説明

金属ピリチオン・金属酸化物複合化合物および/または金属ピリチオン・金属水酸化物複合化合物の製造方法

【課題】
従来の金属ピリチオン・金属酸化物および/または金属ピリチオン・金属水酸化物複合化合物製造方法では、生成する金属酸化物または金属水酸化物の粒度の制御が容易でないため、必ずしも安定して金属ピリチオンに対して金属酸化物、金属水酸化物が高い比率で結合しているか、または担持されている製品を得ることができなかった。
【解決手段】
金属ピリチオン・金属酸化物および/または金属ピリチオン・金属水酸化物複合化合物製造工程の反応液に溶媒としてアルコール、添加剤として界面活性剤を用い、または加熱するという操作の1種または2種以上の組み合わせにより、反応液の表面張力が低下する結果、安定して金属ピリチオンに対して金属酸化物、金属水酸化物が高い比率で結合しているか、または担持されている製品が得られるようになった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ピリチオン・金属酸化物複合化合物および/または金属ピリチオン・金属水酸化物複合化合物の製造方法に関する。さらに詳しくは、金属ピリチオンと金属酸化物または金属水酸化物の結合比が安定して高く得られる金属ピリチオン・金属酸化物複合化合物および/または金属ピリチオン・金属水酸化物複合化合物の製造方法に関する。さらには金属ピリチオン・金属酸化物複合化合物および/または金属ピリチオン・金属水酸化物複合化合物が粉末またはその水懸濁液である製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者の先行発明であるWO 2005/040122号公報には、新規ピリチオン複合化合物、その製造方法およびその用途が開示されている。本発明の複合化合物である金属ピリチオン・金属酸化物複合化合物および/または金属ピリチオン・金属水酸化物複合化合物は、上記のWO 2005/040122号公報の新規ピリチオン複合化合物の範囲に含まれる。またその製造方法は、アルカリピリチオン水溶液に可溶性金属塩の水溶液と水酸化アルカリを加えて、pH9〜12で反応させ、またpH8〜10で熟成させ、析出物を採取する方法である。
【特許文献1】WO 2005/040122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
然るにWO 2005/040122号公報記載の製造方法では、工程中で生成する金属酸化物および/または金属水酸化物の形状を確実に制御することが容易でないため、金属ピリチオンと金属酸化物または金属水酸化物の結合比が必ずしも安定して高く得られないという欠点があった。複合化合物が得られる条件は、一定量以上の金属酸化物または金属水酸化物が非晶質か、非常に微小な粒子の状態で存在していることが必要であり、その条件下で金属ピリチオンと反応して結合するか、または担持される。それはクロロホルム抽出により単離した金属ピリチオン・金属酸化物または水酸化物複合化合物のX線回折チャートが実質金属ピリチオンの回折角ピークしか示さないことで裏づけられる。さらに特表2002−521339号公報には、金属酸化物または金属水酸化物を芯として、その表面に金属ピリチオンを殻とする複合体が開示されている。このように一般に用いられている市販金属酸化物と金属ピリチオンとの反応では金属酸化物の粒子が大きいため、実質的に複合化合物が形成されない。
【特許文献2】特表2002−521339号公報
【0004】
