説明

重合体組成物の製造方法

【課題】高い弾性率と小さい永久伸びとが高いレベルで両立され、さらには、高度な成形性が要求される場合においても、良好な成形性で成形することができる重合体組成物を与える重合体組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】重量平均分子量が300,000〜6,000,000であり、分子量分布が2.0〜10.0である重合体αと、重量平均分子量が300,000未満である熱可塑性の重合体βとを溶融混合して、重合体溶融混合物を得て、次いで、当該重合体溶融混合物と、それぞれ特定の構成を有してなるブロック共重合体Aおよびブロック共重合体Bからなり、全体としての重量平均分子量が300,000未満であるブロック共重合体組成物とを混合することにより重合体組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体を含んでなる重合体組成物の製造方法に関し、さらに詳しくは、例えば、紙おむつや生理用品などの衛生用品の部材などとして好適に用いられる伸縮性フィルムを成形するための材料として好適に用いることができる、高い弾性率と小さい永久伸びとを併せ持ち、さらには、良好な成形性をも備える重合体組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)やスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)などの芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体は、種々の面において特徴的な性質を有する熱可塑性エラストマーであることから、様々な用途に用いられている。芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体は、熱可塑性エラストマーのなかでも、特に弾性に富み、柔軟であることから、紙おむつや生理用品などの衛生用品に用いられる伸縮性フィルムの材料としての利用が、芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体の代表的な用途の1つとなっている。
【0003】
紙おむつや生理用品などの衛生用品には装着者の動きに対する追従性やフィット性が求められることから、各部に伸縮性フィルムが用いられている。例えば、紙オムツの一種であるパンツ型オムツでは、両脚周り開口部、ウェスト周り開口部、さらに両側腰部などに伸縮性フィルムが配置される。衛生用品の装着者が激しく動いたり、長時間の装着を行なったりしても、ずれを生じさせないことが必要であることから、このような用途に用いられる伸縮性フィルムには、高い弾性率と小さい永久伸びとを併せ持つことが要求されるが、従来の芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体では、これら特性の両立が果たされていたとは言い難かった。そのため、芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体の弾性率や永久伸びを改良する種々の検討が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1や特許文献2には、2つの芳香族ビニル重合体ブロックがそれぞれ異なる特定の重量平均分子量を有する非対称な芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体と、それと異なる特定の構成を有する芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体とを含有してなるブロック共重合体組成物が、高い弾性率と小さい永久伸びとが高いレベルで両立された、伸縮性フィルム用の材料として好適なものとなることが開示されている。
【0005】
この特許文献1や特許文献2に記載されたブロック共重合体組成物は、優れた成形性をも兼ね備えるものであり、通常の成形条件により伸縮性フィルムを製造する場合においては、容易に成形を行うことができるものである。しかしながら、高度な成形性が要求される場合においては、その成形性が未だ不充分となる場合があった。例えば、T−ダイを用いた溶融押出成形によって、厚さが50μm以下程度である薄い伸縮性フィルムの成形を行うような場合には、フィルムの厚さにムラが生じてしまう場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2009/123089号
【特許文献2】国際公開第2010/074270号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高い弾性率と小さい永久伸びとが高いレベルで両立され、さらには、高度な成形性が要求される場合においても、良好な成形性で成形することができる重合体組成物を与える重合体組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、特許文献1や特許文献2に記載されるようなブロック共重合体組成物の成形性を改良する手段として、そのブロック共重合体組成物よりも高い特定の重量平均分子量を有し、かつ、特定の分子量分布を有する熱可塑性重合体の配合が有効であることを突き止めた。しかしながら、そのような熱可塑性重合体を、直接ブロック共重合体組成物に配合するだけでは、その加工性改良の効果が充分ではなかったため、本発明者らは、更なる検討を行った。その結果、前述の熱可塑性重合体と、これよりも低い重量平均分子量を有する別の熱可塑性重合体とを溶融混合し、それにより得られる溶融混合物をブロック共重合体組成物に配合すると、前述の熱可塑性重合体を直接ブロック共重合体組成物に配合する場合に比して、優れた加工性改良の効果が得られることが判明した。本発明は、この知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0009】
かくして、本発明によれば、重量平均分子量が300,000〜6,000,000であり、分子量分布が2.0〜10.0である重合体αと、重量平均分子量が300,000未満である熱可塑性の重合体βとを溶融混合して、重合体溶融混合物を得て、次いで、当該重合体溶融混合物と、下記の一般式(A)で表されるブロック共重合体Aおよび下記の一般式(B)で表されるブロック共重合体Bからなり、全体としての重量平均分子量が300,000未満であるブロック共重合体組成物とを混合することにより重合体組成物を得る、重合体組成物の製造方法が提供される。
【0010】
Ar1−D−Ar2 (A)
(Ar−D−X (B)
【0011】
(一般式(A)および(B)において、Ar1およびArは、それぞれ、重量平均分子量が6000〜20,000の芳香族ビニル重合体ブロックであり、Ar2は、重量平均分子量が40,000〜400,000の芳香族ビニル重合体ブロックであり、DおよびDは、それぞれ、ビニル結合含有量が1〜20モル%の共役ジエン重合体ブロックであり、Xは単結合またはカップリング剤の残基であり、nは2以上の整数である。)
【0012】
上記の重合体組成物の製造方法では、重合体溶融混合物を得るために用いる重合体βが、上記の一般式(A)で表されるブロック共重合体Aおよび上記の一般式(B)で表されるブロック共重合体Bからなる、ブロック共重合体組成物であることが好ましい。
【0013】
上記の重合体組成物の製造方法では、重合体溶融混合物を得るために用いる重合体βと、重合体溶融混合物が混合されるブロック共重合体組成物とが、実質的に同じ組成を有するものであることが好ましい。
【0014】
また、本発明によれば、上記の重合体組成物の製造方法により重合体組成物を製造し、当該重合体組成物を溶融押出成形によりフィルム状に成形する伸縮性フィルムの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、高い弾性率と小さい永久伸びとが高いレベルで両立され、さらには、高度な成形性が要求される場合においても、良好な成形性で成形することができる重合体組成物を与える重合体組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の重合体組成物の製造方法は、(1)重合体溶融混合物を得る工程と、(2)その重合体溶融混合物とブロック共重合体組成物とを混合して重合体組成物を得る工程により、構成されるものである。本発明の重合体組成物の製造方法における第1の工程である重合体溶融混合物を得る工程では、重量平均分子量が300,000〜6,000,000であり、分子量分布が2.0〜10.0である重合体αと、重量平均分子量が300,000未満である熱可塑性の重合体βとを溶融混合することにより、重合体溶融混合物を得る工程である。
【0017】
重合体αは、特定範囲の重量平均分子量と、特定範囲の分子量分布とを有する重合体である。重合体αの重量平均分子量は、300,000〜6,000,000の範囲であることが必要であり、320,000〜4,000,000の範囲であることが好ましく、350,000〜1,000,000の範囲であることがより好ましい。重合体αの重量平均分子量がこの範囲にあることにより、最終的に得られる重合体組成物の成形性を良好にすることが可能となる。一方、重合体αの重量平均分子量が小さすぎると、得られる重合体組成物の成形性が不充分となるおそれがあり、大きすぎると、重合体βやブロック共重合体組成物との溶融混合時に混合不良が生じるおそれがある。
【0018】
