説明

重合反応制御方法及び重合反応制御装置

【課題】重合反応の終了までに滴下する溶剤の総滴下量が予め設定された目標量となるように外浴の温度を制御する重合反応制御方法及び重合反応制御装置を提供する。
【解決手段】重合反応の開始からtn(本実施形態では30分)が経過した際に、tn経過時点での溶剤の積算滴下量n[kg]を算出し(S12)、算出した積算滴下量nを予め事前実験を行うことにより求めた演算式(1)に代入することによって、外浴の温度の制御量ΔSVを算出し(S13)、算出したΔSVを設定温度に加算した温度により、それ以後の外浴の温度を設定する(S14)とことにより、反応終了までに滴下される溶剤の総滴下量を予め設定した目標値とするように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤等に使用されるポリマーを合成する際の重合反応を制御する重合反応制御方法及び重合反応制御装置であって、特に、重合反応の終了までに滴下する溶剤の総滴下量が予め設定された目標量となるように外浴の温度を制御する重合反応制御方法及び重合反応制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、粘着剤等に使用されるポリマーを合成する際には、攪拌槽内に予め投入したモノマーに開始剤を滴下してモノマー混合物を重合反応させることにより合成する。その際、重合反応の再現性を向上させるためには、重合温度(以下、内浴温度)について、目標温度からの差異を小さくすることが極めて重要である。
その為、重合反応に伴う重合発熱量を適宜除熱する必要があるが、以下に代表される2種類の方法を用いてそれを実施している。
(1)攪拌槽外側に設置した冷却ジャケットとの熱交換を行うことにより重合発熱量を除熱する方法(例えば、特開2004−256734号公報参照)。
操作パラメーター:外浴冷媒温度、攪拌翼回転数(熱伝達効率)
(2)重合温度より低温度の溶剤(あるいは分散媒)の系内への滴下を行うことにより重合発熱量を除熱する方法。
操作パラメーター:溶剤滴下量、滴下タイミング
【特許文献1】特開2004−256734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記2つの方法の内、制御を開始し、実際の除熱効果が現れるまでの遅れ時間が短い(温調レスポンスが高い)のは、(2)の低温溶剤滴下による方法である。
特に、重合が進んで液粘度が増加すると、内浴側の境膜が増大するので、(1)の方法では温調レスポンスが著しく低下し、内浴温度を好適に制御できなくなり、(2)の方法に基づく制御が重要となる。従って、特に高粘度となるような重合を行う場合には、外浴温度設定値及び攪拌速度設定値をあらかじめ決定した値で固定し、大まかに除熱をしておき、それでも除熱できない発熱分を溶剤滴下によって除熱する高精度な温度制御を実施することが必要となる。
【0004】
ここで、上記(2)の除熱方法における溶剤の具体的な滴下方法としては、更に以下の2つの方法がある。
(i)内浴温度の閾値を段階的に決定しておき、その各閾値を超えた場合に、定量の溶剤を反応系内に滴下する方法。
(ii)内浴温度、及び内浴温度変化率を関数とした、最適溶剤滴下量の算出式をあらかじめ実験などにより求めておき、算出された量の溶剤を反応系内に滴下する方法。
【0005】
上記(i)及び(ii)の方法を用いることによって、内浴温度を目標温度付近に好適に制御することが可能である。しかし、上記いずれの滴下方法をとったとしても、総滴下量にバラつきが生じ、この結果、得られるポリマーの物性(分子量)にバラつきが生じるという問題が生じていた。
【0006】
この溶剤総滴下量がポリマー分子量に影響を与える原因としては、溶剤そのものが重合反応の連鎖移動剤としての効果も持っていることや、滴下によりモノマー濃度を低下させる(分子量はモノマー濃度に依存)こと等が挙げられる。そして、実際に重合に用いた溶剤の総滴下量と生成されたポリマー分子量は、図10に示すような相関が得られることが分かっている。
従って、所望のポリマー物性を得るには、溶剤の総滴下量を常に一定範囲内に抑える必要がある。
しかし、実際の生産現場では、攪拌槽内の溶存酸素濃度のバラツキから、溶剤の総滴下量にバラツキが生じることとなっていた。即ち、溶存酸素濃度のバラツキから反応阻害効果が変化することによって、重合速度、発熱挙動、溶剤の総滴下量がそれぞれ変化し、その結果、ポリマー分子量が変化する。そして、ポリマー分子量の変化が所定の範囲を超えた場合には、異常ロットとなり、製品の歩留まり低下にも繋がるといったケースも起こる。
【0007】
そして、上記の攪拌槽内の溶存酸素濃度のバラツキには、以下の要因が考えられる。
窒素置換条件バラツキ、開始剤投入時の酸素混入、重合温度(反応液温度)バラツキ、各種モノマー中に含まれる禁止剤濃度バラツキ、その他不純物混入濃度バラツキ、滴下溶剤の温度、滴下溶剤内の溶存酸素濃度である。
これら要因が、重合速度を変化させる要因として働き、その結果、冷却のために滴下する溶剤の量が変化してしまう。
【0008】
そこで、上記問題に対する改善策としては、以下の2つの方法がある。
(I)上記に挙げた要因を全て反応に影響しないよう、すべての生産ロットにおいて、計測管理する方法。
(II)上記バラツキ発生要因が反応に影響したとしても、溶剤を一定の量及び間隔で滴下し続け、他制御因子にて、内浴温度を制御する方法。
【0009】
