説明

金属マグネシウムの存在下でボロン酸とボロン酸エステルを調製する方法

本発明は、金属マグネシウム(Mg0)の存在下で芳香族化合物をホウ化剤と反応させてボロン酸とボロン酸エステルを化学的に調製する方法に関する。本発明は、この方法によって得られるボロン酸およびボロン酸エステルと、それを例えば医薬またはエレクトロニクスの分野で鈴木反応において合成の中間体として使用することにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属マグネシウム(Mg0)の存在下で芳香族化合物をホウ化剤と反応させてボロン酸とボロン酸エステルを化学的に調製する方法に関する。
【0002】
本発明は、この方法によって得られるボロン酸およびボロン酸エステルと、それを例えば医薬またはエレクトロニクスの分野で鈴木反応において合成の中間体として使用することにも関する。
【0003】
以下の説明では、[]に入れた番号は、この明細書の末尾に示した参考文献を指している。
【背景技術】
【0004】
ボロン酸とボロン酸エステルは多くの分野で利用されており、そのさまざまな特性、特にその安定性と取り扱いの簡単さのため、特に興味深い反応中間体の1つのクラスとなっている。それに加え、ボロン酸は毒性が弱く、最終的に分解されてホウ酸になるため、“環境にやさしい”化合物と見なされている[1]。ボロン酸は特に医学と薬学の出願に記載されている。
【0005】
ボロン酸とボロン酸エステルがますます注目されている理由は、特に、金属を含む触媒の存在下で炭化水素基同士をカップリング反応させる際に広く利用されて炭素-炭素結合が作り出されることにある。カップリング反応のうちで鈴木反応が最もよく利用されると考えられる。鈴木反応により、対称な、または非対称なジアリール誘導体を得ることができる[2、3]。鈴木カップリング反応は多数の誘導体に関して報告されていて多くの出願があり、穏和かつ多彩な条件で実行される。
【0006】
この分野における主要な問題の1つは、このカップリングの前駆体であるボロン酸またはボロン酸エステルを調製する段階にある。ボロン酸とボロン酸エステルを得るのに最もよく利用されている調製法は2つのステップからなる。すなわち、
- 第1のステップでは、溶媒(例えば無水エーテル性溶媒が可能)の中で有機ハロゲン化物から一種の有機金属(グリニャール型またはリチウム型)を調製し、
- それに続けて、例えば-78℃の低温でホウ化剤(ホウ化トリアルキルB(OR)3であることが最も多い)を添加する[4、5]。
ボロン酸エステルの他の調製法では、遷移金属(一般にPdまたはRh)の錯体を用いる。
【0007】
特にベンジルボロン酸とベンジルボロン酸エステルの場合には、その調製を記述する古典的な方法は、主に、
- ベンジル炭化水素またはハロゲン化ベンジルをホウ化する方法と、
- (ハロゲノホウ酸塩の利用によって、またはホモログ化、すなわちフェニル基とボロン基の間に-CH2-を付加することによって、などで)ホウ化物の誘導体を機能化する方法である。
【0008】
マグネシウムまたはリチウムの有機金属化合物を利用することは、上記のベンジル基質では報告されていない。
【0009】
ハロゲン化ベンジルまたはベンジル炭化水素をホウ化することによる調製法では、ベンジル位置のC-H結合をホウ化する塩素または臭素含有ハロゲン化ベンジルか炭化水素(例えばトルエン)を直接機能化する。
【0010】
2002年、パラジウムをベースとした触媒系PdCl2(PPh3)2/i-Pr2NEt[11]やPd(PPh3)4/K2CO3[12]を利用してハロゲン化ベンジルとピナコールボランからベンジルボロン酸エステルが合成されることが報告された。ビス(ピナコリル)二ホウ素(図1、化合物C)もホウ化剤として使用された[13]。
【0011】
ベンジル位置のC-H結合のホウ化は、ロジウムをベースとした触媒の存在下で140℃にてトルエンの中でピナコールボランを用いて機能化するときに観察された[14、15]。
【0012】
Pd/C触媒系を利用すると、ビス(ピナコリル)二ホウ素またはピナコールボランによってアルキルベンゼンのC-H結合の選択的なホウ化が可能になる[16]。
【0013】
Pdの錯体を用いると、これらの方法はコストがかかる。さらに、これらの方法を特に工業的スケールでの実施に移行する際には操作上の問題が起こる可能性がある。
【0014】
ボロン酸及びそのエステルには需要があるが、これらのプロセスは、産業的環境に殆ど適用されない。例えば無水溶媒の中で-78℃にて反応物質を処理するのは難しく、PdまたはRhの錯体の利用がこれらの方法を著しくコストのかかるものにする。さらに、ある種の金属(例えばリチウム)だと、高コストに加え、工業的スケールへの移行で操作上の問題が起こる可能性がある。
【0015】
1999年以来、本発明の発明者は、マグネシウム含有アノードの存在下で周囲温度にて操作する新しい電気化学的方法をハロゲン化アリール[6、7、8]とハロゲン化ベンジル[9]のホウ化に関して開発してきた。BASF社もこの電気化学的方法に興味を持っている[10]。しかしこの技術は実施することが必ずしも簡単ではなく、しかも高コストのままである。それに加え、電気化学的方法によるMg2+イオンのリサイクル[9]は難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、従来技術の欠点、不便さ、障害をなくす化学的方法によってボロン酸またはボロン酸エステルを調製する方法が実際に必要とされている。
【0017】
特に、実施条件が穏和な化学的方法によってボロン酸またはボロン酸エステルを調製する方法であって、効果的で広く使用されていて安価な触媒を利用してコストを下げることのできる方法が実際に必要とされている。
【0018】
それに加え、毒性がほとんどなく、ほとんど汚染をもたらすことがなく、持続的な発展および清潔な化学と調和する化学的方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、この要求に適確に応え、一般式(I)のボロン酸またはボロン酸エステル:
【化1】

