説明

酸素検知剤および酸素検知剤の製造方法

【課題】耐熱性が高く、常温での保管が可能であると共に、雰囲気温度によらず優れた酸素検知能を維持することのできる酸素検知剤用の酸素インジケーター水溶液、酸素検知剤および酸素検知剤の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため、還元性糖類と、塩基性物質と、当該還元性糖類によって還元される酸化還元性色素とを含む水溶液である酸素検知剤用の酸素インジケーター水溶液であって、当該還元性糖類として、第1成分としての単糖類と、第2成分としての還元性三糖類を含む酸素検知剤を提供する。また、当該酸素検知剤の製造に好適な製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雰囲気中の酸素量の変化を色調の変化によって視認可能とする酸素検知剤および酸素検知剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬品等の保存に際し、雰囲気中の酸素は食品や医薬品等を酸化させ、食品や医薬品等の品質を低下させる。そこで、保存時の品質低下を防止するために、食品や医薬品等を脱酸素剤と共に包装容器(但し、包装用袋を含む)内に入れて密閉包装し、脱酸素剤等により包装容器内の酸素を吸収させて、無酸素状態(例えば、酸素濃度0.1%以下)で食品や医薬品を保存することが行われている。
【0003】
近年、包装容器内に脱酸素剤と共に酸素検知剤を封入し、酸素検知剤により包装容器内の酸素の有無を検知することが行われている。酸素検知剤は、色調の変化によって、密閉包装容器内の酸素の有無を視認可能としたものである。ユーザーは、酸素検知剤が呈する色調に基づき、食品や医薬品等が無酸素状態で保存されているか否かを容易に確認することができる。
【0004】
この種の酸素検知剤は、一般に、還元性糖類と、塩基性物質と、酸化状態と還元状態とでは呈色の異なる酸化還元性色素とを含んで構成されている(例えば、「特許文献1」、「特許文献2」参照)。還元性糖類は、雰囲気が無酸素状態のときに酸化還元性色素を還元状態に保持するために用いられる。この様に、酸素検知剤は、還元状態に保持された酸化還元性色素が雰囲気中の酸素によって酸化されて色調が変化する仕組みを利用して、酸素を検知するものである。従って、酸素検知剤には、雰囲気中の酸素量の変化に伴う鮮明な色調変化と迅速な変色応答性とが要求される。そこで、上記特許文献1では、還元性糖類によって還元されない食紅等の色素を用いて、還元状態と酸化状態とにおける酸化検知剤が呈する色調の変化をより鮮明にすることが行われている。
【0005】
また、酸素検知剤は、還元性糖類と、塩基性物質と、酸化還元性色素とを含む酸素検知剤用の酸素インジケーター水溶液(酸素検知溶液)を調製し、この酸素インジケーター水溶液をシート状、錠剤等の種々の担体に担持させることにより製造されている。還元性糖類は、塩基性物質により塩基性に調製された酸素インジケーター水溶液中で開環し、還元基(アルデヒド基やケトン基)を有する鎖状構造となり、酸化還元性色素に対する還元作用を及ぼす。従来、この様な還元性糖類として、主として、還元力の大きいD−グルコース等の単糖類が用いられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2580157号公報
【特許文献2】特開2007−3259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来、酸素検知剤は耐熱性が低く、高温(例えば、常温以上の温度、35℃等)で保管すると、酸素検知能が低下し、雰囲気中の酸素量が変化した場合に迅速な変色応答性が得られなくなると共に、色調変化が不鮮明になるという課題があった。
【0008】
高温保管時の酸素検知能の低下の一因として、還元性糖類の褐変がある。還元性糖類の褐変は、水溶液中で鎖状構造となった還元性糖類が塩基性物質とが反応して、その還元基を有する末端から分解されることに起因する。雰囲気温度が高くなるほど、この還元性糖類の褐変は生じやすい。特に、単糖類は還元力が大きく反応性に富むため、褐変が生じやすい。酸素インジケーター水溶液中で還元性糖類が褐変した場合、酸素検知剤の呈色も褐色化することから、色調変化が不鮮明になる。また、塩基性物質との反応が進行することにより、還元基が消費されると、無酸素状態において酸化還元性色素を還元状態に保持するのが困難となり、一部が酸化型の構造を示す様になる場合がある。この場合、酸素検知能が低下し、酸素を検知した場合でも色調変化が不鮮明なものとなったり、変色応答性が得られなくなる場合がある。このため、従来、出荷前にあっては酸素検知剤を低温(例えば、10℃以下)で保管することにより、還元性糖類の褐変を防止して、酸素検知剤の酸素検知能の劣化を防止していた。
【0009】
そこで、本発明は、耐熱性が高く、常温での保管が可能であると共に、雰囲気温度によらず優れた酸素検知能を維持することのできる酸素検知剤および酸素検知剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、以下の酸素検知剤および酸素検知剤の製造方法を採用することで上記目的を達成するに到った。
【0011】
本発明に係る酸素検知剤は還元性糖類と、塩基性物質と、当該還元性糖類によって還元される酸化還元性色素とを含む酸素インジケーター水溶液を担体に担持させた酸素検知剤であって、当該還元性糖類として、第1成分としての単糖類と、第2成分としての還元性三糖類を含むこと、を特徴とする。
【0012】
本発明に係る酸素検知剤において、前記第1成分は、更に還元性二糖類を含むものであることがより好ましい。
【0013】
本発明に係る酸素検知剤は、前記単糖類として、D−マンノース、D−グルコース、D−フラクトース、D−エリスロース、D−アルトロースのうち、いずれか1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0014】
