説明

量子ドットを用いた光デバイス

【課題】ナノフォトニックデバイスを高密度に基板上集積化させた場合においても、かかるその周期性に基づいて基板全体から現れるモードを抑制可能な、量子ドットを用いた光デバイスを提案する。
【解決手段】誘電性の基板10と、サイズを互いに異ならせた複数の量子ドット11〜13を基板10上に形成させることにより、所定の機能を発現させる量子ドットグループ4とを備え、量子ドットグループ4は、互いに周期性を持たない位置において複数グループに亘り配置されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にナノスケールの光通信ネットワーク、光計測等の分野に適用される量子ドットを用いた光デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体微細加工技術の発展により、量子力学的効果が顕著に現れるサイズまでに微細な構造をもつ半導体素子が実現されている(例えば、非特許文献1参照。)。この量子力学的効果を利用した半導体素子として、例えばHBT(Hetero-junction Bipolar Transistor)や量子井戸レーザ等が実用化されている。また量子力学的効果を利用し、単一電子を制御することにより電子の粒子性を極限まで利用するナノスケールの量子ドットが注目されている。
【0003】
量子ドットは、上述した半導体微細加工技術を用いることにより、励起子に三次元的な量子閉じ込めを与えるほど微細なポテンシャルの箱を形成したものである。この励起子の閉じ込め系を利用し、量子ドット内のキャリアのエネルギー準位が離散的になり、状態密度がデルタ関数的に尖鋭化する。この量子ドットにおける尖鋭化した状態間における光の吸収を利用する単一電子メモリや、量子ドットを出入りする単一電子をON/OFF動作させる単一電子トランジスタが既に研究されており、単一電子のナノスケール操作が実現化されつつある。
【0004】
ところで、これら量子ドットに代表されるナノフォトニックデバイスに関する研究が進展し、その集積化が期待される昨今において、実際にその集積化したナノフォトニックデバイス間において周期性を持たせて基板上に配列させてしまうと、基板全体としてひとつの周期特性が現れてしまう。その結果、かかる基板全体から現れるモードのみが浮き立ち、ナノフォトニックデバイス単独の性質がこれにより打ち消されてしまい、所期の集積回路の動作が実現されなくなるという問題点が生じる。
【非特許文献1】M. Ohtsu,K. Kobayashi,T. Kawazoe,S. Sangu,and T. Yatsui, IEEE J. Sel. Top. Quantum. Electron., Vol. 8 ,pp. 839-862 (2002).
【非特許文献2】P. S. Guilfoyle and D. S. McCallum, Opt. Eng., Vol.35, pp. 436-442 (1996).
【非特許文献3】M. J. O’Mahony, D. Simeonidou, D. K. Hunter, and A. Tzanakaki, IEEE Commun.Mag., Vol. 39, pp. 128-135 (2001).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、ナノフォトニックデバイスを高密度に基板上集積化させた場合においても、かかるその周期性に基づいて基板全体から現れるモードを抑制し、個々のデバイスの特性を浮き立たせることで、所期の集積回路の動作が期待できる量子ドットを用いた光デバイスを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上述した課題を解決するために、サイズを互いに異ならせた複数の量子ドットを基板上に形成させることにより、所定の機能を発現させる量子ドットグループを、互いに周期性を持たない位置において複数配置させた量子ドットを用いた光デバイスを発明した。
【0007】
即ち、本発明に係る量子ドットを用いた光デバイスは、誘電性の基板と、サイズを互いに異ならせた複数の量子ドットを上記基板上に形成させることにより、所定の機能を発現させる量子ドットグループとを備え、上記量子ドットグループは、互いに周期性を持たない位置において複数グループに亘り配置されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
量子ドットグループをあえて周期的に連続しない位置に形成させることにより、その周期性に基づいて基板全体から現れるモードを抑制することが可能となる。その結果、個々のデバイスの特性を浮き立たせることができ、ひいては所期の集積回路の動作を期待することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、量子ドットを用いた光デバイスについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
