説明

金型及び圧着方法

【課題】その端子形成片上に載せた電線の信号導体を包み込むように加締めるに際し、その端子形成片の両端部間から芯線(信号導体)、シールド線(シールド導体)、外皮を含む電線の一部が端子形成片に挟み込まれることを防止できる金型及び圧着方法を提供すること。
【解決手段】上型18は、端子形成片12を折り曲げる型内壁面18aを有し、型内壁面18aは、下型19に向かってテーパ状に拡開し、且つその最深部において交差する該型内壁面の2面がなす角度は鈍角である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸ケーブルなどの信号導体を有する電線に端子を圧着させる金型およびその金型を用いた圧着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシールド電線の端末接続構造として、内導体端子に接続される信号導体の周りに絶縁性の内被を介してシールド導体が被覆され、更にその外周を絶縁性の外被により被覆されたシールド電線の端末部に外導体端子が接続されたものが、特許文献1に開示されている。
【0003】
このシールド電線の端末接続構造は、外導体端子に前記シールド電線端子の剥き出しにされたシールド電線(導体)を挟着する一対の圧着片からなるワイヤバレルを持つ。このワイヤバレルの圧着片によるシールド電線の圧着工程は、次の通りである。
【0004】
まず、図6(a)に示されるように、ワイヤバレル26とその上に載置されたシールド電線10の上方にはクリンパ40、そのワイヤバレル26の下方にはアンビル42が配置されている。圧着加工時には、ワイヤバレル26とその上に載置されたシールド電線10の上方からはワイヤバレル用のクリンパ40が下降し、最初にクリンパ40の窪みの浅い方の型内壁面76に、図中左側の圧着片30bが接触し、型内壁面76に沿って内側に屈曲し始める。更に、クリンパ40が下降を続け、クリンパ40の窪みの深い方の型内壁面80に右側の圧着片30aが接触し、この圧着片30aも左側の圧着片30bに同じく型内壁面80にそって内側に屈曲し始める。
【0005】
また、ワイヤバレル26の下に配置されたアンビル42は、クリンパ40との間で、このワイヤバレル26とその上に載置されたシールド電線10を挟み込む。そして図6(b)に示されるように圧着片30a,30bの先端がクリンパ40の中心軸付近の突出部78まで達し、シールド電線10を包み込む形となる。
【0006】
図6(c)に示すように、ワイヤバレル26側では先に屈曲を始めた左側の圧着片30bの先端は、クリンパ40の中心付近にある突出部78にガイドされて下方に導かれる。更に、遅れて屈曲し始めた右側の圧着片30aの先端は、左側の圧着片30bの上に重なるように屈曲する。更に前記クリンパ40は下降を続け、それぞれのクリンパ40の中心付近の突出部78まで達した圧着片30a、30bの先端が衝突することなく屈曲が進行する。
【0007】
ここで、ワイヤバレル26側ではクリンパ40の窪みの浅い方の型内壁面76に沿って屈曲された圧着片30bが反対側の圧着片30aの下に回り込む形となり、図6(c)および図6(d)に示されるように、図中右側の圧着片30aの先端は左側から屈曲してきた圧着片30bの先端とクリンパ40の突出部78に挟まれて押さえ込まれる。この時、圧着片30aの先端は図6(b)の矢印62で示す方向に押されることになる。
【0008】
クリンパ40は更に下降を続け、図6(d)に示すように、ワイヤバレル26側では、左側の圧着片30bの先端は右側の圧着片30aの下側に、右側の圧着片30aの先端は左側の圧着片30bの上側に左右両方から均等に重なり合ってオーバーラップしていき、最終的に図6(e)に示すように、左右均等に圧着片が屈曲し、シールド電線の中心と信号導体のずれのない良好な圧着状態のシールド電線の端末接続構造を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−147223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した従来のシールド電線の端末接続構造は、解決すべき以下の問題を有している。
