説明

醤油様調味料

【課題】和食のみならず洋風用途に適し、肉の獣臭、魚の生臭さ、野菜の青臭さ、乳製品の乳臭さに対するマスキング効果を向上した醤油様調味料を提供すること。
【解決手段】イソアミルアルコールおよび/またはβ−フェネチルアルコールの濃度を増加させ、さらにクエン酸の濃度を増加させることにより、マスキング効果を向上した醤油様調味料を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
和食のみならず洋風用途に適し、肉の獣臭、魚の生臭さ、野菜の青臭さ、乳製品の乳臭さに対するマスキング効果を向上した、醤油様調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年食品業界においては、消費者のグルメ志向や、食品加工技術の向上、チルド運送網の発達により、食品の風味を引き立たせ、食材本来の味、香りを消費者が感じられるような調理方法や調味料の開発が進んでいる。こうした食品の風味を引き立たせる方法の一つとして、オフフレーバーを矯臭・マスキングする方法が重要である。食品のオフフレーバーは、例えば肉の獣臭や、野菜の青臭み、魚の生臭さ、牛乳の乳臭さ等が知られている。
【0003】
オフフレーバーのマスキング方法として、日本では伝統的に清酒やみりん、醤油等の発酵調味料が用いられている。
清酒やみりんは、魚臭、魚の生臭み、に対して特に顕著なマスキング効果があり、水産練り製品に多く利用されている。みりんのマスキング効果は、香気成分のカルボニル区分に起因しており、この中にはアルデヒド類が多く含まれている。また、アルコール類、エステル類も副次的にマスキング効果に寄与していることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、清酒やみりんは各種食品の調理・加工に用いられているが、喫食時に、通常直接食品につけたり、かけたりする用途(以下、「つけかけ」という)では用いられていない。
【0004】
発酵に由来するマスキング効果を有する物質として、スチレン構造を有するフェノール化合物の多量体を食品に存在させ、魚介類、畜肉製品および野菜類等、幅広い食品のオフフレーバーを除去する方法および消臭剤等が開示されている(例えば、特許文献1参照)。スチレン構造を有する化合物として4−ビニルフェノール、フェルラ酸、p−クマル酸、4−ビニルグアヤコールが例示されている。
【0005】
醤油は、大豆と小麦とで作った麹と食塩水を原料として醸造することにより得られる伝統的な調味料の一つである。醤油は製法に従って、それぞれ特有の香気、味、色を有している。濃口醤油は、色は濃厚で香りも華やかであることから、関東を中心に日本中で様々な調理の他、つけかけ用途に用いられている一方で、色や風味が食材に勝ってしまい、必ずしも食品の風味を引き立てる料理に最適とは言えない。関西では、古くから食材の風味を生かす調味料として淡口醤油が用いられており、淡い色と軽快な香りが特徴である。淡口醤油は色が淡く香りも穏やかで、調理において食品の風味を引き立てる効果はあるものの、幅広い食品に対するオフフレーバーのマスキング効果は不十分であった。
【0006】
こうした課題を解決するため、近年では、特徴的な醤油香を抑えることで、食材の味を引き立てる醤油または醤油様調味料の製造方法が開示されている。例えば、(1)醤油麹に汲水歩合が170〜450%(v/v)となる量の食塩水を仕込んで醤油諸味を調製し、発酵熟成後、発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹および食塩水を添加し、さらに発酵させることで、醤油の特徴的な香気成分である4−Hydroxy−2(or5)ethyl−5(or2)methyl−3(2H)−furanone(以下、「HEMF」という)が低減されるが、マスキング効果を有するメチオナールは維持されるため、醤油感を低減しつつマスキング効果を維持する醸造醤油が報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、(2)醤油独特の香りを抑えつつ、肉質を改善し、肉の獣臭をマスキングする目的で、穀物麹と食塩水を混ぜた諸味を極力発酵させず、低温、短期間で醸造を行った後、固液分離を行なった未加熱調味料が開示されている(例えば、特許文献3参照)。これらの方法では、醤油独特の香りや色を抑えつつ、(1)ではメチオナールを維持すること、(2)では香気成分は明らかにされていないがプロテアーゼを維持することを主目的としている。
【0008】
その他、消費者の多様なニーズに応えるため、醤油の製造過程で様々な副原料を投入することで、新しい風味を有する醤油様調味料を製造する方法も開示されている。例えば、(3)従来の醤油麹を用い、第一次発酵を終えた諸味に青果物や魚介類を投入し、外部より酵素や酵母を導入して、ほとんど残渣を生じずに醸造を行う方法(例えば、特許文献4参照)や、(4)醤油麹の仕込水として窒素成分を有するトマト搾汁若しくはその濃縮物を用い、高窒素濃度の調味液を得る方法が挙げられる(例えば、特許文献5参照)。しかし、(3)では外部から酵素や酵母の添加が必要等煩雑であり、添加された青果物や魚介類の効果は不明瞭である他、40〜55℃の高温で培養を行っているため酵母の生育不良や香気成分の熱劣化が懸念される。(4)は高窒素濃度の濃厚な調味液を得ることを目的としており、香気成分に着目した検討は行なわれておらず、酵母発酵の状態も不明である。また両者とも、食品のオフフレーバーに対するマスキング効果には言及されていない。
