説明

重層塗布型磁気記録媒体用オキシ水酸化鉄粉末および磁気記録媒体

【課題】重層塗布型磁気記録媒体において、非磁性層(下層)の表面平滑性を良好に維持しながら、その塗膜強度を顕著に向上させることのできる非磁性粉末を提供する。
【解決手段】表面官能基数が7.5×1018個/m2以上である重層塗布型磁気記録媒体用オキシ水酸化鉄粉末。特に、粒子表面に希土類元素(Sc、Yも希土類元素として扱う)を有するものが挙げられ、透過型電子顕微鏡写真より計測される平均長軸長が10〜200nm、BET法による比表面積が30〜200m2/gであるものが好適な対象となる。このようなオキシ水酸化鉄粉末は、粒子表面に希土類元素(Sc、Yも希土類元素として扱う)を被着させる表面処理を行うことによって得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重層磁気記録媒体の下層である非磁性層を構成するためのオキシ水酸化鉄粉末、並びにそれを用いた非磁性層および磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
重層塗布型磁気記録媒体は、ベースフィルムの上に、非磁性粉末を樹脂中に分散させた非磁性層(下層)と、磁性粉末を樹脂中に分散させた磁性層(上層)を有する磁気記録媒体である。重層構造をとることで電磁変換特性が改善され、より一層の高記録密度化が実現される。また、テープの耐久性が改善され、信頼性も向上する。
【0003】
身近に使用される重層塗布型磁気記録媒体としては家庭用ビデオテープ等が挙げられるが、とりわけ、昨今の用途として広く使用されているのはデータストレージ用途のものである。昨今の情報量の増大はめざましく、少しでも多くの情報量を限られた領域内に記録するための試みは絶えず行われており、現在に至っている。
【0004】
媒体中にできるだけ多くの情報量を書き込むためには、媒体の高密度化を図ることや、テープの巻き数を増やすことなどが考えられる。媒体の高密度化で対応するには記録する領域をできるだけ狭く小さくすることが必要になり、テープの巻き数増大で対応するにはテープ厚みをできるだけ薄くすることが必要になる。
【0005】
記録媒体の高密度化を図るには、再生出力およびノイズ特性の両面から検討することが必要である。具体的には、再生出力の改善には磁化量の向上、記録減磁損失の低減、スペース損失の低減等が重要となり、ノイズ特性の改善には磁化反転体積の低減が重要となる。そのためには磁性層(上層)に使用するための磁性粉の体積を小さくしたり(微粒子化)、粒子の均質化を行ったりすることが有効であり、特に磁性粉の微粒子化がますます指向される傾向にある。ところが、磁性粉の微粒子化は記録容量増大化の点では極めて好ましいが、同時に磁性層(上層)の厚みの減少を伴いやすい。磁性層(上層)の厚みが減少すると、その下の非磁性層(下層)の表面平滑性がそのまま磁性層(上層)の表面平滑性に影響を及ぼすようになることが知られている。この場合、磁性層(上層)の表面平滑性に悪影響が生じると、電磁変換特性が低下し、高記録密度化を図るうえで障害となる。
【0006】
また、重層磁気記録媒体用の非磁性粉末としては、重層磁気記録が一般化された当初は球状の酸化チタンが使用されたが、現在ではコスト面で有利な酸化鉄(α−Fe23)がスタンダード化している。酸化鉄はオキシ水酸化鉄の脱水縮合反応によって製造され、その際、焼成工程を経ることが一般的である。焼成において粒子同士の焼結が生じると、下層塗料に混ぜ込んで塗布したときに下層塗膜表面の凹凸が大きくなり、下層の表面平滑性を害する要因になりやすい。
このようなことから、昨今では非磁性層(下層)の平滑性を改善するために種々対策がとられるようになっている。
【0007】
一方、非磁性層(下層)の特性としては、「塗膜強度」が高いことも極めて重要である。上述のように、昨今の重層塗布型磁気記録媒体ではテープの薄肉化や磁性層(上層)の薄膜化が進められている。この状況下でテープの良好な走行性を従来と同等以上に確保するには、寸法安定性(テープ幅やテープ長の変動が少ないこと)が従来のものと同等以上に良好に維持されなければならない。また、薄膜化された上層の機械的特性を下層によって補う必要もある。したがって、非磁性層(下層)の塗膜強度の向上が強く望まれる。
【0008】
従来、重層塗布型磁気記録媒体の非磁性層(下層)に用いる非磁性粉末として、球状酸化チタン粉末または針状酸化鉄粉末が知られている(特許文献1〜4)。また、本出願人は下層に適した針状のオキシ水酸化鉄(ゲーサイト)粉末を開発し、特許文献5〜7に開示した。すなわち、オキシ水酸化鉄粒子を微細化するとともに、その組成や形状を工夫することにより、例えば磁性層を薄膜化して短い記録波長領域での出力確保や電磁変換特性(優れた消去特性やオーバーライト特性)を改善することが可能になった。オキシ水酸化鉄は焼成工程を経ていないため、酸化鉄粉末とは異なり焼結による表面平滑性の低下が生じない利点もある。また本出願人は、オキシ水酸化鉄や粒子間焼結の低減された酸化鉄を用いた場合に、分散性に優れた非磁性粉末が提供できることを特許文献8、9に開示した。
【0009】
