説明

重合体粒子およびその用途

【課題】機械的外力および熱により適度に融着し得る熱特性を有する重合体粒子、特に静電荷電現象に使用される電子写真トナー用外添剤およびキャリアコート添加剤に適する重合体粒子を提供することを課題とする。
【解決手段】(メタ)アクリル酸エステル系モノマー50〜97重量%と反応性の異なる2つ以上のビニル基を有する非対称性ポリビニルモノマー3〜50重量%とを含む重合性モノマー由来の重合体から構成され、かつ0.05〜1.0μmの平均粒子径、60%以上のゲル分率および3×104〜2×106Pa以下の160℃における貯蔵弾性率G’を有することを特徴とする重合体粒子により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体粒子およびそれを用いた電子写真トナー用外添剤およびキャリアコート添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真法や静電記録法においては、感光体上や静電記録体上に静電荷像を形成させ、電子写真トナーやキャリアを用いて磁気ブラシ現像法、カスケード現像法などにより、静電荷像を現像してトナー像を形成し、トナー像を複写紙などに転写・定着させて複写物としている。
そして、例えば、特開昭60−186854公報(特許文献1)および特開昭59−104664公報(特許文献2)には、電子写真トナーに重合体粒子(以下「トナー用外添剤」という)を添加し、またキャリアに重合体粒子(以下「キャリアコート添加剤」という)からなるコーティング層を形成して、それらの性能を向上させる技術が開示されている。
【0003】
このような応用例で使用される重合体粒子は、硬度が低過ぎると機械的外力や熱により重合体粒子同士が容易に融着することがあり、耐溶剤性が低過ぎるとトナーに含まれる荷電制御剤やパラフィンなどにより重合体粒子が溶解するという課題がある。
そこで、これらの課題を解決する方法として、例えば、特開平7−104512号公報(特許文献3)には、疎水性重合体粒子をシード粒子とし多官能性モノマーをシード重合することにより形成される高架橋重合体微粒子が提案され、特開2001−163985号公報(特許文献4)には、ゲル分率が25重量%以上の架橋性重合体微粒子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−186854公報
【特許文献2】特開昭59−104664公報
【特許文献3】特開平7−104512号公報
【特許文献4】特開2001−163985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術の架橋性重合体粒子は、硬度や耐溶剤性を有しているものの、接着性や融着性に適した熱特性を有していない。例えば、電子写真トナー用外添剤として架橋性重合体粒子を使用した場合には、攪拌によってトナーから容易に脱離や偏在化し、トナーに充分な流動性や帯電性を付与し難い、キャリアコート添加剤として使用した場合には、コート層がキャリアコアから剥がれ易いという課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、機械的外力および熱により適度に融着し得る熱特性を有する重合体粒子、特に静電荷電現象に使用される電子写真トナー用外添剤およびキャリアコート添加剤に適する重合体粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、高いゲル分率を有しながら、特定の熱特性を有する重合体粒子が、電子写真トナー用外添剤として用いた場合には、外添プロセスにおける機械的外力および熱により適度に融着して、トナーからの脱落や偏在化を抑制でき、キャリアコート添加剤として使用した場合には、キャリアコアやコート層の他の添加剤と接着して、キャリアコアからのコート層の脱離を抑制できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
かくして、本発明によれば、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー50〜97重量%と反応性の異なる2つ以上のビニル基を有する非対称性ポリビニルモノマー3〜50重量%とを含む重合性モノマー由来の重合体から構成され、かつ0.05〜1.0μmの平均粒子径、60%以上のゲル分率および3×104〜2×106Pa以下の160℃における貯蔵弾性率G’を有することを特徴とする重合体粒子が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、上記の重合体粒子を含む、電子写真トナー用外添剤およびキャリアコート添加剤が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、機械的外力および熱により適度に融着し得る熱特性を有する重合体粒子、特に静電荷電現象に使用される電子写真トナー用外添剤およびキャリアコート添加剤に適する重合体粒子を提供することができる。