即ち、シールド電線10は、図6(a)に示すようなクリンパ40の下降時に発生する振動等により、ワイヤバレル26の正規の加締め位置になく、このワイヤバレル26との間に図7(a)に示すような間隙Hが生じることがある。この場合には、ワイヤバレル26の圧着片30a、30bの先端部が型内壁面76、80に、図7(a)に示すように干渉(接触)し始めるとき、ワイヤバレル26の底部(凹部)はシールド電線10との接触状態が得られない。このため、ワイヤバレル26はその底部である中央部を中心に自由に湾曲するように折り曲げられ、この折り曲げ部の曲率が極度に小さくなる。従って、この状態で前述のようにクリンパ40を下降し続けると、前記間隙Hを保持したまま各圧着片30a、30bがシールド電線10を包み込む際に、シールド電線10の一部(上部)が図7(b)に示すように、各圧着片30a、30b間に食み出した状態で挟み込まれてしまう。この結果、ワイヤバレル26によるシールド電線10の保持が不完全となり、シールド電線10がワイヤバレル26から抜け出すという不都合があった。同様の問題は、複数本の芯線からなる信号導体とこの信号導体に圧着保持される端子との間でも発生する。
【0011】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、その端子形成片上に載せた電線の信号導体を包み込むように加締めるに際し、その端子形成片の両端部間から信号導体が食み出さないようにすることができる金型及び圧着方法を提供することにある。
【0012】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、その端子形成片上に載せた電線の信号導体を包み込むように加締めるに際し、その端子形成片の両端部間から芯線(信号導体)、シールド線(シールド導体)、外皮を含む電線の一部が端子形成片に挟み込まれることを防止できる金型及び圧着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するために、本発明に係る金型は、下記(1)を特徴としている。
(1) キャリアと、該キャリアの長手方向の複数箇所に連設された平板状の端子形成片と、を備えた連鎖端子の該端子形成片を電線の一部において露出した信号導体に圧着させるための上型及び下型を有する金型であって、
前記上型は、前記端子形成片を折り曲げる型内壁面を有し、
前記型内壁面は、前記下型に向かってテーパ状に拡開し、且つその最深部において交差する該型内壁面の2面がなす角度は鈍角である、
ことを特徴とする金型。
【0014】
上記(1)の構成の金型によれば、電線から露出する信号導体を包むように金型によって端子形成片を加締める当初においては、金型のテーパ面が端子形成片の両端部を下方へ押圧しながら、その両端部をこれらの互いに近づく方向へ押圧する。このため、端子形成片がU字状から円筒状(О字状)に変形していく過程で、このU字状の底となる部位にはこの底の曲率を拡大する方向の力が作用する。このため、信号導体はこの底部の上方に持ち上げられることはなく、底部上面に接するように位置することとなる。従って、金型によって端子形成片の両端部を閉じるように加締める際に、これらの両端部間に信号導体の一部が食み出して挟まれるようなことはなくなる。この結果、信号導体と端子形成片との結合が確実になるともに、これらの電気的接続も確実になる。
【0015】
また、本発明に係る圧着方法は、下記(2)を特徴としている。
(2) キャリアと、該キャリアの長手方向の複数箇所に連設された平板状の端子形成片と、を備えた連鎖端子の該端子形成片を電線の一部において露出した信号導体に圧着させるための圧着方法であって、
両端部が他の部分よりも内側に折り曲げられた前記端子形成片を第1の金型のうちの下型に載置し、
前記第1の金型のうちの上型に前記端子形成片を折り曲げるために形成された、前記下型に向かってテーパ状に拡開し、且つその最深部において交差する2面がなす角度が鈍角である型内壁面によって、前記端子形成片の両端部を近づかせるように、該端子形成片を折り曲げる、
ことを特徴とする圧着方法。
【0016】
