金属コアと有機二重コーティングとを有するナノ粒子の触媒としての利用、及び触媒として有用なナノ粒子
本発明は金属コア、より詳しくは白金族金属または白金族金属の合金を材料とする金属コアと、有機二重コーティングとを有するナノ粒子の触媒としての利用などに関するものであり、前記ナノ粒子は、少なくとも一つの白金族金属または白金族金属の合金を含む金属コアと、前記金属コアの表面に結合された分子から形成される第1有機コーティングと、前記第1有機コーティングの分子とは異なる分子であり、且つ前記第1有機コーティングの分子上にグラフトされた分子から形成される第2有機コーティングとを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属コア、より詳しくは白金族金属または白金族金属の合金を材料とする金属コアと、有機二重コーティングとを有するナノ粒子の触媒としての利用に関する。
【0002】
また、本発明はこのように製造されたナノ粒子に関する。
【0003】
本発明が目指すナノ粒子は、触媒としての顕著な性質、特に電極触媒としての性質と、液体媒質中での十分な分散性及び安定性とを併せ持つようにしたものである。
【0004】
そのため、本発明のナノ粒子は触媒プロセス、特に電極触媒プロセスが含まれるどのような分野ででも使用することができ、特に電気的なエネルギーを発生する装置、例えば燃料電池に使用することができる。
【0005】
さらに、これらのナノ粒子の触媒としての性質に、化学的または生物学的な化学種に関する特異的認識の性質を付け加えることが可能な範囲において、前記ナノ粒子は例えばセンサーまたはマルチセンサー等の、化学的または生物学的化学種を検知または分析する装置に使用することが可能であり、その装置内部での変換及びある化学種と前記ナノ粒子との間の特定の相互作用には、これらの粒子の触媒としての性質を利用する。
【背景技術】
【0006】
燃料電池のような装置において、白金、他の白金族金属及びそれらの合金が、基本的に非常に微細に分割された形態(ナノ粒子)で、アノード及びカソード触媒、例えばアノードにおける水素解離反応及びカソードにおける酸素還元反応を促進するものとして使用される。
【0007】
稀少且つ高コストであるため、このタイプの触媒機能を最適化すること、及び装置に導入されたナノ粒子の最大限可能な配合割合に相当する量が実際に電極触媒プロセスに確実に関与することは非常に重要である。
【0008】
これらの制約に加えて、装置が十分な使用期間を持つように、前記最適化された触媒機能は十分な耐久性を持つべきである。特に装置を機能させる過程において、電極触媒の機能を有する前記ナノ粒子にはマイグレーション及び凝集による成長が起こり、これらは前記ナノ粒子において徐々に起こる変化によって示される。その結果として、初期の触媒性能は低下する。これらの問題は再現性があり、実際上は、装置への大量の白金の添加につながる。
【0009】
有機成分にコートされた無機ナノ粒子の開発は広く文献に紹介されている。液体媒質中での取り扱いを容易にするために有機コーティングによって安定化された貴金属または非貴金属、金属酸化物または硫化物からなる無機ナノ粒子は、特に最近の10年間多くの文献に記載されている。初期に提案されたコーティングはポリマーまたは界面活性剤から形成されていたが、今はナノ粒子表面への結合を可能とする化学官能基(酸、チオール、フォスフェート、イソシアネート等)を有する分子からなるものが増えている。
【0010】
金属ナノ粒子の触媒性質の開発が重要である場合に、金属ナノ粒子はその金属表面をサイトとして有するので、長期にわたって継続する安定性を付与するため及び液体媒質中での容易な取り扱いを可能とするために最適なコーティングを施す手法は、当業者にとっては、開発目的である電極触媒プロセスにとって最も好ましいようにナノ粒子の金属表面の有効性を維持することとは、矛盾してみえる。
【0011】
このことが、触媒としての使用を目的とした金属ナノ粒子を安定化させるために現在まで通常提案されてきた有機コーティングが、これらのナノ粒子を本質的に立体効果によって安定化するような、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、及びポリ(n−ビニルピロリドン)等の、ポリマーであったことの確実な理由である。これらのポリマーをナノ粒子の金属表面に結合させる化学結合は数が多いわけではなく、また強くはないので、電気化学的現象の発現に適当な、非常に酸性の強いpH値によって、または対照的に非常に塩基性の強いpH値によって、及び高いイオン強度によって特徴づけられる媒質によって破壊される可能性がある。そのような破壊は、当初目的とされた安定化効果が低下することによって非常に明確に示される。
【0012】
イオン性または中性の界面活性剤からなる有機コーティングも同様に知られている。界面活性剤分子は安定化効果を有するように十分な長さでなくてはならず、電極触媒プロセスにおける電子性またはイオン性の電荷の移動を本質的に起こしにくいメチレン基(−CH2)nの鎖部を含んでいなくてはならない。さらに、この場合には、界面活性剤分子をナノ粒子の金属表面に結合させる化学結合が相対的に弱く、電気化学において用いられる媒質の特定のpH及びイオン強度の状況に対して鋭敏である。
【0013】
さらにある著者は、電極触媒プロセス、特に燃料電池への応用において、電荷または質量の移動を改善することが可能な化学基を含む安定化ポリマーまたはコポリマーの使用を推奨している。例えば、米国特許第6462095号明細書[1]は、カチオン交換性ポリマーまたはスルホン化ポリアリルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリ(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン)、またはポリ(α、β、γ−トリフルオロスチレン/スルホン酸)型のコポリマーによって安定化された白金ナノ粒子について開示している。
【特許文献1】米国特許第6462095号明細書
【特許文献2】仏国特許出願公開第2783051号明細書
【非特許文献1】Langmuir、2000、16、7520−7523
【非特許文献2】Chem.Commun.、2001、473−474
【非特許文献3】Catalysis Today、2000、2790、1−12
【非特許文献4】Macromolecules、1997、30、333
【非特許文献5】Journal of Adhesion、1996、58、101
【非特許文献6】Journal of Surface Analysis、1999、6(2)、159
【非特許文献7】Electrochimica Acta、1998、44、1317−1327
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
結果的に、やはり電極触媒の関係においては、ナノ粒子の金属表面と強い相互作用を有することが可能な安定化分子が提案されてきた。多くの金属とイオン性の共有結合を作るチオール基を有する分子がそれにあたる。この種の相互作用が存在することによってナノ粒子は広く覆われ、電極触媒プロセスに使用可能な金属表面はほとんど残らない。結果として、例えばLangmuir、2000、16、7520−7523、[2]においてMayeらにより、及びChem.Commun.、2001、473−474、[3]においてLouらによって開示された、アルキルチオラート(alkylthiolate)で安定化された金のナノ粒子は、活性化処理をした後にのみ電極触媒活性を示す。この活性化処理は、強い電気化学酸化条件の下で行われ、最初に強制的に有機安定化コーティングを除去し、次に、Catalysis Today、2000、2790、1−12[4]においてLuoらによって報告されるようにナノ粒子の金属表面の性質を変化させるが、このことはこれらのナノ粒子を装置中で触媒として使用するときの条件下では問題となることが理解されるだろう。具体的には、例えば有機安定化コーティングの除去においては、この除去がナノ粒子のマイグレーションの現象に繋がり、時間とともにそれらの触媒としての性質を低下させ、さらに装置の使用期間が終わって装置をリサイクルする段階では触媒を回復させることが困難である、という重大なリスクが存在する。
【0015】
結果として、触媒として最適な性質を有する一方で、第一に懸濁液中での取り扱いが容易で、且つ第二に触媒品質の耐久性が保証されるように、液体媒質中における長期にわたる分散性及び安定性が良い、白金、他の白金族またはそれらの合金に基づくナノ粒子からなる触媒を供給する問題が生じる。
【0016】
仏国特許出願公開第2783051号明細書[5]では、本発明の出願人の一人を含む研究者チームが、金属コア、特に白金、からなる金属コアと、このコアに結合した有機分子から形成される第1の冠状物、及び前記冠状物の有機分子とは異なり且つ第1の冠状物を形成する分子の上にグラフトされた有機分子から形成される第2の冠状物とからなる、化学種を検知するため薄膜形態を有するナノ粒子の利用、及びそのような膜を高感度層として含む化学センサーについて開示している。前記特許出願では、ナノ粒子の第2の有機冠状物によって、検知対象化学種に対する薄膜の選択的相互作用の性質が確実になる;第1の有機冠状物は本質的に第2の有機冠状物を前記金属コアに結合させる働きをする一方で、ナノ粒子の金属コアにより薄膜の電気伝導性の変化を測定することが可能になる。
【0017】
これらの研究の流れの中で、発明者は、予想に反して、参考文献[5](仏国特許出願公開第2783051号明細書)に開示されたような白金のコアと有機二重コーティングを含むナノ粒子が、活性化処理をする必要なしに、優れた触媒性質、特に電極触媒としての性質を有することを見出した。発明者は、さらにこれらのナノ粒子が、液体媒質中において大変良好な分散性、及び安定性を有すること、また、電極化学の分野で従来用いられるような酸性または塩基性の強い媒質、及びイオン強度の高い媒質に対する耐性を有することを見出した。
【0018】
これらの知見が本願発明の基礎となっている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の対象は、第一に、
少なくとも一つの白金族または白金族金属の合金を含む金属コアと、
前記金属コアの表面に結合した分子から形成された第1有機コーティングと、
前記第1有機コーティングの分子とは異なり、且つ前記第1有機コーティングの分子の上部にグラフトされた分子から形成された第2有機コーティングとを含むナノ粒子の、触媒としての利用である。
【0020】
この前後の文章において、“白金族金属”という用語は、白金、イリジウム、パラジウム、ルテニウム、オスミウム、から選択される金属を意味し、“白金族金属の合金”とは少なくともひとつの白金族金属を含む合金を意味し、この合金は例えばオスミリジウム(イリジウムとオスミウムを含む天然の合金)等天然のものであってもよいし、または非天然、例えば白金と鉄の合金、白金とコバルトの合金、または白金とニッケルの合金等であってもよい。
【0021】
好ましくは、ナノ粒子の金属コアは白金、または白金の合金、またはそれらの混合物からなる。
【0022】
本発明による利用において、第2有機コーティングの分子が液体媒質中の懸濁液中のナノ粒子の安定性を大きく改良するのに対して、第1有機コーティングの分子は主に第2有機コーティングの分子をグラフトすることを可能にするために働く。双方のコーティングは、ナノ粒子が触媒としての性質を発現するために要求される機能である電荷や物質の移動現象を可能とし、また金属コアへの接近を容易にするものである必要がある。
【0023】
本発明によると、第1有機コーティングの分子は、好ましくは共有結合性が強い化学結合、すなわち共有結合またはイオン性の共有結合を通じて金属コア表面に結合されている。
【0024】
結果として、本発明の最初の好ましい実施例において、同じ粒子に関して互いに好ましく理想的であるような第1有機コーティングの分子は、少なくとも二官能性化合物の一部分である、すなわち、少なくとも二つのフリーな化学官能基を含む化合物である:以下では、金属コア表面と共有性が強い化学結合を形成することができ、それによってこの表面に結合可能となるような第一の官能基を“官能基F1”とする。また、第2有機コーティングの分子を形成するために選択された化合物が有する少なくとも一つの官能基と反応することが可能で、前記第1有機コーティングの分子に第2の有機コーティングの分子をグラフトさせることが可能な第二の官能基を“官能基F2”とする。
【0025】
結果として、同じ粒子に関して互いに好ましく理想的であるような第2の有機コーティングの分子は化合物の一部分であり、前記化合物は上記の二官能性化合物の官能基F2と反応することができる、少なくとも一つのフリーな化学官能基を含む。この化学官能基は以下“官能基F3”とする。
【0026】
前後の文章で“化合物の一部分”という用語は、ナノ粒子上に存在するこれら化合物の部分を意味し、それらが、もしも第1有機コーティングを形成する一部分である場合には、金属コア表面に結合し、任意に、第2の有機コーティングの分子によってグラフトされる。または、もしも第2有機コーティングを形成する一部分である場合には、第1有機コーティングの分子上にグラフトされる。
【0027】
本発明によると、第1有機コーティングの分子を形成するため選択された少なくとも二官能性である化合物の官能基F1と金属コア表面との間の共有結合またはイオン性の共有結合の形成は、有機化合物と金属との間にこの種の結合を生成するために従来技術で使われるどのようなプロセスによって得られるものであってもよい。
【0028】
結果、例えば、コアを構成する必要がある金属に対応する金属塩を、前記の少なくとも二官能性である化合物によって還元することによりナノ粒子を合成してもよい。別の例として、不安定な化合物によってコートされた金属コアから形成されたナノ粒子表面において、前記化合物を少なくとも二官能性化合物である化合物で置換することによって得られてもよい。
【0029】
少なくとも二官能性である化合物の官能基F2と第2有機コーティングの分子を形成するために選択された化合物の官能基F3との間の反応(以下では簡単のために“グラフト化反応”とする)は、それ自身、二つの有機化合物が互いに結合することを可能にするものであればどのようなものあってもよく、結合はどのようなタイプのものでもよいが、好ましくは反応性官能基による共有結合がよい。
【0030】
本発明の他の好ましい実施形態によると、ナノ粒子の第1有機コーティングの分子は、第2有機コーティングの分子にグラフトされていない場合、金属コア表面で分解してよい。この分解性は、自発的、すなわち使用した分子の性質に本質的に関わるものであってよく、またはナノ粒子を処理することに伴い結果として生じるもの、例えば適当な試薬を使うことによるものであってもよいが、このような処理は第2有機コーティングを形成する分子の分解を引き起こすべきではないと理解される。
【0031】
4−メルカプトアニリン(4−Mercaptoaniline)は二官能性の性質を有しており、つまりチオール基及びフェニル基のパラ位にアミノ基を含んでおり、さらに自発的に分解する性質を同時に有しているので、第1有機コーティングを調製するために特に適切な化合物の一つの例である。
【0032】
本発明の好ましい他の実施例によると、グラフト化反応を通じて第2有機コーティングの分子は前記第1有機コーティングの分子の上部にグラフトされ、反応後の前記第1有機コーティングのグラフト率、すなわち第2有機コーティングの分子にグラフトされた分子の割合、は100%未満である。結果として、グラフト化反応の後に得られたナノ粒子は、第2有機コーティング層の分子でグラフトされない分子を含む第1有機コーティング層を有する。
【0033】
図1は本発明によって行われたグラフト化反応の前後のナノ粒子の概略図を示しており、図中、各F1−F2は第2有機コーティングの分子でグラフトされていない第1有機コーティングの分子を表しており、F3−□は、第2有機コーティングの分子を形成するために選択された化合物を表しており、各F1−□は第2有機コーティングの分子にグラフトされた第1有機コーティング分子を表す。
【0034】
この好ましい実施形態によれば、第1有機コーティングを形成するために自発的または誘起的に分解を起こす化合物を使用することで、ナノ粒子の金属コア表面への接近容易性を確実にする。特に、グラフト化反応の間第2有機コーティング分子によってグラフトされなかった第1有機コーティング分子の分解によって、金属コア表面からこれらの分子が速やかに除去され、結果として占有されていた領域の開放につながり、接近可能な状態となるべきである。