しかしながら、(I)の方法については、バッチ方式の生産設備では、複数台の設備が導入されているケースも多く、これらすべての生産設備において、上記要因を計測・制御することは非常に難しくコスト増に繋がり、非現実的である(計測機のメンテナンスを含める)。
一方、(II)の方法について、ここでの他制御因子とは、外浴温度設定値及び攪拌翼回転数の設定値が挙げられるが、冒頭に上げたように、これらは、時定数が大きく、詳細な温度制御ができない。
【0010】
本発明は前記従来における問題点を解消するためになされたものであり、重合途中の溶剤の積算滴下量により、各種バラツキ要因による反応への影響度を代替的に定量化し、更に、反応終了時の総滴下量を予測することにより、重合反応の再現性を向上させつつポリマーの物性(分子量)のバラつきを防止した重合反応制御方法及び重合反応制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため本願の請求項1に係る重合反応制御方法は、モノマー混合物を攪拌槽内に投入して重合反応によりポリマーを合成する過程で、攪拌槽の外浴温度を制御すると共に、溶剤を攪拌槽内に滴下することにより重合反応を制御する重合反応制御方法において、重合反応中における所定のタイミングで重合開始からの前記溶剤の積算滴下量を算出し、重合反応終了時までに予め設定された総滴下量の溶剤を滴下するように前記算出された溶剤の積算滴下量に基づいて外浴の温度を制御することを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に係る重合反応制御方法は、請求項1に記載の重合反応制御方法において、前記溶剤の積算滴下量に基づく外浴の温度の制御量を以下のようにして求める、異なる温度の複数種類の溶剤を用いて重合反応を行い、重合開始から所定時間後に外浴温度を変更し、前記用いた溶剤の種類毎に変更した外浴温度の温度差と重合反応終了までの総滴下量とをそれぞれ算出し、目標の総滴下量となる温度差と外浴温度の変更時点までの溶剤の積算滴下量との関係から外浴の温度の制御量を求めることを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に係る重合反応制御方法は、請求項1又は請求項2に記載の重合反応制御方法において、前記溶剤の積算滴下量を算出するタイミングを以下のようにして求める、異なる温度の複数種類の溶剤を用いて重合反応を行い、前記用いた溶剤の種類毎に重合開始から所定時間毎の前記溶剤の積算滴下量と重合反応終了までの総滴下量との相関を求め、前記相関が所定高さ以上で且つ重合開始から最も早いタイミングを前記溶剤の積算滴下量を算出するタイミングとして求めることを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に係る重合反応制御装置は、モノマー混合物を攪拌する攪拌槽と、前記攪拌槽の外浴の温度を制御する外浴温度制御手段と、溶剤を前記攪拌槽内に滴下する滴下手段と、を有し、モノマー混合物を攪拌槽内に投入して重合反応によりポリマーを合成する過程で、前記外浴温度制御手段により外浴温度を制御すると共に、前記滴下手段で溶剤を攪拌槽内に滴下することにより重合反応を制御する重合反応制御装置において、重合反応中における所定のタイミングで重合開始からの前記溶剤の積算滴下量を算出する滴下量算出手段を備え、前記外浴温度制御手段は重合反応終了時までに予め設定された総滴下量の溶剤を滴下するように前記滴下量算出手段で算出された溶剤の積算滴下量に基づいて外浴の温度を制御することを特徴とする。
【0015】
また、請求項5に係る重合反応制御装置は、請求項4に記載の重合反応制御装置において、前記外浴温度制御手段による溶剤の積算滴下量に基づく外浴の温度の制御量を以下のようにして求める、異なる温度の複数種類の溶剤を用いて重合反応を行い、重合開始から所定時間後に外浴温度を変更し、前記用いた溶剤の種類毎に変更した外浴温度の温度差と重合反応終了までの総滴下量とをそれぞれ算出し、目標の総滴下量となる温度差と外浴温度の変更時点までの溶剤の積算滴下量との関係から外浴の温度の制御量を求めることを特徴とする。
【0016】
更に、請求項6に係る重合反応制御装置は、請求項4又は請求項5に記載の重合反応制御装置において、前記滴下量算出手段による溶剤の積算滴下量を算出するタイミングを以下のようにして求める、異なる温度の複数種類の溶剤を用いて重合反応を行い、前記用いた溶剤の種類毎に重合開始から所定時間毎の前記溶剤の積算滴下量と重合反応終了までの総滴下量との相関を求め、前記相関が所定高さ以上で且つ重合開始から最も早いタイミングを前記溶剤の積算滴下量を算出するタイミングとして求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
前記構成を有する請求項1に係る重合反応制御方法では、重合反応中における所定のタイミングで重合開始からの溶剤の積算滴下量を算出し、重合反応終了時までに予め設定された総滴下量の溶剤を滴下するように算出された溶剤の積算滴下量に基づいて外浴の温度を制御するので、重合途中の溶剤の積算滴下量により、溶存酸素濃度等の各種バラツキ要因による反応への影響度を代替的に定量化し、更に、反応終了時の総滴下量を予測することにより、重合反応の再現性を向上させつつポリマーの物性(分子量)のバラつきを防止することができる。
【0018】
