説明

金属の電解採取方法

【課題】金属の電解採取方法において、カソードの溶出を抑制する。
【解決手段】電解液中の金属成分をカソードに電着する工程と、カソード及びアノードが短絡する工程とを含む金属の電解採取方法であって、カソード及びアノードの組み合わせは、カソードとアノードを短絡した時にカソードの電解液中への溶出が生じるような組み合わせであり、少なくとも短絡時にはカソード表面に当該カソードよりも卑な金属が接触していることを含む金属の電解採取方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカソードの溶出が抑制された金属の電解採取方法に関する。とりわけ、本発明はカソードの溶出が抑制された脱銅電解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅製錬においては、従来、転炉からの粗銅を、酸化製錬、還元処理をした後、アノード(銅品位が約99重量%)に鋳造し、これを、種板からなるカソードと共に用いて、硫酸酸性電解液中で電解精製して、電気銅を得ていた。この電解精製では、アノードから溶解する銅の量がカソードに電着する銅の量よりも若干多いため、次第に電解液中の銅濃度は増大し硫酸濃度は減少し、また、不純物も蓄積される。そのため、循環電解液の一部を取り出して、定期的に電解後液再生処理を行っている。慣用的には、不溶性アノード(鉛又は鉛基合金、例えば、Pb−Ag合金、Ag1重量%)を用い、銅の種板をカソードとして銅の電解採取(脱銅電解)を行い、電解後液を本系統の循環電解液に回送していた(特許第3774262号公報)。
【0003】
近年の銅の電解精錬においては、カソードとして種板を使用せずに、ステンレス板を使用してその表面に銅を電着させるパーマネントカソード法(PC法)と呼ばれる方式が主流に成りつつある。PC法では、カソードであるステンレス板の極板部両面に所定の厚みの銅を電着させ、電着した銅をステンレス板から剥ぎ取って電気銅が得られる(特開2005−240146号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3774262号公報
【特許文献2】特開2005−240146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
脱銅電解はPC法においても同様に必要であるが、PC法の普及に伴って、脱銅電解において使用するカソードも銅の種板ではなくステンレス板が採用されるようになってきた。しかしながら、この場合、脱銅電解を繰り返すうちに、ステンレス板が腐食により溶出して表面が荒れ、電着した銅が剥がれにくくなるという不具合が生じることが分かった。そのため、これまではステンレス板の表面研磨を頻繁に実施することでこの不具合を除去していたが、研磨工程が増えることにより作業効率が低下していた。また、ステンレス板は電解液中に腐食溶出して劣化し、長期間の使用ができないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明はカソードとして種板を使用しない金属の電解採取方法において、カソードの溶出を抑制することを課題とする。とりわけ、本発明は脱銅電解方法において、カソードの溶出を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するべく鋭意検討したところ、電解採取に使用するカソードに、当該カソード板よりも卑な金属を接触させておくことで、カソードの溶出が抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は一側面において、電解液中の金属成分を当該金属成分とは異なる材料でできたカソードに電着する工程と、カソード及びアノードが短絡する工程とを含む金属の電解採取方法であり、カソード及びアノードの組み合わせは、カソードとアノードを短絡した時にカソードの電解液中への溶出が生じるような組み合わせであり、少なくとも短絡時にはカソード表面に当該カソードよりも卑な金属を接触させる方法である。
【0009】
本発明に係る電解採取方法は一実施形態において、前記卑な金属が電解採取される金属と同一種類である。
【0010】
本発明に係る電解採取方法は別の一実施形態において、前記卑な金属のカソード表面への接触は、前記卑な金属のカソード表面への電着、溶接、溶射及び機械的固定の何れか一種以上により行う。
【0011】
本発明に係る電解採取方法は更に別の一実施形態において、前記卑な金属のカソード表面への接触は、前記卑な金属をカソード表面の一部又は全部に電着することにより行う。
【0012】