本発明に係る酸素検知剤は、前記還元性二糖類として、マルトースおよびラクトースのうち、いずれか1種又は2種用いることが好ましい。
【0015】
本発明に係る酸素検知剤は、前記還元性三糖類として、マルトトリオース、セロトリオース、マンニノトリオースおよびバノースのうち、いずれか1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0016】
本発明に係る酸素検知剤は、前記還元性糖類によって還元されない色素を更に含むことが好ましい。
【0017】
本発明に係る酸素検知剤は、前記担体および当該担体に担持させた酸素インジケーター水溶液の全重量を100重量部とした場合に、前記還元性糖類を10重量部〜30重量部、前記塩基性物質を0.5重量部〜2.5重量部、前記酸化還元性色素を0.01重両部〜0.1重量部含むことが好ましい。
【0018】
本発明に係る酸素検知剤は、前記塩基性物質を100重量部とした場合、前記酸素インジケーター水溶液の水分量は450重量部〜1050重量部であることが好ましい。
【0019】
本発明に係る酸素検知剤において、前記担体がシート状であることが好ましい。
【0020】
本発明に係る酸素検知剤の製造方法は、還元性糖類と、塩基性物質と、当該還元性糖類によって還元される酸化還元性色素とを含む酸素検知剤の製造方法であって、当該還元性糖類を含む還元性糖類水溶液を調製する第1過程と、当該塩基性物質を含む塩基性物質水溶液を調製する第2過程と、当該還元性色素を含む還元性色素水溶液を調製する第3過程と、当該還元性糖類水溶液と、当該塩基性物質水溶液と、当該還元性色素水溶液とを混合して、酸素インジケーター水溶液を調製する第4過程と、当該酸素インジケーター水溶液を担体に担持させる第5過程と、を含み、当該還元性糖類水溶液は、第1成分としての単糖類と、第2成分としての還元性三糖類を含むこと、を特徴とする。
【0021】
本発明に係る酸素検知剤の製造方法において、前記第1成分は、更に還元性二糖類を含むものであることが好ましい。
【0022】
本発明に係る酸素検知剤の製造方法において、前記単糖類として、D−マンノース、D−グルコース、D−フラクトース、D−エリスロース、D−アルトロースのうち、いずれか1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0023】
本発明に係る酸素検知剤用の製造方法において、前記二糖類として、マルトースおよびラクトースのうち、いずれか1種又は2種を用いることが好ましい。
【0024】
本発明に係る酸素検知剤の製造方法において、前記還元性三糖類として、マルトトリオース、セロトリオース、マンニノトリオースおよびバノースのうち、いずれか1種又は2種以上の還元性三糖類を用いることが好ましい。
【0025】
本発明に係る酸素検知剤の製造方法において、前記還元性糖類水溶液は、前記第1成分を20重量%〜40重量%、前記第2成分を30重量%〜50重量%含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る酸素検知剤用の酸素インジケーター水溶液、酸素検知剤および酸素検知剤の製造方法によれば、還元性糖類として、還元性三糖類からなる第2成分を含むことにより、単糖類又は単糖類と還元性二糖類からなる第1成分を単独で含む場合と比して、還元性糖類を安定に保持して、還元性糖類の褐変および還元力の低下を防止することができる。これにより、本発明に係る酸素検知剤は、耐熱性が高く、常温での保管が可能であると共に、雰囲気温度によらず優れた酸素検知能を維持することができる。また、常温での保管が可能であるため、出荷前の製品保管コストを低減することができる。更に、夏季等の高温雰囲気下で使用される場合にも、雰囲気中の酸素量の変化に応じて鮮やかな色調変化と、迅速な変色応答性を示す酸素検知剤の提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る酸素検知剤用の酸素インジケーター水溶液および酸素検知剤を実施するための形態について説明する。
【0028】
[本発明に係る酸素検知剤の形態]
本発明に係る酸素検知剤は、酸素インジケーター水溶液を担体に担持させたものであり、雰囲気中の酸素量の変化に応じて色調を変化することにより雰囲気中の酸素量の変化を視認可能とするものである。
【0029】
酸素インジケーター水溶液: まず、酸素インジケーター水溶液について説明する。本発明に係る酸素インジケーター水溶液は、還元性糖類と、塩基性物質と、当該還元性糖類によって還元される酸化還元性色素とを含む水溶液である。本発明において、当該還元性糖類として、単糖類又は単糖類および還元性二糖類からなる第1成分と、還元性三糖類からなる第2成分とが用いられる。これらの第1成分および第2成分からなる還元性糖類は、上記の酸化還元性色素を還元状態に保持するために用いられる。酸化還元性色素を還元状態に保持する際に、この様な還元性糖類を用いることは、食品と同封する酸素検知剤の構成成分として好適である。以下、ここで言う第1成分および第2成分について説明する。
【0030】
本発明において、第1成分として、単糖類および還元性二糖類を用いる。そして、この単糖類および還元性二糖類を、いずれか単独又は併用することが可能である。ここで、単糖類としては、例えば、D−マンノース、D−グルコース、D−フラクトース、D−エリスロースおよびD−アルトロースを挙げることができる。中でも、単糖類として、D−グルコースを使用することが好ましい。D−グルコースは還元力が高く、酸化還元性色素を還元状態に保持することが容易であり、純度の高いD−グルコースを安価に容易に入手することができるため、酸素検知剤の製造コストを低く抑えることができるからである。
【0031】
そして、還元性二糖類としては、例えば、マルトースおよびラクトースを挙げることができる。上記第1成分は、単糖類のみを含むものであってもよいし、単糖類と還元性二糖類とを含むものであってもよい。第1成分に還元性二糖類を含む構成とする場合、グルコースを構成単位とするマルトースが好ましい。
