説明

重金属を吸収した植物からの重金属回収システム

【課題】 焼却処理による重金属の飛散等の諸問題が生じる可能性を低減させるとともに、植物バイオマスの有効利用を可能とする、より環境負荷の少ない重金属吸収植物体からの重金属回収システム及び重金属回収方法の提供。
【解決手段】 重金属を吸収した植物に対して加水分解処理を施し、5炭糖及び/又は6炭糖を回収する工程と、上記工程で回収した5炭糖及び/又は6炭糖を含む溶液に対してアルコール発酵処理を施し、上記工程で得られた発酵液からアルコールを分離し回収する工程と、上記発酵液からアルコールを分離し回収した後の残査水溶液から重金属を回収する工程とを含む重金属含有植物からの重金属回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属を吸収した植物から重金属と植物中の糖質をアルコールに変換するとともに、重金属を回収することができる重金属回収システム及び重金属回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重金属汚染土壌や汚染水から植物を利用して重金属を吸収させる技術(ファイトレメデイエーション技術)が知られている(例えば、特許文献1(特開2003-319787号))。また、重金属を吸収させた植物の後処理方法としては、一般的には当該植物を焼却処理している(非特許文献1(土木施工、2003年、vol.44,No.12))。
【0003】
非特許文献1に示すように、汚染土壌や水質に含まれる重金属を植物によって除去し、重金属を吸収した植物を焼却する場合、重金属の中にはヒ素のように焼却によって飛散しやすいものもあり、ダイオキシンと同様にバグフィルターの設置などのダスト対策が必要となる。この場合、焼却施設に高いコストがかかることとなる。また、バイオマス資源である植物体を単に焼却して炭酸ガスを大気に放出する事は、エネルギー利用や空気中の炭酸ガス濃度を増大させて地球温暖化にも繋がるため環境浄化技術としては好もしくはない。そこで、重金属を植物によって除去するシステムにおいては、焼却によらない植物体中の重金属の処理方法が望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開2003-319787号
【非特許文献1】土木施工、2003年、vol.44,No.12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は上述したような実状に鑑み、焼却処理による重金属の飛散等の諸問題が生じる可能性を低減させるとともに、植物バイオマスの有効利用を可能とする、より環境負荷の少ない重金属吸収植物体からの重金属回収システム及び重金属回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成した本発明は、以下を包含する。
【0007】
(1)重金属を吸収した植物に対して加水分解処理を施し、5炭糖及び/又は6炭糖を回収する工程と、上記工程で回収した5炭糖及び/又は6炭糖を含む溶液に対してアルコール発酵処理を施し、上記工程で得られた発酵液からアルコールを分離し回収する工程と、上記発酵液からアルコールを分離し回収した後の残査水溶液から重金属を回収する工程とを含む重金属含有植物からの重金属回収方法。
【0008】
(2)上記加水分解処理は、上記重金属を吸収した植物を硫酸中で加熱及び加圧した条件下で行うことを特徴とする(1)記載の重金属回収方法。
【0009】
(3)上記重金属は、カドミウム、ヒ素及び鉛から選ばれる少なくとも一種の重金属であることを特徴とする(1)記載の重金属回収方法。
【0010】
