説明

重合性組成物及び樹脂成形体

【課題】
固体粉体の分散性に優れ、粘度が低く、重合反応率が高い重合性組成物、及びこの重合性組成物を用いて得られる樹脂成形体を提供する。
【解決手段】
塊状重合可能なモノマー、重合触媒、及び、表面処理された固体粉体を含有する重合性組成物であって、前記表面処理された固体粉体が、固体粉体を、加水分解助剤の非存在下、テトラアルコキシシラン化合物からなる第1表面処理剤と接触させる処理工程I、及び、処理工程Iで得られた固体粉体を、加水分解助剤の存在下、下記式(I)
【化1】


(式中、R、Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。nは2、3又は4を表す。)で示されるシラン化合物からなる第2表面処理剤と接触させる処理工程IIを含む方法により、表面処理されたものであることを特徴とする重合性組成物、並びに、この重合性組成物を塊状重合して得られる樹脂成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体粉体の分散性に優れ、粘度が低く、重合反応率が高い重合性組成物、及びこの重合性組成物を用いて得られる樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形体を製造する方法として、塊状重合可能なモノマーを含有する重合性組成物を塊状重合する方法が知られている。そして、この技術を利用して、高密度の多層プリント配線板等に用いられる樹脂成形体を製造することが行われている。
また、このような樹脂成形体を製造する際に、難燃化、低線膨張化、機械的強度の向上等を目的として、無機フィラー等の固体粉体を添加することも行われている。
さらに、固体粉体の分散性を向上させたり、固体粉体に各種特性を付与するために、シランカップリング剤等の表面処理剤を用いて固体粉体の表面処理を行うことも行われている。
【0003】
シランカップリング剤を用いて固体粉体の表面を処理する方法としては、加水分解助剤を用いる方法が知られている。
例えば、特許文献1には、特定の粒子径を有する無機粒子を溶媒中に分散させ、次いで、加水分解助剤の存在下でシランカップリング剤を加水分解した溶液と、該無機粒子の分散液とを混合した後、噴霧乾燥する無機粒子の表面処理方法が記載されている。この表面処理方法においては、加水分解助剤によって溶媒のpH値を調節し、シランカップリング剤の加水分解を促進させて、目的の表面処理を行っている。
【0004】
しかしながら、加水分解助剤を用いる固体粉体の表面処理方法により処理された固体粉体を重合性組成物に添加すると、重合性組成物の粘度を上昇させることがあった。重合性組成物の粘度が上昇すると、均一に塊状重合させることができなくなるため、高分子量の樹脂成形体が得られにくいという問題や、樹脂成形体中に未反応モノマーが残留し、保存安定性が劣るという問題が生じることになる。
また、樹脂成形体の用途によっては固体粉体を多量に含有させる必要があるが、このような場合には、従来以上に固体粉体の分散性を向上させる必要があった。
このように、加水分解助剤を用いて固体粉体を表面処理する方法においては、固体粉体の使用態様によっては多くの問題があり、さらなる改良が必要な状況にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−36705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来技術に鑑みてなされたものであり、固体粉体の分散性に優れ、粘度が低く、重合反応率が高い重合性組成物、及びこの重合性組成物を用いて得られる樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく、塊状重合可能なモノマー、重合触媒及び固体粉体を含有する重合性組成物について鋭意検討した結果、固体粉体として、テトラアルコキシシラン化合物を用いて表面処理した後に、特定のシラン化合物と酸を用いて表面処理を行って得られた固体粉体を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに到った。
かくして本発明によれば、下記(1)〜(10)の重合性組成物、(11)の樹脂成形体が提供される。
【0008】
(1)塊状重合可能なモノマー、重合触媒、及び、表面処理された固体粉体を含有する重合性組成物であって、
前記表面処理された固体粉体が、以下の処理工程I及び処理工程IIを含む方法により表面処理されたものであることを特徴とする重合性組成物。
処理工程I:固体粉体を、加水分解助剤の非存在下、テトラアルコキシシラン化合物からなる第1表面処理剤と接触させる工程
処理工程II:処理工程Iで得られた固体粉体を、加水分解助剤の存在下、下記式(I)
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R、Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。nは2、3又は4を表す。)
で示されるシラン化合物からなる第2表面処理剤と接触させる工程
【0011】
(2)処理工程IIが、処理工程Iで得た固体粉体を、第2表面処理剤と加水分解助剤との混合物(Y)と接触させる工程である、(1)に記載の重合性組成物。
(3)処理工程I及び処理工程IIが、いずれも乾式法によって行われるものである、(1)又は(2)に記載の重合性組成物。
(4)処理工程IIにおいて用いられる加水分解助剤が、塩酸、酢酸、硫酸及び硝酸から選択される酸である、(1)〜(3)のいずれかに記載の重合性組成物。
【0012】
(5)加水分解助剤の使用量が、第2表面処理剤100重量部に対して4〜8重量部である、(1)〜(4)のいずれかに記載の重合性組成物。
(6)前記R及び/又はRの置換基を有していてもよい炭化水素基が、炭素数1〜30のアルキル基である、(1)〜(5)のいずれかに記載の重合性組成物。
(7)前記R及びRが、炭素−炭素二重結合を有する炭化水素基である、(1)〜(6)のいずれかに記載の重合性組成物。
【0013】
(8)前記固体粉体が、金属酸化物、金属水酸化物、又は金属酸化物の塩である、(1)〜(7)のいずれかに記載の重合性組成物。
(9)前記塊状重合可能なモノマーが、シクロオレフィンモノマーである、(1)〜(8)のいずれかに記載の重合性組成物。
(10)処理工程Iにおける処理温度が、処理工程IIの処理温度より低い温度である、(1)〜(9)のいずれかに記載の重合性組成物。
(11)(1)〜(10)のいずれかに記載の重合性組成物を塊状重合して得られる樹脂成形体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、固体粉体の分散性に優れ、粘度が低く、重合反応率が高い重合性組成物を得ることができる。
また、本発明の重合性組成物は重合反応率が高いものであるため、本発明の重合性組成物を塊状重合することで、残留モノマーが少なく、保存安定性に優れ、高分子量の樹脂成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1)重合性組成物
本発明の重合性組成物は、塊状重合可能なモノマー、重合触媒、及び表面処理された固体粉体を含有する。
【0016】
(塊状重合可能なモノマー)
本発明の重合性組成物は、塊状重合可能なモノマーを含有する。塊状重合可能なモノマーとしては、塊状重合可能なものであれば特に制限されない。例えば、シクロオレフィン系モノマー、スチレン系モノマー、アクリレート系モノマー、エポキシ系モノマー等が挙げられる。これらの中でも、誘電損失が低い樹脂成形体を得ることができることから、シクロオレフィン系モノマーやスチレン系モノマーが好ましく、シクロオレフィン系モノマーがより好ましい。
【0017】
(シクロオレフィン系モノマー)
シクロオレフィン系モノマーは、炭素原子で形成される環構造を有し、該環中に炭素−炭素二重結合を有し、該炭素−炭素二重結合がメタセシス反応によって開環重合して重合体を生成し得る化合物である。
シクロオレフィン系モノマーとしては、ノルボルネン系モノマーや単環シクロオレフィンが挙げられ、なかでも、ノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0018】
ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環を含むモノマーである。ノルボルネン系モノマーに含まれる環の数は、3〜6であるものが好ましく、3又は4であるものがより好ましく、4であるものが特に好ましい。
