説明

金属加工油組成物

【課題】 塩素系極圧剤を使用せずに、高水準の加工性能を達成することが可能な金属加工油組成物を提供すること。
【解決手段】 炭化水素油に、脂環式多価カルボン酸エステル化合物を組成物全量基準で1〜50質量%含有する金属加工油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属加工油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属加工の分野においては、塩素化パラフィンなどの塩素系極圧剤、並びに硫化油脂、ポリサルファイドなどの硫黄系極圧剤が多用されている。特に、シェービング加工、深穴加工(BTA加工、ガンドリル加工)、自動盤加工、ブローチ加工、ネジ転造加工などの難加工又は重加工、あるいはステンレスやインコネルなどの耐熱合金などを被削材とした難加工材加工では、塩素系極圧剤の使用が不可欠とされている。
【0003】
その一方で、一部の塩素化パラフィンに関する発ガン性、あるいは塩素系廃液を焼却処理する際のダイオキシンの発生などが懸念されている。
【0004】
そこで、塩素系極圧剤を使用しない新規な金属加工油の開発が進められている。例えば、特許文献1には、硫黄系極圧剤とスルホネート類とを併用した金属加工油が開示されており、かかる金属加工油の使用により塩素系添加剤を用いた場合と同等もしくはそれ以上の加工性能が得られることが示されている。
【特許文献1】特開平6−158074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の金属加工油であっても、その加工性能を更に改善する余地がある。特に、重加工、難加工、難加工材加工などの分野では、加工条件が近年更に厳しくなっていること、また、新規な被加工材料の開発が進められていることなどの理由から、金属加工油に対する要求性能は益々高くなっている。また、廃棄物処理や作業環境の点から、生分解性に優れた金属加工油であることが望ましい。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、塩素系極圧剤を使用せずに、高水準の加工性能を達成することが可能な金属加工油組成物を提供することを目的とする。さらには生分解性が高く、環境に優しい金属加工油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、炭化水素油に、脂環式多価カルボン酸エステル化合物を所定量含有する金属加工油組成物を用いることにより上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の金属加工油組成物は、炭化水素油に、脂環式多価カルボン酸エステル化合物を組成物全量基準で1〜50質量%含有することを特徴とする。
【0009】
本発明の金属加工油組成物によれば、上記構成を有することで、塩素系極圧剤を使用しなくても、その加工性能が充分に高められるため、加工効率の向上、工具寿命の向上、並びに取り扱い性の改善を高水準でバランスよく達成することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塩素系極圧剤を使用せずに、高水準の加工性能を達成することが可能な金属加工油組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0012】
本発明の金属加工油組成物に含まれる炭化水素油としては、鉱油又は合成油のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物であってもよい。
【0013】
本発明において使用される鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱油又はナフテン系鉱油が挙げられる。
【0014】
また、本発明において使用される合成油としては、具体的には、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレンとプロピレンとのコオリゴマー、エチレンと1−オクテンとのコオリゴマー、エチレンと1−デセンとのコオリゴマー等のポリα−オレフィン又はそれらの水素化物;イソパラフィン;モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、ポリアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン;モノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレン等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
本発明の金属加工油における炭化水素油の含有量は、組成物全量を基準として50〜99質量%であり、60〜95質量%であることが好ましく、70〜90質量%であることが更に好ましい。
【0016】
本発明で用いられる脂環式多価カルボン酸エステル化合物とは、脂環式環および下記一般式(a)で表されるエステル基を少なくとも2個有するものである。
−COOR (a)
[式(a)中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を表し、各エステル基のRは同一でも異なっていてもよい。]
【0017】
本発明に係る脂環式多価カルボン酸エステル化合物が有する脂環式環としては、シクロペンタン環、シクロペンテン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、シクロヘプタン環、シクロヘプテン環等が挙げられるが、シクロヘキサン環およびシクロヘキセン環が好ましい。これらの中でも、酸化安定性が高いこと、及び有機材料の抽出性が低いことなどの観点から、二重結合を有さない脂環式環が好ましく、シクロヘキサン環がより好ましい。
【0018】
脂環式多価カルボン酸エステル化合物は、上述の通り、少なくとも2個のエステル基を有する。エステル基が1個である場合には、熱・加水分解安定性が不十分であるため好ましくない。また、エステル基の個数には上限値は特に無いが、低温流動性の点から、4個以下であることが好ましく、3個以下であることがより好ましく、2個であることが更に好ましい。
【0019】
また、上記式(a)で表されるエステル基のうち少なくとも2個は、脂環式環上の互いに隣接する炭素原子に結合していることが好ましい。脂環式環上の互いに隣接する炭素原子に結合していない場合には、熱・加水分解安定性が不十分であるため好ましくない。
【0020】
さらに、式(a)で表されるエステル基の立体配置については特に制限されず、脂環式環上の隣接する炭素原子に結合した2個のカルボキシル基についてcis体、trans体のいずれであってもよい。また、脂肪族環式多価カルボン酸のうちcis体、trans体のうちのいずれか1種を単独で用いてもよく、cis体とtrans体との混合物を用いてもよい。しかしながら、熱・加水分解安定性の観点からはcis体が好ましく、熱・加水分解安定性と潤滑性との両立という観点からはtrans体が好ましい。さらに、cis体とtrans体とを混合して用いる場合、そのモル比は好ましくは20/80〜80/20、より好ましくは25/75〜75/25、さらに好ましくは30/70〜70/30である。cis体とtrans体とのモル比が前記の範囲内であると、熱・加水分解安定性がより高水準で両立される傾向にある。
【0021】
上記式(a)におけるRは炭素数1〜30、好ましくは2〜24、より好ましくは3〜18の炭化水素基を表すが、ここでいう炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等が挙げられる。この中でも、熱・加水分解安定性の点からアルキル基、シクロアルキル基またはアルキルシクロアルキル基であることが好ましい。
【0022】
アルキル基としては、直鎖状のものであっても分枝状のものであっても良い。炭素数3〜18のアルキル基としては、例えば、直鎖状または分枝状のプロピル基、直鎖状または分枝状のブチル基、直鎖状または分枝状のペンチル基、直鎖状または分枝状のヘキシル基、直鎖状または分枝状のヘプチル基、直鎖状または分枝状のオクチル基、直鎖状または分枝状のノニル基、直鎖状または分枝状のデシル基、直鎖状または分枝状のウンデシル基、直鎖状または分枝状のドデシル基、直鎖状または分枝状のトリデシル基、直鎖状または分枝状のテトラデシル基、直鎖状または分枝状のペンタデシル基、直鎖状または分枝状のヘキサデシル基、直鎖状または分枝状のヘプタデシル基、直鎖状または分枝状のオクタデシル基などが挙げられる。
【0023】
これらの中でも、生分解性および潤滑性能の観点からは直鎖が好ましく、加水分解安定性および低温特性の観点からは分岐鎖が好ましい。したがって、直鎖と分岐鎖を併せ有するものが好ましい。双方の長所をバランス良く満たすためには、直鎖と分岐鎖の比率は、直鎖:分岐鎖の割合が20:80〜80:20が好ましく、より好ましくは30:70〜70:30であり、さらに好ましくは40:60〜60:40である。
また、潤滑性能が良好となる観点、有機材料の抽出性が低くなるという観点からは炭素鎖は長い方が好ましい。
【0024】
シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられるが、熱・加水分解安定性の点からシクロヘキシル基が好ましい。また、アルキルシクロアルキル基とは、シクロアルキル基にアルキル基が結合したものであるが、熱・加水分解安定性の点からシクロヘキシル基にアルキル基が結合したものが好ましい。更に、アルキルシクロアルキル基としては、熱・加水分解安定性の点から総炭素数が6以上のものが好ましく、低温流動性の点から総炭素数が10以下のものが好ましい。
【0025】
また、脂環式多価カルボン酸エステル化合物としては、脂環式環上の炭素原子に炭化水素基が1個または複数個結合していても良いことは勿論である。このような炭化水素基としてはアルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。
【0026】
本発明でいう脂環式多価カルボン酸エステル化合物は、上述した構造を有するものであるが、このようなエステル化合物は所定の酸成分とアルコール成分とを常法にしたがって、好ましくは窒素等の不活性ガス雰囲気下、エステル化触媒の雰囲気下または無触媒下で加熱しながらエステル化することにより調製される。ここで、熱・加水分解安定性の観点から、無触媒下でのエステル化反応により調製することが好ましい。
【0027】
脂環式多価カルボン酸エステル化合物の酸成分としては、シクロアルカンポリカルボン酸、シクロアルケンポリカルボン酸またはこれらの酸無水物が挙げられ、中でも、エステル基の少なくとも2個が脂環式環上の互いに隣接した炭素原子に結合したものが好ましく使用される。これらは1種または2種以上の混合物として用いることが可能である。具体的には、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、1−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、3−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、3−メチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、4−メチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸およびそれらの酸無水物が挙げられる。このうち、調製したエステル化合物の長期又は過酷な条件下での使用時における粘度の上昇を抑えるという観点からは、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、3−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸およびそれらの酸無水物が好ましく、一方、長期又は過酷な条件下での使用時における全酸価の上昇を抑えるという観点からは、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、1−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、3−メチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、4−メチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸およびそれらの酸無水物が好ましい。
【0028】
これら、脂環式多価カルボン酸およびその無水物の製造方法には特に制限はなく、任意の方法で得られたものが使用可能である。具体的には、cis−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸は、ブタジエンとマレイン酸無水物とを、ベンゼン溶媒中、100℃で反応せしめて得ることができる。
【0029】
脂環式多価カルボン酸エステル化合物のアルコール成分(ROH;Rは上記式(a)中のRと同一の定義内容を表す。)としては、炭素数3〜18の直鎖状のアルコール、炭素数3〜18の分枝状のアルコールまたは炭素数5〜10のシクロアルコールが挙げられる。具体的には、直鎖状または分枝状のプロパノール(n−プロパノール、1−メチルエタノール等を含む)、直鎖状または分枝状のブタノール(n−ブタノール、1−メチルプロパノール、2−メチルプロパノール等を含む)、直鎖状または分枝状のペンタノール(n−ペンタノール、1−メチルブタノール、2−メチルブタノール、3−メチルブタノール等を含む)、直鎖状または分枝状のヘキサノール(n−ヘキサノール、1−メチルペンタノール、2−メチルペンタノール、3−メチルペンタノール等を含む)、直鎖状または分枝状のヘプタノール(n−ヘプタノール、1−メチルヘキサノール、2−メチルヘキサノール、3−メチルヘキサノール、4−メチルヘキサノール、5−メチルヘキサノール、2,4−ジメチルペンタノール等を含む)、直鎖状または分枝状のオクタノール(n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、1−メチルヘプタノール、2−メチルヘプタノール等を含む)、直鎖状または分枝状のノナノール(n−ノナノール、1−メチルオクタノール、3,5,5−トリメチルヘキサノール、1−(2’−メチルプロピル)−3−メチルブタノール等を含む)、直鎖状または分枝状のデカノール(n−デカノール、iso−デカノール等を含む)、直鎖状または分枝状のウンデカノール(n−ウンデカノール等を含む)、直鎖状または分枝状のドデカノール(n−ドデカノール、iso−ドデカノール等を含む)、直鎖状または分枝状のトリデカノール、直鎖状または分枝状のテトラデカノール(n−テトラデカノール、iso−テトラデカノール等を含む)、直鎖状または分枝状のペンタデカノール、直鎖状または分枝状のヘキサデカノール(n−ヘキサデカノール、iso−ヘキサデカノール等を含む)、直鎖状または分枝状のヘプタデカノール、直鎖状または分枝状のオクタデカノール(n−オクタデカノール、iso−オクタデカノール等を含む)、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、ジメチルシクロヘキサノールなどが挙げられる。
【0030】
エステル化反応を行うに際し、アルコール成分は、例えば、酸1当量に対して1.0〜1.5当量、好ましくは1.05〜1.2当量用いられる。
【0031】
更に、上記酸成分およびアルコール成分の代わりに、当該酸成分の低級アルコールエステル及び/又は当該アルコールの酢酸エステル、プロピオン酸エステル等を用いて、エステル交換反応により脂環式多価カルボン酸エステル化合物を得ることも可能である。
【0032】
エステル化触媒としては、ルイス酸類、アルカリ金属塩、スルホン酸類等が例示され、具体的に、ルイス酸としては、アルミニウム誘導体、スズ誘導体、チタン誘導体等が例示され、アルカリ金属塩としては、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等が例示され、更にスルホン酸類としては、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、硫酸等が例示される。その使用量は、例えば、原料である酸成分及びアルコール成分の総量に対して、0.1〜1質量%程度用いられる。
【0033】
エステル化する際の温度としては150℃〜230℃が例示され、通常3〜30時間で反応は完結する。
【0034】
エステル化反応終了後、過剰の原料を減圧下又は蒸圧下において留去し、引き続いて慣用の精製方法、例えば液液抽出、減圧蒸留、活性炭処理などの吸着精製処理等により、エステル化合物を精製することができる。
【0035】
また、本発明における脂環式多価カルボン酸エステル化合物は、相当する芳香族多価カルボン酸エステル化合物を核水添することによっても得ることができる。
【0036】
本発明に係る脂環式多価カルボン酸エステル化合物の含有量は、加工効率及び工具寿命の向上の点から、組成物全量基準で、1質量%以上であることが必要であり、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。また、脂環式多価カルボン酸エステル化合物の含有量は、組成物全量基準で、50質量%以下であることが必要であり、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。脂環式多価カルボン酸エステル化合物の含有量が50質量%を超えると、べたつき性が増大するなど取り扱い性が低下してしまう。また、後述するように、本発明の金属加工油組成物は添加剤を含有し得るが、脂環式多価カルボン酸エステル化合物の含有量が50質量%を超えると、添加剤による特性の改善効果が不十分となりやすい。
【0037】
本発明の金属加工油組成物は、上記の炭化水素油及び脂環式多価カルボン酸エステル化合物を含有するものであるが、その性能を著しく低下させない程度に、潤滑油剤用として従来公知のその他の基油を用いることができる。その他の基油としては、例えば、上記脂環式多価カルボン酸エステル化合物以外のエステル(ジエステル、トリエステル、ポリオールエステル等)、ポリオキシアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル等が使用できる。これらの基油を用いる場合の含有量は特に制限はないが、組成物全量基準で、65質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましく、20質量%以下であることが一層好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0038】
本発明の金属加工油組成物は、加工効率及び工具寿命がより高められる点から、油性剤を含有することが好ましい。油性剤としては、(A)アルコール、(B)カルボン酸、(C)不飽和カルボン酸の硫化物、(D)下記一般式(1)で表される化合物、(E)下記一般式(2)で表される化合物、(F)ポリオキシアルキレン化合物、(G)エステル、(H)多価アルコールのハイドロカルビルエーテル、(I)アミンなどを挙げることができる。
【0039】
【化1】

