説明

金属ナノ粒子とその製造方法及びその金属ナノ粒子を用いた液晶表示装置

【課題】シアノ基を有しない化合物によって被覆され、電圧保持率を低下させることなく、液晶混合物中に安定して分散可能な金属ナノ粒子とその製造方法及びその金属ナノ粒子を用いた液晶表示装置を提供する。
【解決手段】本実施例の金属ナノ粒子の製造方法は、炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物群から選ばれる少なくとも1つの有機分子を共存させた状態で、銀、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウムのうちの少なくとも1種を含む金属種の金属イオンを還元することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置の表示素子として用いられる液晶混合物に含まれる金属ナノ粒子とその製造方法に係り、特に、液晶混合物中に均一に分散させることが可能な金属ナノ粒子とその製造方法及びその金属ナノ粒子を用いた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表示速度、温度特性、信頼性など様々な特性の要求に応えるべく、液晶化合物あるいはそれらの混合物を利用した液晶表示装置について盛んに研究が行われている。特に、近年では、立ち下がり応答時間や駆動電圧等の液晶の特性を改善することを目的として液晶材料中に金属ナノ粒子を混合するという技術が注目されている。
【0003】
金属ナノ粒子は凝集し易いため、一般に有機化合物等による被覆が必要とされる。例えば、特許文献1には、「液晶相溶性粒子、その製造方法及び液晶表示装置」という名称で、印加する電流の周波数に依存して光透過量が変化するようにした液晶表示装置と、この液晶表示装置に用いられる液晶にドープするための液晶相溶性粒子並びにその製造方法に関する発明が開示されている。そして、この文献には、液晶相溶性粒子の核となる金属原子(本願の金属ナノ粒子に相当)をシアノビフェニル類からなる有機化合物によって被覆する技術が記載されている。
なお、シアノビフェニル類に含まれるシアノ基は極性が高いため、このように金属ナノ粒子を被覆する分子として利用されるだけでなく、液晶分子としても利用することができる(非特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−149683号公報
【非特許文献1】Applied Physics.Letters,81,2845(2002).
【非特許文献2】「液晶便覧」、液晶便覧編集委員会編、丸善株式会社、(2000).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
各画素に薄膜トランジスタ素子が配置されるアクティブ型液晶表示素子においては、電極間に充電された電荷量が時間とともに減衰し、液晶層に所定の電圧が印加されなくなるという問題が発生する。このとき、充電された電荷が1フレーム(16.7ms)の間にどれくらい保持されるかを示す値を電圧保持率という。電圧保持率が低下すると、駆動電圧の上昇や消費電力の増加、コントラストの低下、表示むら、色変わりなど様々な不具合が発生する。従って、液晶素子に金属ナノ粒子を混合する場合、電圧保持率を低下させないことが重要である。
これに対し、前述したようにシアノ基は極性が高く、不純物を溶解し、解離させる能力が高い。従って、特許文献1に開示された発明においては、シアノ基に溶解した不純物によってイオンが増加し、電圧保持率が低下するおそれがある。このように、特許文献1に開示された発明はアクティブマトリックス駆動には適さない(非特許文献1)。
【0005】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、シアノ基を有しない化合物によって被覆され、電圧保持率を低下させることなく、液晶混合物中に安定して分散可能な金属ナノ粒子とその製造方法及びの金属ナノ粒子を用いた液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明である金属ナノ粒子の製造方法は、銀、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウムのうちの少なくとも1種の金属イオンに還元剤を反応させて金属ナノ粒子を製造する方法において、炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物群から選ばれる少なくとも1つの有機分子を共存させることを特徴とするものである。
