説明

金属シール

【課題】 相手部材への接触面圧を増加させて、優れた密封性能を発揮する金属シールを提供する。
【解決手段】 金属製シール本体2を有し、このシール本体2は自由状態にて横断面円形状内周面4を有し、かつ、外周面5はストレート状斜辺部6を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属シールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、横断面がC型の金属製シール本体41を有する金属シール(いわゆるメタルCリング)は広く知られている(例えば図10参照)。
図10では金属シールがシール本体41自身をもって構成されている場合を例示したが、内部に、コイルバネリングを装入した構造も広く知られている。
【0003】
ところで、このシール本体41が、相手部材42, 43の平坦面に圧接されるシール面44は、自由状態では円弧であるため、この相手部材42,43を相互に接近させてゆくと、シール面44の接触面積が広くなり、シール面44の接触面圧Pは、図10(B)に示すグラフ図のように、低くなだらかな低丘状を描く。つまり、このような低丘状面圧分布では、十分なシール性能(密封性)が得られないことがある。
【0004】
このようなシール面の接触面圧Pを高くするため、従来、C型金属製シール本体の開口端にストレート状端部を形成した金属シールが提案されている(特許文献1参照)。あるいは、シール面に小突起を形成した金属シールも提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−101346号公報
【特許文献2】特表2004−528516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の特許文献1に記載のものでは、内周面が自由状態下にて円形でなくなり、コイルバネの反発力が有効に均一にシール面の位置に作用しなくなる欠点があり、ストレート端部の肉厚寸法は他の部位と同一であって、相手部材相互の締付力も大きい。
【0006】
従来の特許文献2の金属シールでは、横断面ストレート状のシール面に三角形の小突起を形成することは、製作上極めて煩雑であり、高価なシールとなる。
【0007】
そこで、本発明は、相手部材を相互に引き寄せる締付力が小さくて済み、接触面圧を局部的に高めて、密封性能を改善した金属シールを提供することを一つの目的とする。さらに、製作も容易であり、安価に作ることができ、コイルバネリングを所望により容易に装入できて、コイルバネリングの弾発力(反発力)を有効に活かすことが可能であって、しかも、従来の図10に例示したようなシール溝46(の寸法)をそのまま使用できる金属シールを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、金属製シール本体から成り、又は、金属製シール本体を具備した金属シールに於て、該シール本体は自由状態にて横断面円形状内周面を有すると共に、外周面には相手部材へ圧接されるべき円弧状シール面を部分的に切欠くストレート状斜辺部を有する。
また、横断面略O型又は略C型の金属製シール本体から成り、又は、金属製シール本体を具備した金属シールに於て、該シール本体は自由状態にて横断面円形状内周面を有すると共に、外周面には相手部材へ圧接されるべき円弧状シール面を部分的に切欠くストレート状斜辺部を有する。
また、相手部材へ圧接されるべき円弧状シール面が横断面において 180°対称位置に配設されると共に、各円弧状シール面の両端部を各々切欠く一対のストレート状斜辺部を有し、外周面に4個の斜辺部を有する。そして、好ましくは、上記斜辺部は圧縮塑性加工にて形成されている。また、金属製シール本体が横断面略C型であり、内部にコイルバネリングを有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、次のような著大な効果を奏する。
本発明は従来の上述の問題点(欠点)を解決して、相手部材へ圧接されるシール円弧部の接触面積が有効減少できて、接触面圧を急峻な山型として、増大できるので、密封性能(シール性)は安定し、かつ、著しく向上する。しかも、製作はプレス加工等にて容易である。特に、内周面は円形状であり、外周面にストレート状斜辺部を形成するため、弯曲弾性変形するべき部位における肉厚が薄くできるので、締付力を低減できる。さらに、従来のシール溝の寸法をそのままで、本発明の金属シールを装着可能であって、締付力が従来品よりも低いにかかわらず、同等のシール性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図示の実施の形態に基づき本発明を詳説する。