すなわち、本発明の重合体粒子は、高いゲル分率を有しながら、特定の熱特性を有するので、トナー用外添剤やキャリアコート添加剤として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の重合体粒子は(メタ)アクリル酸エステル系モノマー50〜97重量%と反応性の異なる2つ以上のビニル基を有する非対称性ポリビニルモノマー3〜50重量%とを含む重合性モノマー由来の重合体から構成され、かつ0.05〜1.0μmの平均粒子径、60%以上のゲル分率および3×104〜2×106Pa以下の160℃における貯蔵弾性率G’を有することを特徴とする。
本発明において「(メタ)アクリル」とは、アクリルまたはメタクリルを意味する。
【0012】
本発明の重合体粒子は、0.05〜1.0μmの平均粒子径を有する。
平均粒子径が0.05μm未満では、重合時に多量の分散安定剤を使用しなければならず、重合体粒子の吸湿性が高くなり、電子写真トナー用外添剤やキャリアコート添加剤として用いた場合に、トナーやキャリアの帯電性を低下させることがある。一方、平均粒子径が1.0μmを超えると、電子写真トナー用外添剤として用いた場合に、トナーの流動性を悪化させることがあり、キャリアコート添加剤として用いた場合に、コート層を均一に被覆することができないことがある。より好ましい平均粒子径は0.05〜0.5μmである。なお、平均粒子径の測定方法については、実施例において説明する。
【0013】
また、本発明の重合体粒子は、60%以上のゲル分率を有する。
「ゲル分率」とは、重合体粒子が溶解し得る有機溶剤に重合体粒子を投入し、溶解物の重量から算出した重量割合を意味し、本発明では、トルエンに対するゲル分率、すなわち有機溶剤としてトルエンを用いた場合の溶解物の重量から算出した重量割合を意味する。なお、ゲル分率の測定方法については、実施例において説明する。
ゲル分率が60%未満では、重合体粒子の硬度が不十分になり、機械的外力や熱により微粒子同士が容易に融着することがあり、またトナーに含まれる荷電制御剤やパラフィン等に対する耐溶剤性を満足できないことがある。ゲル分率の上限は特に限定されず、好ましいゲル分率は65%以上であり、70%以上が特に好ましい。
【0014】
さらに、本発明の重合体粒子は、3×104〜2×106Pa以下の160℃における貯蔵弾性率G’を有する。
「貯蔵弾性率」とは、重合体粒子の弾性を示す指標であり、粘弾性測定装置を用い、歪み1%、周波数1Hz、230℃〜90℃までの降温測定の条件での重合体粒子の溶融粘弾性測定により得られる、160℃での貯蔵弾性率の値G’を意味する。なお、貯蔵弾性率G’の測定方法については、実施例において説明する。
【0015】
160℃における貯蔵弾性率が3×104Pa未満では、電子写真トナー用外添剤として使用した際に、機械的強度が乏しくなり、外添時に重合体粒子が大きく変形するためトナーに十分な流動性を付与することができないことがあり、キャリアコート添加剤として使用した場合には、機械的強度が乏しくなるため、剥がれや欠けが発生し易くなることがある。一方、160℃における貯蔵弾性率が2×106Paを超えると、電子写真トナー用外添剤として使用した場合には、攪拌によってトナーから脱離又は偏在化し、トナーに充分な流動性や帯電性を付与することができないことがあり、キャリアコート添加剤として使用した場合には、キャリアコアやコート層のその他の成分との接着が不十分になり、コート層がキャリアコアから剥がれ易くなることがある。より好ましい貯蔵弾性率は160℃において8×104〜1.5×106Paである。
【0016】
本発明の重合体粒子は、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーと非対称性ポリビニルモノマーとを含む重合性モノマーを、懸濁重合、乳化重合、分散重合などの公知の方法により重合させることにより得られる。これらの中でも、粒子径を制御し易く、帯電した重合体粒子を容易に得られるというの点で乳化重合が特に好ましい。
以下、乳化重合の場合について説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
本発明の重合体粒子は、例えば、分散安定剤を含む水性媒体中に重合性モノマー混合物((メタ)アクリル酸エステル系モノマーと非対称性ポリビニルモノマーとの混合物)を分散させ、重合開始剤を加え、所定の条件で重合させることにより製造することができる。
【0017】
(1)(メタ)アクリル酸エステル系モノマー
