説明

金属アンカー及びアンカー工法

【課題】少ない施工工数で、それ自体の価格も低く抑えることが可能な、アンカー及びアンカー工法を提供する。
【解決手段】金属アンカー10の施工の際に、金網(ベース104)にフック部14を掛け回し、フック部14に打撃を加えることで、石材102の穴102aに対しアンカー部12を打ち込む。この際、石材102の表面に対してフック部14を打ち付けて、ループ14aのループ形状を締め付けるように変形させ、金網に対するフック部14の巻きこみをより強めることで、金網(ベース104)と石材102とが、本金属アンカー10を介して強固に固定される。石材102には、一つの金属アンカー10に対して一つの穴102aを穿設すれば良いので、穿設工数の増加を防ぐことが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石材にネット等を固定するために用いられる金属アンカー及びアンカー工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、土木・建築工事等において、アンカーを用いて構造物を固定する工法が広く用いられている。一例として、自然環境と調和した景観を呈する多自然型護岸を整備するために用いられる、敷石ブロックの製作にも、アンカーが用いられている。敷石ブロックは、例えば、全体として四角形の金網又はメッシュからなる平坦なベース上に、自然石やその加工石(以下、「石材」という。)を複数敷並べ、ベースと石材とを、アンカーで固定したものである。そして、敷石ブロック単位で一度に多数の石材を所定の間隔を有して護岸に敷設することで、多自然型護岸を造成することができる。図4(a)、(b)は、敷石ブロック100の一部を背面視したものであり、石材102とベース104とが、アンカーであるU字金具106により固定された例が示されている。
【0003】
このU字金具106は、その左右の脚部106aに、図5に示されるように複数段の円錐台状の突起や、ねじ溝等の凹凸が形成されたものである。そして、この脚部106aを、石材102の背面側に、石材102の略面方線方向に対して所定の角度をなすように、予めハの字形に穿設した一対の穴102a(図4(b))に圧入することで、石材102に固定されるものである。一対の穴102aは、石材102の略面方線方向に対して所定の角度をなすことから、この一対の穴102aにU字金具106の脚部106aを圧入すると、その脚部106aが穴102aに沿って変形し、U字金具106はその左右の脚部102aをハの字形に開いた状態で、石材102に圧入固定される。この固定状態において、U字金具106は、それ自体の変形抵抗および石材102の穴102a内面との摩擦抵抗により大きな引抜抵抗を有するものとなり、しかも、例えば接着剤と異なり経時的に劣化することもないので、石材102とベース104との結合は、このU字金具106を介して恒久的に維持される(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
又、同様に石材102とベース104とを固定する手段として、図6(a)、(b)に示されるような、合成樹脂アンカー108が用いられる場合もある。この合成樹脂アンカー108は、円筒状で一端が開放された軸部108aと、軸部108aに圧入固定されるラチェットピン108bと、スナップ部108cとからなるものである。スナップ部108cは帯状の樹脂部品を折り畳んだ態様の部品であり、ラチェットピン108bが貫入される穴が形成されている。そして、当初、軸部108aのみ、石材102の一つの穴に打ち込み、スナップ部108cをベース104に挟み込むようにセットして、軸部108aにラチェットピン108bをねじ込む。ラチェットピン108bは、軸部108aの内壁に凹凸形状を食い込ませることで、大きな引抜抵抗を有するものとなる。そして、軸部108aの上端部及びラチェットピン108bの頭部とによって、スナップ部108cを挟持することにより、ベース104をスナップ部108cで挟み込むようにして、固定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−98527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、U字金具106を用いる場合には、一つのU字金具106あたり石材102に二つの穴102aを穿設する必要があることから、穴102aの穿設作業は、U字金具106の使用数の二倍となり、施工コストの増大を来たすものである。又、穴102aの数の増加は、石材102の割れを誘発することにもなる。