また、請求項2に係る重合反応制御方法では、異なる温度の複数種類の溶剤を用いて重合反応を行い、重合開始から所定時間後に外浴温度を変更し、用いた溶剤の種類毎に変更した外浴温度の温度差と重合反応終了までの総滴下量とをそれぞれ算出し、目標の総滴下量となる温度差と外浴温度の変更時点までの溶剤の積算滴下量との関係から外浴の温度の制御量を求めるので、外浴温度の制御を行うことにより溶剤の総滴下量を常に一定範囲内に抑えることができ、所望のポリマー物性を得ることが可能となる。
【0019】
また、請求項3に係る重合反応制御方法では、異なる温度の複数種類の溶剤を用いて重合反応を行い、用いた溶剤の種類毎に重合開始から所定時間毎の溶剤の積算滴下量と重合反応終了までの総滴下量との相関を求め、相関が所定高さ以上で且つ重合開始から最も早いタイミングを溶剤の積算滴下量を算出するタイミングとして求めるので、外浴温度の制御を行う際に外浴の温度設定幅を小さくでき、オーバーシュート等の制御による外乱の影響を小さくできる。
【0020】
また、請求項4に係る重合反応制御装置では、重合反応中における所定のタイミングで重合開始からの溶剤の積算滴下量を算出し、重合反応終了時までに予め設定された総滴下量の溶剤を滴下するように算出された溶剤の積算滴下量に基づいて外浴の温度を制御するので、重合途中の溶剤の積算滴下量により、溶存酸素濃度等の各種バラツキ要因による反応への影響度を代替的に定量化し、更に、反応終了時の総滴下量を予測することにより、重合反応の再現性を向上させつつポリマーの物性(分子量)のバラつきを防止することができる。
【0021】
また、請求項5に係る重合反応制御装置では、異なる温度の複数種類の溶剤を用いて重合反応を行い、重合開始から所定時間後に外浴温度を変更し、前記用いた溶剤の種類毎に変更した外浴温度の温度差と重合反応終了までの総滴下量とをそれぞれ算出し、目標の総滴下量となる温度差と外浴温度の変更時点までの溶剤の積算滴下量との関係から外浴の温度の制御量を求めるので、外浴温度の制御を行うことにより溶剤の総滴下量を常に一定範囲内に抑えることができ、所望のポリマー物性を得ることが可能となる。
【0022】
更に、請求項6に係る重合反応制御装置では、異なる温度の複数種類の溶剤を用いて重合反応を行い、用いた溶剤の種類毎に重合開始から所定時間毎の溶剤の積算滴下量と重合反応終了までの総滴下量との相関を求め、相関が所定高さ以上で且つ重合開始から最も早いタイミングを溶剤の積算滴下量を算出するタイミングとして求めるので、外浴温度の制御を行う際に外浴の温度設定幅を小さくでき、オーバーシュート等の制御による外乱の影響を小さくできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る重合反応制御方法及び重合反応制御装置について具体化した実施形態に基づき図面を参照しつつ詳細に説明する。先ず、本実施形態に係る重合反応制御装置1について図1に基づき説明する。図1は本実施形態に係る重合反応制御装置1の要部を示す概略側面図である。
【0024】
図1に示すように、本実施形態に係る重合反応制御装置1は、投入したモノマー混合物からポリマーを合成する攪拌機2と、攪拌機2を構成する攪拌槽3に溶剤(本実施形態では冷却水)を滴下する滴下槽4と、攪拌槽3の外浴温度、溶剤の滴下等を制御する制御部5と、種々の条件の入力設定や操作を行う操作部6から基本的に構成されている。
【0025】
以下、各構成について具体的に説明する。尚、滴下槽4は本発明の滴下手段に、制御部5は外浴温度制御手段、滴下量算出手段にそれぞれ相当する。
【0026】
攪拌機2は、底部が椀状をした攪拌槽3と、攪拌槽3の中心部の上方から片持ち支持された回転軸7と、回転軸7に取り付けられた攪拌翼8とから構成されている。この回転軸7は、図示しない回転駆動手段に連接されており、図中のY軸回りに回転する。また、攪拌槽3の外周には攪拌槽3内で行われる重合反応の重合温度(攪拌槽3内の内浴温度)を制御するための温度調節手段であるジャケット9が付設されている。
【0027】
また、攪拌槽3は上蓋10に対してコンデンサ11が立設されている。コンデンサ11は重合反応にともなって蒸発した水分を冷却して水に戻すとともに、攪拌槽3内に供給して不要となった窒素(N)を排出する。尚、窒素は、攪拌槽3の下部と上部に接続された配管を介して、その近傍に配備された図示しない窒素タンクから適時・適量供給される。また、底部には内浴の温度を検出する温度センサS1が取り付けられている。
【0028】
一方、ジャケット9は、温度調節用流体を供給・排出循環させるための配管R1が上・下部に連通接続されている。この配管R1のジャケット入口側(図1では下部)には熱交換器15が設けられている。熱交換器15は攪拌槽3内の温度を上昇させるために、配管R1に循環する水温を上昇させ、温水をジャケット9へと供給する。また、熱交換器15には、バルブV1を開放することにより蒸気が供給される配管R2が連通接続されている。更に、配管R1には、攪拌槽3を冷却するために配管R1を循環する温水または冷却水を排出するためのバルブV2が設けられているとともに、バルブV2を開放して温水などを排出したときに新たな冷却水を供給するための配管R3がバルブV3を介して配管R1に連通接続されている。
【0029】
また、温度調節用流体をジャケット9に供給する側の配管R1(図1ではジャケット9の下部近傍)には外浴の入口温度を検出する温度センサS2が設けられている。一方、排出する側(図1ではジャケット9の上部近傍)には外浴の出口温度を検出する温度センサS3と、ジャケット9を循環する循環水の流量を検出するジャケット循環水流量計F1とがそれぞれ設けられている。
【0030】
