説明

野生動物の撃退具及び野生動物の撃退方法

【課題】 痛みその他の生理作用を及ぼす刺激物を野生動物に被爆させることによって、繰り返し使用してもその撃退効果を持続することが可能な野生動物の撃退具の提供。
【解決手段】 野生動物の知覚細胞に作用して中枢を刺激する刺激物と、この刺激物を内包する収容胴を有する容器本体と、これに装備され収容胴を破壊して内部の刺激物を空中に飛散させる破裂手段破裂部材とを備える。この場合の刺激物は野生動物の眼腔、口腔、鼻腔、耳腔などの知覚細胞に作用して痛み、催涙、痒み、クシャミ(痙攣)などの生理作用を及ぼす刺激物質で構成する。また、上記破裂手段は、火薬及び/又は破裂性ガスで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野猿、イノシシ、熊などの獣動物、カラス、野鳩などの鳥類その他の野生動物を撃退する撃退具及び撃退方法に係わり、繰り返し使用しても野生動物が学習することのない効果が持続する撃退物質の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、野生動物による農作物の被害、或いは糞、騒音などの被害或いは人間への危害などの被害は拡大する傾向にある。特に農作物は野生動物の生存環境の変化に伴って山間地域では甚大な被害を被っている。また都会地域では野鳥の大群発生で糞害、騒音等が問題となっている。
【0003】
そこで従来これらの有害野生動物を撃退する方法としては、有害野生動物を駆除するか、撃退するか、或いは農作物などを覆って保護するかいずれかの方法が知られている。
まず第1の有害野生動物を駆除する方法は、例えば動物を銃撃して殺傷することが知られている。しかし、これは人間に危害を及ぼす恐れが高く、それ以外に方法がない場合に限られる。またこのような駆除には特別な許可(例えば銃刀法などの規制)が必要で簡便に目的を達成することは出来ない。
【0004】
また、第2の野生動物を撃退する方法としては、野生動物を音・異臭などで撃退することが試みられている。例えば果樹園、野菜菜園などに爆音機を設置して定期的に爆音を発する方法が採られている。従来この種の爆音機は、シリンダ状の爆室内にガスを充満させ、これに着火して爆発させる装置として広く知られている。
【0005】
同様に野生動物を音と異臭で撃退する方法として花火を使用することも広く知られている。例えば特許文献1には野生動物を検知して花火に自動着火するシステムが提案されている。同文献には花火を打ち上げることにより、その爆発音と火薬臭で野生動物を撃退することが開示されている。
【0006】
また特許文献2には、同様に花火を銃で野生動物に向けて発射する花火銃が提案されている。この文献にも花火の爆発音と火薬臭で野生動物を撃退することが開示されている。
更に、特許文献3にも、花火を銃で発射する装置が提案されている。
【0007】
一方前記第3の方法として、果樹園、野菜菜園を電気柵、ネットなどの保護柵で囲うことも広く用いられている。特に周囲を覆う保護柵に電流を供給する電気柵は、これに触れた野生動物に電気ショックを与える装置として知られている。
【0008】
また、従来野生動物を撃退或いは捕捉する為の麻酔銃も広く知られている。例えば熊、イノシシなどの人間に危害を及ぼす恐れのある猛獣を麻酔銃で捕捉することも知られている。
【特許文献1】特開2004−222574号公報
【特許文献2】実用新案登録第3124481号公報
【特許文献3】特開2007−097564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように野生動物を撃退する方法として、従来、種々の方法が試みられている。このように野生動物を撃退する際に、前述の野生動物を殺傷する方法は、有害鳥獣駆除等の特別な許可を必要とするなどこれを用いるには制約がある。またこの野生動物を殺傷するとき人間或いは家畜その他の保護動物を誤って殺傷する恐れがあり、現在では限られた条件下でのみ使用されている。従って果樹園、野菜菜園などの農作物を簡便に保護することは出来ない。
【0010】