【0032】
次に、本発明における第2成分として、還元性三糖類を用いる。この還元性三糖類としては、例えば、マルトトリオース、セロトリオース、マンニノトリオースおよびバノースを挙げることができる。上記第2成分は、これらの還元性三糖類のうち、いずれか一種又は二種以上を構成成分として含むことが好ましい。中でも、上記第1成分の単糖類としてD−グルコースを使用する場合、還元性三糖類として、マルトトリオースを使用することが好ましい。マルトトリオースは3分子のグルコースがα1−4グリコシド結合した三糖である。市販品のマルトトリオースには、未反応物であるグルコースや2分子のグルコースがα1−4グリコシド結合したマルトースが含まれる場合がある。これらの未反応物も上述の通り第1成分として使用することが可能である。従って、コストの観点から適切な純度のマルトトリオースを選択的に使用することが出来るため、酸素検知剤の製造コストを低く抑えることができる。また、第1成分に還元性二糖類を含む構成とする場合、市販品の還元性三糖類に含まれる還元性二糖類を利用する構成としてもよい。
【0033】
本発明の酸素インジケーター水溶液は、還元性糖類として、上記第1成分と共に、還元性三糖類からなる第2成分を含むことにより、還元性糖類として第1成分を単独で含む場合と比して、高温(例えば、常温以上の温度、35℃等)での保管時において、還元性糖類の褐変を防止して、酸素検知能の低下を防ぐことができる。これにより、この酸素インジケーター水溶液を用いて製造する酸素検知剤の耐熱性を優れたものとすると共に、酸素検知時の鮮明な色調変化と迅速な変色応答性を長期間に亘って維持可能とすることができる。
【0034】
ここで、還元性糖類の褐変を防止するには、還元性糖類の有する還元基と、酸素インジケーター水溶液中の塩基性物質との反応を防止する必要がある。また、還元性糖類の有する還元基と塩基性物質との反応を防止することにより、酸化還元性色素を還元状態に保持し、酸素検知能の低下を防止することができる。
【0035】
ところで、還元性糖類は水溶液中で鎖状構造となった場合、それぞれ1分子当たり1つの還元基を有する。特に、単糖類はアルカリ性溶液中で不安定になりやすいため、単糖類は反応性に富む。一方、還元性糖類を構成する単糖分子の結合数が増加するにつれて、その反応性は低下する。このため、上記の第1成分を単独で用いるのではなく、第2成分である還元性三糖類を併用することにより、還元性糖類全体として見た場合の反応性を低下させて酸素インジケーター水溶液における還元性糖類の褐変を防止することができる。但し、還元性糖類は、無酸素状態において酸化還元性色素を還元状態に保持可能な量となるように酸素インジケーター水溶液中に添加させるのは勿論である。
【0036】
ところで、還元性糖類の褐変を防止するために、上述の小糖類である三糖類に代えて、多糖類を用いることも考えられる。しかしながら、多糖類は小糖類と比較すると反応性が低く、分子量が大きい。従って、還元性糖類として多糖類を用いた場合、無酸素状態で酸化還元性色素を還元状態に保持するために必要な還元性糖類の配合量が、単糖類を単独で用いた場合と比較すると増加する。多糖類の配合量が多くなると水溶液の粘度が高くなるため、酸素インジケーター水溶液を担体に担持させるのが困難となる。そこで、第1成分と、還元性三糖類からなる第2成分とを併用することにより、酸素インジケーター水溶液の粘度を低く保つことができ、単糖類を単独で用いる場合と同等の還元力を維持した状態で、還元性糖類の褐変を防止して、酸素検知能の低下を防ぐことができるという優れた効果を得ることができる。
【0037】
塩基性物質は、酸素インジケーター水溶液をアルカリ性溶液に調製するために用いられる。この様な塩基性物質として、例えば、アルカリ金属化合物を挙げることができ、具体的には、ナトリウム、カリウム等の水酸化物、炭酸塩等を挙げることができる。これらのアルカリ金属化合物のうち、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることが好ましい。
【0038】
上記酸化還元性色素は、上記還元性糖類により還元される色素であって、酸化状態と還元状態とで呈色を可逆的に変化させる色素である。この様な色素として、メチレンブルー、ニューメチレンブルー、ラウスバイオレット,メチレングリーン等があげられる。
【0039】
また、酸化還元性色素として、メチレンブルー等の還元状態で無色を呈する色素を用いる場合、酸素の有無を肉眼でより判定しやすくするために還元性糖類によって還元されない色素を用いることが好ましい。この様な色素として、例えば、食紅、サフラニンT,フェノサフラニン等を挙げることができる。これらの食紅、サフラニンT、フェノサフラニンは、いずれも赤色の色素であり、雰囲気中の酸素の有無によらず色が変化しない色素である。
【0040】
例えば、上述のメチレンブルーと共にこれらの色素を用いた場合、酸素インジケーター水溶液は、雰囲気ガスの酸素の有無によって、次の様に色調を変化させる。まず、無酸素状態の場合、メチレンブルーは還元性糖類によって還元状態に保持されているため、無色(ロイコメチレンブルー)となる。このとき、酸素インジケーター水溶液は上記赤色の色素により赤色を呈する。一方、有酸素状態の場合、メチレンブルーは酸化されて青く発色する。このとき、酸素インジケーター水溶液は紫色〜青色を呈する。この様に、還元状態において無色となる酸化還元性色素を用いる場合、還元性糖類によっては還元されない色素を酸素インジケーター水溶液に加えることによって、酸素量の変化に伴う酸素検知剤の色調の変化をより鮮明にして、肉眼による酸素の有無を判定しやすくすることができる。
【0041】
酸素検知剤および酸素検知剤の製造形態: 本発明に係る酸素検知剤および酸素検知剤の製造方法について説明する。酸素検知剤は、上述の酸素インジケーター水溶液を調製し、この酸素インジケーター水溶液を担持させることにより製造される。
