説明

醤油粕からのアグリコン型イソフラボンの調製方法

【課題】得られるアグリコン型イソフラボンが食品、医薬品、健康食品素材として利用するに適したものとなるような方法であって、醤油粕からアグリコン型イソフラボンを簡便に抽出および精製する方法を提供すること。
【解決手段】アグリコン型イソフラボンの調製方法であって、醤油粕を水と接触させて脱塩処理された醤油粕を得る工程、脱塩処理された醤油粕をアルカリ性アルコール液と接触させてアグリコン型イソフラボン抽出液を得る工程、アグリコン型イソフラボン抽出液を−50℃〜5℃にて保持して不純物を沈澱させる工程、および不純物を除去する工程を包含する、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、醤油の製造過程で排出される醤油粕から有用物質であるアグリコン型イソフラボンを簡易に抽出精製する手法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソフラボンとは、大豆等に含まれるポリフェノールの一種であり、近年注目されている栄養素の一つである。
【0003】
イソフラボンは骨粗鬆症の予防:非特許文献1(Saito et al.,J. Home Econ. Jpn. 54,613(2003))、脂質代謝改善効果:非特許文献2(Anthony et al.,Journal of Nutrition,126,43−50(1996)))、歯周病進行の抑制効果(非特許文献3(稲垣ら、日本歯科保存学雑誌 46,538(2003))、ガン予防効果(培養ガン細胞の増殖阻害:非特許文献4(Okura et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,157,183(1988))、実験的発ガンの抑制:非特許文献5(Sharm et al.J.Steroid Biochem.Mol.Biol.,43,557(1992))、発ガン遺伝子発現の抑制:非特許文献6(Zwiller et al.Oncogene,6,219(1991))等を有することが報告されている。
【0004】
大豆にはイソフラボンが多く含まれており、主なものはダイゼイン、ゲニステイン、グリシテインという3種類のアグリコン型イソフラボンおよびそれぞれの配糖体、マロニル配糖体、アセチル配糖体である。
【0005】
未加工の大豆中に含まれるイソフラボンは、ほとんどが配糖体として存在しており、アグリコン型イソフラボンの含有量は低い。また、イソフラボンの機能性は、配糖体ではなくアグリコン型に主に認められることが指摘されている。
【0006】
一方、醤油の醸造工程において副産物として得られる醤油粕には、アグリコン型イソフラボンが多く含まれていることがわかっている。これは醤油の醸造中に麹菌等の微生物の酵素作用により、配糖体がアグリコン型に変換されるためと考えられている。また、アグリコン型イソフラボンは水に溶けにくいため、醤油よりも醤油粕中に高濃度で含有される。
【0007】
醤油の製造過程においては多量の醤油粕が排出されるが、一部が家畜飼料として用いられているに留まっており、多くは有効利用する用途がなく、廃棄物として取り扱われている。
【0008】
よって、醤油粕はアグリコン型イソフラボンの抽出原料として適しているが、醤油粕の塩分濃度が高いことが、食品素材として用いる上での課題であった。
【0009】
一方、この問題を解決すべく、効率よく抽出する手法として、1−プロパノール、2−プロパノール、ブチルアルコール、アセトン、エーテル等を用いて有用物質を抽出する第一工程と、水、エタノール、メタノールによって脱塩を行う第2工程からなる手法(特許文献1(特許第3569699号公報))、加熱処理した醤油粕をアルカリ水で抽出し、抽出液中のイソフラボンを吸着剤に吸着させ、吸着剤からアルカリ水で溶出する工程、溶出液をpH6以下に調整する工程、沈殿物を回収する工程からなる手法(特許文献2(特開2002−003487号公報))等が提案されている。