(4)上記加水分解処理液中の糖分をアルコールに変換する方法が微生物によるアルコール発酵であることを特徴とする(1)記載の重金属回収方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る重金属回収方法によれば、重金属汚染土壌や汚染水などから重金属を吸収した植物から、効率よく重金属を回収することができ、また、植物バイオマスを有効に利用することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明に係る重金属回収方法を適用したシステムを図1に模式的に示す。すなわち、本システムは、重金属を吸収した植物を重金属含有植物系バイオマスとして利用し、重金属を回収するとともにバイオマス成分を有効に変換しエネルギーとして回収するシステムである。
【0014】
本システムにおいて、植物としては、特に限定されず、イネ、ソルガム、トウモロコシ、リードカナリーグラス、草本(芝生)、ポプラやタマリクスなどの木本(広葉樹及び針葉樹)、シダ類等の陸生植物、ホテイアオイ、ハス、ウオーターレタス、ヨシ及びアマモ等の水生植物を使用することができる。また、植物としては、後述する加水分解処理によって単糖レベルにまで分解効率に優れたものを使用することが望ましい。より詳しくは、単糖類、2糖類、オリゴ糖類、多糖類(デンプンやヘミセルロース、セルロース、ペクチン)含量が多い植物を使用することが好ましい。ここでヘミセルロースとしては、5炭糖を主鎖とするキシランや5炭糖を側鎖に有するキシログルカンを挙げることができる。特に、重金属の吸収効率、や環境適応性等の観点から、アオイ科、アカザ科、アカバナ科、アケビ科、アブラナ科、アカネ科、アヤメ科、イソマツ科、イネ科、イワヒバ科、イヌガヤ科、イノモトソウ科、ウラボシ科、ウキクサ科、ウコギ科、オシダ科、オシロイバナ科、オミナエシ科、カタバミ科、カンナ科、ガマ科、カエデ科、カバノキ科、カヤツリグサ科、キキョウ科、キツネノマゴ科、キョウチクトウ科、キンポウゲ科、ギョリュウ科、キク科、クルミ科、クスノキ科、クジャクシダ科、クマツヅラ科、グミ科、クワ科、ケシ科、ゴマノハグサ科、ゴマ科、ゴム科、サトイモ科、シキミ科、シシガラシ科、シソ科、シュウカイドウ科、ジョウガ科、ジンチョウゲ科、シナノキ科、スイカズラ科、スベリヒユ科、スミレ科、セリ科、ゼンマイ科、スギ科、スイレン科、セリ科、センダン科、タマシダ科、タデ科、ツツジ科、ツゲ科、ツバキ科、ツユクサ科、ツリフネソウ科、ツルナ科、トウダイグサ科、トクサ科、トケイソウ科、トベラ科、トチノキ科、トチュウ科、ナス科、ナデシコ科、ニシキギ科、ノウゼンカズラ科、ノウゼンハレン科、ナンヨウスギ科、ナデシコ科、ニレ科、ハゼリソウ科、ハナジノブ科、ハソハギ科、バラ科、ヒガンバナ科、ヒノキ科、ヒルガオ科、ヒユ科、フウチョウソウ科、フウロウソウ科、フジウツギ科、ブドウ科、ブナ科、フトモモ科、ベンケイソウ科、ボタン科、マツムシソウ科、マンサク科、マメ科、マツ科、ミズアオイ科、ムラサキ科、メギ科、モクセイ科、モクレン科、モチノキ科、ヤナギ科、ヤブコウジ科、ユキノシタ科、ワラビ科、ヤシ科、ユリ科、例えば、アカザ科のヤマホウレンソウ、フダンソウ、アカザ、シロザ、ホウキギ、ホコガタアカザ、アブラナ科に属するカラシナ、アルプスグンバイナズナ、キカラシ、ハタザオ、アオイ科に属するケナフ、オクラ、トロロアオイ、イネ科に属するイネ、ヨシ、ツルヨシ、リードカナリーグラス、カナリーグラス、パンパスグラス、ソルガム、センチピード、ナギナタガヤ、ヒエ、トールフェスク、ノシバ、コウライシバ、ベチベルグラス、トールフェスク、スーダングラス、オーチャードグラス、ペレニアルライグラス、バヒアグラス、ギニアグラス、トウモロコシ、エンバク、スズメノヒエ、イグサ、オオムギ、イノモトソウ科のモエジマシダ、オシダ科のヘビノネゴザ、キク科のヒマワリ、セイタカアワダチソウ、ギョウリュウ科のタマリクス、セリ科のオオウイキョウ、タデ科イタドリ、ナデシコ科のタツタナデシコ、バラ科のヤマブキ、ハゼリソウ科のハゼリソウ、ヒルガオ科のダイカンドラ、ベンケイソウ科のメキシコマンネングサ、マメ科に属するタヌキマメ、アカクローバー、シロクローバー、クリムソンクローバー、レンゲ、セスバニア、フェアリーベッチ、アルファルファ、ミズアオイ科に属するホテイアオイ、ヤナギ科のアカメヤナギ、ポプラといった植物を使用することが好ましい。
