説明

量子収率測定装置

【課題】 試料の量子収率を正確にかつ効率良く測定することができる量子収率測定装置を提供する。
【解決手段】 量子収率測定装置1は、試料セル2の試料収容部3が内部に配置される暗箱5と、励起光L1を発生させる光発生部6と、被測定光L2を検出する光検出部9と、暗箱5内に配置された積分球14と、暗箱5内において積分球14を移動させる移動機構30と、を備える。光発生部6は、暗箱5に接続された光出射部7を有し、光検出部9は、暗箱5に接続された光入射部11を有する。積分球14は、励起光L1を入射させる光入射開口15、及び被測定光L2を出射させる光出射開口16を有する。移動機構30は、試料収容部3が積分球14内に位置する第1の状態、及び試料収容部3が積分球14外に位置する第2の状態の各状態となるように、積分球14を移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積分球を用いて発光材料等の量子収率を測定する量子収率測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の量子収率測定装置として、発光材料等の試料に励起光を照射し、試料から放出された蛍光を積分球内で多重反射させて検出することにより、試料の量子収率(「発光材料に吸収された励起光のフォトン数」に対する「発光材料から放出された蛍光のフォトン数」の割合)を測定する技術が知られている(例えば特許文献1〜3参照)。
【0003】
このような技術においては、試料が蛍光成分に対して光吸収性を有していると、蛍光が積分球内で多重反射しているときに、蛍光の一部が試料に吸収される場合がある(この現象を以下「再吸収」という)。そのような場合、蛍光のフォトン数が真の値(すなわち、発光材料から実際に放出された蛍光のフォトン数)よりも低く検出されることになる。そのため、別途、蛍光光度計を用いて、再吸収が生じない状態で試料から放出される蛍光の強度を測定し、それに基づいて先の蛍光のフォトン数を補正して量子収率を求める方法が提案されている(例えば非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−086031号公報
【特許文献2】特開2009−074866号公報
【特許文献3】特開2010−151632号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】CHRISTIAN WURTH、他7名、「Evaluation of a CommercialIntegrating Sphere Setup for the Determination of Absolute Photoluminescence QuantumYields of Dilute Dye Solutions」、APPLIED SPECTROSCOPY、(米国)、Volume 64, Number 7, 2010、p.733−741
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、積分球を用いて試料の量子収率を正確に測定するためには、積分球を備えた装置とは別に、蛍光光度計を用いる必要があるなど、煩雑な作業を要する。
【0007】
そこで、本発明は、試料の量子収率を正確にかつ効率良く測定することができる量子収率測定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の量子収率測定装置は、試料を収容するための試料セルの試料収容部に励起光を照射し、試料及び試料収容部の少なくとも一方から放出される被測定光を検出することにより、試料の量子収率を測定する量子収率測定装置であって、試料収容部が内部に配置される暗箱と、暗箱に接続された光出射部を有し、励起光を発生させる光発生部と、暗箱に接続された光入射部を有し、被測定光を検出する光検出部と、励起光を入射させる光入射開口、及び被測定光を出射させる光出射開口を有し、暗箱内に配置された積分球と、試料収容部が積分球内に位置する第1の状態、及び試料収容部が積分球外に位置する第2の状態のそれぞれの状態となるように、暗箱内において積分球を移動させ、第1の状態では、光入射開口を光出射部に対向させ、かつ光出射開口を光入射部に対向させる移動機構と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この量子収率測定装置では、試料セルの試料収容部が積分球内に位置する第1の状態、及び試料セルの試料収容部が積分球外に位置する第2の状態のそれぞれの状態となるように、暗箱内において積分球が移動機構によって移動させられる。これにより、第2の状態で蛍光のスペクトル(蛍光成分(以下、同じ))を直接(積分球内での多重反射なしに)検出して、第1の状態で検出された蛍光のスペクトルを、第2の状態で検出された蛍光のスペクトルに基づいて補正することができる。従って、この量子収率測定装置によれば、試料の量子収率を正確にかつ効率良く測定することが可能となる。
