説明

酸素遮断膜形成用塗布液、及びそれを用いるカラーフィルターの製造方法

【課題】0.5μmより薄い塗膜であっても均一に形成することができ、スピンレスコーターなどが利用される大型基板にも適用可能な、酸素遮断膜形成用の塗布液を提供し、感光性着色樹脂膜上にその塗布液を塗布して酸素遮断膜を形成することで、カラーフィルターの生産効率を上げる。
【解決手段】重合度500〜2,400でけん化度78モル%以上のポリビニルアルコールと、ポリオキシエチレンアルキルエーテルとを含有する、カラーフィルター製造のための酸素遮断膜形成用塗布液が提供される。基板上に設けた感光性着色樹脂膜の上に、上記の塗布液を塗布し、乾燥させて酸素遮断膜を形成し、そこにパターン露光し、現像して着色パターンを形成することにより、カラーフィルターが製造できる。この酸素遮断膜は、0.01〜0.1μmの膜厚で形成するのが有利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーフィルター製造のための酸素遮断膜の形成に用いる塗布液、及びそれを用いるカラーフィルターの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレーやプラズマディスプレーパネルの製造、また電子回路の製作など、数μm 〜100μm 程度の精密なパターンを形成する場合、感光性樹脂を用いるフォトリソグラフィー法が広く採用されている。
【0003】
フォトリソグラフィー法は、ガラス等の基板上に感光性樹脂膜を形成する工程、感光性樹脂膜にパターン露光する工程、及び、露光部と非露光部の現像液への溶解度差を利用して樹脂のパターンを現出させる現像工程を包含する。このフォトリソグラフィー法は、パターンの重ね精度が高く、2mを超える大型基板に対するパターニングも可能である。
【0004】
しかし、基板が大型化すると、露光光の照度が低下するため、所望の工程時間を維持するには、感光性樹脂膜の露光精度を向上させる必要がある。感光性樹脂膜の露光精度を高める手法として、当該樹脂膜の表面に酸素遮断膜を形成し、その後パターン露光する方法が知られている。
【0005】
例えば、特開平 5-119210 号公報(特許文献1)には、基板上にカラーフィルター着色材をコーティングして着色材層を設け、その上に界面活性剤を含む光硬化性の樹脂液をコーティングして酸素遮断膜を形成した後、パターン露光することが記載されている。特開平 5-127011 号公報(特許文献2)には、基板上に設けられた着色剤分散感光性樹脂層上に酸素遮断膜をパターン化して設け、基板の位置合せマーク部上やプロキシミティーギャップセンシング部上には酸素遮断膜が形成されないようにして、その上からパターン露光することが記載されている。特開平 5-134110 号公報(特許文献3)には、感光性樹脂層の上に酸素遮断膜を形成し、その上からマスクを介して所定の露光エネルギーとなるように光照射することが記載されている。特開平 5-210008 号公報(特許文献4)には、ガラス基板上に設けられたカラーレジスト層の上に、重クロム酸アンモニウムを含むポリビニルアルコールからなる酸素遮断膜を設け、次にパターン露光することが記載されている。特開平 5-281408 号公報(特許文献5)には、基板上に形成された着色感光性樹脂層の上に、ポリアルキレングリコール系界面活性剤が添加された高分子水溶液を塗布し、酸素遮断膜を形成することが記載されている。特開平 6-109911 号公報(特許文献6)には、ポリアルキレングリコール系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤が添加された高分子水溶液を用いて、上記の如き酸素遮断膜を形成することが記載されている。特開平 11-288095号公報(特許文献7)には、酸素遮断性を有する水溶性高分子と可塑剤を含む材料で、上記の如き酸素遮断膜を形成することが記載されている。また、特開 2005-3861号公報(特許文献8)には、仮支持体上に感光性黒色樹脂層を形成した転写材料を透明基板にラミネートし、仮支持体を剥離して、パターン露光及び現像を行い、ブラックマトリックスを形成すること、及び、その転写材料は、感光性黒色樹脂層とともに、熱可塑性樹脂層と酸素遮断層を有することが記載されている。