特許文献10には短軸径ならびに長軸径の幾何学的標準偏差値σgが長軸として1.5以下、短軸として1.3以下の粒度分布のそろったヘマタイト粒子粉末を下層材に使用すると、表面平滑性の優れた媒体が得られることが記載されている。先の特許文献3や、特許文献11には長軸長の幾何標準偏差値σgを規定することによって、やはり表面平滑性の良い磁気記録媒体が得られることが記載されている。特許文献12には平均長軸長の異なった2種類の粉末群を混合し、あえて粒度分布を悪化させ、それを下層非磁性層に使用することによって表面平滑性に優れた下地層を形成できることが記載されている。特許文献13、14には非磁性層の中に2種類あるいはそれ以上の粒子径を持つものを添加して、粒度分布を変化させることが記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開昭63−187418号公報
【特許文献2】特開平4−167225号公報
【特許文献3】特開平6−60362号公報
【特許文献4】特開平6−131653号公報
【特許文献5】特開平9−255341号公報
【特許文献6】特開平10−53421号公報
【特許文献7】特開平10−340447号公報
【特許文献8】特開2001−176058号公報
【特許文献9】特開2004−5932号公報
【特許文献10】特開2000−143250号公報
【特許文献11】特開平9−170003号公報
【特許文献12】特開2001−160212号公報
【特許文献13】特開平5−242455号公報
【特許文献14】特開平6−267059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、重層塗布型磁気記録媒体の非磁性層(下層)には「表面平滑性」と「塗膜強度」が要求される。
このうち「表面平滑性」については、前述の種々の対策が有効であり、また本出願人は更なる改善にために、特定の幾何標準偏差を有するオキシ水酸化鉄粉末あるいは酸化鉄粉末を開発し、特願2005−185919として開示した。これらの技術によって下層の表面平滑性は概ね満足できるレベルに向上しつつある。
【0012】
しかしながら、下層の「塗膜強度」については、更なる改善が望まれる状況にある。例えば、従前の技術では媒体テープの幅方向中央付近に関しては十分高い塗膜強度が得られるものの、媒体をスリッターによって裁断した際に、裁断部近傍で塗膜強度が弱くなる傾向があることがわかってきた。その詳しい機構は不明であるが、裁断した際に下層塗膜の切断面に存在する非磁性粒子がスリッターの刃によって何らかの物理的作用を受けることにより、粒子とベースフィルムとの間の結着力が低下してしまうことが原因ではないかと考えられる。
【0013】
本発明は、非磁性粉末として、重層塗布型磁気記録媒体における非磁性層(下層)に配合させた場合に、その塗膜の優れた表面平滑性が維持されるとともに、特に媒体の裁断部近傍においても高い塗膜強度が確保される非磁性粉末を提供し、重層塗布型磁気記録媒体の繰り返しの使用における耐久性を改善しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的は、表面官能基数が7.5×1018個/m2以上である重層塗布型磁気記録媒体用オキシ水酸化鉄粉末によって達成される。表面官能基数は、樹脂と結合しうる粉末粒子表面の結合点の存在密度を評価する指標であり、常温でpHを約3に調整した100mLのHNO3水溶液に0.5gの被測定粉末を入れてたときのpH変化をモニターし、下記式(1)によって求める。
R=[{10(-X1)−10(-X2)}×N]/(W×S) ……(1)
ただし、
R:表面官能基数(個/m2
X1:被測定粉末を入れる前のHNO3水溶液のpH
X2:被測定粉末を入れてから3min経過した時点のHNO3水溶液のpH
N:アボガドロ数
W:被測定粉末の質量(g)
S:被測定粉末のBET法による比表面積(m2/g)
【0015】
前記のオキシ水酸化鉄粉末として、粒子表面に希土類元素(Sc、Yも希土類元素として扱う)を有するものが挙げられ、特に、透過型電子顕微鏡写真より計測される平均長軸長が10〜200nm、BET法による比表面積が30〜200m2/gであるものが好適な対象となる。
【0016】
また本発明では、前記オキシ水酸化鉄粉末を樹脂中に含有してなる重層塗布型磁気記録媒体の非磁性層が提供され、さらにその非磁性層を下層に持つ重層塗布型磁気記録媒体が提供される。このオキシ水酸化鉄粉末は、磁性層中に混在させることによって、フィラー粒子としての効果を持たせることも可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、重層塗布型磁気記録媒体の非磁性層(下層)に用いる非磁性粉末の表面官能基数を適正な存在密度に調整することにより、当該下層塗膜の表面平滑性を良好に維持しつつ、下層の塗膜強度を向上させることが可能になった。これにより、薄膜化が進む磁性層(上層)においても表面平滑性が十分に確保され、かつ、薄肉化が進む当該記録媒体において、従来強度不足が問題となっていた裁断部近傍にも繰り返しの使用に十分耐えうる物理的強度を付与することができた。したがって本発明は、今後の重層塗布型磁気記録媒体において記録密度の一層の改善および信頼性の向上に資するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