このような製造方法によれば、金属イオンが還元される際に、炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物が金属イオンに配位して錯体を形成するという作用を有する。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の金属ナノ粒子の製造方法において、金属イオンは、塩化白金(IV)酸、塩化ロジウム、塩化ルテニウム、酢酸銀、過塩素酸銀、酢酸パラジウムから選ばれる少なくとも1つを出発原料として溶媒に溶解させることにより生成されることを特徴とするものである。
このような製造方法によれば、金属塩の調達が容易であるため、材料コストが削減される。また、上記金属塩は溶媒への溶解度が高く、容易に金属イオンが生成されるため、金属ナノ粒子が比較的短時間に製造される。これにより、製造コストが削減される。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の金属ナノ粒子の製造方法において、炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物は一般式(1)で示される化合物であることを特徴とするものである。
【0009】
【化1】

(式中、Ar、Arは各々独立した芳香環である。)
【0010】
炭素窒素二重結合(C=N)の両端に芳香環が結合した化合物は溶解性が高い。従って、このような化合物を用いる上記製造方法によれば、相溶性の高い金属ナノ粒子が生成されるという作用を有する。
【0011】
請求項4記載の発明である金属ナノ粒子は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載された製造方法によって生成されることを特徴とするものである。
このような金属ナノ粒子は、炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物と金属イオンとの反応によって形成される錯体で被覆されることから、例えば、液晶表示装置の液晶素子中に混合されたような場合でも、凝集し難く、その分散状態が安定して維持される。このとき、上記錯体はシアノ基を有していないため、液晶素子中には不純物が混入し難い。従って、電圧保持率が低下するおそれがない。
【0012】
請求項5記載の発明である液晶表示装置は、請求項4記載の金属ナノ粒子を液晶素子中に含むことを特徴とするものである。
このような構造においては、液晶素子の電圧保持率が低下し難いという作用を有する。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明の請求項1に記載の金属ナノ粒子の製造方法によれば、炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物によって形成された錯体が金属ナノ粒子の保護剤として作用するため、金属ナノ粒子の分散状態が安定する。
【0014】
請求項2に記載の金属ナノ粒子の製造方法によれば、金属ナノ粒子を安価に製造することが可能である。
【0015】
請求項3に記載の金属ナノ粒子の製造方法によれば、液晶混合物中における金属ナノ粒子の分散状態を長期に亘って安定して維持することが可能である。
【0016】
請求項4に記載の金属ナノ粒子においては、例えば、液晶表示装置の液晶素子中に混合することにより、立ち下がり応答時間や駆動電圧等の液晶の特性を改善することができる。
【0017】
請求項5に記載の液晶表示装置においては、駆動電圧の上昇や消費電力の増加、コントラストの低下、表示むら、色変わり等の不具合を防いで、製品の品質を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の最良の実施の形態に係る金属ナノ粒子とその製造方法及びその金属ナノ粒子を用いた液晶表示装置の実施例について説明する。
【実施例1】
【0019】
本実施例の金属ナノ粒子は、炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物群から選ばれる少なくとも1つの有機分子を共存させた状態で、銀、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウムのうちの少なくとも1種を含む金属種の金属イオンを還元することにより製造される。
本実施例の製造方法によって生成される金属ナノ粒子は、炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物が金属イオンに配位して形成される錯体によって被覆される。すなわち、この錯体が金属ナノ粒子の保護剤として機能し、金属ナノ粒子の分散状態を安定させるという作用を有する。なお、金、鉄などの金属種を用いた場合には、炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物による錯体が形成されないため、このような作用は発揮されない。