また、重合体αの分子量分布は、2.0〜10.0の範囲であることが必要であり、2.0〜8.0の範囲であることが好ましく、2.0〜6.0の範囲であることがより好ましい。重合体αの分子量分布がこの範囲にあることにより、最終的に得られる重合体組成物の成形性を良好にすることが可能となる。一方、重合体αの分子量分布が小さすぎると、得られる重合体組成物の成形性が不充分となるおそれがあり、大きすぎると、その重合体α自体の製造が困難となったり、重合体βやブロック共重合体組成物との溶融混合時に混合不良が生じたりするおそれがある。
【0019】
なお、本発明において、各重合体や後述するような重合体ブロックの重量平均分子量は、高速液体クロマトグラフィの測定による、ポリスチレン換算の値として求めるものとする。また、各重合体や後述するような重合体ブロックの分子量分布の値は、それぞれ、高速液体クロマトグラフィの測定によるポリスチレン換算の値として求められる、数平均分子量に対する重量平均分子量の比として求めるものとする。
【0020】
重合体αは、後述する熱可塑性の重合体βと溶融混合できるものであればよく、溶融混合時に重合体α自体が溶融される必要はない。したがって、重合体αは、重合体βと溶融混合できるものである限りにおいて、熱可塑性であっても、熱硬化性であっても良い。また、重合体αの性状も特に限定されず、例えば、室温における性状が、結晶状、ガラス状、ゴム状などのいずれであっても良い。重合体αを構成し得る重合体の具体例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどの共役ジエン重合体、ポリスチレンなどの芳香族ビニル重合体、スチレン−ブタジエンランダム共重合体などの芳香族ビニル−共役ジエンランダム共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体などの芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのα−オレフィン重合体、ポリメタクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステル重合体や、ポリテトラフルオロエチレンを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、重合体αは、全体としての重量平均分子量および分子量分布が特定の範囲である限りにおいて、1種の重合体単独で構成されていてもよく、2種以上の重合体の混合物で構成されていてもよい。重合体αとして、特に好ましく用いることができる重合体としては、芳香族ビニル単量体単位および共役ジエン単量体単位の少なくとも一方を含む重合体を挙げることができ、その中でも、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、ポリスチレン、またはポリイソプレンを用いることが更に好ましい。
【0021】
重合体溶融混合物を得るために重合体αと溶融混合される重合体βは、重合体αの重量平均分子量よりも低い、特定範囲の重量平均分子量を有する熱可塑性の重合体である。重合体βの重量平均分子量は、300,000未満であることが必要であり、50,000〜250,000の範囲であることが好ましく、100,000〜200,000の範囲であることがより好ましい。重合体βの重量平均分子量がこの範囲にあることにより、重合体αとの溶融混合を良好に行うことが可能となる。一方、重合体βの重量平均分子量が大きすぎると、重合体αとの溶融混合が困難となり、最終的に得られる重合体組成物の成形性が不充分なものとなるおそれがある。
【0022】
また、重合体βの分子量分布は、特に限定されるものではないが、通常5.0以下であり、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.0以下である。
【0023】
重合体βは、熱可塑性を有する重合体である限りにおいて、その性状は特に限定されず、例えば、室温における性状が、結晶状、ガラス状、ゴム状などのいずれであっても良い。重合体βを構成し得る重合体の具体例としては、ポリスチレンなどの芳香族ビニル重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体などの芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのα−オレフィン重合体、ポリメタクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステル重合体や、ポリテトラフルオロエチレンを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、重合体βは、全体としての重量平均分子量が特定の範囲である限りにおいて、1種の重合体単独で構成されていてもよく、2種以上の重合体の混合物で構成されていてもよい。
【0024】
重合体βとして、好ましく用いることができる重合体としては、芳香族ビニル単量体単位および共役ジエン単量体単位の少なくとも一方を含む重合体を挙げることができ、その中でも、芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体が特に好ましく用いられる。
【0025】
重合体βとして用いられ得る芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体の内、さらに好ましく用いられるものとしては、後述する一般式(A)で表されるブロック共重合体Aおよび後述する一般式(B)で表されるブロック共重合体Bからなるブロック共重合体組成物が挙げられ、その中でも、重合体αおよび重合体βからなる重合体溶融混合物が混合されるブロック共重合体組成物と実質的に同じ組成を有するブロック共重合体組成物を重合体βとして用いることが最も好ましい。このように、加工性改良の対象とするブロック共重合体組成物と、実質的に同一または類似の組成を有するブロック共重合体組成物を重合体βとして用いることにより、最終的に得られる重合体組成物において、重合体αが均一に配合されることとなり、その結果、最終的に得られる重合体組成物の成形性が特に優れたものとなる。
【0026】
重合体αと重合体βとを溶融混合して重合体溶融混合物を得るにあたり、重合体αと重合体βとの混合比は特に限定されないが、重量比(α/β)で、95/5〜5/95であることが好ましく、80/20〜20/80であることがより好ましく、60/40〜40/60であることがさらに好ましい。このような比で重合体溶融混合物を構成することにより、重合体溶融混合物とブロック共重合体組成物の(溶融)混合を特に良好に行うことができる。一方、この比が大きすぎたり、小さすぎたりすると、最終的に得られる重合体組成物の成形性が不充分となるおそれがある。
【0027】
重合体αと重合体βとを溶融混合して重合体溶融混合物を得るにあたり、さらに他の成分を配合しても良い。配合しうる他の成分としては、粘着付与樹脂、軟化剤、酸化防止剤、抗菌剤、光安定剤、紫外線吸収剤、染料、滑剤などを挙げることができる。なお、これらの成分は、予め重合体αや重合体βに配合しておいても良い。
【0028】
重合体αと重合体βとを溶融混合する手段は特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機、ミキサー、混合ロール、加圧ニーダーなどの溶融混合機(溶融混練機)を用いて、溶融混合を行うことができる。溶融混合を行う際の温度も特に限定されず、熱可塑性の重合体βの熱可塑温度に応じて設定すればよく、通常150〜240℃の範囲であり、好ましくは160〜200℃の範囲である。混合時間も特に限定されず、通常5分〜20分の範囲で設定される。
【0029】
重合体αおよび重合体βからなる重合体溶融混合物は、溶融混合後、溶融状態のままでブロック共重合体組成物との混合に供することができるが、利便性の観点からは、溶融混合後に放冷して、固形の重合体溶融混合物として回収することが好ましい。また、固形の重合体溶融混合物を得るにあたり、その形状は特に限定されるものではないが、ブロック共重合体組成物との混合を容易にする観点からは、ペレット状の重合体溶融混合物とすることが好ましい。ペレット状の重合体溶融混合物を得る方法は、特に限定されないが、溶融状態の重合体溶融混合物をストランド状に成形し、ペレタイザーを用いてペレット状に造粒する方法を例示することができる。
【0030】
本発明の重合体組成物の製造方法における第2の工程である重合体溶融混合物とブロック共重合体組成物とを混合して重合体組成物を得る工程は、前述したようにして得られる重合体αおよび重合体βからなる重合体溶融混合物と以下に述べるブロック共重合体組成物とを混合して、重合体組成物とする工程である。
【0031】
本発明の重合体組成物の製造方法において、重合体αおよび重合体βからなる重合体溶融混合物と混合されるブロック共重合体組成物は、少なくとも2種のブロック共重合体を含有してなり、全体としての重量平均分子量が300,000未満であるブロック共重合体組成物である。本発明で用いられるブロック共重合体組成物の必須成分である2種のブロック共重合体のうちの一方であるブロック共重合体Aは、下記の一般式(A)で表される、互いに異なる重量平均分子量を持つ2つの芳香族ビニル重合体ブロックを有する、直鎖状の芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体である。
【0032】
Ar1−D−Ar2 (A)
【0033】
上記の一般式(A)において、Ar1は、重量平均分子量が6000〜20,000の芳香族ビニル重合体ブロックであり、Ar2は、重量平均分子量が40,000〜400,000の芳香族ビニル重合体ブロックであり、Dは、ビニル結合含有量が1〜20モル%の共役ジエン重合体ブロックである。
【0034】
本発明で用いられるブロック共重合体組成物の必須成分であるブロック共重合体の他方であるブロック共重合体Bは、下記の一般式(B)で表される芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体である。
