説明

野積み堆積物の被覆方法及び野積み堆積物の皮膜形成剤

【課題】屋外貯蔵ヤードに堆積された石炭や鉱石等の野積み堆積物に、発塵及び水分浸透防止効果等の長期持続性に優れた皮膜を短時間で形成する被覆方法の提供。
【解決手段】イソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーを含む第1液と樹脂エマルジョン液である第2液とを混合すると、イソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーと樹脂エマルジョンとが化学反応を起こして早期に防水性に優れた皮膜を形成する事を利用し、皮膜形成に長時間を要さず、1〜3時間程度で硬化皮膜を形成することができ、その形成された皮膜は長期安定性に優れ、経時により防水性が損なわれることもない、イソシアネートモノマーおよび/又はウレタンプレポリマーを含む液と、樹脂エマルジョン液とを混合して野積み堆積物に散布する野積み堆積物の被覆方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野積み堆積物の被覆方法及び野積み堆積物の皮膜形成剤に係り、特に屋外貯蔵ヤードに堆積された石炭や鉱石等の野積み堆積物に、発塵及び水分浸透防止効果等の長期持続性に優れた皮膜を短時間で形成する野積み堆積物の被覆方法と、そのための皮膜形成剤に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所や発電所では、コークス原料や燃料としての石炭を屋外貯蔵ヤードに野積みして貯蔵している。野積みされた石炭は、乾燥時には発塵や自然発火の問題があり、また、豪雨等により山崩れ、流炭(石炭の含水率が上がりスラリー状となることで野積み石炭から流れ崩れる現象)などが発生する。また、降雨等により雨水が浸透し、含水率が上昇する。野積み石炭の含水率の上昇は、燃料として使用する際に水分蒸発のために余分のエネルギーを消費させ、経済的に大きな損失を招くと共にCO発生量の増加につながる上に、原料炭の場合はコークス製造工程において種々の悪影響を及ぼす。
【0003】
従来、このような野積み堆積物の発塵や雨水浸透を防止するために、以下のように野積み堆積物に各種の皮膜形成剤を散布して皮膜を形成する方法が提案されている。
【0004】
特許文献1:石炭の堆積山が安定したのち、ローラで加圧し、皮膜形成剤を散布する方法が開示され、皮膜形成剤として、水と反応して硬化するウレタンポリマー等が例示されている。
特許文献2:野積み堆積物に発泡体形成性皮膜用塗料を吹き付け、表面に水不溶性の発泡塗膜を形成する方法が開示され、塗料として、イソシアネート化合物を含む主液剤と水を含む硬化剤液からなる二液型塗料が開示されている。
特許文献3:水分散性樹脂と撥水剤よりなる野積み石炭山保護用皮膜組成物が開示され、水分散性樹脂のポリウレタン樹脂として、イソシアネート化合物から得られたウレタンプレポリマーが開示されている。
特許文献4:野積み堆積物に疎水化処理剤を散布等して疎水化処理する野積み堆積物の形成方法が開示され、疎水化処理剤として、アクリル樹脂エマルジョンが開示されている。
特許文献5:野積み堆積物の表面にアクリル樹脂エマルジョン等の樹脂エマルジョンを散布し、所定時間経過後に、樹脂エマルジョンと染料等の混合液を散布する方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、上記従来法は、いずれも野積み堆積物に皮膜形成剤を付与してから皮膜が形成されるまでの時間が長いか、或いは、形成された皮膜の防水性が短期間で失われ、水分の浸透を長期に亘り防止し得ない、という欠点があった。
【0006】
即ち、例えば、樹脂エマルジョンを用いた皮膜形成では、エマルジョン中の水分が自然乾燥し、樹脂が融着することにより皮膜が形成されるため、野積み堆積物に皮膜形成剤を散布してから皮膜が形成されるまでに1日程度の乾燥時間を要し、この間に降雨があると野積み堆積物に付与された皮膜形成剤が雨水と共に流されてしまい、皮膜を形成し得ない。このため、雨季における適用が難しく、皮膜形成ができないか、或いは皮膜を形成しても降雨のために皮膜形成が不十分となるなどの問題があった。
【0007】
また、水と反応して硬化するウレタンプレポリマーを用いる場合には、野積み堆積物への適用直後には水分浸透防止効果が得られるが、経時により皮膜の防水性が失われ、雨水を浸透させてしまう結果となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平3−19126号公報
【特許文献2】特公平5−37884号公報
【特許文献3】特開2000−80355号公報
【特許文献4】特公平01−38723号公報
