説明

量子ドット担持多孔質n型半導体の製造方法、量子ドット担持多孔質n型半導体、量子ドット増感太陽電池用電極、および、量子ドット増感太陽電池

【課題】多孔質n型半導体上に半導体ナノ粒子である量子ドットが担持されている量子ドット担持多孔質n型半導体の製造方法であって、第16族元素を含む量子ドットについて効率よく制御して担持させることができる、量子ドット担持多孔質n型半導体の製造方法を提供する。また、そのような製造方法によって得られる量子ドット担持多孔質n型半導体、量子ドット増感太陽電池用電極、および、量子ドット増感太陽電池を提供する。
【解決手段】多孔質n型半導体上に半導体ナノ粒子である量子ドットが担持されている量子ドット担持多孔質n型半導体の製造方法であって、多孔質n型半導体を第16族元素化合物含有溶液に浸漬させた状態で光照射する工程の後に、該工程で得られる第16族元素担持多孔質n型半導体を金属イオン含有溶液に浸漬させた状態で光照射する工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドット担持多孔質n型半導体の製造方法、量子ドット担持多孔質n型半導体、量子ドット増感太陽電池用電極、および、量子ドット増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の社会情勢においては、化石燃料の大量消費による資源の枯渇と地球温暖化問題の解決に加え、電力の安定供給手段の確立が強く求められている。
【0003】
このような電力の安定供給手段として、無尽蔵な太陽光エネルギーを電気エネルギーや化学エネルギーに直接変換できる太陽電池や水素製造光電気化学セルに多くの注目が集まっている。
【0004】
色素増感太陽電池は、安価であることに加えて比較的高い光電変換効率を有する。このため、色素増感太陽電池は、次世代の持続的エネルギー供給源として大きな期待を集めている(特許文献1参照)。
【0005】
しかし、色素増感太陽電池においては、有機系色素増感剤が分解し易く、特に、酸素存在下で寿命、耐久性が十分でなく、また、吸収できる波長領域が一般に紫外から可視光領域に限られるため、より高効率の光電変換を達成することが困難であるという問題がある。
【0006】
最近、半導体電極上に半導体ナノ粒子である量子ドットを担持させた量子ドット増感太陽電池が報告されている(特許文献2、3参照)。量子ドットは、有機系色素増感剤に比べて耐久性が良く、ナノオーダーサイズの半導体粒子であることから、マルチエキシトン生成(MEG)による効果で太陽エネルギーの捕捉効率が向上し、粒子サイズの制御によって吸収波長を制御できるという利点がある。特に、量子ドットがナノオーダーサイズの半導体粒子であることからマルチエキシトン生成(MEG)による効果で太陽エネルギーの捕捉効率が向上する点は重要であり、例えば、半導体電極上にカルコゲニド半導体がナノ粒子としてではなく膜として存在している場合(特許文献4参照)に比べると、半導体ナノ粒子である量子ドットを用いた場合には太陽エネルギーの捕捉効率が格段に優れる。
【0007】
半導体電極上に量子ドットを担持させる方法としては、(1)量子ドットを予め作製した後に、メルカプト酢酸等のカップリング分子を用いて電極に担持させる方法(非特許文献1、2参照)、(2)化学浴中で析出させる方法(非特許文献3〜5参照)、(3)SILAR(Successive Ionic Layer Adsorption and Reaction)法によって析出させる方法(非特許文献6、7参照)、が知られている。
【0008】
しかし、上記(1)の方法では、量子ドットと電極との間に有機物が存在してしまうため、電子移動効率が悪いという問題がある。また、上記(2)や(3)の方法では、再現性に乏しいという問題や、太陽エネルギーの捕捉効率が実用化できるだけの十分なレベルではないという問題がある。
【0009】
最近、多孔質n型半導体電極上に半導体ナノ粒子である量子ドットを担持させる方法として、多孔質n型半導体電極を金属イオン含有溶液に浸漬させた状態で光照射する方法が提案されている(特許文献5参照)。
【0010】