【0035】
(Ar−D−X (B)
【0036】
上記の一般式(B)において、Arは、重量平均分子量が6000〜20,000の芳香族ビニル重合体ブロックであり、Dは、ビニル結合含有量が1〜20モル%の共役ジエン重合体ブロックであり、Xは単結合またはカップリング剤の残基であり、nは2以上の整数である。
【0037】
ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体Bの芳香族ビニル重合体ブロック(Ar1,Ar2,Ar)は、芳香族ビニル単量体単位により構成される重合体ブロックである。芳香族ビニル重合体ブロックの芳香族ビニル単量体単位を構成するために用いられる芳香族ビニル単量体としては、芳香族ビニル化合物であれば特に限定されないが、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−エチルスチレン、3−エチルスチレン、4−エチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、4−ブロモスチレン、2−メチル−4,6−ジクロロスチレン、2,4−ジブロモスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられる。これらのなかでも、スチレンを用いることが好ましい。これらの芳香族ビニル単量体は、各芳香族ビニル重合体ブロックにおいて、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、各芳香族ビニル重合体ブロックにおいて、同じ芳香族ビニル単量体を用いても良いし、異なる芳香族ビニル単量体を用いても良い。
【0038】
ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体Bの芳香族ビニル重合体ブロック(Ar1,Ar2,Ar)は、それぞれ、芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位を含んでいても良い。芳香族ビニル重合体ブロックに含まれ得る芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位を構成する単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン)などの共役ジエン単量体、α,β−不飽和ニトリル単量体、不飽和カルボン酸または酸無水物単量体、不飽和カルボン酸エステル単量体、非共役ジエン単量体が例示される。各芳香族ビニル重合体ブロックにおける芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位の含有量は、20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、実質的に0重量%であることが特に好ましい。
【0039】
ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体Bの共役ジエン重合体ブロック(D,D)は、共役ジエン単量体単位により構成される重合体ブロックである。共役ジエン重合体ブロックの共役ジエン単量体単位を構成するために用いられる共役ジエン単量体としては、共役ジエン化合物であれば特に限定されないが、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどが挙げられる。これらの中でも、1,3−ブタジエンおよび/またはイソプレンを用いることが好ましく、イソプレンを用いることが特に好ましい。この共役ジエン重合体ブロックをイソプレン単位で構成することにより、柔軟性に優れ、より小さい永久伸びを有する重合体組成物を得ることができる。これらの共役ジエン単量体は、各共役ジエン重合体ブロックにおいて、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、各共役ジエン重合体ブロックにおいて、同じ共役ジエン単量体を用いても良いし、異なる共役ジエン単量体を用いることもできる。さらに、各共役ジエン重合体ブロックの不飽和結合の一部に対し、水素添加反応を行っても良い。
【0040】
ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体Bの共役ジエン重合体ブロック(D,D)は、それぞれ、共役ジエン単量体単位以外の単量体単位を含んでいても良い。共役ジエン重合体ブロックに含まれ得る共役ジエン単量体単位以外の単量体単位を構成する単量体としては、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体、α,β−不飽和ニトリル単量体、不飽和カルボン酸または酸無水物単量体、不飽和カルボン酸エステル単量体、非共役ジエン単量体が例示される。各共役ジエン重合体ブロックにおける共役ジエン単量体単位以外の単量体単位の含有量は、20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、実質的に0重量%であることが特に好ましい。
【0041】
本発明で用いられるブロック共重合体組成物を構成するブロック共重合体Aは、上記一般式(A)で表されるように、比較的小さい重量平均分子量を有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar1)、特定のビニル結合含有量を有する共役ジエン重合体ブロック(D)および比較的大きい重量平均分子量を有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar2)が、この順で直鎖状に連なって構成される直鎖状で非対称な芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体である。比較的小さい重量平均分子量を有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar1)の重量平均分子量(Mw(Ar1))は、6000〜20,000であり、7000〜18,000であることが好ましく、8000〜15,000であることがより好ましい。Mw(Ar1)がこの範囲を外れると、重合体組成物の永久伸びが大きすぎるものとなるおそれがある。また、比較的大きい重量平均分子量を有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar2)の重量平均分子量(Mw(Ar2))は、40,000〜400,000であり、42,000〜370,000であることが好ましく、45,000〜350,000であることがより好ましい。Mw(Ar2)が小さすぎると、得られる重合体組成物の永久伸びが大きすぎるものとなるおそれがあり、Mw(Ar2)が大きすぎるブロック共重合体Aは、製造が困難である場合がある。
【0042】
ブロック共重合体Aにおいて、比較的大きい重量平均分子量を有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar2)の重量平均分子量(Mw(Ar2))と、比較的小さい重量平均分子量を有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar1)の重量平均分子量(Mw(Ar1))との比(Mw(Ar2)/Mw(Ar1))は、特に限定されないが、通常2〜67であり、4〜40であることが好ましく、4.5〜35であることがより好ましい。ブロック共重合体Aをこのように構成することによって、より小さい永久伸びとより高い弾性率とを有し、弾性に富んだ重合体組成物を得ることができる。
【0043】
ブロック共重合体Aの共役ジエン重合体ブロック(D)のビニル結合含有量(全共役ジエン単量体単位において、1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合が占める割合)は、1〜20モル%であり、2〜15モル%であることが好ましく、3〜10モル%であることがより好ましい。このビニル結合含有量が高すぎると、得られる重合体組成物の永久伸びが大きくなるおそれがある。
【0044】
ブロック共重合体Aの共役ジエン重合体ブロック(D)の重量平均分子量(Mw(D))は、特に限定されないが、通常20,000〜200,000であり、35,000〜150,000であることが好ましく、45,000〜100,000であることがより好ましい。
【0045】
ブロック共重合体Aの全単量体単位に対する芳香族ビニル単量体単位の含有量は、特に限定されないが、通常40〜90重量%であり、45〜87重量%であることが好ましく、50〜85重量%であることがより好ましい。また、ブロック共重合体A全体としての重量平均分子量も、特に限定されないが、通常50,000〜500,000であり、80,000〜470,000であることが好ましく、90,000〜450,000であることがより好ましい。
【0046】
本発明で用いるブロック共重合体組成物を構成するブロック共重合体Bは、上記一般式(B)で表されるように、特定の重量平均分子量を有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar)と特定のビニル結合含有量を有する共役ジエン重合体ブロック(D)とが結合してなるジブロック体(Ar−D)が、2個以上、芳香族ビニル重合体ブロック(Ar)側が末端となるように、直接単結合でもしくはカップリング剤(X)の残基を介して結合することにより構成されるブロック共重合体である。なお、カップリング剤の残基を構成するカップリング剤の例としては、後述するものが挙げられる。ジブロック体(Ar−D)が結合する数(すなわち、一般式(B)におけるn)は、2以上であれば特に限定されず、異なる数でジブロック体が結合したブロック共重合体Bが混在していても良い。一般式(B)におけるnは、2以上の整数であれば特に限定されないが、通常2〜8の整数であり、好ましくは2〜4の整数である。