同様に従来試みられている野生動物を麻酔銃で捕捉する方法も、使用出来る地域、使用できる銃刀法などの規制で極めて限られた範囲で使用され、果樹園、野菜菜園などの農作物を簡便に保護するには至っていない。
【0011】
また、従来の爆音機による音で野生動物を撃退する方法は、設置初期時には効果があるが、爆音を繰り返すことによって動物が音に慣れるため、一時的な効果はあるとされているが、その効果を持続することが出来ない問題がある。これと同時に爆音を繰り返すことにより騒音の問題が新たに発生する。
【0012】
上述の爆音機と同様に花火で野生動物を撃退することも試みられている。例えば野生動物に向けて花火を発射し、その爆発音と火薬臭で撃退する。この場合も爆音機と同様に複数回繰り返すことによって野生動物が慣れるため効果の持続性に問題がある。
【0013】
このように従来の野生動物を音(爆音)と異臭で撃退する方法では継続して使用するとその効果が持続しない問題がある。これは音或いは異臭に野生動物が慣れることに原因することが知られている。つまり音或いは異臭は例えば雷、地響き、腐敗臭などとして野生動物の生存圏内に存在するものであり、徐々に慣れる習性がほとんどの動物に認められる。
特に野猿或いはカラスなどの高等動物は学習によって音或いは異臭を避けて農作物に近づくことが知られている。
【0014】
そこで本発明者は、これらの野生動物の眼腔、鼻腔、口腔、耳腔などの知覚細胞に作用して中枢(脳及び脊髄系)に刺激を及ぼす物質を飛散するとの着想に至った。このように野生動物の神経系に刺激を及ぼすことによって、例えば野生動物には痛み、痒み、クシャミ(痙攣)などの生理作用が及び、この種の生理作用は慣れで和らぐことも或いは学習によって避けることも非常に難しいことを究明するに至った。
更に、本発明者は野生動物を殺傷する恐れがなく、また人間に危害或いは環境を汚損することのない刺激物を究明するに至った。
【0015】
本発明は、痛み、痒みなどの生理作用を及ぼす刺激物を野生動物に放射することによって、繰り返し使用してもその効果を持続することが可能であり、同時に安全で簡便に使用することが出来る野生動物の撃退方法及び撃退具の提供をその課題としている。
更に本発明は、野生動物に刺激物を放射する際に、その構造が簡単で取扱いが容易であり、同時に安価な撃退具の提供をその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決するために以下の構成を採用する。
尚、本発明にあって「爆薬」とは、熱或いは衝撃で急激な燃焼反応を起こす過塩素酸アンモニウムなどの爆発物を云い、「火薬」とは、例えば硝酸カリウム、炭素、硫黄を配合した黒色火薬などの燃焼によって高いエネルギーを放出して推進力を生起する物質を云う。
【0017】
まず本発明に係わる野生動物の撃退具は、野生動物の知覚細胞に作用して中枢を刺激する刺激物と、この刺激物を内包する収容胴を有する容器本体と、上記容器本体に形成され、上記収容胴内の刺激物を空中に飛散させる散布口と、上記容器本体に装備され上記収容胴を破壊して内部の刺激物を空中に飛散させる破裂手段破裂部材とを備える。この場合の刺激物は野生動物の眼腔、口腔、鼻腔、耳腔などの知覚細胞に作用して痛み、痒み、クシャミなどの生理作用を及ぼす刺激物質で構成する。また、上記破裂手段は、火薬及び/又は破裂性ガスで構成する。これによって野生動物の頭上で刺激物を破裂させて散布することとなり、刺激物によって野生動物に痛み、痒み、クシャミなどの生理作用を及ぼすことが可能となる。特にこの刺激物は野生動物の眼腔、鼻腔、口腔、耳腔などの知覚細胞に作用するため、野猿などの高等動物であってもその被爆を避けることが出来ない。
【0018】
また、上記刺激物は、カプサイシン、ピペリン、サンショオール、ジヒドロカプサイシン、イソチオシアネート、アリルイソチオシアネート、ホルムアルデヒドのいずれかを主成分とする単一物質、又は複合物質で粉末形状及び/又は顆粒形状に構成する。これによって例えば胡椒の主成分であるピペリン、或いは唐辛子の主成分であるカプサイシン、ジヒドロカプサイシンなどは野生動物の中枢系(脳又は脊髄神経系)にクシャミ(痙攣)、痛みなどの生理作用を及ぼすこととなる。このため繰り返し使用しても慣れることがなく、また被爆した野生動物を殺傷することも、同時に人間に大きな健康上の害を及ぼすこともない。