図1と図3(A)に於て、この金属シール1は、鋼(ステンレス鋼を含む)やアルミニウムやその他の金属から成ると共に表面に必要に応じて、延性に富んだ金属(前記鋼、アルミニウムより延性のある金属、例えば、亜鉛)などのメッキを施した金属製シール本体2と、このシール本体2内に装入された金属製コイルバネリング3と、から成り、シール本体2は横断面略C型である。言い換えると、図1と図3(A)では、この金属シール1はシール本体2を具備しているといえる。このシール本体2はジャケットと呼ばれる場合もある。
【0011】
図2は、金属シール1の内部のコイルバネリング3を省略して示す一部破断要部斜視図であって、図2の下方の(切欠部を有する)第1相手部材11と、平坦面12aを有する上方の第2相手部材12との間に形成された、横断面矩形のシール溝13内に、金属シール1が装着され、矢印E,F方向に第1・第2相手部材11,12が締付けられることで、金属シール1(シール本体2)は圧縮力を受ける。なお、図3(A)には2点鎖線にて、第1・第2相手部材11,12及びシール溝13等を示している。
【0012】
ところで、図1と図3(A)に示すように、シール本体2は、自由状態にて、横断面円形状内周面4を有すると共に、外周面5には相手部材11, 12へ圧接されるべき(図10に示した)円弧状シール面44を部分的に切欠くストレート状(直線状)斜辺部6,6,6,6を4個有する。
【0013】
本発明に於て、「相手部材へ圧接されるべき円弧状シール面44」とは、基本的に外周面5が元来の円形であったと───つまり、図10のように従来のように円形外周面であったと───仮定した場合に、相手部材へ圧接されたであろう円弧長さ範囲の円弧状シール面44を、指していると定義する。
【0014】
従って、この円弧状シール面44をストレート状斜辺部6,6にて切欠いた結果、実際の装着(締付け)状態では、残留円弧部7が新シール面となり、接触面積が十分に減少する。図3(B)は、横軸に円周方向の位置座標をとり、縦軸に接触面圧Pをとって示したグラフ図であって、相手部材へ圧接されるべき円弧状シール面44の場合の接触面圧を圧力分布曲線P44として示し、図1と図3(B)に示した本発明実施品の接触面圧を圧力分布曲線P7 として示すが、曲線P44と曲線P7 を比較すれば明らかなように、緩やかな低い丘のような圧力分布曲線P44は、急峻な(ピークを示す)圧力分布曲線P7 となる。(なお、図2(B)にも本発明実施品の圧力分布曲線P7 を同様に示している。)言い換えれば、図10(A)(B)に示した従来の圧力分布曲線P44が、本発明では上述の構成によって急峻な圧力分布の曲線P7 となり、略線接触状態の高いピーク圧にて相手部材11, 12に密に圧接する(図2(B)と図3(B)と図10(B)参照)。
【0015】
さらに、図1と図2と図3に示した実施の形態に於て、相手部材11, 12へ圧接されるべき円弧状シール面44, 44が、横断面において 180°対称位置に配設されると共に、各々のこの円弧状シール面44の両端部を一対のストレート状斜辺部6,6にて切欠いて、外周面5には4個の斜辺部6…を形成している。
【0016】
さらに具体的に説明すれば、略C字型(状)の横断面のシール本体2の外周面5の形状は、開口部14から順に、端円弧部15,斜辺部6,残留円弧部7,斜辺部6,中間円弧部16,斜辺部6,残留円弧部7,斜辺部6,端円弧部15を有している。
そして、上記各斜辺部6は、切削,研削等の加工により、又は、ロール成形、若しくはプレス機械による圧縮塑性加工により、形成される。特に、図9に示す如く、従来公知の方法によって、従来の金属シール(金属製シール本体41)を製造した後、図示省略の金型に装入して、矢印K方向から冷間プレス加工にて、圧縮塑性加工を施して、ストレート状斜辺部6を形成すれば、このストレート状斜辺部6に対応した肉厚寸法T6 (図1参照)が小さいといえども、加工硬化により十分な強度が得られて、円弧部15,16に比べて劣らず、シール本体2の全周にわたって強度が均一に保ち得る利点がある。
【0017】