【0010】
しかし、これらの従来の技術による抽出法には、使用する有機溶媒が最終的に抽出物を食品素材として用いる上で利用しがたい溶媒であること、使用する吸着剤が高価であること、酸・アルカリ廃液の排出、抽出効率が低いこと等の問題点があった。
【特許文献1】特許第3569699号公報(第1頁〜第10頁)
【特許文献2】特開2002−003487号公報(第1頁〜第5頁)
【非特許文献1】Saito et al.,J. Home Econ. Jpn. 54,613(2003))
【非特許文献2】Anthony et al.,Journal of Nutrition,126,43−50(1996)
【非特許文献3】稲垣ら、日本歯科保存学雑誌 46,538(2003)
【非特許文献4】Okura et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,157,183(1988)
【非特許文献5】Sharm et al.J.Steroid Biochem.Mol.Biol.,43,557(1992)
【非特許文献6】Zwiller et al.Oncogene,6,219(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題点を解決しようとするものであり、得られるアグリコン型イソフラボンが食品素材、医薬品素材などとして利用するに適したものとなるような方法であって、醤油粕からアグリコン型イソフラボンを簡便に抽出および精製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、高塩濃度が問題となる醤油粕から、水抽出処理によって脱塩した後でアルカリ性アルコール液と接触させることにより、アグリコン型イソフラボンを高効率で抽出することができ、さらにこの抽出液を低温で保管することによって、アグリコン型イソフラボンは可溶性のまま脂質などの不純物を沈澱させることができ、この不純物を除去することにより高純度のアグリコン型イソフラボンを含む溶液が得られることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0013】
より特定の場合には、高塩濃度が問題となる醤油粕から、室温短時間の水抽出処理によって脱塩した醤油粕にアルカリ性アルコールを室温にて接触させることによりアグリコン型イソフラボンを抽出した後、抽出液を低温にて保管することによって不純物のみを沈殿除去させることで、抽出液中のアグリコン型イソフラボン純度を高めることができる。
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、例えば、以下の手段を提供する:
項目1.
アグリコン型イソフラボンの調製方法であって、
醤油粕を水と接触させて脱塩処理された醤油粕を得る工程、
該脱塩処理された醤油粕をアルカリ性アルコール液と接触させてアグリコン型イソフラボン抽出液を得る工程、
該アグリコン型イソフラボン抽出液を−50℃〜5℃にて保持して不純物を沈澱させる工程、および
該不純物を除去する工程
を包含する、方法。
【0015】
項目2.
前記脱塩処理された醤油粕の塩分濃度が、0〜1重量%である、項目1に記載の調製方法。
【0016】
項目3.
前記アルカリ性アルコール液が、アルカリを0.01〜5M含有する30〜100容量%のアルコール水溶液である、項目1に記載の調製方法。
【0017】
項目4.
前記アルカリが、水酸化ナトリウムである、項目3に記載の調製方法。
【0018】
項目5.
前記アルコールが、エタノールである、項目1に記載の調製方法。
【0019】
項目6.
前記沈澱工程において、前記アグリコン型イソフラボン抽出液が、−50〜5℃にて1〜24時間保持される、項目1に記載の調製方法。
【0020】
項目7.
