説明

金型位置決め機構

【課題】スライドコアの倒れや傾きを防止し、製品の品質悪化やバリ発生を防止し安定生産を可能とする金型位置決め機構を提供する。
【解決手段】鋳造しようとする製品形状部の下側形状に対応した表面形状の表面21sを有する下型21と、下型21上を移動可能に設けられ製品形状部の側面形状に対応した表面形状の表面22s、23s、24s及び25sを有するスライドコア22、23、24及び25と、製品形状部の上側形状に対応した表面形状の表面26sを有する上型26と、上型26に当接して上型26の型締め時の高さ位置を規定するコーナポスト41、42、43及び44と、を備え、コーナポスト41、42、43及び44は、スライドコア22、23、24及び25のプラテン22b、23b、24b及び25bに当接してスライドコア22、23、24及び25の型締め時の位置を規定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型位置決め機構に関する。詳しくは、例えば自動車用エンジンのシリンダヘッド等を低圧鋳造法によって鋳造するスライドコアを備えた鋳造機等に用いられる金型位置決め機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車用のエンジンのシリンダヘッドは低圧鋳造法によって鋳造されている。この低圧鋳造法の鋳造機として、例えば特許文献1に開示された技術がある。特許文献1に開示された技術では、上型と下型とからなる金型の下方にるつぼが配置され、このるつぼに貯留された溶湯を加圧してストークと湯口カップとを通して押し上げ、下型の湯口に供給する構成が採用されている。
この種の鋳造機において、上型及び下型のみでは鋳造できない複雑な形状の製品を鋳造する場合には、スライドコアが用いられる。スライドコアを用いる鋳造機として、例えば特許文献2に開示された技術がある。特許文献2に開示された技術では、下型の四隅に設置され上型の型締め時の高さ方向の位置決めを行う4本のコーナポストを用い、スライドコアを、各コーナポストの側壁に移動自在に遊嵌し、型締め位置と型開き位置との間で往復動できるようにしている。このスライドコアは、型締め時に、その下部が下型に密接し、その側部が隣のスライドコアに密接する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−57979号公報
【特許文献2】特開2005−205437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2に開示された技術では、1つのスライドコアの型締め時の位置決めを、当該スライドコアを下型及び隣の両側2つのスライドコアの合計3箇所に密接させることで行っている。
ここで、鋳造機内部はるつぼの設けられた下側の方が高温となり易いので、下型がスライドコアよりも高温になり易い。このように温度差が生じ、仮に、1つのスライドコアに密接する下型の温度が500℃、同様に密接する両側2つのスライドコアの温度が300℃であるとすると、型締め時に当該スライドコアは熱膨張の大きい下型に密接し下型で位置拘束され、両側2つのスライドコアとは密接することなくスライドコア同士の間に隙間を生じる。このとき、スライドコアの上部が位置拘束されず、スライドコアの下部のみが位置拘束される状態になり、スライドコアは鋳造機中心部に押し込まれて倒れることがある。
また、スライドコア同士も温度差が生じることがあり、1つのスライドコアに対する隣の両側2つのスライドコアの温度差による熱膨張の違いから当該スライドコアと隣の両側2つのスライドコアのそれぞれとの間の隙間に差が生じる場合がある。この場合、隣り合うスライドコア同士の間の隙間が大きい側において、型締め時に隣り合うスライドコア同士が正しく密接せずにスライドコアの左右がバランス悪く鋳造機中心部に押し込まれ、スライドコアが水平方向に傾くことがある。
【0005】
このようなスライドコアの倒れや傾きは、型締め時に金型が鋳造しようとする製品形状部に対応するキャビティ形状の変形や中子位置のずれを生じさせ、鋳造した製品に偏肉、位置ずれ等の品質悪化やバリ発生を招き、安定生産を困難にする。特に砂中子を用いた鋳造のとき、スライドコアの倒れや傾きによって、砂中子が所定の位置に正しく適切に配置されず製品にバリの発生や砂中子の破損が生じる場合がある。
【0006】