【0009】
一方、食品の風味を酵母の発酵によって高める方法として、(5)アミノチロシン耐性を有する酵母を用いる方法(例えば、特許文献6参照)、(6)フルオロフェニルアラニン耐性を有しβ−フェネチルアルコールを生産する能力を有する酵母を用いて、調味用ソース等の発酵飲食品をβ−フェネチルアルコール含量の高い香味の良い製品として製造する方法(例えば、特許文献7参照)、(7)クルベロマイセス属に属し、果実または花様香気物質を生産する能力を有する微生物を用いる食品の香味改善方法(例えば、特許文献8参照)が開示されている。
【0010】
これらの成分のうち、β−フェネチルアルコールやイソアミルアルコールは醤油中でも定量されており、濃口醤油中ではβ−フェネチルアルコールは2.48〜7.50ppm、イソアミルアルコールは3.76〜11.6ppm程度の含有量であることが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0011】
上記の(5)〜(7)は、いずれも選抜された特殊な酵母が、限られた培養条件下で用いられており、塩分濃度が高い醤油様調味料の生産に使用可能かどうかは不明である。また、これらの方法は、食品のオフフレーバーに対するマスキング効果に関しては言及されていない。
【0012】
従来の醤油または発酵調味料に加え、さらにこれらを改良しようとする取り組みは一定の効果を上げていると考えられるが、肉だけでなく、野菜や魚、乳製品等の幅広いオフフレーバーに対するマスキング効果については言及されておらず、効用や汎用性は不明かつ不十分である。また、幅広い食品のオフフレーバーに対してマスキング効果を有する物質を含有した発酵調味料も報告されているが、つけかけ用途で使用できる醤油様調味料において、イソアミルアルコールやβ−フェネチルアルコールを含有させることでマスキング効果を高めたという報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001−352914号公報
【特許文献2】国際公開第07/116474号
【特許文献3】特開2004−267057号公報
【特許文献4】特開2004−97178号公報
【特許文献5】特開2001−46013号公報
【特許文献6】特開平6−133703号公報
【特許文献7】特開平9−224650号公報
【特許文献8】特開平4−78260号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】「隠し味の科学」,第1版,東京化学同人,1992年9月,p.273〜281
【非特許文献2】醸造協会誌,第81巻,第10号,1986年,p.701
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、和食のみならず洋風用途に適し、肉の獣臭、魚の生臭さ、野菜の青臭さ、乳製品の乳臭さに対するマスキング効果を向上した醤油様調味料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、イソアミルアルコールおよび/またはβ−フェネチルアルコールを一定濃度以上含有し、さらにクエン酸を一定濃度以上含有する際に、マスキング効果を向上した醤油様調味料を得られることを見出した。また、醤油様調味料の組成が、醤油諸味、生醤油または火入れ醤油に果汁を添加し、乳酸菌や酵母による発酵により得られる場合には、発酵により各種香気成分が増加し、より一層マスキング効果が高く、呈味バランスに優れ、つけかけ用途から調理に至るまで幅広く使用可能な醤油様調味料が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
すなわち本発明は、
1)イソアミルアルコールを15.0ppm以上および/またはβ−フェネチルアルコールを9.0ppm以上含有し、さらにクエン酸を0.2%(w/v)以上含有する醤油様調味料。
2)クエン酸が果汁由来であることを特徴とする、上記1)に記載の醤油様調味料。
3)果汁がトマトに由来するものを含むことを特徴とする、上記2)に記載の醤油様調味料。
に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、消費者は特別な調味料であることを意識することなく、従来の醤油と同様の方法で、本発明品を調理時の味付けや、直接食品につけたり、かけたりする際に、従来の醤油以上のオフフレーバーに対するマスキング効果が得られる。このような醤油様調味料は、食品のオフフレーバーをマスキングし、食品本来の香りを引き立てるだけでなく、華やかな香りを有しており、新規の醤油様調味料として非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書における「醤油様調味料」とは、その原料に醤油麹そのもの、もしくは醤油麹に由来する醤油麹と食塩水を混和後に得られる諸味や、醤油乳酸菌による乳酸発酵後の諸味、醤油酵母による酵母発酵後の諸味、発酵熟成を終えた諸味、これら発酵・熟成途中または発酵・熟成後の諸味を圧搾ろ過して得られる未加熱の生醤油、生醤油を加熱殺菌後の火入れ醤油を含み、さらに果汁、エキス類、ペースト類、だし類、調味料、発酵調味料、酸味料、香料等を混合したもの、またはこれらを混合後さらに発酵、熟成、圧搾ろ過、火入れのいずれかの工程を経て得られる、日本農林規格に定める「しょうゆ」と同様の用途で用いられる液体調味料をいう。「しょうゆ」と同様の用途で用いられれば、必ずしも醤油麹に由来する原料が、醤油様調味料の主たる原料でなくても良い。また本明細書で記載する「醤油」は、日本農林規格の「しょうゆ」と同一の概念である。