本発明者は、本発明者の先行特許出願WO 2005/040122号公報記載の製造方法と同じpH条件で市販の微粒酸化亜鉛(平均粒子径0.03μm)と市販亜鉛ピリチオン粉末の水懸濁液を加熱処理したところ、安定的に高い酸化亜鉛比率を有する複合体が得られることを見出した。このことは明らかに複合化合物の生成には非常に粒子の小さい酸化亜鉛の存在が必要であることを示している。しかしこの方法では、確実に高い酸化亜鉛結合比率を有する複合体が得られる半面、高価な化粧品用微粒酸化亜鉛と亜鉛ピリチオン粉末を使用するため、製造コストが高くなる問題点がある。したがって安定的に高い金属酸化物または水酸化物の結合比率を有する金属ピリチオン複合化合物を得ることができ、且つ経済的な製造方法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、低級アルコールや界面活性剤の使用、また加熱によって反応液中の表面張力を下げることにより、安定して高い金属酸化物および/または金属水酸化物の結合比率が得られ、且つ経済的な金属ピリチオン・金属酸化物複合化合物および/または金属ピリチオン・金属水酸化物複合化合物が得られることを見出した。
即ち、本発明は、
(1)一般式(I)
M(Py)・nMQ (I)
(式中MはZnまたはCuを、Pyは2−ピリジルチオ−N−オキサイドを、nは0<n≦1を、QはOまたは(OH)を表す。)
で示される金属ピリチオン・金属酸化物複合化合物および/または金属ピリチオン・金属水酸化物複合化合物を製造するにあたり、pH8〜13のアルコール水中で水溶性亜鉛塩または銅塩と苛性アルカリまたはアンモニウムから酸化亜鉛および/または水酸化亜鉛、または酸化銅(II)および/または水酸化銅(II)を生成させ、その工程の前または後でナトリウムピリチオンと水溶性亜鉛塩または銅塩から生成させた亜鉛または銅ピリチオンとの反応によって、または上記工程の後で加えた亜鉛ピリチオンまたは銅ピリチオンとの反応によって目的物を得る製造方法、
(2)(1)のアルコールがメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールの1種または2種以上である一般式(I)の金属ピリチオン・金属酸化物複合化合物および/または金属ピリチオン・金属水酸化物複合化合物の製造方法、
(3)一般式(I)
M(Py)・nMQ (I)
(式中MはZnまたはCuを、Pyは2−ピリジルチオ−N−オキサイドを、nは0<n≦1を、QはOまたは(OH)を表す。)
で示される金属ピリチオン・金属酸化物複合化合物および/または金属ピリチオン・金属水酸化物複合化合物を製造するにあたり、pH8〜13の水中で界面活性剤を添加して水溶性亜鉛塩または銅塩と苛性アルカリから酸化亜鉛および/または水酸化亜鉛、または酸化銅(II)および/または水酸化銅(II)を生成させ、その工程の前または後でナトリウムピリチオンと水溶性亜鉛塩または銅塩から生成させた亜鉛または銅ピリチオンとの反応によって、または上記工程の後で加えた亜鉛ピリチオンまたは銅ピリチオンとの反応によって目的物を得る製造方法、
(4)(3)の界面活性剤がノニオン性、カチオン性、両性界面活性剤のいずれかである一般式(I)の金属ピリチオン・金属酸化物複合化合物および/または金属ピリチオン・金属水酸化物複合化合物の製造方法、
(5)一般式(I)
M(Py)・nMQ (I)
(式中MはZnまたはCuを、Pyは2−ピリジルチオ−N−オキサイドを、nは0<n≦1を、QはOまたは(OH)を表す。)
で示される金属ピリチオン・金属酸化物複合化合物および/または金属ピリチオン・水酸化物複合化合物を製造するにあたり、pH8〜13の水中で水溶性亜鉛塩または銅塩と苛性アルカリを40℃以上で撹拌して酸化亜鉛および/または水酸化亜鉛、または酸化銅(II)および/または水酸化銅(II)を生成させ、次いでナトリウムピリチオンと水溶性亜鉛塩または銅塩から生成させた亜鉛または銅ピリチオンとの反応によって、または上記工程の後で加えた亜鉛ピリチオンまたは銅ピリチオンとの反応によって目的物を得る製造方法、
(6)得られた目的物が、粉末またはその水懸濁液である(1)、(3)および(5)の製造方法、
である。
【0006】
本発明の製造方法によれば、一般式(I)で示される金属ピリチオン・金属酸化物複合化合物および/または金属ピリチオン・金属水酸化物複合化合物の金属ピリチオン1モルに対し金属酸化物または金属水酸化物が0.1〜1モル結合した複合化合物が得られるので、複合化合物による微生物活性の増強効果や海水への溶解度低減効果が得られる。