発明者らは鋭意研究により、重層塗布型磁気記録媒体の非磁性層(下層)を構成する非磁性粉末として、表面官能基数の多い粉体を使用することによって、下層の塗膜強度を顕著に高めることができることを見出した。このとき、表面平滑性も良好に維持できる。詳細な検討の結果、前記式(1)の表面官能基数が7.5×1018個/m2以上である非磁性粉末を使用することによって、下層の、特に媒体の裁断部近傍における塗膜強度を顕著に高めることが可能になる。その詳細な機構は現時点で必ずしも明確ではないが、塗料中の樹脂に対する結合点が多くなることによって粉末粒子とベースフィルムとの結着力が高まり、媒体をスリッターの刃によって裁断したときに、その裁断部近傍の粒子とベースフィルムとの結着が破壊され難くなることが考えられる。いずれにしても、表面官能基数が7.5×1018個/m2に満たない非磁性粉末を用いた場合に比べ、媒体テープを繰り返し使用したときのテープの幅方向両端部付近での破断損傷に対する抵抗力が大幅に向上することが確認された。また、塗膜強度の向上により、鋼球摺動試験によって評価される塗膜面の耐久性も同時に改善される。結合点は多ければ多いほど塗膜の物理的強度の向上には有利となり、具体的には表面官能基数が2.0×1019個/m2以上である非磁性粉末を使用することが一層好ましい。
【0019】
非磁性粉末の種類としては、ここではオキシ水酸化鉄を採用する。酸化鉄粉末の場合には原料のオキシ水酸化鉄粉末を焼成処理して生成させるときに粒子間焼結の問題が生じるが、湿式反応で生成させたオキシ水酸化鉄粉末を非磁性粉末として使用することにより粒子間焼結の問題は回避される。このため、酸化鉄粉末を用いて非磁性層を形成させる場合よりも、塗膜中への分散性および媒体テープの表面平滑性の点で有利となる。
【0020】
オキシ水酸化鉄粒子の表面官能基を増大させる手法として、当該粒子表面に希土類元素(Sc、Yも希土類元素として扱う)を存在させることが極めて有効であることがわかった。詳細は後述するが、例えば湿式反応によって生成したオキシ水酸化鉄に対して、希土類元素を用いて表面処理し、その後、洗浄および乾燥させることによって希土類元素をオキシ水酸化鉄の粒子表面に被着させることができる。
【0021】
使用できる希土類元素は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)が挙げられる。これらの1種または2種以上を使用することができる。少なくともY、La、Gd、Ndの1種以上を用いたときに表面官能基数の増加が大きくなる効果があり、一層好ましい。
【0022】
本発明のオキシ水酸化鉄粉末における希土類元素(Sc、Yも希土類元素として扱う)の存在量としては、希土類元素含有量を0.1質量%以上確保することが望ましい。これより希土類元素の存在量が少ないと、媒体テープの幅方向両端部近傍の耐久性に顕著な違いが生じるほどの表面官能基数の増大があまり期待できない。ただし、希土類元素の存在量が過剰に多くなると粒子の分散性が損なわれテープの表面平滑性に悪影響を及ぼす恐れがある。このため、オキシ水酸化鉄粉末における希土類元素の含有量は0.1〜20質量%とすることが望ましい。0.1〜17質量%とすることがより好ましく、0.7〜15質量%が一層好ましい。
【0023】
また、本発明のオキシ水酸化鉄粉末には媒体特性向上のために、Al、Si、Pの1種以上をそれぞれ50質量%以下、かつ合計50質量%以下の範囲で含ませることができる。
【0024】
Alは、オキシ水酸化鉄粉末の耐熱性を向上させ、テープ化の際の各種工程における昇温時にオキシ水酸化鉄粉末の変質を防止する作用を有する。またAlは樹脂との相溶性(なじみ性)を向上させ、非磁性層の平滑化に寄与する。これらの効果を十分に引き出すためには、0.01質量%以上のAlを確保することが望ましい。ただし、Al含有量が50質量%を超えると樹脂との相溶性が却って低下し、塗膜中の分散性が悪化する。一般的には10質量%以下のAl含有量の範囲で実用上十分な効果が得られ、通常は、0.1〜7質量%程度のAl含有量とすればよい。
【0025】
Siは、Alと同じく耐熱性および樹脂との相溶性を改善する。Si添加によりこれらの効果を十分に発揮させるためには、0.01質量%以上のSi含有量とすることが望ましい。ただし50質量%を超えると樹脂との相溶性が低下して分散性が悪化する。一般的には5質量%以下のSi含有量範囲で実用上十分な効果が得られ、通常は0.1〜5質量%程度のSi含有量とすればよい、
【0026】
Al、Si以外に、Pの含有も耐熱性向上や分散性向上に寄与しうる。P含有量も0.01〜50質量%の範囲とすることが望ましい。50質量%を超えると、やはり樹脂との相溶性が低下して分散性が悪化する。一般的には5質量%以下のP含有量で実用上十分な効果が得られ、通常は0.1〜4質量%程度のP含有量とすればよい。
【0027】