本発明を適用した光デバイス1は、図1に示すように、体積(サイズ)の異なる複数の量子ドット11〜13を最小単位とした量子ドットグループ4が基板10の表面上において複数に亘り形成してなる。
【0011】
量子ドットグループ4を構成する各量子ドット11〜13は、例えばNaCl、KCl又はCaF等の導電性材料により構成される、量子ドット11〜13は、材料系がCuClである場合に、これらは量子箱と呼ばれる立方体状で構成され、また各量子ドット11〜13を構成する材料系がGaNやZnOである場合に、これらは球形或いは円盤形として構成される。因みに、量子ドット11〜13は、互いに相互作用が生じる程度に近接させて配置されている。
【0012】
これら各量子ドット11〜13は以下のブリッジマン法を用いることにより、基板10上に形成させることができる。各量子ドット11〜13を構成する材料系として上記CuClを用いる場合において、先ずCuClの粉末と、NaClの粉末を混合して約800℃の温度で融解する。次に、上下方向に温度勾配が施された炉内へ上記融解した混合粉末をつり下げ、数mm/hの速度で炉内を上下移動させることにより、混合粉末内部に温度勾配を作り出して序々に結晶化させてゆく。そして約200℃程度の温度で数分から数10分間熱処理をすると、CuClの量子ドット11〜13を包含したNaCl結晶を作製することができる。ちなみに、このブリッジマン法では、熱処理温度や熱処理時間を変えることにより、生成する量子ドット11〜13のサイズを自在に制御することもでき、これらを100nm以下の領域に並べて形成させることも可能となる。
【0013】
なお、これら各量子ドット11〜13は、更に分子エピタキシー(MBE)成長法に基づいて基板10上に作製してもよいし、また近接場光CVDを利用して量子ドットの形成位置を精度よく制御してもよい。
【0014】
各量子ドット11〜13におけるエネルギー準位E(nx,ny,nz)は、粒子の質量をmとし、また量子ドットの辺長をLとしたときに、以下の式(1)により定義される。
E(nx,ny,nz)=h2/8π2m(π/L)2(nx2+ny2+nz2)・・・・・(1)
【0015】
なお、本発明では、量子ドットの形状や材質に応じて、この式(1)で定義されるエネルギー準位E(nx,ny,nz)の式以外に、他の一般的なエネルギー準位の式が適用される場合もある。
【0016】
この式(1)に基づき、各量子ドット11,12のE(nx,ny,nz)を計算する。ここで第1の量子ドット11と、第2の量子ドット12との辺長比が、およそ√2:1であるとき、図2に示すように、第1の量子ドット11における第1のエネルギー準位が(1,1,1)であるときのE(111)と、第2の量子ドット12におけるエネルギー準位が(2,1,1)であるときのE(211)とが等しくなる。即ち、第1の量子ドット11における第1のエネルギー準位(1,1,1)と、第2の量子ドット12における第2のエネルギー準位(2,1,1)は、それぞれ励起子の励起エネルギー準位が共鳴する関係にある。
【0017】
即ち、基板10上において辺長比が互いに異なる各量子ドット11,12を形成させることにより、(1)式に基づく量子準位をほぼ等しくすることができ、これらの間で共鳴を起こさせることにより、体積の小さい量子ドット11から体積の大きい量子ドット12へ励起子を注入することができる。換言すれば、量子ドット間で体積(サイズ)を互いに異ならせることにより、これらの間で励起子を伝送することができ、ひいては共鳴エネルギー移動を実現することができる。
【0018】
量子ドットグループ4は、このような共鳴エネルギー移動を利用して、所定の機能を発現させることができる。
【0019】
例えば、第1の量子ドット11の量子準位(1,1,1)と、第2の量子ドット12における量子準位(2,1,1)は、それぞれ励起子の励起エネルギー準位が共鳴する関係にあるが、実際これらの間で共鳴を起こさせるためには、第1の量子ドット11における量子準位(1,1,1)に対応する周波数ω1の光Aを供給することにより、かかる量子準位へ励起子を励起させることができる。
【0020】
また、上述した共鳴が生じる場合に、第1の量子ドット11に存在する量子準位(1,1,1)に存在する励起子が、第2の量子ドット12における量子準位(2,1,1)へ移動し、また第2の量子ドット12の量子準位(2,1,1)に存在する励起子が、第1の量子ドット11における量子準位(1,1,1)へ移動するが、量子ドット11,12間において励起子がコヒーレントに結合して、見かけ上1つの励起モードが形成される。
【0021】
