ(試験体)内に残留する気体の成分が膜質等に大きな影響を与える場合がある。このため、真空処理装置に微少な漏洩(リーク)が発生していないか常に注意が払われている。また、このようなリークの有無の確認(所謂、リークテスト)は、真空処理装置のメンテナンス時にチャンバを大気開放した後、生産を再開するときにも行われる。
【0003】
従来、このような試験体のリークテストとしては、電離真空計を利用して行う所謂ビルトアップ法によるもの、または、四重極型質量分析計を用いたチャンバ内のガス成分分析(ガス分圧)によるものが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。ここで、ビルトアップ法によるリークテストは試験体内の状態に依存する。このため、正確な判定が困難である。他方、質量分析計を用いる方法は、試験体内の圧力が例えば0.1Paより高くなると、試験体内のガス成分の平均自由工程が短くなって、質量電荷比に対する信号が著しく減少する。このため、試験体内の状態によってはガス成分の分析によるリークテストを行うことができないという不具合がある。
【0004】
そこで、本願の発明者らは、真空チャンバ等の試験体において具備されていることが多い電離真空計や四重極型質量分析計を利用し、空気中に多く含まれる酸素を検出することで、簡便な方法にて真空処理装置に生じたリークリストを行うことを提案している(PCT/JP2010/1860号参照のこと)。
【0005】
即ち、電離真空計や四重極型質量分析計においては、チャンバ内に残留するガス成分をイオン化するために、その構成部品としてグリッドとフィラメントとが備えられている。フィラメントとしては、低い温度で規定のエミッション電流が得られる等の理由から、近年では、イリジウムからなる母材の表面を、メッキ処理により酸化イットリウムで被覆したものが用いられている。ここで、酸素は電子親和力が大きいため、母材を被覆する金属酸化物表面から電子を奪って酸素負イオンとして吸着する。フィラメントの酸化物膜に酸素が吸着すると、ポテンシャル障壁が形成されて電子が放出され難くなる。
【0006】
このため、所定のエミッション電流を得るには、フィラメント温度を上昇させる必要があり、これに応じてフィラメントに流す電流も上昇させることとなる。つまり、グリッドとフィラメントとの間のエミッション電流が所定値となるようにフィラメントに流す電流が酸素の量に比例する。この関係を利用して、酸素(HO、CO等の酸素含有ガスを含む)を検出することが可能となる。然し、上記従来例のものはいずれも、電離真空計や四重極型質量分析計等を利用するため、構成が複雑で、しかも、省スペースで設置することが困難であり、その上、製造コストも高いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−33345号公報
【特許文献2】特開2008−209181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、簡単な構成で、しかも、省スペース化を図ることができ、その上、試験体内に残留するガスのうち特定ガス成分たる酸素(HO、CO等の酸素含有ガスを含む)のみを効率よく検出することができるようにした低コストの酸素検出計を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、試験体に装着されてその内部の酸素を検出する酸素検出計であって、金属製でその表面が酸化物膜で被覆されたフィラメントと、グリッドと、フィラメントに直流電流を流すフィラメント用の電源と、フィラメントより高い電位をグリッドに与えるグリッド用の電源と、を備え、フィラメント用の電源によりフィラメントに通電してこのフィラメントを点灯させて熱電子を放出させ、前記フィラメントとグリッドとの間でのエミッション電流を測定する検出手段を更に備えて、検出手段で測定したエミッション電流から酸素を検出するようにしたことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、減圧下にて測定対象物の試験体内の酸素を検出する場合、上記の如く、酸素は電子親和力が大きいため、試験体内に残留する酸素(HO、CO等の酸素含有ガスを含む)が、母材を被覆する金属酸化物表面から電子を奪って酸素負イオン等として吸着する。フィラメントの金属酸化物膜に酸素が吸着すると、ポテンシャル障壁が形成されて電子が放出され難くなる。このため、フィラメントの温度、つまり、フィラメントに印加する電圧が同一であっても、酸素の吸着量に応じてエミッション電流が変化する。従って、エミッション電流と試験体内の酸素濃度との関係を予め取得しておけば、測定したエミッション電流から酸素濃度を検出することができる。
【0011】
このように本発明では、フィラメントと、グリッドと、フィラメント用の電源と、グリッド用の電源と、エミッション電流を測定する検出手段とから酸素検出計が構成されるため、部品点数が少なくて簡単な構成でかつ低コストである。しかも、試験体内の酸素を検出するに際しては、少なくともフィラメントとグリッドとのみを試験体に装着すればよいため、省スペース化を図ることができ、その上、試験体内に残留する特定ガス成分たる酸素(HO、CO等の酸素含有ガスを含む)のみを効率よく検出することができる。
【0012】
本発明において、前記金属がイリジウムであり、酸化物膜が酸化イットリウムからなるものであることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態の酸素検出計の構成を模式的に示す斜視図。
【図2】本発明の実験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、真空チャンバ(気密容器)や配管などの試験体に装着されて、減圧下で試験体内部の酸素(濃度)を検出するために用いられる本発明の実施形態の酸素検出計を説明する。