また本発明の製造方法によれば、金属ピリチオン生成の前工程および後工程で金属酸化物および/または金属水酸化物が非晶質または結晶が微小な段階でとどまるよう制御して金属ピリチオンと反応させるため、金属ピリチオンと金属酸化物および/または金属水酸化物との結合、または金属ピリチオンによる金属酸化物および/または水酸化物との担持が確実に実現する。
【0007】
金属ピリチオン生成の前工程および後工程で金属酸化物および/または金属水酸化物が非晶質または結晶が微小な段階でとどまるよう制御するには、可溶性金属塩の水溶液をpH8〜13、金属酸化物の場合好ましくはpH9〜13、金属水酸化物の場合好ましくはpH8〜9のアルカリ条件下で苛性アルカリまたはアンモニウムと反応させて金属酸化物および/または水酸化物を生成させる必要がある。さらに反応液の表面張力を低下させるため、溶媒としてメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、グリセリン等の水溶性アルコールまたはこれらのアルコールと水との混合溶液を用いる。あるいは反応溶媒としてアルコールを使用しなくても、上記のアルカリ条件下で水溶液に界面活性剤を添加するか、および/または水溶液を加熱することにより、表面張力を低下させることができ、所望の非晶質または微小結晶の金属酸化物または金属水酸化物を得ることができる。
【0008】
本発明の製造法で用いられる水可溶性金属塩としては、例えば硫酸亜鉛、硫酸銅、硝酸亜鉛、硝酸銅、塩化亜鉛、塩化銅、酢酸亜鉛、酢酸銅、シュウ酸亜鉛、シュウ酸銅等が挙げられる。また苛性アルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。本発明の製造方法で金属酸化物を生成させる場合は苛性アルカリが好ましく、金属水酸化物を生成させる場合はアンモニウム(アンモニア水)が好ましい。
【0009】
本発明の製造方法に用いられる金属ピリチオンとしては、例えば水可溶性のナトリウムピリチオン、カリウムピリチオン、アンモニウムピリチオン、水難溶性の亜鉛ピリチオン、銅ピリチオンが挙げられる。このなかでは、市販品として入手可能なナトリウムピリチオン、亜鉛ピリチオンおよび銅ピリチオンが好適である。
【0010】
上記本発明の製造方法で反応溶媒としてアルコールと水との混合溶液を用いる場合、溶液の表面張力を低下させ、所望のグレードの金属酸化物または水酸化物を得るためには、アルコール濃度が10%以上必要で、30%以上が好ましい。また界面活性剤を用いる場合には、ノニオン性、アニオン性、カチオン性、両性界面活性剤のうち、表面張力低下効果の大きいノニオン性、カチオン性、両性界面活性剤を用いるのが好ましい。例えばノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、同モノオレエート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリド、またカチオン性界面活性剤としては、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、また両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。界面活性剤は、反応液に対し0.001〜2%、好ましくは0.01〜0.5%添加される。さらに反応液の温度を上げることにより、表面張力を下げることができる。この場合の反応液の温度は40〜100℃、好ましくは60℃以上である。反応溶液がアルコールまたはアルコールと水の混合溶液である場合も所望により界面活性剤を添加してもよく、また反応液の温度を高くしてもよい。
【0011】