本発明は上記課題を解決するものであり、その目的は、スライドコアの倒れや傾きを防止し、製品の品質悪化やバリ発生を防止し安定生産を可能とする金型位置決め機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)基台(例えば、後述する基台3)上に固定され、鋳造しようとする製品形状部の下側形状に対応した表面形状の表面(例えば、後述する表面21s)を有する下型(例えば、後述する下型21)と、前記下型上を移動可能に設けられ前記製品形状部の側面形状の少なくとも一部に対応した表面形状の表面(例えば、後述する表面22s、23s、24s及び25s)を有するスライドコア(例えば、後述するスライドコア22、23、24及び25)と、前記下型に対して上下動可能に設けられ前記製品形状部の上側形状に対応した表面形状の表面(例えば、後述する表面26s)を有する上型(例えば、後述する上型26)と、前記基台上に設けられ前記上型に当接して前記上型の型締め時の高さ位置を規定する支柱(例えば、後述するコーナポスト41、42、43及び44)と、を備え、前記支柱は、前記スライドコアに当接して前記スライドコアの型締め時の位置を規定するように構成されていることを特徴とする金型位置決め機構。
【0008】
(1)の発明によれば、スライドコアは、基台上に設けられ上型に当接して上型の型締め時の高さ位置を規定する支柱に当接して、型締め時のスライドコアの位置が規定される。よって、スライドコアは、型締め時の位置決めのために下型や他のスライドコアと密接する必要がない。
これにより、型締め時に、スライドコアの上部が位置拘束されず、スライドコアの下部のみが下型で位置拘束される状態を防止でき、スライドコアが鋳造機中心部に押し込まれて倒れることはない。
また、これにより隣り合うスライドコア同士を密接させる必要がない。このため、隣り合うスライドコア同士の間に十分な隙間を設けておくことができ、型締め時に、隣り合うスライドコア同士が正しく密接せずにスライドコアの左右がバランス悪く鋳造機中心部に押し込まれる状態を防止でき、スライドコアが水平方向に傾くことはない。
したがって、スライドコアが、型締め時に、倒れも水平方向の傾きもなく予め設定された所定の位置に正しく配置されるので、金型が鋳造しようとする製品形状部に対応するキャビティ形状の変形や中子位置のずれが生じることがなく、鋳造した製品における偏肉、位置ずれ等の品質悪化やバリ発生を防止でき、安定生産が可能になる。特に砂中子を用いた鋳造のとき、スライドコアの倒れや傾きに起因する砂中子の位置ずれによる製品のバリ発生及び砂中子の破損を防止できる。
【0009】
(2)型締め時の前記下型と前記スライドコアとの間及び前記スライドコア同士の間に、隙間を設けることを特徴とする(1)に記載の金型位置決め機構。
【0010】
(2)の発明によれば、スライドコアは、基台上に設けられ上型に当接して上型の型締め時の高さ位置を規定する支柱に当接して、型締め時のスライドコアの位置が規定され、下型とスライドコアとの温度差による熱膨張に違いが生じても、下型とスライドコアとの間及びスライドコア同士の間に隙間を設けているので、スライドコアは下型や他のスライドコアと当接しない。
これにより、型締め時に、スライドコアの上部が位置拘束されずスライドコアの下部のみが熱膨張した下型で位置拘束される状態を確実に防止でき、スライドコアが鋳造機中心部に押し込まれて倒れることはない。
また、これにより隣り合うスライドコア同士は熱膨張しても当接しない。このため、型締め時に、隣り合うスライドコア同士が意図せず接触してスライドコアの左右がバランス悪く鋳造機中心部に押し込まれる状態を確実に防止でき、スライドコアが水平方向に傾くことはない。
したがって、スライドコアが、型締め時に、倒れも水平方向の傾きもなく予め設定された所定の位置に確実に正しく配置されるので、金型が鋳造しようとする製品形状部に対応するキャビティ形状の変形や中子位置のずれが生じることがなく、鋳造した製品の偏肉、位置ずれ等の品質悪化やバリ発生を防止でき、安定生産が可能になる。特に砂中子を用いた鋳造のとき、スライドコアの倒れや傾きに起因する砂中子の位置ずれによる製品のバリ発生及び砂中子の破損を確実に防止できる。
【0011】
(3)型締め時に前記支柱と前記スライドコアとが当接する当接箇所に、交換可能なプレート(例えば、後述するプレート61、62、63、64、65、66、67及び68)を配置することを特徴とする(1)又は(2)に記載の金型位置決め機構。
【0012】