(ただし、
- Arは、6〜27個の炭素原子を含む単環または多環の、縮合又は非縮合のアリール基を表わすか、6〜20個の炭素原子を含む単環または多環の、縮合又は非縮合のヘテロアリール基を表わし、そのアリール基またはヘテロアリール基は、任意に1個または複数個の基で置換されていてもよく、その置換基は、独立に、(C1-C10)アルキル、(C2-C10)アルケン、(C2-C10)アルキン、(C3-C10)シクロアルキル、(C1-C10)ヘテロアルキル、(C1-C10)ハロアルキル、(C6-C12)アリール、F、Cl、Br、I、-NO2、-CN、-CF3、-CH2CF3、-OH、-CH2OH、-CH2CH2OH、-NH2、-CH2NH2、-NHCHO、-COOH、-CONH2、-SO3H、-O(SO)2-R5(ここにR5は、(C1-C10)アルキル、-PO3H、-PO3R1である)を含む群から選択され、
- n = 0〜1であり;
- R1、R2 、R3、R4は、同じでも異なっていてもよく、水素原子、(C1-C10)アルキル基、6〜27個の炭素原子を含む単環または多環の、縮合又は非縮合のアリール基、6〜20個の炭素原子を含む単環または多環の、縮合又は非縮合のヘテロアリール基を表わし、これらの基は、任意に1個または複数個の基で置換されていてもよく、その置換基は、独立に、(C1-C10)アルキル、(C1-C10)アルコキシ、(C2-C10)アルケン、(C2-C10)アルキン、(C3-C10)シクロアルキル、(C1-C10)ヘテロアルキル、(C1-C10)ハロアルキル、(C6-C12)アリール、F、Cl、Br、I、-NO2、-CN、-CF3、-CH2CF3、-OH、-CH2OH、-CH2CH2OH、-NH2、-CH2NH2、-NHCHO、-COOH、-CONH2、-SO3H、-O(SO)2-R5(ここにR5は、(C1-C10)アルキル、-PO3H、-PO3R1である)を含む群から選択される;または
- R1とR2は、これらの基が結合する酸素原子と合わさって、任意に1個または複数個の基で置換された5〜6員の環を形成し、その置換基は、独立に、(C1-C10)アルキル基、6〜27個の炭素原子を含む単環または多環の、縮合又は非縮合のアリール基、6〜20個の炭素原子を含む単環または多環の、縮合又は非縮合のヘテロアリール基の中から選択され、これらの置換基は、任意に1個または複数個の基で置換されていてもよく、その置換基は、独立に、(C1-C10)アルキル、(C2-C10)アルケン、(C2-C10)アルキン、(C3-C10)シクロアルキル、(C1-C10)ヘテロアルキル、(C1-C10)ハロアルキル、(C6-C12)アリール、F、Cl、Br、I、-NO2、-CN、-CF3、-CH2CF3、-OH、-CH2OH、-CH2CH2OH、-NH2、-CH2NH2、-NHCHO、-COOH、-CONH2、-SO3H、-O(SO)2-R5(ここにR5は、(C1-C10)アルキル、-PO3H、-PO3R1である)を含む群から選択される)を調製するために、
一般式(II)の化合物:
Ar-(CR3R4)n-X (II)
(ただし、Ar、R3、R4、nは上に定義した通りであり、Xは、F、Cl、Br、I、-CF3、-O(SO)2CF3、-O(SO)2-R5(ここにR5は(C1-C10)アルキルである)を含むグループの中から選択される)を;
一般式(II)の化合物の量に対して0.01〜1当量の量で用いる金属マグネシウム(Mg0)の存在下でホウ化剤と反応させる方法を提供することを目的とする。
【0020】
まったく予想外なことに、金属マグネシウムの利用が特に有利であることがわかった。実際、金属マグネシウムは有効であるため、一般式(I)のボロン酸またはボロン酸エステルが、優れた収率と優れた選択性で化学的に得られる。この方法は、穏和な操作条件で実施される。さらに、金属マグネシウムは安価であり、豊富に存在していて、毒性を持たないため、本発明の方法は、多くの場合に選択される方法となる。
【0021】
それに加え、Mg2+イオンとは異なり、Mg0のリサイクルはいくつかの場合に特に容易であることがわかった。
【0022】
従来の電気化学的方法とは異なり、本発明の方法は化学的方法である。本発明の範囲では、この化学的方法は、分子の構成の改変が、電気によって起こらない化学反応によってなされる方法である。
【0023】
特に、本発明の方法では、Mg0の存在下での一般式(II)の化合物とホウ化剤の間の化学反応によって一般式(I)のボロン酸またはボロン酸エステルを得るに至るが、この反応はカップリング反応である。
【0024】
この明細書では、“アルキル”は、1〜10個の炭素原子(例えば1〜8個の炭素原子、1〜6個の炭素原子)を含んでいて、任意に置換されている直鎖または分岐鎖の飽和炭素基を意味する。アルキル基として、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、s-ペンチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、n-ヘキシル基、s-ヘキシル基や、他の同様の基が可能である。
【0025】
この明細書では、“アルケン”は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む、直鎖、分岐鎖、環式、非環式の不飽和炭化水素を意味する。アルセニル基は、2〜10個の炭素原子、特に2〜8個の炭素原子、その中でも特に2〜6個の炭素原子を含むことができる。アルセニル基として、例えばアリル基、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、1-メチル-2-ブテン-1-イル基や、他の同様の基が可能である。
【0026】
“アルキン”という用語は、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を含む、直鎖、分岐鎖、環式、非環式の不飽和炭化水素を意味する。アルシニル基は、2〜10個の炭素原子、特に1〜8個の炭素原子、その中でも特に2〜6個の炭素原子を含むことができる。アルシニル基として、例えばエチニル基、2-プロピニル基(プロパルギル基)、1-プロピニル基や、他の同様の基が可能である。
【0027】
この明細書では、“アリール”は、芳香族性に関するヒュッケルの規則を満たす少なくとも1つの環を含む芳香族系を意味する。このアリールは、任意に置換されていて、6〜27個の炭素原子、特に6〜14個の炭素原子、その中でも特に6〜12個の炭素原子を含むことができる。アリール基として、例えばフェニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基、インダニル基、インデニル基や、他の同様の基が可能である。
【0028】
この明細書では、“ヘテロアリール”は、炭素原子が6〜20個の少なくとも1つの芳香族環と、特にイオウ、酸素、窒素を含むグループから選択した少なくとも1つのヘテロ原子とを含む系を意味する。このヘテロアリールは置換されていてもよい。ヘテロアリール基として、例えばピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピロリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアジアゾリル基、オキサジアゾリル基、チオフェニル基、フラニル基、キノリニル基、イソキノリニル基や、他の同様の基が可能である。
【0029】
この明細書では、“シクロアルキル”は、3〜10個の炭素原子を含むことができて、任意に置換された飽和または不飽和の炭素環基を意味する。例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、2-メチルシクロブチル、2,3-ジメチル-シクロブチル、4-メチルシクロブチル、3-シクロペンチルプロピルが挙げられる。
【0030】
この明細書では、“ハロアルキル”は、すでに定義したアルキル基が、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を含むグループの中から選択した少なくとも1つのハロゲンを含んでいるものを意味する。
【0031】
この明細書では、“ヘテロアルキル”は、すでに定義したアルキル基が、イオウ、酸素、窒素、リンを含むグループの中から特に選択した少なくとも1つのヘテロ原子を含んでいるものを意味する。
【0032】
この明細書では、“複素環”は、任意に置換されていて、少なくとも1つのヘテロ原子を含む飽和または不飽和の炭素環基であって、3〜20個の炭素原子(5〜20個の炭素原子が好ましく、5〜10個の炭素原子がより好ましい)を含むことができるものを意味する。ヘテロ原子は、例えばイオウ、酸素、窒素、リンを含むグループの中から選択することができる。複素環基として、例えばピロリジニル基、ピラゾリニル基、ピラゾリジニル基、イミダゾリニル基、イミダゾリジニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、オキサゾリジニル基、イソオキサゾリジニル基、モルホリニル基、チアゾリジニル基、イソチアゾリジニル基、テトラヒドロフリル基が可能である。
【0033】
この明細書では、“アルコキシ”、“アリールオキシ”、“ヘテロアルコキシ”、“ヘテロアリールオキシ”は、それぞれ、1個の酸素原子に結合したアルキル基、アリール基、ヘテロアルキル基、ヘテロアリール基を意味する。アルコキシ基として、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基、ネオペントキシ基、n-ヘキソキシ基や、他の同様の基が可能である。
【0034】
“置換された”という用語は、例えば所定の構造中の1つの水素原子をすでに定義した1つの基で置換することを指す。所定の構造中の2つ以上の位置を置換できる場合には、置換基はそれぞれの位置で同じでも異なっていてもよい。
【0035】
本発明の特別な一実施態様によると、一般式(II)の化合物は、前に定義したもののうちで、Xが、F、Cl、Br、I、-SO3CF3を含むグループの中から選択される化合物である。さらに特定するならば、XとしてCl、Brが可能である。
【0036】
一般式(II)の化合物は、例えば、
- 臭化ベンジル、塩化ベンジル;臭化4-メチルベンジル、塩化4-メチルベンジル;臭化4-メトキシベンジル、塩化4-メトキシベンジル;
- 臭化2-メチルベンジル;臭化3,5-ジメチルベンジル;臭化4-t-ブチルベンジル;2-ブロモエチルベンゼン;臭化4-クロロベンジル;臭化4-ブロモベンジル;
- ヨウ化4-エチルベンゼン;臭化2-メチルベンゼン;臭化4-ブチルベンゼン;臭化4-メチルナフタレン;臭化3,4-ジフルオロベンゼン
を含むグループの中から選択することができる。
【0037】
本発明の方法は、ホウ化剤を用いて実現される。
【0038】
ホウ化剤として、例えば一般式(III):
【化2】