【0015】
図1を参照して、Mは、本実施形態の酸素検出計である。酸素検出計Mは、イリジウムからなる母材金属の表面をメッキ処理により酸化イットリウムで被覆した棒状のフィラメント1と、フィラメントの周囲を囲うように配置される筒状のグリッド2とを備える。そして、これらの部品が図外の試験体内に存するように設置される。
【0016】
フィラメント1の両端は、フィラメント用の電源E1に電気的に接続されている。また、グリッド2は、グリッド用の電源E2の正の出力側に電気的に接続され、グリッド2に対してフィラメント1より高い電位をこのグリッド2に与えるようになっている。電源E2の負の出力側は、フィラメント用の電源E1の負の出力側に接続されてアース接地されている。また、電源E2の負の出力側には、フィラメント1とグリッド2との間を流れるエミッション電流Ieを測定するエミッション電流用の電流計(検出手段)3が介設されている。また、酸素検出計Mは、コンピュータ、メモリやシーケンサ等を備えた制御部Cを備え、この制御部Cは、上記電源E1、E2の作動や電流計3からの出力の処理を統括制御するようになっている。
【0017】
試験体内の酸素濃度を測定するのに際しては、先ず、電源E1によりフィラメント1に所定値の直流電流Ifを通電してフィラメント1を点灯させ、熱電子を放出させる。そして、電源E2によりグリッド2に所定電位を与えてグリッド2とフィラメント1との間の電位差で熱電子をグリッド2側に引き込む。このとき、熱電子がグリッド2に到達してエミッション電流Ieが生じる。ここで、減圧下の試験体内に残留する酸素は電子親和力が大きいため、この酸素(HO、CO等の酸素含有ガスを含む)が、フィラメント1の被覆する金属酸化物表面から電子を奪って酸素負イオン等として吸着する。フィラメント1の金属酸化物膜に酸素が吸着すると、ポテンシャル障壁が形成されて電子が放出され難くなる。このため、フィラメント1の温度、つまり、電源E1によりフィラメント1に印加する電圧(Vf)が同一であっても、酸素の吸着量に応じてエミッション電流Ieが変化する。
【0018】
そこで、試験体に酸素検出計Mを装着し、減圧下(例えば、1Pa)で、フィラメント1に一定の電圧(例えば、2V)を印加し、この状態で、試験体内に酸素ガスを導入して、エミッション電流と試験体内の酸素濃度との関係を予め取得し、これを制御部Cのメモリに記憶させておく。これにより、測定したエミッション電流Ieから試験体内の酸素濃度が検出できる。
【0019】
以上説明したように、本実施形態の酸素検出計Mは、フィラメント1と、グリッド2と、フィラメント用の電源E1と、グリッド用の電源E2と、エミッション電流を測定する電流計3とから構成されるため、部品点数が少なくて簡単な構成でかつ低コストである。しかも、試験体内の酸素を検出するに際しては、少なくともフィラメント1とグリッド2とのみを試験体に装着すればよいため、省スペース化を図ることができ、その上、試験体内に残留する特定ガス成分たる酸素(HO、CO等の酸素含有ガスを含む)のみを効率よく検出することができる。
【0020】
以上の効果を確認するために、次のような実験を行った。図外の試験体に上記酸素検出計Mの構成部品たるフィラメント1とグリッド2とを装着し、試験体を一旦真空引き(1Paまで)し、減圧下で所定時間保持した。その後、電圧Vfを2.07V、電流Ifを1.9Aとして電源E1よりフィラメント1に通電すると共に、電圧Vgを200Vとしてグリッドに電位を印加し、この状態で、試験体内に酸素ガスを一定流量で導入した(つまり、試験体内の酸素濃度を変化させた)。
【0021】
図2は、試験体内の酸素濃度とエミッション電流との関係を示すグラフである。これによれば、試験体内の酸素濃度が変化すると、エミッション電流も変化することが確認された。これにより、試験体内の酸素濃度とエミッション電流との相関が予め判っていれば、本実施形態のものが酸素検出計として利用できることが判る。
【0022】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、棒状のフィラメント1の周囲に筒状のグリッド2を配置したものを例に説明したが、フィラメント1及びグリッドの形態は上記のものに限定されるものではなく、公知のどのような形態のものでも本発明を適用でき、また、フィラメントの材質も、金属製でその表面が酸化物膜で被覆されたものであればよい。
【符号の説明】
【0023】
M…酸素検出計、1…フィラメント、2…グリッド、3…電流計(検出手段)、E1、E2…電源。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験体に装着されてその内部の酸素を検出する酸素検出計であって、
金属製でその表面が酸化物膜で被覆されたフィラメントと、グリッドと、フィラメントに直流電流を流すフィラメント用の電源と、フィラメントより高い電位をグリッドに与えるグリッド用の電源と、を備え、
フィラメント用の電源によりフィラメントに通電してこのフィラメントを点灯させて熱電子を放出させ、前記フィラメントとグリッドとの間でのエミッション電流を測定する検出手段を更に備えて、検出手段で測定したエミッション電流から酸素を検出するようにしたことを特徴とする酸素検出計。
【請求項2】
前記金属がイリジウムであり、酸化物膜が酸化イットリウムからなることを特徴とする請求項1記載の酸素検出計。





【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−233848(P2012−233848A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104263(P2011−104263)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】