【0019】
上記刺激物はクロロアセトフェノン、クロロベンジリデンマロノニトリル、カプサイシンのいずれかを主成分とする単一物質又は複合物質から成る気体又は粉体で構成する。これらのガス成分を野生動物に被爆させることにより、神経系の麻痺などの生理作用を及ぼし、前述の成分と同様に野生動物を撃退することが出来る。
【0020】
上記容器本体には、刺激物を内包する収容胴と、この収容胴を破壊する破裂手段と、収容胴を空中に発射するロケット推進部とを備える。そしてこの破裂手段は上記収容胴の内部又は外部で容器本体に収容した爆薬で構成する。また上記ロケット推進部は上記容器本体に収容された火薬と、この火薬に発火する導火線とで構成する。これにより通常の花火と同様に導火線に着火するとロケット推進部の火薬に引火して空中に投射される。そして野生動物の頭上で爆薬によって収容胴が破裂し内部の刺激物が広範囲に飛散する。従って野生動物は刺激物で被爆されることとなり、その眼腔、鼻腔、口腔、耳腔などの知覚細胞に刺激物の作用が及ぶこととなる。
【0021】
更に、収容胴内の刺激物と、この収容胴を破壊する爆薬を互いに混合して収容胴内に収容することにより、爆薬の爆裂によって刺激物を広範囲に散布することが可能となる。
また、収容胴に刺激物を収容し、これと隣接するように爆薬を収容することによって、同様に爆薬の破裂で刺激物を広範囲に散布することが可能となる。
【0022】
また、本発明の撃退具は容器本体を、刺激物を内包する収容胴と、この収容胴を破壊する爆薬と、この爆薬を破裂させる起爆手段で構成し、この起爆手段を、野生動物の接触、検出などによって存在を感知する検知手段に連結する。これによって例えば果樹園、野菜菜園などの周囲に容器本体を設置し、野生動物が検知手段、例えば柵状のネットなどに接触した際の牽引力或いは振動で起爆手段を作動すると収容胴内の刺激物が頭上で破裂して飛散することとなる。これによって夜間、早朝など人間が監視することなく野生動物を検知して撃退することが可能となる。
【0023】
次に本発明に係わる野生動物の撃退方法は、粉末状又は顆粒状の刺激物を適宜形状の容器に収容すること、この容器を野生動物に向けて空中に投射すること、次いで上記容器を空中で破壊して内部の刺激物を飛散させることを順次実行する。そしてこの場合の刺激物は野生動物の眼腔、口腔、鼻腔、耳腔などの知覚細胞に作用して痛み、痒み、クシャミなどの生理作用を及ぼす物質で構成する。
【0024】
また、上記刺激物は、カプサイシン、ピペリン、サンショオール、ジヒドロカプサイシン、イソチオシアネート、アリルイソチオシアネート、ホルムアルデヒド、クロロアセトフェノン、クロロベンジリデンマロノニトリルのいずれかを主成分とする単一物質又は複合物質から構成する。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、野生動物の知覚細胞に作用して中枢を刺激する刺激物を容器本体の収容胴に内包すると共に、この容器本体に収容胴を破壊して内部の刺激物を空中に飛散させる破裂手段を備えたものであるから次の顕著な効果を奏する。
まず、眼腔、口腔、鼻腔、耳腔などの知覚細胞に作用する刺激物を野生動物に向けて放散するものであるから、野生動物は痛み、痒み、クシャミなどの中枢に刺激作用を受けることとなり、野猿、イノシシ、カラスなどの野生動物を確実に撃退することが可能となる。
【0026】
特に、刺激物は空中に飛散することにより動物の眼腔、鼻腔、口腔、耳腔の知覚細胞に作用するため、カラス、野猿などの高等動物であってもこれを避けることが出来ない。また、刺激物は動物の中枢系(脳、脊髄)を刺激するため、痛み、痒み、クシャミなどの痙攣或いは麻痺を動物に及ぼすこととなる。この為、このような生理作用は慣れることがなく、繰り返し使用しても、その効果を持続させることが出来る。
【0027】