このような光照射による量子ドット担持方法は、光析出法(PD法:Photodeposition法)と称される。特許文献5においては、多孔質n型半導体電極上に半導体ナノ粒子である量子ドットを担持させる方法として、該多孔質n型半導体電極を金属イオン含有溶液に浸漬させた状態で光照射する光析出法(PD法)を採用することにより、IPCEや電力変換効率などで評価される太陽エネルギーの捕捉効率が従来に比べて格段に優れる量子ドット増感太陽電池を構成するための量子ドット増感太陽電池用電極を提供し得る。
【0011】
光析出法(PD法)は、(1)光照射時間や表面修飾剤濃度を調節することによって量子ドットの粒子サイズを制御できる、(2)再現性が高く、調製が簡便である、(3)多孔質n型半導体と量子ドット間のダイレクト界面接合によってスムーズな電荷移動が保証される、などの特徴を有する。
【0012】
しかしながら、特許文献5に記載の量子ドット担持方法においては、量子ドットの種類によっては、効率よく制御して担持させることが困難な場合がある。特に、第16族元素を含む量子ドットは、効率よく制御して担持させることが非常に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−19130号公報
【特許文献2】特開2008−16369号公報
【特許文献3】特開2008−287900号公報
【特許文献4】特開2009−70768号公報
【特許文献5】特開2011−91032号公報
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,128,2385.
【非特許文献2】J.Phys.Chem.B,2006,110,9556.
【非特許文献3】J.Phys.Chem.,98,5338.
【非特許文献4】J.Photochem.Photobiol.A,181,306,2006.
【非特許文献5】Appl.Phys.Lett.,91,23116,2007.
【非特許文献6】Appl.Surf.Sci.,22/3,1061,1985.
【非特許文献7】J.Electrochem.Soc.,137,2915,1990.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、多孔質n型半導体上に半導体ナノ粒子である量子ドットが担持されている量子ドット担持多孔質n型半導体の製造方法であって、第16族元素を含む量子ドットについて効率よく制御して担持させることができる、量子ドット担持多孔質n型半導体の製造方法を提供することにある。また、そのような製造方法によって得られる量子ドット担持多孔質n型半導体を提供することにある。さらに、そのような量子ドット担持多孔質n型半導体を含む量子ドット増感太陽電池用電極、および、そのような量子ドット増感太陽電池用電極を含む量子ドット増感太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の製造方法は、
多孔質n型半導体上に半導体ナノ粒子である量子ドットが担持されている量子ドット担持多孔質n型半導体の製造方法であって、
多孔質n型半導体を第16族元素化合物含有溶液に浸漬させた状態で光照射する工程(I)の後に、
該工程(I)で得られる第16族元素担持多孔質n型半導体を金属イオン含有溶液に浸漬させた状態で光照射する工程(II)を行う。
【0016】
好ましい実施形態においては、上記光照射が、紫外線照射である。
【0017】
本発明の別の局面によれば、量子ドット担持多孔質n型半導体が提供される。本発明の量子ドット担持多孔質n型半導体は、本発明の製造方法によって得られる。
【0018】
本発明の別の局面によれば、量子ドット増感太陽電池用電極が提供される。本発明の量子ドット増感太陽電池用電極は、本発明の量子ドット担持多孔質n型半導体を含む。
【0019】
