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重合体の測定方法
説明

重合体の測定方法

【課題】重合体を構成する多種の構成単位の組成分布を、同時にかつより正確に測定できる方法を提供する。
【解決手段】質量分析装置を用いて、ピーク半値幅が0.1Da以下となる条件で、重合体の質量分析を行う質量分析工程と、得られた質量スペクトルにおいて、末端基の組成が共通し、かつ末端基以外の構成単位の組成が共通する成分毎に、対応するピークを特定するピークピック工程を有する、重合体の測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析装置を用いて重合体を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、重合体は、たんぱく質などの生体高分子を除き、単一の分子から構成されているものではなく、構成単位の数や種類の組み合わせが異なる分子の混合物で構成されている。つまり、重合体中には、分子量や、構成単位の組成(構成単位の種類とその数)が異なる分子が存在しており、重合体全体で見ると、分子量の分布および構成単位の組成分布がそれぞれ存在している。
【0003】
従来より、重合体の構成単位の組成分布を測定する方法が種々提案されている。例えば非特許文献1には、臨界吸着クロマトグラフィー(LC−CAP)法、臨界条件クロマトグラフィー(LCCC)法、温度勾配相互作用クロマトグラフィー(TGIC)法が記載されている。
しかし、これらの方法は、ある1種類の構成単位、例えば1種の単量体に由来する構成単位の組成分布は測定することができるが、末端基、不均化構造部分、分岐構造部分等を含む、多種の構成単位についての組成分布を、同時に、かつ正確に測定するのは非常に難しい場合が多い。
【0004】
特許文献1、特許文献2または非特許文献2には、重合体を質量分析(MS)法で測定する方法が記載されている。
特許文献1に記載されている方法は、サイズ排除クロマトグラフィーにより分離、分取した各画分を質量分析する方法であり、高分子重合体の絶対分子量分布、絶対平均分子量を測定している。また、この方法を用いて、分子量が異なる2種のポリスチレンの含有比率を測定した例が記載されている。
特許文献2に記載の方法は、加熱や超音波などにより、高分子化合物を低分子化して質量分析する方法である。この方法では、元の重合体を正確に反映した測定結果は得られない。
非特許文献2に記載の方法は、非特許文献1と同様に、1種の単量体単位にだけ着目した組成分布を測定する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−325265号公報
【特許文献2】特開2009−103635号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H. J. A. Philipsen, Journal of Chromatography A, Vol.1037, No.1-2, 329-350, 2004
【非特許文献2】G. J. van Rooij et al, Analytical Chemistry, Vol.70, No.5, 843-850, 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、重合体を構成する多種の構成単位についての組成分布を、同時に、かつより正確に測定できる、重合体の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の重合体の測定方法は、質量分析装置を用いて、ピーク半値幅が0.1Da以下となる条件で、重合体の質量分析を行う質量分析工程と、得られた質量スペクトルにおいて、末端基の組成が共通し、かつ末端基以外の構成単位の組成が共通する成分毎に、対応するピークを特定するピークピック工程を有する。
【0009】
前記質量分析装置が飛行時間型であることが好ましい。
前記の時間飛行型質量分析装置が、らせん軌道型、多重周回型のいずれかであることが好ましい。
前記質量分析装置が、フーリエ変換型、オービトラッブ型のいずれかであることが好ましい。
前記質量分析工程の前に、重合体を液体クロマトグラフィーを用いて分画する分画工程をさらに有することが好ましい。
前記液体クロマトグラフィーがサイズ排除クロマトグラフィーであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、質量分析法により、重合体を構成する多種の構成単位について、それぞれの組成の分布を、同時にかつより正確に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1で得られた、重合体A−1の質量スペクトルの全体図である。