また、上述の錯体はシアノ基を有していないため、例えば、この金属ナノ粒子を液晶表示装置の液晶素子中に混合した場合、不純物が混入し難く、電圧保持率が低下するおそれがない。さらに、立ち下がり応答時間や駆動電圧等の液晶の特性を改善することも可能である。
【0020】
なお、金属イオンと炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物の比はとくに限定されないが、炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物の割合が金属イオンに比べて少なすぎると、生成する金属ナノ粒子の表面が十分に被覆されず、保護剤としての機能が十分に発揮されないおそれがある。また、炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物の割合が金属イオンに比べて多すぎると、生成した金属ナノ粒子を液晶混合物等に添加する際に、多量の炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物も同時に混入するため、液晶混合物の特性が著しく損なわれるおそれがある。従って、金属イオンと炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物の比は、物質量比で1:1乃至1:100の範囲内であることが望ましい。
【0021】
上記金属イオンは、その金属の塩化金属塩等のハロゲン化金属塩類、酢酸金属塩、蓚酸金属塩等のカルボン酸金属塩類、過ハロゲン酸金属塩類、硫酸金属塩、硝酸金属塩、炭酸金属塩の各種金属塩を出発原料として溶媒に溶解させることにより生成される。なお、入手の容易さからいえば、使用する金属塩は塩化金属塩等のハロゲン化金属塩類、酢酸金属塩、蓚酸金属塩等のカルボン酸金属塩類のいずれかであることが好ましいが、その中でも溶媒への溶解度が比較的高いものが特に好ましい。具体的には、塩化白金(IV)酸、塩化ロジウム、塩化ルテニウム、酢酸銀、過塩素酸銀、酢酸パラジウムなどである。
【0022】
金属イオンを金属ナノ粒子に還元する方法としては、還元剤の添加、光還元、電気還元、X線還元、γ線還元、超音波還元等が考えられる。そして、還元剤には、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化リチウム等の金属水素化物類、ナトリウム、リチウム等の金属類、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2-プロパノール等のアルコール類、トリエチルシラン等のヒドロシラン類、ヒドラジン、クエン酸等を用いることができる。入手の容易さ及び取扱の容易さからいえば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、sec−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、シクロヘキサノール等のアルコール類が好ましい。なお、これらのアルコールは後述するように溶媒としても兼用できるため、特に好ましい。
【0023】
これらの還元剤と金属イオンとを反応させる際には、溶媒を共存させても良い。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ビニルベンゼン、フェニルアセチレン、トラン等の炭化水素類、フルオロベンゼン、ヨードベンゼン等のハロゲン化炭素類、アセトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン類、酢酸エチル、安息香酸メチル、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のエステル類及び水等の溶媒を単独で、あるいは複数を混合して用いることができる。ただし、これらの溶媒の中でも、特に原料となる金属塩や炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物の溶解度が高いものが好ましい。なお、溶解度は日本化学会編化学便覧等で調べることができるが、実際に金属塩や炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物と溶媒とを混合して目視により確認することも可能である。
【0024】
