説明

金属ヒドリド錯体およびそれを用いた環状オレフィン系開環重合体の水素化方法

【解決手段】 本発明の金属ヒドリド錯体は、ルテニウム、ロジウム、オスミウムおよびイリジウムからなる群より選ばれる金属のヒドリド錯体であって、一つ以上の芳香族カルボン酸残基を有する。
【効果】 本発明によれば、炭化水素溶媒などの極性の低い有機溶媒に高濃度で溶解し、しかも炭素−炭素二重結合を水素化する触媒活性が高い新規な金属ヒドリド錯体を提供することができる。本発明に係る金属ヒドリド錯体は、特に環状オレフィン系開環重合体の水素化反応における触媒として好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な金属ヒドリド錯体に関する。より詳しくは、アルケンやアルキン中の炭素−炭素不飽和結合を水素化する水素化触媒、オレフィン異性化触媒として有用である新規な金属ヒドリド錯体、および該金属ヒドリド錯体を用いた環状オレフィン系開環重合体の水素化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ルテニウムやロジウムなどの金属錯体は、アルケンやアルキン中の炭素−炭素不飽和結合の水素化触媒、ヒドロシリル化触媒、ヒドロホウ素化触媒、またはオレフィン異性化触媒となる有用な化合物として知られている。特に、金属−水素結合を有する金属ヒドリド錯体は、高い触媒活性を有することが知られている。たとえば、RuHCl(CO)(PP
3)3 は、ポリマー中の炭素−炭素間二重結合を水素化する、優れた触媒であることが報告されている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、従来公知の金属ヒドリド錯体は、有機溶媒への溶解性が低く、特にトルエンなどの炭化水素溶媒への溶解性は0.03重量%程度と極めて低いものであった。このため、この触媒溶液を反応容器に供給する際には希薄溶液とせざるを得ず、生産効率の低下および溶媒使用量の増加などの問題を招いていた。また、高濃度で反応容器に供給しようとすると、懸濁状のスラリーとなってしまうため、チャージ量が不正確にならざるを得なかった。
【0004】
これらの金属ヒドリド錯体触媒の溶解性を向上するだけならば、テトラヒドロフランや酢酸エチルなどの極性溶媒を少量添加する手法が効果的ではあるが、これらの極性溶媒は配位性の化合物であるため、触媒活性の低下を招くことが難点であった。
【0005】
また、カルボン酸残基が導入された金属ヒドリド錯体としては、たとえば、CH3CO2基またはCF3CO2基が導入されたルテニウムヒドリド錯体が報告されていた。このような金属ヒドリド錯体は、次の反応式に示すように、金属ジヒドリド錯体とカルボン酸との反応によって合成できることが知られている(非特許文献1参照)。
【0006】
RuH2L(PPh3)3 + RCO2H → RuH(OCOR)L(PPh3)2
(上記反応式中、LはCOまたはNOを示し、RはCH3またはCF3を示す。)
この従来の報告では、カルボン酸残基がCH3CO2−またはCF3CO2−である2種の錯体に限られていた。これらの錯体は、オレフィンやアセチレンなどの炭素−炭素不飽和結合の水素化反応に対して高い触媒活性を有するものではあったが、トルエンなどの炭化水素系の溶媒への溶解性が極めて小さく、20℃での溶解度が0.1重量%未満にとどまっており、工業的に触媒として利用するには実用性に乏しいものであった。
【0007】
このため、工業スケールでの反応を設計する上で、触媒活性を維持したまま、溶媒使用量の低減、および、正確な供給量のコントロールなどを実現するためには、金属への配位力の小さいトルエン溶媒などの炭化水素溶媒に対する溶解性を向上させる必要があった。
【0008】
金属ヒドリド錯体を触媒として反応系に供給する場合、反応溶媒の全体量を適正な範囲内に調節するためには、プロセス設計上、触媒供給ラインの濃度を0.2重量%以上、より好ましくは1.0重量%以上にして、過剰な溶媒量を削減することが望まれる。また、触媒反応速度を向上させ、反応収率アップを実現するためにも、高濃度で均一に溶解する
触媒の出現が強く望まれていた。
【0009】
このような状況において、本発明者は、芳香族カルボン酸残基を導入した金属ヒドリド錯体が、トルエンなどに対する溶解性が大幅に向上し、不飽和炭化水素の水素化反応に対して高い活性を示すことを見出して本発明を完成した。
【特許文献1】特開平4−202404号公報
【非特許文献1】A, Dobson, et al., Inorg. Synth., 17, 126-127(1977)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、有機溶媒、特にトルエンなどの炭化水素溶媒への溶解性が高く、しかも水素添加触媒としての活性の高い、金属ヒドリド錯体を提供することを課題としている。また、本発明は、該金属ヒドリド錯体を用いた、環状オレフィン系開環(共)重合体の水素化方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の金属ヒドリド錯体は、下記一般式(1)で表されることを特徴としている。
MQnkpq・・・(1)
(式(1)中、Mは、ルテニウム、ロジウム、オスミウムおよびイリジウムからなる群より選ばれる金属を示し、
Qは、独立に下記式(i)で表される基を示し、
Tは、独立にCOまたはNOを示し、
Zは、独立にPR678(R6、R7およびR8は、それぞれ独立にアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を示す。)を示し、
kは1または2を示し、nは1または2を示し、pは0〜4の整数を示し、qは0〜4の整数を示し、かつ、k、n、p、qの合計は4、5または6である。)
【0012】
【化1】

【0013】
(式(i)中、R1〜R5は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基またはヒドロキシル基を示す。)
このような本発明の金属ヒドリド錯体では、上記式(1)中のMがルテニウムであることが好ましく、上記式(i)中のR1〜R5が、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基であることも好ましい。
【0014】
本発明の金属ヒドリド錯体は、20℃でのトルエン溶解度が0.2重量%以上であることが好ましく、20℃でのトルエン溶解度が1.0重量%以上であることがより好ましい。
【0015】
本発明の環状オレフィン系開環重合体の水素化方法は、上記本発明の金属ヒドリド錯体の存在下に、環状オレフィン系開環重合体の水素化反応を行うことを特徴としている。
本発明の環状オレフィン系開環重合体の水素化方法では、環状オレフィン系開環重合体が、下記一般式(I)、(II)または(III)で表される化合物から選ばれる1種以上を含む単量体の開環(共)重合体であることが好ましい。
【0016】
【化2】