(3)の発明によれば、繰り返される鋳造でのスライドコアの型締め時の位置決めによってプレートが摩耗してもプレートを交換するだけで、金型の主要部品である支柱やスライドコアは交換の必要がなく、金型の耐久性を向上できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スライドコアの倒れや傾きを防止し、製品の品質悪化やバリ発生を防止し安定生産を可能とする金型位置決め機構を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る鋳造機の金型を示し、(a)は金型の上型を除いた上面図であり、(b)は金型の1つのスライドコアを除いた側面図である。
【図2】上記実施形態に係る鋳造機のコーナポストを示し、(a)は図1(b)と同方向からの側面図であり、(b)は(a)の矢印C方向からの側面図である。
【図3】上記実施形態に係る型締め時の砂中子と下型の凸部とを示し、(a)は上面図であり、(b)は(a)のBB断面図であり、(c)は砂中子が位置ずれした場合における(a)のBB断面図である。
【図4】従来の金型のモデルを示す模式図である。
【図5】スライドコアの倒れを示す模式図である。
【図6】スライドコアの傾きを示す模式図である。
【図7】上記実施形態に係る金型のモデルを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る金型位置決め機構を用いた鋳造機について説明する。
[鋳造機]
図1は、本実施形態に係る鋳造機1の主要構成部である金型2を示し、(a)は金型2の上型26を除いた上面図であり、(b)は金型2のスライドコア25を除いた側面図である。
鋳造機1は、自動車用のエンジンのシリンダヘッドを低圧鋳造法によって鋳造するものである。鋳造機1は、金型2の下方に図示しないるつぼを有し、このるつぼに貯留された溶湯を加圧してストークと湯口カップとを通して押し上げ、下型21の湯口に供給する。
【0016】
金型2は、基台3上に固定された下型21と、スライドコア22、23、24及び25と、上型26と、を備える。
【0017】
下型21は、基台3上に固定され、上面視において略四角形に形成されている。下型21は、その上面に鋳造しようとする製品形状部の下側形状、すなわちシリンダヘッドの下側形状に対応した表面形状の表面21sを有する。下型21の表面21sの中央部には、シリンダヘッドの下側形状の一部である燃焼室頂部形状に対応した表面形状の凸部21a、21b、21c及び21dが鋳造しようとする製品形状部、すなわちシリンダヘッドの気筒の配置に沿って一列に4つ形成されている。
ここで、この凸部21a、21b、21c及び21dの配列方向をY方向と、Y方向に直交する水平方向をX方向と、XY方向平面に垂直な方向をZ方向と、それぞれ定義する。
また、後述の通り、下型21上には、鋳造工程において、型開きのとき、排気ポート形状の砂中子91a、91b、91c及び91d及び吸気ポート形状の砂中子92a、92b、92c及び92dが載置される。
【0018】
スライドコア22、23、24及び25は、下型21上を移動可能に設けられ、鋳造しようとする製品形状部の側面形状、すなわちシリンダヘッドの四方のそれぞれの側壁面形状に対応して配置されている。
スライドコア22、23、24及び25は、コア本体22a、23a、24a及び25aと、コア本体22a、23a、24a及び25aをそれぞれ保持する基部としてのプラテン22b、23b、24b及び25bと、によって、それぞれ一体に構成されている。
スライドコア22は、X方向に移動可能に設けられ、コア本体22aにシリンダヘッドの排気側の側壁面形状に対応した表面形状の表面22sを有する。スライドコア23は、同様に、X方向に移動可能に設けられ、コア本体23aにシリンダヘッドの吸気側の側壁面形状に対応した表面形状の表面23sを有する。スライドコア24は、Y方向に移動可能に設けられ、コア本体24aにシリンダヘッドの排気側から見て右側(図1(a)の紙面上側)の側壁面形状に対応した表面形状の表面24sを有する。スライドコア25は、同様に、Y方向に移動可能に設けられ、コア本体25aにシリンダヘッドの排気側から見て左側(図1(a)の紙面下側)の側壁面形状に対応した表面形状の表面25sを有する。
【0019】
上型26は、下型21に対してZ方向に上下動可能に設けられ、鋳造しようとする製品形状部の上側形状、すなわちシリンダヘッドの上側形状に対応した表面形状の表面26sを有する。
【0020】