本発明で使用される(メタ)アクリルエステル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもまたは2種以上を併用してもよい。
【0018】
(2)非対称性ポリビニルモノマー
本発明において、反応性の異なる2つ以上のビニル基を有する非対称性ポリビニルモノマー(以下、単に「非対称性ポリビニルモノマー」ともいう)を架橋性モノマーとして使用する。
「反応性の異なる2つ以上のビニル基」とは、異なる置換基がビニル基に結合することにより、重合反応時に異なる反応性を有する2つ以上のビニル基を意味し、このことから「非対称性ポリビニルモノマー」と称する。また「ポリ」とは、反応性の異なる2つ以上のビニル基を有することを意味する。例えば、反応性の異なるビニル基を3つ有する場合には、少なくとも1つのビニル基が他の2つのビニル基と反応性が異なっていればよい。
【0019】
ジビニルベンゼンやアルキレングリコールジメタクリレート(アルキレンの炭素数2〜4)などの一般的な架橋性モノマーを用いて得られる重合体粒子は、高いゲル分率となる条件で重合させた場合には、本発明の重合体粒子のような特定の熱特性を有さない。これに対して、本発明で特定するような非対称性ポリビニルモノマーを用いて得られる本発明の重合体粒子は、高いゲル分率となる条件で重合させた場合でも、特定の熱特性を有し、適切な接着性や融着性を有する。
【0020】
本発明で使用される非対称性ポリビニルモノマーは、例えば、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸ビニルなどが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもまたは2種以上を併用してもよい。これらの中でも、重合安定性の面から、(メタ)アクリル酸アリルが好ましい。
【0021】
非対称性ポリビニルモノマーは、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを合わせた全モノマー量に対して3〜50重量%であり、好ましくは5〜40重量%であり、より好ましくは5〜30重量%である。
非対称性ポリビニルモノマーが3重量%未満では、得られる重合体粒子の得られる重合体粒子のゲル分率が低下し過ぎることがある。一方、非対称性ポリビニルモノマーが50重量%を超えると、特定の熱特性を有さなくなることがある。
したがって、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーと非対称性ポリビニルモノマーとの割合は、50〜97重量%と3〜50重量%であり、好ましくは60〜95重量%と5〜40重量%であり、より好ましくは70〜95重量%と5〜30重量%である。
【0022】
(3)他の添加剤
本発明の重合体粒子は、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、消泡剤、増粘剤、熱安定剤、レベリング剤、滑剤、帯電防止剤などが含まれていてもよい。
【0023】
(4)分散安定剤
本発明の重合体粒子の乳化重合において用いられる界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などの公知の界面活性剤が挙げられる。
【0024】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、モノアルキルスルホコハク酸塩などの非反応性のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン−1−(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウムなどの反応性のアニオン性界面活性剤などが挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルトリエチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、ジアルキルジエチルアンモニウム塩、N−ポリオキシアルキレン−N,N,N−トリアルキルアンモニウム塩などのカチオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0025】
両性イオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミンオキサイドやリン酸エステル塩、亜リン酸エステル系界面活性剤などが挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレン−オキシプロピレンブロックポリマーなどが挙げられる。
これらは1種を単独で使用してもまたは2種以上を併用してもよい。
【0026】