【0040】
[式(1)中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を表し、aは1〜6の整数を表し、bは0〜5の整数を表す。]
【0041】
【化2】

【0042】
[式(2)中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を表し、cは1〜6の整数を表し、dは0〜5の整数を表す。]
【0043】
(A)アルコールは、1価アルコールでも多価アルコールでもよい。より高い加工効率及び工具寿命が得られる点から、炭素数1〜40の1価アルコールが好ましく、更に好ましくは炭素数1〜25のアルコールであり、最も好ましくは炭素数8〜18のアルコールである。これらのアルコールは直鎖状でも分岐を有していてもよく、また飽和でも不飽和でもよいが、べたつき防止性の点から飽和であることが好ましい。具体的には、前記したエステルの説明において例示した1価アルコール及び多価アルコールと同じものを挙げることができる。
【0044】
(B)カルボン酸は1塩基酸でも多塩基酸でもよい。より高い加工効率及び工具寿命が得られる点から、炭素数1〜40の1価のカルボン酸が好ましく、更に好ましくは炭素数5〜25のカルボン酸であり、最も好ましくは炭素数5〜20のカルボン酸である。これらのカルボン酸は、直鎖状でも分岐を有していてもよく、飽和でも不飽和でもよいが、べたつき防止性の点から飽和カルボン酸であることが好ましい。具体的には、前記したエステルの説明において例示した一塩基酸および多塩基酸と同じものを挙げることができる。
【0045】
(C)不飽和カルボン酸の硫化物としては、例えば、上記(B)のカルボン酸のうち、不飽和のものの硫化物を挙げることができる。具体的には、オレイン酸の硫化物を挙げることができる。
【0046】
(D)上記一般式(1)で表される化合物において、Rで表される炭素数1〜30の炭化水素基の例としては、例えば炭素数1〜30の直鎖又は分岐アルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数6〜30のアルキルシクロアルキル基、炭素数2〜30の直鎖又は分岐アルケニル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜30のアルキルアリール基、及び炭素数7〜30のアリールアルキル基を挙げることができる。これらの中では、炭素数1〜30の直鎖又は分岐アルキル基であることが好ましく、更に好ましくは炭素数1〜20の直鎖又は分岐アルキル基であり、更に好ましくは炭素数1〜10の直鎖又は分岐アルキル基であり、最も好ましくは炭素数1〜4の直鎖又は分岐アルキル基である。炭素数1〜4の直鎖又は分岐アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、直鎖又は分岐のプロピル基及び直鎖又は分岐のブチル基を挙げることができる。
【0047】
水酸基の置換位置は任意であるが、2個以上の水酸基を有する場合には隣接する炭素原子に置換していることが好ましい。aは好ましくは1〜3の整数であり、更に好ましくは2である。bは好ましくは0〜3の整数であり、更に好ましくは1又は2である。一般式(1)で表される化合物の例としては、p−tert−ブチルカテコールを挙げることができる。
【0048】
(E)上記一般式(2)で表される化合物において、Rで表される炭素数1〜30の炭化水素基の例としては、前記一般式(1)中のRで表される炭素数1〜30の炭化水素基の例と同じものを挙げることができ、また好ましいものの例も同じである。水酸基の置換位置は任意であるが、2個以上の水酸基を有する場合には隣接する炭素原子に置換していることが好ましい。cは好ましくは1〜3の整数であり、更に好ましくは2である。dは好ましくは0〜3の整数であり、更に好ましくは1又は2である。一般式(2)で表される化合物の例としては、2,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレンを挙げることができる。
【0049】
(F)ポリオキシアルキレン化合物としては、例えば下記一般式(3)又は(4)で表される化合物を挙げることができる。
【0050】
O−(RO)−R (3)
[式(3)中、R及びRは各々独立に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表し、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、eは数平均分子量が100〜3500となるような整数を表す。]
【0051】
A−[(RO)−R] (4)
[式(4)中、Aは、水酸基を3〜10個有する多価アルコールの水酸基の水素原子の一部又は全てを取り除いた残基を表し、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表し、fは数平均分子量が100〜3500となるような整数を表し、gはAの水酸基から取り除かれた水素原子の個数と同じ数を表す。]
【0052】
上記一般式(3)中、R及びRの少なくとも一方は水素原子であることが好ましい。R及びRで表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、例えば上記一般式(1)のRで表される炭素数1〜30の炭化水素基の例と同じものを挙げることができ、また好ましいものの例も同じである。Rで表される炭素数2〜4のアルキレン基としては、具体的には例えば、エチレン基、プロピレン基(メチルエチレン基)、ブチレン基(エチルエチレン基)を挙げることができる。eは、好ましくは数平均分子量が300〜2000となるような整数であり、更好ましくは数平均分子量が500〜1500となるような整数である。
【0053】
また、上記一般式(4)中、Aを構成する3〜10の水酸基を有する多価アルコールの具体例としては、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜4量体、例えば、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン)及びこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロ−ル、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール、イジリトール、タリトール、ズルシトール、アリトールなどの多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マントース、イソマントース、トレハロース、及びシュクロースなどの糖類を挙げることができる。これらの中でもグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールアルカン、およびこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、又はソルビタンが好ましい。
【0054】
で表される炭素数2〜4のアルキレン基の例としては、上記一般式(3)のRで表される炭素数2〜4のアルキレン基の例と同じものを挙げることができる。またRで表される炭素数1〜30の炭化水素基の例としては、前記一般式(1)のRで表される炭素数1〜30の炭化水素基の例と同じものを挙げることができ、また好ましいものの例も同じである。g個のRのうち少なくとも一つが水素原子であることが好ましく、全て水素原子であることが更に好ましい。fは、好ましくは数平均分子量が300〜2000となるような整数であり、更に好ましくは数平均分子量が500〜1500となるような整数である。
【0055】
(G)エステルとしては、これを構成するアルコールが1価アルコールでも多価アルコールでもよく、またカルボン酸は一塩基酸でも多塩基酸であってもよい。
【0056】
エステル油性剤を構成する1価アルコール及び多価アルコールの例としては、1価アルコールでも多価アルコールでもよく、また、エステル油性剤を構成する酸としては一塩基酸でも多塩基酸であってもよい。
【0057】
1価アルコールとしては、通常炭素数1〜24、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜8のものが用いられ、このようなアルコールとしては直鎖のものでも分岐のものでもよく、また飽和のものであっても不飽和のものであってもよい。炭素数1〜24のアルコールとしては、具体的には例えば、メタノール、エタノール、直鎖状又は分岐状のプロパノール、直鎖状又は分岐状のブタノール、直鎖状又は分岐状のペンタノール、直鎖状又は分岐状のヘキサノール、直鎖状又は分岐状のヘプタノール、直鎖状又は分岐状のオクタノール、直鎖状又は分岐状のノナノール、直鎖状又は分岐状のデカノール、直鎖状又は分岐状のウンデカノール、直鎖状又は分岐状のドデカノール、直鎖状又は分岐状のトリデカノール、直鎖状又は分岐状のテトラデカノール、直鎖状又は分岐状のペンタデカノール、直鎖状又は分岐状のヘキサデカノール、直鎖状又は分岐状のヘプタデカノール、直鎖状又は分岐状のオクタデカノール、直鎖状又は分岐状のノナデカノール、直鎖状又は分岐状のイコサノール、直鎖状又は分岐状のヘンイコサノール、直鎖状又は分岐状のトリコサノール、直鎖状又は分岐状のテトラコサノール及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0058】
多価アルコールとしては、通常2〜10価、好ましくは2〜6価のものが用いられる。2〜10の多価アルコールとしては、具体的には例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜15量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜15量体)、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜8量体、例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)及びこれらの2〜8量体、ペンタエリスリトール及びこれらの2〜4量体、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0059】
これらの多価アルコールの中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜10量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜10量体)、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)及びこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の2〜6価の多価アルコール及びこれらの混合物等が好ましい。さらにより好ましくは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、及びこれらの混合物等である。これらの中でも、より高い熱・酸化安定性が得られることから、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、及びこれらの混合物等が最も好ましい。
【0060】
エステル油性剤を構成するアルコールは、上述したように1価アルコールであっても多価アルコールであってもよいが、より優れた加工効率及び工具寿命が達成可能となる点、並びに流動点の低いものがより得やすく、冬季及び寒冷地での取り扱い性がより向上する等の点から、多価アルコールであることが好ましい。また、多価アルコールのエステルを用いると、切削・研削加工において、加工物の仕上げ面精度の向上と工具刃先の摩耗防止効果がより大きくなる。
【0061】
また、エステル油性剤を構成する酸のうち、一塩基酸としては、通常炭素数2〜24の脂肪酸が用いられ、その脂肪酸は直鎖のものでも分岐のものでもよく、また飽和のものでも不飽和のものでもよい。具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸、直鎖状又は分岐状のブタン酸、直鎖状又は分岐状のペンタン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタン酸、直鎖状又は分岐状のオクタン酸、直鎖状又は分岐状のノナン酸、直鎖状又は分岐状のデカン酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン酸、直鎖状又は分岐状のドデカン酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデカン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のノナデカン酸、直鎖状又は分岐状のイコサン酸、直鎖状又は分岐状のヘンイコサン酸、直鎖状又は分岐状のドコサン酸、直鎖状又は分岐状のトリコサン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコサン酸等の飽和脂肪酸、アクリル酸、直鎖状又は分岐状のブテン酸、直鎖状又は分岐状のペンテン酸、直鎖状又は分岐状のヘキセン酸、直鎖状又は分岐状のヘプテン酸、直鎖状又は分岐状のオクテン酸、直鎖状又は分岐状のノネン酸、直鎖状又は分岐状のデセン酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン酸、直鎖状又は分岐状のドデセン酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデセン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のノナデセン酸、直鎖状又は分岐状のイコセン酸、直鎖状又は分岐状のヘンイコセン酸、直鎖状又は分岐状のドコセン酸、直鎖状又は分岐状のトリコセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコセン酸等の不飽和脂肪酸、及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、加工効率及び工具寿命の向上並びに取扱性の点から、特に炭素数3〜20の飽和脂肪酸、炭素数3〜22の不飽和脂肪酸及びこれらの混合物が好ましく、炭素数4〜18の飽和脂肪酸、炭素数4〜18の不飽和脂肪酸及びこれらの混合物がより好ましく、炭素数4〜18の不飽和脂肪酸がさらに好ましく、べたつき防止性の点からは炭素数4〜18の飽和脂肪酸がさらに好ましい。
【0062】
多塩基酸としては炭素数2〜16の二塩基酸及びトリメリット酸等が挙げられる。炭素数2〜16の二塩基酸としては、直鎖のものでも分岐のものでもよく、また飽和のものでも不飽和のものでもよい。具体的には例えば、エタン二酸、プロパン二酸、直鎖状又は分岐状のブタン二酸、直鎖状又は分岐状のペンタン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタン二酸、直鎖状又は分岐状のオクタン二酸、直鎖状又は分岐状のノナン二酸、直鎖状又は分岐状のデカン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン二酸、直鎖状又は分岐状のドデカン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプテン二酸、直鎖状又は分岐状のオクテン二酸、直鎖状又は分岐状のノネン二酸、直鎖状又は分岐状のデセン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン二酸、直鎖状又は分岐状のドデセン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン二酸及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0063】
エステル油性剤におけるアルコールと酸との組み合わせは任意であって特に制限されないが、本発明で使用可能なエステル油性剤としては、例えば下記のエステルを挙げることができる。
【0064】
(G−1)一価アルコールと一塩基酸とのエステル
(G−2)多価アルコールと一塩基酸とのエステル
(G−3)一価アルコールと多塩基酸とのエステル
(G−4)多価アルコールと多塩基酸とのエステル
(G−5)一価アルコール、多価アルコールとの混合物と多塩基酸との混合エステル
(G−6)多価アルコールと一塩基酸、多塩基酸との混合物との混合エステル
(G−7)一価アルコール、多価アルコールとの混合物と一塩基酸、多塩基酸との混合エステル
【0065】
なお、アルコール成分として多価アルコールを用いた場合、多価アルコール中の水酸基全てがエステル化された完全エステルでもよく、あるいは水酸基の一部がエステル化されず水酸基のままで残っている部分エステルでもよい。また、カルボン酸成分として多塩基酸を用いた場合、多塩基酸中のカルボキシル基全てがエステル化された完全エステルでもよく、あるいはカルボキシル基の一部がエステル化されずカルボキシル基のままで残っている部分エステルであってもよい。
【0066】
エステル油性剤の合計炭素数には特に制限はないが、加工効率及び工具寿命の向上の点から、合計炭素数が7以上のエステルが好ましく、9以上のエステルが更に好ましく、11以上のエステルが最も好ましい。また、ステインや腐食の発生を増大させない点、並びに有機材料との適合性の
点から、合計炭素数が60以下のエステルが好ましく、45以下のエステルがより好ましく、26以下のエステルが更に好ましく、24以下のエステルが一層好ましく、22以下のエステルが最も好ましい。
【0067】
(H)多価アルコールのハイドロカルビルエーテルを構成する多価アルコールとしては、通常2〜10価、好ましくは2〜6価のものが用いられる。2〜10の多価アルコールとしては、具体的には例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜15量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜15量体)、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜8量体、例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)及びこれらの2〜8量体、ペンタエリスリトール及びこれらの2〜4量体、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0068】