上記(2)の構成の圧着方法によれば、電線から露出する信号導体を包むように金型によって端子形成片を加締める当初においては、金型のテーパ面が端子形成片の両端部を下方へ押圧しながら、その両端部をこれらの互いに近づく方向へ押圧する。このため、端子形成片がU字状から円筒状(О字状)に変形していく過程で、このU字状の底となる部位にはこの底の曲率を拡大する方向の力が作用する。このため、信号導体はこの底部の上方に持ち上げられることはなく、底部上面に接するように位置することとなる。従って、金型によって端子形成片の両端部を閉じるように加締める際に、これらの両端部間に信号導体の一部が食み出して挟まれるようなことはなくなる。この結果、信号導体と端子形成片との結合が確実になるともに、これらの電気的接続も確実になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、端子形成片上に載せた電線の信号導体を包み込むように加締めるに際し、その端子形成片の両端部間から信号導体、シールド線(シールド導体)、外皮を含む電線の一部が食み出さないようにすることができる。
【0018】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態にかかる連鎖端子の加工工程を示す斜視図である。
【図2】図1に示した電線を端子形成片で加締め付けた状態の断面図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる連鎖端子の加工工程を示す説明図である。
【図4】図3において電線を端子形成片で加締める加締め工程の詳細を示す説明図である。
【図5】図4に示す加締め工程に続いて実施される仕上げの加締め工程を示す説明図である。
【図6】従来のシールド電線のワイヤバレルの圧着工程を示す説明図である。
【図7】従来のワイヤバレルの不適切な圧着変形過程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施の形態にかかる圧着方法を、図1から図5を参照して説明する。
【0021】
図1に示す本実施形態の連鎖端子は、キャリア11と、このキャリア11の長手方向の複数箇所に連設された平板上の端子形成片12とを、有する。端子形成片12は、プレス成形されることによって端子として形成され、そのプレス成形時に折り曲げられた端子形成片12内には電線13の信号導体14の先端部が収容されている。また、端子形成片12はキャリアツナギ15を介して前記キャリア11の長手方向の複数箇所に連設されている。
【0022】
信号導体14は、複数本の芯線14aを束ねて形成されている。この信号導体14の先端部は、端子形成片12の中央に載置され、この載置部分において端子形成片12の左右の各端部が信号導体14に向って折り曲げられることにより端子形成片12に加締められる。
【0023】
この場合に、端子形成片12の各端部は、後述のような上型および下型間に介在されるように押圧されて、信号導体14の芯線14aどうしが略隙間が無くなるように圧縮される。これにより端子形成片12の両端部が、芯線14aが圧縮状態に保たれた信号導体14を加締めた状態となる。このため、信号導体14は、その各端部間から食み出すことはなく、折り曲げられた端子形成片12内に、図2に示すように保持される。なお、図2では、信号導体14の芯線14aが7本の場合を示してあるが、本発明はこの本数に限られるものではなく、1本の場合であっても本発明を適用することができる。
【0024】
次に、図3を参照して、本発明の実施形態の連鎖端子が成形される過程を、その端子の形状の変化と併せて説明する。図3(a)〜(f)は、本発明の実施形態の連鎖端子がプレス成形される一連の工程を説明する図である。
【0025】
まず、平板状の金属板が第1のプレス切断用の金型ブロック上に配置され、プレスされることによって、図3(a)に示すように、帯形状のキャリア11と、該キャリア11の長手方向に延びる一端部に連設された矩形状の端子形成片12と、が形成される。このとき、端子形成片12は、後述するプレス成形によって電線13の信号導体14を包み込むことにより該信号導体と導通することになる端子形成片本体12aと、端子形成片本体12aとキャリア11を結ぶキャリアツナギ15と、端子形成片本体12aのキャリア11側とは反対側に臨む一端から延設された一対のコンタクト12bと、によって構成される。コンタクト12bは、先端に向かって先細になっており、後述の加締めによって切頭円錐状をなす。また、コンタクト12bは、端子形成片12が端子となった際に該端子の先端(相手方端子と接触する部位)を形成することになる。以後、キャリアツナギ15を介してキャリア11に連設されている端子形成片12において、コンタクト12b側を先端側、キャリア11に近い側を後端側、と称する。