本発明に係る電解採取方法は更に別の一実施形態において、カソードがステンレス製である。
【0013】
本発明に係る電解採取方法は更に別の一実施形態において、アノードが鉛又は鉛基合金である。
【0014】
本発明に係る電解採取方法は更に別の一実施形態において、電解採取される金属が銅である。
【0015】
本発明に係る電解採取方法は更に別の一実施形態において、カソード及びアノードが短絡する工程は、前記卑な金属が電解液中に完全に溶出する前に終了する。
【0016】
本発明に係る電解採取方法は更に別の一実施形態において、金属の電解採取が銅の脱銅電解である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電解採取を繰り返し行うことによるカソードの腐食溶出が防止できる。そのため、カソード表面の粗面化が抑制され、カソード表面に電着した金属が剥がれにくくなることもないので、カソード表面を研磨する作業が軽減されると共に、カソードの長寿命化を図ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1−1】複数の脱銅電解槽を直列に配列した状態を示す。
【図1−2】複数の脱銅電解槽を直列に配列した状態を示す。
【図1−3】複数の脱銅電解槽を直列に配列した状態を示す。
【図2】ステンレス板(例1)、銅板(例2)及びCu−SUS板(例3)が溶解するアノード電位をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
脱銅電解の一般的な手順を説明する。銅の電解精製と同様の電解液が脱銅電解槽に供給される。該電解液は硫酸酸性であるのが一般的であり、銅濃度は例えば30〜60g/Lである。脱銅電解槽内にはカソード(陰極)板とアノード(陽極)板が設置されている。一般には、カソード板とアノードが一つの脱銅電解槽内に交互に配列されている。図1−1〜図1−3に示すように、複数の脱銅電解槽11を直列に配列することもできる。脱銅電解開始前は図1−3に示すように、バイパス回路スイッチ15が閉の状態であり、カソード板13及びアノード板12が短絡されている。バイパス回路スイッチ15を開の状態にして、脱銅電解槽11への通電を開始すると、電気は図1−1に示すように脱銅電解槽11を流れ、電解液14中に溶解していた銅成分がカソード板13に電着する。通電を継続し、所定の厚みにまで電着銅が成長すると、カソード板13を電解槽11から引き上げて電着銅を回収し、新しいカソード板13に入れ替える。カソード板13の入れ替え時には、感電防止のため、カソード板13の引き上げ前に再び回路が短絡され、図1−3の状態に戻る。カソード板13の入れ替え中は図1−2の状態となり、脱銅電解槽11は絶縁される。新しいカソード板13が脱銅電解槽11に装入されて再度図1−3の状態となり、その後、通電が繰り返される。新しいカソード板13の配置が完了した時点で、図1−3の状態で、いったん全体を停電する場合もある。
【0020】
アノードとして鉛又は鉛基合金(例えばPb−Sb、Pb−Ca−Sn合金)を使用し、カソードとして銅の種板を使用する従来の脱銅電解においては、通電時(図1−1の状態)に以下のような反応が起こり、アノードでは水の電気分解により酸素が発生し、カソードでは銅が析出する。
アノード:H2O→1/2O2+2H++2e-
カソード:CuSO4+2e-→Cu+SO42-
また、カソードの引き上げ前及び通電前(図1−3の状態)には以下のような反応が起こり、カソードから銅が電解液中に溶出する反応が起きるが、銅が電解液中に溶出しても電解採取される銅の純度への影響はなく、問題はなかった。
アノード:PbO2+4H++SO42-+2e-→PbSO4+2H2
カソード:Cu+SO42-→CuSO4+2e-(カソードとして銅の種板を使用した場合のカソード引き上げ前及び通電前)
【0021】
しかしながら、アノードとして鉛又は鉛基合金(例えばPb−Sb、Pb−Ca−Sn合金)を使用し、パーマネントカソード(PC)としてステンレス板を使用する脱銅電解においては、通電時(図1−1の状態)における反応は上記と同じであるが、カソードの引き上げ前及びカソード入れ替え後の通電前(図1−3の状態)の回路短絡時に、逆流の回路が形成されて、アノードでは鉛の放電が起き、カソードでは例えば以下のような鉄の溶出反応が起きる。
アノード:PbO2+4H++SO42-+2e-→PbSO4+2H2
カソード:Cu+SO42-→CuSO4+2e-(銅電着後のPCカソード板引き上げ前)
カソード:Fe+SO42-→FeSO4+2e-(PCカソード板入れ替え後の通電前)
【0022】