【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

【0019】
(式(I)、(II)または(III)中、R1〜R6 は、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30の炭化水素基、またはエステル基、ニトリル基、ニトロ基、などの1価の有機基であり、それぞれ同一または異なっていてもよい。R1とR2またはR3 とR4は、
一体化して2価の炭化水素基を形成しても良く、R1またはR2とR3またはR4とは互いに結合して、単環または多環構造を形成してもよい。m、p、およびqは、それぞれ独立に、0または正の整数である。)
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、炭化水素溶媒などの極性の低い有機溶媒に高濃度で溶解し、しかも炭素−炭素二重結合を水素化する触媒活性が高い新規な金属ヒドリド錯体を提供することができる。このため、本発明の金属ヒドリド錯体を水素化触媒として用いると、溶媒に高濃度で溶解した金属ヒドリド錯体を反応系に供給することができるため、溶媒量を減らすことができて経済的である上、供給量の制御など取り扱いが容易であり、工業的な生産効率を向上させることができる。
【0021】
本発明に係る金属ヒドリド錯体は、特に環状オレフィン系開環重合体の水素化反応における触媒として好適であり、本発明によれば、優れた環状オレフィン系開環重合体の水素化方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について具体的に説明する。
<金属ヒドリド錯体>
本発明の金属ヒドリド錯体は、下記一般式(1)で表される。
【0023】
MQnkpq・・・(1)
上記式(1)中、Mは、ルテニウム、ロジウム、オスミウムおよびイリジウムからなる群から選ばれる金属を示す。このような金属Mのうちでは、最も安価であり、かつ、触媒
活性の高いルテニウムが好ましい。
【0024】
上記式(1)中のQは、下記式(i)で表される芳香族カルボン酸残基である。
【0025】
【化5】

【0026】
上記式(i)中、R1〜R5は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基またはヒドロキシル基である。これらの中では、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基およびアリール基が好ましい。
【0027】
上記炭素数1〜18のアルキル基としては、たとえば、メチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられる。
【0028】
上記シクロアルキル基としては、たとえば、シクロヘキシル基、2−メチルシクロヘキシル基、3−メチルシクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、2,3−ジメチルシクロヘキシル基、2,4−ジメチルシクロヘキシル基、2,5−ジメチルシクロヘキシル基、2,6−ジメチルシクロヘキシル基、3,4−ジメチルシクロヘキシル基、3,5−ジメチルシクロヘキシル基などが挙げられる。
【0029】
上記アリール基としては、たとえば、フェニル、2−メチルフェニル、3−メチルフェニル、4−メチルフェニル基、2,3−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基などが挙げられる。
【0030】
上記式(1)中のTは、COおよびNOから選ばれる少なくとも1種の基である。
上記式(1)中のZは、PR678であり、該R6、R7およびR8は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を示す。
【0031】
上記R6〜R8におけるアルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基などが挙げられる。
【0032】
上記R6〜R8におけるシクロアルキル基としては、たとえば、シクロヘキシル基、2−メチルシクロヘキシル基、3−メチルシクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、2,3−ジメチルシクロヘキシル基、2,4−ジメチルシクロヘキシル基、2,5−ジメチルシクロヘキシル基、2,6−ジメチルシクロヘキシル基、3,4−ジメチルシクロヘキシル基、3,5−ジメチルシクロヘキシル基などが挙げられる。
【0033】
上記R6〜R8におけるアリール基としては、たとえば、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,3−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基などが挙げられる。
【0034】
上記式(1)中、kは1または2であり、nは1または2であり、pは0〜4の整数であり、qは0〜4の整数であり、k、n、p、qの合計は4、5または6である。
なお、上記式(1)中のQ、TおよびZは、複数である場合、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0035】
本発明の金属ヒドリド錯体の具体例としては、たとえば、
RuH(OCOPh)(CO)(PPh3)2
RuH(OCOPh-CH3)(CO)(PPh3)2
RuH(OCOPh-C25)(CO)(PPh3)2
RuH(OCOPh-C511)(CO)(PPh3)2
RuH(OCOPh-C817)(CO)(PPh3)2
RuH(OCOPh-OCH3)(CO)(PPh3)2
RuH(OCOPh-OC25)(CO)(PPh3)2
RuH(OCOPh)(CO)(P(cyclohexyl)3)2
RuH(OCOPh-NH2)(CO)(PPh3)2
などが挙げられる。(式中Phはフェニル基を示す。)
本発明の金属ヒドリド錯体は、たとえば、対応する金属ポリヒドリド錯体とカルボン酸との反応によって得られる。また、前記金属ポリヒドリド錯体は、対応する金属ハライドヒドリド錯体と、KOHなどの塩基性の試薬とをアルコール溶媒中で反応させることによって得られる。反応スキームを以下に示す。
【0036】
【化6】