【0006】
酸素遮断膜は、感光性樹脂膜の上に、酸素遮断性があり、かつ水溶性の樹脂、例えば、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等の水溶性樹脂の水溶液を塗布することにより形成される。酸素遮断膜の存在により、感光性樹脂膜の架橋反応を阻害する酸素が感光性樹脂膜へ拡散することを抑制し、これにより感光性樹脂膜の感度を向上させることができる。
【0007】
酸素遮断膜の形成には、上記の如き水溶性樹脂の水溶液を感光性樹脂膜上にスピンコーターやロールコーター等で塗布し、得られる液膜を加熱等により乾燥させる方法が一般に採用されている。この酸素遮断膜は水溶性であり、露光後の現像工程において現像液に溶解することにより、感光性樹脂膜から除去される。
【0008】
酸素遮断膜の感光性樹脂に対する濡れ性を改善して均一な塗膜を形成するために、上記特許文献5では、ポリアルキレングリコール系界面活性剤を添加した高分子水溶液を酸素遮断膜の形成に用いることが、また上記特許文献6では、ポリアルキレングリコール系界面活性剤とともにフッ素系界面活性剤を添加した高分子水溶液を酸素遮断膜の形成に用いることが、それぞれ提案されている。しかしこれらの文献では、酸素遮断膜は少なくとも0.5μmの厚みが必要とされており、このような厚みを得るためにはスピンコート法やロールコート法で塗布しなければならないため、装置コスト面から大型基板の製造には向いていない。
【0009】
さらに、水溶性樹脂膜といえども、市販のポリビニルアルコールから形成される膜は、溶解速度が遅く、0.5μm以上の厚みになると、残渣や異物発生のリスクがあるのみならず、タクト短縮のために高価な温水洗浄設備が必要とされる。
【0010】
一方、従来の酸素遮断膜形成用組成物では、感光性樹脂膜の表面が疎水性であることから、水溶性である酸素遮断膜を0.1μm以下の薄膜状で大型の基板全面に均一に形成することが困難であり、スリットコーターノズルに起因する筋状の塗布ムラ、また塗布ステージの吸着ピンやリフトピンなど装置に起因する温度差を反映した干渉ムラが多発し、これがパターンのムラ欠陥となって、歩留まりを低下させる原因となっていた。
【0011】
【特許文献1】特開平5−119210号公報
【特許文献2】特開平5−127011号公報
【特許文献3】特開平5−134110号公報
【特許文献4】特開平5−210008号公報
【特許文献5】特開平5−281408号公報
【特許文献6】特開平6−109911号公報
【特許文献7】特開平11−288095号公報
【特許文献8】特開2005−3861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような実情に鑑みてなされたもので、0.5μmより薄い塗膜であっても均一に形成することができ、また、スピンレスコーターなどの簡便な装置を利用できる大型基板にも適用可能な、酸素遮断膜形成用の塗布液を提供することを目的とする。さらに、この塗布液を用いて酸素遮断膜を形成することにより、露光時間を大幅に短縮でき、生産性を向上できるカラーフィルターの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、重合度 500〜2,400でけん化度78モル%以上のポリビニルアルコールからなる水溶性樹脂と、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなる界面活性剤とを含有するカラーフィルター製造のための酸素遮断膜形成用塗布液が提供される。この塗布液は具体的には、これらの成分が水に溶解した状態となっている。
【0014】
この塗布液において、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、例えば、下式(I)で示されるポリオキシエチレンアルキルエーテルや、下式(II)で示されるポリオキシプロピレンアルキルエーテルであることができる。
【0015】
R−(OCH2CH2)nOH (I)