【0010】
ここで、移動機構は、積分球が固定されたステージ、ステージに固定されたナット、ナットに螺合された送りねじ軸、及び送りねじ軸を回転させる駆動源を有することが好ましい。これによれば、暗箱内において積分球を円滑に移動させることができる。
【0011】
このとき、ナットは、送りねじ軸の軸線方向から見た場合に、ステージにおいて光入射開口から光出射開口に至る第1の領域及び第2の領域のうち、光入射開口から光出射開口に至る距離が短い第1の領域に固定されていることが好ましい。これによれば、試料セルの試料収容部が積分球内に位置する第1の状態において、光入射開口を光出射部に、また、光出射開口を光入射部に、それぞれ精度良く対向させることできる。
【0012】
また、移動機構は、ステージに固定されたスリーブ、及びスリーブに挿通されたガイド軸をさらに有することが好ましい。これによれば、暗箱内において積分球をより円滑に移動させることができる。
【0013】
このとき、積分球には、他の試料を支持するための試料台が着脱自在に取り付けられており、スリーブは、ガイド軸の軸線方向から見た場合に、光入射開口又は光出射開口を挟んで送りねじ軸と対向するように第2の領域に固定されていることが好ましい。これによれば、ガイド軸が光入射開口を挟んで送りねじ軸と対向している場合には光入射開口と反対側から、また、ガイド軸が光出射開口を挟んで送りねじ軸と対向している場合には光出射開口と反対側から、それぞれ積分球にアクセスし易くなり、積分球に対して試料台を容易に着脱することができる。
【0014】
また、第1の状態での積分球の第1の位置、及び第2の状態での積分球の第2の位置のそれぞれの位置を検出する位置検出器をさらに備え、移動機構は、位置検出器によって第1の位置又は第2の位置が検出されたときに積分球を停止させることが好ましい。これによれば、試料セルの試料収容部が積分球内に位置する第1の状態、及び試料セルの試料収容部が積分球外に位置する第2の状態のそれぞれを確実に再現することができる。
【0015】
また、光出射開口には、被測定光を絞る第1の絞り部材が設けられており、光入射部には、被測定光を絞る第2の絞り部材が設けられていることが好ましい。このように、二段階に絞り部材を設けることで、光検出部に被測定光を適正な角度で入射させて、光検出部内で迷光が発生するのを抑制することができる。さらに、積分球の光出射開口に第1の絞り部材を設けることで、光出射開口を介して積分球内に異物が侵入するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、試料の量子収率を正確にかつ効率良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態の量子収率測定装置の平面図である。
【図2】図1の暗箱の内部及びその周辺部分の拡大図である。
【図3】図2のIII−III線に沿っての断面図である。
【図4】他の試料に励起光が照射されている状態での断面図である。
【図5】図2のV−V線に沿っての断面図である。
【図6】図1の量子収率測定装置を用いて量子収率を測定する方法を説明するための図である。
【図7】図1の量子収率測定装置を用いて量子収率を測定する方法を説明するための図である。
【図8】図1の量子収率測定装置を用いて量子収率を測定する方法を説明するための図である。
【図9】図1の量子収率測定装置を用いて量子収率を測定する方法を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態の量子収率測定装置の平面図であり、図2は、図1の暗箱の内部及びその周辺部分の拡大図である。図1及び図2に示されるように、量子収率測定装置1は、試料Sを収容するための試料セル2の試料収容部3に励起光L1を照射し、試料S及び試料収容部3の少なくとも一方から放出される被測定光L2を検出することにより、試料Sの量子収率(発光量子収率、蛍光量子収率、りん光量子収率等)を測定する装置である。試料Sは、例えば有機EL等の発光デバイスに用いられる発光材料等が所定の溶媒に溶かされたものである。試料セル2は、例えば合成石英からなり、試料収容部3は、例えば四角柱状の容器となっている。
【0020】
量子収率測定装置1は、試料収容部3が内部に配置される暗箱5を備えている。暗箱5は、金属からなる直方体状の箱体であって、外部からの光の侵入を遮断する。暗箱5の内面5aには、励起光L1及び被測定光L2を吸収する材料による塗装等が施されている。
【0021】