が可能である。ただし一般式(III)において、R1とR2はすでに定義したものであり、R6は水素原子を表わす。一般式(III)のホウ化剤は、ピナコールボラン(HBpin)、カテコールボラン(HBcat)を含むグループの中から選択することができる。
【0039】
ホウ化剤として、例えば一般式(IV):
【化3】

も可能である。ただし一般式(IV)において、R1とR2はすでに定義したものである。このホウ化剤は、例えばビス(ピナコリル)二ホウ素(pinB-Bpin)を含むグループの中から選択することができる。
【0040】
ホウ化剤は、例えば一般式(V):
BxHyQz (V)
であってもよい。ただし一般式(V)において、
- Qは、Li、Na、Kを含むグループの中から選択したアルカリ金属であるか、Qはすでに定義したR1であり、
- xは、1〜10の整数であり、
- yは、3〜14の整数であり、
- z=0〜3である。ただしz=0のときには、この水素化ホウ素は、任意に錯体の形態である。
【0041】
“錯体”という用語は、ルイス酸(空いた軌道を持つ)であるBH3と、ルイス塩基(結合していない電子一重項または電子二重項を持つ)である有機分子を反応させるときに得られるものを意味する。ルイス塩基と見なせる有機分子の例として、例えばTHF、S(CH3)2、ピリジン、モルホリンが挙げられる。
【0042】
一般式(V)のホウ化剤は、BH3・S(CH3)2、BH3・THF、NaBH4を含むグループの中から選択することができる。
【0043】
ホウ化剤は、一般式(II)の化合物の量に対して化学量論的量で使用すること、または一般式(II)の化合物の量に対して過剰に使用することができる。
【0044】
“化学量論的量”と“過剰に”という用語は、一般に用いられている用語であり、その意味は当業者には明確である。
【0045】
“化学量論的量”という用語は、使用する反応物質同士が1:1のモル比であることを意味する。例えば本発明の方法では、一般式(II)の化合物とホウ化剤のモル比を1:1にすることができる。
【0046】
“過剰に”という用語は、反応物質のうちの1つ(例えばホウ化剤)が他の反応物質(例えば一般式(II)の化合物)と比べて1よりも大きいモル量で存在していることを意味する。この条件下で、反応媒体は、反応の終了時に、望む生成物と、過剰なある量の反応物質を常に含んでいる。もちろん当業者は、“過剰な”反応物質の量を、過剰に存在しているその反応物質がこの方法のその後のステップを乱すことのないように選択することができる。一般に、反応物質のうちの1つを過剰に用いることの利点は、望む生成物の収率がより大きくなることである。
【0047】
すでに指摘したように、本発明の方法は、金属マグネシウム(Mg0)の存在下で実施される。金属マグネシウム(Mg0)は、例えば削り屑、粉末、棒や、他のあらゆる形態で存在することができる。Mg0のこうしたさまざまな形態が市販の製品となっており、当業者によく知られている。
【0048】
金属マグネシウム(Mg0)は、例えば活性化せずに使用できる。金属マグネシウムは、金属マグネシウムを活性化させることのできる当業者に公知のあらゆる処理法(例えば酸、または超音波、または金属マグネシウムの活性化に適した他のあらゆる手段)で活性化されていてもよい。活性化は、金属マグネシウムを反応媒体の中に導入する前に実現することができる。その場で活性化させてもよい[17、18、19]。
【0049】
金属マグネシウム(Mg0)は、一般式(II)の化合物の量に対して0.01〜1当量(例えば0.02〜0.5当量)の量で用いることができる。使用する金属マグネシウムの量は、例えば一般式(II)の化合物の量に対して0.01〜0.2当量にすることができる。
【0050】
本発明の一実施態様では、一般式(II)の化合物においてn=0のとき、使用する金属マグネシウム(Mg0)の量は、一般式(II)の化合物の量に対して1当量にすることができる。
【0051】
本発明の別の一実施態様では、一般式(II)の化合物においてn=1のとき、使用する金属マグネシウム(Mg0)の量は、一般式(II)の化合物の量に対して0.01〜0.2当量にすることができる。
【0052】
本発明によれば、一般式(II)の化合物とホウ化剤の間の反応は、1種類の有機溶媒、または有機溶媒の混合物の中で塩基の存在下にて起こることができる。
【0053】
本発明に適した塩基は、例えば、
- N(R)3(ここにRは、同じでも異なっていてもよく、すでに定義したアルキル基、すでに定義したヘテロアリール基を含むグループの中から選択できる);
- RO-M+(ここにRはすでに定義したアルキル基であり、Mは、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムを含むグループの中から選択したアルカリ金属である)
を含む群の中から選択することができる。
【0054】
塩基は、例えばトリエチルアミン(NEt3)、t-ブチル酸カリウム(t-BuOK)、2,6-ジ-t-ブチルピリジン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミンを含むグループの中から選択できる。
【0055】
特別な一実施態様では、塩基はトリエチルアミンである。
【0056】
塩基は、化学量論的量で使用することができる。塩基は、一般式(II)の化合物の量よりも過剰に使用してもよい。例えば塩基は、一般式(II)の化合物に対して1〜5当量の量で使用することができる。
【0057】
一般式(II)の化合物とホウ化剤の間の反応は、1種類の溶媒、または溶媒の混合物の中で起こる。
【0058】
溶媒として、例えば、すでに定義したアルキル基、シクロアルキル基、アリール基を含むグループの中から選択した同じか異なる2つの基に酸素原子が結合しているエーテルを用いることができる。エーテルは、例えばジメチルオキシド(メトキシメタン)、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メチルオキシド、エチルオキシド(メトキシエタン)、ジエチルオキシド(ジエチルエーテルまたはエトキシエタン)、エチルオキシド、2-メチルエチル(2-エトキシプロパン)、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、ジオキサン、メトキシベンゼン(アニソール)を含む群の中から選択することができる。
【0059】
溶媒は、アセトアミド、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミドを含むグループの中から選択したアミドでもよい。
【0060】
溶媒は、アセトニトリルを含むグループの中から選択したニトリルでもよい。
【0061】
本発明の特別な一実施態様によれば、溶媒は、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、メトキシベンゼン(アニソール)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリルと、これらの混合物を含むグループの中から選択される。
【0062】
公知の方法と比べると、本発明の方法は穏和な操作条件で実施される。したがって一般式(II)の化合物とホウ化剤の間の反応は、広い範囲の温度で起こることができる。反応は、例えば0℃〜溶媒または溶媒混合物の還流温度の範囲の温度で起こることができる。
【0063】
反応時間は1〜48時間(例えば1〜15時間)が可能である。
【0064】
本発明の別の1つの特徴は、本発明の方法によって得られる一般式(I)のボロン酸またはボロン酸エステルに関する。
【0065】
本発明の別の目的は、本発明の方法によって得られる一般式(I)のボロン酸またはボロン酸エステルを合成(特に炭化水素基同士のカップリング反応)の中間体として使用することである。
【0066】
本発明は、本発明の方法によって得られる一般式(I)のボロン酸またはボロン酸エステルを鈴木反応で使用することや、医薬またはエレクトロニクスの分野で使用することにも関する。
【0067】
他の利点は、例示として与えた添付の図面によって説明する以下の実施例を読めば当業者にさらに明らかになってくるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】ホウ化剤を表わしている:Aはピナコールボラン(HBpin)を表わし、Bはカテコールボラン(HBcat)を表わし、Cはビス(ピナコリル)二ホウ素(pinB-Bpin)を表わす。
【図2】1〜10週間の期間でサンプル1、1'、2、2'のボロン酸エステルの安定性を調べた結果を示している。%Pは、サンプル中に液相クロマトグラフィによって検出された生成物の割合を意味し、tは、週を単位として示した分析期間を意味する。
【図3】1〜10週間の期間でサンプル3、3'、4、4'のボロン酸エステルの安定性を調べた結果を示している。%Pは、サンプル中に液相クロマトグラフィによって検出された生成物の割合を意味し、tは、週を単位として示した分析期間を意味する。
【図4】1〜10週間の期間でサンプル5、5'、6、7のボロン酸エステルの安定性を調べた結果を示している。%Pは、サンプル中に液相クロマトグラフィによって検出された生成物の割合を意味し、tは、週を単位として示した分析期間を意味する。
【図5】1〜10週間の期間でサンプル11、11'、12、12'のボロン酸エステルの安定性を調べた結果を示している。%Pは、サンプル中に液相クロマトグラフィによって検出された生成物の割合を意味し、tは、週を単位として示した分析期間を意味する。
【図6】1〜10週間の期間でサンプル13、13'、14、14'のボロン酸エステルの安定性を調べた結果を示している。%Pは、サンプル中に液相クロマトグラフィによって検出された生成物の割合を意味し、tは、週を単位として示した分析期間を意味する。
【図7】1〜10週間の期間でサンプル15、15'、16、17のボロン酸エステルの安定性を調べた結果を示している。%Pは、サンプル中に液相クロマトグラフィによって検出された生成物の割合を意味し、tは、週を単位として示した分析期間を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0069】
溶媒
【0070】
使用した溶媒は、純度が99.5%超、すなわち“合成用の純粋な溶媒”である。無水条件を必要とする反応のため、文献に記載されているプロトコルに従って溶媒を乾燥させ、蒸溜した。(特に断わらない限り)蒸溜した各溶媒に関し、蒸溜物の最初の10体積%は廃棄し、出てくる蒸溜物の中心部を窒素還流下でシュレンク・タイプの風船の中に回収する。次に、光が当たらない場所で、窒素雰囲気下にて、活性化された4オングストロームの分子篩の上に溶媒を保管する。
【0071】
- ジクロロメタン(CH2Cl2):ジクロロメタンを、不活性雰囲気下において、蒸溜装置を取り付けたシュレンク・タイプの風船の中で、周囲温度にて塩化カルシウムの存在下で18時間にわたって撹拌する。次に、この混合物を大気圧下で加熱して蒸溜する(沸点(760mmHg)=40℃)。
【0072】
- N,N-ジメチルホルムアミド(DMF):DMFを減圧下で蒸溜する。第1段階では、DMFを周囲温度にて18時間にわたって水素化カルシウム(20g/リットル)の上で乾燥させる。第2段階では、この混合物を減圧下で加熱して蒸溜する(沸点(760mmHg)=55℃)。
【0073】
- アセトニトリル(MeCN):アセトニトリルを、周囲温度にて15時間にわたって水素化カルシウム(20g/リットル)の上で乾燥させる。次に、この混合物を大気圧下で加熱して蒸溜する(沸点(760mmHg)=82℃)。
【0074】
- テトラヒドロフラン(THF):最初に、THFをベンゾフェノンの存在下において糸状金属ナトリウムの上で周囲温度にて18時間にわたって撹拌する(青-紫色の溶液)。次にこのTHFを大気圧下で加熱して蒸溜する(沸点(760mmHg)=66℃)。
【0075】
- 1,2-ジエトキシエタン(DEE):最初に、DEEをベンゾフェノンの存在下において糸状金属ナトリウムの上で周囲温度にて18時間にわたって撹拌する(青-紫色の溶液)。次にこのDEEを大気圧下で加熱して蒸溜する(沸点(760mmHg)=121℃)。
【0076】
抽出に用いる溶媒(ジエチルエーテル、n-ペンタン、n-ヘキサン)は、精製せずに使用する。
【0077】
核磁気共鳴(NMR)
【0078】
重水素化したクロロホルム(特に断わらない限り)の中でプロトン、炭素13、フッ素19の核磁気共鳴(NMR)スペクトルを周囲温度にて200MHzで分析するため、BRUKER AC 200装置に記録した。
【0079】
化学シフトdは、テトラメチルシラン(d=0)と比較して弱磁場側への方向をプラスとし、ppmを単位として表記する。結合定数Jはヘルツ(Hz)を単位として表記する。
【0080】
質量分析(MS)
【0081】
質量分析器を組み合わせた気相クロマトグラフィ(GC/MS)によって質量スペクトルを取得した。その手段として、選択的質量検出器HP 5971(70eVで電子を衝突させる)を取り付けたクロマトグラフィ手段HP 5890A(カラムHP1、ポリジメチルシロキサン、50m、内径0.20mm、膜厚0.33mm)、または選択的質量検出器Automass III multi(70eVで電子を衝突させる)を取り付けたクロマトグラフィ装置Thermo Quest TRACE GC 2000(カラムDBTMS、15m、内径0.20mm、膜厚0.33mm)を用いた。
【0082】
気相クロマトグラフィ(GC)
【0083】
気相クロマトグラフィ(GC)分析を、キャピラリー・カラムChrompack(WCOT溶融シリカ、25m、内径0.25mm、膜厚0.25mm)を取り付けたクロマトグラフィ装置Varian Star 3400とVarian CP 3380で実施した。
【0084】
I.マグネシウムの削り屑の存在下でのボロン酸エステルの調製
【0085】
実施例1〜10は、マグネシウムの削り屑を用いて実施した。
【0086】
マグネシウムの削り屑Prolabo(99.8%)を使用した。この削り屑からあらかじめ汚れを落とした。そうするため、その削り屑をビーカーの中に入れた後、酸性の水(HCl 0.1M)をパスツール・ピペットで添加する。得られた懸濁液は、マグネシウムを均一に活性化するために振盪せねばならない。得られたこの“溶液”を極めて迅速に濾過し、削り屑を中性の水で洗浄し、次いで酸性の水(HCl 0.1M)をさらに添加する。削り屑を再度極めて迅速に濾過する。削り屑を中性の水で洗浄し、アセトンで洗浄し、乾燥室の中に入れて乾燥させる。
【実施例1】
【0087】
4-エチルフェニルボロン酸のピナコールエステルの調製
【0088】
【化4】