これらの多価アルコールの中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜10量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜10量体)、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)及びこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の2〜6価の多価アルコール及びこれらの混合物等が好ましい。さらにより好ましくは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、及びこれらの混合物等である。これらの中でも、加工効率及び工具寿命の向上の点から、グリセリンが最も好ましい。
【0069】
(H)多価アルコールのハイドロカルビルエーテルとしては、上記多価アルコールの水酸基の一部又は全部をハイドロカルビルエーテル化したものが使用できる。加工効率及び工具寿命の向上の点からは、多価アルコールの水酸基の一部をハイドロカルビルエーテル化したもの(部分エーテル化物)が好ましい。ここでいうハイドロカルビル基とは、炭素数1〜24のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜18のアルキルアリール基、炭素数7〜18のアリールアルキル基等の炭素数1〜24の炭化水素基を表す。
【0070】
炭素数1〜24のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、直鎖又は分枝のペンチル基、直鎖又は分枝のヘキシル基、直鎖又は分枝のヘプチル基、直鎖又は分枝のオクチル基、直鎖又は分枝のノニル基、直鎖又は分枝のデシル基、直鎖又は分枝のウンデシル基、直鎖又は分枝のドデシル基、直鎖又は分枝のトリデシル基、直鎖又は分枝のテトラデシル基、直鎖又は分枝のペンタデシル基、直鎖又は分枝のヘキサデシル基、直鎖又は分枝のヘプタデシル基、直鎖又は分枝のオクタデシル基、直鎖又は分枝のノナデシル基、直鎖又は分枝のイコシル基、直鎖又は分枝のヘンイコシル基、直鎖又は分枝のドコシル基、直鎖又は分枝のトリコシル基、直鎖又は分枝のテトラコシル基等が挙げられる。
【0071】
炭素数2〜24のアルケニル基としては、ビニル基、直鎖又は分枝のプロペニル基、直鎖又は分枝のブテニル基、直鎖又は分枝のペンテニル基、直鎖又は分枝のへキセニル基、直鎖又は分枝のヘプテニル基、直鎖又は分枝のオクテニル基、直鎖又は分枝のノネニル基、直鎖又は分枝のデセニル基、直鎖又は分枝のウンデセニル基、直鎖又は分枝のドデセニル基、直鎖又は分枝のトリデセニル基、直鎖又は分枝のテトラデセニル基、直鎖又は分枝のペンタデセニル基、直鎖又は分枝のヘキサデセニル基、直鎖又は分枝のヘプタデセニル基、直鎖又は分枝のオクタデセニル基、直鎖又は分枝のノナデセニル基、直鎖又は分枝のイコセニル基、直鎖又は分枝のヘンイコセニル基、直鎖又は分枝のドコセニル基、直鎖又は分枝のトリコセニル基、直鎖又は分枝のテトラコセニル基等が挙げられる。
【0072】
炭素数5〜7のシクロアルキル基としては、シクリペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基としては、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基(全ての構造異性体を含む。)、メチルエチルシクロペンチル基(全ての構造異性体を含む。)、ジエチルシクロペンチル基(全ての構造異性体を含む。)、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基(全ての構造異性体を含む。)、メチルエチルシクロヘキシル基(全ての構造異性体を含む。)、ジエチルシクロヘキシル基(全ての構造異性体を含む。)、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基(全ての構造異性体を含む。)、メチルエチルシクロヘプチル基(全ての構造異性体を含む。)、ジエチルシクロヘプチル基(全ての構造異性体を含む。)等が挙げられる。
【0073】
炭素数6〜10のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。炭素数7〜18のアルキルアリール基としては、トリル基(全ての構造異性体を含む。)、キシリル基(全ての構造異性体を含む。)、エチルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖又は分枝のプロピルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖又は分枝のブチルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖又は分枝のペンチルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖又は分枝のヘキシルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖又は分枝のヘプチルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖又は分枝のオクチルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖又は分枝のノニルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖又は分枝のデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖又は分枝のウンデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖又は分枝のドデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)等が挙げられる。
【0074】
炭素数7〜18のアリールアルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基(プロピル基の異性体を含む。)フェニルブチル基(ブチル基の異性体を含む。)、フェニルペンチル基(ペンチル基の異性体を含む。)、フェニルヘキシル基(ヘキシル基の異性体を含む。)等が挙げられる。
【0075】
これらの中では、加工効率及び工具寿命の向上の点から、炭素数2〜18の直鎖又は分枝のアルキル基、炭素数2〜18の直鎖又は分枝のアルケニル基が好ましく、炭素数3〜12の直鎖又は分枝のアルキル基、オレイル基(オレイルアルコールから水酸基を除いた残基)がより好ましい。
【0076】
(I)アミンとしては、モノアミンが好ましく使用される。モノアミンの炭素数は、好ましくは6〜24であり、より好ましくは12〜24である。ここでいう炭素数とはモノアミンに含まれる総炭素数の意味であり、モノアミンが2個以上の炭化水素基を有する場合にはその合計炭素数を表す。
【0077】
本発明で用いられるモノアミンとしては、第1級モノアミン、第2級モノアミン、第3級モノアミンの何れもが使用可能であるが、加工効率及び工具寿命の向上の点から、第1級モノアミンが好ましい。
【0078】
モノアミンの窒素原子に結合する炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等の何れもが使用可能であるが、加工効率及び工具寿命の向上の点から、アルキル基又はアルケニル基であることが好ましい。アルキル基、アルケニル基としては、直鎖状のものであっても分岐鎖状のものであっても良いが、加工効率及び工具寿命の向上の点から、直鎖状のものが好ましい。
【0079】
本発明で用いられるモノアミンの好ましいものとしては、具体的には例えば、ヘキシルアミン(全ての異性体を含む)、ヘプチルアミン(全ての異性体を含む)、オクチルアミン(全ての異性体を含む)、ノニルアミン(全ての異性体を含む)、デシルアミン(全ての異性体を含む)、ウンデシルアミン(全ての異性体を含む)、ドデシルアミン(全ての異性体を含む)、トリデシルアミン(全ての異性体を含む)、テトラデシルアミン(全ての異性体を含む)、ペンタデシルアミン(全ての異性体を含む)、ヘキサデシルアミン(全ての異性体を含む)、ヘプタデシルアミン(全ての異性体を含む)、オクタデシルアミン(全ての異性体を含む)、ノナデシルアミン(全ての異性体を含む)、イコシルアミン(全ての異性体を含む)、ヘンイコシルアミン(全ての異性体を含む)、ドコシルアミン(全ての異性体を含む)、トリコシルアミン(全ての異性体を含む)、テトラコシルアミン(全ての異性体を含む)、オクタデセニルアミン(全ての異性体を含む)(オレイルアミン等を含む)及びこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。これらの中でも、加工効率及び工具寿命の向上の点から、炭素数12〜24の第1級モノアミンが好ましく、炭素数14〜20の第1級モノアミンがより好ましく、炭素数16〜18の第1級モノアミンがさらに好ましい。
【0080】
本発明においては、上記油性剤(A)〜(I)の中から選ばれる1種のみを用いてもよく、また2種以上の混合物を用いてもよい。これらの中でも、加工効率及び工具寿命の向上の点から、(B)カルボン酸及び(I)アミンから選ばれる1種または2種以上の混合物であることが好ましい。
【0081】
上記油性剤の含有量は特に制限はないが、加工効率及び工具寿命の向上の点から、組成物全量基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上である。また、安定性の点から、油性剤の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0082】
また、本発明の金属加工油は、極圧剤を更に含有することが好ましい。好ましい極圧剤としては、後述する硫黄化合物及びリン化合物が挙げられる。
【0083】
本発明で用いられる硫黄化合物としては、金属加工油組成物の特性を損なわない限りにおいて特に制限されないが、ジハイドロカルビルポリサルファイド、硫化エステル、硫化鉱油、ジチオリン酸亜鉛化合物、ジチオカルバミン酸亜鉛化合物、ジチオリン酸モリブデン化合物及びジチオカルバミン酸モリブデンが好ましく用いられる。
【0084】
ジハイドロカルビルポリサルファイドとは、一般的にポリサルファイド又は硫化オレフィンと呼ばれる硫黄系化合物であり、具体的には下記一般式(5)で表される化合物を意味する。
−S−R (5)
[式(5)中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数3〜20の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアルキルアリール基あるいは炭素数7〜20のアリールアルキル基を表し、hは2〜6、好ましくは2〜5の整数を表す。]
【0085】
上記一般式(5)中のR及びRとしては、具体的には、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、直鎖又は分枝ペンチル基、直鎖又は分枝ヘキシル基、直鎖又は分枝ヘプチル基、直鎖又は分枝オクチル基、直鎖又は分枝ノニル基、直鎖又は分枝デシル基、直鎖又は分枝ウンデシル基、直鎖又は分枝ドデシル基、直鎖又は分枝トリデシル基、直鎖又は分枝テトラデシル基、直鎖又は分枝ペンタデシル基、直鎖又は分枝ヘキサデシル基、直鎖又は分枝ヘプタデシル基、直鎖又は分枝オクタデシル基、直鎖又は分枝ノナデシル基、直鎖又は分枝イコシル基などの直鎖状又は分枝状のアルキル基;フェニル基、ナフチル基などのアリール基;トリル基(全ての構造異性体を含む)、エチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝プロピルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ブチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ペンチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ヘキシルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ヘプチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝オクチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ノニルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝デシルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ウンデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ドデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、キシリル基(全ての構造異性体を含む)、エチルメチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、ジエチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、ジ(直鎖又は分枝)プロピルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、ジ(直鎖又は分枝)ブチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、メチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、エチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝プロピルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ブチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、ジメチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、エチルメチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、ジエチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、ジ(直鎖又は分枝)プロピルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、ジ(直鎖又は分枝)ブチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)などのアルキルアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基(全ての異性体を含む)、フェニルプロピル基(全ての異性体を含む)などのアリールアルキル基;などを挙げることができる。
【0086】
これらの中でも、一般式(5)中のR及びRとしては、プロピレン、1−ブテン又はイソブチレンから誘導された炭素数3〜18のアルキル基、又は炭素数6〜8のアリール基、アルキルアリール基あるいはアリールアルキル基であることが好ましく、これらの基としては例えば、イソプロピル基、プロピレン2量体から誘導される分枝状ヘキシル基(全ての分枝状異性体を含む)、プロピレン3量体から誘導される分枝状ノニル基(全ての分枝状異性体を含む)、プロピレン4量体から誘導される分枝状ドデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、プロピレン5量体から誘導される分枝状ペンタデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、プロピレン6量体から誘導される分枝状オクタデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、sec−ブチル基、tert−ブチル基、1−ブテン2量体から誘導される分枝状オクチル基(全ての分枝状異性体を含む)、イソブチレン2量体から誘導される分枝状オクチル基(全ての分枝状異性体を含む)、1−ブテン3量体から誘導される分枝状ドデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、イソブチレン3量体から誘導される分枝状ドデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、1−ブテン4量体から誘導される分枝状ヘキサデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、イソブチレン4量体から誘導される分枝状ヘキサデシル基(全ての分枝状異性体を含む)などのアルキル基;フェニル基、トリル基(全ての構造異性体を含む)、エチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、キシリル基(全ての構造異性体を含む)などのアルキルアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基(全ての異性体を含む)などのアリールアルキル基が挙げられる。
【0087】
さらに、上記一般式(5)中のR及びRとしては、加工効率及び工具寿命の向上の点から、別個に、エチレン又はプロピレンから誘導された炭素数3〜18の分枝状アルキル基であることがより好ましく、エチレン又はプロピレンから誘導された炭素数6〜15の分枝状アルキル基であることが特に好ましい。
【0088】
硫化エステルとしては、具体的には、牛脂、豚脂、魚脂、菜種油、大豆油などの動植物油脂;不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸又は上記の動植物油脂から抽出された脂肪酸類などを含む)と各種アルコールとを反応させて得られる不飽和脂肪酸エステル;及びこれらの混合物などを任意の方法で硫化することにより得られるものが挙げられる