【0026】
その後、前記プレス切断用の第1の金型ブロックによってプレス切断された端子形成片12がプレス成形用の第2の金型ブロック上に配置され、プレスされる。図3(b)では、端子形成片12は、端子形成片本体12aのキャリアツナギ15を挟む両側および2つのコンタクト12bが、端子形成片本体12aのキャリアツナギ15に連設された中央に対して折り曲げられる。このとき、端子形成片12の断面は、端子形成片本体12aの中央を底辺としたとき、端子形成片本体12aの両側が該中央の両端からそれぞれ立設する略U字状に成形される。
【0027】
さらに、この第2の金型ブロックによってプレス成形された端子形成片12がプレス成形用の第3の金型ブロック上に配置され、さらにプレスされる。図3(c)では、端子形成片12は、端子形成片本体12aの先端側の略半分が閉じられる。すなわち、端子形成片本体12aの両側の端部のうちの先端側の略半分を近づけるように、端子形成片本体12aがプレス成形される。他方、端子形成片本体12aの後端側の略半分は、図3(b)と同様、上方が開いた状態、つまり、端子形成片本体12aの両側が端子形成片本体12aの中央の両端からそれぞれ立設する略U字形状となっている。
【0028】
さらに、図3(d)では、端子形成片本体12aの後端上に、電線13の一端において露出した信号導体14を配置する。このとき、端子形成片本体12aの後端側の略半分は、その上方が開いた状態にあるため、信号導体14を端子形成片本体12aの中央に配置することができる。
【0029】
その後、信号導体14が第3の金型ブロックによってプレス成形され、端子形成片本体12aに載置された端子形成片12が、プレス成形用の第4の金型ブロック上に配置され、さらにプレスされる。図3(e)に示すように、端子形成片12は、電線13の信号導体14が配置された端子形成片本体12aの後端側の略半分が閉じられる。すなわち、端子形成片本体12a両端部の後端側の略半分を近づけるように、端子形成片本体12aが成形される。
【0030】
端子形成片12は、上述した図3(a)〜(e)に示す工程を経て、電線13の信号導体14が端子形成片本体12aに接続されると同時に、端子の形状に形成される。その後、第4の金型ブロックによってプレス成形された端子形成片12がプレス切断用の第5の金型ブロック上に配置され、図3(f)に示すようにキャリア11におけるキャリアツナギ15の両側の部分が切断される。こうして、電線13の信号導体14に接続された状態の端子16が形成される。
【0031】
このように、本発明の実施形態の連鎖端子では、端子形成片12を端子の形状にプレス成形する工程と、端子と電線13の信号導体14を接続する工程と、を一連のプレス成形で行うことができる。すなわち、従来のように、プレス成形によって形成した端子を金型から取り出し、その端子をアンビルおよびクリンパを備える端子圧着装置に配置する必要がない。このため、端子が組み付けられた電線を生産する上で、その作業の効率化を図ることができる。
【0032】
ところで、上述した図3(d)の工程では、電線13の一端から露出する信号導体14が、端子形成片本体12a中央の左右両端からそれぞれ立設するU字形状部分に載置された後、図3(e)に示すように、その両端が閉じられる加締められる。そして、この両端が閉じられる過程で、芯線14aどうしが密に重なり合って信号導体14全体の外径寸法を縮小化するとともに、信号導体14が端子形成片本体12aの前記U字上部内に密着する。
【0033】
図4(a)乃至図4(c)は、このような信号導体14に対する端子形成片本体12の加締め工程を更に具体的に示す図である。この加締め工程では、上型18および下型19が用いられる。上型18はこれの下面に下方に向かって逆V字形状に拡開する一対の型内壁面(テーパ面)18aを有する。これらの型内壁面18aを形成する逆V字形状の深さおよび幅は、加締め対象の端子形成片12のサイズや信号導体14の断面積等に応じて設計される。通常は、2つの型内壁面(テーパ面)18aが交差する交線(紙面に向う方向に延びている)Lを通る垂直面に対して対象形状、同一角度をなす。また、その逆V字形状の互いに対向する型内壁面18aどうしがなす角度は90度以上の鈍角に設定されている。こうすることで端子形成片12の両端部を加締める際に、型内壁面18aが下型19に支承された端子形成片12の各端部に対し、垂直下方(矢印P方向)への圧縮力と、その端子形成片12の各端部が向かい合う方向(矢印Q1、Q2方向)への付勢力を、同時に印加可能にしている。このとき、端子形成片12の両端部は、端子形成片12の他の部分よりも内側に折り曲げられた屈曲片12dとされている。このため、これらの屈曲片12dに型内壁面18aの加圧力が作用することで、端子形成片12の両端部が垂直下方および互いに向かい合う方向へスムースに折り曲げ可能になる。