金属イオンと還元剤の反応時に溶媒を共存させる場合、反応温度は溶媒の還流温度以下であることが望ましい。ただし、これに限定されるものではなく、溶媒の沸点以上とすることもできる。また、上記反応時の圧力は少なくとも反応に使用する容器の耐圧限界以下とすることが必要である。また、金属イオンを還元する際には、反応を均一に進行させるため、磁気攪拌子やスリーワンモーター等の攪拌機で溶液を攪拌することが望ましい。そして、得られる金属ナノ粒子の均一性を高めるため、せん断速度が0.5m以上となるように攪拌機を設定することが望ましい。
【0025】
炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物の共存下で金属イオンと還元剤とを反応させる場合、その反応時間は反応温度や使用する炭素窒素二重結合(C=N)、金属種、還元剤等により異なるものの、反応の終点についてはイオンクロマトグラフィー等で残留する金属イオンを定量することにより調べることが可能である。なお、反応の終点は生成される金属ナノ粒子と原料の金属イオンとで紫外−可視領域の吸収スペクトルが異なるという現象を利用することによっても調べることができる。例えば、420nm付近の紫外可視吸収は、銀ナノ粒子の原料となる酢酸銀では測定できないが、銀ナノ粒子の生成に伴って測定可能になる。従って、この420nm付近の紫外可視吸収を測定すれば、銀ナノ粒子の生成を確認することができる。
また、金属イオンと還元剤とを反応させる濃度については、特に限定されるものではなく、適宜変更可能である。すなわち、金属ナノ粒子の用途に応じて、懸濁液中の金属含有量が所望の値となるように、添加する溶媒等を調整すると良い。なお、金属ナノ粒子の濃度は、還元反応の後に溶媒をエバポレータ等や限外濾過膜で濃縮したり、所望の溶媒を加えたりすることにより調整することが可能である。
【0026】
さらに、本実施例の金属ナノ粒子の製造方法においては、金属ナノ粒子の生成を確認した後、必要に応じて分液によってイオン等夾雑物を除くことが可能である。例えば、炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物の共存で酢酸銀をエタノールで還元した場合、銀ナノ粒子の他に銀イオン、酢酸イオン、酢酸が共存しているが、これらをトルエンと水の混合物に加えることにより炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物で被覆された銀ナノ粒子はトルエン相に、銀イオン、酢酸イオン、酢酸は水相に分配される。すなわち、この分液操作によって金属ナノ粒子を容易に精製することができる。
【0027】
本発明の金属ナノ粒子を被覆する化合物は、炭素窒素二重結合(C=N)を含むものであれば、単量体、重合体のいずれであっても良いが、炭素窒素二重結合(C=N)の両端に芳香環が結合した化合物は溶解性が高いため、特に望ましい。すなわち、このような化合物を用いることによれば、相溶性の高い金属ナノ粒子が生成される。従って、液晶混合物中における金属ナノ粒子の分散状態を長期に亘って安定して維持することが可能である。なお、本実施例においては、特に、以下の一般式(1)で示される炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物を用いている。
【0028】
【化1】

(式中、Ar、Arは各々独立した芳香環である。)
【0029】
なお、一般式(1)において、芳香環に炭化水素基等の置換基あるいはフッ素等のハロゲンが置換した化合物であっても良い。芳香環をもつ置換基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、プロピルフェニル基、ブトキシフェニル基、ペントキシフェニル基、ヘキソキシフェニル基、ヘプトキシフェニル基、オクトキシフェニル基、ノニロキシフェニル基、デシロキシフェニル基、ドデシロキシフェニル基、フルオロフェニル基、ジフルオロフェニル基、トリフルオロフェニル基、テトラフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基、ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、トリス(トリフルオロメチル)フェニル基等が挙げられる。