R−[OCH2CH(CH3)]nOH (II)
(式中、Rは炭素数8〜18の直鎖アルキル基を表し、nは4〜20の数を表す)
【0016】
また本発明によれば、基板の上に感光性着色樹脂膜を形成する工程、その感光性着色樹脂膜の上に上記の塗布液を塗布し、乾燥させて酸素遮断膜を形成する工程、その酸素遮断膜を介して前記感光性着色樹脂膜にパターン露光する工程、及び、露光後に現像して着色パターンを形成する工程を備えるカラーフィルターの製造方法も提供される。酸素遮断膜は、0.01〜0.1μm の膜厚で形成するのが有利である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の塗布液は、乾燥後の塗膜を0.5μmより薄くしても均一な酸素遮断膜を形成することができる。したがって、感光性着色樹脂膜の上にこの塗布液を塗布して酸素遮断膜を形成すれば、露光精度を高め、露光時間を大幅に短縮できるため、生産性をも向上できるカラーフィルターの製造方法を提供することができる。また、スピンレスコーターなどの簡便な装置が利用できることから、大型基板上でのカラーフィルターの製造が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明においては、水溶性樹脂としてポリビニルアルコールを、また界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルを用い、これらを水に溶解させて酸素遮断膜形成用の塗布液とする。そしてポリビニルアルコールは、重合度とけん化度が所定範囲のものを用いる。
【0019】
(塗布液の調合)
本発明の酸素遮断膜形成用塗布液に用いるポリビニルアルコールは、重合度が500〜2,400 で、けん化度が78モル%以上のものである。具体的には例えば、(株)クラレから以下の商品名で販売されているポリビニルアルコールを挙げることができる。
【0020】
“PVA-105”、“PVA-110”、“PVA-117H”、“PVA-120”、“PVA-124”;
“PVA-203”、“PVA-204”、“PVA-205”、“PVA-210”、“PVA-220”、“PVA-224”、
“PVA-217E”;
“PVA-405”、“PVA-420”;“PVA-613”。
【0021】
(株)クラレの商品名においては、“PVA-”に続く3桁の数字のうち、下2桁×100が重合度の目安とされている。
【0022】
また、日本合成化学工業(株)から“ゴーセノール”や”ゴーセファイマー LW” の商品名で販売されているポリビニルアルコールも、本発明で規定する重合度を満たすポリビニルアルコールの例として挙げることができる。
【0023】
ポリビニルアルコールの重合度が500未満の場合は、0.01μm 以上、特に0.05μm 以上の膜厚で強い強度の均一な塗膜が形成できず、一方、重合度が 2,400を超えると、塗布膜の均一性が低下し、かつ再溶解性が低下して、所望の効果が得られにくい。また、ポリビニルアルコールのけん化度が78モル%未満の場合は、得られる塗膜の均一性が低下してしまう。
【0024】
なお、本発明においては、水溶性樹脂としてポリビニルアルコールを用いる必要があるが、他の水溶性樹脂を混合することも可能である。併用されうる水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド類、水溶性ポリアミド、ポリアクリル酸の水溶性塩、ビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体、エチレンオキサイド重合体、エチルセルロースや、カルボキシエチルセルロースの水溶性塩の如きセルロース類、水溶性アクリル樹脂などを挙げることができる。これら他の水溶性樹脂を混合する場合、その混合比率は目的に応じて適宜選択することができるが、一般には、ポリビニルアルコールを含む水溶性樹脂全体の量を基準に50重量%以下とすることが好ましい。
【0025】