【0035】
本発明によると、第1有機コーティング分子のグラフト率は、ナノ粒子の量、及びグラフト化反応において反応物である第2有機コーティング分子を形成するために選択された化合物の量をそれぞれ変化させることによって変更されてもよい。
【0036】
しかしながら、このような方法はナノ粒子のグラフト化が過剰に部分的なものとなるリスクを伴うため本発明においては好ましいものではない。そのようなナノ粒子は結果として不安定なものであり、第1有機コーティング分子が分解することを考えると、液体媒質中でナノ粒子の分散性が不十分であるか、または分散性を有しない状態を招いたり、これらのナノ粒子によって調製された懸濁液の不安定化につながる。
【0037】
このように、本発明によれば、第2有機コーティング分子を形成するために選択された化合物の形態の特徴を変えることによって、及び特にこれらの分子による立体障害を変えることによって、前記グラフト率を変更することが望ましい。
【0038】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、第2有機コーティング分子は、種類は大きく変わる可能性はあるが(オリゴマー、ポリマー等)、以下の性質を有する化合物の一部分である。すなわち、
・ナノ粒子の性質として液体媒質中での分散性、安定性及び電気化学の分野で従来使われてきた媒質に対する耐性を付与し、特に電気化学プロセスにおいて利用されるときに、凝集現象、及びこれらナノ粒子の短期、中期または長期のマイグレーションを長期間防止し、
・ ナノ粒子コア表面の接近容易性を保ち、
・ ナノ粒子の活性化処理が不必要であり、
・ 任意に、ナノ粒子が電荷(電子及びイオンの電荷)および質量の移動を含む用途における利用を目的としている場合には(例えば燃料電池)、そのような移動を最適化する。
【0039】
特に、前記分子は以下の性質のうちひとつ以上を有する化合物の一部分である。
1.あるナノ粒子から他のナノ粒子への電子移動を維持することができる。そのためには、これらの化合物は電子移動には不向きである飽和C−C結合の数を可能な限り最小としなくてはならず、且つ二つの有機コーティングによって形成される厚みが過剰に増加することを避けなくてはならない。なぜなら電子移動の確率は距離の増加に伴って急激に減少するためである。これに関連して、二つの有機コーティングによって形成される厚みは約10ナノメーターを超えないことが望ましい。電子移動を維持することができる化合物の例としては、多環式化合物、特に多環状酸無水物、例えばテトラフェニルフタル酸無水物、ジフェン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等がある。
【0040】
2.得られるグラフト率を最小にすることができるような構造的な特徴を有し、その一方で、同時に、ナノ粒子に液体媒質中における十分な分散性及び安定性を付与するべきである。これらの化合物は、特に、芳香族環が存在することによってあるレベルの硬さを有するような小さな化合物であり、官能基F3は、第1有機コーティングの上部にグラフトされた第2有機コーティング分子の主軸が、前記官能基F3と第1有機コーティング分子の官能基F2との間に形成された共有結合の軸に平行ではなくむしろ直角な方向を向いて配置される。そのような化合物の例としては、第1有機コーティング分子上にグラフトするため少なくとも一つの官能基で置換されたポリパラフェニレンである。
【0041】
3.イオン種を中継し移動を可能にするような一つ以上のイオン性官能基を含む。そのような化合物としては、例えば、環状酸無水物(cyclic anhydride)、例えばグルタル酸無水物があり、任意に前記官能基のイオン的な性質を弱めるために前もってパーフルオロ化されてもよい。
【0042】
4.化学的な親和性の観点から、ナノ粒子が、目的とする使用法に応じて選択された特定の基材と前記ナノ粒子との結合を促進するのに好ましい固有の性質を有する。結果的に、例えばこれらの化合物は、基材自身が親水性となるか疎水性となるかに依存して、程度の差はあるが、親水性または疎水性であり、または例えばチオフェンまたはピロール等の、重合可能な、または共重合可能な化学種を含んでいてもよい。
【0043】
5.ナノ粒子が、検知及び分析システム、特にセンサーやマルチセンサー、に使われることが目的である場合には、一つ以上の化学種または生物学的化学種(アミノ酸、たんぱく質、糖、DNAまたはRNAフラグメント等)に対して特異的認識を示す。
【0044】
好ましくは、第2有機コーティング分子は、第1有機コーティング分子上にグラフトするための少なくとも一つの官能基を含むチオフェン、及び単環状または多環状酸無水物から選択される化合物の一部分である。
【0045】
特に好ましくは、第2有機コーティングを形成する分子が、チオフェン酸クロリド(thiophene acid chloride)、グルタル酸無水物、スルホ安息香酸無水物、ジフェン酸無水物、テトラフルオロフタル酸無水物、テトラフェニルフタル酸無水物及びジフェニルマレイン酸無水物から選択される化合物の一部分である。
【0046】
本発明の他の好ましい実施形態によると、ナノ粒子は直径約1.5〜10nmであり、好ましくは直径約1.5〜5nmである。
【0047】
液体媒質に対して分散性及び安定性を有しているので、本発明において有効なナノ粒子は第2有機コーティングを形成する分子の極性の程度に応じて適切に選択された溶媒中に、使用前に懸濁した状態で保存され、及び/または懸濁した状態で使用される。この目的で使用される溶媒は一般的には例えばジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、またはジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒であるが、もしも非プロトン性極性溶媒中でナノ粒子が分散しない場合には、例えばクロロホルム、またはジクロロメタン等の非極性溶媒であってもよい。
【0048】
特にナノ粒子は、使用前に濃度が約0.3〜1mg/mlの懸濁液のかたちで保存されていてよく、その場合はナノ粒子の使用目的に応じて希釈される。
【0049】
これらの懸濁液を使用して、様々な性質及び特性を有する基材上に累積させることによって1層以上のナノ粒子から形成される薄膜を調整することが可能である。具体的には、これらの基材が電気的な絶縁体、イオン伝導体、伝導体または半導体であってよい。基材は、広い範囲の材料(金属、ガラス、カーボン、プラスチック、繊維等)からなるものであってよく、細かく分割された形態であってもよく、バルクの形態であってもよい。加えて、これらは電極を備えていてもよい。
【0050】
これらの薄膜は、同様の膜を製造するために当業者に知られた技術、例えばラングミュア・ブロジェット法、自己組織化膜の連続累積、化学的または電気化学的グラフト化による自発的な吸着(spontaneous adsorption by chemical or electrochemical grafting)、スピンコーティング、表面の含浸による累積、電気めっき、電解グラフト化(electrografting)等、どのような技術によって調製されてもよく、これらのメカニズムは、BureauらによりMacromolecules、1997、30、333[6]、Journal of Adhesion、1996、58、101[7]、さらにBureau、DelhalleらによりJournal of Surface Analysis、1999、6(2)、159[8]で開示されている。
【0051】
ラングミュア・ブロジェット法は、文献に広く紹介されており、例えばナノ粒子を一層づつ強固な基材上に累積させるのに適しており、一方で表面の含浸は例えば繊維状の基材等柔軟な基材上へのナノ粒子の累積にさらに適している。
【0052】
本発明の目的に関連して、“単一層”は、その厚みが、ナノ粒子を球ととらえたときのナノ粒子の直径を超えないような層を意味している。
【0053】
本発明による方法によると、例えば第2有機コーティングのグラフト化において、第2有機コーティングの密度及び極性等の特性がコントロールできるので、それにより特定の表面特性を有する基材とナノ粒子との結合を促進することも可能である。
【0054】
結果として、ナノ粒子をカーボンナノチューブと組み合わせることは、例えば燃料電池において電気エネルギーを生成する等、ある電気化学用途においては特別に興味あることである。なぜなら、ナノ粒子でコートされたカーボンナノチューブは、疎水性でありまたは親水性を付与され、電子伝導体と触媒とをナノメートルスケールで密接に集合させることによって、この種の電池の機能を大きく改良することを可能にする。
【0055】
前記ナノ粒子は触媒として多くの利点を有している。
【0056】
特に、これらのナノ粒子は有機二重コーティングを有しているけれども、触媒性質において高い有利性を示し、酸素の還元及び水素の酸化に関して特に高い電極触媒活性を示す。
【0057】
これらのナノ粒子を用いて調製された材料に関しても同様である。結果として、例えば、本発明によってGeniesらによりElectrochimica Acta、1998、44、1317−1327[9]に開示されたような実験条件で、同様の方法に従ってナノ粒子の単一層で測定されるバルクの活性は、白金で最大500A/g、すなわち白金をカーボン上に分散させポリテトラフルオロエチレンに添加して形成されたパウダーで得られた最高の値(白金で89.6A/g)[9]の約5倍であった。
【0058】
前記ナノ粒子の他の利点は、第2有機コーティングを形成する分子が適切に選択されれば、触媒としての性質は活性化ための前処理をすることなしに発現することにある。言い換えれば、ナノ粒子は直接活性化する。
【0059】
この場合、ナノ粒子が、自発的に活性化するにもかかわらず酸性媒質中では最適な性質を示さないとき、前もって塩基性媒質中で処理することによってナノ粒子の性質を大きく改善することが可能であることが見出された。塩基性媒質中での処理は、特に、ナノ粒子を浸漬することによって行われてよく、ナノ粒子は任意に膜形態であり、例えば1Mの水酸化ナトリウム溶液等の強塩基に数分間、または数十分間浸漬する。
【0060】
さらに、前記ナノ粒子は、液体媒質中での分散性、安定性、及び非常に強い酸性または塩基性媒質、及びイオン強度が高い媒質に対する耐性という観点で顕著な特性を有することがわかる。
【0061】
結果として、これらのナノ粒子は特に取り扱いやすく、中でも触媒としての性質が長期にわたって非常に安定である。結果として、前記ナノ粒子は触媒性質の劣化のリスクを負うことなしに液体媒質中で数年保管または数年間使用されてよい。
【0062】
さらに、前記ナノ粒子は使用目的に完全に適合させることが可能であるという利点を有する。具体的には、ナノ粒子の二つの有機コーティングを、特に第2有機コーティングを形成するための化合物を適切に選択することによって、特定の使用法に対応するように、それらの性質のうちあるものを変更及び最適化することが可能である。それらの性質のうちあるものとは、たとえば電子の電荷やイオン性の化学種の移動を維持する性質、基材への親和性、電気めっきに対する適性または一つ以上の化学種または生物学的な化学種を特異的に認識しそれと相互作用する機能、等である。
【0063】
さらに、有機化学の標準的な技術を用いて簡単に実行できる工程を通じて製造されることが可能であり、コスト的にも工業的に活用可能であるという付加的な利点を有する。
【0064】
前述の議論を考慮すると、電極触媒としてのナノ粒子の使用は、電気エネルギーを生成する装置、特に燃料電池において最も特別な興味の対象である。
【0065】
このように、本発明の対象は、さらに前述のように規定されたナノ粒子を含む、電気エネルギーを生成する装置に関する。
【0066】
本発明によると、前記装置は好ましくは燃料電池である。
【0067】
前記ナノ粒子を触媒として利用することは、化学種および生物学的化学種を、特に溶液中で検知及び分析する、特にセンサーまたはマルチセンサーの分野で特に興味深いものである。
【0068】
この場合、第2有機コーティングを形成する分子は、検知または分析対象である化学種および生物学的化学種を特異的に認識し、それらと相互作用するように選択される。
【0069】
同様に、第2有機コーティングの分子とこれらの種との特定の相互作用によって第二の化学種、例えばH2O2または他のレドックスプローブ等が生成し、その第二の化学種に対してナノ粒子が触媒活性を有する場合、適当な電位を加えることによって生成された第二の化学種の量に比例した電流、及び、その結果として、特定の相互作用の程度を表す電気的な信号の測定が可能である。
【0070】
または、第2有機コーティングの分子と前記種との特定の相互作用によってレドックスプローブが生成しない場合、前記プローブは検知または分析対象である化学種を含む媒質中に取り入れられている可能性がある。第2有機コーティングの分子と前記種との特定の相互作用は、結果として媒質に取り込まれたレドックスプローブに対するナノ粒子の触媒活性と関連する電流の変化によって示される。
【0071】
触媒としての利用についてここまでに記載されてきたナノ粒子の中のいくつかは既に文献に開示されている。白金コアを有し、4−メルカプトアニリンの一部分から形成された第1有機コーティング及びチオフェン酸クロリドの一部分から形成された第2有機コーティングを含むナノ粒子の場合がそうであり、参考文献[5]によって知られている。
【0072】
それに対して、現在のところ他に提案されたもの、例えば第2有機コーティングが単環または多環酸無水物分子等の一部分から形成されたものは、発明者の知る範囲では、現在のところない。
【0073】
従って、本発明の対象としては、少なくとも一つの白金族金属または白金族金属の合金を含む金属コアと、金属コア表面に結合する分子から形成される第1有機コーティングと、第1有機コーティングを形成する分子とは異なる分子から形成され、且つ第1有機コーティングの分子上にグラフトされ、さらに第2有機コーティングを形成する分子が単環または多環酸無水物分子から選択される化合物の一部分であるような第2有機コーティングと、を含むナノ粒子がさらに含まれる。
【0074】
本発明の好ましい実施形態によると、このナノ粒子の第2有機コーティングを形成する分子は、グルタル酸無水物、スルホ安息香酸無水物、ジフェン酸無水物、テトラフルオロ無水フタル酸、テトラフェニル無水フタル酸及びジフェニル無水マレイン酸から選択される化合物の一部分である。
【0075】
本発明の他の好ましい実施形態によると、このナノ粒子の金属コアは白金、白金の合金またはそれらの混合物からなり、一方で本発明の他の好ましい実施形態によると、第1有機コーティングを形成する分子は4−メルカプトアニリンの一部分である。
【0076】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明によるナノ粒子の有効な調整方法に関する例示及びそれらの性質に関する例示についてこの後に添付図を参照して説明しているので、その記述を読むうちにより明らかになるだろう。
【0077】
言うまでもないが、これらの例示は単に本発明の内容を説明するためのものであって、この内容にどのようなかたちであれ制限を設けるものではない。
【0078】
便宜上、“官能化ナノ粒子”という用語は、以下では金属コア上に、単に第1有機コーティングのみを含むナノ粒子を表す。一方で、“グラフト化ナノ粒子”という用語は上記に加えて、前記第1有機コーティング分子上に分子をグラフト化した第2有機コーティングを含むナノ粒子を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0079】
実施例1:官能化ナノ粒子の調整
4−メルカプトアニリン分子を前記コアに結合させた結果得られる、白金コア及び第1有機コーティングを含むナノ粒子は以下の手順に従って調製される。
【0080】
以下に溶液1、溶液2、及び溶液3で参照される三つの溶液が準備される。
【0081】
溶液1は、四塩化白金300mgをヘキシルアミン75mlに溶解させることによって得られる。この溶液はオレンジ色である。
【0082】
溶液2は、水素化ホウ素ナトリウム300mgを水/メタノール混合物(50/50)40mlに溶解させ、水素化ホウ素ナトリウムが完全に溶解した後、ヘキシルアミンを20ml加えることによって得られる。
【0083】
溶液3は、4−メルカプトアニリンジスルフィド(4−mercaptoaniline disulfide)330mgをメタノール/ヘキシルアミン混合物(50/50)30mlに溶解させることによって得られる。
【0084】