【図2】図1の質量スペクトルの一部を拡大した図である。
【図3】図1の質量スペクトルの一部を拡大した図である。
【図4】実施例1において、特定の末端基を有する成分中における、MMA単位とTBMA単位の組成分布を測定した結果を示す等高線図である。
【図5】実施例2で得られた、重合体A−2の質量スペクトルの全体図である。
【図6】実施例2において、特定の末端基を有する成分中における、MMA単位とTBMA単位の組成分布を測定した結果を示す等高線図である。
【図7】実施例3で得られた、重合体A−3の質量スペクトルの全体図である。
【図8】実施例3において、特定の末端基を有する成分中における、MMA単位とTBMA単位の組成分布を測定した結果を示す等高線図である。
【図9】実施例4で得られた、重合体A−4の質量スペクトルの全体図である。
【図10】実施例4において、特定の末端基を有する成分中における、MMA単位とTBMA単位の組成分布を測定した結果を示す等高線図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書における構成単位とは、単量体(モノマー)に由来する繰り返し単位だけでなく、末端基、不均化構造部分、分岐構造部分等、重合体の各部をなす単位を意味する。
【0013】
<質量分析装置>
質量分析装置は、試料である重合体をイオン化し、イオン化された重合体を質量/電荷比によって分離し、分離された重合体を検出し、検出された値を解析処理することにより質量分析を行う装置である。市販の装置を用いることができる。
【0014】
イオン化の方法は、質量分析において一般的に知られている方法を用いることができる。例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法、電解脱離イオン化法、プラズマディソープションイオン化法、高速粒子衝撃イオン化(FAB)法等により行うことができる。
これらのうちでも、重合体への影響が少なく、ソフトにイオン化できるという点で、MALDI法、またはESI法が好ましい。さらに、より高分子量の化合物を測定できる点で、MALDI法がより好ましい。
【0015】
MALDI法は公知の方法で行うことができる。測定用の試料は、通常、マトリクス剤およびカチオン化剤を用いて調製される。また必要に応じて溶媒が用いられる。
マトリクス剤としては、シナピン酸(3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシケイ皮酸)、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)、フェルラ酸(trans−4−ヒドロキシ−3−メトキシケイ皮酸)、ゲンチシン酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)、3−ヒドロキシピコリン酸(HPA)、ジスラノール(1,8−ジヒドロキシ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−オン)、trans−2−[3−(4−tert−ブチルフェニル)−2−メチル−2−プロペニリデン]−マロノニトリル(DCTB)等が挙げられる。
カチオン化剤としては、ヨウ化ナトリウム、トリフルオロ酢酸銀、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、酢酸アンモニウム、酢酸、トリフルオロ酢酸等が挙げられる。
【0016】
溶媒としては、例えば、下記化合物が挙げられる。
エーテル類:ジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の鎖状エーテル;テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン等の環状エーテル等。
エステル類:酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等。
ケトン類:アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等。
アミド類:N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等。
スルホキシド:ジメチルスルホキシド等。
芳香族炭化水素:ベンゼン、トルエン、キシレン等。
脂肪族炭化水素:ヘキサン等。
脂環式炭化水素:シクロヘキサン等。
塩素系炭化水素:四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン等。
アルコール:メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール等。
その他:アセトニトリル、水等。
