説明

酸素欠陥マグネタイト中空粒子、その製造方法およびその用途

【構成】 酸素欠陥マグネタイトを含み、粒子径が0.04〜110μm、粒子径に対する内部空孔径の比が0.3〜0.95である酸素欠陥マグネタイト中空粒子、並びにその製造方法、およびその用途。
【効果】 比表面積が大であり、二酸化炭素の固定または吸着、および分解能を有する酸素欠陥マグネタイト中空粒子を安価かつ簡便に製造し、使用できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、二酸化炭素固定化触媒として好適な酸素欠陥構造を有するマグネタイト中空粒子、並びにその製造方法およびその用途に関する。
【0002】
【従来の技術】地球が温暖化されつつあり、その主要因は、自然の回復力を上回るほどに二酸化炭素が大気中に放出されるようになったことにあるといわれている。この二酸化炭素を削減する方法として、省エネルギー化の推進が考えられるが、これは発展途上国の工業化や東欧諸国の急激な経済成長によって化石燃料が大量消費される場合を考えると抜本的な解決策とは必ずしも言うことができない。そのため化石燃料を使用し、なおかつ地球温暖化を引き起こさないために二酸化炭素の分解除去、または固定化技術の開発が望まれている。
【0003】二酸化炭素の固定化技術としては、化学吸収法、物理吸収法、吸着法、膜分離法等が研究されており、また、分解除去技術としては、半導体光触媒、金属コロイド触媒、金属錯体、酸素等による光化学的還元法、電気化学的還元法、化学的固定変換反応法(塩基との反応、転移反応、脱水反応、付加反応等)およびバイオ技術による方法等が検討されている。
【0004】しかし、上記いずれの方法も、反応効率、コスト、エネルギー、二次公害発生等の問題点を有し実用化が困難である。また、上記方法を実施した場合、生成物の資源としての再利用が不可能であることから、エネルギー、資源等が無駄に消費されることとなる。
【0005】近年、特殊な鉄酸化物である酸素欠陥マグネタイトの存在下で二酸化炭素を加熱することにより殆んど100%炭素に分解しうることが、報告された(Y.Tamuraら、Nature 346巻、255〜256頁、1990年)。この酸素欠陥マグネタイトによる二酸化炭素の分解方法においては、300〜400℃の排ガス温度付近で反応が進行するため、系外からエネルギーを注入する必要がなく、また炭素として回収できることから炭素を出発物質とする種々の有機物を得ることができる等の利点がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記酸素欠陥マグネタイトは、いまだ比表面積の小さいものしか得られていないため触媒効率が低いものである。そこで、比表面積の大きい、従って触媒効率の大きな酸素欠陥マグネタイトの開発が望まれている。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、かかる実情に鑑み鋭意検討した結果、シェルに酸素欠陥マグネタイトを含む、特定サイズのマグネタイト中空粒子が良好な二酸化炭素除去作用を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】本発明は、酸素欠陥構造を有するマグネタイトを含み、粒子径が0.01〜150μm、粒子径に対する内部空孔径の比が0.3〜0.95であることを特徴とする酸素欠陥マグネタイト中空粒子を提供するものである。本発明は、また、マグネタイト中空粒子を水素、不活性ガス、またはそれらの混合ガス雰囲気下で加熱処理によって部分的に還元することを特徴とする上記酸素欠陥マグネタイト中空粒子の製造方法を提供するものである。
【0009】本発明は、さらに、上記酸素欠陥マグネタイト中空粒子よりなることを特徴とする二酸化炭素固定化触媒を提供するものである。
【0010】本発明方法においては、まず酸素欠陥マグネタイト粒子の前駆体であるマグネタイト中空粒子を製造する。すなわち、加水分解性鉄塩の水溶液中にコアとなる、粒子径が0.01〜140μm の球状重合体を分散せしめ、加水分解反応により該球状重合体粒子上に酸化鉄層をもうけ、球状重合体−酸化鉄複合粒子を得る。次いで、上記球状重合体−酸化鉄複合粒子を水素雰囲気下、例えば150℃以上、好ましくは250℃以上、または空気中、例えば150℃以上、好ましくは300℃以上で処理しさらに必要に応じ還元し、部分的に還元することにより、球状マグネタイト中空粒子を得る。