滴下槽4は、所定の温度および所定の溶存酸素濃度に調整された溶剤(本実施形態では冷却水)が蓄えられている。また、その外周には、溶剤の温度を一定に保持するジャケット21が付設されている。また、滴下槽4の内部には内浴の温度(冷却水の温度)を検出する温度センサS4が配置されている。そして、ジャケット21には、温度センサS4によって検出された冷却水の温度に基づいて、適時に設定変更された冷却水が循環する。尚、溶存酸素濃度については、滴下槽4から供給される過程で、酸素を供給してスタテックミキサなどで攪拌し、その濃度レベルを適時に調節してもよい。
【0031】
また、滴下槽4の上下部には配管が連通接続されており、それぞれの配管から窒素(N)が供給される。そして、滴下槽4に窒素を供給し滴下槽4内の酸素を排気管から排出する窒素置換を行う。
【0032】
更に、滴下槽4は、バルブV4を備えた配管R4を介して攪拌槽3と連通接続されている。そして、滴下槽4の溶剤は、後述する制御部5の制御によりバルブV4が開閉操作されることで攪拌槽3に所定量が滴下される。なお、配管R4には、攪拌槽3に供給される溶剤の滴下量を検出する溶剤流量計F2が取り付けられている。
【0033】
制御部5は攪拌槽3の外浴温度や溶剤の滴下を制御することによって重合反応制御装置1で行われる重合反応を制御する制御手段であり、回路基板上に配置され予め設定されたプログラムに従って制御動作を行うCPU、並びに記憶手段であるROMやRAM等を備える。また、制御部5にはポリマー合成条件に応じた外浴の温度の制御量及び制御タイミング、溶剤を攪拌槽3に滴下する量及びタイミング等の種々の設定条件が操作部6から予め入力設定されて、RAM等のメモリに記憶されている。そして、記憶された各種条件と各センサからの測定結果に基づいて後述のように外浴温度や溶剤の滴下を制御する。
【0034】
次に、上記構成を有する重合反応制御装置1の重合反応制御方法について説明する。
先ず、攪拌機2の攪拌槽3に予め用意したモノマー溶液を抽入する。また、滴下槽4に滴下用溶剤を抽入する。その後、ジャケット9及びジャケット21を循環させる温度調節用流体の温度を調整し、攪拌槽3及び滴下槽4の外浴の温度を目標温度(攪拌槽3を59℃、滴下槽4を15℃)に温調する。
次に、それぞれ任意の窒素流量にて、モノマー溶液や溶剤をバブリングして窒素置換を行う。規定の時間だけ窒素置換を実施後、液相部よりの窒素送入を止め、気相部よりの送入に切り替える。そして、内浴温度が安定していることを確認後、重合開始剤を投入する。
その後、攪拌槽3の外浴設定温度を59℃に固定した状態で待機し、内浴温度が上昇して重合反応が開始されたことを確認したと同時に制御部5による重合反応の制御を開始する。
重合反応の制御が開始されると、先ず、攪拌槽3の外浴温度を40℃に設定し、10分経過後に20℃に設定し、150分経過後から反応終了(180分経過)までは50℃に設定する。
一方で、攪拌槽3の内浴温度が60℃以上となると、バルブV4を開放し、滴下槽4からの溶剤の滴下を行う。ここで、溶剤の滴下は内浴温度が60℃未満となるまで、10kgの溶剤を120secかけて繰り返し滴下することにより行われる。
また、重合反応の開始から30分経過した際に、30分経過時点での溶剤の積算滴下量n[kg]を算出し、更に算出した積算滴下量nを予め事前実験を行うことにより求めた下記の演算式(1)に代入することによって外浴の温度の制御量(外浴の設定温度の補正量)ΔSVを算出する。
ΔSV[℃]=−0.285n×12.555・・・(1)
そして、算出したΔSVを設定温度に加算した温度により、それ以後の外浴の温度を設定する(例えば、ΔSV=2℃と算出された場合には、重合反応の開始から150分が経過するまでは現在の設定温度を2℃上昇させた22℃へと外浴温度を新たに設定し直し、150分経過後から反応終了までは52℃に設定する)。それによって、反応終了までに滴下される溶剤の総滴下量を予め設定した目標値とすることができる。
【0035】
続いて、前記構成を有する本実施形態に係る重合反応制御装置1の重合反応制御に係る各処理について図2及び図3に基づき説明する。図2は本実施形態に係る重合反応制御装置1の攪拌槽3の外浴温度制御プログラムのフローチャートである。図3は本実施形態に係る重合反応制御装置1の溶剤の滴下制御プログラムのフローチャートである。尚、攪拌槽3の外浴温度制御プログラムは、攪拌槽3内に重合開始剤が投入され、内浴温度が上昇して重合反応が開始されたことを確認したと同時に開始される。また、図2及び図3にフローチャートで示されるプログラムは、制御部5が備えているRAMやROMに記憶されており、CPUにより実行される。
【0036】
ここで、図2に示すように攪拌槽3の外浴温度制御プログラムのフローチャートは、2つのフローチャートによって基本的に構成される。一方は、重合反応の開始から所定時間の経過に伴って攪拌槽3の外浴の設定温度を変更する基本制御フローチャートであり、他方は、所定のタイミングでの溶剤の積算滴下量に基づいて、その後の外浴の設定温度に補正を加える設定温度補正制御フローチャートである。
【0037】
先ず、外浴温度制御プログラムでは、ステップ(以下、Sと略記する)1において制御部5は、重合反応開始からの経過時間を示すタイマTM1の計測を開始する。次に、S2で制御部5は、熱交換器15やバルブV1〜V3の開度を制御して攪拌槽3の外浴温度SVの設定温度をT1(℃)に設定する。ここで、本実施形態ではT1は基本的に40℃であるが、後述するS14の処理によって設定温度が補正された場合には補正された後の設定温度へと設定されることとなる。
【0038】