暗箱5の一方の側壁には、光発生部6の光出射部7が接続されている。光発生部6は、例えばキセノンランプや分光器等により構成された励起光源であって、励起光L1を発生させる。励起光L1は、光出射部7に設けられたレンズ8によってコリメートされて、暗箱5内に入射する。
【0022】
暗箱5の後壁には、光検出部9の光入射部11が接続されている。光検出部9は、例えば分光器やCCDセンサ等により構成されたマルチチャンネル検出器であって、被測定光L2を検出する。被測定光L2は、光入射部11に設けられた絞り部材(第2の絞り部材)12のアパーチャである開口12aで絞られて、スリット13を介して光検出部9内に入射する。
【0023】
暗箱5内には、積分球14が配置されている。積分球14は、その内面14aに硫酸バリウム等の高拡散反射剤の塗布が施されるか、若しくはPTFEやスペクトラロン等の材料で形成されている。積分球14には、励起光L1を入射させる光入射開口15、及び被測定光L2を出射させる光出射開口16が形成されている。励起光L1は、暗箱5内においてレンズ61によって集光されて、光入射開口15を介して積分球14内に入射する。被測定光L2は、光出射開口16に設けられた絞り部材(第1の絞り部材)17のアパーチャである開口17aで絞られて、積分球14外に出射する。
【0024】
以上の暗箱5、光発生部6及び光検出部9は、金属からなる筐体10内に収容されている。なお、光発生部6の光出射部7から出射させられる励起光L1の光軸と、光検出部9の光入射部11に入射させられる被測定光L2の光軸とは、水平面内において略直交している。
【0025】
図3は、図2のIII−III線に沿っての断面図である。図3に示されるように、積分球14の上部には、試料セル2を挿通させるセル挿通開口18が形成されており、暗箱5の上壁には、セル挿通開口18と対向するように開口21が形成されている。試料セル2は、試料収容部3から延在する枝管4を有しており、枝管4は、開口18,21内に一部が配置される試料ホルダ19によって保持されている。試料ホルダ19のフランジ部には、一対の位置決め穴19aが形成されており、各位置決め穴19aには、開口21を挟むように暗箱5の上壁に設けられた一対の位置決めピン22のそれぞれが嵌め合わされる。これにより、がたが抑制された状態で試料収容部3の側面3aが励起光L1の光軸に対して90°以外の所定の角度で傾斜することになり、側面3aで反射された励起光L1が光出射部7に戻ることが防止される。なお、暗箱5の上壁には、試料セル2の枝管4、試料ホルダ19及び開口21を覆うように遮光カバー23が載置されている。
【0026】
量子収率測定装置1は、さらに、暗箱5内において積分球14を移動させる移動機構30を備えている。移動機構30は、試料収容部3が積分球14内に位置する第1の状態、及び試料収容部3が積分球14外に位置する第2の状態のそれぞれの状態となるように、積分球14を移動させる。そして、移動機構30は、第1の状態において、積分球14の光入射開口15を光発生部6の光出射部7に対向させ、かつ積分球14の光出射開口16を光検出部9の光入射部11に対向させる。
【0027】
移動機構30は、積分球14が固定されたステージ31、ステージ31に固定されたナット32、ナット32に螺合された送りねじ軸33、及び送りねじ軸33を回転させるモータ(駆動源)34を有している。送りねじ軸33は、暗箱5内において鉛直方向に延在しており、送りねじ軸33の下端部は、暗箱5の下壁に回転自在に支持されている。モータ34は、送りねじ軸33の上端部に接続され、暗箱5に固定されている。なお、ナット32内には、ボールが組み込まれており、ナット32及び送りねじ軸33は、ボールねじを構成している。
【0028】
移動機構30は、さらに、ステージ31に固定されたスリーブ35、及びスリーブ35に挿通されたガイド軸36を有している。ガイド軸36は、暗箱5内において鉛直方向に延在しており、ガイド軸36の上端部及び下端部は、暗箱5に固定されている。スリーブ35は、ガイド軸36に対してガイド軸36の軸線方向に摺動自在となっている。
【0029】
図2に示されるように、ナット32は、送りねじ軸33の軸線方向から見た場合に、ステージ31において積分球14の光入射開口15から光出射開口16に至る領域(第1の領域)R1及び領域(第2の領域)R2のうち、光入射開口15から光出射開口16に至る距離が短い領域R1に固定されている。また、スリーブ35は、ガイド軸36の軸線方向から見た場合に、積分球14の光出射開口16を挟んで送りねじ軸33と対向するように領域R2に固定されている。
【0030】