基台3には、下型21の四隅に対応する位置に、上型26に上面が当接して上型26の型締め時の高さ位置を規定するコーナポスト41、42、43及び44が設置されている。
【0021】
また、基台3には、各コーナポスト41、42、43及び44の間に、略四角形の下型21の各辺から四方に延出するレール51、52、53及び54がそれぞれ設置されている。レール51、52、53及び54は、それぞれ3本ずつ並列して設けられていてよい。
プラテン22b、23b、24b及び25bは、それぞれレール51、52、53及び54に係合し、それぞれレール51、52、53及び54の延出方向に沿って移動可能に保持されている。
【0022】
各プラテン22b、23b、24b及び25bのそれぞれに対して、図示しない駆動手段、例えばエアシリンダが接続されている。
各駆動手段は、図示しない鋳造機制御手段によって制御され、それぞれ所定のタイミングで作動するように構成されている。
したがって、スライドコア22は、所定のタイミングでレール51上をX方向に往復動する。同様に、スライドコア23は、所定のタイミングでレール52上をX方向に往復動し、スライドコア24は、所定のタイミングでレール53上をY方向に往復動し、スライドコア25は、所定のタイミングでレール54上をY方向に往復動する。
ここで、各スライドコア22、23、24及び25が型締めのために移動する方向(金型2の内側方向)を型締め方向といい、各スライドコア22、23、24及び25が型開きのために移動する方向(金型2の外側方向)を型開き方向という。
【0023】
コア本体22aは、その横幅が、その両側に位置するコーナポスト41及び44の間の距離よりも短く、スライドコア22がレール51上をX方向(型締め方向)に移動してもコーナポスト41及び44に当接しないように構成されている。同様に、コア本体23aは、その横幅が、その両側に位置するコーナポスト42及び43の間の距離よりも短く、スライドコア23がレール52上をX方向(型締め方向)に移動してもコーナポスト42及び43に当接しないように構成されている。同様に、コア本体24aは、その横幅が、その両側に位置するコーナポスト43及び44の間の距離よりも短く、スライドコア24がレール53上をY方向(型締め方向)に移動してもコーナポスト43及び44に当接しないように構成されている。同様に、コア本体25aは、その横幅が、その両側に位置するコーナポスト41及び42の間の距離よりも短く、スライドコア25がレール54上をY方向(型締め方向)に移動してもコーナポスト41及び42に当接しないように構成されている。
【0024】
一方、プラテン22bは、その横幅が、その両側に位置するコーナポスト41及び44の間の距離よりも長く、スライドコア22がレール51上をX方向(型締め方向)に移動するとプラテン22bが所定の位置でコーナポスト41及び44に左右同時に当接するように構成されている。同様に、プラテン23bは、その横幅が、その両側に位置するコーナポスト42及び43の間の距離よりも長く、スライドコア23がレール52上をX方向(型締め方向)に移動するとプラテン23bが所定の位置でコーナポスト42及び43に左右同時に当接するように構成されている。同様に、プラテン24bは、その横幅が、その両側に位置するコーナポスト43及び44の間の距離よりも長く、スライドコア24がレール53上をY方向(型締め方向)に移動するとプラテン24bが所定の位置でコーナポスト43及び44に左右同時に当接するように構成されている。同様に、プラテン25bは、その横幅が、その両側に位置するコーナポスト41及び42の間の距離よりも長く、スライドコア25がレール54上をY方向(型締め方向)に移動するとプラテン25bが所定の位置でコーナポスト41及び42に左右同時に当接するように構成されている。
【0025】
したがって、コア本体22a、23a、24a及び25aは、いずれも、型締め方向に移動すると、下型21に対して所定の位置でそれぞれ固定される。これらの所定の位置は、スライドコア22、23、24及び25のそれぞれの型締め位置になるように構成されている。
【0026】
プラテン22b、23b、24b及び25bの形状は、上述の通り、スライドコア22、23、24及び25が型締め方向に移動するとき、両端部が対応するコーナポスト41、42、43及び44(例えば、スライドコア22の場合、コーナポスト41及び44)に左右同時に当接するものであればよく、プラテン23b及び25bのように同一肉厚の矩形形状であっても、プラテン22b及び24bのように段差形状であってもよい。