【0042】
まず、酸素インジケーター水溶液の調製例について説明する。酸素インジケーター水溶液を調製する際には、まず、上記の還元性糖類を所定の濃度で含む還元性糖類水溶液(A)と、上記の塩基性物質を所定の濃度で含む塩基性物質水溶液(B)と、必要に応じて添加される還元性糖類によって還元されない色素を所定の濃度で含む水溶液(C)と、酸化還元性色素を所定の濃度で含む酸化還元性色素水溶液(D)とを調製する。
【0043】
次に、還元性糖類水溶液(A)と、塩基性物質水溶液(B)とを混合して、所定のpH(アルカリ性)に調製された還元性糖類水溶液(E)を調製する。この還元性糖類水溶液(E)に必要に応じて還元性糖類によって還元されない色素を含む水溶液(C)を混合する(F)。そして、この様に調製された水溶液((E)又は(F))と、酸化還元性色素水溶液(D)とを混合することで、本発明に係る酸素インジケーター水溶液(G)が調製される。
【0044】
ここで、酸素インジケーター水溶液を調製(製造)する際に用いられる還元性糖類を含む水溶液(A)において、当該水溶液(A)を100重量部とした場合に、第1成分を20重量部(20重量%)〜40重量部(40重量%)、第2成分を30重量部(30重量%)〜50重量部(50重量%)含むことが好ましい。還元性糖類を含む水溶液を調製する際に、第1成分と、第2成分とをそれぞれ上記範囲で含むことにより、第1成分を単独で含む場合と比して、酸化還元性色素に対する還元力を維持した状態で、還元性糖類の褐変を防止して、酸素検知能を維持することができる。
【0045】
ここで、第1成分の構成割合が30重量部よりも少なくなると、酸化還元性色素に対する十分な還元作用が得られなくなり、好ましくない。また、第1成分の構成割合が50重量部よりも多くなると、雰囲気温度が高くなるにつれて還元性糖類の褐変が生じやすくなるため好ましくない。また、第2成分の構成割合が30重量部よりも少なくなると、雰囲気温度が高くなるにつれて単糖類や還元性二糖類の褐変が生じやすくなるため好ましくない。一方、第2成分の構成割合が50重量部よりも多くなると、酸化還元性色素に対する十分な還元作用が得られなくなり、好ましくない。
【0046】
担体: 次に、酸素インジケーター水溶液を担持させる担体について説明する。酸素インジケーター水溶液を担持させる担体の材料は、特に限定されるものではなく、液体である酸素インジケーター水溶液を含浸可能な吸収体であればよい。この様な担体を構成する材料として、例えば、有機高分子材料、アルカリ土類金属、二酸化ケイ素等を用いることができる。本発明では、担体を構成する材料として、酸素インジケーター水溶液の吸収性、安定性等を考慮すると、特に、有機高分子材料であることが好ましい。有機高分子材料として、特に、イオン交換樹脂又はセルロース材料であることが好ましい。ここで、イオン交換樹脂とは、イオン交換を行うことのできる酸性基又は塩基性基を持つ不溶性で多孔質の合成樹脂である。また、セルロース材料としては、サラシクラフト紙であることが好ましい。サラシクラフト紙からなる担体であれば、酸素インジケーター水溶液を酸素検知剤として好ましい状態で保持可能である。また、サラシクラフト紙は漂白された紙であるので、酸化還元性色素等の酸素インジケーター水溶液に含まれる色素の着色が鮮明となる。これにより、雰囲気中の酸素量の変化に伴い、酸素検知剤が呈色する色調変化をより鮮明なものとすることができる。
【0047】
また、本発明において、担体の形状についても、特に限定されるものではなく、担体を構成する材料に応じて、シート状、タブレット状、パウダー状等の種々の形状とすることができる。特に、体積に比して十分な表面積を持つ形態であることが好ましく、取り扱い性に優れた形態であることが好ましい。この様な観点から、本発明において、担体の形状はシート状であることがより好ましい。担体が体積に比して十分な表面積を有することにより、雰囲気ガスと酸素インジケーター水溶液との接触面積を増加することができ、酸素検知剤を小型化した場合でも十分な酸素検知能を発揮させることができる。
【0048】
担体の厚みは200μm以上であることが好ましく、より好ましくは200μm〜500μmである。担体の厚みを200μmよりも薄くすると、酸素インジケーター水溶液の含浸量が少なくなるため、酸素検知剤の酸素検知能が低下する。また、担体の厚みが500μmを超える場合、このシート状の担体を被包材により包装する際の、包装の確実性を損なう場合がある。
【0049】
担体に酸素インジケーター水溶液を担持させた後、所定の程度まで乾燥されて酸素検知剤が製造される。本発明に係る酸素検知剤が酸素を検知するためには、適度な水分の存在が必要である。水分含有量は特に制限されるものではく、使用条件に応じて適宜変更可能であるが、担体に担持可能な水分量であるとともに、還元性糖類および塩基性物質の存在下において、酸化還元性色素の酸化還元反応が円滑に行われる程度の濃度となるような水分量であることが好ましい。すなわち、担体に担持された酸素インジケーター水溶液の酸化還元性色素の濃度が、所定量に調整された還元性糖類および塩基性物質の存在下において、酸化還元性色素の酸化還元反応が円滑に行われる程度の濃度となるように水分量を調整することが好ましい。酸化還元反応が円滑に行われることにより、迅速な変色応答性および鮮明な色調変化を担保することができ、雰囲気中の酸素量が変化した場合、直ちにこれを検知することが可能になる。
【0050】
この様な水分量として、例えば、塩基性物質としてアルカリ金属化合物を用いた場合、アルカリ金属化合物100重量部に対して、450重量部〜1050重量部であることが好ましく、特に好ましくは550重量部〜950重量部である。水分含有量が450重量部〜1050重量部である場合、上述の通り、担体に担持可能な水分量であるとともに、還元性糖類および塩基性物質の存在下において、酸化還元性色素の酸化還元反応を円滑に行うことができる。特に水分含有量が550重量部〜950重量部である場合、酸化還元性色素の酸化反応に適切な濃度の酸素インジケーター水溶液を、担体を良好な状態で担体に担持することができ、酸素検知時に迅速な変色応答性と鮮明な色調変化を得ることができる。