本発明の別の局面によれば、量子ドット増感太陽電池が提供される。本発明の量子ドット増感太陽電池は、本発明の量子ドット増感太陽電池用電極を含む。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、多孔質n型半導体上に半導体ナノ粒子である量子ドットが担持されている量子ドット担持多孔質n型半導体の製造方法であって、第16族元素を含む量子ドットについて効率よく制御して担持させることができる、量子ドット担持多孔質n型半導体の製造方法を提供することができる。また、そのような製造方法によって得られる量子ドット担持多孔質n型半導体を提供することができる。さらに、そのような量子ドット担持多孔質n型半導体を含む量子ドット増感太陽電池用電極、および、そのような量子ドット増感太陽電池用電極を含む量子ドット増感太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1における第1工程後に得られた第16族元素担持多孔質n型半導体のTEM写真図である。
【図2】実施例1における第2工程後に得られた量子ドット担持多孔質n型半導体のTEM写真図である。
【図3】実施例1における第1工程前の多孔質n型半導体、第1工程後の第16族元素担持多孔質n型半導体、第2工程後の量子ドット担持多孔質n型半導体の、それぞれのXRDパターン図である。
【図4】実施例1における、各反応段階における多孔質n型半導体類のSe3d−XPSスペクトル図である。
【図5】実施例1における、各反応段階における多孔質n型半導体類のPb4f−XPSスペクトル図である。
【図6】実施例1における、第1工程の各反応段階における多孔質n型半導体類のUV−Visスペクトル図である。
【図7】実施例1における、各反応段階における多孔質n型半導体類のUV−Visスペクトル図である。
【図8】実施例2における第2工程後に得られた量子ドット担持多孔質n型半導体のTEM写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
≪量子ドット担持多孔質n型半導体の製造方法≫
本発明の製造方法は、多孔質n型半導体上に半導体ナノ粒子である量子ドットが担持されている量子ドット担持多孔質n型半導体の製造方法であって、多孔質n型半導体を第16族元素化合物含有溶液に浸漬させた状態で光照射する工程(I)の後に、該工程(I)で得られる第16族元素担持多孔質n型半導体を金属イオン含有溶液に浸漬させた状態で光照射する工程(II)を行う。
【0023】
本発明の製造方法は、上記工程(I)の後に上記工程(II)を行うものであれば、本発明の効果を損なわない限り、任意の適切な他の工程を含んでいても良い。
【0024】
上記多孔質n型半導体としては、任意の適切な多孔質n型半導体を採用し得る。このような多孔質n型半導体としては、好ましくは、光触媒作用を有する多孔質n型半導体が挙げられる。
【0025】
上記多孔質n型半導体としては、好ましくは、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)などが挙げられる。上記多孔質n型半導体としては、酸化チタン(TiO)が特に好ましい。酸化チタン(TiO)は優れた光触媒作用を有するので、本発明の製造方法において光照射することにより、光触媒作用によって量子ドットが析出しやすくなるからである。
【0026】
上記多孔質n型半導体は、導電膜を有していても良い。このような導電膜としては、例えば、ITO(酸化インジウム−スズ)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、ATO(アンチモンドープ酸化スズ)などが挙げられる。
【0027】
上記多孔質n型半導体には、必要に応じて、支持基板が設けられていても良い。上記支持基板としては、任意の適切な支持基板を採用し得る。例えば、ガラス基板、プラスチック基板などが挙げられる。
【0028】
上記第16族元素化合物は、第16族元素を有する化合物であれば、任意の適切な化合物を採用し得る。第16族元素としては、例えば、S、Se、Teが挙げられる。
【0029】
第16族元素としてSを含む第16族元素化合物としては、例えば、S、HSO、HSO、H、NaSO、NaSO、Naなどが挙げられる。
【0030】