【0089】
硫化鉱油とは、鉱油に単体硫黄を溶解させたものをいう。ここで、本発明にかかる硫化鉱油に用いられる鉱油としては特に制限されないが、具体的には、原油に常圧蒸留及び減圧蒸留を施して得られる潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの精製処理を適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などが挙げられる。また、単体硫黄としては、塊状、粉末状、溶融液体状等いずれの形態のものを用いてもよいが、粉末状又は溶融液体状の単体硫黄を用いると基油への溶解を効率よく行うことができるので好ましい。なお、溶融液体状の単体硫黄は液体同士を混合するので溶解作業を非常に短時間で行うことができるという利点を有しているが、単体硫黄の融点以上で取り扱わねばならず、加熱設備などの特別な装置を必要としたり、高温雰囲気下での取り扱いとなるため危険を伴うなど取り扱いが必ずしも容易ではない。これに対して、粉末状の単体硫黄は、安価で取り扱いが容易であり、しかも溶解に要する時間が十分に短いので特に好ましい。また、本発明にかかる硫化鉱油における硫黄含有量に特に制限はないが、通常、硫化鉱油全量を基準として好ましくは0.05〜1.0質量%であり、より好ましくは0.1〜0.5質量%である。
【0090】
ジチオリン酸亜鉛化合物、ジチオカルバミン酸亜鉛化合物、ジチオリン酸モリブデン化合物及びジチオカルバミン酸モリブデン化合物とは、それぞれ下記一般式(6)〜(9)で表される化合物を意味する。
【0091】
【化3】