【0037】
上記反応スキーム中の−OCOR’は、上記式(1)中のQに対応する。
反応の方法としては以下のとおりである。まず、窒素もしくはアルゴン雰囲気下で反応容器に金属ハライドヒドリド錯体のアルコール溶液を投入した後、KOHのアルコール溶液を滴下して、一定時間反応させることにより金属ジヒドリド錯体が得られる。次に、得られた金属ジヒドリド錯体に特定のカルボン酸を添加して、一定時間反応させることにより、目的の錯体が沈殿物として生成する。上澄みを濾過もしくはデカンテーションで分離した後、必要に応じてメタノールなど溶解性の低い溶媒を用いて沈殿を洗浄し、さらに残留溶媒を乾燥することにより、目的物が得られる。
【0038】
反応系の温度は特に限定しないが、カルボン酸の酸性度に応じて−20℃〜200℃の範囲の温度で操作する。また、カルボン酸の使用量についても特に限定しないが、金属ポリヒドリド錯体の転化率を90%以上にするためには、金属ポリヒドリド錯体1部に対し、少なくとも1部以上、好ましくは3部以上、より好ましくは5部以上のカルボン酸を添加することが望ましい。
【0039】
金属ハライドヒドリド錯体から金属ジヒドリド錯体を得る反応には、溶媒としてアルコールが用いられる。アルコールとしては、たとえば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、2−メトキシエタノール、ジエチレングリコールなどが挙げられる。これらアルコール溶剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
金属ジヒドリド錯体から最終目的化合物である金属ヒドリド錯体を得る反応には、必要に応じて、適宜溶媒を選択して用いることができる。たとえば、シクロヘキサン、シクロペンタン、メチルシクロペンタンなどの脂環式炭化水素溶媒;ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素溶媒;トルエン、ベンゼン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素溶媒;クロロメタン、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロシクロペンタン、クロロシクロヘキサン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、2−メトキシエタノール、ジエチレングリコールなどのアルコール系溶媒などを用いることができる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、原料の溶解性、生成物の不溶解性および汎用性などの観点から、アルコール系溶媒またはアルコール系溶媒を含む混合溶媒が望ましく用いられる。また、場合によっては、無溶媒で反応を行うことも可能である。
【0041】
錯体の乾燥方法は特に限定されず、減圧下で残留溶媒を除去する方法、常圧下で窒素もしくはアルゴン気流中に暴露して残留溶媒を飛散させる方法などを採用することができる。
【0042】
また、本発明の金属ヒドリド錯体は、MCl3・(H2O)mから、以下に示すような反応
スキームによって、ワンポットで製造することもできる。
まず、MCln・(H2O)m(式中、MはRu、Rh、OsまたはIrであり、mは0〜
3の整数である。)とホルムアルデヒドとを、リン配位子を形成しうる化合物の存在下で反応させて金属ハライドヒドリド錯体とする。次いで、この金属ハライドヒドリド錯体とアルカリ金属水酸化物とをアルコール溶媒中で反応させて金属ジヒドリド錯体とする。さらに、この金属ジヒドリド錯体を反応系から単離することなく、該金属ジヒドリド錯体とカルボン酸R1COOHとを反応させる。このような反応スキームにより、金属ヒドリド
錯体を、ワンポットで製造することができる。例として、RuCl3・3H2Oを用いた反応スキームを以下に示す。
【0043】
【化7】

【0044】
本発明の金属ヒドリド錯体は、アルケンやアルキンなどの炭素−炭素間不飽和結合への水素化反応、ヒドロシリル化反応、ヒドロホウ素化反応、ヒドロスタニル化反応、オレフィン異性化反応などの触媒として、高い活性を有する。特に、ノルボルネン系の開環メタセシス重合体の水素化反応に対しては、99.8%以上の高い水素化率を達成し得る。このため、本発明の金属ヒドリド錯体は、実験室スケールまたは工業的スケールでの、これら触媒反応に広く用いることができる。
【0045】
このような本発明の金属ヒドリド錯体は、その種類にもよるが、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素溶媒に高濃度で均一に溶解する。本発明の金属ヒドリド錯体は、20℃でのトルエン溶解度が、好ましくは0.2重量%以上、より好ましくは1.0重量%以上であるのが望ましい。
<環状オレフィン系開環重合体の水素化>
本発明の環状オレフィン系開環重合体の水素化方法は、上記本発明の金属ヒドリド錯体を触媒として用いて、環状オレフィン系開環重合体を水素化反応させることにより行われる。水素化反応の方法および条件としては、本発明の金属ヒドリド錯体を用いること以外は、一般的な水素化反応の方法および条件を採用することができる。なお、本発明の金属ヒドリド錯体は、トルエンなどの炭化水素溶媒への溶解度が高いことから、反応系に高濃度で供給することができる。したがって、反応効率などを向上させることができ、供給触媒の溶媒量を減少させることができる。また、触媒を均一な溶媒系として用いることができるため、触媒の添加量などの制御が容易である。
環状オレフィン系開環重合体
本発明の環状オレフィン系開環重合体の水素化方法で水素化する、環状オレフィン系開環重合体としては、ノルボルネン骨格を有する環状オレフィン系化合物を含む単量体の開環メタセシス(共)重合体をいずれも用いることができる。すなわち、原料となる環状オレフィン系開環重合体としては、1種以上の環状オレフィン系化合物の開環(共)重合体であってもよく、1種以上の環状オレフィン系化合物と、共重合可能なその他の化合物との開環共重合体であってもよい。
【0046】
本発明の水素化方法では、環状オレフィン系開環重合体が、下記一般式(I)、(II)
または(III)で表される化合物から選ばれる1種以上を含む単量体の開環(共)重合体
であることが好ましい。
【0047】
【化8】

【0048】
【化9】

【0049】
【化10】

【0050】
(式(I)、(II)または(III)中、R1〜R6 は、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30の炭化水素基、またはエステル基、ニトリル基、ニトロ基、などの1価の有機基であり、それぞれ同一または異なっていてもよい。R1とR2またはR3 とR4は、
一体化して2価の炭化水素基を形成しても良く、R1またはR2とR3またはR4とは互いに結合して、単環または多環構造を形成してもよい。m、p、およびqは、それぞれ独立に、0または正の整数である。)
このような環状オレフィン系化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらの具体例に何ら限定されるものではない。
【0051】
一般式(I)で表される環状オレフィン系化合物としては、例えば以下の化合物が挙げ
られる。
ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
トリシクロ[5.2.1.02,6 ]−8−デセン、
トリシクロ[4.4.0.12,5 ]−3−ウンデセン、
テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
ペンタシクロ[6.5.1.13,6 .02,7 .09,13]−4−ペンタデセン、
5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセ
ン、
8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
5−エチリデンビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
5−フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−フェニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
5−フルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−ペンタフルオロエチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリス(フルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6,6−テトラフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6,6−テトラキス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ジフルオロ−6,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロ−5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フルオロ−5−ペンタフルオロエチル−6,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロ−5−ヘプタフルオロ−iso−プロピル−6−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−クロロ−5,6,6−トリフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジクロロ−5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−6−トリフルオロメトキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−6−ヘプタフルオロプロポキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−フルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−フルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−ジフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−ペンタフルオロエチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8−ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9,9−テトラフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9,9−テトラキス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8−ジフルオロ−9,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロ−8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−トリフルオロメトキシテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−ペンタフルオロプロポキシテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−フルオロ−8−ペンタフルオロエチル−9,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロ−8−ヘプタフルオロiso−プロピル−9−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−クロロ−8,9,9−トリフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジクロロ−8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン。
【0052】
また、一般式(II)で表される環状オレフィン系化合物としては、例えば以下の化合物が挙げられる。
ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2,5−ジエン、
5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2,5−ジエン、
5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2,5−ジエン、
5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2,5−ジエン、
トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカ−3,8−ジエン。
【0053】
また、一般式(III)で表される環状オレフィン系化合物としては、例えば以下の化合
物が挙げられる。
【0054】
【化11】