本発明の製造方法で金属酸化物および/または金属水酸化物を生成させる反応はできるだけ短時間のうちに、しかも撹拌して行うのが望ましい。反応時間が長い場合、撹拌を行わない場合、生成した金属酸化物および/または金属水酸化物の結晶が成長して大きくなる結果、所望の複合化合物が十分に得られない。金属酸化物および/または金属水酸化物を生成させる工程の時間は温度にもよるが、原料溶液の滴下時間を含め10分〜1時間、好ましくは30分以内が適当である。また金属ピリチオン生成工程、複合化合物生成および熟成工程を加えた全反応工程の時間は、結晶が過大に成長しないよう3時間以内に終えるのが好ましい。
【0012】
微小粒子の金属酸化物、例えば平均粒子径が0.02〜0.15μmの微粒酸化亜鉛を水懸濁液中10〜90℃、好ましくは60℃以上、pH10〜13のアルカリ条件下で亜鉛ピリチオンと撹拌することにより、亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合体を得ることができる。既に微小粒子の酸化亜鉛が存在しているため、確実に複合体を得ることができる有利さがあるが、高価な化粧品グレードの微粒酸化亜鉛を使用しなくてはならない点で、可溶性金属塩から非晶質または微小粒子酸化亜鉛を製造する方法と比べ、製造コストが高くなる不利がある。
【0013】
本発明の製造法のもう一つの利点は、酸化亜鉛のみならず、亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物についても細かな粒子のものが得られる結果、分散安定性のよい水懸濁液製剤が得られることである。亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物と酸化亜鉛からなる沈殿物をろ過、必要により水洗浄して得られたウエット状固形物を所定の濃度になるよう水で希釈して得られた水懸濁液製剤は、優れた微生物活性と分散性を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の金属ピリチオン・金属酸化物および/または金属ピリチオン・金属水酸化物複合化合物製造方法は、アルコール水または水中で金属酸化物または水酸化物を非晶質または微小粒子の状態で生成維持し、金属ピリチオンと反応させるので、金属ピリチオンに対し高い結合比率を有する複合化合物または高い担持比率を有する複合体を確実に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0016】
1Lフラスコに硫酸亜鉛7水和物43.2g(0.15モル)をエタノール215mL、水345mLの混合溶液に溶かし透明溶液を得た。別に200mLフラスコに93%水酸化ナトリウム14.1g(0.33モル)をエタノール100mL、水50mLの混合溶液に溶かし、これを硫酸亜鉛エタノール水溶液に滴下して酸化亜鉛を生じさせ、80℃で30分撹拌した。白濁液を冷却後、40%ナトリウムピリチオン水溶液111.9g(0.3モル)、水50mLに93%水酸化ナトリウム5.1g(0.12モル)を溶かした溶液を加え、さらに水150mLに溶かした硫酸亜鉛7水和物34.5g(0.12モル)を滴下して、濃塩酸19mLでpHを9.5に調整し、80℃で1時間撹拌熟成した。冷却後、No.2ろ紙でろ過したろ過残を600mLの水に戻して水洗ろ過する操作を2回行い、さらに300mLの水でろ過残を洗浄した。得られた湿り白色固体を50℃で5時間乾燥し、粉砕して得られた白色粉末の得量は56.1gであった。
白色粉末800mgを1Lフラスコに入れたクロロホルム600mLに溶かし、メンブランフィルターでろ過した後、クロロホルムを留去して得られた留去残は680mg、クロロホルム溶液からのろ過残は130mgであった。
上記白色粉末とクロロホルム留去残についてX線回折分析を行った結果、白色粉末の分析チャートには亜鉛ピリチオンと酸化亜鉛の回折角ピークが、クロロホルム留去残の分析チャートには亜鉛ピリチオンのみの回折角ピークが認められた。また同じ試料を用いて蛍光X線分析を行った結果、クロロホルム留去残の亜鉛含量は、硫黄測定値を基準として亜鉛ピリチオンの約1.14倍に相当する値が得られた。即ち亜鉛ピリチオン(エーピーアイコーポレーション株式会社製)1モルに対し、酸化亜鉛が約0.14モル結合した亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物が得られたことを示している。