一方、合成樹脂アンカー108は、一つの使用に際して穴を一つ穿設すれば良いことから、穿設作業のコストは低く抑えられるが、合成樹脂アンカー108自体が、U字金具106よりも高価になってしまう。又、合成樹脂アンカー108は、金属部品であるU字金具106と同等の取り付け強度を確保することが困難で、施工対象も限定されるといった問題もある。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、少ない施工工数で、それ自体の価格も低く抑えることが可能な、アンカー及びアンカー工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。又、各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではない。よって、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0008】
(1)一端部から軸方向の切れ込みを複数形成した円筒ピンと、該円筒ピンの一端部からその内部に貫入される円錐台状の楔とを備えるアンカー部と、該アンカー部の他端部から突出してループを形成し、その先端が前記アンカー部の軸方向と交差する方向に延びるフック部とを備える金属アンカー(請求項1)。
【0009】
本項に記載の金属アンカーは、固定対象物に形成された一つの穴に、アンカー部を打ち込むことで、穴の底に到達した楔に対して円筒ピンが相対的に穴の奥へと移動する。そして、スリットを広げるようにして、円筒ピンの壁が半径方向に拡径し、穴の壁面にアンカー部が密着して、固定対象物に対する抜け止めがなされるものである。又、施工の際には、第1の固定対象物にフック部を掛け回し、フック部に打撃を加えることで、第2の固定対象物の穴に対しアンカー部を打ち込む。この際、第2の固定対象物の表面に対してフック部を打ち付けて、そのループ形状を締め付けるよう変形させ、第1の固定対象物に対するフック部の巻きこみをより強めることで、第1の固定対象物と第2の固定対象物とが、本金属アンカーを介して強固に固定されるものである。
【0010】
(2)上記(1)項において、前記フック部の先端におねじが形成され、該おねじと螺合するナットを供える金属アンカー(請求項2)。
本項に記載の金属アンカーは、フック部の先端に形成されたおねじにナットを螺合させることで、フック部の先端にナットによる突起形状が形成される。この突起形状が、フック部の先端からの固定対象物の脱落を防ぐ、ストッパーとして機能するものである。
【0011】
(3)上記(1)、(2)項において、前記アンカー部と、前記フック部とが着脱自在となっている金属アンカー(請求項3)。
本項に記載の金属アンカーは、アンカー部とフック部とを別個に製作し、適宜、両者を組合せることで、最適形状の金属アンカーが構成されるものである。
【0012】
(4)上記(1)から(3)項記載の金属アンカーを用いた敷石ブロックであって、自然石又はその加工石からなる石材に、予め、石材表面の法線方向の穴が一つ穿設され、金網に前記フック部が掛け回され、前記フック部に打撃が加えられて、前記石材の穴に前記アンカー部が打ち込まれ、この際、石材の表面に対して前記フック部が打ち付けられてループ形状を締め付けるように変形させ、前記金網に対する前記フック部の巻きこみがより強められるようにして、複数の石材と前記金網とが固定されなる敷石ブロック。
【0013】
(5)上記(1)から(3)記載のアンカーを用いた工法であって、第1の固定対象物に前記フック部を掛け回し、前記フック部に打撃を加えることで、第2の固定対象物の表面に、予めその法線方向に穿設された穴に対し、前記アンカー部を打ち込み、この際、第2の固定対象物の表面に対して前記フック部を打ち付けてループ形状を締め付けるように変形させるアンカー工法(請求項4)。
本項に記載のアンカー工法は、フック部に打撃を加えることで、第2の固定対象物の表面に、予めその法線方向に穿設された穴に対し、アンカー部を打ち込む。この際に、第2の固定対象物の表面に対して前記フック部を打ち付けてループ形状を締め付けるように変形させることで、第1の固定対象物に対するフック部の巻きこみをより強め、第1の固定対象物と第2の固定対象物とを、(1)から(3)記載の金属アンカーを介して、強固に固定するものである。
【0014】
(6)上記(5)項において、前記フック部の先端のおねじに、ナットを螺合させるアンカー工法(請求項5)。
本項に記載のアンカー工法は、フック部の先端のおねじにナットを螺合させることで、フック部の先端にナットによる突起形状を形成する。そして、この突起形状を、フック部の先端からの固定対象物の脱落を防ぐための、ストッパーとして機能させるものである。
