説明

金属化フィルムコンデンサおよびその製造方法

【課題】コンデンサの発熱や周囲の急激な温度変化による熱膨張収縮に起因する誘電正接(tanδ)の増加を抑制し、信頼性の高い金属化フィルムコンデンサを提供することを目的とする。
【解決手段】別々の誘電体フィルムまたは同じ誘電体フィルムの表裏両面の片側端部に設けられたマージン部を除いて金属蒸着した金属化フィルムを、それぞれのマージン部が反対側に位置するように重ねて積層または巻回した巻回体11と、前記巻回体の両端面12に設けたメタリコン電極14とを有し、前記巻回体11の両端面12に複数の溝13が形成された金属化フィルムコンデンサとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器、電気機器や産業機器等に用いられる金属化フィルムコンデンサとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フィルムコンデンサは、一般に、金属箔を電極に用いるものと、誘電体フィルム上に設けた蒸着電極を電極に用いるものとに大別される。中でも、蒸着金属を電極とする金属化フィルムコンデンサは、蒸着金属の膜厚が非常に薄いため、金属箔を電極に用いたフィルムコンデンサに比べて電極の占める体積が小さく小型軽量化に有利であること、金属蒸着電極特有の自己回復性能(誘電体フィルムの絶縁欠陥部で短絡が生じた場合に、短絡のエネルギーで欠陥部周辺の蒸着電極が蒸発・飛散して絶縁化し、コンデンサの機能が回復する性能)により絶縁破壊に対する信頼性が高いこと、などの理由により、従来から広く用いられている。
【0003】
図5はこの種の金属化フィルムコンデンサを示す斜視図である。
【0004】
図5において、第1の蒸着金属化フィルム51は、ポリプロピレンフィルム52の表面に、右端縁部に非金属蒸着領域であるマージン53を残して蒸着された短冊状の蒸着アルミニウム54と、各短冊状の蒸着アルミニウム54から左側に突設された蒸着アルミニウム細線部55、及び左端縁部の蒸着アルミニウムヘビーエッジ部56とから構成されている。
【0005】
また、第2の金属蒸着フィルム57は、ポリプロピレンフィルム52の表面に、左端縁部にマージン53を残して金属蒸着層58を蒸着し、右端縁部にヘビーエッジ部56を設けている。
【0006】
そして第1の蒸着金属化フィルム51と第2の蒸着金属化フィルム57の2枚の蒸着金属化フィルムは重ね合わされて巻回され、その巻回端面に引き出し電極としての亜鉛金属溶射層(メタリコン部)59、59が設けられ、さらにリード線60、60が取り付けられている。
【0007】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開平5−47593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような金属化フィルムコンデンサは、その用途の拡大につれて、より大きな静電容量が求められる場合も多く、金属化フィルムコンデンサを構成する素子の寸法としては大きくなる傾向にある。
【0009】
金属化フィルムコンデンサを構成する素子としては、別々の誘電体フィルムに非金属蒸着部であるマージン部を除いて金属蒸着した金属化フィルムを少なくとも2枚、それぞれのマージン部が反対側に位置するように重ね合わせて巻回するか、または同じ誘電体フィルムの表裏両面の片側端部に設けられたマージン部を除いて金属蒸着した金属化フィルムと、金属蒸着されていない誘電体フィルムを、それぞれのマージン部が反対側に位置するように重ねて積層または巻回して巻回体を作製し、この巻回体の両端面に亜鉛などの金属溶射により、金属からなる取り出し電極を設けて構成されたものである。
【0010】
このような構成の素子において、誘電体フィルムと取り出し電極として用いられる金属とは、熱膨張係数が大きく異なり、この誘電体フィルムと取り出し電極との界面には、素子の発熱や周囲の急激な温度変化などに起因する熱膨張収縮により、機械的なストレスが繰り返し加わることになる。
【0011】
そしてこの熱膨張収縮によるストレスは素子の大型化に伴って、より大きくなる傾向にあり、取り出し電極が金属化フィルムを巻回した巻回体に付着している強度を超えた場合、取り出し電極に微細な剥離が生じて取り出し電極と金属化フィルムコンデンサの電気的接続が不十分となり、誘電正接(tanδ)の増加を招く場合があるという課題があった。
【0012】