【0047】
ブロック共重合体Bが1分子中に2個以上有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar)の重量平均分子量(Mw(Ar))は、それぞれ、6000〜20,000であり、7000〜18,000であることが好ましく、8000〜15,000であることがより好ましい。Mw(Ar)がこの範囲を外れると、得られる重合体組成物の永久伸びが大きすぎるものとなるおそれがある。ブロック共重合体Bの1分子中に2個以上存在する芳香族ビニル重合体ブロックの重量平均分子量(Mw(Ar))は、上記の範囲内であれば、等しくても、互いに異なるものであっても良いが、実質的に等しいことが好ましい。また、これらの芳香族ビニル重合体ブロックの重量平均分子量(Mw(Ar))は、ブロック共重合体Aの比較的小さい重量平均分子量を有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar1)の重量平均分子量(Mw(Ar1))と、実質的に等しいことがより好ましい。
【0048】
ブロック共重合体Bの共役ジエン重合体ブロック(D)のビニル結合含有量は、1〜20モル%であり、2〜15モル%であることが好ましく、3〜10モル%であることがより好ましい。このビニル結合含有量が高すぎると、得られる重合体組成物の永久伸びが大きくなるおそれがある。また、ブロック共重合体Bの共役ジエン重合体ブロック(D)のビニル結合含有量は、ブロック共重合体Aの共役ジエン重合体ブロック(D)のビニル結合含有量と実質的に等しいことが好ましい。
【0049】
ブロック共重合体Bの共役ジエン重合体ブロック(D)の重量平均分子量(Mw(D))は、特に限定されないが、通常20,000〜200,000であり、35,000〜150,000であることが好ましく、45,000〜100,000であることがより好ましい。ブロック共重合体Bの共役ジエン重合体ブロック(D)の重量平均分子量(Mw(D))の重量平均分子量がこの範囲であることにより、より小さい永久伸びとより高い弾性率とを有し、弾性に富んだ重合体組成物を得ることができる。また、ブロック共重合体Bの共役ジエン重合体ブロック(D)の重量平均分子量(Mw(D))は、ブロック共重合体Aの共役ジエン重合体ブロック(D)の重量平均分子量(Mw(D))と実質的に等しいことが好ましい。これらの重量平均分子量が実質的に等しいことにより、得られる重合体組成物が、より高い弾性率を有し、弾性に富んだものとなる。なお、ブロック共重合体Bとして、カップリング剤を使用せずに製造した芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体を用いる場合、それに含まれる共役ジエン重合体ブロックは全ての単量体単位が直接結合したものとなり、実体上、2つの共役ジエン重合体ブロック(D)からなるものではない。但し、本発明では、そのような共役ジエン重合体ブロックであっても、概念上、実質的に等しい重量平均分子量を有する2つの共役ジエン重合体ブロック(D)が単結合で結合されたものであるとして、取扱うものとする。したがって、例えば、カップリング剤を使用せずに製造した芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体であるブロック共重合体Bにおいて、共役ジエン重合体ブロックが全体として100,000の重量平均分子量を有する場合、そのMw(D)は、50,000であるとして取扱うものとする。
【0050】
ブロック共重合体Bの全単量体単位に対する芳香族ビニル単量体単位の含有量は、特に限定されないが、通常10〜35重量%であり、12〜32重量%であることが好ましく、15〜30重量%であることがより好ましい。また、ブロック共重合体B全体としての重量平均分子量も、特に限定されないが、通常60,000〜800,000であり、80,000〜600,000であることが好ましく、100,000〜400,000であることがより好ましい。
【0051】
本発明で用いられるブロック共重合体組成物を構成するブロック共重合体Aおよびブロック共重合体B、ならびにこれらを構成する各重合体ブロックの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、特に限定されないが、それぞれ、通常1.1以下であり、好ましくは1.05以下である。
【0052】
本発明で用いられるブロック共重合体組成物におけるブロック共重合体Aとブロック共重合体Bとの重量比(A/B)は、特に限定されないが、10/90〜90/10であることが好ましく、36/64〜80/20であることがより好ましく、38/62〜80/20であることがさらに好ましく、40/60〜75/25であることが最も好ましい。このような比で各ブロック共重合体が含有されることにより、得られる重合体組成物における高い弾性率と小さい永久伸びとのバランスが特に優れたものとなる。一方、この比が小さすぎると、重合体組成物の弾性率が不十分となるおそれがあり、この比が大きすぎると、重合体組成物の永久伸びが大きくなりすぎるおそれがある。
【0053】
本発明で用いられるブロック共重合体組成物は、ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体Bのみを重合体成分として含むものであって良いが、ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体B以外の重合体成分を含むものであっても良い。本発明のブロック共重合体組成物に含まれ得るブロック共重合体Aおよびブロック共重合体B以外の重合体成分としては、ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体Bの芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体、芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体、芳香族ビニル単独重合体、共役ジエン単独重合体、芳香族ビニル−共役ジエンランダム共重合体、およびこれらの分岐型重合体、あるいは、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーやポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系熱可塑性樹脂、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリフェニレンエーテルなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。本発明で用いられるブロック共重合体組成物において、ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体B以外の重合体成分の含有量は、重合体成分全体に対して、20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましい。
【0054】
本発明で用いられるブロック共重合体組成物では、含まれる重合体成分全体の全繰返し単位において、芳香族ビニル単量体単位が占める割合(以下の記載において、全体の芳香族ビニル単量体単位含有量ということがある)は特に制限されるものではないが、その割合は、20〜70重量%であることが好ましく、30〜60重量%であることがより好ましく、40〜50重量%であることがさらに好ましい。全体の芳香族ビニル単量体単位含有量がこの範囲であることにより、重合体組成物における高い弾性率と小さい永久伸びとのバランスが特に優れたものとなる。この全体の芳香族ビニル単量体単位含有量は、ブロック共重合体組成物を構成するブロック共重合体A、ブロック共重合体Bおよびこれら以外の重合体成分、それぞれの芳香族ビニル単量体単位の含有量を勘案し、それらの配合量を調節することにより、容易に調節することが可能である。なお、ブロック共重合体組成物を構成する全ての重合体成分が、芳香族ビニル単量体単位および共役ジエン単量体単位のみにより構成されている場合であれば、Rubber Chem. Technol.,45,1295(1972)に記載された方法に従って、ブロック共重合体組成物の重合体成分をオゾン分解し、次いで水素化リチウムアルミニウムにより還元すれば、共役ジエン単量体単位部分が分解され、芳香族ビニル単量体単位部分のみを取り出せるので、容易に全体の芳香族ビニル単量体単位含有量を測定することができる。
【0055】
本発明で用いるブロック共重合体組成物を構成する重合体成分全体の重量平均分子量は、300,000未満であることが必要であり、50,000〜250,000であることが好ましく、100,000〜200,000であることがより好ましい。この重量平均分子量が高すぎると、最終的に得られる重合体組成物において、重合体αが不均一に配合されたものとなるおそれがあり、その結果、最終的に得られる重合体組成物の成形性が不充分となるおそれがある。また、本発明で用いるブロック共重合体組成物を構成する重合体成分全体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、特に限定されないが、通常1.01〜10であり、1.03〜5であることが好ましく、1.05〜3であることがより好ましい。
【0056】