本発明のオキシ水酸化鉄粉末は、粒子の平均長軸長が10〜200nmであることが望ましく、好ましくは20〜180nm、より好ましくは20〜150nmである。粒子径が10nmよりも小さい場合、粒子間再凝集が発生してしまうため、テープの表面平滑性が低下するため好ましくない。一方、粒子径が大きい場合は、立体的に大きな粒子となってしまうため、この場合もテープ表面の平滑性が低下し、電磁変換特性に悪影響を及ぼすため好ましくない。
【0028】
本発明のオキシ水酸化鉄粉末の比表面積は、BET法により測定した比表面積において、30〜200m2/gであることが望ましく、好ましくは35〜150m2/g、より好ましくは40〜120m2/gである。BET比表面積が過剰に大きくなると塗料中での分散不良が生じ、テープ表面の平滑性が低下する。また、BET比表面積があまり小さいと凝集を伴った粉末となるため、好ましくない。
【0029】
このような本発明のオキシ水酸化鉄粉末は以下のようにして製造することができる。
まず、素材となるオキシ水酸化鉄を以下のような方法で得る。
[1]第一鉄塩水溶液に当量以上の水酸化アルカリ水溶液を加えて得られる水酸化第一鉄コロイドを含む懸濁液を用いて、pH11以上にて80℃以下の温度で酸素含有ガスを通気しながら酸化反応を進行させ、これによって液中にオキシ水酸化鉄を生成させる方法。
[2]第二鉄塩水溶液に、鉄に対し1.0〜3.5当量の水酸化アルカリ水溶液を加えて、水酸化第二鉄コロイドを含む懸濁液を10〜90℃で生成させ、その後これを2〜20h熟成してから加水分解することによりオキシ水酸化鉄粉体を生成させる方法。
[3]第一鉄塩水溶液に炭酸アルカリ水溶液を加え、さらにアルカリ水溶液を加えるかまたは加えずして得られる懸濁液を用いて、酸素含有ガスを通気しながら酸化反応を進行させ、液中にオキシ水酸化鉄を生成させる方法。
【0030】
次に、素材のオキシ水酸化鉄の粒子に対して、希土類元素化合物を粒子表面に形成する「表面処理」を施す。これによって、非磁性粉末の表面官能基数の増加を図ることができる。表面処理において、希土類元素の添加方法等に特に制限はないが、オキシ水酸化鉄のスラリーやケーキに対して希土類化合物の水溶液を添加してオキシ水酸化鉄表面に該化合物を存在させる方法が最も簡便である。
【0031】
例えば、上記[1]もしくは[3]の酸化反応または[2]の加水分解反応が終了したオキシ水酸化鉄が分散懸濁している水溶液(スラリー)を、激しく撹拌した状態にする。そこに、希土類元素含有水溶液を添加する。激しく撹拌すること、および添加後の撹拌時間も長めにとることで、粒子表面における希土類元素化合物の形成の均一化が促進される。
【0032】
別法として、予め用意してあるオキシ水酸化鉄を純水中に加えて撹拌することによって懸濁液を作製し、この懸濁液に対して前記と同様の処理を行っても良い。ただし、この場合は該懸濁液が中性付近を示すため、希土類化合物の添加時に、粒子表面に希土類元素化合物が生成しない場合がある。その場合は、液中に適当なアルカリまたは酸を入れ、懸濁液のpHを調整して処理することが良い。
【0033】
上記のようにして希土類元素を含ませたオキシ水酸化鉄のスラリーを濾過し、水洗し、その後乾燥する。この場合、水洗において、濾液が中性付近になるまで十分に洗い流すのが良い。水洗が不十分であると、液中に存在していたアルカリ分が粒子に残存してテープ信頼性の低下に繋がる恐れがある。
【0034】
前記スラリーに対して洗浄と粉砕とを同時に行う湿式粉砕を施しても良い。この粉砕を伴った洗浄を行うには、超音波洗浄機、ボールミル、チューブミル、振動ボールミル、ロッドミル、乳化分散機、サンドグラインダー、サンドミル、ダイノーミル、コロイドミル、スーパーミルなどが使用できる。また、粉砕を伴わない洗浄装置として、フィルター・プレスなどが使用できる。
【0035】
また、乾燥に関しては、含有する水分を除去するのが目的であるため、加熱温度等の条件に特に規定はないが、80〜230℃程度の温度範囲であれば十分な乾燥を行うことができる。80℃を下回る温度では、乾燥が十分に行われない可能性があり、下層塗膜中に配合させたときの分散性が低下しやすい。また、高温ほど乾燥時間を短縮できるが、230℃を超える温度では、オキシ水酸化鉄が脱水分解してα酸化鉄(ヘマタイト)化する場合があり、本発明で意図する分散性の向上が得られない可能性もあるので好ましくない。
【0036】
上記のようにして得られた乾燥品に対し、必要に応じて粉砕や解砕を施すことができる。粉砕・解砕の手法としては、前記のような湿式粉砕が適用できるが、液体を介せずに粉砕・解砕を乾式にて施してもよい。乾式での粉砕・解砕方法としてはリングローラーミル、ロールクラッシャー、エッジランナー、アトマイザー、ディスクグラインダー、ボールミル、コーヒーミル等を用いることができる。
【0037】
なお、上で述べた希土類元素の添加を省略して、希土類元素を含有しないオキシ水酸化鉄の乾燥品を得た後、その乾燥品に対して希土類元素を含む溶液中での表面処理を施すことによっても、本発明の目的を達成することができる。あるいは、上記のようにして希土類元素を存在させた乾燥品に対し、さらに希土類元素を含む溶液中での表面処理を施しても構わない。どの段階で希土類元素を付与しても、下層の表面平滑性を良好に維持しながら、下層の塗膜強度を十分に向上させることが可能である。また、2種以上の希土類元素を用いる場合も、添加の方法・タイミングとしては特に制限を受けない。