続いて、S3で制御部5はタイマTM1の示す重合反応開始からの経過時間がt1となったか否か判定される。尚、本実施形態では、t1は10分とする。そして、重合反応開始からの経過時間がt1となったと判定された場合(S3:YES)にはS4へと移行する。一方、重合反応開始からの経過時間がt1となっていないと判定された場合(S3:NO)には、t1を経過するまで待機する。
【0039】
S4で制御部5は、熱交換器15やバルブV1〜V3の開度を制御して攪拌槽3の外浴温度SVの設定温度をT2(℃)に設定する。ここで、本実施形態ではT2は基本的に20℃であるが、後述するS14の処理によって設定温度が補正された場合には補正された後の設定温度へと設定されることとなる。
【0040】
続いて、S5で制御部5はタイマTM1の示す重合反応開始からの経過時間がt2となったか否か判定される。尚、本実施形態では、t2は150分とする。そして、重合反応開始からの経過時間がt2となったと判定された場合(S5:YES)にはS6へと移行する。一方、重合反応開始からの経過時間がt2となっていないと判定された場合(S5:NO)には、t2を経過するまで待機する。
【0041】
S6で制御部5は、熱交換器15やバルブV1〜V3の開度を制御して攪拌槽3の外浴温度SVの設定温度をT3(℃)に設定する。ここで、本実施形態ではT3は基本的に50℃であるが、後述するS14の処理によって設定温度が補正された場合には補正された後の設定温度へと設定されることとなる。
【0042】
続いて、S7で制御部5はタイマTM1の示す重合反応開始からの経過時間が、重合反応の終了する180分となったか否か判定される。尚、本実施形態では重合反応が終了するまでの時間を180分としているが、その時間はポリマーの製造条件によって異なる。そして、重合反応開始からの経過時間が180分となったと判定された場合(S7:YES)には当該外浴温度制御プログラムを終了する。一方、重合反応開始からの経過時間が180分となっていないと判定された場合(S7:NO)には、180分を経過するまで待機する。
【0043】
また、外浴温度制御プログラムでは、S11において制御部5はタイマTM1の示す重合反応開始からの経過時間がtnとなったか否か判定される。尚、本実施形態ではtnは30分とするが、このtnの値は後述する事前実験によって求められるものである。そして、重合反応開始からの経過時間がtnとなったと判定された場合(S11:YES)にはS12へと移行する。一方、重合反応開始からの経過時間がtnとなっていないと判定された場合(S11:NO)には、tnを経過するまで待機する。
【0044】
S12で制御部5は、溶剤流量計F2の検出結果に基づいて、tn経過時点での滴下槽4からの溶剤の積算滴下量nを算出する。
【0045】
次に、S13で制御部5は、前記S12で算出した積算滴下量nを予め事前実験で求めた下記の演算式(1)に代入することによって外浴の温度の制御量(補正量)ΔSVを算出する。
ΔSV[℃]=−0.285n×12.555・・・(1)
【0046】
更に、S14で制御部5は、前記S13で算出したΔSVを設定温度に加算した温度により、それ以後の外浴の温度T1〜T3を補正する。例えば、本実施形態においてΔSV=2℃と算出された場合には、重合反応の開始から150分が経過するまでは現在の設定温度を2℃上昇させた22℃へと外浴温度を新たに設定し直し、前記S6では外浴温度を52℃に設定する。また、本実施形態においてΔSV=−1.5℃と算出された場合には、重合反応の開始から150分が経過するまでは現在の設定温度を1.5℃下降させた18.5℃へと外浴温度を新たに設定し直し、前記S6では外浴温度を48.5℃に設定する。このように外浴の設定温度を補正することによって、反応終了までに滴下される溶剤の総滴下量を予め設定した目標値とすることができる。
【0047】
続いて、図3に示す溶剤の滴下制御プログラムでは、先ずS21において制御部5は、温度センサS1により攪拌槽3の内浴温度を検出する。次に、S22で制御部5は前記S21で検出した内浴温度がT4(例えば60℃)以上であるか否か判定される。
【0048】
そして、内浴温度がT4以上であると判定された場合(S22:YES)にはS23へと移行し、バルブV4が開放されて溶剤の滴下が開始される。尚、溶剤の滴下はAkg(例えば10kg)の溶剤がその後にt3秒かけて滴下される。一方、内浴温度がT4未満であると判定された場合(S22:NO)には、S26へと移行する。
【0049】
その後、S24では制御部5は、溶剤の滴下開始からの経過時間を示すタイマTM2の計測を開始する。そして、S25で制御部5はタイマTM2の示す溶剤の滴下開始からの経過時間がt3となったか否か判定される。尚、本実施形態では、t3は120秒とする。そして、溶剤の滴下開始からの経過時間がt3となったと判定された場合(S25:YES)にはS26へと移行する。一方、溶剤の滴下開始からの経過時間がt3となっていないと判定された場合(S25:NO)には、t3を経過するまで待機する。
【0050】
次に、S26で制御部5はタイマTM1の示す重合反応開始からの経過時間が、重合反応の終了する180分を経過したか否か判定される。尚、本実施形態では重合反応が終了するまでの時間を180分としているが、その時間はポリマーの製造条件によって異なる。そして、重合反応開始からの経過時間が180分を経過したと判定された場合(S26:YES)には当該溶剤の滴下制御プログラムを終了する。一方、重合反応開始からの経過時間が180分を経過していないと判定された場合(S26:NO)にはS21へと戻り、再度、攪拌槽3の内浴温度の検出が行われる。