前記不純物を除去した後、さらに、前記抽出液を酸で中和する工程を包含する、項目1に記載の調製方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の方法により、安価で簡便な方法により、アグリコン型イソフラボンを高い抽出効率で、醤油粕から得ることができる。本発明の方法においては食品素材、医薬品素材などとして利用する上で問題になる溶媒を使用していないため、得られるアグリコン型イソフラボンは食品素材として非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
本明細書において、「アグリコン型イソフラボン」とは、配糖体イソフラボンの非糖部分をいう。アグリコン型イソフラボンの例としては、ダイゼイン、ゲニステインおよびグリシテインが挙げられる。アグリコン型イソフラボンは、醤油粕中に多量に含まれる。
【0024】
本明細書において、「醤油粕」とは、醤油の製造工程で大豆などの醤油原料から醤油を絞りとった後に残る副産物である。醤油粕はアグリコン型イソフラボンおよび塩分を多く含む。醤油原料に用いられる大豆は、当該分野で通常使用される大豆であり得る。醤油原料に用いられる大豆の例としては、丸大豆、脱皮大豆および脱脂大豆が挙げられる。醤油原料に用いられる大豆は、脱脂大豆であることが好ましい。醤油粕は、醤油を絞った直後のような湿った状態のものであってもよく、一旦乾燥したものであってもよい。
【0025】
本発明の方法は、醤油粕を水と接触させて、脱塩処理された醤油粕を得る工程を包含する。
【0026】
醤油粕と接触させる水の量は、醤油粕から効率よく脱塩できる量であればいかなる量でもよく、適宜選ぶことができる。水の量は例えば、醤油粕の体積の約2倍以上であり得、好ましくは約4倍以上であり得る。水の量に特に上限はないが、例えば、約20倍以下、約10倍以下であり得る。一般に、醤油粕には、約8%の塩分(特に塩化ナトリウム)が含まれる。醤油粕を水と接触させると、醤油粕中に含まれる塩分(特に塩化ナトリウム)が水中に溶解する。一方、アグリコン型イソフラボンは水にほとんど溶解しないので、醤油粕中に残存する。そのため、醤油粕を水と接触させた後に水分を除去することにより、醤油粕から塩分が除去される。
【0027】
本発明の方法においては、醤油粕からアグリコン型イソフラボンを抽出する前に脱塩をすることが重要である。脱塩処理をせずに醤油粕を直接アルコール液と接触させると、アルコール液中に塩分とアグリコン型イソフラボンとの両方が抽出され、その後、塩分とアグリコン型イソフラボンとを分離するために複雑かつ高価なさらなる処理が必要となる。
【0028】
しかし、本発明の方法においては、醤油粕を予め水と接触させることにより、醤油中に含まれる大部分の塩分が水中に抽出され、他方、アグリコン型イソフラボンはほとんど水に抽出されない。そのため、醤油粕を水と接触させることにより、塩分とアグリコン型イソフラボンとを分離することができ、アグリコン型イソフラボンをほとんど損失することなく醤油粕の脱塩を実施することができる。
【0029】
脱塩の方法としては、バッチ法、カラム法などを適宜用いることができる。例えば、醤油粕を適切な容器に入れ、水を添加し、撹拌後、濾過等によって脱塩する方法(バッチ法)、カラムに醤油粕を充填し、上部から水を通過させることによって脱塩する方法(カラム法)等を用いることができる。バッチ法においては、必要に応じて同様の操作を繰り返すことにより、脱塩処理後の醤油粕の塩分濃度をさらに下げることも可能である。
【0030】
醤油粕と水とを接触させる際の温度は、醤油粕から水中に塩が抽出される限り任意の温度であり得る。醤油粕と水とを接触させる際の温度は、好ましくは室温(約25℃)であり、より好ましくは約15℃以上であり、最も好ましくは約20℃以上である。醤油粕と水とを接触させる際の温度は、好ましくは約50℃以下であり、より好ましくは約40℃以下であり、最も好ましくは約30℃以下である。醤油粕と水とを接触させる際の温度が低すぎると脱塩効率が低くなりすぎる場合があり、抽出の際の温度が高すぎると、粘性が上がって濾過しにくくなり、粕と水との分離が悪くなる場合がある。
【0031】