【0019】
ノルボルネン系モノマーとしては、ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、テトラシクロドデセン類等が挙げられる。これらは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、アリール基等の炭化水素基や、カルボキシル基又は酸無水物基等の極性基を置換基として有していてもよい。また、ノルボルネン環の二重結合以外に、さらに別の二重結合を有していてもよい。
【0020】
また、ノルボルネン系モノマーは、極性基を含むノルボルネン系モノマー、極性基を含まないノルボルネン系モノマーに分けることができる。なかでも、誘電損失がより低い樹脂成形体を得ることができることから、極性基を含まないノルボルネン系モノマー、すなわち炭素原子と水素原子のみで構成されるノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0021】
極性基を含まないノルボルネン系モノマーとしては、2−ノルボルネン、5−シクロヘキシル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレンともいう。)、テトラシクロ[10.2.1.02,11.04,9]ペンタデカ−4,6,8,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9,9a,10−ヘキサヒドロアントラセンともいう。)等のノルボルネン類;
5−シクロペンチル−2−ノルボルネン、5−シクロヘキセニル−2−ノルボルネン、5−シクロペンテニル−2−ノルボルネン等の環の数が3であるノルボルネン類;
ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエン(トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エンとも言う。)等の環の数が3であるジシクロペンタジエン類;
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−ビニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−フェニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン等のテトラシクロドデセン類;等が挙げられる。
【0022】
極性基を含むノルボルネン系モノマーとしては、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸無水物、5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、5−ノルボルネン−2−オール、5−ノルボルネン−2−カルボニトリル、7−オキサ−2−ノルボルネン等の極性基を含むノルボルネン系モノマー;等が挙げられる。
【0023】
単環シクロオレフィンとしては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5−シクロオクタジエン等の単環シクロオレフィン及び置換基を有するそれらの誘導体が挙げられる。かかる誘導体における置換基としては、先にノルボルネン系モノマーで説明したものを挙げることができる。
【0024】
本発明において、これらのシクロオレフィンモノマーは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上のモノマーを併用し、その混合比を変化させることで、得られる樹脂成形体のガラス転移温度や溶融温度を自由に制御することが可能である。
単環シクロオレフィン及びそれらの誘導体の量は、シクロオレフィンモノマーの全量中、好ましくは40重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。40重量%を超えると、樹脂成形体の耐熱性が不十分となる傾向がある。
【0025】
(スチレン系モノマー)
スチレン系モノマーは、芳香族環と、これと結合するビニル基又はイソプロペニル基とを有する化合物である。
スチレン系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、p−t−ブチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられ、なかでも、スチレンが好ましい。また、スチレン系モノマーとして、o−ジビニルベンゼン、p−ジビニルベンゼン及びm−ジビニルベンゼン等の、2以上のビニル基又はイソプロペニル基を有する化合物を用いることもできる。かかる化合物を用いると、得られる樹脂成形体の架橋反応性を高くでき、また成形体の架橋密度を高くできるので好ましい。
本発明において、これらのスチレン系モノマーは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
(重合触媒)
本発明の重合性組成物は、重合触媒を含有する。かかる重合触媒は、上記の塊状重合可能なモノマー及び重合反応形態に応じて適宜選択することができる。
例えば、本発明において好適に用いられるシクロオレフィンモノマーを開環重合する場合、メタセシス重合触媒が好適に用いられる。
【0027】
(メタセシス重合触媒)
シクロオレフィンモノマーを塊状重合する場合には、重合触媒として、メタセシス重合触媒が好ましく用いられる。
メタセシス重合触媒としては、前記シクロオレフィンモノマーをメタセシス開環重合可能である、通常、遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオン、及び化合物などが結合してなる錯体が挙げられる。遷移金属原子としては、5族、6族及び8族(長周期型周期表による。以下、同じ。)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、5族の原子としては、例えば、タンタルが挙げられ、6族の原子としては、例えば、モリブデンやタングステンが挙げられ、8族の原子としては、例えば、ルテニウムやオスミウムが挙げられる。
【0028】
遷移金属原子としては中でも、8族のルテニウムやオスミウムが好ましい。すなわち、本発明に使用されるメタセシス重合触媒としては、ルテニウム又はオスミウムを中心原子とする錯体が好ましく、ルテニウムを中心原子とする錯体がより好ましい。ルテニウムを中心原子とする錯体としては、カルベン化合物がルテニウムに配位してなるルテニウムカルベン錯体が好ましい。ここで、「カルベン化合物」とは、メチレン遊離基を有する化合物の総称であり、(>C:)で表されるような電荷のない2価の炭素原子(カルベン炭素)を持つ化合物をいう。
【0029】
ルテニウムカルベン錯体は、塊状重合時の触媒活性に優れるため、本発明の重合性組成物を塊状重合に供して樹脂成形体を得る場合、得られる樹脂成形体には未反応のモノマーに由来する臭気が少なく、生産性良く良質な樹脂成形体が得られる。また、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でも使用可能である。
【0030】
前記ルテニウムカルベン錯体としては、得られる樹脂成形体の機械強度と耐衝撃性とが高度にバランスされることから、ヘテロ環構造を有するカルベン化合物を配位子として少なくとも1つ有するものが好ましい。ヘテロ環構造を構成するヘテロ原子としては、例えば、酸素原子や窒素原子等が挙げられ、好ましくは窒素原子である。また、ヘテロ環構造としては、イミダゾリン環構造又はイミダゾリジン環構造が好ましい。かかるヘテロ環構造を有する化合物の具体例としては、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン、N,N,N’,N’−テトライソプロピルホルムアミジニリデン、1,3−ジメシチルイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、及び1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
【0031】