【特許文献5】特開2003−119478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来の問題点を解決し、屋外貯蔵ヤードに堆積された石炭や鉱石等の野積み堆積物に、発塵及び水分浸透防止効果等の長期持続性に優れた皮膜を短時間で形成することができる野積み堆積物の被覆方法と、そのための皮膜形成剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、イソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーを含む溶液と樹脂エマルジョン溶液とを混合して野積み堆積物に散布することにより、1〜3時間の短時間で良好な皮膜を形成することができ、しかも形成された皮膜は長期に亘り初期の皮膜性能を維持し、発塵、水分浸透等を長期に亘り防止することができることを見出した。
【0011】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0012】
[1] 野積み堆積物の被覆方法において、イソシアネートモノマーおよび/又はウレタンプレポリマーを含む液と、樹脂エマルジョン液とを混合して野積み堆積物に散布することを特徴とする野積み堆積物の被覆方法。
【0013】
[2][1]において、該樹脂エマルジョン液が、アクリル樹脂エマルジョン液であることを特徴とする野積み堆積物の被覆方法。
【0014】
[3] [1]又は[2]において、イソシアネートモノマーおよび/又はウレタンプレポリマーを含む液と樹脂エマルジョン液とを、これらの混合液中のイソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーと樹脂エマルジョンの固形分との重量割合が1:0.1〜1:1となるように混合することを特徴とする野積み堆積物の被覆方法。
【0015】
[4] 第1液と第2液とを混合して野積み堆積物に散布することにより野積み堆積物に皮膜を形成するための野積み堆積物の皮膜形成剤において、該第1液がイソシアネートモノマーおよび/又はウレタンプレポリマーを含む液であり、該第2液が樹脂エマルジョン液であることを特徴とする野積み堆積物の皮膜形成剤。
【0016】
[5] [4]において、第1液と第2液とは、これらの混合液中のイソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーと樹脂エマルジョンの固形分との重量割合が1:0.1〜1:1となるように混合されることを特徴とする野積み堆積物の皮膜形成剤。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、野積み堆積物に1〜3時間程度の短時間で良好な皮膜を形成することが可能であり、短時間の皮膜形成直後から良好な防水(水分浸透防止)効果を発揮する。しかも、皮膜形成から時間が経過した後の防水(水分浸透防止)効果も良好であり、また、この皮膜により、発塵、流炭、石炭の自然発火等も効果的に防止される。
本発明によれば、雨季における野積み堆積物の被覆処理も可能となり、降雨間の発塵防止による環境対策、流炭防止による突発対応の防止、野積み堆積物の含水率上昇防止によるコークス炉やボイラーでの効率改善及びそれによるCO削減といった優れた効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
[野積み堆積物の被覆方法]
本発明の野積み堆積物の被覆方法は、イソシアネートモノマーおよび/又はウレタンプレポリマーを含む液と、樹脂エマルジョン液とを混合して野積み堆積物に散布することを特徴とする。
【0020】
なお、以下において、本発明で用いるイソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーを含む液を「第1液」と称し、樹脂エマルジョン液を「第2液」と称す場合がある。
【0021】
<作用機構>
イソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーを含む第1液と樹脂エマルジョン液である第2液とを混合すると、イソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーと樹脂エマルジョンとが化学反応を起こして早期に防水性に優れた皮膜を形成する。このため、従来の樹脂エマルジョンのみを用い、エマルジョン液中の水が乾燥して残った樹脂固形分が融着して皮膜を形成する場合のように、皮膜形成に長時間を要さず、1〜3時間程度で硬化皮膜を形成することができる。また、形成された皮膜の長期安定性に優れ、ウレタンプレポリマーのみを用いる場合のように、経時により防水性が損なわれることもない。
【0022】
<野積み堆積物>
本発明において、処理対象とする野積み堆積物とは、石炭、鉱石、コークス、スラグ、ダスト、木くず、ペーパースラッジ等を屋外貯蔵ヤードに山積みされたものをさす。
【0023】
<イソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーを含む液(第1液)>