t=0では、溶液2が溶液1と混合され、強く攪拌される。混合物は数秒で濃い茶色に変化する。
【0085】
t=20−60秒では、溶液3が上記混合物に加えられ、t=250秒では水200mlが反応媒質に添加される。
【0086】
t=15分において、前記反応媒質は分液漏斗に移される。有機層は分離され、200mlの純水で3度洗浄される。
【0087】
有機層は約35℃でロータベーパー(rotavapor)により濃縮され、体積を約3〜4mlまで減少させる。その後有機層を、エタノール15mlに4−メルカプトアニリンジスルフィド300mgを溶解させたものを含む遠心管内に移し、遠心分離前に一晩攪拌し続けた。4−メルカプトアニリンジスルフィドの過剰分を含む上澄み液は除かれ、管の底に残っていた黒い沈殿物は、30mlのエタノール/ジエチルエーテル混合物(33/66 v/v)で2分間洗浄された後再度遠心分離される。上澄み液は除去される。黒い沈殿物は、ジエチルエーテルで洗浄され、10〜15分間窒素流れ下で乾燥される。結果として得られたパウダーの質量比は有機部分が20%で白金部分が80%である。
【0088】
実施例2:グラフト化ナノ粒子の調製
グラフト化ナノ粒子は、実施例1に従って作成された、及び新たに調製された(4−メルカプトアニリンに自発的に分解する傾向が与えられた)官能化ナノ粒子に対して、図2A〜2Gに示されるようなグラフト化反応のひとつを施すことによって調製される。
【0089】
これらの反応は全て、官能化ナノ粒子が有するアミノ基の量に対して、グラフト化される化合物が大過剰に存在する条件で実施される。そのため、官能化ナノ粒子の質量の20%が白金コアに(チオラートの形態で)結合したメルカプトアニリン部分に対応することと、メルカプトアニリンが124gのモル質量を有することから、官能化ナノ粒子に結合するメルカプトアニリン部分のモル数つまりアミノ基の数に対する、それ自身が過剰量、例えば5〜10、であるために使われなければならないグラフト化される化合物のモル数が計算される。
【0090】
溶液はモレキュラーシーブ上で前もって乾燥され、官能化ナノ粒子の濃度を約4〜10mg/cm3とするのに適当な体積が使用される。
【0091】
一般的に、グラフト化反応は以下のように行われる。始めに、官能化ナノ粒子は適切な溶媒体積中に分散され、得られた懸濁液は窒素雰囲気下で約15分間マグネチックスターラーで攪拌される。その後、グラフト化される化合物がこの懸濁液中に直接添加され、任意でグラフト化反応の副生成物をトラップすることができる化合物を共存させる。
【0092】
反応媒質は、窒素雰囲気下で12時間攪拌され、その後ナノ粒子を沈殿させるために大過剰の溶媒が入れられた遠心管に移される。この後、反応媒質は遠心分離され、通常過剰なグラフト化分子の大部分を含む上澄み液は廃棄される。
【0093】
ナノ粒子の沈殿物は、未反応ではあるがナノ粒子と共存すると不安定であるグラフト化化合物分子を、分散させることなしに溶解することができるような溶媒中で、1回〜4回洗浄及び遠心分離される。場合によっては沈殿物を洗浄するために、またはナノ粒子の再分散及び再沈殿のために混合溶媒を使用する必要がある。反応に使われた溶媒は沈殿物を洗浄する前に真空条件下で蒸発させた方がよい場合もある。
【0094】
このようにして得られたグラフト化ナノ粒子のパウダーは真空条件下または窒素雰囲気で乾燥される。このパウダーは、目的の濃度、一般的には0.3〜2mg/ml、を有するグラフト化ナノ粒子の懸濁液を作成するために使用することが可能である。この目的で使われる溶媒は通常例えばジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMA)等の非プロトン性極性溶媒、またはもしグラフト化ナノ粒子が非プロトン性極性溶媒に分散しない場合には、クロロホルムまたはジクロロメタン等の非極性溶媒である。
【0095】
より具体的には、図2A〜図2Gに示されたグラフト化反応は以下を用いて実施される。
【0096】
図2Aのグラフト化反応
官能化ナノ粒子の質量:25mg
溶媒:DMA:5ml
グラフト化化合物:チオフェン酸クロリド:26μl(6倍過剰)
HClのトラッピング:ジメチルアミノピリジン:20mg
沈殿物洗浄溶媒:アセトニトリル
【0097】
図2Bのグラフト化反応
官能化ナノ粒子の質量:18mg
溶媒:DMSO:2ml
グラフト化化合物:グルタル酸無水物:45mg(10倍過剰)
沈殿物洗浄溶媒:アセトニトリル
【0098】
図2Cのグラフト化反応
官能化ナノ粒子の質量:10mg
溶媒:DMA:2ml
グラフト化化合物:スルホ安息香酸無水物:29mg(10倍過剰)
DMAの蒸発
沈殿物洗浄溶媒:アセトニトリル
【0099】
図2Dのグラフト化反応
官能化ナノ粒子の質量:9mg
溶媒:DMSO:2ml
グラフト化化合物:テトラフルオロフタル酸無水物:15mg(6倍過剰)
沈殿溶媒:水
洗浄溶媒:アセトン
【0100】
図2Eのグラフト化反応
官能化ナノ粒子の質量:18mg
溶媒:DMSO:5ml
グラフト化化合物:ブロモベンジルオキシカルボニルオキシスクシンイミド:89mg(10倍過剰)
DMSOの蒸発
沈殿物洗浄溶媒:アセトニトリル
【0101】
図2Fのグラフト化反応
官能化ナノ粒子の質量:22mg
溶媒:DMSO:4ml
グラフト化化合物:1−ヘキシル−4−(4−イソチオシアネートフェニル)ビシクロ[2.2.2]オクタン:100mg(10倍過剰)
反応媒質中での生成物の沈殿
洗浄溶媒:DMSO/アセトン
【0102】
図2Gのグラフト化反応
官能化ナノ粒子の質量:26mg
溶媒:DMSO:5ml
グラフト化化合物:テトラフェニル無水フタル酸:180mg(6倍過剰)
沈殿溶媒:エタノール(4ml)/ジエチルエーテル(20ml)
DMSO中での再溶解(4ml)
エタノール(4ml)/ジエチルエーテル(20ml)中での再沈殿
洗浄溶媒:ジエチルエーテル
【0103】
このようにして得られたグラフト化ナノ粒子は以下に続く実施例において使用される。
【0104】
実施例3:官能化ナノ粒子及びグラフト化ナノ粒子懸濁液の長期安定性
官能化またはグラフト化ナノ粒子懸濁液の長期安定性は、この懸濁液から調整されたラングミュア膜(浮いている単分子層)の圧縮等温線をプロットすることによって決定される。前記圧縮等温線は、ラングミュアトラフの空気−水界面において20℃で測定され、調整開始後すぐに(t=0)、及びその後時間経過に伴う様々な段階において記録される。
【0105】
これらの等温線を作成する手順は標準的なものである。異なる時間tにおいて、1mlのクロロホルムまたはジクロロメタンを長期安定性を調べる懸濁液0.5mlに加えることによって、“展開”懸濁液を調整することからなる。次に、展開懸濁液1.2mlを、測定を行うための、例えば長さ45cm、幅6.5cmの、ラングミュアトラフ内の水の表面上に展開させる。ナノ粒子は、前もって選択された表面圧力、例えば4mN/m、に達するまで横方向に圧縮される。このように得られたナノ粒子膜の長さが測定され、表面積はトラフの幅にこの長さをかけることによって計算される。
【0106】
展開懸濁液のナノ粒子の質量濃度が与えられれば、単分子膜のナノ粒子の各質量単位によって平均的に占有される面積が決定される。粒子のモル質量を見積もった結果に基づき、各ナノ粒子によって平均的に占有される面積を決定することも可能である。
【0107】
ナノ粒子が凝集している場所がないという意味で、ナノ粒子懸濁液が長期にわたって安定であれば、ナノ粒子の質量単位あたりの面積、またはナノ粒子あたりの面積が、展開されたナノ粒子が同量な場合では、様々な時間tについて長時間一定または実質的に一定である結果が得られる。
【0108】
対照的に、もしも懸濁液が不安定である場合、ナノ粒子の質量単位あたりの面積、またはナノ粒子あたりの面積の値は長期にわたって減少する。なぜなら、いくつかの粒子から形成された凝集体は、個々が独立した形態で存在する同数の粒子による占有面積よりも小さな占有面積を持つためである。
【0109】
以下に示す表1では、例として、DMSO中の二つのナノ粒子懸濁液、すなわち実施例1に従って調整された官能化ナノ粒子からなる第一の懸濁液及び図2Aの反応によってグラフト化されたナノ粒子からなる第二の懸濁液、から調整されたラングミュア膜内の各ナノ粒子による平均占有面積の値を示しており、これらの値は前記懸濁液の経時変化がt=0、一ヶ月後(t=1ヶ月)及び七ヶ月後(t=7ヶ月)のものである。
【0110】
【表1】
【0111】
この表は、官能化ナノ粒子懸濁液では、時間が経過するにつれてナノ粒子あたりの面積が非常にはっきりと減少することを示しており、このことはこれらのナノ粒子に凝集現象が存在することを示すものである。それに対してグラフト化ナノ粒子懸濁液の場合には実質的に面積が一定である。
【0112】
さらに、図3は図2Aに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子の2年経過した懸濁液から作成されたラングミュア膜について、ラングミュアトラフの空気/水界面で撮影された透過型電子顕微鏡写真である。この膜は4mN/mの表面圧力を与えることにより得られたものである。
【0113】
図3には膜内部にナノ粒子の凝集体が存在しないことが示されており、結果的にグラフト化ナノ粒子懸濁液の長期維持の安定性を裏付けている。
【0114】
実施例4:酸性媒質中の酸素の還元に関するグラフト化ナノ粒子の電気化学活性
酸性媒質中の酸素の還元に関するグラフト化ナノ粒子の電気化学活性は、グラフト化ナノ粒子からなるラングミュア・ブロジェット膜(基材上の単分子層、以下“LB膜”と呼ぶ)を1M硫酸溶液中でサイクリックボルタメトリ試験することにより評価される。
【0115】
実際上は、DMSO1mlあたりグラフト化ナノ粒子0.5mgを含む懸濁液を0.5mlと、0.82mlのジクロロメタンまたはクロロホルムと、グラフト化ナノ粒子膜の基材上への垂直累積を促進するために0.18mlの5.4×10−4Mのベヘン酸のクロロホルム溶液とを加えることによって、展開懸濁液は調整される
【0116】
次に、1mlの展開懸濁液はラングミュアトラフ(45cm×6.5cm)中の水の表面に展開され、膜は表面圧力28mN/mにおいて横方向の圧縮によって形成される。これらの条件下で、ナノ粒子に占有された面積は膜全体の面積の約50%であり、残りはベヘン酸によって占有される。
【0117】
その後前記膜はラングミュア・ブロジェット法によって、0.5cm/分で、金電極を備えた基材上に垂直累積される。
【0118】
ボルタメトリ試験は、グラフト化ナノ粒子のLB膜上で従来の方法に従って行われ、これらの膜に対する事前の電気化学処理を行うことなしに、酸性溶液をO2で飽和した後に実施される。
【0119】
実施例の方法では、図4は各々図2Aに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子(曲線1)と、図2Bに示されたグラフト反応によってグラフト化されたナノ粒子(曲線2)とからなる、ふたつの異なるグラフト化ナノ粒子の膜に関する20mV/sの掃引速度におけるボルタモグラムを示す。この図では、電位は標準水素電極(SHE)に対する値で、mV単位で表される。
【0120】
図4では二つのタイプのグラフト化ナノ粒子の電気化学活性が非常に似ていることが示されており、双方の膜の還元のピークの電流密度は230及び240μA/cm2の間である。還元プロセスは酸性溶液が窒素流れで脱酸素されるとき消滅する。
【0121】
実施例5:塩基性溶媒中の酸素の還元に関するグラフト化ナノ粒子の電気化学活性
塩基性溶媒中の酸素の還元に関するグラフト化ナノ粒子の電気化学活性は、実施例4に記載されたように調整されたグラフト化ナノ粒子のLB膜を、使用された溶液が硫酸ではなく1Mの水酸化ナトリウムを含むことを除いては実施例4と同じ条件下で、サイクリックボルタメトリ試験することによって評価される。
【0122】
実施例によると、図5は各々図2Cに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子(曲線1)と、図2Dに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子(曲線2)とからなる、ふたつの異なるグラフト化ナノ粒子の膜に関する、掃引速度20mV/sにおけるボルタモグラムを示している。前例と同様に、この図は、電位は標準水素電極(SHE)に対する値で、mV単位で表される。最初のサイクルでは、還元ピークの電流密度はH2SO4媒質で得られたものと同様のものである。実験が継続する間、この電流密度は増加し、その後図5に示されるように値が安定化する。
【0123】
さらにこの場合には、図5において二つのタイプのグラフト化ナノ粒子の電気化学活性は非常に似ており、還元ピークにおける電流密度は双方の膜で570と580μA/cm2の間である。さらに、塩基性溶媒が窒素流れ下で脱酸素されるときには還元プロセスは消滅する。
【0124】
実施例6:酸性媒質中の水素の酸化に関するグラフト化ナノ粒子の電気化学活性
酸性媒質中の水素の酸化に関するグラフト化ナノ粒子の電気化学活性は、実施例4に記載されたように調整されたグラフト化されたナノ粒子のLB膜に、最初にH2で飽和された酸性溶液が使用されることを除いて実施例4と同じ条件下でサイクリックボルタメトリ試験を行うことによって評価される。
【0125】
例えば、図6は図2Aに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子からなる膜についての、掃引速度20mV/sにおけるボルタモグラムを示している。前例と同様に、この図は、電位は標準水素電極(SHE)に対する値で、mV単位で表される。
【0126】
実施例7:グラフト化されたナノ粒子の電気化学活性の安定性
酸性および塩基性媒質内の酸素還元に関するグラフト化されたナノ粒子の電気化学活性の安定性は、実施例4に記載されたように調整されたグラフト化ナノ粒子のLB膜を、まず膜を作成するグラフト化ナノ粒子の懸濁液の保存期間を変えることによって、次に前記膜に対して電気化学サイクルを事前に実施するまたは実施しないことを除いて、実施例4及び5と同じ条件下でサイクリックボルタメトリ試験を行うことによって評価される。
【0127】
これらの電気化学サイクルは酸素雰囲気下で50mV/sの速度で、酸性媒質(1M H2SO4)中では800及び−50mV/SHEの間で、また塩基性媒質(1M NaOH)中では200から−850mV/SHEで行われる。
【0128】
以下の表2は、20mV/sの掃引速度において、図2Aで示された反応によってグラフト化されたナノ粒子の膜に関して酸素還元ピークで記録された電流密度を示す。
【0129】
この表では、水酸化ナトリウムに関して与えられた電流密度は、分極のない状態でこの媒質に30分間膜を浸漬した後に得られたものである。
【0130】
【表2】
【0131】
実施例8:グラフト化されたナノ粒子の第2有機コーティングの酸性媒質中における安定性
グラフト化されたナノ粒子の第2有機コーティングの酸性媒質中における安定性は、実施例4に記載されたように調整されたグラフト化ナノ粒子のLB膜に対して、1Mの硫酸溶液中で長期の電気化学サイクルを実施することによって、及びこれらの膜を前記電気化学サイクルの前後にX線光電子分光分析(XPS)によって分析することによって評価される。
【0132】
この実験では、電気化学サイクルは酸素雰囲気下で50mV/sの速度で、800及び−50mV/SHEの間で行われる。
【0133】
一例として、図7A及び7Bには図2Aに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子の膜について記録されたスペクトルを示す。図7Aは白金の4f電子に関連し、図7Bは硫黄のs2p電子に関連する。
【0134】
サイクルの前(スペクトル1及び3)及び後(スペクトル2及び4)に得られたスペクトルの形は、各タイプの電子のものに非常に似ており、このことは第2有機コーティングが大変安定していることの証拠である。
【0135】
硫黄に関しては、169eVを中心とするピークが膜に添加された硫黄イオンに対応するのに対して、163eVを中心とするピークがナノ粒子の第2有機コーティングに対応する。
【0136】
さらに、酸性媒質中の膜の処理の前後におけるこれらのキャラクタリゼーションから導かれる半定量的な分析結果は、白金のピーク強度と第2有機コーティングの硫黄のピーク強度との比は実質的に変化しない(サイクル前で1.44なのに対してサイクル後で1.72)ことを示し、結果的にナノ粒子の全組成の高い安定性について証拠を与えることを可能にする。
【0137】