本発明においてメタセシス重合触媒として使用される、好適なルテニウムカルベン錯体の具体例としては、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、及びベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリドなどの、配位子として、ヘテロ環構造を有するカルベン化合物と、当該カルベン化合物以外の中性の電子供与体とを有するルテニウムカルベン錯体が挙げられる。ここで「中性の電子供与体」とは、中心原子から引き離されたときに中性の電荷を持つ配位子をいう。
【0032】
前記メタセシス重合触媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。メタセシス重合触媒の使用量は、モル比(メタセシス重合触媒中の金属原子:シクロオレフィンモノマー)で、通常、1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
【0033】
メタセシス重合触媒は所望により、少量の不活性溶媒に溶解又は懸濁して使用することができる。かかる溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、流動パラフィン、及びミネラルスピリットなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、及びシクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、及びキシレンなどの芳香族炭化水素;インデンやテトラヒドロナフタレンなどの脂環と芳香環とを有する炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、及びアセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエーテルやテトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素;などが挙げられる。これらの中では、鎖状脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、及び脂環と芳香環とを有する炭化水素の使用が好ましい。
【0034】
(表面処理された固体粉体)
本発明の重合性組成物は、以下の処理工程I及び処理工程IIを含む方法により表面処理された固体粉体を含有する。
処理工程I:固体粉体を、加水分解助剤の非存在下、テトラアルコキシシラン化合物からなる第1表面処理剤と接触させる工程
処理工程II:処理工程Iで得られた固体粉体を、加水分解助剤の存在下、下記式(I)
【0035】
【化2】

【0036】
(式中、R、Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。nは2、3又は4を表す。)
で示されるシラン化合物からなる第2表面処理剤と接触させる工程
【0037】
(固体粉体)
本発明に用いる固体粉体は、その形状、粒子径等は特に制限されず、また、塊状重合可能なモノマーからなる液や、必要に応じて使用される溶剤に不溶の固体粉体であれば、その材質等も特に制限されない。固体粉体の形状、粒子径、材質等は、樹脂成形体の用途等に応じて適宜選択することができる。
【0038】
固体粉体の形状としては、球状、粒状、不定形状、樹枝状、針状、棒状、扁平状等が挙げられる。
固体粉体の平均粒子径は、レーザー散乱回折式粒度分布計で測定した全粒子の50体積%が含まれるメディアン径で、通常0.001〜70μm、好ましくは0.01〜50μm、より好ましくは0.05〜15μm、最も好ましくは、0.1〜5μmである。この範囲内であれば、成形処理工程等において取扱いが容易である。
【0039】
固体粉体としては、無機物の固体粉体、有機物の固体粉体のいずれも用いることができる。
無機物の固体粉体としては、鉄、銅、ニッケル、金、銀、アルミニウム、鉛、タングステン等の金属;カーボンブラック、グラファイト、活性炭、炭素バルーン等の炭素;ガラス、シリカ、シリカバルーン等の非金属の酸化物;アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化すず、酸化アンチモン、酸化ベリリウム、酸化タングステン、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、BaTiO、BaPbO、MgTiO、CaTiO、SrTiO、NaNbO、KNbO、NaTaO、KTaO、LiTaO、LiNbO、ロッシェル塩、等の金属酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム等の無機炭酸塩;硫酸カルシウム等の無機硫酸塩;タルク、クレー、マイカ、カオリン、フライアッシュ、モンモリロナイト、ケイ酸カルシウム、ガラス、ガラスバルーン等の無機ケイ酸塩;チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛等の金属酸化物の塩;窒化アルミニウム;炭化ケイ素;ウィスカー;等が挙げられる。
これらの中でも、金属酸化物、金属水酸化物、金属酸化物の塩がより好ましい
【0040】
有機物の固体粉体としては、木粉、デンプン、有機顔料、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、塩化ビニル、各種エラストマー、廃プラスチック等が挙げられる。
【0041】
また、これらの他、チョップドストランド、ミルドファイバー等の短繊維状の固体粉体を用いることもできる。繊維の種類としては、ガラス繊維、カーボン繊維、金属繊維等の無機繊維あるいはアラミド繊維、ナイロン繊維、ジュート繊維、ケナフ繊維、竹繊維、ポリエチレン繊維、延伸ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、延伸ポリプロピレン繊維等の有機繊維が挙げられる。
【0042】
(処理工程I)
処理工程Iは、固体粉体を、加水分解助剤の非存在下、テトラアルコキシシラン化合物からなる第1表面処理剤と接触させる工程である。
【0043】
処理工程Iは、固体粉体を、加水分解助剤の非存在下に、第1表面処理剤と接触させることが重要である。酸等の加水分解助剤の存在下に、第1表面処理剤を用いて固体粉体の表面処理を行うと、得られた固体粉体を含有する重合性組成物の粘度が高くなり、目的の重合性組成物が得られない。すなわち、加水分解助剤が存在しないことで、第1表面処理剤同士の加水分解縮合反応が抑制され、第1表面処理剤が固体粉体表面に接触しやすい条件になることが考えられる。ここで、「加水分解助剤の非存在下」とは、加水分解助剤が実質的に存在しないことを意味しており、加水分解助剤が全く存在しない状況に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲において加水分解助剤が存在する状況を含んで解釈することを妨げるものではない。
【0044】
処理工程Iにおいて、固体粉体を、加水分解助剤の非存在下、第1表面処理剤と接触させる方法としては、(a)固体粉体を第1表面処理剤のみと接触させる方法、(b)固体粉体を、第1表面処理剤と所望により任意に用いられる他の成分との混合物(X)と接触させる方法が挙げられ、(b)の方法が好ましい。
(b)の方法に用いる他の成分としては、第1表面処理剤に対し不活性な溶媒、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒が挙げられる。
【0045】
処理工程Iで用いるテトラアルコキシシラン化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラフェノキシシラン等が挙げられる。これらの中でも、加水分解及び縮合の反応性が優れるため、テトラエトキシシランが好ましい。
これらのテトラアルコキシシラン化合物は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
処理工程Iにおいて、固体粉体を、加水分解助剤の非存在下、第1表面処理剤又は混合物(X)と接触させる方法として、具体的には、第1表面処理剤又は混合物(X)を直接固体粉体表面と接触させる乾式法や、固体粉体を溶媒中に分散させた状態で、第1表面処理剤又は混合物(X)を固体粉体表面と接触させる湿式法が挙げられ、生産性等の観点から、処理工程Iは乾式法で行うことが好ましい。第1表面処理剤又は混合物(X)と固体粉体表面との接触は、それらを合わせて撹拌、混合することにより行うことができる。
【0047】