【0089】
磁気棒と凝縮器を取り付けた二首シュレンク管の中で、ヨウ化4-エチルベンゼン(0.232g、1ミリモル)、ピナコールボラン(0.128g、1ミリモル)、トリエチルアミン(59mg、1ミリモル)を、蒸溜したTHFにマグネシウムの削り屑(24mg、1ミリモル)が含まれた10mlの溶液に添加する。この反応混合物を、THFを還流させながら約15時間にわたって撹拌する。
【0090】
反応が終了すると、粗反応物質を20mlの中性の水で加水分解し、ジエチルエーテルで抽出する(3×40ml)。1つにまとめた有機相を50mlの中性の水で2回洗浄した後、MgSO4の上で乾燥させる。溶媒を蒸発させた後、出発物質であるヨウ化物が完全に変換されて、得られた収率は96%である(収率/変換率が96%)。得られたボロン酸エステルをGC、1H NMR、13C NMR、GC/MSによって分析する。
【0091】
キャラクテリゼーション:
1H NMR:7.74 (2H, D, 3Hz);7.22 (2H, D, 3Hz);2.66 (2H, Q, 3Hz);1.34 (12H, s);1.24 (3H, T, 3Hz)。
13C NMR:146.68;133.87;127.23;126.31;82.58;28.08;23.82;14.42。
質量分析:232〜231 (M+, 6〜2%);217〜216 (8〜2%);147 (19%);146〜145 (71〜15%);134 (17%);133 (100%);132〜131 (63〜21%);118 (18%);117 (51%);116〜115 (17〜4%);105 (18%);104 (10%);91 (11%);85 (14%);77〜76 (9〜2%)。
元素分析:%計算値:C:72.44%、H:9.12%、B:4.66%。
%実測値:C:70.22%、H:9.25%、B:4.39%。
【実施例2】
【0092】
3,4-ジフルオロフェニルボロン酸のピナコールエステルの調製
【0093】
【化5】