【0092】
【化4】

【0093】
【化5】

【0094】
【化6】

【0095】
[式(6)〜(9)中、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24及びR25は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1以上の炭化水素基を表し、X及びXはそれぞれ酸素原子又は硫黄原子を表す。]
【0096】
ここで、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24及びR25で表される炭化水素基の具体例を例示すれば、メチル基、エチル基、プロピル基(すべての分枝異性体を含む)、ブチル基(すべての分枝異性体を含む)、ペンチル基(すべての分枝異性体を含む)、ヘキシル基(すべての分枝異性体を含む)、ヘプチル基(すべての分枝異性体を含む)、オクチル基(すべての分枝異性体を含む)、ノニル基(すべての分枝異性体を含む)、デシル基(すべての分枝異性対を含む)、ウンデシル基(すべての分枝異性対を含む)、ドデシル基(すべての分枝異性対を含む)、トリデシル基(すべての分枝異性対を含む)、テトラデシル基(すべての分枝異性対を含む)、ペンタデシル基(すべての分枝異性対を含む)、ヘキサデシル基(すべての分枝異性対を含む)、ヘプタデシル基(すべての分枝異性対を含む)、オクタデシル基(すべての分枝異性対を含む)、ノナデシル基(すべての分枝異性対を含む)、イコシル基(すべての分枝異性対を含む)、ヘンイコシル基(すべての分枝異性対を含む)、ドコシル基(すべての分枝異性対を含む)、トリコシル基(すべての分枝異性対を含む)、テトラコシル基(すべての分枝異性対を含む)などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのシクロアルキル基;メチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、エチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、プロピルシクロペンチル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルエチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、トリメチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、ブチルシクロペンチル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルプロピルシクロペンチル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ジエチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルエチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、メチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、エチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、プロピルシクロヘキシル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルエチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、トリメチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、ブチルシクロヘキシル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルプロピルシクロヘキシル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ジエチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルエチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、メチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、エチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、プロピルシクロヘプチル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルエチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、トリメチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、ブチルシクロヘプチル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルプロピルシクロヘプチル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ジエチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルエチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)などのアルキルシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基などのアリール基;トリル基(すべての置換異性体を含む)、キシリル基(すべての置換異性体を含む)、エチルフェニル基(すべての置換異性体を含む)、プロピルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルエチルフェニル基(すべての置換異性体を含む)、トリメチルフェニル基(すべての置換異性体を含む)、ブチルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルプロピルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ジエチルフェニル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルエチルフェニル基(すべての置換異性体を含む)、ペンチルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ヘキシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ヘプチルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、オクチルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ノニルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、デシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ウンデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ドデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、トリデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、テトラデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ペンタデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ヘキサデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ヘプタデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、オクタデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)などのアルキルアリール基;ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基(すべての分枝異性体を含む)、フェニルブチル基(すべての分枝異性体を含む)などのアリールアルキル基などが挙げられる。
【0097】
本発明においては、上記硫黄化合物の中でも、ジハイドロカルビルポリサルファイド及び硫化エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いると、加工効率及び工具寿命の向上効果が一層高水準で得られるので好ましい。
【0098】
また、本発明において極圧剤として用いるリン化合物としては、具体的には、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステル、亜リン酸エステル及びフォスフォロチオネート、下記一般式(10)又は(11)で表されるリン化合物の金属塩等が挙げられる。これらのリン化合物は、リン酸、亜リン酸又はチオリン酸とアルカノール、ポリエーテル型アルコールとのエステルあるいはその誘導体が挙げられる。
【0099】
【化7】

【0100】
[式(10)中、X、X及びXは同一でも異なっていてもよく、それぞれ酸素原子又は硫黄原子を表し、X、X又はXの少なくとも2つは酸素原子であり、R26、R27、及びR28は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表す。]
【0101】
【化8】