そこで本発明は、取り出し電極と誘電体フィルムを主要構成要素とする巻回体との界面に熱膨張収縮差などによるストレスが繰り返しかかっても、誘電正接の増加を抑制し、信頼性の高い金属化フィルムコンデンサおよびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そしてこの目的を達成するために、本発明の金属化フィルムコンデンサは、別々の誘電体フィルムまたは同じ誘電体フィルムの表裏両面の片側端部に設けられたマージン部を除いて金属蒸着した金属化フィルムを、それぞれのマージン部が反対側に位置するように重ねて積層または巻回した巻回体と、前記巻回体の両端面に設けた取り出し電極とを有し、前記巻回体の両端面に複数の溝が形成されていることを特徴とする金属化フィルムコンデンサである。
【0014】
またこの金属化フィルムコンデンサを製造する製造方法として、別々の誘電体フィルムまたは同じ誘電体フィルムの表裏両面の片側端部に設けられたマージン部を除いて金属蒸着した金属化フィルムを、それぞれのマージン部が反対側に位置するように重ねて積層または巻回して巻回体を作製する工程と、前記巻回体の両端面に複数の溝を形成する工程と、両端面に溝が形成された前記巻回体の両端面に取り出し電極を設ける工程と、を有する製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
上記のように、巻回体の両端面に溝を形成するという構成により、金属化フィルムコンデンサの発熱や周囲の急激な温度変化などにより、熱膨張収縮に起因するストレスが発生しても、巻回体の両端面に設けた溝に取り出し電極が入り込んでいるため、溝の壁面がストッパ的な作用を持ち、このストレスを吸収して取り出し電極の端面からの剥離を防止することができる。また、溝と溝との間は平面的な端面であるが、この溝と溝との間の平面的な端面の距離が短くなるため、端面での熱膨張収縮によるストレスを小さくすることができる。
【0016】
これらの効果により、取り出し電極の接着強度が低下することを抑制することができ、その結果誘電正接の増加を防いで信頼性の高い金属化フィルムコンデンサとすることができる。
【0017】
そして、金属化フィルムコンデンサを構成する巻回体の寸法が大きい場合に、より効果的に熱膨張収縮によるストレスを低減することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(実施の形態)
以下、実施の形態を用いて、本発明の特に全請求項に記載の発明について説明する。
【0019】
(構成の説明)
図1は本実施の形態の金属化フィルムコンデンサにおいて、別々の誘電体フィルムの片側端部にマージン部を除いて金属蒸着した金属化フィルム(図示せず)をマージン部が反対側になるように重ね合わせて巻回し、プレスして偏平形状とした巻回体11の端面12に溝13を形成した状態を示す斜視図であり、図2(a)は図1のA−A線で切断した断面を示す断面図であり溝13を形成した後に巻回体11の端面12に取り出し電極としてのメタリコン電極14を形成した状態を示している。そして、端面12に設けた溝13にメタリコン電極14が食い込み、端面12とメタリコン電極14との強固な接合が確保されたものである。
【0020】
図2(b)は図2(a)の部分拡大図であり、溝13は壁面13aを有しており、また溝13と溝13との間の平面的端面の距離をBで示している。そして溝13に対応するメタリコン電極の表面は、ややへこんでいる。
【0021】
この本実施の形態による金属化フィルムコンデンサの製造方法について、図3のフローチャートを用いて説明する。
【0022】
まず、金属化フィルム準備工程S1として、厚みが3μm、幅80mmの長尺状のポリプロピレンフィルムの片面にアルミニウムにより金属蒸着電極を形成した金属化フィルムを準備する。金属化フィルムの一方の端部には、長手方向に連続して伸びる金属蒸着電極を形成していないマージン部が設けられている。
【0023】
そして次の巻回工程S2でこの金属化フィルム2枚をマージン部が反対側の位置になるように重ね合わせて巻回する。
【0024】
次にプレス工程S3で巻回体11の上下方向からプレスして、巻回体11を偏平形状とする。偏平形状にするのは、外装ケースに収納してケースモールド型コンデンサとする場合などに、箱型の外装ケースへの収納効率を上げるためである。
【0025】
偏平形状にした巻回体11は、次の端面溝形成工程S4において、巻回体11の両側の端面12に回転刃(図示せず)により複数の溝13を形成する。巻回体11の幅は80mmであり、溝13の深さは端面12の表面から2〜3mmとなるようにした。また、溝13の間隔は10mmとし、一端面あたり5本形成している。
【0026】
次にメタリコン電極工程S5において、溝13を形成した巻回体11の端面12に亜鉛を金属溶射してメタリコン電極14を形成して金属化フィルムコンデンサの素子とする。このメタリコン電極14を形成した素子について、図1のA−A線での巻回体11の断面を観察すると、図2に示したようにメタリコン電極14が溝13に食い込んだ状態が観察された。メタリコン電極14は1mmの厚みに形成した。