【実施例2】
【0017】
500mLフラスコで硫酸亜鉛7水和物14.4g(0.05モル)を水200mLに溶解し、水50mLに溶かした93%水酸化ナトリウム4.7g(0.11モル)を滴下し、白濁した液を80℃で30分撹拌した。次いで100mLのビーカーに40%ナトリウムピリチオン水溶液37.3g(0.1モル)、20mLの水に93%水酸化ナトリウム1.7g(0.04モル)を溶かした水溶液、硫酸亜鉛7水和物11.5g(0.4モル)を加え、塩酸でpHを9.5に調整して80℃で1時間撹拌した。
冷却後No.2ろ紙でろ過し、200mLの水に戻して水洗ろ過する操作を3回行った後、ろ過して得た湿り白色固体を50℃で5時間乾燥粉砕して18.9gの白色粉末を得た。
この白色粉末800mgを1Lフラスコに入れたクロロホルム600mLに溶かし、メンブランフィルターでろ過した後、クロロホルムを留去して得られた留去残は650mg、クロロホルム溶液からのろ過残は120mgであった。
上記白色粉末とクロロホルム留去残についてX線回折分析を行った結果、白色粉末の分析チャートには亜鉛ピリチオンと酸化亜鉛の回折角ピークが、クロロホルム留去残の分析チャートには亜鉛ピリチオンのみの回折角ピークが認められた。また同じ試料を用いて蛍光X線分析を行った結果、クロロホルム留去残の亜鉛含量は、硫黄測定値を基準として亜鉛ピリチオン(エーピーアイコーポレーション株式会社製)の約1.15倍に相当する値が得られた。即ち亜鉛ピリチオン1モルに対し、酸化亜鉛が約0.15モル結合した亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物が得られたことを示している。
【実施例3】
【0018】
全液量の0.2%相当のノニオン性界面活性剤Tween80を最初に添加したことと、硫酸亜鉛水溶液を当初から80℃に加熱したこと以外、実施例2と同様の操作方法、手順、条件で合成を行った結果19.5gの白色粉末を得た。
この白色粉末800mgを取って同様にクロロホルム抽出を行った結果、クロロホルム留去残は660mg、ろ過残は120mgであった。次いでクロロホルム留去残について、蛍光X線分析を行った結果、クロロホルム留去残の亜鉛含量は、硫黄測定値を基準として亜鉛ピリチオンの約1.30倍であった。即ち亜鉛ピリチオン1モルに対し、酸化亜鉛が約0.30モル結合した亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物が得られたことを示している。
【参考例1】
【0019】
亜鉛ピリチオン(エーピーアイコーポレーション株式会社製)5.0gと超微粒酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製「FINEX−30」(平均粒子径0.035μm)1.2gを500mLフラスコに入れた水150mLに加え、1%水酸化ナトリウム水溶液でpHを9.5に調整した後、80℃に維持して60分間撹拌した。冷却後No.2ろ紙でろ過し、ろ液が澄明になるまで、3回水戻し洗いとろ過を繰り返した。得られた固体を50℃で5時間乾燥し、5.7gの白色粉末を得た。
この白色粉末の800mgを2回取って、それぞれ1Lのフラスコに入れたクロロホルム600mLに加え、60℃で60分撹拌した後、メンブランフィルターでろ過したところ、ろ過残は第1回目150mg、第2回目130mg、留去残は第1回目640mg、第2回目650mgであった。
さらにこのろ過残と留去残について、第1回目のものを1回、第2回目のものを2回、計3回蛍光X線分析を行った結果、ろ過残については実質的に亜鉛のみで、亜鉛ピリチオン由来の硫黄は確認できなかった。また留去残については、亜鉛ピリチオン中に含まれる硫黄との対比から、亜鉛ピリチオン(エーピーアイコーポレーション株式会社製)の亜鉛含量の1.34倍(3回平均値)の亜鉛が含まれていた。これから亜鉛ピリチオンに対しモル比で34%の酸化亜鉛が担持されたと推定できる。