図3に戻り、量子収率測定装置1は、さらに、試料収容部3が積分球14内に位置する第1の状態での積分球14の第1の位置を検出する位置検出器51と、試料収容部3が積分球14外に位置する第2の状態での積分球14の第2の位置を検出する位置検出器52と、を備えている。位置検出器51,52は、例えばフォトインタラプタであって、ステージ31に固定された遮光板53がフォトインタラプタの発光部と受光部との間に至ったときに、第1の位置及び第2の位置をそれぞれ検出する。そして、移動機構30は、位置検出器51,52によって第1の位置又は第2の位置が検出されたときに積分球14を停止させる。
【0031】
図4は、他の試料に励起光が照射されている状態での断面図である。図4に示されるように、積分球14の下部及びステージ31には、開口37が形成されている。開口37には、ステージ31の下側からステージ31に着脱自在に取り付けられた試料台40の一部が配置されている。つまり、試料台40は、積分球14に対して着脱自在に取り付けられている。試料台40は、ガラス等の基板41に薄膜状に形成された粉体や固体等の試料(他の試料)S´を支持するためのものである。なお、試料S´は、シャーレ等の容器に収容された状態で試料台40に載置される場合もある。
【0032】
試料S´に励起光L1が照射される場合には、ハンドル(光路切替手段)62(図2参照)によってステージ63が移動させられ、レンズ61からレンズ64に切り替えられる。レンズ64によって集光された励起光L1は、ミラー65,66で順次反射されて試料S´に照射される。このとき、励起光L1の光軸が基板41の表面に対して90°以外の所定の角度で傾斜することになるので、基板41の表面で反射された励起光L1が光出射部7に戻ることが防止される。なお、積分球14の光入射開口15は、試料S及び試料S´のいずれに励起光L1が照射される場合にも励起光L1を遮らない形状に形成されている。このように、積分球14の光入射開口15は、積分球14の内側の開口よりも積分球14の外側の開口が大きくなるように形成されているので、ハンドル(光路切替手段)62によって光路が切り替えられても、励起光L1が遮られない。
【0033】
図5は、図2のV−V線に沿っての断面図である。図5に示されるように、積分球14内において光出射開口16と対向する位置には、バッフル24が配置されている。バッフル24は、積分球14の内面14aに立設された支持柱25によって支持されている。また、積分球14の内面14aには、バッフル26が一体的に形成されている。バッフル24は、試料S及び試料収容部3から放出された被測定光L2が光検出部9の光入射部11に直接入射するのを防止し、バッフル26は、試料S´から放出された被測定光L2が光検出部9の光入射部11に直接入射するのを防止する。
【0034】
以上のように構成された量子収率測定装置1を用いて量子収率を測定する方法について説明する。なお、図6〜図8において、(a)は、暗箱の内部の横断面図であり、(b)は、暗箱の内部の縦断面図である。
【0035】
まず、図6に示されるように、試料Sが収容されていない空の試料セル2を暗箱5にセットする。そして、試料収容部3が積分球14内に位置する第1の状態で、光発生部6から励起光L1が出射されて試料収容部3に照射される。試料収容部3で反射された励起光L1、及び試料収容部3を透過した励起光L1は、積分球14内で多重反射して、試料収容部3から放出された被測定光L2aとして光検出部9によって検出される。
【0036】
続いて、図7に示されるように、試料セル2に試料Sを収容し、その試料セル2を暗箱5にセットする。そして、試料収容部3が積分球14内に位置する第1の状態で、光発生部6から励起光L1が出射されて試料収容部3に照射される。試料収容部3で反射された励起光L1、及び試料Sで発生した蛍光は、積分球14内で多重反射して、試料S及び試料収容部3から放出された被測定光L2bとして光検出部9によって検出される。
【0037】
続いて、図8に示されるように、試料収容部3が積分球14外に位置する第2の状態となるように、移動機構30によって積分球14が移動(ここでは、下降)させられる。このように、第1の状態から第2の状態に変更することに伴い、積分球14の光入射開口15及び光出射開口16は、それぞれ、光発生部6の光出射部7及び光検出部9の光入射部11に対して相対的に移動する。そして、第2の状態で、光発生部6から励起光L1が出射されて試料収容部3に照射される。試料Sで発生した蛍光は、直接(積分球14内での多重反射なしに)、試料Sから放出された被測定光L2cとして光検出部9によって検出される。
【0038】
以上のように、被測定光L2a,L2b,L2cのデータが取得されると、パーソナルコンピュータ等のデータ解析装置によって、被測定光L2a,L2bの励起光成分のデータに基づき、試料Sに吸収された励起光L1のフォトン数(フォトン数に比例する値等のフォトン数に相当する値(以下、同じ))が算出される。試料Sに吸収された励起光L1のフォトン数は、図9の領域A1に相当する。