これらの置換基をもつ炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物には、例えば、ベンジリデンアニリン、2−メチルベンジリデンアニリン、3−メチルベンジリデンアニリン、4−メチルベンジリデンアニリン、ベンジリデン−4−メチルアニリン、ベンジリデン−2−メチルアニリン、ベンジリデン−3−メチルアニリン、2’−メチルベンジリデン−4−メチルアニリン、3’−メチルベンジリデン−4−メチルアニリン、4’−メチルベンジリデン−4−メチルアニリン、4−エチルベンジリデンアニリン、ベンジリデン−4−エチルアニリン、4’−エチルベンジリデン−4−エチルアニリン、4−プロピルベンジリデンアニリン、ベンジリデン−4−プロピルアニリン、4’−プロピルベンジリデン−4−プロピルアニリン、4−ブチルベンジリデンアニリン、ベンジリデン−4−ブチルアニリン、4’−ブチルベンジリデン−4−ブチルアニリン、4−ペンチルベンジリデンアニリン、ベンジリデン−4−ペンチルアニリン、4’−ペンチルベンジリデン−4−ペンチルアニリン、4−メトキシベンジリデンアニリン、4’−メトキシベンジリデン−4−メチルアニリン、4−エトキシベンジリデンアニリン、4’−エトキシベンジリデン−4−エチルアニリン、4−プロポキシベンジリデンアニリン、4’−プロポキシベンジリデン−4−プロピルアニリン、4−ブトキシベンジリデンアニリン、4’−ブトキシベンジリデン−4−ブチルアニリン、4−ペントキシベンジリデンアニリン、4’−ペントキシベンジリデン−4−ペンチルアニリン、ベンジリデン−4−メトキシアニリン、4’−メチルベンジリデン−4−メトキシアニリン、ベンジリデン−4−エトキシアニリン、4’−エチルベンジリデン−4−エトキシアニリン、ベンジリデン−4−プロポキシアニリン、4’−プロピルベンジリデン−4−プロポキシアニリン、ベンジリデン−4−ブトキシアニリン、4’−ブチルベンジリデン−4−ブトキシアニリン、ベンジリデン−4−ペントキシアニリン、4’−ペンチルベンジリデン−4−ペントキシアニリン、4'−ブトキシベンジリデン−2−シアノアニリン、4'−ブトキシベンジリデン−3−シアノアニリン、4'−ブトキシベンジリデン−4−シアノアニリン等がある。これらの中でも、液晶状態を示す化合物は溶解性がさらに高いため、特に好ましい。具体的には、4’−メトキシベンジリデン−4−エチルアニリン、4’−カルバゾリルベンジリデン−4−ヘキシロキシアニリン等である。なお、具体的な構造について非特許文献2等で調べることができる。
【0030】
次に、本願発明の金属ナノ粒子の製造方法について具体的に実施例を挙げて説明する。なお、図1(a)及び(b)はそれぞれ4'−ブトキシベンジリデン−4−ペンチルアニリン及び4'−ブトキシベンジリデン−4−トリフルオロアニリンの構造式を示す図である。また、金属ナノ粒子の粒径はX線小角散乱法あるいは透過型電子顕微鏡により測定を行った。そして、炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物には市販品あるいは、対応するアニリン類とアルデヒド類との脱水縮合反応により合成したものを用いた。
【0031】
(実験1)
磁気攪拌子を備えたフラスコに、4'−ブトキシベンジリデン−4−ペンチルアニリン(東京化成工業株式会社市販品)70mg、酢酸銀6mg、酢酸パラジウム7mg、2−プロパノール35mLを加えて固体を完全に溶解し、室温で1時間攪拌した後、60℃で1時間加熱したところ、溶液の色が黄色から黒褐色に変化し、銀ナノ粒子とパラジウムナノ粒子の生成が確認された。X線小角散乱法によって測定した結果、粒径は8nmであった。そして、この金属ナノ粒子の分散液を所定の液晶混合物(大日本インキ化学工業製、品番:RDP−94561)に加えて攪拌した後、エバポレータで濃縮して0.1%の金属を含む液晶混合物を調製した。このとき、金属は凝集することなく分散状態を保っていた。
図1(a)に示すように、4'−ブトキシベンジリデン−4−ペンチルアニリンは芳香環をもつ置換基を有する炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物であるため、銀イオンやパラジウムイオンに配位して錯体を形成し、このとき、相溶性の高い金属ナノ粒子が生成される。そして、この錯体は金属ナノ粒子を被覆して保護剤として作用するため、上述のとおり、金属ナノ粒子の分散状態が安定する。
【0032】
(実験2)
磁気攪拌子を備えたフラスコに、4−ブトキシアルデヒドと4−トリフルオロアニリンの縮合反応によって得た4'−ブトキシベンジリデン−4−トリフルオロアニリン70mg、酢酸銀6mg、酢酸パラジウム7mg、2−プロパノール35mLを加えて固体を完全に溶解し、室温で3時間攪拌したところ、溶液の色が黄色から黒褐色に変化し、銀ナノ粒子とパラジウムナノ粒子の生成が確認された。X線小角散乱法によって測定した結果、粒径は7nmであった。また、TEM写真によりナノ粒子の分散性が高いことが確認された。そして、この金属ナノ粒子の分散液を所定の液晶混合物(大日本インキ化学工業製、品番:RDP−94561)に加えて攪拌した後、エバポレータで濃縮して0.1%の金属を含む液晶混合物を調製した。このとき、金属は凝集することなく分散状態を保っていた。