【0027】
このように、鋳造機1は、スライドコア22、23、24及び25のそれぞれの型締め時の位置決めを、プラテン22b、23b、24b及び25bが対応するコーナポスト41、42、43及び44に所定の位置で左右同時に当接することによって定めている。
このため、スライドコア22、23、24及び25は、それぞれ型締め時の位置決めのために下型21や他のスライドコア(例えば、スライドコア22の場合、スライドコア24及び25)と当接する必要がなく、下型21とコア本体22a、23a、24a及び25aとの間及びコア本体22a、23a、24a及び25a同士の間にそれぞれ隙間を設けられている。この隙間により、下型21及びコア本体22a、23a、24a及び25aの各部材の熱膨張による接触を避けることができる。
【0028】
コーナポスト41、42、43及び44には、型締め時にスライドコア22、23、24及び25のプラテン22b、23b、24b及び25bに当接する側壁面の当接箇所に、それぞれプレート61、62、63、64、65、66、67及び68が配置されている。
また同様にコーナポスト41、42、43及び44には、型締め時に上型26に当接する上面の当接箇所に、それぞれプレート71、72、73及び74が配置されている。
これらのプレート61、62、63、64、65、66、67、68、71、72、73及び74は、それぞれボルトで固定されており、それぞれ交換可能に構成されている。
このため、プレート61、62、63、64、65、66、67及び68は、厚みをそれぞれ変更したり、上下に分割し分割したプレートの厚みをそれぞれ変更することもできる。
【0029】
図2は、本実施形態に係る鋳造機のコーナポストを示し、(a)は図1(b)と同方向からの側面図であり、(b)は(a)の矢印C方向からの側面図である。
プレート61は、スライドコア22のプラテン22bが当接するコーナポスト41の側面の当接箇所に設けられた凹部に半分埋め込まれた状態で位置決めされ、ボルト81及び82で2箇所固定されている。このようにプレート61、62、63、64、65、66、67及び68は、コーナポスト41、42、43及び44の側面の当接箇所に設けられた凹部に半分埋め込まれた状態で位置決めされるので、ずれがなくしっかりと固定される。
また、プレート71は、上型26が当接するコーナポスト41の上面の当接箇所に載置された状態で位置決めされ、ボルトで3箇所固定されている。
他のプレートも同様に固定されていてよい。
【0030】
鋳造機1は、このように構成されているので、スライドコア22、23、24及び25は、型締め時に倒れも水平方向の傾きもなく、それぞれ所定の型締め位置に正しく固定される。
また、スライドコア22、23、24及び25は、スライドコア22、23、24及び25のそれぞれの型締め時の位置決めを、下型21や他のスライドコア(例えば、スライドコア22の場合、スライドコア24及び25)に影響を受けずに、独立して調整することができる。
【0031】
[鋳造工程]
次に、図1〜図3に基づき、以上のように構成された金型2による鋳造工程について説明する。
まず型開き工程では、型開きされ、前の鋳造工程で製造された製品、すなわちシリンダヘッドが排出された後、下型21上に、排気ポート形状の砂中子91a、91b、91c及び91d及び吸気ポート形状の砂中子92a、92b、92c及び92dが載置される。
排気ポート形状の砂中子91a、91b、91c及び91dは、一体に構成されていて、1回で所定の位置に載置できるものであることが好ましい。また、吸気ポート形状の砂中子92a、92b、92c、92dも、同様に一体に構成されていて、1回で所定の位置に載置できるものであることが好ましい。
【0032】
次に型閉め工程に移ると、各スライドコア22、23、24及び25は、それぞれ対応する各駆動手段によって、それぞれレール51、52、53及び54上を型締め方向に移動する。
【0033】
スライドコア22、23、24及び25が型締め方向に移動するとき、下型21上に載置された排気ポート形状の砂中子91a、91b、91c及び91dは、スライドコア22に係合し、吸気ポート形状の砂中子92a、92b、92c、92dは、スライドコア23に係合し、砂中子91a、91b、91c及び91d及び砂中子92a、92b、92c及び92dは、それぞれ下型21上の所定の位置に配置される。
【0034】