本発明で用いるイソシアネートモノマーとしては、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加トルエンジイソシアネート、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート等の2個以上のイソシアネート基を有するジイソシアネートモノマー又はポリイソシアネートモノマー、或いはこれらの変性物等が挙げられる。イソシアネートモノマーとしては、特にコスト、安全性の面から、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
【0024】
これらのイソシアネートモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
ウレタンプレポリマーとしては、上述のようなイソシアネートモノマーの1種又は2種以上と、分子中に2個以上の活性水素原子を有するポリヒドロキシ化合物の1種又は2種以上との反応物(末端基NCO基)などが挙げられる。
【0026】
ここで、分子中に2個以上の活性水素原子を有するポリヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ヘキサンジオール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールA、ジブロモビスフェノールA、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジヒドロキシエチルテレフタレート、ハイドロキノンジヒドロキシエチルエーテル、トリメチロールプロパン、グリセリン、ポリプロピレングリセリド、ペンタエリスリトール等の多価アルコール、それらのアルキレン誘導体又はそれら多価アルコール若しくはそのアルキレン誘導体と多価カルボン酸、多価カルボン酸無水物、若しくは多価カルボン酸エステルからのエステル化合物や、ポリカーボネートポリオール、ポリテトラエチレングリコール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリブタジエンポリオール、オレフィン系ポリオール、ポリチオエーテルポリオール、ポリアセタールポリオール、ひまし油ポリオール、ひまし油誘導体、ロジン、ダイマー酸等のポリオール化合物が挙げられる。
【0027】
ウレタンプレポリマーは、NCO当量が500〜4000程度のものを用いることが好ましい。
【0028】
ウレタンプレポリマーについても、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
これらのイソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーは、適当な溶媒に溶解した溶液として用いることができ、その溶媒としては、ジブチルアジペート等のエステル系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、トリクロルエタン等のハロゲン系溶媒などが挙げられるが、何らこれらのものに限定されるものではない。
これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
イソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーを含む第1液中のイソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーの含有量は、その合計の濃度として10〜90重量%、特に30〜70重量%であることが好ましい。この濃度が低過ぎると有効成分が少なく使用量が多くなり、高過ぎると粘性が高くなり取り扱いが難しくなる。

【0031】
なお、本発明においては、第1液中にイソシアネートモノマーのみを用いてもよく、ウレタンプレポリマーのみを用いてもよく、イソシアネートモノマーとウレタンプレポリマーとを併用してもよい。イソシアネートモノマーとウレタンプレポリマーとを併用する場合、その使用割合には特に制限はないが、イソシアネートモノマー:ウレタンプレポリマー=1:100〜1:1程度、特に1:20〜1:5程度でイソシアネートモノマーよりもウレタンプレポリマーを多く使用することが発泡せずに散布可能なことから好ましい。
【0032】
<樹脂エマルジョン液(第2液)>
本発明で用いる樹脂エマルジョン液(第2液)としては、一般的なアクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、アクリル酸エステル−酢酸ビニル共重合体、アクリル酸エステル−スチレン共重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、塩化ビニリデン系樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体に代表される合成ゴムラテックスなどの樹脂のエマルジョン溶液を挙げることができる。
【0033】
これらのうち、特に形成される皮膜の防水性(疎水性)の点でアクリル樹脂エマルジョンが望ましい。