また、実施例2によって得られた液晶混合物をセルに充填し、大塚電子株式会社製液晶評価装置を用いて電圧−透過率曲線を測定した。透過率が10%となるときの電圧は、2.6Vであった。さらに、立ち下がり応答時間を測定したところ、25ミリ秒であった。また、電圧保持率の測定値は76%であった。なお、液晶混合物の透過率が10%となるときの電圧は2.8Vであり、液晶混合物の立ち下がり応答時間は30ミリ秒である。
図1(b)に示すように、4'−ブトキシベンジリデン−4−トリフルオロアニリンは芳香環をもつ置換基を有する炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物であるため、銀イオンやパラジウムイオンに配位して錯体を形成する。また、このとき、相溶性の高い金属ナノ粒子が生成される。そして、この金属ナノ粒子は、上記錯体によって被覆されるため、分散状態が安定する。さらに、この状態の金属ナノ粒子はトルエン相に、銀イオンは水相へと分配される。すなわち、このような分液操作によれば、金属ナノ粒子を容易に精製することができる。また、本実験で生成される金属ナノ粒子を被覆する錯体はシアノ基を有していないため、上述の実験結果に示されるとおり、不純物の混入による電圧保持率の低下という現象は発生しない。
【0033】
(実験3)
磁気攪拌子を備えたフラスコに、4'−ブトキシベンジリデン−4−ペンチルアニリン(東京化成工業株式会社市販品)70mg、塩化ロジウム10mg、2−プロパノール35mLを加えて固体を完全に溶解し、室温で1時間攪拌した後、60℃で加熱したところ、溶液の色が黄色から黒褐色に変化し、ロジウムナノ粒子の生成が確認された。X線小角散乱法によって測定した結果、粒径は15nmであった。そして、この金属ナノ粒子の分散液を所定の液晶混合物(大日本インキ化学工業製、品番:RDP−94561)に加えて攪拌した後、エバポレータで濃縮して0.1%の金属を含む液晶混合物を調製した。このとき、金属は凝集することなく分散状態を保っていた。
前述のとおり、4'−ブトキシベンジリデン−4−ペンチルアニリンは炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物であって、芳香環をもつ置換基を有する。従って、ロジウムイオンに配位して錯体を形成する。そして、この錯体によって被覆される金属ナノ粒子は相溶性の高いものとなる。なお、上記実験結果は生成された金属ナノ粒子が安定した状態で液晶混合物中に存在していることを示している。
【0034】
(実験4)
磁気攪拌子を備えたフラスコに、4'−ブトキシベンジリデン−4−ペンチルアニリン(東京化成工業株式会社市販品)70mg、塩化白金酸10mg、2−プロパノール35mLを加えて固体を完全に溶解し、室温で1時間攪拌した後、60℃で加熱したところ、溶液の色が黄色から黒褐色に変化し、白金ナノ粒子の生成が確認された。X線小角散乱法によって測定した結果、粒径は15nmであった。そして、この金属ナノ粒子の分散液を所定の液晶混合物(大日本インキ化学工業製、品番:RDP−94561)に加えて攪拌した後、エバポレータで濃縮して0.1%の金属を含む液晶混合物を調製した。このとき、金属は凝集することなく分散状態を保っていた。
既に述べたように、4'−ブトキシベンジリデン−4−ペンチルアニリンは芳香環をもつ置換基を有するとともに炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物である。従って、白金イオンの還元によって相溶性の高い金属ナノ粒子が生成され、この金属ナノ粒子は4'−ブトキシベンジリデン−4−ペンチルアニリンが白金イオンに配位して形成される錯体によって被覆される。なお、上記実験結果は、この錯体が金属ナノ粒子の保護剤として作用すること及びそれによって金属ナノ粒子の分散状態が安定することを示している。
【0035】
(実験5)
磁気攪拌子を備えたフラスコに、4'−ブトキシベンジリデン−4−ペンチルアニリン(東京化成工業株式会社市販品)70mg、塩化ルテニウム10mg、2−プロパノール35mLを加えて固体を完全に溶解し、室温で1時間攪拌した後、60℃で加熱したところ、溶液の色が黄色から黒褐色に変化し、ルテニウムナノ粒子の生成が確認された。X線小角散乱法によって測定した結果、粒径は15nmであった。そして、この金属ナノ粒子の分散液を所定の液晶混合物(大日本インキ化学工業製、品番:RDP−94561)に加えて攪拌した後、エバポレータで濃縮して0.1%の金属を含む液晶混合物を調製した。このとき、金属は凝集することなく分散状態を保っていた。
前述したように、4'−ブトキシベンジリデン−4−ペンチルアニリンは炭素窒素二重結合(C=N)を含み、芳香環をもつ置換基を有する化合物であるため、ルテニウムイオンに配位して錯体を形成する。そして、このとき、相溶性の高い金属ナノ粒子が生成され、この金属ナノ粒子は上記錯体によって被覆されるため、分散状態が安定する。