【0051】
乾燥に際しては、自然乾燥により行ってもよいが、生産性を向上させるという観点からは、加熱乾燥又は真空乾燥により行うことが好ましい。
【0052】
以上の様にして製造された酸素検知剤において、全体の重量を100重量部とした場合、還元性糖類を10重量部〜30重量部、塩基性物質を0.5重量部〜2.5重量部、酸化還元性色素を0.01重量部〜0.1重量部の範囲で含むことが好ましい。酸素検知剤が、この様な範囲で各固形成分としての還元性糖類、塩基性物質および酸化還元性色素を含むことにより、還元性糖類および塩基性物質の存在下において、酸化還元性色素の酸化還元反応を円滑に行うことができ、酸素検知時に迅速な変色応答性と鮮明な色調変化を得ることができる。但し、上記「全体」の重量とは「担体」の重量と、担体に担持させた「酸素インジケーター水溶液」の重量とを合わせた全重量を指し、次に説明する透明フィルム等の担体を覆う被包材や、脱酸素剤を含むものではない。
【0053】
本発明の酸素検知剤は、酸素インジケーター水溶液を担持した担体の少なくとも表面が透明フィルムによって被覆される構成とすることが好ましい。担体の表面を透明フィルムで被覆することによって、食品等の被保存物質に触れても酸素インジケーター水溶液が食品等に接触することがなく、衛生的だからである。
【0054】
ここに用いられる透明フィルムは、一定の強度を有するものであれば、いかなるものも使用することができ、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、セルロースアセテート、セロハン等からなるフィルムが使用できる。
【0055】
また、本発明の酸素検知剤は、酸素インジケーター水溶液を担持した担体を、透明フィルムからなる扁平状酸素検知剤袋内に密封封入する構成としてもよい。このように、酸素インジケーター水溶液を担持した担体を透明フィルムからなる扁平状酸素検知剤袋内に密封封入することによって、食品等の被保存物質の成分により酸素検知機能が損なわれるのを防止することができる。すなわち、酸素インジケーター水溶液を担持した担体が外部に露出しているか、一部露出している場合には、食品等の水分、油分、アルコール等が存在すると、これらが露出部から担体に侵入し、酸素インジケーター水溶液の色が変色し、酸素検知機能が損なわれる。酸素インジケーター水溶液を担持した担体を透明フィルムからなる扁平状酸素検知剤袋内に密封封入して、酸素検知剤を構成することにより、このような問題が生じることがない。
【0056】
ここで用いられる透明フィルムは、酸素透過性を有し、かつ水、油、アルコール等の液不透過性であることが必要である。このような透明フィルムとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド等からなるフィルム用いることができるが、酸素の透過量の少ないポリエステル、ポリアミド等からなるフィルムについては水分、アルコール、油分等の影響を受けにくい程度のごく微小のピンホールを開けて用いることが好ましい。より具体的には、ポリエチレンとしては低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレンとしては無延伸ポリプロピレン(OPP)、二軸延伸ポリプロピレン(CPP)等が好ましく用いられる。これらの合成樹脂フィルムは単層フィルムのみならず、異なる材質のフィルムを積層した積層フィルムとしても用いられる。これらの積層フィルムとしては、OPP/CPP、OPP/LDPE、PET/LDPE、PET/CPP等の二層フィルム、LDPE/OPP/LDPE、LDPE/CPP/LDPE、CPP/OPP/LDPE等の三層以上のフィルムが挙げられる。
【0057】
本発明に係る酸素検知剤は、酸素検知剤単体で用いてもよいが、脱酸素剤と一体化して複合脱酸素剤として用いてもよい。シート状の担体を用いたシート状の酸素検知剤では、脱酸素剤と一体化させることによって、食品等の包装容器(但し、包装用袋を含む。)内に封入する際に、脱酸素剤と酸素検知剤とを別々に封入する必要がなく、脱酸素剤と酸素検知剤とを同時に封入することができ、取り扱いの煩雑さが解消される。また、いずれか一方の封入漏れを防止することができる。
【0058】
本発明に係る酸素検知剤と、一体化して用いられる脱酸素剤は、特に制限されるものではなく、脱酸素剤として良好に機能するものであれば、有機系脱酸素剤であってもよいし、鉄粉系の無機系脱酸素剤であってもよい。
【0059】
酸素検知剤と脱酸素剤とを一体化する手法として、例えば、脱酸素剤を封入した脱酸素剤袋の所望の位置に、適切な貼付手段により、酸素検知剤を貼付することが考えられる。貼付手段は特に制限されるものではなく、例えば、両面粘着テープ、接着剤、糊料等が好適に使用される。
【0060】
以下、実施例および比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0061】
[酸素インジケーター水溶液の調製]
実施例の酸素インジケーター水溶液は、以下の様にして調製した。
まず、水24gと、グルコース24gとオリゴ糖(市販品)120gとをマグネチックスターラーを用いて混合し、還元性糖類を水に溶解した還元性糖類水溶液(A)を調製した。
【0062】
但し、本実施例において還元性糖類水溶液(A)の調製に際して、以下の組成を有する市販のオリゴ糖を用いた。
水 25重量部
グルコース(単糖類) 4重量部
マルトース(二糖類) 19重量部
マルトトリオース(三糖類) 52重量部
【0063】
この様に調製された還元性糖類水溶液(A)は、還元性糖類水溶液(A)100重量部に対して、グルコースおよびマルトースからなる第1成分を31重量部(31重量%)、マルトトリオースからなる第2成分を37重量部(37重量%)含んでいる。
【0064】