本発明の方法においては、このようにして醤油粕と水とを接触させることにより、脱塩処理された醤油粕が得られる。脱塩処理は、得られる脱塩処理された醤油粕中の塩分濃度が、脱塩処理する前の醤油粕中の塩分の約10分の1以下になるように行われることが好ましい。脱塩処理された醤油粕中の塩分濃度は、好ましくは1重量%以下であり、より好ましくは約0.7重量%以下であり、さらに好ましくは約0.5重量%以下であり、最も好ましくは約0.3重量%以下である。脱塩処理された醤油粕中の塩分濃度は少ないほど好ましく、全て除去した場合、0重量%となる。それゆえ、脱塩処理された醤油粕中の塩分濃度は0重量%〜0.3重量%が好ましい。
【0032】
脱塩処理された醤油粕中の塩分濃度は、醤油粕と水とを上記のように接触させた後、濾過などの分離手段により水を除去した後に得られる醤油粕の重量に基づいて決定される。
【0033】
本発明の方法は、次に、脱塩処理された醤油粕をアルカリ性アルコール液と接触させて、アグリコン型イソフラボン抽出液を得る工程を包含する。
【0034】
この工程に用いられるアルカリ性アルコール液とは、アルカリ性物質とアルコールとを含む液体である。アルカリ性アルコール液は好ましくはアルカリ性アルコール水溶液である。すなわち、アルカリ性物質とアルコールと水とを含む。アルカリ性アルコール液は、当該分野で公知の任意の方法によって調製され得る。アルカリ性アルコール液は、例えば、アルコールまたはアルコール水溶液にアルカリ(又はその水溶液)を添加することによって調製され得る。アルカリ性アルコール水溶液は、アルコール水溶液にアルカリを添加することにより調製されてもよく、アルコールにアルカリを添加し、その後水と混合することにより調製されてもよく、または水にアルカリを添加し、その後アルコールと混合することにより調製されてもよい。
【0035】
アルコールとしては、任意のアルコールを使用することができる。アルコールは好ましくは食用可能なアルコールであり、より好ましくはエタノールまたはメタノールであり、最も好ましくはエタノールである。
【0036】
アルコール液は、アルコールと水との混合物であっても、純粋なアルコールであっても、2種以上のアルコールの混合物であってもよい。アルコール液は好ましくはアルコール水溶液である。アルコール水溶液である場合、アルコールと水との混合比は、アグリコン型イソフラボンを効率よく抽出できれば任意の比率であってよく、適宜選ぶことができる。アルコール水溶液中のアルコールの容量%は、例えば約30容量%以上であり、好ましくは約60容量%以上である。アルコール水溶液中のアルコールの容量%は、例えば約100容量%以下であり、好ましくは約90容量%以下である。アルコールの容量%が低すぎると、アグリコン型イソフラボンの抽出が充分でない場合がある。アルコールの容量%が高すぎると、アグリコン型イソフラボンの抽出が充分でない場合がある。
【0037】
アルカリとしては、強い塩基性を示せば、任意のアルカリを使用することができる。アルカリは好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアまたは炭酸ナトリウムであり、より好ましくは水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであり、最も好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0038】
アルカリ性アルコール液中のアルカリの濃度はいかなる濃度でもよく、適宜選ぶことが出来る。アルカリ性アルコール液中のアルカリの濃度は、例えば約0.01M以上であり、好ましくは約0.05M以上である。アルカリ性アルコール液中のアルカリの濃度は、例えば5M以下であり、好ましくは0.3M以下である。アルカリの濃度が低すぎると、アルコール液へのイソフラボンの抽出があまり促進されない場合がある。アルカリの濃度が高すぎると、中和処理に負担がかかりすぎる場合がある。なお、「M」は、モル濃度を示し、アルコール液1リットル中に存在するアルカリのモル数を示す。
【0039】
抽出の際に用いるアルカリ性アルコール液の量は、アグリコン型イソフラボンを効率よく抽出できる量であればいかなる量でもよく、適宜選ぶことが出来る。アルカリ性アルコール液の量(重量)は、例えば、脱塩処理した後の醤油粕の重量の約1倍量以上であり、好ましくは約2倍量以上である。アルカリ性アルコール液の量に上限は特にないが、例えば、脱塩処理した後の醤油粕の重量の約20倍量以下であり、好ましくは約10倍量以下である。アルカリ性アルコール液の量が少なすぎると、アグリコン型イソフラボンを充分に抽出できない場合がある。アルカリ性アルコール液の量が多すぎると、中和処理または乾燥処理に負担がかかりすぎる場合がある。