このように、パーマネントカソードの入れ替え後にはステンレスの成分が電解液中に腐食溶出するので、パーマネントカソードを繰り返し使用していくうちに、やがて表面が黒く焼けたような荒れた状態となってしまい、電着した銅が剥がれにくくなる。また、電解採取される銅中に含まれる不純物が増加するという問題も発生する。
【0023】
そのため、本発明では、カソードよりも卑な金属をカソードに接触させ、逆流の回路が形成されたときに当該卑な金属を優先溶出させることで、カソードの溶出を防止している。カソードの材料としては特に制限はないが、電解液に対して不溶性であることからチタンやステンレスを用いるのが一般的であり、電位が高いことからステンレスを用いるのが好ましい。ステンレスとしては特に制限はなく、マルテンサイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、オーステナイト・フェライト二相ステンレス鋼、及び析出硬化ステンレス鋼の何れを用いても良い。
【0024】
カソードよりも卑な金属はカソードの材質に応じてイオン化傾向を考慮して選択すればよいが、当該卑な金属は電解液中に溶出して電解採取された金属の純度に影響を与えるので、純度を高めるために電解採取される金属と同一であることが好ましい。
【0025】
例えば、カソードとしてステンレスを使用する場合、カソードよりも卑な金属としては銅、鉛、錫、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、クロム、コバルト、カドミウム及びマンガンなどが挙げられ、電解採取する金属が銅であれば卑な金属として銅を選択することが好ましく、電解採取する金属が亜鉛であれば卑な金属として亜鉛を選択することが好ましく、電解採取する金属がニッケルであれば卑な金属としてニッケルを選択することが好ましく、電解採取する金属がコバルトであれば卑な金属としてコバルトを選択することが好ましく、電解採取する金属がマンガンであれば卑な金属としてマンガンを選択することが好ましく、電解採取する金属がカドミウムであれば卑な金属としてカドミウムを選択することが好ましい。
【0026】
少なくともカソード及びアノードの短絡時には、カソードよりも卑な金属がカソードに接触してさえいれば本発明の効果は得られる。そのため、接触の態様は特に制限はなく、例えばカソード板表面へのカソードよりも卑な金属の電着、溶接、溶射、及び機械的固定などが挙げられる。卑な金属は必ずしもカソード表面の全体に接触している必要はなく、カソードの一部に接触しているだけで足りる。カソードの表面に卑な金属が接触している限り、当該卑な金属が優先して溶出するからである。但し、カソードの表面状態を維持しつつ密着性を高くするためには、前記卑な金属のカソード表面への接触は、前記卑な金属をカソード表面の一部又は全部に電着することにより行うのが好ましい。また、カソード及びアノードが短絡する工程は、前記卑な金属が電解液中に完全に溶出する前に終了することが望ましい。前記卑な金属が電解液中に完全に溶出してしまうと、カソードの溶出が始まってしまうからである。
【0027】
本発明に係る電解採取におけるカソードの溶出防止方法は脱銅電解に適用するのが典型的であるが、これに限られず、例えばSX−EW、脱砒電解、電解銅粉の製造、電解銅箔の製造において使用するカソードの溶出防止にも適用可能であり、本発明ではこれらのプロセスも電解採取の概念に包含する。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例を示すが、これは本発明及びその利点をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図しない。
【0029】
<試験>
以下で構成される3電極方式の電気化学セルを例1〜3まで作製し、それぞれアノード電位と時間の関係を調査した。
【0030】
<電気化学セルの構成>
作用電極:ステンレス板(SUS316L)(例1)、銅板(例2)、ステンレス板(SUS316L)の表面に銅を電着させたもの(Cu−SUS)(表面積 SUS:Cu=1:1*)(例3)
対電極:Cu
参照電極:Ag/AgCl
電解液:Cu=10g/L、H2SO4=100g/L、液温=40℃、pH=0以下
*ステンレス板の裏面全部及び表面の下半分を絶縁性テープを貼ってマスキングした状態で電気分解により銅を電着させ、表面側のマスキングを取り除くことで、ステンレスと銅の表面積の比を1:1とした。
【0031】
結果を図2に示す。図2から分かるように、銅板(例2)が溶解するアノード電位は約0.2Vであるのに対して、ステンレス板(例1)は約1.3Vであった。Cu−SUS板(例3)は当初銅とほぼ同じ変化を示していたが途中からステンレス板と同じ変化を見せた。このことから、Cu−SUS板(例3)では当初銅が溶解し続け、銅が完全に溶出してからSUSが溶出し始めたと考えられる。