次に、水23gと塩基性物質として水酸化ナトリウム7gとをマグネチックスターラーを用いて混合して塩基性物質水溶液(B)とした。
【0065】
また、水30gと還元性糖類によって還元されない色素として食紅0.1gとをマグネチックスターラーを用いて混合して食紅水溶液(C)した。
【0066】
更に、水30gと酸化還元性色素としてメチレンブルー0.3gをマグネチックスターラーを用いて混合して酸化還元性色素水溶液(D)とした。
【0067】
そして、還元性糖類水溶液(A)137gと、塩基性物質水溶液(B)27gとをマグネチックスターラーを用いて混合して、pHをアルカリ性に調製した水溶液(D)を調製した。この水溶液(D)全量に対して食紅水溶液(C)27gを添加し、マグネチックスターラーを用いて混合して、食紅が添加された水溶液(E)を調製した。そして、この水溶液(F)32gと、酸化還元性色素水溶液(D)4gとをマグネチックスターラーを用いて混合して、酸素インジケーター水溶液(G)を調製した。
【0068】
以上の工程により調製した酸素インジケーター水溶液(G)には、水18.8g(52.2重量部)と、グルコース4.1g(11.4重量部)と、マルトース3.2g(8.9重量部)と、マルトトリオース8.8g(24.4重量部)と、水酸化ナトリウム1.0g(2.8重量部)と、食紅0.02g(0.06重量部)と、メチレンブルー0.04g(0.1重量部)とが含まれる。この場合、溶媒である水に溶解している各種成分(固形成分:グルコース、マルトース、マルトトリオース、水酸化ナトリウム、食紅およびメチレンブルー)の全重量(17.16g)を100重量部とした場合、それぞれグルコース23.9重量部、マルトース18.6重量部、マルトトリオース51.3重量部(但し、還元性糖類全量として93.8重量部)、水酸化ナトリウム5.8重量部、食紅0.1重量部、メチレンブルー0.2重量部となる。
【0069】
[酸素検知剤の製造]
次に、上記の工程により調製した酸素インジケーター水溶液(G)を幅15mm、長さ50mmの濾紙に含浸し、35℃で3時間乾燥させて酸素検知剤Aを作製した。このとき、酸素検知剤Aは青色を呈した。また、この様に製造された酸素検知剤Aは、全体の重量(濾紙の重量と、乾燥後に濾紙に含浸されている酸素インジケーター水溶液Gの重量とを合わせた重量)を100重量部とした場合、還元性糖類(グルコース4.7重量部、マルトース3.9重量部、マルトトリオース10.4重量部)を19.0重量部、塩基性物質としての水酸化ナトリウムを1.3重量部、食紅0.02重量部、酸化還元性色素であるメチレンブルーを0.05重量部含む構成となっている。また、この様に製造された酸素検知剤Aを昭和電工社製の糖分析カラムKS−801を用いて、カラム温度60℃、移動層を水とし、昭和電工社製の示差屈折率検出器Shodex RI−101で定量分析を行った。その結果、担体に担持された酸素インジケーター水溶液G中に溶解された各種成分の全重量(固形成分:グルコース、マルトース、マルトトリオース、水酸化ナトリウム、食紅、メチレンブルー)を100重量部とすると、グルコース23.2重量部、マルトース19.0重量部、マルトトリオース51.1重量部、塩基性物質としての水酸化ナトリウムを6.4重量部、食紅0.08重量部、酸化還元性色素であるメチレンブルーを0.25重量部含む構成となっていた。また、単位面積当たりの各種成分の重量は、グルコース1.20mg/m、マルトース0.98mg/m、マルトトリオース2.64mg/m、水酸化ナトリウム0.33mg/m、食紅0.004mg/m、メチレンブルー0.013mg/mを含み、単位面積当たりに固形成分は5.17mg/m含まれる構成となっていた。
【比較例】
【0070】
[酸素インジケーター水溶液の調製]
比較例の酸素インジケーター水溶液は、以下の様にして調製した。
水72gと、グルコース72gとをマグネチックスターラーを用いて混合し、還元性糖類として単糖類のみを水に溶解した還元性糖類水溶液(A’)を調製した。この還元性糖類水溶液(A’)100重量部には、単糖類が50重量部(50重量%)含まれている。
【0071】
次いで、実施例と同様の方法により塩基性物質溶液(B)、食紅水溶液(C)、酸化還元性色素水溶液(D)を調製した。
【0072】
そして、還元性糖類水溶液(A)の代わりに、上記の還元性糖類水溶液(A’)を用いたことを除いて上述した実施例と同様の方法により、還元性糖類水溶液(A’)と、塩基性物質水溶液(B)、食紅水溶液(C)および酸化還元性色素水溶液(D)とをそれぞれ混合して、比較例としての酸素インジケーター水溶液(G’)を調製した。
【0073】
以上の工程により調製した酸素インジケーター水溶液(G’)には、水23.5g(65.0重量%)、グルコース11.5(31.8重量%)、水酸化ナトリウム1.1g(3.0重量%)、食紅0.02g(0.06重量%)、メチレンブルー0.04g(0.11重量%)が含まれている。この場合、溶媒である水に溶解している各種成分(固形成分:グルコース、水酸化ナトリウム、食紅およびメチレンブルー)の全重量(12.66g)を100重量部とした場合、それぞれグルコース90.8重量部、水酸化ナトリウム8.7重量部、食紅0.16重量部、メチレンブルー0.32重量部となる。
【0074】
[酸素検知剤の製造]