分散安定剤は、その種類などにより相違するが、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーと反応性の異なる2つ以上のビニル基を有する非対称性ポリビニルモノマーの総量100重量部に対して、0.01〜2.0重量部使用することが好ましい。
分散安定剤の使用量が0.01重量部未満では、重合時に重合安定性が低下して、重合中に粒子の凝集や合一が発生することがある。一方、分散安定剤の使用量が2.0重量部を超えると、トナーに十分な流動性を付与できないことがある。より好ましい分散安定剤の使用量は、0.05〜1.0重量部である。
【0027】
(5)重合開始剤
本発明で用いられる重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩類;ベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物類;2、2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩化水素、2、2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸二水和物、2、2−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩化水素、2、2−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]水和物、2、2−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩化水素、2、2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2、2−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−エチルプロパン)二塩化水素、2、2−アゾビス{2−メチル−N−[1、1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2、2−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2−アゾビス(N−ヒドロキシエチルイソブチルアミド)、4,4−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物類が挙げられる。
【0028】
また、重合開始剤としては、上記の過硫酸塩類および有機過酸化物類の重合開始剤に、ナトリウムスルホオキシレートホルムアルデヒド、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、過酸化水素、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸およびその塩、第一銅塩、第一鉄塩などの還元剤を組み合わせて用いるレドックス系開始剤なども挙げられる。
上記の重合開始剤は1種を単独で使用してもまたは2種以上を併用してもよい。
重合開始剤は、その種類などにより相違するが、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーと反応性の異なる2つ以上のビニル基を有する非対称性ポリビニルモノマーの総量100重量部に対して、0.1〜5重量部使用することが好ましい。より好ましい重合開始剤の使用量は、0.3〜3重量部である。
【0029】
(6)連鎖移動剤
乳化重合においては連鎖移動剤を添加してもよい。
連鎖移動剤としては、特に限定されず、例えば、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン、α−メチルスチレンダイマー、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノールなどのフェノール系化合物、アリルアルコールなどのアリル化合物、ジクロロメタン、ジブロモメタン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素化合物が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもまたは2種以上を併用してもよい。
連鎖移動剤は、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーと反応性の異なる2つ以上のビニル基を有する非対称性ポリビニルモノマーの総量100重量部に対して、0.1〜5重量部使用することが好ましい。より好ましい連鎖移動剤の使用量は、0.3〜3重量部である。
【0030】
(7)水性媒体