【0094】
磁気棒と凝縮器を取り付けた二首シュレンク管の中で、臭化3,4-ジフルオロベンゼン(0.193g、1ミリモル)、ピナコールボラン(0.128g、1ミリモル)、トリエチルアミン(59mg、1ミリモル)を、蒸溜したTHFにマグネシウムの削り屑(24mg、1ミリモル)が含まれた10mlの溶液に添加する。この反応混合物を、THFを還流させながら約15時間にわたって撹拌する。
【0095】
反応が終了すると、粗反応物質を20mlの中性の水で加水分解し、ジエチルエーテルで抽出する(3×40ml)。1つにまとめた有機相を50mlの中性の水で2回洗浄した後、MgSO4の上で乾燥させる。溶媒を蒸発させた後、出発物質である臭化物が98%変換されて、得られた収率は93%である(収率/変換率が95%)。得られたボロン酸エステルをGC、1H NMR、13C NMR、GC/MSによって分析する。
【0096】
キャラクテリゼーション:
1H NMR:7.6〜7.5 (2H, m);7.2〜7.1 (1H, m);1.3 (12H, s)。
13C NMR:149.5;131.1;129.2;117.5;117;82.7;21.4。
質量分析:240〜239 (M+, 14〜6%);226 (16%);225 (56%);224 (16%);155 (12%);154 (58%);142 (12%);141 (90%);140 (56%);139 (13%);95 (12%);94 (19%);85 (58%);75 (34%);74 (14%);69 (23%);63 (17%);59 (78%);58 (100%);56 (12%);55 (15%)。
【実施例3】
【0097】
2-メチルフェニルボロン酸のピナコールエステルの調製
【0098】
【化6】

【0099】
磁気棒と凝縮器を取り付けた二首シュレンク管の中で、臭化2-メチルベンゼン(0.171g、1ミリモル)、ピナコールボラン(0.128g、1ミリモル)、トリエチルアミン(59mg、1ミリモル)を、蒸溜したTHFにマグネシウムの削り屑(24mg、1ミリモル)が含まれた10mlの溶液に添加する。この反応混合物を、THFを還流させながら約15時間にわたって撹拌する。
【0100】
反応が終了すると、粗反応物質を20mlの中性の水で加水分解し、ジエチルエーテルで抽出する(3×40ml)。1つにまとめた有機相を50mlの中性の水で2回洗浄した後、MgSO4の上で乾燥させる。溶媒を蒸発させた後、出発物質である臭化物が94%変換されて、得られた収率は91%である(収率/変換率が97%)。得られたボロン酸エステルをGC、1H NMR、13C NMR、GC/MSによって分析する。
【0101】
キャラクテリゼーション:
1H NMR:7.1 (4H, m);2.4 (3H, s);1.3 (12H, s)。
13C NMR:140.1;133.8;129;129.1;128.7;125.8;83.2;21.4;21.1。
質量分析:218〜217 (M+, 9〜3%);203 (13%);161 (28%);160 (12%);120 (13%);119 (99%);118 (100%);117 (59%);116 (13%);92 (13%);91 (49%);90 (13%);85 (29%);77 (15%);65〜64 (20〜5%);59 (27%);58 (12%);57 (19%);55 (11%)。
【実施例4】
【0102】
3,5-ジメチルベンジルボロン酸のピナコールエステルの調製
【0103】
【化7】

【0104】
磁気棒と凝縮器を取り付けた二首シュレンク管の中で、臭化3,5-ジメチルベンジル(0.198g、1ミリモル)、ピナコールボラン(0.128g、1ミリモル)、トリエチルアミン(59mg、1ミリモル)を、蒸溜したTHFにマグネシウムの削り屑(24mg、1ミリモル)が含まれた10mlの溶液に添加する。この反応混合物を、THFを還流させながら約15時間にわたって撹拌する。
【0105】
反応が終了すると、粗反応物質を20mlの中性の水で加水分解し、ジエチルエーテルで抽出する(3×40ml)。1つにまとめた有機相を50mlの中性の水で2回洗浄した後、MgSO4の上で乾燥させる。溶媒を蒸発させた後、得られた収率は、出発物質である臭化物が94%変換されて80%である(収率/変換率が80%)。得られたボロン酸エステルをGC、1H NMR、13C NMR、GC/MSによって分析する。
【0106】
キャラクテリゼーション:
1H NMR:6.7 (3H, s);2.4 (6H, s);1.8 (2H, s);1.3 (12H, s)。
13C NMR:139.7;138.2;127.9;83.7;34.2;24.9;21.7。
質量分析:246〜245 (M+, 20〜6%);160 (17%);147 (29%);146 (77%);145 (40%);131 (24%);120 (35%);119 (93%);118 (16%);117 (14%);115 (14%);106 (15%);105 (65%);104 (20%);103 (19%);91 (39%);86 (11%);85 (82%);84 (36%);83 (100%);79 (14%);78 (14%);77 (28%);59 (28%);58 (10%);57 (18%);55 (19%)。
【実施例5】
【0107】
4-メチルベンジルボロン酸のピナコールエステルの調製
【0108】
【化8】

【0109】
磁気棒と凝縮器を取り付けた二首シュレンク管の中で、臭化4-メチルベンジル(0.185g、1ミリモル)、ピナコールボラン(0.128g、1ミリモル)、トリエチルアミン(59mg、1ミリモル)を、蒸溜したTHFにマグネシウムの削り屑(24mg、1ミリモル)が含まれた10mlの溶液に添加する。この反応混合物を周囲温度にて約24時間にわたって撹拌する。
【0110】
反応が終了すると、粗反応物質を20mlの中性の水で加水分解し、ジエチルエーテルで抽出する(3×40ml)。1つにまとめた有機相を50mlの中性の水で2回洗浄した後、MgSO4の上で乾燥させる。溶媒を蒸発させた後、出発物質である臭化物が90%変換されて、得られた収率は63%である(収率/変換率が70%)。得られたボロン酸エステルをGC、1H NMR、13C NMR、GC/MSによって分析する。
【0111】
キャラクテリゼーション:
1H NMR:7.1 (4H, s);2.29 (3H, s);2.26 (2H, s);1.2 (12H, s)。
13C NMR:134.6;133.1;127.8;82.3;33.7;24.2;23.7。
質量分析:232〜231 (M+, 65〜19%);217 (29%);174 (16%);146 (56%);133 (41%);132 (89%);131 (37%);117 (15%);106 (28%);105〜104 (100〜20%);103 (16%);92 (16%);91 (64%);86 (15%);85 (83%);84 (40%);83 (93%);82 (14%);79 (22%);78 (23%);77〜76 (38〜9%);69 (21%);67 (10%);59 (34%);57 (24%);55 (26%);53 (15%);51 (15%)。
【実施例6】
【0112】
ベンジルボロン酸のピナコールエステルの調製
【0113】
【化9】

【0114】
磁気棒と凝縮器を取り付けた二首シュレンク管の中にマグネシウムの削り屑(2.4mg、0.1ミリモル、10モル%)を入れた後、蒸溜したTHFを10ml添加する。そこにトリエチルアミン(59mg、1ミリモル)とピナコールボラン(0.384g、3ミリモル)を入れる。次に、滴下漏斗を用い、蒸溜した10mlのTHFに溶かした臭化ベンジル(0.171g、1ミリモル)をその溶液に一滴ずつ添加する。その後、この反応混合物を、THF(65℃)を還流させながら約15時間にわたって撹拌する。
【0115】
反応が終了すると、粗反応物質を20mlの中性の水で加水分解し、ジエチルエーテルで抽出する(3×40ml)。1つにまとめた有機相を50mlの中性の水で2回洗浄した後、MgSO4の上で乾燥させる。溶媒を蒸発させた後、出発物質である臭化ベンジルが完全に変換されて、ピナコールエステルが90%の収率で得られる(収率/変換率が90%)。得られたボロン酸エステルをGC、1H NMR、13C NMR、GC/MSによって分析する。
【0116】
キャラクテリゼーション:
1H NMR:7.3〜7.1 (5H, m);2.3 (2H, s);1.2 (12H, s)。
13C NMR:138. 7;129;128.2;124.8;83.4;33.6;24.7。
質量分析:218〜217 (M+, 51〜13%);203〜202 (25〜7%);132 (64%);119 (39%);118 (100%);117 (43%);92 (21%);91 (57%);85 (51%);84 (14%);83 (57%);65 (14%);59 (20%);43 (30%);41 (31%)。
【実施例7】
【0117】
4-ブロモベンジルボロン酸のピナコールエステルの調製
【0118】
【化10】