第16族元素としてSeを含む第16族元素化合物としては、例えば、HSeO、HSeO、HSeO、NaSeO、NaSeO、NaSeOなどが挙げられる。
【0031】
第16族元素としてTeを含む第16族元素化合物としては、例えば、TeO、TeO、TeO、HTeO、HTeO、NaTeO、NaTeOなどが挙げられる。
【0032】
上記第16族元素化合物含有溶液は、任意の適切な溶媒を含み得る。このような溶媒としては、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール類が挙げられる。
【0033】
上記第16族元素化合物含有溶液中の上記第16族元素化合物の含有割合としては、本発明の効果を損なわない限り、任意の適切な含有割合を採用し得る。このような含有割合としては、例えば、好ましくは、0.001×10−3mol/L〜1000×10−3mol/Lの範囲である。
【0034】
上記金属イオンとしては、例えば、Cdイオン、Pbイオン、Moイオン、Agイオン、Biイオン、Cuイオン、Inイオン、Gaイオン、Geイオン、Siイオン、Znイオン、Feイオンが挙げられる。
【0035】
上記金属イオン含有溶液は、任意の適切な溶媒を含み得る。このような溶媒としては、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール類が挙げられる。
【0036】
上記金属イオン含有溶液中の上記金属イオンの含有割合としては、本発明の効果を損なわない限り、任意の適切な含有割合を採用し得る。このような含有割合としては、例えば、好ましくは、0.001×10−3mol/L〜1000×10−3mol/Lの範囲である。
【0037】
上記金属イオン含有溶液は、量子ドットの粒子サイズを調整するために、メルカプト酢酸を含んでいても良い。メルカプト酢酸を含む場合、上記金属イオン含有溶液中のその含有濃度は、初期濃度として、好ましくは、0.001×10−3mol/L〜1000×10−3mol/Lの範囲であり、より好ましくは、0.01×10−3mol/L〜100×10−3mol/Lの範囲であり、さらに好ましくは、0.1×10−3mol/L〜10×10−3mol/Lの範囲である。メルカプト酢酸の上記金属イオン含有溶液中の含有濃度(初期濃度)が上記範囲内にあれば、量子ドットから多孔質n型半導体への光誘導電子移動が十分に促進されるとともに、粒子サイズが小さくなりすぎることによる量子サイズ効果に起因する光吸収量の減少も抑制できる。
【0038】
上記工程(I)においては、多孔質n型半導体を第16族元素化合物含有溶液に浸漬させた状態で光照射する。
【0039】
上記工程(I)における光照射としては、任意の適切な波長の光の照射を採用し得る。好ましくは、多孔質n型半導体が光触媒作用を示す波長の光を照射する。代表的には、紫外線を照射することが好ましい。
【0040】
上記工程(I)における光照射は、任意の適切な温度条件下で行い得る。
【0041】
上記工程(I)においては、上記光照射の後、必要に応じて、任意の適切な洗浄溶媒を用いて、得られた第16族元素担持多孔質n型半導体を洗浄し、乾燥させる。
【0042】
上記工程(II)においては、上記工程(I)で得られる第16族元素担持多孔質n型半導体を金属イオン含有溶液に浸漬させた状態で光照射する。
【0043】
上記工程(II)における光照射としては、任意の適切な波長の光の照射を採用し得る。好ましくは、多孔質n型半導体が光触媒作用を示す波長の光を照射する。代表的には、紫外線を照射することが好ましい。
【0044】
上記工程(II)における光照射は、任意の適切な温度条件下で行い得る。
【0045】
上記工程(II)においては、上記光照射の後、必要に応じて、任意の適切な洗浄溶媒を用いて、得られた量子ドット担持多孔質n型半導体を洗浄し、乾燥させる。
【0046】
本発明の製造方法によれば、多孔質n型半導体を第16族元素化合物含有溶液に浸漬させた状態で光照射する工程(I)と、該工程(I)で得られる第16族元素担持多孔質n型半導体を金属イオン含有溶液に浸漬させた状態で光照射する工程(II)との、2段階の工程を経ることにより、第16族元素を含む量子ドットが効率よく制御して担持した量子ドット担持多孔質n型半導体を提供できる。