【0038】
オキシ水酸化鉄にAlを含有させる手法としては、
(i)オキシ水酸化鉄の生成反応中にAlを添加して粒子の中にAlを含ませる方法、
(ii)反応終了後にAlを液中に添加して、オキシ水酸化鉄の表面にAlを被着させる方法、
等が挙げられる。(i)(ii)等の方法を単独で行っても良いし、組み合わせて行っても良い。
Siの添加方法、およびPの添加方法についても、Alと同様の手法が採用できる。
Al、Si、Pは、希土類元素が存在する前提であれば、それぞれ単独添加しても組み合わせて添加しても構わない。
【0039】
このようにして希土類元素(Sc、Yも希土類元素として扱う)を表面に存在させ、必要に応じてAl、Si、Pの1種以上を含有させたオキシ水酸化鉄粉末が得られる。非磁性粉末の粉体特性としては、特に以下の特性を有するものが重層塗布型磁気記録媒体用の非磁性粉末として好適である。上記の製造法に従った場合、以下の好適な特性を有するオキシ水酸化鉄粉末を得ることができる。
【0040】
ステアリン酸吸着量は、0.01〜5.0mg/m2であることが望ましい。0.01〜4.0mg/m2がより好ましく、0.01〜3.0mg/m2が一層好ましい。脂肪酸の消費量が多い場合、該粉末が塗料中へ分散された際に、粉末粒子の表面と脂肪酸の(中和)反応が発生している可能性があり、テープ化した場合、添加した潤滑剤(脂肪酸)が粉末粒子への中和反応によって消費されてしまい、潤滑剤としての機能を果たさなくなってしまう可能性があることを意味する。したがって、ステアリン酸吸着量の多い粉末を使用した磁気記録媒体は、保存安定性が悪化し、データストレージ用途には適さないものとなってしまう。すなわち、ここで計測される粉末の物性値としてのステアリン酸吸着量は小さければ小さい程、潤滑剤による保存安定性の効果を維持することができる。
【0041】
塩化ビニル樹脂の吸着量は、ステアリン酸吸着量と異なり、できるだけ高い範囲にあることが好ましい。例えば0.1mg/m2以上であることが望ましい。0.3mg/m2以上がより好ましく、0.5mg/m2以上が一層好ましい。樹脂と非磁性粉末の結合量が増加すると、粒子の表面に高分子(バインダー)の厚い吸着層が生じ、高分子の架橋効果が得られるようになるため、塗膜の動的粘弾性が改善される。よって、塗膜自身の強度改善効果を得るためには、粒子表面にはできるだけ多くの高分子が吸着されることが望ましい。
【0042】
ポリウレタン樹脂の吸着量も、上記の塩化ビニル樹脂と同様の理由により、多ければ多い程好ましい。すなわち、0.1mg/m2以上であることが望ましく、0.3mg/m2以上がより好ましく、0.5mg/m2以上が一層好ましい。
【0043】
このような本発明のオキシ水酸化鉄粉末を、通常の手法によって樹脂組成物中に分散混合させて塗料とし、これをベースフィルム上に塗布することで重層塗布型磁気記録媒体の非磁性層(下層)を構築することができる。
重層塗布型磁気記録媒体の磁性層(上層)に使用する粉末、ベースフィルム、非磁性層(下層)用塗料および磁性層(上層)用塗料としては、次のものが例示できる。
【0044】
〔磁性層(上層)用の磁性粉末〕
例えば、Feに対する含有量割合として、
Co:1超え50at%、
Al:0.1〜50at%、
希土類元素(Sc、Yも希土類元素として扱う):0.1〜30at%、
周期律表第1a族元素(Li、Na、K等):0.05質量%以下、
周期律表第2a族元素(Mg、Ca、Sr、Ba等):0.1質量%以下
を含有する鉄主体の強磁性粉末であって、
平均長軸長:10〜200nm、
BET比表面積:30〜150m2/g
X線結晶粒径(Dx):5〜20nm
の形状を有する針状の強磁性粉末であり、かつ
保磁力(Hc):79.6〜238.9kA/m(1000〜3000 Oe)
飽和磁化(σs):10〜200Am2/kg(10〜200emu/g)
の磁気特性を有する磁性粉末を挙げることができる。
【0045】
〔ベースフィルム〕
重層塗布型磁気記録媒体のベースフィルムとしては、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネイト、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン・アラミド、芳香族ポリアミド、等の樹脂フィルムを挙げることができる。
【0046】
〔非磁性層(下層)用塗料〕
非磁性層(下層)を構成するための非磁性塗料としては、例えば
非磁性粉末(オキシ水酸化鉄):85質量部
カーボンブラック:20質量部
アルミナ:3質量部
塩化ビニル樹脂(MR110):15質量部
ポリウレタン樹脂(UR8200):15質量部
メチルエチルケトン:190質量部
シクロヘキサノン:80質量部
トルエン:110質量部
からなる組成の非磁性塗料を挙げることができる。
【0047】
〔磁性層(上層)用塗料〕
磁性層(上層)を構成するための磁性塗料としては、例えば
金属磁性粉末:100質量部