また、その為の構造は、例えば紙、プラスチックなどの容器の収容胴に刺激物を内包し、この収容胴を火薬などで破壊することによって空中(動物の頭上)に飛散させるものであるから、その構造は至って簡単で通常の花火と同様に取扱いも容易である。従って安価で、使用に際して例えば銃刀法などの規制、動物愛護のモラル低下を招くことなく簡便に使用することが出来る。
【0028】
また、刺激物として胡椒の抽出成分であるピペリン、唐辛子の抽出成分であるカプサイシン、ジヒドロカプサイシン、山椒の抽出成分であるサンショオール、辛子の主成分であるアリルイソチオシアネート、ホルムアルデヒド、ワサビの抽出成分であるアリルイソチオシアネート、ホルムアルデヒドを使用することにより、人間に健康上の害を及ぼす恐れがなく、また野生動物を殺傷することがない。
【0029】
このように本発明は、上述の刺激物を空中に飛散させることによって動物の眼腔、口腔、耳腔の知覚細胞に作用させるため、慣れ或いは学習によって避けることができない。この為、繰り返し使用してもその効果を持続させることができる。
【0030】
更に、上述の刺激物を粉末形状若しくは顆粒形状に形成して爆薬(火薬)と混合することにより、空中で飛散する際に広範囲に散布することが出来、複数の動物(例えば野猿の群れなど)を効果的に撃退することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下図示の本発明を採用した実施の態様に基づいて本発明を詳述する。図1は本発明に係わる野生動物の撃退具の斜視図であり、図2は本発明に係わる撃退具の第1実施形態の説明図を示し、図3は図2の装置の変形例である。
【0032】
[第1実施形態の説明]
本発明に係わる野生動物の撃退具Aは、容器本体10と、この容器本体10に形成した刺激物11の収容胴12と、この収容胴12を破壊する破裂手段13とから構成されている。図1に示す実施形態(以下「第1実施形態」という)は、撃退具Aを花火構造に構成する場合である。図1に示すように容器本体10は中空筒形状のケース10aで構成されている。ボール紙などの紙質材、プラスチックスなどで形成されたケース10aには、上端ヘッド部10bの内部に収容胴12が形成されている。この収容胴12は所定容量の刺激物収容空間を形成し、隔壁12aで中空筒形状の上部に配置されている。またこの隔壁12aは紙質材、合成樹脂などの比較的破壊しやすい材料で構成されている。
【0033】
上記収容胴12内には刺激物11が収容されている。この刺激物については後述する。そこで上記容器本体10には収容胴12を破壊する破裂手段13が設けられる。この破裂手段13は収容胴12を空中に打ち上げた後にこの収容胴12を破壊して内部の刺激物を空中に飛散させる。この為、図1のものは破裂手段13を爆薬で構成している。つまり中空形状の容器本体10には、その上端部に収容胴12が形成され、この収容胴12の下側に隔壁12aを介して爆薬層13(破裂手段)、次いでその下側に火薬層14が充填されている。図示15は容器本体の底壁であり、例えば粘土質材を容器10に充填して固化してある。
【0034】
上記爆薬層13は、例えば過塩素酸アンモニウムなどの爆発物で形成され熱によって急激な燃焼作用を起こす爆裂性の物質で構成されている。この爆薬層13は上述のように隔壁12aを破壊して内部の刺激物を空中に飛散させる為であり、爆薬以外に例えば爆裂性に乏しい火薬層中に針状物質例えば鉄片などを混入させても良い。
【0035】
上記火薬層14は、例えば硝酸カリウム、炭素、硫黄を配合した黒色火薬などの燃焼によって高いエネルギーを放出して推進力を得る火薬(推進薬)を使用する。この火薬層14は上述の容器本体10の収容胴12を遠方に打ち上げる推進力を得るためである。この火薬層14は黒色火薬に限らず急激な燃焼と大量の気体(燃焼ガス)を発生する燃焼物を使用しても良い。上記火薬層14には導火線16が底壁15から外部に露出してあり、この導火線16に着火することによって内部の火薬層14に点火される。導火線16は火薬を含浸した撚糸などの紐で形成する。
【0036】