【0119】
磁気棒と凝縮器を取り付けた二首シュレンク管の中にマグネシウムの削り屑(2.4mg、0.1ミリモル、10モル%)を入れた後、蒸溜したTHFを10ml添加する。そこにトリエチルアミン(59mg、1ミリモル)とピナコールボラン(0.384g、3ミリモル)を入れる。次に、滴下漏斗を用い、蒸溜した10mlのTHFに溶かした臭化4-ブロモベンジル(0.251g、1ミリモル)をその溶液に一滴ずつ添加する。その後、この反応混合物を、THF(65℃)を還流させながら約15時間にわたって撹拌する。
【0120】
反応が終了すると、粗反応物質を20mlの中性の水で加水分解し、ジエチルエーテルで抽出する(3×40ml)。1つにまとめた有機相を50mlの中性の水で2回洗浄した後、MgSO4の上で乾燥させる。溶媒を蒸発させた後、出発物質である臭化物が完全に変換されて、ピナコールエステルが88%の収率で得られる(収率/変換率が88%)。得られたボロン酸エステルをGC、1H NMR、13C NMR、GC/MSによって分析する。
【0121】
キャラクテリゼーション:
1H NMR:7.3 (2H, D, 8Hz);6.9 (2H, D, 8Hz);1.8 (2H, s);1.3 (2H, s)。
13C NMR:139;131.6;131.3;120.1;83.3;33.6;21.3。
質量分析:218〜217 (M- 79〜80, 49〜55%);216 (22%);212 (18%);210 (20%);199 (11%);198 (29%);197 (25%);196 (30%);195 (15%);171 (17%);169 (17%);159 (10%);118 (16%);117 (69%);116 (33%);91 (23%);90 (30%);89 (28%);86 (12%);85 (81%);84 (42%);83 (100%);82 (17%);69 (11%);67 (11%);65 (18%);63 (12%);59 (36%);58 (19%);57 (34%);56 (13%);55 (22%);54 (10%)。
【実施例8】
【0122】
4-クロロベンジルボロン酸のピナコールエステルの調製
【0123】
【化11】

【0124】
磁気棒と凝縮器を取り付けた二首シュレンク管の中にマグネシウムの削り屑(2.4mg、0.1ミリモル、10モル%)を入れた後、蒸溜したTHFを10ml添加する。そこにトリエチルアミン(59mg、1ミリモル)とピナコールボラン(0.384g、3ミリモル)を入れる。次に、滴下漏斗を用い、蒸溜した10mlのTHFに溶かした臭化4-クロロベンジル(0.207g、1ミリモル)をその溶液に一滴ずつ添加する。その後、この反応混合物を、THF(65℃)を還流させながら約15時間にわたって撹拌する。
【0125】
反応が終了すると、粗反応物質を20mlの中性の水で加水分解し、ジエチルエーテルで抽出する(3×40ml)。1つにまとめた有機相を50mlの中性の水で2回洗浄した後、MgSO4の上で乾燥させる。溶媒を蒸発させた後、出発物質である臭化物が完全に変換されて、ピナコールエステルが90%の収率で得られる(収率/変換率が90%)。得られたボロン酸エステルをGC、1H NMR、13C NMR、GC/MSによって分析する。
【0126】
キャラクテリゼーション:
1H NMR:7.2 (2H, D, 8Hz);6.9 (2H, D, 8Hz);1.9 (2H, s);1.3 (12H, s)。
13C RMN:138;131.3;130.5;128.8;83.8;33.5;21.4。
質量分析:254〜252 (M+, 1〜4%);127 (32%);126 (20%);125 (100%);124 (20%);63 (12%)。
【実施例9】
【0127】
フェニルエチルボロン酸のピナコールエステルの調製
【0128】
【化12】

【0129】
磁気棒と凝縮器を取り付けた二首シュレンク管の中にマグネシウムの削り屑(2.4mg、0.1ミリモル、10モル%)を入れた後、蒸溜したTHFを10ml添加する。そこにトリエチルアミン(59mg、1ミリモル)とピナコールボラン(0.384g、3ミリモル)を入れる。次に、滴下漏斗を用い、蒸溜した10mlのTHFに溶かした(1-ブロモ-エチル)ベンゼン(0.185g、1ミリモル)をその溶液に一滴ずつ添加する。その後、この反応混合物を、0℃にて約15時間にわたって撹拌する。
【0130】
反応が終了すると、粗反応物質を20mlの中性の水で加水分解し、ジエチルエーテルで抽出する(3×40ml)。1つにまとめた有機相を50mlの中性の水で2回洗浄した後、MgSO4の上で乾燥させる。溶媒を蒸発させた後、出発物質である臭化物が40%変換されて、ピナコールエステルが30%の収率で得られる(収率/変換率が75%)。得られたボロン酸エステルをGC、1H NMR、13C NMR、GC/MSによって分析する。
【0131】
キャラクテリゼーション:
1H NMR:7.3〜7.1 (5H, m);2.4 (1H, Q, 7,5Hz);1.3 (3H, D, 7,5Hz);1.2 (12H, s)。
13C NMR:140.2;128.7;127.9;126.2;83.9;30.8;21.4;9.4。
質量分析:232〜231 (M+, 26〜10%);217〜216 (13〜5%);132 (30%);117 (21%);116〜115 (10〜3%);106 (21%);105〜106 (96〜29%);103 (13%);85 (57%);84 (36%);83 (100%);77 (18%);59 (13%)。
【実施例10】
【0132】
ベンジルボロン酸のピナコールエステルの調製
【0133】
【化13】

【0134】
磁気棒と凝縮器を取り付けた二首シュレンク管の中にマグネシウムの削り屑(2.4mg、0.1ミリモル、10モル%)を入れた後、蒸溜したDEE(ジエトキシエタン)を10ml添加する。そこにトリエチルアミン(59mg、1ミリモル)とピナコールボラン(0.384g、3ミリモル)を入れる。次に、滴下漏斗を用い、蒸溜した10mlのDEEに溶かした塩化ベンジル(0.127g、1ミリモル)をその溶液に一滴ずつ添加する。その後、この反応混合物を、DEE(121℃)を還流させながら約24時間にわたって撹拌する。
【0135】
反応が終了すると、粗反応物質を20mlの中性の水で加水分解し、ジエチルエーテルで抽出する(3×40ml)。1つにまとめた有機相を50mlの中性の水で2回洗浄した後、MgSO4の上で乾燥させる。溶媒を蒸発させた後、出発物質である塩化物が42%変換されて、ピナコールエステルが42%の収率で得られる(収率/変換率が100%)。得られたボロン酸エステルをGC、1H NMR、13C NMR、GC/MSによって分析する。
【0136】
キャラクテリゼーション:実施例5を参照
【0137】
II.粉末マグネシウムの存在下でのボロン酸エステルの調製
【0138】
実施例11は粉末マグネシウムを用いて実施した。
【0139】
使用した粉末マグネシウムは、アルファ・イーサー社が市販しているものである(+99%、325メッシュ)。この粉末をあらかじめ処理することなくそのまま使用する。
【実施例11】
【0140】
4-メチルベンジルボロン酸のピナコールエステルの調製
【0141】
【化14】