本発明で用いるブロック共重合体組成物は、重合体成分以外の成分を含んでいてもよく、例えば、軟化剤、酸化防止剤、抗菌剤、光安定剤、紫外線吸収剤、染料、滑剤、架橋剤、架橋促進剤などの添加剤を必要に応じて配合しても良い。
【0057】
本発明で用いるブロック共重合体組成物のメルトインデックスは、特に限定されないが、ASTM D−1238(G条件、200℃、5kg)に準拠して測定される値として、通常1〜1000g/10分であり、3〜700g/10分であることが好ましく、5〜500g/10分であることがより好ましい。この範囲であれば、得られる重合体組成物の成形性が特に良好となる。
【0058】
本発明で用いるブロック共重合体組成物を得る方法は特に限定されない。例えば、従来のブロック共重合体の製法に従って、ブロック共重合体Aとブロック共重合体Bとをそれぞれ別個に製造し、必要に応じて、他の重合体成分などを配合した上で、それらを混練や溶液混合などの常法に従って混合することにより、製造することができる。ただし、特に望ましい構成を有するブロック共重合体組成物をより生産性よく得る観点からは、次に述べる製造方法が好適である。
【0059】
すなわち、本発明で用いるブロック共重合体組成物は、下記の(1)〜(5)の工程からなる製造方法を用いて製造することが好ましい。
【0060】
(1):溶媒中で重合開始剤を用いて、芳香族ビニル単量体を重合する工程
(2):上記(1)の工程で得られる活性末端を有する芳香族ビニル重合体を含有する溶液に、共役ジエン単量体を添加する工程
(3):上記(2)の工程で得られる活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体を含有する溶液に、その活性末端に対して官能基が1モル当量未満となる量で、カップリング剤を添加し、ブロック共重合体Bを形成する工程
(4):上記(3)の工程で得られる溶液に、芳香族ビニル単量体を添加し、ブロック共重合体Aを形成する工程
(5):上記(4)の工程で得られる溶液から、ブロック共重合体組成物を回収する工程
【0061】
上記のブロック共重合体組成物の製造方法では、まず、溶媒中で重合開始剤を用いて、芳香族ビニル単量体を重合する。用いられる重合開始剤としては、一般的に芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とに対し、アニオン重合活性があることが知られている有機アルカリ金属化合物、有機アルカリ土類金属化合物、有機ランタノイド系列希土類金属化合物などを用いることができる。有機アルカリ金属化合物としては、分子中に1個以上のリチウム原子を有する有機リチウム化合物が特に好適に用いられ、その具体例としては、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウム、ジアルキルアミノリチウム、ジフェニルアミノリチウム、ジトリメチルシリルアミノリチウムなどの有機モノリチウム化合物や、メチレンジリチウム、テトラメチレンジリチウム、ヘキサメチレンジリチウム、イソプレニルジリチウム、1,4−ジリチオ−エチルシクロヘキサンなどの有機ジリチウム化合物、さらには、1,3,5−トリリチオベンゼンなどの有機トリリチウム化合物などが挙げられる。これらのなかでも、有機モノリチウム化合物が特に好適に用いられる。
【0062】
重合開始剤として用いる有機アルカリ土類金属化合物としては、例えば、n−ブチルマグネシウムブロミド、n−ヘキシルマグネシウムブロミド、エトキシカルシウム、ステアリン酸カルシウム、t−ブトキシストロンチウム、エトキシバリウム、イソプロポキシバリウム、エチルメルカプトバリウム、t−ブトキシバリウム、フェノキシバリウム、ジエチルアミノバリウム、ステアリン酸バリウム、エチルバリウムなどが挙げられる。また、他の重合開始剤の具体例としては、ネオジム、サマリニウム、ガドリニウムなどを含むランタノイド系列希土類金属化合物/アルキルアルミニウム/アルキルアルミニウムハライド/アルキルアルミニウムハイドライドからなる複合触媒や、チタン、バナジウム、サマリニウム、ガドリニウムなどを含むメタロセン型触媒などの有機溶媒中で均一系となり、リビング重合性を有するものなどが挙げられる。なお、これらの重合開始剤は、1種類を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0063】
重合開始剤の使用量は、目的とする各ブロック共重合体の分子量に応じて決定すればよく、特に限定されないが、使用する全単量体100gあたり、通常、0.01〜20ミリモル、好ましくは、0.05〜15ミリモル、より好ましくは、0.1〜10ミリモルである。
【0064】
重合に用いる溶媒は、重合開始剤に不活性なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、鎖状炭化水素溶媒、環式炭化水素溶媒またはこれらの混合溶媒が使用される。鎖状炭化水素溶媒としてはn−ブタン、イソブタン、1−ブテン、イソブチレン、トランス−2−ブテン、シス−2−ブテン、1−ペンテン、トランス−2−ペンテン、シス−2−ペンテン、n−ペンタン、イソペンタン、neo−ペンタン、n−ヘキサンなどの、炭素数4〜6の鎖状アルカンおよびアルケンを例示することができる。また、環式炭化水素溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素化合物;を挙げることができる。これらの溶媒は、1種類を単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
【0065】
重合に用いる溶媒の量は、特に限定されないが、重合反応後の溶液における全ブロック共重合体の濃度が、通常、5〜60重量%、好ましくは10〜55重量%、より好ましくは20〜50重量%になるように設定する。
【0066】
ブロック共重合体組成物を得る際に、各ブロック共重合体の各重合体ブロックの構造を制御するために、重合に用いる反応器にルイス塩基化合物を添加してもよい。このルイス塩基化合物としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルなどのエーテル類;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、キヌクリジンなどの第三級アミン類;カリウム−t−アミルオキシド、カリウム−t−ブチルオキシドなどのアルカリ金属アルコキシド類;トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類;などが挙げられる。これらのルイス塩基化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられ、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択される。
【0067】
また、重合反応時にルイス塩基化合物を添加する時期は特に限定されず、目的とする各ブロック共重合体の構造に応じて適宜決定すれば良い。例えば、重合を開始する前に予め添加しても良いし、一部の重合体ブロックを重合してから添加しても良く、さらには、重合を開始する前に予め添加した上で一部の重合体ブロックを重合した後さらに添加しても良い。
【0068】
重合反応温度は、通常10〜150℃、好ましくは30〜130℃、より好ましくは40〜90℃である。重合に要する時間は条件によって異なるが、通常、48時間以内、好ましくは0.5〜10時間である。重合圧力は、上記重合温度範囲で単量体および溶媒を液相に維持するに充分な圧力の範囲で行えばよく、特に限定されない。
【0069】
以上のような条件で、溶媒中で重合開始剤を用いて、芳香族ビニル単量体を重合することにより、活性末端を有する芳香族ビニル重合体を含有する溶液を得ることができる。この活性末端を有する芳香族ビニル重合体は、ブロック共重合体組成物を構成する、ブロック共重合体Aの比較的小さい重量平均分子量を有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar1)とブロック共重合体Bの芳香族ビニル重合体ブロック(Ar)を構成することとなるものである。したがって、この際用いる芳香族ビニル単量体の量は、これらの重合体ブロックの目的とする重量平均分子量に応じて決定される。
【0070】
次の工程は、以上のようにして得られる活性末端を有する芳香族ビニル重合体を含有する溶液に、共役ジエン単量体を添加する工程である。この共役ジエン単量体の添加により、活性末端から共役ジエン重合体鎖が形成され、活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体(ジブロック体)を含有する溶液が得られる。この際用いる共役ジエン単量体の量は、得られる共役ジエン重合体鎖が、目的とするブロック共重合体Bの共役ジエン重合体ブロック(D)の重量平均分子量を有するように決定される。
【0071】
次の工程では、以上のようにして得られる活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体(ジブロック体)を含有する溶液に、その活性末端に対して官能基が1モル当量未満となる量で、カップリング剤を添加する。
【0072】