ポリビニルアルコールを含む水溶性樹脂に添加する界面活性剤として、本発明では、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを採用する。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを存在させることにより、感光性着色樹脂膜上に塗布するときの塗布ムラが抑制され、酸素遮断膜が均一に形成できるようになる。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの具体例として、例えば、以下の各社からそれぞれ次の商品名で販売されているものを挙げることができる。
【0026】
“ノイゲン ET-60E”、“ノイゲン ET-120E”、“ノイゲン ET-180E”、
“ノイゲン ET-69”、“ノイゲン ET-83”、“ノイゲン ET-129”、“ノイゲン ET-170”〔以上、第一工業製薬(株)から販売〕;
“エマルゲン 104P”、“エマルゲン 130K”、“エマルゲン 210”、
“エマルゲン 306P”、“エマルゲン 404”、“エマルゲン 430”、“エマルゲン 707”〔以上、花王(株)から販売〕;
“ノニオン E-206”、“ノニオン E-215”、“ノニオン P-210”、
“ノニオン S-215”、“ノニオン K-220”、“ノニオン T-208.5”、
“パーソフト NK-100”〔以上、日本油脂(株)から販売〕;
“ノニオライト AL-5”、“ノニオライト ACL-5”、“ノニオライト AK-20”、
“ノニオライト AO-20”、“ノニオライト AS-4H”、“ノニオライト AP-113”、
“ノニオライト AS-212”〔以上、共栄社化学(株)から販売〕;
“ノナール 106”、“ノナール 210”、“ノナール 430”、“ノナール C-18”、
“ノナール L-9A”〔以上、東邦化学工業(株)から販売〕;
“ニューコール 1004”、“ニューコール 1100”、“ニューコール 1203”、
“ニューコール 1105”、“ニューコール 1200”、“ニューコール 1310”、
“ニューコール 1515”、“ニューコール 1545”、“ニューコール 1620”、
“ニューコール 1820”〔以上、日本乳化剤(株)から販売〕;
“レオコール SC-30K”、“レオコール SC-120K”、“レオコール TD-150K”〔以上、ライオン(株)から販売〕;
“アデカトール B714”、“アデカトール B733”、“アデカトール LB53B”、
“アデカトール LB83”、“アデカトール LB93”、“アデカトール LB103”、
“アデカトール TN80”〔以上、(株)ADEKAから販売〕;
“セドラン FF-180”、“セドラン FF-200”、“ナロアクティ HN85”、
“エマルミン HL-80”、“エマルミン HL-100”〔以上、三洋化成工業(株)から販売〕など。
【0027】
上に商品名で示した界面活性剤はいずれも、前記式(I)で示されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルを主成分としている。前記式(I)及び(II)において、Rは炭素数8〜18の直鎖アルキル基を表し、具体例としては、オクチル、デシル、ラウリル(ドデシル)、ミリスチル(テトラデシル)、ヘキサデシル、オクタデシルなどを挙げることができる。また、式(I)及び(II)におけるnは、ポリオキシアルキレンの重合度に相当し、4〜20の値をとりうる。
【0028】
ポリビニルアルコールとポリオキシアルキレンアルキルエーテルの割合は、ポリビニルアルコール100重量部に対してポリオキシアルキレンアルキルエーテルを 0.1〜10重量部程度とするのが好ましく、さらには5〜10重量部とするのがより好ましい。ポリビニルアルコール100重量部に対するポリオキシアルキレンアルキルエーテルの量が 0.1重量部未満になると、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの添加効果が発現されにくく、スリットコーターなどにより大型基板に塗布するときの塗布ムラ抑制効果が得られにくくなる。また、その量が10重量部を超えると、得られる酸素遮断膜中のポリビニルアルコールの比率が低下し、酸素遮断効果が得られにくくなる。