【0055】
(1) スピロ[フルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12.5]デカ−3−エン]、
【0056】
【化12】

【0057】
(2) スピロ[2,7−ジフルオロフルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12.5]デカ−3−エン]、
【0058】
【化13】

【0059】
(3) スピロ[2,7−ジクロロフルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12.5]デカ−3−エン]、
【0060】
【化14】

【0061】
(4) スピロ[2,7−ジブロモフルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12.5]デカ−3−エン]、
【0062】
【化15】

【0063】
(5) スピロ[2−メトキシフルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12.5]デカ−3−エン]

【0064】
【化16】

【0065】
(6) スピロ[2−エトキシフルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12.5]デカ−3−エン]

【0066】
【化17】

【0067】
(7) スピロ[2−フェノキシフルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12.5]デカ−3−エン]、
【0068】
【化18】

【0069】
(8) スピロ[2,7−ジメトキシフルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12.5]デカ−3−エン]、
【0070】
【化19】

【0071】
(9) スピロ[2,7−ジエトキシフルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12.5]デカ−3−エン]、
【0072】
【化20】

【0073】
(10) スピロ[2,7−ジフェノキシフルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12.5]デカ−3
−エン]、
【0074】
【化21】

【0075】
(11) スピロ[3,6−ジメトキシフルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12.5]デカ−3−
エン]、
【0076】
【化22】

【0077】
(12) スピロ[9,10−ジヒドロアントラセン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12.5]デカ−3−エン]、
【0078】
【化23】

【0079】
(13) スピロ[フルオレン−9,8'−[2]メチルトリシクロ[4.3.0.12.5]デカ−3−エン]、
【0080】
【化24】

【0081】
(14) スピロ[フルオレン−9,8'−[10]メチルトリシクロ[4.3.0.12.5]デカ−3−エン]

【0082】
【化25】

【0083】
(15) スピロ[フルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13.6 .02.7.09.13][4]ペンタ
デセン]、
【0084】
【化26】

【0085】
(16) スピロ[2,7−ジフルオロフルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13.6.02.7.09.13][4]ペンタデセン]、
【0086】
【化27】

【0087】
(17) スピロ[2,7−ジクロロフルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13.6.02.7.09.13][4]ペンタデセン]、
【0088】
【化28】

【0089】
(18) スピロ[2,7−ジブロモフルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13.6.02.7.09.13][4]ペンタデセン]、
【0090】
【化29】

【0091】
(19) スピロ[2−メトキシフルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13.6.02.7.09.13][4]ペンタデセン]、
【0092】
【化30】

【0093】
(20) スピロ[2−エトキシフルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13.6.02.7.09.13][4]ペンタデセン]、
【0094】
【化31】

【0095】
(21) スピロ[2−フェノキシフルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13.6.02.7.09.13][4]ペンタデセン]、
【0096】
【化32】

【0097】
(22) スピロ[2,7−ジメトキシフルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13.6.02.7.09.13][4]ペンタデセン]、
【0098】
【化33】

【0099】
(23) スピロ[2,7−ジエトキシフルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13.6.02.7.09.13][4]ペンタデセン]、
【0100】
【化34】

【0101】
(24) スピロ[2,7−ジフェノキシフルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13.6.02.7.09.13][4]ペンタデセン]、
【0102】
【化35】

【0103】
(25) スピロ[3,6−ジメトキシフルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13.6.02.7.09.13][4]ペンタデセン]、
【0104】
【化36】

【0105】
(26) スピロ[9,10−ジヒドロアントラセン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13.6.02.7.09.13][4]ペンタデセン]、
【0106】
【化37】

【0107】
(27) スピロ[フルオレン−9,13'−ヘキサシクロ[7.7.0.13.6.110.16.02.7.011.15] [4] オクタデセン] 、
【0108】
【化38】

【0109】
(28) スピロ[2,7−ジフルオロフルオレン−9,13'−ヘキサシクロ[7.7.0.13.6.110.16.02.7.011.15] [4] オクタデセン] 、
【0110】
【化39】

【0111】
(29) スピロ[2,7−ジクロロフルオレン−9,13'−ヘキサシクロ[7.7.0.13.6.110.16.02.7.011.15] [4] オクタデセン] 、
【0112】
【化40】

【0113】
(30) スピロ[2,7−ジブロモフルオレン−9,13'−ヘキサシクロ[7.7.0.13.6.110.16.02.7.011.15] [4] オクタデセン] 、
【0114】
【化41】

【0115】
(31) スピロ[2−メトキシフルオレン−9,13'−ヘキサシクロ[7.7.0.13.6.110.16.02.7.011.15] [4] オクタデセン] 、
【0116】
【化42】

【0117】
(32) スピロ[2−エトキシフルオレン−9,13'−ヘキサシクロ[7.7.0.13.6.110.16.02.7.011.15] [4] オクタデセン] 、
【0118】
【化43】

【0119】
(33) スピロ[2−フェノキシフルオレン−9,13'−ヘキサシクロ[7.7.0.13.6.110.16.02.7.011.15] [4] オクタデセン] 、
【0120】
【化44】

【0121】
(34) スピロ[2,7−ジメトキシフルオレン−9,13'−ヘキサシクロ[7.7.0.13.6.110.16.02.7.011.15] [4] オクタデセン] 、
【0122】
【化45】

【0123】
(35) スピロ[2,7−ジエトキシフルオレン−9,13'−ヘキサシクロ[7.7.0.13.6.110.16.02.7.011.15] [4] オクタデセン] 、
【0124】
【化46】

【0125】
(36) スピロ[2,7−ジフェノキシフルオレン−9,13'−ヘキサシクロ[7.7.0.13.6.110.16.02.7.011.15] [4] オクタデセン] 、
【0126】
【化47】