【0020】
本明細書における濃度(ppm)は、全てミリグラム毎リットル(mg/l)である。
【0021】
本発明は、肉や、野菜、魚、乳製品等の幅広い食品のオフフレーバーに対するマスキング効果を強化した醤油様調味料を得ることを目的とし、醤油様調味料中にイソアミルアルコールを15.0ppm以上および/またはβ−フェネチルアルコールを9.0ppm以上含有させ、さらにクエン酸を0.2%(w/v)以上含有させることを特徴とする。
【0022】
本発明は、簡便には生醤油または火入れ醤油に、イソアミルアルコールおよび/またはβ−フェネチルアルコールを添加し、さらにクエン酸および/または果汁を添加することで得られる。
【0023】
クエン酸は果実に含まれる有機酸の一種で、魚臭の消臭効果を有することが知られている(食品工業、No.5105、p.60−63、(2008))。クエン酸は大豆にも含まれているが、本醸造醤油においては、麹菌の種類や発酵条件によってその含量が変化することが知られており、市販醤油中のクエン酸含量は製品ごとに異なることが報告されている。本醸造醤油中にクエン酸は0.0〜0.2%含まれることが報告されている(醤油の研究と技術、Vol.31、No.6、p.370−371、(2005))。本発明においては、一定濃度以上のクエン酸がイソアミルアルコール、β−フェネチルアルコールとの相乗効果によってオフフレーバーのマスキング効果を高めていることが考えられる。クエン酸含有量は、0.2〜4.0%(w/v)であることが好ましく、0.5〜3.0%であることが特に好ましい。0.2%未満であればマスキング効果が低くなる。クエン酸含有量が4%を超えるとクエン酸由来の酸味によって味のバランスが悪くなる。クエン酸は、食品添加物として常用されているクエン酸(結晶) 、クエン酸三ナトリウム 、クエン酸鉄などが制限無く用いられる。
【0024】
本明細書における「果汁」とは、果実を破砕して搾汁または裏ごし等をし、皮、種子等を除去したものをいう。果汁は、濃縮していないストレート果汁だけでなく、2〜10倍になるまで水分を除去して濃縮したもの(以下、「濃縮果汁」という)も好適に用いることができ、3〜8倍に濃縮したものがより好ましい。糖度計や屈折計によって測定されるBrix(糖度)は6〜60%(w/w)であることが好ましく、20〜60%(w/w)であることが特に好ましい。果汁の濃度が薄すぎると、最終的に得られる醤油様調味料のクエン酸濃度が低下し、マスキング効果が低下するため好ましくない。果汁の濃度が濃すぎると、醤油諸味と混合し発酵させる際に、酵母発酵が阻害されることがある。従って、Brixが60%を超える濃縮果汁は、上記に示す濃度範囲になるように、水などで希釈することで用いることができる。
【0025】
果汁は、果肉が含まれる混濁果汁または果肉を取り除いた透明果汁が用いられる。果肉が含まれる果汁を用いると、よりマスキング効果が高く呈味に優れた醤油様調味料が得られるため好ましい。
【0026】
醤油諸味、生醤油または火入れ醤油に対するストレート果汁または濃縮果汁の添加量は10%を超え、80%(w/w)以下であることが好ましく、30〜70%であることが特に好ましい。10%以下であれば通常の醤油と品質に差がなく、マスキング効果が向上せず好ましくない。また80%を超えると果実感が強くなり、醤油様調味料としての風味のバランスが損なわれるため好ましくない。
【0027】
果実の搾汁の際、果実が有する内因性の酵素を失活させる目的で、好ましくは破砕後直ちに短時間高温の加熱を行うホットブレイク法や、反対に内因性の酵素を残す目的で破砕後は非加熱または低温加熱を行うコールドブレイク法が用いられる。果実がトマトである場合は、粘性が低く工業的に取り扱いやすいコールドブレイク法で得られたものがより好ましい。濃縮方法としては、制限無く公知の加熱による濃縮、真空濃縮、凍結濃縮、膜濃縮などが用いられる。
【0028】
本明細書における「果実」には、クエン酸が含有されていることが好ましく、トマト、レモン、ライム、温州ミカン、オレンジ、グレープフルーツ、梅、リンゴ、ブドウ、マンゴー、ゆず、キウイフルーツ、バナナ、パイン、桃、イチゴ、ナシなどが挙げられるが、好ましくはトマト、オレンジ、グレープフルーツ、ブドウ、リンゴであり、特に好ましくはトマトである。これらの果実は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
イソアミルアルコールの醤油様調味料中の濃度は、15.0〜113.0ppmであることが好ましく、18.0〜90.0ppmの範囲であることが特に好ましい。イソアミルアルコール濃度が15.0ppm未満の場合は、濃口醤油と比較して、マスキング効果に差が見られない。15.0ppm以上の場合に、濃口醤油と比較してマスキング効果が向上し、18.0ppm以上ではさらに顕著なマスキング効果の向上が見られる。113.0ppmを超えると成分の香りが強くなり、香りのバランスを損なうため好ましくない。イソアミルアルコールを添加する際には、市販の純品のほか、イソアミルアルコールを含有する食用可能な原料(例えば、発酵調味料、酒、果実酒、香料等)を用いてもよい。