各スライドコア22、23、24及び25が型締め方向に更に移動していくと、プラテン22b、23b、24b及び25bが、それぞれ対応するコーナポスト41、42、43及び44のプレート61、62、63、64、65、66、67及び68に当接し、スライドコア22、23、24及び25は、それぞれ設定された型締め位置に、倒れも水平方向の傾きもなく正しく固定される。
【0035】
図3は、本実施形態に係る型締め時の砂中子と下型の凸部とを示し、(a)は上面図であり、(b)は(a)のBB断面図であり、(c)は砂中子が位置ずれした場合における(a)のBB断面図である。
型締め時において、スライドコア22、23、24及び25が、それぞれ設定された型締め位置に、倒れも水平方向の傾きもなく正しく固定されるので、排気ポート形状の砂中子91aは、(a)、(b)に示すように、下型21の凸部21aの当接面29e及び29fに対し排気ポート形状の砂中子91aの端面98e及び98fを、位置ずれも隙間もなく密接して固定される。他の排気ポート形状の砂中子91b、91c及び91dも同様に固定される。
また、同様に、吸気ポート形状の砂中子92aは、下型21の凸部21aの当接面29g及び29hに対し吸気ポート形状の砂中子92aの端面99g及び99hを、位置ずれも隙間もなく密接して固定される。他の吸気ポート形状の砂中子92b、92c及び92dも同様に固定される。
【0036】
次に、上型26は、下方の型締め方向に移動し、型締め位置に固定されたスライドコア22、23、24及び25に接近する。上型26が型締め方向に移動すると、上型26は、コーナポスト41、42、43及び44のプレート71、72、73及び74に当接し、型締め位置に固定される。
【0037】
以上のようにして型締めされると、金型2の内部に鋳造しようとする製品形状、ここではシリンダヘッドに対応するキャビティ9が形成される。
次に溶湯注入工程に移ると、基台3の下部に配置された図示しないるつぼから溶湯が湯口を通してキャビティ9に供給される。これにより、キャビティ9に溶湯が充填され、製品形状、すなわちシリンダヘッドが鋳造される。
【0038】
このようにして鋳造されたシリンダヘッドは、スライドコア22、23、24及び25が型締め時に倒れも水平方向の傾きもなく、それぞれ設定された所定の型締め位置に正しく固定されているので、偏肉、位置ずれ等の品質悪化やバリ発生を防止できる。
特に排気ポート形状の砂中子91a、91b、91c及び91dは、下型21の凸部21a、21b、21c及び21dのそれぞれの当接面(例えば、凸部21aの当接面29e及び29f)に対し排気ポート形状の砂中子91a、91b、91c及び91dの端面(例えば、砂中子91aの端面98e及び98f)を、位置ずれも隙間もなく密接して固定されるので、シリンダヘッドの排気ポートの燃焼室頂部空間への開口部の位置ずれ及びバリ発生を防止できる。
吸気ポート形状の砂中子92a、92b、92c及び92dも同様に、下型21の凸部21a、21b、21c及び21dのそれぞれの当接面(例えば、凸部21aでは当接面29g及び29h)に対し吸気ポート形状の砂中子92a、92b、92c及び92dの端面(例えば、砂中子92aでは端面99g及び99h)を、位置ずれも隙間もなく密接して固定されるので、シリンダヘッドの吸気ポートの燃焼室頂部空間への開口部の位置ずれ及びバリ発生を防止できる。
【0039】
[本実施形態に係る鋳造機の特徴]
以下、本実施形態に係る鋳造機1の特徴を、図4〜図7の模式図を用いて従来の鋳造機と対比させて説明する。
図4は、従来の金型のモデルを示す模式図である。図5は、スライドコアの倒れを示す模式図である。図6は、スライドコアの傾きを示す模式図である。図7は、本実施形態に係る金型のモデルを示す模式図である。
【0040】
従来の鋳造機では、図4に示すように1つのスライドコア122、123、124及び125の型締め時の位置決めを、当該スライドコア122、123、124及び125を下型121及び隣の両側2つのスライドコア122、123、124及び125の合計3箇所に密接させることで行っている。
【0041】
ここで、鋳造機内部はるつぼの設けられた下側の方が高温となり易いので、下型121はスライドコア122、123、124及び125よりも高温になり易い。このように温度差が生じ、型締め時に当該スライドコア122、123、124及び125は熱膨張の大きい下型121に密接し下型121によって位置拘束され、両側2つのスライドコア(例えば、スライドコア122の場合、スライドコア124及び125)とは密接することなくそれらの間に隙間を生じる。