アクリル系樹脂エマルジョンはアクリル酸エステルもしくはメタクリル酸エステルの単独重合体又はこれらの共重合体、あるいはこれらと他の単量体との共重合体のエマルジョンであり、疎水性に優れ、イソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーとの反応で防水性に優れた皮膜を形成することができる。
【0034】
このような樹脂エマルジョン液中には2種以上の樹脂成分が含まれていてもよい。
【0035】
第2液である樹脂エマルジョン液中の樹脂含有量(固形分濃度)は、通常0.2〜10重量%程度であり、コスト及び皮膜形成能の点から1〜5重量%の範囲であることが好ましい。
【0036】
<第1液と第2液の混合割合>
本発明においては、上述の第1液と第2液とを混合し、混合液を野積み堆積物に散布する。
【0037】
その混合割合としては、混合液中のイソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーと樹脂エマルジョンの固形分との割合として1:0.1〜1:1、特に1:0.3〜1:0.7の範囲であることが好ましい。
この範囲よりも樹脂エマルジョンが少ないと膜の防水効果が悪化し、多いとコスト高となる。
【0038】
<野積み堆積物への散布方法>
第1液と第2液の混合液の野積み堆積物への散布量は、用いた樹脂エマルジョンやイソシアネートモノマー、ウレタンプレポリマーの種類、混合液中の有効成分濃度や、野積み堆積物に要求される防水性の持続期間等に応じて適宜決定されるが、野積み堆積物の表面積1m当たりの混合液散布量として、通常1〜3L/m、特に1.5〜2.5L/m程度で、有効成分量(混合液中のイソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーと樹脂成分との合計量)として、100〜1000g/m、特に200〜400g/m程度であることが好ましい。散布量が上記下限よりも少ないと均一な皮膜を形成し得ず、多いとコスト高となる。
【0039】
なお、第1液と第2液とは、混合すると直ちに硬化が始まるため、第1液と第2液とは野積み堆積物への散布の直前に混合することが重要である。従って、実際の野積み現場においては、第1液と第2液とを別々のポンプで野積み堆積物近傍にまで送給し、散布ノズル直前において混合して散布することが好ましい。
この散布ノズル直前での混合方法としては特に制限はないが、散布ノズルの直前にラインミキサーを取り付け、このラインミキサー部で第1液と第2液とを混合して散布する方法が挙げられる。
【0040】
野積み堆積物への混合液の散布方法としては、地上から野積み堆積物へ散布する方法や、スタッカーやリクレーマー等の上から野積み堆積物へ向けて散布する方法などを採用することができる。
【0041】
[野積み堆積物の皮膜形成剤]
本発明の野積み堆積物の皮膜形成剤は、イソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーを含む第1液と、樹脂エマルジョン液よりなる第2液とを備える2液型皮膜形成剤である。
この第1液及び第2液並びにその混合割合については、本発明の野積み堆積物の被覆方法における説明が適用される。
【0042】
なお、第1液は、イソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーと溶媒とから構成されるものであるが、その他、界面活性剤、顔料、染料等の着色剤等を含んでいてもよい。同様に、第2液についても、樹脂エマルジョンの樹脂成分の他、界面活性剤、顔料、染料等の着色剤、粘度調整剤等を含んでいてもよい。
【実施例】
【0043】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0044】
なお、以下の実施例及び比較例において、ウレタンプレポリマー、樹脂エマルジョンとしては、以下のものを用いた。
ウレタンプレポリマー:分子量3500で、ポリプロピレングリコールの末端にジフェニルメタンジイソジアネートを反応させたものを使用した。
アクリル樹脂エマルジョン:固形分として40重量%濃度のエマルジョンである。
アクリル酸エステル−酢酸ビニル共重合体エマルジョン:固形分として35重量%濃度のエマルジョンである。
スチレン−ブタジエン共重合体エマルジョン:固形分として40重量%濃度のエマルジョンである。
セメントミルク:早強ポルトランドセメントを用い、セメントと水の重量比で1:6にて配合した。
【0045】
また、イソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーは、70重量%濃度のジブチルアジーペート溶液として用いた。樹脂エマルジョンは固形分として40重量%濃度のエマルジョンである。
【0046】
[実施例1〜6]
表1に示すイソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーを含む液と、表1に示す樹脂エマルジョンとを混合して、それぞれ混合液中の各成分濃度が表1に示す濃度となる混合液を調製した。
【0047】
この混合液を用いて、以下の降雨試験を行い、結果を表1に示した。