上述のように構成された容器本体10は、その導火線16に着火すると火薬層14が燃焼し、その燃焼反応で容器本体10は空中に発射される。そして火薬層14の燃焼が終わると、その上層部に配置された爆薬層13に着火する。するとこの爆薬層13は激しく燃焼して爆裂する。この爆薬層13の爆裂によって収容胴12は勢いよく破壊され、内部の刺激物11は空中に飛散されることとなる。この刺激物11は爆裂によって四方に飛散された後、その質量(重さ)で降下し、広範囲に散布されることとなる。このように容器本体10が火薬層14で空中に発射されるとき、笛音を発し、また爆薬層13が爆裂するとき大きな爆発音を発する。
【0037】
[第1実施形態の変形例]
上述の図1に示す撃退具Aは収容胴12に刺激物11を内包し、破裂手段13として爆薬層を収容胴12に隣接する位置に配置したが、この爆薬13と刺激物11を混合して収容胴12内に収容しても良い。この場合は図2に示すように、容器本体10に収容胴12を設け、この収容胴12内に刺激物11と爆薬13を混合して収容する。収容胴12の下部に火薬層14を配置することは図1の撃退具Aと同様である。
【0038】
このように収容胴12内に刺激物11の粉末(顆粒であっても良い)と爆薬(過塩素酸アンモニウムなど)の粉末を混合して収納すると、火薬層14で野生動物に向けて打ち上げられた収容胴12は、火薬層14が燃え進むと隔壁12aを燃焼する。すると隔壁12a内の爆薬13が勢いよく炸裂する。この爆薬の炸裂と共に刺激物11は四方に向かって飛散される。従って広範なエリアに刺激物11が飛散され、その下或いは風下に居る野生動物には刺激物11が飛散する。
【0039】
また、上述の図1に示す撃退具Aは収容胴12を火薬層14及び爆薬層13を内蔵した容器本体10に一体に構成したが、容器本体10を内部に火薬層14と爆薬層13を内蔵した下部ケース17と、収容胴12を有する上部ケース18を互いに嵌合して一体化しても良い。この場合は図3に示すように、中空筒状の下部ケース17に図1のものと同様に火薬層14と爆薬層13を充填し、上壁17aと底壁17bを例えば粘土質材で密閉する。このように構成された下部ケース17に上部ケース18をキャップ状に嵌合する。このとき上部ケース18に刺激物11を充填しておく。これによって火薬、爆薬などを取り扱う下部ケース17と刺激物11を取り扱う上部ケース18とをそれぞれ別工程で作成し、最後に両者を嵌合して一体化することにより撃退具を安全に製造することが出来る。これと共に撃退する野生動物に応じた刺激物11を上部ケース18に充填することにより、例えば野猿用、カラス用など多様な撃退具を大量生産することが可能となる。
【0040】
[刺激物の成分]
次に上述の刺激物11について説明する。本発明は上述の収容胴12に野生動物の眼腔、口腔、鼻腔、耳腔などの知覚細胞に作用して痛み、痒み、クシャミなどの生理作用を及ぼす刺激物質で構成することを特徴としている。この刺激物11としては、(1)「胡椒」の成分であるピペリン(piperine;辛み物質)及びその同効物質の粉末(または顆粒)、(2)「唐辛子」の成分であるカプサイシン(capsaicine)、ジヒドロカプサイシン(dihdrocapsaicine)及びその同効物質の粉末(または顆粒)、(3)「山椒」の成分であるサンショオール及びその同効物質の粉末(または顆粒)(4)「ワサビ」の成分であるイソチアネート(isothiocyanate)、アリルイソチオシアネート、ホルムアルデヒド(allylisothiocyanate)(6-メチルイソヘキシルイソチオシアネート、 7-メチルチオヘプチルイソチオシアネート、8-メチルチオオクチルイソチオシアネート)及びその同効物質の粉末(または顆粒)を使用する。
【0041】
これらの物質は野生動物の眼腔に入ると激しい催涙と共に痛みの生理作用を模様する。また、鼻腔に入ると激しい痛みと共にクシャミ(中枢系の痙攣)を模様する。また、口腔に入ると激しい痛みを模様する。尚これらの生理作用は人体で実験した場合の「痛み」「クシャミ(痙攣)」、「催涙」などの生理作用であるが、本発明者が野猿およびカラスで実験したところ同様の生理作用があると認められた。次にその実験結果について説明する。
【0042】
[実験1]