これらのうちでも、揮発しやすく除去が容易である点で、沸点が150℃以下の溶媒が好ましく、例えば、THF、アセトン、クロロホルム、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0017】
測定用の試料は、例えば以下の方法で調製することができる。まず、プレート上にカチオン化剤を塗布し、乾燥させた後、その上に重合体溶液を塗布する。これを乾燥させた後、その上にマトリクス剤を塗布して乾燥させたものを試料とする。または、カチオン化剤と重合体溶液とマトリクス剤を混合したものをプレートに塗布した後、乾燥させて試料としてもよいが、前者のように塗布と乾燥を繰り返す方法は、重合体とカチオン化剤またはマトリクス剤との間に化学的な結合が生じ難い点で好ましい。
【0018】
イオン化された重合体を質量/電荷比に基づいて分離する方法は、質量分析において一般的に知られている方法を用いることができる。例えば、飛行時間(TOF)型、四重極型、イオントラップ型、セクター型、フーリエ変換(FT)型、オービトラッブ型、らせん軌道(spiral)型、多重周回型、またはこれらを複合化した方法等で行うことができる。
これらのうちでも、高分解能が得られやすい点で飛行時間型が好ましい。また測定可能な質量範囲が広い点で、飛行時間型、フーリエ変換型、オービトラッブ型、らせん軌道型、または多重周回型が好ましい。さらに、得られるデータの再現性が良い点で、飛行時間型とらせん軌道型、または時間飛行型と多重周回型が複合化した方法がより好ましい。
【0019】
<重合体>
本発明において、測定される重合体は、該重合体の合成に使用した化合物の種類(単量体、開始剤、溶剤、連鎖移動剤等)が判明している重合体である。重合体の合成に使用する化合物は、特に限定されず、公知の化合物を使用できる。
重合体の製造方法は特に限定されず、公知の方法を使用できる。例えば、ポリエステル等の重縮合により合成される重合体、ポリウレタン等の重付加により合成される重合体等の、逐次反応で合成される重合体でもよく、例えばラジカル重合、アニオン重合、またはカチオン重合により合成される重合体等の、連鎖反応で合成される重合体でもよい。
重合体は、少なくとも、単量体(モノマー)に由来する構成単位と、末端基をなす構成単位の2種の構成単位を有している。重合体の合成に使用する単量体は1種でもよく、2種以上でもよい。本発明によれば、重合体を構成する多種の構成単位についての組成分布を、同時に測定できるという効果が得られるため、単量体の種類が多い方が、かかる効果による利点が大きい点で好ましい。
該単量体の種類の上限は、特に限定されないが、より高分子量の重合体が測定できる点からは、20種類以下が好ましく、15種類以下がより好ましい。
【0020】
重合体の分子量は特に限定されない。本発明の測定方法によれば、従来法では測定が困難であった高分子量または低分子量の重合体も測定することができる。例えば、数平均分子量が200〜50000の重合体を測定対象とすることができる。より正確な組成分布が決定できる点からは、測定対象の重合体の数平均分子量は200〜10000が好ましく、200〜5000がより好ましい。
【0021】
<測定方法>
[質量分析工程]
本発明では、質量分析装置を用い、ピーク半値幅が0.1Da以下となる条件で重合体の質量分析を行い、質量スペクトルを得る(質量分析工程)。該ピーク半値幅は0.09Da以下であることがより好ましく、0.08Da以下がさらに好ましい。ピーク半値幅の下限は実現可能な範囲で低いほど好ましい。
具体的には、まず所定の測定条件で、予め調製した測定用の試料について質量分析を行い、質量スペクトルを得る。質量スペクトルの横軸は質量/電荷比(m/z)であり、縦軸は相対ピーク強度(相対存在量)である。
得られた質量スペクトルのピーク半値幅を下記の方法で測定し、所望の値であれば、該質量スペクトルを、次のピークピック工程に用いる。得られたピーク半値幅の値が所望に値よりも高い場合は、測定条件を変更して、再度ピーク半値幅を測定する。
なお、測定対象の重合体の合成に使用した化合物、および測定条件が同じであれば、ピーク半値幅の値は同じである。このように分解能が既知である場合は、ピーク半値幅を測定する工程を省略することができる。
【0022】
本発明におけるピーク半値幅の値は、以下の方法で測定される値である。すなわち、まず、所定の質量/電荷比(m/z)の範囲について、所定の条件で質量分析を行い、質量スペクトルを得る。
得られた質量スペクトルの全てのピークについて、各ピーク強度の最大値の50%位置でのピーク幅(m/zの値の差、単位:Da(ダルトン))を求め、半値幅とする。なお、本明細書において、質量スペクトルの全てのピークとは、得られた質量スペクトルにおける最大のピーク強度(高さ)の1/100以上のピーク強度(高さ)を示すピークの全部を意味し、ピーク強度が該最大のピーク強度の1/100未満であるような小さいピークは含まないものとする。