【0029】
酸素遮断膜形成用の塗布液は、前記水溶性樹脂と界面活性剤を所定量、水に溶解することにより得られる。水は、一般に純水であるのが好ましい。また、必要に応じて他の助剤を添加することもできる。この塗布液は、ポリビニルアルコールの濃度が 0.1〜5重量%となるようにするのが好ましい。その濃度が低すぎると、酸素遮断効果を発揮する適当な厚さの塗膜が得られにくくなり、また濃度が高すぎると、得られる酸素遮断膜の膜厚が大きくなる傾向にある。
【0030】
(酸素遮断膜の形成)
上記の如くして得られる塗布液は、カラーフィルター製造のための感光性着色樹脂膜の上に塗布され、乾燥されて、酸素遮断膜となる。具体的には、基板上に形成された感光性着色樹脂膜の上に、上記の塗布液を塗布し、乾燥させて酸素遮断膜を形成する。感光性着色樹脂膜の形成については、後で説明する。酸素遮断膜の形成には、例えば、スピンコート装置、スピンレス(スリット)コート装置、ロールコート装置、カーテンコート装置等の公知の成膜装置が利用できる。スピンコート装置を用いる場合は、酸素遮断膜形成用の塗布液を基板上にスピン塗布し、乾燥させ、必要に応じて熱処理すればよく、また、スピンレスコート装置を用いる場合は、スリット状に精密加工されたノズルから塗布液を基板上に塗布し、乾燥させ、必要に応じて熱処理すればよい。
【0031】
酸素遮断膜の平均膜厚は、0.01〜0.1μm であることが好ましく、本発明の塗布液を使用することにより、このような極薄の膜を得ることができる。この平均膜厚は、とりわけ0.05〜0.1μm であることがより好ましい。ここで酸素遮断膜の平均膜厚とは、乾燥後の酸素遮断膜のうち、通常のパターニングが施される部分の平均値、換言すれば、縁の部分を除く中央部の平均値である。縁の部分は、中央部に比べて盛り上がったりして不均一な膜厚になることがあるが、カラーフィルターのパターニングには使用されないので、このような縁の部分で多少膜厚が不均一になっても差し支えない。酸素遮断膜の平均膜厚は、触針式の段差計や光学干渉式の膜厚計を用いて、あるいは断面の走査型電子顕微鏡写真等から、塗布面の複数点を測定することにより容易に求められる。
【0032】
上記したような0.01〜0.1μm 程度の膜厚であれば、光の干渉の影響を排除することができ、露光エネルギーを低減でき、これにより露光精度を高め、露光時間を短縮することができる。したがって、カラーフィルターの生産性を高めることができる。
【0033】
(カラーフィルターの製造方法)
カラーフィルターは、ガラスなどの透明基板上に格子状のブラックマトリックスを形成し、そのブラックマトリックスの開口部に、カラーフィルターに必要な色、例えば、画素を構成する赤(R)、緑(G)及び青(B)の各着色パターンを形成することにより、製造される。各着色パターンの形成には、感光性着色樹脂膜を形成し、そこにパターン露光と現像を施して所定の着色パターンを形成するフォトリソグラフィー法が用いられる。ブラックマトリックスの形成も、このようなフォトリソグラフィー法により行われることがある。本発明によるカラーフィルターの製造方法は、このようなブラックマトリックスの形成、又は各着色パターンの形成のいずれかに、上記した酸素遮断膜を適用するものである。ブラックマトリックスの形成、及び各着色パターンの形成のうち、二つ又はそれ以上に、あるいはそれらのすべてに、本発明に係る酸素遮断膜を適用してもよい。
【0034】
そして、本発明に係るカラーフィルターの製造方法は、基板の上に感光性着色樹脂膜を形成する工程、その感光性着色樹脂膜の上に上記の塗布液を塗布し、乾燥させて酸素遮断膜を形成する工程、その酸素遮断膜を介して前記感光性着色樹脂膜にパターン露光する工程、及び、露光後に現像して着色パターンを形成する工程を備えている。
【0035】
基板への感光性着色樹脂膜の形成方法は特に限定されないが、ネガ型、とりわけラジカルを介した光架橋反応を起こすタイプの、公知の各種感光性樹脂組成物を用いて感光性樹脂膜を形成した場合に、本発明の酸素遮断膜は有効に活用される。
【0036】