【0051】
続いて、上記S11で判定される溶剤の積算滴下量を算出するタイミングである反応開始時間からの経過時刻tnを求める為の事前実験1と、前記S13で外浴温度の制御量を算出する際に用いる上記(1)の演算式を求める為の事前実験2について説明する。
【0052】
〔事前実験1〕
事前実験1では、図1に示す重合反応制御装置1を用い、温度の異なる4種類の溶剤A〜D(溶剤A:15℃、溶剤B:20℃、溶剤C:25℃、溶剤D:30℃)を滴下することにより攪拌槽3の内浴温度を調整し、攪拌槽3内にあるモノマー混合物を重合反応させ、ポリマーを合成することにより行う。尚、攪拌槽3の外浴温度は既に説明したS1〜S7の処理(図2)に従って制御部5により制御される。また、溶剤の滴下は既に説明したS21〜S26の処理(図3)に従って制御部5により制御される。
【0053】
先ず、事前実験1を行うに際して、それぞれ任意の窒素流量にて、攪拌槽3をバブリングして窒素置換を行う。そして、窒素置換を4時間行った後、液相部よりの窒素送入を止め、気相部よりの送入に切り替える。そして、内浴温度が安定していることを確認後、重合開始剤を投入する。
そして、前記S1〜S7の処理(図2)に従って攪拌槽3の外浴温度を制御し、前記S21〜S26の処理(図3)に従って溶剤の滴下を制御する。図4は上記条件でポリマーの合成を行った結果、重合反応の開始から終了までの各時刻での溶剤の積算滴下量を、実験に用いた溶剤A〜D毎に示した図である。
【0054】
次に、重合時間10分毎に反応開始から30分までの溶剤の積算滴下量と最終の総滴下量とをプロットし、相関性が所定高さ以上(本実施形態では、決定係数Rが0.9以上)で、且つ重合反応の開始からの時間が最も早い時間を求める。図5は重合反応の開始から10分後の溶剤の積算滴下量とその後に反応終了まで要した総滴下量を、実験に用いた溶剤A〜D毎に示した図、図6は重合反応の開始から20分後の溶剤の積算滴下量とその後に反応終了まで要した総滴下量を、実験に用いた溶剤A〜D毎に示した図、図7は重合反応の開始から30分後の溶剤の積算滴下量とその後に反応終了まで要した総滴下量を、実験に用いた溶剤A〜D毎に示した図である。
【0055】
先ず、重合反応開始から10分経過時点での溶剤の積算滴下量と総滴下量の相関性について図5に基づいて求める。図5に示すように、各プロットに基づいて決定された回帰直線はy=12.92x+214.96となる。そして、実測データとの差異に基づいて算出された決定係数Rは0.37となる。
【0056】
次に、重合反応開始から20分経過時点での溶剤の積算滴下量と総滴下量の相関性について図6に基づいて求める。図6に示すように、各プロットに基づいて決定された回帰直線はy=9.90x+97.63となる。そして、実測データとの差異に基づいて算出された決定係数Rは0.83となる。
【0057】
更に、重合反応開始から30分経過時点での溶剤の積算滴下量と総滴下量の相関性について図7に基づいて求める。図7に示すように、各プロットに基づいて決定された回帰直線はy=5.39x+110.19となる。そして、実測データとの差異に基づいて算出された決定係数Rは0.91となる。
従って、相関性が所定高さ以上(本実施形態では、決定係数Rが0.9以上)で、且つ重合反応の開始からの時間が最も早い時間は、重合反応開始から30分経過時点であることが求められる。
【0058】
そして、求められた時刻(重合反応開始から30分経過時)を、上記S11で判定される溶剤の積算滴下量を算出するタイミングである反応開始時間からの経過時刻tnとする。また、このとき得られたポリマーの分子量を測定しておき、図10に示す溶剤の総滴下量とポリマー分子量の相関から、所望の分子量が得られる最適な溶剤の総滴下量を導出する。尚、本実施形態では最適な溶剤の総滴下量が350kgと導出されたとして、以下に事前実験2の説明を行う。
【0059】
〔事前実験2〕
事前実験2では、事前実験1と同様に図1に示す重合反応制御装置1を用い、温度の異なる4種類の溶剤A〜D(溶剤A:15℃、溶剤B:20℃、溶剤C:25℃、溶剤D:30℃)を滴下することにより攪拌槽3の内浴温度を調整し、攪拌槽3内にあるモノマー混合物を重合反応させ、ポリマーを合成することにより行う。尚、攪拌槽3の外浴温度は既に説明したS1〜S7の処理(図2)に従って制御部5により制御される。また、溶剤の滴下は既に説明したS21〜S26の処理(図3)に従って制御部5により制御される。
更に、事前実験2における攪拌槽3の外浴温度の制御については、事前実験1で求めたtnの時刻(重合反応開始から30分経過時)で、以降の攪拌槽3の外浴の設定温度を−4℃、−2℃、±0、+2℃、+4℃変更する。
ここで、図8は上記条件でポリマーの合成を行った結果、重合反応開始からtn(30分)経過時点での外浴温度変化量と重合反応の終了までに要した溶剤の総滴下量を、実験に用いた溶剤A〜D毎に示した図である。
【0060】
先ず、図8に基づいて溶剤Aを用いた場合の各プロットを参照し、回帰直線を求めると、y=19.5x+272.8となる。そして、回帰直線に基づいて最適な溶剤の総滴下量である350kgを滴下する為の外浴の温度変化を以下の演算式(2)で求める。
(350−272.8)/19.5=3.96[℃]・・・(2)
従って、溶剤Aを用いた場合にはtn経過時点で以降の外浴温度を3.96℃上昇させることにより、重合反応の終了までに要する溶剤の総滴下量を350kgとすることが可能であることが分かる。