【0015】
これら植物を、重金属を含む汚染土壌等で栽培することによって、汚染土壌中の重金属を植物内に蓄積することができる。また、これら植物は、重金属を含む汚染土壌に限定されず、例えば、重金属を含む汚染水域や、浚渫した底泥等で栽培することも可能である。ここで、「植物を栽培する」とは、これら植物の種子を播種して栽培すること、及び、植物を異なる場所から移植して栽培することを含む意味である。
【0016】
また植物の栽培期間は、植物の種類と汚染土壌における重金属濃度、気象条件とに基づいて決定することができるが、例えば、ケナフの場合は80〜120日間、イネの場合は90〜180日間、ソルガムの場合は90〜150日、リードカナリーグラスの場合は180〜210日とすることができる。
【0017】
重金属を吸収した植物を収穫した後、後述するように、植物に対して加水分解処理を施すが、当該加水分解処理に先立って収穫した植物をサイレージ化することが望ましい。ここでサイレージ化とは、収穫した植物をサイロ等の保存庫において乳酸発酵させることを意味する。収穫した植物をサイレージ化することによって、重金属を含む植物を比較的に長時間保存することができる。その結果、重金属を含む植物をサイレージ化することによって、後述する工程を分散して実施することができ、後述する工程を実施するためのプラント規模を小さくすることができる。
【0018】
次に、本システムにおいては、収穫した重金属を含む植物或いはサイレージ化された植物に対して加水分解処理を施し、5炭糖及び/又は6炭糖を回収する。本工程は、例えば
硫酸溶液(好ましくは1%〜75%の硫酸濃度)、加水分解酵素溶液、加水分解酵素を分泌するエタノール発酵能力を有する微生物、加水分解酵素を菌体表面に固定露出したエタノール発酵能力を有する微生物等を使用することができる。より具体的に、5炭糖及び6炭糖を回収する手法としては、先ず、比較的穏やかな条件下で植物を硫酸溶液中で処理してヘミセルロース中の5炭糖、6炭糖を回収し、その後、比較的厳しい条件下で植物残査を硫酸溶液中で処理することで6炭糖を回収することができる。
【0019】
また、加水分解処理によって5炭糖及び/又は6炭糖を回収する方法としては、上述した酸処理に限らず、超臨界水法、酵素分解法、加水分解酵素を分泌するエタノール発酵能力を有する微生物、加水分解酵素を菌体表面に固定露出したエタノール発酵能力を有する微生物といった手法を適用することもできる。
【0020】
次に、本システムにおいては、上記工程で回収した5炭糖及び/又は6炭糖を含む溶液に対してアルコール発酵処理を施し、上記溶液中の糖類をアルコールに変換する。本工程において、アルコール発酵処理としては、上記工程で回収した5炭糖及び/又は6炭糖を含む溶液に対してアルコール発酵に関与する酵素を添加してアルコール発酵反応を進行させる処理、及び、上記工程で回収した5炭糖及び/又は6炭糖を含む溶液に対してアルコール発酵能を有する微生物を添加して当該微生物の作用によりアルコール発酵反応を進行させる処理を挙げることができる。なお、上記工程で回収した5炭糖及び/又は6炭糖を含む溶液は、アルコール発酵処理に適したpHに調節した後、当該アルコール発酵処理が施される。
【0021】
ここで、ブドウ糖からアルコールの生成に関与する一連の酵素としては、ヘキソキナーゼ、グルコースホスフェートイソメラーゼ、アルドラーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、ホスホグリセレートキナーゼ、ホススグリセロムターゼ、エノラーゼ、ピルビン酸キナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼを挙げることができる。
【0022】