実施例9:グラフト化ナノ粒子の電気化学活性における第2有機コーティング分子の特性の重要性
図2Fに示された方法によってグラフト化され、実施例4に記載されたように調整されたナノ粒子のLB膜は、酸性媒質中(1M H2SO4)において実施例4に記載されたものと同じ条件で、これらの膜が分極している場合及びしていない場合についてサイクリックボルタメトリ試験が行われる。
【0138】
結果は図8の掃引速度20mV/sにおけるボルタモグラムにおいて、非分極膜(曲線1)、1.95V/SHEにおいて30秒間分極させた膜(曲線2及び3)、1.95V/SHEにおいて15分間分極させた膜(曲線4及び5)について示される。前例と同様に、この図は、電位は標準水素電極(SHE)に対する値で、mV単位で表される。
【0139】
この図は、触媒活性に対するナノ粒子の第2有機コーティングを形成する分子の選択の重要性を示す。
【0140】
その理由は、図2Fに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子の場合、第2有機コーティング分子の基本的な部分がsp3型のC−C結合からなるものであり、それはナノ粒子の触媒性質発現とは相反するためである。その結果、これらのナノ粒子は図8の曲線1で示したように前処理なしでは電気化学活性を示さず、このことは図2Aから2Eに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子(特に実施例4〜6を参照されたい)とは対照的である。
【0141】
それに対して、図2Fに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子の単分子膜が高い酸化ポテンシャルを受けたときには、酸化ポテンシャルが適用される時間が長いほどそれに比例してより顕著になるような電気化学的応答が現れ、このことは、前記酸化ポテンシャルによってナノ粒子の第2有機コーティング分子が分解していることの証拠を与える。
【0142】
実施例10:第2有機コーティングの選択によるグラフト化ナノ粒子の電気化学活性の調節
各々図2F、2A、及び2Gに示された反応を用いてグラフト化されたナノ粒子からなる、実施例4に記載されたように調整されたLB膜を用いて、実施例4と同じ条件下で、酸性媒質(1M H2SO4)中でのサイクリックボルタメトリ試験を実施した。
【0143】
結果は図9の掃引速度20mV/sにおけるボルタモグラムにおいて、図2Fに示された反応を用いてグラフト化されたナノ粒子の膜(曲線1)、図2Aに示された反応を用いてグラフト化されたナノ粒子の膜(曲線2)、図2Gに示された反応を用いてグラフト化されたナノ粒子の膜(曲線3)について示される。前例と同様に、この図は、電位は標準水素電極(SHE)に対する値で表される。
【0144】
図9に示されるように、図2Fに示された反応を用いてグラフト化されたナノ粒子の場合には顕著な電気化学活性は得られなかった。この結果は実施例9に示された結果と同様のものである。その一方で、図2Gに示された反応を用いてグラフト化されたナノ粒子は、図2Aに示された反応を用いてグラフト化されたナノ粒子、これは既に高い効率を有するものであるにもかかわらず、と比較して非常に高い電気化学活性を示す。
【0145】
これらの結果は、ナノ粒子の電気化学的性質における、第2有機コーティングを形成する分子の選択の重要性、及び本発明によって、所望するならば、特に目的とする使用法に応じて第2有機コーティング分子の選択を変更することによって、触媒としての性質を望みのレベルに合わせることが可能であることを裏付けるものである。
【0146】
実施例11:グラフト化ナノ粒子の電気化学的性質における塩基性媒質中での処理の影響
グラフト化ナノ粒子の電気化学的性質における塩基性媒質中での処理の影響は、図2Aに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子のLB膜について、これらの膜を30分間酸素の存在下で水酸化ナトリウム中に浸漬することからなる処理の前後で、各々塩基性媒質(1M NaOH)中及び酸性媒質(1M H2SO4)中で得られた電気化学活性を比較することによって評価された。
【0147】
電気化学活性は、実施例4に記載されたような前記ナノ粒子から調製されたLB膜においてサイクリックボルタメトリ試験を行うことによって評価され、塩基性媒質中での試験は実施例5と同じ条件下で行われ、酸性媒質中の試験は実施例4と同じ条件下で行われた。
【0148】
結果は図10に示され、各々以下の結果を示し、
曲線1:30分間水酸化ナトリウム中に浸漬する前のナノ粒子の膜について、塩基性媒質中で得られるボルタモグラム、
曲線2:30分間水酸化ナトリウム中に浸漬した後のナノ粒子の膜について、塩基性媒質中で得られるボルタモグラム、
曲線3:30分間水酸化ナトリウム中に浸漬する前のナノ粒子の膜について、酸性媒質中で得られるボルタモグラム、
曲線4:30分間水酸化ナトリウム中に浸漬した後のナノ粒子の膜について、酸性媒質中で得られるボルタモグラム、
であり、上記ボルタモグラムは掃引速度20mV/sで記録されたものである。
【0149】
この図は、塩基性媒質中でのグラフト化ナノ粒子の前処理、例えば水酸化ナトリウムバスへの浸漬、が電気化学活性を非常に顕著に増加させる効果を、塩基性媒質中のみではなく、酸性媒質中(この増加がさらに顕著となる)であっても、有することを示している。
【0150】
このことから、そのような処理は、所望するならば、酸性媒質中では直ちに活性を持つが、この媒質中では自発的に最適にはならないようなグラフト化ナノ粒子の触媒性質を有利に改良するために使われてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】グラフト化反応前後のナノ粒子の概略図を示す。
【図2A】4−メルカプトアニリンの一部分からなる第1コーティングで官能化された白金コアを持つナノ粒子に適用されるグラフト化反応の概略図を示す。
【図2B】4−メルカプトアニリンの一部分からなる第1コーティングで官能化された白金コアを持つナノ粒子に適用されるグラフト化反応の概略図を示す。
【図2C】4−メルカプトアニリンの一部分からなる第1コーティングで官能化された白金コアを持つナノ粒子に適用されるグラフト化反応の概略図を示す。
【図2D】4−メルカプトアニリンの一部分からなる第1コーティングで官能化された白金コアを持つナノ粒子に適用されるグラフト化反応の概略図を示す。
【図2E】4−メルカプトアニリンの一部分からなる第1コーティングで官能化された白金コアを持つナノ粒子に適用されるグラフト化反応の概略図を示す。
【図2F】4−メルカプトアニリンの一部分からなる第1コーティングで官能化された白金コアを持つナノ粒子に適用されるグラフト化反応の概略図を示す。
【図2G】4−メルカプトアニリンの一部分からなる第1コーティングで官能化された白金コアを持つナノ粒子に適用されるグラフト化反応の概略図を示す。
【図3】図2Aに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子の、二年経過後の懸濁液を用いて作られたラングミュア膜の透過型電子顕微鏡像を示す。
【図4】各々図2A及び2Bに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子からなるラングミュア・ブロジェット膜に関して、最初に酸素で飽和された酸性媒質中においてサイクリックボルタメトリによって得られたボルタモグラムを示す。
【図5】各々図2C及び2Dに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子からなるラングミュア・ブロジェット膜に関して、最初に酸素で飽和された塩基性媒質中においてサイクリックボルタメトリによって得られたボルタモグラムを示す。
【図6】図2Aに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子からなるラングミュア・ブロジェット膜に関して、最初に水素で飽和された酸性媒質中においてサイクリックボルタメトリによって得られたボルタモグラムを示す。
【図7A】図2Aに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子でできたラングミュア・ブロジェット膜において、酸性媒質中において長期の電気化学的サイクルをこの膜に作用させる前後の状態で、X線光電子分光分析(XPS)によって得られたスペクトルを示す。
【図7B】図2Aに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子でできたラングミュア・ブロジェット膜において、酸性媒質中において長期の電気化学的サイクルをこの膜に作用させる前後の状態で、X線光電子分光分析(XPS)によって得られたスペクトルを示す。
【図8】最初に酸素で飽和された酸性媒質中での、図2Fに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子でできたラングミュア・ブロジェット膜において、これらの膜に分極がある場合及びない場合についてサイクリックボルタメトリによって得られたボルタモグラムを示す。
【図9】図2F、2A及び2Gに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子でできたラングミュア・ブロジェット膜に関して、最初に酸素で飽和された酸性媒質中においてサイクリックボルタメトリによって得られたボルタモグラムを示す。
【図10】図2Aに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子でできたラングミュア・ブロジェット膜に関して、これらのナノ粒子を各々塩基性媒質中で処理する前後の状態で、最初に酸素で飽和された塩基性及び酸性媒質中においてサイクリックボルタメトリによって得られたボルタモグラムを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は金属コア、より詳しくは白金族金属または白金族金属の合金を材料とする金属コアと、有機二重コーティングとを有するナノ粒子の触媒としての利用に関する。
【0002】
また、本発明はこのように製造されたナノ粒子に関する。
【0003】
本発明が目指すナノ粒子は、触媒としての顕著な性質、特に電極触媒としての性質と、液体媒質中での十分な分散性及び安定性とを併せ持つようにしたものである。
【0004】
そのため、本発明のナノ粒子は触媒プロセス、特に電極触媒プロセスが含まれるどのような分野ででも使用することができ、特に電気的なエネルギーを発生する装置、例えば燃料電池に使用することができる。
【0005】
さらに、これらのナノ粒子の触媒としての性質に、化学的または生物学的な化学種に関する特異的認識の性質を付け加えることが可能な範囲において、前記ナノ粒子は例えばセンサーまたはマルチセンサー等の、化学的または生物学的化学種を検知または分析する装置に使用することが可能であり、その装置内部での変換及びある化学種と前記ナノ粒子との間の特定の相互作用には、これらの粒子の触媒としての性質を利用する。
【背景技術】
【0006】
燃料電池のような装置において、白金、他の白金族金属及びそれらの合金が、基本的に非常に微細に分割された形態(ナノ粒子)で、アノード及びカソード触媒、例えばアノードにおける水素解離反応及びカソードにおける酸素還元反応を促進するものとして使用される。
【0007】
稀少且つ高コストであるため、このタイプの触媒機能を最適化すること、及び装置に導入されたナノ粒子の最大限可能な配合割合に相当する量が実際に電極触媒プロセスに確実に関与することは非常に重要である。
【0008】
これらの制約に加えて、装置が十分な使用期間を持つように、前記最適化された触媒機能は十分な耐久性を持つべきである。特に装置を機能させる過程において、電極触媒の機能を有する前記ナノ粒子にはマイグレーション及び凝集による成長が起こり、これらは前記ナノ粒子において徐々に起こる変化によって示される。その結果として、初期の触媒性能は低下する。これらの問題は再現性があり、実際上は、装置への大量の白金の添加につながる。
【0009】
有機成分にコートされた無機ナノ粒子の開発は広く文献に紹介されている。液体媒質中での取り扱いを容易にするために有機コーティングによって安定化された貴金属または非貴金属、金属酸化物または硫化物からなる無機ナノ粒子は、特に最近の10年間多くの文献に記載されている。初期に提案されたコーティングはポリマーまたは界面活性剤から形成されていたが、今はナノ粒子表面への結合を可能とする化学官能基(酸、チオール、フォスフェート、イソシアネート等)を有する分子からなるものが増えている。
【0010】
金属ナノ粒子の触媒性質の開発が重要である場合に、金属ナノ粒子はその金属表面をサイトとして有するので、長期にわたって継続する安定性を付与するため及び液体媒質中での容易な取り扱いを可能とするために最適なコーティングを施す手法は、当業者にとっては、開発目的である電極触媒プロセスにとって最も好ましいようにナノ粒子の金属表面の有効性を維持することとは、矛盾してみえる。
【0011】
このことが、触媒としての使用を目的とした金属ナノ粒子を安定化させるために現在まで通常提案されてきた有機コーティングが、これらのナノ粒子を本質的に立体効果によって安定化するような、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、及びポリ(n−ビニルピロリドン)等の、ポリマーであったことの確実な理由である。これらのポリマーをナノ粒子の金属表面に結合させる化学結合は数が多いわけではなく、また強くはないので、電気化学的現象の発現に適当な、非常に酸性の強いpH値によって、または対照的に非常に塩基性の強いpH値によって、及び高いイオン強度によって特徴づけられる媒質によって破壊される可能性がある。そのような破壊は、当初目的とされた安定化効果が低下することによって非常に明確に示される。
【0012】
イオン性または中性の界面活性剤からなる有機コーティングも同様に知られている。界面活性剤分子は安定化効果を有するように十分な長さでなくてはならず、電極触媒プロセスにおける電子性またはイオン性の電荷の移動を本質的に起こしにくいメチレン基(−CH2)nの鎖部を含んでいなくてはならない。さらに、この場合には、界面活性剤分子をナノ粒子の金属表面に結合させる化学結合が相対的に弱く、電気化学において用いられる媒質の特定のpH及びイオン強度の状況に対して鋭敏である。
【0013】
さらにある著者は、電極触媒プロセス、特に燃料電池への応用において、電荷または質量の移動を改善することが可能な化学基を含む安定化ポリマーまたはコポリマーの使用を推奨している。例えば、米国特許第6462095号明細書[1]は、カチオン交換性ポリマーまたはスルホン化ポリアリルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリ(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン)、またはポリ(α、β、γ−トリフルオロスチレン/スルホン酸)型のコポリマーによって安定化された白金ナノ粒子について開示している。
【特許文献1】米国特許第6462095号明細書
【特許文献2】仏国特許出願公開第2783051号明細書
【非特許文献1】Langmuir、2000、16、7520−7523
【非特許文献2】Chem.Commun.、2001、473−474
【非特許文献3】Catalysis Today、2000、2790、1−12
【非特許文献4】Macromolecules、1997、30、333
【非特許文献5】Journal of Adhesion、1996、58、101
【非特許文献6】Journal of Surface Analysis、1999、6(2)、159
【非特許文献7】Electrochimica Acta、1998、44、1317−1327
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