【0032】
<実施例1>
以下の条件で脱銅電解を実施した。
(1)銅電解精製に用いる通常の電解液
容量:7000L
組成:Cu:45g/L、遊離硫酸:170g/L
pH:0以下
液温:60℃
(2)脱銅電解槽
3槽の脱銅電解槽を直列に配列した。各電解槽にはステンレス製(SUS316L)のパーマネントカソード板(縦×横×厚み=1m×1m×3mm)の表面全体に銅を0.5〜1.0mmの厚さで電着したもの、及び鉛基合金製(Pb−Ca−Sn合金:Ca(0.1質量%)、Sn(0.5質量%)、三菱マテリアル社製)の不溶性アノード板(縦×横×厚み=1m×1m×10mm)を交互に各56枚装入した。
(3)通電条件
電流密度:320A/m2
通電時間:12h
【0033】
上記条件にて脱銅電解を行い、回路を短絡後、各カソード板を電解槽から引き上げて電着銅を剥がした。次いで、粗銅をアノードとする電解槽にて各カソード板の表面全体に銅を0.5mmの厚さで電着した後に、各カソード板を脱銅電解槽に再び装入し、上記条件で再び脱銅電解を行った。これを10回繰り返した。試験の間、脱銅電解槽へは新しい電解液が常時供給されるようにした。
【0034】
<比較例1>
カソード板の表面に銅を電着させなかった他は実施例1と同様に脱銅電解を繰り返した。
【0035】
結果を表1に示す。評価項目は、電着銅剥離性、電着銅中のFe品位及びNi品位、並びに試験終了時のカソード板の表面状態とした。「電着銅剥離性」は、最終回の脱銅電解終了後に脱銅電解槽から引き上げたカソード板に電着した銅を自動剥離装置によって引き剥がすのに要した平均時間を評価した。「電着銅中のFe品位及びNi品位」は、最終回の脱銅電解によって得られた各電着銅中のFe品位及びNi品位を測定したときの平均値である。「試験終了時のカソード板の表面状態」は、試験終了後に脱銅電解槽から引き上げたカソード板に電着した銅を引き剥がした後のカソード板の表面状態を目視で評価した。
【0036】
【表1】

【0037】
以上の結果より、本発明によれば、カソード板の表面を研磨することなくカソード板からの電着銅の剥離性が維持できた。また、カソード板の腐食溶出が抑えられたことで、電着銅中へのFeやNiの混入を低減することができた。
【符号の説明】
【0038】
11 脱銅電解槽
12 アノード板
13 カソード板
14 電解液
15 バイパス回路スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液中の金属成分を当該金属成分とは異なる材料でできたカソードに電着する工程と、カソード及びアノードが短絡する工程とを含む金属の電解採取方法であり、カソード及びアノードの組み合わせは、カソードとアノードを短絡した時にカソードの電解液中への溶出が生じるような組み合わせであり、少なくとも短絡時にはカソード表面に当該カソードよりも卑な金属を接触させる方法。
【請求項2】
前記卑な金属が電解採取される金属と同一種類である請求項1に記載の電解採取方法。
【請求項3】
前記卑な金属のカソード表面への接触は、前記卑な金属のカソード表面への電着、溶接、溶射及び機械的固定の何れか一種以上により行う請求項1又は2に記載の電解採取方法。
【請求項4】
前記卑な金属のカソード表面への接触は、前記卑な金属をカソード表面の一部又は全部に電着することにより行う請求項1又は2に記載の電解採取方法。
【請求項5】
カソードがステンレス製である請求項1〜4の何れか一項に記載の電解採取方法。
【請求項6】
アノードが鉛又は鉛基合金である請求項1〜5の何れか一項に記載の電解採取方法。
【請求項7】
電解採取される金属が銅である請求項1〜6の何れか一項に記載の電解採取方法。
【請求項8】
カソード及びアノードが短絡する工程は、前記卑な金属が電解液中に完全に溶出する前に終了する請求項1〜7の何れか一項に記載の電解採取方法。
【請求項9】
金属の電解採取が銅の脱銅電解である請求項1〜8の何れか一項に記載の電解採取方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−193436(P2012−193436A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59678(P2011−59678)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(500483219)パンパシフィック・カッパー株式会社 (109)
【Fターム(参考)】