次に、図4は他の実施の形態を示す。図4に於ては、前述の実施の形態で説明したコイルバネリング3(図3(A)参照)を省略している。即ち、この金属シール1は、シール本体2のみをもって構成されており、図1〜図3と同一符号は既に説明した構成と同様であるので、説明を省略する。
なお、図4に於て、横断面略C型のシール本体2の開口部14を、2点鎖線にて示すように閉じることで、横断面略O型とするも自由である。このようにして、金属製Oリングとすることも好ましい。
【0018】
また、図1〜図4のいずれに於ても、中間円弧部16の一部分をストレート状に形成し、又は、前述の金属製Oリングの場合には、中間円弧部16が 180°対称位置に2個存在することになるので、両方の中間円弧部16, 16の各々の一部分をストレート状に形成しても良い。
【0019】
次に図5は別の実施の形態を示す。即ち、図1〜図4に於て説明した金属シール1では、開口部14が径方向外方へ向いているが、図5に示すように、径方向内方へ開口部14を向くように形成する。即ち、図1〜図4では径方向外方域が高圧側であり、図5では径方向内方域が高圧側として、使用される。又は、図1〜図4では径方向内方域が腐食性流体として用い、図5では径方向外方域が腐食性流体として用いる。
なお、図5に於て、コイルバネリング3を省略する構成であっても良く、また、中間円弧部16の一部を切欠いてストレート辺部を形成しても良い。
【0020】
次に、図6と図7と図8は他の別々の実施の形態を示し、金属製のシール本体2の自由状態下で横断面円形状外周面5に、2箇所のストレート状斜辺部6,6を形成している。 図6では、横断面略C型であって、開口部14寄りに2個(2本)のストレート状斜辺部6,6を配設している。しかも、外周面5が相手部材11, 12(図2参照)へ圧接されるべき円弧状シール面44の略中央位置から開口部14方向へ、相互に接近するように2本のストレート状斜辺部6,6を形成している。
図7では、横断面略C型であって、開口部14と反対側に2個(2本)のストレート状斜辺部6,6を設けている。具体的には、外周面5が相手部材11, 12(図2参照)へ圧接されるべき円弧状シール面44の略中央位置から反開口部方向へ、相互に接近するように2本のストレート状斜辺部6,6を配設している。
【0021】
図6又は図7では、図2の相手部材11, 12の矢印E,F方向への締付けにて、平坦面12aに圧接する接触面積は、図10に示した従来の(斜辺部6,6の無い)シール本体41に比較して、約半分となるので、接触面圧は2倍以上となり、しかも、円弧部17又は18と、斜辺部6との境界がエッジ(角部)が形成されるので、ピーク圧が立って、上記2倍よりもさらに最高面圧(ピーク圧)は大きくなる(線接触状態となる)。
【0022】
また、図8では、図7と比較すると明らかなように、コイルバネリング3を省略すると共に、ストレート状斜辺部6と(開口端14側の)円弧部18との境界点(線)19を、僅かに反開口端方向へ位置をずらせている。なお、図8に示したシール本体2にコイルバネリング3を付加したり、逆に、図6,図7のコイルバネリング3を省略するも自由であり、また、円弧部17の一部にストレート辺を形成しても良い(図示省略)。
【0023】
なお、図1〜図8のいずれの実施の形態に於ても、ストレート状斜辺部6を冷間プレス等の圧縮塑性加工にて形成することが、強度上好ましく、また、コストを下げることができる。つまり、内周面4は横断面円形であるので、ストレート状斜辺部6に対応する部位の肉厚寸法T6 が他の部位よりも小さくなるので、上記圧縮塑性加工にて加工硬化による強度向上を図ることが望ましい。 ところで、上述のストレート状斜辺部6の傾斜角度θは、15°〜30°が好ましい。下限値以下であると、相手部材11, 12に圧縮使用状態で圧接することとなり、切欠きの効果が低減する。逆に上限値を越すと、加工が面倒となり、加工費が高くなり、又は、強度が過少となる。
【0024】