【0061】
次に、図8に基づいて溶剤Bを用いた場合の各プロットを参照し、回帰直線を求めると、y=20.3x+311.0となる。そして、回帰直線に基づいて最適な溶剤の総滴下量である350kgを滴下する為の外浴の温度変化を以下の演算式(3)で求める。
(350−311.0)/20.3=1.92[℃]・・・(3)
従って、溶剤Bを用いた場合にはtn経過時点で以降の外浴温度を1.92℃上昇させることにより、重合反応の終了までに要する溶剤の総滴下量を350kgとすることが可能であることが分かる。
【0062】
次に、図8に基づいて溶剤Cを用いた場合の各プロットを参照し、回帰直線を求めると、y=26.3x+370.0となる。そして、回帰直線に基づいて最適な溶剤の総滴下量である350kgを滴下する為の外浴の温度変化を以下の演算式(4)で求める。
(350−370.0)/26.3=−0.76[℃]・・・(4)
従って、溶剤Cを用いた場合にはtn経過時点で以降の外浴温度を0.76℃下降させることにより、重合反応の終了までに要する溶剤の総滴下量を350kgとすることが可能であることが分かる。
【0063】
更に、図8に基づいて溶剤Dを用いた場合の各プロットを参照し、回帰直線を求めると、y=24.1x+397.3となる。そして、回帰直線に基づいて最適な溶剤の総滴下量である350kgを滴下する為の外浴の温度変化を以下の演算式(5)で求める。
(350−397.3)/24.1=−1.96[℃]・・・(5)
従って、溶剤Cを用いた場合にはtn経過時点で以降の外浴温度を1.96℃下降させることにより、重合反応の終了までに要する溶剤の総滴下量を350kgとすることが可能であることが分かる。
【0064】
次に、この最適な溶剤の総滴下量(350kg)となる外浴の温度制御量ΔSVとtn経過時(重合反応開始から30分経過時)での溶剤の積算滴下量をプロットする。図9は溶剤の総滴下量を350kgとする為の外浴の温度制御量ΔSVと重合反応開始から30分経過時での溶剤の積算滴下量を、実験に用いた溶剤A〜D毎に示した図である。
【0065】
ここで、図9に基づいて各溶剤A〜Dのプロットを参照し、回帰直線を求めると、y=−0.285x+12.555となる。この式が上記(1)の演算式に相当するものであり、重合反応開始からtn経過時点での積算滴下量を代入することにより、tn経過時点で行う外浴の温度制御量ΔSVを算出することが可能となる。
【0066】
従って、以上に説明した事前実験1により、図2のS11で判定される溶剤の積算滴下量を算出するタイミングである反応開始時間からの経過時刻tnが求まり、事前実験2により、S13で外浴温度の制御量を算出する際に用いる上記(1)の演算式が求まる。
【0067】
以上詳細に説明した通り、本実施形態に係る重合反応制御装置1及び重合反応制御方法では、重合開始剤が攪拌槽3に投入され、重合反応が開始されたことを確認したと同時に制御部5による重合反応の制御を開始する。重合反応の制御では、重合反応の開始からtn(本実施形態では30分)が経過した際に、tn経過時点での溶剤の積算滴下量n[kg]を算出し(S12)、更に算出した積算滴下量nを予め事前実験1、2を行うことにより求めた演算式(1)に代入することによって、外浴の温度の制御量ΔSVを算出する(S13)。そして、算出したΔSVを設定温度に加算した温度により、それ以後の外浴の温度を設定する(S14)とことにより、反応終了までに滴下される溶剤の総滴下量を予め設定した目標値とするので、重合途中の溶剤の積算滴下量により、溶存酸素濃度等の各種バラツキ要因による反応への影響度を代替的に定量化することができる。更に、反応終了時の総滴下量を予測することにより、重合反応の再現性を向上させつつポリマーの物性(分子量)のバラつきを防止することができる。
また、事前実験1、2では異なる温度の複数種類の溶剤A〜Dを用いて重合反応を行い、重合開始から所定時間後に外浴温度を変更し、用いた溶剤の種類毎に変更した外浴温度の温度差と重合反応終了までの総滴下量とをそれぞれ算出し、目標の総滴下量となる温度差と外浴温度の変更時点までの溶剤の積算滴下量との関係から外浴の温度の制御量を求める。それにより、外浴温度の制御を行うことにより溶剤の総滴下量を常に一定範囲内に抑えることができ、所望のポリマー物性を得ることが可能となる。
更に、事前実験1、2では異なる温度の複数種類の溶剤を用いて重合反応を行い、用いた溶剤の種類毎に重合開始から所定時間毎の溶剤の積算滴下量と重合反応終了までの総滴下量との相関を求め、相関が所定高さ以上で且つ重合開始から最も早いタイミングを溶剤の積算滴下量を算出するタイミングとして求める。それにより、外浴温度の制御を行う際に外浴の温度設定幅を小さくでき、オーバーシュート等の制御による外乱の影響を小さくできる。
【0068】
尚、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
例えば、本実施形態では事前実験1で溶剤の積算滴下量を算出するタイミングを求める際に、溶剤の積算滴下量と総滴下量の相関性を示す決定係数Rが0.9以上であることを条件としたが、決定係数Rが0.8以上であることを条件としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本実施形態に係る重合反応制御装置の要部を示す概略側面図である。
【図2】本実施形態に係る重合反応制御装置の攪拌槽の外浴温度制御プログラムのフローチャートである。
【図3】本実施形態に係る重合反応制御装置の溶剤の滴下制御プログラムのフローチャートである。