【0011】あるいはまた、コアとなる粒子径が0.01〜140μm の球状重合体粒子とシェルとなる粒子径がその1/5以下である酸化鉄粒子を気流中で高速攪拌することにより球状重合体−酸化鉄複合粒子を得、次いで上記と同様の熱処理操作によりマグネタイト中空粒子を得る。上記で得られたマグネタイト中空粒子の粒子径は0.01〜150μm であり、粒子径に対する内部空孔径の比は0.3〜0.95である。
【0012】本発明の酸素欠陥マグネタイト中空粒子は、上記で得られたマグネタイト中空粒子を水素、不活性ガス、またはそれらの混合ガス雰囲気下、例えば250℃以上、好ましくは270℃以上、特に好ましくは290℃以上で加熱処理することによって部分的に還元することにより得られる。
【0013】上記において、加水分解性鉄塩を用いる複合粒子の製造において、コアとなる重合体粒子の製造に使用する単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、ジビニルベンゼン等の不飽和芳香族類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;メチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート等の不飽和カルボン酸アルキルエステル;その他に、ブタジエン、イソプレン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルアクリレート、アリルメタクリレート等を例示することができる。またこれらの単量体は、単独でも2種以上混合しても使用することができる。なお、重合体粒子は、上記単量体の乳化重合、懸濁重合等によって得ることができ、あるいは重合体バルクの粉砕によっても得ることができる。
【0014】また、加水分解性鉄塩としては、例えばFe(NO33 、FeCl3 、Fe(SO43 等を挙げることができる。これらの加水分解性鉄塩の使用量は、0.01ミリモル/反応混合液1l以上が好ましく、さらに好ましくは0.1ミリモル/反応混合液1l、特に好ましくは1ミリモル/反応混合液1lであるが、上限は一般的に100ミリモル/反応混合液1l以下である。これらは加熱により容易に加水分解する。それにより酸化鉄となり、これらがコアとなる重合体粒子表面に均一に被覆される。この被覆効率を向上させるには、核発生時の酸化鉄粒子と重合体粒子とのチャージ差を大きくすればよい。
【0015】また、上記において、高速攪拌により複合粒子を得る場合、重合体粒子としては上記と同様のものを挙げることができる。この方法において、重合体粒子の表面に酸化鉄粒子によってシェルを形成するには、まず重合体粒子と酸化鉄粒子とを混合し、次いで、これら重合体粒子と酸化鉄粒子とを攪拌翼付きの容器内で、気流中で高速攪拌する。この高速攪拌によって粒子同士または粒子と攪拌翼若しくは容器壁面とが衝突して、粒子表面に局所的な衝突エネルギーが発生し、このエネルギーによって重合体粒子表面が溶融または酸化鉄粒子が展伸されて被覆層が重合体粒子表面に形成され、複合粒子が形成される。この方法においては、重合体粒子同士の融合を防止し、使用した重合体粒子の個々の表面に均一な被覆層を形成することができる。なお、ボールミル、自動乳鉢等の低速攪拌機では、このような被覆層を形成することができない。
【0016】この方法における攪拌翼の周速度は好ましくは15m/秒以上、さらに好ましくは30m/秒以上、特に好ましくは40〜150m/秒である。攪拌翼の周速度が15m/秒より低いと、被覆層を形成するに十分なエネルギーを得ることが困難となる。ここで、高速攪拌を行う高速攪拌機としては、例えばハイブリダイザー(奈良機械製作所(株)製)、オングミル(ホソカワミクロン(株)製)等を挙げることができる。この方法において、上記重合体粒子と無機質粒子とを高速攪拌機内に多量に導入して高速攪拌すると粒子同士あるいは粒子と攪拌翼または容器壁面との衝突が必要以上に起こって所望の被覆層を形成しにくくなり、または高速攪拌が困難になるので重合体コア粒子、無機質粒子等の合計量が高速攪拌機内容積の1l当たり好ましくは10〜100g、さらに好ましくは20〜70gとなるようにする。
【0017】重合体粒子と無機質粒子との使用割合については、重合体コア粒子100重量部当たり無機質粒子を好ましくは1〜100重量部の割合で使用する。
【0018】上述の方法によって得られた複合粒子を、好ましくは酸素存在下で150℃以上、好ましくは350℃以上、特に好ましくは500℃以上で無機質粒子の分解温度以下に加熱することにより、コアの重合体を分解し、ガス化させて粒子内部から飛散させ、粒子内部に空孔を持たせた無機質中空粒子を得ることができる。上記分解において、重合体コア粒子を完全に分解し、ガス化させやすくするためには、その重合体として熱可塑性であることが好ましい。