カーボンブラック:5質量部
アルミナ:3質量部
塩化ビニル樹脂(MR110):15質量部
ポリウレタン樹脂(UR8200):15質量部
ステアリン酸:1質量部
アセチルアセトン:1質量部
メチルエチルケトン:190質量部
シクロヘキサノン:80質量部
トルエン:110質量部
からなる組成の磁性塗料を挙げることができる。
【0048】
下層用、上層用いずれの塗料においても、各材料を所定の割合で配合し、ニーダーやサンドグラインダーなどを用いて混練・分散を行うことによって、塗料として調整することができる。得られた塗料をベースフィルム上にそれぞれ目標厚みとなるように塗布した後、磁性層が湿潤状態にあるうちに、磁場をかけて磁性層を配向させ、ついで乾燥、カレンダー処理を行うことによって磁気テープが作製できる。上に例示した強磁性粉末、ベースフィルム、塗料組成物を使用し、かつ本発明に従う非磁性粉末を使用した非磁性層を形成することによって、高密度記録に適した高性能の重層塗布型磁気記録媒体において、従来のものにはない、下層の塗膜強度が顕著に改善された耐久性の高いものが製造できる。
【0049】
その耐久性に関しては、鋼球摺動試験を行ったとき、傷幅ができるだけ狭く、また走行回数はできるだけ多い方が好ましい。具体的には、傷幅は鋼球の直径の5%以下であることが望ましく、3%以下がより好ましく、1.5%以下が一層好ましい。走行回数を表す剥離までの通過回数は、例えば600パス以上が望ましく、800パスあるいは更に900パス以上がより好ましい。また、テープの幅方向端部の鋼球摺動においては、摺動後のテープ端部についてFE−SEM観察を行い、端部における塗料落ちが無いことが望まれる。本発明に従えば、このような要求特性を満たす耐久性が実現できる。
【実施例】
【0050】
後述する各実施例、比較例で採用した各特性値の評価法を説明する。
〔粒子の長軸長および短軸長〕
これらは、透過型電子顕微鏡観察を行って求めた。具体的には以下のとおりである。
観察試料の調整は、測定サンプル約0.005gを2%コロジオン溶液10ml中に添加し、分散処理を施してから、その溶液を水に1〜2滴滴下してコロジオン膜を生成させ、これをグリッドの片面に付着させ、自然乾燥させた後に被膜強化のためにカーボン蒸着を施すことで行った。
【0051】
この試料について、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、100CX−Mark−II型)を使用し、100kVの加速電圧で、明視野での観察を行った。平均長軸長、平均短軸長の値は、電子顕微鏡写真(58000倍)を縦方向および横方向にそれぞれ3倍に引き延ばした写真をプリントし、この写真に示される粒子400個以上についてそれぞれ長軸長、短軸長を測定し、その平均値を求めることによって算出した。
長軸長は粒子の長手方向において最も長いところを測定した値を指す。短軸長は粒子の幅方向において最も長いところを測定した値を示す。
【0052】
〔粒子の軸比〕
長軸と短軸の長さの比であり、平均長軸長を平均短軸長で除した値で表す。
〔比表面積〕
BET法で測定した。
【0053】
〔表面官能基数〕
京都電子工業株式会社製、流動電位自動滴定装置AT−510WIN/PCD−500型を用いて、pHを約3に調整した常温のHNO3溶液100mL(緩衝剤として硝酸カリウム0.1mol/L添加)に被測定粉末のサンプル(網解粒済み)約0.5gを入れ、攪拌しながらpHの変化をモニターした。粉末サンプルを液に入れてからpHは上昇するが、その後落ち着き、3min経過後にはすでにpH変化はほぼ一定となる。被測定粉末を入れる前のHNO3水溶液のpH値(X1)と、被測定粉末を入れてから3min経過した時点のHNO3水溶液のpH値(X2)を前記式(1)に代入することによって表面官能基数(個/m2)を算出した。
【0054】
〔ステアリン酸吸着量(StA)〕
試料粉末をステアリン酸2%溶液(溶媒はメチルエチルケトン)に分散させた後、遠心分離器により試料粉末を沈降させ、上澄み液の濃度を求めることにより比表面積あたりの吸着量として算出した
〔塩化ビニル樹脂吸着量(MR)〕
塩化ビニル系樹脂(MR−110)の1%溶液(溶媒はメチルエチルケトンとトルエン)を使用し、ステアリン酸吸着量と同様の方法で算出した。
〔ポリウレタン樹脂吸着量(UR)〕
ポリウレタン樹脂(UR−8200)の2%溶液(溶媒はメチルエチルケトン、トルエン、およびメチルイソブチルケトン)を使用し、ステアリン酸吸着量と同様の方法で算出した。
【0055】
〔塗料化およびテープ化条件〕
塗料粘度および非磁性層(下層)としての塗膜の評価については、得られた非磁性粉末を下記の条件で塗料化し、ベースフィルム上に塗膜を形成させたテープを評価に供した。
【0056】
−塗料化−
非磁性粉末:100質量部
塩化ビニル系樹脂(MR110):10質量部
ポリウレタン樹脂(UR8200):10質量部
メチルエチルケトン:165質量部
シクロヘキサノン:65質量部
トルエン:165質量部
ステアリン酸:1質量部
アセチルアセトン:1質量部
の各材料を配合し、これを遠心ボールミルで2.5h分散させて塗料化した。
−塗膜形成−