また、アルコール発酵能を有する微生物としては、出芽酵母サッカロミセス属(Saccharomayces属)、分裂酵母シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces属)、ピヒア属(Pichia属)、ブレタノミセス属(Brettanomyces 属)、キャンディダ属(Candida 属)、ザイモモナス属(Zymomonas属)、サーモアナエロビウム ブロキ(Thermoanaerobium brockii)、クロストリジウム属(Clostridium属)や遺伝子組換えを施した微生物群を挙げることができる。
【0023】
本工程によれば、重金属を吸収した植物から重金属を水層に分離するとともに、当該植物のセルロールやヘミセルロースといった糖質を原料としてアルコール変換することができる。
【0024】
次に、本システムにおいては、上記工程で分離した残査水溶液から重金属を回収する。重金属の回収方法としては、例えば、凝集沈澱法、イオン浮選、イオン交換法、アマルガム法、酸化分解−無機化法、吸着法を挙げることができる。具体的には、重金属の種類に応じて上述した方法のなかから適した方法を使用する。例えば、重金属がカドミウムである場合、水酸化物凝集沈澱法、硫化物凝集沈澱法、イオン浮選、イオン交換法を使用することが好ましい。また、重金属がヒ素である場合、凝集共沈法、硫化物沈澱法、吸着法、イオン交換法を使用することが好ましい。また、重金属が鉛である場合、凝集沈澱物、イオン交換法を使用することが好ましい。
【0025】
また、本システムでは、アルコール発酵処理によってアルコールに変換した後、発酵液からアルコールを回収することができる。回収したアルコールは、様々な分野で利用することができる。アルコール水溶液からアルコールを回収する方法は、特に限定されないが、例えば蒸留法、膜分離法又は両者を組み合せた方法を挙げることができる。蒸留法には、気液平衡による分類からみて普通蒸留方式、共沸点方式、抽出蒸留方式があるが、本システムにおいてはいずれの方式でもよい。蒸留法には、操作圧力による分類からみて減圧方式、常圧方式、加圧方式があるが、本システムにおいてはいずれの方式でもよい。装置形態としては、単式、連続式、一般蒸留方式、複合蒸留方式、多重効用蒸留方式があるが、本システムにおいてはいずれの方式でもよい。操作方式による違いにより、連続蒸留方式、バッチ式があるが、本システムにおいてはいずれの方式でもよい。本システムにおいて、アルコール純度の観点からみて共沸点方式と多重効用蒸留方式の組み合わせが望ましい。膜分離法としては、逆浸透法、膜蒸留法、蒸気透過法、パーベーパレーション法があるが、本システムにおいてはいずれの方法でもよい。中でも、パーベーパレーション法でのゼオライト膜の利用が省エネルギー点からみて望ましい。
【0026】
さらに、本システムでは、重金属を吸収した植物からは、アルコール原料の糖質以外にリグニンを副産物として回収することもできる。リグニンを回収する手法としては、例えば、加水分解した後の固形物をろ過や遠心分離によって分離する方法などがある。
【0027】
以上、説明したように、本発明に係る重金属回収方法及び当該方法を適用したシステムによれば、汚染土壌等から効率よく重金属を回収できると共に、重金属の回収に利用した植物バイオマスを有効に利用することができる。また、本発明に係る重金属回収方法及び当該方法を適用したシステムによれば、重金属を回収するに際して重金属の飛散を防止することもできる。特に、本発明に係る重金属回収方法及び当該方法を適用したシステムによれば、従来における使用済みの植物バイオマスの焼却処理を回避できるといった、優れた環境浄化技術を提供することが可能となる。さらに、本発明に係る重金属回収方法及び当該方法を適用したシステムによれば、植物バイオマスを有効に利用することができるため、重金属の回収効率の向上と相俟って、重金属の回収コストを大幅に削減することも可能となる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
〔実施例1〕
ケナフからのカドミウム回収とエタノール生産
