説明

重力鋳造装置およびこれを用いた重力鋳造方法

【課題】溶融軽合金の鋳型への注入前から溶融軽金属が凝固するまで溶融軽合金全体を加圧して、軽合金鋳物のピンホールの発生を溶融軽合金の凝固の段階に抑制することができる重力鋳造装置を提供する。
【解決手段】溶融軽合金を鋳型に注入するラドル1と、ラドルのほぼ上面から下の部分を包囲し上端部に開口を有するラドルチャンバ5と、ラドルチャンバと所要の間隔をおき隣接して設けられ180度反転によりラドルチャンバの上面上に重畳可能かつ内部に鋳型を取り付けた鋳型チャンバ9と、鋳型チャンバとラドルチャンバの重畳位置の開口をシールするシール手段3と、鋳型チャンバを180度正逆旋回移動可能、かつ鋳型チャンバを180度反転させてラドルチャンバの上面上に重畳可能な旋回駆動手段11と、重畳状態のラドルチャンバ・鋳型チャンバをクランプするクランプ手段12と、鋳型チャンバに連通接続されてラドルチャンバと鋳型チャンバとで画成する気密空間内に加圧気体を供給する加圧気体供給手段13と、を具備したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重力鋳造装置およびこれを用いた重力鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軽合金鋳物を鋳造する装置のひとつとして、上面に湯口およびガス吹込み口を開口させた密閉型るつぼを機枠に上下方向に傾動可能に枢支し、そのるつぼ上に前記湯口に連通する鋳型を設置し、さらに前記るつぼに、その内部の金属溶湯が前記鋳型内に自然注入される所定角度にそれぞれ傾動させ得る傾動装置を連結し、前記ガス吹込み口には前記るつぼの傾動後、そのるつぼ内の湯面を加圧するガスを吹込み得るガス圧送装置を接続した構成にして、鋳型に注湯後、ガス圧送装置によりガスをるつぼ内に吹き込み、るつぼ内の溶湯表面を加圧して鋳型内の溶湯に充填圧力を与えるようにした鋳造装置がある。
【特許文献1】特開昭53−96920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、このように構成された従来の鋳造装置では、るつぼ内の金属溶湯の表面にしかガス圧が作用しないため、例えば、金属溶湯がアルミニウム溶湯の場合、アルミニウム溶湯に含まれる水素がアルミニウム溶湯の凝固時にガス化してアルミニウム鋳物にピンホールが生成するなどの問題があった。
【0004】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的は、溶融軽合金の鋳型への注入前から、注入された溶融軽金属が凝固するまで溶融軽合金全体を加圧して、軽合金鋳物のピンホールの発生を溶融軽合金の凝固の段階に抑制することができる鋳型回動式の重力鋳造装置およびこれを用いた重力鋳造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために本発明における重力鋳造装置は、鋳型回動式重力鋳造法により軽合金鋳物を鋳造する装置であって、溶融軽合金を鋳型に注入するラドルと、このラドルのほぼ上面から下の部分を包囲しかつ上端部に開口を有するラドルチャンバと、このラドルチャンバと所要の間隔をおき隣接して設けられ、180度反転により前記ラドルチャンバの上面上に重畳可能であり、かつその内部に前記鋳型を取り付けた鋳型チャンバと、この鋳型チャンバと前記ラドルチャンバの重畳位置における前記開口の周囲をシールするシール手段と、前記鋳型チャンバを垂直面内で180度正・逆旋回移動可能であり、かつ前記鋳型チャンバを180度反転させて前記ラドルチャンバの上面上に重畳可能な旋回駆動手段と、重畳状態の前記ラドルチャンバおよび前記鋳型チャンバをクランプするクランプ手段と、前記鋳型チャンバに連通接続されて重畳状態の前記ラドルチャンバと前記鋳型チャンバとで画成する気密空間内に加圧気体を供給する加圧気体供給手段と、を具備したことを特徴とする。
【0006】