本来、乾式法は処理工程が簡単で、生産性に優れる方法であるが、高精度の表面処理には向いていない方法である。しかしながら、本発明においては、処理工程I及び処理工程IIを含む方法により表面処理を行うことで、乾式法を採用する場合であっても目的の表面処理効果を得ることができる。
【0048】
乾式法で表面処理する場合、第1表面処理剤の使用量は、表面処理される前の固体粉体100重量部に対し、好ましくは0.1〜20重量部、さらに好ましくは0.5〜5重量部程度である。
【0049】
処理工程Iにおける処理温度は、後述する処理工程IIの処理温度より低いことが好ましく、通常、10〜100℃であり、好ましくは30〜50℃である。処理工程IIの処理温度より低い温度で処理することにより、第1表面処理剤同士の加水分解縮合反応が過剰に促進されず、第2表面処理剤と反応しやすくなる。
さらに、第1表面処理剤の変質を防ぐため不活性雰囲気で、第1表面処理剤と固体粉体との混合物を攪拌することが好ましい。
処理工程Iにおける処理時間は特に限定はされず、通常5〜60分、好ましくは15〜30分である。
以上の条件下で処理工程Iの表面処理を行うことにより、第1表面処理剤が固体粉体に接触しやすくなる。
【0050】
(処理工程II)
処理工程IIは、処理工程Iで得た固体粉体を、加水分解助剤の存在下、前記式(I)で表されるシラン化合物からなる第2表面処理剤と接触させる工程である。
【0051】
処理工程IIにおいては、前記式(I)で示されるシラン化合物を用いる。
式(I)中、R、Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。
【0052】
前記R、Rの、置換基を有していてもよい炭化水素基の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基等の炭素数1〜30のアルキル基;ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基等の炭素数2〜30のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基等の炭素数2〜30のアルキニル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等の炭素数3〜10のシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等の炭素数6〜30の芳香族炭化水素基;等が挙げられる。
【0053】
前記R、Rの、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、及び炭素数2〜30のアルキニル基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;ハロゲン原子、アルコキシ基、ニトロ基等の置換基を有していてもよいフェニル基;ニトロ基;などが挙げられる。
前記R、Rの、炭素数3〜10のシクロアルキル基、及び炭素数6〜30の芳香族炭化水素基の置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基、プロペニル基等のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;ハロゲン原子、アルコキシ基、ニトロ基等の置換基を有していてもよいフェニル基;ニトロ基等が挙げられる。
前記R、Rの炭化水素基は、任意の位置にこれらの置換基を有していてもよく、同一又は相異なる複数の置換基を有していてもよい。
【0054】
これらの中でも、前記R、Rの置換基を有していてもよい炭化水素基としては、炭素数1〜30のアルキル基;炭素数2〜30のアルケニル基;アルケニル基を置換基として有する、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基、アラルキル基;が好ましい。
これら中でも、ビニル基、アリル基及びブテニル基等のアルケニル基;4−ビニルフェニル基(p−スチリル基);等の炭素−炭素二重結合を有する炭化水素基がより好ましい。
【0055】
前記R、Rの置換基を有していてもよい炭化水素基が炭素数1〜30のアルキル基である、式(I)で示されるシラン化合物を用いることで、粘度が低く、固体粉体の分散性に優れる重合性組成物を得ることができる。前記R、Rの炭素数1〜30のアルキル基は直鎖状でも分岐鎖を有していてもよいが、濡れ性が高く、重合性組成物の粘度を低下させる効果が高いので直鎖状であることが好ましい。
【0056】
及びRが炭素−炭素二重結合を有する炭化水素基である式(I)で示されるシラン化合物を用いることで、樹脂成形体を架橋反応させる場合、シラン化合物が架橋反応に加わることができ、架橋性、耐熱強度、電気的信頼性に優れる樹脂成形体を得ることができる。
前記式(I)中、nは2、3又は4を表し、3が好ましい。
【0057】
式(I)で表されるシラン化合物の具体例としては、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、等のRがアルキル基であるシラン化合物;アリルトリメトキシシラン、3−ブテニルトリメトキシシラン、4−ビニルフェニルトリメトキシシラン(p−スチリルトリメトキシシラン)、4−ビニルフェニルトリエトキシシラン(p−スチリルトリエトキシシラン)、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のRが炭素−炭素二重結合を有する炭化水素基であるシラン化合物;が挙げられる。
【0058】
式(I)で表されるシラン化合物は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
特に、式(I)で表されるシラン化合物として、Rが炭素数5〜30のアルキル基であるシラン化合物と、Rが炭素−炭素二重結合を有する炭化水素基であるシラン化合物とを組み合わせて用いると、重合性組成物の粘度を低くすることができ、かつ、得られる樹脂成形体の架橋性、耐熱強度、電気的信頼性を高いものとできるので好ましい。
【0059】
その使用量の比は、(Rが炭素数5〜30のアルキル基であるシラン化合物):(Rが炭素−炭素二重結合を有する炭化水素基であるシラン化合物)の重量比で、好ましくは1:9〜9:1、より好ましくは4:6〜6:4である。
また、本発明の効果を損なわない範囲で、式(I)で表されるシラン化合物以外のシラン化合物を併用してもよい。
【0060】
処理工程IIにおいて用いる加水分解助剤は、式(I)で表されるシラン化合物の加水分解を促進させるために用いる。加水分解を促進させることができる限り、その種類は特に制限されない。例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸;酢酸等の有機酸が挙げられ、酢酸又は塩酸が好ましく、塩酸が特に好ましい。
これらの加水分解助剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
加水分解助剤の使用量は、第2表面処理剤100重量部に対し、4〜8重量部が好ましく、4〜6重量部がより好ましい。このような範囲で加水分解助剤を使用することにより、固体粉体の分散性に優れ、粘度が低く、重合反応率が高い、重合性組成物を効率的に得ることができる。
【0062】
処理工程Iで得た固体粉体を、加水分解助剤の存在下、前記式(I)で表されるシラン化合物からなる第2表面処理剤と接触させる方法としては、(α)まず、処理工程Iで得た固体粉体を、第2表面処理剤と接触させた後、加水分解助剤を添加して、全体を混合・攪拌する方法、(β)第2表面処理剤と加水分解助剤との混合物(Y)を調製し、処理工程Iで得た固体粉体を、前記混合物(Y)と接触させる方法が挙げられ、後者の方法が好ましい。混合物(Y)を用いることで、固体粉体やその表面の第1表面処理剤に対して、加水分解助剤が直接作用することを低減化できるという点で好ましい。なお、本発明の効果を妨げない範囲で、混合物(Y)に他の成分を含有させてもよい。
他の成分としては、第1表面処理剤に対し不活性な溶媒、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒が挙げられる。
【0063】
