説明

金属めっき方法および前処理剤

従来めっきができない樹脂などに簡易な方法で金属めっきする方法を提供することを目的とする。一分子中にアゾールを有するシランカップリング剤、例えばイミダゾールとγグリシドキシプロピルトリアルコキシシランとの等モル反応生成物であるカップリング剤の有機酸塩と貴金属化合物をあらかじめ混合もしくは反応させた液で被めっき物を表面処理した後、無電解めっきすることを特徴とする金属めっき方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、導電性の低い材料や鏡面物や粉体などの表面上に無電解めっきにより金属めっきする方法およびそのための前処理剤に関する。
【背景技術】
無電解金属めっき法は導電性のない下地に金属被膜を形成する方法の一つであり、無電解めっきの前処理としてパラジウムなどの貴金属を触媒としてあらかじめ下地に付着させておく活性化と呼ばれる方法が一般的である。これまで、SnClの塩酸性水溶液で処理した後PdCl水溶液に浸漬処理してPdを吸着させたり、SnとPdを含んだコロイド溶液によりPdを表面に担持させる方法が使われてきた。これらの方法は毒性が高いSnを使用することや処理工程が複雑であるなど問題が多い。そこで最近、無電解めっきの触媒であるPdなどの貴金属を表面に担持させる方法としてこれらの貴金属類と錯体を形成できる官能基を有するシランカップリング剤を使った方法がいろいろと提案されている(特許文献1〜8参照)。これらの中で、めっき触媒固定剤とめっき触媒を別々に処理する方法、すなわちカップリング剤を被めっき物に吸着させた後触媒となる貴金属イオンを担持させる場合、カップリング剤処理により被めっき物の表面が改質されたり、貴金属イオンを効率良く担持できなかったりするためか、被めっき物の素材によっては密着性良く均一にめっきすることが困難な場合があった。アミノシランカップリング剤と塩化パラジウムの混合溶液を使用する方法においても、上記の理由もしくはパラジウムが十分に触媒活性を示さずに均一にめっきできないことが、被めっき物の素材、めっき条件によってはあった。
特許文献1 特公昭59−52701号公報
特許文献2 特開昭60−181294号公報
特許文献3 特開昭61−194183号公報
特許文献4 特開平3−44149号公報
特許文献5 特開2002−47573号公報
特許文献6 特開2002−161389号公報
特許文献7 特開2002−226972号公報
特許文献8 WO01/49898A1
【発明の開示】
本発明は、こうした実情の下に従来の無電解めっきが適用しにくかった粉体や鏡面物あるいは樹脂布に対しても均一に、また密着性よく無電解めっきすることが可能な新規な無電解めっきによる金属めっき方法およびそのための前処理剤を提供することを目的とするものである。
本発明者は鋭意検討した結果、前記貴金属イオンと錯体形成能を有するシランカップリング剤をその有機酸塩の形態であらかじめ混合もしくは反応させた液で被めっき物を表面処理することにより解決し得ることを見出し本発明に至った。すなわち、本発明は、
(1)一分子中にアゾールを有するシランカップリング剤有機酸塩と貴金属化合物をあらかじめ混合もしくは反応させた液で被めっき物を表面処理した後、無電解めっきすることを特徴とする金属めっき方法、
(2)一分子中にアゾールを有するシランカップリング剤がアゾール系化合物とエポキシシラン系化合物との反応により得られたシランカップリング剤であることを特徴とする前記(1)記載の金属めっき方法、
(3)アゾールがイミダゾールであることを特徴とする前記(1)または(2)記載の金属めっき方法、
(4)貴金属化合物がパラジウム化合物であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の金属めっき方法、
(5)一分子中にアゾールを有するシランカップリング剤有機酸塩と貴金属化合物をあらかじめ混合もしくは反応させた液からなる金属めっき前処理剤、に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明は、無電解めっきの触媒となる貴金属イオンを捕捉する機能と被めっき物に固定する機能を同一分子内に有する特定の化合物を用いて表面処理した後、無電解めっきすることを特徴とする金属めっき方法およびそのための前処理剤である。触媒の捕捉機能と被めっき物に対する固定機能の両機能を同一分子内に有することで、めっき工程を短縮出来るだけでなく被めっき物に有効に触媒を固定することが可能となる。
特に本発明においては特定のシランカップリング剤を有機酸塩として用いることが重要である。すなわち、アゾールが分子内に存在することにより、アゾールの共役性、芳香族性によりめっき触媒の活性を効果的に発現する電子状態,配向をとることが可能となり、シランカップリング剤であることにより被めっき剤との密着性を発現することが可能となる。また、有機酸塩とすることによって、被めっき物への貴金属化合物の吸着をより促進することができ、その結果被めっき物への無電解めっきをより均一に行うことができる。
アゾール化合物であるが、シランカップリング剤ではないイミダゾールを用いて前処理を行った場合は、均一性良くめっきされるものの被めっき物へのめっきの密着性が非常に小さい。