前述の第1実施形態の撃退具Aに刺激物として、図8に示す各成分を収容胴12に内蔵しして野猿及びカラスを撃退する実験を試みた。その実験方法は、野猿については果樹園に現れた野猿の群れに向けて前述の実施形態1の撃退具Aを発射し、その行動を観察した。またカラス(及びムクドリ)についてはその営巣に向けて撃退具Aを発射し、その行動を観察した(いずれも観察地域は山梨県西部山間地)。観察した結果は図8に示す通りである。
【0043】
いずれの刺激物でも野猿及び野鳥を撃退する効果が認められた。例えばピペリン粉末では即効性が認められ野猿は「泣き叫ぶ」「荒れ狂う」って逃亡する行動が見られた。また一般的に群れをなす野猿は同一方向(動物学ではボス猿の統治行動として知られている)に逃げる傾向にあるが、上記実験では四方八方に個々バラバラに逃亡するパニック状態が認められた。従ってこの実験により、目・鼻・口の粘膜に痛み、催涙、痙攣(クシャミ)などの作用を及ぼすと考えられ、その効果が高く認められた。ピペリン粉末以外の刺激物についても、応答時間差と挙動に差異はあったが、撃退効果は全てに認められた。
【0044】
[実験2]
前述の第1実施形態の撃退具Aに刺激物として、図8に示す各成分を収容胴12に内蔵ししてカラスとムクドリを撃退する実験を試みた。別表に示す刺激物を内包した撃退具(前述の実施形態1)でそれぞれカラス及びムクドリの子育て中の営巣に数回刺激物を散布してその行動を観察した。
【0045】
いずれの刺激物でもカラスもムクドリも子育てを中の営巣に近づかず巣と子育てを放棄する結果が得られた。このことからカラスなどの野鳥を果樹園、野菜菜園などから撃退することが可能である。
【0046】
[第2実施形態の説明]
図4に示す撃退具Bは、容器本体20と、この容器本体20に形成した刺激物21の収容胴22と、この収容胴22を破壊する破裂手段23とから構成されている。図4に示す撃退具Bは打ち上げ花火構造に構成する場合を示している。図4に示すように容器本体20は中空筒形状のケース20aで構成されている。ボール紙などの紙質材、プラスチックスなどで形成されたケース20aには、上端ヘッド部20bの内部に収容胴22が形成されている。この収容胴22は所定容量の刺激物収容空間を形成し、隔壁22aで中空筒形状の上部に配置されている。またこの隔壁22aは紙質材、合成樹脂などの比較的破壊し易い材料で構成されている。
【0047】
上記収容胴22内には刺激物21が収容されている。この刺激物21は前述の通り物質を用いる。そこで上記容器本体20には収容胴22を破壊する破裂手段23が設けられる。この破裂手段23は収容胴22を空中に打ち上げた後にこの収容胴22を破壊して内部の刺激物を空中に飛散させる。この為、破裂手段23は爆薬で構成されている。つまり中空形状の容器本体20には、その上端部に収容胴22が形成され、この収容胴22の下側に隔壁22aを介して爆薬層23(破裂手段)、次いでその下側に火薬層24が充填されている。図示25は容器本体の底壁であり、この底壁には導火線26が固定されている。
【0048】
上記爆薬層23は、例えば過塩素酸アンモニウムなどの爆発物で形成され熱によって急激な燃焼作用を起こす爆裂性の物質で構成されている。この爆薬層23は上述のように隔壁22aを破壊して内部の刺激物を空中に飛散させる為であり、爆薬以外に例えば爆裂性に乏しい火薬層中に鉄片などを混入させても良い。
【0049】
[第3実施形態]
上述の第1実施形態と第2実施形態は、いずれも花火或いは銃、パチンコ銃などで空中に打ち上げる実施形態を示した。図6、7に示す実施形態は果樹園、野菜菜園などの周囲に撃退具Cを例えば空中に吊下して、野生動物が接近したときこれを検知して刺激物31を散布するものを示す。以下その構造について説明する。
【0050】
まず、果樹園、野菜菜園の周囲に例えばポール37を設置する。このポール37にワイャー37aなどの撃退具Cを吊下する手段を設置する。そして野生動物の接近を検知するネット38aなどの検出手段38を配置する。そこでワイヤー37aには図7に示す撃退具Cを吊り下げ支持する。
【0051】