【0127】
(37) スピロ[3,6−ジメトキシフルオレン−9,13'−ヘキサシクロ[7.7.0.13.6.110.16.02.7.011.15] [4] オクタデセン]、
【0128】
【化48】

【0129】
(38) スピロ[9,10−ジヒロドロアントラセン−9,13'−ヘキサシクロ[7.7.0.13.6.110.16.02.7.011.15] [4] オクタデセン]、
【0130】
【化49】

【0131】
(39) スピロ[フルオレン−9,10'−テトラシクロ[7.4.0.08.12.12.5] [3]テトラデセン]

本発明では、開環オレフィン系開環重合体を得るための単量体として、これらの一般式(I)、(II)または(III)で表される環状オレフィン系化合物を1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。また、開環オレフィン系開環重合体を得るための単量体組成物として、上記(I)、(II)または(III)で表される環状オレフィン系化合物の1種以上と、ノルボルネン骨格を有するその他の環状オレフィン系化合物や、共重
合可能な共重合性単量体とを必要に応じて組み合わせて用いてもよい。
【0132】
共重合性単量体としては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン等の環状オレフィン;1,4−シクロオクタジエン、シクロドデカトリエン等の非共役環状ポリエンが挙げられる。前記共重合可能な単量体は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0133】
本発明で用いる開環オレフィン系開環重合体は、環状オレフィン系化合物を含む上述した単量体を開環(共)重合して得る。
開環(共)重合に用いる触媒としては、公知のメタセシス触媒を用いることができるが
、たとえば、Olefin Metathesis and Metathesis Polymerization(K.J.IVIN,J.C.MOL, Academic Press 1997)に記載されている触媒が好ましく用いられる。
【0134】
このような触媒としては、たとえば、(a)W、Mo、ReおよびV、Tiの化合物から選ばれた少なくとも1種と、(b)Li、Na、K、Mg、Ca、Zn、Cd、Hg、B、Al、Si、Sn、Pbなどの化合物であって、少なくとも1つの当該元素−炭素結合あるいは当該元素−水素結合を有するものから選ばれた少なくとも1種との組合せからなるメタセシス重合触媒が挙げられる。この触媒は、触媒の活性を高めるために、後述の添加剤(c)が添加されたものであってもよい。また、その他の触媒として(d)助触媒を用いない周期表第4族〜8族遷移金属-カルベン錯体やメタラシクロブテン錯体などからな
るメタセシス触媒が挙げられる。
【0135】
上記(a)成分として適当なW、Mo、ReおよびV、Tiの化合物の代表例としては、
WCl6、MoCl5、ReOCl3、VOCl3、TiCl4など特開平1−240517号公報に記載の化合物を挙げることができる。
【0136】
上記(b)成分としては、n−C49Li、(C253Al、(C252AlCl、
(C251.5AlCl1.5、(C25)AlCl2、メチルアルモキサン、LiHなど特
開平1−240517号公報に記載の化合物を挙げることができる。
【0137】
添加剤である(c)成分の代表例としては、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類などが好適に用いることができるが、さらに特開平1−240517号公報に示される化合物を使用することができる。
【0138】
上記触媒(d)の代表例としては、W(=N-2,6-C6H3 iPr2)(=CH tBu)(O tBu)2、Mo(=N-2,6-C6H3 iPr2)(=CH tBu)(O tBu)2、Ru(=CHCH=CPh2)(PPh32Cl2、Ru(=CHPh)(PC6
112Cl2などが挙げられる。
【0139】
メタセシス触媒の使用量としては、上記(a)成分と、単量体(開環(共)重合に供する単量体の全量)とのモル比で「(a)成分:単量体」が、通常1:500〜1:500000となる範囲、好ましくは1:1000〜1:100000となる範囲であるのが望ましい。(a)成分と(b)成分との割合は、金属原子比で「(a):(b)」が1:1〜1:50、好ましくは1:2〜1:30の範囲であるのが望ましい。また、(a)成分と(c)成分との割合は、モル比で「(c):(a)」が0.005:1〜15:1、好ましくは0.05:1〜7:1の範囲であるのが望ましい。また、触媒(d)の使用量は、(d)成分と単量体とのモル比で「(d)成分:単量体」が、通常1:50〜1:50000となる範囲、好ましくは1:100〜1:10000となる範囲であるのが望ましい。
【0140】
環状オレフィン系開環重合体の分子量は、製造する環状オレフィン系開環重合体の水素化物の用途に応じて、所望の分子量となるよう調節することが望ましい。環状オレフィン系開環重合体の分子量の調節は、重合温度、触媒の種類、溶媒の種類によっても行うことができるが、本発明においては、分子量調節剤を反応系に共存させることにより調節することが好ましい。ここに、好適な分子量調節剤としては、たとえば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどのα−オレフィン類およびスチレンを挙げることができ、これらのうち、1−ブテン、1−ヘキセンが特に好ましい。これらの分子量調節剤は、単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。分子量調節剤の使用量としては、開環(共)重合反応に供される単量体1モルに対して0.001〜0.6モル、好ましくは0.02〜0.5モルであるのが望ましい。
【0141】
開環(共)重合反応において用いられる溶媒、すなわち、ノルボルネン系単量体、メタセシス触媒および分子量調節剤を溶解する溶媒としては、たとえば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどのアルカン類;シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、ノルボルナンなどのシクロアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメンなどの芳香族炭化水素;クロロブタン、ブロムヘキサン、塩化メチレン、ジクロロエタン、ヘキサメチレンジブロミド、クロロベンゼン、クロロホルム、テトラクロロエチレンなどのハロゲン化アルカン;アリールなどの化合物;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸iso−ブチル、プロピオン酸メチル、ジメトキシエタンなどの飽和カルボン酸エステル類;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル類を挙げることができ、これらは単独であるいは混合して用いることができる。本発明では、これらのうち、芳香族炭化水素が好ましい。
【0142】
溶媒の使用量としては、溶媒:単量体(重量比)が、通常1:1〜10:1となる量、好ましくは1:1〜5:1となる量であるのが望ましい。
このようにして得られた環状オレフィン系開環重合体は、主鎖中に炭素−炭素二重結合を有している。
水素化反応
本発明の環状オレフィン系開環重合体の水素化方法では、上述した本発明の金属ヒドリド錯体の存在下に、環状オレフィン系開環重合体の水素化反応を行う。
【0143】
水素化反応においては、環状オレフィン系開環重合体の主鎖中にある、式:−CH=CH−で表されるオレフィン性不飽和基を水素添加して、式:−CH2CH2−で表される基に変換させる。環状オレフィン系開環重合体が、環構造内など、主鎖以外に不飽和結合を有する場合、主鎖以外の不飽和結合は水素化されなくてもよい。
【0144】
なお、本発明の水素化方法における環状オレフィン系開環重合体の水素化率(環状オレフィン系開環重合体の主鎖中に存在する炭素−炭素二重結合が水素化される割合)は、通常40モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。この水素添加率が高いほど、得られる水素化物の高温条件下における着色や劣化の発生が抑制され、またそれから得られる成形体に強靭性が付与されるので好ましい。
【0145】
水素化反応は、例えば、環状オレフィン系開環重合体の溶液に、本発明に係る金属ヒドリド錯体を触媒として添加し、これに、通常、常圧〜30MPa、好ましくは3〜20MPaの水素ガスを加えて、通常、0〜220℃、好ましくは20〜200℃で反応させることによって行うことができる。金属ヒドリド錯体は、粉末状、溶液状、スラリー状など、どのような形態で添加してもよいが、金属ヒドリド錯体溶液として添加するのが好ましい。金属ヒドリド錯体溶液としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン などの有機溶媒に、金属ヒドリド錯体を、濃度0.2重量%以上、好ま