【0034】
一方、下型19は上型18の垂直下方の位置に設置され、その上型18に対向する面側には、交線Lに対向する位置を中心として、一対の円弧状型内壁面19a、これらの円弧状型内壁面19aに連続する垂直面を形成する垂直型内壁面19bおよび各垂直型内壁面19bに連続し、水平底を形成する水平底型内壁面19cが形成されている。これらの円弧状型内壁面19a、垂直型内壁面19bよび水平底型内壁面19cは凹部Dを形成している。この凹部Dは、下型19上の中央位置に端子形成片12を位置ずれしないように支持する。このため、その端子形成片12にはその凹部D内に緩やかに嵌合する矩形断面形状部の凸部Eが一体に形成されている。
【0035】
このような金型(上型18および下型19)によって、次のように信号導体14に端子形成片12を圧着する。先ず、図4(a)に示すように、下型19上に、他の部分よりも内側に折り曲げられた屈曲片12dが形成された端子形成片12を載置する。このとき、端子形成片12の矩形断面形状の凸部Eが挿入され、下型19上で端子形成片12が位置ずれしないように支承される。そして、図3(d)に示すように、略U字状に折り曲げられた端子形成片12の中央部に電線13の信号導体14を載置した後、上型18が下降する。この上型18の下降につれて、この上型18の逆V字形状をなす各型内壁面18aが端子形成片12の左右の各端部に接し、更にこれらの各端部を下方に圧縮していく。この上型18による圧縮作動時には、矢印Pで示す方向の圧縮力に加え、端子形成片12の各端部が互いに対峙する方向Q1、Q2への挟圧力が、各型内壁面18aに接する端子形成片12の各端部にそれぞれ作用する。このため、上型18の下降によって、端子形成片12の各端部がその端子形成片12の中央部上に載置された前記電線13の信号導体14の全体を包むように加締めを開始する。この加締め開始時は、U字状に曲げられた端子形成片12の底部は幅狭であり、電線13の信号導体14は、端子形成片12の底面12cから浮上した状態となっている。
【0036】
続いて、上型18を更に下降させると、この上型18の各型内壁面18aが端子形成片12の各端部を矢印P方向に圧縮するとともに、それらの端部が互いに対峙する矢印Q1、Q2方向へ押圧する。端子形成片12はこの矢印P方向への圧縮力およびQ1、Q2方向への挟圧力を受けて、矩形断面形状の凸部Eの両端部付近が、図4(b)に示すように変形していくとともに、その端子形成片12の両端部の端面が近づくように接近していく(図4(b)参照。)。そして、この端子形成片12の変形とともに、信号導体14の一部の芯線14aが端子形成片12の底面12c上に接するように押し下げられ、各信号導体14どうしも徐々に密接していく。これによって、芯線14aのいずれもがU字状の端子形成片12の内側に囲い込まれ、前記加締め工程中に端子形成片12の各端部から食み出すことがなくなる。
【0037】
更に、上型18を下降させると、各芯線14aどうしが更に強くかつ密に接触することとなる。従って、電線13の信号導体14は端子形成片12の各端部間から食み出すことなく、図4(c)に示すように端子形成片12内に完全に包まれるように収納された状態となる。
【0038】
次に、前述のようにして信号導体14を加締めた端子形成片12を、上型18を上昇させることで下型から分離して、図5に示すような別設の仕上げ用の金型21を用いて略円形断面となるように、更に強く加締め込む。図5に示す金型21は、上型22および下型23から構成され、上型22の下面には下向き型内壁面22aが形成され、下型23の上面にはこの下向き型内壁面22aと同形、同サイズの上向き型内壁面23aが形成されている(仕上げ用の金型21によるプレス成形も、図3(e)の第4の金型ブロックによるプレス成形に含まれる。)。これらの下向き型内壁面22aおよび上向き型内壁面23aは互いに上下方向に対向する位置に向けられている。