【0047】
≪量子ドット担持多孔質n型半導体≫
本発明の製造方法で得られる量子ドット担持多孔質n型半導体は、多孔質n型半導体上に半導体ナノ粒子である量子ドットが担持されている。このような半導体ナノ粒子である量子ドットとしては、例えば、カルコゲニド半導体ナノ粒子が挙げられる。カルコゲニド半導体ナノ粒子としては、CdS、MoS、FeS、In、NaInS、ZnIn、ZnCd1−xS、CdIn、AgGaS、PbS、AgSなどの金属硫化物ナノ粒子;CdSe、PbSe、CuInSe、CuInGaSe、CuInGaSeなどの金属セレン化物ナノ粒子;CdTeなどの金属テルル化物ナノ粒子;等が挙げられる。
【0048】
上記半導体ナノ粒子である量子ドットの粒子径は、ナノオーダーであれば任意の適切な大きさを採り得る。例えば、1nm〜20nmの範囲内にあることが好ましく、1nm〜10nmの範囲内にあることがより好ましい。上記半導体ナノ粒子である量子ドットの粒子径がこのような範囲内に収まれば、マルチエキシトン生成(MEG)による効果で太陽エネルギーの捕捉効率が効果的に向上し得る。
【0049】
≪量子ドット増感太陽電池用電極≫
本発明の量子ドット増感太陽電池用電極は、本発明の製造方法で得られる量子ドット担持多孔質n型半導体を含む。本発明の製造方法で得られる量子ドット担持多孔質n型半導体は、多孔質n型半導体上に第16族元素を含む量子ドットが効率よく制御して担持されている。このため、従来の量子ドット増感太陽電池用電極に比べて、IPCEや電力変換効率などで評価される太陽エネルギーの捕捉効率が優れた量子ドット増感太陽電池に好適な電極となり得る。
【0050】
≪量子ドット増感太陽電池≫
本発明の量子ドット増感太陽電池は、本発明の量子ドット増感太陽電池用電極を含む。
【0051】
本発明の量子ドット増感太陽電池は、代表的には、本発明の量子ドット増感太陽電池用電極と対向電極を備える構成を有する。対向電極には、必要に応じて、支持基板が設けられていても良い。
【0052】
上記対向電極としては、任意の適切な対向電極を採用し得る。例えば、チタン、ニッケル、金、銀、銅、カーボン、透明電極、導電性高分子などが挙げられる。透明電極としては、上記したものが例示できる。導電性高分子としては、例えば、塩素、臭素、またはヨウ素をドープしたポリアセチレン、ポリアセン、ポリピロール、ポリチオフェン、およびそれらの誘導体などが挙げられる。
【0053】
上記支持基板としては、任意の適切な支持基板を採用し得る。例えば、ガラス基板、プラスチック基板などが挙げられる。
【0054】
本発明の量子ドット増感太陽電池は、湿式太陽電池の形態としても良いし、乾式太陽電池の形態としても良い。本発明の量子ドット増感太陽電池用電極と対向電極との間に電解質が介在していても良い。電解質としては、液体電解質を用いても良いし、固体電解質でも良い。液体電解質としては任意の適切な液体電解質を採用し得る。固体電解質としては任意の適切な固体電解質を採用し得る。
【0055】
本発明の量子ドット増感太陽電池は、本発明の量子ドット増感太陽電池用電極を用いているので、IPCEが極めて高い。具体的には、本発明の量子ドット増感太陽電池は、IPCEが、好ましくは70%以上、より好ましくは72%以上、さらに好ましくは75%以上、特に好ましくは77%以上、最も好ましくは80%以上である。従来の量子ドット増感太陽電池のIPCEは、比較的高いものであっても、通常40〜50%であり、特に高性能のものでも60%前後である(例えば、特許文献2、3参照)。このため、本発明の量子ドット増感太陽電池は、極めて高いIPCEを実現できる。
【0056】
本発明の量子ドット増感太陽電池は、本発明の量子ドット増感太陽電池用電極を用いているので、今後の実用化の実現性が高いと認め得るだけの高レベルの電力変換効率を発現できる。具体的には、本発明の量子ドット増感太陽電池は、電力変換効率が、好ましくは1.25%以上、より好ましくは1.5%以上、さらに好ましくは1.75%以上、特に好ましくは2%以上である。