アゾールとしては、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、セレナゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、トリアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、テトラゾール、オキサトリアゾール、チアトリアゾール、ベンダゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、インダゾールなどが挙げられる。これらに制限されるものではないが、イミダゾール環が特に好ましい。
また前記シランカップリング剤とは−SiX基を有する化合物であり、X、X、Xはアルキル基、ハロゲンやアルコキシ基などを意味し、被めっき物への固定が可能な官能基であれば良い。X、X、Xは同一でもまた異なっていても良い。
このように、本発明のシランカップリング剤は、一分子中に前記のアゾールと−SiX基を含むものである。本発明において、特に好ましいものは、アゾール系化合物としてイミダゾールとエポキシシラン系化合物としてγ−グリシドキシプロピルトリアルコキシシランとを等モルで反応させて得られた反応生成物であるシランカップリング剤である(特開平6−256358号公報)。
そして、これらのシランカップリング剤の有機酸塩は、シランカップリング剤に当量の有機酸が反応するようにして合成することができる。この反応はアゾール系化合物のアミンに有機酸が結合して塩を形成することによって起こる。有機酸としては、アゾールと塩を形成するものであれば特に制限はないが、酢酸などのカルボン酸が好ましい。中でも特に酢酸が入手のし易さ、コストなどの点で好ましい。
反応溶媒は不用であるが、メタノール、エタノールなどのアルコール類を用いてもよい。また、反応温度は50℃〜100℃で、0.5〜20時間反応させることにより目的物を合成できる。
前記貴金属化合物としては、無電解めっき液から被めっき物表面に銅やニッケルなどを析出させる際の触媒効果を示すパラジウム、銀、白金、金などの塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、アンモニウム塩などのアンミン錯体などが挙げられるが、特に塩化パラジウムが好ましい。また、貴金属化合物は、前処理液中1〜1000mg/l、好ましくは10〜200mg/lの濃度で使用する。
本発明の金属めっき方法によれば、被めっき物はその性状に制限されない。例えばガラス、セラミックなどの無機材料、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、フッ素樹脂などのプラスチック材料、そのフィルム、シート、繊維、必要によりガラス布基材などで補強されたエポキシ樹脂などの絶縁板などの絶縁物やSiウェハーなどの半導体などの導電性の低い被めっき物に適用されるが、被めっき物は透明ガラス板、Siウェハー、その他半導体基板のような鏡面物であっても、また粉体であっても本発明の方法を好ましく適用することができる。このような粉体としては、例えばガラスビーズ、二硫化モリブデン粉末、酸化マグネシウム粉末、黒鉛粉末、SiC粉末、酸化ジルコニウム粉末、アルミナ粉末、酸化ケイ素粉末、マイカフレーク、ガラス繊維、窒化ケイ素、テフロン(登録商標)粉末などがあげられる。
無電解めっきする下地を前記したような一分子中にアゾールを有するシランカップリング剤の有機酸塩と貴金属イオンをあらかじめ混合もしくは反応させた液で表面処理する場合、この液は適当な溶媒、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、2−プロパノール、アセトン、トルエン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサンなどやこれらを混合した溶液などに溶解させた溶液で使用できる。水を使用する場合、特に被めっき物およびめっき条件により溶液のpHを最滴化する必要がある。布状や板状の下地に対しては、浸漬処理や刷毛塗り等で表面コートした後に溶媒を揮発させる方法が一般的であるが、これに限定されるものではなく表面に均一にシランカップリング剤を付着させる方法であればよい。また、粉体に対しては、浸漬処理後溶媒を揮発させて強制的に溶液中に含まれるシランカップリング剤を下地表面に付着させる方法の他にこのシランカップリング剤の均一な成膜性により浸漬処理状態で下地表面に吸着が可能であることから、処理後溶媒を瀘過分離して湿った粉体を乾燥させる方法も可能である。付着状態によっては水洗のみで、乾燥工程を省略できる場合もある。
処理する溶液中の一分子中にアゾールを有するシランカップリング剤の有機酸塩濃度はこれに限ったものではないが、0.001〜10重量%が好ましい。0.001重量%未満の場合、基材の表面に付着する化合物量が低くなりやすく、効果が得にくい。また、10重量%を超えると付着量が多すぎて乾燥しにくかったり、粉末の凝集を起こしやすくなる。
表面処理後に使用した溶剤を揮発させるにはこの溶媒の揮発温度以上に加熱して表面を乾燥すれば十分であるが、さらに60−120℃で3−60分間加熱することが好ましい。
溶剤として水を用いた場合は乾燥工程を省略し表面処理後水洗するだけでめっきを行うことも可能である。ただしこの際、触媒をめっき液に持ち込まないようにするため水洗を十分に行う必要がある。
前処理をする温度は室温で十分であるが、被めっき物によっては加熱することが有効な場合もある。
当然のことながらめっき前処理を行う前に、被めっき物の洗浄を行っても良い。特に密着性を要求される場合は従来のクロム酸などによるエッチング処理を用いても良い。