【0039】
その一方で、データ解析装置によって、被測定光L2cのデータに基づき、被測定光L2bの蛍光成分のデータが補正される(詳細は非特許文献1参照)。これにより、試料Sが蛍光成分に対して光吸収性を有しており再吸収が生じたとしても、真の値(すなわち、試料Sから実際に放出された蛍光のフォトン数)となるように補正された蛍光のフォトン数がデータ解析装置によって算出される。試料Sから放出された蛍光のフォトン数は、図9の領域A2に相当する。
【0040】
そして、データ解析装置によって、「試料Sに吸収された励起光L1のフォトン数」に対する「試料Sから放出された蛍光のフォトン数」である試料Sの量子収率が算出される。なお、試料Sが溶かされていない溶媒を試料セル2に収容し、その試料セル2を暗箱5にセットして、第1の状態で被測定光L2aを検出する場合もある。
【0041】
以上説明したように、量子収率測定装置1では、試料セル2の試料収容部3が積分球14内に位置する第1の状態、及び試料セル2の試料収容部3が積分球14外に位置する第2の状態のそれぞれの状態となるように、暗箱5内において積分球14が移動機構30によって移動させられる。これにより、第2の状態で蛍光のフォトン数を直接(積分球14内での多重反射なしに)検出して、第1の状態で検出された蛍光のフォトン数を、第2の状態で検出された蛍光のフォトン数に基づいて補正することができる。従って、量子収率測定装置1によれば、試料Sの量子収率を正確にかつ効率良く測定することが可能となる。
【0042】
また、移動機構30は、積分球14が固定されたステージ31、ステージ31に固定されたナット32、ナット32に螺合された送りねじ軸33、及び送りねじ軸33を回転させるモータ34を有している。さらに、移動機構30は、ステージ31に固定されたスリーブ35、及びスリーブ35に挿通されたガイド軸36を有している。これらにより、暗箱5内において積分球14を円滑に移動させることができる。
【0043】
また、ナット32は、送りねじ軸33の軸線方向から見た場合に、ステージ31において光入射開口15から光出射開口16に至る領域R1,R2のうち、光入射開口15から光出射開口16に至る距離が短い領域R1に固定されている。これにより、試料セル2の試料収容部3が積分球14内に位置する第1の状態において、光入射開口15を光発生部6の光出射部7に、また、光出射開口16を光検出部9の光入射部11に、それぞれ精度良く対向させることできる。
【0044】
また、スリーブ35は、ガイド軸36の軸線方向から見た場合に、光出射開口16を挟んで送りねじ軸33と対向するように領域R2に固定されている。これにより、光出射開口16と反対側(すなわち、暗箱5の前壁側)から、積分球14にアクセスし易くなり、積分球14に対して試料台40を容易に着脱することができる。
【0045】
また、移動機構30は、位置検出器51,52によって第1の位置又は第2の位置が検出されたときに積分球14を停止させる。これにより、試料セル2の試料収容部3が積分球14内に位置する第1の状態、及び試料セル2の試料収容部3が積分球14外に位置する第2の状態のそれぞれを確実に再現することができる。
【0046】
また、積分球14の光出射開口16には、被測定光L2を絞る絞り部材17が設けられており、光検出部9の光入射部11には、被測定光L2を絞る絞り部材12が設けられている。このように、二段階に絞り部材17,12を設けることで(しかも、積分球14の光出射開口16と光検出部9の光入射部11とに分けて絞り部材17,12間の距離を長くとることで絞り部材12の開口12aを比較的小さくすることができ)、光検出部9に被測定光L2を適正な角度で入射させて、光検出部9内で迷光が発生するのを抑制することができる。さらに、積分球14の光出射開口16に絞り部材17を設けることで、光出射開口16を介して積分球14内に異物が侵入するのを防止することができる。この効果は、量子収率測定装置1のように積分球14を移動させる場合、暗箱5の内面5aと積分球14の光出射開口16との間に隙間が生じることから、特に有効である。なお、絞り部材17の開口17aの大きさが絞り部材12の開口12aの大きさよりも小さいほうが好ましい。
【0047】
また、試料ホルダ19は、位置決め穴19aに位置決めピン22が嵌め合わされた状態で、暗箱5の上壁に載置されているだけであり、同様に、遮光カバー23も、暗箱5の上壁に載置されているだけである。これにより、積分球14が上昇したときに、試料セル2に何らかの力が加わったとしても、その力が逃がされるので、試料セル2等が破損するのを防止することができる。