【実施例】
【0057】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0058】
〔製造例1〕:多孔質酸化チタン薄膜の製造
酸化チタン粒子(日揮触媒化成社製、PST−18NR、粒子径=20nm)をFTO(フッ素ドープ酸化スズ)導電膜付ガラス基板(表面抵抗=12Ω/□)にドクターブレード法により塗布し、500℃で1時間焼成することによって、厚みが1.2μm、縦横が2.5cm×4cmの多孔質酸化チタン薄膜を得た。
【0059】
〔実施例1〕
(第1工程)
SeOのエタノール溶液(濃度1.36mM)に、製造例1で得られた多孔質酸化チタン薄膜(mp−TiO)を浸漬させた。溶液中にアルゴンガスを遮光条件下で30分間吹き込んだ後、25℃で、高圧水銀ランプを用いて紫外線を60分間照射した。用いた高圧水銀ランプの光強度は、3.6mW/cm(波長=320〜400nm)であった。このようにして、第16族元素担持多孔質n型半導体(Se/mp−TiO)を得た。得られた第16族元素担持多孔質n型半導体(Se/mp−TiO)は、エタノールで洗浄し、室温で減圧乾燥した。
(第2工程)
Pb(ClOのエタノール溶液(濃度1.36mM)に、第1工程で得られた第16族元素担持多孔質n型半導体(Se/mp−TiO)を浸漬させた。25℃、アルゴン雰囲気下で、高圧水銀ランプを用いて紫外線を60分間照射した。用いた高圧水銀ランプの光強度は、3.6mW/cm(波長=320〜400nm)であった。このようにして、量子ドット担持多孔質n型半導体(PbSe/mp−TiO)を得た。得られた量子ドット担持多孔質n型半導体(PbSe/mp−TiO)は、エタノールで洗浄し、室温で減圧乾燥した。
(第16族元素担持多孔質n型半導体のTEM写真)
第1工程後に得られた第16族元素担持多孔質n型半導体(Se/mp−TiO)についてTEM写真を撮影した。結果を図1に示した。
図1によれば、多孔質n型半導体(mp−TiO)上にナノオーダーの第16族元素(Se)が担持されていることが判る。
(量子ドット担持多孔質n型半導体のTEM写真)
第2工程後に得られた量子ドット担持多孔質n型半導体(PbSe/mp−TiO)についてTEM写真を撮影した。結果を図2に示した。
図2によれば、多孔質n型半導体(mp−TiO)上にナノオーダーの量子ドット(PbSe)が担持されていることが判る。
(XRD分析)
第1工程前の多孔質n型半導体(mp−TiO)、第1工程後の第16族元素担持多孔質n型半導体(Se/mp−TiO)、第2工程後の量子ドット担持多孔質n型半導体(PbSe/mp−TiO)の、それぞれのXRD分析を行った。結果を図3に示した。
図3の第1工程前の多孔質n型半導体(mp−TiO)のXRDパターンにおいては、アナタース型酸化チタンに由来する回折ピークが存在していることが判る。
図3の第1工程後の第16族元素担持多孔質n型半導体(Se/mp−TiO)のXRDパターンにおいては、29.6°に単斜晶系Seに帰属できる弱い回折ピークが存在していることが判る。
図3の第2工程後の量子ドット担持多孔質n型半導体(PbSe/mp−TiO)のXRDパターンにおいては、単斜晶系Seに帰属できる回折ピークが消失しており、立方晶系PbSeに帰属できる回折ピークが存在していることが判る。
これらのXRD分析は、第1工程における紫外線照射によって多孔質n型半導体(mp−TiO)表面にSe結晶が光析出し、さらに第2工程における紫外線照射によってPbSeの量子ドットが光析出したことを示している。
(XPS分析)
各反応段階における多孔質n型半導体類のSe3d−XPSスペクトルを測定した。結果を図4に示した。また、各反応段階における多孔質n型半導体類のPb4f−XPSスペクトルを測定した。結果を図5に示した。図4、図5によれば、第1工程における紫外線照射によって析出したSe結晶は、第2工程における紫外線照射により徐々にその析出量を低下させ、代りにPbSeの量子ドットが光析出し、その析出量が増加していくことが判る。
(UV−Vis分析)