このように構成されたものは、所要量の溶融軽合金をラドルに給湯したのち旋回駆動手段により鋳型チャンバを、垂直面内で180度正旋回移動かつ180度反転させてラドルチャンバ上に重畳し、続いて、鋳型チャンバとラドルチャンバをクランプ手段によってクランプしたのちラドルチャンバと鋳型チャンバとが画成する気密空間内に加圧気体供給手段により所定圧の加圧気体を供給する。次いで、旋回駆動手段によりラドルチャンバおよび鋳型チャンバを垂直面内で逆旋回かつ回動させて加圧気体による加圧下でラドルの溶融軽合金を鋳型のキャビティ内に注入し、続いて、鋳型のキャビティ内の溶融軽合金が凝固したのち気密空間内から加圧気体を排出するとともに、旋回駆動手段によりラドルチャンバおよび鋳型チャンバを垂直面内で正旋回移動させる。次いで、クランプ手段による鋳型チャンバとラドルチャンバのクランプ状態を解除し、続いて、旋回駆動手段により鋳型チャンバをラドルチャンバから分離したのち鋳型から軽合金鋳物を取り出す。
【0007】
なお、本発明において加圧気体供給手段は、圧縮空気または不活性ガスを供給する構造になっている。
またなお、本発明における鋳型としては、金型だけでなく、自硬性鋳型やシェル鋳型などの各種の砂型でも良く、金型の場合には金型から鋳物を押出す鋳物押出し手段が必要である。
またなお、本発明において溶融軽合金の加圧に不活性ガスを用いる場合、鋳型チャンバに吸引減圧手段を連通接続して、気密空間内を吸引減圧したのち気密空間内に不活性ガスを供給することにより、気密空間内を高密度な不活性雰囲気にすることができる。
またなお、本発明において前記気密空間内に供給する加圧気体の所定圧は、0.3〜1.5MPaが望ましく、この圧力より低いと所望の作用効果を得ることができない。
またなお、本発明において軽合金としてはアルミニウム合金やマグネシウム合金などがある。
【発明の効果】
【0008】
以上の説明から明らかなように本発明は、鋳型回動式重力鋳造法により軽合金鋳物を鋳造する装置であって、溶融軽合金を鋳型に注入するラドルと、このラドルのほぼ上面から下の部分を包囲しかつ上端部に開口を有するラドルチャンバと、このラドルチャンバと所要の間隔をおき隣接して設けられ、180度反転により前記ラドルチャンバの上面上に重畳可能であり、かつその内部に前記鋳型を取り付けた鋳型チャンバと、この鋳型チャンバと前記ラドルチャンバの重畳位置における前記開口の周囲をシールするシール手段と、前記鋳型チャンバを垂直面内で180度正・逆旋回移動可能であり、かつ前記鋳型チャンバを180度反転させて前記ラドルチャンバの上面上に重畳可能な旋回駆動手段と、重畳状態の前記ラドルチャンバおよび前記鋳型チャンバをクランプするクランプ手段と、前記鋳型チャンバに連通接続されて重畳状態の前記ラドルチャンバと前記鋳型チャンバとで画成する気密空間内に加圧気体を供給する加圧気体供給手段と、を具備したから、いわゆる鋳型回動式重力鋳造法におけるガスや酸化物の巻き込みを防止することができる上に、加圧雰囲気下の溶融軽合金の凝固により軽合金鋳物のピンホールの生成を未然に防止することができるなどの優れた実用的効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を適用した重力式鋳造装置の一実施例について図1〜図4に基づき詳細に説明する。図1に示すように、本重力式鋳造装置は、溶融軽合金の注入手段を有するラドル1と、このラドル1のほぼ上面から下の部分を耐火物2を介在して包囲しかつシール手段3で囲まれた開口4を上端部に有するラドルチャンバ5と、このラドルチャンバ5を分離自在にして載置かつ昇降可能なラドルチャンバ昇降手段6と、前記ラドルチャンバ5と所要の間隔をおき隣接して設けられ、180度反転により前記ラドルチャンバ5の上面上に重畳可能であり、上端部に開口7を有しかつその内部に鋳型としての金型8を取り付けた鋳型チャンバ9と、別途設けられて前記金型8から鋳物を押出す鋳物押出し手段10と、前記ラドルチャンバ5と前記鋳型チャンバ9との間に配置され前記鋳型チャンバ9を垂直面内で180度正・逆旋回移動可能でありかつ前記鋳型チャンバ9を180度反転させて前記ラドルチャンバ5の上面上に重畳可能な旋回駆動手段11と、前記鋳型チャンバ9の上端部に装着されて重畳した前記鋳型チャンバ9とラドルチャンバ5とをクランプするクランプ手段12と、前記鋳型チャンバ9に連通接続されて重畳した前記ラドルチャンバ5と前記鋳型チャンバ9とで画成する気密空間内に加圧気体を供給する加圧気体供給手段13と、で構成してある。