【参考例2】
WO 2005/040122号公報実施例2
【0020】
ナトリウムピリチオン1モル水溶液41.5mLと水酸化ナトリウム2モル水溶液50mLを合わせて300mL三角フラスコに入れ、20℃に保って硫酸亜鉛7水和物120g(ナトリウムピリチオンと等モル量)を含む水溶液120mLを70分滴下したところ、白濁を生じた。この液に濃塩酸5mLを加えてpHを9.5に調整し、さらに1時間半撹拌し、次いで90〜100℃に昇温して1時間半撹拌した。反応液をNO.2ろ紙でろ過し、得られた固体をさらに100mLの水を含む200mLのビーカーに戻し、同様に100mLの水で3回デカンテーションを繰り返したNo.2ろ紙で得られた固体を50℃で5時間乾燥し、粉砕して7.4gの白色粉末を得た。
この白色粉末800mgを1Lフラスコに入れたクロロホルム600mLに溶かし、メンブランフィルターでろ過した後、クロロホルムを留去して得られた留去残は640mg、クロロホルム溶液からのろ過残は150mgであった。
上記白色粉末とクロロホルム留去残についてX線回折分析を行った結果、白色粉末の分析チャートには亜鉛ピリチオンと酸化亜鉛の回折角ピークが、クロロホルム留去残の分析チャートには亜鉛ピリチオンのみの回折角ピークが認められた。また同じ試料を用いて蛍光X線分析を行った結果、クロロホルム留去残の亜鉛含量は、硫黄測定値を基準として亜鉛ピリチオン(エーピーアイコーポレーション株式会社製)の約1.24倍に相当する値が得られた。即ち亜鉛ピリチオン1モルに対し、酸化亜鉛が約0.24モル結合した亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物が得られたことを示している。
【実施例4】
【0021】
実施例3の硫酸亜鉛7水和物の代わりに塩化銅(II)2水和物8.5g(0.05モル)を用いた以外、実施例3と同様にして合成を行い、暗緑色粉末11.5gを得た。
この暗緑色粉末800mgを1Lフラスコに入れたクロロホルム600mLに溶かし、メンブランフィルターでろ過した後、クロロホルムを留去して得られた留去残は680mg、クロロホルム溶液からのろ過残は120mgであった。
上記暗緑色粉末とクロロホルム留去残についてX線回折分析を行った結果、暗緑色粉末の分析チャートには銅ピリチオンと酸化銅(II)の回折角ピークが、クロロホルム留去残の分析チャートには銅ピリチオンのみの回折角ピークが認められた。また同じ試料を用いて蛍光X線分析を行った結果、クロロホルム留去残の銅含量は、硫黄測定値を基準として銅ピリチオン(エーピーアイコーポレーション株式会社製)の約1.35倍に相当する値が得られた。即ち銅ピリチオン1モルに対し、酸化銅(II)が約0.35モル結合した銅ピリチオン・酸化銅(II)複合化合物が得られたことを示している。
【実施例5】
【0022】
実施例1と同様の条件で再合成し、合成物をろ過後水洗浄することなく水を加えて1Lの水懸濁液とした。この水懸濁液は約4.7%の亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物と約1.0%の酸化亜鉛を含んでいると推定される。一方対照として実施例1で得られた白色粉末6.0gを含む水懸濁液100mLを調製した。この対照水懸濁液は、約5.0gの亜鉛ピリチオン・酸化亜鉛複合化合物と約1.0gの酸化亜鉛を含んでいると推定される。
この両者の水懸濁液にそれぞれ100mLあたり0.1gのカルボキシメチルセルロースを添加し、製剤の分散安定性および再分散性をチェックした。