【0023】
分解能を高める方法としては、例えば、質量分析装置を変更する、MALDI法の場合はレーザ光強度をイオンの生成に必要最小限まで低くする、試料を調製する際に、試料を効率良くイオン化するマトリクスを選択する、試料とマトリクスの混合結晶をより均一に形成する等の方法が挙げられる。
高い分解能が得られやすい質量分析装置としては、例えば、日本電子社製のマトリックス支援レーザー脱離イオン化−らせん軌道−時間飛行型質量分析(MALDI−spiral−TOF−MS)装置、JMS−S3000(製品名)が挙げられる。
【0024】
[ピークピック工程]
次いで、得られた質量スペクトルにおいて、末端基の組成(末端基の種類とその数)が共通し、かつ末端基以外の構成単位の組成(構成単位の種類とその数)が共通する成分毎に、対応するピークを特定する(ピークピック工程)。
末端基の組成が共通し、かつ末端基以外の構成単位の組成が共通する成分としては、重合体の合成に使用した化合物から、生成し得ると予測される全ての成分を挙げ、各成分の質量/電荷比(m/z)を計算する。質量スペクトルにおいて、算出された各成分の質量/電荷比(m/z)に該当する位置にピークがあれば、該ピークをその成分に対応するピークとして特定する。なお対応するピークが存在しない成分があってもよい。
【0025】
例えば、1種の重合溶媒中(以下、単に溶媒ということもある。)にて、1種の重合開始剤(以下、単に開始剤ということもある。)の存在下で、1種以上の単量体(以下、モノマーということもある)を重合して得られた重合体の場合、末端基の組成としては、下記の7通りが考えられる。
(1)開始剤由来の末端基−モノマー飽和水素停止末端基。
(2)開始剤由来の末端基−モノマー不飽和水素停止末端基。
(3)溶媒由来の末端基−モノマー飽和水素停止末端基。
(4)溶媒由来の末端基−モノマー不飽和水素停止末端基。
(5)開始剤由来の末端基どうしの再結合停止(両末端が開始剤由来の末端基)。
(6)溶媒由来の末端基どうしの再結合停止(両末端が溶媒由来の末端基)。
(7)開始剤由来の末端基と溶媒由来の末端基との再結合停止(一末端が開始剤由来の末端基、他方の末端が溶媒由来の末端基)。
【0026】
重合体の合成に用いた単量体(モノマー)が1種である場合は、両末端基の間に存在するモノマー単位は1種である。したがって、末端基の組成が共通である成分は、さらに該モノマー単位の数によって、質量/電荷比(m/z)が異なる成分に分けられる。例えば、末端基の組成が上記(1)であって、モノマー単位の数が1個である成分、モノマー単位の数が2個である成分、モノマー単位の数が3個である成分…のそれぞれについて、対応するピークを特定する。同様にして、末端基の組成が上記(2)〜(7)のそれぞれについても、モノマー単位の数が異なる各成分毎に、対応するピークを特定する。
【0027】
重合体の合成に用いた単量体(モノマー)が2種以上である場合は、両末端基の間に存在するモノマー単位の種類とその数(以下、モノマー組成ということもある。)によって質量/電荷比(m/z)が異なる。
例えば、モノマーAとモノマーBの2種を重合に用いた場合は、末端基の組成が上記(1)であって、末端基の間に存在するモノマーAとモノマーBの数(A、B)が(1、0)である成分、(0、1)である成分、(1、1)である成分…について、それぞれ対応するピークを特定する。同様にして、末端基の組成が上記(2)〜(7)のそれぞれについても、各モノマーの数(A、B)が異なる成分について、それぞれピークを特定する。
【0028】
[補正工程]
こうして特定された各ピークのピーク強度(縦軸)は、各成分の相対存在比を表わす。すなわち、末端基の組成およびモノマー組成が特定された各成分の相対存在比がわかる。
各ピークのピーク強度から各成分の相対存在比を求める際には、同位体ピークの補正を行うことが好ましい(補正工程)。
すなわち、各成分の質量/電荷比(m/z)の位置にあるピーク(主ピーク)の周辺には、同位体を含むために該主ピークとはm/zの値が異なる同位体ピークが存在する場合がある。この場合は、同位体も同一の化合物であるとみなして、同位体ピークのピーク強度を、主ピークのピーク強度に加算する補正を行うことが好ましい。これにより、各成分の相対存在比は、同位体を含む相対存在比として求められる。
【0029】
このようにして、重合体中に存在する全成分について、末端基の組成およびモノマー組成が互いに共通する成分毎に、重合体中における相対存在比を求めることができる。
したがって、1回の測定で、末端基の組成の分布およびモノマー組成の分布を求めることができる。すなわち、重合体を構成する多種の構成単位の組成分布を同時に測定することができる。