【0015】
(7)上記(1)から(3)項記載の金属アンカーを用いた敷石ブロックの製作方法であって、自然石又はその加工石からなる石材に、予め、一つの穴を石材表面の法線方向に穿設し、金網に前記フック部を掛け回し、前記フック部に打撃を加えることで、前記石材の穴に前記アンカー部を打ち込み、この際、石材の表面に対して前記フック部を打ち付けてループ形状を締め付けるように変形させ、前記金網に対する前記フック部の巻きこみを強めるようにして、複数の石材と前記金網とを固定する敷石ブロックの製作方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明はこのように構成したので、少ない施工工数で、それ自体の価格も低く抑えることが可能な、アンカー及びアンカー工法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る金属アンカーを示すものであり、(a)はその側面図、(b)はその下面図である。
【図2】図1に示される金属アンカーの斜視図であり、(a)はフック部の先端のおねじにナットを螺合させた状態を、(b)は同ナットを取り外した状態を示すものである。
【図3】図1に示される金属アンカーを用い、敷石ブロックのベースに石材を固定した様子を示す図である。
【図4】従来のU字金具を用い、敷石ブロックのベースに石材を固定した様子を示す図であり、(a)は敷石ブロックの一部を背面視した図、(b)は(a)の要部拡大図である。
【図5】図4に示されたU字金具の単体図である。
【図6】(a)は、従来の合成樹脂アンカーを用い、敷石ブロックのベースに石材を固定した様子を示す図であり、(b)は合成樹脂アンカーの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、同一符号で示し、詳しい説明を省略する。
本発明の実施の形態に係る金属アンカー10は、図1、図2に示されるように、アンカー部12と、フック部14とを備えるものである。アンカー部12は、一端部から軸方向の切れ込みSを複数形成した円筒ピン12aと、円筒ピン12の一端部からその内部に貫入される円錐台状の楔12bとを備えるものである。又、フック部14は、アンカー部12の他端部から突出して、ループ14aを形成し、その先端14bがアンカー部12の軸方向と交差する方向に延びるものである。
【0019】
そして、図示の例では、フック部14の先端14bは、アンカー部12の軸方向と直交する方向に延びている。又、フック部14の先端14bにはおねじが形成されると共に、おねじと螺合するナット16を供えている。尚、フック14のループ14aは、図示の如く、少なくとも一重ループでかつ側面視で環状をなしていれば良いが、必要に応じ多重ループを構成することとしても良い。又、図示の例では、アンカー部12とフック部14とは別体である。そして、アンカー部12の楔12bが嵌入された端部と反対側の端部寄りの内壁12cには、めねじが形成されており、このめねじと、フック部14の基端部14cに形成されたおねじとが螺合することによって、アンカー部12とフック部14とは、着脱自在となっている。アンカー部12については、市販品を活用することが可能である。一方、フック部14については、例えば、丸鋼を適宜切断し、おねじの転造、塑性鍛造によるループ14aの形成を行うことで、製造することができる。更には、アンカー部12とフック部14とを一体構造として製造することも可能である。
【0020】
図3には、本発明の実施の形態に係る金属アンカー10を用いた敷石ブロック110が示されている。その施工方法は、まず、石材102に、予め、一つの穴102aを石材表面の法線方向に穿設しておく。そして、ベース104を構成する金網に、フック部14を掛け回し、アンカー部12を穴102aに位置合わせして、ハンマー等によりフック部14に打撃を加えることで、石材102の穴102aにアンカー部12を打ち込む。この際、石材102の表面に対してフック部14を打ち付けて、ループ形状を締め付けるように変形させ、ベース104を構成する金網に対する、フック部14の巻きこみを強めるようにする。かかる作業を、複数の石材102と、ベース104を構成する金網とに施すことで、敷石ブロック110が製作されるものである。なお、フック部14の先端14bに対しては、必要に応じナット16を締め付けることとする。
【0021】