重合性モノマー混合物と水性媒体との割合は、1:20〜1:2の範囲であることが好ましい。重合性モノマー混合物の割合が上記の範囲を下回り少なくなると、重合体粒子の生産性が低下することがある。一方、重合性モノマー混合物の割合が上記の範囲を上回り多くなると、重合中の粒子の安定性が低下して、重合後に重合体粒子の凝集物が生じることがある。より好ましくは、1:15〜1:3である。
【0031】
(8)重合条件
重合温度および重合時間は、用いるモノマー組成、重合開始剤の種類や使用量などにより適宜設定すればよいが、通常30〜100℃および2〜10時間であることが好ましい。
重合時には、重合の均一性を確保し、重合体粒子の合着を防ぐために、超音波照射および/またはマグネチックスターラーなどの機械的攪拌装置を用いて攪拌することが好ましい。攪拌回転数は、用いる装置の種類や攪拌能力などにより適宜設定すればよいが、例えば、容量5L(リットル)の反応器を用いる場合、100〜500rpmであることが好ましい。
【0032】
また、重合後、公知の方法を用いて重合体粒子を水性媒体からの単離(脱水)および乾燥すればよい。乾燥方法としては、スプレードライヤーなどによる噴霧乾燥法、ドラムドライヤーなどによる、加熱された回転ドラムに付着させて乾燥する方法、凍結乾燥法などが挙げられる。さらに、粉砕機、解砕機などを用いて、乾燥させた重合体粒子の凝集物を解砕することが好ましい。
【0033】
本発明の電子写真トナー用外添剤は、本発明の重合体粒子を含むことを特徴とする。
電子写真トナーは、通常、少なくとも結着樹脂、着色剤、離型剤を含むトナー組成物を溶融混練後、粉砕、分級して得られるトナー母粒子に、電子写真トナー用外添剤としての本発明の重合体粒子を外添することにより製造される。
外添方法は、特に限定されず、例えば、トナー母粒子と本発明の重合体粒子、必要に応じて他の添加剤を、ミキサーなどで混合する方法が挙げられる。
電子写真トナー用外添剤は、通常、トナーの流動性や帯電性を制御するために外添される。本発明の重合体粒子は、特定の熱特性を有しているため、外添プロセスにおける機械的外力および熱により適度にトナー母粒子と融着して、トナーからの脱落や偏在化を抑制できるため、安定的な流動性や帯電性を電子写真トナーに付与することができる。
本発明の重合体粒子の配合量は、通常トナー母粒子100重量部に対して0.1〜10重量部であり、好ましくは1〜5重量部である。
【0034】
本発明のキャリアコート添加剤は、本発明の重合体粒子を含むことを特徴とする。
静電荷現像用トナー(二成分現像剤)は、通常、少なくとも結着樹脂、着色剤、離型剤を含むトナー組成物を溶融混練後、粉砕、分級して得られるトナー母粒子に、フェライト粒子などのキャリアを添加することにより製造される。
キャリアとしては、帯電性や帯電安定性を制御するためにキャリアコア粒子に、樹脂からなるコート層を被覆したキャリアが現在広く使用されている。
本発明の重合体粒子を、キャリアを被覆するコート用添加剤として用いた場合、重合体粒子が特定の熱特性を有しているため、キャリアコアとコート層をより密着させることができるため、コート層の剥がれや欠けを抑制することができる。
被覆方法は、特に限定されず、例えば、キャリアと本発明の重合体粒子、必要に応じて他の添加剤を、例えば、特許文献2に記載の流動化ベッド法により処理する方法が挙げられる。
本発明の重合体粒子の配合量は、通常キャリアコート層100重量部に対して5〜90重量部であり、好ましくは10〜80重量部である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず、実施例及び比較例で得られた重合体粒子およびそれを用いて得られた擬似トナー粒子の物性の測定方法および評価方法について説明する。
【0036】
(1)平均粒子径
本発明において「平均粒子径」は、動的光散乱法あるいは光子相関法と呼ばれる方法を利用して測定した平均粒子径を意味する。すなわち、25℃において、0.1体積%に調製した重合体粒子の水系分散液にレーザー光を照射し、重合体粒子から散乱される散乱光強度をマイクロ秒単位の時間変化で測定する。検出された重合体粒子に起因する散乱強度分布を正規分布に当てはめ、キュムラント解析法により平均粒子径を算出する。
この平均粒子径は、市販のデータ解析ソフトが搭載された測定装置で簡便に測定可能であり、自動的に解析できる。本実施例では、マルバーン社(スペクトリス株式会社)製の粒子径測定装置「ゼータサイザーナノZS」を用いて測定した。
【0037】
(2)耐溶剤性(ゲル分率)
本発明において「ゲル分率」は、重合体粒子が溶解し得る有機溶剤に重合体粒子を投入し、溶解物の重量から算出した重量割合を意味する。すなわち、乾燥した重合体粒子約0.1gを精秤し、10mlのトルエン中に投入してスターラーバーで30分間攪拌後、15時間静置する。次いで、再度スターラーバーで30分間攪拌後、トルエン溶液を回転速度10000rpmで30分間遠心分離した後、上澄み液を100℃のホットプレート上で蒸発乾固させる。105℃の乾燥機で10分間加熱し、デシケーター内で放冷し、得られた乾燥物(有機溶剤に溶解した重合体粒子)の重量を計量し、次式によりゲル分率(重量%)を算出する。