【0030】
β−フェネチルアルコールの醤油様調味料中の濃度は、9.0〜106.0ppmであることが好ましく、11.0〜45.0ppmの範囲であることが特に好ましい。β−フェネチルアルコール濃度が9.0ppm未満の場合は、濃口醤油と比較して、マスキング効果に差が見られない。9.0ppm以上の場合に、濃口醤油と比較してマスキング効果が向上し、11.0ppm以上ではさらに顕著なマスキング効果の向上が見られる。106.0ppmを超えると成分の香りが強くなり、香りのバランスを損なうため好ましくない。β−フェネチルアルコールを添加する際には、市販の純品のほか、β−フェネチルアルコールを含有する食用可能な原料(例えば、発酵調味料、酒、果実酒、香料等)を用いてもよい。
【0031】
本発明の醤油様調味料はイソアミルアルコールおよび/またはβフェネチルアルコール含有し、さらにクエン酸および/または果汁を含有する。上述のように、これらの成分はそれぞれ個別に生醤油または火入れ醤油に添加してもよく、一方で、醤油諸味または生醤油へ果汁を添加し、発酵熟成させることにより、醤油諸味または生醤油に由来する麹菌の酵素や醤油酵母に、上記の各成分を所望の量生産させ、発酵熟成後に各成分を含有する醤油様調味料とすることもできる。例えば、醤油諸味または生醤油に、クエン酸が0.2%以上となるように果汁を添加し、該混合物をイソアミルアルコール濃度15.0ppm以上および/またはβ−フェネチルアルコール9.0ppm以上となるまで発酵熟成後、本発明の醤油様調味料を得ることができる。
【0032】
<果汁の添加>
醤油諸味もしくは生醤油へ果汁を添加し発酵熟成させる際に、果汁は乳酸発酵を終えた醤油諸味、または好気的条件下で酵母発酵中の醤油諸味、または好気的条件下での酵母発酵を終えて熟成途上の醤油諸味、または熟成を終えた醤油諸味、または生醤油へ混合することが好ましい。好気的条件下での酵母発酵を終えた醤油諸味または生醤油へ混合し発酵することがより好ましい。添加する時期が早過ぎると、醤油諸味における原料溶出や乳酸発酵が阻害されるため好ましくない。
【0033】
<醤油麹の調製>
醤油諸味、生醤油および火入れ醤油は、定法に従い、醤油麹を食塩水とともに仕込み、発酵・熟成・圧搾・火入れ工程を経て得られる。醤油麹は、公知の醤油醸造方法に従い、得られる醤油麹であれば良い。例えば、大豆、脱脂加工大豆等の蛋白質原料を加熱変性したものと、麦類(小麦、大麦、裸麦、はと麦)を炒熬・割砕したものまたは米類等の澱粉質原料を加熱変性したものとを混合し、該混合物の水分を35〜50%(w/w)に調整した後、これにAspergillus oryzae、Aspergillus sojae等の種麹を接種する。20〜40℃で2〜4日間培養して醤油麹が得られる。
【0034】
蛋白質原料の加熱変性は蒸煮により行われることが好ましいが、これに制限されることなく、連続膨化処理、気流式膨化処理、アルコール処理、エクストルーダーなどの変性処理を用いることができる。
【0035】
麦類の加熱変性は炒熬・割砕により行なわれることが好ましいが、これに制限されることなく、連続膨化処理、気流式膨化処理、アルコール処理、エクストルーダーなどの変性処理を用いることができる。米類の加熱変性は蒸煮または炊飯により行なわれることが好ましい。
【0036】
蛋白質原料と麦類および/または米類等の澱粉質原料の配合比率については、特に制限は無く、日本農林規格で定められる、こいくちしょうゆ、うすくちしょうゆ、たまりしょうゆ、しろしょうゆ等で用いられている配合比率を用いることができる。より好ましくは蛋白質原料:澱粉質原料=30〜70%:30〜70%(v/v)の範囲で行なわれる。
【0037】
醤油麹を食塩水で仕込むことで醤油諸味が得られる。醤油諸味の食塩濃度は13〜20%(w/v)となる濃度が好ましく、14〜18%(w/v)がより好ましい。
【0038】
<乳酸発酵>
醤油麹を食塩水で仕込むことで得られた醤油諸味は、乳酸菌を添加して、あるいは非添加で15〜25℃の温度にて乳酸発酵を行う。本発明における乳酸発酵に用いられる醤油乳酸菌としては、公知に醤油醸造に用いられているTetragenococcus halophilus等の耐塩性乳酸菌が好ましい。乳酸発酵開始時の醤油諸味は通常pH5.8〜6.3であり、乳酸発酵完了後の醤油諸味はpH4.6〜5.3である。
【0039】
<酵母発酵>
乳酸発酵を完了した醤油諸味は、酵母を添加して、25〜30℃の温度にて酵母発酵を行う。本発明における酵母発酵に用いられる醤油酵母としては、公知に醤油醸造に用いられているZygosaccharomyces rouxii、Zygosaccharomyces bailli、Candida etchellsii、Candida verstilis等の耐塩性酵母が好ましい。
【0040】
酵母添加後は、酵母の増殖を旺盛にするため、一定期間諸味を好気条件下で発酵させることが好ましい。好気条件下に保つためには、諸味に酸素または空気を通気する、プロペラ攪拌機を使用する等の方法が好ましい。
【0041】