【0027】
メタリコン電極を形成した後、エージング工程S6として金属化フィルムが熱収縮する温度以上で加熱することによりエージングを行なった。
【0028】
このエージング工程は巻回体11の巻回したフィルムを収縮させることにより金属化フィルムどうしの密着性を高めて金属化フィルムコンデンサとしての性能を安定化させるためのものである。
【0029】
エージング工程の後、電圧処理工程S7で金属化フィルムコンデンサとしての定格電圧よりも高い電圧を規定の時間印加する。
【0030】
この電圧処理工程は、金属化フィルムコンデンサの耐電圧特性検査を兼ねているものであり、この電圧処理工程で印加される電圧に耐えられない金属化フィルムコンデンサは、ここで工程から除去されるものである。
【0031】
このようにして作製された金属化フィルムコンデンサ素子のメタリコン電極14に電気的接続端子であるバスバー(図示せず)をはんだ付けし、本実施の形態の実施例による試料とした。
【0032】
また、比較のため従来例として、巻回体11の端面12に溝13を形成せずに、亜鉛を金属溶射してメタリコン電極14を形成し、実施の形態の試料と同様にバスバーをはんだ付けして従来例の試料とした。
【0033】
これら本実施の形態による実施例の試料3個と、従来例の試料3個について熱衝撃試験を行なって、試験前後の誘電正接の変化を測定した。熱衝撃試験としては、−40℃の試験槽に2時間試料を放置した後、105℃の試験槽に移して2時間放置し、さらに−40℃の試験槽に戻すという冷熱サイクルを1000サイクル繰り返して熱衝撃試験とした。
【0034】
この実施例と従来例の試料の熱衝撃試験前後の静電正接(tanδ)を測定した結果を図4にグラフで示す。
【0035】
図4のグラフから明らかなように、本実施の形態の実施例では冷熱サイクル400サイクルまではtanδはほとんど変化せず、また1000サイクル後でも0.5%以下と非常に変化が小さく安定している。
【0036】
これに対して従来例では冷熱サイクル200サイクルあたりからtanδが増加し始め、500サイクルあたりから急激に増加し、1000サイクルでは0.7〜0.9%と大きくなっている。
【0037】
また、試験後の試料を切断してその断面を観察したところ、本実施の形態の実施例による試料では、溝13にメタリコン電極14が入り込んだ部分を含めて、端面12とメタリコン電極14との接合に異常は認められなかったのに対し、従来例の試料ではメタリコン電極14が端面12から剥離して浮き上がった箇所が認められた。
【0038】
以上の結果より明らかなように、本実施の形態による試料では、試験後のtanδが大きく変化せず、安定していることが分かる。そして厳しい熱衝撃を受けても、tanδが急激に増加することがないため、車載用などの急激な温度変化への耐性が要求される用途であっても、信頼性の高い金属化フィルムコンデンサを提供することができるという格別の効果を奏することができる。
【0039】
これは以下の理由によるものと考えられる。すなわち、巻回体11の端面12に設けた溝13にメタリコン電極14が入り込んでいるため、溝13の壁面13aがストレスを受け止めてストッパ的な効果を働かせることにより、熱膨張収縮によるストレスを吸収してメタリコン電極14の端面12からの剥離を防止することができる。また、溝13と溝13との間は平面的な端面12であるが、図2(b)に示したように、溝13が形成されていることによってこの平面的な端面12の距離を短くすることができるため、端面12での熱膨張収縮によるストレスを小さくすることができる。
【0040】
これらの効果により、メタリコン電極14の接着強度が低下することを抑制することができ、その結果誘電正接の増加を防いで信頼性の高い金属化フィルムコンデンサとすることができる。
【0041】
また、端面12に形成した溝13にメタリコン電極14が食い込むことにより、端面12に強固に接続されるとともに、溝13に食い込んだメタリコン電極14の部分が補強リブの効果を発揮し、メタリコン電極14の強度そのものが高められるという効果があり、メタリコン電極14にはんだ付けされたバスバーを伝わって機械的な応力が加わった場合でもメタリコン電極14の損傷を防ぐことができるという効果も奏するものである。
【0042】
ここで、溝13の深さの寸法はメタリコン厚みの寸法よりも大きくすることにより、上記の溝13の壁面13aでのストッパ的な効果によるストレス緩和がより効果的となるため、溝13の深さ寸法はメタリコン電極14の厚み寸法よりも大きいことが望ましい。
【0043】
