説明

重合防止方法

【課題】アクリルアミド等の不飽和化合物の製造工程において、装置内の工程液滞留部における該化合物の重合を防止する方法の提供。
【解決手段】炭素数3〜20のアミド化合物の製造工程において該化合物の重合を防止する方法であって、製造工程で使用する装置内部の液溜りに滞留する工程液をすべて排出することにより滞留箇所から強制的に移動させることを特徴とする炭素数3〜20のアミド化合物の重合防止方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不飽和結合を有するモノマー、特にアクリルアミド、メタクリルアミドなどのアミド化合物の安定化に関する。アクリルアミドなどのアミド化合物は凝集剤、増粘剤、石油回収薬剤、製紙工業における紙力増強剤、抄紙用増粘剤等多くの用途を有する重合体の原料として有用である。
【背景技術】
【0002】
アクリルアミド等のアミド化合物は、アクリロニトリルなどのニトリル化合物を硫酸および水とともに加熱してアクリルアミド硫酸塩を得る工程を含む硫酸加水分解法、ニトリル化合物を触媒(金属銅、酸化銅、銅塩等)の存在下に水和して対応するアミド化合物を製造する方法、微生物由来のニトリルヒドラターゼにより、ニトリル化合物を水和してアクリルアミドを製造する方法などにより、工業的に製造されている。
【0003】
アクリルアミド等のアミド化合物は極めて重合しやすい物質であり、いずれの製法の各工程においても、あるいは結晶や水溶液状製品を貯蔵・保管する場合等にも重合が進み、品質の劣化やアミド化合物の収率低下、あるいは装置、配管内の液の流れを阻害したり、熱伝導を不良にするなどの問題を生じる。
【0004】
このため、種々の化合物がアクリルアミドの重合抑制剤として提案されている。
例えば特公昭39−10109号公報に、アクリルアミドにチオ尿素、ロダアンモン、ニトロベンゾール、O−トリジン、フェノチアジンおよびニトロソR塩からなる群に属する化合物を共存させて重合を抑制する方法が記載されている。また、特許第2548051号公報には、炭素数2以上の水溶性モノカルボン酸塩を添加するアクリルアミド水溶液
の安定化法が記載されている。
【0005】
しかし、これらの重合防止方法は、主に製品としての安定性を向上させるものであり、工程により異なる不純物を含み、条件も各々異なる製造工程中の工程液の汎用的な重合防止には必ずしも効果があるとはいえない。
【0006】
特公昭49−16845号公報には、アクリルアミド製造工程に使用する装置内部の気相部の壁面を合成樹脂系材料で被覆して、気相部の壁面に発生しやすいアクリルアミドの重合を防止することが記載されている。
【0007】
ところで、アクリルアミドを含有する工程液を移送する配管においては、工程液がスムーズに流れている状態では、重合物が生じにくい。
また、反応器内部、後処理槽内部においては、通常、工程液の攪拌、流入または排出がスムーズに行われているので重合物が生じにくい。
【0008】
しかし、製造工程で使用する装置の内部には、工程液が溜まりやすい箇所(液溜り)が存在し、ここでは長期間に渡って実質的に工程液の攪拌、移動、交換が行なわれないので重合物が生じやすい。これらの液溜りは、設計上の工夫によって無くすことは不可能である。
【0009】
重合物が生じると配管の流れを閉塞したり、あるいは脱離して工程液中に混入し、下流の槽類での重合原因となる。
【特許文献1】特公昭39−10109号公報
【特許文献2】特許第2548051号公報
【特許文献3】特公昭49−16845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、不飽和結合をもつ化合物の製造工程において、工程液の液溜りにおける該化合物の重合を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、次の重合防止方法である。
炭素数3〜20のアミド化合物の製造工程において該化合物の重合を防止する方法であって、製造工程で使用する装置内部の液溜りに滞留する工程液をすべて排出することにより滞留箇所から強制的に移動させることを特徴とする炭素数3〜20のアミド化合物の重合防止方法。
【発明の効果】
【0012】
発明によれば、不飽和結合を持つモノマー類、特にアミド化合物の製造時における重合を防止することができ、安定操業が可能な製造プロセスが構築できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の重合防止方法は、不飽和結合を持つ化合物の製造工程において実施することができる。不飽和結合を持つ化合物としては、アミド化合物、カルボン酸類、カルボン酸エステル類をあげることができる。
【0014】
アミド化合物としては、炭素数3〜20程度のアミド化合物が好ましく、アクリルアミド、メタクリルアミド、クロトンアミド等の不飽和脂肪族アミドを挙げることができる。
カルボン酸類としては、アクリル酸、メタクリル酸等を挙げることができる。
【0015】