【0019】かくして得られる本発明の中空粒子は、シェルを形成するマグネタイトの一部、あるいはほとんど全部に酸素欠陥が生じ、多孔体を形成しているものである。また、酸素欠陥が生じてもスピネル型構造を保持するが、格子定数が化学量論的なマグネタイトの格子定数よりは大きくなる。すなわち、化学量論的なマグネタイトの格子定数が0.83967nmに対し、本発明の中空粒子の格子定数は0.8397〜0.8450nmである。
【0020】かくして得られる本発明の中空粒子は、シェルを形成するマグネタイトの一部、好ましくは殆んど全部に酸素欠陥が生じ、多孔体を形成しているものである。
【0021】本発明の酸素欠陥マグネタイト中空粒子の粒子径は、0.01〜150μm、好ましくは0.04〜110μm、特に好ましくは0.4〜10μm である。粒子径に対する内部空孔径の比は0.3〜0.95、好ましくは0.5〜0.9、さらに好ましくは0.6〜0.9である。
【0022】本発明の酸素欠陥マグネタイト中空粒子の比表面積は、好ましくは5m2/g以上であり、さらに好ましくは50m2/g以上であり、特に好ましくは100m2/g以上である。1m2/g以下のものは触媒効率が悪い。
【0023】また、上記中空粒子は単分散で均一なシェルを有するものであり、粒子径および空孔径を上記範囲で自由に調節できる。
【0024】〔酸素欠陥マグネタイト中空粒子の用途〕本発明の酸素欠陥マグネタイト中空粒子は、例えば一体構造を有するハニカム担体にウォッシュコートし、乾燥し、必要に応じ焼成し、二酸化炭素固定化触媒として使用することができる。
【0025】一体構造を有するハニカム担体は、通常セラミックハニカム担体と称されるものであればよく、とくにコージェライト、ムライト、α−アルミナ、ジルコニア、チタンマ、リン酸チタン、アルミニウムチタネート、ペタライト、スポジュメン、アルミノ・シリケート、珪酸マグネシウム等を材料とするハニカム担体が好ましく、中でもコージェライト質のものがとくに内燃機関用として好ましい。その他、ステンレス、Fe−Cr−Al合金等の酸化抵抗性耐熱金属を用いて一体構造としたものも使用できる。これらモノリス担体は、押出成型法や、シート状素子を巻き固める方法等により製造できる。そのガス通過口の形状(セル形状)は、6角形、4角形、3角形、またはコルゲーション形のいずれであってもよい。セル密度(セル数/単位断面積)は150〜600セル/(インチ)2であれば十分に使用可能で、好結果を与える。
【0026】かくして得られる二酸化炭素固定化触媒を、例えば自動車のエンジンとマフラーとの間の部位に、火力発電装置の燃焼室と排気ダクトとの間の部位に、また、鉄鋼所の加熱炉と排気ダクトとの間の部位にそれぞれ設置し、二酸化炭素排出量の低減に寄与せしめることができる。
【0027】なお、上記触媒の設置は、二酸化炭素分解効率の点から、150℃以上、さらに250℃以上、特に300℃以上となる部位が好ましい。
【0028】上記二酸化炭素固定化触媒は炭素をともなって回収されることから、この炭素を出発物質として種々の炭素化合物を合成することができる。例えば炭素析出マグネタイト中空粒子を250℃以上で水素と反応させればメタンが発生し、同時に本発明の酸素欠陥マグネタイト中空粒子が再生される。また、250℃以上で空気と反応させれば一酸化炭素が発生する。一酸化炭素は水素と反応させることにより、メタノールを生成する。ここで必要な水素ガスは、炭素析出マグネタイト中空粒子を350℃以上で水蒸気と反応させることにより得られる。
【0029】
【実施例】以下に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】〔コアとなる球状重合体粒子の製造〕
例−1−11000mlフラスコに蒸留水574g、過硫酸カリウム1.0g、およびドデシル硫酸ナトリウム0.30gを入れて10分間撹拌し、それらを完全溶解させた。次いで、スチレン単量体を100g添加し、N2ガスをパージしながら5分間撹拌した。その後、フラスコをウォーターバスに入れ80℃で4時間反応させ、次いで室温まで冷却させた。冷却後、濾紙を使用し、凝集物を除去した。得られた球状重合体粒子分散液の全固形分は14.7重量%であった。この球状重合体粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡で確認したところ、0.42μmであった。また、この球状重合体粒子のガラス転移点(Tg)は100℃、重量平均分子量は1万であった。この球状重合体分散液の濃度を1g/lとなるように蒸留水を加え調整した。