例えば、後述の実施例に示すように、特定の末端基を有する成分中における、モノマー組成が異なる各成分の分布を求めることができる。または重合体全体における、末端基の組成が異なる各成分の分布を求めることも可能である。
また、末端基の組成が特定されるため、両末端基の間のモノマー組成と、質量/電荷比(m/z)の値とを正確に対応させることができる。したがって組成分布をより正確に測定することができる。
【0030】
なお、重合体の分子量分布が広い場合など、1通りの測定条件だけでは、全成分について適切な測定を行うことが難しい場合がある。この場合は、重合体の全成分が存在するm/zの範囲を複数に分割し(分割後の範囲の一部が互いに重複してもよい。)、分割後の各範囲について、それぞれ適切な測定条件を用いて質量分析工程およびピークピック工程を行うことによって、重合体の全成分についての測定を行うことが好ましい。
【0031】
[分画工程]
本発明において、質量分析工程の前に、測定対象の重合体を液体クロマトグラフィーを用いて分画する工程(分画工程)を設けて、得られた画分を測定用試料に用いてもよい。
液体クロマトグラフィーは、概略、溶離液タンクに満たされた溶離液が、ポンプによって送液され、切り替え弁付き注入口から溶媒に溶解された重合体試料を注入し、分析用カラムを用いて重合体の分子量によって分離し、分離された重合体を検出し、検出された信号に基づいて重合体を分画する。
液体クロマトグラフィーでは、重合体が分子量の違いによって分離されるため、分子量分布が狭い画分が得られる。質量分析工程における測定対象の重合体として、かかる分子量分布が狭い重合体を用いると、測定条件の適性化を適切に行いやすく、良好な分解能が得られやすい。
液体クロマトグラフィーで分離された各画分について、質量分析工程、およびピークピック工程を行うことによって、重合体の全成分についての質量分析結果を得ることができる。
【0032】
具体的には、例えば、分画工程で分画された重合体画分を測定用試料として用い、これを試料プレートにスポットして、オフラインで質量分析工程に供してもよい。重合体画分を試料プレートにスポットする工程は、手動で行ってもよいし、液体クロマトグラフィーの流出する画分を、自動的に試料プレートにスポットする装置を設けてもよい。
また、分画工程で用いる液体クロマトグラフィー装置と、前記質量分析工程で用いる質量分析装置とをオンラインで連結し、一連の工程を連続的に行うことも可能である。
【0033】
分画工程で用いる液体クロマトグラフィーは特に限定されず、例えば、吸着クロマトグラフィー(IC)、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、臨界吸着クロマトグラフィー(LC−CAP)、臨界条件クロマトグラフィー(LCCC)、温度勾配相互作用クロマトグラフィー(TGIC)などが挙げられる。比較的高分子量の重合体の分画も良好に行うことができる点で、SECが好ましい。
これらは、市販の液体クロマトグラフィー装置を用いることにより実施できる。液体クロマトグラフィー装置における分析用カラムや溶離液の種類を変えることで、IC、SEC、LC−CAP、LCCC、TGICへ対応することができる。
【0034】
本発明によれば、質量スペクトルにおいて、末端基の組成およびモノマー組成が共通する成分毎にピークを特定できるため、重合体を構成する種々の構成単位の組成分布を、同時にかつ正確に測定することができる。
また測定対象の重合体を低分子化せずに、そのまま測定を行うことができるため、元の重合体をより正確に反映した測定結果が得られる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<重合体の評価>
重合体の数平均分子量および分子量分布は以下の方法で測定した。
約20mgの重合体を5mLのTHFまたはN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと記す。)に溶解し、0.5μmメンブレンフィルターで濾過して試料溶液を調製し、この試料溶液を、東ソー製サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて測定した。
測定条件は以下の通りである。
分離カラム:昭和電工社製、Shodex GPC K−805L(商品名)を3本直列にしたもの。
溶媒:THFまたはDMF。
流量:1.0mL/min。
検出器:示差屈折計。
測定温度:40℃。
注入量:0.1mL。
標準ポリマー:ポリメタクリル酸メチル。
【0036】
<合成例1>