結果的に、やはり電極触媒の関係においては、ナノ粒子の金属表面と強い相互作用を有することが可能な安定化分子が提案されてきた。多くの金属とイオン性の共有結合を作るチオール基を有する分子がそれにあたる。この種の相互作用が存在することによってナノ粒子は広く覆われ、電極触媒プロセスに使用可能な金属表面はほとんど残らない。結果として、例えばLangmuir、2000、16、7520−7523、[2]においてMayeらにより、及びChem.Commun.、2001、473−474、[3]においてLouらによって開示された、アルキルチオラート(alkylthiolate)で安定化された金のナノ粒子は、活性化処理をした後にのみ電極触媒活性を示す。この活性化処理は、強い電気化学酸化条件の下で行われ、最初に強制的に有機安定化コーティングを除去し、次に、Catalysis Today、2000、2790、1−12[4]においてLuoらによって報告されるようにナノ粒子の金属表面の性質を変化させるが、このことはこれらのナノ粒子を装置中で触媒として使用するときの条件下では問題となることが理解されるだろう。具体的には、例えば有機安定化コーティングの除去においては、この除去がナノ粒子のマイグレーションの現象に繋がり、時間とともにそれらの触媒としての性質を低下させ、さらに装置の使用期間が終わって装置をリサイクルする段階では触媒を回復させることが困難である、という重大なリスクが存在する。
【0015】
結果として、触媒として最適な性質を有する一方で、第一に懸濁液中での取り扱いが容易で、且つ第二に触媒品質の耐久性が保証されるように、液体媒質中における長期にわたる分散性及び安定性が良い、白金、他の白金族またはそれらの合金に基づくナノ粒子からなる触媒を供給する問題が生じる。
【0016】
仏国特許出願公開第2783051号明細書[5]では、本発明の出願人の一人を含む研究者チームが、金属コア、特に白金、からなる金属コアと、このコアに結合した有機分子から形成される第1の冠状物、及び前記冠状物の有機分子とは異なり且つ第1の冠状物を形成する分子の上にグラフトされた有機分子から形成される第2の冠状物とからなる、化学種を検知するため薄膜形態を有するナノ粒子の利用、及びそのような膜を高感度層として含む化学センサーについて開示している。前記特許出願では、ナノ粒子の第2の有機冠状物によって、検知対象化学種に対する薄膜の選択的相互作用の性質が確実になる;第1の有機冠状物は本質的に第2の有機冠状物を前記金属コアに結合させる働きをする一方で、ナノ粒子の金属コアにより薄膜の電気伝導性の変化を測定することが可能になる。
【0017】
これらの研究の流れの中で、発明者は、予想に反して、参考文献[5](仏国特許出願公開第2783051号明細書)に開示されたような白金のコアと有機二重コーティングを含むナノ粒子が、活性化処理をする必要なしに、優れた触媒性質、特に電極触媒としての性質を有することを見出した。発明者は、さらにこれらのナノ粒子が、液体媒質中において大変良好な分散性、及び安定性を有すること、また、電極化学の分野で従来用いられるような酸性または塩基性の強い媒質、及びイオン強度の高い媒質に対する耐性を有することを見出した。
【0018】
これらの知見が本願発明の基礎となっている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の対象は、第一に、
少なくとも一つの白金族または白金族金属の合金を含む金属コアと、
前記金属コアの表面に結合した分子から形成された第1有機コーティングと、
前記第1有機コーティングの分子とは異なり、且つ前記第1有機コーティングの分子の上部にグラフトされた分子から形成された第2有機コーティングとを含むナノ粒子の、触媒としての利用である。
【0020】
この前後の文章において、“白金族金属”という用語は、白金、イリジウム、パラジウム、ルテニウム、オスミウム、から選択される金属を意味し、“白金族金属の合金”とは少なくともひとつの白金族金属を含む合金を意味し、この合金は例えばオスミリジウム(イリジウムとオスミウムを含む天然の合金)等天然のものであってもよいし、または非天然、例えば白金と鉄の合金、白金とコバルトの合金、または白金とニッケルの合金等であってもよい。
【0021】
好ましくは、ナノ粒子の金属コアは白金、または白金の合金、またはそれらの混合物からなる。
【0022】
本発明による利用において、第2有機コーティングの分子が液体媒質中の懸濁液中のナノ粒子の安定性を大きく改良するのに対して、第1有機コーティングの分子は主に第2有機コーティングの分子をグラフトすることを可能にするために働く。双方のコーティングは、ナノ粒子が触媒としての性質を発現するために要求される機能である電荷や物質の移動現象を可能とし、また金属コアへの接近を容易にするものである必要がある。
【0023】
本発明によると、第1有機コーティングの分子は、好ましくは共有結合性が強い化学結合、すなわち共有結合またはイオン性の共有結合を通じて金属コア表面に結合されている。
【0024】
結果として、本発明の最初の好ましい実施例において、同じ粒子に関して互いに好ましく理想的であるような第1有機コーティングの分子は、少なくとも二官能性化合物の一部分である、すなわち、少なくとも二つのフリーな化学官能基を含む化合物である:以下では、金属コア表面と共有性が強い化学結合を形成することができ、それによってこの表面に結合可能となるような第一の官能基を“官能基F1”とする。また、第2有機コーティングの分子を形成するために選択された化合物が有する少なくとも一つの官能基と反応することが可能で、前記第1有機コーティングの分子に第2の有機コーティングの分子をグラフトさせることが可能な第二の官能基を“官能基F2”とする。
【0025】
結果として、同じ粒子に関して互いに好ましく理想的であるような第2の有機コーティングの分子は化合物の一部分であり、前記化合物は上記の二官能性化合物の官能基F2と反応することができる、少なくとも一つのフリーな化学官能基を含む。この化学官能基は以下“官能基F3”とする。
【0026】
前後の文章で“化合物の一部分”という用語は、ナノ粒子上に存在するこれら化合物の部分を意味し、それらが、もしも第1有機コーティングを形成する一部分である場合には、金属コア表面に結合し、任意に、第2の有機コーティングの分子によってグラフトされる。または、もしも第2有機コーティングを形成する一部分である場合には、第1有機コーティングの分子上にグラフトされる。
【0027】
本発明によると、第1有機コーティングの分子を形成するため選択された少なくとも二官能性である化合物の官能基F1と金属コア表面との間の共有結合またはイオン性の共有結合の形成は、有機化合物と金属との間にこの種の結合を生成するために従来技術で使われるどのようなプロセスによって得られるものであってもよい。
【0028】
結果、例えば、コアを構成する必要がある金属に対応する金属塩を、前記の少なくとも二官能性である化合物によって還元することによりナノ粒子を合成してもよい。別の例として、不安定な化合物によってコートされた金属コアから形成されたナノ粒子表面において、前記化合物を少なくとも二官能性化合物である化合物で置換することによって得られてもよい。
【0029】
少なくとも二官能性である化合物の官能基F2と第2有機コーティングの分子を形成するために選択された化合物の官能基F3との間の反応(以下では簡単のために“グラフト化反応”とする)は、それ自身、二つの有機化合物が互いに結合することを可能にするものであればどのようなものあってもよく、結合はどのようなタイプのものでもよいが、好ましくは反応性官能基による共有結合がよい。
【0030】
本発明の他の好ましい実施形態によると、ナノ粒子の第1有機コーティングの分子は、第2有機コーティングの分子にグラフトされていない場合、金属コア表面で分解してよい。この分解性は、自発的、すなわち使用した分子の性質に本質的に関わるものであってよく、またはナノ粒子を処理することに伴い結果として生じるもの、例えば適当な試薬を使うことによるものであってもよいが、このような処理は第2有機コーティングを形成する分子の分解を引き起こすべきではないと理解される。
【0031】
4−メルカプトアニリン(4−Mercaptoaniline)は二官能性の性質を有しており、つまりチオール基及びフェニル基のパラ位にアミノ基を含んでおり、さらに自発的に分解する性質を同時に有しているので、第1有機コーティングを調製するために特に適切な化合物の一つの例である。
【0032】
本発明の好ましい他の実施例によると、グラフト化反応を通じて第2有機コーティングの分子は前記第1有機コーティングの分子の上部にグラフトされ、反応後の前記第1有機コーティングのグラフト率、すなわち第2有機コーティングの分子にグラフトされた分子の割合、は100%未満である。結果として、グラフト化反応の後に得られたナノ粒子は、第2有機コーティング層の分子でグラフトされない分子を含む第1有機コーティング層を有する。
【0033】
図1は本発明によって行われたグラフト化反応の前後のナノ粒子の概略図を示しており、図中、各F1−F2は第2有機コーティングの分子でグラフトされていない第1有機コーティングの分子を表しており、F3−□は、第2有機コーティングの分子を形成するために選択された化合物を表しており、各F1−□は第2有機コーティングの分子にグラフトされた第1有機コーティング分子を表す。
【0034】
この好ましい実施形態によれば、第1有機コーティングを形成するために自発的または誘起的に分解を起こす化合物を使用することで、ナノ粒子の金属コア表面への接近容易性を確実にする。特に、グラフト化反応の間第2有機コーティング分子によってグラフトされなかった第1有機コーティング分子の分解によって、金属コア表面からこれらの分子が速やかに除去され、結果として占有されていた領域の開放につながり、接近可能な状態となるべきである。
【0035】
本発明によると、第1有機コーティング分子のグラフト率は、ナノ粒子の量、及びグラフト化反応において反応物である第2有機コーティング分子を形成するために選択された化合物の量をそれぞれ変化させることによって変更されてもよい。
【0036】
しかしながら、このような方法はナノ粒子のグラフト化が過剰に部分的なものとなるリスクを伴うため本発明においては好ましいものではない。そのようなナノ粒子は結果として不安定なものであり、第1有機コーティング分子が分解することを考えると、液体媒質中でナノ粒子の分散性が不十分であるか、または分散性を有しない状態を招いたり、これらのナノ粒子によって調製された懸濁液の不安定化につながる。
【0037】
このように、本発明によれば、第2有機コーティング分子を形成するために選択された化合物の形態の特徴を変えることによって、及び特にこれらの分子による立体障害を変えることによって、前記グラフト率を変更することが望ましい。
【0038】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、第2有機コーティング分子は、種類は大きく変わる可能性はあるが(オリゴマー、ポリマー等)、以下の性質を有する化合物の一部分である。すなわち、
・ナノ粒子の性質として液体媒質中での分散性、安定性及び電気化学の分野で従来使われてきた媒質に対する耐性を付与し、特に電気化学プロセスにおいて利用されるときに、凝集現象、及びこれらナノ粒子の短期、中期または長期のマイグレーションを長期間防止し、
・ ナノ粒子コア表面の接近容易性を保ち、
・ ナノ粒子の活性化処理が不必要であり、
・ 任意に、ナノ粒子が電荷(電子及びイオンの電荷)および質量の移動を含む用途における利用を目的としている場合には(例えば燃料電池)、そのような移動を最適化する。
【0039】
特に、前記分子は以下の性質のうちひとつ以上を有する化合物の一部分である。
1.あるナノ粒子から他のナノ粒子への電子移動を維持することができる。そのためには、これらの化合物は電子移動には不向きである飽和C−C結合の数を可能な限り最小としなくてはならず、且つ二つの有機コーティングによって形成される厚みが過剰に増加することを避けなくてはならない。なぜなら電子移動の確率は距離の増加に伴って急激に減少するためである。これに関連して、二つの有機コーティングによって形成される厚みは約10ナノメーターを超えないことが望ましい。電子移動を維持することができる化合物の例としては、多環式化合物、特に多環状酸無水物、例えばテトラフェニルフタル酸無水物、ジフェン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等がある。
【0040】
2.得られるグラフト率を最小にすることができるような構造的な特徴を有し、その一方で、同時に、ナノ粒子に液体媒質中における十分な分散性及び安定性を付与するべきである。これらの化合物は、特に、芳香族環が存在することによってあるレベルの硬さを有するような小さな化合物であり、官能基F3は、第1有機コーティングの上部にグラフトされた第2有機コーティング分子の主軸が、前記官能基F3と第1有機コーティング分子の官能基F2との間に形成された共有結合の軸に平行ではなくむしろ直角な方向を向いて配置される。そのような化合物の例としては、第1有機コーティング分子上にグラフトするため少なくとも一つの官能基で置換されたポリパラフェニレンである。
【0041】
3.イオン種を中継し移動を可能にするような一つ以上のイオン性官能基を含む。そのような化合物としては、例えば、環状酸無水物(cyclic anhydride)、例えばグルタル酸無水物があり、任意に前記官能基のイオン的な性質を弱めるために前もってパーフルオロ化されてもよい。
【0042】
4.化学的な親和性の観点から、ナノ粒子が、目的とする使用法に応じて選択された特定の基材と前記ナノ粒子との結合を促進するのに好ましい固有の性質を有する。結果的に、例えばこれらの化合物は、基材自身が親水性となるか疎水性となるかに依存して、程度の差はあるが、親水性または疎水性であり、または例えばチオフェンまたはピロール等の、重合可能な、または共重合可能な化学種を含んでいてもよい。
【0043】
5.ナノ粒子が、検知及び分析システム、特にセンサーやマルチセンサー、に使われることが目的である場合には、一つ以上の化学種または生物学的化学種(アミノ酸、たんぱく質、糖、DNAまたはRNAフラグメント等)に対して特異的認識を示す。
【0044】
好ましくは、第2有機コーティング分子は、第1有機コーティング分子上にグラフトするための少なくとも一つの官能基を含むチオフェン、及び単環状または多環状酸無水物から選択される化合物の一部分である。
【0045】
特に好ましくは、第2有機コーティングを形成する分子が、チオフェン酸クロリド(thiophene acid chloride)、グルタル酸無水物、スルホ安息香酸無水物、ジフェン酸無水物、テトラフルオロフタル酸無水物、テトラフェニルフタル酸無水物及びジフェニルマレイン酸無水物から選択される化合物の一部分である。
【0046】
本発明の他の好ましい実施形態によると、ナノ粒子は直径約1.5〜10nmであり、好ましくは直径約1.5〜5nmである。
【0047】
液体媒質に対して分散性及び安定性を有しているので、本発明において有効なナノ粒子は第2有機コーティングを形成する分子の極性の程度に応じて適切に選択された溶媒中に、使用前に懸濁した状態で保存され、及び/または懸濁した状態で使用される。この目的で使用される溶媒は一般的には例えばジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、またはジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒であるが、もしも非プロトン性極性溶媒中でナノ粒子が分散しない場合には、例えばクロロホルム、またはジクロロメタン等の非極性溶媒であってもよい。
【0048】
特にナノ粒子は、使用前に濃度が約0.3〜1mg/mlの懸濁液のかたちで保存されていてよく、その場合はナノ粒子の使用目的に応じて希釈される。
【0049】
これらの懸濁液を使用して、様々な性質及び特性を有する基材上に累積させることによって1層以上のナノ粒子から形成される薄膜を調整することが可能である。具体的には、これらの基材が電気的な絶縁体、イオン伝導体、伝導体または半導体であってよい。基材は、広い範囲の材料(金属、ガラス、カーボン、プラスチック、繊維等)からなるものであってよく、細かく分割された形態であってもよく、バルクの形態であってもよい。加えて、これらは電極を備えていてもよい。
【0050】
これらの薄膜は、同様の膜を製造するために当業者に知られた技術、例えばラングミュア・ブロジェット法、自己組織化膜の連続累積、化学的または電気化学的グラフト化による自発的な吸着(spontaneous adsorption by chemical or electrochemical grafting)、スピンコーティング、表面の含浸による累積、電気めっき、電解グラフト化(electrografting)等、どのような技術によって調製されてもよく、これらのメカニズムは、BureauらによりMacromolecules、1997、30、333[6]、Journal of Adhesion、1996、58、101[7]、さらにBureau、DelhalleらによりJournal of Surface Analysis、1999、6(2)、159[8]で開示されている。