このとき、スライドコア122は、図5に示すように、上部が位置拘束されず下部のみが位置拘束される状態になり、鋳造機中心部に押し込まれ、倒れることがある。
【0042】
また、スライドコア122、123、124及び125同士も温度差が生じることがあり、1つのスライドコアに対する隣の両側2つのスライドコア(例えば、スライドコア125の場合、スライドコア122及び123)の温度差による熱膨張の違いから当該スライドコア125と隣の両側2つのスライドコア122及び123のそれぞれとの間の隙間に差が生じる場合がある。
この場合、図6に示すように、隣り合うスライドコア122及び123との間の隙間が大きい側(この場合スライドコア122側の隙間)において、型締め時に隣り合うスライドコア122及び125同士が正しく密接せずにスライドコア125の左右がバランス悪く鋳造機中心部に押し込まれ、スライドコア125が水平方向に傾くことがある。
【0043】
このようなスライドコア122、123、124及び125の倒れや傾きは、型締め時に金型が鋳造しようとする製品形状部に対応するキャビティ形状の変形や中子位置のずれを生じさせ、鋳造した製品に偏肉、位置ずれ等の品質悪化やバリ発生を招き、安定生産を困難にする。
特に砂中子を用いた鋳造のとき、スライドコアの倒れや傾きによって、砂中子が所定の位置に正しく配置されず製品に位置ずれやバリを発生させる。
例えば図3(c)に示すように排気ポート形状の砂中子191aの端面198eと凸部121aの当接表面129eとの間に隙間を生じさせ、製品としてのシリンダヘッドの排気ポートの燃焼室頂部空間への開口部にバリが発生する場合がある。
またこの他にも、砂中子191aの端面198eと凸部121aの当接表面129eとの間に、干渉やずれ、押し込み等の弊害を生じ、製品としてのシリンダヘッドの排気ポートの燃焼室頂部空間への開口部に寸法精度の悪化を招く場合がある。また砂中子を破損させる場合もある。
これに対して、本実施形態では、前述の通り、コーナポスト41、42、43及び44が、スライドコア22、23、24及び25のプラテン22b、23b、24b及び25bに当接してスライドコア22、23、24及び25の型締め時の位置を規定するようにしている。このため、スライドコア22、23、24及び25は、予め設定された型締め位置に、倒れも水平方向の傾きもなく正しく固定される。
【0044】
[本実施形態に係る鋳造機の効果]
本実施形態に係る鋳造機1によると以下の効果を奏する。
(1)スライドコア22、23、24及び25は、コーナポスト41、42、43及び44に当接してスライドコア22、23、24及び25の型締め時の位置が規定される。よって、スライドコア22、23、24及び25のコア本体22a、23a、24a及び25aは型締め時の位置決めのために下型21や他のコア本体22a、23a、24a及び25aと密接する必要がない。
これにより、型締め時に、コア本体22a、23a、24a及び25aは、上部が位置拘束されず下部のみが下型21で位置拘束される状態を防止でき、鋳造機1の中心部に押し込まれて図5に示すように倒れることはない。
また、これにより隣り合うコア本体22a、23a、24a及び25a同士の間に十分な隙間を設けており、型締め時に隣り合うコア本体22a、23a、24a及び25a同士が正しく密接せずにコア本体22a、23a、24a及び25aの左右がバランス悪く鋳造機1の中心部に押し込まれる状態を防止でき、スライドコア22、23、24及び25が図6に示すように水平方向に傾くことはない。
したがって、スライドコア22、23、24及び25が、型締め時に、倒れも水平方向の傾きもなく予め設定された所定の位置に正しく配置されるので、金型2が鋳造しようとする製品形状部に対応するキャビティ形状の変形や中子位置のずれが生じることがなく、鋳造機1で鋳造した製品における偏肉、位置ずれ等の品質悪化やバリ発生を防止でき、安定生産が可能になる。特に砂中子を用いた鋳造のとき、スライドコア22、23、24及び25の倒れや傾きに起因する砂中子の位置ずれによる製品のバリ発生及び砂中子の破損を防止できる。
【0045】