本発明は以上述べたように、金属製シール本体2から成り、又は、金属製シール本体2を具備した金属シールに於て、該シール本体2は自由状態にて横断面円形状内周面4を有すると共に、外周面5には相手部材11, 12へ圧接されるべき円弧状シール面44を部分的に切欠くストレート状斜辺部6を有するものであるので、接触面積が減少して、接触面積P7 が急峻な山型として増加し、密封性能(シール性)は安定して向上する。しかも、製作は冷間プレス加工(又は切削・研削、若しくは、ロール加工)にて容易である。かつ、ストレート状斜辺部6に対応する肉厚寸法T6 は他の部位の肉厚寸法よりも小さくなり、締付力を低減可能である。つまり、締付力が従来品よりも低いにかかわらず、同等以上の密封性(シール性)を発揮する。また、従来品用の溝深さはそのままで十分なので、本発明に係る金属シールをそのまま既設装置に適用できて、好都合である。言い換えると、従来から使用されてきたC型金属シール(図10参照)に、本発明に係る金属シールを置き換えて使用でき、しかも、面圧P7 が増加するので、シール性は確実に向上する。また、本発明では、接触面圧P7 が増加するので、相手部材11, 12の接触面12aの加工精度も(必要以上に気にせずに)下げ得るという利点がある。
【0025】
また、本発明の金属シール本体2は、横断面略C型の外に、略O型にも、適用できる。 また、相手部材11, 12へ圧接されるべき円弧状シール面44, 44が横断面において 180°対称位置に配設されると共に、各円弧状シール面44の両端部を各々切欠く一対のストレート状斜辺部6を有し、外周面5に4個の斜辺部6…を有することにより、低締付力でも十分な密封性能(シール性)を発揮でき、バランスよい圧縮変形するので、その密封性能も一層安定して、向上する。
また、シール本体2の内周面4が円形状として、その内周面4に接触して装入された円形状横断面のコイルバネリング3は、安定保持されつつ全周にわたって弾発力を発揮し、接触面圧P7 を安定して増大させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の一形態を示す断面図である。
【図2】本発明の使用状態と接触面圧を説明するための図であって、(A)は要部拡大一部破断斜視説明図、(B)はグラフ図である。
【図3】要部の構成と接触面圧を説明するための図であって、(A)は要部拡大断面説明図、(B)はグラフ図である。
【図4】他の実施の形態を示す要部拡大断面図である。
【図5】別の実施の形態を示す断面図である。
【図6】さらに他の実施の形態を示す拡大断面図である。
【図7】さらに別の実施の形態を示す拡大断面図である。
【図8】さらに異なる実施の形態を示す拡大断面図である。
【図9】製造方法を説明する断面図である。
【図10】従来例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0027】
2 シール本体
3 コイルバネリング
4 内周面
5 外周面
6 ストレート状斜辺部
7 残留円弧部
11, 12 相手部材
44 シール面
7 接触面圧(圧力分布曲線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製シール本体(2)から成り、又は、金属製シール本体(2)を具備した金属シールに於て、該シール本体(2)は自由状態にて横断面円形状内周面(4)を有すると共に、外周面(5)には相手部材(11)(12)へ圧接されるべき円弧状シール面(44)を部分的に切欠くストレート状斜辺部(6)を有することを特徴とする金属シール。
【請求項2】
横断面略O型又は略C型の金属製シール本体(2)から成り、又は、金属製シール本体(2)を具備した金属シールに於て、該シール本体(2)は自由状態にて横断面円形状内周面(4)を有すると共に、外周面(5)には相手部材(11)(12)へ圧接されるべき円弧状シール面(44)を部分的に切欠くストレート状斜辺部(6)を有することを特徴とする金属シール。
【請求項3】
相手部材(11)(12)へ圧接されるべき円弧状シール面(44)(44)が横断面において 180°対称位置に配設されると共に、各円弧状シール面(44)の両端部を各々切欠く一対のストレート状斜辺部(6)(6)を有し、外周面(5)に4個の斜辺部(6)…を有する請求項1又は2記載の金属シール。
【請求項4】
上記斜辺部(6)は圧縮塑性加工にて形成されている請求項1,2又は3記載の金属シール。
【請求項5】
金属製シール本体(2)が横断面略C型であり、内部にコイルバネリング(3)を有する請求項1,2,3又は4記載の金属シール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−85373(P2007−85373A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−271537(P2005−271537)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】