【0036】
(実験6)
磁気攪拌子を備えたフラスコに、オクチルアミン100mg、酢酸銀6mg、酢酸パラジウム7mg、ヘキサン35mL、トリエチルシラン0.1mLを加えて室温で30分攪拌したところ、溶液の色が黄色から黒褐色に変化し、銀ナノ粒子とパラジウムナノ粒子の生成が確認された。X線小角散乱法によって測定した結果、粒径は5nmであった。そして、この金属ナノ粒子の分散液を所定の液晶混合物(大日本インキ化学工業製、品番:RDP−94561)に加えて攪拌した後、エバポレータで濃縮して0.1%の金属を含む液晶混合物を調製した。このとき、金属は凝集沈殿した。
この実験結果は、金属ナノ粒子を被覆するような錯体が形成されず、金属ナノ粒子の分散性が向上しなかったことを示している。
【0037】
(実験7)
磁気攪拌子を備えたフラスコに、ポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社製市販品)50mg、酢酸銀6mg、酢酸パラジウム7mg、ヘキサン35mL、トリエチルシラン0.1mLを加えて室温で30分攪拌したところ、溶液の色が黄色から黒褐色に変化し、銀ナノ粒子とパラジウムナノ粒子の生成が確認された。X線小角散乱法によって測定した結果、粒径は5nmであった。そして、この金属ナノ粒子の分散液を所定の液晶混合物(大日本インキ化学工業製、品番:RDP−94561)に加えて攪拌した後、エバポレータで濃縮して0.1%の金属を含む液晶混合物を調製した。このとき、金属は凝集沈殿した。
ポリエチレンイミンは炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物ではないため、銀イオンやパラジウムイオンに配位して錯体を形成することがない。従って、銀イオンやパラジウムイオンの還元によって生成される金属ナノ粒子の分散状態は維持されない。
【0038】
(実験8)
磁気攪拌子を備えたフラスコに、4’−ブトキシ−2’−3,4,5−テトラフルオロビフェニル70mg、酢酸銀6mg、酢酸パラジウム7mg、2−プロパノール35mLを加えて固体を完全に溶解し、室温で3時間攪拌したところ、金属が沈殿した。このとき、TEM写真によってナノ粒子が凝集していることが確認された。
この還元反応では、銀イオンやパラジウムイオンの還元によって生成される金属ナノ粒子を被覆するような錯体は形成されない。従って、上述のとおり、金属ナノ粒子の分散状態は安定せず、凝縮してしまう。
【0039】
(実験9)
磁気攪拌子を備えたフラスコに、4−シアノ−4’−ペンチルビフェニル70mg、酢酸銀6mg、酢酸パラジウム7mg、2−プロパノール35mLを加えて固体を完全に溶解し、室温で1時間攪拌した後、60℃で加熱したところ、溶液の色が黄色から黒褐色に変化し、銀ナノ粒子とパラジウムナノ粒子の生成が確認された。X線小角散乱法によって測定した結果、粒径は15nmであった。そして、この金属ナノ粒子の分散液を所定の液晶混合物(大日本インキ化学工業製、品番:RDP−94561)に加えて攪拌した後、エバポレータで濃縮して0.1%の金属を含む液晶混合物を調製した。このとき、金属は凝集することなく分散状態を保っていた。また、この液晶混合物をセルに充填して電圧保持率を測定したところ、電圧保持率は5%であった。
4−シアノ−4’−ペンチルビフェニルは、シアノ基を含んでおり、既に述べたように、シアノ基は極性が高いため、不純物を溶解し易い。そして、上述の試験結果は、シアノ基に溶解した不純物によってイオンが増加し、電圧保持率が低下したことを示している。
【実施例2】
【0040】
本実施例の液晶表示装置は、液晶素子中に実施例1の製造方法によって生成される金属ナノ粒子を含むことを特徴とする。本実施例の液晶表示装置に用いられる液晶素子の構造について図2を用いて説明する。
図2は本実施の形態に係る液晶表示装置に用いる液晶素子の概略断面図である。なお、本実施例に示す液晶素子は、アクティブマトリクス方式によって駆動する液晶電気光学素子である。
図2に示すように、液晶素子1は、厚さ1mm程度のガラス又は透光性樹脂からなる一対の基板2a,2bと、その内側面に設置される透明導電膜4a,4bと、透明導電膜4a,4bの対向する内側面に設置される液晶配向膜5a,5bと、液晶配向膜5a,5bの間に配置される液晶層3とから構成されている。なお、金属ナノ粒子11が液晶層3に分散されるとともに、薄膜トランジスタ(TFT)8及び画素電極9(透明導電膜4a)が基板2aに配置されている。また、基板2bには液晶層3と接する側にブラックストライプ10が配置され、基板2bと液晶配向膜5bの間には透明導電膜4b及びカラーフィルタ6が配置されている。さらに、両基板2a,2bの外側には2枚の偏光板7a,7bが配置されている。