【0031】例−1−2球状重合体粒子として日本合成ゴム(株)社製STADEX SC−310−S(ポリスチレン粒子)を使用した。平均粒子径は3.1μmであった。この球状重合体粒子分散液の濃度を1g/lとなるように蒸留水を加えて調整した。また、この球状重合体は、ガラス転移点が105℃、重量平均分子量が70万であった。
【0032】例−1−3球状重合体粒子としてDuke Scientific Coporation社製、No.120粒子(ポリスチレン/ジビニルベンゼン共重合体)を使用した。平均粒子径は20μm、ガラス転移点は150℃以上で、重量平均分子量は100万以上であった。この球状重合体粒子分散液の濃度を1g/lとなるように蒸留水を加えて調整した。
【0033】例−1−4特公昭57−24369号公報記載の方法にシード重合法の操作を数回組み合せ、球状重合体粒子としてスチレン重合体粒子を製造した。この球状重合体は、ガラス転移点が98℃、重量平均分子量は63万であった。また、この粒子は平均粒子径が59μmで、分球により49μm〜70μmの範囲の粒子径を有する粒子が全体の98重量%を占めるような粒子径分布を有する、比較的粒子径のそろったものであった。
【0034】〔球状重合体−酸化鉄複合粒子の製造〕
例−2−1球状重合体の製造例−1−1で得られた球状重合体粒子分散液(濃度1g/l)1ml、ポリビニルピロリドンの3重量%水溶液3ml、4.4モル/lに調整された尿素水溶液1ml、0.1モル/lの塩酸3ml、蒸留水1mlおよび塩化鉄(III)5×10-2モル/l溶液1mlを11ml容栓付耐圧試験管に入れた。超音波ウォーターバスで1分間良く撹拌した後、予め100℃にセットされた恒温槽に2日間入れ加水分解させた。その後室温まで冷却し、遠心分離により複合粒子を沈降させ、上澄溶液を分離後、蒸留水を加え、超音波ウォーターバスに完全に粒子が分散するまで入れるという洗浄工程を5回繰り返した。その後、この粒子を常温で乾燥した。この複合粒子を電子顕微鏡にて観察したところ、平均粒子径は0.58μm、粒子外径に対する内径(球状重合体径)の比が0.72の完全に粒子表面が均一な酸化鉄層で被覆された球状重合体−酸化鉄複合粒子が得られた。複合粒子の外径に対する内径の比はマイクロトームによる粒子の切断面写真から算出した。この粒子を赤外吸収スペクトル、X線回折、熱重量分析、元素分析、ガスクロマトグラフィーおよび電気泳動装置で確認したところ、コアがスチレン共重合体、シェルがα−Fe23からなる複合粒子であることが確認された。
【0035】例−2−2以下の成分を用いて、例−2−1と同様の方法により球状重合体−酸化鉄複合粒子を製造した。
例−1−2のスチレン重合体 0.1g/l塩化鉄(III) 5×10-3ml/lポリビニルピロリドン 0.9重量部(対スチレン重合体100重量部)
尿素 0.44ml/l塩酸 0.03ml/lこの複合粒子は、電子顕微鏡にて観察したところ、平均粒子径は4.5μm、粒子外径に対する内径(スチレン重合体径)の比が0.69の完全に粒子表面が均一な層で被覆された球状重合体−酸化鉄複合粒子であった。
【0036】例−2−3以下の成分を用いて、例−2−1と同様の方法により、球状重合体−酸化鉄複合粒子を製造した。
例−1−3のスチレン/ジビニルベンゼン共重合体 0.1g/l 塩化鉄(III) 5×10-3ml/l ポリビニルピロリドン 0.9重量部 (対スチレン重合体100重量部)
尿素 0.44モル/l 塩酸 0.03モル/l得られた複合粒子は、電子顕微鏡にて観察したところ、平均粒子径は25μm、粒子外径に対する内径(球状重合体径)の比が0.80の完全に粒子表面が均一な層で被覆された球状重合体−酸化鉄複合粒子であった。