上記構成をなす、本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることができる。すなわち、本発明の実施の形態に係る金属アンカー10は、固定対象物である石材102に形成された一つの穴102aに、アンカー部12を打ち込むことで、穴102aの底に到達した楔12bに対して円筒ピン12aが相対的に穴102aの奥へと移動する。そして、スリットSを広げるようにして、円筒ピン12aの壁部が半径方向に拡径し、穴102aの壁面にアンカー部12が密着して、石材102に対する抜け止めがなされるものである。この際、石材102には、一つの金属アンカー10に対して一つの穴102aを穿設すれば良いので、穿設工数の増加を防ぐことが出来る。又、石材102の割れの誘発を、可能な限り防ぐことができる。金属アンカー10は金属製であることからして、それ自体のコストも従来のU字金具106と同等である。又、U字金具106と同等の取り付け強度を確保することが可能で、施工対象が限定されることもない。
そして、金属アンカー10の施工の際には、金網(ベース104)にフック部14を掛け回し、フック部14に打撃を加えることで、石材102の穴102aに対しアンカー部12を打ち込む。この際、石材102の表面に対してフック部14を打ち付けて、ループ14aのループ形状を締め付けるように変形させ、金網に対するフック部14の巻きこみをより強めることで、金網(ベース104)と石材102とが、本金属アンカー10を介して強固に固定されるものである。
【0022】
又、フック部14の先端14bに形成されたおねじにナット16を螺合させることで、フック部14の先端14bには、ナット16による突起形状が形成される。この突起形状が、フック部14の先端14bからの、金網の脱落を防ぐストッパーとして機能するものである。又、ナット16は、フック部14の機能を補完するものであり、必要に応じて選択的に用いられるものである。
なお、アンカー部12とフック部14とを別個に製作し、適宜、両者を組合せることで、最適形状の金属アンカー10を容易に得ることが可能である。一方、アンカー部12とフック部14とを一体構造とすることで、両者を結合する手間と、製作コストとを削減することも可能となる。
以上の如く、本説明では、金属アンカー10を、敷石ブロック110の製作に用いた場合を例示して説明したが、当然に、他の固定対象物同士を結合するためにも利用可能であることは、理解されるであろう。
【符号の説明】
【0023】
10:金属アンカー、12:アンカー部、12a:円筒ピン、12b:楔、14:フック部、14a:ループ、14b:ループの先端、16:ナット、102:石材、104:ベース、110:敷石ブロック、S:スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部から軸方向の切れ込みを複数形成した円筒ピンと、該円筒ピンの一端部からその内部に貫入される円錐台状の楔とを備えるアンカー部と、該アンカー部の他端部から突出してループを形成し、その先端が前記アンカー部の軸方向と交差する方向に延びるフック部とを備えることを特徴とする金属アンカー。
【請求項2】
前記フック部の先端におねじが形成され、該おねじと螺合するナットを供えることを特徴とする請求項1記載の金属アンカー。
【請求項3】
前記アンカー部と、前記フック部とが着脱自在となっていることを特徴とする請求項1又は2記載の金属アンカー。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載の金属アンカーを用いた工法であって、第1の固定対象物に前記フック部を掛け回し、前記フック部に打撃を加えることで、第2の固定対象物の表面に、予めその法線方向に穿設された穴に対し、前記アンカー部を打ち込み、この際、第2の固定対象物の表面に対して前記フック部を打ち付けてループ形状を締め付けるように変形させることを特徴とするアンカー工法。
【請求項5】
前記フック部の先端のおねじに、ナットを螺合させることを特徴とする請求項4記載のアンカー工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−12817(P2012−12817A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149388(P2010−149388)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(510182009)株式会社テーエム (1)
【出願人】(594115382)東洋水研株式会社 (3)
【出願人】(397048933)関西丸研株式会社 (1)
【出願人】(510182010)株式会社環境ふォーカス (1)
【Fターム(参考)】