前者の合成物をろ過して得た水懸濁液が層分離を起こすまでの時間は15分、複合化合物と酸化亜鉛の分画線を有する沈殿を形成する時間は1時間以上、後者の白色粉末水懸濁液が層分離を起こすまでの時間は8分、複合化合物と酸化亜鉛の分画線を有する沈殿を形成する時間は40分と前者の分散性が優れていた。また再分散性については、前者が容器の2〜3回程度の振とうで容易に再分散するのに対し、後者は容器をそれ以上さらに数回振とうする必要があった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の金属ピリチオン・金属酸化物および/または金属ピリチオン・金属水酸化物複合化合物製造方法を用いることにより、金属ピリチオンに対して金属酸化物が高い比率で結合しているか、または担持されている製品を安定して製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
M(Py)・nMQ (I)
(式中MはZnまたはCuを、Pyは2−ピリジルチオ−N−オキサイドを、nは0<n≦1を、QはOまたは(OH)を表す。)
で示される金属ピリチオン・金属酸化物複合化合物および/または金属ピリチオン・水酸化物複合化合物を製造するにあたり、pH8〜13のアルコール水中で水溶性亜鉛塩または銅塩と苛性アルカリまたはアンモニウムから酸化亜鉛および/または水酸化亜鉛、または酸化銅(II)および/または水酸化銅(II)を生成させ、その工程の前または後でナトリウムピリチオンと水溶性亜鉛塩または銅塩から生成させた亜鉛または銅ピリチオンとの反応によって、または上記工程の後で加えた亜鉛ピリチオンまたは銅ピリチオンとの反応によって目的物を得る製造方法。
【請求項2】
請求項1のアルコールがメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールの1種または2種以上である一般式(I)の金属ピリチオン・金属酸化物複合化合物および/または金属ピリチオン・水酸化物複合化合物の製造方法。
【請求項3】
一般式(I)
M(Py)・nMQ (I)
(式中MはZnまたはCuを、Pyは2−ピリジルチオ−N−オキサイドを、nは0<n≦1を、QはOまたは(OH)を表す。)
で示される金属ピリチオン・金属酸化物複合化合物および/または金属ピリチオン・水酸化物複合化合物を製造するにあたり、pH8〜13の水中で界面活性剤を添加して水溶性亜鉛塩または銅塩と苛性アルカリから酸化亜鉛および/または水酸化亜鉛、または酸化銅(II)および/または水酸化銅(II)を生成させ、その工程の前または後でナトリウムピリチオンと水溶性亜鉛塩または銅塩から生成させた亜鉛または銅ピリチオンとの反応によって、または上記工程の後で加えた亜鉛ピリチオンまたは銅ピリチオンとの反応によって目的物を得る製造方法。
【請求項4】
請求項3の界面活性剤がノニオン性、カチオン性、両性界面活性剤のいずれかである一般式(I)の金属ピリチオン・金属酸化物複合化合物および/または金属ピリチオン・水酸化物複合化合物の製造方法。
【請求項5】
一般式(I)
M(Py)・nMQ (I)
(式中MはZnまたはCuを、Pyは2−ピリジルチオ−N−オキサイドを、nは0<n≦1を、QはOまたは(OH)を表す。)
で示される金属ピリチオン・金属酸化物複合化合物および/または金属ピリチオン・水酸化物複合化合物を製造するにあたり、pH8〜13の水中で水溶性亜鉛塩または銅塩と苛性アルカリを40℃以上で撹拌して酸化亜鉛および/または水酸化亜鉛、または酸化銅(II)および/または水酸化銅(II)を生成させ、次いでナトリウムピリチオンと水溶性亜鉛塩または銅塩から生成させた亜鉛または銅ピリチオンとの反応によって、または上記工程の後で加えた亜鉛ピリチオンまたは銅ピリチオンとの反応によって目的物を得る製造方法。
【請求項6】
得られた目的物が、粉末またはその水懸濁液である請求項1、3および5の製造方法。

【公開番号】特開2009−155316(P2009−155316A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−341957(P2007−341957)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(502220115)有限会社 ワイエイチエス (7)
【Fターム(参考)】