ゲル分率(重量%)=100−(乾燥物の重量/試料の重量)×100
得られたゲル分率から次の基準で耐溶剤性を評価する。
○:ゲル分率60%以上(優れた耐溶剤性を有する)
×:ゲル分率60%未満(耐溶剤性に乏しい)
【0038】
(3)貯蔵弾性率(熱特性)
本発明において「貯蔵弾性率」とは、粘弾性測定装置を用い、歪み1%、周波数1Hz、230℃〜90℃までの降温測定の条件での重合体粒子の溶融粘弾性測定により得られる、160℃での貯蔵弾性率の値G’を意味する。すなわち、予め重合体粒子を230℃で加熱成型しφ8mm(±1mm)、厚み1.0mm(±0.1mm)の試験片を作製し、粘弾性測定装置(アントンパール社製;MCR−301)を用い、以下の条件で溶融粘弾性を測定する。
測定モード:温度掃引
ギャップ長:1.0mm(±0.1mm)
周波数:1Hz
プレート:パラレルプレートφ8mm
測定温度:230℃から90℃
降温速度:2℃/min
上記測定より、160℃のときの貯蔵弾性率の値G’を求める。
【0039】
(4)篩通過率(流動性)
本発明において「篩通過率」とは、重合体粒子をトナー用バインダー樹脂に外添処理した擬似トナーが、特定の目開きの篩を通過した重量割合を意味する。すなわち、次のように(a)擬似トナーを作製し、(b)測定する。
【0040】
(a)擬似トナーの作製
容量5Lのオートクレーブ中で、水2600重量部にピロリン酸マグネシウム26重量部を分散させ、亜硝酸ナトリウム0.13重量部、リン系界面活性剤(東邦化学工業株式会社製、製品名:フォスファノールLO−529)1.3重量部を溶解させる。さらに、アゾビスイソブチロニトリル10.4重量部とt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート3.9重量部とを溶解させたスチレン910重量部およびメタクリル酸ブチル390重量部の混合溶液を加え、高速乳化・分散機(特殊機化工業株式会社(現:プライミクス株式会社)製、型式:T.K.HOMOMIXER MARKII)を用いて回転数4000rpmで乳化させた後、ナノマイザーシステム(ナノマイザー株式会社製、型式 LA−33)を用いて圧力0.5MPaで処理して分散液を得る。
【0041】
得られた分散液を回転数450rpmで攪拌しつつ60℃まで加熱し、その温度で6時間に保持する。その後、スルファミン酸1.3重量部とドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.6重量部とを溶解させた水100重量部を加え、攪拌下で110℃まで加熱してさらに1時間保持してモノマーを重合させる。その後、室温まで冷却し、脱水・乾燥してトナー用バインダー樹脂を得る。本実施例では、平均粒子径は10μmのトナー用バインダー樹脂1150gを得た。
【0042】
得られたトナー用バインダー樹脂15gと重合体粒子0.45gとの混合物を、ミルミキサー(パナソニック株式会社製、製品名:ファイバーミキサーMX−X57−Y)を用いて5秒間混合処理し、その後1分間静置する。再度5秒間混合処理と1分間静置とを繰り返し、この操作を計5回行い、擬似トナーを得る。
【0043】
(b)篩通過率の測定
得られた擬似トナー2gを目開き45μmの金属製篩に載置し、この篩を粉体特性評価装置(ホソカワミクロン株式会社製、型式:パウダテスタPX−X)に設置し、レオスタット電圧7.2Vを印加して93秒間、篩を振動させる。振動終了後、篩上の残留物の重量を測定し、次式により篩通過率Pb(重量%)を算出する。
篩通過率Pb(重量%)=100−(残留物の重量/2)×100
得られた篩通過率から次の基準で流動性を評価する。
○:篩通過率95%以上(優れた流動性を付与できる)
×:篩通過率95%未満(流動性付与に乏しい)
【0044】
(実施例1)
撹拌機、還流冷却器および温度計を備えた容量5Lのオートクレーブ中で、界面活性剤としてのステアリルトリメチルアンモニウムクロリド(花王株式会社製、製品名:コータミン86W)4重量部を、脱酸素したイオン交換水3200重量部に溶解させ、さらにメタクリル酸メチル(MMA)760重量部、メタクリル酸アリル(AMA)40重量部を供給し、高速乳化・分散機(特殊機化工業株式会社(現:プライミクス株式会社)製、型式:T.K.HOMOMIXER MARKII)を用いて攪拌して分散液を調製した。