【0102】
[式(11)中、X、X、X及びXは同一でも異なっていてもよく、それぞれ酸素原子又は硫黄原子を表し、X、X、X又はXの少なくとも3つは酸素原子であり、R29、R30及びR31は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表す。]
【0103】
より具体的には、リン酸エステルとしては、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリヘプチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリノニルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリウンデシルホスフェート、トリドデシルホスフェート、トリトリデシルホスフェート、トリテトラデシルホスフェート、トリペンタデシルホスフェート、トリヘキサデシルホスフェート、トリヘプタデシルホスフェート、トリオクタデシルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等が挙げられる。
【0104】
酸性リン酸エステルとしては、モノブチルアシッドホスフェート、モノペンチルアシッドホスフェート、モノヘキシルアシッドホスフェート、モノヘプチルアシッドホスフェート、モノオクチルアシッドホスフェート、モノノニルアシッドホスフェート、モノデシルアシッドホスフェート、モノウンデシルアシッドホスフェート、モノドデシルアシッドホスフェート、モノトリデシルアシッドホスフェート、モノテトラデシルアシッドホスフェート、モノペンタデシルアシッドホスフェート、モノヘキサデシルアシッドホスフェート、モノヘプタデシルアシッドホスフェート、モノオクタデシルアシッドホスフェート、モノオレイルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジペンチルアシッドホスフェート、ジヘキシルアシッドホスフェート、ジヘプチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジノニルアシッドホスフェート、ジデシルアシッドホスフェート、ジウンデシルアシッドホスフェート、ジドデシルアシッドホスフェート、ジトリデシルアシッドホスフェート、ジテトラデシルアシッドホスフェート、ジペンタデシルアシッドホスフェート、ジヘキサデシルアシッドホスフェート、ジヘプタデシルアシッドホスフェート、ジオクタデシルアシッドホスフェート、ジオレイルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0105】
酸性リン酸エステルのアミン塩としては、前記酸性リン酸エステルのメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン等のアミンとの塩等が挙げられる。
【0106】
塩素化リン酸エステルとしては、トリス・ジクロロプロピルホスフェート、トリス・クロロエチルホスフェート、トリス・クロロフェニルホスフェート、ポリオキシアルキレン・ビス[ジ(クロロアルキル)]ホスフェート等が挙げられる。
【0107】
亜リン酸エステルとしては、ジブチルホスファイト、ジペンチルホスファイト、ジヘキシルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、ジオクチルホスファイト、ジノニルホスファイト、ジデシルホスファイト、ジウンデシルホスファイト、ジドデシルホスファイト、ジオレイルホスファイト、ジフェニルホスファイト、ジクレジルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリペンチルホスファイト、トリヘキシルホスファイト、トリヘプチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリウンデシルホスファイト、トリドデシルホスファイト、トリオレイルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト等が挙げられる。
【0108】
フォスフォロチオネートとしては、トリブチルフォスフォロチオネート、トリペンチルフォスフォロチオネート、トリヘキシルフォスフォロチオネート、トリヘプチルフォスフォロチオネート、トリオクチルフォスフォロチオネート、トリノニルフォスフォロチオネート、トリデシルフォスフォロチオネート、トリウンデシルフォスフォロチオネート、トリドデシルフォスフォロチオネート、トリトリデシルフォスフォロチオネート、トリテトラデシルフォスフォロチオネート、トリペンタデシルフォスフォロチオネート、トリヘキサデシルフォスフォロチオネート、トリヘプタデシルフォスフォロチオネート、トリオクタデシルフォスフォロチオネート、トリオレイルフォスフォロチオネート、トリフェニルフォスフォロチオネート、トリクレジルフォスフォロチオネート、トリキシレニルフォスフォロチオネート、クレジルジフェニルフォスフォロチオネート、キシレニルジフェニルフォスフォロチオネート、トリス(n−プロピルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(イソプロピルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(n−ブチルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(イソブチルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(s−ブチルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(t−ブチルフェニル)フォスフォロチオネート等が挙げられる。
【0109】
また、上記一般式(10)又は(11)で表されるリン化合物の金属塩に関し、式中のR26〜R31で表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等が挙げられる。
【0110】
上記アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)が挙げられる。
【0111】
上記シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7のシクロアルキル基を挙げることができる。また上記アルキルシクロアルキル基としては、例えば、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、メチルエチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基等の炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基(アルキル基のシクロアルキル基への置換位置も任意である)が挙げられる。
【0112】
上記アルケニル基としては、例えば、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である)が挙げられる。
【0113】
上記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を挙げることができる。また上記アルキルアリール基としては、例えば、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等の炭素数7〜18のアルキルアリール基(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、またアリール基への置換位置も任意である)が挙げられる。
【0114】
上記アリールアルキル基としては、例えばベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基等の炭素数7〜12のアリールアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)が挙げられる。
【0115】
26〜R31で表される炭素数1〜30の炭化水素基は、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、更に好ましくは炭素数3〜18のアルキル基、更に好ましくは炭素数4〜12のアルキル基である。
【0116】
26、R27及びR28は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は上記炭化水素基を表すが、R26、R27及びR28のうち、1〜3個が上記炭化水素基であることが好ましく、1〜2個が上記炭化水素基であることがより好ましく、2個が上記炭化水素基であることがさらに好ましい。
【0117】
また、R29、R30及びR31は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は上記炭化水素基を表すが、R29、R30及びR31のうち、1〜3個が上記炭化水素基であることが好ましく、1〜2個が上記炭化水素基であることがより好ましく、2個が上記炭化水素基であることがさらに好ましい。
【0118】
一般式(10)で表されるリン化合物において、X〜Xのうちの少なくとも2つは酸素原子であることが必要であるが、X〜Xの全てが酸素原子であることが好ましい。
【0119】
また、一般式(11)で表されるリン化合物において、X〜Xのうちの少なくとも3つは酸素原子であることが・BR>K要であるが、X〜Xの全てが酸素原子であることが好ましい。
【0120】
一般式(10)で表されるリン化合物としては、例えば、亜リン酸、モノチオ亜リン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有する亜リン酸モノエステル、モノチオ亜リン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有する亜リン酸ジエステル、モノチオ亜リン酸ジエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有する亜リン酸トリエステル、モノチオ亜リン酸トリエステル;及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、亜リン酸モノエステル、亜リン酸ジエステルが好ましく、亜リン酸ジエステルがより好ましい。
【0121】
また、一般式(11)で表されるリン化合物としては、例えば、リン酸、モノチオリン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有するリン酸モノエステル、モノチオリン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有するリン酸ジエステル、モノチオリン酸ジエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有するリン酸トリエステル、モノチオリン酸トリエステル;及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、リン酸モノエステル、リン酸ジエステルが好ましく、リン酸ジエステルがより好ましい。
【0122】
一般式(10)又は(11)で表されるリン化合物の金属塩としては、当該リン化合物の酸性水素の一部又は全部を金属塩基で中和した塩が挙げられる。かかる金属塩基としては、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等が挙げられ、その金属としては、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン等の重金属等が挙げられる。これらの中ではカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属及び亜鉛が好ましい。
【0123】
上記リン化合物の金属塩は、金属の価数やリン化合物のOH基あるいはSH基の数に応じその構造が異なり、従ってその構造については何ら限定されないが、例えば、酸化亜鉛1molとリン酸ジエステル(OH基が1つ)2molを反応させた場合、下記式(12)で表される構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【0124】
【化9】

【0125】
また、例えば、酸化亜鉛1molとリン酸モノエステル(OH基が2つ)1molとを反応させた場合、下記式(13)で表される構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【0126】
【化10】

【0127】
また、これらの2種以上の混合物も使用できる。
【0128】
本発明においては、上記リン化合物の中でも、より高い加工効率及び工具寿命の向上効果が得られることから、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、及び酸性リン酸エステルのアミン塩が好ましい。
【0129】
また、本発明の金属加工油組成物は、後述するように、金属加工以外の用途に適用可能であるが、本発明の金属加工油組成物を工作機械の摺動面用油として使用する場合には、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩を含有することが好ましい。また、本発明の金属加工油組成物を油圧作動油として使用する場合には、リン酸エステルを含有するが好ましい。さらに、摺動面用油と油圧作動油との兼用油として用いる場合には、酸性リン酸エステル及び酸性リン酸エステルのアミン塩から選ばれる少なくとも1種と、リン酸エステルとを組み合わせて用いることが好ましい。
【0130】
本発明の金属加工油組成物は、硫黄化合物及びリン化合物の一方のみを含有するものであってもよく、硫黄化合物とリン化合物との双方を含有するものであってもよい。加工効率及び工具寿命の向上効果がより高められる点からは、リン化合物、又は硫黄化合物及びリン化合物の双方を含有することが好ましく、硫黄化合物とリン化合物との双方を含有することがより好ましい。
【0131】
上記極圧剤の含有量は任意であるが、加工効率及び工具寿命の向上の点から、組成物全量基準で、0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらにより好ましい。また、異常摩耗の防止の点から、極圧剤の含有量は、組成物全量基準で、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらにより好ましく、10質量%以下であることがより一層好ましく、7質量%以下であることが最も好ましい。
【0132】
本発明においては、上述の油性剤又は極圧剤の一方のみを用いてもよいが、一層高い加工効率及び工具寿命の向上効果を達成できる点から、油性剤と極圧剤とを併用することが好ましい。
【0133】
また、本発明の金属加工油組成物においては、より優れた加工効率及び工具寿命が得られる点から、有機酸塩を含有することが好ましい。有機酸塩としては、スルフォネート、フェネート、サリシレート、並びにこれらの混合物が好ましく用いられる。これらの有機酸塩の陽性成分としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;アンモニア、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアミン(モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミンなど)、炭素数1〜3のアルカノール基を有するアルカノールアミン(モノメタノールアミン、ジメタノールアミン、トリメタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミンなど)などのアミン、亜鉛などが挙げられるが、これらの中でもアルカリ金属又はアルカリ土類金属が好ましく、カルシウムが特に好ましい。有機酸塩の陽性成分がアルカリ金属又はアルカリ土類金属であると、より高い潤滑性が得られる傾向にある。
【0134】
有機酸塩の全塩基価は、好ましくは50〜500mgKOH/gであり、より好ましくは100〜450mgKOH/gである。有機酸塩の全塩基価が100mgKOH/g未満の場合は有機酸塩の添加による潤滑性向上効果が不十分となる傾向にあり、他方、全塩基価が500mgKOH/gを超える有機酸塩は、通常、製造が非常に難しく入手が困難であるため、それぞれ好ましくない。なお、ここでいう全塩基価とは、JIS K 2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による全塩基価[mgKOH/g]をいう。
【0135】
また、有機酸塩の含有量は、組成物全量基準で好ましくは0.1〜30質量%であり、より好ましくは0.5〜25質量%であり、さらに好ましくは1〜20質量%である。有機酸塩の含有量が前記下限値未満の場合、有機酸塩の添加による加工効率及び工具寿命の向上効果が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限値を超えると金属加工油組成物の安定性が低下して析出物が生じやすくなる傾向にある。
【0136】
スルフォネートは、任意の方法によって製造されたものが使用可能である。例えば、分子量100〜1500、好ましくは200〜700のアルキル芳香族化合物をスルフォン化することによって得られるアルキル芳香族スルフォン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩及びこれらの混合物などが使用できる。ここでいうアルキル芳香族スルフォン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルフォン化したものや、ホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸などの石油スルフォン酸や、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる直鎖状又は分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルフォン化したもの、あるいはジノニルナフタレンなどのアルキルナフタレンをスルフォン化したものなどの合成スルフォン酸などが挙げられる。また、上記のアルキル芳香族スルフォン酸と、アルカリ金属の塩基(アルカリ金属の酸化物や水酸化物など)、アルカリ土類金属の塩基(アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物など)又は上述したアミン(アンモニア、アルキルアミンやアルカノールアミンなど)とを反応させて得られるいわゆる中性(正塩)スルフォネート;中性(正塩)スルフォネートと、過剰のアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンを水の存在下で加熱することにより得られるいわゆる塩基性スルフォネート;炭酸ガスの存在下で中性(正塩)スルフォネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンと反応させることにより得られるいわゆる炭酸塩過塩基性(超塩基性)スルフォネート;中性(正塩)スルフォネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンならびにホウ酸又は無水ホウ酸などのホウ酸化合物と反応させたり、又は炭酸塩過塩基性(超塩基性)スルフォネートとホウ酸又は無水ホウ酸などのホウ酸化合物を反応させることによって製造されるいわゆるホウ酸塩過塩基性(超塩基性)スルフォネート;及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0137】
また、フェネートとしては、具体的には、元素硫黄の存在下又は不存在下で、炭素数4〜20のアルキル基を1〜2個有するアルキルフェノールと、アルカリ金属の塩基(アルカリ金属の酸化物や水酸化物など)、アルカリ土類金属の塩基(アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物など)又は上述したアミン(アンモニア、アルキルアミンやアルカノールアミンなど)とを反応させることにより得られる中性フェネート;中性フェネートと過剰のアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンを水の存在下で加熱することにより得られる、いわゆる塩基性フェネート;炭酸ガスの存在下で中性フェネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンと反応させることにより得られる、いわゆる炭酸塩過塩基性(超塩基性)フェネート;中性フェネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンならびにホウ酸又は無水ホウ酸などのホウ酸化合物と反応させたり、又は炭酸塩過塩基性(超塩基性)フェネートとホウ酸又は無水ホウ酸などのホウ酸化合物を反応させることによって製造される、いわゆるホウ酸塩過塩基性(超塩基性)フェネート;及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0138】
さらに、サリシレートとしては、具体的には、元素硫黄の存在下又は不存在下で、炭素数4〜20のアルキル基を1〜2個有するアルキルサリチル酸と、アルカリ金属の塩基(アルカリ金属の酸化物や水酸化物など)、アルカリ土類金属の塩基(アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物など)又は上述したアミン(アンモニア、アルキルアミンやアルカノールアミンなど)とを反応させることにより得られる中性サリシレート;中性サリシレートと、過剰のアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンを水の存在下で加熱することにより得られるいわゆる塩基性サリシレート;炭酸ガスの存在下で中性サリシレートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンと反応させることにより得られるいわゆる炭酸塩過塩基性(超塩基性)サリシレート;中性サリシレートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンならびにホウ酸又は無水ホウ酸などのホウ酸化合物と反応させたり、又は炭酸塩過塩基性(超塩基性)金属サリシレートとホウ酸又は無水ホウ酸などのホウ酸化合物を反応させることによって製造されるいわゆるホウ酸塩過塩基性(超塩基性)サリシレート;及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0139】
本発明においては、有機酸塩を単独で用いてもよく、あるいは有機酸塩と他の添加剤とを組み合わせて用いてもよい。加工効率及び工具寿命がより高められる点からは、有機酸塩を上記の極圧剤と組み合わせて用いることが好ましく、硫黄化合物、リン化合物及び有機酸塩の3種を組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0140】
また、本発明の金属加工油組成物は酸化防止剤を更に含有していることが好ましい。酸化防止剤の添加により、構成成分の変質によるべたつきを防止することができ、また、熱・酸化安定性を向上させることができる。
【0141】
使用できる酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ジチオリン酸亜鉛系酸化防止剤、その他食品添加剤として使用されているものなどが挙げられる。
【0142】
フェノール系酸化防止剤としては、潤滑油の酸化防止剤として用いられる任意のフェノール系化合物が使用可能であり、特に制限されるものでないが、例えば下記の一般式(14)及び一般式(15)で表される化合物の中から選ばれる1種又は2種以上のアルキルフェノール化合物が好ましいものとして挙げられる。
【0143】
【化11】