しくは1.0重量%以上となるよう溶解した溶液が好ましく用いられる。また、水素化反応を、環状オレフィン系開環重合体の重合に引き続いて行う場合には、重合時に用いた溶媒あるいはそれと相溶性を有する溶媒を、金属ヒドリド錯体溶液の溶媒として用いることが好ましい。
【0146】
本発明では、金属ヒドリド錯体を、開環重合体:金属ヒドリド錯体の重量比が、通常、1:1×10-6〜1:1×10-2となる割合で使用するのが好ましい。
本発明の製造方法により得られた環状オレフィン系開環重合体の水素化物は、必要に応じて上述した酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤などの各種添加剤を添加して用いてもよい。このような添加剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール
、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,5−ジ−t−
ブチルヒドロキノン、ペンタエリスリトール・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、4,4’−チオビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、オクタデシル・3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート
、3,3',3'',5,5',5''−ヘキサ−t−ブチル−a,a',a''−(メシチレン−2
,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール等のフェノール系、ヒドロキノン系酸化防止
剤;トリス(4−メトキシ−3,5−ジフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等のリン系
酸化防止剤が挙げられる。これらの酸化防止剤の1種または2種以上を添加することにより、開環(共)重合体の耐酸化劣化性を向上することができる。また、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2'
−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−[(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]]等の紫外線吸収剤を添加することによって耐光性を向上することもできる。更に、加工性を向上させる滑剤の他、必要に応じて難燃剤、抗菌剤、石油樹脂、可塑剤、着色剤、離型剤、発泡剤等の公知の添加剤を添加することができ、これらの添加剤は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0147】
本発明で得られた環状オレフィン系開環重合体の水素化物は、適宜成形して、光学部品や電気電子材料などの分野の用途に特に好適に用いることができる。このような用途の具体的な例としては、光ディスク、光磁気ディスク、光学レンズ(Fθレンズ、ピックアッ
プレンズ、レーザープリンター用レンズ、カメラ用レンズ等)眼鏡レンズ、光学フィルム(ディスプレイ用フィルム、位相差フィルム、偏光フィルム、透明導電フィルム、波長板、反射防止フィルム、光ピックアップフィルム等)、光学シート、光ファイバー、導光板、光拡散板、光カード、光ミラー、IC・LSI・LED封止材などが挙げられる。
【0148】
本発明によれば、組成を適切に調整することによって、優れた透明性、耐熱性、低吸水性を示し、かつ、複屈折性や波長分散性を自在にコントロールした環状オレフィン系重合体を製造するための前駆体モノマーとして有用な、新規な環状オレフィン系開環(共)重合−水素化体を提供することができる。
【0149】
実施例
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0150】
なお、以下の実施例において、原料となるRuHCl(CO)(PPh3)3 は文献に従っ
て合成した (N., Ahmad, et al., Inorg. Synth., 15, 45(1974))。また、水酸化カリウム、n−ブタノール、メタノール、安息香酸などは和光純薬工業(株)製を窒素バブリングし、溶存酸素や水分などを減少させた上で使用した。また、生成錯体の同定は下記の分析機器によって行った。
(1)1H−NMR、31P−NMR:
重クロロホルムを溶媒とし、BRUKER社製「AVANCE500」によって測定した。
(2)IR:
日本分光社製「FT/IR-480 Plus」によって測定した。
【実施例1】
【0151】
<RuH(OCOPh)(CO)(PPh3)2の合成>
窒素雰囲気下、RuHCl(CO)(PPh3)3 18.0g(18.9mmol)に、水
酸化カリウム(7.42g,132.3mmol)のn−ブタノール溶液210mLを加えて、125℃で1時間加熱還流した。ここで用いたRuHCl(CO)(PPh3)3の、2
0℃におけるトルエンへの溶解度は0.03重量%であった。
【0152】
続いて安息香酸(23.1g,189.0mmol)のn−ブタノール溶液73mLを添加した後、1時間加熱還流することにより、黄白色の粉状の生成物が析出した。反応液を室温まで冷却した後、固体粉末を冷メタノール100mL(0℃)で洗浄を行い、生成固体を上澄みから濾別した。これをさらに水50mLおよび冷メタノール(0℃)200mLで洗浄した後、減圧下で乾燥することにより、目的物が得られた(13.9g,18.0mmol,収率95%)。
【0153】
得られた生成物を1H-NMRにて分析した結果、7.0〜7.1ppmのカルボン酸に結合した芳香族上の不飽和炭化水素の領域と、7.2〜7.6ppmのトリフェニルホスフィンの不飽和炭化水素の積分比が5:30となり、理論値と良好な一致をみた。また、31P-NMRにて分析した結果、45.3ppmにトリフェニルホスフィンのピークがシ
ングレットで検出された。さらに、IRの測定により、2011cm-1(Ru-H),1
938cm-1(CO),1520cm-1(金属配位のカルボン酸残基)に吸収が観測され、目的化合物であるRuH(OCOPh)(CO)(PPh3)2が形成されていることが確認できた。得られたルテニウムヒドリド錯体の1H-NMRスペクトルを図1に、31P-NMR
スペクトルを図4に、IRスペクトルを図7に示す。また、得られたルテニウムヒドリド錯体の、20℃におけるトルエンへの溶解度は0.5重量%であった。
【実施例2】
【0154】
<RuH(OCOPh-C511)(CO)(PPh3)2の合成>
安息香酸に代えてn−ペンチル安息香酸を用いたこと以外は、実施例1と同様の反応操作を行い、対応する生成物が得られた(13.8g,16.3mmol,収率86%)。生成物を1H-NMRにて分析した結果、0.8〜2.5ppmの飽和炭化水素の領域と、6.7〜7.6ppmの不飽和炭化水素の領域の積分比が11:34となり、理論値と良好な一致をみた。また、31P-NMRにて分析した結果、45.2ppmにトリフェニル
ホスフィンのピークがシングレットで検出された。さらに、IRの測定により、2012cm-1 (Ru-H), 1913cm-1 (CO), 1541cm-1(金属配位のカルボン酸残
基)に吸収が観測され、目的化合物であるRuH(OCOPh-C511)(CO)(PPh3)2が形成されていることが確認できた。得られたルテニウムヒドリド錯体の1H-NMRスペクトルを図2に、31P-NMRスペクトルを図5に、IRスペクトルを図8に示す。また
、得られたルテニウムヒドリド錯体の、20℃におけるトルエンへの溶解度は1.0重量%であった。
【実施例3】
【0155】
<RuH(OCOPh-C817)(CO)(PPh3)2の合成>
安息香酸に代えてn−オクチル安息香酸を用いたこと以外は、実施例1と同様の反応操作を行い、対応する生成物が得られた(13.6g,15.3mmol,収率81%)。生成物を1H-NMRにて分析した結果、0.8〜2.5ppmの飽和炭化水素の領域と、6.7〜7.6ppmの不飽和炭化水素の領域の積分比が17:34となり、理論値と良好な一致をみた。また、31P-NMRにて分析した結果、45.2ppmにトリフェニル
ホスフィンのピークがシングレットで検出された。さらに、IRの測定により、2014cm-1 (Ru-H),1934cm-1 (CO),1546cm-1(金属配位のカルボン酸残
基)に吸収が観測され、目的化合物であるRuH(OCOPh-C817)(CO)(PPh3)2が形成されていることが確認できた。得られたルテニウムヒドリド錯体の1H-NMRスペクトルを図3に、31P-NMRスペクトルを図6に、IRスペクトルを図9に示す。また
、得られたルテニウムヒドリド錯体の、20℃におけるトルエンへの溶解度は5.0重量%であった。
【実施例4】