酵母の増殖は、寒天培養法により菌数を計数する他、諸味中のエタノール量を、ガスクロマトグラフ法を用いて測定することで確認することができる。エタノールが0.5〜2.5%となった際に好気条件下での酵母発酵を終えることが好ましい。
【0042】
好気条件下での酵母発酵を終えた醤油諸味はさらに静置し、酵母・乳酸菌による発酵を継続し、その後熟成させる。熟成を終えた醤油諸味は定法に従って圧搾濾過されて、生醤油が得られる。この生醤油は加熱殺菌を行っていないため、麹菌由来の酵素や、醤油酵母、醤油乳酸菌などが含有されている。
【0043】
生醤油は、火入れと呼ばれる加熱殺菌工程を経る。火入れは公知の醤油製成過程で行なわれている加熱条件を用いればよい。好ましくは80〜85℃で20〜60分間加熱し、その後冷却する。加熱によって澱が生じることがあるため、数日間静置した後、澱から上清を分離して火入れ醤油が得られる。
【0044】
<果汁の添加後の食塩濃度、pH>
本発明における醤油諸味に果汁を添加した「果汁添加諸味」の食塩濃度は8.0〜20.0%(w/v)が好ましく、10.0〜15.0%(w/v)がより好ましい。果汁添加諸味では、食塩濃度が8.0%(w/v)未満では腐敗の危険性が高まるため好ましくない。反対に20.0%(w/v)を超えると酵母発酵が阻害されるため好ましくない。生醤油に果汁を添加した「果汁添加生醤油」についても同様に食塩濃度は8.0〜20.0%(w/v)が好ましく、10.0〜15.0%(w/v)がより好ましい。食塩濃度は、適宜食塩を添加・混合することにより、上記濃度範囲となるように調整することができる。
【0045】
果汁添加諸味、果汁添加生醤油のpHは3.0〜6.0であることが好ましくpH3.5〜5.0であることが特に好ましい。pH3.0未満では醤油酵母による発酵が阻害され、pH6.0を超えると腐敗の危険性が高まるため好ましくない。上記のpH範囲より外れた場合には、適宜食品製造に使用可能な任意のpH調整剤でpHを調整することにより、発酵を促進させることもできる。
【0046】
<果汁を添加した醤油諸味、生醤油の発酵>
果汁添加諸味、果汁添加生醤油は、酵母による発酵を効率よく行わせる観点から20〜30℃の温度において発酵を行うことが好ましい。醤油諸味中に醤油酵母が添加されていれば、果汁添加時に新たに酵母や特殊な酵母を添加しなくてもよいが、特に制限されることなく、発酵経過に応じて上述の醤油酵母や醤油乳酸菌を追加して添加することもできる。また果汁添加諸味または果汁添加生醤油を熟成させる目的で、香りが劣化しにくい10〜25℃の温度においてさらに熟成を行うことができる。
【0047】
発酵期間は1週間〜2ヶ月程度が好ましく、約1ヶ月が特に好ましい。熟成を行う場合は、発酵期間終了後、熟成期間は1週間から〜2ヶ月程度が好ましく、約1ヶ月が特に好ましい。醤油諸味または生醤油中に含有される醤油酵母は、果汁添加諸味または果汁添加生醤油中においても旺盛に生育し、上記各成分の他、同時にエタノールや各種の香気成分を生成する。
【0048】
醤油諸味または生醤油に果汁を添加し、発酵熟成させて得られた醤油様調味料は、イソアミルアルコールおよび/またはβ−フェネチルアルコールの各成分が発酵により増加し、さらに食品のオフフレーバーに対するマスキング効果が高く、風味のバランスに優れ、果実由来の香りや酸味、甘味の感じられる醤油様調味料となる。これらの成分が生成されているかは、定法に従ってガスクロマトグラフ法により定量することで確認することができる。発酵は、これら各成分の濃度が上述の濃度範囲に達したことを確認した後、終了することができる。発酵終了の決定に際しては、上記各成分以外にも、麹菌の酵素や、醤油酵母・醤油乳酸菌による発酵、熟成中のメイラード反応によって生じる成分も考慮することができる。
【0049】
発酵を終了した果汁添加諸味または果汁添加生醤油は、定法に従って圧搾濾過され、一般成分分析、香気成分分析を行い、成分を調整する。この際pHや塩分、エタノール濃度、グルタミン酸濃度、クエン酸濃度、香気成分濃度を適宜調整してもよい。好ましくはpHが3.5〜5.0、塩分が8.0〜18.0%となるように調整することが好ましい。
【0050】
成分調整後、殺菌または除菌を行う。殺菌の場合は、前述の火入れを行い、澱を沈めた後、上清を醤油様調味料として得る。除菌の場合は公知のMF膜によるろ過等を行い、ろ過物を醤油様調味料として得る。
【0051】
本発明の醤油様調味料は、日本農林規格の「しょうゆ」と同様の使い方ができ、また任意の飲食品に配合することができる。例えば、つゆ、たれ、和風だし、洋風だし、中華だし、ドレッシング、スープ、ソース等の調味料に添加して用いることができる。
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、それらの例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0053】
<各種成分の火入れ醤油への添加>
火入れ醤油として市販の濃口醤油(キッコーマン社製、丸大豆使用)を対照品とした。この醤油にイソアミルアルコール、β−フェネチルアルコール、クエン酸、エタノール、をそれぞれ添加・混合し、試験品1−1〜1−23を調製した。
<果汁および各種成分の火入れ醤油への添加>