添加されるカップリング剤は、特に限定されず、2官能以上の任意のカップリング剤を用いることができる。2官能のカップリング剤としては、例えば、ジクロロシラン、モノメチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシランなどの2官能性ハロゲン化シラン;ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランなどの2官能性アルコキシシラン;ジクロロエタン、ジブロモエタン、メチレンクロライド、ジブロモメタンなどの2官能性ハロゲン化アルカン;ジクロロスズ、モノメチルジクロロスズ、ジメチルジクロロスズ、モノエチルジクロロスズ、ジエチルジクロロスズ、モノブチルジクロロスズ、ジブチルジクロロスズなどの2官能性ハロゲン化スズ;ジブロモベンゼン、安息香酸、CO、2―クロロプロペンなどが挙げられる。3官能のカップリング剤としては、例えば、トリクロロエタン、トリクロロプロパンなどの3官能性ハロゲン化アルカン;メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシランなどの3官能性ハロゲン化シラン;メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどの3官能性アルコキシシラン;などが挙げられる。4官能のカップリング剤としては、例えば、四塩化炭素、四臭化炭素、テトラクロロエタンなどの4官能性ハロゲン化アルカン;テトラクロロシラン、テトラブロモシランなどの4官能性ハロゲン化シラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどの4官能性アルコキシシラン;テトラクロロスズ、テトラブロモスズなどの4官能性ハロゲン化スズ;などが挙げられる。5官能以上のカップリング剤としては、例えば、1,1,1,2,2−ペンタクロロエタン,パークロロエタン、ペンタクロロベンゼン、パークロロベンゼン、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテルなどが挙げられる。これらのカップリング剤は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0073】
添加されるカップリング剤の量は、ブロック共重合体組成物を構成するブロック共重合体Aとブロック共重合体Bとの比に応じて決定され、重合体の活性末端に対してカップリング剤の官能基が1モル当量未満となる量であれば特に限定されないが、通常、重合体の活性末端に対してカップリング剤の官能基が0.10〜0.90モル当量となる範囲であり、0.15〜0.70モル当量となる範囲であることが好ましい。
【0074】
以上のように、活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体(ジブロック体)を含有する溶液に、その活性末端に対して官能基が1モル当量未満となる量で、カップリング剤を添加すると、活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体(ジブロック体)のうちの一部の共重合体において、共役ジエン重合体ブロック同士がカップリング剤の残基を介して結合され、その結果、ブロック共重合体組成物のブロック共重合体Bが形成される。そして、活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体(ジブロック体)の残り一部は、未反応のまま溶液中に残ることとなる。
【0075】
次の工程では、以上のようにして得られる溶液に、芳香族ビニル単量体を添加する。溶液に芳香族ビニル単量体を添加すると、カップリング剤と反応せずに残った活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体(ジブロック体)の末端から、芳香族ビニル重合体鎖が形成される。この芳香族ビニル重合体鎖は、ブロック共重合体組成物を構成する、ブロック共重合体Aの比較的大きい重量平均分子量を有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar2)を構成することとなるものである。したがって、この際用いる芳香族ビニル単量体の量は、芳香族ビニル重合体ブロック(Ar2)の目的とする重量平均分子量に応じて決定される。この芳香族ビニル単量体を添加する工程により、ブロック共重合体Aを構成することとなる、非対称な芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体が形成され、その結果、ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体Bを含有する溶液が得られる。なお、この芳香族ビニル単量体を添加する工程の前に、カップリング剤と反応しなかった活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体(ジブロック体)を含む溶液に、共役ジエン単量体を添加しても良い。このように共役ジエン単量体を添加すると、添加しない場合に比べて、ブロック共重合体Aの共役ジエン重合体ブロック(D)の重量平均分子量を大きくすることができる。また、カップリング剤と反応しなかった活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体を含む溶液に、活性末端の当量より少ない量で重合停止剤(水、メタノールなど)を添加してもよい。このように重合停止剤を添加すると、芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体(ジブロック体)の活性末端が失活し、それにより得られる芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体(ジブロック体)が、ブロック共重合体組成物に含有されることとなる。
【0076】
次の工程では、以上のようにして得られるブロック共重合体Aおよびブロック共重合体Bを含有する溶液から、目的とするブロック共重合体組成物を回収する。回収の方法は、常法に従えばよく、特に限定されない。例えば、反応終了後に、必要に応じて、水、メタノール、エタノール、プロパノール、塩酸、クエン酸などの重合停止剤を添加し、さらに必要に応じて、酸化防止剤などの添加剤を添加してから、溶液に直接乾燥法やスチームストリッピングなどの公知の方法を適用することにより、回収することができる。スチームストリッピングなどを適用して、ブロック共重合体組成物がスラリーとして回収される場合は、押出機型スクイザーなどの任意の脱水機を用いて脱水して、所定値以下の含水率を有するクラムとし、さらにそのクラムをバンドドライヤーあるいはエクスパンション押出乾燥機などの任意の乾燥機を用いて乾燥すればよい。以上のようにして得られるブロック共重合体組成物は、どのような形態で回収しても良いが、重合体溶融混合物との混合を容易にする観点からは、ペレット状のブロック共重合体組成物として回収することが好ましい。ペレット状のブロック共重合体組成物を得る方法としては、溶融状態のブロック共重合体組成物をストランド状に成形し、ペレタイザーを用いてペレット状に造粒する方法を例示することができる。
【0077】
以上のようにブロック共重合体組成物を製造することにより、ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体Bを同じ反応容器内で連続して得ることができるので、それぞれのブロック共重合体を個別に製造し混合する場合に比して、極めて優れた生産性で目的のブロック共重合体組成物を得ることができる。しかも、得られるブロック共重合体組成物は、各ブロック共重合体の各重合体ブロックの重量平均分子量が、本発明の重合体組成物を構成するためのブロック共重合体組成物として、特に望ましいバランスを有するので、高い弾性率と小さい永久伸びとが高度にバランスされた重合体組成物を得ることができる。
【0078】
本発明の重合体組成物の製造方法において、重合体αおよび重合体βからなる重合体溶融混合物とブロック共重合体組成物とを混合する方式は特に限定されず、例えば、ドライブレンド、溶融混合、溶液混合などのいずれであっても良い。また、重合体溶融混合物とブロック共重合体組成物とをそれぞれ成形機に供給して、当該成形機内において、重合体溶融混合物とブロック共重合体組成物との混合を行い、それにより得られる重合体組成物をそのまま成形に供することもできる。
【0079】
重合体αおよび重合体βからなる重合体溶融混合物とブロック共重合体組成物とを混合するにあたり、これらの混合比は特に限定されないが、ブロック共重合体組成物100重量部に対して、0.05〜20重量部の重合体溶融混合物を混合することが好ましく、0.1〜15重量部の重合体溶融混合物を混合することがより好ましく、0.5〜10重量部の重合体溶融混合物を混合することが特に好ましい。このような混合比とすることにより、得られる重合体組成物の成形性が、特に良好なものとなる。
【0080】
重合体溶融混合物とブロック共重合体組成物との混合は、これらの成分のみを混合するものであっても良いし、さらに他の成分を添加して混合を行っても良い。
混合時に添加しうる他の成分の具体例としては、粘着付与樹脂、軟化剤、酸化防止剤、抗菌剤、光安定剤、紫外線吸収剤、染料、滑剤、架橋剤、架橋促進剤などの添加剤を挙げることができる。
【0081】
本発明の重合体組成物の製法方法によって得られる重合体組成物の用途は特に限定されず、例えば、伸縮性フィルム、手袋、エラスティックバンド、コンドーム、OA機器、事務用などの各種ロール、電気電子機器用防振シート、防振ゴム、衝撃吸収シート、衝撃緩衝フィルム・シート、住宅用制振シート、制振ダンパー材などに用いられる成形材料用途、粘着テープ、粘着シート、粘着ラベル、ゴミ取りローラーなどに用いられる粘着剤用途、衛生用品や製本に用いられる接着剤用途、衣料、スポーツ用品などに用いられる弾性繊維用途などの用途に用いることができる。これらのなかでも、本発明により得られる重合体組成物は、高い弾性率と小さい永久伸びとを併せ持ち、さらには、溶融押出成形を適用した場合に極めて優れた成形性を示し、薄いフィルムに成形しても厚さにムラのないフィルムを与えることができるものであることから、溶融押出成形によりフィルム状に成形して、伸縮性フィルムとする用途において、特に好適に用いられる。