【0156】
<環状オレフィン系開環重合体の調製>
8-メチル-8-メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン250部と、1−ヘキセン(分子量調節剤)18部と、トルエン750部とを窒素置換した反応容器に仕込み、この溶液を80℃に加熱した。次いで、反応容器内の溶液に、重合触媒としてトリエチルアルミニウム(1.5mol/L)のトルエン溶液0.62部と
、t−ブタノールおよびメタノールで変性した六塩化タングステン(t−ブタノール:メタノール:タングステン=0.35mol:0.3mol:1mol)のトルエン溶液(濃度0.05mol/L)3.7部とを添加し、この系を80℃で3時間加熱攪拌するこ
とにより開環共重合反応させて、8-メチル-8-メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンの開環メタセシス重合体溶液を得た。この重合反応における重合転化率は97%であった。
<水素化>
上記で得た開環重合体溶液1000部をオートクレーブに仕込み、この開環重合体溶液
に、水素化触媒として、実施例1で得たルテニウムヒドリド錯体の0.5重量%トルエン溶液を、錯体添加量が0.06部となる量(12部)を添加し、水素ガス圧100kg/
cm2、反応温度165℃の条件下で、3時間加熱攪拌して水素添加反応を行った。得ら
れた反応溶液(水素添加重合体溶液)を冷却した後、水素ガスを放圧した。この反応溶液を大量のメタノール中に注いで凝固物を分離回収し、これを乾燥して、水素添加重合体を得た。このポリマーを1H-NMRにて測定し、0.6〜2.5ppmの飽和炭化水素の積分値と5.0〜5.6ppmの不飽和炭化水素の積分値の比から、水素化率を求めたところ、水素化率は99.99%であった。
【実施例5】
【0157】
実施例4において、水素化反応に用いる水素添加触媒として、実施例1で得たルテニウムヒドリド錯体の0.5重量%トルエン溶液に代えて、実施例2で得たルテニウムヒドリド錯体の1.0重量%トルエン溶液を、錯体添加量が0.06部となる量(6部)用いたことの他は、実施例4と同様にして、8-メチル-8-メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンの開環メタセシス重合体の水素化を行い、水素添加重合体を得た。得られた水素添加重合体の水素化率を実施例4と同様に求めたところ、99.95%であった。
【実施例6】
【0158】
実施例4において、水素化反応に用いる水素添加触媒として、実施例1で得たルテニウムヒドリド錯体の0.5重量%トルエン溶液に代えて、実施例3で得たルテニウムヒドリド錯体の5.0重量%トルエン溶液を、錯体添加量が0.06部となる量(1.2部)用いたことの他は、実施例4と同様にして、8-メチル-8-メトキシカルボニルテトラシク
ロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンの開環メタセシス重合体の水素化を行い、水
素添加重合体を得た。得られた水素添加重合体の水素化率を実施例4と同様に求めたところ、99.90%であった。
【0159】
比較例1
実施例4において、水素化反応に用いる水素添加触媒として、実施例1で得たルテニウムヒドリド錯体の0.5重量%トルエン溶液に代えて、カルボン酸変性していないルテニウム錯体であるRuHCl(CO)(PPh3)3の0.03重量%トルエン溶液を、錯体添加量が0.06部となる量(200部)用いたことの他は、実施例4と同様にして、8-メ
チル-8-メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンの開
環メタセシス重合体の水素化を行い、水素添加重合体を得た。得られた水素添加重合体の水素化率を実施例4と同様に求めたところ、99.75%であった。
【実施例7】
【0160】
8-メチル-8-メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン250部に代えて、8-メチル-8-メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.
7,10]−3−ドデセン187.5部とトリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカ−3,8
−ジエン62.5部を用いたこと以外は、実施例4と同様の重合操作を行い、開環共重合体溶液を得た。この重合反応における重合転化率は98%であった。
【0161】
このようにして得られた開環共重合体溶液1000部をオートクレーブに仕込み、この開環共重合体溶液に、実施例2で得たルテニウムヒドリド錯体の1.0重量%トルエン溶液を、錯体添加量が0.06部となる量(6部)添加し、水素ガス圧100kg/cm2、反応温度165℃の条件下で、3時間加熱攪拌して水素添加反応を行った。得られた反応溶液(水素添加重合体溶液)を冷却した後、水素ガスを放圧した。この反応溶液を大量のメタノール中に注いで凝固物を分離回収し、これを乾燥して、水素添加重合体を得た。このポリマーを1H-NMRにて測定し、0.6〜2.5ppmの飽和炭化水素の積分値と5.0〜5.6ppmの不飽和炭化水素の積分値の比から、水素化率を求めた。その結果、トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカ−3,8−ジエンの側鎖に由来する不飽和二重結合の水素化率は99.99以上%、共重合体の主鎖の水素化率は99.97%と、高い水素化率が達成されていることが判明した。
【実施例8】
【0162】
8-メチル-8-メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン250部に代えて、8-メチル-8-メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.
7,10]−3−ドデセン 190部 と スピロ[フルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12.5]デカ−3−エン] 60部 を用いたこと以外は、実施例4と同様の重合操作を行い、開環共重合体溶液を得た。この重合反応における重合転化率は96%であった。
【0163】
このようにして得られた開環共重合体溶液1000部をオートクレーブに仕込み、この開環共重合体溶液に、実施例2で得たルテニウムヒドリド錯体の1.0重量%トルエン溶液を、錯体添加量が0.06部となる量(6部)添加し、水素ガス圧100kg/cm2、反応温度165℃の条件下で、3時間加熱攪拌して水素添加反応を行った。得られた反応溶液(水素添加重合体溶液)を冷却した後、水素ガスを放圧した。この反応溶液を大量のメタノール中に注いで凝固物を分離回収し、これを乾燥して、水素添加重合体を得た。このポリマーを1H-NMRにて測定し、0.6〜2.5ppmの飽和炭化水素の積分値と5.0〜5.6ppmの不飽和炭化水素の積分値の比から、水素化率を求めた。その結果、共重合体の主鎖の水素化率は99.93%であった。触媒として、RuHCl(CO)(PPh3)3を用いて同様な操作を行った場合には、水素化率は99.30%であったことから、本触媒を用いることにより、高い水素化率が達成されていることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】図1は、実施例1で得たルテニウムヒドリド錯体の1H-NMRスペクトルを示す。
【図2】図2は、実施例2で得たルテニウムヒドリド錯体の1H-NMRスペクトルを示す。
【図3】図3は、実施例3で得たルテニウムヒドリド錯体の1H-NMRスペクトルを示す。
【図4】図4は、実施例1で得たルテニウムヒドリド錯体の31P-NMRスペクトルを示す。
【図5】図5は、実施例2で得たルテニウムヒドリド錯体の31P-NMRスペクトルを示す。
【図6】図6は、実施例3で得たルテニウムヒドリド錯体の31P-NMRスペクトルを示す。
【図7】図7は、実施例1で得たルテニウムヒドリド錯体のIRスペクトルを示す。
【図8】図8は、実施例2で得たルテニウムヒドリド錯体のIRスペクトルを示す。
【図9】図9は、実施例3で得たルテニウムヒドリド錯体のIRスペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とする金属ヒドリド錯体。
MQnkpq・・・(1)
(式(1)中、Mは、ルテニウム、ロジウム、オスミウムおよびイリジウムからなる群より選ばれる金属を示し、
Qは、独立に下記式(i)で表される基を示し、
Tは、独立にCOまたはNOを示し、
Zは、独立にPR678(R6、R7およびR8は、それぞれ独立にアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を示す。)を示し、
kは1または2を示し、nは1または2を示し、pは0〜4の整数を示し、qは0〜4の整数を示し、かつ、k、n、p、qの合計は4、5または6である。)
【化1】