【0144】
[式(14)中、R32は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R33は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R34は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、下記一般式(i)又は(ii)で表される基を示す。]
【0145】
【化12】

【0146】
(一般式(i)中、R35は炭素数1〜6のアルキレン基を示し、R36は炭素数1〜24のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
【0147】
【化13】

【0148】
(一般式(ii)中、R37は炭素数1〜6のアルキレン基を示し、R38は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R39は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、kは0又は1を示す。)
【0149】
【化14】

【0150】
[一般式(15)中、R40及びR42は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜4のアルキル基を示し、R41及びR43は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R44及びR45は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜6のアルキレン基を示し、Aは炭素数1〜18のアルキレン基又は下記の一般式(iii)で表される基を示す。]
【0151】
−R46−S−R47− (iii)
(一般式(iii)中、R46及びR47は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜6のアルキレン基を示す)
【0152】
本発明に使用されるアミン系酸化防止剤としては、潤滑油の酸化防止剤として用いられる任意のアミン系化合物が使用可能であり、特に限定されるものではないが、例えば、下記の一般式(16)で表されるフェニル−α−ナフチルアミン又はN−p−アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、並びに下記一般式(17)で表されるp,p’−ジアルキルジフェニルアミンの中から選ばれる1種又は2種以上の芳香族アミンが好ましいものとして挙げられる。
【0153】
【化15】

【0154】
[式(16)中、R48は水素原子又はアルキル基を示す。]
【0155】
【化16】

【0156】
[式(17)中、R49及びR50は同一でも異なっていてもよく、それぞれアルキル基を示す。]
【0157】
アミン系酸化防止剤の具体例としては、4−ブチル−4’−オクチルジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、ドデシルフェニル−α−ナフチルアミン及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0158】
本発明に使用されるジチオリン酸亜鉛系酸化防止剤としては、具体的には、下記一般式(18)で表されるジチオリン酸亜鉛などが挙げられる。
【0159】
【化17】