【0082】
本発明により得られる重合体組成物を、溶融押出成形によりフィルム状に成形するにあたっては、T−ダイを用いた溶融押出成形が特に好適である。T−ダイを用いた押出成形の具体例としては、単軸押出機や二軸押出機に装着したT−ダイから、温度150〜250℃で溶融した重合体組成物を押出し、引き取りロールで冷却しながら、巻き取る方法が挙げられる。なお、引き取りロールで冷却する際に、フィルムを延伸しても良い。
【0083】
伸縮性フィルムの厚さは、用途に応じて調整されるが、紙おむつや生理用品などの衛生用品用のフィルムとする場合には、通常0.01〜5mm、好ましくは0.01〜1mm、より好ましくは0.02〜0.2mmである。
【0084】
本発明により得られる伸縮性フィルムは、他の部材と積層して使用することもできる。例えば、伸縮性フィルムをスリット加工した後、これにホットメルト接着剤などを塗布してテープとし、このテープを縮めた状態で不織布、織布、プラスチックフィルム、またはこれらの積層体に接着し、テープの縮みを緩和することにより、伸縮性のギャザー部材を形成することができる。さらに、その他用途に応じ、公知の方法に従って適宜加工し、例えば、伸縮性シップ用基材、手袋、手術用手袋、指サック、止血バンド、避妊具、ヘッドバンド、ゴーグルバンド、輪ゴムなどの伸縮性部材として用いることができる。
【実施例】
【0085】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の部および%は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0086】
各種の測定については、以下の方法に従って行った。
【0087】
〔重合体および重合体組成物の重量平均分子量および分子量分布〕
流速0.35ml/分のテトラヒドロフランをキャリアとする高速液体クロマトグラフィによりポリスチレン換算分子量として、数平均分子量および重量平均分子量を求め、分子量分布はこれらの値から計算して求めた。装置は、東ソー社製HLC8220、カラムは昭和電工社製Shodex KF−404HQを3本連結したもの(カラム温度40℃)、検出器は示差屈折計および紫外検出器を用い、分子量の較正はポリマーラボラトリー社製の標準ポリスチレン(500から300万)の12点で実施した。
【0088】
〔ブロック共重合体組成物における各ブロック共重合体の重量比〕
上記の高速液体クロマトグラフィにより得られたチャートの各ブロック共重合体に対応するピークの面積比から求めた。
【0089】
〔ブロック共重合体におけるスチレン重合体ブロックの重量平均分子量〕
Rubber Chem. Technol.,45,1295(1972)に記載された方法に従い、ブロック共重合体をオゾンと反応させ、水素化リチウムアルミニウムで還元することにより、ブロック共重合体のイソプレン重合体ブロックを分解した。具体的には、以下の手順で行なった。すなわち、モレキュラーシーブで処理したジクロロメタン100mlを入れた反応容器に、試料を300mg溶解した。この反応容器を冷却槽に入れ−25℃としてから、反応容器に170ml/minの流量で酸素を流しながら、オゾン発生器により発生させたオゾンを導入した。反応開始から30分経過後、反応容器から流出する気体をヨウ化カリウム水溶液に導入することにより、反応が完了したことを確認した。次いで、窒素置換した別の反応容器に、ジエチルエーテル50mlと水素化リチウムアルミニウム470mgを仕込み、氷水で反応容器を冷却しながら、この反応容器にオゾンと反応させた溶液をゆっくり滴下した。そして、反応容器を水浴に入れ、徐々に昇温して、40℃で30分間還流させた。その後、溶液を撹拌しながら、反応容器に希塩酸を少量ずつ滴下し、水素の発生がほとんど認められなくなるまで滴下を続けた。この反応の後、溶液に生じた固形の生成物をろ別し、固形の生成物は、100mlのジエチルエーテルで10分間抽出した。この抽出液と、ろ別した際のろ液とをあわせ、溶媒を留去することにより、固形の試料を得た。このようにして得られた試料につき、上記の重量平均分子量の測定法に従い、重量平均分子量を測定し、その値をスチレン重合体ブロックの重量平均分子量とした。
【0090】
〔ブロック共重合体におけるイソプレン重合体ブロックの重量平均分子量〕
それぞれ上記のようにして求められた、ブロック共重合体の重量平均分子量から、対応するスチレン重合体ブロックの重量平均分子量を引き、その計算値に基づいてイソプレン重合体ブロックの重量平均分子量を求めた。
【0091】
〔ブロック共重合体組成物のスチレン単位含有量〕
プロトンNMRの測定に基づき求めた。
【0092】
〔イソプレン重合体ブロックのビニル結合含有量〕
プロトンNMRの測定に基づき求めた。
【0093】
〔ブロック共重合体組成物のメルトインデックス〕
ASTM D−1238(G条件、200℃、5kg)に準拠して測定した。
【0094】
〔重合体組成物のフィルム成形性〕
重合体組成物の成形性(成形安定性)の指標として、フィルムの伸張粘度を測定した。測定手順は以下の通りである。測定装置としてTAインスツルメント社製のARESレオメーター、測定治具にARES−EVF伸張粘度測定冶具を用い、測定条件として伸張速度10秒−1、測定時間1.5秒、測定温度200℃で行った。この条件により、フィルムの100%伸張時および350%伸張時の伸張粘度を測定した。350%伸張時の伸張粘度の、100%伸張粘度に対する比(350%時伸張粘度/100%時伸張粘度の値)が大きなものほどが成形性安定性に優れるといえる。
【0095】
〔伸縮性フィルムの膜厚の均一性〕
試料となるフィルムを成形時の溶融流れ方向に沿って30cmの長さで切り取り、このフィルムの中央部において、溶融流れ方向に沿った2cm間隔毎、15点についてフィルムの厚さを、ダイアルゲージ(テクロック社製、測定精度:0.001mm単位)を用いて測定し、これら測定値の標準偏差を求めた。この標準偏差が小さいものほど、フィルムの膜厚の均一性が高いといえ、成形に用いた重合体組成物の成形性が優れているといえる。
【0096】
〔伸縮性フィルムの引張弾性率〕
伸縮性フィルムから、幅25mmの試料を2枚作成し、これを試料として用いて、引っ張る方向を成形時の溶融流れ垂直方向にあわせて測定した。測定手順は以下の通りである。ORIENTEC社製のテンシロン万能試験機RTC−1210に試料を無張力でチャック間距離40mmとして固定した。そして、試料を300mm/分の速度で200%まで延伸し、次いで試料を300mm/分の速度で初期のチャック間距離まで戻した。さらに、その試料を同じ速度でもう一度200%まで伸張させた後、再び同じ速度で初期のチャック間距離まで戻した。2回目の初期のチャック間距離に戻す過程における50%伸張時の引張応力を測定し、50%伸張時におけるフィルムの引張弾性率を求めた。なお、引張弾性率が高いものほど高い弾性率を有すると言える。
【0097】
〔伸縮性フィルムの永久伸び〕
試料となるフィルムについて、ASTM 412に準拠して上記のテンシロン万能試験機を用いて、引っ張る方向を成形時の溶融流れ垂直方向にあわせて測定した。具体的には、サンプル形状はDieAを使用し、伸張前の標線間距離を40mmとして伸縮性フィルムを伸び率100%で伸張させ、そのままの状態で10分間保持した後、はね返させることなく急に収縮させて、10分間放置後、標線間距離を測定し、下式に基づいて永久伸びを求めた。
永久伸び(%)=(L1−L0)/L0×100
L0:伸張前の標線間距離(mm)
L1:収縮させて10分間放置後の標線間距離(mm)
【0098】
〔製造例1〕
耐圧反応器に、シクロヘキサン23.3kg、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(以下、TMEDAと称する)2.5ミリモルおよびスチレン1.60kgを添加し、40℃で攪拌しているところに、n−ブチルリチウム164.7ミリモルを添加し、50℃に昇温しながら1時間重合した。スチレンの重合転化率は100%であった。引き続き、50〜60℃を保つように温度制御しながら、反応器にイソプレン5.20kgを1時間にわたり連続的に添加した。イソプレンの添加を完了した後、さらに1時間重合した。イソプレンの重合転化率は100%であった。次いで、ジメチルジクロロシラン65.9ミリモルを添加して、2時間カップリング反応を行い、ブロック共重合体Bとなるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を形成させた。この後、50〜60℃を保つように温度制御しながら、スチレン3.20kgを1時間にわたり連続的に添加した。スチレンの添加を完了した後、さらに1時間重合し、ブロック共重合体Aとなる非対称なスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を形成させた。スチレンの重合転化率は100%であった。この後、重合停止剤としてメタノール329.4ミリモルを添加してよく混合し反応を停止した。なお、反応に用いた各試剤の量は、表1にまとめた。得られた反応液の一部を取り出し、各ブロック共重合体およびブロック共重合体組成物の重量平均分子量、各ブロック共重合体の重量比、各スチレン重合体ブロックの重量平均分子量、各イソプレン重合体ブロックの重量平均分子量、ブロック共重合体組成物のスチレン単位含有量ならびにイソプレン重合体ブロックのビニル結合含有量を求めた。これらの値は、表2に示した。以上のようにして得られた反応液100部(重合体成分を30部含有)に、酸化防止剤として、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール0.3部を加えて混合し、混合溶液を少量ずつ85〜95℃に加熱された温水中に滴下して溶媒を揮発させて析出物を得て、この析出物を粉砕し、85℃で熱風乾燥することにより、製造例1のブロック共重合体組成物を回収した。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