【0037】例−2−4ガラス製1l反応容器に、5×10-3ml/lのFeCl3、3×10-2ml/lの塩酸、0.9重量%のポリビニルピロリドン0.5mol/lの尿素を入れ、水で合計量が800ccになるようにチャージした。これを恒温槽に入れ100℃で48時間反応させてα−Fe23(ヘマタイト)粒子を得た。この粒子は、平均粒子径0.25μm、0.21〜0.35μmの範囲の粒子径を有する粒子が全体の95重量%を占めるような粒子径分布を持っていた。この粒子を水洗、乾燥し、以下の方法で球状重合体−酸化鉄複合粒子を製造した。次いで、例−1−4で作製したスチレン重合体粒子80gをコア粒子とし、これに上記ヘマタイト粒子10gと数平均粒子径が0.15μmのポリメチルメタクリレート(P−MMA)粉体(MP−1451、綜研化学(株)製)10gを被覆層形成用助剤として混合し、この混合物を内容積4lのハイブリダイザーNHS−1型(奈良機械製作所(株)製)を使用して室温にて羽根の周速度84m/秒で3分間処理し、球状重合体−ヘマタイト複合粒子を得た。得られた複合粒子の数平均粒子径は63μm、粒子外径に対する内径(球状重合体径)の比は0.94であった。
【0038】〔マグネタイト中空粒子の製造〕
例−3−1例−2−1で得られた複合粒子0.3gを空気雰囲気下で室温から800℃まで10℃/分の条件で昇温し、800℃で3時間ホールドした。その後20℃/分の割合で室温まで冷却した。得られた球状中空粒子の平均粒子径は0.54μm、粒子外径に対する内径の比が0.78であった。この中空粒子を例−2−1と同様な方法で分析したところ、コアが空孔、シェルがヘマタイトであった。上で得られた中空ヘマタイト粒子0.3gを水素ガス雰囲気下室温から350℃まで10℃/分で昇温し、350℃で1時間ホールドした。その後、20℃/分の割合で室温まで冷却した。得られた中空酸化鉄粒子の平均粒子径は0.50μm、粒子径に対する内部空孔径の比が0.84であった。この中空粒子を例−2−1と同様の方法で分析したところ、シェルはマグネタイトであった。
【0039】例−3−2〜4使用する球状重合体−酸化鉄複合粒子を変えた例−3−2〜4を例−3−1とともに表1に示した。製造条件は、表1に示す項目を変化させた以外は、例−3−1に従った。
【0040】
【表1】


【0041】〔酸素欠陥マグネタイト中空粒子の製造〕
実施例1例−3−1で得られたマグネタイト中空粒子0.3gを水素ガス雰囲気下280℃まで10℃/分で昇温し、290℃で2時間ホールドした。その後20℃/分で室温まで冷却した。得られた酸素欠陥マグネタイト中空粒子の平均粒子径は0.52μm、粒子径に対する内径の比が0.81であった。また、この粒子の比表面積は、この粒子をIR、X線回析、ガスクロマトグラフィーで確認したところ、シェルが酸素欠陥マグネタイトからなる中空粒子であることが確認された。
実施例2〜8使用するマグネタイト中空粒子、ガス雰囲気、加熱温度昇温率、および加熱時間をそれぞれ変えた実施例2〜8を実施例1とともに表2及び表3に示した。製造条件は表2及び表3に示す項目を変化させた以外は、実施例1に従った。
【0042】
【表2】


【0043】
【表3】


【0044】〔酸素欠陥マグネタイト中空粒子によるCO2分解反応〕実施例1〜8で得られた、球状酸素欠陥マグネタイト中空粒子の二酸化炭素分解効率を測定した。
【0045】管状電気炉中に球状酸素欠陥マグネタイト中空粒子1gを入れ二酸化炭素を流通させ、石英管の入口と出口のバルブを閉じ、300℃に加熱し二酸化炭素分解反応を行なわせた。反応セル内の二酸化炭素の量をガスクロマトグラフィーにより測定した。表4にその結果を示した。なお比較として前駆体であるマグネタイト中空粒子の二酸化炭素分解効率も測定した。
【0046】
【表4】


【0047】
【発明の効果】本発明により、酸素欠陥マグネタイトを含むシェルからなる中空粒子を安価、簡便かつ高効率で得ることができる。該中空粒子は多孔質のものとすることができ、大きな比表面積を有するものであり、二酸化炭素の固定または吸着に著効を示すとともに、二酸化炭素をほぼ100%炭素にまで分解しうるものである。従って、本発明の酸素欠陥マグネタイト中空粒子は、二酸化炭素の大気中への放出によりもたらされる地球温暖化現象に対する有効な防止剤であり、二酸化炭素の固定に使用できる。また、使用の結果得られる炭素析出マグネタイト中空粒子は、そのまま燃料としても、また炭素化合物の合成原料としても利用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 酸素欠陥構造を有するマグネタイトを含み、粒子径が0.01〜150μm、粒子径に対する内部空孔径の比が0.3〜0.95であることを特徴とする酸素欠陥マグネタイト中空粒子。
【請求項2】 マグネタイト中空粒子を水素、不活性ガス、またはそれらの混合ガス雰囲気下で加熱処理によって部分的に還元することを特徴とする請求項1記載の酸素欠陥マグネタイト中空粒子の製造方法。
【請求項3】 請求項1記載の酸素欠陥マグネタイト中空粒子よりなることを特徴とする二酸化炭素固定化触媒。