【0039】
そこで、かかる下型23の上向き型内壁面23aに図4に示した下型19から取り外した信号導体14を加締めた端子形成片12を、図5(a)に示すように設置した後、上型22を下降させてその端子形成片12を下向き型内壁面22aによって下型23方向へ押圧する。これによって、端子形成片12は下向き型内壁面22aおよび上向き型内壁面23aの形態に沿って断面形状が図5(b)に示すように円形に変形することとなる。
【0040】
こうして、上型22および下型23によって形成された信号導体14および端子形成片12は、図1に示すように断面形状が円形で、芯線14aどうしが端子形成片12とともにこれの内部に密着された端子が形成される。また、このようにして得られた端子では、前述のような加締め加工時に電線13の食み出しがないので、所期の機械的強度および電気的接続を実現可能になる。
【0041】
以上のように、本実施形態の金型及び圧着方法によれば、逆V字形状に拡開する一対の型内壁面(テーパ面)18aのなす角度が鈍角に設定されている上型18によって加締めている。これにより、電線から露出する信号導体を包むように金型によって端子形成片を加締める当初においては、金型のテーパ面が端子形成片の両端部を下方へ押圧しながら、その両端部をこれらの互いに近づく方向へ押圧する。このため、端子形成片がU字状から円筒状(О字状)に変形していく過程で、このU字状の底となる部位にはこの底の曲率を拡大する方向の力が作用する。このため、信号導体はこの底部の上方に持ち上げられることはなく、底部上面に接するように位置することとなる。従って、金型によって端子形成片の両端部を閉じるように加締める際に、これらの両端部間に信号導体の芯線14a、シールド線(シールド導体)、外皮を含む電線13の一部が食み出して挟まれるようなことはなくなる。この結果、信号導体と端子形成片との結合が確実になるともに、これらの電気的接続も確実になる。このことは、他の部分よりも内側に折り曲げられた屈曲片12dが端子形成片12に形成されていることによって、一層顕著になる。
【符号の説明】
【0042】
11 キャリア
12 端子形成片
12a 端子形成片本体
12b コンタクト
12c 底面
12d 屈曲片
13 電線
14 信号導体
15 キャリアツナギ
16 端子
18 上型
18a 型内壁面
19 下型
19a 円弧状型内壁面
19b 垂直型内壁面
19c 水平底型内壁面
21 金型
22 上型
22a 下向き型内壁面
23 下型
23a 上向き型内壁面
D 凹部
E 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアと、該キャリアの長手方向の複数箇所に連設された平板状の端子形成片と、を備えた連鎖端子の該端子形成片を電線の一部において露出した信号導体に圧着させるための上型及び下型を有する金型であって、
前記上型は、前記端子形成片を折り曲げる型内壁面を有し、
前記型内壁面は、前記下型に向かってテーパ状に拡開し、且つその最深部において交差する該型内壁面の2面がなす角度は鈍角である、
ことを特徴とする金型。
【請求項2】
キャリアと、該キャリアの長手方向の複数箇所に連設された平板状の端子形成片と、を備えた連鎖端子の該端子形成片を電線の一部において露出した信号導体に圧着させるための圧着方法であって、
両端部が他の部分よりも内側に折り曲げられた前記端子形成片を第1の金型のうちの下型に載置し、
前記第1の金型のうちの上型に前記端子形成片を折り曲げるために形成された、前記下型に向かってテーパ状に拡開し、且つその最深部において交差する2面がなす角度が鈍角である型内壁面によって、前記端子形成片の両端部を近づかせるように、該端子形成片を折り曲げる、
ことを特徴とする圧着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−22931(P2012−22931A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160695(P2010−160695)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】