処理工程IIにおいて、処理工程Iで得た固体粉体を、加水分解助剤の存在下、前記式(I)で表されるシラン化合物を含有する第2表面処理剤と接触させる方法として、具体的には、処理工程Iと同様の方法を採用することができる。すなわち、処理工程IIにおいても、乾式法を用いても、湿式法を用いてもよいが、本発明によれば、乾式法を採用する場合であっても目的の表面処理効果を得ることができるため、生産性等の観点から、処理工程IIは乾式法で行うことが好ましい。
【0064】
乾式法で表面処理する場合、第2表面処理剤の使用量は、上記処理工程Iの処理前の固体粉体100重量部に対し、好ましくは0.1〜10重量部、さらに好ましくは0.5〜5重量部である。
【0065】
処理工程IIにおける処理温度は、処理工程Iの処理温度よりも高い温度が好ましく、通常、20〜120℃であり、好ましくは40〜120℃、より好ましくは50〜100℃である。
さらに、第2表面処理剤を含む固体粉体が黄変するおそれがあるため、不活性雰囲気で第2表面処理剤と固体粉体との混合物を攪拌することが好ましい。
処理工程IIにおける処理時間は特に限定はされず、通常、15分〜60分程度である。
【0066】
処理工程IIの後には、表面処理された固体粉体を乾燥することが好ましい。固体粉体を乾燥することにより、残留した未反応の第2表面処理剤が重合性組成物に混入し、重合反応が阻害されることを防止できる。
乾燥条件は特に制限されないが、通常、乾燥温度が40〜100℃であり、乾燥時間は30分から2時間程度である。
乾燥に用いる装置も特に限定されず、公知のものを用いることができる。また、減圧下に乾燥を行ってもよい。
【0067】
上記の方法により表面処理された固体粉体を用いて重合性組成物を調製する場合、その含有量は塊状重合可能なモノマー100重量部に対して、通常50〜600重量部、好ましくは100〜500重量部、より好ましくは150〜450重量部、特に好ましくは200〜400重量部である。
【0068】
表面処理剤と加水分解助剤を使用して一段階で固体粉体の表面処理を行い、この方法で処理された固体粉体を重合性組成物に添加すると、重合性組成物の粘度を上昇させることがある。この理由として、副反応により、粘性物質が副生することが考えられる。
しかしながら、本発明のように、第1表面処理剤による処理工程I、次いで第2表面処理剤及び加水分解助剤による処理工程II、の二段階で固体粉体の表面処理をすることで、目的の重合性組成物の調製に適する固体粉体を得ることができる。
【0069】
(重合性組成物)
本発明の重合性組成物は、塊状重合可能なモノマー、重合触媒、及び表面処理された固体粉体を含有する。
また、本発明の重合性組成物には、各種の添加剤、例えば、架橋剤、連鎖移動剤、重合反応遅延剤、分散剤、溶剤、強化材、改質剤、酸化防止剤、着色剤、光安定剤等を含有させることができる。これらは、予め後述するモノマー液又は触媒液に溶解又は分散させて用いることができる。
【0070】
用いる架橋剤としては、例えば、ラジカル発生剤が挙げられる。ラジカル発生剤は、加熱によってラジカルを発生し、得られる重合体において架橋反応を誘起しうる。ラジカル発生剤が架橋反応を起こす部位は、主に樹脂成形体を構成する樹脂の炭素−炭素二重結合であるが、飽和結合部分でも架橋することがある。
【0071】
ラジカル発生剤としては、有機過酸化物及びジアゾ化合物が挙げられる。有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシドなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、1,3−ジ(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナート類;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキサシド;などが挙げられる。
【0072】
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、4,4−ジアジドカルコン、2,6−ビス(4−アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4−アジドベンザル)−4−メチルシクロヘキサノン、4,4−ジアジドジフェニルスルホン、4,4−ジアジドジフェニルメタン、2,2−ジアジドスチルベンなどが挙げられる。
【0073】
架橋剤の使用量は、塊状重合可能なモノマー100重量部に対して、通常、0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部である。ラジカル発生剤が少なすぎると架橋が不十分になって高い架橋密度の架橋樹脂成形体が得られないおそれがある。逆に、ラジカル発生剤が多すぎると、架橋効果は飽和して期待するほどの物性を有する架橋樹脂成形体が得られなくなるおそれがある。
【0074】
用いる連鎖移動剤の具体例としては、1−ヘキセン、2−ヘキセンなどの脂肪族オレフィン類;スチレン、ビニルスチレン、スチルベン、ビニルベンゼン、ジビニルベンゼンなどの芳香族オレフィン類;ビニルシクロヘキサンなどのビニル脂環化合物;エチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのビニルエーテル類;メチルビニルケトンなどのビニルケトン類;酢酸アリル、アリルメタクリレートなどのエチレン性不飽和エステル類;ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシランなどのアルコキシシラン類;1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、3,3−ジメチル−1,4−ペンタジエン、3,5−ジメチル−1,6−ヘプタジエン、3,5−ジメトキシ−1,6−ヘプタジエン、1,2−ジビニルシクロヘキサン、1,3−ジビニルシクロヘキサン、1,4−ジビニルシクロヘキサン、1,2−ジビニルベンゼン、1,3−ジビニルベンゼン、1,4−ジビニルベンゼン、ジビニルシクロペンタン、ジアリルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルアントラセン、ジビニルフェナントレン、トリビニルベンゼン、ポリブタジエン(1,2−付加が10%以上のもの)等のビニル基を2以上有する炭化水素系連鎖移動剤;ジアリルエーテル、1,5−ヘキサジエン−3−オン、マレイン酸ジアリル、蓚酸ジアリル、マロン酸ジアリル、コハク酸ジアリル、グルタル酸ジアリル、アジピン酸ジアリル、フタル酸ジアリル、フマル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、ジビニルエーテル、アリルビニルエーテル、マレイン酸ジビニル、蓚酸ジビニル、マロン酸ジビニル、コハク酸ジビニル、グルタル酸ジビニル、アジピン酸ジビニル、フタル酸ジビニル、フマル酸ジビニル、テレフタル酸ジビニル、シアヌル酸トリビニル、イソシアヌル酸トリビニル等のビニル基を2以上有するヘテロ原子含有連鎖移動剤などが挙げられる。
連鎖移動剤の使用量は、塊状重合可能なモノマー100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.1〜2重量部である。連鎖移動剤の使用量が、この範囲であるときに、開環重合時の架橋反応が十分に抑制されるので、流動性に優れた樹脂成形体が得られる。
【0075】
重合反応遅延剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィン、ビニルジフェニルホスフィン、アリルジフェニルホスフィン、トリアリルホスフィン、スチリルジフェニルホスフィン等のホスフィン化合物;アニリン、ピリジン等のルイス塩基;1,5−シクロオクタジエン;5−ビニル−2−ノルボルネン;等が挙げられる。
【0076】
分散剤としては、カチオン系分散剤、アニオン系分散剤、ベタイン系分散剤、非イオン性分散剤等が挙げられる。
分散剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0077】
溶剤は、重合触媒を必要に応じて溶解又は分散するために少量使用することができる。かかる溶剤としては、重合触媒の活性を低下させないものであれば特に限定されず、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、インデン、テトラヒドロナフタレン等の芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル等の含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等の含酸素炭化水素;等が挙げられる。これらの中では、重合触媒の溶解性に優れ工業的に汎用されている芳香族炭化水素や鎖状脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素が好ましい。また、重合触媒の活性を低下させないものであれば、液状の酸化防止剤、液状の可塑剤、液状の改質剤を溶剤として用いてもよい。
