説明

野球用スパイクシューズ

【課題】 蹴り出し時のグリップ性を向上できる野球用スパイクシューズを提供する。
【解決手段】 アウトソール1の前足部におけるスパイクが、前足部の最前端に配置されたスパイクを含む前側スパイクプレート2と、前側スパイクプレート2の後方に配置され、前足部の最後端に配置されたスパイクを含む後側スパイクプレート3とに設けられており、アウトソール1の全長をLとし、アウトソール1の踵後端縁から後側スパイクプレート3の最後端縁までの距離をLとするとき、0.570<L/L<0.590の関係が成立しており、さらに、前側スパイクプレート2における外甲側の最外側のスパイク22の中心と、後側スパイクプレート3における最前端のスパイク31の中心との距離をLとするとき、0.155<L/L<0.160の関係が成立している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野球用スパイクシューズに関し、とくに蹴り出し時のグリップ性を向上させるための構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
野球用スパイクシューズとして、たとえば特開平9−173104号公報に示すようなものが提案されている。同公報に示すものでは、前足部の屈曲性を向上させるように各スパイクの位置および向きが決定されている。
【0003】
ところが、最近になって、前足部の屈曲性のみを追求していたのでは、却って安定性を欠き、蹴り出しのグリップ性を低下させることが分かってきた。
【特許文献1】特開平9−173104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、蹴り出しのグリップ性を向上できる野球用スパイクシューズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明に係る発明者は、スパイク配置が異なる種々のシューズを用意し、これらのシューズのうち、シューズ着用者がグリップ性を良好なものと体感できるシューズと、そうでないシューズについて、このようなグリップ性に違いが生じる条件を求めようとした。
【0006】
まず、各シューズのアウトソールに有限要素法(FEM)を適用することにより、蹴り出しの際のアウトソール屈曲時におけるアウトソールの変形の仕方について解析を行った。
【0007】
その結果、着用者の足指の第1趾先端部の外側に位置するアウトソール領域(図1中の領域A参照)における蹴り出し時の曲げ変形にともなう剪断ひずみが、アウトソール全体の蹴り出し時の曲げ変形にともなう剪断ひずみと逆符号になっている場合に、シューズ着用者が蹴り出し時のグリップ性を良好なものと体感できることが分かった。
【0008】
そこで、本願発明者は、さらに解析を行って、足指の第1趾先端部の外側に位置するアウトソール領域Aにおける曲げ変形時の剪断ひずみがアウトソール全体の曲げ変形時の剪断ひずみに対して逆符号となる条件を求めた。
【0009】
この解析においては、アウトソールの前足部に前側スパイクプレートおよび後側スパイクプレートを有しかつ各スパイクプレートがいずれも3本のスパイクから構成されているスパイクシューズを例にとった。また、各スパイクプレートの面積や、各スパイクの傾斜角度、各スパイクのアウトソール内の位置、各スパイク間の相対的位置関係などについて詳細に解析を行った。
【0010】
こうした解析によって、各スパイクプレートの面積や各スパイクの傾斜角度は、前記アウトソール領域Aの曲げ変形時の剪断ひずみを逆符号とする条件には無関係であることが分かった。そして、前記アウトソール領域Aの曲げ変形時の剪断ひずみを逆符号とする条件は、アウトソールの踵後端縁から後側スパイクプレートの最後端縁までの距離Lと、前足部の前側スパイクプレートにおける最外側のスパイクの中心から後側スパイクプレートにおける最前端のスパイクの中心までの距離Lとに応じて定まることが分かった。本発明は、このような解析結果に基づいてなされたものである。
【0011】
本願の請求項1の発明に係る野球用スパイクシューズは、アウトソールの前足部におけるスパイクが、前足部の最前端に配置されたスパイクを含む前側スパイクプレートと、前側スパイクプレートの後方に配置され、前足部の最後端に配置されたスパイクを含む後側スパイクプレートとに設けられており、アウトソールの全長をLとし、アウトソールの踵後端縁から後側スパイクプレートの最後端縁までの距離をLとするとき、0.570<L/L<0.590の関係が成立している。さらに、前側スパイクプレートにおける外甲側の最外側のスパイクの中心と、後側スパイクプレートにおける最前端のスパイクの中心との距離をLとするとき、0.155<L/L<0.160 の関係が成立している。
【0012】
,Lの間およびL,Lの間にそれぞれ上記関係が成立しているとき、図2および図3に示すように、着用者の第1趾先端部の外側に位置するアウトソール領域Aにおける蹴り出し時の曲げ変形にともなう剪断ひずみが「+」となり、これは、アウトソール領域Aにおける蹴り出し時の曲げ変形にともなう剪断ひずみがアウトソール全体の曲げ変形にともなう「−」の剪断ひずみに対して逆向きの符号を有していることを表わしている。言い換えれば、この場合には、アウトソール領域Aに作用する剪断力の向きがアウトソール全体に作用する剪断力の向きと逆向きになる。
【0013】
これにより、蹴り出し時の力がロスすることなく、そのままグリップ力としてスパイクから接地面に確実に伝達されるようになって、シューズ着用者が蹴り出し時のグリップ性を良好なものと体感できるようになり、野球用スパイクシューズとしてのグリップ性を向上できる。
【0014】
これに対して、アウトソール領域Aにおける蹴り出し時の曲げ変形にともなう剪断ひずみがアウトソール全体の曲げ変形にともなう剪断ひずみと同符号である場合には、蹴り出し時の力がアウトソールの曲げ変形に用いられる結果、蹴り出し時の力の一部しかグリップ力として接地面に伝達されず、シューズ着用者が蹴り出し時のグリップ性を良好なものと体感することができない。
【0015】
請求項2の発明においては、前側スパイクプレートおよび後側スパイクプレートが、いずれも3本のスパイクから構成されている。
【0016】