窒素導入口、攪拌機、コンデンサーおよび温度計を備えたフラスコに、室温下で、溶媒として乳酸エチル(以下、ELと記す。)2.93g、単量体としてメタクリル酸メチル(以下、MMAと記す。)1.20gおよびメタクリル酸tert−ブチル(以下、TBMAと記す。)0.16gを入れた。この後ボールフィルターを用いて、フラスコ内の単量体溶液中に窒素を、10分間、100mL/分の条件で吹き込んだ。さらに、10mL/分の窒素雰囲気下で攪拌を続けながらフラスコ内の溶液の温度を80℃に上げた。
その後、ELの2.45gと、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(以下、AVNと記す。)0.131gとの混合物を、フラスコ内に一度に投入した。80℃で4時間重合させた後、反応溶液を室温まで冷却した。
次いで、得られた反応溶液を、約20倍量のメタノールおよび水の混合溶媒(メタノール/水=6/4容量比)に攪拌しながら滴下し、白色の析出物(重合体A−1)の沈殿を得た。沈殿を濾別し、再度、前記反応溶液に対して約10倍量のメタノールおよび水の混合溶媒(メタノール/水=6/4容量比)へ投入し、撹拌しながら沈殿の洗浄を行った。
そして、洗浄後の沈殿を濾別し、減圧下60℃で約40時間乾燥した。得られた重合体A−1の収率は81%、数平均分子量は3,500、分子量分布は1.82であった。
重合体A−1の構成単位は、MMA由来のモノマー単位(以下、MMA単位と記す。)、TBMA由来のモノマー単位(以下、TBMA単位と記す。)、重合開始剤として用いたAVN由来の末端基(下記式(1)に示す。以下、AVN末端と記す。))、および重合溶媒として用いたEL由来の末端基(下記式(2)に示す。以下、EL末端と記す。)の4種類である。
【0037】
【化1】

【0038】
<合成例2〜4>
重合体の合成に使用する単量体の量、および重合開始剤の量を表1に示すように変更した以外は、合成例1と同様の操作で、重合体A−2〜A−4を得た。得られた重合体A−2〜A−4の収率、数平均分子量、分子量分布を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
<実施例1>
(試料の調製)
合成例1で得られた重合体A−1を1mg採取し、1mLのTHFに溶解して重合体溶液とした。これとは別に、trans−2−[3−(4−tert−ブチルフェニル)−2−メチル−2−プロペニリデン]−マロノニトリル(以下、DCTBと記す。)10mgを1mLのTHFに溶解してマトリクス剤とした。またヨウ化ナトリウム1mgを1mLのTHFに溶解してカチオン化剤とした。
試料プレートに、カチオン化剤の1μLを塗布して乾燥させた後、その上に重合体溶液の1μLを塗布して乾燥させた。さらにその上にマトリクス剤の1μLを塗布して乾燥させたものを、測定用試料とした。
【0041】
(質量分析工程)
質量分析装置は、日本電子社製、マトリックス支援レーザー脱離イオン化−らせん軌道−時間飛行型質量分析(MALDI−SpiralTOF−MS)装置、JMS−S3000(製品名)を用いた。
まず、上記で調製した測定用試料について、下記の測定条件で、質量/電荷比(m/z)が600〜3600の範囲で質量分析を行った。図1は得られた質量スペクトル(MALDI−SpiralTOF−MSスペクトル)である。
測定には、ポジティブモード、スパイラルモードを使用し、試料をイオン化させるためのレーザーショット数を2000回とした。
【0042】
ピーク半値幅の測定を行った。図1の質量スペクトルにおいて、m/zが600〜3600の範囲内の全てのピークのうち、ピーク半値幅が最も大きいのは、m/z=3019.666のピークであり、そのピーク半値幅は0.072Daであった。
【0043】
(ピークピック工程)
本例の重合体は、重合開始剤としてAVN、重合溶媒としてELを用いてラジカル重合して得られた重合体であり、生成し得る末端基の組成としては、下記7通りの組み合わせが挙げられる。
(1a)AVN末端−モノマー飽和水素停止末端。
(1b)AVN末端−モノマー不飽和水素停止末端。
(2a)EL末端−モノマー飽和水素停止末端。
(2b)EL末端−モノマー不飽和水素停止末端。
(3)AVN末端どうしの再結合停止。
(4)AVN末端とEL末端の再結合停止。
(5)EL末端どうしの再結合停止。
【0044】
図1の質量スペクトルについて、末端基の組成が共通し、かつ末端基以外の構成単位の組成が共通する成分毎に、対応するピークを特定した。その結果の一部を図2、図3にそれぞれ示す。
図2は、図1の質量スペクトルのm/z=1,525〜1,555の範囲を拡大して、ピークピックの結果を示したものである。図2において、例えば(MMA)14との表記は、MMA単位が14個存在することを示し、(MMA10/TBMA)との表記は、MMA単位が14個とTBMA単位が2個存在することを示す。
なお、上記(5)のEL末端どうしの再結合停止に由来するピークは、観測されなかった。
【0045】