【0040】
抽出の方法としては、バッチ法、カラム法などを適宜用いることができる。例えば、脱塩処理した醤油粕を適切な容器に入れ、アルカリ性アルコール液を添加し、撹拌後、濾過等によって抽出液を得る方法(バッチ法)、脱塩処理した醤油粕をカラムに充填し、上部からアルカリ性アルコール液を通過させることによって抽出液を得る方法(カラム法)等を用いることが出来る。バッチ法においては、必要に応じて同様の操作を繰り返すことにより、アグリコン型イソフラボンの抽出量を上げることも可能である。
【0041】
抽出は、アルカリ性アルコール液が液体である限り、任意の温度で行われ得る。抽出が行われる温度は、好ましくは室温(約25℃)であり、より好ましくは約15℃以上であり、最も好ましくは約20℃以上である。抽出が行われる温度は、好ましくは約50℃以下であり、より好ましくは約40℃以下であり、最も好ましくは約30℃以下である。抽出の際の温度が低すぎると抽出効率が低くなりすぎる場合があり、抽出の際の温度が高すぎるとアルコールの揮発が激しくなりすぎる場合がある。
【0042】
このように、脱塩処理された醤油粕をアルカリ性アルコール液と接触させることにより、アグリコン型イソフラボン抽出液が得られる。
【0043】
本発明の方法は、次に、このアグリコン型イソフラボン抽出液を−50〜5℃にて保持して不純物を沈澱させる工程を包含する。好ましくは、アグリコン型イソフラボン抽出液は、−50℃〜5℃にて1〜24時間保持される。
【0044】
抽出液を冷却する温度は、抽出液が凍結せず、不純物が沈澱する温度であればいかなる温度でもよく、適宜選ぶことができる。抽出液を冷却する温度は、例えば、約5℃以下であり、好ましくは約−20℃以下である。抽出液を冷却する温度は、例えば、約−50℃以上である。なお、「抽出液を冷却する温度」とは、抽出液を冷却するために抽出液が置かれる環境の温度を意味し、これは実質的には抽出液の温度を意味する。
【0045】
抽出液を冷却する時間は、抽出液が十分に冷却される時間であればいかなる時間でもよく、適宜選ぶことができる。抽出液を冷却する時間は、例えば約1時間以上であり、好ましくは約3時間以上である。抽出液を冷却する時間は、例えば約24時間以下であり、好ましくは15時間以下である。なお、「抽出液を冷却する時間」とは、抽出液を冷却するために抽出液が冷却温度条件に置かれ始めてから置き終わるまでの時間を意味し、これは実質的には抽出液の温度が冷却温度に達してからの時間を意味する。
【0046】
このように抽出液を冷却すると、アグリコン型イソフラボン抽出液において、不純物が沈澱する。脱塩処理された醤油粕をアルカリ性アルコール液と接触させると、醤油粕からアルカリ性アルコール液中にアグリコン型イソフラボンが抽出される。このとき、アルカリ性アルコール液中には、アグリコン型イソフラボンだけでなく、それ以外の不純物も抽出される。このような不純物の1つは脂質である。脂質は、醤油粕中に約10%含まれ、その大部分は脂肪酸である。抽出液を冷却することにより、脂肪酸などの不純物は不溶性の沈澱となり、濾過などの分離手段により容易に除去できる。しかし、この際、アグリコン型イソフラボンは可溶性のままである。そのため、抽出液を冷却して不純物を沈澱とし、その沈澱を除去することにより、抽出液中のアグリコン型イソフラボンの純度を顕著に上昇させることができる。
【0047】
本発明の方法は、抽出液中に不純物を沈澱させた後に、この不純物(すなわち、沈澱物)を除去する工程を包含する。不純物は、当該分野で公知の方法によって除去できる。不純物を除去する方法の例としては、濾過、遠心分離、デカントなどが挙げられる。
【0048】
不純物を除去した後の抽出液は、酸で中和した後、噴霧乾燥、凍結乾燥等によって粉末化することができる。噴霧乾燥の際には任意の賦形剤を使用することができる。
【実施例1】
【0049】