上記撃退具Cは図7に示すように、容器本体30は中空筒形状のケースで構成されている。このケース内部に爆薬33と起爆手段34が内蔵されている。また容器本体30の上層部には収容胴32が設けられ、この収容胴内に刺激物31が装填されている。上記爆薬33は、例えば前述した過塩素酸アンモニウムの粉末で構成する。また起爆手段34は火薬を含浸した発火スリーブ34aと、このスリーブ34aに連結されこれを引き抜く作動紐36で構成する。そして上記スリーブ34aは三角錐形状のフリント部材34bに嵌合されている。このフリント部材は発火スリーブとの摩擦で発火スリーブの火薬に着火する高摩擦部材で構成されている。
【0052】
従って、上記作動紐36を図7下方に引き下げると、これに連結された発火スリーブ34aも引き下げられる。このとき発火スリーブ34aがフリント部材34bから引き抜かれる際の摩擦熱で発火スリーブ34aの火薬に点火される。
【0053】
発火スリーブ34aに点火されると、その熱で爆薬33が爆裂する。この爆裂で収容胴32は破壊され内部の刺激物31が勢いよく外部に飛散する。この刺激物31の飛散でネット内に進入した野生動物は刺激物31に被爆される。このため、作動紐36はネット38aに締結してある。つまりネット38aが野生動物の接近を検知する検知手段38を構成している。
【0054】
この他、野生動物の検知手段としては例えば前記ポール37にホトビームセンサを配置しそのエリア内に動物が進入すると、これを検知し、その検知信号で例えば電磁ソレノイドを作動して上述の発火スリーブ34aを起動するように構成さても良い。
【0055】
[撃退方法の説明]
次に本発明に係わる野生動物の撃退方法について説明する。前述の説明から明らかなように次の手順で野生動物を撃退する。
(1)容器内に粉末状又は顆粒状の刺激物を適宜形状の容器に収容する。(2)次いでこの容器を空中に投射して野生動物の頭上に打ち上げる。(3)そして上記容器を空中で破壊して内部の刺激物を飛散させる。(4)このとき刺激物は、野生動物の眼腔、口腔、鼻腔、耳腔などの知覚細胞に作用して痛み、催涙、痒み、クシャミなどの生理作用を及ぼす物質で構成する。
【0056】
尚、本発明にあって刺激物は「胡椒」「唐辛子」「ワサビ」「山椒」について上述の結果を得たが、これらの同効物質であっても同様の効果が得られる。従って、天然物質に限らず野生動物の眼腔、口腔、鼻腔、耳腔などの知覚細胞に作用して痛み、催涙、痒み、クシャミ(痙攣)などの生理作用を及ぼす物質であれば化学物質であっても良いことは勿論である。また、収容胴に内部の刺激物を空中に飛散させる開口部(散布口)を設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係わる撃退具の外観を示す斜視図。
【図2】本発明に係わる撃退具の第1の実施形態を示す断面図。
【図3】図2の撃退具の異なる態様を示す断面図であり、刺激物と爆薬を混合して収容する形態を示す。
【図4】図2の撃退具の異なる態様を示す断面図であり、刺激物をキャップ状のケースに収容する形態を示す。
【図5】本発明に係わる撃退具の第2の実施形態を示す断面図。
【図6】本発明に係わる撃退具の第3の実施形態を示す説明図。
【図7】図6の装置の要部拡大説明図。
【図8】図2に示す撃退具で野生動物を撃退した実験結果を示し、(a)は野猿群を撃退した場合の結果であり、(b)はカラスを撃退した場合の結果を示す。
【符号の説明】
【0058】
A 撃退具
10 容器本体
11 刺激物
12 収容胴
12a 隔壁
13 破裂手段(爆薬層)
14 火薬層
15 底壁
16 導火線
17 下部ケース
18 上部ケース
20 容器本体
21 刺激物
22 収容胴
23 爆薬(破裂手段)
24 火薬
25 底壁
30 容器本体
31 刺激物
32 収容胴
33 爆薬
34 起爆手段
36 作動紐
37 ポール
38 検知手段
38a ネット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生動物の知覚細胞に作用して中枢を刺激する刺激物と、
上記刺激物を内包する収容胴を有する容器本体と、
上記容器本体に装備され上記収容胴を破壊して内部の刺激物を空中に飛散させる破裂手段と、を備え、