得られた分散液中に、重合開始剤として2、2−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩(10時間半減期温度:56℃、和光純薬工業株式会社製、製品名:V−50)4重量部を添加し、撹拌下で分散液を70℃まで加熱し、その温度で3時間保持して、乳化重合を行った。その後、室温まで冷却し、スプレードライで乾燥させ、得られた重合塊をジェットミルで解砕して重合体粒子640gを得た。
得られた重合体粒子は、平均粒子径0.09μm、ゲル分率91.9%、貯蔵弾性率4.9×105であり、静電荷電現象に使用される電子写真トナー用外添剤およびキャリアコート添加剤として好適に用いられるものであった。
【0045】
(実施例2)
メタクリル酸メチル760重量部およびメタクリル酸アリル40重量部の代わりに、メタクリル酸メチル640重量部、メタクリル酸アリル160重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、重合体粒子640gを得た。
得られた重合体粒子は、平均粒子径0.09μm、ゲル分率99.4%、貯蔵弾性率7.0×105であり、静電荷電現象に使用される電子写真トナー用外添剤およびキャリアコート添加剤として好適に用いられるものであった。
【0046】
(実施例3)
メタクリル酸メチル760重量部およびメタクリル酸アリル40重量部の代わりに、メタクリル酸メチル320重量部、メタクリル酸イソブチル(IBMA)320重量部およびメタクリル酸アリル160重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、重合体粒子640gを得た。
得られた重合体粒子は、平均粒子径0.09μm、ゲル分率86.4%、貯蔵弾性率5.1×105であり、静電荷電現象に使用される電子写真トナー用外添剤およびキャリアコート添加剤として好適に用いられるものであった。
【0047】
(実施例4)
メタクリル酸メチル760重量部およびメタクリル酸アリル40重量部の代わりに、メタクリル酸イソブチル320重量部、メタクリル酸タシャーリーブチル(TBMA)320重量部およびメタクリル酸アリル160重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、重合体粒子640gを得た。
得られた重合体粒子は、平均粒子径0.10μm、ゲル分率80.9%、貯蔵弾性率4.2×105であり、静電荷電現象に使用される電子写真トナー用外添剤およびキャリアコート添加剤として好適に用いられるものであった。
【0048】
(実施例5)
メタクリル酸メチル760重量部およびメタクリル酸アリル40重量部の代わりに、メタクリル酸シクロヘキシル(CHMA)640重量部およびメタクリル酸アリル160重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、重合体粒子640gを得た。
得られた重合体粒子は、平均粒子径0.10μm、ゲル分率98.2%、貯蔵弾性率3.8×105であり、静電荷電現象に使用される電子写真トナー用外添剤およびキャリアコート添加剤として好適に用いられるものであった。
【0049】
(比較例1)
メタクリル酸メチル760重量部およびメタクリル酸アリル40重量部の代わりに、メタクリル酸メチル800重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、重合体粒子640gを得た。
得られた重合体粒子は、平均粒子径0.09μm、ゲル分率0.1%、貯蔵弾性率3.8×105であった。ゲル分率が低く、耐溶剤性が乏しい重合体粒子であり、静電荷電現象に使用される電子写真トナー用外添剤およびキャリアコート添加剤としては不適であった。
【0050】
(比較例2)
メタクリル酸メチル760重量部およびメタクリル酸アリル40重量部の代わりに、メタクリル酸メチル792重量部およびメタクリル酸アリル8重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、重合体粒子640gを得た。
得られた重合体粒子は、平均粒子径0.09μm、ゲル分率41.5%、貯蔵弾性率4.1×105であった。ゲル分率が低く、耐溶剤性が乏しい重合体粒子であり、静電荷電現象に使用される電子写真トナー用外添剤およびキャリアコート添加剤としては不適であった。
【0051】
(比較例3)
メタクリル酸メチル760重量部およびメタクリル酸アリル40重量部の代わりに、メタクリル酸メチル320重量部およびメタクリル酸アリル480重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、重合体粒子640gを得た。
得られた重合体粒子は、平均粒子径0.09μm、ゲル分率99.8%であった。貯蔵弾性率は試験片が溶融しなかったため、粘弾性測定が出来なかった。得られた重合体粒子は特定の熱特性を有していないため、静電荷電現象に使用される電子写真トナー用外添剤およびキャリアコート添加剤としては不適であった。