脱脂大豆を原料として製造された醤油の副産物である醤油粕10kg(体積24L;水分含量27重量%;塩分濃度7.8重量%)を粉砕し、50Lの水を加えて混合し、濾紙で濾過することにより脱塩した。この操作を計2回行い、20kg(体積19.2L)の脱塩醤油粕を得た。得られた脱塩醤油粕の塩分濃度は約0.3重量%であった。
【0050】
塩分濃度はイオンクロマトグラフ法により塩化物イオン(Cl)を測定し、NaCl換算で算出した。
【0051】
この脱塩醤油粕に50Lの0.1M水酸化ナトリウム含有70%エタノール水溶液を添加して撹拌し、25℃で15分間保持することにより、アグリコン型イソフラボンをこの水溶液中に抽出させた。次いで、この液を濾過することにより、醤油粕を除去して、抽出液50Lを得た。HPLCでアグリコン型イソフラボンの濃度を測定した。アグリコン型イソフラボンとして、ダイゼイン、ゲニステインおよびグリシテインの濃度を測定した。抽出液中のアグリコン型イソフラボン濃度の合計は以下の表1の通りであった。
【0052】
【表1】

【実施例2】
【0053】
10kgの醤油粕を用いて実施例1と同じ手順に従って、脱塩操作を行った後、50Lの0.1M水酸化ナトリウム含有70%エタノール水溶液によるアグリコン型イソフラボン抽出を2回行い、アグリコン型イソフラボン含有抽出液100Lを得た。得られた抽出液を、それぞれ−50℃、−20℃または5℃で一晩保管後、濾過により沈澱物を除去した。得られた濾液を塩酸で中和した後、賦形剤として500gのデキストリンを添加し噴霧乾燥を行い、アグリコン型イソフラボン含有粉末を得た。
【0054】
対照として、抽出液100Lを室温(約25℃)で一晩保管した後、同様に得たアグリコン型イソフラボン含有粉末を用いた。HPLCでこの粉末中のアグリコン型イソフラボンの濃度を測定した。アグリコン型イソフラボンとして、ダイゼイン、ゲニステインおよびグリシテインの濃度を測定した。得られた粉末のアグリコン型イソフラボンの濃度合計は以下の表2の通りであった。
【0055】
【表2】

この結果、冷却しないと沈澱が生じないが、冷却することによって沈澱が生じて不純物が除去され、得られるアグリコン型イソフラボン濃度が上昇することがわかった。
【0056】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明により、醤油醸造の際の副産物であり、廃棄物である醤油粕から、有用物質であるアグリコン型イソフラボンを簡便に抽出および精製することができる。得られるアグリコン型イソフラボンは、食品、医薬品、健康食品などの素材として利用するに適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アグリコン型イソフラボンの調製方法であって、
醤油粕を水と接触させて脱塩処理された醤油粕を得る工程、
該脱塩処理された醤油粕をアルカリ性アルコール液と接触させてアグリコン型イソフラボン抽出液を得る工程、
該アグリコン型イソフラボン抽出液を−50℃〜5℃にて保持して不純物を沈澱させる工程、および
該不純物を除去する工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記脱塩処理された醤油粕の塩分濃度が、0〜1重量%である、請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
前記アルカリ性アルコール液が、アルカリを0.01〜5M含有する30〜100容量%のアルコール水溶液である、請求項1に記載の調製方法。
【請求項4】
前記アルカリが、水酸化ナトリウムである、請求項3に記載の調製方法。
【請求項5】
前記アルコールが、エタノールである、請求項1に記載の調製方法。
【請求項6】
前記沈澱工程において、前記アグリコン型イソフラボン抽出液が、−50℃〜5℃にて1〜24時間保持される、請求項1に記載の調製方法。
【請求項7】
前記不純物を除去した後、さらに、前記抽出液を酸で中和する工程を包含する、請求項1に記載の調製方法。

【公開番号】特開2007−217367(P2007−217367A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41168(P2006−41168)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【出願人】(000132172)株式会社スギヨ (23)
【Fターム(参考)】