カドミウム含有黒ボク土壌(カドミウム含量7ppm)をワグネルポットに乾燥土壌として200g充填し、これに対して、肥料として国際稲研究所(IRRI)の水耕培地(組成は表1参照)を42ml添加し、試験土壌を作製した。
【0030】
【表1】

【0031】
一方、本実施例に使用するケナフは、予めバーミキュライトとパーライトを1:1で混合した育苗培土に播種し、発芽後13日目に試験土壌に移植した。移植後、100日目に育成したケナフを地上部、地下部とも全て収穫し、1次破砕(50mm以下)、2次破砕(6mm以下)した。一部をサンプリングしてカドミウムの含有量を測定したところ、乾燥重量当たり35mg/kgカドミウムを含んでいた。
【0032】
本破砕物10kgを1%硫酸に浸し、圧力釜中にて150〜160℃の温度とその飽和蒸気圧となる5〜6kg/cm2の圧力を10分間かけた。この処理によって、硫酸溶液中に5炭糖成分および6炭糖成分を抽出することができた。次に、この溶液に消石灰を添加して中和した。中和後の溶液を1次発酵槽に入れエタノール発酵酵母(Candida shehatae、IFO1983T)を添加してエタノール発酵を行った。
【0033】
次に、溶液中の植物残査を回収し、2%硫酸に浸し、圧力釜中にて200℃の温度と、20kg/cm2の圧力を1分間かけた。この処理によって、6炭糖成分を抽出することができた。次に、この溶液に消石灰を添加して中和した。中和後の溶液を2次発酵槽に入れ出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae、 IFO2347)を添加してエタノール発酵を行った。
【0034】
次に、この1次発酵槽及び2次発酵槽から発酵液を回収した後、蒸留、脱水を行ったところ、1.1Lのエタノールを回収することができた。
【0035】
一方、1次発酵槽及び2次発酵槽からアルコールを回収した後の廃液を濃縮し、消石灰を添加してpHを9〜10に調整して水酸化物凝集沈殿反応{CdSO4+Ca(OH)2→Cd(OH)2↓+CaS04↓}を行った。その結果、沈澱物中に290mgのカドミウムを回収することができた。さらに、水酸化物凝集沈殿反応後の上清1.7kgのカドミウム濃度を調査した結果、約1ppmであった。そこで、捕集剤ザンセート(Xanthate、アミルザンセート)を6g添加して沈澱浮選を行った。その結果、カドミウムを2mgを回収し、廃液中カドミウム濃度を0.01ppm以下に落とすことができた。
【0036】
以上の処理によって、浄化に使用したケナフに含まれるカドミウムを99%回収し、バイオマスに含まれるリグニン成分12%を除く、糖質部分より0.11L/kgの割合でエタノールを回収することができた。
【0037】
〔実施例2〕
シダ(ヘビノネゴザ)からのヒ素回収とエタノール生産
本実施例では、国内山地より採取したヘビノネゴザを使用した。ヒ素含有黒ボク土壌(ヒ素含有量600mg/kg)をワグネルポットに乾燥土壌として200g充填し、これに対して肥料として上記IRRIの水耕培地(表1)を42ml添加し、試験土壌を作製した。
【0038】
次に、ヘビノネゴザの胞子播種から育成期間として5ヶ月経過した植物体を、試験土壌に移植した。移植後120目目に育成したヘビノネゴザを地上部、地下部とも全て収穫した中20kgを、1次破砕(50mm以下)、2次破砕(6mm以下)した。一部をサンプリングしてヒ素の含有量を測定したところ、乾燥重量当たり5000mg/kgのヒ素を含んでいた。
【0039】
本破砕物を1%硫酸に浸し、圧力釜中にて150〜160℃の温度とその飽和蒸気圧となる5〜6kg/cm2の圧力を10分間かけた。この処理によって、硫酸溶液中に5炭糖成分を抽出することができた。次に、この溶液に消石灰を添加して中和した。中和後の溶液を、1次発酵槽に入れエタノール発酵微生物を添加してエタノール発酵を行った。
【0040】
次に、溶液中の植物残査を回収し、2%硫酸に浸し、圧力釜中にて200℃の温度と、20kg/cm2の圧力を1分間かけた。この処理によって、6炭糖成分を抽出することができた。次に、この溶液に石灰を添加して中和した。中和後の溶液を2次発酵槽に入れ出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae、 IFO2347)を添加してエタノール発酵を行った。