ネガ型感光性樹脂組成物は、光の照射された部分が現像液に対して不溶となり、現像により残存してパターンとなるもので、一般には、バインダーポリマー、光重合性化合物、光反応開始剤、及び溶媒を含み、必要に応じてさらに分散剤などの添加物が配合されている。カラーフィルター製造のためのネガ型感光性樹脂組成物は、さらに着色剤又は遮光剤を含んでいる。カラーフィルターの各着色画素を形成するために配合される着色剤、またブラックマトリックスを形成するために配合される遮光剤には、有機又は無機の顔料を用いることができ、具体的な顔料として、The Society of Dyers and Colourists から出版されている「カラーインデックス」(Colour Index)でピグメント(Pigment) に分類されている化合物を挙げることができる。本明細書では、着色剤が配合された感光性樹脂組成物や、遮光剤が配合された感光性樹脂組成物を含めて、「感光性着色樹脂組成物」と呼び、それを乾燥させて得られる樹脂膜を「感光性着色樹脂膜」と呼ぶ。上記のような感光性着色樹脂組成物を基板上に塗布し、乾燥させ、必要に応じてプリベークを施すことにより、感光性着色樹脂膜が形成される。
【0037】
こうして基板上に形成された感光性着色樹脂膜には、本発明に従って、先に説明したようなポリビニルアルコールとポリオキシアルキレンアルキルエーテルとを含む酸素遮断膜形成用塗布液が塗布され、乾燥されて、酸素遮断膜が形成される。
【0038】
その後、この酸素遮断膜を介して前記感光性着色樹脂膜にパターン露光される。露光における光のパターンは、カラーフィルターのブラックマトリックスに相当する格子形状、又はカラーフィルターの画素を構成する各着色パターンに相当するストライプ状又は矩形状であればよい。露光には、公知の種々の露光装置が利用できる。例えば、光源からの光をマスクにより遮蔽してパターンを形成し、このパターンを、酸素遮断膜を介して感光性着色樹脂膜に投影する方式や、マスクを用いることなく、光源からの光を空間光変調器で変調してパターンを形成し、このパターンを、酸素遮断膜を介して感光性着色樹脂膜に投影する、いわゆるマスクレス露光方式などを採用することができる。
【0039】
露光後は、現像を施して着色パターンを形成する。現像は、上述のようにして露光処理が施された酸素遮断膜付き着色樹脂膜を、現像液と接触させることにより行われる。現像には、例えば、露光後の酸素遮断膜付き着色樹脂膜に現像液を噴霧する方式などが利用できる。先に説明したようなネガ型感光性着色樹脂組成物を用いて感光性着色樹脂膜を形成した場合、露光によって光が照射された部分はバインダーポリマーの架橋が進んで現像液に不溶となり、光が照射されない部分はバインダーポリマーが架橋されないまま残って、現像液に溶ける。これにより、光の照射された部分が現像後にパターンとして残ることになる。現像液としては、アルカリ水溶液、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムの水溶液が好適に用いられる。着色樹脂膜上の酸素遮断膜は、水溶性樹脂で構成されているため、この現像において現像液に溶解し、洗い流される。現像液との接触後は、液滴ジェット洗浄などを施して、溶解物をほぼ完全に除去するのが好ましい。
【0040】
以上のようにして、ブラックマトリックスのパターン、又は画素を構成する一つの着色パターンが得られる。カラーフィルターに必要とされる複数の色に対して、以上のような工程を繰り返すことにより、カラーフィルターが得られる。そして、ブラックマトリックスを含む着色パターンの形成のいずれかにおいて、本発明の酸素遮断膜が適用される。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%は、特記ない限り重量基準である。
【0042】
[実施例1]
(a)酸素遮断膜用塗工液の調製