請求項3の発明においては、アウトソールの前足部および踵部にそれぞれ複数のスパイクが配設された野球用スパイクシューズにおいて、着用者の第1趾先端部の外側に位置するアウトソール領域における蹴り出し時の曲げ変形にともなう剪断ひずみが、アウトソール全体の曲げ変形にともなう剪断ひずみに対して逆向きの符号を有している。
【発明の効果】
【0017】
以上のように本発明によれば、シューズ着用者の足指の第1趾先端部の外側に位置するアウトソール領域における蹴り出し時の曲げ変形にともなう剪断ひずみが、アウトソール全体の曲げ変形にともなう剪断ひずみに対して逆向きの符号を有するように構成されているので、シューズ着用者が蹴り出し時のグリップ性を良好なものと体感できるようになって、野球用スパイクシューズとしてのグリップ性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施例による野球用スパイクシューズのアウトソールの底面図である。同図に示すように、アウトソール1は、前足部の前側に配置された前側スパイクプレート2と、前足部の後側に配置された後側スパイクプレート3と、踵部に配置された踵部スパイクプレート4とを備えている。
【0019】
前側スパイクプレート2は、アウトソール底面に固定された底面視略Y字状のプレート20と、プレート20に一体形成されるとともにプレート20の各端部から下方に板状に突出するスパイク21,22,23とから構成されている。
【0020】
スパイク21は、着用者の足の第1趾末節骨骨頭付近にほぼ対応する位置に配置され、スパイク22は、第2趾末節骨骨頭付近にほぼ対応する位置に配置され、スパイク23は、足の拇趾球部の略中央部分に対応する位置に配置されている。したがって、スパイク21は、アウトソール1の前足部の最前端に配置されている。
【0021】
後側スパイクプレート3は、アウトソール底面に固定された底面視略Y字状のプレート30と、プレート30に一体形成されるとともにプレート30の各端部から下方に板状に突出するスパイク31,32,33とから構成されている。
【0022】
スパイク31は、着用者の足の子指球部の前側部分に対応する位置に配置され、スパイク32は、子指球部の後側部分に対応する位置に配置され、スパイク33は、足の拇趾球部の後側部分に対応する位置に配置されている。したがって、スパイク33は、アウトソール1の前足部の最後端に配置されている。
【0023】
踵部スパイクプレート4は、アウトソール底面に固定された底面視略Y字状のプレート40と、プレート40に一体形成されるとともにプレート40の各端部から下方に板状に突出するスパイク41,42,43とから構成されている。
【0024】
次に、アウトソール1の全長をLとし、アウトソール1の踵後端縁から後側スパイクプレート3の最後端縁までの距離をLとするとき、
0.570<L/L<0.590
の関係が成立している。
【0025】
さらに、前側スパイクプレート2における外甲側の最外側のスパイク22の中心と、後側スパイクプレート3における最前端のスパイク31の中心との距離をLとするとき、
0.155<L/L<0.160
の関係が成立している。
【0026】
,Lの間およびL,Lの間にそれぞれ上記関係が成立しているとき、前記[課題を解決するための手段]の項で述べたように、着用者の第1趾先端部つまり第1趾末節骨骨頭部の外側に位置するアウトソール領域A(図1参照)における蹴り出し時の曲げ変形にともなう剪断ひずみが、アウトソール全体の曲げ変形にともなう「−」の剪断ひずみとは逆向きの「+」となる(図2および図3参照)。
【0027】
言い換えれば、この場合には、アウトソール領域Aに作用する剪断力の向きがアウトソール全体に作用する剪断力の向きと逆向きになる。
【0028】
ここで、上記各不等式をそれぞれ満足する具体例として、L/L=0.589かつL/L=0.156の場合における蹴り出し時のアウトソールの曲げ変形にともなう剪断ひずみ分布を図4に示す。なお、図4中、グレーの部分は剪断ひずみが「−」の領域を示し、黒色の部分は剪断ひずみが「+」の領域を示している。
【0029】
この場合には、アウトソール領域Aの剪断ひずみの符号が「+」となっており、アウトソール全体の曲げ変形にともなう剪断ひずみの符号「−」と逆向きになっている。なお、アウトソール全体の曲げ変形にともなう剪断ひずみは、アウトソール1の中足部分で判断される。
【0030】
これにより、蹴り出し時の力がロスすることなく、そのままグリップ力としてスパイクから接地面に確実に伝達されるようになって、シューズ着用者が蹴り出し時のグリップ性を良好なものと体感できるようになり、野球用スパイクシューズとしてのグリップ性を向上できる。
【0031】
これに対して、アウトソール領域Aにおける蹴り出し時の曲げ変形にともなう剪断ひずみがアウトソール全体の曲げ変形にともなう剪断ひずみと同符号である場合、すなわち、アウトソール領域Aの剪断ひずみの符号がアウトソール全体の曲げ変形にともなう剪断ひずみの符号と同符号の「−」となっている場合には、蹴り出し時の力がアウトソールの曲げ変形に用いられる結果、蹴り出し時の力の一部しかグリップ力として接地面に伝達されず、シューズ着用者が蹴り出し時のグリップ性を良好なものと体感することができない。
【0032】
ここで、上記各不等式をいずれも満足しない具体例として、L/L=0.607かつL/L=0.160の場合における蹴り出し時のアウトソールの剪断ひずみの分布を図5に示す。
【0033】
この場合には、アウトソール領域Aの剪断ひずみの符号が「−」となっており、アウトソール全体の曲げ変形にともなう剪断ひずみの符号「−」と同じ向きになっている。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施例による野球用スパイクシューズのアウトソールの底面図である。
【図2】アウトソール(図1)の蹴り出し時におけるアウトソール領域Aの剪断ひずみとL/Lとの関係を示すグラフである。
【図3】アウトソール(図1)の蹴り出し時におけるアウトソール領域Aの剪断ひずみとL/Lとの関係を示すグラフである。
【図4】L/L=0.589かつL/L=0.156におけるアウトソールの剪断ひずみ分布を示す図である。
【図5】L/L=0.607かつL/L=0.160におけるアウトソールの剪断ひずみ分布を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1: アウトソール