【0052】
(比較例4)
メタクリル酸メチル760重量部およびメタクリル酸アリル40重量部の代わりに、メタクリル酸メチル760重量部およびエチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)40重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、重合体粒子640gを得た。
得られた重合体粒子は、平均粒子径0.12μm、ゲル分率54.5%、貯蔵弾性率1.0×106であった。ゲル分率が低く、耐溶剤性が乏しい重合体粒子であり、静電荷電現象に使用される電子写真トナー用外添剤およびキャリアコート添加剤としては不適であった。
【0053】
(比較例5)
メタクリル酸メチル760重量部およびメタクリル酸アリル40重量部の代わりに、メタクリル酸メチル640重量部およびエチレングリコールジメタクリレート160重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、重合体粒子640gを得た。
得られた重合体粒子は、平均粒子径0.12μm、ゲル分率86.4%であった。貯蔵弾性率は試験片が溶融しなかったため、粘弾性測定が出来なかった。得られた重合体粒子は特定の熱特性を有していないため、静電荷電現象に使用される電子写真トナー用外添剤およびキャリアコート添加剤としては不適であった。
【0054】
(比較例6)
メタクリル酸メチル760重量部およびメタクリル酸アリル40重量部の代わりに、メタクリル酸メチル760重量部およびジビニルベンゼン(DVB)40重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、重合体粒子640gを得た。
得られた重合体粒子は、平均粒子径0.13μm、ゲル分率1.4%、貯蔵弾性率は3.0×106だった。得られた重合体粒子はゲル分率が低く、特定の熱特性を有していないため、静電荷電現象に使用される電子写真トナー用外添剤およびキャリアコート添加剤としては不適であった。
【0055】
(比較例7)
メタクリル酸メチル760重量部およびメタクリル酸アリル40重量部の代わりに、メタクリル酸メチル640重量部およびジビニルベンゼン160重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、重合体粒子640gを得た。
得られた重合体粒子は、平均粒子径0.14μm、ゲル分率93.4%であった。貯蔵弾性率は試験片が溶融しなかったため、粘弾性測定が出来なかった。得られた重合体粒子は特定の熱特性を有していないため、静電荷電現象に使用される電子写真トナー用外添剤およびキャリアコート添加剤としては不適であった。
【0056】
実施例1〜7および比較例1〜6の結果を、使用した原料およびそれらの使用量と共に表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1の結果から、本発明の重合体粒子(実施例1〜7)は、高いゲル分率を有しながら、機械的外力および熱により適度に融着し得る熱特性を有し、静電荷電現象に使用される電子写真トナー用外添剤およびキャリアコート添加剤に適することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステル系モノマー50〜97重量%と反応性の異なる2つ以上のビニル基を有する非対称性ポリビニルモノマー3〜50重量%とを含む重合性モノマー由来の重合体から構成され、かつ0.05〜1.0μmの平均粒子径、60%以上のゲル分率および3×104〜2×106Pa以下の160℃における貯蔵弾性率G’を有することを特徴とする重合体粒子。
【請求項2】
前記非対称性ポリビニルモノマーが、(メタ)アクリル酸アリルである請求項1に記載の重合体粒子。
【請求項3】
前記重合性モノマーが、前記(メタ)アクリル酸エステル系モノマー60〜95重量%と前記非対称性ポリビニルモノマー5〜40重量%とを含む請求項1または2に記載の重合体粒子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の重合体粒子を含む電子写真トナー用外添剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の重合体粒子を含むキャリアコート添加剤。

【公開番号】特開2012−201862(P2012−201862A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70161(P2011−70161)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】