溶剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系、リン系、アミン系等の各種のプラスチック・ゴム用酸化防止剤等が挙げられる。
酸化防止剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0079】
着色剤としては、染料、顔料等が挙げられる。染料の種類は多様であり、公知のものを適宜選択して使用すればよい。
着色剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0080】
改質剤としては、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)及びこれらの水素化物等のエラストマー等が挙げられる。
改質剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0081】
重合性組成物の調製方法は特に制限されないが、表面処理された固体粉体と塊状重合可能なモノマーとを混合し、この混合物を用いて重合性組成物を調製することが好ましい。
【0082】
重合性組成物は、例えば、重合触媒を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた液(以下、「触媒液」ということがある。)を調製し、別に塊状重合可能なモノマーに固体粉体及び、連鎖移動剤、架橋剤等の添加剤を必要に応じて配合した液(以下、「モノマー液」ということがある。)を調製し、該モノマー液に触媒液を添加し、攪拌することによって調製できる。
触媒液の添加は、次に述べる重合を行う直前に行うことが好ましい。また、触媒液の添加は、窒素等不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0083】
触媒液を添加するときのモノマー液の温度は、通常、−10〜+25℃、好ましくは−5〜+20℃、より好ましくは−5〜+15℃、特に好ましくは−5〜+10℃である。この温度範囲内であることで、混合した瞬間に重合反応が開始して、重合性組成物の粘度が増加することを避けることができる。
【0084】
また触媒液を添加してから重合を開始するまでの重合性組成物の温度は、通常、−10〜+25℃、好ましくは−5〜+20℃、より好ましくは−5〜+15℃、特に好ましくは−5〜+10℃である。この温度範囲内であることで、重合反応を開始させず、安定に保存することができる。また、重合性組成物の凍結を防ぐことができる。
【0085】
モノマー液の調製に際して、塊状重合可能なモノマーに固体粉体及びその他の添加剤を入れる順序は特に限定されない。また、固体粉体を添加する前に分散剤を添加することで固体粉体の分散性が向上することがあるため、分散剤の添加後に固体粉体を添加することが特に好ましい。
【0086】
モノマー液の調製に用いる混合装置等は特に限定されず、モノマー液の粘度等によって適時選択すればよい。例えば、ミックスマラー、ボールミル、ニーダー、ヘンシェルミキサー、ロールミル、バンバリミキサー、リボンミキサー、ホモジナイザー、二軸押し出し機、らいかい機等ホイール型、ボール型、ブレード型、ロール型の装置等が挙げられる。
【0087】
本発明の重合性組成物の粘度は、上限が通常5Pa・s、好ましくは3Pa・s、より好ましくは2Pa・s、特に好ましくは1Pa・sである。また、粘度の下限は、通常0.01Pa・s、好ましくは0.1Pa・sである。
重合性組成物の粘度が上記範囲内にあることで、均一に塊状重合させることができ、重合反応率を高くでき、高分子量の樹脂成形体を得ることができる。また、樹脂成形体中に未反応モノマーが残留することを防ぐことができる。
ここで、重合性組成物の粘度は、モノマー液に重合触媒を添加した直後、25℃において、ハイシェアレート粘度計を用いて10rpmで測定される値である。
【0088】
重合性組成物の粘度は、たとえば固体粉体の量が増加すると、増大する傾向にあり、また表面処理剤の使用量や分散剤の量が増加すると、減少する傾向にある。
本発明においては、上記のように第2表面処理剤と加水分解助剤(通常、酸)を用いて固体粉体の表面処理を行うため、表面処理された固体粉体は塊状重合可能なモノマーとの親和性が著しく高められる。したがって、本発明の重合性組成物は、多量の固体粉体を用いた場合でも粘度を低くすることができる。
さらに、上記のように、本発明においては、予め第1表面処理剤で表面処理を行うことで、第2表面処理剤と加水分解助剤を併用する際の負の効果を抑制できる。したがって、さらに、低粘度の重合性組成物を得ることができる。
【0089】
2)樹脂成形体
本発明の樹脂成形体は、上記重合性組成物を塊状重合して得られる樹脂成形体である。塊状重合は、実質的に溶剤を用いないで重合を行うものである。
【0090】
本発明の重合性組成物を塊状重合して樹脂成形体を得る方法に限定はないが、例えば、(a)重合性組成物を支持体上に塗布し、次いで塊状重合する方法、(b)重合性組成物を成形型の空間部に注入し、次いで塊状重合する方法、(c)重合性組成物を繊維状強化材に含浸させ、次いで塊状重合する方法等が挙げられる。
【0091】
本発明の重合性組成物は粘度が低いため、(a)の方法における塗布は円滑に実施でき、(b)の方法における注入は複雑形状の空間部であっても迅速に泡かみを起こさずに行き渡らせることが可能であり、(c)の方法においては繊維状強化材に対して速やかに満遍なく含浸させることができる。
【0092】
(a)の方法によれば、フィルム状、板状等の樹脂成形体が得られる。該成形体の厚みは、通常15mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは0.5mm以下、最も好ましくは0.1mm以下である。
支持体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ナイロン等の樹脂からなるフィルムや板;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、金、銀等の金属材料からなるフィルムや板;等が挙げられる。なかでも、金属箔又は樹脂フィルムの使用が好ましい。これら金属箔又は樹脂フィルムの厚みは、作業性等の観点から、通常1〜150μm、好ましくは2〜100μm、より好ましくは3〜75μmである。
【0093】
支持体上に本発明の重合性組成物を塗布する方法としては、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法等の公知の塗布方法が挙げられる。
【0094】
支持体上に塗布された重合性組成物を必要に応じて乾燥させ、次いで塊状重合する。塊状重合するために重合性組成物を加熱する。加熱方法としては、加熱プレート上に支持体に塗布された重合性組成物を載せて加熱する方法、プレス機を用いて加圧しながら加熱(熱プレス)する方法、熱したローラーを押圧する方法、加熱炉を用いる方法等が挙げられる。
【0095】
(b)の方法によって得られる樹脂成形体の形状は、成形型により任意に設定できる。例えば、フィルム状、柱状、その他の任意の立体形状等が挙げられる。成形型の形状、材質、大きさ等は特に制限されない。かかる成形型としては、従来公知の成形型、例えば、割型構造、すなわちコア型とキャビティー型を有する成形型;2枚の板の間にスペーサーを設けた成形型;等を用いることができる。
【0096】
成形型の空間部(キャビティー)に本発明の重合性組成物を注入する圧力(射出圧)は、通常0.01〜10MPa、好ましくは0.02〜5MPaである。注入圧力が低すぎると、充填が不十分になり、キャビティー内面に形成された転写面の転写が良好に行われないおそれがあり、注入圧力が高すぎると、成形型は剛性が高いものが必要となり経済的ではない。型締圧力は、通常0.01〜10MPaの範囲内である。
【0097】
空間部に充填された重合性組成物を加熱することによって塊状重合させることができる。重合性組成物の加熱方法としては、成形型に配設された電熱器、スチーム等の加熱手段を利用する方法、成形型を電気炉内で加熱する方法等が挙げられる。