2: 前側スパイクプレート
21,22,23: スパイク

3: 後側スパイクプレート
31,32,33: スパイク

A: アウトソール領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウトソールの前足部および踵部にそれぞれ複数のスパイクが配設された野球用スパイクシューズにおいて、
アウトソールの前足部におけるスパイクが、前足部の最前端に配置されたスパイクを含む前側スパイクプレートと、前側スパイクプレートの後方に配置され、前足部の最後端に配置されたスパイクを含む後側スパイクプレートとに設けられており、アウトソールの全長をLとし、アウトソールの踵後端縁から後側スパイクプレートの最後端縁までの距離をLとするとき、
0.570<L/L<0.590
の関係が成立しており、
さらに、前側スパイクプレートにおける外甲側の最外側のスパイクの中心と、後側スパイクプレートにおける最前端のスパイクの中心との距離をLとするとき、
0.155<L/L<0.160
の関係が成立している、
ことを特徴とする野球用スパイクシューズ。
【請求項2】
請求項1において、
前側スパイクプレートおよび後側スパイクプレートが、いずれも3本のスパイクから構成されている、
ことを特徴とする野球用スパイクシューズ。
【請求項3】
アウトソールの前足部および踵部にそれぞれ複数のスパイクが配設された野球用スパイクシューズにおいて、
着用者の第1趾先端の外側に位置するアウトソール領域における蹴り出し時の曲げ変形にともなう剪断ひずみが、アウトソール全体の蹴り出し時における曲げ変形にともなう剪断ひずみと逆向きになっている、
ことを特徴とする野球用スパイクシューズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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