即ち、本発明では、辺長比がそれぞれ√2:1である各量子ドット11、12を基板11上に設けることにより、状態密度関数がほぼ等しくなる量子準位を作り出すことができ、これらの間で共鳴効果を起こさせることにより、第2の量子ドット12の量子準位(2,1,1)に励起子を注入することができる。この注入された励起子は、第2の量子ドット12の量子準位(1,1,1)へ遷移する。これにより、第2の量子ドット12の量子準位(1,1,1)における励起子の密度を、第2の量子ドット12の基底準位よりも高めることができ、これら2つの量子準位間で反転分布を生成することかできる。この生成された反転分布に応じて励起子が基底準位へ遷移することにより光が放出されることになる。
ナノスケールの第2の量子ドット12から放出される光は、ナノメートルサイズの極めて狭い領域において分布することになる。これにより、励起子を介して第1の量子ドット11から第2の量子ドット12へエネルギーを供給することができ、当該エネルギーに基づき放出される光をナノスケールの領域に分布させることにより見かけ上集光させることができることから、一つの機能を発現させることが可能となる。
【0022】
なお、このような量子ドット11〜13を組み合わせることにより、他にも様々な機能を発現させることが可能となる。
【0023】
また、このような量子ドット11〜13からなる各量子ドットグループ4は、基板10上において互いに周期性を持たせない位置に形成させる。即ち、この光デバイス1では、量子ドット4が周期的に連続して配置されていない構成を採用することになる。これは、量子ドットグループ4を基板10上においてあえて周期的に連続しない位置へ選択的に形成させることを意味している。
【0024】
このように量子ドットグループ4をあえて周期的に連続しない位置に形成させることにより、その周期性に基づいて基板10全体から現れるモードを抑制することが可能となる。その結果、個々のデバイスの特性を浮き立たせることができ、ひいては所期の集積回路の動作を期待することができる。
【0025】
本発明を適用した光デバイス1において、複数の量子ドット11〜13は、互いに異なる量子ドットグループ4間において、同一のサイズ比で構成されていてもよい。このとき、互いの量子ドットグループ4を構成する各量子ドット11〜13のサイズは異なるものであってもよい。その結果、図1に示すように、互いに相似な量子ドットグループ4が基板10上において点在することになる。
【0026】
このようにデバイス動作に必要な最低限の相似性は持たせることにより、量子ドット11〜13をただランダムに配置する場合と比較して、全体で意味のある機能を発現させることが可能となるためである。
【0027】
なお、本発明においては、例えば図3に示すように、量子ドットグループ4の輪郭によりフラクタル図形が形成されるように基板10上に配置されていてもよい。ここでいうフラクタルとは、図形の部分の全体が自己相似になっているものをいい、例えば、コッホ曲線、マンデルブロ集合、樹木集合等をさす。因みに、図3に示す例においては、量子ドットグループ4の輪郭により樹木集合が描かれるように基板10上において配置した例を示している。
【0028】
このようなフラクタル配置とすることにより、量子ドットグループ4の周期性に基づいて基板10全体から現れるモードを抑制し、個々のデバイスの特性を浮き立たせることができ、所期の集積回路の動作が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
急速に進展しつつある光デバイスの微細化、高集積化に対応することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明を適用した光デバイスの構成例について示す図である。
【図2】本発明を適用した光デバイスのエネルギー準位について説明するための図である。
【図3】フラクタル配置の例について説明するための図である。
【符号の説明】
【0031】
1 光デバイス
4 量子ドットグループ
10 基板
11〜13 量子ドット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電性の基板と、
サイズを互いに異ならせた複数の量子ドットを上記基板上に形成させることにより、所定の機能を発現させる量子ドットグループとを備え、
上記量子ドットグループは、互いに周期性を持たない位置において複数グループに亘り配置されてなること
を特徴とする量子ドットを用いた光デバイス。
【請求項2】
上記量子ドットグループの輪郭によりフラクタル図形が形成されるように上記基板上に配置されてなること
を特徴とする請求項1記載の量子ドットを用いた光デバイス。
【請求項3】
上記量子ドットグループ間は、互いに相似であること
を特徴とする請求項1又は2記載の量子ドットを用いた光デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−329399(P2007−329399A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161159(P2006−161159)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】