【0098】
(c)の方法によって得られる樹脂成形体としては、例えば、塊状重合体が繊維状強化材のすき間に充填されて成るプリプレグ等が挙げられる。繊維状強化材としては、無機系及び/又は有機系の繊維が使用でき、例えば、ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、アミド繊維、ポリアリレート等の液晶繊維、等の公知のものが挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を組合せて用いることができる。繊維状強化材の形状としては、マット、クロス、不織布等が挙げられる。
【0099】
繊維状強化材に本発明の重合性組成物を含浸させるには、例えば、該重合性組成物の所定量を、繊維状強化材製のクロス、マット等の上に注ぎ、必要に応じてその上に保護フィルムを重ね、上方からローラー等で押圧することにより行うことができる。繊維状強化材に該重合性組成物を含浸させた後に、所定温度に加熱して、含浸物を塊状重合させることにより樹脂の含浸したプリプレグを得ることができる。加熱方法としては、例えば、含浸物を支持体上に設置して前記(a)の方法のようにして加熱する方法、予め型内に繊維状強化材をセットしておき、重合性組成物を含浸させてから前記(b)の方法のようにして加熱する方法等が用いられる。
【0100】
上記(a)、(b)及び(c)のいずれの方法においても、重合性組成物を塊状重合させるための加熱温度((b)の方法においては金型温度)は、通常30〜250℃、好ましくは50〜200℃である。重合時間は適宜選択すればよいが、通常1秒から20分、好ましくは10秒から5分以内である。
【0101】
重合性組成物を所定温度に加熱することにより塊状重合反応が開始する。塊状重合反応が開始すると、重合性組成物の温度は反応熱により急激に上昇し、短時間(例えば、10秒から5分程度)でピーク温度に到達する。さらに塊状重合反応は進むが、重合反応は次第に収まり、温度が低下していく。ピーク温度を、この重合反応により得られる成形体を構成する重合体のガラス転移温度以上になるように制御すると、完全に重合が進行するので好ましい。ピーク温度は加熱温度により制御できる。
【0102】
本発明に用いる樹脂成形体を構成する樹脂の重量平均分子量(Mw)は、溶離液をトルエンとする、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる測定(ポリスチレン換算)で、10,000〜50,000、好ましくは25,000〜40,000、より好ましくは30,000〜40,000、さらに好ましくは35,000〜40,000である。かかる範囲の重量平均分子量を有する樹脂を含有する樹脂成形体は、加熱溶融時における樹脂流動性、及びその成形体の強度のバランスに優れる。
【0103】
本発明の樹脂成形体の製造に用いる重合性組成物は、固体粉体の分散性に優れ、粘度が低い重合性組成物である。したがって、均一に塊状重合反応を行うことができ、未反応のモノマーの残留が抑制され、保存安定性に優れる樹脂成形体を得ることができる。また、高分子量の樹脂成形体を得ることができるため、添加剤等を調製することで、容易に分子量を制御することができる。
【実施例】
【0104】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における「部」及び「%」は、特に断りのない限り重量基準である。
また、比較例2においては、樹脂成形体が得られなかったが、このときに用いた組成物についても、形式的に「重合性組成物」と表現する。
【0105】
実施例及び比較例における各特性は、下記の方法に従い測定した。
(1)重合性組成物の粘度
重合性組成物の粘度をハイシェアレート粘度計(型式CA2000L:ブルックフィールド社製)を用いて、回転数10rpmで25℃時の粘度を測定し、以下の指標で評価した。なお、5Pa・sを超えると、測定不可能な砂状になるため、×とした。重合性組成物の粘度が低いほど、固体粉体の分散性に優れる。
A:1Pa・sを超えて2Pa・s以下
B:2Pa・sを超えて3Pa・s以下
C:3Pa・sを超えて5Pa・s以下
【0106】
(2)樹脂成形体の重量平均分子量(Mw)
樹脂成形体を構成する樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(トルエン溶媒)により、ポリスチレン換算値として得た値を基にして、以下の指標で評価した。なお、樹脂成形体が作製できず分子量を測定できない場合、×とした。
A:35,000超、40,000以下
B:30,000超、35,000以下
C:25,000超、30,000以下
【0107】
(3)重合反応率
重合反応率は、樹脂成形体をトルエンに溶解して得られた溶液を用いて、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した。
なお、樹脂成形体が作製できず重合反応率を測定できない場合、×とした。
【0108】
〔製造例1〕触媒液の調製
メタセシス重合触媒として、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド0.127部、重合反応遅延剤としてトリフェニルホスフィン0.2部をフラスコに入れ、ここに窒素雰囲気下でテトラヒドロフラン(和光純薬工業社製)2部を入れて重合触媒を溶解させ、メタセシス重合触媒のテトラヒドロフラン溶液(触媒液)を調製した。
【0109】
〔実施例1〕
(第1表面処理液Aの調製)
テトラエトキシシラン(信越化学工業社製、製品名KBE−04)からなる第1表面処理剤1部とエタノール2部を混合して、第1表面処理液Aを得た。
【0110】
(第2表面処理液Aの調製)
デシルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、製品名KBM−3103)1部、p−スチリルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、製品名KBM−1403)1部、エタノール4部、及び塩酸0.08部を混合して、第2表面処理液Aを得た。
【0111】
(固体粉体の表面処理)
水酸化マグネシウム(平均粒子径3.0μm)100部と上記第1表面処理液A3部を、攪拌転動造粒機(型式:SEG−350)に入れ、室温で15分間攪拌することで、第1表面処理工程(処理工程I)を行った。
次いで、上記第2表面処理液A6.08部を加えて、100℃で60分間攪拌することで、第2表面処理工程(処理工程II)を行った。
【0112】
(重合性組成物の調製)
シクロオレフィンモノマーとして2−ノルボルネン(以下「NB」と略記する。)20部及びテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン(TCD)80部をガラス容器に入れ、ここに上記表面処理された水酸化マグネシウムを200部を添加して均一に混合した。ここに連鎖移動剤としてメタクリル酸ヘキセニル(エコノマーML C5タイプ、新中村化学社製)1.8部と、有機過酸化物の架橋剤としてジ−t−ブチルパーオキサイド(化薬アクゾ社製、製品名カヤブチルD、1分間半減期温度192℃)1部を添加し、さらに上記触媒液0.35部を添加して混合し、重合性組成物1を得た。重合性組成物1の粘度を、上記方法により測定した。測定結果を第1表に示す。
【0113】
(樹脂成形体の作製)
重合性組成物1をポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム)(帝人デュポンフィルム社製、厚み75μm)の上に流延し、その上にガラスクロス(日東紡績社製1078、厚み43μm)を敷いて、さらにその上に重合性組成物1を流延した。その上からさらにPENフィルムをかぶせ、精密ロール間を通すことで重合性組成物1をガラスクロスに全体に含浸させた。重合性組成物1がガラスクロス端部から滲出するのを確認し、十分な量の重合性組成物1がガラスクロスに含浸されたことを確認した。
次いで、かかる重合性組成物1が含浸されたガラスクロスを130℃にセットしたホットプレートに1分間静置した後、重合性組成物1を塊状重合させた後、上下のPENフィルムを剥離して、厚さ約70μmのプリプレグ(樹脂成形体1)を得た。
樹脂成形体1を所定の大きさに切り出し、重量平均分子量と重合反応率を測定した。測定結果を第1表に示す。
【0114】