【0051】
ラングミュア・ブロジェット法は、文献に広く紹介されており、例えばナノ粒子を一層づつ強固な基材上に累積させるのに適しており、一方で表面の含浸は例えば繊維状の基材等柔軟な基材上へのナノ粒子の累積にさらに適している。
【0052】
本発明の目的に関連して、“単一層”は、その厚みが、ナノ粒子を球ととらえたときのナノ粒子の直径を超えないような層を意味している。
【0053】
本発明による方法によると、例えば第2有機コーティングのグラフト化において、第2有機コーティングの密度及び極性等の特性がコントロールできるので、それにより特定の表面特性を有する基材とナノ粒子との結合を促進することも可能である。
【0054】
結果として、ナノ粒子をカーボンナノチューブと組み合わせることは、例えば燃料電池において電気エネルギーを生成する等、ある電気化学用途においては特別に興味あることである。なぜなら、ナノ粒子でコートされたカーボンナノチューブは、疎水性でありまたは親水性を付与され、電子伝導体と触媒とをナノメートルスケールで密接に集合させることによって、この種の電池の機能を大きく改良することを可能にする。
【0055】
前記ナノ粒子は触媒として多くの利点を有している。
【0056】
特に、これらのナノ粒子は有機二重コーティングを有しているけれども、触媒性質において高い有利性を示し、酸素の還元及び水素の酸化に関して特に高い電極触媒活性を示す。
【0057】
これらのナノ粒子を用いて調製された材料に関しても同様である。結果として、例えば、本発明によってGeniesらによりElectrochimica Acta、1998、44、1317−1327[9]に開示されたような実験条件で、同様の方法に従ってナノ粒子の単一層で測定されるバルクの活性は、白金で最大500A/g、すなわち白金をカーボン上に分散させポリテトラフルオロエチレンに添加して形成されたパウダーで得られた最高の値(白金で89.6A/g)[9]の約5倍であった。
【0058】
前記ナノ粒子の他の利点は、第2有機コーティングを形成する分子が適切に選択されれば、触媒としての性質は活性化ための前処理をすることなしに発現することにある。言い換えれば、ナノ粒子は直接活性化する。
【0059】
この場合、ナノ粒子が、自発的に活性化するにもかかわらず酸性媒質中では最適な性質を示さないとき、前もって塩基性媒質中で処理することによってナノ粒子の性質を大きく改善することが可能であることが見出された。塩基性媒質中での処理は、特に、ナノ粒子を浸漬することによって行われてよく、ナノ粒子は任意に膜形態であり、例えば1Mの水酸化ナトリウム溶液等の強塩基に数分間、または数十分間浸漬する。
【0060】
さらに、前記ナノ粒子は、液体媒質中での分散性、安定性、及び非常に強い酸性または塩基性媒質、及びイオン強度が高い媒質に対する耐性という観点で顕著な特性を有することがわかる。
【0061】
結果として、これらのナノ粒子は特に取り扱いやすく、中でも触媒としての性質が長期にわたって非常に安定である。結果として、前記ナノ粒子は触媒性質の劣化のリスクを負うことなしに液体媒質中で数年保管または数年間使用されてよい。
【0062】
さらに、前記ナノ粒子は使用目的に完全に適合させることが可能であるという利点を有する。具体的には、ナノ粒子の二つの有機コーティングを、特に第2有機コーティングを形成するための化合物を適切に選択することによって、特定の使用法に対応するように、それらの性質のうちあるものを変更及び最適化することが可能である。それらの性質のうちあるものとは、たとえば電子の電荷やイオン性の化学種の移動を維持する性質、基材への親和性、電気めっきに対する適性または一つ以上の化学種または生物学的な化学種を特異的に認識しそれと相互作用する機能、等である。
【0063】
さらに、有機化学の標準的な技術を用いて簡単に実行できる工程を通じて製造されることが可能であり、コスト的にも工業的に活用可能であるという付加的な利点を有する。
【0064】
前述の議論を考慮すると、電極触媒としてのナノ粒子の使用は、電気エネルギーを生成する装置、特に燃料電池において最も特別な興味の対象である。
【0065】
このように、本発明の対象は、さらに前述のように規定されたナノ粒子を含む、電気エネルギーを生成する装置に関する。
【0066】
本発明によると、前記装置は好ましくは燃料電池である。
【0067】
前記ナノ粒子を触媒として利用することは、化学種および生物学的化学種を、特に溶液中で検知及び分析する、特にセンサーまたはマルチセンサーの分野で特に興味深いものである。
【0068】
この場合、第2有機コーティングを形成する分子は、検知または分析対象である化学種および生物学的化学種を特異的に認識し、それらと相互作用するように選択される。
【0069】
同様に、第2有機コーティングの分子とこれらの種との特定の相互作用によって第二の化学種、例えばH2O2または他のレドックスプローブ等が生成し、その第二の化学種に対してナノ粒子が触媒活性を有する場合、適当な電位を加えることによって生成された第二の化学種の量に比例した電流、及び、その結果として、特定の相互作用の程度を表す電気的な信号の測定が可能である。
【0070】
または、第2有機コーティングの分子と前記種との特定の相互作用によってレドックスプローブが生成しない場合、前記プローブは検知または分析対象である化学種を含む媒質中に取り入れられている可能性がある。第2有機コーティングの分子と前記種との特定の相互作用は、結果として媒質に取り込まれたレドックスプローブに対するナノ粒子の触媒活性と関連する電流の変化によって示される。
【0071】
触媒としての利用についてここまでに記載されてきたナノ粒子の中のいくつかは既に文献に開示されている。白金コアを有し、4−メルカプトアニリンの一部分から形成された第1有機コーティング及びチオフェン酸クロリドの一部分から形成された第2有機コーティングを含むナノ粒子の場合がそうであり、参考文献[5]によって知られている。
【0072】
それに対して、現在のところ他に提案されたもの、例えば第2有機コーティングが単環または多環酸無水物分子等の一部分から形成されたものは、発明者の知る範囲では、現在のところない。
【0073】
従って、本発明の対象としては、少なくとも一つの白金族金属または白金族金属の合金を含む金属コアと、金属コア表面に結合する分子から形成される第1有機コーティングと、第1有機コーティングを形成する分子とは異なる分子から形成され、且つ第1有機コーティングの分子上にグラフトされ、さらに第2有機コーティングを形成する分子が単環または多環酸無水物分子から選択される化合物の一部分であるような第2有機コーティングと、を含むナノ粒子がさらに含まれる。
【0074】
本発明の好ましい実施形態によると、このナノ粒子の第2有機コーティングを形成する分子は、グルタル酸無水物、スルホ安息香酸無水物、ジフェン酸無水物、テトラフルオロ無水フタル酸、テトラフェニル無水フタル酸及びジフェニル無水マレイン酸から選択される化合物の一部分である。
【0075】
本発明の他の好ましい実施形態によると、このナノ粒子の金属コアは白金、白金の合金またはそれらの混合物からなり、一方で本発明の他の好ましい実施形態によると、第1有機コーティングを形成する分子は4−メルカプトアニリンの一部分である。
【0076】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明によるナノ粒子の有効な調整方法に関する例示及びそれらの性質に関する例示についてこの後に添付図を参照して説明しているので、その記述を読むうちにより明らかになるだろう。
【0077】
言うまでもないが、これらの例示は単に本発明の内容を説明するためのものであって、この内容にどのようなかたちであれ制限を設けるものではない。
【0078】
便宜上、“官能化ナノ粒子”という用語は、以下では金属コア上に、単に第1有機コーティングのみを含むナノ粒子を表す。一方で、“グラフト化ナノ粒子”という用語は上記に加えて、前記第1有機コーティング分子上に分子をグラフト化した第2有機コーティングを含むナノ粒子を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0079】
実施例1:官能化ナノ粒子の調整
4−メルカプトアニリン分子を前記コアに結合させた結果得られる、白金コア及び第1有機コーティングを含むナノ粒子は以下の手順に従って調製される。
【0080】
以下に溶液1、溶液2、及び溶液3で参照される三つの溶液が準備される。
【0081】
溶液1は、四塩化白金300mgをヘキシルアミン75mlに溶解させることによって得られる。この溶液はオレンジ色である。
【0082】
溶液2は、水素化ホウ素ナトリウム300mgを水/メタノール混合物(50/50)40mlに溶解させ、水素化ホウ素ナトリウムが完全に溶解した後、ヘキシルアミンを20ml加えることによって得られる。
【0083】
溶液3は、4−メルカプトアニリンジスルフィド(4−mercaptoaniline disulfide)330mgをメタノール/ヘキシルアミン混合物(50/50)30mlに溶解させることによって得られる。
【0084】
t=0では、溶液2が溶液1と混合され、強く攪拌される。混合物は数秒で濃い茶色に変化する。
【0085】
t=20−60秒では、溶液3が上記混合物に加えられ、t=250秒では水200mlが反応媒質に添加される。
【0086】
t=15分において、前記反応媒質は分液漏斗に移される。有機層は分離され、200mlの純水で3度洗浄される。
【0087】
有機層は約35℃でロータベーパー(rotavapor)により濃縮され、体積を約3〜4mlまで減少させる。その後有機層を、エタノール15mlに4−メルカプトアニリンジスルフィド300mgを溶解させたものを含む遠心管内に移し、遠心分離前に一晩攪拌し続けた。4−メルカプトアニリンジスルフィドの過剰分を含む上澄み液は除かれ、管の底に残っていた黒い沈殿物は、30mlのエタノール/ジエチルエーテル混合物(33/66 v/v)で2分間洗浄された後再度遠心分離される。上澄み液は除去される。黒い沈殿物は、ジエチルエーテルで洗浄され、10〜15分間窒素流れ下で乾燥される。結果として得られたパウダーの質量比は有機部分が20%で白金部分が80%である。
【0088】
実施例2:グラフト化ナノ粒子の調製
グラフト化ナノ粒子は、実施例1に従って作成された、及び新たに調製された(4−メルカプトアニリンに自発的に分解する傾向が与えられた)官能化ナノ粒子に対して、図2A〜2Gに示されるようなグラフト化反応のひとつを施すことによって調製される。
【0089】
これらの反応は全て、官能化ナノ粒子が有するアミノ基の量に対して、グラフト化される化合物が大過剰に存在する条件で実施される。そのため、官能化ナノ粒子の質量の20%が白金コアに(チオラートの形態で)結合したメルカプトアニリン部分に対応することと、メルカプトアニリンが124gのモル質量を有することから、官能化ナノ粒子に結合するメルカプトアニリン部分のモル数つまりアミノ基の数に対する、それ自身が過剰量、例えば5〜10、であるために使われなければならないグラフト化される化合物のモル数が計算される。
【0090】
溶液はモレキュラーシーブ上で前もって乾燥され、官能化ナノ粒子の濃度を約4〜10mg/cm3とするのに適当な体積が使用される。
【0091】
一般的に、グラフト化反応は以下のように行われる。始めに、官能化ナノ粒子は適切な溶媒体積中に分散され、得られた懸濁液は窒素雰囲気下で約15分間マグネチックスターラーで攪拌される。その後、グラフト化される化合物がこの懸濁液中に直接添加され、任意でグラフト化反応の副生成物をトラップすることができる化合物を共存させる。
【0092】
反応媒質は、窒素雰囲気下で12時間攪拌され、その後ナノ粒子を沈殿させるために大過剰の溶媒が入れられた遠心管に移される。この後、反応媒質は遠心分離され、通常過剰なグラフト化分子の大部分を含む上澄み液は廃棄される。
【0093】
ナノ粒子の沈殿物は、未反応ではあるがナノ粒子と共存すると不安定であるグラフト化化合物分子を、分散させることなしに溶解することができるような溶媒中で、1回〜4回洗浄及び遠心分離される。場合によっては沈殿物を洗浄するために、またはナノ粒子の再分散及び再沈殿のために混合溶媒を使用する必要がある。反応に使われた溶媒は沈殿物を洗浄する前に真空条件下で蒸発させた方がよい場合もある。
【0094】
このようにして得られたグラフト化ナノ粒子のパウダーは真空条件下または窒素雰囲気で乾燥される。このパウダーは、目的の濃度、一般的には0.3〜2mg/ml、を有するグラフト化ナノ粒子の懸濁液を作成するために使用することが可能である。この目的で使われる溶媒は通常例えばジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMA)等の非プロトン性極性溶媒、またはもしグラフト化ナノ粒子が非プロトン性極性溶媒に分散しない場合には、クロロホルムまたはジクロロメタン等の非極性溶媒である。
【0095】
より具体的には、図2A〜図2Gに示されたグラフト化反応は以下を用いて実施される。
【0096】
図2Aのグラフト化反応
官能化ナノ粒子の質量:25mg
溶媒:DMA:5ml
グラフト化化合物:チオフェン酸クロリド:26μl(6倍過剰)
HClのトラッピング:ジメチルアミノピリジン:20mg
沈殿物洗浄溶媒:アセトニトリル
【0097】
図2Bのグラフト化反応
官能化ナノ粒子の質量:18mg
溶媒:DMSO:2ml
グラフト化化合物:グルタル酸無水物:45mg(10倍過剰)
沈殿物洗浄溶媒:アセトニトリル
【0098】
図2Cのグラフト化反応
官能化ナノ粒子の質量:10mg
溶媒:DMA:2ml
グラフト化化合物:スルホ安息香酸無水物:29mg(10倍過剰)
DMAの蒸発
沈殿物洗浄溶媒:アセトニトリル
【0099】
図2Dのグラフト化反応
官能化ナノ粒子の質量:9mg
溶媒:DMSO:2ml
グラフト化化合物:テトラフルオロフタル酸無水物:15mg(6倍過剰)
沈殿溶媒:水
洗浄溶媒:アセトン
【0100】
図2Eのグラフト化反応
官能化ナノ粒子の質量:18mg
溶媒:DMSO:5ml
グラフト化化合物:ブロモベンジルオキシカルボニルオキシスクシンイミド:89mg(10倍過剰)
DMSOの蒸発
沈殿物洗浄溶媒:アセトニトリル
【0101】
図2Fのグラフト化反応
官能化ナノ粒子の質量:22mg
溶媒:DMSO:4ml
グラフト化化合物:1−ヘキシル−4−(4−イソチオシアネートフェニル)ビシクロ[2.2.2]オクタン:100mg(10倍過剰)
反応媒質中での生成物の沈殿
洗浄溶媒:DMSO/アセトン
【0102】
図2Gのグラフト化反応
官能化ナノ粒子の質量:26mg
溶媒:DMSO:5ml
グラフト化化合物:テトラフェニル無水フタル酸:180mg(6倍過剰)
沈殿溶媒:エタノール(4ml)/ジエチルエーテル(20ml)
DMSO中での再溶解(4ml)
エタノール(4ml)/ジエチルエーテル(20ml)中での再沈殿
洗浄溶媒:ジエチルエーテル
【0103】
このようにして得られたグラフト化ナノ粒子は以下に続く実施例において使用される。
【0104】
実施例3:官能化ナノ粒子及びグラフト化ナノ粒子懸濁液の長期安定性
官能化またはグラフト化ナノ粒子懸濁液の長期安定性は、この懸濁液から調整されたラングミュア膜(浮いている単分子層)の圧縮等温線をプロットすることによって決定される。前記圧縮等温線は、ラングミュアトラフの空気−水界面において20℃で測定され、調整開始後すぐに(t=0)、及びその後時間経過に伴う様々な段階において記録される。
【0105】
これらの等温線を作成する手順は標準的なものである。異なる時間tにおいて、1mlのクロロホルムまたはジクロロメタンを長期安定性を調べる懸濁液0.5mlに加えることによって、“展開”懸濁液を調整することからなる。次に、展開懸濁液1.2mlを、測定を行うための、例えば長さ45cm、幅6.5cmの、ラングミュアトラフ内の水の表面上に展開させる。ナノ粒子は、前もって選択された表面圧力、例えば4mN/m、に達するまで横方向に圧縮される。このように得られたナノ粒子膜の長さが測定され、表面積はトラフの幅にこの長さをかけることによって計算される。
【0106】
展開懸濁液のナノ粒子の質量濃度が与えられれば、単分子膜のナノ粒子の各質量単位によって平均的に占有される面積が決定される。粒子のモル質量を見積もった結果に基づき、各ナノ粒子によって平均的に占有される面積を決定することも可能である。
【0107】