【0142】
磁気棒と凝縮器を取り付けた二首シュレンク管の中に粉末マグネシウム(2.4mg、0.1ミリモル、10モル%)を入れた後、蒸溜した10mlのTHFを添加する。そこにトリエチルアミン(59mg、1ミリモル)とピナコールボラン(0.384g、3ミリモル)を入れる。次に、滴下漏斗を用い、蒸溜した10mlのTHFに溶かした臭化4-メチルベンジル(0.185g、1ミリモル)をその溶液に一滴ずつ添加する。その後、THF(65℃)を還流させながらこの反応混合物を約9時間にわたって撹拌する。
【0143】
反応が終了すると、粗反応物を中性の水20mlで加水分解し、ジエチルエーテルで抽出する(3×40ml)。1つにまとめた有機相を中性の水50mlで2回洗浄した後、MgSO4の上で乾燥させる。溶媒を蒸発させた後、出発物質の臭化物が94%変換されて、ピナコールエステルが67%の収率で得られる(収率/変換率が71%)。得られたボロン酸エステルをGC、1H NMR、13C NMR、GC/MSで分析する。
【0144】
キャラクテリゼーション:実施例5を参照
【0145】
III.マグネシウムの棒の存在下でのボロン酸エステルの調製
【0146】
実施例12と実施例13は、マグネシウムの棒を用いて実施した。
【0147】
使用したマグネシウムの棒は、ストレム社が市販している(ストレム99.8%、454g/ロッド、直径33mm、長さ305mm)。
【0148】
そのマグネシウムの棒に対して2通りの活性化を利用した。それを以下の実施例に記載する。
【実施例12】
【0149】
4-メチルベンジルボロン酸のピナコールエステルの調製
【0150】
【化15】

【0151】
第1段階では、電気化学的に棒の汚れを落とす。ニッケル海綿製カソードとマグネシウム(“光っている”棒)製アノードを有する化学電池の中に、蒸溜したTHF/DMFと、少量の支持電解質(CF3SO2)2NLi(1.4ミリモル、7×10-2M)と、少量のジブロモエタン(1ミリモル、5×10-2M)を入れる。この電池に60mAという一定強度の電流を印加する。すると2F/モルが流れた後にジブロモエタンが還元されてエチレンが得られる。この溶液を取り出す。棒を蒸溜したTHFの溶液で洗浄する。するとその“活性化された”棒を新しいマグネシウム供給源として使用できる。
【0152】
次に、冷却器と磁気棒を取り付けた単区画の電池にTHFを10ml入れる。そこにトリエチルアミン(59mg、1ミリモル)とピナコールボラン(0.384g、3ミリモル)を入れる。滴下漏斗を用い、10mlのTHFに溶かした臭化4-メチルベンジル(0.185g、1ミリモル)を一滴ずつ添加する。この反応混合物を、THF(65℃)を還流させながら約13時間にわたって撹拌する。反応が終了すると、粗反応物を中性の水20mlで加水分解し、ジエチルエーテルで抽出する(3×40ml)。1つにまとめた有機相を中性の水50mlで2回洗浄した後、MgSO4の上で乾燥させる。溶媒を蒸発させた後、出発物質の臭化物が92%変換されて、ピナコールエステルが66%の収率で得られる(収率/変換率が72%)。得られたボロン酸エステルをGC、1H NMR、13C NMR、GC/MSで分析する。
【0153】
キャラクテリゼーション:実施例5を参照
【実施例13】
【0154】
4-メチルベンジルボロン酸のピナコールエステルの調製
【0155】
【化16】

【0156】
“光っている”棒も利用できる。この棒を酸性の水溶液(HCl、0.1M)に沈め、水で洗浄し、アセトンで洗浄した後、乾燥室に入れて乾燥させる。
【0157】
臭化4-メチルベンジルをホウ化するための操作モードは実施例11に記載したものであり、その条件において10時間後に出発物質の臭化物が完全に変換されて、最終生成物が85%の収率で得られる(収率/変換率が85%)。
【0158】
キャラクテリゼーション:実施例5を参照
【0159】
IV.マグネシウムの削り屑の存在下でのボロン酸の調製
【実施例14】
【0160】
4-メチルベンジルボロン酸の調製
【0161】
【化17】

【0162】
磁気棒と凝縮器を取り付けた二首シュレンク管の中にマグネシウムの削り屑(2.4mg、0.1ミリモル、10モル%)を入れた後、蒸溜したTHFを10ml添加する。そこにトリエチルアミン(59mg、1ミリモル)とカテコールボラン(0.120g、3ミリモル)を入れる。次に、滴下漏斗を用い、蒸溜した10mlのTHFに溶かした臭化4-メチルベンジル(0.185g、1ミリモル)をその溶液に一滴ずつ添加する。その後、この反応混合物を、THF(65℃)を還流させながら約40時間にわたって撹拌する。
【0163】
反応が終了すると、THFを真空下で蒸発させた後、抽出する。次にこの溶液を0.1Mの塩酸水溶液で(pH1まで)酸性化した後、ジエチルエーテルで抽出する(3×50ml)。有機相をMgSO4の上で乾燥させる。抽出用溶媒を真空下で蒸発させる。溶媒を蒸発させた後、53%変換されて、ボロン酸が45%の収率で得られる(収率/変換率が85%)。このボロン酸をGC、1H NMR、13C NMR、GC/MSで分析する。
【0164】
キャラクテリゼーション:
1H NMR:7.1 (4H, s);2.29 (3H, s);2.26 (2H, s)。
13C NMR:134.6;133.1;127.8;82.3;33.7。
質量分析:232〜231 (M+, 65〜19%);217 (29%);174 (16%);146 (56%);133 (41%);132 (89%);131 (37%);117 (15%);106 (28%);105〜104 (100〜20%);103 (16%);92 (16%);91 (64%);86 (15%);85 (83%);84 (40%);83 (93%);82 (14%);79 (22%);78 (23%);77〜76 (38〜9%);69 (21%);67 (10%);59 (34%);57 (24%);55 (26%);53 (15%);51 (15%)。
【0165】
本発明の方法により、臭化ベンジルからベンジルボロン酸エステルとベンジルボロン酸を62〜92%の収率で得ることができる。この方法により、塩化ベンジルを機能化して出発物質の塩化物を約40%変換することにより、ベンジルボロン酸エステルとベンジルボロン酸を92〜100%の収率で得ることもできる。
【0166】
本発明の方法で金属マグネシウムを用いると、PdやRhといった遷移金属の錯体を添加することなく、穏和な条件下で一般式(II)の化合物のホウ化反応を行なわせることができる。それに加え、マグネシウムは安価であり、豊富に存在しており、毒性のない金属である。
【0167】
V.ボロン酸とボロン酸エステルのより大規模な調製
【0168】
本発明に従ってベンジルボロン酸エステルとベンジルボロン酸を調製する方法をより大きなスケールで実施した。実施例6、7、11、13、14に記載した操作モードに従い、7gの臭化物と10モル%のマグネシウムを用いて臭化4-メチルベンジルと臭化ベンジルのホウ化を実施した。得られた収率は75〜90%である。これと同等の収率が、20〜100gのスケールでの同じ反応で得られる。
【0169】
VI.ベンジルボロン酸エステルの安定性の測定
【0170】
2種類のボロン酸エステル(それぞれ実施例11と実施例6に従って調製した4-メチルベンジルボロン酸のピナコールエステル及びベンジルボロン酸のピナコールエステル)の、温度、溶媒、濃度、光、雰囲気(空気/窒素)との関係における安定性を、10週間にわたって調べた。
【0171】
30個のサンプルを調製し、ベンジルボロン酸エステルの濃度を、内部標準としてのドデカンの存在下で気相クロマトグラフィによって追跡した。
【0172】
サンプルのリストを表1と表2に示す。
【0173】
【表1】