以上の様にして調製した酸素インジケーター水溶液(G’)を用いた以外は、実施例と同様の方法で酸素検知剤A’を作製した。このとき、酸素検知剤A’は、実施例と同様に青色を呈した。また、この様に製造された酸素検知剤A’は、全体(濾紙と、乾燥後に濾紙に含浸されている酸素インジケーター水溶液Gとを合わせた重量)を100重量部とした場合、還元性糖類としてのグルコースを18.5重量部、塩基性物質としての水酸化ナトリウムを1.8重量部、食紅0.04重量部、酸化還元性色素であるメチレンブルーを0.08重量部含む構成となっている。また、この様に製造された酸素検知剤A’を実施例と同様に昭和電工社製の糖分析カラムKS−801を用いて、カラム温度60℃、移動層を水とし、昭和電工社製の示差屈折率検出器Shodex RI−101で定量分析を行った。その結果、担体に担持された酸素インジケーター水溶液G’中に溶解された各種成分の全重量(固形成分:グルコース、水酸化ナトリウム、食紅、メチレンブルー)を100重量部とすると、グルコース90.7重量部、塩基性物質としての水酸化ナトリウムを8.7重量部、食紅0.2重量部、酸化還元性色素であるメチレンブルーを0.4重量部含む構成となっていた。また、単位面積当たりの各種成分の重量は、グルコース4.69mg/m、水酸化ナトリウム0.45mg/m、食紅0.01mg/m、メチレンブルー0.02mg/mを含み、単位面積当たりに固形成分は5.17mg/m含まれる構成となっていた。
【0075】
[各種評価結果]
1.保管温度による色調の変化に関する評価
まず、保管温度による色調の変化に関する評価を行った。当該評価を行うに際して、まず、実施例で得られた酸素検知剤Aと、比較例で得られた酸素検知剤A’とを無酸素雰囲気下で保管し、酸化還元性色素を還元性糖類の作用の元、還元状態とした。具体的には、酸素透過度が10ml/m・日のKNY(ビニリデンコートナイロン)/PE袋に脱酸素剤と共に酸素検知剤Aを1枚密封したものを2袋作製し、一方を試料1−1、他方を試料1−2とした。
【0076】
同様に、酸素透過度が10ml/m・日のKNY(ビニリデンコートナイロン)/PE袋に脱酸素剤と共に酸素検知剤A’を1枚密封したものを2袋作製し、一方を試料2−1、他方を試料2−2とした。この様に作製した各試料(試料1−1〜試料2−2)をそれぞれ25℃の恒温槽中に保管し、脱酸素剤により酸素検知剤Aおよび酸素検知剤A’の雰囲気を無酸素状態とした。24時間経過後に、各試料(試料1−1〜試料2−2)について、その酸素検知剤Aおよび酸素検知剤A’の呈色を視認したところ、いずれも赤色を呈した。
【0077】
次に、試料1−1および試料2−1を10℃、試料1−2および試料2−2を35℃の恒温槽中に保管し、10日ごとに各試料について、その酸素検知剤Aおよび酸素検知剤A’の色調を日本電色工業製測色色差計ZE−2000で測定した。各測定値(L値、a値、b値、ΔE値)を表1に示す。但し、表1には、色差値として、実施例については試料1−1を基準とした場合の値を示し、比較例については試料2−1を基準とした場合の値を示している。
【0078】
【表1】

【0079】
表1に示す様に、30日経過後、実施例で作製した酸素検知剤Aについては、10℃で保管した試料1−1と、35℃で保管した試料1−2との色差値(ΔE)は、試料1−1を基準とした場合、15.64であった。これに対して、比較例で作製した酸素検知剤A’については、10℃で保管した試料2−1と、35℃で保管した試料2−2との色差値(ΔE)は、試料2−1を基準とした場合、35.05であった。当該結果から、実施例で作製した酸素検知剤Aは、還元性糖類として、単糖類を単独で用いるのではなく、三糖類を併用することにより、単糖類を単独で用いた比較例に対して、色調の劣化が防止されており、耐熱性に優れていることが分かる。これは、上述した様に、還元性糖類として、単糖類と二糖類とを含む第1成分と、三糖類とからなる第2成分とを共に用いることにより、単糖類を単独で用いた場合と比較して、高温(実施例においては35℃)で保管した場合でも、還元性糖類の還元基と塩基性物質との反応を低減することができためと考えられる。当該反応を低減することにより、還元性糖類の褐変を低減し、かつ、酸化還元性色素を還元状態に安定的に保持することが可能となったと考えられる。その結果、還元性糖類の褐変により酸素検知剤Aが褐色化することが防止することができたと考えられる。また、雰囲気空気が無酸素状態である場合に、酸化還元性色素の一部が酸化型の構造となって、酸化還元性色素の色調が変化することが防止できたものと考えられる。これらにより、実施例の酸素検知剤Aについては、高温で30日間保管後も、色調の劣化がないことが確認できた。
【0080】
2.保管温度による変色速度に関する評価
次に、保管温度による変色速度に関する評価を行った。当該評価は上記の試料1−1、試料1−2、試料2−1および試料2−2を用いて行った。各試料をそれぞれの保管温度において30日間保管し、30日間経過後にそれぞれ袋を開封して、酸素検知剤Aおよび酸素検知剤A’を取り出した。このとき、酸素検知剤Aおよび酸素検知剤A’はいずれも紫色〜青色に変色した。
【0081】
次いで、この紫色〜青色に変色した酸素検知剤A(試料1−1、試料1−2)および酸素検知剤A’(試料2−1、試料2−2)を酸素透過度が10ml/m・日のKNY/PE袋に脱酸素剤とともに密封し、25℃の恒温槽中に保管した。そして、24時間経過後に東レエンジニアリング製酸素計で各袋内の酸素濃度を測定した。その結果、各袋内の酸素濃度は0.1%であった。その後、各袋内の酸素濃度が0.1%になった時点(24時間経過後の時点)を基準として、酸素検知剤Aおよび酸素検知剤A’が紫色〜青色の状態から赤色に変化するまでに要する時間を測定した。この結果を表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
表2から分かる様に、酸素検知剤Aに関しては、10℃で30日保管した場合も、35℃で30日保管した場合も、それぞれ8時間で赤色に変化した。このことから、高温で保管した場合も、還元性糖類により酸化還元性色素が還元され、酸素検知剤Aの酸素検知能が維持されていることが分かる。
【0084】
これに対して、酸素検知剤A’を低温で保管した場合には、実施例で作製した酸素検知剤Aと同様に8時間で赤色に変化したことから、低温保管時においては酸素検知剤A’の酸素検知能を維持することができる点が確認できる。しかし、35℃で30日保管した場合には、酸素検知剤A’は赤色に変色せず、酸化還元性色素が還元状態に戻らなかったことが分かる。これは、酸素検知剤A’を高温下で保管する間に、還元性糖類の還元基が塩基性物質と反応して分解したため、酸化還元性色素に対する還元作用を示さなかったためと考えられる。