ナノ粒子が凝集している場所がないという意味で、ナノ粒子懸濁液が長期にわたって安定であれば、ナノ粒子の質量単位あたりの面積、またはナノ粒子あたりの面積が、展開されたナノ粒子が同量な場合では、様々な時間tについて長時間一定または実質的に一定である結果が得られる。
【0108】
対照的に、もしも懸濁液が不安定である場合、ナノ粒子の質量単位あたりの面積、またはナノ粒子あたりの面積の値は長期にわたって減少する。なぜなら、いくつかの粒子から形成された凝集体は、個々が独立した形態で存在する同数の粒子による占有面積よりも小さな占有面積を持つためである。
【0109】
以下に示す表1では、例として、DMSO中の二つのナノ粒子懸濁液、すなわち実施例1に従って調整された官能化ナノ粒子からなる第一の懸濁液及び図2Aの反応によってグラフト化されたナノ粒子からなる第二の懸濁液、から調整されたラングミュア膜内の各ナノ粒子による平均占有面積の値を示しており、これらの値は前記懸濁液の経時変化がt=0、一ヶ月後(t=1ヶ月)及び七ヶ月後(t=7ヶ月)のものである。
【0110】
【表1】
【0111】
この表は、官能化ナノ粒子懸濁液では、時間が経過するにつれてナノ粒子あたりの面積が非常にはっきりと減少することを示しており、このことはこれらのナノ粒子に凝集現象が存在することを示すものである。それに対してグラフト化ナノ粒子懸濁液の場合には実質的に面積が一定である。
【0112】
さらに、図3は図2Aに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子の2年経過した懸濁液から作成されたラングミュア膜について、ラングミュアトラフの空気/水界面で撮影された透過型電子顕微鏡写真である。この膜は4mN/mの表面圧力を与えることにより得られたものである。
【0113】
図3には膜内部にナノ粒子の凝集体が存在しないことが示されており、結果的にグラフト化ナノ粒子懸濁液の長期維持の安定性を裏付けている。
【0114】
実施例4:酸性媒質中の酸素の還元に関するグラフト化ナノ粒子の電気化学活性
酸性媒質中の酸素の還元に関するグラフト化ナノ粒子の電気化学活性は、グラフト化ナノ粒子からなるラングミュア・ブロジェット膜(基材上の単分子層、以下“LB膜”と呼ぶ)を1M硫酸溶液中でサイクリックボルタメトリ試験することにより評価される。
【0115】
実際上は、DMSO1mlあたりグラフト化ナノ粒子0.5mgを含む懸濁液を0.5mlと、0.82mlのジクロロメタンまたはクロロホルムと、グラフト化ナノ粒子膜の基材上への垂直累積を促進するために0.18mlの5.4×10−4Mのベヘン酸のクロロホルム溶液とを加えることによって、展開懸濁液は調整される
【0116】
次に、1mlの展開懸濁液はラングミュアトラフ(45cm×6.5cm)中の水の表面に展開され、膜は表面圧力28mN/mにおいて横方向の圧縮によって形成される。これらの条件下で、ナノ粒子に占有された面積は膜全体の面積の約50%であり、残りはベヘン酸によって占有される。
【0117】
その後前記膜はラングミュア・ブロジェット法によって、0.5cm/分で、金電極を備えた基材上に垂直累積される。
【0118】
ボルタメトリ試験は、グラフト化ナノ粒子のLB膜上で従来の方法に従って行われ、これらの膜に対する事前の電気化学処理を行うことなしに、酸性溶液をO2で飽和した後に実施される。
【0119】
実施例の方法では、図4は各々図2Aに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子(曲線1)と、図2Bに示されたグラフト反応によってグラフト化されたナノ粒子(曲線2)とからなる、ふたつの異なるグラフト化ナノ粒子の膜に関する20mV/sの掃引速度におけるボルタモグラムを示す。この図では、電位は標準水素電極(SHE)に対する値で、mV単位で表される。
【0120】
図4では二つのタイプのグラフト化ナノ粒子の電気化学活性が非常に似ていることが示されており、双方の膜の還元のピークの電流密度は230及び240μA/cm2の間である。還元プロセスは酸性溶液が窒素流れで脱酸素されるとき消滅する。
【0121】
実施例5:塩基性溶媒中の酸素の還元に関するグラフト化ナノ粒子の電気化学活性
塩基性溶媒中の酸素の還元に関するグラフト化ナノ粒子の電気化学活性は、実施例4に記載されたように調整されたグラフト化ナノ粒子のLB膜を、使用された溶液が硫酸ではなく1Mの水酸化ナトリウムを含むことを除いては実施例4と同じ条件下で、サイクリックボルタメトリ試験することによって評価される。
【0122】
実施例によると、図5は各々図2Cに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子(曲線1)と、図2Dに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子(曲線2)とからなる、ふたつの異なるグラフト化ナノ粒子の膜に関する、掃引速度20mV/sにおけるボルタモグラムを示している。前例と同様に、この図は、電位は標準水素電極(SHE)に対する値で、mV単位で表される。最初のサイクルでは、還元ピークの電流密度はH2SO4媒質で得られたものと同様のものである。実験が継続する間、この電流密度は増加し、その後図5に示されるように値が安定化する。
【0123】
さらにこの場合には、図5において二つのタイプのグラフト化ナノ粒子の電気化学活性は非常に似ており、還元ピークにおける電流密度は双方の膜で570と580μA/cm2の間である。さらに、塩基性溶媒が窒素流れ下で脱酸素されるときには還元プロセスは消滅する。
【0124】
実施例6:酸性媒質中の水素の酸化に関するグラフト化ナノ粒子の電気化学活性
酸性媒質中の水素の酸化に関するグラフト化ナノ粒子の電気化学活性は、実施例4に記載されたように調整されたグラフト化されたナノ粒子のLB膜に、最初にH2で飽和された酸性溶液が使用されることを除いて実施例4と同じ条件下でサイクリックボルタメトリ試験を行うことによって評価される。
【0125】
例えば、図6は図2Aに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子からなる膜についての、掃引速度20mV/sにおけるボルタモグラムを示している。前例と同様に、この図は、電位は標準水素電極(SHE)に対する値で、mV単位で表される。
【0126】
実施例7:グラフト化されたナノ粒子の電気化学活性の安定性
酸性および塩基性媒質内の酸素還元に関するグラフト化されたナノ粒子の電気化学活性の安定性は、実施例4に記載されたように調整されたグラフト化ナノ粒子のLB膜を、まず膜を作成するグラフト化ナノ粒子の懸濁液の保存期間を変えることによって、次に前記膜に対して電気化学サイクルを事前に実施するまたは実施しないことを除いて、実施例4及び5と同じ条件下でサイクリックボルタメトリ試験を行うことによって評価される。
【0127】
これらの電気化学サイクルは酸素雰囲気下で50mV/sの速度で、酸性媒質(1M H2SO4)中では800及び−50mV/SHEの間で、また塩基性媒質(1M NaOH)中では200から−850mV/SHEで行われる。
【0128】
以下の表2は、20mV/sの掃引速度において、図2Aで示された反応によってグラフト化されたナノ粒子の膜に関して酸素還元ピークで記録された電流密度を示す。
【0129】
この表では、水酸化ナトリウムに関して与えられた電流密度は、分極のない状態でこの媒質に30分間膜を浸漬した後に得られたものである。
【0130】
【表2】
【0131】
実施例8:グラフト化されたナノ粒子の第2有機コーティングの酸性媒質中における安定性
グラフト化されたナノ粒子の第2有機コーティングの酸性媒質中における安定性は、実施例4に記載されたように調整されたグラフト化ナノ粒子のLB膜に対して、1Mの硫酸溶液中で長期の電気化学サイクルを実施することによって、及びこれらの膜を前記電気化学サイクルの前後にX線光電子分光分析(XPS)によって分析することによって評価される。
【0132】
この実験では、電気化学サイクルは酸素雰囲気下で50mV/sの速度で、800及び−50mV/SHEの間で行われる。
【0133】
一例として、図7A及び7Bには図2Aに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子の膜について記録されたスペクトルを示す。図7Aは白金の4f電子に関連し、図7Bは硫黄のs2p電子に関連する。
【0134】
サイクルの前(スペクトル1及び3)及び後(スペクトル2及び4)に得られたスペクトルの形は、各タイプの電子のものに非常に似ており、このことは第2有機コーティングが大変安定していることの証拠である。
【0135】
硫黄に関しては、169eVを中心とするピークが膜に添加された硫黄イオンに対応するのに対して、163eVを中心とするピークがナノ粒子の第2有機コーティングに対応する。
【0136】
さらに、酸性媒質中の膜の処理の前後におけるこれらのキャラクタリゼーションから導かれる半定量的な分析結果は、白金のピーク強度と第2有機コーティングの硫黄のピーク強度との比は実質的に変化しない(サイクル前で1.44なのに対してサイクル後で1.72)ことを示し、結果的にナノ粒子の全組成の高い安定性について証拠を与えることを可能にする。
【0137】
実施例9:グラフト化ナノ粒子の電気化学活性における第2有機コーティング分子の特性の重要性
図2Fに示された方法によってグラフト化され、実施例4に記載されたように調整されたナノ粒子のLB膜は、酸性媒質中(1M H2SO4)において実施例4に記載されたものと同じ条件で、これらの膜が分極している場合及びしていない場合についてサイクリックボルタメトリ試験が行われる。
【0138】
結果は図8の掃引速度20mV/sにおけるボルタモグラムにおいて、非分極膜(曲線1)、1.95V/SHEにおいて30秒間分極させた膜(曲線2及び3)、1.95V/SHEにおいて15分間分極させた膜(曲線4及び5)について示される。前例と同様に、この図は、電位は標準水素電極(SHE)に対する値で、mV単位で表される。
【0139】
この図は、触媒活性に対するナノ粒子の第2有機コーティングを形成する分子の選択の重要性を示す。
【0140】
その理由は、図2Fに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子の場合、第2有機コーティング分子の基本的な部分がsp3型のC−C結合からなるものであり、それはナノ粒子の触媒性質発現とは相反するためである。その結果、これらのナノ粒子は図8の曲線1で示したように前処理なしでは電気化学活性を示さず、このことは図2Aから2Eに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子(特に実施例4〜6を参照されたい)とは対照的である。
【0141】
それに対して、図2Fに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子の単分子膜が高い酸化ポテンシャルを受けたときには、酸化ポテンシャルが適用される時間が長いほどそれに比例してより顕著になるような電気化学的応答が現れ、このことは、前記酸化ポテンシャルによってナノ粒子の第2有機コーティング分子が分解していることの証拠を与える。
【0142】
実施例10:第2有機コーティングの選択によるグラフト化ナノ粒子の電気化学活性の調節
各々図2F、2A、及び2Gに示された反応を用いてグラフト化されたナノ粒子からなる、実施例4に記載されたように調整されたLB膜を用いて、実施例4と同じ条件下で、酸性媒質(1M H2SO4)中でのサイクリックボルタメトリ試験を実施した。
【0143】
結果は図9の掃引速度20mV/sにおけるボルタモグラムにおいて、図2Fに示された反応を用いてグラフト化されたナノ粒子の膜(曲線1)、図2Aに示された反応を用いてグラフト化されたナノ粒子の膜(曲線2)、図2Gに示された反応を用いてグラフト化されたナノ粒子の膜(曲線3)について示される。前例と同様に、この図は、電位は標準水素電極(SHE)に対する値で表される。
【0144】
図9に示されるように、図2Fに示された反応を用いてグラフト化されたナノ粒子の場合には顕著な電気化学活性は得られなかった。この結果は実施例9に示された結果と同様のものである。その一方で、図2Gに示された反応を用いてグラフト化されたナノ粒子は、図2Aに示された反応を用いてグラフト化されたナノ粒子、これは既に高い効率を有するものであるにもかかわらず、と比較して非常に高い電気化学活性を示す。
【0145】
これらの結果は、ナノ粒子の電気化学的性質における、第2有機コーティングを形成する分子の選択の重要性、及び本発明によって、所望するならば、特に目的とする使用法に応じて第2有機コーティング分子の選択を変更することによって、触媒としての性質を望みのレベルに合わせることが可能であることを裏付けるものである。
【0146】
実施例11:グラフト化ナノ粒子の電気化学的性質における塩基性媒質中での処理の影響
グラフト化ナノ粒子の電気化学的性質における塩基性媒質中での処理の影響は、図2Aに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子のLB膜について、これらの膜を30分間酸素の存在下で水酸化ナトリウム中に浸漬することからなる処理の前後で、各々塩基性媒質(1M NaOH)中及び酸性媒質(1M H2SO4)中で得られた電気化学活性を比較することによって評価された。
【0147】
電気化学活性は、実施例4に記載されたような前記ナノ粒子から調製されたLB膜においてサイクリックボルタメトリ試験を行うことによって評価され、塩基性媒質中での試験は実施例5と同じ条件下で行われ、酸性媒質中の試験は実施例4と同じ条件下で行われた。
【0148】
結果は図10に示され、各々以下の結果を示し、
曲線1:30分間水酸化ナトリウム中に浸漬する前のナノ粒子の膜について、塩基性媒質中で得られるボルタモグラム、
曲線2:30分間水酸化ナトリウム中に浸漬した後のナノ粒子の膜について、塩基性媒質中で得られるボルタモグラム、
曲線3:30分間水酸化ナトリウム中に浸漬する前のナノ粒子の膜について、酸性媒質中で得られるボルタモグラム、
曲線4:30分間水酸化ナトリウム中に浸漬した後のナノ粒子の膜について、酸性媒質中で得られるボルタモグラム、
であり、上記ボルタモグラムは掃引速度20mV/sで記録されたものである。
【0149】
この図は、塩基性媒質中でのグラフト化ナノ粒子の前処理、例えば水酸化ナトリウムバスへの浸漬、が電気化学活性を非常に顕著に増加させる効果を、塩基性媒質中のみではなく、酸性媒質中(この増加がさらに顕著となる)であっても、有することを示している。
【0150】
このことから、そのような処理は、所望するならば、酸性媒質中では直ちに活性を持つが、この媒質中では自発的に最適にはならないようなグラフト化ナノ粒子の触媒性質を有利に改良するために使われてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】グラフト化反応前後のナノ粒子の概略図を示す。
【図2A】4−メルカプトアニリンの一部分からなる第1コーティングで官能化された白金コアを持つナノ粒子に適用されるグラフト化反応の概略図を示す。
【図2B】4−メルカプトアニリンの一部分からなる第1コーティングで官能化された白金コアを持つナノ粒子に適用されるグラフト化反応の概略図を示す。
【図2C】4−メルカプトアニリンの一部分からなる第1コーティングで官能化された白金コアを持つナノ粒子に適用されるグラフト化反応の概略図を示す。
【図2D】4−メルカプトアニリンの一部分からなる第1コーティングで官能化された白金コアを持つナノ粒子に適用されるグラフト化反応の概略図を示す。
【図2E】4−メルカプトアニリンの一部分からなる第1コーティングで官能化された白金コアを持つナノ粒子に適用されるグラフト化反応の概略図を示す。
【図2F】4−メルカプトアニリンの一部分からなる第1コーティングで官能化された白金コアを持つナノ粒子に適用されるグラフト化反応の概略図を示す。
【図2G】4−メルカプトアニリンの一部分からなる第1コーティングで官能化された白金コアを持つナノ粒子に適用されるグラフト化反応の概略図を示す。
【図3】図2Aに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子の、二年経過後の懸濁液を用いて作られたラングミュア膜の透過型電子顕微鏡像を示す。
【図4】各々図2A及び2Bに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子からなるラングミュア・ブロジェット膜に関して、最初に酸素で飽和された酸性媒質中においてサイクリックボルタメトリによって得られたボルタモグラムを示す。