【0160】
[式(18)中、R51、R52、R53及びR54は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭化水素基を示す。]
【0161】
また、食品添加剤として使用されている酸化防止剤も使用可能であり、上述したフェノール系酸化防止剤と一部重複するが、例えば、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−o−クレゾール)、アスコルビン酸(ビタミンC)、アスコルビン酸の脂肪酸エステル、トコフェロール(ビタミンE)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、3−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、1,2−ジハイドロ−6−エトキシ−2,2,4−トリメチルキノリン(エトキシキン)、2−(1,1−ジメチル)−1,4−ベンゼンジオール(TBHQ)、2,4,5−トリヒドロキシブチロフェノン(THBP)を挙げることができる。
【0162】
これらの酸化防止剤の中でも、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、並びに上記食品添加剤として使用されているものが好ましい。さらに、生分解性を重視する場合には、上記食品添加剤として使用されているものがより好ましく、中でもアスコルビン酸(ビタミンC)、アスコルビン酸の脂肪酸エステル、トコフェロール(ビタミンE)、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、3−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、1,2−ジハイドロ−6−エトキシ−2,2,4−トリメチルキノリン(エトキシキン)、2−(1,1−ジメチル)−1,4−ベンゼンジオール(TBHQ)、又は2,4,5−トリヒドロキシブチロフェノン(THBP)が好ましく、アスコルビン酸(ビタミンC)、アスコルビン酸の脂肪酸エステル、トコフェロール(ビタミンE)、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)、又は3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソールがより好ましい。
【0163】
酸化防止剤の含有量は特に制限はないが、良好な熱・酸化安定性を維持させるためにその含有量は、組成物全量基準で0.01質量%以上が好ましく、更に好ましくは0.05質量%以上、最も好ましくは0.1質量%以上である。一方それ以上添加しても効果の向上が期待できないことからその含有量は10質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは5質量%以下であり、最も好ましくは3質量%以下である。
【0164】
また、本発明の金属加工油組成物には、上記した以外の従来公知の添加剤を含有することができる。かかる添加剤としては、例えば、上記したリン化合物、硫黄化合物以外の極圧剤(塩素系極圧剤を含む);ジエチレングリコールモノアルキルエーテル等の湿潤剤;アクリルポリマー、パラフィンワックス、マイクロワックス、スラックワックス、ポリオレフィンワックス等の造膜剤;脂肪酸アミン塩等の水置換剤;グラファイト、フッ化黒鉛、二硫化モリブデン、窒化ホウ素、ポリエチレン粉末等の固体潤滑剤;アミン、アルカノールアミン、アミド、カルボン酸、カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸、リン酸塩、多価アルコールの部分エステル等の腐食防止剤;ベンゾトリアゾール、チアジアゾール等の金属不活性化剤;メチルシリコーン、フルオロシリコーン、ポリアクリレート等の消泡剤;アルケニルコハク酸イミド、ベンジルアミン、ポリアルケニルアミンアミノアミド等の無灰分散剤;等が挙げられる。これらの公知の添加剤を併用する場合の含有量は特に制限されないが、これらの公知の添加剤の合計含有量が組成物全量基準で0.1〜10質量%となるような量で添加するのが一般的である。
【0165】
なお、本発明の金属加工油組成物は、上述のように塩素系極圧剤などの塩素系添加剤を含有してもよいが、安全性の向上及び環境に対する負荷の低減の点からは、塩素系添加剤を含有しないことが好ましい。また、塩素濃度は、組成物全量基準で、1000質量ppm以下であることが好ましく、500質量ppm以下であることがより好ましく、200質量ppm以下であることが更に好ましく、100質量ppm以下であることが特に好ましい。
【0166】
本発明の金属加工油組成物の動粘度は特に制限されないが、加工部位への供給容易性の点から、40℃における動粘度の上限値は200mm/sであることが好ましく、更に好ましくは100mm/sであり、更に好ましくは75mm/sであり、最も好ましくは50mm/sである。一方、その下限値は、1mm/sであることが好ましく、更に好ましくは3mm/sであり、最も好ましくは5mm/sである。
【0167】
上記構成を有する本発明の金属加工油組成物は、加工効率、工具寿命などの加工性能、更には取扱性に優れるものであるため、金属加工分野の広範な用途において好適に使用することができる。ここでいう金属加工とは、切削・研削加工に限定されず、広く金属加工全般を意味する。また、本発明の金属加工油組成物は、通常給油方式による金属加工の他、極微量油剤供給式切削・研削加・転造加工(MQL加工)などに適用可能である。
【0168】
金属加工の種類としては、具体的には、切削加工、研削加工、転造加工、鍛造加工、プレス加工、引き抜き加工、圧延加工等が挙げられる。これらの中でも、本発明の金属加工油組成物は切削加工、研削加工、転造加工などの用途に非常に有用であり、特に、重加工、難加工及び難加工材加工においてより顕著な効果を発揮する。
【0169】
重加工としては、シェービング加工、深穴加工(BTA加工、ガンドリル加工等)、ブローチ加工、ネジ転造加工、ネジ研削加工、工具研削加工などが挙げられる。
【0170】
また、難加工としては、自動盤加工、内面旋削加工などが挙げられる。
【0171】
また、難加工材加工としては、ステンレス、インコネル、焼入れ鋼などの難加工材を加工するものが挙げられる。
【0172】
さらに、本発明の金属加工油組成物は、摺動面用油剤、軸受部分用油剤、油圧機器用油剤などの工作機械の加工部位以外の潤滑油剤として用いることが可能なものであり、従って工作機械の省スペース化、省エネルギー化を可能とする点で非常に有用である。
【0173】
なお、本発明でいう摺動面用油剤とは、切削・研削加工に用いられる工作機械が備える構成部材のうち、当接する2平面の摺動運動の案内機構に用いられる潤滑油剤をいう。例えば、ベッド上を移動可能なテーブル上に被加工部材を配置し、テーブルを移動させて切削・研削加工用工具へ向けて被加工部材を搬送する工作機械においては、テーブルとベッドとの間の摺動面が摺動面用油剤により潤滑される。また、ベッド上を移動可能な台上に切削・研削加工用工具を固定し、その台を移動させて工具を被加工部材に向けて移動させる工作機械においては、台とベッドとの間の摺動面が摺動面用油剤により潤滑される。
【0174】
このような摺動面用油には、摺動面での摩擦係数が小さいことやスティックスリップ防止性が高いなどの摩擦特性が求められる。工作機械の加工テーブルなどの摺動面においてスティックスリップが発生すると、その摩擦振動がそのまま被加工部材に転写され、その結果加工精度が低下したり、あるいはその振動から工具寿命が低下するなどの問題が生じる。本発明の金属組成物は、摺動面用油剤として用いた場合にこれらの現象を十分に防止することが可能なものであるが、摩擦特性の点からはリン化合物を更に含有することが好ましい。
【0175】
また、軸受部分の潤滑には、油剤軸受潤滑とミスト軸受潤滑等の潤滑方法があるが、本発明の油剤組成物はこのどちらにも使用可能である。
【0176】
油剤軸受潤滑とは、潤滑油を液体のまま軸受部に供給して当該部分の円滑な摺動を図る潤滑方式を意味し、潤滑油による軸受部の冷却等も期待できる。このような軸受潤滑用の潤滑油剤としては、より高温部で使用されることから熱劣化が起きにくい、つまり耐熱性に優れていることが要求されるが、本発明の金属加工油組成物はこのような油剤軸受潤滑にも用いることができるものである。
【0177】
ミスト軸受潤滑とは、潤滑油をミスト発生装置により霧状にし、空気等の期待でその霧状の油を軸受部に供給して当該部分の円滑な摺動を図る潤滑方式を意味し、軸受部等の高温部では、空気等による冷却効果を期待できることから、近年の工作機械ではこの潤滑方式を採用している例が多い。このようなミスト潤滑用の潤滑油剤としては、より高温部で使用されることから熱劣化が起きにくい、つまり耐熱性に優れていることが要求されるが、本発明の油剤組成物はこのようなミスト軸受潤滑にも用いることができるものである。
【0178】
油圧機器は、油圧にて機械の動作、制御を行うものであり、機械類の動作を司る油圧制御部分では潤滑、シール、冷却効果を期待される油圧作動油が使用される。油圧作動油は、潤滑油をポンプで高圧に圧縮し、油圧を発生させ、機器を動かすため、潤滑油に高い潤滑性と高い酸化安定性、熱安定性が求められるが、本発明の金属加工油組成物はこのような油圧作動油にも用いることができるものである。本発明の金属加工油組成物を油圧作動油兼用油として使用する場合には、その潤滑性をさらに向上させるために、リン化合物を更に含有することが好ましい。
【0179】
ここで、本発明の金属加工油組成物を用いた切削・研削加工方法の一例について説明する。
【0180】
図1は本発明において好適に用いられる工作機械の一例を示す説明図である。図1に示す工作機械は、ベッド1上を矢印の方向に移動可能なテーブル2、並びに支持手段10に支持されており矢印の方向に回転可能な工具11を備えている。また、給油タンク12には本発明の金属加工油組成物が収容されており、テーブル2上に配置された被加工部材3を切削・研削加工する際には、本発明の金属加工油組成物が加工油剤供給部13から加工部位に向けて供給される。また、給油タンク12に収容された本発明の金属加工油組成物は、摺動面用油剤供給部14からベッド1とテーブル2との間の摺動面16に供給されると共に、軸受用油剤供給部15から支持手段10と工具11との間の軸受部に供給されて、摺動面16及び軸受部17の潤滑が行われる。
【0181】
上記の潤滑方法においては、本発明の金属加工油組成物を用いて、切削・研削加工部位、工作機械の摺動面、あるいは更に軸受部における潤滑を行うことによって、切削・研削加工における加工性の向上、作業効率の向上が達成される。
【0182】
また、詳細は図示していないが、給油タンク12に収容される本発明の金属加工油組成物を、工作機械が備える油圧機器に供給して、油圧作動油として用いることもできる。さらに、給油タンク12に収容される本発明の金属加工油組成物を、工作機械が備えるギヤ部分に供給して、ギヤ油として用いることもできる。
【実施例】
【0183】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0184】
[実施例1〜22、比較例1〜2]
以下に示す基油a〜l及び添加剤A〜Dを用いて、表1に示す金属加工油組成物を調製した。
【0185】
(1)基油
基油a:THP+(iC10+nC14)(50:50(モル比))(40℃動粘度28mm/s)
基油b:THP+nC14(40℃動粘度30mm/s)
基油c:THP+nC11(40℃動粘度24mm/s)
基油d:THP+iC10(40℃動粘度30mm/s)
基油e:THP+2EH(40℃動粘度18mm/s)
基油f:HHP+(iC10+nC14)(50:50(モル比))(40℃動粘度27mm/s)
基油g:HHP+nC14(40℃動粘度28mm/s)
基油h:HHP+nC11(40℃動粘度23mm/s)
基油i:HHP+iC10(40℃動粘度28mm/s)
基油j:HHP+2EH(40℃動粘度17mm/s)
基油k:菜種白しめ油(40℃動粘度36mm/s)
基油l:SEA10(40℃動粘度17mm/s)
(ただし、THPはテトラハイドロフタル酸、HHPはヘキサハイドロフタル酸、iC10はi−デシルアルコール、nC14はn−テトラデシルアルコール、nC11はn−ウンデシルアルコール、2EHは2−エチルヘキサノールを示す。)
【0186】
(2)添加剤
添加剤A:トリクレジルホスフェート(TCP)
添加剤B:硫化エステル
添加剤C:グリセリンモノオレート(GMO)
添加剤D:2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)
【0187】
次に、実施例1〜22及び比較例1〜2の金属加工油組成物を用いて以下の評価試験を実施した。
【0188】
(タッピング試験)
実施例1〜22及び比較例1〜2の金属加工油組成物について、ジイソデシルアジペートを比較標準油として、加工性能を評価した。具体的には、実施例1〜22又は比較例1〜2の金属加工油組成物と、ジイソデシルアジペートとを交互に用いて、以下に示す条件でタッピング試験を行った。金属加工油組成物の加工部位への供給の際には、直接加工部位に6L/時の条件で吹き付けた。
【0189】
工具:ナットタップM8(P=1.25mm)
下穴径:φ6.8mm
ワーク:S25C(t=10mm)
切削速度:9.0m/分。
【0190】
上記試験におけるタッピングエネルギーを測定し、下記式を用いてタッピングエネルギー効率(%)を算出した。
タッピングエネルギー効率(%)=(比較標準油を用いた場合のタッピングエネルギ
ー)/(金属加工油組成物を用いた場合のタッピングエネルギー)
得られた結果を表1に示す。表中、タッピングエネルギー効率の値が高い程、潤滑性が高いことを意味する。
【0191】
(摩擦特性評価試験)
図2に示す装置を用い、実施例1〜22及び比較例1〜2の金属加工油組成物の摩擦特性を以下の手順で評価した。
図2に示す装置において、鋳鉄製のベッド1上と鋳鉄製のテーブル2との当接する面に
油剤を滴下した。次に、テーブル2上に重鎮3’を配置して面圧200kPaとし、A/
Cサーボメータ4、送りネジ5及び軸受部を有する可動治具6で構成される駆動手段によ
りテーブル2を矢印の方向に往復運動させた。テーブル2を往復運動させる際には、制御
盤7及び制御手段8により、送り速度400mm/min、送り長さ300mmとなるよ
うに制御した。このようにしてテーブル2を3往復させた後、4往復目のテーブル2と可
動治具6との間の荷重をロードセル9によって測定し、得られた測定値に基づいてテーブ
ルとベッドとが当接する面(案内面)の摩擦係数の平均値を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0192】
(耐摩耗性評価試験)
実施例1〜22及び比較例1〜2の金属加工油組成物について、高速四球試験法により、回転数1800rpm、荷重392Nで30minの摩耗試験を行い、摩耗痕径を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0193】
(酸化安定性試験)
50mlスクリュー管に試料を25ml入れ、空気中、70℃で4週間加熱したときの酸価の変化量を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0194】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0195】
【図1】本発明の極微量油剤供給式切削・研削加工方法において好適に用いられる工作機械の一例を示す説明図である。
【図2】実施例における摺動面用油剤としての特性評価試験に用いられた装置を示す説明図である。
【符号の説明】
【0196】
1 ベッド
2 テーブル
3 被加工部材
3’重鎮
4 A/Cサーボメータ、
5 送りネジ
6 可動治具
7 制御盤
8 制御手段
9 ロードセル
10 支持手段
11 工具
12 給油タンク
13 加工油剤供給部
14 摺動面用油剤供給部
15 軸受用油剤供給部
16 摺動面
17 軸受部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素油に、脂環式多価カルボン酸エステル化合物を組成物全量基準で1〜50質量%含有する金属加工油組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−249370(P2006−249370A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71392(P2005−71392)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】