イオン交換水を攪拌しながら、そこに、けん化度87〜88モル%、重合度500のポリビニルアルコール〔(株)クラレ製の“PVA-205” 〕を1%濃度で添加し、さらにポリオキシエチレンラウリルエーテル〔三洋化成工業(株)製の“エマルミン HL-80”、前記式(I)のnに相当する平均重合度8〕を 0.05%濃度で添加して、酸素遮断膜形成用塗布液を調製した。E型粘度計〔東機産業(株)から購入した“VISCO MATE VM-150”〕を用い、この塗布液の粘度を温度25℃で測定した。また、無アルカリガラス〔NHテクノグラス(株)製の“NA32”、厚さ0.7mm )の上に、遮光性感光性樹脂組成物〔東京応化工業(株)製の“BK3004SL”〕をスピンコート法で塗布し、90℃で110秒間のプリベークを行って得られた膜厚1.2μmの感光性樹脂膜の上に、上記の塗布液を滴下し、接触角測定器(協和界面科学(株)製の“FACE CA-DT.A型”)により、上記塗布液の接触角を測定した。
【0043】
(b)感光性樹脂膜及び酸素遮断膜の形成
1,100×1,300mmの無アルカリガラス〔NHテクノグラス(株)製の“NA32”、厚さ0.7mm 〕に、遮光性感光性樹脂組成物〔東京応化工業(株)製の“BK3004SL”〕をスピンレスコート法により塗布し、ホットプレート上にて90℃で110秒間のプリベークを行い、膜厚1.2μmの遮光性感光性樹脂膜を形成した。しかるのち、その遮光性感光性樹脂膜の上にスピンコーター用スリットコーターを用いて、上記(a)で調製した酸素遮断膜形成用塗布液を塗布し、乾燥して、平均膜厚0.05μmの酸素遮断膜を形成した。この酸素遮断膜の外観をナトリウムランプの照明下で観察し、塗布ムラの有無を調べた。
【0044】
(c)露光及び現像
(b)で形成した酸素遮断膜側から、プロキシミティ露光機を用いて、露光量15mJ/cm2、露光ギャップ60μmで露光を行い、格子状の樹脂ブラックマトリックスパターンを焼き付けた。露光後、無機アルカリ現像液(0.05% 濃度のKOH水溶液)によるシャワー現像を23℃で80秒間行い、次いでマイクロジェット洗浄装置を用いて10MPa の圧力で液滴ジェット洗浄を行って、ブラックマトリックスのパターンを得た。現像後の格子パターンに対する、酸素遮断膜塗布ムラの影響の有無を目視で観察した。
【0045】
[実施例2]
イオン交換水を攪拌しながら、そこに、けん化度78〜82モル%、重合度500のポリビニルアルコール〔(株)クラレ製の“PVA-405” 〕を1%濃度で添加し、さらに実施例1で用いたのと同じポリオキシエチレンラウリルエーテルである“エマルミン HL-80”を 0.05%濃度で添加して、酸素遮断膜形成用塗布液を調製した。
【0046】
酸素遮断膜形成用塗布液をここで調製したものに変えた以外は、実施例1と同様の方法で、遮光性感光性樹脂膜の形成、酸素遮断膜の形成、及びブラックマトリックスパターンの形成を行い、評価した。結果を表1に示す。
【0047】
以下の実施例3及び4並びに比較例1〜4でも、酸素遮断膜形成用塗布液をそれぞれの例で調製したものに変える以外は同じ方法で、遮光性感光性樹脂膜の形成、酸素遮断膜の形成、及びブラックマトリックスパターンの形成を行い、評価した。ただし、実施例3、比較例3及び比較例4では、用いたポリビニルアルコールの重合度の影響で、酸素遮断膜の膜厚はそれぞれ表1に示す値となった。それぞれの例の結果も表1に示す。
【0048】
[実施例3]
イオン交換水を攪拌しながら、そこに、けん化度87〜88モル%、重合度 2,400のポリビニルアルコール〔(株)クラレ製の“PVA-224” 〕を1%濃度で添加し、さらにポリオキシエチレンラウリルエーテル〔三洋化成(株)製の“エマルミン HL-100” 、前記式(I)のnに相当する平均重合度10〕を 0.05%濃度で添加し、酸素遮断膜形成用塗布液を調製した。
【0049】
[実施例4]
イオン交換水を攪拌しながら、そこに、けん化度97〜98モル%、重合度500のポリビニルアルコール〔(株)クラレ製の“PVA-105” 〕を1%濃度で添加し、さらにポリオキシエチレンラウリルエーテル〔三洋化成(株)製の“エマルミン HL-100” 、前記式(I)のnに相当する平均重合度10〕を 0.05%濃度で添加し、酸素遮断膜形成用塗布液を調製した。
【0050】
[比較例1]
イオン交換水を攪拌しながら、そこに、けん化度87〜88モル%、重合度500のポリビニルアルコール〔(株)クラレ製の“PVA-205” 〕を1%濃度で添加して、酸素遮断膜形成用塗布液を調製した。