得られた塗料をポリエチレンテレフタラートからなるベースフィルム上にアプリケーターを用いて塗膜厚みが約3μmとなるように塗布し、乾燥、カレンダーを行って非磁性層テープを得た。
【0057】
〔塗料粘度〕
株式会社東機産業製の粘度計(R110型)を用いて、非磁性粉末を分散させた非磁性塗料の粘度を測定した。
【0058】
非磁性粉末を分散させた非磁性塗料をベースフィルムに塗布して非磁性層を形成させた中間製品段階のテープ(以下「非磁性層テープ」という)について、以下の評価を行った。この非磁性層テープは、塗膜形成後にスリッターの刃により両サイドを裁断して得た、幅8mmのものである。
〔表面平滑性〕
−表面粗度−
株式会社小坂研究所製の3次元粗微細形状測定機(ET−30HK)を用いて、非磁性層テープについて、塗膜表面のRa(粗度)を測定することにより評価した。
−光沢度−
非磁性層テープについて、非磁性層塗膜表面の光沢度(角度60度)をグロスメーターで測定した。
【0059】
〔走行耐久性・塗膜強度(鋼球摺動試験)〕
非磁性層テープを塗膜面が上になるようにガラス板に貼り付け、そのガラス板を水平状態にして、テープの非磁性層塗膜面に直径5mmのステンレス鋼球を乗せ、鉛直方向に5gの荷重がかかるようにする。この状態からガラス板を水平に速度2320mm/min、ストローク20mm(片道)で往復運動させる。往復運動の方向はテープ長手方向に平行な方向である。鋼球の摺動位置はテープの幅方向の中央部となるようにした。この摺動運動において、塗膜が剥がれ落ちるまでの摺動回数を測定した。
【0060】
〔テープ幅方向端部の強度(鋼球摺動試験)〕
鋼球の摺動位置をテープの幅方向端部から約0.5mmの位置として、上記と同様条件の鋼球摺動試験を行った。すなわち、鋼球はテープの裁断部近傍の位置をテープ長手方向に摺動することになる。この摺動試験を摺動回数580パスまで行い、580パス摺動後の鋼球摺動部分をFE−SEMにて観察し、塗膜に破断箇所が生じているか否かを調べた。
【0061】
〔実施例1〕
4Lのイオン交換水に、Fe:0.7mol相当のFeSO4と1.5mol相当の炭酸アンモニウムを窒素ガス雰囲気で混合し、炭酸鉄を主体とする懸濁液を作製した(30℃)。この懸濁液を35℃±5℃の液中温度を保ちながら、攪拌しながら45min熟成し、空気を160ml/minの流量で2.5h吹き込んだ。なお、空気吹き込みの際には、空気吹き込み開始から1.5h〜1.75hの15min間に、A1含有量で0.9質量%濃度の硫酸アルミニウム水溶液34.5gを添加し続けた。Fe懸濁液のほぼ全量をオキシ水酸化鉄として析出させた(一次酸化)。
次いで、窒素ガス雰囲気として、Fe:0.3mol相当のFeSO4と5mol相当のNaOHを添加し、次に空気を230ml/minの流量で1.5h吹き込んだ(二次酸化)。
さらに、酸化終了後の懸濁液にY含有量で2.0質量%濃度の硫酸イットリウム水溶液222gを添加し、その後30min撹拌した。
【0062】
得られたスラリーを常法により濾過・水洗し、180℃の大気中で乾燥した。このようにして希土類元素(Y)が表面に存在するオキシ水酸化鉄のスラリーを得た。
得られたオキシ水酸化鉄粉末を化学分析して得た含有成分の組成、前記のようにして測定したこの粉末の諸特性、およびこの粉末を用いた非磁性層テープについてのテープ特性の測定結果を表1に示した(以下の実施例、比較例において同じ)。
【0063】
〔実施例2〕
実施例1において、硫酸イットリウム水溶液の溶液濃度はY含有量で2.0質量%のままで、水溶液添加量を4.9gとした以外は、実施例1と同条件で実験を行った。
【0064】
〔実施例3〕
実施例1において、硫酸イットリウム水溶液の溶液濃度はY含有量で2.0質量%のままで、水溶液添加量を889.1gとした以外は、実施例1と同条件で実験を行った。
【0065】
〔実施例4〕
実施例1において、硫酸イットリウム水溶液の替わりに、La含有量で0.49質量%濃度の硫酸ランタン水溶液1441gを添加した以外は、実施例1と同条件で実験を行った。
【0066】
〔実施例5〕
実施例1において、硫酸イットリウム水溶液の替わりに、Nd含有量で0.49質量%濃度の硫酸ネオジム水溶液1488gを添加した以外は、実施例1と同条件で実験を行った。
【0067】
〔実施例6〕
実施例1において、硫酸イットリウム水溶液の替わりに、Gd含有量で0.50質量%濃度の硫酸ガドリニウム水溶液1603gを添加した以外は、実施例1と同条件で実験を行った。
【0068】
〔実施例7〕
実施例1において、二次酸化終了後スラリーを30min撹拌した後に、撹拌しながらAl含有量で0.85質量%濃度の硫酸アルミニウム水溶液696.9gを添加した。硫酸アルミニウム添加後にその状態を30min保持し、次いで撹拌しながらY含有量で2.0質量%濃度の硫酸イットリウム溶液222gを添加した。硫酸イットリウム溶液添加後に撹拌状態を30min保持した。その他は実施例1と同条件で実験を行った。
【0069】
〔実施例8〕