図3は、図1の質量スペクトルのm/z=1,250〜1,500の範囲のピークのうち、末端基の組成が上記(1a)のAVN末端−モノマー飽和水素停止末端であるものだけを示したものである。図3において、例えば(12−1)との表記は、両末端基の間にMMA単位が12個とTBMA単位が1個存在することを示す。
さらに、図1の質量スペクトルの全範囲で、図3と同様にして、末端基の組成が上記(1a)の成分であって、MMA単位とTBMA単位の組成比が(0−0)〜(20−20)である各成分についてピークの特定を行い、同位体ピークの補正を行った後、各ピークの相対ピーク強度を求めた。その結果を表2に示す。
表2に示す相対ピーク強度の値は、図1の質量スペクトルの全範囲に存在する、末端基の組成が上記(1a)である成分のピーク強度の合計を100としたときの、各ピーク強度の相対値である。この相対ピーク強度は、各成分の相対存在量(モル%)に相当する。
【0046】
【表2】

【0047】
図4は、表2の結果を等高線図に示したもので、横軸はMMA単位の数、縦軸はTBMA単位の数、高さは各成分の相対存在量(単位:モル%)を示す。等高線図の凡例において、0.0−1.0(モル%)は0.0モル%以上、1.0モル%未満の範囲であることを示す(他も同様。)
このようにして図1の質量スペクトルから、末端基の組成が上記(1a)である成分中における、2種類のモノマー単位の組成の分布が得られた。
また、同じ図1の質量スペクトルから、末端基の組成が上記(1b)、(2a)、(2b)、(3)または(4)である成分についても同様の手順で、各成分中における2種類のモノマー単位の組成の分布を得ることができる。
【0048】
<実施例2〜4>
実施例1の重合体A−1を重合体A−2、A−3、A−4にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様の操作で、試料を調製し、質量分析工程を行った。重合体A−1と重合体A−2〜4とは、重合体の合成に使用した化合物が同じであり、測定条件も同じであるため、実施例1と同じ分解能が得られる。したがって、分解能の測定は行わない。
得られた質量スペクトル(MALDI−SpiralTOF−MSスペクトル)を、図5(実施例2、重合体A−2)、図7(実施例3、重合体A−3)および図9(実施例4、重合体A−4)にそれぞれ示す。
得られた質量スペクトルの全範囲について、実施例1と同様にしてピークピック工程を行い、末端基の組成が上記(1a)の成分であって、MMA単位とTBMA単位の組成比が(0−0)〜(20−20)である各成分に対応する各ピークの、相対ピーク強度を求めた。その結果を表3(実施例2)、表4(実施例3)、表5(実施例4)にそれぞれ示す。
【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
図6、図8、図10は、表3〜5の結果を、それぞれ実施例1と同様に等高線図に示したものである。
このようにして図5(実施例2、重合体A−2)、図7(実施例3、重合体A−3)または図9(実施例4、重合体A−4)の質量スペクトルから、末端基の組成が上記(1a)である成分中における、2種類のモノマー単位の組成の分布が得られた。
また同じ質量スペクトルから、末端基の組成が上記(1b)、(2a)、(2b)、(3)または(4)である成分についても同様の手順で、各成分中における2種類のモノマー単位の組成の分布を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析装置を用いて、ピーク半値幅が0.1Da以下となる条件で、重合体の質量分析を行う質量分析工程と、
得られた質量スペクトルにおいて、末端基の組成が共通し、かつ末端基以外の構成単位の組成が共通する成分毎に、対応するピークを特定するピークピック工程を有する、重合体の測定方法。
【請求項2】
前記質量分析装置が飛行時間型である、請求項1に記載の重合体の測定方法。
【請求項3】
前記質量分析装置が、らせん軌道型、多重周回型のいずれかである、請求項1または2に記載の重合体の測定方法。
【請求項4】
前記質量分析装置が、フーリエ変換型、オービトラッブ型のいずれかである、請求項1に記載の重合体の測定方法。
【請求項5】
前記質量分析工程の前に、重合体を液体クロマトグラフィーを用いて分画する分画工程
をさらに有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の重合体の測定方法。
【請求項6】
前記液体クロマトグラフィーがサイズ排除クロマトグラフィーである、請求項5に記載の重合体の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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