対照品に果汁としてトマトペースト(日本デルモンテ社製、米国産トマト、Brix36%)を蒸留水でBrix30%となるように調整した後、醤油:果汁の比が50:50(w:w)となるように加え、よく混合後、圧搾・ろ過・火入れをし、比較品1を得た。比較品1に、イソアミルアルコール、β−フェネチルアルコール、をそれぞれ添加・混合し、試験品1−24〜1−26を調製した。
【0054】
<成分分析>
醤油の一般成分は、しょうゆ試験法(財団法人、日本醤油研究所編、昭和60年(1985年)3月1日発行)記載の方法に従い分析を行った。
香気成分は、ガスクロマトグラフィー法(Journal of Agricultural and Food Chemistry Vol.39,934(1991)参照)にて分析定量した。
【0055】
<各種成分を添加した火入れ醤油の官能評価>
評価は焼肉を用いて行った。焼肉は、サラダ油(日清オイリオグループ社製)15mlをフライパンで加熱し、牛肉(オーストラリア産)200gを2分間加熱調理することで用意した。焼肉20gに対し、対照品または試験品を1ml添加したものを評価に用いた。
各試験品の官能評価は、訓練され識別能力を有するパネル5名による評点法で行った。焼肉に対するマスキング効果および香りの総合評価について、上記のように用意した対照品と試験品の香りを嗅ぎ、比較を行った。評点は下記の基準に従った。

(焼肉の獣臭に対するマスキング効果)
1. 対照品のほうが、かなり効果が高い
2. 対照品のほうが、やや効果が高い
3. 効果は同等
4. 試験品のほうが、やや効果が高い
5. 試験品のほうが、かなり効果が高い

(香りの総合評価)
1. 対照品のほうが、とても好ましい
2. 対照品のほうが、やや好ましい
3. 同等
4. 試験品のほうが、やや好ましい
5. 試験品のほうが、とても好ましい

【0056】
【表1】


【0057】
表1の官能評価結果より、火入れ醤油において、イソアミルアルコールは18ppm以上、β−フェネチルアルコールは11ppm以上を含有させることで、焼肉における獣臭のマスキング効果の向上が見られた(試験品1−1〜12)。またイソアミルアルコール、β−フェネチルアルコールが共に含有されるときにはさらにマスキング効果が高まった(試験品1−13〜15)。イソアミルアルコールは63ppm、βフェネチルアルコールは56ppm以上を含有させると、成分由来の香りが強くなり、マスキング効果の向上はみられるものの、香りの総合評価において評価が減少傾向となった。それぞれ500ppmを超えて含有させると、著しく評価が下がった(試験品1−4〜1−6、1−10〜1−12)。
クエン酸は少なくとも0.2%(w/v)以上を含有させ、0.7%、1.2%とクエン酸濃度を高くするにつれて、上記の各成分と相乗してマスキング効果が高まった(試験品1−16〜19)。2.2%以上を含有させると酸味を想起させる香りが感じられ始め、香りの総合評価において評価が減少傾向となった。
またエタノールは3%(w/v)以上を含有させることにより、相乗的にマスキング効果が高まった(試験品1−20〜23)。7%以上を含有させるとエタノールの香りが強くなり、香りの総合評価において評価が減少傾向となった。
果汁と火入れ醤油を混合した比較品1ではイソアミルアルコール、β−フェネチル濃度は低く、マスキング効果は対照品と同等であった。比較品1において、イソアミルアルコールは18ppm以上、β−フェネチルアルコールは11ppm以上を含有させることで、焼肉における獣臭に対するマスキング効果は高くなり、両方を添加すると相乗してマスキング効果が高まった(試験品1−24〜26)。
【実施例2】
【0058】
<醤油麹の調製>
大豆10kgは温水中に浸漬し、吸水させた後、加圧条件下で蒸煮した。小麦10kgは炒熬した後、割砕した。大豆・小麦を混合して、水分約40%の製麹用原料を調整した。麹菌を接種し、通風製麹装置によって製麹を行い、3日後に醤油麹を得た。
【0059】
<醤油諸味の調製>
醤油諸味は、発酵・熟成後の食塩濃度が16.0%となるように食塩水と水を加え、定法に従い醤油乳酸菌を加えよく混合した。淡口醤油用の諸味は、発酵・熟成後の食塩濃度が18.0%となるように食塩水と水を加え、定法に従い醤油乳酸菌を加えよく混合した。諸味品温を15℃に保持し、原料溶出と乳酸発酵を行った。1週間後に得られた諸味を「仕込み初期諸味」とし、1ヶ月後に得られた諸味を「乳酸発酵諸味」とした。続いて定法に従い耐塩性の醤油酵母(Zygosaccharomyces rouxii)を乳酸発酵諸味に添加し、諸味品温を25℃に保持しながら14日間通期攪拌し、酵母発酵を行った。得られた諸味を「酵母発酵諸味」とした。酵母発酵諸味は、諸味品温を25〜30℃に保持し発酵・熟成させた。3ヶ月後に得られた諸味を「熟成諸味」とした。さらに、熟成諸味を圧搾・ろ過して「生醤油」を得た。
【0060】
<比率を変えた果汁混合諸味の調製>
酵母発酵諸味に対して、果汁として市販のトマトペースト(日本デルモンテ社製、米国産トマト、Brix36%)を蒸留水でBrix30%に調整した後、諸味:果汁の比が90:10、70:30、50:50、30:70(いずれもw:w)となるように混合しトマトペースト混合諸味を調製した。
【0061】
<果汁混合諸味の発酵およびろ過>
トマトペースト混合諸味は前述の諸味品温下で、適宜攪拌を行いながら1ヶ月間の発酵・熟成を行った。比較のため、実施例1記載のように、火入れ醤油にトマトペーストを混合後、発酵・熟成を行わない比較品1も用意した。定法により圧搾・ろ過を行った後、火入れを80℃で50分間行い、各種トマトペースト混合諸味から試験品2−1〜2−8を得た。