実施例1において、硫酸イットリウムを添加し、30min撹拌した後に、撹拌しながらSi含有量で2.0質量%濃度の水ガラス(NaSiO2)水溶液177.7gを添加した。水ガラス水溶液を添加した後に、撹拌しながらH2SO4水溶液を添加して、スラリーのpHを6に調整し、その状態を40min保持した。その他は実施例1と同条件で実験を行った。
【0070】
〔実施例9〕
実施例1において、水洗までは同条件とし、得られたオキシ水酸化鉄88.85gを純水4L中に入れ、35℃に保ちながら激しく撹拌し、撹拌状態を30min維持した後、P含有量で1.7質量%濃度のリン酸水溶液66.1gを撹拌しながら添加した。その他は実施例1と同条件で実験を行った。
【0071】
〔実施例10〕
平均長軸長44nm、BET比表面積67.9m2/gのオキシ水酸化鉄88.85gを純水4Lに入れ、35℃に保ちながら激しく撹拌し、NH3水溶液にてpHを9に調整した。pH調整後、撹拌状態を30min維持した。次いで撹拌状態のまま、Y含有量で2.0質量%濃度の硫酸イットリウム水溶液222gを添加し、添加後も30min撹拌した。その他は実施例1と同条件で実験を行った。
【0072】
〔実施例11〕
実施例10において、平均長軸長150nm、BET比表面積47.2m2/gのオキシ水酸化鉄を使用した以外は、実施例10と同条件で実験を行った。
〔実施例12〕
実施例10において、平均長軸長70nm、BET比表面積50.0m2/gのオキシ水酸化鉄を使用した以外は、実施例10と同条件で実験を行った。
【0073】
〔実施例13〕
実施例10において、平均長軸長100nm、BET比表面積44.4m2/gのオキシ水酸化鉄を使用した以外は、実施例10と同条件で実験を行った。
【0074】
〔比較例1〕
実施例1において、硫酸イットリウムの添加を行わなかった以外は、実施例1と同条件で実験を行った。
【0075】
【表1】

【0076】
表1からわかるように、各実施例においては、表面官能基数を7.5×1018個/m2以上に増大化したオキシ水酸化鉄粉末が得られた。この粉末を使用することにより、表面平滑性に優れた非磁性層塗膜が得られている。なお、実施例11〜13の塗料粘度の測定値に関しては、使用した非磁性粉末のBET比表面積が比較的低いために、実施例1〜10と同一条件で塗料を作製したときに、実施例1〜10よりも塗料粘度が高くなったものと考えられる。
【0077】
テープ耐久性を示す鋼球摺動評価においては、テープ幅方向中央位置での摺動パス回数が800回以上をクリアしており、良好な結果となっている。さらに、テープ幅方向端部近傍の物理的強度にも優れていた。すなわち、非磁性粉末として表面官能基数を7.5×1018個/m2以上に増大させたオキシ水酸化鉄粉末を使用したことにより、塗膜強度の顕著な改善が実現できた。
【0078】
これに対し、比較例1のオキシ水酸化鉄粉末は表面官能基数が少ないことにより、粉末粒子と樹脂との結着力が実施例のものより劣ったと考えられ、テープの幅方向端部近傍での物理的強度の向上が不十分であった。
【0079】
参考のため、図1、図2に、テープ幅方向端部近傍について鋼球摺動試験(580パス)を行った後の塗膜表面についてのSEM写真を示す。図1が比較例1、図2が実施例1である。図中矢印の位置がテープ幅方向端部に相当し、写真の左端から右端までの距離は1.27mmである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】比較例1のテープについて、テープ幅方向端部近傍における鋼球摺動試験(580パス)後の塗膜表面の状態を示したSEM写真。
【図2】実施例1のテープについて、テープ幅方向端部近傍における鋼球摺動試験(580パス)後の塗膜表面の状態を示したSEM写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面官能基数が7.5×1018個/m2以上である重層塗布型磁気記録媒体用オキシ水酸化鉄粉末。
【請求項2】
粒子表面に希土類元素(Sc、Yも希土類元素として扱う)を有する請求項1に記載の重層塗布型磁気記録媒体用オキシ水酸化鉄粉末。
【請求項3】
透過型電子顕微鏡写真より計測される平均長軸長が10〜200nm、BET法による比表面積が30〜200m2/gである請求項1または2に記載の重層塗布型磁気記録媒体用オキシ水酸化鉄粉末。
【請求項4】
重層塗布型磁気記録媒体の非磁性層に用いる請求項1〜3に記載のオキシ水酸化鉄粉末。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のオキシ水酸化鉄粉末を樹脂中に含有してなる重層塗布型磁気記録媒体の非磁性層。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のオキシ水酸化鉄粉末を樹脂中に含有してなる非磁性層を有する重層塗布型磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−299459(P2007−299459A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125739(P2006−125739)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】