(式(i)中、R1〜R5は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基またはヒドロキシル基を示す。)
【請求項2】
上記式(1)中のMがルテニウムであることを特徴とする請求項1に記載の金属ヒドリド錯体。
【請求項3】
上記式(i)中のR1〜R5が、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属ヒドリド錯体。
【請求項4】
20℃でのトルエン溶解度が0.2重量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属ヒドリド錯体。
【請求項5】
20℃でのトルエン溶解度が1.0重量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属ヒドリド錯体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の金属ヒドリド錯体の存在下に、環状オレフィン系開環重合体の水素化反応を行うことを特徴とする環状オレフィン系開環重合体の水素化方法。
【請求項7】
環状オレフィン系開環重合体が、下記一般式(I)、(II)または(III)で表される化合物から選ばれる1種以上を含む単量体の開環(共)重合体であることを特徴とする請求項6に記載の環状オレフィン系開環重合体の水素化方法。
【化2】

【化3】

【化4】

(式(I)、(II)または(III)中、R1〜R6 は、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30の炭化水素基、またはエステル基、ニトリル基、ニトロ基、などの1価の有機基であり、それぞれ同一または異なっていてもよい。R1とR2またはR3 とR4は、
一体化して2価の炭化水素基を形成しても良く、R1またはR2とR3またはR4とは互いに結合して、単環または多環構造を形成してもよい。m、p、およびqは、それぞれ独立に、0または正の整数である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−1967(P2007−1967A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−276253(P2005−276253)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】