(2)型締め時にコーナポスト41、42、43及び44とスライドコア22、23、24及び25のプラテン22b、23b、24b及び25bとが当接する当接箇所に、交換可能なプレート61、62、63、64、65、66、67及び68が配置されている。これによって、繰り返される鋳造によりこれらのプレートが摩耗してもプレートを交換するだけで、コーナポスト41、42、43及び44やスライドコア22、23、24及び25には繰り返される鋳造による摩耗の影響が及ばず交換の必要がなく、金型2の耐久性を向上できる。
【0046】
(3)プレート61、62、63、64、65、66、67及び68は、厚みをそれぞれ変更したり、上下に分割したプレートを用いることができる。これによって、1つのスライドコア22、23、24及び25の両側に位置するコーナポスト41、42、43及び44に配置されているプレート61、62、63、64、65、66、67及び68(例えば、スライドコア22の場合、プレート61及び68)は、その厚みをそれぞれ別々に変更することにより、スライドコア22、23、24及び25の水平方向の傾きをそれぞれ微調整できる。また、1つのスライドコア22、23、24及び25の両側に位置するコーナポスト41、42、43及び44に配置されているプレート61、62、63、64、65、66、67及び68(例えば、スライドコア22の場合、プレート61及び68)は、上下に分割して、分割したプレートの厚みを上下でそれぞれ変更することにより、スライドコア22、23、24及び25の垂直度をそれぞれ微調整できる。
【0047】
(4)スライドコア22、23、24及び25は、それぞれ両側のコーナポスト41、42、43及び44(例えば、スライドコア22の場合、コーナポスト41及び44)に当接してスライドコア22、23、24及び25の型締め時の位置が規定される。このため、1つのスライドコア22、23、24及び25は、下型21や他のスライドコア(例えば、スライドコア22の場合、スライドコア24及び25)に影響を受けずに独立して型締め時の位置が規定できる。したがって、1つのスライドコア22、23、24及び25の交換や調整が生じても、付随して下型21や他のスライドコア(例えば、スライドコア22の場合、スライドコア24及び25)の交換や調整は必要なく、効率的である。
【0048】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲で変形、改良等を行っても、本発明の範囲に包含される。
本実施形態では、交換可能なプレートをコーナポストに配置したが、交換可能なプレートをスライドコアに配置してもよい。
【符号の説明】
【0049】
1…鋳造機
2…金型
3…基台
21…下型
21s、22s、23s、24s、25s、26s…表面
22、23、24、25…スライドコア
22a、23a、24a、25a…コア本体
22b、23b、24b、25b…プラテン
26…上型
41、42、43、44…コーナポスト(支柱)
51、52、53、54…レール
61、62、63、64、65、66、67、68…プレート
71、72、73、74…プレート
81、82…ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台上に固定され、鋳造しようとする製品形状部の下側形状に対応した表面形状の表面を有する下型と、
前記下型上を移動可能に設けられ前記製品形状部の側面形状の少なくとも一部に対応した表面形状の表面を有するスライドコアと、
前記下型に対して上下動可能に設けられ前記製品形状部の上側形状に対応した表面形状の表面を有する上型と、
前記基台上に設けられ前記上型に当接して前記上型の型締め時の高さ位置を規定する支柱と、を備え、
前記支柱は、前記スライドコアに当接して前記スライドコアの型締め時の位置を規定するように構成されていることを特徴とする金型位置決め機構。
【請求項2】
型締め時の前記下型と前記スライドコアとの間及び前記スライドコア同士の間に、隙間を設けることを特徴とする請求項1に記載の金型位置決め機構。
【請求項3】
型締め時に前記支柱と前記スライドコアとが当接する当接箇所に、交換可能なプレートを配置することを特徴とする請求項1又は2に記載の金型位置決め機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−86118(P2013−86118A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227982(P2011−227982)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】