【0062】
<成分調整>
各種試験品の発酵終了時点での食塩濃度はそれぞれ試験品2−1:15.6% 、試験品2−2:13.3%、試験品2−3:11.0%、試験品2−4:8.8%(いずれもw/v)であった。官能評価時には、対照品と同じ食塩濃度16.0%(w/v)となるように食塩を添加した。
【0063】
<成分分析>
一般成分および香気成分は、実施例1と同様にして行った。醤油および試験品の一般成分分析結果、香気成分含量を表2に示す。食塩濃度は成分調整後の値を示した。
【0064】
<官能評価>
訓練され識別能力を有するパネル12名により、下記の各調理における試験品のマスキング効果を評価した。
【0065】
<焼肉の官能評価>
サラダ油(日清オイリオグループ社製)15mlをフライパンで加熱し、牛肉(オーストラリア産)200gを2分間加熱調理した。焼肉20gに対し、対照品または試験品を1ml添加したものを用意した。対照品に対し、獣臭が低減したと感じた人数、後味のさっぱり感が向上したと感じた人数、風味の好ましさが向上したと感じた人数を表2に示す。
【0066】
<ほうれん草のお浸しの官能評価>
熱湯中で茹でたほうれん草を流水中で冷やし、水気を絞った。対照品または試験品を適量添加しさらに絞った。約5cm間隔に切ったものを用意した。対照品に対し、青臭さが低減したと感じた人数、エグ味が低減したと感じた人数、風味の好ましさが向上したと感じた人数を表2に示す。
【0067】
<サーモンマリネの官能評価>
材料:
市販スモークサーモン 200g
玉ねぎ 0.5個
ワインビネガー 15ml
オリーブオイル 15ml
砂糖 5g
対照品または試験品 5ml

上記材料を混合し用意した。対照品に対し、生臭さが低減したと感じた人数、風味の好ましさが向上したと感じた人数を表2に示す。
【0068】
<モッツァレラチーズの官能評価>
市販モッツァレラチーズ 100gに対し、対照品または試験品を5ml添加し用意した。乳臭さが低減したと感じた人数、風味の好ましさが向上したと感じた人数を表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
表2に示す結果より、トマトペーストの混合比率が高い程、一般成分では総窒素が低下し、クエン酸濃度が上昇している。また香気成分では、諸味に対するトマトペーストの混合比率が30%以上になると、エタノールが3.7〜5.2%、イソアミルアルコールは18〜57ppm、β−フェネチルアルコールは13〜43ppmとなり、対照品および比較品1と比較して顕著に高くなっていることが分かる。
【0071】
表2の官能評価結果より、対照品と比較して試験品2−2〜2−4を使用した際に、焼いた牛肉の獣臭を顕著に低減し、後味もさっぱりとしていることが分かる。また、総合的な風味の好ましさが向上していることが分かる。
【0072】
ほうれん草のお浸しでは、対照品と比較して試験品2−2〜2−4を使用した際に、ほうれん草の有する青臭さやエグ味が顕著に低減し、総合的な風味の好ましさが向上していることが分かる。
【0073】
サーモンマリネでは、対照品と比較して試験品2−2〜2−4を使用した際に、顕著に生臭さが低減し、総合的な風味の好ましさが向上していることが分かる。
【0074】
モッツァレラチーズでは、対照品と比較して試験品2−2〜2−4を使用した際に、顕著に乳臭さが低減し、総合的な風味の好ましさが向上していることが分かる。
【実施例3】
【0075】
<果汁添加時期の検討>
仕込み初期諸味、乳酸発酵諸味、酵母発酵諸味に対して、果汁としてトマトペースト(日本デルモンテ社製、中国産トマト、Brix30%)を、50:50(w:w)となるように混合した。また淡口醤油用の酵母発酵諸味には、果汁としてトマトペースト(日本デルモンテ社製、米国産トマト、Brix36%)を、50:50(w:w)となるように混合しトマトペースト混合諸味を得た。
【0076】
<果汁混合生醤油の調製>
実施例2記載の生醤油および淡口醤油用の生醤油に対して、果汁として市販のトマトペースト(日本デルモンテ社製、中国産トマト、Brix30%)を生醤油:果汁の比が50:50(w:w)となるように混合しトマトペースト混合生醤油を得た。
【0077】
<果汁混合諸味および果汁混合生醤油の発酵およびろ過>
トマトペースト混合諸味およびトマトペースト混合生醤油は、実施例2と同様にして1ヶ月間の発酵・熟成を行った。比較のため、生醤油にトマトペースト(日本デルモンテ社製、中国産トマト、Brix30%)を混合後、発酵・熟成を行わない比較品2も用意した。定法により圧搾・ろ過を行った後、火入れを80℃で50分間行い、非発酵の比較品2と、トマトペースト混合諸味からは試験品2−5〜2−8を、トマトペースト混合生醤油からは試験品2−9〜2−10を得た。
【0078】
<成分調整>
各種試験品の発酵終了時点での食塩濃度はそれぞれ試験品2−5:14.4% 、試験品2−6:14.8%、試験品2−7:10.0%、試験品2−8:12.4%、試験品2−9:10.7%、試験品2−10:11.2%(いずれもw/v)であった。比較品2の食塩濃度は11.4%であった。官能評価時には、対照品と同じ食塩濃度16.0%(w/v)となるように食塩を添加した。
【0079】
<成分分析>