【図4】事前実験1で重合反応の開始から終了までの各時刻での溶剤の積算滴下量を、実験に用いた溶剤A〜D毎に示した図である。
【図5】事前実験1で重合反応の開始から10分後の溶剤の積算滴下量とその後に反応終了まで要した総滴下量を、実験に用いた溶剤A〜D毎に示した図である。
【図6】事前実験1で重合反応の開始から20分後の溶剤の積算滴下量とその後に反応終了まで要した総滴下量を、実験に用いた溶剤A〜D毎に示した図である。
【図7】事前実験1で重合反応の開始から30分後の溶剤の積算滴下量とその後に反応終了まで要した総滴下量を、実験に用いた溶剤A〜D毎に示した図である。
【図8】事前実験2で重合反応開始から30分経過時点での外浴温度変化と重合反応の終了までに要した溶剤の総滴下量を、実験に用いた溶剤A〜D毎に示した図である。
【図9】事前実験2で溶剤の総滴下量を350kgとする為の外浴の温度変化ΔSVと重合反応開始から30分経過時での溶剤の積算滴下量を、実験に用いた溶剤A〜D毎に示した図である。
【図10】重合に用いた溶剤の総滴下量と生成されたポリマー分子量の相関を示した図である。
【符号の説明】
【0070】
1 重合反応制御装置
2 攪拌機
3 攪拌槽
4 滴下槽
5 制御部
9 ジャケット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマー混合物を攪拌槽内に投入して重合反応によりポリマーを合成する過程で、攪拌槽の外浴温度を制御すると共に、溶剤を攪拌槽内に滴下することにより重合反応を制御する重合反応制御方法において、
重合反応中における所定のタイミングで重合開始からの前記溶剤の積算滴下量を算出し、
重合反応終了時までに予め設定された総滴下量の溶剤を滴下するように前記算出された溶剤の積算滴下量に基づいて外浴の温度を制御することを特徴とする重合反応制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の重合反応制御方法において、
前記溶剤の積算滴下量に基づく外浴の温度の制御量を以下のようにして求める、
異なる温度の複数種類の溶剤を用いて重合反応を行い、重合開始から所定時間後に外浴温度を変更し、前記用いた溶剤の種類毎に変更した外浴温度の温度差と重合反応終了までの総滴下量とをそれぞれ算出し、
目標の総滴下量となる温度差と外浴温度の変更時点までの溶剤の積算滴下量との関係から外浴の温度の制御量を求めることを特徴とする重合反応制御方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の重合反応制御方法において、
前記溶剤の積算滴下量を算出するタイミングを以下のようにして求める、
異なる温度の複数種類の溶剤を用いて重合反応を行い、前記用いた溶剤の種類毎に重合開始から所定時間毎の前記溶剤の積算滴下量と重合反応終了までの総滴下量との相関を求め、
前記相関が所定高さ以上で且つ重合開始から最も早いタイミングを前記溶剤の積算滴下量を算出するタイミングとして求めることを特徴とする重合反応制御方法。
【請求項4】
モノマー混合物を攪拌する攪拌槽と、
前記攪拌槽の外浴の温度を制御する外浴温度制御手段と、
溶剤を前記攪拌槽内に滴下する滴下手段と、を有し、
モノマー混合物を攪拌槽内に投入して重合反応によりポリマーを合成する過程で、前記外浴温度制御手段により外浴温度を制御すると共に、前記滴下手段で溶剤を攪拌槽内に滴下することにより重合反応を制御する重合反応制御装置において、
重合反応中における所定のタイミングで重合開始からの前記溶剤の積算滴下量を算出する滴下量算出手段を備え、
前記外浴温度制御手段は重合反応終了時までに予め設定された総滴下量の溶剤を滴下するように前記滴下量算出手段で算出された溶剤の積算滴下量に基づいて外浴の温度を制御することを特徴とする重合反応制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の重合反応制御装置において、
前記外浴温度制御手段による溶剤の積算滴下量に基づく外浴の温度の制御量を以下のようにして求める、
異なる温度の複数種類の溶剤を用いて重合反応を行い、重合開始から所定時間後に外浴温度を変更し、前記用いた溶剤の種類毎に変更した外浴温度の温度差と重合反応終了までの総滴下量とをそれぞれ算出し、
目標の総滴下量となる温度差と外浴温度の変更時点までの溶剤の積算滴下量との関係から外浴の温度の制御量を求めることを特徴とする重合反応制御装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の重合反応制御装置において、
前記滴下量算出手段による溶剤の積算滴下量を算出するタイミングを以下のようにして求める、
異なる温度の複数種類の溶剤を用いて重合反応を行い、前記用いた溶剤の種類毎に重合開始から所定時間毎の前記溶剤の積算滴下量と重合反応終了までの総滴下量との相関を求め、
前記相関が所定高さ以上で且つ重合開始から最も早いタイミングを前記溶剤の積算滴下量を算出するタイミングとして求めることを特徴とする重合反応制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−231150(P2008−231150A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68580(P2007−68580)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】