【0041】
次に、1次発酵槽及び2次発酵槽からアルコールを回収した後、蒸留脱水を行ったところ、2.7Lのエタノールを回収することができた。
【0042】
一方、1次発酵槽及び2次発酵槽からアルコールを回収した後の廃液を濃縮し、1.9kgとした。濃縮後のヒ素濃度は12857ppmだった。pHが3〜8になっている事を確認して、次亜塩素酸ソーダと塩化第2鉄を濃縮後の廃液に添加し、30分間撹絆を行ったところ、廃液中のヒ素濃度は約O.1ppmとなり、沈澱物では25gのヒ素が認められた。
【0043】
以上の処理によって、浄化に使用したヘビノネゴザに含まれるヒ素を99%以上回収することができた。また、バイオマスに含まれるリグニン成分 25%を除く、糖質部分より0.13L/kgの割合でエタノールを回収することができた。
【0044】
〔実施例3〕
浄化終了後にサイレージ化して貯蔵した稲ワラからのカドミウム回収とエタノール生産
カドミウム含有黒ボク土壌(カドミウム含量7ppm)をワグネルポットに乾燥土壌として200g充填し、これに対して、肥料としてIRRIの水耕培地(表1)を42m1添加し、試験土壌を作製した。
【0045】
本実施例に使用するイネは、予めバーミキュライトとパーライトを1:1で混合した育苗培土に播種し、発芽後13目目に試験土壌に移植した。移植後、100目目に育成した稲を地上部、地下部とも全て収穫した。サイレージ化のための、収穫した稲ワラをラッピングマシーンで密封した。貯蔵2ヶ月後に、稲ワラのラッピングを開封した。稲ワラ貯蔵物(水分含量15%)の10kgを1次破砕(50mm以下)、2次破砕(6mm以下)した。一部をサンプリングしてカドミウムの含有量を測定したところ、乾燥重量当たり2.3mg/kgのカドミウムを含んでいた。
【0046】
本破砕物を1%硫酸に浸し、圧力釜中にて150〜160℃の温度とその飽和蒸気圧となる5〜6kg/cm2の圧力を10分間かけた。この処理によって、硫酸溶液中に5炭糖成分を抽出することができた。次に、この溶液に石灰を添加して中和した。中和後の溶液を1次発酵槽に入れ、エタノール発酵微生物を添加してエタノール発酵を行った。
【0047】
次に、溶液中の植物残査を回収し、2%硫酸に浸し、圧力釜中にて200℃の温度と、20kg/cm2の圧力を1分間かけた。この処理によって、6炭糖成分を抽出することができた。次に、この溶液に石灰を添加して中和した。中和後の溶液を2次発酵槽に入れ出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae、 IFO2347)を添加してエタノーノ発酵を行った。
【0048】
次に、この1次発酵槽及び2次発酵槽からアルコールを回収した後、蒸留脱水を行ったところ、1.2Lのエタノールを回収することができた。
【0049】
一方、1次発酵槽及び2次発酵槽からアルコールを回収した後の廃液を濃縮し、消石灰を添加してpHを9〜10に調整して水酸化物凝集沈殿反応を行った。その結果、沈澱物中に1.8mgのカドミウムを回収することができた。さらに、水酸化物凝集沈殿反応後の廃液0.3kgのカドミウム濃度を調査した結果、約O.5ppmであった。そこで、捕集剤サンゼート(アミルサンゼート)を0.5g添加して沈澱浮選を行い、廃液中カドミウム濃度を0.01ppmに落とすことができた。
【0050】
以上の処理によって、サイレージ化した稲ワラに含まれるカドミウムを99%回収し、バイオマスに含まれるリグニン成分12%などを除く、糖質部分より0.19L/kgの割合でエタノールを回収することができた。
【0051】
〔実施例4〕
シバからの鉛回収とエタノール生産
鉛汚染土壌(鉛含量10000 mg/kg)をワグネルポットに乾燥土壌として200g充填し、これに対して、肥料としてIRRIの水耕培地(表1)を42m1添加し、試験土壌を作製した。