【0048】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、スリーブ35は、ガイド軸36の軸線方向から見た場合に、積分球14の光入射開口15を挟んで送りねじ軸33と対向するように領域R2に固定されていてもよい。この場合、光入射開口15と反対側(すなわち、暗箱5の他方の側壁側)から、積分球14にアクセスし易くなり、積分球14に対して試料台40を容易に着脱することができる。
【0049】
また、積分球14の光出射開口16に絞り部材17を設けず、光検出部9の光入射部11に複数の絞り部材12を設けてもよい。この場合、試料セル2の試料収容部3が積分球14内に位置する第1の状態と、試料セル2の試料収容部3が積分球14外に位置する第2の状態とにおいて、略同一の条件で光検出部9内に被測定光L2を入射させることができる。さらに、光発生部6と暗箱5とを、また、光検出部9と暗箱5とを、それぞれ光ファイバ等によって光学的に接続してもよい。また、筐体10を暗箱として構成してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…量子収率測定装置、2…試料セル、3…試料収容部、5…暗箱、6…光発生部、7…光出射部、9…光検出部、11…光入射部、12…絞り部材(第2の絞り部材)、14…積分球、15…光入射開口、16…光出射開口、17…絞り部材(第1の絞り部材)、30…移動機構、31…ステージ、32…ナット、33…送りねじ軸、34…モータ(駆動源)、35…スリーブ、36…ガイド軸、40…試料台、51,52…位置検出器、L1…励起光、L2,L2a,L2b,L2c…被測定光、R1…領域(第1の領域)、R2…領域(第2の領域)、S…試料、S´…試料(他の試料)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を収容するための試料セルの試料収容部に励起光を照射し、前記試料及び前記試料収容部の少なくとも一方から放出される被測定光を検出することにより、前記試料の量子収率を測定する量子収率測定装置であって、
前記試料収容部が内部に配置される暗箱と、
前記暗箱に接続された光出射部を有し、前記励起光を発生させる光発生部と、
前記暗箱に接続された光入射部を有し、前記被測定光を検出する光検出部と、
前記励起光を入射させる光入射開口、及び前記被測定光を出射させる光出射開口を有し、前記暗箱内に配置された積分球と、
前記試料収容部が前記積分球内に位置する第1の状態、及び前記試料収容部が前記積分球外に位置する第2の状態のそれぞれの状態となるように、前記暗箱内において前記積分球を移動させ、前記第1の状態では、前記光入射開口を前記光出射部に対向させ、かつ前記光出射開口を前記光入射部に対向させる移動機構と、を備えることを特徴とする量子収率測定装置。
【請求項2】
前記移動機構は、前記積分球が固定されたステージ、前記ステージに固定されたナット、前記ナットに螺合された送りねじ軸、及び前記送りねじ軸を回転させる駆動源を有することを特徴とする請求項1記載の量子収率測定装置。
【請求項3】
前記ナットは、前記送りねじ軸の軸線方向から見た場合に、前記ステージにおいて前記光入射開口から前記光出射開口に至る第1の領域及び第2の領域のうち、前記光入射開口から前記光出射開口に至る距離が短い前記第1の領域に固定されていることを特徴とする請求項2記載の量子収率測定装置。
【請求項4】
前記移動機構は、前記ステージに固定されたスリーブ、及び前記スリーブに挿通されたガイド軸をさらに有することを特徴とする請求項2又は3記載の量子収率測定装置。
【請求項5】
前記積分球には、他の試料を支持するための試料台が着脱自在に取り付けられており、
前記スリーブは、前記ガイド軸の軸線方向から見た場合に、前記光入射開口又は前記光出射開口を挟んで前記送りねじ軸と対向するように前記第2の領域に固定されていることを特徴とする請求項4記載の量子収率測定装置。
【請求項6】
前記第1の状態での前記積分球の第1の位置、及び前記第2の状態での前記積分球の第2の位置のそれぞれの位置を検出する位置検出器をさらに備え、
前記移動機構は、前記位置検出器によって前記第1の位置又は前記第2の位置が検出されたときに前記積分球を停止させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の量子収率測定装置。
【請求項7】
前記光出射開口には、前記被測定光を絞る第1の絞り部材が設けられており、前記光入射部には、前記被測定光を絞る第2の絞り部材が設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の量子収率測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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