〔実施例2〕
実施例1の第2表面処理液Aの調製方法において、塩酸の添加量を0.16部に代えることで、第2表面処理液Bを調製した。
第2表面処理液Aに代えて、第2表面処理液Bを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により重合性組成物2を調製し、粘度を測定した。また、重合性組成物2を用いて樹脂成形体2を作製し、重量平均分子量と重合反応率を測定した。測定結果を第1表に示す。
【0115】
〔実施例3〕
実施例1の第2表面処理液Aの調製方法において、デシルトリメトキシシラン1部に代えて、ヘキシルトリメトキシシラン1部を用いることで、第2表面処理液Cを調製した。
第2表面処理液Aに代えて、第2表面処理液Cを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により重合性組成物3を調製し、粘度を測定した。また、重合性組成物3を用いて樹脂成形体3を作製し、重量平均分子量と重合反応率を測定した。測定結果を第1表に示す。
【0116】
〔実施例4〕
実施例1の第2表面処理液Aの調製方法において、デシルトリメトキシシランの添加量を0.7部、p−スチリルトリメトキシシランの添加量を0.3部、エタノールの添加量を0.6部、塩酸の添加量を0.04部に代えることで、第2表面処理液Dを調製した。
第2表面処理液Aに代えて、第2表面処理液Dを用いたことと、固体粉体の表面処理をする際に、水酸化マグネシウムに代えて、チタン酸カルシウムを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により重合性組成物4を調製し、粘度を測定した。また、重合性組成物4を用いて樹脂成形体4を作製し、重量平均分子量と重合反応率を測定した。測定結果を第1表に示す。
【0117】
〔実施例5〕
実施例1の第2表面処理液Aの調製方法において、デシルトリメトキシシランの添加量を4部、p−スチリルトリメトキシシランの添加量を2部、エタノールの添加量を2.7部、塩酸の添加量を0.24部に代えることで、第2表面処理液Eを調製した。
第2表面処理液Aに代えて、第2表面処理液Eを用いたことと、固体粉体の表面処理をする際に、水酸化マグネシウムに代えて、酸化チタンを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により重合性組成物5を調製し、粘度を測定した。また、重合性組成物5を用いて樹脂成形体5を作製し、重量平均分子量と重合反応率を測定した。測定結果を第1表に示す。
【0118】
〔比較例1〕
固体粉体を表面処理する際に、第1表面処理液で表面処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法により重合性組成物6を調製し、粘度を測定した。また、重合性組成物6を用いて樹脂成形体6を作製し、重量平均分子量と重合反応率を測定した。測定結果を第1表に示す。
【0119】
〔比較例2〕
実施例1の第1表面処理液Aの調製方法において、さらに塩酸0.08部を加えることで、第1表面処理液Bを調製した。
第1表面処理液Aに代えて、第1表面処理液Bを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により重合性組成物7を調製し、粘度を測定した。重合性組成物7の粘度が高すぎるため、樹脂成形体を作製することはできなかった。
【0120】
【表1】

実施例1〜5における重合性組成物1〜5は、粘度が低く、成形加工性に優れる。さらに、これらを用いて得られる樹脂成形体1〜5の重量平均分子量が大きいことから分かるように、本発明の重合性組成物によれば、分子量の大きな樹脂からなる樹脂成形体を得ることができる。
また、樹脂成形体1〜5は、いずれも重合反応率が99%以上であり、未反応のモノマーがほとんど残留しておらず、保存安定性に優れる成形体である。
【0121】
これに対し、比較例1で示されるように、第1表面処理を行わない固体粉体を用いて得られる重合性組成物6は、粘度が高く、成形加工性に劣る。さらに、この重合性組成物6を用いて得られる樹脂成形体6の重量平均分子量は小さいため、重合性組成物6を用いて分子量の大きな樹脂からなる樹脂成形体を得ることは困難である。
また、樹脂成形体6は、重合反応率が99%未満であり、未反応のモノマーが残留するため、保存安定性に劣る成形体である。
【0122】
比較例2においては、予めテトラエトキシシランを用いて固体粉体に対して表面処理を行っているが、このときに塩酸を併用した結果、重合性組成物の粘度を低下させる効果が全く得られないばかりでなく、逆に、重合性組成物7の粘度は高くなった。この結果、重合性組成物7を用いても樹脂成形体を得ることはできなかった。
【0123】
上記のように、固体粉体に対して特定の条件で第1の表面処理剤による第1の表面処理を施すことで、第2の表面処理の効果を飛躍的に高めることができ、結果として、固体粉体の分散性に優れ、粘度が低く、重合反応率が高い重合性組成物、及びこの重合性組成物を塊状重合することにより、高分子量の樹脂からなり、未反応のモノマーの残留量が少ない、保存安定性に優れる樹脂成形体を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塊状重合可能なモノマー、重合触媒、及び、表面処理された固体粉体を含有する重合性組成物であって、
前記表面処理された固体粉体が、以下の処理工程I及び処理工程IIを含む方法により表面処理されたものであることを特徴とする重合性組成物。
処理工程I:固体粉体を、加水分解助剤の非存在下、テトラアルコキシシラン化合物からなる第1表面処理剤と接触させる工程
処理工程II:処理工程Iで得られた固体粉体を、加水分解助剤の存在下、下記式(I)
【化1】

(式中、R、Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。nは2、3又は4を表す。)
で示されるシラン化合物からなる第2表面処理剤と接触させる工程
【請求項2】
処理工程IIが、処理工程Iで得た固体粉体を、第2表面処理剤と加水分解助剤との混合物(Y)と接触させる工程である、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項3】
処理工程I及び処理工程IIが、いずれも乾式法によって行われるものである、請求項1又は2に記載の重合性組成物。
【請求項4】
処理工程IIにおいて用いられる加水分解助剤が、塩酸、酢酸、硫酸及び硝酸から選択される酸である、請求項1〜3のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項5】
加水分解助剤の使用量が、第2表面処理剤100重量部に対して4〜8重量部である、請求項1〜4のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項6】
前記R及び/又はRの置換基を有していてもよい炭化水素基が、炭素数1〜30のアルキル基である、請求項1〜5のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項7】
前記R及びRが、炭素−炭素二重結合を有する炭化水素基である、請求項1〜6のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項8】
前記固体粉体が、金属酸化物、金属水酸化物、又は金属酸化物の塩である、請求項1〜7のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項9】
前記塊状重合可能なモノマーが、シクロオレフィンモノマーである、請求項1〜8のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項10】
処理工程Iにおける処理温度が、処理工程IIの処理温度より低い温度である、請求項1〜9のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の重合性組成物を塊状重合して得られる樹脂成形体。

【公開番号】特開2013−43953(P2013−43953A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184068(P2011−184068)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】