【0085】
また、無酸素状態において、酸化還元性色素を還元状態に保持するには、単糖類であるグルコースを単独で用いる比較例に示す場合に比して、本実施例では還元性糖類の含有量が多くなっている。この結果として、本実施例の酸素インジケーター水溶液と、比較例の酸素インジケーター水溶液とを同じ重量において比較した場合、本実施例の酸素インジケーター水溶液の水に対する酸化還元性色素の濃度は比較例よりも高くなる。従って、本発明に係る酸素インジケーター水溶液では、従来よりも高濃度の酸化還元性色素水溶液として調製することができる。よって、本実施例の酸素検知剤によれば、還元性糖類の褐変を防止した状態で、高濃度に含む酸化還元性色素の酸化還元反応により雰囲気中の酸素量の変化に応じて鮮やかな色調変化と、迅速な変色応答性を示すことができる。
【0086】
以上の様に、本発明に係る酸素検知剤および酸素インジケーター水溶液は、還元性糖類として、還元性三糖類からなる第2成分を含むことにより、単糖類又は単糖類と還元性二糖類からなる第1成分を単独で含む場合と比して、還元性糖類を安定に保持して、還元性糖類の褐変および還元力の低下を防止することができる。また、水に対する酸化還元性色素の濃度を従来よりも高くすることができる。これらにより、本発明に係る酸素検知剤は、耐熱性が高く、常温での保管が可能であると共に、雰囲気温度によらず優れた酸素検知能を維持することができる。そして、常温での保管が可能であるため、出荷前の製品保管コストを低減することができる。また、夏季等の高温雰囲気下で使用される場合にも、雰囲気中の酸素量の変化に応じて鮮やかな色調変化と、迅速な変色応答性を示す酸素検知剤の提供が可能となる。更に、本発明に係る酸素検知剤の製造方法によれば、この様に耐熱性が高く、常温での保管が可能であると共に、雰囲気温度によらず優れた酸素検知能を維持することのできる酸素検知剤の製造が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元性糖類と、塩基性物質と、当該還元性糖類によって還元される酸化還元性色素とを含む酸素インジケーター水溶液を担体に担持させた酸素検知剤であって、
当該還元性糖類として、第1成分としての単糖類と、第2成分としての還元性三糖類を含むこと、を特徴とする酸素検知剤。
【請求項2】
前記第1成分は、更に還元性二糖類を含むものである請求項1記載の酸素検知剤。
【請求項3】
前記単糖類として、D−マンノース、D−グルコース、D−フラクトース、D−エリスロース、D−アルトロースのうち、いずれか1種又は2種以上を用いる請求項1又は請求項2記載の酸素検知剤。
【請求項4】
前記還元性二糖類として、マルトースおよびラクトースのうち、いずれか1種又は2種を用いる請求項2に記載の酸素検知剤。
【請求項5】
前記還元性三糖類として、マルトトリオース、セロトリオース、マンニノトリオースおよびバノースのうち、いずれか1種又は2種以上の還元性三糖類を用いる請求項1〜請求項4のいずれかに記載の酸素検知剤。
【請求項6】
前記還元性糖類によって還元されない色素を更に含む請求項1〜請求項5のいずれかに記載の酸素検知剤。
【請求項7】
前記担体および当該担体に担持させた酸素インジケーター水溶液の全重量を100重量部とした場合に、前記還元性糖類を10重量部〜30重量部、前記塩基性物質を0.5重量部〜2.5重量部、前記酸化還元性色素を0.01重両部〜0.1重量部含む請求項1〜請求項6のいずれかに記載の酸素検知剤。
【請求項8】
前記塩基性物質を100重量部とした場合、前記酸素インジケーター水溶液の水分量は450重量部〜1050重量部である請求項1〜請求項7のいずれかに記載の酸素検知剤。
【請求項9】
前記担体がシート状である請求項1〜請求項8のいずれかに記載の酸素検知剤。
【請求項10】
還元性糖類と、塩基性物質と、当該還元性糖類によって還元される酸化還元性色素とを含む酸素検知剤の製造方法であって、
当該還元性糖類を含む還元性糖類水溶液を調製する第1過程と、
当該塩基性物質を含む塩基性物質水溶液を調製する第2過程と、
当該還元性色素を含む還元性色素水溶液を調製する第3過程と、
当該還元性糖類水溶液と、当該塩基性物質水溶液と、当該還元性色素水溶液とを混合して、酸素インジケーター水溶液を調製する第4過程と、
当該酸素インジケーター水溶液を担体に担持させる第5過程と、を含み、
当該還元性糖類水溶液は、第1成分としての単糖類と、第2成分としての還元性三糖類を含むこと、を特徴とする酸素検知剤の製造方法。
【請求項11】
前記第1成分は、更に還元性二糖類を含むものである請求項10記載の酸素検知剤の製造方法。
【請求項12】
前記単糖類として、D−マンノース、D−グルコース、D−フラクトース、D−エリスロース、D−アルトロースのうち、いずれか1種又は2種以上を用いる請求項10又は請求項11に記載の酸素検知剤の製造方法。
【請求項13】
前記二糖類として、マルトース、又は、ラクトース、或いは、その双方を用いる請求項11に記載の酸素検知剤の製造方法。
【請求項14】
前記還元性三糖類として、マルトトリオース、セロトリオース、マンニノトリオースおよびバノースのうち、いずれか1種又は2種以上の還元性三糖類を用いる請求項10〜請求項13のいずれかに記載の酸素検知剤の製造方法。
【請求項15】
前記還元性糖類水溶液は、前記第1成分を20重量%〜40重量%、前記第2成分を30重量%〜50重量%含む請求項10〜請求項14のいずれかに記載の酸素検知剤の製造方法。

【公開番号】特開2011−95020(P2011−95020A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247281(P2009−247281)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000231970)パウダーテック株式会社 (91)
【Fターム(参考)】