一般成分および香気成分は、実施例1と同様にして行った。醤油および試験品の一般成分分析結果、香気成分含量を表3に示す。食塩濃度は成分調整後の値を示した。
【0080】
<官能評価>
訓練され識別能力を有するパネル12名により、実施例2と同様にして各調理における試験品のマスキング効果を評価した。
【0081】
【表3】

【0082】
表3に示す結果より、仕込み初期諸味、乳酸発酵諸味、酵母発酵諸味、淡口用酵母発酵諸味に果汁を添加し発酵した場合、いずれも対照品と比べエタノール、イソアミルアルコール、β−フェネチルアルコールが増加した。グルタミン酸および乳酸濃度は仕込み初期に果汁を添加し発酵した場合が最も低くなった。
生醤油に果汁を添加し、発酵・熟成を行わなかった比較品2ではクエン酸濃度は高くなったが、イソアミルアルコール、β−フェネチルアルコール濃度は低いままであった。発酵させた場合、エタノールが3.6〜5.4%、イソアミルアルコールは16〜81ppm、β−フェネチルアルコールは14〜43ppmとなり、対照品および比較品2と比較して顕著に高くなっていることが分かる。
【0083】
表3の官能評価結果より、対照品と比較して試験品2−5〜2−10を使用した際に、焼いた牛肉の獣臭を顕著に低減し、後味もさっぱりとしていることが分かる。また、総合的な風味の好ましさが向上していることが分かる。
【0084】
ほうれん草のお浸しでは、対照品と比較して試験品2−5〜2−10を使用した際に、ほうれん草の有する青臭さやエグ味が顕著に低減し、総合的な風味の好ましさが向上していることが分かる。
【0085】
サーモンマリネでは、対照品と比較して試験品2−5〜2−10を使用した際に、顕著に生臭さが低減し、総合的な風味の好ましさが向上していることが分かる。
【0086】
モッツァレラチーズでは、対照品と比較して2−5〜2−10を使用した際に、顕著に乳臭さが低減し、総合的な風味の好ましさが向上していることが分かる。
【実施例4】
【0087】
<各種果汁添加の検討>
トマトペースト以外の果汁としてトマト搾汁濃縮液(日本デルモンテ社製、イスラエル産、Brix60%)をBrix30%となるように蒸留水で希釈した。実施例2記載の酵母発酵諸味に対し、諸味:果汁の比が50:50(w:w)となるように果汁を混合し、トマト搾汁濃縮液混合諸味を得た。
【0088】
<各種果汁混合諸味の発酵およびろ過>
トマト搾汁濃縮液混合諸味は、実施例2と同様にして1ヶ月間の発酵・熟成を行った。定法により圧搾・ろ過を行った後、火入れを80℃で50分間行い、各種果汁混合諸味から試験品2−11を得た。
【0089】
<成分調整>
試験品の発酵終了時点での食塩濃度は試験品2−11:10.8%(いずれもw/v)であった。官能評価時には、対照品(実施例1)と同じ食塩濃度16.0%(w/v)となるように食塩を添加した。
【0090】
<成分分析>
一般成分および香気成分は、実施例1と同様にして行った。醤油および試験品の一般成分分析結果、香気成分含量を表4に示す。食塩濃度は成分調整後の値を示した。
【0091】
<官能評価>
訓練され識別能力を有するパネル12名により、実施例2と同様にして各調理における試験品のマスキング効果を評価した。
【0092】
【表4】

【0093】
表4に示す結果より、酵母発酵諸味に果汁を添加し発酵した場合、対照品と比べエタノール、イソアミルアルコール、β−フェネチルアルコールが増加した。
エタノールは5.1%、イソアミルアルコールは29ppm、β−フェネチルアルコールは19ppmとなり、対照品と比較して顕著に高くなっていることが分かる。
【0094】
表4の官能評価結果より、対照品と比較して試験品2−11を使用した際に、焼いた牛肉の獣臭を顕著に低減していることが分かる。
【0095】
ほうれん草のお浸しでは、対照品と比較して試験品2−11を使用した際に、ほうれん草の有する青臭さが顕著に低減していることが分かる。
【0096】
サーモンマリネでは、対照品と比較して試験品2−11を使用した際に、生臭さが顕著に低減していることが分かる。
【0097】
モッツァレラチーズでは、対照品と比較して試験品2−11を使用した際に、乳臭さが顕著に低減していることが分かる。
【0098】
以上の結果より、果汁を諸味や生醤油へ添加することにより、果汁由来のクエン酸が増加し、さらに発酵・熟成させることによってイソアミルアルコールおよび/またはβ−フェネチルアルコールが増加し、マスキング効果を向上した醤油様調味料が得られた。このように発酵して得られた醤油様調味料は、クエン酸と、イソアミルアルコールおよび/またはβ−フェネチルアルコールを醤油に添加して調製した醤油様調味料に比べ、さらに味のまとまりや呈味・総合的な香りのバランスに優れていた。本発明における醤油様調味料は、従来の和食用途においても食品のオフフレーバーに対する高いマスキング効果を示し、また洋食用途にも適していることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソアミルアルコールを15.0ppm以上および/またはβ−フェネチルアルコールを9.0ppm以上含有し、さらにクエン酸を0.2%(w/v)以上含有する醤油様調味料。
【請求項2】
クエン酸が果汁由来であることを特徴とする、請求項1に記載の醤油様調味料。
【請求項3】
果汁がトマトに由来するものを含むことを特徴とする、請求項2に記載の醤油様調味料。