〔製造例2〕
スチレン、n−ブチルリチウム、TMEDA、ジメチルジクロロシラン、およびメタノールの量を、それぞれ表1に示すように変更したこと以外は製造例1と同様にして、製造例2のブロック共重合体組成物をそれぞれ回収した。このブロック共重合体組成物については、製造例1と同様の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0102】
〔比較製造例1〕
耐圧反応器に、シクロヘキサン23.3kg、TMEDA1.9ミリモルおよびスチレン1.50kgを添加し、40℃で攪拌しているところに、n−ブチルリチウム128.8ミリモルを添加し、50℃に昇温しながら1時間重合した。スチレンの重合転化率は100重量%であった。引き続き、50〜60℃を保つように温度制御しながら、反応器にイソプレン7.00kgを1時間にわたり連続的に添加した。イソプレンの添加を完了した後、さらに1時間重合した。イソプレンの重合転化率は100%であった。次いで、50〜60℃を保つように温度制御しながら、スチレン1.50kgを1時間にわたり連続的に添加した。スチレンの添加を完了した後、さらに1時間重合し、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を形成させた。スチレンの重合転化率は100%であった。この後、重合停止剤としてメタノール257.6ミリモルを添加してよく混合し反応を停止した。得られた反応液の一部を取り出し、製造例1と同様の測定を行なった。これらの値は、表2に示した。以下の操作は、製造例1と同様にして、比較製造例1のブロック共重合体組成物を回収した。
【0103】
〔比較製造例2〕
スチレン、n−ブチルリチウム、TMEDA、イソプレン、およびメタノールの量を、それぞれ表1に示すように変更したこと以外は比較製造例1と同様にして、比較製造例2のブロック共重合体組成物を回収した。このブロック共重合体組成物については、製造例1と同様の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0104】
〔比較製造例3〕
スチレン、n−ブチルリチウム、TMEDA、ジメチルジクロロシラン、およびメタノールの量を、それぞれ表1に示すように変更したこと以外は製造例1と同様にして、比較製造例3のブロック共重合体組成物を回収した。このブロック共重合体組成物については、製造例1と同様の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0105】
〔実施例1〕
まず、重合体αとしてスチレン−ブタジエンランダム共重合体を用い、重合体βとして製造例1で得られたブロック共重合体組成物を用いて、次のようにして、重合体溶融混合物を得た。まず、スチレン−ブタジエンランダム共重合体(商品名「Nipol 1502」、日本ゼオン社製、重量平均分子量:440,000、分子量分布:5.1)50部と、製造例1で得られたブロック共重合体組成物50部とを、「ブラベンダープラストグラフ」(ブラベンダー社製)のミキサーに投入し、180℃で5分間、溶融混合した。溶融混合終了後、これを直径約3mmのストランドに成形し、約3mm間隔で切断して放冷することにより、ペレット状の重合体溶融混合物を得た。
【0106】
次に、この重合体溶融混合物と製造例1で得られたブロック共重合体組成物とを用いて、次のようにして、伸縮性のフィルムを得た。製造例1で得られたブロック共重合体組成物の粉砕物100部と、重合体溶融混合物のペレット2部とをT−ダイを装着した二軸押出機に投入した。そして、この二軸押出機内において、ブロック共重合体組成物および重合体溶融混合物を、200℃で加熱溶融、混練することにより、重合体組成物を構成し、この重合体組成物を20分間連続してPET製離型フィルムに挟み込みようにして押し出すことにより、平均厚さ0.05mmのフィルム状に成形した。このようにして得られた実施例1の伸縮性フィルムについて、引張弾性率および永久伸びを測定し、また、フィルム成形性および膜厚の均一性の評価を行なった。この結果は、表3に示す。なお、フィルムの成形条件の詳細は、以下の通りである。
【0107】
組成物処理速度 :5kg/hr
フィルム引き取り速度 :4m/min
押出機温度 :投入口100℃、T−ダイ200℃に調整
スクリュー :フルフライト
押出機L/D :30
T−ダイ :幅200mm、リップ0.5mm
【0108】
【表3】

【0109】
〔実施例2〜5、比較例1〜6〕
重合体α、重合体β、およびブロック共重合体組成物として用いる材料の種類および量を、それぞれ表3に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2〜5および比較例1〜6の重合体溶融混合物、重合体組成物および伸縮性フィルムを得た。これらについては、実施例1と同様の測定を行なった。その結果を表3に示す。なお、表3において、「GPPS SGP10」は、(ポリスチレン、商品名「GPPS SGP10」、PSジャパン社製、重量平均分子量:350,000、分子量分布:2.8)を表し、「Nipol IR2200」は、(ポリイソプレン、商品名「Nipol IR2200」、日本ゼオン社製、重量平均分子量:1,150,000、分子量分布:2.2)を表し、「TSK標準ポリスチレンF20」は、(ポリスチレン、商品名「TSK標準ポリスチレンF20」、東ソー社製、重量平均分子量:190,000、分子量分布:1.04)を表す。
【0110】
表3から、本発明の重合体組成物の製造方法によって得られる重合体組成物は、高い弾性率(引張弾性率)と小さい永久伸びとが高いレベルで両立され、しかも、成形安定性に優れる(350%時伸張粘度/100%時伸張粘度の値が大きい)ものであることが分かる。また、本発明の重合体組成物の製造方法によって得られる重合体組成物は、溶融押出成形により厚さ0.05mmという薄い伸縮性フィルムに成形する場合であっても、膜厚の均一性に優れる(膜厚の均一性の評価における標準偏差が小さい)ものであることが分かる(実施例1〜5)。一方、本発明で用いるブロック共重合体組成物と異なるブロック共重合組成物を用いると、得られる重合体組成物は、高い弾性率(引張弾性率)と小さい永久伸びとが両立されたものとならないことが分かる(比較例3〜5)。また、本発明で用いるブロック共重合体組成物と同様のブロック共重合組成物を用いる場合であっても、その他の重合体を配合を全く行わない場合(比較例6)や、重合体αのみを直接ブロック共重合体組成物に混合する場合(比較例3)は、成形安定性に劣り、薄い伸縮性フィルムに成形すると、膜厚の均一性に劣るものとなった。さらに、本発明で用いるブロック共重合体組成物と同様のブロック共重合体組成物に重合体溶融混合物を混合する場合であっても、用いる重合体αの重量平均分子量が300,000未満で、分子量分布が2.0未満である場合(比較例1)は、成形安定性に劣り、薄い伸縮性フィルムに成形すると、膜厚の均一性に劣るものとなった。以上より、本発明の重合体組成物の製造方法によれば、高い弾性率と小さい永久伸びとが高いレベルで両立され、さらには、高度な成形性が要求される場合においても、良好な成形性で成形することができる重合体組成物を与えることができるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が300,000〜6,000,000であり、分子量分布が2.0〜10.0である重合体αと、重量平均分子量が300,000未満である熱可塑性の重合体βとを溶融混合して、重合体溶融混合物を得て、次いで、当該重合体溶融混合物と、下記の一般式(A)で表されるブロック共重合体Aおよび下記の一般式(B)で表されるブロック共重合体Bからなり、全体としての重量平均分子量が300,000未満であるブロック共重合体組成物とを混合することにより重合体組成物を得る、重合体組成物の製造方法。
Ar1−D−Ar2 (A)
(Ar−D−X (B)
(一般式(A)および(B)において、Ar1およびArは、それぞれ、重量平均分子量が6000〜20,000の芳香族ビニル重合体ブロックであり、Ar2は、重量平均分子量が40,000〜400,000の芳香族ビニル重合体ブロックであり、DおよびDは、それぞれ、ビニル結合含有量が1〜20モル%の共役ジエン重合体ブロックであり、Xは単結合またはカップリング剤の残基であり、nは2以上の整数である。)
【請求項2】
重合体溶融混合物を得るために用いる重合体βが、上記の一般式(A)で表されるブロック共重合体Aおよび上記の一般式(B)で表されるブロック共重合体Bからなる、ブロック共重合体組成物である請求項1に記載の重合体組成物の製造方法。
【請求項3】
重合体溶融混合物を得るために用いる重合体βと、重合体溶融混合物が混合されるブロック共重合体組成物とが、実質的に同じ組成を有するものである請求項2に記載の重合体組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載された重合体組成物の製造方法により重合体組成物を製造し、当該重合体組成物を溶融押出成形によりフィルム状に成形する伸縮性フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−77158(P2012−77158A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222617(P2010−222617)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】