【0051】
[比較例2]
イオン交換水を攪拌しながら、そこに、けん化度72〜75モル%、重合度500のポリビニルアルコール〔(株)クラレ製の“PVA-505” 〕を1%濃度で添加し、さらに実施例1で用いたのと同じポリオキシエチレンラウリルエーテルである“エマルミン HL-80”を 0.05%濃度で添加して、酸素遮断膜形成用塗布液を調製した。
【0052】
[比較例3]
イオン交換水を攪拌しながら、そこに、けん化度97〜98モル%、重合度200のポリビニルアルコール〔(株)クラレ製の“PVA-102” 〕を1%濃度で添加し、さらに実施例1で用いたのと同じポリオキシエチレンラウリルエーテルである“エマルミン HL-80”を 0.05%濃度で添加して、酸素遮断膜形成用塗布液を調製した。
【0053】
[比較例4]
イオン交換水を攪拌しながら、そこに、けん化度87〜88モル%、重合度3,500 のポリビニルアルコール〔(株)クラレ製の“PVA-235” 〕を1%濃度で添加し、さらに実施例3で用いたのと同じポリオキシエチレンラウリルエーテルである“エマルミン HL-100”を0.05%濃度で添加して、酸素遮断膜形成用塗布液を調製した。
【0054】
【表1】

【0055】
比較例1〜4では、乾燥後の酸素遮断膜に、塗布で用いたスリットノズルのメニスカス状態や乾燥異物、また塗布ステージの吸着穴やリフトピンに起因する明確なムラが観察された。なお、ムラ部分では、平均膜厚0.05μm に対して最大0.2μm もの膜厚を有しており、その膜厚ムラが現像後の格子パターンの濃淡にも反映されていた。これに対し、実施例1〜4では、乾燥後の酸素遮断膜に外観ムラが認められず、現像後の格子パターンへの影響もなく、良好な状態でブラックマトリックスの格子パターンが得られた。
【0056】
ここでは、ブラックマトリックスの形成に本発明の酸素遮断膜形成用塗布液又は酸素遮断膜を適用する例を示したが、画素を構成する一つ又は複数の着色バターンの形成にも、本発明の酸素遮断膜形成用塗布液又は酸素遮断膜を適用できることは、これまでの説明から理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合度 500〜2,400でけん化度78モル%以上のポリビニルアルコールからなる水溶性樹脂と、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなる界面活性剤とを含有することを特徴とする、カラーフィルター製造のための酸素遮断膜形成用塗布液。
【請求項2】
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、下式(I)又は(II)
R−(OCH2CH2)nOH (I)
R−[OCH2CH(CH3)]nOH (II)
(式中、Rは炭素数8〜18の直鎖アルキル基を表し、nは4〜20の数を表す)
で示される請求項1に記載の塗布液。
【請求項3】
ポリビニルアルコール100重量部に対して、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを0.1〜10重量部含有する請求項1又は2に記載の塗布液。
【請求項4】
基板の上に感光性着色樹脂膜を形成する工程、
該感光性着色樹脂膜の上に、請求項1〜3のいずれかに記載の塗布液を塗布し、乾燥させて酸素遮断膜を形成する工程、
該酸素遮断膜を介して該感光性着色樹脂膜にパターン露光する工程、及び
露光後に現像して着色パターンを形成する工程
を備えることを特徴とするカラーフィルターの製造方法。
【請求項5】
酸素遮断膜が0.01〜0.1μm の膜厚で形成される請求項4に記載のカラーフィルターの製造方法。

【公開番号】特開2008−197215(P2008−197215A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30217(P2007−30217)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000213840)朝日化学工業株式会社 (47)
【Fターム(参考)】