【0174】
【表2】

【0175】
これらのサンプルの安定性を反映する曲線を図2〜図7に示す。
【0176】
これら2種類のベンジルボロン酸エステルは、溶媒なしにして空気中で140℃に維持する場合(曲線7と17)を除き、あらゆる条件下で非常に安定であることが観察される。140℃では5〜6週間後に分解が観察される。他のあらゆる条件で、すなわちエタノール中でも、アセトン中でも、溶媒なしでも、4〜38℃でも、空気中でも窒素雰囲気下でも、光が当たっても暗所であっても、これら2種類のベンジルボロン酸エステルは、分析した10週間の間、完全な化学的安定性を示した。安定性は、この期間を過ぎても保証されることは非常に確かである。
【0177】
参考文献のリスト
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[19]Jubault, Philippe;Feasson, Christian;Collignon, Noel、「電気化学によるマグネシウムの活性化。電気化学的ウィッティッヒ反応によるgem-ジフルオロアルケンの合成への応用」、フランス化学会誌 (1995年)、第132巻(8)、850〜856ページ。CODEN:BSCFAS ISSN:0037-8968. CAN 124:117432 AN 1995:915784
【図1A】

【図1B】

【図1C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)のボロン酸またはボロン酸エステル:
【化1】

(ただし、
- Arは、6〜27個の炭素原子を含む単環または多環の、縮合又は非縮合のアリール基を表わすか、6〜20個の炭素原子を含む単環または多環の、縮合又は非縮合のヘテロアリール基を表わし、そのアリール基またはヘテロアリール基は、任意に1個または複数個の基で置換されていてもよく、その置換基は、独立に、(C1-C10)アルキル、(C2-C10)アルケン、(C2-C10)アルキン、(C3-C10)シクロアルキル、(C1-C10)ヘテロアルキル、(C1-C10)ハロアルキル、(C6-C12)アリール、F、Cl、Br、I、-NO2、-CN、-CF3、-CH2CF3、-OH、-CH2OH、-CH2CH2OH、-NH2、-CH2NH2、-NHCHO、-COOH、-CONH2、-SO3H、-O(SO)2-R5(ここにR5は、(C1-C10)アルキル、-PO3H、-PO3R1である)を含むグループの中から選択され、
- n = 0〜1であり;
- R1、R2 、R3、R4は、同じでも異なっていてもよく、水素原子、(C1-C10)アルキル基、6〜27個の炭素原子を含む単環または多環の、縮合又は非縮合のアリール基、6〜20個の炭素原子を含む単環または多環の、縮合又は非縮合のヘテロアリール基を表わし、これらの基は、任意に1個または複数個の基で置換されていてもよく、その置換基は、独立に、(C1-C10)アルキル、(C1-C10)アルコキシ、(C2-C10)アルケン、(C2-C10)アルキン、(C3-C10)シクロアルキル、(C1-C10)ヘテロアルキル、(C1-C10)ハロアルキル、(C6-C12)アリール、F、Cl、Br、I、-NO2、-CN、-CF3、-CH2CF3、-OH、-CH2OH、-CH2CH2OH、-NH2、-CH2NH2、-NHCHO、-COOH、-CONH2、-SO3H、-O(SO)2-R5(ここにR5は、(C1-C10)アルキル、-PO3H、-PO3R1である)を含む群から選択され;または
- R1とR2は、これらの基が結合する酸素原子と合わさって、任意に1個または複数個の基で置換された5〜6員の環を形成し、その置換基は、独立に、(C1-C10)アルキル基、6〜27個の炭素原子を含む単環または多環の、縮合又は非縮合のアリール基、6〜20個の炭素原子を含む単環または多環の、縮合又は非縮合のヘテロアリール基の中から選択され、これらの置換基は、任意に1個または複数個の基で置換されていてもよく、その置換基は、独立に、(C1-C10)アルキル、(C2-C10)アルケン、(C2-C10)アルキン、(C3-C10)シクロアルキル、(C1-C10)ヘテロアルキル、(C1-C10)ハロアルキル、(C6-C12)アリール、F、Cl、Br、I、-NO2、-CN、-CF3、-CH2CF3、-OH、-CH2OH、-CH2CH2OH、-NH2、-CH2NH2、-NHCHO、-COOH、-CONH2、-SO3H、-O(SO)2-R5(ここにR5は、(C1-C10)アルキル、-PO3H、-PO3R1である)を含む群から選択される)を調製する方法であって、
一般式(II)の化合物:
Ar-(CR3R4)n-X (II)
(ただし、Ar、R3、R4、nは上に定義した通りであり、Xは、F、Cl、Br、I、-CF3、-O(SO)2CF3、-O(SO)2-R5(ここにR5は(C1-C10)アルキルである)を含むグループの中から選択される)を;
一般式(II)の化合物の量に対して0.01〜1当量の量で用いる金属マグネシウム(Mg0)の存在下でホウ化剤と反応させる、前記方法。
【請求項2】
一般式(II)の化合物の選択を、
- 臭化ベンジル、塩化ベンジル;臭化4-メチルベンジル、塩化4-メチルベンジル;臭化4-メトキシベンジル、塩化4-メトキシベンジル;
- 臭化2-メチルベンジル;臭化3,5-ジメチルベンジル;臭化4-t-ブチルベンジル;2-ブロモエチルベンゼン;臭化4-クロロベンジル;臭化4-ブロモベンジル;
- ヨウ化4-エチルベンゼン;臭化2-メチルベンゼン;臭化4-ブチルベンゼン;臭化4-メチルナフタレン;臭化3,4-ジフルオロベンゼン
を含むグループの中から行なう、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ホウ化剤が、一般式(III):
【化2】

である(ただし、R1とR2はすでに定義したものであり、R6は水素原子を表わす)、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
一般式(III)のホウ化剤を、ピナコールボラン(HBpin)、カテコールボラン(HBcat)を含むグループの中から選択する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ホウ化剤が、一般式(IV):
【化3】

である(ただし、R1とR2はすでに定義したものである)、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
一般式(IV)のホウ化剤を、ビス(ピナコリル)二ホウ素(pinB-Bpin)を含むグループの中から選択する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ホウ化剤が、一般式(V)の水素化ホウ素:
BxHyQz (V)
であり(ただし、
- Qは、Li、Na、Kを含むグループの中から選択したアルカリ金属であるか、Qはすでに定義したR1であり、
- xは、1〜10の整数であり、
- yは、3〜14の整数であり、
- z=0〜3である)、
z=0のときには、この水素化ホウ素が、任意に錯体の形態である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
一般式(V)のホウ化剤を、BH3・S(CH3)2、BH3・THF、NaBH4を含むグループの中から選択する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
一般式(II)の化合物と前記ホウ化剤の反応が、塩基の存在下にて、1つの有機溶媒または有機溶媒の混合物の中で起こる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
金属マグネシウム(Mg0)が、削り屑、または粉末、または棒の形態である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
金属マグネシウム(Mg0)を酸または超音波で処理して活性化させる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ホウ化剤を、一般式(II)の化合物の量に対して化学量論的量で用いる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
金属マグネシウム(Mg0)を、一般式(II)の化合物の量に対して0.02〜0.5当量の量で用いる、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
金属マグネシウム(Mg0)を、一般式(II)の化合物の量に対して0.01〜0.2当量の量で用いる、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記塩基を、トリエチルアミン(NEt3)、t-ブチル酸カリウム(t-BuOK)、2,6-ジ-t-ブチルピリジン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミンを含むグループの中から選択する、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記塩基を、一般式(II)の化合物の量に対して化学量論的量で用いる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記溶媒を、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、メトキシベンゼン(アニソール)、エタンジオール(エチレングリコール)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリルと、これらの混合物を含むグループの中から選択する、請求項9に記載の方法。
【請求項18】
化合物(II)とホウ化剤の反応が、0℃〜溶媒または溶媒混合物の還流温度の範囲の温度で起こる、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
反応時間が1〜48時間である、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法によって得られる一般式(I)の酸またはエステルの鈴木反応における使用。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−508782(P2012−508782A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543794(P2011−543794)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【国際出願番号】PCT/FR2009/052106
【国際公開番号】WO2010/055245
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(510319672)ユニベルシテ ドゥ ニース ソフィア アンティポリ (3)
【Fターム(参考)】