カルボン酸エステル類としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等を挙げることができる。
本発明の方法は特にアミド化合物の製造工程に適用するのが好ましい。
【0016】
本発明のアミド化合物は、硫酸水和法、アセトンシアンヒドリン法、銅触媒法、酵素法などの方法により対応するニトリル化合物を水和することにより工業的に製造することができる。なかでも銅触媒法、酵素法が好ましい。
【0017】
銅触媒法とは、ニトリル化合物を金属銅、還元銅、ラネー銅などの銅触媒の存在下に直接水和してアミド化合物を製造する方法であり、例えば 特公昭52−33092号等に
記載の方法を挙げることができる。酵素法とは、ニトリルを水和して対応するアミドを生成する能力を有する微生物由来の酵素の作用によりニトリルを水和して対応するアミド化合物を製造する方法であり、例えば特開平11−89575号、WO01/53253号等に記載の方法を挙げることができる。
【0018】
本発明の不飽和化合物の重合防止は、該化合物を含有する工程液が溜まりやすく、溜まった液の移動、攪拌、交換が長期間実質的に行なわれず、重合が生起しやすい部分(液溜り)に滞留している工程液を滞留箇所から強制的に移動させることにより行われる。
【0019】
液溜りが生じ易い装置としては、例えば、主配管から分岐した配管類(サンプリング用配管、バイパス等)、バルブ類、安全弁、フランジ接合部、塔槽類に設けた抜き出し口、熱交換器内のチューブやプレート、ポンプ等が挙げられる。
【0020】
滞留液を強制的に移動させるための操作方法として、滞留液を排出する場合は、例えば直近のバルブの開放による排出や、ポンプによる滞留液の吸引等を実施すればよい。また、水などの希釈液を滞留部に通液することにより滞留液を希釈・置換してもよい。これらの方法は、手動で行ってもよいし、また、自動弁やタイマーなどの制御装置を用いて、自動的に実施してもよい。また操作の間隔は任意であるが、1時間〜240時間毎に操作するのが好ましい。
【0021】
上記したアミド化合物等の不飽和結合を持つ化合物は酸性条件下で一層不安定になり、滞留部での重合生起の可能性が高まる。例えば、アクリルアミド等の化合物を含む工程液を強酸性イオン交換樹脂や酸性下での活性炭処理して精製した後、配管で移送する場合などである。
【0022】
しかし、上記したような操作を行なって滞留液を強制的に移動させることにより、液溜りで重合が生起しにくくなる。
【実施例】
【0023】
(実施例1)
図1に記載の装置を用いて、アクリルアミド水溶液の処理を行なった。
処理槽1に50%−アクリルアミド水溶液を装入し、次いで酸性下(pH5)で活性炭を加え連続的に攪拌混合処理し、処理液を配管4を通して次工程へ移液した。その際、処理液を移送する配管4から下向きに分岐したサンプリング配管5およびサンプリングバルブ6を用いて8時間毎にサンプリングを行い滞留液を排出した。
その結果、運転開始2週間後もサンプリング配管内部およびバルブ内部に重合物は生成しなかった。
【0024】
(参考例1)
実施例1と同様な装置を用いて運転を実施し、8時間毎にサンプリングをする代わりに、8時間毎にバルブ10より水を注入して、サンプリング配管5およびバルブ6を洗浄した。
その結果、運転開始2週間後もサンプリング配管内部およびバルブ内部に重合物は生成しなかった。
【0025】
(比較参考例1)
実施例1と同様な装置を用いて運転を実施したが、全くサンプリング、水の注入を実施しなかった。
その結果、2週間後に重合物によるサンプリング配管5およびサンプリングバルブ6の閉塞が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】アクリルアミド水溶液の処理装置の概略図である。
【符号の説明】
【0027】
1 処理槽
2 攪拌羽根
3 モータ
4 配管
5 サンプリング配管
6 サンプリングバルブ
7 ポンプ
8 ポンプ入口バルブ
9 攪拌槽下部バルブ
10 水注入バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数3〜20のアミド化合物の製造工程において該化合物の重合を防止する方法であって、製造工程で使用する装置内部の液溜りに滞留する工程液をすべて排出することにより滞留箇所から強制的に移動させることを特徴とする炭素数3〜20のアミド化合物の重合防止方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−62373(P2009−62373A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236793(P2008−236793)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【分割の表示】特願2002−19718(P2002−19718)の分割
【原出願日】平成14年1月29日(2002.1.29)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】