【図5】各々図2C及び2Dに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子からなるラングミュア・ブロジェット膜に関して、最初に酸素で飽和された塩基性媒質中においてサイクリックボルタメトリによって得られたボルタモグラムを示す。
【図6】図2Aに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子からなるラングミュア・ブロジェット膜に関して、最初に水素で飽和された酸性媒質中においてサイクリックボルタメトリによって得られたボルタモグラムを示す。
【図7A】図2Aに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子でできたラングミュア・ブロジェット膜において、酸性媒質中において長期の電気化学的サイクルをこの膜に作用させる前後の状態で、X線光電子分光分析(XPS)によって得られたスペクトルを示す。
【図7B】図2Aに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子でできたラングミュア・ブロジェット膜において、酸性媒質中において長期の電気化学的サイクルをこの膜に作用させる前後の状態で、X線光電子分光分析(XPS)によって得られたスペクトルを示す。
【図8】最初に酸素で飽和された酸性媒質中での、図2Fに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子でできたラングミュア・ブロジェット膜において、これらの膜に分極がある場合及びない場合についてサイクリックボルタメトリによって得られたボルタモグラムを示す。
【図9】図2F、2A及び2Gに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子でできたラングミュア・ブロジェット膜に関して、最初に酸素で飽和された酸性媒質中においてサイクリックボルタメトリによって得られたボルタモグラムを示す。
【図10】図2Aに示された反応によってグラフト化されたナノ粒子でできたラングミュア・ブロジェット膜に関して、これらのナノ粒子を各々塩基性媒質中で処理する前後の状態で、最初に酸素で飽和された塩基性及び酸性媒質中においてサイクリックボルタメトリによって得られたボルタモグラムを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの白金族金属または白金族金属の合金を含む金属コアと、
前記金属コアの表面に結合された分子から形成される第1有機コーティングと、
前記第1有機コーティングの分子とは異なる分子であり、且つ前記第1有機コーティングの分子上にグラフトされた分子から形成される第2有機コーティングと、
を含むナノ粒子の触媒としての利用。
【請求項2】
前記ナノ粒子の金属コアが白金、白金の合金、またはそれら二つの混合物からなる、請求項1に記載のナノ粒子の利用。
【請求項3】
前記第1有機コーティングの分子が化合物の一部分であり、前記化合物が少なくとも二つの化学官能基を含み、前記化学官能基が前記金属コアの表面に前記化合物を結合するための第1の官能基と、前記第2有機コーティングの分子を前記化合物にグラフトするための第2の官能基とを含む、請求項1または請求項2のいずれか一項に記載のナノ粒子の利用。
【請求項4】
前記第2有機コーティングの分子が化合物の一部分であり、前記化合物が前記第1有機コーティングの分子に前記化合物をグラフトするための少なくとも一つの化学官能基を含む、請求項3に記載のナノ粒子の利用。
【請求項5】
前記第1有機コーティングの分子が、前記第2有機コーティングの分子にグラフトされていない場合に前記金属コア表面で分解可能である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のナノ粒子の利用。
【請求項6】
前記第1有機コーティングの分子が4−メルカプトアニリンの一部分である、請求項4または請求項5に記載のナノ粒子の利用。
【請求項7】
前記ナノ粒子が、前記第1有機コーティングの分子上に第2有機コーティングの分子を形成することを目的とした化合物をグラフト化するための反応を含む工程によって作られ、前記反応後における前記第2有機コーティングの分子が上部にグラフトした前記第1有機コーティングの分子の比率が100%未満である、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のナノ粒子の利用。
【請求項8】
前記二つの有機コーティングによって形成される厚みが約10nm未満である、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のナノ粒子の利用。
【請求項9】
前記第2有機コーティングの分子が化合物の一部分であり、前記化合物は前記第1有機コーティングの分子上に前記第2有機コーティングの分子をグラフトするための官能基を少なくとも一つ含むチオフェンと、単環酸無水物と、多環酸無水物とから選択される、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のナノ粒子の利用。
【請求項10】
前記第2有機コーティングの分子が、チオフェン酸クロリド、グルタル酸無水物、スルホ安息香酸無水物、ジフェン酸無水物、テトラフルオロフタル酸無水物、テトラフェニルフタル酸無水物及びジフェニルマレイン酸無水物から選択される化合物の一部分である、請求項9に記載のナノ粒子の利用。
【請求項11】
前記ナノ粒子の直径が約1.5から10nmであり、好ましくは直径約1.5から5nmである、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のナノ粒子の利用。
【請求項12】
前記ナノ粒子が溶媒中に懸濁されている、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載のナノ粒子の利用。
【請求項13】
前記ナノ粒子の懸濁液において、ナノ粒子濃度が0.3〜1mg/mlである、請求項12に記載のナノ粒子の利用。
【請求項14】
前記ナノ粒子が薄膜の形態を有し、基材表面上に堆積される、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載のナノ粒子の利用。
【請求項15】
前記基材がカーボンナノチューブである、請求項14に記載のナノ粒子の利用。
【請求項16】
前記ナノ粒子が塩基性媒質中で前処理される、請求項1から請求項15のいずれか一項に記載のナノ粒子の利用。
【請求項17】
前記ナノ粒子の前処理が、強塩基溶液中に前記ナノ粒子を浸漬することである、請求項16に記載のナノ粒子の利用。
【請求項18】
前記ナノ粒子が電極触媒として使用される、請求項1から請求項17のいずれか一項に記載のナノ粒子の利用。
【請求項19】
前記ナノ粒子が電気エネルギーを発生するための装置に使用される、請求項18に記載のナノ粒子の利用。
【請求項20】
電気エネルギーを発生するための前記装置が燃料電池である、請求項19に記載のナノ粒子の利用。
【請求項21】
前記ナノ粒子がひとつ以上の化学種または生物学的化学種を検知または分析するためのシステム、特にセンサーまたはマルチセンサーにおいて使用される、請求項18に記載のナノ粒子の利用。
【請求項22】
請求項1から11のいずれか一項に定義されたナノ粒子を含む、電気エネルギー発生装置。
【請求項23】
前記装置が燃料電池である、請求項22に記載の装置。
【請求項24】
少なくとも一つの白金族金属または白金族金属の合金を含む金属コアと、
前記金属コアの表面に結合された分子から形成される第1有機コーティングと、
前記第1有機コーティングの分子とは異なる分子であり、且つ前記第1有機コーティングの分子上にグラフトされた分子から形成される第2有機コーティングとを含み、
前記第2有機コーティングの分子が、単環酸無水物と多環酸無水物とから選択される化合物の一部分であるナノ粒子。
【請求項25】
前記第2有機コーティングを形成する分子が、グルタル酸無水物、スルホ安息香酸無水物、ジフェン酸無水物、テトラフルオロフタル酸無水物、テトラフェニルフタル酸無水物及びジフェニルマレイン酸無水物から選択される化合物の一部分である、請求項24に記載のナノ粒子。
【請求項26】
前記金属コアが白金、白金の合金、またはそれら二つの混合物からなる、請求項24または請求項25に記載のナノ粒子。
【請求項27】
前記第1有機コーティングの分子が4−メルカプトアニリンの一部分である、請求項24から請求項26のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項28】
直径が約1.5から10nmであり、好ましくは直径約1.5から5nmである、請求項24から請求項27のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項1】
少なくとも一つの白金族金属または白金族金属の合金を含む金属コアと、
前記金属コアの表面に結合された分子から形成される第1有機コーティングと、
前記第1有機コーティングの分子とは異なる分子であり、且つ前記第1有機コーティングの分子上にグラフトされた分子から形成される第2有機コーティングと、
を含むナノ粒子の触媒としての利用。
【請求項2】
前記ナノ粒子の金属コアが白金、白金の合金、またはそれら二つの混合物からなる、請求項1に記載のナノ粒子の利用。
【請求項3】
前記第1有機コーティングの分子が化合物の一部分であり、前記化合物が少なくとも二つの化学官能基を含み、前記化学官能基が前記金属コアの表面に前記化合物を結合するための第1の官能基と、前記第2有機コーティングの分子を前記化合物にグラフトするための第2の官能基とを含む、請求項1または請求項2のいずれか一項に記載のナノ粒子の利用。
【請求項4】
前記第2有機コーティングの分子が化合物の一部分であり、前記化合物が前記第1有機コーティングの分子に前記化合物をグラフトするための少なくとも一つの化学官能基を含む、請求項3に記載のナノ粒子の利用。
【請求項5】
前記第1有機コーティングの分子が、前記第2有機コーティングの分子にグラフトされていない場合に前記金属コア表面で分解可能である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のナノ粒子の利用。
【請求項6】
前記第1有機コーティングの分子が4−メルカプトアニリンの一部分である、請求項4または請求項5に記載のナノ粒子の利用。
【請求項7】
前記ナノ粒子が、前記第1有機コーティングの分子上に第2有機コーティングの分子を形成することを目的とした化合物をグラフト化するための反応を含む工程によって作られ、前記反応後における前記第2有機コーティングの分子が上部にグラフトした前記第1有機コーティングの分子の比率が100%未満である、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のナノ粒子の利用。
【請求項8】
前記二つの有機コーティングによって形成される厚みが約10nm未満である、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のナノ粒子の利用。
【請求項9】
前記第2有機コーティングの分子が化合物の一部分であり、前記化合物は前記第1有機コーティングの分子上に前記第2有機コーティングの分子をグラフトするための官能基を少なくとも一つ含むチオフェンと、単環酸無水物と、多環酸無水物とから選択される、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のナノ粒子の利用。
【請求項10】
前記第2有機コーティングの分子が、チオフェン酸クロリド、グルタル酸無水物、スルホ安息香酸無水物、ジフェン酸無水物、テトラフルオロフタル酸無水物、テトラフェニルフタル酸無水物及びジフェニルマレイン酸無水物から選択される化合物の一部分である、請求項9に記載のナノ粒子の利用。
【請求項11】
前記ナノ粒子の直径が約1.5から10nmであり、好ましくは直径約1.5から5nmである、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のナノ粒子の利用。
【請求項12】
前記ナノ粒子が溶媒中に懸濁されている、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載のナノ粒子の利用。
【請求項13】
前記ナノ粒子の懸濁液において、ナノ粒子濃度が0.3〜1mg/mlである、請求項12に記載のナノ粒子の利用。
【請求項14】
前記ナノ粒子が薄膜の形態を有し、基材表面上に堆積される、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載のナノ粒子の利用。
【請求項15】
前記基材がカーボンナノチューブである、請求項14に記載のナノ粒子の利用。
【請求項16】
前記ナノ粒子が塩基性媒質中で前処理される、請求項1から請求項15のいずれか一項に記載のナノ粒子の利用。
【請求項17】
前記ナノ粒子の前処理が、強塩基溶液中に前記ナノ粒子を浸漬することである、請求項16に記載のナノ粒子の利用。
【請求項18】
前記ナノ粒子が電極触媒として使用される、請求項1から請求項17のいずれか一項に記載のナノ粒子の利用。
【請求項19】
前記ナノ粒子が電気エネルギーを発生するための装置に使用される、請求項18に記載のナノ粒子の利用。
【請求項20】
電気エネルギーを発生するための前記装置が燃料電池である、請求項19に記載のナノ粒子の利用。
【請求項21】
前記ナノ粒子がひとつ以上の化学種または生物学的化学種を検知または分析するためのシステム、特にセンサーまたはマルチセンサーにおいて使用される、請求項18に記載のナノ粒子の利用。
【請求項22】
請求項1から11のいずれか一項に定義されたナノ粒子を含む、電気エネルギー発生装置。
【請求項23】
前記装置が燃料電池である、請求項22に記載の装置。
【請求項24】
少なくとも一つの白金族金属または白金族金属の合金を含む金属コアと、
前記金属コアの表面に結合された分子から形成される第1有機コーティングと、
前記第1有機コーティングの分子とは異なる分子であり、且つ前記第1有機コーティングの分子上にグラフトされた分子から形成される第2有機コーティングとを含み、
前記第2有機コーティングの分子が、単環酸無水物と多環酸無水物とから選択される化合物の一部分であるナノ粒子。
【請求項25】
前記第2有機コーティングを形成する分子が、グルタル酸無水物、スルホ安息香酸無水物、ジフェン酸無水物、テトラフルオロフタル酸無水物、テトラフェニルフタル酸無水物及びジフェニルマレイン酸無水物から選択される化合物の一部分である、請求項24に記載のナノ粒子。
【請求項26】
前記金属コアが白金、白金の合金、またはそれら二つの混合物からなる、請求項24または請求項25に記載のナノ粒子。
【請求項27】
前記第1有機コーティングの分子が4−メルカプトアニリンの一部分である、請求項24から請求項26のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項28】
直径が約1.5から10nmであり、好ましくは直径約1.5から5nmである、請求項24から請求項27のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【公表番号】特表2007−503302(P2007−503302A)
【公表日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524403(P2006−524403)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【国際出願番号】PCT/FR2004/050396
【国際公開番号】WO2005/021154
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(590000514)コミツサリア タ レネルジー アトミーク (429)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【国際出願番号】PCT/FR2004/050396
【国際公開番号】WO2005/021154
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(590000514)コミツサリア タ レネルジー アトミーク (429)
【Fターム(参考)】
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