【0052】
本実施例に使用するシバ(トールフェスク)を試験土壌に播種した。移植後、100目目に育成したシバの地上部を収穫した。収穫物(水分含量75%)の中30kgを1次破砕(50mm以下)、2次破砕(6mm以下)した。一部をサンプリングして鉛の含有量を測定したところ、乾燥重量当たり250mg/kgの鉛を含んでいた。
【0053】
本破砕物を1%硫酸に浸し、圧力釜中にて150〜160℃の温度とその飽和蒸気圧となる5〜6kg/cm2の圧力を10分間かけた。この処理によって、硫酸溶液中に5炭糖成分を抽出することができた。次に、この溶液に消石灰を添加してpH3.0まで調整した。この溶液に硫酸第二鉄を添加した後、さらに消石灰を添加して中和した。中和後の溶液を1次発酵槽に入れ、エタノール発酵微生物を添加してエタノール発酵を行った。
【0054】
次に、溶液中の植物残査を回収し、2%硫酸に浸し、圧力釜中にて200℃の温度と、20kg/cm2の圧力を1分間かけた。この処理によって、6炭糖成分を抽出することができた。次に、この溶液に消石灰を添加してpH3.0まで調整した。この溶液に硫酸第二鉄を添加した後、さらに消石灰を添加して中和した。中和後の溶液を2次発酵槽に入れ出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae、 IFO2347)を添加してエタノール発酵を行った。
【0055】
次に、この1次発酵槽及び2次発酵槽からアルコールを回収した後、蒸留脱水を行ったところ、1.9Lのエタノールを回収することができた。
【0056】
一方、1次発酵槽及び2次発酵槽からアルコールを回収した後の廃液を濃縮し、消石灰を添加してpHを9〜10に調整して水酸化物凝集沈殿反応を行った。その結果、沈澱物中に187mgの鉛を回収することができた。さらに、水酸化物凝集沈殿反応後の廃液1.5kgの鉛濃度を調査した結果、約0.1ppmだった。
【0057】
以上の処理によって、トールフェスク地上部に含まれる鉛を99%回収し、バイオマスに含まれるリグニン成分25%などを除く、糖質部分より0.065L/kgの割合でエタノールを回収することができた。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る重金属回収方法を適用したシステムを模式的に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属を吸収した植物に対して加水分解処理を施し、5炭糖及び/又は6炭糖を回収する工程と、上記工程で回収した5炭糖及び/又は6炭糖を含む溶液に対してアルコール発酵処理を施し、上記工程で得られた発酵液からアルコールを分離し回収する工程と、上記発酵液からアルコールを分離し回収した後の残査水溶液から重金属を回収する工程とを含む重金属含有植物からの重金属回収方法。
【請求項2】
上記加水分解処理は、上記重金属を吸収した植物を硫酸中で加熱及び加圧した条件下で行うことを特徴とする請求項1記載の重金属回収方法。
【請求項3】
上記重金属は、カドミウム、ヒ素及び鉛から選ばれる少なくとも一種の重金属であることを特徴とする請求項1記載の重金属回収方法。
【請求項4】
上記加水分解処理液中の糖分をアルコールに変換する方法が微生物によるアルコール発酵であることを特徴とする請求項1記載の重金属回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−167632(P2006−167632A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364882(P2004−364882)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000165273)月島機械株式会社 (253)
【出願人】(500505348)丸紅テクノシステム株式会社 (3)
【Fターム(参考)】