【0048】
<降雨試験>
野積み石炭の傾斜面を模擬した容器として、円筒の上部を斜めに切断した斜面円筒容器(内径75mm、斜面下部高さ83mm、斜面上部高さ140mm、安息角約37°)を準備した。この容器の底部開口には、石炭が流れないよう、30mesh程度の網を取り付けた。この野積み石炭の傾斜面を模擬した斜面円筒容器に乾燥した石炭を詰め、石炭上面の傾斜面に対して薬剤(調製した混合液)を2L/mとなるように散布し、室内において3時間静置した容器と、室内に1時間静置した容器を、それぞれ人工降雨装置内に設置し、降雨にさらした後の石炭の含水率を確認した。用いた人工降雨装置は、天井に設置された針状ノズルより水滴を垂らすもので、均一な降雨が再現できる装置である。本試験では50mm/hrの降雨量にて、5時間の試験時間とした。含水率は、試験後の石炭の重量と試験前の石炭の重量とから重量増加分を水分増加分とし、水分増加分を試験後の石炭の重量で除した値の百分率として算出した。
【0049】
防水性のある皮膜が形成されている場合には、石炭の含水率は上昇せず、十分な皮膜が形成されていない場合や防水性のある皮膜が形成されていない場合には石炭の含水率が上昇する。
石炭含水率が上昇しない皮膜が形成されているということは、石炭の乾燥のためのエネルギーロスの防止に繋がり、また、表面の石炭粒子が十分に皮膜で被覆されているということになるため、発塵や自然発火も防止される。また、これも石炭の含水率を上昇させない事で流炭の防止も可能である。
従って、この試験で石炭の含水率の上昇の少ない皮膜を形成することができる薬剤は、発塵防止、自然発火防止、流炭防止にも有効であると判断される。
【0050】
[比較例1〜9]
表1に示す成分を表1に示す濃度で含む薬剤を用いたこと以外は実施例1〜6と同様にして降雨試験を行い、結果を表1に示した。
【0051】
【表1】

【0052】
表1より次のことが明らかである。
イソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーのみを用いた比較例1〜4では、薬剤散布3時間後の石炭含水率は比較的低く、防水効果が得られているが、薬剤散布1週間後では石炭含水率が増加しており、形成された皮膜の防水性の長期持続性がないことが分かる。
また、樹脂エマルジョンのみを用いた比較例5〜7では、薬剤散布3時間後の石炭含水率が高く、皮膜形成に時間を要することが分かる。このうち比較例5,7では、薬剤散布1週間後では防水性が得られているが、比較例6では、経時後も防水性が得られない。
セメントミルク、或いはセメントミルクとイソシアネートモノマー及びウレタンプレポリマーを用いた比較例8,9では、防水性に優れた皮膜を形成し得ない。
【0053】
これに対して、イソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーと樹脂エマルジョンとを混合して用いた実施例1〜6では、薬剤散布3時間後も1週間後も石炭の含水率は低く、防水性に優れた皮膜を短時間で形成することができることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野積み堆積物の被覆方法において、
イソシアネートモノマーおよび/又はウレタンプレポリマーを含む液と、
樹脂エマルジョン液と
を混合して野積み堆積物に散布することを特徴とする野積み堆積物の被覆方法。
【請求項2】
請求項1において、該樹脂エマルジョン液が、アクリル樹脂エマルジョン液であることを特徴とする野積み堆積物の被覆方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、イソシアネートモノマーおよび/又はウレタンプレポリマーを含む液と樹脂エマルジョン液とを、これらの混合液中のイソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーと樹脂エマルジョンの固形分との重量割合が1:0.1〜1:1となるように混合することを特徴とする野積み堆積物の被覆方法。
【請求項4】
第1液と第2液とを混合して野積み堆積物に散布することにより野積み堆積物に皮膜を形成するための野積み堆積物の皮膜形成剤において、
該第1液がイソシアネートモノマーおよび/又はウレタンプレポリマーを含む液であり、該第2液が樹脂エマルジョン液であることを特徴とする野積み堆積物の皮膜形成剤。
【請求項5】
請求項4において、第1液と第2液とは、これらの混合液中のイソシアネートモノマー及び/又はウレタンプレポリマーと樹脂エマルジョンの固形分との重量割合が1:0.1〜1:1となるように混合されることを特徴とする野積み堆積物の皮膜形成剤。

【公開番号】特開2011−256341(P2011−256341A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133973(P2010−133973)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】