上記刺激物は野生動物の眼腔、口腔、鼻腔、耳腔などの知覚細胞に作用して痛み、痒み、クシャミなどの生理作用を及ぼす刺激物質で構成され、
上記破裂手段は、火薬及び/又は破裂性ガスで構成されていることを特徴とする野生動物の撃退具。
【請求項2】
野生動物の知覚細胞に作用して中枢を刺激する刺激物と、
上記刺激物を内包する収容胴を有する容器本体と、
上記容器本体に形成され、上記収容胴内の刺激物を空中に飛散させる散布口と、を備え、
上記刺激物は野生動物の眼腔、口腔、鼻腔、耳腔などの知覚細胞に作用して痛み、痒み、クシャミなどの生理作用を及ぼす刺激物質で構成されていることを特徴とする野生動物の撃退具。
【請求項3】
前記刺激物は、カプサイシン、ジヒドロカプサイシン、ピペリン、サンショオール、イソチオシアネート、アリルイソチオシアネート、ホルムアルデヒドの少なくとも1つを主成分とする単一物質、又は複合物質で粉末形状及び/又は顆粒形状に構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の野生動物の撃退具。
【請求項4】
前記刺激物はクロロアセトフェノン、クロロベンジリデンマロノニトリル、カプサイシンのいずれかを主成分とする単一物質又は複合物質から成る気体又は粉体で構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の野生動物の撃退具。
【請求項5】
前記容器本体は、
前記刺激物を内包する収容胴と、
この収容胴を破壊する破裂手段と、
上記収容胴を空中に発射するロケット推進部と、を備え、
上記破裂手段は上記収容胴の内部又は外部で上記容器本体に収容された爆薬で構成され、
上記ロケット推進部は上記容器本体に収容された火薬と、この火薬に発火する導火線とで構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の野生動物の撃退具。
【請求項6】
前記破裂手段は爆薬で構成され、
この爆薬は前記収容胴内に前記刺激物の粉末又は顆粒と混合して収納されるか若しくは個別に収納されていることを特徴とする請求項5に記載の野生動物の撃退具。
【請求項7】
前記破裂手段は爆薬で構成され、
この爆薬は前記収容胴と隣接するように前記容器本体内に収容されていることを特徴とする請求項5に記載の野生動物の撃退具。
【請求項8】
前記容器本体には、前記刺激物を内包する収容胴と、この収容胴を破壊する爆薬とこの爆薬を破裂させる起爆手段が装備され、
この起爆手段は、野生動物の接触、検出などによって存在を感知する検知手段に連結されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の野生動物の撃退具。
【請求項9】
動物の知覚細胞に作用して中枢を刺激する刺激物で野生動物を撃退する方法であって、
粉末状又は顆粒状の刺激物を適宜形状の容器に収容し、
この容器を野生動物に向けて空中に投射し、
次いで上記容器を空中で破壊して内部の刺激物を飛散させ、
この刺激物は野生動物の眼腔、口腔、鼻腔、耳腔などの知覚細胞に作用して痛み、痒み、クシャミなどの生理作用を及ぼす物質であることを特徴とする野生動物の撃退方法。
【請求項10】
前記刺激物は、カプサイシン、ピペリン、サンショオール、ジヒドロカプサイシン、イソチオシアネート、アリルイソチオシアネート、ホルムアルデヒド、クロロアセトフェノン、クロロベンジリデンマロノニトリルのいずれかを主成分とする単一物質又は複合物質から構成されることを特徴とする請求項9に記載の野生動物の撃退方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−22183(P2009−22183A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187164(P2007−187164)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(504115264)
【出願人】(507242684)株式会社はなびらたけ本舗 (3)
【Fターム(参考)】