めっきを行う前に還元剤を含む溶液で処理することが有効である場合もある。特に銅めっきの場合は、還元剤としてジメチルアミン−ボラン溶液などで処理すると良い。
また、無電解めっきを最初に行って金属薄膜を形成させ、導電性のない下地にある程度の導電性を持たせた後、電気めっきや卑なる金属との置換めっきを行うことも可能である。
本発明により無電解めっきにより銅、ニッケル、コバルト、スズ、金などの金属をめっきすることが出来る。
以下に本発明を実施例により具体的に説明する。
【実施例1】
イミダゾールとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとの等モル反応生成物であるシランカップリング剤に当量の酢酸を添加して80℃で3時間攪拌して酢酸塩を合成した。この酢酸塩水溶液に室温で塩化パラジウム水溶液を添加して、Si含有量:5mg/L、Pd含有量:15mg/Lのめっき前処理剤を調製した。この液に5×10cmのガラスクロスを60℃で5分間浸漬した後、流水で十分に水洗した。水洗後のサンプルを風乾し、ガラスクロスへ吸着したパラジウム量を分析した。引き続き次亜リン酸ナトリウムをベースとした還元剤(日鉱マテリアルズ製PM−B101)で75℃×5分間処理後、無電解銅めっき(日鉱メタルプレーティング製KC−100を使用)を行った。その結果を下記表に示す。比較のためにシランカップリング剤を酢酸塩としない場合、シランカップリング剤を使用しない場合についても併せて記載した。また前記処理液のpHを硫酸により調整した。表より酢酸塩を使用した場合にPdの吸着量を大きく増大することができ、ガラスクロスの全面に均一に無電解銅めっきを付与することができたが、酢酸塩としない場合にはガラスクロスの一部に無めっき部が生じた。
表中、◎は、全面に均一にめっきされている
○は、一部に無めっき部がある
×は、めっきされていないことをそれぞれ示す。
また、酢酸塩とはシランカップリング剤を酢酸塩としたもの、非酢酸塩とは酢酸塩としないシランカップリング剤を意味し、表中3と6は、いずれのシランカップリング剤も使用していない場合である。

【実施例2】
イミダゾールとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとの等モル反応生成物であるシランカップリング剤に酢酸を添加し、酢酸塩とした化合物を0.3重量%含んだ水溶液に室温で塩化パラジウム水溶液を30mg/Lになるように添加して、めっき前処理剤を調製した。この液にTaによりパターン形成したウエハーを60℃で5分間浸漬し流水で水洗後、60℃に加熱したジメチルアミンボラン10g/Lに5分間浸漬した。水洗後、無電解銅めっき液(日鉱メタルプレーティング製KC−500)に3分間浸漬して銅めっきした。その結果、ウエハー上に均一にかつ密着性よく(密着力はテープ剥離試験により確認)、銅めっき被膜を形成した。
比較例2
イミダゾールとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとの等モル反応生成物であるシランカップリング剤に酢酸を添加し、酢酸塩とした化合物に代えて、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学製)を0.3重量%含んだ水溶液を使用する以外は、実施例2と同様にして無電解銅めっきを行った。
その結果、まばらにしか銅被膜を形成することができなかった。
産業上の利用分野
以上説明したように、本発明の新規なめっき法によれば、簡略な工程で従来めっきが不可能とされていた基材にもめっきを行うことが可能となり、しかもシランカップリング剤を有機酸塩として使用することによって被めっき物への貴金属の吸着量を格段に増大でき、無電解めっきをより均一に行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一分子中にアゾールを有するシランカップリング剤の有機酸塩と貴金属化合物をあらかじめ混合もしくは反応させた液で被めっき物を表面処理した後、無電解めっきすることを特徴とする金属めっき方法。
【請求項2】
一分子中にアゾールを有するシランカップリング剤がアゾール系化合物とエポキシシラン系化合物との反応により得られたシランカップリング剤であることを特徴とする請求項1記載の金属めっき方法。
【請求項3】
アゾールがイミダゾールであることを特徴とする請求項1または2記載の金属めっき方法。
【請求項4】
貴金属化合物がパラジウム化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに1項に記載の金属めっき方法。
【請求項5】
一分子中にアゾールを有するシランカップリング剤と有機酸塩と貴金属化合物をあらかじめ混合もしくは反応させた液からなる金属めっき前処理剤。

【国際公開番号】WO2004/024984
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【発行日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−535867(P2004−535867)
【国際出願番号】PCT/JP2003/009968
【国際出願日】平成15年8月5日(2003.8.5)
【出願人】(591007860)株式会社日鉱マテリアルズ (545)
【Fターム(参考)】