そして、金属化フィルムコンデンサを構成する巻回体の寸法が大きい場合に、より効果的に熱膨張収縮によるストレスを低減することができるものである。
【0044】
なお、図5に示すように、第1の蒸着金属化フィルム51の片側端部には蒸着金属が形成されていないマージン53があり、亜鉛金属溶射層59と導通しないような構成となっている。
【0045】
本実施の形態では、メタリコン電極工程S5の後に電圧処理工程S7を設けている。これは、溝13の深さはこのマージン53の幅以内であることが好ましいが、もし溝13の深さがこのマージン53の幅を越えて蒸着金属に到達してしまい、ショートのような状態になった場合でも、電圧処理工程S7によりこのショート箇所に電流が流れ、蒸着金属が蒸発して絶縁性を回復するいわゆる自己回復機能により、ショートを回復することができるものである。
【0046】
本実施の形態では別々の誘電体フィルムの片側端部に設けたマージン部を除いて金属蒸着した片面金属化フィルムを2枚重ね合わせて巻回した例を示したが、これに限定されるものではなく、同じ誘電体フィルムの表裏両面の片側端部にマージン部を設けた、両面金属化フィルムと、金属蒸着していない誘電体フィルムとを重ね合わせて巻回したものでもよい。
【0047】
また、溝13は図1の端面12の縦方向(偏平形状の端面12の短径方向)に形成した例を示したが、これに限定されるものではなく、端面12の横方向(偏平形状の端面の長径方向)に形成してもよく、また縦方向と横方向の両方に格子状に形成してもよい。
【0048】
なお、本実施の形態では巻回体11の端面12に回転刃により溝13を形成したが、溝13の形成手段としては回転刃に限定されるものではなく、例えば金属細線の往復運動により溝を形成する、いわゆるワイヤーソーを使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の金属化フィルムコンデンサは、巻回体の両端面に複数の溝を形成するという極めて容易で生産性に優れた方法により、金属化フィルムコンデンサの発熱や周囲の急激な温度変化などにより、熱膨張収縮に起因するストレスが発生しても、巻回体の両面に設けた溝がこのストレスを吸収することができるため、取り出し電極の接着強度が低下することを抑制し、その結果誘電正接の増加を防ぎ、信頼性の高い金属化フィルムコンデンサとすることができる。
【0050】
そして、金属化フィルムコンデンサを構成する巻回体の寸法が大きい場合に、より効果的に熱膨張収縮によるストレスを低減することができ、特に大きな静電容量が要求されるとともに、信頼性に対する要求が高度な車載用コンデンサ等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施の形態による溝形成を説明するための斜視図
【図2】(a)同断面図、(b)図2(a)の部分拡大図
【図3】同製造方法を説明するための工程フローチャート
【図4】熱衝撃試験結果を示すグラフ
【図5】従来の金属化フィルムコンデンサの斜視図
【符号の説明】
【0052】
11 巻回体
12 端面
13 溝
13a 溝壁面
14 メタリコン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
別々の誘電体フィルムまたは同じ誘電体フィルムの表裏両面の片側端部に設けられたマージン部を除いて金属蒸着した金属化フィルムを、それぞれのマージン部が反対側に位置するように重ねて積層または巻回した巻回体と、前記巻回体の両端面に設けた取り出し電極とを有し、前記巻回体の両端面に複数の溝が形成されていることを特徴とする金属化フィルムコンデンサ。
【請求項2】
前記複数の溝の深さ寸法は前記取り出し電極の厚み寸法よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の金属化フィルムコンデンサ。
【請求項3】
別々の誘電体フィルムまたは同じ誘電体フィルムの表裏両面の片側端部に設けられたマージン部を除いて金属蒸着した金属化フィルムを、それぞれのマージン部が反対側に位置するように重ねて積層または巻回して巻回体を作製する工程と、前記巻回体の両端面に複数の溝を形成する工程と、両端面に溝が形成された前記巻回体の両端面に取り出し電極を設ける工程と、を有する金属化フィルムコンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記取り出し電極を設ける工程の後に、電圧処理工程を設けたことを特徴とする請求項3に記載の金属化フィルムコンデンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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