第1工程の各反応段階における多孔質n型半導体類のUV−Visスペクトルを測定した。結果を図6に示した。また、第1工程および第2工程を含む各反応段階における多孔質n型半導体類のUV−Visスペクトルを測定した。結果を図7に示した。
図6、図7によれば、第16族元素担持多孔質n型半導体(Se/mp−TiO)の吸収端は約630nmであるのに対し、量子ドット担持多孔質n型半導体(PbSe/mp−TiO)は可視域から近赤外域におよび強い吸収を有することが判る。
【0060】
〔実施例2〕
(第1工程)
実施例1と同様に行い、第16族元素担持多孔質n型半導体(Se/mp−TiO)を得た。
(第2工程)
Pb(ClOのエタノール溶液(濃度1.36mM)に、メルカプト酢酸(濃度:4×10−3mol/L)を加え、第1工程で得られた第16族元素担持多孔質n型半導体(Se/mp−TiO)を浸漬させた。25℃、アルゴン雰囲気下で、高圧水銀ランプを用いて紫外線を60分間照射した。用いた高圧水銀ランプの光強度は、3.6mW/cm(波長=320〜400nm)であった。このようにして、量子ドット担持多孔質n型半導体(PbSe/mp−TiO)を得た。得られた量子ドット担持多孔質n型半導体(PbSe/mp−TiO)は、エタノールで洗浄し、室温で減圧乾燥した。
(量子ドット担持多孔質n型半導体のTEM写真)
第2工程後に得られた量子ドット担持多孔質n型半導体(PbSe/mp−TiO)についてTEM写真を撮影した。結果を図8に示した。
図8によれば、多孔質n型半導体(mp−TiO)上にナノオーダーの量子ドット(PbSe)が担持されていることが判る。
【0061】
〔比較例1〕
SeO(濃度1.36mM)、Pb(ClO(濃度1.36mM)のエタノール溶液に、製造例1で得られた多孔質酸化チタン薄膜(mp−TiO)を浸漬させた。溶液中にアルゴンガスを遮光条件下で30分間吹き込んだ後、25℃で、高圧水銀ランプを用いて紫外線を60分間照射した。用いた高圧水銀ランプの光強度は、3.6mW/cm(波長=320〜400nm)であった。このようにして、量子ドット担持多孔質n型半導体(PbSe/mp−TiO)を得ようとしたが、しかしながら、エタノール溶液中に白色沈殿が生成するのみであり、多孔質酸化チタン薄膜の表面へのPbSe量子ドットの析出は観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の製造方法で得られる量子ドット担持多孔質n型半導体は、量子ドット増感太陽電池用電極として用いることができ、このような量子ドット増感太陽電池用電極は、極めて高いIPCE効率、および、今後の実用化の実現性が高いと認め得るだけの高レベルの電力変換効率を示す量子ドット増感太陽電池に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質n型半導体上に半導体ナノ粒子である量子ドットが担持されている量子ドット担持多孔質n型半導体の製造方法であって、
多孔質n型半導体を第16族元素化合物含有溶液に浸漬させた状態で光照射する工程(I)の後に、
該工程(I)で得られる第16族元素担持多孔質n型半導体を金属イオン含有溶液に浸漬させた状態で光照射する工程(II)を行う、
量子ドット担持多孔質n型半導体の製造方法。
【請求項2】
前記光照射が、紫外線照射である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法によって得られる、量子ドット担持多孔質n型半導体。
【請求項4】
請求項3に記載の量子ドット担持多孔質n型半導体を含む、量子ドット増感太陽電池用電極。
【請求項5】
請求項4に記載の量子ドット増感太陽電池用電極を含む、量子ドット増感太陽電池。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−42058(P2013−42058A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179410(P2011−179410)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】