【0010】
そして、鋳型チャンバ9には吸引減圧手段も連通接続してある。
また、前記ラドルチャンバ昇降手段6は、定盤状の基台14の上面右寄り位置に配設してあって、ブラケット15を介して上向きに装着された第1油圧シリンダ16と、この第1油圧シリンダ16のピストンロッドの上端に固着されたラドルチャンバ載置部材17とで構成してある。
【0011】
また、前記鋳物押出し手段10は、前記基台14の上面左寄り位置に配設してあって、ブラケット18を介して上向きに装着された第2油圧シリンダ19と、前記金型8に装着されて前記第2油圧シリンダ19の伸長作動により上昇して前記金型8から鋳物を押出す鋳物押出し機構20とで構成してある。
【0012】
また、前記旋回駆動手段11は、前記基台14の上面中央位置に配設してあって、支持台21を介して装着された横向きのモータ22と、このモータ22の回転軸に基部が嵌着されかつ前記鋳型チャンバ9の右外側面に先端部が固着されたアーム23と、で構成してある。
【0013】
このように構成したものは、まず、図2−Aに示すように、所要量の溶融軽合金をラドル1に給湯したのち、図2−Bに示すように、旋回駆動手段11のモータ22の駆動によりアーム23を時計回り方向へ回動させ、鋳型チャンバ9を右方向へ旋回させるとともに180度反転させてラドルチャンバ5の真上に移動させる。次いで、図2−Cに示すように、ラドルチャンバ昇降手段6の第1油圧シリンダ15を伸長作動してラドルチャンバ載置部材17を介してラドルチャンバ5を押し上げ、鋳型チャンバ9にラドルチャンバ5を当接し、続いて、図2−Dに示すように、鋳型チャンバ9とラドルチャンバ5をクランプ手段12によってクランプする。次いで、ラドルチャンバ5と鋳型チャンバ9とで画成する気密空間内から吸引したのち、この気密空間内に加圧気体供給手段13により所定圧の加圧気体としての不活性ガスを供給して気密空間内を加圧するとともに、ラドルチャンバ載置部材17を元の位置に戻す。
【0014】
次いで、図3−Aに示すように、旋回駆動手段11のアーム23を反時計回り方向へ回動させ、ラドルチャンバ5および鋳型チャンバ9を左方へ旋回させて、不活性ガスによる加圧下でラドル1の溶融軽合金を金型8のキャビティ内に注入する作動を開始し、続いて、図3−Bに示すように、その注湯作動を続行する。次いで、図3−Cに示すように、ラドルチャンバ5および鋳型チャンバ9を鋳物押出し手段10の第2油圧シリンダ19の真上まで移動させて鋳型8のキャビティ内への注湯を完了する。そして、金型8のキャビティ内の溶融軽合金は不活性ガスによる加圧下で凝固を始める。
【0015】
次いで、図4−Aに示すように、溶融軽合金の凝固が完了したのち、旋回駆動手段11のアーム23を再び時計回り方向へ回動させ、ラドルチャンバ5および鋳型チャンバ9をラドルチャンバ昇降手段6の真上に移動させるとともに、気密空間内から不活性ガスを排出し、続いて、図4−Bに示すように、クランプ手段12による鋳型チャンバ9とラドルチャンバ5のクランプ状態を解除したのち、ラドルチャンバ昇降手段6の第1油圧シリンダ16を収縮作動してラドルチャンバ5を下降させ鋳型チャンバ9から分離する。次いで、図4−Cに示すように、旋回駆動手段11のアーム23を再び反時計回り方向へ回動させ、鋳型チャンバ9を左方へ旋回させるとともに正転させて第2油圧シリンダ19の真上に移動させたのち、第2油圧シリンダ19の伸長作動により鋳物押出し機構20を上昇させて金型8から軽合金鋳物を押し上げ、その後、この軽合金鋳物を取り出す。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用した重力鋳造装置の一部断面正面図である。
【図2】図1に示す重力鋳造装置の作動説明図である。
【図3】図1に示す重力鋳造装置の作動説明図である。
【図4】図1に示す重力鋳造装置の作動説明図である。
【符号の説明】
【0017】
1 ラドル
3 シール手段
4 開口
5 ラドルチャンバ
6 ラドルチャンバ昇降手段