透明導電膜4a,4bは液晶素子1の電極として機能し、例えば、ITO、ZnO、In23−ZnOなどの材料をスパッタリング法等で成膜することにより形成される。また、基板2bの液晶層3と接する側にカラーフィルタ6のR、G、Bの各色素層の間(境界)を区画するように配置されるブラックストライプ10は、例えば、樹脂ブラックや比較的反射率の低いクロムなどの金属からなり、外部光線を吸収してスクリーンからの反射光を少なくするとともに、背面からの光をレンチキュラーレンズによって効率良くスクリーン前面に透過させるという機能を有している。さらに、液晶配向膜5a,5bは、例えば、ポリイミド等を塗布焼成するなどの公知の技術によって容易に形成される。
このような構造の液晶素子1を備える液晶表示装置においては、既に述べたように、金属ナノ粒子が電圧保持率を低下させることなく、安定した状態で液晶素子1の中に分散して存在する。これにより、駆動電圧の上昇や消費電力の増加、コントラストの低下、表示むら、色変わり等の不具合の発生が防止されるため、製品の品質が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0041】
請求項1乃至請求項3に記載された製造方法によって生成される請求項4記載の金属ナノ粒子は、液晶表示装置における液晶特性の改善に対して有効であるだけでなく、触媒や電子部品の配線材料あるいは塗料等機能性材料にも適用可能である。また、請求項5記載の液晶表示装置は、液晶テレビ、携帯電話、デジタルカメラ、コンピュータ等に用いられる液晶素子を組み込んだ画像表示装置として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】(a)及び(b)はそれぞれ4'−ブトキシベンジリデン−4−ペンチルアニリン及び4'−ブトキシベンジリデン−4−トリフルオロアニリンの構造式を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る液晶表示装置に用いる液晶素子の概略断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1…液晶素子 2a,2b…基板 3…液晶層 4a,4b…透明導電膜 5a,5b…液晶配向膜 6…カラーフィルタ 7a,7b…偏光板 8…薄膜トランジスタ 9…画素電極 10…ブラックストライプ 11…金属ナノ粒子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウムのうちの少なくとも1種の金属イオンに還元剤を反応させて金属ナノ粒子を製造する方法において、炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物群から選ばれる少なくとも1つの有機分子を共存させることを特徴とする金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記金属イオンは、塩化白金(IV)酸、塩化ロジウム、塩化ルテニウム、酢酸銀、過塩素酸銀、酢酸パラジウムから選ばれる少なくとも1つを出発原料として溶媒に溶解させることにより生成されることを特徴とする請求項1記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記炭素窒素二重結合(C=N)を含む化合物は一般式(1)で示される化合物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【化1】

(式中、Ar、Arは各々独立した芳香環である。)
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載された製造方法によって生成されることを特徴とする金属ナノ粒子。
【請求項5】
請求項4記載の金属ナノ粒子を液晶素子中に含むことを特徴とする液晶表示装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−215584(P2009−215584A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58741(P2008−58741)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、都市エリア産学官連携促進事業の委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(391016082)山口県 (54)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】