7 開口
8 金型
9 鋳型チャンバ
10 鋳型チャンバ昇降手段
11 旋回駆動手段
12 クランプ手段
13 加圧気体供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型回動式重力鋳造法により軽合金鋳物を鋳造する装置であって、
溶融軽合金を鋳型に注入するラドルと、
このラドルのほぼ上面から下の部分を包囲しかつ上端部に開口を有するラドルチャンバと、
このラドルチャンバと所要の間隔をおき隣接して設けられ、180度反転により前記ラドルチャンバの上面上に重畳可能であり、かつその内部に前記鋳型を取り付けた鋳型チャンバと、
この鋳型チャンバと前記ラドルチャンバの重畳位置における前記開口の周囲をシールするシール手段と、
前記鋳型チャンバを垂直面内で180度正・逆旋回移動可能であり、かつ前記鋳型チャンバを180度反転させて前記ラドルチャンバの上面上に重畳可能な旋回駆動手段と、
重畳状態の前記ラドルチャンバおよび前記鋳型チャンバをクランプするクランプ手段と、
前記鋳型チャンバに連通接続されて重畳状態の前記ラドルチャンバと前記鋳型チャンバとで画成する気密空間内に加圧気体を供給する加圧気体供給手段と、
を具備したことを特徴とする重力鋳造装置。
【請求項2】
前記加圧気体供給手段は、圧縮空気または不活性ガスを供給することを特徴とする請求項1に記載の重力鋳造装置。
【請求項3】
前記鋳型が金型であって、この金型から鋳物を押出す鋳物押出手段を別途設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の重力鋳造装置。
【請求項4】
前記鋳型チャンバに吸引減圧手段を連通接続したことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の重力鋳造装置。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の重力鋳造装置を用いて軽合金鋳物を鋳造する方法であって、
所要量の溶融軽合金を前記ラドルに給湯したのち前記旋回駆動手段により前記鋳型チャンバを、垂直面内で180度正旋回移動かつ180度反転させて前記ラドルチャンバ上に重畳する工程と、
前記鋳型チャンバと前記ラドルチャンバを前記クランプ手段によってクランプしたのち前記ラドルチャンバと前記鋳型チャンバとが画成する気密空間内に前記加圧気体供給手段により所定圧の加圧気体を供給する工程と、
前記旋回駆動手段により前記ラドルチャンバおよび前記鋳型チャンバを垂直面内で逆旋回かつ回動させて加圧気体による加圧下で前記ラドルの溶融軽合金を前記鋳型のキャビティ内に注入する工程と、
前記鋳型のキャビティ内の溶融軽合金が凝固したのち前記気密空間内から加圧気体を排出させるとともに前記旋回駆動手段により前記ラドルチャンバおよび前記鋳型チャンバを垂直面内で正旋回移動させる工程と、
前記クランプ手段による前記鋳型チャンバと前記ラドルチャンバのクランプ状態を解除したのち前記旋回駆動手段により前記鋳型チャンバを前記ラドルチャンバから分離して前記鋳型から軽合金鋳物を取り出す工程と、
を含むことを特徴とする重力鋳造方法。
【請求項6】
前記気密空間内に供給する加圧気体の所定圧は0.3〜1.5MPaであることを特徴とする請求項5に記載の重力鋳造方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の軽合金鋳物の鋳造工程の途中において、前記気密空間内に所定圧の不活性気体を供給する前にその気密空間内を吸引減圧することを特徴とする請求項5または6に記載の重力鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−119721(P2008−119721A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306243(P2006−306243)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000191009)新東工業株式会社 (474)
【Fターム(参考)】